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从 ゚∀从激重感情のようです

1 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:13:43 ID:7hsDycEw0
オレンジデー祭り2024参加作品

2 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:14:10 ID:7hsDycEw0


从 ゚∀从「幽霊と結婚することにしたよ」

( ФωФ)

 ゴールデンウィーク明け早々、友人にそんな報告をされたので。
 杉浦ロマネスクは、時たま「猫っぽい」と揶揄されがちな口をぐにっとひん曲げた。

.

3 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:17:47 ID:7hsDycEw0

( ФωФ)「……幽霊とは」

 これまた猫っぽい目でぐるりと店内を見渡す。

 ごく普通の喫茶店。
 普通すぎて目立った売りもないうえに立地も良くないため、今はこのテーブル以外に客がついていない。
 ロマネスクと、対面の友人と、

( ^ν^)

 隣に座る小学生──こちらもまた友人である。
 そして最後に。

( ФωФ)「その、お前の隣に座っている子か?」

o川*゚ -゚)o

 斜向かいの席で頬杖をついている少女を指差すと、友人は「うん」と頷いた。

 馬鹿か。

4 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:18:09 ID:7hsDycEw0



从 ゚∀从激重感情のようです



.

5 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:18:45 ID:7hsDycEw0

( ^ν^)「そこに誰かいるんですか?」

 少年、ニュッがクリームソーダを啜りながら首を傾げた。
 その反応にロマネスクは再び口をひん曲げる。

从 ゚∀从「やはり少年には見えないんだね。でもロマさんには見えている。
     うん、まごうことなき幽霊だ」

 友人こと高岡ハインリッヒ──ハイン、とロマネスクは呼んでいる──が嬉しそうに手を打った。
 いつもと違って、品のいい黄色のワンピースやアクセサリーを身に着けて妙にかしこまっているなとは思ったが。
 結婚報告。幽霊との。

 いや私の幻覚だったらどうしようかと思ってね、とハインが続ける。

从 ゚∀从「良かった、彼女は実在しているわけだ。
     なら結婚できるね。ありがとう、その確認がしたかったんだ。
     では今日は解散ということで」

(;ФωФ)「待て」

 いそいそと立ち上がろうとした彼女は、ロマネスクの制止におとなしく従った。

 しばらくぶりに顔を見せたかと思えば。
 話があると人を呼び出して、遅刻して、前置きもそこそこに言い放ったのが冒頭のあれで、そのまま解散する気だったらしい。
 いかれている。

6 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:19:32 ID:7hsDycEw0

从 ゚∀从「悪いが手短に頼むね。
     最近、少し体調が芳しくなくて」

( ^ν^)「祟られてません?」

o川*゚ -゚)o「そんなことしてないし!」

从 ゚∀从「濡れ衣らしいよ」

( ^ν^)「はあ」

(;+ω+)「……」

 卓上のベルを鳴らしたハインが、やって来た店員にホットコーヒーとヨーグルトケーキを注文する。
 店員は先ほど入店したばかりのハインの前には水を置いていったが、そのときも今も、ついぞ彼女の隣に座る少女には何も出さなかった。

从 ゚∀从「それで、何かなロマさん」

(;ФωФ)「……何、というか……何からというか……」

7 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:20:27 ID:7hsDycEw0

 ロマネスクが頭を抱えて唸っていると、ニュッがハインの横を指差した。

( ^ν^)「あのう。本当に幽霊がいるんですか?」

从 ゚∀从「いるよ。いるものなんだね。
     ロマさんに霊感があるって話を疑ったことはないけれど、私は初めて見たから驚いたよ」

( ^ν^)「へええ。僕だって見たことないし杉浦さんは嘘ついてるのかと思ってましたけど。
       でも高岡さんは嘘つくような人じゃないですもんね。
       じゃあ本当にいるんだ幽霊。へええ」

(;ФωФ)「二人とも、ちょっと静かにしてくれ……」

 ハインはもちろんニュッもロマネスクの制止をおとなしく聞いてくれる。
 こういう温度感が心地よい二人ではあるが、今はその善良さが状況とちぐはぐで、理不尽に苛立った。

