したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が1スレッドの最大レス数(1000件)を超えています。残念ながら投稿することができません。

【にじさんじ】月ノ美兎×樋口楓【かえみと】第472

632物書きの壁:2019/07/05(金) 03:01:48 ID:???00
今日も今日とて宿を借りる身としては何かお返しができないものか、そう思っていたのだけれど。

「ほんまにこんなことでええの」
「なに言っとるんですか、最強じゃんこんなの」

バスタオルに包まれた長い黒髪の持ち主が迷いもなく答える。思えば提案されたときもこんな感じだった。
まず頭頂部をわしわしと拭いてあげて、毛先は挟んでとんとんと叩いてあげて。
芳しいシャンプーの香りが鼻腔をくすぐると、これは奉仕というよりご褒美ではないかと思ってしまう。
まったく。この子の願いごとはいつだって奇想天外で、私には予想もつかないことばかりやんな。

「あ、枝毛さんおった」
「うえぇ? そんな子はうちに要りません、抜いて抜いて」
「ふへっ、何なんそれ……はいはい」
「っ! いっでぇ」

お次はブラッシング。一番重要な前髪から順に作業を進めよう。
その他の部分はできるだけ引っ掛からないよう、つむじから流れに沿って梳かしていく。
美兎ちゃんは私ほどではないにしろ長い黒髪の持ち主なので、一ストロークの範囲がとても広い。
そのためブラシを移動させる時は髪の先を優しく持ち上げてあげる必要があった。
まったく。頼んだ相手がロングヘアの持ち主だったことに感謝してほしいもんやね。

「それじゃドライヤーしまーす」
「ほーい」
「熱かったら右手を上げてくださーい」
「歯医者か。……へへ、ほいほーい」

乾かすのは順番が大事。前髪、根本、そこから毛先へと熱風を当てていくのだ。
ドライヤーを近づけ過ぎないよう注意して、手ぐしを通すことで全体をまとめながら仕上げていった。
鏡越しに顔を覗いてみると上機嫌そうにへらへらしていて、目で何か合図してきたので口パクで『あほ』と返した。
まったく。相変わらず隙あらばかまちょしてくるなんて、こちらの口角が持たないやんか。

「はいドライヤー終わり。髪の毛まとめよか?」
「あら、お願いしてもいいかしら」
「くひっ、何キャラやのそれ。お団子と三つ編みとどちらになさいますか、お嬢様」
「ふへへへ、それでは三つ編みでお願いしますわ」

はいはい、かしこまりましたっと。ここからはもう何度目か分からないいつもの作業が始まる。
私の指は、つやつやの髪をくるくるとまとめていくための角度も力加減もとっくに覚えてしまったようだった。
と、美兎ちゃんが何やらメモ書きを取り出して、ひとつの文章へ赤いマルを書き込んだ。
まったく。『死ぬまでにやりたいこと』にしてはシチュエーションが細かすぎやと思うんですけど。

「……最近、やりたいことリストの数は増えたん?」
「んー、それはそれは尋常じゃないペースで」
「あんまり欲張ると消化できなくなるかもしれんよ」
「まあ消化ペースも尋常じゃないから、さ」

最初にそのリストの存在を知った時は「ああ、この子は見る世界が私と全然違うんだ」と感じたのを覚えている。
私にだってやりたいことはあるけれど、毎日を楽しむためにここまで沢山の夢を持って暮らしているなんて。
それは単純に羨ましかったし、私もそうなりたいな、なんて憧れを持った時もあったけれど。

「まあ、少しは手伝ってあげましょうかね」
「ほとんど楓ちゃん必須だからさ、よろしくお願いしますわ」

今では私だって彼女と同じくらい多くの夢を持って毎日を生きているからいいかな、とか思っている。
そこに書いてある望みひとつひとつが私にとっては『死ぬまでにさせてあげたいリスト』だからね。
まったく。甘えん坊で世話の焼けるお嬢様やから仕方ないやんな。

「ふわぁ……」
「んふふ、もう寝ますか」
「……ほぉい」




掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板