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侑「歪んだ愛情」
102
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/27(日) 19:37:56 ID:seH/GmRU
侑「私が浮気をしたのに、歩夢はまだ私を好きだって言ってくれた」
侑「愛してるって言ってくれた」
侑「それがたまらなく嬉しいんだよ」ニコ
歩夢「……」
侑「ねぇ、歩夢」
侑(歩夢の腕をそっと掴む。歩夢は一瞬ビクッとした)
侑「その手で私をどうするつもり?」
侑「私を殺したいの?」
侑「少し体重を乗せたら簡単に殺せるよ?」
歩夢「……」
侑(歩夢の額に汗が浮かんでいた。手がさっきよりも震えている)
侑(歩夢に私を殺す気なんてない。できるわけがない)
103
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/27(日) 19:44:25 ID:seH/GmRU
侑(歩夢はただ脅してるだけだ。また浮気をしないように)
侑(その程度で私を支配できると思ってる歩夢を見て――)
侑(――私はとても愛おしく感じた)
侑「私が憎い?」
侑(微笑みながら歩夢に問いかける)
歩夢「……」フルフル
侑(歩夢は首を横に振った。手を離そうとしたけど、それを私は許さなかった。歩夢の腕を押さえつける)
歩夢「侑ちゃ――」
侑「歩夢ならいいよ」
歩夢「え……?」
侑「歩夢になら、殺されてもいい」
侑「それが歩夢の愛情表現なら、私は喜んで引き受ける」
侑(歩夢の瞳には、怒りや悲しみよりも怯えが強く出ていた。私はその顔を見て軽い興奮状態になった)
104
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 10:37:49 ID:fRqiMAKI
侑「歩夢?」
侑(歩夢は私の呼びかけに一瞬反応した。その隙に、歩夢の服を思いきり引っ張った)
歩夢「え――」
侑(バランスを崩し、手に全体重が掛かる。私の喉は一瞬で圧迫された)
侑「ぅぐ――」
侑(時間にして数秒程度だったと思う。歩夢はすぐに手を離し、その反動でソファーから転げ落ちた)
侑「げほ、げほ」
侑(まだ喉に違和感が残ってる。たった数秒でここまで圧迫されるとは思わなかった)
侑(あと10秒くらい同じ状態が続いたら、本当に死んでいたかもしれない)
侑(死んだらどうなるんだろう)
侑(歩夢に殺されるのは構わない。だけど――)
侑(歩夢のことを考えられなくなるのは嫌だな)
105
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 10:43:29 ID:fRqiMAKI
侑(私は歩夢を見た。歩夢は、涙目で床にへたり込んでいた)
侑「歩夢――」
侑(名前を呼ぶと肩がビクリと跳ね上がった。恐る恐るこちらに視線を向ける)
侑「歩夢、大丈夫?頭ぶつけてない?」
歩夢「……私は大丈夫」
侑(歩夢は立ち上がり、私の隣に座る。歩夢がいつも使ってるシャンプーの匂いがふわりと漂った)
歩夢「ゆ、侑ちゃんは……?」
侑(歩夢は私の首を見ていた。私は首に触れると)
侑「まだ少し違和感がある、かな」
歩夢「ごめんなさい……」
侑「どうして歩夢が謝るの?歩夢は何も悪くないのに」
歩夢「だって……」
106
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 10:50:10 ID:fRqiMAKI
歩夢「私が……侑ちゃんの首を、絞めようとしたから……」
侑(歩夢は涙声になりうつむいてしまった。その顔にキスをしたくなったが、なんとか抑える)
侑「歩夢は悪くないよ。元はと言えば私が浮気をしたのがいけないんだから」
侑「ごめんね、歩夢」
侑(歩夢の頭を撫でる。歩夢は身体を私に預けてきた)
侑(シャンプーの匂いが更に強くなった)
歩夢「私……」
侑(歩夢がぽつりとつぶやいた)
歩夢「私、首を絞めるつもりなんてなかったんだよ」
歩夢「侑ちゃんがもう浮気をしないようにって」
歩夢「ここまでしたら、もう浮気なんてしないと思ったから。それに――」
歩夢「それに、どれだけ浮気をされようが、好きな人を殺せるわけないじゃない」
107
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 10:55:44 ID:fRqiMAKI
侑(歩夢の言葉に胸がドキドキした。嬉しかった)
侑(私の歪んだ愛情を知ってもなお、私を好きでいてくれて、本当に嬉しかった)
侑「歩夢――」
歩夢「――侑ちゃん」
歩夢「好きだよ、大好き」
侑(歩夢は微笑み、私の耳元へと顔を近づける)
歩夢「もう浮気なんてしないでね」
歩夢「信じてるからね」
侑(歩夢はそのまま耳にキスをした。あまり慣れてない場所のせいか、ゾクゾクする)
侑「――うん」
歩夢「約束だよ」
侑(歩夢は小指を差し出した。このやり取りは何度目だろう。私は何度も約束を破ってきた)
108
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:02:09 ID:fRqiMAKI
侑(指切りで約束をしたあと、歩夢が抱きついてきた。そしてまた胸に顔を埋める)
歩夢「侑ちゃんの匂い、大好き」
歩夢「ずっと嗅いでいたいくらい」
侑(好きな人に匂いを嗅がれるのは嫌いじゃない。私だって歩夢の匂いならずっと嗅げる。多分)
侑(私はちょっと意地悪をしたくなった)
侑「さっきはくさいって言ってなかった?」
侑「歩夢に匂いが移っちゃうかもよ?」
歩夢「もう、変なこと言わないで」
侑(歩夢は胸に顔を埋めながら話をする。くすぐったい)
歩夢「大丈夫だよ。私の匂いで上書きしたから」
侑「そっか」
歩夢「うん♪」
侑(歩夢は顔を上げた。笑顔だった。かわいい)
109
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:09:13 ID:fRqiMAKI
歩夢「侑ちゃん、かすみちゃんにお花あげてたよね」
侑「え?」
侑(いきなり話が飛んでびっくりした。歩夢の方を見る)
歩夢「ああ、別に怒ってるわけじゃないよ?」
歩夢「侑ちゃんも“友達”にプレゼントくらい贈るもんね」
歩夢「ただ、気になっただけ。どうしてかなって」
歩夢「“友達”には贈って“恋人”の私には何もないのは少し気になるけどね。気になるけどね」
侑(歩夢は“友達”と“恋人”を強調して言った。私の経験上、今の歩夢は怒り30%くらいだろうか)
侑(怒ってない人がわざわざ怒ってないなんて言うわけない。歩夢はプレゼントを貰えなくて怒ってるんだ)
侑(というか、そこまでついてきてたんだ)
侑(学校で見てたのは知ってるけど、まさか街中にまでついてきてたとは全然気づかなかった)
侑(歩夢の尾行スキルも前に比べて多少は成長したのかもしれないね)
110
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:13:57 ID:fRqiMAKI
侑(それならかすみちゃんとキスすればよかったな)
侑(街中でキスするのはさすがに抵抗があるけど)
侑(誰が見てるかわからないしね)
歩夢「侑ちゃん、かすみちゃんにしかプレゼントを贈らないってことは、もしかして――」
侑「違うよ」
侑「私は歩夢以外は愛さないって決めてるから」
歩夢「ふふ、嬉しいこと言ってくれるね」
歩夢「浮気は何度もするのにね」
侑「あははっ」
歩夢「侑ちゃん」
侑「ごめんなさい」
侑(歩夢は少し低い声で私の名前を呼んだ。本人はドスを効かせてるつもりだろうけど、かわいいだけだった)
111
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:19:49 ID:fRqiMAKI
歩夢「まったく……」ハァ
歩夢「こほん。それで、お花の件だけど――」
侑「特に理由なんてないよ。ただプレゼントしただけ」
侑(恋人になった記念に贈ったのは伏せておいた。話したらきっと歩夢は怒るから。激怒するから)
侑(怒ってる歩夢も好きだけど、今は和気あいあいな時間を楽しみたかった)
侑(まあ、私には付き合う気なんてないけどね)
侑(歩夢がいるのに他に恋人作るわけないじゃん)
侑(私がかすみちゃんに告白した理由は――)
侑(歩夢がどれだけ嫉妬してくれるか知りたかったから)
侑(どんな反応するか、想像しただけでもときめいちゃうよね♪)
歩夢「かすみちゃんだけずるいよ」
歩夢「私も何か欲しかったな」
侑(歩夢はぽつりとつぶやいた。明らかに嫉妬していた。その横顔に、私はときめきと興奮を覚えた)
112
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:26:36 ID:fRqiMAKI
侑「歩夢♪」
侑(歩夢の頬にキスをする。不意打ちでキスしたせいか、少し驚いていた)
歩夢「侑ちゃん?」
侑「明日、買い物行こうか。欲しいもの買ってあげるよ」
歩夢「いいの?」
侑(歩夢の顔がぱぁっと明るくなる。その表情を見て、私も嬉しくなった)
侑「もちろん」ニコ
歩夢「じゃあ、お揃いで買わない?侑ちゃんの分は私が出すから♪」
侑「いいね、そうしよう。明日の練習終わってからでいい?」
歩夢「うん。私、新しいハンカチ欲しいな〜♪」ギュッ
侑(歩夢は微笑むと腕を絡ませてきた。そのままソファーにもたれかかる)
侑(そして何度かキスをした。好きな人とするキスは幸せな気分になれる。もっとしたかった)
113
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:33:51 ID:fRqiMAKI
歩夢「お花も買ってくれる?」
侑(歩夢はかすみちゃんだけ花を貰ったのが許せないらしい。そういう嫉妬深いとこ、本当に大好きだよ)
侑「もちろん。歩夢はどんな花が欲しいの?」
歩夢「侑ちゃんが選んでくれるなら何でもいいよ♪」
歩夢「あ、でも、ローダンセはもう勘弁ね?」
侑「どうして?前はあんなに喜んでくれたのに……」
歩夢「ローダンセの花言葉は“終わりのない友情”」
侑「……!」
歩夢「次もこのお花だったら、泣いちゃうからね」
侑「ご、ごめんね。私は“変わらぬ思い”の方を気に入ったからさ。ローダンセはもう贈らないよ」
歩夢「全部の花言葉が理想とは限らないもんね。ちょっと意地悪しただけ。お花を貰ったときは嬉しかったよ」
侑(今度は歩夢が頬にキスをしてくれた。キスされた場所が熱くなるのを感じた)
114
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:39:48 ID:fRqiMAKI
侑「歩夢、花言葉詳しいの?」
歩夢「全然。ローダンセしか知らないよ。侑ちゃんに貰ったお花だから調べてみただけ」
侑「そうなんだ」
歩夢「侑ちゃんはどうなの?」
侑「私は歩夢に花を贈るときに全種類調べたからね。詳しい部類に入るんじゃないかな?」
侑「ただ、この花は?って聞かれてもメジャーな花以外はすぐに答えられないけどね」
歩夢「そっかぁ。桜の花言葉は?」
侑「精神美、優美な女性、純潔だったかな?」
侑(歩夢はスマホを取り出し検索を始めた)
歩夢「本当だ、合ってる。侑ちゃんすごいね〜」
侑「えへへ」
