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('A`)吊るされたガーベラのようです

4名無しさん:2024/04/25(木) 21:57:12 ID:ex.0V.UQ0








 ああ、そうだ。そんなことは、わかりきっていた。







.

5名無しさん:2024/04/25(木) 21:57:45 ID:ex.0V.UQ0




「このたびは、心よりお悔やみを申し上げます」



 愛した彼女は、もういない。



 そんなことさえ受け止められないからこそ、置いて行かれてしまったのだろうか。



 もう、とうに。



 いつから? 昨日なのか? 今日なのか? ……あるいは、今この瞬間に?



 物言う肉塊と化したはずの彼女は……そうして尚、眩いほどに美しくて。



.

6名無しさん:2024/04/25(木) 21:58:18 ID:ex.0V.UQ0













 ああ、だから――










.

7名無しさん:2024/04/25(木) 21:58:53 ID:ex.0V.UQ0













 #1 はじまり、芽吹き










.

8名無しさん:2024/04/25(木) 21:59:26 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/19】【Time: 18:00】【locate: 府相成署 刑事課】


('A`)「ふぅー……」


 いやー今日は疲れたな。
 何の変哲もない恐喝のヤマのはずが、まさかあんな大捕り物に発展するとは!

 あいつは雑技団か何かか? とか言ってたらマジでサーカス出身でやんの。
 うまいこと捕まえられたから良いものの、一歩間違ったら逃げ切られてたな。


川 ゚ -゚)「どうした埋田、溜息などついて」

('A`)「素直先輩」


 いつ見てもお美しい。
 スラっとしたスタイルに氷の彫刻のようにクールな顔立ち、宝石のような黒髪。
 どっからどう見ても「デキる女」で、見た目に劣ることなく敏腕なんだから凄い。

9名無しさん:2024/04/25(木) 21:59:59 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「いやーまさかあんなことになるとは思わなかったんで、ちょっと疲れちゃって」

川 ゚ -゚)「稀によくある。先日の犯人よりはマシだろう?」

('A`)「ああ、あの中国武術……詠春拳でしたっけ? の達人」


 そうそう、二人組のコンビニ強盗を逮捕しに行ったら同僚がバッタバッタと薙ぎ倒されたんだよな……。
 あれはビビったなー、こっちは拳銃もあるのに意にも介さないし。
 最後は日本拳法の達人である係長に取り押さえられたんだけど。


川 ゚ -゚)「係長がいなかったら発砲許可が必要だったかもな」

('A`)「発砲かあ……できれば経験したくないですねえ……」


 俺は幸運にも、まだ現場で発砲したことはない。
 射撃は上手い方だと自負はしてるが、人に向けて撃つのは……うん、ちょっと想像したくないよな。

10名無しさん:2024/04/25(木) 22:00:33 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「まあ、そうだな。うちの刑事課でも発砲上等なんてのは課長くらいだ」

('A`)「……普段の課長からは想像もできないですけどねぇ」

川 ゚ -゚)「まあ昔はそうだったって伝説だけだからな」


 刑事課長はいつも柔和な笑顔を浮かべた、いかにも優し気な紳士だ。
 だけど、時折見せる鋭い眼光が「早撃ち尾前」の伝説に信憑性を与えている。


('A`)「よっと。そろそろ上がります」

川 ゚ -゚)「む、そうか」

('A`)「お先失礼します!」

川 ゚ -゚)「うむ、気を付けて帰れよ」



 ―
 ――
 ―――

11名無しさん:2024/04/25(木) 22:01:06 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/19】【Time: 19:00】【locate: 府相成駅前】


('A`)(んー、疲れたしどっかで一杯やってくか?)

('A`)(どうせ明日の午前中は大した仕事ないし――)



 爪'ー`)



('A`)「んん?」


 んんー、どっかで見たような顔だなぁ……?
 えーと、今川……違うな、伊万里……これも違う。

    |
\  __  /
_ (m) _ピコーン
   |ミ|
/  .`´  \
   ('A`)「あっ!?」

12名無しさん:2024/04/25(木) 22:01:39 ID:ex.0V.UQ0

('A`)9m「イナッち!!」


((爪;'ー`)))ビクウッ!


('A`)「そうだイナッちだ! 稲荷フォックス!」


 そうだ、イナッちだ! 小中学校の頃の友達だ!
 間違いないと思うんだけど、あっちはまだ困惑してるな。


爪;'ー`)「ええと……? た、確かに僕は稲荷フォックスだけど……?」

('A`)「オレオレ、埋田ドクオ! 中学まで一緒だった!」

爪'ー`)「えっ……? あ、ああー! ウッツン!?」


 よっしゃ! やっぱり合ってた!

13名無しさん:2024/04/25(木) 22:02:13 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「いやー久しぶりだな! 元気してた?」

爪'ー`)「えっと、まあ、それなりに?」

('A`)「はは、変わんないな、その煮え切らない感じ」


 改めてイナッちの姿を見る……いや思った以上に変わらんな!?
 優し気な細目、妙に色っぽい鼻筋、ほっそい肩幅。声も高いし。女みたいだ、ってよく揶揄われてたっけ。

 顔だけ見りゃイケメンなのに、ボサッとした髪とヨレヨレの服装が全てを台無しにしている。
 ちゃんとすりゃモテそうなもんだが、この様子じゃ相変わらずモテないだろうな……。


爪'ー`)「これでも結構変わったつもりなんだけどね? ……見た目以外は」

('A`)「そうなのか。まあそうだよな、成人式の時も結局会わなかったもんな」


 うわ、よく考えたら都合10年くらい会ってないのか?
 逆によく気付いたな俺。

14名無しさん:2024/04/25(木) 22:02:46 ID:ex.0V.UQ0

爪'ー`)「10年くらい会ってないね。その割にウッツンも相変わらずな感じ」

('A`)「仕事以外は相変わらずだな」


 警官になったのも、刑事になったのも大きな転機ではあったな。
 ……彼女いない歴ザムライなのは相変わらず。魔法使いの足音が聴こえる。


爪'ー`)「仕事かあ。僕はプログラマーやってるけど、ウッツンは?」

('A`)「警官やってんよ」

爪;'ー`)「えっ! マジ?」


 そういう反応になるよな。自分でも似合わないと思うもんよ。
 でもなりたかったしな、なってみりゃ案外向いてた感じだし。

15名無しさん:2024/04/25(木) 22:03:19 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「マジマジ。……ってか立ち話もなんだな。この後時間ある?」


 ちょうど飲みに行こうと思ってたとこだしな!
 イナッちさえ良ければ、どうせなら旧交を温めたい。


爪'ー`)「ん、一時間くらいだったら大丈夫かな……?」

('A`)「じゃあ飲み行こうぜ!」

爪'ー`)「いいよ。あ、でもちょっと待って。奥さんに連絡しないと」

('A`)「ああそうか、奥さんに――」





 (;'A`)「奥……さん……!?」




 ―
 ――
 ―――

16名無しさん:2024/04/25(木) 22:03:53 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/19】【Time: 19:30】【locate: CafeBar MORIMORI】



 爪'ー`)('A`)



(´・_ゝ・`)「いらっしゃ――おー、ほんとにイナッちだ」

爪'ー`)「あ、どう見てもモリモリだ。こんなとこでお店やってたんだね」


 モリモリ……盛岡デミタスも中学まで一緒だった。
 たまたま再会したのは大学時代だったな。

 刀のように鋭く高い鼻、力強さを思わせる太い眉。イナッちとは対照的に男らしい顔だ。
 その割に結構細身なんだよな、見比べてみると意外と身長体重大差ないかも?

 中学生の頃は、背の順で前の方と後ろの方だった二人。
 やっぱ、変わらないってことはないんだな、と思わされる。

17名無しさん:2024/04/25(木) 22:04:26 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「俺はいつもので。イナッち何飲む?」

爪'ー`)「爽やか系で何かオススメあるかな?」

(´・_ゝ・`)「うちのオリジナル、"モリモーリ"なんてどうかな?」

爪'ー`)「じゃあそれで」


 アレかー、確かに爽やかっちゃ爽やかだけど。
 かなり好き嫌い別れるのに初手で勧めるんだもんなあ。


(´・_ゝ・`)「ほい、"カフェ・コン・セルベッサ"と……"モリモーリ"ね」

爪;'ー`)「……なあにこれぇ?」


 そのグラス、まさに森ッ!
 地面を彩るキュウリの下草に、これでもかと突き刺さるパセリの木々。
 パセリ駄目な人だったらどうすんだ? といつも思うけど、意外と外さないんだよなこの男。

18名無しさん:2024/04/25(木) 22:05:00 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「んじゃ乾杯といこうぜ。ほいお疲れー」

爪'ー`)「あ、おつかれさまー」


 キーン、と意外なほど良い音が鳴った。
 音を肴にまずは一口。……うん、コーヒーとビールの香ばしさが螺旋を描いて駆け抜ける。
 そして、絡み合う2種の苦味がたまんないんだよなー。

 さて、モリモーリはどうなったかなと目をやると、恐る恐るグラスを傾けているのが見える。


('A`)「どうだ? イケる?」

爪'ー`)「……なんか悔しいな。おいしいね、これ」

(´・_ゝ・`)b グッ!


