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从 ゚∀从激重感情のようです
118
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:25:59 ID:7hsDycEw0
o川;゚-゚)o「……た、助けてよ、ハイン……」
从 ゚∀从
ハインは目を瞑り。
小さく息を吐くと、改めて瞼を持ち上げた。
从 ゚∀从「人を加害した人間が幸せに……どころか普通に暮らすことを絶対に許したくない人はまあ多いものだよ。
直接被害に遭ったか否かに関係なくね。
感情としては私もまあ理解できる」
从 ゚∀从「だからお前もそうなるんだ。それは仕方ない」
o川; - )o
从 ゚∀从「仕方ないからね、私も一緒に受けるよ。罰」
いつだってトーンの変わらない声は、やはり、こういうときにもよく通る。
119
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:26:46 ID:7hsDycEw0
唖然とするロマネスクを置いてハインは歩いていく。
そうしてキュートの前に立って言うのだ。
从 ゚∀从「結婚しよう、キュート。お前が持ってるもの、私にもちょうだい」
キュートが目を丸くする。
ロマネスクも同じように。
ニュッだけが、退屈そうに一連のやり取りを眺めていた。
120
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:27:35 ID:7hsDycEw0
从 ゚∀从「少年、そういうのは出来るかな。出来ないと困るのだけど」
( ^ν^)「さあ。やったことないので分かんないですけど」
( ^ν^)「一応これ、一人ひとりに合わせた専用の──まあ、地獄? なんで……。
そこに二人放り込んだら、うーん。
同一のものと見なされて、高岡さんも同じようなことされるんじゃないですかね。消化の助けにはならないんで無意味でしょうけど」
从 ゚∀从「同一ね。夫婦らしくてちょうどいい。
病めるときも健やかなるときも、だ。
愛し合って助け合って支え合うもんだよ」
(;ФωФ)「おっ、お前は何をまた馬鹿なことを!
聞いたであろう、お前が行っても無意味に苦しむだけだ!」
从 ゚∀从「でも、二人いたら少しは気が楽なんじゃないかと思うんだ」
(;ФωФ)「はあ!?」
从 ゚∀从「一人きりで充分だと思ってても、二人でいると案外楽しい。
一緒にいたら楽しそうだと思えた相手なら尚更だ。
私はね、ロマさんにそういうのを教わったんだよ」
121
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:29:23 ID:7hsDycEw0
从 ゚∀从「ロマさんのおかげだ。
あの店のヨーグルトケーキが美味しいと教えてくれたのもロマさんだ。
他にもそんなことがいっぱいあるよ」
(;ФωФ)「……おまえ」
从 ゚∀从「誰のせいとか責任とか、そういうのは突き詰めていくとキリがない。
考えるなとは言わないけれど、いたずらに気分が沈んでいくだけだ。
だからあなたの『おかげ』で助かった奴のことも考えて、バランスをとっておくれ」
ハインがキュートへ向き直る。
まだ少女らしさを多分に宿した丸みのある頬へ、優しく手を添える。
从 ゚∀从「あ、私はキュートに触れるんだね」
( ^ν^)「高岡さんも大概死にかけですからね。
視覚や聴覚以外もチャンネルが合ってきてるんでしょう」
从 ゚∀从「ますますちょうどいい。あんまりにも辛いときは抱きしめ合える」
声はひたすらにまっすぐ整っていても、その指先は頼りなく震えていた。
122
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:30:42 ID:7hsDycEw0
从 ゚∀从「ほら。観念して行こう、キュート」
o川* - )o
──制服のスカートから伸びた足が、ハインを蹴飛ばした。
後ろへ倒れ込んだハインは、慌てて身を起こして「地獄」の入口を見上げる。
从 ゚∀从「キュート」
反動で体が傾いたせいで、キュートは既に黒色に飲まれ始めていた。
とうに頭は向こう側にあり、その表情は分からない。
123
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:31:36 ID:7hsDycEw0
始まればあっという間だった。
ブレザーに包まれた体もたちまち埋もれていき、やがては黒い空間そのものがなくなって。
静まり返る校庭に、あーあ、と呆れとも嘲笑ともとれない声。
( ^ν^)「ふられちゃいましたね」
それから。
──ばいばい。
最後にそう言って手を振ると、彼もすっかり、この場から消えてしまったのだった。
.
