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僕の名前はいようです
1
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:18:44 ID:iTNgacQg0
名前は不思議なものです。
「た」が一文字あってもそれはただの音にしかならないけど、田んぼの「た」だとか、他の「た」だとか、意味が与えられれば「言葉」になるし、「た」と「ろ」と「う」が集まって、誰かに付けたらそれは「たろう」という立派な名前になるのです。
だから僕の「いよう」にも何かしらの意味があるのかもしれない。答えを知りえないものを考える時間は贅沢だから、僕は自分の名前の意味を考える時間が好きです。
貴方の名前は何ですか?
あなたにとって名前は何ですか?
4
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:19:55 ID:iTNgacQg0
1.内藤ホライゾン
.
5
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:20:25 ID:iTNgacQg0
( ,,^Д^)「まじで内藤ホライゾンって言うの?すごいな」
(-@∀@)「同姓同名ってことでしょー?親がファンとか?」
ζ(゚ー゚*ζ「全然似てなぁい!語尾に「お」付けないんだ」
ほら、ほらな。大体みんな同じこと言うんだ。そっちこそマニュアルがあんのか?面接で自分を潤滑油って喩えるやつくらい見てきたよ。
人好きのする笑みを顔に貼り付けて、少し息を吸ってから明るめの声を出す。
ミ ゚∀゚彡「本名ですよ〜!ほら!免許証見てください!」
ミ ゚∀゚彡「いやいやいや、僕のほうが先に産まれたんですよ。いわば向こうが僕のファンです」
ミ ゚∀゚彡「よく言われます〜、僕の方が男前でしょ?語尾つけたほうが良かったですかお?」
( ,,^Д^)「あはは!面白いなお前!」
(-@∀@)「うわー本当に同姓同名なんだ〜」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ」
6
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:20:50 ID:iTNgacQg0
ありがたいことにこう言えばみんな俺を面白くて良いやつだと思ってくれる。そうして俺のコミュニティは平和に繋がっていく。人と繋がっていれば大抵の事ってうまくいくんだ。その取っ掛かりが難しいという奴もいるだろうけど俺には最強な武器がある。先入観が名前にべったりついているのだ。
ミ ゚∀゚彡(本当、チョロいな世の中)
7
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:21:33 ID:iTNgacQg0
内藤ホライゾンという男がいる。
子役タレントで一世を風靡し、溢れる才能とセンスで今や超国民的俳優。絶大的な人気を得て、国内で知らない人間はいないのではないかという、全てを持った人間だ。
残念なことにそれは俺ではない。
ミ ゚∀゚彡
俺も生まれた時から「内藤ホライゾン」だった。少し変わった感性の親が付けた名前。
一字一句、同じ名前で煌びやかな人生を送る奴が現れるなんて思いもしなかっただろう。 向こうの内藤ホライゾンも芸名ではなく本名だそうだ。誰を恨めばいいって、誰も悪くないから恨めない。
奴が子役として世間に出始めた頃から俺は「内藤ホライゾン」ではなく「あの内藤ホライゾンと同姓同名のやつ」に進化したのだ。
比較されるのも噂されるのも指を差されるのも何もかもが面倒ではあったが、俺は気付いた。逆に利用してしまえばいい。
名前が一緒のやつなんて世の中にごまんといる。佐藤という名前がどれだけいると思ってんだ。その相手が超有名人だったって、ラッキーじゃん。
あいつが知名度を上げれば上げるほど俺も騒がれる事が増える。俺が何をしてもしなくてもだ。
向こうの内藤ホライゾンが好感度を上げていくのをいいことに、俺はそれに便乗していった。同じ名前のやつがいるぞと揶揄う奴には明るく返して、同じ名前なのにねと比較して下げてくる奴には弱さを見せて同情させ、同じ名前だという事に食いついてきた奴と片っ端から仲良くするようにした。
俺にとって名前は餌だ。人に食いついてもらうための道具だ。
8
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:22:07 ID:iTNgacQg0
ミ ゚∀゚彡(そうやって生きてきて、こうして入りたい会社に入社だってできたんだ。俺はこの名前を利用していく)
ミ ゚∀゚彡「とにかくよろしくお願いします!」
( ,,^Д^)「彼女に内藤ホライゾンが部下になったって自慢するわ」
ミ ゚∀゚彡「ちょ、利用の仕方〜!」
(-@∀@)「あははは!」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「ねーえ、ないとーくん。ちょっとこっち来て?」
ミ ゚∀゚彡「はいっ?」
ζ(^ー^*ζニコッ
ζ(゚ー゚*ζ「……私、内藤ホライゾンの大ファンなんだけどお、貴方と付き合ったら『内藤ホライゾン』と付き合ったことになるのかなあ」
ミ ゚∀゚彡「……」
9
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:22:34 ID:iTNgacQg0
腕を絡めてそんなことを言ってくる奴、大ファンなんて自称でしかない。単なるミーハー。ちょっとおかしなアクセサリーも似合う私可愛いでしょって、そんな女だよ。知ってる。だってこの人以外にもそういうのいっぱいいたから。
上目遣いは案外可愛くて、金がかかってそうな緩いパーマがこちらの顎にふんわりかかるのはそこまで嫌ではなかった。
餌に食いついた奴は利用するに限るんだ。にっこり笑って含みを持たせてやる。
ミ ゚∀゚彡「そうなる、かもですねえ」
ζ(゚ー゚*ζ「えー?じゃあ今夜ご飯行こ?」
ミ ゚∀゚彡「是非ですお!」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、似てなぁい」
はい、釣れた。楽勝。
10
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:23:42 ID:iTNgacQg0
( ,,^Д^)「おーい、2人でコソコソ何話してんだよ〜業務説明するぞ」
ミ ゚∀゚彡「はーい、すみません!」
( ,,^Д^)「内藤……いや、親しみ込めてブーンって呼ぶかあ」
ミ ゚∀゚彡「ちょっと勘弁してくださいお〜!」
ブーンというのは内藤ホライゾンが演じた役名で一番有名なもの。
名前が、
名前が同じってだけだ。
顔もスタイルも別に普通で、性格に至っちゃ悪い俺だ。
そんな俺がただ凄いことをしてるやつと同じ名前ってだけでちやほやされる。
馬鹿だなあ人間って。
名前なんてもんに左右されるんだから。
ミ ゚∀゚彡(俺は美味しい思い出来れば良いけど)
11
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:24:53 ID:iTNgacQg0
△▼△▼△
ζ(゚ー゚*ζ「ブーンくん、お茶どうぞー」
ミ ゚∀゚彡「ありがとうございます」
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、今夜もいい?」
ミ ゚∀゚彡「あー、今日ちょっと終わらせないといけない仕事があるんです。すみません」
