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ファイナルのようです
1
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 12:04:52 ID:oT3/1QlE0
オレンジデー祭り参加作品です
32
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 12:51:48 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
(´・ω・`)「…ああ、そういう事か。」
ショボンさんはズボンのポケットから自分のスマホを取り出して、指紋認証をした。
(´・ω・`)「最近みんな仕事が忙しくてな。中々サイトの方を見られなくて悪かった。」
どうやら専用板は、ファイナルの古参OBが制作し、複数人で管理している物だったらしい。
この事は秘密にしろと、ショボンさんから言われた。
(´・ω・`)「これか。…酷いな。」
('A`)、「はい…。」
(´・ω・`)「俺らの時代もこういうのはあったよ。だけど、アマチュアが遠くの人に自分の話を読んでもらえる驚きとか、人気になって感想が欲しいって気持ちの人の方が多かったかな。」
(´・ω・`)「忠告しておくから、戻ってピザ食ってこい。」
('A`)「…すみません。ありがとうございます。頂きます。」
____________________________
33
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 12:52:50 ID:oT3/1QlE0
その晩帰宅してから板を確認すると、トップとクーのアンチスレには、『今後迷惑行為を確認した場合、登録中の各学校へ相談をさせて頂きます。』といった表記が追加されていた。
ブーン芸部に入部し、専スレを利用する際には、何かあった時のために通っている学校を登録する決まりがあるのだ。
荒らしをしていたのが他県の部員か、読み専…外部からの人間か、両方なのかは分からない。
だけど監視の目に怯んだのか、結果としてショボンバルサンはよく効いた。
____________________________
34
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 12:54:22 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
川 ゚ -゚)「…ドクオ、ありがとうな。」テクテク
('A`)「え?」
暫くしてファイナルへ行く途中で、クーが俺を見ながらそう言った。
川 ゚ -゚)「ショボンさんから聞いたんだ。私のところに来る荒らしをどうすれば良いか、相談してくれたって。」
その際にクーも、ショボンさんが運営に関わっているという話を聞いたようだ。
('A`)「…結局、人頼りだったけどな。」
('A`)「普段小説で人の心を書いているはずなのに、どうすれば自分の言葉で相手に伝わるのか、分からなかった。」
川 ゚ー゚)「そこまで考えていたなんて、ドクオは凄いな。」
川 ゚ -゚)「デレ達からも、相談に乗るとメッセージは来ていたんだ。」
川 ゚ -゚)「だけど断った。…楽観視していたんだ。」
川 ゚ -゚)「…私はただ、飽きられるのを待っていただけだ。板の雰囲気が良くないのを放置して、周りへの配慮が無かったと今更ながら後悔しているよ。」
('A`)「ふざけて書いた訳じゃないのなら、クーの落ち度は無いだろ。」
川 ゚ー゚)「…それでも、他人に頼る事が出来るドクオは、私よりもうんと大人だ。ありがとう。」
川 ゚ー゚)「そういうドクオの良いところが、小説の中にも練り込まれているんだろうな。次の話も楽しみにしているよ。」
(;*'A`)ゞ「あ…、ああ。」
____________________________
35
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 12:56:18 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
('A`) カタカタ
季節が過ぎた。
俺がファイナルでノートPCを開き執筆していると、ドアの先で誰かの楽しそうな声がした。
ガチャ
川 ゚ -゚)「ああ、来ていたのか。」
('A`)「その声は…クー…?」
川 ゚ -゚)「ああ。私はもうすぐ入社するから、オフィスカジュアルを練習しておくべきだとデレに突付かれてな。」
ζ(゚ー゚*ζ「これね、私がコーディネートしたの!良いでしょ〜。」
…クーは今まで、その昔秋葉原に通う男性の間でトレンドだったというアキバ系のような格好をしていた。
小説にのめり込むあまり、他の事に気を配る余裕が無いからだと言っていた。
だけど、目の前に居る女性は。
タイの付いたブラウスに、紺色のジャケットと、グレーで控えめなチェックの線が入ったロングスカートの姿だ。
初めて足首を見て、おまけにメイクまでしているから、俺は一目見た時に彼女が誰だか分からなかった。
(;'A`)「…」
俺の頭には、『クーが誰かに取られてしまう』という言葉だけが浮かんだ。
____________________________
36
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 12:58:42 ID:oT3/1QlE0
(;'A`) カタカタ
(;'A`)(今まで当たり前に通話したり隣に並んでいたけれど、それが無くなるかもしれないと思った途端に気付くなんて!俺はどんだけ鈍感なんだよ!!)カタカタ
(;'A`)(この話で俺が一番書きたかったシーンを書ききったら!クーに告白するっ!!!)カタカタカタカタ!