 そして幽霊の方は静かにしてくれなかった。
 ずいと身を乗り出し、溌溂とした声で言う。

8 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:21:38 ID:7hsDycEw0

o川*゚ー゚)o「おじさんはまともそうだね」

(;ФωФ)「おじ」

o川*゚ー゚)o「おじさんさあ、この女と仲いいの?」

(;ФωФ)「……友人ではある。それと吾輩は30歳だ」

o川*゚ー゚)o「え、わがはいって。てか30? 顔めっちゃ老けてんね。
      でも何で急に年齢言ったの」

(;ФωФ)「……まだ30だから、おじさんと呼ばないでほしいのである」

o川*゚ー゚)o「おじさんではあるじゃん」

从 ゚∀从「そうは思わないけど……まあ、お前くらいの年頃の子にとってはそうなのかな」

o川*゚ー゚)o「ふうん。どうでもいいけど。じゃあロマさん? でいい?
      この女、なんとかしてよ。
      いきなり結婚とか言ってきて困ってんだよね」



 せめて。
 せめて、相手の同意を得てから結婚だの何だのほざけ。



 ロマネスクはやけっぱちになってベルを押すと、家で夕飯の支度をしているであろう恋人のことを思いつつもプリンアラモードを注文した。

.

9 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:22:51 ID:7hsDycEw0


 ▼ ▽ △ ▲


( ФωФ)「まず、ハイン。その子をどこで拾ってきたのである」

 プリンの周りに添えられたクリームを掬いながら問う。
 対してハインはヨーグルトケーキをつつきながら答えた。

从 ゚∀从「少し前、職場の飲み会があってね。
     つい飲みすぎて、帰るときにふらふら適当に歩いたんだ。
     そしたらいつの間にか小学校の前にいて……」

( ^ν^)「危ないですよ。どうせ時間帯も遅かったんでしょう」

 横槍を入れるニュッは、ちょうどクリームソーダを飲みきったところだった。
 小さいグラスだったので元から大した量もない。
 それを物足りなく思う様子もなく、むしろ満足げに空のグラスを眺めている。

 彼はソーダとアイスをバランス良く口に運び、最後にきっかり一口ずつ飲み終えるのを好んでいる。
 たぶんあくまで、そういうゲームとしてクリームソーダが好きなのだろう。
 もちろんアイスが溶けきる前に食べ終えないと成功とはならないので、ペースが早い。腹を冷やさないか毎度心配になる。

10 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:23:32 ID:7hsDycEw0

从 ゚∀从「まあね。でも少年が通う学校だったから知ってる場所ではあったんだよ。
     だから迷子にはなっていないさ」

( ^ν^)「女性が一人で、夜中に、人気のない場所に行くものじゃないって話です」

从 ゚∀从「なるほど。自分がそういう対象になると思っていないからその視点はなかった。ご心配ありがとう。
     でも考えてみると、年齢や性別や犯罪の種類に関係なく用心はすべきだね。
     少年も気を付けるんだよ」

( ^ν^)「はあい」

( ФωФ)「本題」

从 ゚∀从「ああすまない。
     それで、まあ酔っていたものだから踊っていたら、たぶんこう、ぐるぐる回ったのが良くなかったんだと思うんだが。
     気持ち悪くなって、その場で吐いてしまったんだ」

( ^ν^)「すごい馬鹿みたいですね」

从 ゚∀从「校門前の街路灯がスポットライトみたいだったからつい踊ってしまった。
     少年も気を付けるんだよ」

( ^ν^)「はあい」

o川*゚ー゚)o「いつもこんななの? 疲れない?」

( ФωФ)「普段はこれが好きなのであるがな……」

 やや振り回される感覚が楽しいのだが、なんだか今日は疲労感が倍ほどある。
 聞こえよがしに溜め息をついてやると、ハインが自ら軌道を戻してくれた。

11 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:24:18 ID:7hsDycEw0

从 ゚∀从「でね。片付けなければと慌てていたら、傍にこの子が立っていることに気付いた」

( ФωФ)「そこへ優しい言葉でもかけられたのであるか?」

从 ゚∀从「いや『きたなっ』と言われた」

 その光景を想像するに、実際、途方もなく汚いものではあっただろう。

从 -∀从「それで惚れてしまったんだ……」

( ФωФ)

