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(,,゚Д゚)大体、友愛、冷戦地のようです(゚ー゚*)

1 ◆xBGwFOoFSw:2024/04/28(日) 00:24:12 ID:s1JoDVnM0
オレンジデー祭参加作品です。

60 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:06:26 ID:s1JoDVnM0

(;゚―゚)「……え、どうしよう」

一人ぽつんと残された私の頬を、12月の寒風が通り過ぎて行った。

キィキィと、お世辞にも耳障りが良いとはいえない音を立てながら道を進む。
長野という土地は広大だ。車で三十分程度走っただけで、もう土地勘が働かなくなる。
加えて今は十二月。夜の間に草木から垂れた水分が無情にも道を凍り付かせ、ほんの少し進むだけでも過大な神経を使わせる。

(*゚ー゚)「なんだってこんなことに…モナー君のバカ…いや、頼った人にこう言うのもあれだけど……」

ブツブツと文句を言いながら、ゆっくりと夕日に染まったオレンジの道を進んでいく。
あまり整地はされていないが、きっと人通りがあるのだろう。やや凍って進み辛くはあるが道は思ったより平坦であった。

傍らに並んだ花に目を走らせた。
立葵や菫などが冬の寒風にも負けず、ささやかながら立派に咲いている。
本来、冬というのは中々自然に厳しい季節だが、そんな固定観念を吹き飛ばすほどに多種多様な花々が顔を覗かせていた。
長野という土地が持つ力強さには真に頭を垂れるほかない。

61 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:07:13 ID:s1JoDVnM0

(*゚ー゚)「……あら」

ふと気が付けば、大きな広場に出ていた。

中心にある大きな欅の木には一切の葉がついていない。それなのに、言い知れぬ威圧感のようなものがあった。
木の背後には、神々しさすら感じるほどの眩い夕暮れが、空一体を美しい茜色に染め上げている。

周囲に人はまばらで、制服姿の学生や、暇を持て余した老人がちらほらといる程度。
モナー君のことだ。どうせそんなにすぐ迎えに来てくれやしない。
せっかくだし、と私は欅の大木に近付いて、車椅子の下に入れていたスケッチブックを手に取った。

いつも持ち歩いている鉛筆を取り出し、まだ何も描かれていない真っ新なページをめくる。
鉛筆を木の隣に見立てて距離を測り、ある程度自分の中でイメージを想像してから、私は慣れた手付きで眼前の木を描き始めた。

62 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:08:58 ID:s1JoDVnM0

(*゚ー゚)(……なんだか、懐かしいな)

ほんの数週間、描いてないだけなのになぁと心中で呟く。
先月の頭に出した絵本。あれ以来、私は一度も筆を執っていなかった。
別に、意識的に避けていた訳ではない。ただ、絵を描く気になれなかったのだ。

絵を描くというのは、私にとって一つの原点だ。
病室でただただ何もせずに息をしていただけの日々。
無限にも感じられた暇と苦痛を紛らわせるための、一種の自己防衛。

鉛筆を止め、作業途中ではあるが俯瞰して見る。
このままでは出来上がるのはただの大きな枯れ木だ。そう思うと、何だかつまらなく思えた。

そうだ。いっそあの木が桜だったらどうだろう。

中々良いことを思いついた。そもそも絵とは自由であるべきだ。
風景をキャンバスに落とし込んだその瞬間、現実はフィクションへと、創作へとその本質を変える。
なら別に嘘を描いたっていいだろう。そう自分に言い訳をして、もう一度筆を進めようと鉛筆を持ち直す。

その次の瞬間、非常に勢いが強い風が吹いた。

63 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:10:32 ID:s1JoDVnM0

(;゚―゚)「キャッ…!」

飛ばされまいと反射的にスケッチブックを抑える。
すると、狭めた視界の中で何かが勢いよく宙に飛び出したのが微かに見えた。

(;゚―゚)「あっ……!」

思わず目を見張る。空中には、夕日に光って反射した黄色い花が舞っている。
結局、破くことはおろか、捨てることも出来ずに肌身離さず持っていた、スケッチブックに挟んでいた物。
ギコ君が置いていった、デンファレで作られた栞だった。

慌てて手を伸ばすも、私の腕が届くはずもない。
冬の冷たさを纏った風が、残酷にも遠くへと運んでいく。
まずい、このままじゃ本当に失くしてしまう。ギコ君が最後にくれたものが、花が、消えてしまう。

スケッチブックも鉛筆も投げ捨て、空に向かって懸命に手を伸ばす。
その途端、急に重力の向きが変わったような浮遊感に襲われた。

64 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:13:10 ID:s1JoDVnM0

(; Д )「あぁっ…!?」

しまった。前に出過ぎた。地面は完璧な平坦ではないと、気を付けなければならないと分かっていた筈なのに。
体勢を崩し、車椅子ごと私の体は前方へと放りだされる。
不味い。倒れる。いや、それだけじゃない。
栞が消える。消えてしまう。せっかく、彼が私のために残していってくれたのに。

