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看板のないステーキハウス

1主の言葉を伝える者:2019/01/05(土) 16:19:08
その店は地方都市の、いつも渋滞している、県道に面していた。
南国ムードではないその街には不似合いなシュロの木が駐車場の入り口を塞ぐように植えられていた。
広い駐車場の奥には少し古い平屋の住宅のような、格子を嵌めた、そこまで進めば店があることがわかるような洒落た扉を備えた建物が建っていた。

扉の前には年代物の三菱ミニキャブ、白いトラックが停まっている。
客の車ではなさそうだ。

隣のうどん屋の駐車場と間違えてその店の駐車場に入っていった車がいた。
見ると、それは Hという10年浪人して入った東大法学部卒の学歴だけが自慢の嫌味な電子タバコ屋の車だった。
 Hは豪快に電子タバコ特有の白煙をあげながら歩道を歩いていた子供を蹴散らすようにクラクションを鳴らしながらそこに入っていった。
その店に用事があったのではなさそうだ。
駐車場の中でUターンして出てこようとしていた。
アクセル操作、ハンドル操作、そしてトランスミッション操作、すべてが乱暴だった。
狭くはない駐車場の中で何度も切り返す Hの車はついにミニキャブの荷台の隅をヒットしたが、そのまま出ていこうとした。

「おい!」
ミニキャブが全開でバックして Hの車のリアセクションを潰す。
そしてミニキャブから屈強な男が躍り出てくるのが見えた。
建物の中からも屈強な男が数人出てきた。
男の一人がレスキューハンマーで Hの車のガラスを割って Hを剥き出す。
 Hはその男に眼窩を突かれて蹲る。
そして建物の中に連行されていった。
仕方がない事だろう。
他人の敷地に勝手に入ってきて当て逃げをした奴には誰だって腹を立てる。

建物の玄関には「名前のないステーキハウス」の文字が。

数日後、私は興味をもってこの店を訪れた。
店は営業しているようで、明示的な看板こそないものの、通のための店という雰囲気を醸し出していた。

なかなかいい店だ、と私はつぶやいた。
奥からは肉の焼けるいい匂いがしていた。

目に膜が張ったかつて HSと呼ばれていた物体がそこにあった。
何本ものナイフを刺されて腹を開かれていた。
めぼしい臓器はむしり取られていた。
店員はそれを当て逃げ豚と罵っていた。
ハーベストとい言葉もしばしば聞こえてきた。
誰の目にもそれが東大法学部を卒業した有能な人物には見えず、ただの無能な・・・例えるならホームレスのおっさんの死体に見えた。


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