ζ(゚ー゚*ζ「えー、あたしより大事なの?」
ミ ゚∀゚彡「ごめんだお〜。明日ならいいですお!」
ζ(゚ー゚*ζ「もお、ずるいんだからぁ」
(-@∀@)「おーいブーン、あの書類出来てる?」
ミ ゚∀゚彡「勿論ですお!」
( ,,^Д^)「流石だなあ」
12
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:25:27 ID:iTNgacQg0
「新しく入った内藤さんてさ」
「ああ、あの『内藤ホライゾン』ね」
「喋ってみたけど明るくて良い子だったよ」
ミ ゚∀゚彡(そうだろそうだろ)
社内での俺の評判は順調。普通にしてりゃ大体評価が下がることって無いんだよ。値段も味も同じ菓子があったとして、みんな見た目が良い方を買うだろ。人間わかりやすいものに惹かれるんだ。わかりやすく良いもの。一番最初に知る情報、つまり名前に印象を引っ張られるんだろうな。
思えば小学生の頃、汚職政治家と同じ名字のやつがイジられてた。そいつ自身は真面目なやつだったのにたかだか名字が同じってだけでオショクと呼ばれたりクラスで何か無くなると疑われたりしていた。可哀想だよな。途中から学校来なくなってたけど、今どうしてんだろ。
ミ ゚∀゚彡(知ったこっちゃないけど)
13
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:26:29 ID:iTNgacQg0
ミ ゚∀゚彡「あー疲れた」
||‘‐‘||レ「あっ、お疲れ様!ご飯出来てるよ〜」
ミ ゚∀゚彡「おー、サンキュー」
こいつは大学の時から付き合っている彼女だ。金がない時はこうやって彼女の家に転がり込む。飯も風呂も全部用意してくれる。
ありがたいね。まあ、だから付き合ってんだけど。
||‘‐‘||レ「お仕事、どう?」
ミ ゚∀゚彡「ん?んー普通」
||‘‐‘||レ「そっかぁ、私は今日ちょっとミスしちゃってさ…少し落ち込んでる〜」
ミ ゚∀゚彡「ふーん」
ミ ゚∀゚彡「あ、明日は俺来ないから」
||‘‐‘||レ「仕事?」
ミ ゚∀゚彡「ん?んー」
||‘‐‘||レ「……」
14
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:27:00 ID:iTNgacQg0
彼女もいて遊ぶ女もいて友達もいるし仕事も順調。
人生って簡単すぎる。何でも持ってんな、俺って。
ミ ゚∀゚彡(俺って別に、あっちと同姓同名じゃなくても順風満帆だったんじゃない?)
そんなふうに思えるぐらい、日々うまく行きすぎてて怖い。
15
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:27:26 ID:iTNgacQg0
||‘‐‘||レ「ねえ…」
ミ ゚∀゚彡「俺もう寝るわ。ソファー借りるなー」
||‘‐‘||レ「えっ、ベッドで一緒に寝て良いのに」
ミ ゚∀゚彡「明日早いんだろ?寝るの邪魔したら悪いからさ」
||‘‐‘||レ「そっか…」
ミ ゚∀゚彡(お前が起きる時に起こされたくないし)
||‘‐‘||レ「おやすみ」
ミ ゚∀゚彡「んー」
16
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:27:52 ID:iTNgacQg0
ミ-∀-彡
ビー
ビー
ビー
ビービービー
ミ ゚∀゚彡「何…通知音?」
17
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:28:25 ID:iTNgacQg0
眠ってどれくらいの時間が経ったか、朝早くからおびただしい量のメッセージがスマホに届いていてギョッとする。電話も何件かかかってきている。大体が友人からだ。ちょうどかかってきた電話に恐る恐る出てみる。
ミ ゚∀゚彡「どうしたんだよ…こんな朝早くから」
「ニュース見た?すごいことになってるよ」
ミ ゚∀゚彡「え?」
「一瞬お前がやったのかと思ったけど本物の方だったな」
笑った声が嫌に耳にこびり付いた。わざとらしい嘲笑にも似た声。何の話だ?
本物ってなんだよ俺だって本物だ。いや、今そんな場合じゃない。
通話を切って受信したメッセージを開く。
18
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:28:50 ID:iTNgacQg0
「大丈夫?」
「違うほうだよね、びびった」
「お前かと思った」
ミ; ゚∀゚彡「何の話なんだよ、クソっ」
誰からの連絡も要領を得なかった。SNSを開いてトレンドに上がっているニュースを見ようとし、指が止まる。
19
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:29:25 ID:iTNgacQg0
『内藤ホライゾン 逮捕』
ミ ゚∀゚彡「え?」
20
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:29:59 ID:iTNgacQg0
『内藤ホライゾン 暴行の末殺人か』
『内藤ホライゾン容疑者から薬物反応』
『内藤ホライゾン おしまい』
『内藤ホライゾン 解雇』
『内藤ホライゾン容疑者 性的暴行も』
『内藤ホライゾン …』
SNSのトレンドは俺の名前で埋め尽くされている。
ミ; ゚∀゚彡(違う、俺じゃなくて、俺と同じ名前だ。向こうだ。俺じゃない)
心臓が凄い速さで脈を打っていた。バクバクとうるさく、静かな部屋に音が漏れているのではないか。実際には掛け時計の針が進む音だけが響いていた。顔や身体から血の気が去っていたかのようにひんやりとしている。小さく震える親指で画面をスワイプする。
21
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:30:35 ID:iTNgacQg0
「内藤ホライゾン最低」
「好きだったけどないわ」
「終わったー!内藤ホライゾン」
「前から怪しいと思ってた」
「暴行って性的なのも含まれてるらしい、まじでない」
「最低最悪の転落じゃん。こいつの作品もう見れん」
「内藤ホライゾンタヒね」
「内藤ホライゾンやべえな」
「人生乙!内藤ホライゾン!」
「大麻、暴行、殺人、犯罪者内藤ホライゾン」
「●んでほしい」
「内藤ホライゾン容疑者」
ミ; ゚∀゚彡「っ」
どきっとした。自分ではない。俺に対してではない。けれど明らかな悪意が、殺意が、俺の名前に張り付いている。
いやな汗が背中を伝う。
ミ ゚∀゚彡「俺じゃ、ないし」
ミ ゚∀゚彡「俺じゃねえよ」
ミ ゚∀゚彡「…くそうぜえ」
彼女はもう家を出た後のようだった。一人薄暗い部屋の中、二度寝をしようとしたが上手く眠れずメッセージの通知音は全てミュートした。
22
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:31:14 ID:iTNgacQg0
ミ ゚∀゚彡「おはようございますー」
ミ ゚∀゚彡「……」
出社して一番最初に気付いた違和感は視線だった。誰とも目が合わない。挨拶だっていつもはもっとかえってくるはずなのに。
(-@∀@)「あ…」
ミ ゚∀゚彡「あ、おはようございます!」
(-@∀@)「う、うん」
ミ ゚∀゚彡「参っちゃいましたよーあっちの内藤ホライゾン、めっちゃ犯罪犯しちゃったじゃないっすかあ。ニュース見ててずっと自分と同じ名前いうからびびりますよぉ!」
(-@∀@)「あ、はは。そうだよね」
ζ(゚ー゚*ζ「あ、内藤さん。ちょっといいですかぁ」
ミ ゚∀゚彡(は?)