ごめんなさい。そう思いながら諦めと共に目を瞑る。
自分の身に起こるだろう痛みに気を配ることはなく、ただただ、誰よりも大事だった友人からの贈り物が消えることへの恐怖と申し訳なさが胸を包む。

あぁ、結局私は、一人では何もできないのだ。
人生何度目か分からない絶望を抱えながら、私は三秒後の衝撃を待った。

65 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:14:27 ID:s1JoDVnM0


(;,,゚Д゚)「――あっぶな……!何してんだ、お前!?」


目を開ける。
すぐそばに地面があるのに、私の体は浮いたまま転がらずに一定の姿勢を保っている。
何が起きたのか分からないまま、体がゆっくりと車椅子に戻される。

顔を上げる。眼前の景色に驚きながら、目を何度も瞬かせる。
知った顔が、知り尽くしている顔があった。

66 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:15:51 ID:s1JoDVnM0

(;,,゚Д゚)「大丈夫か!?…つーか、モナーは!?あいつ何処行った!?」

(;゚―゚)「………ギコ、くん 」

もう二度と会わないと、覚悟していた顔だった。
もう一度だけ会いたいと、願っていた顔だった。

(;゚―゚)「あっ…!し、栞!!栞は!?」

半狂乱になったまま、視線を宙に向かわせる。
風が吹いた方向に目をやるも、空中の何処にも栞は見当たらない。
続けてすぐに地面に目をやる。だが見えるのは枯れ木から離れた葉っぱや土に紛れた石、雑草ばかりで、何処にもあの黄色い花は見当たらない。

あぁ、失くした。失くしてしまった。消えてしまった。
眼球に熱いものが込み上げてくる。あぁ、ダメだ。泣いてはダメだ。
けど、でも、せっかく、栞が。花が。
ギコ君がくれた、好きな人がくれた、贈り物が。

67 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:16:52 ID:s1JoDVnM0

(,,゚Д゚)「栞……?あぁ、これか?」

(;゚―゚)「………え」

(,,゚Д゚)「なんか飛んできたから、取った」

なんでもないことみたいに、彼は「はい」と言って私にその大きな手を差し出してきた。
彼の端正な指先には、黄色のデンファレが丁寧に押された栞が、土汚れ一つなく挟まれている。
私はそれを、まるで何かの賞状を授与された時みたいに両手で受け取った。

(* ー )「………っ!よかった……!!」

両の手に帰ってきた栞をぎゅっと握りしめる。
さっきまでとはまるで違う安堵が、私の胸を満たしていた。

(,,゚Д゚)「……あ、それ、アレか。俺が置いてったやつか」

(,,゚Д゚)「ちゃんと持っててくれたんだな。…嬉しい、ありがとう」

頭上からかけられた甘い声に、私はハッと現状を理解した。
そうだ。どうしてギコ君がここにいるのか。

いくら同じ県内といえど、ここは私たちが住んでいた町からは随分と離れている筈だ。
それに、ここに立ち寄ったのはモナー君の車にいきなりトラブルが生じたからで――。

68 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:18:18 ID:s1JoDVnM0

(;゚―゚)「……まさか」

私の呟きに、ギコ君は申し訳なさそうに頬をぽりぽりと掻く。
ということはやはり、私の今の現状は、最初から。

(,,゚Д゚)「……悪い。気持ち悪いよな、こんな回りくどいことして」

(,,゚Д゚)「けど、こんなのしか思いつかなかったんだ。ちゃんと、お前と話せる機会を作るためには」

あぁ、やはりそうだったのか。私の勘はどうやら当たったようだ。
途中でモナー君に下ろされたのも、この広場に私が来たのも。
どうやら全部、今目の前にいる”友人”によって仕組まれたものらしかった。

(;,,゚Д゚)「…ていうか、マジでモナーはどうした?なんでアイツ何処にも――」

(* ー )「……どうでもいいわよ、そんなの」

ギコ君の話は聞くまいと、急いで車椅子を動かそうとする。
だが、所詮は車椅子。いくら慣れているとはいえ、成人男性が車椅子を止める力と、私が車椅子を動かす力。
どちらが勝るかなど確かめるまでもない。

69 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:20:07 ID:s1JoDVnM0

(,,゚Д゚)「悪いけど、もうちょっとここに居てもらうぞ」

(;゚―゚)「…っ、大声出すわよ!それでもいいなら…!」

(,,゚Д゚)「なぁ」

(,,゚Д゚)「なんで、栞なんて持ってたんだ」

ギコ君が前に私の家で待っていた時とは逆に、今度は私の言葉が彼によって遮られた。

反論を考えようとするも、何もいい言葉が思いつかない。
何か言わないといけないのに。何か強い言葉で、彼を遠ざけないといけないのに。

70 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:25:00 ID:s1JoDVnM0

(,,゚Д゚)「…改めて聞くけどさ」

(,,゚Д゚)「あの絵本の最後、どうなったか覚えてるか?」

(; ー )「……っ」

私はまた何も言えずに口ごもった。
忘れる訳がない。けれど、今更「覚えている」なんて言えない。
もう私は口に出してしまった。彼が傷付くようなことを、彼が傷付くと分かっていて発してしまった。
今更一体どの面さげて、あの絵本を、夢物語を口にするのか。