124
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:32:26 ID:7hsDycEw0
二人とも地面に尻をつけたまま呆然としていた。
先に我に返ったのはロマネスクで、なんとか立ち上がるとハインに駆け寄る。
(;ФωФ)「ハイン……」
从 ゚∀从「ねえ」
無人の鉄棒を見つめたままハインが口を開く。
目元も鼻も真っ赤にして、ちょっと触れればどちらからも水がこぼれてしまいそうだ。
从 ゚∀从「私は、あの子のことが本当に本当に好きだったんだよ」
そんなことはもう、この上ないほど分かっている。
125
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:33:25 ID:7hsDycEw0
从 ゚∀从「あの日、私が校門の前で吐いたとき、それはもうみっともない有様でさ。
汗が不快で、髪を掻き上げていたんだ。……顔を露わにしていた。
街路灯が煌々と照らす中でだ」
从 ゚∀从「そんな私を前にしてあの子はね、私じゃなくて嘔吐物に『汚い』と言ったんだよ」
( ФωФ)「……ああ」
从 ゚∀从「数日間一緒にいたけれど、髪の下についてはついぞ一度も、何も言われなかった。
馬鹿にすることも気をつかわれることもなかった」
从 ゚∀从「それでいい子だ悪い子だと判断するわけじゃない。
ただ私にはそれだけが大きくて、重たくて、全てだった」
ずず、と鼻を啜る。
瞳を潤ませる涙は、瞬きとともに一粒だけ落ちて弾けた。
从 ゚∀从「一生の恋だと思ったんだよ……」
.
126
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:34:57 ID:7hsDycEw0
ロマネスクが手を伸ばす。
ようやくこちらを見上げたハインはその手をとると、ふらつきそうになりながらもゆっくり立ち上がった。
もう一度鼻を啜る。
それを済ませたら、足取りも目つきも、もうしっかりしていた。
( ФωФ)「なら良かったではないか」
( ФωФ)「数日ぽっちで終わりそうだった恋が、60年ばかし伸びたのだ」
永遠に一人だけを愛し続けられる人間が、果たしてこの世にどれだけいるのかは知らないが。
少なくともこの女はそういうたちだろう。
その推定60年を抱え込んだ愛が、いくらかはキュートのためになる。
▼ ▲
.
127
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:35:52 ID:7hsDycEw0
一週間が経った。
SNS上の騒ぎは未だ長引いているが、勢いはすっかり衰えている。
美和が元の投稿を削除したことと、やはりキュートが亡くなっていることが一部でブレーキの役割を果たしたようだった。
ロマネスクはあまり熱心に事を追いかけるつもりがないので、これ以上はろくに知らない。
どのみち直接の被害者や加害者を除いた大衆の中ではいずれ風化していくのだろう。
人間など常に何かの感情を抱えて、あちらこちらへ流れるものだ。
.
128
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:36:20 ID:7hsDycEw0
从 ゚∀从「二人の方がしっくり来るというのも、妙な感じだね」
( ФωФ)「本当にな……」
そこそこ賑わう昼の喫茶店。
窓際の席についているのはハインとロマネスクの二人のみ。
あれ以来ニュッの姿を見ていない。
どころか、店主も店員も、誰も彼のことなど知らないという。
しっかり接客をしていたはずなのに。
从 ゚∀从「よくよく考えてみれば、私たちが少年と仲良くなったときの記憶がないんだ。
お金を立て替えたと言われたが、そんな覚えがなくてね」
( ФωФ)「吾輩も、この店ではお前としか友達になった覚えがないのである」
ここのところ、ずいぶん前から彼のことを知っていたような気になっていたのだが。
大方、「バランス」の危うかったキュートを注視していたらハインと出会ってややこしいことになったので、様子を窺うために接近してきた──なんてところ。
違ったとして、どうせこの先も正解を知る術はない。適当に解釈しておこう。
129
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:37:35 ID:7hsDycEw0
( ФωФ)「しかしお前、何であるかその格好は」
ロマネスクは胡乱にハインを見やった。
品のいい黄色のワンピース。
まさかもう新たな婚約者を見付けたわけではあるまい。さすがにあの流れでそれは引く。
从 ゚∀从「このあと指輪を買いに行こうと思うんだ。
せっかくだから小洒落た格好で行きたいじゃないか」
( ФωФ)「指輪」
从 ゚∀从「形だけでもキュートと結婚した気分になれたらなって」
( ФωФ)「……本当に重いな、お前は……」
一応ふられたのではなかったか。
まあ、形から入りたがる彼女のこと。一人で勝手に一生の愛を誓っていればいい。
仲人役くらいはやってやる。
▼ ▲
130
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:38:58 ID:7hsDycEw0
リビングへ入れば、つーが立ち上がった。
(*゚∀゚)「おかえり」
( ФωФ)「ただいま」
喫茶店の紙袋をテーブルに置くと、わ、と嬉しそうな声をあげた。
見るなと言ってもしばらくはどうしてもSNSを気にしていたが、ネット上の話題が移り変わるにつれて、つーもスマホを手にする時間が減って元気になっていった。
さすがにニュッの話を全て伝えるのも躊躇われて、キュートのことは「成仏した」とだけ言ってある。
ありのままを教えたら、この人はまた自分を責める。
131
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:40:05 ID:7hsDycEw0
(*゚∀゚)「ありがとうロマ、大好き!