 見た目は完全にイロモノなんだけどな。
 パセリ嫌いじゃなきゃイケる。はず。

19名無しさん:2024/04/25(木) 22:05:33 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「さてさて、それじゃあ聞かせて貰おうじゃないの」

爪'ー`)「えー……改めてそう言われるとなんか恥ずかしいな」

('A`)「じゃっかあしい。だったら店着いてからとか言うんじゃないっての」


 何を隠そう、中学時代は非モテ同盟を結成してたからな、俺ら三人。
 ……モリモリは今や割とモテるし、イナッちは結婚してるしで最早俺一人なんだけど。

 くそー、俺だって素直さんがいるもん! 脈なんか全然ないけどな!


(´・_ゝ・`)「とりあえず写真見たいな見たいなー」

('A`)「……なんだろう、見たいような見たくないような、フクザツな気分だ」

爪'ー`)「はいはい。これがうちの奥さんだよ」



 o川*゚ー゚)o

20名無しさん:2024/04/25(木) 22:06:07 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「……」

(´・_ゝ・`)「……」

爪'ー`)「……?」



 \(;'A`)/「「か、かわええ……!」」/(;´・_ゝ・`)\



爪'ー`)「ふふ、でしょー?」

('A`)「うわー、普通に想像超えて来たわ」

(´・_ゝ・`)「だねぇ」


 作り物みたいな美女……いや、美少女?
 どんぐりのようにパッチリした目、ちょこんと可愛らしくもしっかりと通った鼻筋、艶やかな唇。
 ……つか何歳だこれ? 下手したら15くらいにも見えるが……?

21名無しさん:2024/04/25(木) 22:06:39 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「つか……犯罪?」

爪'ー`)「失礼な。こう見えて僕らの一個下だよ」

(´・_ゝ・`)「ほう……それはまた見事な合法ロり」


 o川*゚ー゚)o


 そう言われて改めて見ると……まあ、納得できなくはないか。
 いやしかし可愛い。率直に羨ましい。


('A`)「って、ん……?」


 そうやってじろじろ見てるうちに、不思議な違和感を覚えた。
 なんだろう、何とも言えない違和感が……?

22 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:07:12 ID:ex.0V.UQ0

(´・_ゝ・`)「まあそう気を落とすもんじゃないよウッツン」

爪'ー`)「あー……そのうち良い人見つかる、と思うよ? 僕もそうだったし」

('A`)「だと良いけどな……はぁ……」


 まあ根本的に、モテる努力をしてこなかった俺がいけないんだけどな。
 モリモリが頑張ってモテを手にしたのは知ってるし。……イナッちは、してなそうだが。

 んーでも、人柄だろうな。ヒネた俺と違って昔から良い奴だもん、こいつ。
 それをわかってくれる相手に巡り合えた、そういうことなんだろう。


('A`)「……とりあえず、こないだモリモリが紹介してくれた美容室行くかな」

(´・_ゝ・`)「やっぱりまだ行ってなかったんだ……」


 服屋とか美容室とか、苦手意識しかないから超しんどいんだよな……。
 それを乗り越えたモリモリはやっぱすげーわ。

23 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:07:46 ID:ex.0V.UQ0

(´・_ゝ・`)「ところで奥さんの名前はなんていうんだい?」

爪'ー`)「キュート。ぴったりな名前だよね」

('A`)「どこで出会ったんだ?」

爪'ー`)「……仕事先で、ね」


 仕事……プログラマーって言ってたっけ?
 こんな可愛い子が登場しそうにないイメージだけどな……。


爪'ー`)「まあそれはよくって。それよりモリモリはどうなの?」

(´・_ゝ・`)「おっと、こっちに来た」

('A`)「こいつは血の滲むような努力の末オシャレマスターになったからな、モテるぞ」

爪'ー`)「確かに。オシャレとか全然わからないけど、髪型とか服とか凄くカッコイイね」


 職業柄もあるんだろうけど、変われば変わるもんだよなあ。

24 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:08:20 ID:ex.0V.UQ0

(´・_ゝ・`)「……実はね。そろそろプロポーズしようかと」

(;'A`)「何!?」

爪'ー`)「おー!」


 えっ、そこまで進展してたのか!?
 今の彼女と付き合いだしたのって――


('A`)「――まだ3ヶ月じゃなかったっけ?」

(´・_ゝ・`)「そうだね。でも、期間じゃないんだ」


 そう言って微笑むモリモリは……なんだかちょっと、遠い世界の住人みたいだった。
 くそー、やっぱ俺だけ完全に置いてかれてるなぁ……。

25 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:08:57 ID:ex.0V.UQ0

爪'ー`)「ねえ、僕も見せたんだからモリモリも見せてよ」

('A`)「おっ、そうだな。そうじゃないとスジが通らねぇ」

(´・_ゝ・`)「ん? いいよ、隠すようなことでもないし」



 ノパ⊿゚)



爪'ー`)「わ、可愛い。それに……なんか、イメージ通り」

('A`)「だよな。いかにもこいつの好みのタイプだ」


 モリモリは目元に拘りがあるのか、歴代彼女はどこか似た目つきをしてる。
 俺は……どうなんだろうな? 容姿にそこまでの拘りはないと思う。

26 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:09:31 ID:ex.0V.UQ0

(´・_ゝ・`)「そろそろ、ウッツン改造計画に本気出さないとかな?」

('A`)「なんだそれ、どんな計画だよ」

(´・_ゝ・`)「こないだ言ってたでしょ、職場に気になる人いるって」


 言った。確かに言ったけども。
 よく覚えてんなー、深夜2時でお互いベロンベロンだったのに。
 ……いや、俺も覚えてる時点で不思議でも何でもないか。


爪'ー`)「どんな人どんな人?」

('A`)「……控えめに言って、完璧超人?」


 容姿も能力も性格も、ケチの付け所がないからなあ。
 強いて弱点を挙げるなら、たまに真顔でギャグ言って滑るくらい?

27 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:10:04 ID:ex.0V.UQ0

(´・_ゝ・`)「そもそもフリーなんだっけ?」

('A`)「そう言ってた」

爪'ー`)「それ逆に、大丈夫な人なのかな……?」


 言わんとせんことはわかる。
 特大の地雷が埋まってるかもしれないってことだろ?


('A`)「いない歴の俺が躊躇するような地雷って何だ?」

(´・_ゝ・`)「無敵の人理論きたわ」

爪'ー`)「実はとっかえひっかえ遊んでる、とか?」

('A`)「遊んで貰えるなら十分幸せだわ」

(´・_ゝ・`)「つよい」



 ―
 ――
 ―――

28 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:10:37 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/19】【Time: 21:00】【locate: 府相成駅前】