(; ー )「…………しら、ない」

(; ー )「しらない、覚えて、ない。わかんない、知らない…!」

(,,゚Д゚)「…意地っ張りだな」

(# ー )「うるさい!うるさいうるさいっ…!知らないったら知らないの!覚えてない!」

(#゚―゚)「あんなっ…そもそもあんな絵本が、なに!?馬鹿らしい!」

(# Д )「あんなの、ただのおとぎ話でしょ!!都合の良い、ただの妄想!物語でも、なんでもない!ただの子どもの痛い夢!」

(# ー )「そんな、そんなしょーもないこと…一々口にしないでよ!」

ギコ君の顔を見ないまま、思ってもないことを叫び散らす。
ギコ君が傷付くような言葉がぱっと出てこない。だから代わりに、私が言われたくない言葉を羅列する。

71 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:27:18 ID:s1JoDVnM0

どれも、言いたくないことだ。けれど、心のどこかで思っていたことだった。

おとぎ話と現実は違う。そんなこと、ずっと昔から分かっていた。
言葉は弾丸に敵わない。病気は奇跡じゃ治らない。
分かっていた。知っていた。そんなこと、誰よりも私が身をもって知っていた。

それでも、描きたかった。
叶わなくても、妄想でも、嘘でも、それでも。
夢見ることくらいなら、許されると思っていた。
夢の中でくらいなら、彼を、普通の人の生活を、望んでいいと信じたかった。

けれど現実は残酷だった。
出版社の人に貶された回数も、十や二十じゃ足りない。
人づてに聞いた私の絵本への心無い言葉がいくつもあることなんて分かってる。

でも、どうしても、欲しかった。
何も気にせず、歩けるようになりたかった。
近所の公園やスーパーに行ったり、運動したり、階段を上がってみたりしたかった。

“友人”なんて関係じゃ、満足できなかった。
彼の横に座ってるだけじゃ嫌だった。彼の手と繋いでみたかった。
そんな資格がないなんて、分かっていた筈なのに。

72 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:27:56 ID:s1JoDVnM0



(*;ー;)

割り切っていた、筈、なのに。

73 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:28:56 ID:s1JoDVnM0

(,,゚Д゚)「……しぃ」

(*∩ー;)「うるさいっ…!見ないで…し、知らない、しらない…!」

腕で目を覆い、見られまいと必死に顔を逸らす。
あぁ、最悪だ。もうダメだ。もう、バレた。
ずっと隠してきたのに。底の底にずっと置いていたのに。

最後まで私はこれだ。
友人を気遣った、なんて、そもそもが嘘だった。
私は最初から最後まで、自分のことしか考えていなかった。

74 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:30:34 ID:s1JoDVnM0

ギコ君に自由になって欲しいんじゃない、私がただ、彼の迷惑になりたくないだけだ。
ギコ君に東京に行って欲しいんじゃない。私がただ、彼から離れたくないだけだ。

なんて傲慢だろう。なんて自分勝手だろう。
もう嫌だ。何もかもが、自分のことが、心臓が、存在自体が嫌になった。
間違えた。いつから。決まっている。最初からだ。
あの日。私は間違えた。最初から私みたいなのが夢なんて見てはいけなかった。

あぁ。間違えた。失敗した。
彼が好きなことがバレた。絶対にバレちゃいけなかったのに。
そもそもこんなもの、抱くことすら烏滸がましいのに。

こんな想いをするくらいなら。
彼にこんなに迷惑をかけるくらいなら。


あんな絵本なんて、描かなければ――。

75 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:31:06 ID:s1JoDVnM0


(,,゚Д゚)「――じゃあ、思い出してもらうか」


パッと、何かが破裂するような音がした。

76 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:32:05 ID:s1JoDVnM0

一瞬、花火が上がったのかとも思った。
心臓の奥まで震えるような轟音に、何が起こったのかと顔を上げる。
周りにちらほらといた人たちが皆、同じ方向に釘付けになっているのが分かった。

何だ。何が起こったのか。
事態を理解しようと、私も皆と同じ方向に視線を向ける。

そこには。


――数えきれないほどの黄色の花が、冬の茜空を埋めるみたいに咲いていた。

77 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:33:43 ID:s1JoDVnM0

(*;ー;)「………え」

空高くに輝く夕日が、花弁の一枚一枚を眩く丁寧に照らしている。
無数の花が中心の大木を覆うかのように重なって、まるで一瞬のうちに枯れ木に花が咲いたようだった。

――おとぎ話みたいだ。純粋に、そう思った。
空自体が美しい黄金になったような、まるで夢の中にいるのではないかと見紛うような幻想的な風景。
ひらひらと、黄金の空に舞っていた花束から、一輪の花がゆっくりと私の眼前に降りてきた。
私はそれを両手で受け取り、高価な宝石を扱うように丁寧に手の中で位置を整え、じっと見る。