侑(歩夢に褒められちゃった。頑張って調べたかいがあったよ♪)
115
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:47:08 ID:fRqiMAKI
歩夢「かすみちゃんには何のお花をプレゼントしたの?」
侑「……!」
侑(歩夢はスマホを握っている。名前を聞いたら花言葉を調べるつもりだ)
侑(正直に話した方がいいかな?でも、花言葉を知ったら歩夢に嫌な女だって思われるかもしれない)
侑(忘れたふりをしたら絶対怒られるから、適当にそれっぽい花を言うしかないか……)
侑(アイビーやマーガレットはダメだよね。歩夢のことだから勘違いするだろうし……)
侑(友情系の花言葉でそれっぽいやつなかったっけ?愛とか入ってないのが好ましいんだけどな……)
侑(もっと完璧に記憶しておくんだったよ……)ハァ
歩夢「侑ちゃん?」
侑「え?あ、えーと」
侑「そ、そうだ、ゼラニウム。ゼラニウムって花をかすみちゃんにプレゼントしたんだよ」
歩夢「ゼラニウム?」
116
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:51:31 ID:fRqiMAKI
歩夢「聞いたことないなぁ。ゼラニウム、っと」ポチポチ
歩夢「ふむふむ」スッスッ
歩夢「尊敬、信頼、真の友情ね」
侑(よかった、私の記憶は間違ってなかった)
侑「かすみちゃんは大切な友達だからね〜」
歩夢「その友情が愛情に発展しちゃったの?」
侑「え?」
歩夢「かすみちゃんと付き合うんじゃないの?」
歩夢「えっちもキスもしてたし、外でベッタリだったし」
侑「……歩夢、まだ根に持ってる?」
歩夢「あんな行為を見ちゃったからね。そう簡単に割りきれるものじゃないよ」
侑「うぐ……」
117
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 11:58:42 ID:fRqiMAKI
歩夢「私は怒ってるんだよ。ぷんぷんっ」
侑(人差し指を頭にやって、鬼のポーズを取った。歩夢のその行為はただかわいいだけだった)
侑「ご、ごめんね?」
侑(かわいいって口に出そうになったけど、ここは謝罪の方がいいと思う。私は素直に謝った)
歩夢「ふふ、冗談だよ。もう許すって決めたから♪」ニコ
侑(歩夢の笑顔は本当にかわいい。笑顔を見るだけで私も幸せな気持ちになった)
歩夢「かすみちゃんとは付き合ってないんだよね?」
侑(やっぱり少しは疑ってるらしい。そうだよね、あんな行為を見たら誰だって疑うだろう)
侑「私が好きなのは歩夢だけだよ。それだけは信じてほしい。神に誓ってもいいよ」
歩夢「そっかぁ。嬉しいな♪」ニコッ
侑(歩夢はとびきりの笑顔を見せた。歩夢だけが好きなのは本当だよ。これから先もね)
侑(ただ、かすみちゃんと付き合ってないとは言ってないからね。私は何も嘘はついてないよ)
118
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 12:07:16 ID:fRqiMAKI
歩夢「侑ちゃんにそこまで愛してもらえるなんて、私は幸せ者だな〜♪」
侑「あはは」
歩夢「……で、本当は何のお花をプレゼントしたの?」
侑「――」
侑(歩夢の雰囲気が一瞬で変わる。笑顔から真顔になって、声もまるで別人のようだった)
侑(いつものことだけど、これは何度見ても慣れない。嘘がバレたことに驚きつつ、平静を装うしかなかった)
侑「あはは、歩夢ったらいきなりどうしたの?」
侑「私がプレゼントした花はゼラニ――」
歩夢「――侑ちゃん」
侑(歩夢の言葉に遮られる。私の名前を呼ぶ声は、酷く冷たかった。嘘をついたことにかなりご乱心のようだ)
歩夢「何年一緒にいると思うの?」
歩夢「侑ちゃんの嘘くらい、すぐにわかるよ」
119
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 12:16:41 ID:fRqiMAKI
侑「……」
侑(さすが歩夢だね。褒めながら頭を撫でたかった)
侑(この状況でそれができるのは、能天気かせつ菜ちゃんくらいだろうけどね)
歩夢「これ以上の沈黙は浮気と見なすよ」
侑(しかたない、正直に話すしかないか)
侑「私がプレゼントしたのは、黄色のチューリップ」
侑(心の中でため息を吐きつつ、本当の花の名前を歩夢に伝えた。引かれないといいけど……)
歩夢「……」スッスッ
侑(歩夢はスマホを熱心に眺めていた。花言葉を知り、どう思うのだろうか。軽蔑はされたくなかった)
歩夢「ふーん。なるほどね」
歩夢「そういう意味なんだ」
侑(歩夢はスマホの電源を切り、私の方に向き直る)
侑(歩夢は笑顔だった。……笑顔?)
120
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 12:21:52 ID:fRqiMAKI
侑(どうして笑顔なんだろう?こんな花言葉があるのに、贈るなんてひどい、くらいは言われると思ってたのに)
歩夢「侑ちゃんっ」
侑(歩夢は私の手を握る。本当に嬉しそうだった)
歩夢「私ね、侑ちゃんが嘘のお花を言うくらいだから、てっきり愛情系の花言葉だと思ってたの」
歩夢「でも、調べたら違った。全般の花言葉は少しイラッとしたけど、黄色だからチューリップにしたんだよね?」
侑「う、うん。まあ、はい」
歩夢「えへへ。かすみちゃんに対する恋愛感情がなくて本当に安心したよ♪」
歩夢「黄色のチューリップの花言葉、素敵だよね」
歩夢「特にこの――」
歩夢「――“望みのない恋”って花言葉は、かすみちゃんにピッタリだね♡」ニコッ
侑(歩夢の今日一番の笑顔だった)
侑(まあ、歩夢が喜んでくれるならそれでいいかな)
121
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 12:48:54 ID:fRqiMAKI
歩夢「えへへ♪」ギュー
侑(歩夢は上機嫌で腕を絡めている)
侑(歩夢があんなこと言うなんて少し驚いたけど、それだけ私が好きだからだもんね)
侑(歩夢に愛されてるって実感できて、嬉しかったよ)
歩夢「侑ちゃん、大好きだよ♪」
侑「私も大好き」ニコ
侑(笑顔で語りかける歩夢にキスをした)
侑(歩夢は絡めていた腕をほどき、腰に手を回す)
侑(そして舌を絡めてきた。さっきしたキスよりも、濃厚で、愛し合ってる恋人がするようなものだった)
侑(歩夢とキスをする瞬間が一番幸せだ)
侑(この時間がずっと続けばいいのに――)
侑(そう思いながら、何度も唇を重ねた)
122
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 12:56:23 ID:fRqiMAKI
侑(唇を離すと、唾液が糸を引いていた。私はこれを見るのが好きだった)
侑(2人の唾液が混ざったものだから)
侑(私がえっちよりもキスの方が好きな理由の1つかもしれない)
侑(それに、私達は女同士だから入れたりできないしね)
侑(擦り合わせたり舐め合ったりはできるけど、私はやっぱりキスが好き。手軽にできて気持ちいいし♪)
侑(垂れた唾液を拭い、歩夢の方を見る。歩夢の目はとろんとしていて、ソファーにもたれかかっていた)
侑(ふふ、かわいいなぁ)
侑(歩夢の髪を優しく撫でていると、ふとお腹が鳴ってしまった)
侑(時計を見ると22時で、普段の夕飯の時間を大きく過ぎていた)
侑(どうりでお腹が空くわけだよ)
侑「歩夢、一緒に食事作ろうよ。まだ食べてないでしょ?」
侑(歩夢に呼びかけると、腕を引かれ、またキスされた)
123
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 13:03:45 ID:fRqiMAKI
侑「え、ちょ、あゆ、む――」
侑(何度もキスされた。悪い気分ではないし、むしろ嬉しいけど、今はちょっと――)
歩夢「――侑ちゃん♡」
侑(歩夢は普段よりも甘い声で私を呼ぶ)
侑(やばい、この甘い声を出すときの歩夢は――)
侑(歩夢の方をチラリと見る)
侑(歩夢は制服のボタンを外し、私よりも大き胸が露になった。ブラジャーも外そうとしている)
侑「歩夢、さん?」
侑(呼びかけには反応しない。私の声は少し震えていた)
侑(ブラジャーを外して、床にそっと置く。そしてようやく私の方を見た。瞳の中にはハートが見えた気がした)
歩夢「――侑ちゃん、シよ♡」
侑(さっきのキスでスイッチが入ったらしい)
侑(歩夢の甘い声に耳が蕩けそうになった。食事をしたいなんて、言えるわけがなかった)
124
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 13:07:33 ID:fRqiMAKI
――翌朝・侑の部屋
歩夢「侑ちゃん、侑ちゃん起きて。朝だよ」ユサユサ
侑「んん〜……」
侑(歩夢の声でうっすらと目を開ける。朝日が眩しい。歩夢を見ると、もう制服に着替え終わっていた)
歩夢「おはよう」ニコ
侑「おはよ……」
侑(歩夢とおはようのキスをする。お泊まりのときは毎朝する約束だった)
侑「ふわあぁ〜」
歩夢「ふふっ」
侑「んむ……」グシ
歩夢「お義母さんが朝ごはん作ってくれたよ。冷めないうちに食べよう?」
侑「んー、うん」
125
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 13:12:15 ID:fRqiMAKI
侑(お母さん?おばさんの間違いじゃないの?)
侑(歩夢の言葉に違和感を覚えたけど、寝起きの頭では難しいことは考えられなかった)
歩夢「さ、行こう?」
侑(歩夢は手を差し出した。私はその手を握る)
侑「ありがと。歩夢、朝から元気だね」
歩夢「そうかな?」
侑「もう着替えてるし。何時に起きたの?」
歩夢「5時過ぎには目が覚めたと思うけど」
侑「す、すごいね。昨日あんなにしたのに……」
侑「私なんてその気になればまだまだ寝れるよ?」
歩夢「あ、あはは。学校に遅れるから二度寝はダメだからね?」
侑「わかってるよ。あゆぴょん」
126
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 13:18:19 ID:fRqiMAKI
歩夢「あゆぴょん?」
侑「昨日のあゆぴょんは激しかったぴょん。うさぎは性欲が強いって本当だったんだね、ぴょん♪」
侑(手でうさぎの真似をする。歩夢の顔は真っ赤になっていった)
歩夢「も、もう。昨日のことはいいじゃない」
侑「あゆぴょ〜ん♪」
歩夢「侑ちゃんっ」
侑「あはは。着替えるから先に食べてていいよ?」
歩夢「ん、待ってるよ」
侑(なぜかソファーに座った。リビングに行けばいいのに)
侑(歩夢はスマホをいじりながら、こちらをチラチラと見ている。もしかして――)
侑(服を脱ぐと、視線に気づいてないと思ってるのかガン見していた)
侑(どうやら私の裸が見たいらしい。昨日あんなに見たり触ったり舐めたりしたのにね。さすがあゆぴょんだ)
127
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 13:24:04 ID:fRqiMAKI
侑(鏡に映る自分を見て、ふと気づいた)
侑「あ……」
歩夢「どうしたの?」
侑(歩夢は私に近づき、肩に手を乗せる。右手が軽く私の胸に触れたような気がしたけど、気のせいだよね?)
