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僕の名前はいようです
1
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:18:44 ID:iTNgacQg0
名前は不思議なものです。
「た」が一文字あってもそれはただの音にしかならないけど、田んぼの「た」だとか、他の「た」だとか、意味が与えられれば「言葉」になるし、「た」と「ろ」と「う」が集まって、誰かに付けたらそれは「たろう」という立派な名前になるのです。
だから僕の「いよう」にも何かしらの意味があるのかもしれない。答えを知りえないものを考える時間は贅沢だから、僕は自分の名前の意味を考える時間が好きです。
貴方の名前は何ですか?
あなたにとって名前は何ですか?
2
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:19:09 ID:iTNgacQg0
.
3
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:19:31 ID:iTNgacQg0
「内藤ホライゾンと申します」
ミ ゚∀゚彡
そう名乗ると誰しもが頭の中で「あの内藤ホライゾン」を想像する。どうせお前もそうだろう。あの顔を想像して、見てみれば違う顔がいるから一瞬不思議に思っただろう。そして小さな裏切りにあったような顔をする。みんなそう、ずっとそう。
もう何度もやってきたことだ。だからもう慣れているしマニュアルも出来ている。
少なくとも小学校の学年が変わる頃には毎回そんな反応をされていたので、慣れる通り越して飽きてんだこっちは。
何度も何度も何度も何度も何度も経験しているので、俺はただ人のいい笑顔を貼り付けてこれから起こりうる質問大会に備えるんだ。
4
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:19:55 ID:iTNgacQg0
1.内藤ホライゾン
.
5
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:20:25 ID:iTNgacQg0
( ,,^Д^)「まじで内藤ホライゾンって言うの?すごいな」
(-@∀@)「同姓同名ってことでしょー?親がファンとか?」
ζ(゚ー゚*ζ「全然似てなぁい!語尾に「お」付けないんだ」
ほら、ほらな。大体みんな同じこと言うんだ。そっちこそマニュアルがあんのか?面接で自分を潤滑油って喩えるやつくらい見てきたよ。
人好きのする笑みを顔に貼り付けて、少し息を吸ってから明るめの声を出す。
ミ ゚∀゚彡「本名ですよ〜!ほら!免許証見てください!」
ミ ゚∀゚彡「いやいやいや、僕のほうが先に産まれたんですよ。いわば向こうが僕のファンです」
ミ ゚∀゚彡「よく言われます〜、僕の方が男前でしょ?語尾つけたほうが良かったですかお?」
( ,,^Д^)「あはは!面白いなお前!」
(-@∀@)「うわー本当に同姓同名なんだ〜」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ」
6
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:20:50 ID:iTNgacQg0
ありがたいことにこう言えばみんな俺を面白くて良いやつだと思ってくれる。そうして俺のコミュニティは平和に繋がっていく。人と繋がっていれば大抵の事ってうまくいくんだ。その取っ掛かりが難しいという奴もいるだろうけど俺には最強な武器がある。先入観が名前にべったりついているのだ。
ミ ゚∀゚彡(本当、チョロいな世の中)
7
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:21:33 ID:iTNgacQg0
内藤ホライゾンという男がいる。
子役タレントで一世を風靡し、溢れる才能とセンスで今や超国民的俳優。絶大的な人気を得て、国内で知らない人間はいないのではないかという、全てを持った人間だ。
残念なことにそれは俺ではない。
ミ ゚∀゚彡
俺も生まれた時から「内藤ホライゾン」だった。少し変わった感性の親が付けた名前。
一字一句、同じ名前で煌びやかな人生を送る奴が現れるなんて思いもしなかっただろう。 向こうの内藤ホライゾンも芸名ではなく本名だそうだ。誰を恨めばいいって、誰も悪くないから恨めない。
奴が子役として世間に出始めた頃から俺は「内藤ホライゾン」ではなく「あの内藤ホライゾンと同姓同名のやつ」に進化したのだ。
比較されるのも噂されるのも指を差されるのも何もかもが面倒ではあったが、俺は気付いた。逆に利用してしまえばいい。
名前が一緒のやつなんて世の中にごまんといる。佐藤という名前がどれだけいると思ってんだ。その相手が超有名人だったって、ラッキーじゃん。
あいつが知名度を上げれば上げるほど俺も騒がれる事が増える。俺が何をしてもしなくてもだ。
向こうの内藤ホライゾンが好感度を上げていくのをいいことに、俺はそれに便乗していった。同じ名前のやつがいるぞと揶揄う奴には明るく返して、同じ名前なのにねと比較して下げてくる奴には弱さを見せて同情させ、同じ名前だという事に食いついてきた奴と片っ端から仲良くするようにした。
俺にとって名前は餌だ。人に食いついてもらうための道具だ。
8
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:22:07 ID:iTNgacQg0