それは、胡蝶蘭によく似ている形をしていた。
胸が自然に高鳴る。私はこの花を知っている。
昔から、ずっと好きだった花。
これまでも、これからも、ずっとずっと、一番好きな花。


それは、黄色のデンファレであった。

78 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:34:46 ID:s1JoDVnM0

(,,゚Д゚)「集めるの、苦労したんだ。一週間もかかっちまった」

私の前にしゃがみこんだギコ君は、とても優しい笑みを浮かべていた。

(,,゚Д゚)「凄いだろ?なんとかツテ辿って、大学の工学部の人たちにも協力してもらってさ…」

(,,゚Д゚)「作ったんだ。空に、花束を咲かせる機械」

「仕組みは単純なんだけど」とはにかみながら話す彼は、いたずらっ子みたいに木の根元を指差した。
広場の中心に屹立している木の根元。
土と夕暮れの光で一見よく分からないが、注意深く見ると、なにか大きな機械のようなものが後ろに並んでいるのが分かる。

(,,゚Д゚)「…どうだ、思い出したか?お前が昔作った、絵本のラスト」

(,,゚Д゚)「まぁ多分、完全再現って訳じゃないんだけどさ…ごめんな」

顔を両手で押さえながら、私は必死に首を横に振った。

79 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:37:24 ID:s1JoDVnM0

言葉が出なかった。
今目の前にある美しい景色は、それほどまでに、私が描いた理想通りだった。

綺麗だ。心の底から、そう思った。
今までの人生で見た何よりも、美しい風景だった。

涙で滲んだ世界の中でも、夕暮れを反射して煌めく花弁の一枚一枚が網膜を焼く。
ずっと夢見ていた。一人寂しい病室の中、窓から見える花はおろか、部屋に置かれた瓶の花にすら手が届かない世界をずっと恨んでいた。
いつか、空だって覆ってしまうくらいの花束を見たい。
そう願っていた。無理だと分かっていながら、せめて絵本の中でくらい存在してもいいだろうと思って、必死にペンを握りしめて描いた。

諦めていた。見られる訳がないと思っていた。
それが、今、目の前にあった。

(*;―;)「……なん、で」

(*;―;)「ねぇ、なんで、なんでこん、な」

ポロポロと零れる涙を必死に抑えようとするも、指の隙間から流れ落ちていく。
ああ、本当に最悪だ。
せめてギコ君の前でだけは、絶対に泣くまいと決めていたのに。

80 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:40:30 ID:s1JoDVnM0

(*;ー;)「なんで……なんで、そんなに、優しいの」

出したくもない涙と共に、出したくもなかった本音が漏れる。
けれど、一度流してしまったものはもう止められそうになかった。

(*;ー;)「わたし、あんなに酷いこと、言ったのに。いっぱい、いっぱい嘘ついたのに」

足元に落ちたデンファレにボロボロと涙が落ちる。
花弁に触れた雫が散って、金色の火花みたいに爆ぜた。

(,,゚Д゚)「……いや、違うんだ」

(,,゚Д゚)「…ごめん、俺もだった。俺も、しぃにずっと嘘ついてた」

雲みたいにフワフワとした優しい声が、みっともなく涙を流す私を包む。
あの頃よりもずっと低くなった筈なのに、胸が締め付けられるような郷愁感があった。

(,,゚Д゚)「……ずっと”友達”でいたいって、あれ、めちゃくちゃ嘘なんだ」

(*;ー;)「………え」

顔を上げたその先には、背後で輝く夕日にも負けないくらいに頬を赤くしたギコ君の顔があった。

81 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:43:26 ID:s1JoDVnM0

(,,゚Д゚)「ずっと嘘ついてた…というか、カッコつけてた。俺、そんな綺麗な目で、お前のこと見てなかった」

(,, Д )「………俺、さ」

視界の奥で揺れる黄色の花びらたちが、急にスローになったような気がした。

ギコ君はどこが居心地が悪そうに、口をもごもごと動かしながら髪をわしゃわしゃと掻いている。
何なのだろう。この次に、どんな言葉が続くのだろう。
いや、私は分かっていた。というよりか、期待していた。

次に彼の口から舞う言の葉が、私と同じ想いを抱くものではないかと期待していた。
もう期待しないと誓ったのではないのか。もう諦めたのではないのか。だから、残像が色濃く残るあの町からこうして逃げ出したのではないのか。

弱々しいはずの心臓が、バクバクと激しい鼓動を始めた。
そんな筈ない。そんな訳がない。彼が、”そういう風”に私を見ていた筈がない。
だって、彼みたいな凄い人が、素敵な人が、ヒーローみたいにカッコいい人が。