今連載中の『( ^ω^)達は春を迎えたいようです』は、主人公のブーンがヒロインのツンや仲間達と氷に覆われた世界を救うために、平和の呪文を集める旅をする物語だ。
主人公達は、それほど強くない。
連携しなければ勝てないような魔法での戦闘やギミックの入り交じる構成で、今ではもう社会人になったジョルジュも、SNSで頻繁にこの作品について触れてくれている。
同じ大学の後輩としてファイナルにやって来た美和ちゃんも、その見た目とは裏腹に俺が得意とするラノベ調の台詞回しが気に入ったようで、会う度に俺を称賛してくれる。
p川*゚ -゚)q「早く続きを書け!二人はいったいどうなるんだ!」
何より、クーが応援してくれている!
高校時代から書き続けたプロットノートから四本目の連載にこの物語を選んだのは、一番ボリュームがあり世界観やキャラ背景に時間をかけ、思い入れがあるからだ。
読者も多いようで、コメントも今までで一番付いているし、総合でおすすめを聞く人へのアンサーとしてもよく挙げてもらっている。
連載を重ね、今の自分には脂が乗っていると感じる。
この作品は、俺の代表作となるだろう。
37
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:00:04 ID:oT3/1QlE0
(;`A’)「うおおおおおおぉぉぉっ!!!!」カタカタカタカタカタカタ!!
話の山場は、就活と丸被りだった。
振り返って確認する安堵感など掻き捨て、とにかく目の前の物をこなした。
一旦休載すると感覚が戻らないのではないかという恐怖と、終わらないとクーに告白出来ないという自分に課したノルマを達成するために。
脚が宙に浮いたまま、前かすら分からない方向へと、高速で進んでいるような気分だった。
____________________________
38
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:01:08 ID:oT3/1QlE0
人生で一番気合を入れたシーンは、想定より何倍も上手く書くことが出来た。
(;*'A`)つ(…よしっ!いよいよクーに告白だ!えーっと、ファイナルから近くて景色のいい場所は…)カチカチ
川 ゚ -゚)「そういえば、近況なんだけど…」
(;*'A`)つ「えっ…?何?」カチ…
川 ゚ -゚)「彼氏が出来た。」
(°A°)
通話先のクーから、いつもと変わらぬ態度でそう告げられた。
(°A°)「…………オメデトウ……」
俺が小説で自信を得ようとする間、時は止まっていてはくれなかったのだ。
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39
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:04:36 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
それから、半年ほどが過ぎた。
俺はクーに失恋した後も連載にかける意欲を保ち続け、なんとか卒業までには完結の兆しが見えてきた。
('A`) カタカタ
一時の感情が幻だったのかと疑うほど、心はダメージを受けていなかった。
それはクーがクリスマスや正月も変わらず祭りに参加していて、俺との通話も頻度は多少減ったものの、続いているからだろう。
('A`)「…良いのかよ。こんな時期に彼氏を差し置いて俺と長話なんかして。」カタカタ
川 ゚ -゚)「ん…?ああ、忙しい人だからな。夕食は月に何度か共にするけれど、あまり出掛けたりはしないんだ。」
('A`)「…」
報告以降も落ち着き払っている様子から、クーが誰かと恋人らしい付き合いをしている想像が付かない。
だけど俺や周りに愚痴の一つもこぼす事無く今日まで過ごしているのだから、順調なのだろう。
(;'A`)「それにしても、そのペースじゃ創作に時間を割き過ぎじゃないか?」
川 ゚ -゚)「そうだな。勉強する日もあるけど、休みの日はほぼ丸々創作に使えるからありがたいよ。」
('A`)「彼氏は、休日に彼女が何をしているのか気にならんのかね…。」
川 ゚ー゚)「大学の頃から文芸サークルに入っているとだけ伝えてある。流石に詳細を話してアンチが付いていたなんて伝わったら…恥ずかしいからな。」
('A`)「…」
どうやらクーにとって、プライドを保ちたい相手らしい。
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40
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:06:35 ID:oT3/1QlE0
社会人になり忙しくなっても、俺は合間を縫っては創作を続けた。
それはクーも同じだ。
祭の時期が来れば、必ず俺に話しかけてくる。
他の部員との付き合いはあっても、クーがブーン系小説に関してここまで絡んでいる様子は無い。
('A`)(…もしかして、クーは後輩の面倒を見てるつもりで、それが未だに続いているのか?)