ミ ゚∀゚彡(内藤さん?今までブーンくんなんて呼んでたくせに)
23
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:32:05 ID:iTNgacQg0
ミ ゚∀゚彡「おはようございますー。今夜の事ですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「ね、しばらく会うのやめとこ?もちろん内藤君が悪いことしてないのはわかるんだけどさあ」
ミ ゚∀゚彡「え?」
ζ(゚ー゚*ζ「ほら、あたしあっちのファンだったから気持ちまだ落ち着いてないの。だから、ね?」
ミ ゚∀゚彡
24
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:32:49 ID:iTNgacQg0
( ,,^Д^)「よお、内藤。これ向こうの部署に持っていってくれ」
ミ ゚∀゚彡「あ、はいでーす」
ミ ゚∀゚彡「……」
ミ ゚∀゚彡(嘘だろ?何でだよ)
廊下ですれ違う人間の視線が痛い。何だ、何でだ。俺は悪いことしてないだろ。犯罪者は向こうの「内藤ホライゾン」だろ。俺は、俺は。
ミ ゚∀゚彡(あれ)
ミ ゚∀゚彡(俺、今犯罪者と同姓同名なのか)
ミ ゚∀゚彡(いや、名前が同じってだけだっての)
ミ ;゚∀゚彡「……」
書類を持って行った部署も、背中を向けた途端ヒソヒソ声とクスクス笑う声が聞こえてゾッとした。つい昨日まであの『内藤ホライゾン』と同じ名前だってチヤホヤしてきた奴らが、『内藤ホライゾン容疑者』と同じ名前だという事で俺を馬鹿にしている。
思い出すのは汚職政治家と同じ名字だった奴だ。あいつは名字が同じだけだった。なんなら漢字は違ったかもしれない。俺は名字も名前も漢字も一緒だ。
ミ; ゚∀゚彡(俺は違うだろ。積み重ねてきたものがあるわけで……)
25
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:33:20 ID:iTNgacQg0
ζ(゚ー゚*ζ「なんかねー、犯罪者と名前一緒だとさあ、ね?」
(-@∀@)「違うってわかってるけどね」
( ,,^Д^)「ニュースであれだけ騒がれるとどうしてももう内藤ホライゾン=大犯罪者って思うよな」
ζ(゚ー゚*ζ「こわ〜い」
(-@∀@)「二人っきりにならないほうがいいかも」
26
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:34:27 ID:iTNgacQg0
ミ ゚∀゚彡
俺じゃないのに?
犯罪を犯したのは俺じゃない内藤ホライゾンなのに、どうして俺がこんな思いしなきゃいけないんだよ。何で。
ただ名前が一緒なだけじゃねえか。俺は俺で、向こうは向こうだろ意識を切り分けろよ。全国の山田太郎はみんな同じ性格で同じ人生なのかよ、違えだろ。頭使えよ。馬鹿じゃねえのか。大人だろうが。何で、何で。
ミ# ゚∀゚彡「俺じゃない!」
( ,,^Д^)「あ?」
ミ# ゚∀゚彡「事件起こしたのは俺じゃない、同姓同名の奴じゃないですか!何でこんな…おかしいだろ!」
ζ(゚ー゚*ζ「怖……」
(-@∀@)「やっぱ似てんじゃん…」
ミ# ゚∀゚彡「俺は!」
ミ ゚∀゚彡
ミ ゚∀゚彡(俺は…俺はオショクみたいに真面目な訳でもない。いや、でも、築いてきたものがあるだろ、名前なんかに引っ張られないものが……)
ミ ゚∀゚彡「……」
ミ ゚∀゚彡(俺の価値って名前だけなのか?)
27
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:35:21 ID:iTNgacQg0
( ,,^Д^)「お前、今日もう帰っていいよ。仕事にならないだろ」
ミ ゚∀゚彡「え、」
ミ ゚∀゚彡「……はい」
表札を見たくなくて自分の家には帰らなかった。彼女の家に合鍵で入ってソファーに縮こまる。昼も何も食わなかったが食欲がなかった。ただソファーに座って流れる時間に身を任せていた。
ミ ゚∀゚彡「……」
28
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:36:09 ID:iTNgacQg0
見ちゃいけないとわかっていても惰性でSNSを覗いてしまう。やはりまだ向こうの内藤ホライゾンの話題で持ちきりだ。誹謗の嵐。自分と同じ名前が世界で叩かれている。
ミ ゚∀゚彡「俺じゃない」
ミ ゚∀゚彡「俺じゃない……」
ミ ゚∀゚彡「そうだ」
SNSを閉じて調べてみる。同姓同名 改名。
ミ ゚∀゚彡「……」
犯罪者と同姓同名なら改名出来る可能性がある。
金は多分かかる。
ミ# ゚∀゚彡「俺が払ってもらいてえよ!くそっ」
||‘‐‘||レ「ただいま〜…って、どうしたの!?今日来ないって…それに電気も付けないで…」
ミ ゚∀゚彡「あっ、……その」
ゴミ箱を蹴飛ばした瞬間、部屋の明かりがついた。彼女が、いるはずの無い俺に驚き、それから気まずそうな顔をした。
||‘‐‘||レ「あ、…ニュース見たよ」
ミ ゚∀゚彡
29
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:36:47 ID:iTNgacQg0
こいつも?