私なんかを選んでくれる訳が。

82 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:44:07 ID:s1JoDVnM0


(,, Д )「――好きだ」

(,,゚Д゚)「一人の女の子として、しぃが、好きだ」


もう、激情を抑えられそうになかった。

83 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:46:07 ID:s1JoDVnM0

(,,゚Д゚)「しぃに…好きな女の子に長生きして欲しいから、医者になろうと思った」

(,,゚Д゚)「東京に行かないのも、そんな、御大層な理由なんてないんだ」

(,,゚Д゚)「ただ、ただ俺が、しぃの近くにいたいだけだったんだ」

(,, Д )「…嘘、ついてごめん。回りくどいことして、ごめんな」

恐る恐る、彼の腕がゆっくりと私の肩を抱きしめる。
私はそれに抗うことなく、まだボロボロと泣きながらその抱擁を受け入れた。

(*;ー;)「―――わたし、も…」

(*;ー;)「うそ、だったの。全部、君の邪魔、したくない、から」

吃逆が邪魔をして、上手く言葉を紡げない。
それでもギコ君はゆっくりと私の背中を撫でながら、昔と変わらない優しさと共に私の言葉を待ってくれた。
あぁ、そういうところが、そういうところのせいで。私は。

84 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:51:00 ID:s1JoDVnM0

(*;ー;)「ごめん、な、さい。ホントは、私も嫌だったの。友達なんかじゃ、嫌だったの」

(*;ー;)「でも…でも、君の邪魔も、したくなかった。わたし、こんなの、だから。いつか、君の邪魔に、なる、から」

(*∩ー;)「だからっ…だから、わたし、わたし……」

もう、自分でも何を言っているのか分からなかった。
それでも、ギコ君はただ、黙って聞いてくれていた。
何を否定する訳でもなく。何を補足する訳でもなく。
ただ時々頷きながら、話の体すら成していない私の言葉を受け止めてくれていた。

ゆっくりと、抱擁が解れた。
涙でぼやけた視界の中心で、ギコ君は困ったように笑っているのだけが見える。

(,,゚Д゚)「……ごめんな。あの絵本じゃ、確かもうこのシーンだと、病気は治ってたんだけど」

彼の言葉に、私はゆっくりと、それでいてしっかりと首を横に振った。

(,,-Д-)「…やっぱり、優しいなぁ。しぃは、ずっと」

彼の口角がふわりと上がる。
こんなに迷惑をかけたのに。こんなに君を振り回したのに。
それでも、まだ私を「優しい」と言ってくれる、その優しさこそが私の心臓を痛ませた。

85 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:52:56 ID:s1JoDVnM0

(,,゚Д゚)「…俺、きっとこれからも、しぃのこと、困らせると思う」

ずっと合わなかった視線がピタリと合う。
私がずっと焦がれていた、切れ長の眦がそこにあった。

(,,゚Д゚)「正直、女心とかよく分からんし、病気だって、絶対治せるようになるとは、言えない…けど」

(,,゚Д゚)「…けど、俺。頑張るからさ。あの絵本のラスト、次こそ完全再現できるように、頑張るから」

(,,゚Д゚)「もっと…もっと頑張って勉強するから。俺、絶対に良い医者になるから」

(,,゚Д゚)「……これからも」



(,,゚Д゚)「俺と、一緒に居てくれますか」



両の手が、ギコ君の更に大きな両手に覆われていた。
まだ眼から流れる涙が、膝上にポロポロと落ちていく。
きっと今の私は、シンデレラを助けた魔女だって見捨てるくらい、酷い顔をしているのだろう。

