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獣人総合スレ 避難所

65わんこ:2009/04/29(水) 00:22:17 ID:F9ww8c.Q0
浅川のお陰で時が過ぎるのを忘れる。そして、浅川はぼくらをフィルムに次々と焼き込んでゆく。
姿は永久に残るが、心地よい柑橘の香りは今だけ。浅川とてそれを残すことは無理なこと。
「ほう、ヒカルも泊瀬谷先生もなかなかお似合いのカップルに見えてきたな」
「犬上先生!これが『浅川マジック』っすかね?人を撮るなんて久しぶりですけどね!
泊瀬谷先生の耳を摘みながらの上目遣い。最高っですよ!ヒカルくん。恥ずかしがらない!」
夢中でシャッターを切る浅川の背後から、ミナが自分のバイクを押しながらやって来た。
おそらく、自転車置き場に向かったと言うことは何らかの修理をしていたのだろう。

「素材は生かすものなんですかね?だんだん乗ってきたなあ!おおっ、ヒカルくんの尻尾の揺れがいい具合に
モーションブラーがかかってる。躍動的だな。ほら!もっと尻尾を振って、尻尾を振って!」
喜劇を演出する舞台監督のようにぼくに演技指導を始める浅川。背後にはその姿を見てよほど滑稽に見えたのか、
くすくすと笑っているミナ。浅川は悲しいかな、全く気付いていなかった。
「ははは!今度はあっちの銀杏の木の側に移りますか?被写体が良いとオレのシャッターの冴えもいつもとは格段に違…、す?杉本さん?」
全身の毛並みが逆立てた浅川。カギ尾がくるりとまるく収まる。
男・浅川は普段のおちゃらけたカメラマンの姿をミナに見せるより、仕事に徹する職人の姿を見せたかったのだろう。
今すぐ浅川に爪とぎ用の木の板を渡したい。きっと夢中で爪を研ぎ始めるだろう。

「う、うむ。これこそわたくしが求めていた芸術だな。はは…。で、では…後一枚でフィルムがお終いですが?」
「浅川くんよ、無理するな。体が針金みたいになっているぞ」
父の言葉なんか全く耳に入れず、カメラを構える手はしっかりとプロの姿をしているが、尻尾は少年の日を思い出したように揺れていた。
最後のシャッターを切ろうとした瞬間のこと。ミナがぼくらの前にバイクに跨ってすいっと横切った。

「わたしも撮ってよね?」
「す、杉本さん?お安い御用ですよ…!今度一緒に写真撮りに行きま…しょう」
ぼくらを背景に最後の一枚は愛車に跨るミナの姿で終わった。
浅川は悔しそうだが、むしろ満足気に見える。しかし、もっと満足そうなのは泊瀬谷先生だった。
何故なら、父の目線とカメラのレンズがミナの姿に隠れたのをいいことに、そっとぼくの手首を握っていたのだから。


おしまい。


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