('A`)(…その可能性はあるな。美和ちゃんにブーン系の説明をしたのは主に俺だし…)
ブーン芸部は新入部員がまばらで、クーは俺に一対一で部の事を教えてくれた。
だから俺にも先輩としての経験が出来るようにという配慮なのだろう。
客観的に見れば…というより、俺から見てもクーの習慣は褒められたものではない。
彼氏持ちが他の男とサシで、こんなに長い時間を共有しているのだから。
だけどその非難は、利己的な感情による部分が大きい。
クーからすれば、学生時代からの一番の趣味を謳歌しているに過ぎず、気のおけない後輩の性別がたまたま異性だっただけだ。
俺がクーに好きだなどと言わない限り、この関係は潔白なのだ。
.
41
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:08:40 ID:oT3/1QlE0
それから数年の間。
ファイナルへの出入りは打ち上げの時程度になったものの、俺はプロットノートに書いた残りいくつかの話を書き切り、祭りにも毎度のように参加した。
そうしていく中でまた新たな話を思い付き、書いて。
気付けばこんなに長い時をファイナルで過ごしていた。
ニーソックスの似合うあの子は世界を救ったヒーローとゴールインしたし、どの主人公も路線は違えど、それぞれの終着駅へと送り届けた。
だけど。
ここ一年で、高圧のリアルに当てられ続けた俺の目はすっかり疲れてしまい、暗順応の力が衰えてしまったのだろう。
(-A-)
夜に布団の中で次はどんな話が浮かぶだろうかと幾夜目を閉じても、暗闇の先にはブーンもツンも、もう誰も待っていてはくれなかった。
.
42
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:11:21 ID:oT3/1QlE0
______________
__________
_____
ガヤガヤ
(,,゚Д゚)「本当に良いのか?あんなに良い装備貰っちゃって。」
('A`)「ああ。俺だけじゃ両親の荷物は使い切れないからな。」
両親のキャンプグッズのいくつかを、ギコに譲った。
事故はスポーツ中に起きたもので当時持ち歩いていた物では無いが、二人がアクティブ故に起きた事だったので、曰く付きの遺品ではある。
それでもギコは、快く受け取ってくれたのだ。
('A`)「今より田舎に引っ越すからなのもあるけど、まさか自分がアウトドアを始める気になるとは思わなかった。ギコが昔書いた『白熱バレー部のようです!』の、キャンプ回の影響だな。」
(,,^Д^)「ハハハ!また懐かしいモノを!」
(,,゚Д゚)「ドクオの仕事が落ち着いた頃にでも遊びに行くよ。家族連れで。」
('∀`)「娘さんが喜びそうな場所探しとくかぁ。」
(,,^Д^)「大型の公園とかな!」
43
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:12:18 ID:oT3/1QlE0
( ゚∀゚)「…迎春みたいな話、また読みてーな。」
( ゚∀゚)「いつかまた、戻ってこいよ。絶対に。」
('A`)「五七五…。」
('∀`)mg「いや、明日からもずっと板にはアクセスする予定だからなwしんみりされても困るんだけどww」
('∀`)mg「勘違いしないでよねっ!!」
(ⅲ゚∀゚)「迎春のツンたんじゃねーか!キモいファンサやめろ!吐くぞ!!」オエー!!