86 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 02:56:36 ID:s1JoDVnM0

(* ー )「……私、多分、長生き、できないよ」

(,,゚Д゚)「その分、めちゃくちゃ楽しませる」

(* ー )「……隣だって、歩け、ないし、色々、重いし」

(,,゚Д゚)「力には自信あるんだ。医者の卵舐めるなよ」

(* ー )「…それに、性格、良くないし。スタイルだって、悪いし、それに、それに、それに……」

(,,゚Д゚)「しぃ」

短く、名前を呼ばれた。

87 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:00:10 ID:s1JoDVnM0


(,,゚Д゚)「――貴女が好きです。世界中の、誰よりも」

(,,゚Д゚)「…友達じゃ、嫌だ。俺は、もっと堂々と、しぃの横に立っていい人間になりたい」

(,,゚Д゚)「めちゃくちゃ遠回りしたけど…もしかしたら、めちゃくちゃ、待たせたかもしれないけど」

(,,゚Д゚)「………今更、だけど」

一旦、言葉が切られる。
一瞬だけ風が止み、空を舞う花びらがふわりと静止する。
その後すぐに、深い呼吸の音が聞こえた。



(,,゚Д゚)「――俺の、恋人になってくれませんか」



手をぎゅっと握られたまま、夢みたいな言葉で鼓膜が揺らいだ。

88 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:03:09 ID:s1JoDVnM0

なんと言うべきなのだろうか。どう返事をすればいいのだろうか。
夢にまで見た光景だった。いや、夢にすら見ないようにしていた光景だった。

受け入れちゃダメだ。いつか、絶対に私は彼に迷惑をかける。
分かっている。最善策はきっと、この手を振り払うこと。


なんて。簡単に割り切れる人間ならば。
私は今頃、こんなに泣いていないだろう。


(*;ー;)「はい……!」


気が付けば私は、彼に向かって倒れ込んでいた。

89 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:05:21 ID:s1JoDVnM0

花のクッションの上、一瞬、驚いた顔をしたギコ君と目があった。
ちょっと、あまりに勢いよく抱き着いてしまった。

かすかな痛みを覚えながら、なんだかおかしくなった私達は、顔を見合わせて声を上げて笑った。

ギコ君の力を借りて上体を起き上がらせる。
彼の髪に手を伸ばして、ついていたデンファレを取る。

彼もまた、泣いていた。それでも、今までに見たことのないような酷い顔で、笑っていた。
きっと私も同様だ。
一日でも早く友達を辞められるように覚えたメイクも、いつ彼に会ってもいいように整えていた髪も、今はぐしゃぐしゃになっているに違いない。



冬に似つかわしくない、ひらひらと舞う黄色の花束を包む夕暮れの中。
世界で一番大好きな人が、子どもみたいにくしゃりと笑ったのが見えた。

90 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:06:41 ID:s1JoDVnM0

*

白いページの上に、一枚の花びらが下りてきた。

ささやかで可愛らしいそれを手に取ってまじまじと見る。
薄桃色のそれがどこから来たのか確かめるために顔を上げると、眼前には、言葉を失ってしまうほどに絢爛な桜が並んでいた。
今の時刻は夕暮れ時。いつの間にか、長野にも春がやってきていた。

膝の上のスケッチブックを閉じ、鉛筆を置く。
目の前で立派に咲き誇る桜を見ながら、私は、今は遠い所にいる恋人に思いを馳せた。

91 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:07:21 ID:s1JoDVnM0

(*゚ー゚)(……東京は、もっと暖かいのかなぁ)

一年前、あまりにも長すぎる期間を経て、ようやく恋人になれた元友人のことを想起する。
結局、ギコ君は東京の大学で研修医になることを選んだ。

私がそう頼んだのだ。
「君は、君が本当にやりたいことをやるべきだ」と。

どう考えたって、こんな田舎よりも都会の、それも国内最高峰の大学で学んだ方が彼にとっていい経験になる。
それに、私もいい加減、極力誰にも頼らず一人で生活することに挑戦したいと思っていたことも、また判然たる事実だった。

92 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:08:53 ID:s1JoDVnM0

新生活は、私が思っていた以上に大変だった。

実家の取り壊しを中止にしたことで、土地の賃貸借から発生する筈だった収入が消えたこともあり、そこまで金銭的な余裕もない。
車椅子のまま慣れない町を動くのに慣れるまで、三か月はかかった。
絵本作家としての仕事も、編集の人にあれこれとダメ出しされる毎日だし、去年と比べて然程売り上げが伸びた訳でもない。

けれど、充実した生活だった。
休日には近所の公園で、花をスケッチする余裕があるくらいには。

こうしていると、あの時、一人であんなに取り乱したのは何だったのかと思える。
好きな人に酷いことを言って、散々不必要な遠回りをして。

…まぁ、雨降って地固まると言えば、中々悪くなかったかなと思う自分もいるのだが。

93 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:09:55 ID:s1JoDVnM0

ふと、とある二人組が目に留まった。

桜の雨が降る道を、仲睦まじげに一組の男女がゆっくりと歩いていた。
ぎゅっと手を繋ぎながら笑って歩を進めるその様は、まさに”幸せ”という言葉が似合う。
昔の私だったら睨みつけていたかもな。
そう思いながら、私は再び東京で頑張っている恋人の姿を思い浮かべる。

今、彼はどうしているだろうか。
彼は絵本の感想はめちゃくちゃ長文ですぐにくれるのだが、肝心な電話やメールはあまりくれないのだ。
まさか、自分の絵本に嫉妬する日が来るとは思わなかった。

気分を変えよう。
絵を描こうとして、再び膝上のスケッチブックを開く。
それと同時に、一際強い春風が吹いた。
無数の桜の花びらが夕日を反射して、思わず目を瞑ってしまう。