ちょうどいいからおやつにしよ、お茶入れてくるね」
( ФωФ)「つー」
(*゚∀゚)「んー?」
キッチンに入る彼女の後を追う。
表情も声もお茶の準備をする手付きも、すっかり以前どおり。
これなら言ってもいいだろう。言いたい。
( ФωФ)「僕と結婚してほしいんだ」
(*゚∀゚)
.
132
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:43:48 ID:7hsDycEw0
茶葉の缶を握りしめたつーが、ばっと振り返った。
(*゚∀゚)「へ? え?」
( ФωФ)「僕と結婚してください」
(*゚∀゚)「何で言い方ちょっと丁寧にしたの。え? うそ、今?
いや待って、喋り方。大丈夫なの?」
( ФωФ)「君の前ではどう喋ったって怖くない」
(*゚∀゚)「ほんとに?」
( ФωФ)「……本当はちょっと無理してるけど、でも前ほどじゃない。
ちゃんと片付けていったら、少し楽になったから」
(*゚∀゚)「う、うん? よく分かんないけど、良かったね……」
憎からず思っている相手からいきなり、とびきりの気持ちをぶつけられた人間というものは、大体このような反応をするのかもしれない。
──あのとき蹴飛ばされたハインには見えなかったろうが、ロマネスクには、こんな風な表情をするキュートが見えていた。
一瞬だけだったから、絶対とは言えないが。
133
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:44:36 ID:7hsDycEw0
( ФωФ)「それで、あの、返事は」
つーは真ん丸にした目でロマネスクを見つめてから。
(*゚∀゚)「……ケーキ食べてから!」
真っ赤にした顔で、そう言った。
.
134
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:45:54 ID:7hsDycEw0
結婚さえすれば幸せが決まるわけではない。
愛し合っているなら結婚しなければならないものでもない。
しかし、やはり自分も形から入ると安心するタイプだから。
きっとこれがいい。
(*;∀;)『私のせいなのかな』
──罪悪感という感情の行き場はどこなのだろう。
申しわけなさということなら、相手に向かうものかもしれない。
しかし自分を責めたり悔いたりするのなら、それは自身に注がれるのではないだろうか。
そしてそれが過ぎたら、何かが傾いてしまって、バランスを取らされるのではないだろうか。
135
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:47:23 ID:7hsDycEw0
それならば一生この人を愛してみせると誓いたい。
「悪い」に傾いた秤が「いい」に傾くように。
いつか魂だけになったとき、この人が心地よい気分だけをたくさん味わってくれるように。
この、世界がひっくり返りそうになるくらいに重たい愛でもって。
.
136
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:48:04 ID:7hsDycEw0
終
.
137
:
◆KD5oTB3lZY
:2024/04/29(月) 23:48:27 ID:7hsDycEw0
以上です
ありがとうございました
138
:
名無しさん
:2024/04/29(月) 23:54:28 ID:qPQT80qU0
乙!
139
:
名無しさん
:2024/04/30(火) 20:10:38 ID:BfTbm.AU0
乙乙むっっっちゃ良かった!
ゆるい感じからサスペンスになってくのが凄くワクワクしたし、関係無い外野が正義ぶる事で罪が重くなってくの胸糞だったし、ロマネスクが最後に出した答えに感動した。世界中を敵に回してもってまさにこういう事なんだなと
140
:
名無しさん
:2024/05/01(水) 13:54:51 ID:qxBVL6Y60
乙!めっちゃ面白かった!
夢中になって読んじゃった
141
:
名無しさん
:2024/05/01(水) 17:16:35 ID:SmI1cIwY0
乙です
142
:
名無しさん
:2024/05/08(水) 19:29:12 ID:6zEaDdgY0
乙
ものすごい満足感をもって読了できた
作中に色々な要素があったけど全部本当に面白かった
登場人物の偽りない強い思いにジーンとする
143
:
名無しさん
:2024/05/09(木) 23:05:22 ID:mo0DEQ0Y0
乙
読み終わって、ロマとハインが愛おしく思える。
ロマが勝ち負けを決めなくていい、と認められたところが好き。
ハインの最後の告白も切なく、美しかった。
144
:
名無しさん
:2025/06/12(木) 11:56:20 ID:O8CHgyIU0
乙
改めてタイトルが嘘偽りなくて良い
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