 ノーコメントとする。気持ち悪いから。

从 ゚∀从「思わずその場で求婚してしまったよ」

o川*゚ー゚)o「怖かった。こっちは幽霊だっつってんのに超食い下がるし」

( ФωФ)「どっちが怪異か分からんなそれは……」

 ぱたぱたと足を揺らしながら(こういうところが子供らしくはある)、ニュッがロマネスクを見上げた。

( ^ν^)「幽霊さん、どんな人なんですか」

( ФωФ)「ううむ……なんというか……可愛らしい顔をしているであるな……」

从 ゚∀从「ロマさんもそう思うかい。声も可愛いだろう」

( ^ν^)「何歳ぐらい?」

( ФωФ)「……何歳である?」

 一応訊ねてみたが、ものすごく不安だった。
 だって、いかにも学校指定と言わんばかりのブレザーを着ている。

12 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:25:19 ID:7hsDycEw0

从 ゚∀从「17歳で死んだと聞いた」

(;ФωФ)「子供ではないか」

从 ゚∀从「女は16から結婚できるんだからいいだろう」

(;ФωФ)「男女ともに18歳に引き上げられたであろうが、とっくに」

从 ゚∀从「そういえばそうだ。縁のない話だと思っていたから忘れていたよ。
     では結婚できないのかな」

( ^ν^)「死んでるのも性別も気にしてないのに、年齢だけ気にする必要ありますかね」

 ハインが口を閉じて、窓を見る。
 数秒考えてから視線を戻した。

从 ゚∀从「ないかもしれない」

o川*゚ー゚)o「こっちは全部気にしてほしいんだけど」

13 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:25:55 ID:7hsDycEw0

( ^ν^)「そういえば幽霊さんの方も結婚する気満々なんです?」

( ФωФ)「いや、それは……あー……君」

o川*゚ー゚)o「なあに」

( ФωФ)「いちいち間を取り持つのも面倒である。
       ニュッ君にも姿が見えるようにしてやってくれんか」

o川*゚ー゚)o「見えるようにって?」

( ФωФ)「吾輩もよくは分からんが、そうだな……
       ラジオのチャンネルを合わせるような感覚で念じるというか」

o川*゚ー゚)o「ラジオ触ったことない」

( ФωФ)「お、おお。じゃあとりあえず何か念じてみてほしいのである」

o川*゚ -゚)o「そんなこと言われても分かんないよ」

从 ゚∀从「私にそういうことをしたから私にも見えてるんじゃないのかい?」

14 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:26:20 ID:7hsDycEw0

( ФωФ)「お前の場合は泥酔して吐いていたせいかもしれん。
       弱っていた……つまり、死に若干近い状態にあったから勝手にチャンネルが合ってしまったのであろう」

从 ゚∀从「なるほど。つまり運命だったと」

o川*゚ー゚)o「踊ってた奴が急に倒れたからって近寄らなきゃ良かった」

从 ゚∀从「心配してくれたんだね。ありがとう」

o川*゚^゚)o

 突然礼を言われた幽霊は、口を尖らせてそっぽを向いた。
 それをにこにこ見つめてからハインが人差し指を立てる。

从 ゚∀从「そうだ。
     ロマさんの理論なら、今ここで少年を瀕死にさせればお前のことが見えるんじゃないか?」

( ^ν^)「倫理観」

从 ゚∀从「もちろん冗談だよ」

 基本的に声のトーンが一定なので、本音も冗談も分かりづらい。
 ──結婚云々の話も冗談なのではないかと疑いたいくらいだ。

 ふうと息をついた幽霊が、ニュッの方へと向き直った。

15 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:27:05 ID:7hsDycEw0

o川*゚ー゚)o「もう。とりあえずやってみるけどさ……」

( ФωФ)「頼むである。ニュッ君もちょっと頑張ってみてくれるか。
       君の真正面に幽霊が座っているから」

( ^ν^)「はあい」

o川*> -<)o「うむむむむ……」

从 ゚∀从「可愛い」

o川*゚ー゚)o「集中切れるからやめて」

从 ゚∀从「分かった、ごめん」

o川*> -<)o「むむむむむ……」

从 ゚∀从「いやでもやっぱり可愛いな」

o川*> -<)o「むむー!」

( ФωФ)(ハインがにやけているのも珍しいな……)