その時だった。

94 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:11:18 ID:s1JoDVnM0


「――おっと、危ない」


手から零れ落ちた鉛筆が、地面に衝突することなく誰かにひょいと拾われる。
夕日に焼かれた目をゆっくりと開けたその先には、ここにいない筈の人物が立っていた。

(;゚ー゚)「……え、幽霊…?」

(,,゚Д゚)「久々に会った恋人になんつー言い草だよ」

そう言って、彼は笑いながら「はい」とこちらに鉛筆を手渡す。
「ありがとう」と戸惑いながらに言った私は、まだ正確な現状を把握出来ていなかった。

95 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:12:56 ID:s1JoDVnM0

(;゚―゚)「えっでも、だ、だって、研修は…!?」

(,,゚Д゚)「研修医にもちょっとした休暇くらいあるよ。…まぁ、指導医の先生に『一年目のくせして働き過ぎだ』って言われただけだったりするんだけどな」

子どもの頃と同じ、照れた時に頬を右手の指で掻く癖。
にこやかに笑う彼の姿があまりに自然だったものだから、いきなり帰ってきた恋人に私は喜ぶべきなのか、それとも驚くべきなのか分からなかった。

(* ー )「…連絡くらいしてよ。馬鹿」

(,,゚Д゚)「はは、ごめんって。サプライズの方が喜んでくれると思ってさ」

(*゚ー゚)「ビックリしすぎて心臓もっと悪くなっちゃったらどうしてくれるのよ」

(,,゚Д゚)「そうなってもならなくても、責任取るつもりだよ」

“責任”という言葉に顔を上げると、ギコ君はにんまりと悪戯な笑みを浮かべていた。
揶揄われた。そう自覚すると同時にわーっと熱が顔に集まってくるのが分かる。
春の陽気のせいだと心中で言い訳しながら、私はぷいっとそっぽを向いた。

96 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:14:30 ID:s1JoDVnM0

(,,゚Д゚)「昔は俺の方が言い負かされてたからな。いつまでもガキじゃないってことだ」

勝ち誇ったように笑うギコ君を、私は車椅子の上から睨みつける。
そんなこちらの表情を見ても「ただ可愛いだけだぞ」と言い、その大きな手で私の髪を撫でた。

(*゚ー゚)「…東京に毒されちゃったのね。はーあ、昔はあんなに可愛げがあったのに」

(,,゚Д゚)「ま、色々学ぶことも多いからな。もう多少のことじゃビビらないし取り乱したりもしない。本当に良い環境だよ」

自慢げなその表情に、私は少しムッとする。
子どもの頃は私の方が口が上手くて、いつもいつもムッとさせる側だったのに。

(*゚ー゚)(……そうだ)

ふと、とあることを思いついた。
いつかギコ君が帰ってきたときに驚かせようと、準備していたこと。
まさか今帰ってくるとは思わなかったが、ちょうどいい。

97 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:15:36 ID:s1JoDVnM0

(*゚ー゚)「…ねぇギコ君。ちょっと目、閉じてて」

車椅子の向きを変えて、ギコ君の方に向き直る。

(,,゚Д゚)「…なんだ?なんかイタズラしようってのか?」

彼はニマニマとしながら、遥か高みから私のことを見下ろしている。
ギコ君はそもそも平均よりもずっと背が高い。
それに加え、私の身長は平均よりも低い上に、車椅子に座った状態では文字通り彼とは天と地ほどの差がある。

私に言われた通り、彼は目を瞑って堂々と立っている。
「この状態なら、しぃが俺に出来ることはない」
どうせそんなことを思っているのだろう。

実際そうだ。
いつもの私ならどうやったって彼の顔どころか、必死に手を伸ばしても肩にだって届かない。
この状態の私が出来ることなんて精々、腹に一発重いのを食らわせるか、持っている鉛筆をロケットよろしく顔面向けて発射させるくらいだろう。
車椅子に座ったままの私が、彼に出来るイタズラなんてたかが知れている。
それこそ、出来ても子ども染みたものばかりだ。
私ではどうやったって、昔みたいにギコ君に一泡吹かせることは出来ない。



――車椅子に座ったまま、なら。

98 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:16:52 ID:s1JoDVnM0


ガタリと、車椅子が倒れる音がした。
膝に置いていたスケッチブックと鉛筆が転がり落ちる。音に反応したギコ君が、慌てて目を開けようとする。


それよりも前に、私の唇が、彼の唇に触れた。


(* o )「…ぷはっ」


わざと音をたてて唇を離す。
幽霊でも見たかのような顔をしたギコ君と目が合う。
随分と長い付き合いだが、これは初めて見た表情だ。

99 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:34:52 ID:s1JoDVnM0

(;,,゚Д゚)「………えっ」

(*゚ー゚)「――ふふっ、ビックリした?」

彼の目が、私の顔よりもずっと下に向けられていた。
その瞳に、すぐ傍で主を失っている車椅子は映っていない。ましてや、桜のカーペットの上に落ちたスケッチブックや鉛筆も彼の眼中にないだろう。
ギコ君の目はじっと、私の両足に向けられていた。