ミ ゚∀゚彡(そうやって生きてきて、こうして入りたい会社に入社だってできたんだ。俺はこの名前を利用していく)
ミ ゚∀゚彡「とにかくよろしくお願いします!」
( ,,^Д^)「彼女に内藤ホライゾンが部下になったって自慢するわ」
ミ ゚∀゚彡「ちょ、利用の仕方〜!」
(-@∀@)「あははは!」
ζ(゚ー゚*ζ「……」
ζ(゚ー゚*ζ「ねーえ、ないとーくん。ちょっとこっち来て?」
ミ ゚∀゚彡「はいっ?」
ζ(^ー^*ζニコッ
ζ(゚ー゚*ζ「……私、内藤ホライゾンの大ファンなんだけどお、貴方と付き合ったら『内藤ホライゾン』と付き合ったことになるのかなあ」
ミ ゚∀゚彡「……」
9
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:22:34 ID:iTNgacQg0
腕を絡めてそんなことを言ってくる奴、大ファンなんて自称でしかない。単なるミーハー。ちょっとおかしなアクセサリーも似合う私可愛いでしょって、そんな女だよ。知ってる。だってこの人以外にもそういうのいっぱいいたから。
上目遣いは案外可愛くて、金がかかってそうな緩いパーマがこちらの顎にふんわりかかるのはそこまで嫌ではなかった。
餌に食いついた奴は利用するに限るんだ。にっこり笑って含みを持たせてやる。
ミ ゚∀゚彡「そうなる、かもですねえ」
ζ(゚ー゚*ζ「えー?じゃあ今夜ご飯行こ?」
ミ ゚∀゚彡「是非ですお!」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、似てなぁい」
はい、釣れた。楽勝。
10
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:23:42 ID:iTNgacQg0
( ,,^Д^)「おーい、2人でコソコソ何話してんだよ〜業務説明するぞ」
ミ ゚∀゚彡「はーい、すみません!」
( ,,^Д^)「内藤……いや、親しみ込めてブーンって呼ぶかあ」
ミ ゚∀゚彡「ちょっと勘弁してくださいお〜!」
ブーンというのは内藤ホライゾンが演じた役名で一番有名なもの。
名前が、
名前が同じってだけだ。
顔もスタイルも別に普通で、性格に至っちゃ悪い俺だ。
そんな俺がただ凄いことをしてるやつと同じ名前ってだけでちやほやされる。
馬鹿だなあ人間って。
名前なんてもんに左右されるんだから。
ミ ゚∀゚彡(俺は美味しい思い出来れば良いけど)
11
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:24:53 ID:iTNgacQg0
△▼△▼△
ζ(゚ー゚*ζ「ブーンくん、お茶どうぞー」
ミ ゚∀゚彡「ありがとうございます」
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、今夜もいい?」
ミ ゚∀゚彡「あー、今日ちょっと終わらせないといけない仕事があるんです。すみません」
ζ(゚ー゚*ζ「えー、あたしより大事なの?」
ミ ゚∀゚彡「ごめんだお〜。明日ならいいですお!」
ζ(゚ー゚*ζ「もお、ずるいんだからぁ」
(-@∀@)「おーいブーン、あの書類出来てる?」
ミ ゚∀゚彡「勿論ですお!」
( ,,^Д^)「流石だなあ」
12
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:25:27 ID:iTNgacQg0
「新しく入った内藤さんてさ」
「ああ、あの『内藤ホライゾン』ね」
「喋ってみたけど明るくて良い子だったよ」
ミ ゚∀゚彡(そうだろそうだろ)
社内での俺の評判は順調。普通にしてりゃ大体評価が下がることって無いんだよ。値段も味も同じ菓子があったとして、みんな見た目が良い方を買うだろ。人間わかりやすいものに惹かれるんだ。わかりやすく良いもの。一番最初に知る情報、つまり名前に印象を引っ張られるんだろうな。
思えば小学生の頃、汚職政治家と同じ名字のやつがイジられてた。そいつ自身は真面目なやつだったのにたかだか名字が同じってだけでオショクと呼ばれたりクラスで何か無くなると疑われたりしていた。可哀想だよな。途中から学校来なくなってたけど、今どうしてんだろ。
ミ ゚∀゚彡(知ったこっちゃないけど)
13
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:26:29 ID:iTNgacQg0
ミ ゚∀゚彡「あー疲れた」
||‘‐‘||レ「あっ、お疲れ様!ご飯出来てるよ〜」
ミ ゚∀゚彡「おー、サンキュー」
こいつは大学の時から付き合っている彼女だ。金がない時はこうやって彼女の家に転がり込む。飯も風呂も全部用意してくれる。
ありがたいね。まあ、だから付き合ってんだけど。
||‘‐‘||レ「お仕事、どう?」
ミ ゚∀゚彡「ん?んー普通」
||‘‐‘||レ「そっかぁ、私は今日ちょっとミスしちゃってさ…少し落ち込んでる〜」
ミ ゚∀゚彡「ふーん」
ミ ゚∀゚彡「あ、明日は俺来ないから」
||‘‐‘||レ「仕事?」
ミ ゚∀゚彡「ん?んー」
||‘‐‘||レ「……」
14
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:27:00 ID:iTNgacQg0
彼女もいて遊ぶ女もいて友達もいるし仕事も順調。
人生って簡単すぎる。何でも持ってんな、俺って。
ミ ゚∀゚彡(俺って別に、あっちと同姓同名じゃなくても順風満帆だったんじゃない?)