歩夢「侑ちゃん?」
侑(歩夢は覗き込むようにこちらを見た。視線の先は私の顔ではなくどう見ても胸だった)
侑「自重しなよ、あゆぴょん。見すぎだって」
歩夢「えっ?」
侑「私の胸見すぎ。着替えのときもガン見してたでしょ」
歩夢「い、いや、してない、してないよ。そういう、言いがかりをつけるのは、その、よくないと思います」
侑「焦りすぎでしょ」
侑(焦ってる歩夢もかわいいなぁ。キュンキュンしちゃうよ)
128
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 13:28:08 ID:fRqiMAKI
侑(少しからかっちゃお♪)
侑「本当に見てない?」
歩夢「うんうん」
侑(歩夢はコクコクと頷く。そのしぐさがすでにかわいい)
侑「ふーん?」
侑(下着をゆっくりと脱いでいく。歩夢はやっぱり見ていた)
侑(見えそうになるギリギリの瞬間にまた穿き直す。歩夢が「ああっ」と残念そうな声を上げた)
侑「歩夢?」
歩夢「いや、だって、今のはずるいじゃん」
歩夢「あんなの誰でも見ちゃうよ」
侑「歩夢?」
歩夢「ごめんなさい……」
129
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 13:34:27 ID:fRqiMAKI
侑「なんでそんなに見たいの?昨日たくさん見たよね?」
歩夢「好きな人の裸は……ずっと見ていたいから……」
侑(歩夢は指をもじもじさせながらつぶやいた。顔も真っ赤で、とにかくかわいい。抱きしめたい気持ちをグッと抑える)
侑「そっか。私も気持ちはわかるよ」
歩夢「でしょ?」
侑(歩夢の顔が明るくなる。私の顔と胸を交互に見ていた)
侑「歩夢はガン見しすぎだけどね」
歩夢「あ、あはは。だって、侑ちゃんの裸、綺麗なんだもん。ずっと見ていられるよ」
侑「ふ、ふーん」
侑(歩夢に言われて顔が少し熱くなった。悪い気はしない)
歩夢「ふふ、照れてるの?かわいいね♪」
侑(歩夢は私の頬を優しく撫でた。それで更に熱くなる)
130
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 13:40:36 ID:fRqiMAKI
歩夢「キスしていい?」
侑「……ん」
侑(私が頷くと、歩夢は首にキスをした。次に喉、顎、頬、唇の順番だった。朝からたくさんキスされて嬉しい)
歩夢「ぷは。あ、そろそろ着替えないとね」
侑(歩夢は時計を指さす。もうすぐ家を出ないとバスに間に合いそうになかった)
侑「そうだね。あゆぴょんにえっちな悪戯をされる前に着替えないとだ」
歩夢「そ、そんなことしないよ?」
侑「どうだか。私の裸をガン見する変態うさぎのあゆぴょんの言ってることは信用できないし♪」
歩夢「も〜〜。その呼び方やめてよ〜〜」
侑「あははっ」
侑(かわいく頬を膨らませてる歩夢を横目に見ながら、鏡に向き直った)
侑(あ、また増えてる)
131
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 13:46:18 ID:fRqiMAKI
侑(首に触れる。さっきは1つしかなかったのに、キスマークがもう1つ増えていた)
侑(今のキスでついちゃったんだ)
侑(キスマークの部分を指で軽く撫でる。歩夢にキスされたのを思い出して、嬉しい気分になった)
侑(嬉しいけど――)
侑(この位置だと服で隠せないよね……)
侑(試しに指でゴシゴシ拭ってみる。拭って消えるのならこんなに悩んだりはしない)
歩夢「侑ちゃん?」
侑(キスマークをつけた当の本人は能天気にスマホをいじっていた。私の裸はもう飽きちゃったのかな?)
侑「わかってるよ」
侑(まあ、首だし大丈夫だよね。もしバレたとしても虫刺されとかで誤魔化せると思うし)
侑(早く着替えないと。朝ごはん食べる時間がなくなる)
侑(私は制服を手に取った)
132
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 16:41:27 ID:fRqiMAKI
侑「――よし」
侑(制服に着替え、歩夢の方を見る。歩夢は相変わらずスマホをいじっていた。何を真剣に見てるんだろう)
侑「歩夢、何見てるの?」
侑(スマホを覗き込もうとすると、歩夢は画面を伏せた。そして電源を切ってバッグにしまう)
歩夢「着替え終わったんだ」
侑(歩夢はバッグを肩に掛け、ドアへと歩いていく)
侑「ちょっと、歩夢」
歩夢「うん?」
侑(歩夢はドアノブを握ったままこちらに振り返った。心なしか焦ってるようにも見える)
侑「何を真剣に見てたの?」
歩夢「えっと、まとめサイトを見てただけだよ?」
侑(歩夢の目は泳いでいた。本当に嘘がつけないよね)
133
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 16:49:01 ID:fRqiMAKI
侑(普通なら浮気を疑ったりするんだろうけど――)
侑(歩夢に限ってその心配はなかった)
侑(だって私のことが大好きなんだもんね。浮気なんてするわけない)
侑(昨日もあんなに愛し合ったし♪)
侑「……ふふ」
侑(思わず笑みがこぼれる。こんなに歩夢に愛されてると思うと、自然と頬が緩んだ)
歩夢「侑ちゃん……?」
侑(歩夢は心配そうな顔で私を見つめていた。急に顔を綻ばせたから変に思ったのかもしれない)
侑(私は歩夢が何を見てたのか気になった。少しカマをかけることにしよう)
侑「ねぇ、どこのまとめサイト見てたの?」
歩夢「ど、どこのって普通のサイトだけど……」
侑(指をもじもじさせながら目をそらした。この反応は絶対にまとめサイトなんか見ていなかった)
134
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 16:56:50 ID:fRqiMAKI
侑「名前とかあるでしょ?それを教えてよ。歩夢がどんなサイトを見てるのか気になるし」
歩夢「な、名前なんて忘れちゃったよ。それよりも、早く朝ごはん食べないとバスに間に合わなくなるよ?」
侑「浮気してるの?」
侑(ドアノブを回す手が止まった。歩夢は悲しそうな表情を浮かべている)
歩夢「侑ちゃんは私が浮気するように見えるの?」
歩夢「私はそんなことしない。侑ちゃんがいるのに、浮気なんてするわけないじゃない」
侑(歩夢の言葉に頬が熱くなる。浮気をしないとわかっていても、実際に言われるとやっぱり嬉しかった)
侑「だって、本当のこと教えてくれないんだもん」
侑「浮気を疑うのは当然じゃないかな?」
歩夢「私は嘘なんて……」
侑(私は歩夢に近寄り、そっと髪を撫でる。顔を耳元に近づけ――)
侑「歩夢が私の嘘を見破れるように、私だって歩夢の嘘を見破れるんだよ」
135
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 17:01:19 ID:fRqiMAKI
歩夢「え……」
侑「歩夢?」
侑(耳元で優しく語りかける。ついでに息を吹きかけたら、「きゃ」とかわいい声をあげた。かわいすぎる)
侑「歩夢が浮気をしないってことは私がよくわかってる」
侑「でもね、嘘をつかれたら悲しいよ。その気持ちは歩夢もよく知ってるよね?」
歩夢「うぅ……」
侑「本当のことを教えてほしいな」
歩夢「……」
侑「歩夢?」
歩夢「軽蔑、しない?」
侑「え?」
侑(思わぬ言葉に歩夢の顔を見つめる。歩夢は顔を赤らめていた)
136
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 17:08:34 ID:fRqiMAKI
侑(どうしたんだろう。えっちな画像でも見てたのかな?)
侑(こんな朝からお盛んだね、あゆぴょんはさ)
歩夢「軽蔑しないって約束してくれるなら、話すよ」
侑「えっちな画像程度じゃ軽蔑なんてしないよ。歩夢が普段送ってくる自撮りや動画よりも際どくなければね」
歩夢「えっちな画像って……何言ってるの!」
侑(歩夢は更に顔を赤らめた。どうやら違ったらしい)
侑「えっちな画像じゃなかったらなんなの?」
侑「他に見せられないものって言うと、やっぱり浮気相手とのLINEの会話――」
歩夢「だから浮気じゃないって言ってるでしょ!」
歩夢「わ、私が見てたのは……これ……」
侑(歩夢はバッグからスマホを取り出し、電源を入れる。画面に写っていたのは私の寝顔の写真だった)
侑「これって……」
137
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 17:17:34 ID:fRqiMAKI
侑「私の寝顔、だよね?」
歩夢「うん……」
侑(歩夢は恥ずかしそうに頷いた。写真を見ると、よだれを垂らしながら気持ちよさそうに寝ていた。間抜け面だった)
侑「なんだ、私の寝顔かぁ。期待して損したよ」
侑(スマホを返すと、歩夢はバッグにしまった)
歩夢「け、軽蔑、しないの?」
侑(恐る恐る私に聞いていた。とりあえず微笑む)
侑「逆に聞くけど、どうして軽蔑されると思ったの?」
歩夢「だって、寝てるときに勝手に写真を撮ったんだよ?」
歩夢「軽蔑はされなくても、怒られると思ってた……」
歩夢「勝手に写真を撮って……ごめんなさい……」
侑(歩夢は指をもじもじさせながら、申し訳なさそうに謝った。その姿に私の心はキュンキュンした)
138
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 17:25:06 ID:fRqiMAKI
侑「あはは。謝らないでよ。私は別に怒ってないから」
歩夢「ほんと?」
侑「うんうん」
侑(歩夢の頭を撫でると、嬉しそうに顔を綻ばせた)
侑(歩夢ってば本当にかわいいなぁ。私がその程度で怒るわけないのに。むしろ嬉しいよ)
侑(わざわざ寝顔の写真を撮るってことは、それだけ私が好きってことだもんね)
侑(やっぱり私は歩夢に愛されてるな〜)
侑(歩夢の頭を撫でながら、スマホの電源を入れてLINEを確認する)
侑(同好会や音楽科の友達から数件のメッセージが届いていた)
侑(1人ずつ確認する時間はない。誰から来たのか名前だけ確認をする。返事はバスに乗ってからでいい)
侑(期待していたが、かすみちゃんからメッセージは届いていなかった。残念だ)
侑(花言葉、ちゃんと調べてくれたかな?)