こいつも他と同じで『内藤ホライゾン容疑者』と同一視するのか?
冗談じゃ無い。俺は、俺は。
||‘‐‘||レ「でも向こうの内藤ホライゾンと貴方は全然違う、別人じゃない」
ミ ゚∀゚彡
ミ ゚∀゚彡「え」
||‘‐‘||レ「例え犯罪者と同姓同名でも貴方は違う『内藤ホライゾン』だよ」
||‘‐‘||レ「そうでしょ?」
ミ ゚∀゚彡「……」
ミ ゚∀゚彡(こいつは、こいつだけは俺をただ一人の内藤ホライゾンとして見てくれてる)
ミ;∀゚彡
||‘‐‘||レ「やだ、泣かないでよ」
30
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:37:20 ID:iTNgacQg0
||‘‐‘||レ「…」
||‘‐‘||レ「あのさ、もし辛いなら私の苗字にならない?」
ミ ゚∀゚彡「え?」
||‘‐‘*||レ「逆プロポーズ、だよっ」
31
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:38:03 ID:iTNgacQg0
それからトントン拍子に話が進んで、俺は『内藤ホライゾン』ではなくなった。
ミ ゚∀゚彡「今日からこれが俺の名前…」
||‘‐‘||レ「下の名前だけならそこまで何か言われたりしないと思う…多分だけど」
ミ ゚∀゚彡「…ありがとな」
||‘‐‘||レ「何言ってんの」
32
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:39:08 ID:iTNgacQg0
友人に結婚の報告をした。俺の名前が変わる事も伝えた。
みんな「その名前で居続けるのもな」と納得しているようだった。
会社には一応謝ったがほんの少しわだかまりはある。怒鳴ってしまった分が悪い。
それから俺はいまだにSNSを見ることが出来ない。
ミ ゚∀゚彡「……」
「ねー、あの内藤ホライゾンさー余罪出て来たらしいよ」
「まじ?ほんと消えろって感じ内藤ホライゾン」
ミ; ゚∀゚彡「っ」
ミ; ゚∀゚彡「俺じゃない、俺じゃない…俺はもう内藤ホライゾンじゃない、内藤ホライゾンじゃ、ない……」
33
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:39:59 ID:iTNgacQg0
俺はもう内藤ホライゾンではない。
あの内藤ホライゾンと同姓同名のやつはもう、いない。
俺はただの、ただ普通の無個性な人間になった。それで良い、それで良い。
名前というのは大事なものだと誰かが言った。それは己を表すものであり人に認識して貰うための道具である。同姓同名は沢山いる。その同じ人間がどういう人であれ、自分は自分だと、イメージを引っ張られないような人間はどれだけいるのだろう。
ミ ;゚∀゚彡「俺はもう、違う……」
願わくば今の名前と同じ人間が、何も犯罪を起こしませんように。
34
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:40:37 ID:iTNgacQg0
||‘‐‘||レ「はあ、勢いで結婚しちゃった」
||‘‐‘||レ「ふ、ふふ」
||‘‐‘||レ「ああ良かった本当に良かった。彼のことは大好きだけどあの俳優の方の内藤ホライゾンのことは嫌いだったんだよね。でもあの名前でいる事に誇りを持ってるみたいだったから絶対変えてくれないと思ってた、良かった。名前で別れるのは勿体なかったから。良かった本当に」
||‘‐‘||レ「ありがとう『内藤ホライゾン』!犯罪を犯してくれて!」
||‘‐‘||レ「あは、あはは!」
.
35
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:41:18 ID:iTNgacQg0
1.内藤ホライゾン
はもういない 終
.
36
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 00:07:58 ID:zk1/vEmo0
乙乙!
終盤ドキドキして鼻息荒くなっちゃった
||‘‐‘||レがホライゾンを好きなのは表面的な愛想の良さだけ受け取っているのか、腹黒で要領の良い所まで見抜いているのか。どちらでも美味しい。
37
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:34:53 ID:BGNfzBVc0
2.シイタケ
.
38
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:35:18 ID:BGNfzBVc0
子どもの頃からシイタケが嫌いだった。ただの好き嫌いではない。小学校の給食に出ようものなら共食いだとからかわれ、そのたびに嘲笑ったやつをどついていた。
乱暴な子どもだったのだ。
中学生に上がるころ、タケコという名前が嫌だと友達にぼやいた。
優しい友人たちはみんな、イシイちゃんと呼んでくれるようになった。
39
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:35:42 ID:BGNfzBVc0
いしいちゃん、いしーちゃん、しいちゃん、しぃ
どんどん省略されていく自分のあだ名は、私のコンプレックスを溶かしていくかのように思えた。
新しいあだ名が増えることが嬉しかった。
40
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:36:10 ID:BGNfzBVc0
けれどやっぱり新学期が始まるとき、新しい人と出会う時、病院の待合で名前を呼ばれるときに私はシイタケと対峙する。
名前というものは私にべったり貼り付いて離れられないものだと思わせられる。改名という手段はあまり浸透していなかったし、はたから見れば酷い名前という訳には思えないだろうから、私は一生シイタケを背負って生きるのだと頭を抱えた。
そうしてコンプレックスがぶよぶよと膨れ上がっていく。
41
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:36:39 ID:BGNfzBVc0
ああやだ、ああ嫌だ。どうしてこの苗字にこの名前を付けたの。
親に尋ねた事があった。
ちゃんとした意味があるの、名前は親からの大事なプレゼントなの、文句をつけるなんて親不孝者。
そう叱られて一週間程親と口を聞かなかった。
その頃ぐらいから家ではシイタケが食卓に出なかったという事を、ずっと後に気がついたのだけど、そんな気遣いは名付ける時にして欲しかったよ。
42
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:37:07 ID:BGNfzBVc0
小さな会社に入社をした。面接でも私の名前を口に出した人がシイタケに気が付いて話の種にして来たのでうっすら嫌な予感はしていたが、
入社式で名乗った私に「あのシイタケさんか」とわざわざ大きな声で強調してくる人がいた。ええ、慣れていますよとばかりに貼り付いた笑顔を向ける。もう乱暴な子どもではない私の処世術。
43
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:37:31 ID:BGNfzBVc0
(,,゚Д゚)「僕、シイタケ好きですよ」
クスクス笑う人たちを全部吹き飛ばすかの爽やかさで、そう言った人がいた。みんなの視線が一気に私から手を挙げているその人へ移った。
(,,゚Д゚)「僕、シイタケ好きです」
二度も言った顔があまりに晴れやかだったので、思わず「私も好きです」と言ってしまった。同じですね、と笑う彼に、いえシイタケではなくて、とは言えなかった。
44
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:38:15 ID:BGNfzBVc0
♢♦︎♢♦︎♢
45
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:38:50 ID:BGNfzBVc0