('A`)ノシ「じゃあまたなーイナッち!」

爪'ー`)「うん、何かあったら誘ってよ。おやすみー」


 いやー旧交を温めるってのは良いもんだな。
 路地裏大サーカスに巻き込まれた疲れも吹っ飛んだ感じ。


('A`)「……よし、明日も頑張ろ」


 刑事の仕事も色々大変だけど、頼れる先輩もいるし。
 こうやって馬鹿話できる友達もいるから頑張れる、ってな。

 ……あとは彼女さえいれば順風満帆な人生、ってヤツなんだろうけど。



 ―
 ――
 ―――

29 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:11:10 ID:ex.0V.UQ0

【Side: 稲荷フォックス】


爪'ー`)「ただいまー」

o川*^ー^)o「おかえりなさい!」

爪'ー`)「いやーごめんね遅くなって」

o川*゚ー゚)o「昔の友達と会ったならしょうがないってー」


 ウッツンもモリモリも、相変わらずだったなあ。
 でも、ウッツンは昔より自信が着いた感じだったし、モリモリは何か凄くオシャレだったし……。
 それと比べると、僕は全然成長してないなーと思う。


o川*゚ー゚)o「ん? どしたの?」

爪'ー`)「いや、何でもないよ」

30 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:11:44 ID:ex.0V.UQ0

o川*゚ー゚)o「あー、まーた後ろ向きなこと考えてるでしょ?」

爪'ー`)「あはは、バレバレか」

o川*゚ー゚)o「そりゃそうだよ、フォッくんのことなら何でも知ってるんだから!」


 まったく、かなわないな。
 本当に僕なんかには勿体ない、素敵な奥さんだ。


o川*゚ー゚)o「だーいじょうぶ。フォッくんは、誰よりも素敵な旦那様だよ?」

爪'ー`)「……ありがとう。その言葉に負けないように頑張らないとね」

o川*^ー^)ノシ「よーし、頑張れー!」


 バシバシと背中を叩かれながら思う。
 この幸せが、どこまでも続いていけばいいのにって。

31 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:12:17 ID:ex.0V.UQ0

【Side: 盛岡デミタス】


(´・_ゝ・`)「ふふ、イナッちも相変わらずだったな」


 店の片づけをしながら、久しぶりに会った友人を思い浮かべる。
 いやしかし、先を越されてたのはびっくりしたね。

 まあ……僕はいっぱい寄り道しちゃったからな、先を越されても何もおかしくはないか。
 ウッツンは相変わらず一歩も進めてないみたいだけどさ。


(´・_ゝ・`)「そして、今も最後の寄り道をしている……ってね」


 他人に理解して貰えるとは思っていない。
 だけど……僕にとっては、必要な寄り道。

32 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:12:50 ID:ex.0V.UQ0

(´・_ゝ・`)「おっと、ヒートまだ起きてたのか。寝不足は体に毒だよ?」


 僕はこの仕事だから夜遅いけど、その分朝も遅いからね。
 ヒートは朝早いんだから早く寝るように言ってるんだけど……いつも僕のおやすみメッセージを待っている。

 可愛い奴だよ本当に。
 だから、申し訳ない気持ちはある。


(´・_ゝ・`)「おやすみ」


 君がこのことを知ったら……一体どんな顔をするんだろうね?
 馬鹿なことを、と思うのか。ふざけるな、と思うのか。
 ……あるいは、受け入れてくれることもあるのかな?

 ポケットから、彼女に渡すはずだったアクセサリーを取り出す。
 未来であり、過去。過去であり、未来。

 金属の冷たい感触が、やけに心地よかった。

33 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:13:23 ID:ex.0V.UQ0













 #2 生長、とめどなく










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34 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:13:57 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/20】【Time: 12:30】【locate: 府相成署 刑事課】


('A`)「――ってな感じで。いやー俺だけ独り身で肩身狭かったです」

川 ゚ -゚)「ふっ、楽しそうでよかったじゃないか。そういえば鈴木が――」


 弁当を食いながらそんな話をしていると、不意に電話が鳴った。
 やべ、頬張ったばかりで出られない……と先輩に目で合図。先輩は少し肩を竦めて受話器を取った。


川 ゚ -゚)「はい、こちら強行犯係・素直です。……なんと。はい、はい……了解です。現場は――」


 どうやらこれは出動かな?
 残った弁当を片付けて外出の準備を始める。


川 ゚ -゚)「埋田、出動だ」

('A`)「今回は何の事件ですか? 強盗? 恐喝?」

35 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:14:31 ID:ex.0V.UQ0













 川 ゚ -゚)「……殺しだ」










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36 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:15:05 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/20】【Time: 13:00】【locate: 長岡宅 門前】


川 ゚ -゚)ゝ「係長」

(,,゚Д゚)ゝ「おう、来たか二人とも」

(;'A`)ゝ「あれ、係長? 今日は普通に休みだったはずじゃ?」


 我らが強行犯係の係長・猫野ギコ警部補。
 強い男を顔面で体現した、と言わんばかりに精悍な顔つきで、プロレスラーみたいなガタイをしたバリバリの武闘派だ。
 この間の中国拳法使いとの立ち合いは、マジで映画みたいだったな……。
 今日は休みだったはずだけど……呼び出しを受けて来たにしては早すぎません?


(,,゚Д゚)「たまたま、男の叫び声を聞きつけてな」

川 ゚ -゚)「男? 被害者は女性と言っていませんでしたか?」

(,,゚Д゚)「第一発見者だ。被害者の旦那。今は自室で休んで貰ってる」


 それはまた……気の毒な。

37 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:15:38 ID:ex.0V.UQ0

(,,゚Д゚)「一旦、ざっと状況検分は済んでるが……埋田は殺しの現場は初めてだよな?」

(;'A`)「は、はい」

(,,゚Д゚)「もう一度、二人で検分してみろ。説明するより経験になる」


 係長はそう言うと、武術家らしいブレのない脚運びで門の中に入っていく。
 俺達もそれに続いた。

 ふと横を見ると、プランターに植えられた色とりどりの花が目に映る。
 花には詳しくないが、色こそ違えど全て同じ花みたいだ。

 ……凡そ殺人現場には似つかわしくない、賑やかな花々だった。





 ―
 ――
 ―――

38 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:16:11 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/20】【Time: 13:00】【locate: 長岡宅 玄関】


(;'A`)「うっ……」


 扉を潜ってすぐ、俺は立ち止まってしまった。
 充満した血生臭い臭気。それもそうだろう、白い壁は飛び散った血でべったりと赤く染められている。
 そして倒れ伏す人影。こちらもまた、頭部を中心に血の池を作っていた。

 これが、殺人現場……。


川 ゚ -゚)「大丈夫か?」

(;'A`)「は、はい」


 覚悟していた分ショックは小さい。
 これ、発見した旦那さんは本当に気の毒だな……。

 そして顔色一つ変えない素直さん、流石だ。
 初めてじゃないって言っても殺人現場なんてそう経験してないだろうに。

39 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:16:44 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「埋田、手袋をしろ」

(;'A`)「あっ、はい」

(,,゚Д゚)「わかってると思うが、鑑識係待ちだからあまり荒らすなよ?」

川 ゚ -゚)「はい、もちろんです。埋田、足元も気をつけろよ」


 遺体は玄関入ってすぐ、左側の扉の少し奥にある。
 少し着衣の乱れた若い女性。生者なら眼福なところなのに、死体となるとこんなに嫌なもんか。

 開いたままの扉の中は、どうやらトイレのようだった。
 特に血痕などもなく、素直さんも中を一瞥だけして遺体の傍に寄る。



 ミセ* ー )リ



.

40 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:17:17 ID:ex.0V.UQ0

(;'A`)「うわ……」


 左の首筋に、パックリと開いた切り傷。恐らく、傍らに落ちているシースナイフによる一撃。
 素人目――刑事は素人ではないが――殺人現場初心者の俺が見てもわかる。
 これは、どう見ても致命傷だ。


川 ゚ -゚)「ふむ……鋭利な刃物で左の頸動脈を切断。恐らくはほぼ即死。ここまでは良いか?」

(;'A`)「はい」

川 ゚ -゚)「では、どういう状況からそこに至ったと思う?」


 そう言われて、大きな切り傷に吸い付けられていた目線を剥がす。
 見ていくと、腕の外側にもそれなりの深さの切り傷があるな。
 若干の着衣の乱れも踏まえて考えると――


(;'A`)「……恐らく、多少の揉み合いを経て殺害された?」

41 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:17:50 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「恐らくな。そして、殺害された位置とその時の被害者の向き、そして犯人の位置関係は?」

(;'A`)「血痕の様子から考えて、この位置に立った状態で、玄関の方を向いて……正面から殺された?」

川 ゚ -゚)「私も同じ見解だ。犯人が右利きなら、という但し書きが着くが」


 ただ、それって……?