侑(かすみちゃんと会うのが楽しみだね)
139
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 17:31:15 ID:fRqiMAKI
――部室
愛「今日の朝練中止なのー?」
侑「半分以上参加しないみたいだしね」
璃奈「残念」
侑(璃奈ちゃんは真顔で言った。昔に比べて、これでも表情は柔らかくなった方だと思う)
歩夢「しかたないよ。他のみんなも忙しいんだろうし」
愛「せっつーは生徒会でしょ?あとは?」
璃奈「果林さんと彼方さんは寝坊、エマさんは果林さんを起こそうとしてる、とか?」
歩夢「あはは。いつもの光景だね」
侑「しずくちゃんは演劇部が忙しいんだって。しばらくこっちの練習には出られないって連絡来たよ」
愛「へー」
侑(愛ちゃんは退屈そうに椅子に座っていた。足を組んでいて、スカートの隙間から下着が見えそうだった)
140
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 17:50:51 ID:fRqiMAKI
侑「愛ちゃん、見えそうだよ」
愛「んー?」
侑(ゆっくりとこちらに視線を向ける。体勢を変えたせいか、一瞬だけ下着が見えた。黒だった)
侑「下着、見えそうだよ。普通に座りなよ」
侑(ちょっと見えたことは内緒にしておこう)
愛「別にいいじゃん。ここには愛さん達しかいないんだし〜」
愛「そんなに気になるなら見せてあげよっか?」
侑(そう言うと、愛ちゃんはスカートに触れた。相変わらずやることが大胆だ)
侑「愛ちゃん、やめなって」
侑(一応注意しておく。愛ちゃんはスカートを下着が見えそうなギリギリの位置までめくっていた)
侑(健康的で引き締まった太ももが見える。さすが色々な部活に助っ人に行くほどではあるね)
侑(璃奈ちゃんは真顔でその姿を見つめていた)
141
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 18:00:28 ID:fRqiMAKI
愛「あはは」
侑(見えそうなところで、スカートを元に戻した。別に興味はないけど、歩夢の気持ちがわかった気がする)
侑(隣で璃奈ちゃんが小さく舌打ちをしたような気がしたけど、私の気のせいだって信じたい)
侑(璃奈ちゃんと目が合った。何を考えるのかわからなかった。全然表情が読めない)
侑(璃奈ちゃんは『璃奈ちゃんボード』をペラペラとめくり、顔に持っていく)
璃奈「璃奈ちゃんボード『もう少しだったね』」
侑(『璃奈ちゃんボード』には残念そうな顔が描かれていた。よっぽど見たかったらしい)
愛「ゆうゆ、かすかすは?」
侑(璃奈ちゃんが見たがってたのなんて露知らず、愛ちゃんは足を組み直し、私へと問いかける)
侑(練習を休むときは、マネージャーである私に連絡するのが決まりだった)
侑「かすみちゃんからは連絡来てないよ」
璃奈「無断で休むなんて珍しい」
142
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 18:10:27 ID:fRqiMAKI
愛「だねー。かすかすも寝坊かな?」
歩夢「かすかすなんて言ったら、またかすみちゃんに怒られちゃうよ?」
愛「大丈夫大丈夫。かすかすは優しいから♪」
歩夢「あはは……」
侑(みんなと一緒にいるときの歩夢は“普通”だ)
侑(“浮気”をしたとしても何も言ってこない。だからみんなは歩夢の“本性”を知らなかった)
侑(歩夢の前で他の子に抱きついたり、手を繋いだり――)
侑(色々なことをしてきたけど、歩夢はただ微笑むだけだ)
侑(何か言うのは2人になったときだけだった)
侑(みんなの前でも言ったらいいのにね)
侑(まあ、猫かぶりの歩夢もかわいいけどさ)
侑(ちょっとやりすぎると顔がひきつるし、そういうのも見てて楽しいんだよね〜)
143
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 18:14:51 ID:fRqiMAKI
侑(歩夢の前で他の子にキスしたらどうなるかな?)
侑(昨日みたいに離れた距離から見てるんじゃなくて)
侑(本当の至近距離から見たらどんな反応するんだろう)
侑(さすがに怒るかな?)
侑(たくさん嫉妬してくれると嬉しいなぁ)
侑(今よりも、もっと愛してもらうためにね♪)
愛「ゆうゆはどうなの?」
侑「へ?」
侑(愛ちゃんに突然話を振られる。全然聞いてなかった)
愛「ゆうゆ、もしかして聞いてなかった?」
侑「ごめん、ちょっと考え事してて……」
侑(私はとりあえず謝った。何の話をしてたんだろう)
144
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 18:21:18 ID:fRqiMAKI
愛「もー、ゆうゆってばー!」
侑「あはは、ごめんって」
侑(愛ちゃんは私の肩をバシバシと叩く。思いっきり叩かれると思いきや、全然痛くなかった)
侑(愛ちゃんはこう見えて力加減が上手みたいだね)
歩夢「あの、愛ちゃん。侑ちゃん痛がってるから」
侑(歩夢が止めに入る。強い力で叩かれたと思ったのかな)
愛「え?あ、ごめん。痛かった?」
侑(愛ちゃんは心配そうに私の顔を覗き込む。「大丈夫だよ」と言うと安心していた)
侑(もう一度「ごめん」と謝り、私の肩を撫でた。歩夢の顔は少しひきつっていた。それだけで嫉妬してるらしい)
侑(歩夢の嫉妬してる姿を見て、私は嬉しかった)
侑(この程度で嫉妬するなら、キスしたらすごいことになりそうだ。楽しみだね)
侑(私の心はときめいていた)
145
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 18:55:51 ID:fRqiMAKI
侑「それで、何の話してたの?」
侑(私が聞くと、愛ちゃんは椅子に座り直した)
歩夢「侑ちゃん、その話は……」
侑「ん?」
侑(歩夢はなぜかオロオロしていた。愛ちゃんの方に向き直す)
愛「えっとね、好きな人はいるのかな、って話!」
侑「好きな人?」
侑(なるほど。だから歩夢は焦ってたのか)
侑(歩夢は付き合ってることはあまり人に知られたくないみたいだし。恥ずかしいって言ってたっけ?)
愛「ゆうゆは好きな人いる?」
侑(私の好きな人は歩夢だけど――)
侑(そのまま言うのは面白くないよね♪)
146
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 19:02:01 ID:fRqiMAKI
歩夢「も、もうその話はやめようよ」
愛「えー、なんでー?暇つぶしにはちょうどいいじゃん。ね、りなりー?」
璃奈「うん」
侑(『璃奈ちゃんボード』は笑顔だった。大方愛ちゃんの好きな人が知りたいんだろうね)
歩夢「ゆ、侑ちゃんは?」
侑(歩夢は少し涙目だった。その顔を見て、私は更にやめるわけにはいかないと心に決めた)
侑「面白そうだからやろうよ。私達だって高校生だし、好きな人の1人や2人いるもんでしょ?」
愛「お、さすがゆうゆ!わかってるじゃん!」
侑「えへへ♪」
歩夢「侑ちゃん……」
侑(歩夢がジト目でこちらを見ていたけど、気づかないフリをした)
歩夢「はぁ……」
侑(ため息を吐く歩夢を見て、私は頭を優しく撫でた)
147
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 19:06:42 ID:fRqiMAKI
歩夢「侑ちゃん……?」
侑「言いたくなかったら言わなくてもいいと思うよ。愛ちゃんもそこまで強制はしないだろうしね」
侑(こっそり耳打ちする。歩夢はこくりと頷いた)
愛「まずはゆうゆから!好きな人いるの?」
侑「私?そういうのは言い出した愛ちゃんからでしょ?」
愛「まあまあ。そんなこと言わずに、はい!」
侑(愛ちゃんは筆箱をマイクのように持ち、私の口へと持っていった)
侑「好きな人は……そうだね、いるかな」
璃奈「おー」
愛「誰?みんなの知ってる人?」
侑「んー、知ってるよ」
侑(歩夢と目が合うと、下を向いてしまった)
148
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 19:12:07 ID:fRqiMAKI
愛「まじかー。名前は?」
侑(私は言ってもいいけど、歩夢が困るよね。ここは伏せておいた方がいいかな)
侑「それは秘密♪」
愛「えー!気ーにーなーるー!!」
侑(愛ちゃんは筆箱を持った手をブンブン振っていた)
璃奈「名前を言えないなら特徴を言うのはどう?」
愛「特徴?」
璃奈「そう。髪型、髪の色、性格、その他もろもろ」
愛「おー。それいいね。ゆうゆ、よろしく!」
侑(それは私も賛成だった。その方が想像できる楽しみがあっていい)
侑(髪型と髪の色はすぐにバレるから言わない)
侑(無難に顔や性格からかな)
149
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 19:17:40 ID:fRqiMAKI
侑「んーとね、顔はかわいいよ。性格も優しくて、あと料理が得意かな?私の一番大好きな人は♪」
侑(他にも言いたいことはあるけど、このくらいで。特徴を言いすぎると歩夢だって気づくかもしれない)
侑(歩夢を見ると、両手で顔を覆っていた。耳まで真っ赤になっている。その姿にキュンキュンしそうになった)
侑(私はキスしたい衝動をなんとか抑えた)
愛「かわいくて、優しくて、料理上手か〜〜」
璃奈「髪の色とかは?」
侑「それは秘密かな?」
璃奈「それだけじゃ難しい」
侑「あはは。頑張ってね」
璃奈「むむ」
愛「あ、わかった!」
侑(愛ちゃんの発言に歩夢は顔を上げる。真っ赤だった)
150
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 19:22:53 ID:fRqiMAKI
璃奈「もうわかったの?」
愛「もち!」
侑「じゃあ正解をどうぞ!」
侑(愛ちゃんを真似て、筆箱をマイク代わりにする)
愛「正解は〜〜愛さんだ〜〜!!」
侑「えっ」
侑(愛ちゃんは大声で自分の名前を言った。もちろん不正解だ)
璃奈「愛さん、何言ってるの?」
愛「あれ?愛さんじゃない?」
侑(愛ちゃんはこっちを見る。私は首を横に振った)
愛「えー、おっかしいなー。かわいい、優しい、料理上手、全部愛さんに当てはまるんだけどなー?」
侑(愛ちゃんは軽く頭を搔いた。たしかに言われてみればそうだけど……)
151
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 19:28:24 ID:fRqiMAKI
璃奈「自分でかわいいって言っちゃうんだ」
愛「愛さんかわいいでしょ?」
侑「かわいいのは認めるけどさ、愛ちゃんではないよ」
愛「なーんだ。ゆうゆとなら付き合ってもいいかなって思ったんだけどなー」
侑「えぇ?」
侑(愛ちゃんの言葉に璃奈ちゃんと歩夢が反応した)
侑(璃奈ちゃんは私を真顔で見つめていた。やめて、そんな顔で見ないで。私にその気はないから)
愛「アタシ、ゆうゆのこと結構好きだよ?」
侑(璃奈ちゃんの視線が強くなる。私悪くないよね?)