(,,゚Д゚)「シイタケ、本当は好きじゃなかったでしょう。僕、食べようか」
(*゚ー゚)
ブライダルフェアで出て来たコース料理の一品にシイタケが入っていた。
気づいた彼がそう申し出てくれたけど、私は今何とも言えない気持ちだったのだ。
(*゚ー゚)「バレてたんだ」
(,,゚Д゚)「食べる時、凄い顔してるよ。君は無意識だったみたいだけど」
46
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:39:23 ID:BGNfzBVc0
そりゃ、私が好きなのはシイタケが好きだと言ってくれた貴方であってシイタケは嫌いだから。
小さなころからシイタケが嫌いだった。ただの好き嫌いではない。自分に纏わりつく呪いのようなものだった。名前というものは自分に貼り付けられたお札だ。一生、私はシイタケと一緒に居ないといけないのだと思っていた。
けど、それも今日まで。
私はもうすぐ、シイタケとはさよならをする。そう、もう私はシイタケではなくなるのだ。
47
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:39:48 ID:BGNfzBVc0
(*゚ー゚)「いいの。もうシイタケとはお別れだから、邂逅しておこうかなって」
良いなら良いけど、と彼が言って自分の分の料理をぱくっと食べた。
私も同じく口に料理を運ぶ。
ぱくりと放り込んだシイタケの煮つけは、少しだけ苦い味がした。
48
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:40:16 ID:BGNfzBVc0
2.イシイタケコ
はしあわせになる 終
.
49
:
名無しさん
:2024/10/08(火) 20:41:17 ID:BGNfzBVc0
コメントありがとうございます。
名前にまつわる話をゆるゆる投下していけたらと思います。よろしくお願いします。
.
50
:
名無しさん
:2024/10/09(水) 20:34:29 ID:K.vq4yKY0
乙
一話と二話起きてることは同じなのに温度差が凄いな
続きが楽しみ!
51
:
名無しさん
:2024/10/09(水) 22:59:37 ID:uujti8jM0
面白い切り口
抱かれたくない芸人殿堂入りのと同じ名前で誕生日も同じでいじられてたのを思い出したけど確かに僕もそれを話のネタにしてたわ
52
:
名無しさん
:2024/10/10(木) 20:53:59 ID:TMHlh.lw0
乙乙
>>41
に頷いちゃった
名前ばかりに集中して盲点だったのかな
53
:
名無しさん
:2024/10/12(土) 06:02:04 ID:c9eQa4XY0
乙乙
1話も2話も面白かった!
名前がアイデンティティの全てだったホライゾンの、どこが好きだったんだろうなぁ
>>36
の気持ちわかる
考察の余地があって良いねぇ
後味スッキリ爽やかギコしぃの話も大好き
配役もハマってる
54
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:51:17 ID:C8k.AAxA0
3.都崎ワトソン
.
55
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:51:49 ID:C8k.AAxA0
(゚ヮ゚トソン「遅れたー!」
从 ゚∀从「おせーよ、もう少しで帰るとこだったわ」
(゚ヮ゚トソン「わりーわりー、アラーム気付かなくてさ」
从 ゚∀从「ってお前が悪いんじゃんそれ」
(゚ヮ゚トソン「へへ、バレた」
.
56
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:52:13 ID:C8k.AAxA0
川д川
川д川、「……」
从 ゚∀从「……?」
从 ゚∀从「…なんだあのおばさん、さっきからずっとこっち見て」
(゚ヮ゚トソン「え?」
从 ゚∀从「ほら、あそこに立ってる髪長えおばさん…」
从 ゚∀从「え、なんか近づいてきてね?」
57
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:53:13 ID:C8k.AAxA0
…川д川
从; ゚∀从(顔怖、てかマジで何)
川д川「あ、あの、あなた…」
川д川「ミセリの、お友達の子じゃないかしら……」
从; ゚∀从「はぁ?」
(゚ヮ゚トソン「あー!」
(゚ヮ゚トソン「ミセリのお母さん!?お久しぶりです!」
从 ゚∀从「え?」
川*д川「ああ!ああやっぱりミセリのお友達よね?似てるなってついジロジロみちゃってごめんなさいね」
58
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:53:43 ID:C8k.AAxA0
从 ゚∀从(知り合いかよ)
川д川「本当に久しぶりね、ああやだ素敵になったわ。小さい頃あんなにミセリとやんちゃしてたのに」
(゚ヮ゚トソン「えへへ」
川д川「今日は、…デート?本当に大人になったのね、ミセリのお友達は……ごめんなさいね邪魔しちゃって」
从 ゚∀从(……)
59
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:54:20 ID:C8k.AAxA0
(-@∀@)「おい、どうした?」
川д川「貴方。ほら、ミセリのお友達よ」
(-@∀@)「ミセリの……」
(゚ヮ゚トソン「ミセリのお父さんもお久しぶりです」
(-@∀@)「ああ、本当に久しぶりだね……」
(-@∀@)「…デート中なんだろう。ごめんねうちのが邪魔してしまって。ほら、行こう」
川д川「あら、ごめんなさいね。久しぶりに話せて良かったわ。じゃあ、元気でねミセリの」
川д川「…ミセリのお友達」
(゚ヮ゚トソン「はい!」
60
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:55:14 ID:C8k.AAxA0
(゚ヮ゚トソン「わりーわりー、放っといちゃったな」
从 ゚∀从「別にいいけどよ……」
从 ゚∀从「…何?あの人たち、お前の名前知らねえの?」
(゚ヮ゚トソン「んー?」
从 ゚∀从「ずーっと『何々ちゃんのお友達』ってさぁ。失礼すぎじゃねえ?」
(゚ヮ゚トソン「んー、はは。そうなぁ」
(゚ヮ゚トソン「……知ってると思うよ。覚えてるとも思う。家が近所でよく泊まり合ったりしたんだ、家族ぐるみで付き合いあったからさ」
从 ゚∀从「それでもあれって」
61
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:56:22 ID:C8k.AAxA0
(゚ヮ゚トソン「ミセリしんじゃったから」
从 ゚∀从「は?」
(゚ヮ゚トソン「あの人たちの子の、うちの友達だったミセリはもう居ねーの」
(゚ヮ゚トソン「もう居ないからさ、ああいう風に呼びたいんだよ」
(゚ヮ゚トソン「うちを通して子どもの名前呼びたいんだよ、多分」
从 ゚∀从「そん、……」
(゚ヮ゚トソン「うちはこの先色んな人から名前呼ばれるから別に良いんだ。でもミセリはもう、数えるくらいしか名前を呼ばれないだろうし、あの人達も人前で呼ぶ機会はそこまでないんだよ」
(゚ヮ゚トソン「うちができることってそれくらいだけだから、だから良いんだ別に」
62
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:56:54 ID:C8k.AAxA0
从 ゚∀从「……」
(゚ヮ゚トソン「変?」
从 ゚∀从「……別に」
从 ゚∀从「確かに、お前の名前は俺が呼ぶから良いか」
(゚ヮ゚トソン「でしょ」
(゚ヮ゚トソン「てか映画始まる時間じゃね?」
从 ゚∀从「うわっマジだ!まだ予告であれ!」
63
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 22:57:27 ID:C8k.AAxA0
3.あの子の友達
終
.