(;'A`)「……不審人物とかなら、もっと逃げてそうですよね?」

川 ゚ -゚)「気付いたか。つまり、犯人は知人か……あるいは業者などの可能性もあるな」


 知人……一番に思い浮かべてしまうのは、第一発見者だけど……。
 確かに第一発見者が犯人であることは多い、ってのは聞く。
 でもなぁ……。

42 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:18:23 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「付け加えるなら、だ。犯人はプロではない」

(;'A`)「まあ、そうなりますか。不意を打っただろうに多少の抵抗はされちゃってますし……」

川 ゚ -゚)「そう考えると、そこまで深い信頼のある知人ではないのかな? というところも想像が立つ」


 ああ、そうか。確かにそうかもしれない。
 例えば俺が、正面に立ったカーチャンに不意打ちで刺されたら、まともに抵抗できるとは思えない。
 まさか攻撃されるとは思ってもみないからな。

 つまり、最も信頼しているであろう旦那さんが犯人である可能性は、低い。
 ……なんか、その仮説だけでちょっと救われた気がしてしまう。

 いやもうさ、俺の頭の中で「玄関開けたらこの状況に出くわした可哀想な人」になっちゃってんだよな旦那さん。
 あんまり先入観持つのはよくないとは思うんだが。

43 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:18:57 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「とまあ、こんなところですかね、係長?」

(,,゚Д゚)「流石だな、素直。殺しの現場2回目とは思えん」

(;'A`)「えぇ……マジですか?」


 やっぱこの人、意味わかんないくらい凄い。
 2回目って何だ2回目って、どう見ても場数踏んだベテランだったんだけど……。


(,,゚Д゚)「被害者は長岡ミセリ、25歳。この家の専業主婦だ」


 25……俺より年下なのか。
 割と新婚だったのかな……ますます旦那さんが気の毒になってくる。


(,,゚Д゚)「第一発見者である旦那の長岡ジョルジュには多少話を聞いたが、いまいち要領を得なかった。落ち着いてからもう一度話を聞く必要があるな」


 その時、表からサイレンの音が聞こえてきた。
 鑑識係が到着したかな?

44 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:19:30 ID:ex.0V.UQ0

(,,゚Д゚)「……鑑識が入る前に一つ。素直、お前が見落としていた要素がある」

川 ゚ -゚)「それは……?」

(;'A`)「え、係長、何を……?」



 係長は、被害者の衣服を慎重に捲り上げた。



 本来さぞ煽情的であっただろうその腹部には、大小多数のあざが刻まれていた。



.

45 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:20:03 ID:ex.0V.UQ0

川;゚ -゚)「こ……れは……?」

(,,゚Д゚)「……恐らく、事件と直接的な関係はない」

(;'A`)「関係はないって……」


 じゃあ、どうしてこんな……ボコボコに殴られたみたいに。


川;゚ -゚)「……DV……?」

(;'A`)「えっ……?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中の「可哀想な旦那さん」の幻像がガラガラと崩れ去った。


(,,゚Д゚)「……ナイフ持ってんのにこんな殴り合いをする必要はないからな」


 二人の間に深い信頼がなかったとするなら、それは……!

46 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:20:37 ID:ex.0V.UQ0

(,,゚Д゚)「だが、あんまり早合点はするなよ? 捜査に決めつけは禁物だ」

川 ゚ -゚)「そう、ですね。疑わしい条件に当て嵌まる、あくまでそれだけのこと」


 捜査に決めつけは禁物。係長の口癖だ。
 実際先日のコンビニ強盗だって、ただの食い詰めと決めつけてたらヤバかったかもしれない。


(-_-)ゝ「ギコ警部補。鑑識係、小森巡査部長以下二名到着しました」

(,,゚Д゚)ゝ「来たか、よろしく頼む。ここは俺が仕切る、二人は付近の聞き込みを」

川 ゚ -゚)ゝ('A`)ゝ「「了解しました」」


 ミセ* ー )リ


 去り際にふと、先程はあまり目を向けなかった被害者の顔をちらっと見る。
 ……生前は、あのプランターに咲く花みたいに可憐な人、だったのかな……そんな風に思った。



 ―
 ――
 ―――

47 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:21:10 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/20】【Time: 14:30】【locate: 長岡宅近辺】


川 ゚ -゚)「ご協力ありがとうございました。失礼します」


 聞き込みを始めてわずか10分。
 いきなり有力な証言があった。


('A`)「運送業者の制服の男、ですか」

川 ゚ -゚)「付近に業務車両がなかったというのはいかにも怪しい」

('A`)「確かに不審ですね、車がないのは」


 運送業者の制服なら、扉を開けさせることも不可能ではないしな。
 仮にそこで押し入ったんだとするなら、もっと抵抗が激しくなっていそうではあるが……。

48 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:21:44 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「身長170cmくらいで細身の男……ふむ」

('A`)「どうして男ってわかったんでしょうね?」

川 ゚ -゚)「良い着眼点だ。恐らく、身長や髪型の印象からの判断だろうな」

('A`)「あー……思い込みの可能性もある、と」


 まあそうだよな、知らん人のことなんて普通ジロジロ見ないし、見たって細かいことは忘れちまう。
 どうしたって大雑把な印象になってしまうのは否めない。


川 ゚ -゚)「ただまあ、私が言うのもなんだが170cmある女はそう多くはない」

('A`)「それはそうですけどね」


 そういう意味では男である可能性は高い、それは間違いないか。
 素直さんはどう見ても170超えてるけども。



 ―
 ――
 ―――

49 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:22:17 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「ふむ、これがそうか」


 聞き込み開始から1時間ほど。もう一つ気になる証言があった。


('A`)「小型焼却炉……今はもう火が入ってなさそうですね」


 現場からそれほど離れていない資材置き場。
 土日は基本的に使われていないらしいここで、小型焼却炉が稼働していたらしい。
 隣人によると、さほど目立たないながらも煙が上がっていたとのこと。


川 ゚ -゚)「……とりあえず管理業者に連絡だな。後は鑑識係に引き継ごう」

('A`)「ですね。事件と関係があるかはわかんないですけど」


 あるとしたら、証拠隠滅。
 とはいえ凶器は現場に落ちてたから、後は何だ?
 ……燃やされたのが作業着だったりしたら、運送業者のフリをした人間が犯人の可能性が俄然上がってくる。

50 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:22:50 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「――はい、ご協力ありがとうございます」

川 ゚ -゚)「では、後ほど鑑識担当者から改めてお電話差し上げます。はい、失礼します」

('A`)「やっぱり使ってなかった感じですか」


 ってかこんな資材置き場に置くには立派な焼却炉だな。
 普段何燃やしてるんだろう?


('A`)「そういえば、消防法とか大丈夫なんですかね?」

川 ゚ -゚)「うちの県ではこのタイプは大丈夫……だったと思うぞ?」

('A`)「へー、そうなんですね」


 まあ、田舎のご家庭でよく見るドラム缶の延長みたいな奴じゃないしな。
 結構良い値段しそうだし、業者もそれくらいは調べてるだろう。

51 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:23:24 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「さて、そろそろ時間だな。署に戻るとしよう」

('A`)「ですね。戻ったら事情聴取かぁ……」


 旦那さんと、訪れた野次馬の中の「身長170cmで細身の男」二名だったか。
 んーでも、任意の事情聴取を素直に受けるってことは犯人ではなさそうか……?
 そうとも限らないか、普通に受けといて支離滅裂なこと言い出す恐喝犯とか結構いるし……。


川 ゚ -゚)「何をボーっとしてる、さっさと乗れ」

('A`)「あっ、はい!」


 急いで運転席に乗り込む。
 いつの間にか、空には曇天が広がり初めていた。

 この事件の行く末を暗示するかのように。



 ―
 ――
 ―――

52 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:24:06 ID:ex.0V.UQ0
【side: 猫野ギコ】


(,,゚Д゚)「♪〜」


 久々の休暇。嫁はサークルで息子は部活。
 頼まれた家事は午前中で終わらせたし、午後は久々に道場で鍛錬するか〜。
 ウキウキ気分で自転車を走らせていると――


「う、うわああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

(;,,゚Д゚)「何だ!?」


 住宅街に響き渡る男の悲鳴。
 咄嗟に自転車を止め、声の出所を探る。……あそこの家か?
 門の中に駆け込む。

53 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:24:40 ID:ex.0V.UQ0
 _
(; ∀ )「……っ!」

(;,,゚Д゚)「大丈夫ですか!?」


 玄関の扉を開けたままへたり込む男。
 彼の傍に駆け寄り、中を覗き込む。


(;,,゚Д゚)「これは……!?」


 中は、酷い有様だった。
 倒れ込む女性。壁にべったり着いた血。
 あの出血量では、恐らく……!


(;,,゚Д゚)「私は警察です。府相成署の猫野警部補といいます。あの女性の安否を確認させて頂いても?」
 _
(; ∀ )「けい……さつ……? 警察……!」

54 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:25:13 ID:ex.0V.UQ0
 _
(;゚∀゚)「た、頼む。あいつは……俺の嫁なんだ」

(;,,゚Д゚)「わかりました……! 失礼します!」


 血痕など踏まないよう慎重に近づき、安否確認をする。
 ……予想はしていたが……これはもう……。


(;,,-Д-)「……残念ですが」
 _
(;゚∀゚)「なっ……!?」


 死後硬直が始まっている……蘇生の見込みはない。
 本当に……残念だ……。
 首の切り傷といい、傍らに落ちたナイフといい、着衣の乱れといい、これは――

 殺し、か。

55 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:25:47 ID:ex.0V.UQ0













 #3 やがて、花芽










.