44
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:13:46 ID:oT3/1QlE0
ζ(゚ワ゚*ζノシ「あっちでも元気でね!私の新作が投下されたら読んでねー。」
(*'∀`)ノシ「ああ。楽しみだ!」
(*'∀`) ウィー…ヒック…
俺がファイナルを卒業すると伝えた時、グループアプリでみんなが俺の作品の振り返りをしてくれた。
だけど今日も、一人一人に挨拶をする度に俺の作品について感想を述べてくれる。
その度に酒を呑み交わしたおかげで、だいぶ酔いが回ってきた。
(*'∀`)(楽しいな…。)ヒック…
(*'∀`)(…考え直した方が良いんじゃないか?俺。)
(*'∀`)(だって、入部してから去年まではずっと、書き続けられたじゃないか!!)
明日にでもまた俺の枕元に、ブーンが現れるかもしれない。
(*'∀`)(まだ若いだろ。こんな楽しい所、卒業するのは早いだろ!)
(*'∀`)!(そうだ!!)
俺は、頭を横にずらし、隙間からクーを呼んだ。
45
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:14:45 ID:oT3/1QlE0
(*'∀`)「クー!!あのさぁ!!」
俺と結婚しよう!!!
そしたら通話なんかしなくても、新作が投下される度に隣で感想を言い合えるじゃないか!
じいちゃんばあちゃんになっても、
死ぬまで、
ブーン系を書いて、読んで、
楽しもうよ!!!
(*'∀`)「俺と!!!」
川 ゚ -゚))「?」
('∀`)
('A`)「…おれと…」
46
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:16:00 ID:oT3/1QlE0
…結婚?
俺しか知っている人が居ない土地に、クーを連れて行く?
クーの人間関係や、頑張って就いた仕事を無視して?
ファイナルにも来れなくするのか?
クーの"今"を否定して上回る程の価値が、俺にはあるのか?
川 ゚ -゚)「どうしたんだ?」
('A`)「…いや、酔っ払ってた。ごめん。」
47
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:17:49 ID:oT3/1QlE0
('A`)「ありがとうございました。そろそろ…」
時刻は21時だ。
明日も仕事の人がおり挨拶も一周したため、俺はお開きの合図を出した。
( ゚∀゚)「じゃあ、例のやつな!」
('∀`) wktk…
これはファイナルにおける、卒業式のフィナーレだ。
卒業生の誕生花を使用した花束が贈られ、拍手で見送られるのだ。
花にはあまり興味が無い俺だけど、今までの卒業生が花束を受け取る姿を見て、密かに憧れを抱いていた。
川 ゚ー゚)つ「おめでとう。」
('∀`)つ「ありがとう!」
('∀`)
(;'A`)つ□「何だよ…これ。」
48
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:19:14 ID:oT3/1QlE0
俺の誕生花は、パフィオペディルムだ。
毒々しさを持つラン科の花で、そこそこ値が張る。
だから一輪で文句は無い。
けれど俺が受け取ったのは、生花ではなく額縁だった。
硝子の先には白い厚紙と共に、ぺしゃんこになったパフィオペディルム。
川 ゚ー゚)「私が用意したんだ。」
川 ゚ー゚)「ドクオの話には、とても良い意味で渋さがあるだろう?ファンタジーなのに時代劇を読んでいる気分にもなるような。」
川 ゚ー゚)「だから、和風の家に飾ってありそうな物にしたんだ。」
クーが得意げな顔で言った。
その気持ちが分かるような…いや、分からなかった。
(;'A`)「…ありがとうございます。」
49
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:19:56 ID:oT3/1QlE0
('∀`)ノシ「みんなありがとう!それじゃあ、さようなら!!」
俺がそう言うと、大き過ぎず、だけど温かい拍手がパチパチと鳴り響いた。
そのまま玄関へと向かい、靴を履いて、後ろを振り向かずに扉を開けた。
後片付けが心配になるけれど、気を遣うとショボンさんが嫌がるので、こうするのだ。
50
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:20:51 ID:oT3/1QlE0
('A`)(春の夜は温かくて、なんだかワクワクするな。)テクテク
('A`)(みんなと別れて寂しいはずなのに…まるで麻酔みたいだ。)テクテク
('A`)(なら、家の玄関を閉じた時がヤバいな…。)
('A`)「…ん?」
遠くから、何か小さな声が聞こえる。