64
:
名無しさん
:2025/01/05(日) 23:07:40 ID:Kce0Q/Sg0
ktkr
65
:
名無しさん
:2025/01/06(月) 20:45:44 ID:GWEhf2B60
待ってた
面白い
66
:
名無しさん
:2025/01/06(月) 22:10:46 ID:.1A/pbwQ0
乙乙
てめーうちの子の真似してんじゃねーよってコト…!?
67
:
名無しさん
:2025/01/06(月) 23:18:29 ID:eychSzyk0
>>66
貞子が「似てるなって思って見てた」は子どもの時の面影とかに似てるって意味だと思って読んでいた…
68
:
名無しさん
:2025/01/07(火) 07:52:28 ID:MNNWwN/Y0
>>67
ミセリに顔とテンプレ性格が似てるのと、顔怖の部分が気になってミセリの友達がミセリの真似して過ごしてるのかと無駄に深読みしてた…。
ワトソン→アルバートの実験的に相手が恐れる事実を連呼する事で、牽制してるのかと…。でもアニメの都市伝説並の超解釈だよね。混乱させてごめん。
69
:
名無しさん
:2025/01/07(火) 18:44:12 ID:DFHBGBhM0
おつおつ
確かにこの表情はミセリのイメージあるから、その気持ちも分かる
子どもの名前を言える機会があってうれしいなんて辛いなぁ…
このシリーズ大好き、続き待ってる
70
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 14:56:51 ID:ic4y2bSA0
僕の家族を紹介します。
流石父者、父です。
流石母者、母です。
流石兄者、一番上の兄です。
流石弟者、二番目の兄です。
流石姉者、姉です。
.
71
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 14:57:17 ID:ic4y2bSA0
( ><)
そして僕、流石ビロード。
( ><)「……いや」
( ><)「何で?」
.
72
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 14:57:42 ID:ic4y2bSA0
4.流石ビロード
.
73
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 14:58:14 ID:ic4y2bSA0
……何で?僕だけ異物感があります。何故?
途中まできちんとしていたじゃないですか、どうして一人だけ方向性を全て変えてしまったのですか。気持ちが悪いとは思わなかったのですか。
どうして。わからないのです。
小さい頃は気にする事はありませんでした。名前のルールそのものに意識を向ける必要が無かったから。
けれどそれはある日のこと。何気ない会話の中で、僕という存在の異色さに気がついたのです。
74
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 14:58:42 ID:ic4y2bSA0
( ゚∀゚)「ビロードってにーちゃんいんの?」
( ><)「うん、兄二人と姉一人」
( ゚∀゚)「じゃあ毎日喧嘩じゃね?俺も昨日アニキと喧嘩してさぁ、ほら、蹴られたあと」
( ><)「えっ、兄者達も姉者も優しいよ」
( ゚∀゚)「え?そんなアニキ存在するん?」
( ><)「いるよお」
75
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 14:59:09 ID:ic4y2bSA0
*(‘‘)*「ビロードくんってお兄さん達のこと、兄者って呼んでるの?」
( ><)「う、うん。うち名前で呼んでる……」
*(‘‘)*「あ、名前なんだ」
( ><)「そう、兄者と弟者と姉者。父と母は父者と母者って名前」
( ゚∀゚)「えー?にいちゃん達には名前に『者』付いてるのに何でお前ビロードなの?」
( ><)「えっ……それは…」
( ><)(確かに、なんです)
76
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 14:59:41 ID:ic4y2bSA0
*(‘‘)*「わかった!ビロード君だけ貰われっ子なんじゃん?」
( ><)「ち、違うよ!」
( ゚∀゚)「そっか!だから喧嘩もしないんだ!だよなー、変だもん仲が良いなんて!」
( ゚∀゚)「やーい!拾われっ子貰われっ子!」
( ><)「違う……」
( ><)「違うよ…」
77
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:00:10 ID:ic4y2bSA0
声が小さくなっていき、僕はついに下を向いてしまいました。チャイムが鳴って先生が来たので、みんな自分の席に戻ります。流石くん席に着いて、と言われてようやく頭を上げました。
( ><)(僕、僕は『流石』くんです。『流石ビロード』なんです)
(;><)「……」
78
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:00:39 ID:ic4y2bSA0
本当に?
本当にそうなのでしょうか?
友人達が不思議に思うのも無理がない気がするのです。
急に鳥肌がぶわりと立ちました。全身の産毛が逆立つような、気持ちの悪い感覚です。
僕、僕だけ顔つきも似ていない気がします。
もしかして、もしかしなくても、僕は家族と血が繋がっていないのではないでしょうか。
友人達が言うように拾われてきたのか、養子を貰ったのか、わかりません。
考えないようにしようとするけれど、しばらくすると薬が切れ痒みがぶり返したようになるのです。
だって、どうして、僕だけ!みーんな揃っているのに、輪を乱すように急に方向転換し過ぎなんです。舵取るの下手すぎやしませんか?