56 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:26:20 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/20】【Time: 15:30】【locate: 府相成署 取調室前】


川 ゚ -゚)ゝ「係長」

(,,゚Д゚)ゝ「おう、丁度いいタイミング。まずは旦那の事情聴取だ、内容は基本お前らに任せる」

('A`)ゝ「了解です」


 役割分担は車の中で相談してある。
 今回は俺がメインの尋問、素直さんは基本、調書の記録って分担だ。

 さて、旦那さん……長岡ジョルジュさんか。
 DVクソ野郎疑惑は果たして……?


 ―
 ――
 ―――

57 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:27:28 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/20】【Time: 15:30】【locate: 府相成署 取調室】


('A`)「事情聴取を担当する埋田巡査部長です。こちらは――」

川 ゚ -゚)「素直巡査部長です」
  _
( ゚∀゚)「……おう」


 第一発見者・長岡ジョルジュは、草臥れたような声で返事をした。
 なんというか……日本人離れした造詣のイケメンだな。目鼻立ちが素晴らしく整っている。
 肉食獣を思わせるようなギラッとした目つきが特に印象的だ。


('A`)「長岡さん。長岡ジョルジュさんで間違いありませんね?」
  _
( ゚∀゚)「ああ」

('A`)「それでは早速ですが。事情聴取を開始させて頂きます」


 さて……どうなるかな?

58 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:28:01 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「まず、被害者は奥様で間違いありませんか」
  _
( ゚∀゚)「……おう」

('A`)「……心よりお悔やみを申し上げます」
  _
( ゚∀゚)「ああ……」

('A`)「現場で尋ねられたと思いますが、奥様のご遺体を発見した時のことについて、詳しく教えてください」
  _
( ゚∀゚)「……俺は、昼飯は大抵家で食うんだけどよ」

('A`)「はい」
  _
( ゚∀゚)「今日も……12時過ぎくらいか。家に帰ったわけだ」

('A`)「はい」
  _
(  ∀ )「そんで玄関の扉を開けて……そしたらあいつが……!」


 長岡は俯いて拳を震わせる。
 怒り? 悲しみ? ……それはよくわからないが、強い感情を向けていることは確かだ。

59 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:28:34 ID:ex.0V.UQ0
 _
(; ∀ )「嫁が……ミセリが、血塗れで倒れてたんだッ!」
 _
(;゚∀゚)「何が何だかわからなかった……どうしてあんな……ッ!」

('A`)「……」
 _
(;゚∀゚)「それで、わけわかんなくなって大声上げちまって……そしたらイカツイ刑事が」


 発見は12時過ぎ、そのまま大声を挙げたなら……係長の話との矛盾はないな。
 ここで気になることは――


('A`)「ドアのカギは、開いていましたか?」
 _
(;゚∀゚)「……えっ? ……あッ!? そうだ、鍵が開いてた! そういえばおかしいなと思ったんだ!」


 まあ、そのはずだ。
 仮に鍵を締められる人間が犯人だったとしても、鍵を締めることにメリットはないからな。

60 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:29:08 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「他に何か気づいたことはありませんか?」
  _
(  ∀ )「……あいつだ」

('A`)「あいつ……?」
  _
(# ゚∀゚)「あんのストーカー野郎だ……ッ! あいつがやったんだッ!!」


 長岡は拳を震わせながら叫ぶ。
 ストーカー野郎……本当にそんな奴がいたなら、犯人の可能性は高いな。


('A`)「その、ストーカー野郎と言うのは……? 犯人に心当たりがあるんですか?」
  _
(# ゚∀゚)「ああ゛!? 心当たりなんてもんじゃねえっ!!」


 酷く興奮してるな……これが演技なら大した役者だぜ。

61 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:29:41 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「……」
  _
(  ∀ )「ふうっ、ふうっ」

('A`)「……落ち着きました? で、誰なんですかそいつは?」
 _
(;゚∀゚)「そ、それは……」


 えっ? そこで言い淀むの……?

  _
( ゚∀゚)「……どこの誰なのかは知らねえ。けど、あいつが庭仕事をしてる時を狙って来てた、ストーカー野郎がいやがったんだ」

('A`)「ふむ……? それは奥さんがそう仰っていた、ということですか?」
  _
( ゚∀゚)「ああ。だが、それだけじゃねぇ。俺も一度だけそいつを見た」

('A`)「ほう……?」


 うーん……これは。
 メインの証人が死人……信憑性は怪しいな。

62 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:30:14 ID:ex.0V.UQ0
  _
(# ゚∀゚)「あんにゃろう……ぶん殴ってやろうとしたんだが、逃げられちまった」

('A`)「その、ストーカーの背格好はわかりますか?」
  _
( ゚∀゚)「ン……俺より背は低かった、と思う。あと、かなりヒョロく見えたな」

('A`)「服装や髪型、あと顔の印象などは?」
  _
( ゚∀゚)「オフホワイトのジャージだったのは覚えてる。髪型は……ツーブロックだった、か? 顔は……鼻が長かった、と思う」


 ふむ……演技っぽくはない返答、だな。作り話にしては曖昧すぎる。
 マジでそういうストーカーがいたのか……?


('A`)「オフホワイト……ブランドですか?」
  _
( ゚∀゚)「イタリアのブランドだ」


 そこだけ覚えてるの、すげーリアリティある。
 装いからしてブランドものとか好きそうだし、興味あることは覚えてるもんだからな。

63 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:30:51 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「……もし、そのストーカーが容疑者として挙がったとして。写真を見れば判別できますかね?」
  _
( ゚∀゚)「ん……自信ねーな、正直。男の顔なんて興味ねーし……」

('A`)「まあ……参考になれば十分なので、その時はよろしくお願いします」


 思ったより理性的、だな。わかるに決まってんだろ馬鹿にしてんのか、くらい言うかと思ったんだが。
 正直、DVクソ野郎っぽさは薄れていくな……。


('A`)チラッ

川 ゚ -゚)コクッ


 ……聞きたいことは聞けた、の合図。
 こっからは一番の核心であり……これの後では他の話は聞けない可能性もある。

64 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:31:24 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「ところで……奥さんのお腹のアザ。何かご存じですか?」
  _
( ゚∀゚)「あ……?」

('A`)「多数のアザが、奥さんのお腹に」
  _
( ゚∀゚)「……知らねえな。少なくとも昨日の夜にはなかったぜ。犯人がやったんじゃねぇのか?」


 ……打って変わって嘘っぽいなぁ。
 思ったより冷静なのは変わらずだが。


('A`)「そう、ですか。……何か思い出したらいつでも言ってくださいね?」
  _
( ゚∀゚)「ああ」


 こいつはDVクソ野郎なのか? そうじゃないのか? ……クロ寄りのグレーってとこか。
 そして長岡が犯人なのであれば、それはDVクソ野郎の延長線上であるはず……。

65 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:31:57 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「これは念のための確認なんですが……午前中は何をされていましたか?」
  _
( ゚∀゚)「あ? 仕事だよ仕事。外回りの営業だ」

('A`)「営業先はどちらでしょうか?」
  _
( ゚∀゚)「は? ……何だ、俺を疑ってんのか?」

('A`)「いいえ全く。明らかにそのストーカー野郎が犯人ですよね? でも、全ての可能性を検討するのが規則なんです」


 まあそんな規則ないけどな。うちの強行犯係のポリシーではある。


('A`)「正直聞くまでもないんですが、上司……さっき仰ってたイカツイ人ですけど。説明しないと物凄い叱責されるんですよ……俺を助けると思って、教えて貰えませんか?」


 埋田流奥義、社畜泣き落とし!
 これ、意外と効くんだよ……かなり相手は選ぶけど。
 話してみて、こいつには効くんじゃないかなと思ったから……ここは仕掛ける。

66 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:32:34 ID:ex.0V.UQ0
  _
( ゚∀゚)「……パチ屋」

('A`)「は……?」
  _
( ゚∀゚)「昼まではずっとパチ屋にいたって言ってんだ。駅前のエクシード」


 おっと……これはマジっぽいやつきたな?
 さっき聞いた話だと、死亡推定時刻は午前10時過ぎ……パチ屋にいたウラが取れればアリバイが成立する。

  _
( ゚∀゚)「……会社には言うなよ?」

('A`)「はい、もちろんです。助かります」



 ―
 ――
 ―――

67 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:33:07 ID:ex.0V.UQ0













('A`)「えっ……?」










.