足音が段々と近付いてきた。
川;゚ -゚)つ「待ってくれ、ドクオっ。」
Σ('A`;)「クー!?」
川 ゚ -゚)「最後だし…。終電まで、どこかで話さないか?」
('A`;)「え…?あぁ、」
('A`)σ「じゃあ…。」
俺は、ファイナルから徒歩10分ほどかかる場所へと案内した。
____________________________
51
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:22:08 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
川 ゚ -゚)「こんな公園があったんだな。」
('A`)「斜面だから、夜ランナーも居ないし静かなんだ。」
川 ゚ー゚)「良い所にベンチがあるな。」
('A`)「ああ。座ろうか。」
それは背もたれ付きの木製ベンチで、わりと新しく作られたもののようだ。
ここは俺が、クーに告白する為に何年も前に探した場所だった。
小さな川を渡るための、人や自転車しか通れないような道や橋を歩き、狭い住宅街を抜けて突き当りの石の階段を登る。
そうすると、夜の街を見渡せるこの公園へと辿り着くのだ。
駅とはだいぶ離れるため、他のみんなも来た事は無いだろう。
52
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:23:33 ID:oT3/1QlE0
俺達は暫く、目の前に広がる夜景を眺めた。
電車が線路を走る音が少しして、遠くには沢山のマンションが見える。
綺麗で見惚れたけれど、おびただしい数のオレンジの光を見て、そこに住む人の数でもあるのかと思うと、そこには物凄いエネルギーが集結しているのだと圧倒される。
(;'A`)(ちょっと怖いな…。)
川 ゚ -゚)「ドクオ。」
('A`)「ん?」
川 ゚ -゚)「…本当に、行くのか?」
('A`)「…ああ。」
川 ゚ー゚)「寂しくなるな。」
川 ゚ -゚)「…私も、ファイナルに行くのは今日で最後にしようかな。」
('A`)「…」
('A`)「…どうして。」
53
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:25:28 ID:oT3/1QlE0
川 ゚ー゚)「ドクオもだけど、同期もかなり卒業していっただろう?」
('A`)「花は貰わないのか?卒業する時は絶対参加するけど。」
川 ゚ー゚)「…枯れた時に、悲しくなるじゃないか。」
('A`)=3
('A`)「…クーは、ギコやジョルジュみたいになるんだと思ってた。」
二人は仕事や家庭に追われながらも、未だに半月から月一での投下を続けている。
デレは年一かそれより空く間隔で気まぐれに現れては、読み切りを放り投げていく。
殆どの部員は大学時代に集中して活動し満足していくのか、社会人でこれだけ残っている世代は珍しいと、ショボンさんは言っていた。
川 ゚ー゚)「私はあんな速度では書けないよ。…あの二人はいつか、ショボンさんの後継者になるんじゃないかな?」
('∀`)「あぁ、確かにw」
今度はギコとジョルジュが板の管理人か。
俺達しか知り得ないような話題で、笑い合った。
54
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:26:25 ID:oT3/1QlE0
川 ゚ -゚)、「…私は、器用じゃないから。」
川 ゚ -゚)「私は今まで、夢中で小説を書いて読んでいた。とんでもない時間を、ブーン系小説にぶち込んでいた。」
川 ゚ -゚)「だから結婚したら、確実にバレるだろう。書いている姿を隠しきれない。」
川 ゚ -゚)「…怖いんだよ。私の小説を読まれて評されるのが。」
川 ゚ -゚)「もし内臓に触れられて千切られても感覚の無い部分があるとしたら、そこをもぎ取られるような気分だ。」
それを聞いて、俺はゾクッとした。
55
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:27:33 ID:oT3/1QlE0
(;'A`)「…アンチと旦那は違うだろ。」
('A`)「逆に気に入るかもしれないし。」
('A`)「それにクーの事を好きなら…。趣向が違かったとしても、趣味だってそっとしておいてくれるんじゃないのか?」
クーの作風はトンデモ展開を除けば、過激でも何でもない。
だから最悪の言い方をすれば、スタミナの無い素人の小説として片付けられるのだ。
川 ゚ -゚)「…。違うからだよ。大切な人に言われるのは辛いんだ。」
川 ゚ -゚)「普段はそうでも、もし喧嘩になった時に…人質にされたらたまらない。」
川 ゚ - )「私は死ぬしかない。」
そう言い切ったクーは、少し震えていた。
.