歩夢「んんっ。次は誰?璃奈ちゃんはどう?」
侑(歩夢の助けが入って難を逃れた。このままだと璃奈ちゃんに何されるかわからないし)
侑(でも、安心してね。私が好きなのは歩夢だから♪)
152
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 19:33:34 ID:fRqiMAKI
愛「次はりなりー?りなりーは誰が好きなのかな?」
侑(愛ちゃん切り替え早いなぁ。まあ、好きっていうのは“友達として”だろうしね)
璃奈「私の好きな人は――」
璃奈「金髪で背が高くて誰にでも優しくてかっこよくて運動神経抜群で頭が良くて髪はポニーテールで実家がもんじゃ焼き屋をやってる」
侑(璃奈ちゃんこんなに早口で話せるんだ)
侑(これもう答えでしょ。名前言った方が早くない?)
歩夢「……」ポカーン
侑(歩夢も露骨すぎてポカンとしてるし)
愛「おお、結構細かいね。誰のことだろ?」
侑「嘘でしょ」
愛「ゆうゆ?」
侑「あー、いや。なんでもない」
153
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 19:38:48 ID:fRqiMAKI
愛「んー、そうだなぁ」
侑(愛ちゃんは顎に手を当てて考えていた)
侑(考えるまでもないと思うけど、本人からすると案外わからないのかもしれない)
愛「他に何かないの?」
侑(あとはもう名前言うしかないんじゃないの)
璃奈「これ以上はダメ」
愛「えー。教えてよ、りなりー」
侑(愛ちゃんは璃奈ちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でる。相変わらず無表情だけど、心なしか嬉しそうだった)
璃奈「やめて」
愛「うりうりー♪」
侑(2人でじゃれあって楽しそうだなー)
侑(それにしても、あそこまで特徴出しておいて愛ちゃんが気づかないってことあるのかな?)
154
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 19:46:36 ID:fRqiMAKI
侑(私のときもすぐに「愛さんだー」って言ってたし。不正解だったけど)
侑(気づいてないフリをしてたりしてね)
侑(恋愛感情がないなら、そうするのが一番いいと思う。断るってことはその人を深く傷つけてしまうから)
侑(愛ちゃんはモテるし、相手が好意を持ってるかどうかわかるんだろうね。視線、態度、話し方とかでさ)
侑(ルックスよし、運動神経抜群、成績優秀、おまけに性格もいい。悪い所ないもん)
侑(モテない方がおかしいよ)
侑(……ただの私の想像だけどね。本当に気づいてないのかもしれないし)
愛「ゆうゆはわかる?」
侑(愛ちゃんは璃奈ちゃんを膝に乗せていた)
侑(頭を撫でられている璃奈ちゃんは、気持ちよさそうに目をつぶっている。まるで猫みたいだ)
侑(そんな風に誰にでも優しく接するから、勘違いする子がたくさん出てくるんだろうなー)
侑(あ、私も人のことは言えないか。あはは)
155
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 20:27:11 ID:fRqiMAKI
侑「私はよくわからないや。歩夢はどう?」
歩夢「わ、私に振らないでよ」
侑(歩夢はボソボソとつぶやいていた。歩夢も愛ちゃんだって気づいてるよね、きっと)
侑(もし気づかないとすれば、せつ菜ちゃんくらいだろう)
侑「歩夢はわかったの?」
侑(悪戯っぽい笑みを浮かべる。歩夢は少し汗をかいていた)
愛「あゆぴょんわかったの?教えてよー」
歩夢「あ、あゆぴょんって呼ばないでっ」
侑(今朝の会話を思い出したのか、歩夢の顔が真っ赤になった。愛ちゃんは不思議そうに見ている)
愛「えー?何真っ赤になってるのー、あゆぴょーん♪」
侑(愛ちゃんは璃奈ちゃんを膝に乗せながら、手でうさぎの真似をする。完全にからかっていた)
侑(歩夢は更に顔を真っ赤にし、両手で顔を覆った)
156
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 20:32:51 ID:fRqiMAKI
侑「愛ちゃん、その辺にしといてよ。あゆぴょんは顔が真っ赤になりすぎると爆発しちゃうから」
愛「あははっ。あゆぴょんは面白いなー」
歩夢「もー!2人してからかわないでよー!」
侑(子供のように足をバタバタとさせている。かわいい)
愛「んで、歩夢は誰かわかった?」
侑(まだ引っ張るんだ。本当に気づいてないの?)
歩夢「知らないっ」
侑(歩夢は顔を覆ったまま答えた。わかっていても、本人の前では答えにくいのだろう。私もそうだったし)
愛「ふーん。なら次は歩夢かな?」
璃奈「え」
愛「りなりー?」
侑(璃奈ちゃんは膝に座ったまま上目遣いで愛ちゃん見つめている。何か言いたそうにしていた)
157
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 20:40:00 ID:fRqiMAKI
愛「どうしたの?」
侑(愛ちゃんが頭を撫でながら問いかける。璃奈ちゃんはそのまま視線を下に落とした)
璃奈「いや、なんでもない」
侑(璃奈ちゃんは小さな声でつぶやく。愛ちゃんに自分の好意を気づいてほしかったんだろうね)
侑(きっと、自分で告白するのは恥ずかしいから)
侑(好きって想いを伝えるのは勇気がいるもんね。フラれたら嫌だし、この先どう接したらいいかわからない)
侑(間違いなく今までと同じ関係ではいられなくなる)
侑(私はかすみちゃんを思い出した。無断で休むなんて初めてだ。花言葉を調べたからかもしれない)
侑(私のせいで学校を休んだってなると少し罪悪感を感じる。いや、学校まで休んだかは知らないけど)
侑(かすみちゃんはどんな態度で私に接してくるかな?会うのが本当に楽しみだよ♪)
愛「次は歩夢よろしくー。好きな人いるの?」
侑(璃奈ちゃんとの会話は終わったらしい。また聞き逃してしまった)
158
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 20:45:05 ID:fRqiMAKI
歩夢「い、いや、私は……」
侑(顔の熱は引いたみたいだけど、明らかに挙動不審だった。好きな人がいるって言ってるようなものだ)
璃奈「誰が好きなの?」
侑(璃奈ちゃんは自分の椅子に座っていた。ちょっと気まずくなっちゃったのかな?)
歩夢「いや、えっと、私は別に……」
侑(歩夢はチラッとこちらを見る。私は微笑んだ)
愛「この反応は絶対いるね」
璃奈「うん。璃奈ちゃんボード『じー』」
歩夢「私は別に……好きな人なんて……」
侑(歩夢は顔を赤らめ、指をもじもじさせながら私のことをチラチラ見ていた。璃奈ちゃん以上に露骨すぎる)
愛「あははっ。やっぱり歩夢は面白いねー」
歩夢「え?」
159
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 20:49:58 ID:fRqiMAKI
愛「ゆうゆが好きなんだねー。歩夢露骨すぎるよ!」
歩夢「え?え?」
侑(歩夢はオロオロしている。なぜバレたかわからないらしい。未だに私をチラチラ見ていた)
璃奈「侑さんのこと見すぎ。これなら誰でもわかる」
歩夢「えぇ〜……」
歩夢「恥ずかしい……」
侑(歩夢はまた両手で顔を覆ってしまった。耳まで真っ赤だ)
愛「ゆうゆは歩夢のこと好き?」
侑(愛ちゃんの言葉に歩夢が反応する。指の隙間からこちらを覗いていた)
璃奈「かわいい、優しい、料理上手……」
璃奈「歩夢さんも当てはまるね」
侑(璃奈ちゃんが言った。もう隠し通すのは厳しそうだ)
160
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 20:55:06 ID:fRqiMAKI
愛「あー、たしかに。歩夢の卵焼きおいしいもんね」
璃奈「うん」
愛「あ、でもさ、それなら彼方っちもじゃない?」
璃奈「かすみちゃんも当てはまる」
歩夢「……」
侑(歩夢は指の隙間から様子を伺っていた。顔上げればいいのに)
璃奈「せつ菜さんは――」
愛「ないない」
璃奈「だよね。最悪死人が出る」
侑(せつ菜ちゃんのクッキーを食べたあと、何度も吐いたのを思い出した。あのときは本当に地獄だったな)
侑(クッキーにたくあん、塩辛、セミの抜け殻を入れるんじゃないよ。隠し味に紫の絵の具を入れたらしいし)
侑(せめて普通に食べられる物を入れてほしいよね)
161
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/28(月) 21:01:16 ID:fRqiMAKI
愛「んー。他には誰かいる?」
璃奈「侑さんに聞くのが手っ取り早い」
愛「だね。じゃあ、ゆうゆ!」
侑(さすがに好きな人くらいは言っちゃってもいいかな。付き合ってることを言うわけじゃないしね)
侑「えっと、私の好きな人は歩夢だよ」
璃奈「やっぱり」
愛「へー、両想いなんだ。よかったね、歩夢!」
侑(愛ちゃんは歩夢の肩をバシバシ叩く。顔を上げた歩夢は嬉しそうにしていた)
璃奈「両想いなら付き合っちゃえば?」
侑(璃奈ちゃんの言葉に、歩夢の肩はビクリと跳ね上がった。頬がまた真っ赤に染まっていく)
愛「いいねー。付き合いなよー、あははっ」
侑(愛ちゃんは歩夢の頬を軽くつついていた。ノリが酔っぱらったおじさんなんだよね)
162
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 17:41:37 ID:b/QvDUPM
愛「ほら、歩夢!告白しちゃいなって!」
璃奈「璃奈ちゃんボード『じー』」
歩夢「うぅ〜……」
侑(歩夢の顔は真っ赤で、本当に爆発しそうだった)
侑(告白以前にもう付き合ってるんだよね。私は言ってもいいけど歩夢がなー)
侑(こんなに真っ赤になって恥ずかしがってるんだし、結局同じような気もするけどね)
愛「歩夢ー!ゆうゆも告白待ってるよ!」
璃奈「そうそう」
侑(歩夢は何度目か忘れたくらい両手で顔を覆っていた。なんでそんなに恥ずかしいんだろう?)