(;,,゚Д゚)「…しぃ、お前、足……」

(*゚ー゚)「……君がいない間に頑張ったんだから。リハビリ」

わざとらしく舌を出し、呆けたままの彼をケラケラと笑う。

施設こそ変わったが、今でも歩くためのリハビリを続けていた。
少しサボってしまった時期もあったが最近は熱心に取り組んでいるのもあって、今ではほんの数歩くらいなら歩けるようにまで回復した。

車椅子から立てるようになった時、思いついたのがこのイタズラだった。
そもそも恋人になったのに、電話もメールも碌に寄越してこない向こうが悪い。
ちょっと不意を打ってキスするくらい、許されてしかるべきだろう。可愛い彼女の特権だ。

100 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:35:38 ID:s1JoDVnM0

(*^―^)「ぷっ…ふふっ…!顔真っ赤…!」

(,,゚Д゚)「〜〜っ!い、今のはズルだろ!」

(*゚ー゚)「ズルも反則もありませーん」

クスクスと笑いを隠すこともなく、それでいてギコ君から顔を逸らしながら再び車椅子に腰を落ち着ける。
…心の準備をしていたとはいえ、やっぱりコレは、私も少し、慣れない。

(*゚ー゚)「…さて、久々に帰ってきたんだからさ。しようよ、デート」

“デート“という言葉に、ギコ君がぴくりと反応したのが分かる。
相変わらず、本当に分かりやすい。これで本当に医者が務まるのだろうかとも不安になるが、それ以上に「可愛いな」と思ってしまう。
痘痕も靨とはこういう気持ちを指すのだろうか。

離れている筈なのに。会える時間も話す時間も、昔よりずっと少なくなっている筈なのに。
どうしてだろう。これ以上膨らむことはないと思っていた彼への気持ちや感情は、昔よりもずっと大きくなってしまっていた。

101 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:52:55 ID:s1JoDVnM0

(*゚ー゚)「じゃあギコ君、ちゃんとエスコートお願いね!」

(,,゚Д゚)「……はいはい。気が済むまで付き合いますよ」

昔は当たり前だった、今では当たり前じゃなくなった感触がまた私の背中を押している。
車椅子が揺れる振動が心地いい。
何の心配もない。なんなら私が自分で移動するよりもずっと安心できる温度が後ろから伝わってきた。

薄紅に染まる道の上をゆっくりと歩く。
お互いに取り留めのない話をしながら、ゆっくりと、どこに向かう訳でもなくただ公園をぐるぐると歩く。
そんな何の生産性もない行為が、笑ってしまいそうになるくらいに楽しく思えた。

102 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:54:45 ID:s1JoDVnM0

昔から、おとぎ話に憧れていた。
皆が笑って迎えるハッピーエンドを、何よりも望んでいた。

私の人生は絵本じゃない。
おとぎ話みたいに、これでめでたしめでたしとはならない。
この後もずっと私の物語は続いていく。その終わりが、ハッピーエンドかどうかはまだ分からない。

今でも忘れていない。
私は、一人じゃ何もできなかった人間だ。
本人がどう思っていようと、私は想い人の人生を狂わせてしまった咎人だ。

それでも、私は彼といたいから。
いつか何にも頼らずとも、私を救おうとしてくれたヒーローの横を、堂々と歩けるようになりたいから。
この想いだけは、間違いなんかじゃないと証明したいから。

途中で、ギコ君は立ち止まって、遠くの木を指差した。
数えきれないほどの桜が並ぶ木々の隙間。
わずかな空間から漏れる夕焼けが、散らばった桜の一枚一枚を照らして、宝石箱をばら撒いたような美しさを生み出している。

103 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 03:59:03 ID:s1JoDVnM0


隣に並んだ想い人と目が合う。漫然とした動きでしゃがみこんだ彼と目線の高さが合わさる。
覚悟を決めたような彼の表情に、私は何も言わず、ゆっくりと目を閉じる。
髪が春風で舞い上がる。同時に、唇にそっと柔らかなものが重ねられる。




夕焼けで橙色に染まった桜が、とある絵本のラストシーンのように、私達を照らしていた。

104 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 04:02:19 ID:s1JoDVnM0


(,,゚Д゚)橙、You&I、0センチのようです(゚ー゚*)


  〜おしまい〜

105 ◆21584KTLe6:2024/04/28(日) 04:03:06 ID:s1JoDVnM0
終わりです。
お読みいただき、ありがとうございました。

106名無しさん:2024/04/28(日) 21:19:11 ID:H43W2fn60
乙乙良いお話だった
しぃも端から見たら目茶苦茶努力家だし、お似合いだよ
長野に旅行してみたくなった

107名無しさん:2024/04/29(月) 03:43:23 ID:rj1rq0A.0
乙乙乙

108名無しさん:2024/04/29(月) 23:07:12 ID:DebGqY8k0

ギコしぃは正統派で綺麗なの似合うね
良い配役

109名無しさん:2024/05/01(水) 20:15:18 ID:GOK6RQvw0
綺麗な話だった…乙


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