68 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:33:41 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/20】【Time: 16:30】【locate: 府相成署 取調室】


爪'ー`)


('A`)「……えっ、と。……イナッち?」

爪'ー`)「昨日ぶりだね」

('A`)「まさかイナッちだったとは……」


 言われてみれば確かに、身長170cm、細身の男……!
 でも、まさか野次馬に来てたなんてな。


('A`)「イナッちも野次馬とかするんだな」

爪;'ー`)「しなきゃよかったなーと思ってるとこ」


 そりゃそうだ、まさかの警察署にお呼ばれだからな。

69 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:34:15 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「それで……本当にただの野次馬だったのか?」

爪'ー`)「近所で事件があったら気になるでしょ」

('A`)「気になるのと見に行くのとは違う。意味もなく見に行くのは……いかにもイナッちらしくない」

爪'ー`)「……」


 そうなんだよ、らしくない。だから驚いた。
 これがモリモリならそんなに驚かないんだけどな。


('A`)「被害者は長岡ミセリさん、なんだけど……知り合いか?」

爪'ー`)「……まあ、どうせ調べたらバレるだろうから言うけど。大学時代の元カノ」

('A`)「へぇー、大学時代の――なんですと?」


 えっ、元カノ……? えっ?

70 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:34:48 ID:ex.0V.UQ0

爪'ー`)「大学3年まで付き合ってたね」

('A`)「……なる、ほど。どうして別れたんだ?」

爪'ー`)「あっちの浮気。いやーあの時は荒れた荒れた」


 あっけらかんとした様は、それさえも良い思い出だと言わんばかりだ。
 まあ、もう結婚してるしなあ……そんなもんなのかな、という気はする。


('A`)「念のために聞くけど……恨みとかは」

爪'ー`)「ないない、そもそもあれは僕が悪かったし」

('A`)「というと?」

爪'ー`)「いやー……初めてできた彼女だったから、さ。どうにも下半身ばっかになっちゃって……はは」


 うわ、生々しい……ってかイナッちも人並みに猿になったりするんだな……。
 全然イメージなかったわ。

71 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:35:22 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「実は未練があったりだとかは……」

爪'ー`)「ないって。僕にはキュートがいるし」


 うーん、だよなぁ……相手は相手で旦那いるし。
 とはいえそう簡単に割り切れないのが男女関係、ともよく聞くが……俺にはわからん世界。
 そういや、被害者とキュートさん、顔の造詣似てたような……モリモリに劣らず顔に拘り勢か。


('A`)「旦那さんとは面識ある? 長岡ジョルジュさん」

爪'ー`)「ないよ。そもそも家を知ったのだってたまたまだし」

('A`)「そうだ、そういえばどうして元カノの結婚後の新居なんて知ってたんだ?」


 よく考えりゃおかしい話だ。結婚式に招待されたわけでもあるまいに。
 ……いや、リア充の間ではそういったこともあると聞いたことはあるが。
 わ、わからん……いない歴ザムライの俺には……!

72 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:35:55 ID:ex.0V.UQ0

爪'ー`)「や、ほんとにたまたま。家の前通りがかった時にバッタリと」

('A`)「そんなことある……?」


 これは俄然アヤシイ。まさかのダブル不倫……? え、マジ? この人畜無害そうな顔して……?


爪'ー`)「もー、そういう反応になると思ったから話したくなかったんだよ……」

('A`)「いやだってお前、そりゃそうなるよ」

爪'ー`)「嘘だったらもうちょっとそれらしい嘘つくよ。そこまで馬鹿に見える?」


 それは……まあ、そうかもしれないが。
 さりとてなあ……まあ、それは一旦置いておくか。

 イナッちが犯人とは到底思えんが……もし不倫してたとするなら、事件に何か影響している可能性もある。

73 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:36:28 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「それは一旦置いとくか。今日の午前中何してたか聞いていいか?」

爪'ー`)「アリバイってやつ? 午前中は家にいたよ」

('A`)「それを証明できる人は?」

爪'ー`)「キュートも家にいた」


 ふむ……なるほど。
 ただ、夫婦となると……アリバイとしての確度は低くなると言わざるを得ない。


('A`)「他に誰かと話したりしてないか? お隣さんとか」

爪'ー`)「あー……口裏合わせてるかもって? そういうことなら、今スマホ出せる?」


 スマホ……? 何だ? まあ出すけど……。

74 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:37:02 ID:ex.0V.UQ0
〜〜〜

o川*゚ー゚)o「こんにちはー、キューティーのズボラ―工房です!」

 ブイーン!

o川*゚ー゚)o「今日は、超簡単なズボラーマフィンを作っていきます!」

 ブイーン! ブブブブッ!

o川;*゚ー゚)o「ちょっとぉー、掃除機止めてー! 配信始まってるよー!」

 \あーごめんごめん!/

o川*゚ー゚)o「まったくもー、みんなごめんねー?」

o川*゚ー゚)o「それじゃあ気を取り直して」



.o川*^ー^)o「今日もやってくぞー! えい、えい、おー!」

 \えい、えい、おー!/

〜〜〜

75 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:37:35 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「……えーと」

爪'ー`)「これ、朝から生配信してたんだけど。証拠にならないかな?」

('A`)「あー……確かにイナッちの声も入ってたな……」


 なるほど……? 配信開始は……10:00か。
 しかもこれ毎週土曜日やってんじゃん、アリバイ作りのためにでっち上げたってわけでもない。

 チャンネル登録者数は……なんだか微妙な感じだが。


('A`)「んーでも、これってリアルタイム性保証できるんだっけ?」

爪'ー`)「え、それは……そうだと思ってたけど。詳しくないからあんまり自信ないかも……」

('A`)「確か録画でもいけた気がすんだよなあ……なあ、コメント拾ったりはしてないのか?」

爪'ー`)「ん、ああ、最後の方でやってたと思うよ。気になるなら後で確認してみて」


 うーん、それなら十分アリバイになりそうだな。
 まあイナッちを疑ってるわけでもないが……。

76 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:38:09 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「そういえば……被害者はストーカーされてたって話なんだけど」

爪'ー`)「えっ、そうなの?」

('A`)「何か誤解されるような行動を取ってたってことはないか?」

爪'ー`)「いや、誤解されるも何も……会ったのは家の前でバッタリした一度きりだよ、そもそもあの辺そんなに通らないし」

('A`)「そのバッタリした時、旦那に殴られそうになったりはしなかったか?」

爪'ー`)「別にそんなことはなかったけど……ちょっとだけ話してすぐ別れたし」


 んー……これは旦那に写真見せてみればわかる気がするし、こんなもんでいいか。
 あとは何か聞いとくことあるか? むぅ……不倫疑惑は完全には拭えずか……。



 ―
 ――
 ―――

77 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:38:43 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/20】【Time: 17:30】【locate: 府相成署 取調室】


(´・_ゝ・`)


('A`)「うん、なんとなくそんな気はしてた」

(´・_ゝ・`)「なんだいそれ?」


 身長170cm、細身の男……! しかもこっちはいかにも野次馬してそう!
 現時点で疑わしい3人のうち2人が昨日会った友達って……そんなことある?


('A`)「野次馬とか好きだよな、モリモリ」

(´・_ゝ・`)「否定はしないけど……今回はちょっと違うんだよね」


 む……?

78 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:39:16 ID:ex.0V.UQ0

(´・_ゝ・`)「被害者、ミセリなんでしょ?」

('A`)「……知り合いだったのか?」

(´・_ゝ・`)「所謂元カノってやつだね」

('A`)「そうか、元――何だって?」


 今、元カノって言ったか? 聞き間違いか?
 嘘だろ、そんなことあるか?


(´・_ゝ・`)「元カノ。高校の頃だけど」

('A`)「えぇー……お前もかよ」

(;´・_ゝ・`)「えっ、ウッツンもミセリと付き合ってたの!?」

(#'A`)「俺じゃねーよ! イナッちだよ!」


 俺はいない歴だって言ってんだろーが!