璃奈「あれ?」
侑(璃奈ちゃんの方を見る。璃奈ちゃんは私の顔を凝視していた)
侑(いや、正確には顔の少し下――首辺りを見ていた)
163
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 17:47:07 ID:b/QvDUPM
愛「どうしたん、りなりー」
侑(愛ちゃんは歩夢の肩を揺すりながら璃奈ちゃんに問いかける。歩夢がかわいそうになってきた)
侑(璃奈ちゃんは私に近づくと、やはり首を凝視している)
璃奈「これ、キスマークだ」
侑「あっ」
侑(璃奈ちゃんはキスマークを指さした。バレないと思ってたから完全に油断していた)
愛「えー?ほんとに?」
璃奈「見たことないけど、多分合ってる。ほら、ここ」
侑(愛ちゃんも近づいて私の首を見る。軽くキスマークに触れていた)
愛「なんかそれっぽいねー。愛さんも実物を見るのは初めてだけど」
侑「これは……えっと、蚊に刺されて……」
侑(我ながら苦しい言い訳だと思った)
164
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 17:52:19 ID:b/QvDUPM
璃奈「この時期に蚊はいないよ」
侑「うぐ……」
愛「だねー。ゆうゆ、観念した方が身のためだよ?」
侑「はぁ……」
侑(ため息を吐く。もう隠すのは無理だった)
侑「わかったよ、言えばいいんでしょ」
璃奈「このキスマークは歩夢さんが?」
侑(私は歩夢を見た。歩夢は首を横に振っていた)
侑(歩夢のその態度に少し腹が立った。そんなに私と付き合ってるって知られるのが嫌なの?)
侑(歩夢はただ恥ずかしいからだろうけど、もう知らない。全部言っちゃえばいいよね)
侑「うん。実は私達付き合ってるんだ」
歩夢「……!」
165
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 17:56:39 ID:b/QvDUPM
侑「このキスマークも、もちろん歩夢が付けたものだよ。こんな場所にキスしたから服で隠せなくてさ」
愛「おー!」
璃奈「いつから付き合ってるの?」
侑「いつからだっけ?」
侑(私は歩夢に問いかける。歩夢はそっぽを向いた)
侑「歩夢っ」
歩夢「……の……み……」
侑(歩夢はボソボソとつぶやいた。まるで蚊の鳴くような声だった)
愛「えー?なになに?」
璃奈「聞こえなーい」
歩夢「中学……1年の、夏休み……」
侑(今度ははっきりと聞こえる。ちゃんと覚えてたんだね)
166
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 18:02:07 ID:b/QvDUPM
愛「え、そんなに前から?」
璃奈「全然気づかなかった」
侑「一応バレないように気をつけてたからさ」
愛「なんで?言ってくれたらよかったのに」
侑「私はともかく歩夢が……ね?」
璃奈「あー」
愛「歩夢は恥ずかしがり屋だもんねー」
侑(歩夢は顔を真っ赤にしてうつむいていた。歩夢の恥じらう姿はかわいい。もっと見ていたいな)
璃奈「キスマークか。羨ましい」
侑(璃奈ちゃんは横目で愛ちゃんを見る。本人は全く気づいていなかった)
侑(璃奈ちゃんと目が合った。璃奈ちゃんは気まずそうに『璃奈ちゃんボード』で顔を隠す。ジト目だった)
侑「あ、あはは……」
167
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:02:04 ID:b/QvDUPM
璃奈「恋人ってことは色々なことするの?」
侑「色々なこと?」
璃奈「たとえば、ごにょごにょとか」
侑(璃奈ちゃんは『璃奈ちゃんボード』をペラペラめくり、顔に持っていく。セクシーな顔が描かれていた)
愛「りなりー大胆だねー。愛さんも気になってたんだ♪」
侑(愛ちゃんは璃奈ちゃんの頭を軽く撫で、こちらを見る)
愛「どうなの?んで、やることやってるの?」
侑(愛ちゃんは指で輪っかを作り、片方の人差し指をその輪の中に通した。私達には付いてないよ)
侑(歩夢はそのジェスチャーを見て、また顔を赤らめた)
璃奈「やってるの?」
侑(璃奈ちゃんも愛ちゃんを真似てか、同じジェスチャーをした。絶対に人前でやったらダメだからね)
侑(2人の反応を見るに、正直に話すまでは解放してくれそうになかった)
168
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:07:57 ID:b/QvDUPM
愛「ゆうゆー?」
璃奈「歩夢さんでもいいよ」
侑(歩夢はブンブンと首を横に振った。私の顔を見て、「絶対に話さないで」と涙目で訴えていた気がする)
侑(歩夢のその顔は本当にかわいかった)
侑(ごめんね。私はエスパーでも何でもないから、声に出さないとわからないんだ。だから話してもいいよね♪)
侑「まあ、そういうことはするよ。恋人なんだしね」
歩夢「……!」
侑(歩夢は私を睨んでいた。涙目だからむしろかわいい)
璃奈「おお」
愛「キスマーク付いてるってことは昨日も?」
侑「昨日のあゆぴょんは激しかったよ♪」
侑(2人して声を上げた。よっぽど気になるらしい)
169
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:14:32 ID:b/QvDUPM
愛「でも、歩夢がそんな大胆だとは思わなかったなー」
璃奈「ね。こんなに顔が真っ赤なのに」
侑(2人は歩夢を見る。歩夢は両手で顔を覆っていた)
侑「普段はこうだけど、2人きりのときは本当にすごいよ。うさぎは性欲強いって聞くけど、アレはマジだね」
侑「全然休ませてくれないもん。昨日だって寝るの夜中だったしさ。私の身体が持たないよ」
愛「へー。さすがあゆぴょーん♪」
璃奈「あゆぴょんすごい。絶倫あゆぴょん」
歩夢「ううぅぅ……」
侑(歩夢は顔を真っ赤にして足をバタバタさせていた)
侑(2人はその反応が面白いのか、あゆぴょんあゆぴょんとうさぎの真似をしながら連呼していた。楽しそうだ)
歩夢「ゆうちゃ〜〜ん……」
侑(歩夢はもう半泣きだった。もっとその顔が見たかったけど、あとで歩夢に何されるかわからない)
170
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:20:00 ID:b/QvDUPM
侑「2人とも、その辺にしておいて。歩夢がそろそろ本気で泣きそうだから」
愛「あはは。そうだね、あゆぴょん泣いちゃうか」
璃奈「ちょっとやりすぎたかも。ごめんね」
歩夢「うん……」
侑(歩夢は涙を拭っていた。相変わらず顔は真っ赤だ)
侑「さすがに止めておかないとさ」
侑(2人に近づき、そっと耳打ちをする)
侑「あとで私が歩夢にお仕置きされちゃうもん。今日は早く寝たいしね」
愛「あはははっ。だねー」
璃奈「2日連続は厳しい?」
侑「私は歩夢と違って体力ないから♪」
愛「うさぎには勝てないかー」
璃奈「大変だね」
171
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:26:09 ID:b/QvDUPM
侑「まあね。でも、嬉しいよ。愛されてるって実感できるからね」
愛「お熱いねー♪」
璃奈「ひゅーひゅー」
侑「えへへ♪」
侑(2人に言われて、私も少し顔が熱くなった)
歩夢「3人で何の内緒話してるの?また私のこと?」
侑(歩夢はある程度落ち着いたらしく、こちらの話題に加わってきた。顔はまだ少し赤かった)
侑「んー、そんな感じ?」
愛「2人はお熱いねーって話してたんだよ」
璃奈「そうそう」
歩夢「お熱いだなんて……ふふ。でも、嬉しいな」
侑(歩夢は頬に手を当て微笑んだ。さっきまでゆでダコみたいに真っ赤だったのが嘘みたいだ)
172
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:32:03 ID:b/QvDUPM
歩夢「それはそうと……侑ちゃん?」
侑(歩夢は頬を膨らませ、私を少し睨む。かわいい)
歩夢「あそこまで言うなんてひどいよっ。恋人の件は内緒にしてようねって約束したのに……」
侑「しょうがないでしょ?あの状況で誤魔化すなんて無理だよ」
歩夢「それはそうだけど……。でも、アレは言いすぎだよ!」
歩夢「まるで私の性欲が強すぎるみたいに……」
侑「事実じゃん。嘘はついてないよ、あゆぴょん?」
歩夢「私はそんな……えっちな子じゃないのに……」
侑(歩夢は指をもじもじさせてうつむく。どの口が言うんだ、と思ったけど、かわいいから別にいいよね)
侑「あゆぴょんはかわいいな〜」
歩夢「侑ちゃんっ」
侑(歩夢の頭を優しく撫でる。キスしたかったけど、2人に見られてるのを思い出しやめにした)
173
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:36:04 ID:b/QvDUPM
愛「おーおー、見せつけちゃって♪」
璃奈「璃奈ちゃんボード『バカップル』」
歩夢「からかわないでよ〜〜」
侑「あははっ」
歩夢「まったく……」ハァ
侑(歩夢はため息を吐き、2人を見た)
歩夢「私達が付き合ってるってことは、その、内緒にしてくれる?あまりみんなに知られたくないから」
愛「さすがに言いふらしたりはしないって!」
璃奈「うん。こう見えて口は固いから」
璃奈「璃奈ちゃんボード『えっへん』」
歩夢「あ、ありがとう」
侑(歩夢は微笑んだ。この2人なら言わないだろう)
174
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:43:18 ID:b/QvDUPM
愛「でもさ、2人が付き合ってるって知ったのが愛さん達でよかったね。他の子だったら大変だったよ」
歩夢「私的には愛ちゃん達に知られるのでも普通に大変なんだけど……」
愛「あはは、歩夢はそうだね」
璃奈「どういうこと?」
侑(私はなんとなく愛ちゃんの言いたいことがわかった)
愛「んー。ほら、ゆうゆってモテるじゃん?」
愛「ゆうゆが好きな子って同好会でも何人かいるしね」
侑(愛ちゃんの方がモテるよね、と言いそうになったが、さすがに今は言う必要がないと思い口をつぐむ)
侑(ふと愛ちゃんの言葉に違和感を覚えた。何人か?1人だけじゃないの?)