 彼女が他人に対してこのように距離を詰めるのを、初めて見た。
 ロマネスクもハインもわりかし人見知りする方だ。
 結婚したいというのは本気なのかもしれない。

16 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:28:05 ID:7hsDycEw0

( ^ν^)「あっ、見えました」

o川;゚ー゚)o「マジ!? こっち側は何も実感ないけど」

( ^ν^)「制服を着てて、髪が肩くらいの長さの人でしょう。声も聞こえます」

从 ゚∀从「ほほう、すごいもんだね。まったく驚かない少年の冷静さが」

( ФωФ)「お前が言うか」

( ^ν^)「散々幽霊がいる幽霊がいると話してたのに、何を驚くことがありますか。
       で、僕の質問への答えは?」

从 ゚∀从「何だったっけ」

( ^ν^)「お姉さんは、高岡さんとの結婚についてどうお思いですかって」

o川*゚ー゚)o「けっこう前のめりで嫌な方」

( ^ν^)「わあ」

17 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:28:49 ID:7hsDycEw0

从 ゚∀从「そう言いながらも私の傍を離れないくせに。ツンデレというやつだね」

o川#゚ー゚)o「離れられるもんなら離れたいっての! でも何でか出来ないんだもん!」

( ^ν^)「とのことですが……」

从 ゚∀从「そうなのか……」シュン

 ケーキを食べるペースが落ちる。いや、初めからちまちましていたか。
 ここのヨーグルトケーキは彼女の好物で、普段ならぱくぱく小気味よく食べていたように思う。

 ──体調が芳しくないと言っていた。
 実際、少しばかり顔が窶れて見える。
 2週間前に会ったときは、もっと肌の色艶が良かったはずだ。

( ФωФ)「お前、この子と会ったのはいつであるか」

从 ゚∀从「10日前かな」

( ФωФ)「それからずっと一緒にいるのである?」

从 ゚∀从「うん」

18 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:29:52 ID:7hsDycEw0

o川*゚ー゚)o「ロマさん、こういうの詳しい?
      ある程度は距離とれるんだけど、それ以上離れようとすると何でか上手く行かないの」

( ФωФ)「ううむ、すまん、吾輩には分からん」

o川*゚ー゚)o「ちぇっ」

从 ゚∀从「私はこのままで一向に構わないんだけどね。
     ……参った、これ以上食べられない。残りは持ち帰らせてもらおうかな」

 ことんとフォークを置く。
 ケーキはまだ半分も残っている。

(;ФωФ)「……ハイン。おそらくなのだが」

从 ゚∀从「うん?」

(;ФωФ)「お前、このままでは死ぬかもしれんぞ」

 ハインもニュッも、特に驚いた様子は見せなかった。
 いつもそうだ。年長者のロマネスクばかり動揺したり困ったりする。
 だが今回この場においては、もっと驚いてくれる人物がいた。

o川;゚ー゚)o「はー!? なにそれ、何で?」

19 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:30:37 ID:7hsDycEw0

(;ФωФ)「幽霊とずっと一緒にいると、弱っていくのだ。何度か見たことがある」

( ^ν^)「やっぱり祟りみたいなことですか?」

o川;゚ -゚)o「私は何もしてないってば!」

( ФωФ)「……自覚の有無には関わらんのかもしれぬな。
       吾輩が見てきた限りでは、たとえば恨みや愛情から取り憑いた霊によって衰弱させられていたようだったが……」