79 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:39:50 ID:ex.0V.UQ0

(;´・_ゝ・`)「えぇーイナッちが? それはそれで意外だ……」

('A`)「……それで。モリモリはどうして別れたんだ?」

(´・_ゝ・`)「あっちの浮気で」

(;'A`)「浮気症か故人は……?」


 また浮気かよ。
 こりゃ今も浮気してても何もおかしく……む、そうなると……。

 そうなると、イナッちかモリモリが浮気してたって可能性も……無視はできないな。
 友達は信じたいが、それとこれとは別だ。
 あ、そういやヒートさんも被害者と目元が似てたかも……イナッちといい好み全開だな……。


(´・_ゝ・`)「あー……イナッちも浮気で別れたんだ?」

('A`)「らしい」

(´・_ゝ・`)「ミセリらしいっちゃらしい……」


 らしいのか……。

80 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:40:24 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「未練とか恨みとか、そういうのは」

(´・_ゝ・`)「なーんにも。何なら恋の相談に乗ったりもしてたし」

('A`)「ん……? え、別れた後普通に友達やってた感じ? 今も?」

(´・_ゝ・`)「そうだね。恋の相談のどれかはイナッちだったりしたのかな?」


 こ、こいつの感覚が俺にはわからん……俺だったら仄かな未練を持ち続けちまう気がする。
 いや、確かにモリモリらしい……らしいんだが……。


(´・_ゝ・`)「僕もファッションの相談とかしてたしね。最近はないけど」

('A`)「うーむ。俺にはわからん世界だ。つか彼女怒んないのか?」

(´・_ゝ・`)「それで別れたこともあったね」

('A`)「えぇ……?」


 彼女より女友達優先してるようにしか思えないんだが……本当に大丈夫なのかそれ?

81 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:40:57 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「……まさかストーカーってモリモリじゃないだろうな?」

(´・_ゝ・`)「ストーカー?」

('A`)「旦那が言ってたんだよ、被害者が庭仕事してるときに会いに来る男がいるって」

(´・_ゝ・`)「あ。それ僕だ」

('A`)



(#'A`)「……てめーなのかよぉぉぉぉ!?」



 いやもう、何なの!?
 こいつの恋愛観念マジでわかんない!

82 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:41:31 ID:ex.0V.UQ0

(´・_ゝ・`)「へぇ……ストーカーねぇ。旦那さんの中ではそういう話になってるのか」

('A`)「そういう話も何も、より一層タチ悪い気がするんだが……?」

(´・_ゝ・`)「いや、実際ヒートと付き合い始めてからは連絡絶ってたんだよ」

('A`)「あん? さっきと言ってること違わね?」


 俺の頭は限界だよ、ちょっとは手加減してくれ。


(´・_ゝ・`)「言ったでしょ、期間じゃないって。それくらい大切に想えるのは初めてなんだよ」

('A`)「うーん……一定の理解はできる。でも、ならどうして通い妻みたいな真似を?」

(´・_ゝ・`)「……ちょっと、ただ事じゃない相談受けちゃって」

('A`)「むっ……? それはまさか……」

(´・_ゝ・`)「旦那のDVがヤバい、って」


 そう、来たかぁ……。

83 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:42:04 ID:ex.0V.UQ0

(´・_ゝ・`)「しかもわざわざ実家の家電から。ただ事じゃないでしょ?」

('A`)「それは……旦那が家電や携帯の履歴を監視してるってことか?」


 むぅ……だから直接会いに行っていた?
 一応、筋は通ってるが……。


(´・_ゝ・`)「まあ、話は毎回堂々巡りだったんだけど。僕が警察に行けって言って、あっちがそれはできないって答える」

('A`)「あのー、それってあちらさんは何がしたかったんですかね……?」

(´・_ゝ・`)「さあ、ね。誰かに聞いて欲しかっただけなのかもしれないし……あるいは、攫ってでも欲しかったのかも? ……自分で現状を変える勇気がないから」


 それは……なるほど。わからなくもない話だ。
 しっかし、聞くだに凄いな二人の奇妙な絆……ほんと別世界って感じ。

84 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:42:37 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「……一旦、話はわかった。その上で……何か思い当たることはないか?」

(´・_ゝ・`)「最近のミセリの様子とか、犯人らしき人とか? うーん……ミセリは、いつも通りだったと思う」

('A`)「ふむ」

(´・_ゝ・`)「犯人については……僕の立場では、旦那がついに一線超えちゃったようにしか見えないね」


 飄々としたモリモリが珍しく負の感情で顔を歪める。これは怒り……いや、嫌悪?
 ……まあ、そんだけ特別な絆があった友達(?)が暴力振るわれて、殺されて、だもんな。

 ただなあ……どこまで本当なのか。
 実は普通に浮気してましたって可能性も、全く否定はできないんだよな。

 ストーカーの件についてはこいつだとして。
 そうなると、犯人は一体……? まさかとは思うが――

85 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:43:10 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「……午前中、何してた?」

(´・_ゝ・`)「家で映画見てたけど」

('A`)「誰かと会ったりは、しなかったか?」


 もし、モリモリにアリバイがないと……俄然怪しくなってきてしまう。
 頼むから、誰かと会っててくれ……!


(´・_ゝ・`)「アリバイかあ……誰かに会ったといえば、お隣に回覧板届けたくらいかな」

('A`)「! それは、何時ごろ?」

(´・_ゝ・`)「そうだね……10時よりは前だったかな? たぶん」


 おお……! いや、まだ何とも言えんな……それが9時とかだったなら、何のアリバイにもならない。
 これは、隣人に話を聞く必要がありそうだ。



 ―
 ――
 ―――

86 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:43:44 ID:ex.0V.UQ0













 #4 蕾、それはまだ










.

87 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:44:18 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/21】【Time: 9:00】【locate: 府相成署 刑事課】


川 ゚ -゚)「では、今日の行き先はパチ屋、稲荷宅、盛岡宅のお隣だな」

('A`)「はい。それぞれのアリバイを示す証人を当たる形ですね」

川 ゚ -゚)「今のところ、三人ともシロ、というのも全然あり得るな」

('A`)「というか、その可能性が高くないですか? 誰かしらアリバイが駄目だったら若干疑わしいですけど」


 イナッちもモリモリも怪しいこと言ってたけど、いずれも浮気に関してアヤシイだけだもんな。
 アリバイが崩れたから即犯人、とはならない。
 旦那さんもそこは同じ、疑わしさで言えば割とイーブンな状態。


川 ゚ -゚)「さて、どうだろうな……私的には盛岡の話は創作に聞こえたが」

('A`)「あー……割と独創的な奴なんで、はい。俺はどっちかというとイナッちの話の方が……」


 バッタリ、の方が胡散臭く感じてはいる。
 ただ、モリモリの話は盛り盛りすぎて麻痺してるだけの可能性も……。

88 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:44:51 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「……色々考えるのは、ひとまずアリバイを洗ってからだな」

('A`)「ですね」


 そこが見えなきゃとやかく考えてもしょうがないもんな。
 できればこれで二人の疑いが晴れてくれるといいが……。






 ―
 ――
 ―――

89 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:45:24 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/21】【Time: 9:00】【locate: パチンコ・スロット エクシード】


(;゜3゜)「私が店長の田中です」

川 ゚ -゚)「どうも、府相成署の素直巡査部長です。早速ですみませんが、こちらの男性に見覚えはありませんか?」

(゜3゜)「あっ、この人。常連さんですね」

川 ゚ -゚)「昨日の午前中、来店していたかわかりますか?」

(゜3゜)「昨日の午前中……うーん、見かけたような気はしますが……」

川 ゚ -゚)「すみませんが、防犯カメラの映像を確認させて頂いても?」


 店長はどうやら、旦那さんの顔に見覚えがあるようだ。
 記憶があいまいなのであれば、ちょっと時間ははかかるがしょうがない。



 ―
 ――
 ―――

90 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:45:58 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/21】【Time: 10:00】【locate: パチンコ・スロット エクシード】


川 ゚ -゚)「……いたな、それらしい人物」

('A`)「はい。顔は良く見えませんが、髪型や背格好は一致してますね」


 恐らく、旦那さんで間違いないだろう。
 開店から昼前まで……ってかサボりすぎじゃね?