侑(私はかすみちゃん以外思い浮かばなかった)
歩夢「侑ちゃんは本当にモテるもんね。いつ浮気するんじゃないかってヒヤヒヤしてるよ」
侑(歩夢は私をジト目で見る。私は気づかないフリをした)
175
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:48:13 ID:b/QvDUPM
愛「ゆうゆに限って浮気はないんじゃない?見た感じ歩夢一筋っぽいしね」
侑「もちろん。私は歩夢しか愛さないって決めてるから♪」
璃奈「よかったね」
歩夢「う、うん。えへへ」
侑(璃奈ちゃんは歩夢の肩をポンポンと軽く叩いた。嬉しそうに微笑んでる歩夢を見ていると、愛ちゃんが私に耳打ちしてきた)
愛「ゆうゆ」
侑「なに?」
愛「歩夢のこと、大切にするんだよ」
侑「わかってるよ♪」
侑(私が笑うと愛ちゃんも微笑んだ)
愛「ゆうゆ」
侑(愛ちゃんは私の頬を優しく撫でた。その表情は、一瞬悲しそうにも見えてしまった)
176
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:54:53 ID:b/QvDUPM
侑「愛ちゃん?」
愛「ん、何でもない」
侑(愛ちゃんはいつもの笑顔に戻っていた。私の気のせいだったのかな)
愛「さて、そろそろ解散しよっか。もうすぐチャイム鳴るし!」
侑(愛ちゃんは時計を指さす。あと10分でチャイムが鳴る時間だった)
歩夢「もうそんな時間なんだ」
侑「みんなで話してたらあっという間だったね」
愛「だねー。じゃあ、放課後にまた会おうね」
侑(愛ちゃんはバッグを肩に掛ける。部室から出ていこうとすると――)
璃奈「待って」
侑(璃奈ちゃんに呼び止められ、愛ちゃんは振り向いた)
愛「りなりー?」
侑(愛ちゃんは少し急いでるように見えた)
177
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 19:59:57 ID:b/QvDUPM
璃奈「まだ愛さんの好きな人を聞いてない」
歩夢「あ、そういえば」
侑(言われてみればそうだった。歩夢で時間を取りすぎたらしい)
侑(璃奈ちゃんも気になるのは当然だよね。大本命だし)
愛「あー」
侑(愛ちゃんは気まずそうに頬を掻く。どこか様子がおかしいような――)
璃奈「愛さん?」
愛「愛さんは別に好きな人なんていないよ。ほら、早く行かないと授業に間に合わなくなっちゃうよ!」
侑(愛ちゃんはそのまま走り去っていった)
璃奈「……」
侑(璃奈ちゃんは愛ちゃんの後ろ姿を見つめていた。好きな人はいないって言葉にショックを受けたのかもしれない)
侑(私は璃奈ちゃんの肩にそっと手を置いた)
178
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 20:05:11 ID:b/QvDUPM
璃奈「……侑さん?」
侑「きっと時間がなかったから急いでたんだよ。放課後にまた聞いてみよう?」
璃奈「うん……」
侑(璃奈ちゃんの目は少し潤んでいた。私は頭を優しく撫でる)
侑「それに、もし好きな人がいないとしても――」
侑「これから璃奈ちゃんを好きになってもらえばいいと思うしね。そこは璃奈ちゃん次第だよ」
璃奈「え」
侑(璃奈ちゃんは目を見開き私を見つめた)
璃奈「気づいてたんだ」
侑(ボソッとつぶやく。私は微笑んだ)
侑「頑張ってね。私に力になれることがあれば、何でもするからさ」
璃奈「……」
179
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 20:08:10 ID:b/QvDUPM
璃奈「ありがとう」
侑(璃奈ちゃんは真顔だったけど、少し微笑んだような気がした)
侑「ううん」
璃奈「じゃあ、また放課後」
侑「うん。またね」
侑(軽くお辞儀をすると、璃奈ちゃんは小走りで去っていった)
歩夢「私達も行かないとね」
侑「だね」
侑(バッグを肩に掛け、歩夢と手を繋いだ)
歩夢「私達、ラブラブに見えるのかな」
侑「バカップル、だってさ」
侑(璃奈ちゃんの言葉を思い出す)
180
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 20:12:59 ID:b/QvDUPM
歩夢「そっか。ふふ、嬉しいね」
侑「そうだね」
侑(手を繋ぎながらゆっくりと歩いた。時間はギリギリだったけど、私達は走ることはしなかった)
歩夢「ねぇ――」
侑「うん?」
歩夢「もう小さな事で浮気とか言わない。夜中にLINEも送ったりしない。侑ちゃんに迷惑かけない」
歩夢「私以外と親しく話したり、手を繋いだりしてもいい。他の子とのLINEも見たりしない」
侑「歩夢?」
侑(いきなりの発言に私は驚いた。“あの”歩夢がそんなことを言うとは思わなかったからだ)
歩夢「だから――」
歩夢「もう絶対に“浮気”はしないで」
侑「……」
181
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 20:19:25 ID:b/QvDUPM
侑(歩夢の言う“浮気”とは昨日のようなことだろう)
歩夢「侑ちゃん」
侑(歩夢は私に優しく語りかける)
歩夢「私、変わるから。侑ちゃんに相応しい彼女になれるように頑張るから」
歩夢「すぐには無理かもしれないけど、絶対に変わるから」
歩夢「もう束縛なんてしない。自分のことだけを考えないで侑ちゃんのこともちゃんと考えるから」
歩夢「だから――侑ちゃんも私と一緒に変わってほしい」
侑(歩夢は微笑んでいる。その顔はまるで天使だった)
歩夢「約束してくれる?」
侑(歩夢は握っていた手を離し、私に小指を差し出した)
侑「……」
歩夢「侑ちゃん?」
侑(小指を差し出したまま私を見つめている。その瞳には不安なんて存在せず、信頼や希望で満ちていた)
182
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 20:24:26 ID:b/QvDUPM
侑「歩夢――」
歩夢「うん」
侑(私は歩夢の手を握り、胸の高さまで持っていく。そして歩夢を見つめた)
侑「信じていいの?」
歩夢「うん」
侑(歩夢の声は真剣だった。本当に今の自分を変えたいと思っているみたいだ)
侑「本気なんだね」
歩夢「うん」
侑(私は再び手を離し、無言で小指を差し出す)
侑(歩夢はゆっくりと小指を絡めた。歩夢の指はいつ見ても綺麗だ)
侑(歩夢と指切りをする。何度もやってきた光景だ)
侑(でも、今回は約束の“重さ”が違った)
183
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 20:31:09 ID:b/QvDUPM
歩夢「――私こっちだから」
侑「うん」
侑(これまでは教室まで一緒に行ってたけど、私が音楽科に転科してからは途中で別れていた。少し残念だ)
歩夢「またね。お昼に連絡するから」
侑「またあとで」
侑(歩夢は微笑みながら小さく手を振る。私も同じように手を振った)
侑(私は歩夢の姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。手には汗が滲んでいた)
侑(私は歩夢がここまで強いとは思っていなかった)
侑(ずっと我儘を通し、私を束縛してくれると思ってた)
侑(歩夢は変わろうとしている)
侑(歩夢は私のために変わろうしてくれた。それは嬉しい。ここまで素敵な彼女はなかなかいないだろう)
侑(だけど、その変化は私が求めていたモノではなかった)
184
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 20:36:36 ID:b/QvDUPM
侑(私は歩夢に愛してほしい)
侑(私だけを愛してほしい)
侑(私だけを見てほしい)
侑(私だけを考えてほしい)
侑(これまでのようにしてほしかった。その瞬間は、歩夢は、私だけを考えてくれるから)
侑(あの笑顔を見たら、そのままでいてなんて――)
侑(言えなかった。言えるわけがなかった)
侑(私は元の歩夢に戻ってほしかった)
侑(ちょっと親しく話したり、手を繋ぐだけで嫉妬に狂う歩夢に戻ってほしかった)
侑(すぐに嫉妬してくれる歩夢が好きなのに)
侑(数分返事がないだけでずっとメッセージを送り続ける歩夢が好きなのに)
侑(深夜にずっとメッセージを送り続ける歩夢が好きなのに)
185
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 20:42:44 ID:b/QvDUPM
侑(寝ないでずっと私のことを考えながらメッセージを送ってくれて、嬉しかったのに)
侑(歩夢は私に迷惑かけないって言ってたけど、私は迷惑だなんて思ったことは一度もないんだよ)
侑(愛されるって実感できて嬉しかったのに)
侑(本当に、嬉しかったのに)
侑(歩夢を元に戻す方法は1つしかない)
侑(これは歩夢に対する裏切り行為だ)
侑(私は何度も裏切ってきた。何度も悲しい思いをさせてきた)
侑(だけど、それは歩夢に嫉妬してほしいから)
侑(浮気をすれば、歩夢は嫉妬してくれる。怒ってくれる。私を考えてくれる)
侑(私は歩夢に愛してほしい。誰よりも愛してほしい)
侑(歩夢が私を更に愛してくれるには、浮気をするしかなかった。そうすれば歩夢は私を見てくれる)
侑(私のことだけを見てくれるから)
186
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/11/29(火) 21:01:17 ID:b/QvDUPM
侑(私のことだけを考えてくれるから)
侑(私は歩夢に歩夢に、歩夢に)
侑(歩夢に歩夢に愛してほしいだけなんだ)
侑(歩夢、歩夢、歩夢歩夢歩夢)
侑(歩夢歩夢歩夢歩夢歩夢歩夢歩夢もっと愛してよ私だけを見てお願いだから今よりももっと私を見てよ私だけを考えてよ他のことなんて何も考えないで何も見ないで歩夢歩夢歩夢私だけを愛して愛して愛してもっと愛してよもっともっともっと今よりももっとこんなんじゃ足りないよだから浮気をするんでしょ歩夢にもっと愛してもうためにそうでしょねぇ歩夢歩夢歩夢歩夢もっと私を見てよ私だけを見てよ私だけを考えてよお願いだからねぇねぇねぇ浮気をしたら歩夢は嫉妬してくれる怒ってくれる悲しんでくれる泣いてくれる嫉妬してくれる嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬してくれる私のことを考えてくれる見てくれるだから浮気をするんだよねぇ私の気持ちわかってくれるよねねぇ歩夢歩夢歩夢もっと愛してよお願いだからもっと愛して今よりもとっとお願いだから私は歩夢に愛してほしいだけなんだよ歩夢なら私の気持ちわかってくれるよね歩夢なら私の気持ちわかるよねだって恋人だもんずっと一緒にいる恋人だもん昔からずっと一緒にいる恋人だもんそうだよね歩夢歩夢歩夢歩夢歩夢大好きだよ歩夢大好き誰よりも大好き一番大好きだよ歩夢以外はいらないよ本当だよだからもっと愛してよお願いだからねぇ歩夢お願いだからもっと私を愛して私だけを見てよ私だけを考えてよお願いだから今までと同じように接してよお願いだから私を束縛してよ私は何も間違ってない私は何も悪くない私が正しい私をもっと愛してもっともっともっと愛してお願いだから歩夢歩夢もっと愛してよお願いだから私はただ歩夢に愛してほしいだけなんだよ――)
侑「……っ」
侑(自分でも何を言ってるのかわからない。こんなの、私じゃない。別の誰かの思考みたいだった)
侑(私はもう自分自身を抑えることができなかった)
侑(頭の中がぐちゃぐちゃで、ズキズキする。思考がドス黒く染まっていく)
侑(この膨れ上がったドス黒い感情は、もう、私には止めることができなかった)
侑「歩夢……。私はね、私は……」
侑「私はただ、歩夢に愛してほしいだけなんだ……」
侑(頭痛が酷くて吐き気がする。私は立っていられず、床に座り込んでしまった)
侑(どこかでLINEの通知音が聞こえた気がした)
187
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 16:56:51 ID:DUr3GeNM
――部室
侑(椅子に座って身体を休めると、ある程度落ち着いてきた)
侑(さっきは感情を制御できなかった。あんな感覚は生まれて初めてだった)
侑(歩夢――)
侑(歩夢は変わると言ってくれた)
侑(私も変わらないといけないのだろう)
侑(一緒に変わると歩夢と約束したのだから)
侑(私は自分の小指を見た。歩夢と指を絡めたときの感触はとっくに消えていた)
侑(ごめんね)
侑(私は歩夢に心の中で謝る。私がこれからやることは、歩夢との約束を破る、裏切り行為だった)
侑(私って本当に最低だな。でも、これが一番の方法なんだよ。だからしかたないよね)
侑(私が歩夢に愛してもらうためだから、これはしかたのないことなんだよ。歩夢ならわかってくれるよね?)