从 ゚∀从「愛!」

o川*゚ー゚)o「それは一切ない」

从 ゚∀从 シュン

( ФωФ)「何にせよ、取り憑かれた者と霊の間に何か因縁があったケースばかりだ。
       お前らが離れられないのもそのせいなのではないか?」

从 ゚∀从「因縁と言われてもね。10日前が初対面だったと思うけど」

o川*゚ー゚)o「同じく」

 ニュッが言っていたように、ハインは嘘をつく人間ではない。
 幽霊の方の人となりは知らないが、彼女も今のところは正直に話しているように見える。

20 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:31:27 ID:7hsDycEw0

( ФωФ)「二人の間に何かを見付けられれば、離れる取っかかりになるかもしれん」

从 ゚∀从「私はこのままでもいいんだけどね……」

( ^ν^)「だから、そのままじゃ死んじゃうって杉浦さんが言ってるでしょう」

从 ゚∀从「しかし死んで私も幽霊になれば結婚できるのではないだろうか。
     実は結婚結婚と言いつつ、どうしたら幽霊と結婚できるか分からなくて困っていたんだ。ちょうどいい」

( ФωФ)「馬鹿を言うな。本気で怒るぞ」

从 ゚∀从「冗談だよ」

o川*゚ー゚)o「さっさと離れたいし、私のせいで死なれても困るんだけど」

从 ゚∀从「でも……」

( ФωФ)「一旦わだかまりをなくしてから、改めて求婚すればいいであろう。
       幽霊と結婚する方法もそれから考えるのだ」

 ひとまず納得させるための空言だ。
 上手く離れられても、その後も夫婦として傍にいるなら意味はない。
 だから──最終的にはハインに諦めさせる必要がある。

21 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:32:20 ID:7hsDycEw0

( ФωФ)「そういうことであるから、まずは幽霊さん。
       君の素性を教えてほしいのである」

( ^ν^)「そういえば名前も聞いてませんでしたね」

o川*゚ー゚)o

 ぎゅっと口を引き結んで、黙ってしまった。

从 ゚∀从「私も知らないんだ。
     彼女、自分の素性をろくすっぽ教えてくれないんだよ」

( ^ν^)「やっぱり高岡さんの知り合いなんじゃないでしょうか。
       だから言いたくないのでは」

o川*゚ー゚)o「違うけど。言いたくない」

(;ФωФ)「どうしてそこまで」

从 ゚∀从「どうやら生前こっぴどい目に遭ったらしくてね。
     それで自ら命を断つ羽目になったんだそうだ。
     私が知ってるのはこれだけなんだけど、これだけでも充分嫌なんだろう」

( ФωФ)「う。そう……だったであるか。うむ……」

 途端に気まずさが溢れ出して視線を逸らす。
 自殺など、よほどの理由があってするものだろう。まして17歳の少女がだ。
 そのような過去があるなら、たしかに詮索されたくないかもしれない。

22 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:33:07 ID:7hsDycEw0

 さっそく腰が引けてしまったロマネスクの袖を、ニュッの小さな手が引っ張った。

( ^ν^)「でも、その素性を知らないままじゃ高岡さんが危ないわけじゃないですか。
       僕は高岡さんの安全を優先したいです」

( ФωФ)「……そうであるな。吾輩も同感だ」

 ハインが「ありがとう」と呟く。声が小さい。
 珍しく照れているようだった。

( ФωФ)「すまない。君が嫌がっても、我々は君のことを知らねばならん。
       どうか教えてもらえないであろうか」

o川*゚ー゚)o「……やだ。ごめん。でもやだ」

( ^ν^)「幽霊さんは高岡さんから離れたいし、自分のせいで死なれたくないんでしょう?
       幽霊さんのためでもあるんですよ」

o川;> -<)o「……うー……」

 頑なだ。

 ロマネスクは呻く彼女を観察する。
 身につけているのはごく普通のブレザー。
 エンブレムの類が付いていないため、どこの学校かは分からない。

23 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:34:27 ID:7hsDycEw0

 何かヒントはないかとじろじろ見ていると、「じゃあこうしましょう」とニュッが手を挙げた。

( ^ν^)「僕らは勝手に調べますから、それで明らかになってしまう分には諦めてください」

 そこが彼女にとっても妥協点だったらしい。

o川*゚ー゚)o「……好きにしたら」

( ФωФ)「ありがとう、幽霊さん」

从 ゚∀从「良かった。仮に私の命がかかっていなくとも、名前や関係者ぐらいは知りたかったんだ。
     よく知らないけど、婚約の際には挨拶回りに行くものなんだろう」

