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ドラゴンレポート「西方白龍録」

27パイロン:2022/07/13(水) 22:55:19 ID:o6omr5WY0
十三:「悪女トリッキー」






「あっ…あのクソ龍野郎消えやがった!!」

「何処行った!?」

「逃げやがって!!探せ!!」

「ふざけやがって!!」


裏拳でダキの顔面を殴り、拘束から解かれた瞬間に黒い靄をまとって消えたパイロン。顔面を殴られて激怒したダキやキョウカ達ムカデの一家が辺りを探そうとした時だった。


「逃げてなんかいないぜ……?」

「なんだ…と…っ?」


その瞬間、ダキの後ろから聞こえたパイロンの声。すかさず、ダキの背中に何かの衝撃が当たる感覚があった瞬間には、爆音と共にダキは吹き飛ばされていた。


「うぐえぇっ……!!」

「ダキさん!!」

「あっ、あのクソ蛇!!いつの間にダキさんの後ろに!!」

「あの技…!私も食らわされたやつだ!」


ダキが先程までいた場所には、いつの間にかパイロンが立っていた。纏っているのは赤いオーラ。今しがたダキを吹き飛ばしたのは先程ムカゴもくらった発勁(はっけい)だ。

そしてパイロンは間髪入れず、腕を交差する構えを取ると、そのまま円を描くように腕を動かし、そこに青い水の球を出現させた。 


「よくもダキさんを!!って…ぎゃっ!!」

「ぎゃあああ!!」

「ぐああああ!!」


その水の球から高圧の水流をレーザーのように放ち、他のムカデ達を薙ぎ払ったのだ。高圧水流をまともにくらい、すでに墜落していたダキに続いて地面へと落ちていく、キョウカをはじめとしたムカデ達。

そして、ムカデ達全員が落下した事を確認した後にパイロンは地上へと降りてきた。今はなんとか抑えているが、いつまたダキによる呪いが心を蝕むかはわからないからだった。


「くっ……なんとか抑えているが、限界は近い…。クソ、この蛇女、なんて事をしやがるっ!

…サロンに居るココさんなら、この呪いに何か対策が取れるかもしれない。そのためには、コイツらをこの鉱山跡に閉じ込めないと……!!」


ココさんからもらったゲートで入り浸っているサロンへ直通で立て直しに向かえるが、それには一旦この場を離れる必要がある。この鉱山跡からムカデやヘビが出れないよう、動けなくしてから、大人しく倒れているうちに結界を貼って封印しておく必要があった。

そう考えながら、そっと結界と封印の呪文を唱えるパイロン。

一通り全員を見渡したが、ムカデ達一家はピクリとも動かない。先程、大百足のアカザが暴れたために倒壊している地面に勢いよく落下したダメージは凄まじいがゆえだろう。流石にこれでは例えムカデやヘビでもしばらくは起き上がれまい。
しかし、その近くに倒れているダキのほうを見て驚いた。同じくピクリとも動かないダキの隣に、いつの間にかもうひとり、女性が倒れて伸びていたからだった。

見た目はダキにそっくりな東の国の女性だ。赤い長い髪と目に青緑色の着物が特徴だった。二人ともお揃いの帯を巻いていた。ダキの帯には「ダキ」と刺繍されていて、もうひとりの女の帯には「ユウキ」と刺繍されていた。


「なんだ、こいつ…。この帯の名前がそうなら、コイツはユウキって女か?

…このダキとユウキの二人組、見覚えがある。まさか…」










とある日の夜、辺境都市ルブルの郊外の某所。

ここの街と隣の街との境目には大きな河が流れていて、大きな頑丈な橋が架けられていて街を繋いでいた。

そこに一人の男がやってきていた。

金色でツンツンした髪型、夜でも外さないサングラスに似た黒い色のレンズの眼鏡。
日に焼けた肌、わざとらしいほどの白い歯、長身かつゴツい体型、派手な柄で露出度も高い服。
服の間から見える身体にはタトゥー、首や手には無骨な指輪やネックレスといったアクセサリーがいくつもつけられている。

見た目からして、所謂遊び人の男である事は明白だった。


「いやあ、残念だねーえ。あのいいオンナを逃したのは。
明日の用事があったあのオンナが帰りさえしなけりゃ、オレはお持ち帰り出来てオンナと朝までいっぱいお楽しみ出来たのによー悔しくて仕方ないぜえ。オーノー、オレのこの気分と下半身の高ぶりをどーしてくれんだってんだよお。」