名前なんて、なんて事ない筈です。理由があってこの名前にしたのでしょう。さすがに何の理由もない訳はない、ですよね?
聞いてみれば良い。聞いてみればわかることです。そう、ただ聞くだけ。
……でも、聞くのが怖いんです。
79
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:01:01 ID:ic4y2bSA0
( ><)(だって)
( ><)(もし理由がなかったらただの仲間はずれだし、理由があったとして…みんなが言うみたいに全然違う家の子だからとかだったらどうすれば良いのでしょう)
(;><)(だって、だって僕は……)
80
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:01:33 ID:ic4y2bSA0
( ><)「……」
( ´_ゝ`)「どうしたビロード、おやつ食べないのか」
(´<_` )「ぼうっとしていると兄者に食われるぞ」
( ><)「僕、僕……」
(´<_` )「ん?」
( ><)「……兄者と弟者はそっくりなんです」
(´<_` )「いくらビロードでも怒るぞそんなディス」
( ´_ゝ`)「今の別に悪口ではなくない?」
( ><)「姉者も、みんな……似てるのに」
( ><)「……」
( ´_ゝ`)「おいビロード、なんかあったのか?」
81
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:02:02 ID:ic4y2bSA0
家に帰ってからずっと考えに考えました。
仲間はずれにならない方法を。
兄者と弟者が何事かと近寄ってきて、僕は思い切り顔を上げます。
( ><)「…僕…は…」
( ><)「僕は今から語尾に「じゃ」を付けるのじゃ!」
( ´_ゝ`)「「何で?」」(´<_` )
( ´_ゝ`)「早めの厨二病か?」
(´<_` )「兄者の時に比べたら可愛いものだが」
( ´_ゝ`)「弟者も酷いもんだった、包帯を全身に巻き出して」
∬´_ゝ`)「みんな揃っておやつも食べないでどうしたのよ」
( ><)「姉者!おかえりなのじゃ!」
∬´_ゝ`)「あらビロード、のじゃ語尾にキャラ変したの?」
82
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:02:38 ID:ic4y2bSA0
兄も姉も静かに慌てているのがわかります。
心配しないでください、と僕は心の中で伝えました。おかしくなったわけじゃ無いんです。ただ、『間違い』を『直したい』だけなんです。
( ><)「みんなのことも名前で呼ぶのはやめるのじゃ!」
( ><)「お兄ちゃん、弟お兄ちゃん、お姉ちゃん」
(´<_` )「俺だけ矛盾してないか?」
( ><)「お父ちゃんお母ちゃんなんですじゃ!」
( ´_ゝ`)「語尾が混乱してるな」
( ><)「だから、だから僕のことも名前で呼ばないでくださいじゃ!」
( ><)「末っ子って呼んでくださいじゃ!」
( ´_ゝ`)「「本当にどうしたんだビロード」」(´<_` )
( ><)「呼ばないで!」
( ><)「ビロードって呼ばないでください!」
83
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:03:08 ID:ic4y2bSA0
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ビロードが大きな声を出しているのは珍しいね」
( ><)「お父ちゃん!僕は末っ子です!」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「うん、そうだね」
( ><)「だから僕のことは末っ子と呼んでくださいじゃ!」
84
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:03:52 ID:ic4y2bSA0
@@@
@#_、_@
( ,_ノ` )「何騒いでるんだい」
( ><)「お母ちゃん、僕を末っ子と呼ぶようにしてください!じゃ!」
@@@
@#_、_@
( ,_ノ` )「馬鹿なこと言うんじゃないよ」
( ><)「聞いてください。僕は」
@@@
@#_、_@
( ,_ノ` )「家族をどう呼ぶかは好きにすりゃいいが、アンタのことをそんなふうに呼ぶわけないだろう。ビロードはビロードだよ」
(;><)「嫌です!」
(;><)「やなんです!いやだ!なんで僕だけ、僕だけ違う…!」
(。><)「うわぁぁあああん!!母者のばか!!」
@@@
@#_、_@
( ,_ノ` )「……」
85
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:04:39 ID:ic4y2bSA0
母者の顔を見れなくなって、周りにいたみんなの顔も見たくなくて、僕は走って自分の部屋へ逃げました。
酷いことを言いました。だけど、でも、母者だって僕の話を聞いてくれたって良いはずです。
鼻を啜って塞ぎ込んでいると、部屋のドアをノックされました。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ビロード、部屋に入ってもいい?」
(。><)「うっ、うっ……良いです」
86
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:05:08 ID:ic4y2bSA0
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ありがとう。ビロードが生まれた時の写真、一緒に見よう」
( ><)「……生まれた時の写真、あるんですか?」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「あるよー。ビロードは他の兄弟と歳が離れているから家族みんなが写真撮ってて、一番あるよ」
( ><)「……このちいちゃいのが、僕なんです?」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「そう」
父者が手にしている分厚いアルバムの一番最初のページにいた、ほんとうに小さな赤ちゃんを見て僕は目を擦りました。赤ちゃんが小さいことは知っています。それにしても、小さすぎました。
父者は柔らかい笑みを写真に向け、それからこちらを見ました。
87
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:05:48 ID:ic4y2bSA0
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ビロードが母者のお腹にいる時ね、エコー写真を見て何故かみんな当たり前に君が女の子だろうと思ってた。だから最初はね、『妹者』って名前を付けようって話をしていたんだ」
( ><)「者が付く名前だ」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「うん、僕も母者も同じ字が付いていたから子どもにもつけようかって『者』わ付けていてね。特に強いこだわりがあったわけじゃないんだけど、そういうふうにしてきていたんだよね」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「名前も決まったし産まれて来るのが楽しみだった。母者は見ての通り強い人で……兄者達の時も超安産だったから何も心配はいらないと思っていた」
88
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:06:22 ID:ic4y2bSA0
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「だけど、君は早く生まれて来てくれてね。早く会えたのは嬉しかったけれど、すごく危ない状況になった。初めて見た君はすっごく小さくてチューブに繋がれていて、家族みんなで祈った。どうかこの子の命を助けてくださいって」
( ><)「……」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「君は生きてくれた。みんなの願いというより君が頑張ったんだよ。チューブが外れて看護師さんが君を出してくれたんだけど、その時に包まれていたビロードの布がとてもとても美しく見えてね」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「その布からビロードって名前にしたんだ。強くて優しくて美しいこの布のような人でいられますようにって」