( ФωФ)「ご遺族に『故人様をください』とでも言う気であるか?」

从 ゚∀从「いや、彼女を泣かせた奴らにちょっとかましてやらないと」

 それは挨拶回りではなく、お礼参りと言う。


 ▼ ▽ △ ▲

.

24 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:35:08 ID:7hsDycEw0


 暗くなってきたのでひとまず解散という流れになった。
 小学生がいる以上、夜まで付き合わせるわけにもいかない。


 マンションの一室へ帰ってくる。
 手洗い等を済ませてからリビングへ行くと、テーブルについていた恋人がひらりと手を振った。

(*゚∀゚)「おかえりー」

 埴山(はにやま)つー。同期入社をきっかけに知り合った人だ。
 明るく懐っこい女性で、人見知りのロマネスクにもよく構ってくれた。
 ゆっくり時間をかけて仲を深めていって、気付いたら付き合っていて、同棲に至る。

25 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:36:11 ID:7hsDycEw0

(*゚∀゚)「ハインさん、何の話だった?」

( ФωФ)「……好きな人が出来たとのことであった」

(*゚∀゚)「えーっ、ハインさんが! どんな人か聞いた? てか会った?」

( ФωФ)「その……可愛らしい子であった」

(*゚∀゚)「え、あ……もしかして女の子? そうなんだあ」

 ほんの少し驚いたつーが、それを誤魔化すように「へえー」と続けた。
 その反応を見て、そういえば女の子だったなと今さらながら思う。
 諸々にこだわるのが野暮な時世ではあるが、そもそもハインが相手をタグで判断する人間ではないので気にしていなかった。

 #同性 #未成年 #幽霊

 こうやって並べると、逆にすごいなという気になってくる。

26 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:37:14 ID:7hsDycEw0

(*゚∀゚)「ご飯準備するね。その前にお風呂入ってくる?」

( ФωФ)「ああ、うむ」

 つーが立ち上がった。
 そのままキッチンへ向かうのかと思ったらこちらへ近付き、口元に顔を寄せてくる。
 反射的に唇に意識が集中するも、つーは鼻を鳴らして一歩退いた。

(*゚∀゚)「甘いもの食べた?」

(;ФωФ)「う。いや。……すまん……ちゃんと飯も食うから」

(*゚∀゚)「もー、最近ちょっとお腹怪しいだろ。ご飯少なめにするからな」

 ロマネスクのお腹を小突いて、あどけなく笑う。

 一緒に暮らすようになってからもう3年。付き合ってからなら5年にもなるが、未だにこういうとき、きゅうと新鮮に胸が締まる。
 だが態度に表すのがどうにも照れくさいたちだ。
 反射的に上げた両手は愛しい人を抱きしめることなく、ぽんぽんと彼女の両腕を叩くのみに終わった。

(*゚∀゚)「なんだよ」

( ФωФ)「いや……」

 臆病な手を見やったつーは、続けてロマネスクの顔を見上げると、何か察したのかにやっと笑った。
 背伸びをし、ロマネスクの頬に唇を押しつけて離れていく。

(*゚∀゚)「ほら、お風呂行ってきな」

(;*ФωФ)「……う、うむ……」


 ▼

27 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:37:57 ID:7hsDycEw0


 翌日の夕方。
 退社したロマネスクは、まっすぐ喫茶店へ向かった。

 今日はハインの方が先に来てコーヒーを啜っていた。
 昨日と違って、紺色のシャツに黒のテーパードパンツ。彼女も会社帰りなのだろう。たしか事務員をやっているのだったか。