川 ゚ -゚)「素行の悪さは気になるが……アリバイとしては成立か」

('A`)「うーん……」


 それだけサボれるだけ有能、ってことなのかもしれないな。
 金に困っている様子はなかったし。

91 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:46:32 ID:ex.0V.UQ0

(゜3゜)「いかがでしたか?」

川 ゚ -゚)「ありがとうございます、貴重な証拠が得られました」

(゜3゜)「それはよかった。……あの、何かしたんですかあの方?」

川 ゚ -゚)「いや、どちらかというと被害者側です。プライバシーもありますので、あまり吹聴しないで頂けると」

(゜3゜)「ああ、そうなんですね。もちろん、無暗に言いふらしはしません」


 どちらかというと、ね。
 少なくとも殺人に関しては、シロである可能性が高まった。

 ……被害者が亡くなってる以上、DVについては真実であっても立件難しいだろうしなぁ。



 ―
 ――
 ―――

92 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:47:05 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/21】【Time: 11:00】【locate: 稲荷宅前】


('A`)「……」


 イナッちが事情聴取を受けたことで、奥さんがナーバスになってる……とのことで、男の俺は車で留守番だ。
 旦那のイナッちがいりゃよかったんだろうが、急なシステムトラブルじゃ仕方ない。

 聞き込みの内容も先輩なら心配いらないしな。
 これが後輩だったら、流石に俺も着いて行ったかもしれない。

 ……しかし、遠目にチラッと見ただけだが本物も可愛かったな。
 可愛い嫁さんいて羨ましいよほんと。

93 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:47:38 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「あっ、戻ってきた」

川 ゚ -゚)「戻ったぞ」

('A`)「どうでした?」

川 ゚ -゚)「ふむ……確かに配信はこの家で撮影されたようだし、証言にも事前情報との矛盾はなかった」


 なるほど、それならイナッちが犯人である可能性もかなり低くなるな。
 ホッと胸を撫でおろす。


川 ゚ -゚)「ただ、彼女。メンタルが弱いのか? 昨晩風邪をひいて喉がやられたとか」

('A`)「あらら、確かにマスクしてましたね。ストレスが体に出るタイプなのかな?」


 そりゃイナッちもできれば女性の人にって言うよな。
 本当は傍にいてやりたかったろうに、勤め人の宿命か。

94 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:48:12 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「背丈も小さいし、守ってやりたくなるタイプというやつか」

('A`)「いや、先輩から見れば大体小さいでしょ……意外と160くらいはありそうに見えましたけどね」


 まあ、先輩とは対極のタイプであろうことは確かだな。
 先輩を守ってやりたいとか、お前はシュワちゃんかってレベルだもん。


川 ゚ -゚)「ああ、そういえば。彼、被害者との関係について話したみたいだぞ」

('A`)「えっ?」

川 ゚ -゚)「それもあって余計ショックだったのかもな」


 あー……まあ、元カノの現住所知ってるのはちょっと……うん。
 何かあるんじゃないかって思うよな。俺だってそう思う。そんな相手はいないけど……。



 ―
 ――
 ―――

95 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:48:45 ID:ex.0V.UQ0

【Date: 4/21】【Time: 12:00】【locate: 盛岡宅前】


('A`)「アパートでも回覧板ってあるもんなんですね」

川 ゚ -゚)「ん? まあ、確かに珍しい気はするな」


 各部屋回すの大変だろうにな。
 案外、誰も何も言わなかったら続いてるもんなのかもしれない。


('A`)「お隣は関ヶ原さん、でしたっけ」

川 ゚ -゚)「だったな。伝言したとはいえ、在宅だといいが」


 呼び鈴を鳴らすと、すぐに男の声が返答してきた。

96 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:49:18 ID:ex.0V.UQ0

「はい、どなたでしょう?」

川 ゚ -゚)「府相成署の素直巡査部長です。捜査の関係で少しお話を伺いたく」

「あっ、はい。ちょ、ちょっと待ってください」


 待つこと暫し、扉が開いた。


(;"ゞ)


川 ゚ -゚)「刑事課の素直巡査部長です」

('A`)「同じく、埋田巡査部長です」

(;"ゞ)「ど、どうも。関ヶ原です」


 目つきが特徴的な若い男だ。
 急に刑事が来たからか動揺の色が濃かった。
 ……モリモリには伝えとくように言ったんだけどな。

97 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:49:52 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「もしかして、盛岡さんからお話伺ってませんか?」

(;"ゞ)「いえ、聞いてましたけど……刑事の人と話すなんて初めてなので」


 真面目で小心なタイプなのかな、と感じる。
 少なくとも、下手な嘘をついたりはしなさそうだ。


川 ゚ -゚)「では、お伺いしますが。昨日、盛岡さんから回覧板を受け取ったのは間違いありませんか?」

(;"ゞ)「ええ、はい。確かに受け取りました」

川 ゚ -゚)「できるだけ正確な時間を教えて頂きたいです」

(;"ゞ)「10時10分くらいだったと思います。テレビの番組が始まって少ししたくらいだったので……」


 ……ふむ、そうなると。
 モリモリのアリバイも概ね問題なさそうに思えるな。
 ここから現場までは車なら10分かからないが、モリモリは車持ってないからな。

98 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:50:25 ID:ex.0V.UQ0

('A`)「……ちなみにですが、盛岡さん。最近変わった様子とかありました」

( "ゞ)「いえ、特には……そもそもたまに挨拶する程度なので」


 んーまあ、ただの隣人だしそんなもんか。
 口裏合わせとかしてる可能性は……正直低いな。


川 ゚ -゚)「ではもう一つ。付近に見慣れない車が停まっていたりはしませんでしたか?」


 む、レンタカーとか疑ってる感じかな?
 ……後で照会だけはかけておくべきだろうな。


( "ゞ)「見慣れない車……いえ、覚えがないです。盛岡さんがたまに乗ってる――たぶんレンタカーですかね? それもなかったです」


 ふむ、なるほど。

99 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:50:58 ID:ex.0V.UQ0

川 ゚ -゚)「ご協力ありがとうございます、大変助かりました」

( "ゞ)「あ、いえ、とんでもないです」


 頭を下げてその場を後にする。
 これで三人のアリバイのウラは取れたわけだが……?



 ―
 ――
 ―――

100 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:51:32 ID:ex.0V.UQ0

【side: 三瀬ミセリ】


ミセ*゚ー゚)リ「ねえ****、今日が何の日か知ってる?」

(  )「」

ミセ*^ー^)リ「わ、よく知ってたね! そう、オレンジデー! だからはい、これ!」

(  )「」

ミセ*゚ー゚)リ「ふふー、どういたしまして。……えっ、嘘、****も用意してくれたの!?」

ミセ*^ー^)リ「ありがとー! 大好きッ!」

(  )「」

ミセ*゚ー゚)リ「ねえねえ、開けていい? 開けていい?」

(  )「」

ミセ*^ー^)リ「それじゃあ……わっ、ガーベラのクッキー!」

101 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:52:05 ID:ex.0V.UQ0

ミセ*゚ー゚)リ「私の好きな花だし、4月18日はガーベラ記念日だから時期柄もいいね! 流石は****!」

(  )「」

ミセ*^ー^)リ「ふふー、私の方はオレンジデーに因んでオレンジのケーキ! おいしそうでしょ?」

(  )「」

ミセ*゚ー゚)リ「えー、そんなことないよ? 作るの楽しいし、結構横着してるから」

(  )「」

ミセ*゚ー゚)リ「ね、紅茶淹れるから待ってて。一緒に食べよ? ……ん? 何?」

(  )「――、ミセリ」

ミセ*^ー^)リ「……うん、私も大好きだよ、****!」

102 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:52:38 ID:ex.0V.UQ0

【side: 長岡ジョルジュ】

  _
( ゚∀゚)「くそ、まさかあの書類置き忘れるとはなー」


 昨日寝る前に確認してた書類を家に忘れたことに気付き、一時帰宅する。
 別に明日でもいいじゃねーかと思うんだが、上司に言われちゃ仕方ねえ。

 駐車場に車を停めて家の近くまで歩くと、何やら話し声が聞こえた。
 何を言ってるかはよくわからないが、片方は男の声。
 そしてもう片方は……俺の嫁の声だった。

  _
( ゚∀゚)「何かの勧誘でも来てやがんのか?」


 もしそうなら叩き出してやる、そう思って門を潜ると。
 嫁と至近距離で向かい合って立つ、オフホワイトのジャージの男がいやがった。

103 ◆48WTRPZhs.:2024/04/25(木) 22:53:12 ID:ex.0V.UQ0
  _
( ゚∀゚)「おい、誰だテメェ?」

(´・_ゝ・`)「おっと……」

ミセ;*゚ー゚)リ「じょ、ジョルくん?」


 まさかとは思うが、浮気か……?
 いや、ミセリはそんなことできる女じゃねぇ。ちゃんと躾もしてる。

 販売員の服装でもねぇ。
 ってことは――

  _
(# ゚∀゚)「おい、何黙ってんだよ。ぶっ殺すぞ!」

(;´・_ゝ・`)「うわっと!?」


 俺が掴みかかると、男は身をかわしやがった!
 そして、俺の脇をすり抜けるようにして逃げていく!


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