56
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:28:37 ID:oT3/1QlE0
('A`)、「そんな事は…」
川 ゚ -゚)「人は、自分の正しさを誇示したい時は手段を選ばないものだよ。…それが愛しい相手でもね。」
川 ゚ -゚)「私だって…きっとそうだ。今まで書くために集めてきた言葉を、暴力に使いかねない。」
川 ゚ - )「だから…。そろそろ良いかなって。」
川 ゚ー゚)「私もドクオと同じく、長期の読み専になるさ。みんなの話が気になるからな。」
('A`)「……」
('A`)「もうネタは無いのか?」
川 ゚ -゚)「え?」
('A`)「書きたい話、無いのか?」
川 ゚ー゚)「書けと言われたら、いくらでも書けるんじゃないかな。」
('∀`)「…書けよ。読むから。」
見えなくなった俺とは、違うなら。
57
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:30:24 ID:oT3/1QlE0
川 − -−)))
クーはゆっくりと、首を横に振った。
川 ゚ -゚)「これから確保した時間で書くとなると、今までの数倍はかかりそうだ。」
川 ゚ -゚)「一行でも上手く書けた時は、そりゃ楽しいさ。だけど投下までの間は辛いだろ。」
川 ゚ -゚)「早く投下したくても、書き終わらないと叶わない。それがもっと長くなるなんて、地獄だよ。」
川 ゚ -゚)「書いている間に世の中はどんどん変わっていく。不幸は世の中に、身近に、いくらでも落ちていて。時間をかけて本気で書いた話が、投下直前で不謹慎だと公開出来なくなる事だってある。家庭を持てば、必然的にその確率は上がる。」
川 ゚ -゚)「…」
川 ゚ -゚)、「…ごめんな。ドクオのここ一年は、まさにそれだったよな。」
('A`)「いや。おかげで本気なのは分かった。」
川 ゚ -゚)「…うん。」
58
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:31:33 ID:oT3/1QlE0
遠くでまた電車の走る音が聞こえると、クーは湯船に浸かるように、両腕をベンチにかけた。
川 ゚ -゚)「きっとさ…。書いている時の私達は、全裸だった。そしてその身で、温泉に浸かっていたんだ。」
('A`)「…温泉?」
川 ゚ー゚)「ああ。誰かがそれぞれの湯を引けば、みんなでそれに浸かって。」
('A`)
('A`)「なん…だと…」
('A`)「俺達は、混浴していたのか。」
川 ゚ー゚)「そうさ。良い塩梅だった。ずっと浸かっていたいくらいに。」
('A`)「…。」
俺は頭に浮かんだその温泉に、浸かることにした。
岩や湯気と共に、みんなの顔が見える。
不思議と首から下の身体には、それぞれが書いた話の情景が代る代る映し出されていた。
('∀`)「…そうだな。」
59
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:32:46 ID:oT3/1QlE0
川 ゚ -゚)「遠いけれど…。結婚式の招待状は、出しても良いだろうか?」
('A`)「…言っておくけど、長年の男友達なんて印象悪いぞ。美和ちゃんやデレ達で華やかにしとけ。ご祝儀は送るから。」
川 ゚ -゚)、
クーは何か言いたげだったけれど、俺は目を合わせなかった。
少しすると「仕事も忙しそうだしな」とぽつりと聞こえて、その話は終わった。
川 ゚ -゚)「そろそろ帰ろうか。」
('A`)「ああ。」
60
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:33:35 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
俺達は、帰り道の途中にあるコンビニに立ち寄った。
('A`)「悪かったな。寄ってから公園まで行けば良かった。」
('A`)σ「水、二人分買ってくるから。」
川 ゚ー゚)「なら私は、外で待っているよ。」
そう言ってクーは、額縁が入った紙袋を預かってくれた。
イラッシャイマセー
∆⊂('A`)(…こういうの、クーの彼氏ならすぐ気付くんだろうな。)
そう思いながらミネラルウォーターのペットボトルを2つ、かごに入れた。
61
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:34:19 ID:oT3/1QlE0
('A`)つ∆「はい。」
紙袋を受け取った俺は、クーにペットボトルを渡した。
川 ゚ -゚)「ありがとう。お金…」