そんなふうに思えるぐらい、日々うまく行きすぎてて怖い。
15
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:27:26 ID:iTNgacQg0
||‘‐‘||レ「ねえ…」
ミ ゚∀゚彡「俺もう寝るわ。ソファー借りるなー」
||‘‐‘||レ「えっ、ベッドで一緒に寝て良いのに」
ミ ゚∀゚彡「明日早いんだろ?寝るの邪魔したら悪いからさ」
||‘‐‘||レ「そっか…」
ミ ゚∀゚彡(お前が起きる時に起こされたくないし)
||‘‐‘||レ「おやすみ」
ミ ゚∀゚彡「んー」
16
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:27:52 ID:iTNgacQg0
ミ-∀-彡
ビー
ビー
ビー
ビービービー
ミ ゚∀゚彡「何…通知音?」
17
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:28:25 ID:iTNgacQg0
眠ってどれくらいの時間が経ったか、朝早くからおびただしい量のメッセージがスマホに届いていてギョッとする。電話も何件かかかってきている。大体が友人からだ。ちょうどかかってきた電話に恐る恐る出てみる。
ミ ゚∀゚彡「どうしたんだよ…こんな朝早くから」
「ニュース見た?すごいことになってるよ」
ミ ゚∀゚彡「え?」
「一瞬お前がやったのかと思ったけど本物の方だったな」
笑った声が嫌に耳にこびり付いた。わざとらしい嘲笑にも似た声。何の話だ?
本物ってなんだよ俺だって本物だ。いや、今そんな場合じゃない。
通話を切って受信したメッセージを開く。
18
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:28:50 ID:iTNgacQg0
「大丈夫?」
「違うほうだよね、びびった」
「お前かと思った」
ミ; ゚∀゚彡「何の話なんだよ、クソっ」
誰からの連絡も要領を得なかった。SNSを開いてトレンドに上がっているニュースを見ようとし、指が止まる。
19
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:29:25 ID:iTNgacQg0
『内藤ホライゾン 逮捕』
ミ ゚∀゚彡「え?」
20
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:29:59 ID:iTNgacQg0
『内藤ホライゾン 暴行の末殺人か』
『内藤ホライゾン容疑者から薬物反応』
『内藤ホライゾン おしまい』
『内藤ホライゾン 解雇』
『内藤ホライゾン容疑者 性的暴行も』
『内藤ホライゾン …』
SNSのトレンドは俺の名前で埋め尽くされている。
ミ; ゚∀゚彡(違う、俺じゃなくて、俺と同じ名前だ。向こうだ。俺じゃない)
心臓が凄い速さで脈を打っていた。バクバクとうるさく、静かな部屋に音が漏れているのではないか。実際には掛け時計の針が進む音だけが響いていた。顔や身体から血の気が去っていたかのようにひんやりとしている。小さく震える親指で画面をスワイプする。
21
:
名無しさん
:2024/10/07(月) 23:30:35 ID:iTNgacQg0
「内藤ホライゾン最低」
「好きだったけどないわ」
「終わったー!内藤ホライゾン」
「前から怪しいと思ってた」
「暴行って性的なのも含まれてるらしい、まじでない」
「最低最悪の転落じゃん。こいつの作品もう見れん」
「内藤ホライゾンタヒね」
「内藤ホライゾンやべえな」
「人生乙!内藤ホライゾン!」
「大麻、暴行、殺人、犯罪者内藤ホライゾン」
「●んでほしい」
「内藤ホライゾン容疑者」
ミ; ゚∀゚彡「っ」
どきっとした。自分ではない。俺に対してではない。けれど明らかな悪意が、殺意が、俺の名前に張り付いている。
いやな汗が背中を伝う。
ミ ゚∀゚彡「俺じゃ、ないし」
ミ ゚∀゚彡「俺じゃねえよ」
ミ ゚∀゚彡「…くそうぜえ」
彼女はもう家を出た後のようだった。一人薄暗い部屋の中、二度寝をしようとしたが上手く眠れずメッセージの通知音は全てミュートした。
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