お持ち帰りが出来なかった事がとても悔しいのか、そんな独り言をぼやきながら一人帰路についていた。その道中、ここの橋の近くへとやってきていたのである。

28パイロン:2022/07/13(水) 22:56:14 ID:o6omr5WY0
「おんやー?あそこにいるのは誰かなあ?オー、オンナじゃん、ラッキーだぜえ。もしかしてえ、こんなカワイソーなオレにゴッドがプレゼントをくれたのかー?コレはラッキーじゃんかよお。」


少し離れた所に見えるその橋に、一人の人影が見えた。

人影は女性だった。黒い目と黒い長い髪、濃い紫色の着物と袴、そして頭には薄い紫色の布を被っていた。

その姿から、東の国の東洋人女性である事が見て取れた。

こんな危険な時間に女性が一人で出歩く事はまずありえない事である。

しかし、どうやらこの男にはそこまでの考えは全くなかったようで、早速ターゲットに選んだようだった。

その女性は少しだけ困ったような表情をしていて、寂しそうな目をしているように見えた。

顔立ちは整っている美しい女性だ。その物悲しい雰囲気も相まって、より男には魅力的に映っただろう。


「ヘーイ、そこのアジアンビューティー。こんばんはあ。こんな時間に一人でどうしたのー?何やら困った事が起きてるようだねーえ。」

「あっ…これは、どうも。ええ…そうなんです。私はここの隣町に住んでいる友人を訪ねて来たのですが…いくら待っても友人が迎えに来なくてこの時間まで待ちぼうけで…どうにもできずに困っていたのです。」

「オーノー、それはタイヘンだったねえ。残酷な事をいう事になるけどお、多分そのお友達はもう来ないよー。これだけ待ってるんだからねえ。でもダイジョウブ。ここで出会ったのも何かの縁ね。変わりにオレが隣町までアンナイしてあげようじゃなーいの。」

「ほ、本当ですか?案内して頂けるのですか?嬉しいです!」


物悲しげな表情をしていた女性の表情が明るくなっていくのがわかる。男にとってはうまく行ったラッキーな展開だと捉えられただろう。このままもうひと押しすれば案内する名目でお持ち帰りが出来るからだ。


「イエス、モチロンね。でも、世の中ギブアンドテイクね。そうでしょう?オレは貴女を隣町までアンナイしてあげましょう。その代わり、案内のガイド料として、貴女はオレとともにベッドへゴーして一夜を共にしてもらいマース。いいでーすか?」

「ふふ…そういうことですか。欲に忠実な方なんですね。

…いいでしょう、私は貴方の事が気に入りました。それで取引成立ということで決まりですね。…まだまだ夜は長いです。その間のうちに、私と交わりましょう……」


そう言うと女性は怪しく微笑み、頭に被っていた布をそっと取ると男性の頬を撫でた。

そして、そっと男のかけていた眼鏡を取るとそれを投げ捨てて、肩にそっと両方の手をかけて、自身の方へと引き寄せながらそっと唇を重ねようとした。


「うっひょー、話が早いねえ。コレは本当にラッキーだぜえ。このオンナ、清楚そうに見えて意外と情熱的なんだねぇー、フゥ〜!」


能天気にそんな事を考えながら流れに身を任せた男は知るよしもなかった。

次に感じる感覚はここにいる女性の唇の柔らかさなんかではない事を。

女性の唇があともう少しの距離で触れる、それくらいすぐ近くまで近づいた、その瞬間だった。


『ふははっ……引っかかったな間抜けめ。もう離さんし逃さんぞ。

お前のような色んな意味で危険な男が沢山現れるであろう、こんな夜更けに女が一人で居るわけがないだろう。

まあ恨むのなら、脳味噌と下半身が直結している自分自身の事を心底恨むんだな。』

「えっ……?どういう、こ、と…だ…?」


女の口から野太い男のような恐ろしい声が聞こえた瞬間だった。

その瞬間、女は大きく口を開いた。耳まで裂けた大きな口の中には鋭い牙が何本も生えていた。

逃げようとしても、女性のものとは思えない強い力によって男は身動きが全く取れなかった。

そして、全く動けない男の喉に女は噛み付いた。

牙が肉に食い込む音と噴き出す血の音を辺りに響かせながら、女はそのまま男の喉を食い千切った。

喉を食い千切られた男はそのまま絶命した。そして、その肉を女が喰らい咀嚼する恐ろしい音が聞こえてくる。


『命が終わる瞬間にこんないい女と交われて幸せになれてよかったではないか、小僧。……まあ、交わると言っても腹の中でだけどな、ふははははっ……』


そのまま肉を喰らった女の恐ろしい声が辺りに聞こえた。


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