 その隣には、やはりブレザー姿の幽霊がいる。
 会社でも一緒にいるのだろうか。いるのだろう。離れられないのだし。

从 ゚∀从「やあロマさん」

( ФωФ)「ニュッ君はまだであったか」

从 ゚∀从「うん。心配だね、迎えに行こうか。小学校にいるかな」

(;ФωФ)「む……行くならハインだけで行ってくれ。吾輩はここで待つ」

o川*゚ー゚)o「なあに、子供嫌いとか?」

(;ФωФ)「いや……」

 小学校というものが好きではない。
 だがハインにも幽霊にも説明する気になれず、心地の悪い沈黙だけがテーブルにへばりついてしまった。

28 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:38:22 ID:7hsDycEw0

 そこへ、からんころんとドアベルの音が響く。
 安堵して振り返れば、ランドセルを背負ったニュッがこちらへ向かってきていた。

( ^ν^)「ごめんなさい、掃除が長引いちゃって」

从 ゚∀从「ロマさんも今来たところだ。おつかれさま」

 椅子の背もたれにランドセルを引っかけ、ニュッがロマネスクの隣に座る。定位置。

 水を持ってきた店員にロマネスクがミルクティー、ニュッがクリームソーダを注文する。
 その間ずっと二人をじろじろ眺めまわしていた幽霊が疑問をこぼした。

o川*゚ー゚)o「ニュッ君って何年生? てか何歳?」

( ^ν^)「先月から4年生です、誕生日はまだなので9歳」

o川;゚ー゚)o「9! 大人っぽいとか通り越して小癪!」

 それはロマネスクもそう思う。

29 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:39:12 ID:7hsDycEw0

o川*゚ー゚)o「えー、9歳でしょ、ロマさんが30歳でしょ……」

从 ゚∀从「私は24」

o川*゚ー゚)o「どういうグループなわけ? 演劇関係とか?」

从 ゚∀从「どうして演劇?」

( ^ν^)「二人とも話し方が芝居がかってるからでしょう」

( ФωФ)「うむ……」

 自覚はある。
 一般的には奇妙に聞こえているのも分かっている。
 だからあまり人の来ないこの店が好きなのだ。

o川*゚ー゚)o「ロマさんって素でその喋り方なの」

( ФωФ)「これが落ち着くのである」

o川;゚ー゚)o「えええ。それで社会人やれてる?」

(;ФωФ)「会社では普通に喋るよう努めているである、もちろん」

30 ◆KD5oTB3lZY:2024/04/29(月) 21:41:00 ID:7hsDycEw0

从 ゚∀从「気を許した相手にはこれが出るんだ、ロマさんは。
     ここの店長にそうやって話してるのをたまたま聞いてね、興味が湧いて声をかけたのが仲良くなったきっかけさ。
     そう、私から声をかけたんだ。この私がだよ」

o川*゚ー゚)o「知らんし。いきなり求婚された身からすると全然意外性ない」

从 ゚∀从「それはそうだ。
     でも言われてみると、ちょっと状況が似ていたかもね。
     ロマさんの話し方がやけに可愛かったからつい声をかけたという点では、ナンパに近かった」

o川*゚ー゚)o「かわいい……?」

从 ゚∀从「可愛いじゃないか、猫みたいで」

o川*゚ー゚)o「はあー?」

 ちくりとささくれ立つものがあって、ロマネスクは咳払いをした。
 幽霊がこちらを一瞥し、今度はハインに水を向ける。

o川*゚ー゚)o「まあいいや。で、あんたのその話し方は何?」

从 ゚∀从「私は昔から本や映画の世界にこもりがちだったから、そのせいかも」

o川*゚ー゚)o「ぼっちだったんだ」

从 ゚∀从「周囲には恵まれていたよ。
     構ってくれようとする優しい人も多かったしね。
     でも、私の方がそういう人たちを遠ざけていた」

o川*゚ー゚)o「どうして?」

 ずけずけと踏み込んでいく様に若さを感じる。
 歳とは関係ないかもしれないが。ともかく若い。


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