(。><)「……」
89
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:06:51 ID:ic4y2bSA0
そんな意味が込められていたこと、初めて知りました。
僕が生まれた時のことも聞いたことがありませんでした。また涙が出て落ちていきます。父者の大きな手が僕の頭を撫でました。
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「『者』が付いていないことで、君に悲しい思いをさせてしまったんだね」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「ごめんね、ビロード」
( ><)「僕……僕はみんなにビロードって呼ばれるの、嫌いじゃないんです…でも、ただ、ただね、仲間はずれが怖かったんです」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「怖い?」
( ><)「僕、僕は本当にこの家の子なんですか?」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「……兄者達の小さい頃の写真も見てみようか」
心なしか微笑みながら、父者は違うアルバムを開きます。
90
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:07:18 ID:ic4y2bSA0
『( >_ゝ<)
(>く_< ) 』
『∬>_ゝ<)』
( ><)「これ、兄者たちですか?僕に似てるんです!」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「うん、みんなそっくりなんだ。我が家は」
古い写真に映る子どもたちはみんな僕と同じような顔をしています。
兄者も弟者も姉者も、みんな。
91
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:07:38 ID:ic4y2bSA0
( ><)「良かった」
( ><)「良かったです」
(。><)「だって僕、……みんながすきだから…」
ただの仲間はずれだったら、全然違う家の子だからとかだったらどうすれば良いのかと思いました。
だって、だって僕は家族のことが好きだから。
92
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:08:19 ID:ic4y2bSA0
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「うん。みんなもビロードが大好きなんだよ」
( ><)「僕、僕…母者に謝ります」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「うん、そうだね」
( ><)「僕、ビロードって名前で良かったです」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「母者にも教えてあげよう、一緒にリビング戻ろうか」
( ><)「はい!」
93
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:09:31 ID:ic4y2bSA0
アルバムを抱えて部屋をあとにします。
例え『者』が付いていなくても、僕はこの家族の、流石家の一員だって思うのです。
ごめんねを言った後、母者に骨が折れそうなくらい抱きしめられたけど身体が頑丈で無事だったからとかではなく、家族みんなで笑った顔がやっぱりそっくりだったから。
.
94
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:09:57 ID:ic4y2bSA0
4.流石家の者 終
.
95
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 15:12:02 ID:ic4y2bSA0
前回が1月だった事に驚いております。
コメントありがとうございます。この作品に関しましてはお好きに考察なさってもらって大丈夫です。
こちらも楽しいので。
ありがとうございました。
.
96
:
名無しさん
:2025/05/23(金) 23:53:22 ID:tD7s00lo0
乙
97
:
名無しさん
:2025/05/24(土) 15:52:06 ID:Ov2awEqc0
乙です!
さすが流石家はあったかい笑
自分も苗字が珍名なので小学生の時は良くいじられて、仲間外れ感に共感しました!
98
:
名無しさん
:2025/05/24(土) 20:20:17 ID:W581cpzM0
5. 靡世璃
.
99
:
名無しさん
:2025/05/24(土) 20:20:41 ID:W581cpzM0
||‘、'||「あ」
(*・Ω・*)「何」
||‘、'||「いや」
姉と同じ名前の人が、いた。
カラオケの待合の表に書かれた名前を見て漏れてしまった言葉に、耳聡い隣人がどうしたのか聞いてきたので、ポツリとそう答えた。
100
:
名無しさん
:2025/05/24(土) 20:21:10 ID:W581cpzM0
(*・Ω・*)「まぁ、いるんじゃないの?唯一無二の名前でなければ」
なんて事ないように返されて、ついムッとした気持ちになる。それはそうなんだけど、と前置きをして早口にならないように言葉を続ける。
||‘、'||「読み方はまぁまぁある名前なんだけど、漢字が三文字全部まったく一緒の人って見たこと無かったんだよ」
(*・Ω・*)「本人じゃないんだ?」
||‘、'||「うん、たぶん」
きっとこんな場所にはいないだろう。勝手な予想だけど恐らくは合ってるはずだ。
姉はこんな、家から近い場所に来るはずがない。
(*・Ω・*)「ていうかねーちゃん居たん?にーちゃんの話はよく聞くけど」
||‘、'||「だいぶ昔に家出て行ったから、今どこで何やってどう生きてるのかも知らないんだよね」
101
:
名無しさん
:2025/05/24(土) 20:21:44 ID:W581cpzM0
姉とは一回り年が離れており、実をいうともうその離れた年数よりも長い間会っていなかった。なんならきっと、今後一生会うことはないとさえ思っている。
家出というより失踪レベルで居なくなって、探しても探しても見つからず、ついにうちの近所の人の中で姉は亡くなった事になっているのだから。
(*・Ω・*)「どんな人?」
||‘、'||「わかんない。だって最後に会ったの、向こうは高校生でこっちは幼稚園児だよ。反抗期が長くてひどく不安定で、バッド持って追っかけ回されたことは覚えてるけど、そんな、今もそうとは限らないしねえ」
(*・Ω・*)「やば、怖い人だったんだ」
||‘、'||「どうだろ」
102
:
名無しさん
:2025/05/24(土) 20:22:22 ID:W581cpzM0
どうなんだろう。改めて姉について考えることがあるとは思わず、少しだけ空を見上げるような気持ちで思い返す。怖い人、そりゃ兄の部活で使うバッドを勝手に振り回す様は怖かったけど、でも、だけど。
||‘、'||「……うちのお母さんってさ、悪い人ではないけど、いい親ではなかったみたいなのね」
||‘、'||「だから結構、姉が学生の頃は色々厳しくやってたみたいで、まあだからってバッドを野球以外に使うのはどうかと思うけどさ、しょうがないって思うようなこともあったと思うんだよね」
(*・Ω・*)「ふうん」
||‘、'||「会話らしい会話もしたこと、なかったんだけど」
103
:
名無しさん
:2025/05/24(土) 20:23:00 ID:W581cpzM0
あの鬼の形相を思い起こしても「怖かったなぁ」とのんびり構えている自分がいて不思議だった。怖かった、確かにそうだけれど、別に嫌いだとかの感情が含まれていないようなのだ。
多分だが、母に倣って姉もきっと悪い人ではなかったのではなかろうか。いい姉ではなかっただけで。
.
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