('A`)「いいよ。額縁用意したのクーだろ。」
川 ゚ー゚)「そうだよ。」
二人でペットボトルのキャップを開けて、店の前で少し飲んだ。
('A`)(もうめったにこの道も歩かないんだろうな…)テクテク
('A`)(…誰かが、卒業でもしない限り。)テクテク
62
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:36:19 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
川 ゚ -゚)「ドクオ側の電車は10分後か。私はもう一本あるし、見送ろうか?」
('A`)「いいよ。ほら、クー側のが来ただろう。」
カタタン カタタン
川 ゚ー゚)「元気でな。」
('A`)「ああ。」
('A`)つ□「これ、ありがとうな。」
そう言って俺はクーに見えるように、紙袋を腰の辺りまで持ち上げた。
「今までずっと、ありがとう。」そう伝えたかったけれど、連絡先を消す訳ではないし、匿名とはいえ読んだスレの中で、コメントを交わす事だってあるだろう。
だから、それだけを伝えた。
電車のドアが開き、クーがそれに乗り込む。
俺が見送る形だ。
('A`)「…あれ?」
ドアがまだ閉まらない。
数秒すると、時間調整をするため少々停車するとアナウンスが流れた。
('A`)∏)) ブブッ
('A`)(クーからだ。「反対側のホームは遠いしもう行ってくれ」、か。)
クーが苦笑しながら手を振っている。
俺も手を振り返して、それに従う事にした。
63
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:38:23 ID:oT3/1QlE0
('A`)))(……長い、恋だったなぁ…。)
それは、クーに告白しようとしてからの数年だけではない。
誰かが書いた話に夢中になって、その役をこなすキャラクターを好きになって。
初めて書き込みをした日のドキドキも。
初めて投下をした日の手の震えも。
誤字脱字を出してしまった日の絶叫も。
上手く書けた時の達成感や、言葉が浮かばず一文字も書けない日の、苛立ちや焦りも。
疲れ目を増長させる、新聞配達のバイク音も。
人と比べて己の幼さを恥じた日も。
人生で一番後悔をした夜も。
自分が紡いだ言葉に、魔法を見付けた奇跡と。
褒めて貰えた時の、ニヤニヤとホッとする気持ちが混在する瞬間も。
そして俺を暖かく迎え入れてくれた、ぬるめ寄りの温泉のような場所。
ファイナルに恋をした。
64
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:39:19 ID:oT3/1QlE0
俺は、最後の最後までクーに好意を伝えられなかった。
一歩踏み出した先の不幸が、怖かったからだ。
クーがベンチで語った言葉と同じ事になってしまう未来が。
振られたり、些細な男女のいざこざで喧嘩別れなんかしたりして。
魔法が使えるはずの指が、呪いの言葉を打って。
出会った事すら嫌になって、ファイナルが嫌になって。
クーやみんなが面白いと言ってくれた俺の作品まで、こんな物邪魔だと捨てる、もしもの未来が。
65
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:40:22 ID:oT3/1QlE0
画面からふと顔を上げた時に見える、みんなの真剣な顔。
ワイワイと料理を囲む俺達を見て、満足そうな顔をするショボンさん。
面倒見が良くて、尊敬するギコ。
憧れの作家、ジョルジュ。
ムードメーカーの、デレ。
俺なんかを凄いと慕ってくれた、美和ちゃん。
俺をファイナルへと導き、いつも傍にいてくれた
川 ゚ー゚)
大好きな、クー。
怖くて仕方がなかった。
俺の一番の宝物達が、ガラクタに変わってしまうもしもの未来が。
66
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:41:03 ID:oT3/1QlE0
('∀` )))(ははっ!それってまるで、昔クーが書いた小説みたいじゃないか!なんて___)
('A` )
( 'A`)
プシュー
ガタン
カタタン カタタン
( 'A`)
('A` ))
('∀` )))(…いや。違うさ。)
67
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:42:16 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
('A`)(…。どこかの酔っ払いが、ゲロでもしたか?)