侑(LINEを開く。あの子が来るまで、さっきまでのやり取りを読み返していた)
188
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:00:11 ID:DUr3GeNM
かすみ:侑先輩
かすみ:今から会えませんか
侑:これから授業だよ。チャイムも鳴った
侑:急いで教室に行かないと
かすみ:お願いします
侑:どうして?
かすみ:侑先輩に会いたいからです
かすみ:会って話がしたいからです
侑:放課後でいいでしょ
かすみ:今がいいです
かすみ:お願いします
かすみ:5分でいいのでかすみんと会ってください
189
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:02:51 ID:DUr3GeNM
侑:理由を話してよ
かすみ:今すぐ会いたいからです
侑:話にならないね
かすみ:彼女なんだからいいじゃないですか
侑:彼女?
かすみ:かすみんは侑先輩の彼女です
侑:えっと
侑:それ本気で言ってるの?
かすみ:かすみんはいつも本気です
侑:黄色のチューリップの花言葉、調べた?
かすみ:調べましたよ
かすみ:素敵なお花をありがとうございました
190
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:09:19 ID:DUr3GeNM
侑:あはは
侑:スタンプ
かすみ:さっそく部屋に飾りました
かすみ:侑先輩のプレゼントだからずっと大切にしたかったんですけど
かすみ:すぐに枯れちゃうのでそうはいかないですよね
かすみ:今度はずっと残る物が欲しいです
侑:元気そうで安心したよ
侑:今日朝練来なかったし、学校も休むかと思った
かすみ:その件はごめんなさい
かすみ:起きれませんでした
侑:珍しいね。遅刻なんて絶対しないのに
かすみ:3時くらいまで起きてて、目が覚めたのもついさっきでした
191
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:13:14 ID:DUr3GeNM
侑:動画でも見てたの?
かすみ:泣いてました
侑:泣いてた?
かすみ:涙が止まりませんでした
かすみ:あんなに泣いたのは初めてだと思います
侑:そっか
かすみ:さっきかすみんのこと、元気そうで安心したって言いましたよね
侑:うん
かすみ:文字なら元気なかすみんを演じられるんですよ
かすみ:あはは、しず子みたいなこと言っちゃいました
かすみ:今どこにいますか?
侑:どうしても私と会いたいの?
かすみ:はい
192
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:16:31 ID:DUr3GeNM
侑:そっか
侑:かすみちゃんは今どこにいる?
かすみ:エントランスにいます
かすみ:場所を指定してくれたらすぐ行きます
侑:部室に来て
かすみ:わかりました
かすみ:あ、それと
侑:?
かすみ:かすみんのこと、見ても驚かないでくださいね
かすみ:ちょっとびっくりするかもしれません
侑:なにそれ
「――侑先輩」
侑(背後から声がする。いつもより低めの声だった)
193
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:22:21 ID:DUr3GeNM
侑(声がした方へ振り向くと、私は自分の目を疑った)
侑「かすみ、ちゃん」
かすみ「ごめんなさい、お待たせしました」
侑(私はかすみちゃんを見たまま固まってしまった)
かすみ「やっぱりびっくりしちゃいますよね」
侑(かすみちゃんはボサボサの髪をいじっていた)
侑「とりあえず座りなよ」
侑(隣へ座るように促すも、かすみちゃんは1つ間隔を空けて座った)
侑「隣には座らないの?」
かすみ「いえ、その。……お風呂、入ってなくて」
侑「そっか」
侑(私はかすみちゃんを抱き寄せる。かすみちゃんは「きゃ」と小さく悲鳴をあげた)
194
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:29:12 ID:DUr3GeNM
侑(かすみちゃんの髪の匂いを嗅ぐ。少し汗の匂いがする程度で、特別変な匂いはしなかった)
かすみ「侑先輩……あの……」
侑「いい匂いだよ。全然くさくない」
侑(少し汗の匂いがするとは言わなかった。私の作戦のために、これ以上かすみちゃんを傷つけるわけにはいかなかった)
かすみ「くさいですよ……。離して……」
侑「離さないよ。いい匂いだもん」
侑(抱きしめながら髪の匂いを嗅ぐ。歩夢の方が抱き心地はよかった)
かすみ「もう……」
侑(口では嫌がってるのに、顔は嬉しそうだね。好きな人に匂いを嗅がれて嬉しい?ふふ、かわいいなぁ)
侑(かすみちゃんの頭を撫でながら、じっと見つめる)
侑(髪はボサボサで、目が充血していて、隈が酷く、肌も少し荒れていた)
侑(こんなかすみちゃんは初めて見た。人一倍身だしなみに気をつけてるから尚更だった)
195
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:33:46 ID:DUr3GeNM
かすみ「侑先輩……」
かすみ「こんな状態で会ってごめんなさい……」
かすみ「かわいいかすみんじゃなくてごめんなさい……」
侑(私は頭を撫で続けた。かすみちゃんは涙声になっていた)
かすみ「侑先輩に……会いたかったんです……」
侑「そっか」
侑(かすみちゃんは私に抱きつき、胸に顔を埋めた)
侑「かすみちゃんはいつだってかわいいよ」
かすみ「うそ……。こんな私、全然かわいくない……」
かすみ「ボサボサで……隈が酷くて……」
侑「かすみちゃん、こっち見て?」
侑(かすみちゃんはゆっくり顔を上げる。私はキスをした)
196
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:43:49 ID:DUr3GeNM
かすみ「え――」
侑「かすみちゃんはかわいいよ」
侑(もう一度キスをする。歩夢は見ていなかったが、今はそんなこと気にしてられない)
侑(かすみちゃんを落ち着かせる方法はキスしかなかった)
かすみ「侑、先輩……」
侑(涙を潤ませながらこちらを見つめている。私は優しく頭を撫でた)
侑「私のせいだよね」
侑「ごめんね」
侑(頭を撫でながら優しい声で謝る。私に謝る理由はないけど、ここは謝るのが無難だと判断した)
かすみ「……もう、いいんです」
かすみ「かすみんは、もう……」
かすみ「こうやって……頭を撫でてくれたり、抱きしめてくれるだけで、幸せ、なんです……」
侑(かすみちゃんは途切れ途切れつぶやいた。嘘ばっかり。本当はキスとか色々してほしいくせに)
197
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:49:40 ID:DUr3GeNM
侑「そっか」
かすみ「はい……」
侑「……」
侑(かすみちゃんの心は壊れかけている。私のせいでこうなってしまった。修復するにはどうすればいいか)
侑(どんな反応をするか見てみたくて、好奇心で花を贈っただけなのに、まさかここまで傷つくとは思わなかった)
侑(かすみちゃんには立ち直ってもらわないと困る)
『かすみんのこと――』
侑(私は昨日の会話を思い出した。あのとき、何か言おうとしていた。かすみんのこと――)
侑(もし、私がかすみちゃんの立場なら、聞きたい言葉は1つしかなかった)
侑「かすみちゃん――」
かすみ「……?」
侑(かすみちゃんは潤んだ瞳で私を見つめている。私は少し顔を近づけ――)
侑「――好きだよ」
198
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 17:56:51 ID:DUr3GeNM
かすみ「え……」
侑(かすみちゃんは驚いた表情をしていた。無理もないだろう。私はあんな花をプレゼントしたのだから)
かすみ「何、言ってるんですか。侑先輩は――」
侑「好きだよ。かすみちゃん」
侑(舌を絡めるキスをした。かすみちゃんは最初戸惑っていたが、次第に背中に手を回してきた)
侑(キスを終え、かすみちゃんを見ると、目がとろんとしていた。垂れた唾液を指で拭う)
かすみ「侑、先輩……」
侑(かすみちゃんの声は随分と甘くなっていた。顔も嬉しそうにしている。本当に好きだと思ってるらしい)
侑「好きだよ」
かすみ「かすみんも、好きです」
侑(私が微笑むとかすみちゃんも微笑んだ。こんなので騙されるなんて、かすみちゃんの将来が心配だった)
侑(私は頭を撫でた。かすみちゃんは撫でられるのが好きみたいだ)
199
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 18:41:18 ID:DUr3GeNM
かすみ「侑先輩に撫でられると落ち着きます♪」
侑「ふふ、そっか」
侑(かすみちゃんは胸に顔を埋めている。私はそのまま頭を撫でていた)
かすみ「侑先輩?」
侑「ん?」
侑(顔を埋めたまま私の名前を呼ぶ。鼻息が胸に当たって少しくすぐったかった)
かすみ「かすみん、本当に侑先輩の彼女なんですか?」
侑「もちろん」
侑(いつ顔を上げてもいいように、念のため微笑む。花言葉やさっきのLINEを気にしてるのかな)
かすみ「そう、ですよね。えへへ、嬉しいです」
侑(かすみちゃんの抱きしめる力が、少し強くなった気がする)
かすみ「……」
200
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 18:49:56 ID:DUr3GeNM
かすみ「……チューリップの件、なんですけど」
侑(かすみちゃんの声はまた少し泣きそうになっていた。花言葉は絶対に聞いてくると思ってたよ)
侑(私は頭を撫でながら言葉の続きを待った)
かすみ「その、花言葉、調べました」
侑「LINEでも言ってたね」
侑(LINEでは元気に振る舞ってたけど、やっぱりきつかったんだろうね。ずっと泣いてたとか言ってたし)
侑(それ以前に、かすみちゃんの姿を見たらわかる)
侑(身だしなみを整える余裕すらなかったんだろうな)
侑(ちょっとやりすぎたかも。反省しないとね)
侑(いや、かすみちゃんのメンタルが弱すぎただけかもしれない。まあ、次から気をつければいいだけか)
かすみ「全般の花言葉は本当に素敵でした。調べてて、顔が真っ赤になりました。嬉しかったです」
侑(なんだっけ、全部は思い出せないな。永遠の愛情、真面目な愛、辺りだった気がするけど)
201
:
◆RZWV3S9lzE
:2022/12/02(金) 18:54:41 ID:DUr3GeNM
かすみ「そこまではよかったんです」
かすみ「でも、黄色の花言葉は……」
侑(――“望みのない恋”)
侑(こういうネガティブな花言葉は一番覚えやすい。アザミやハナズオウなんかは特にね♪)
かすみ「……侑先輩」
侑(かすみちゃんは顔を上げると、涙を流していた)
かすみ「どうして、あんな花言葉を持つお花を、私にプレゼントしたんですか……?」
かすみ「私は……侑先輩に、プレゼントを貰えて……」
かすみ「嬉しかった、のに……」
かすみ「それ、なのに……っ」
かすみ「侑先輩は……私の、こと……」
侑「……違うよ」
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