どうやらこっちの路線も出発が遅れるらしく、未だに電車が来ない。
俺はホームに備え付けられた硬いオレンジの椅子に座り、紙袋を膝に乗せた。
('A`)「…ん?何だこれ?」
額縁の裏に、受け取った時には見当たらなかった黒い汚れがあった。
('A`) …?
ガサッと紙袋から取り出すと、それは油性ペンで書かれた文字だった。
『君に気付いて大正解だった b』
b…
クーが、小説でよく使っていたグッドサインだ。
68
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:43:27 ID:oT3/1QlE0
両親の誘いに乗って山に登り、海に潜り、
空から飛び降りて、洞窟探検をしていれば。
俺はまだ、書き続けていられたのだろうか。
('∀`)(…父さん母さん。だけど俺も、大冒険をしたんだ。)
('∀`)(真っ暗な氷の山にキラキラと咲く、シリウスの欠片を見たよ。大きなポップコーンが跳ねる、トランポリンの街も!)
('∀`)(砂漠に住むアレキサンドライトのトゲを持つ剣竜の背中にだって、乗ったよ!)
('∀`)(大変な旅だったけれど、一人じゃないから寂しくなかったよ。)
('∀`)(ブーンに、ツンに…)
('∀`)(それからクーや、みんなと行ったんだ!)
69
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:44:30 ID:oT3/1QlE0
これからの俺はきっと今より様々なものを見て、色んな事を学び想うのだろう。
そうしたら、いつか。
ブーンが両手を広げ、ツンデレがツインテールを揺らして。
⊂二( ^ω^)二⊃ ξ*゚⊿゚)ξ
また、やって来てくれるだろうか?
そう思いながら、紙袋ごと額縁を抱きしめた。
終
70
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:45:19 ID:oT3/1QlE0
BGM
始まりのヒト ナチュラル ハイ
ファイナルってどういう意味なんじゃろと思って書きました。
71
:
名無しさん
:2024/04/25(木) 15:26:13 ID:yxSRmoms0
乙
72
:
名無しさん
:2024/04/25(木) 15:32:53 ID:jEpiOqG20
乙乙
全部が良すぎてびっくりした
心臓が締め付けられてる気分
良いものを読んだ
73
:
名無しさん
:2024/04/25(木) 20:04:14 ID:NF57mafI0
>>63
が好きすぎる
乙です
74
:
名無しさん
:2024/04/26(金) 02:00:49 ID:jyDKGAjo0
乙!
ブーン系へのでっかい愛を感じる作品だった
すごく好き
75
:
名無しさん
:2024/04/28(日) 17:16:43 ID:6s04VlOU0
乙
この話を読めてよかった。
76
:
名無しさん
:2024/04/29(月) 11:39:28 ID:dwQhul8Y0
あかん!泣いてしまう!
77
:
名無しさん
:2024/04/29(月) 19:06:17 ID:uO4RA8bM0
良かった
78
:
名無しさん
:2024/05/02(木) 23:47:10 ID:x3n9dMKU0
一回乙って言ったんだけどさ、なんかいいなって何日も思ってるから、もっかい乙って言うね
79
:
名無しさん
:2024/05/08(水) 13:12:47 ID:7zkwo12I0
わかる
読み終わってから何日も「よかったなぁ」の余韻味わってる
80
:
名無しさん
:2024/05/15(水) 22:31:27 ID:ueVPwedo0
遅くなってしまいましたが、お読み頂きありがとうございました。
もう一度の乙まで頂き、感無量です!
81
:
名無しさん
:2025/02/25(火) 22:24:50 ID:JoChXBYA0
面白かった
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