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ファイナルのようです
1
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 12:04:52 ID:oT3/1QlE0
オレンジデー祭り参加作品です
50
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:20:51 ID:oT3/1QlE0
('A`)(春の夜は温かくて、なんだかワクワクするな。)テクテク
('A`)(みんなと別れて寂しいはずなのに…まるで麻酔みたいだ。)テクテク
('A`)(なら、家の玄関を閉じた時がヤバいな…。)
('A`)「…ん?」
遠くから、何か小さな声が聞こえる。
足音が段々と近付いてきた。
川;゚ -゚)つ「待ってくれ、ドクオっ。」
Σ('A`;)「クー!?」
川 ゚ -゚)「最後だし…。終電まで、どこかで話さないか?」
('A`;)「え…?あぁ、」
('A`)σ「じゃあ…。」
俺は、ファイナルから徒歩10分ほどかかる場所へと案内した。
____________________________
51
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:22:08 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
川 ゚ -゚)「こんな公園があったんだな。」
('A`)「斜面だから、夜ランナーも居ないし静かなんだ。」
川 ゚ー゚)「良い所にベンチがあるな。」
('A`)「ああ。座ろうか。」
それは背もたれ付きの木製ベンチで、わりと新しく作られたもののようだ。
ここは俺が、クーに告白する為に何年も前に探した場所だった。
小さな川を渡るための、人や自転車しか通れないような道や橋を歩き、狭い住宅街を抜けて突き当りの石の階段を登る。
そうすると、夜の街を見渡せるこの公園へと辿り着くのだ。
駅とはだいぶ離れるため、他のみんなも来た事は無いだろう。
52
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:23:33 ID:oT3/1QlE0
俺達は暫く、目の前に広がる夜景を眺めた。
電車が線路を走る音が少しして、遠くには沢山のマンションが見える。
綺麗で見惚れたけれど、おびただしい数のオレンジの光を見て、そこに住む人の数でもあるのかと思うと、そこには物凄いエネルギーが集結しているのだと圧倒される。
(;'A`)(ちょっと怖いな…。)
川 ゚ -゚)「ドクオ。」
('A`)「ん?」
川 ゚ -゚)「…本当に、行くのか?」
('A`)「…ああ。」
川 ゚ー゚)「寂しくなるな。」
川 ゚ -゚)「…私も、ファイナルに行くのは今日で最後にしようかな。」
('A`)「…」
('A`)「…どうして。」
53
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:25:28 ID:oT3/1QlE0
川 ゚ー゚)「ドクオもだけど、同期もかなり卒業していっただろう?」
('A`)「花は貰わないのか?卒業する時は絶対参加するけど。」
川 ゚ー゚)「…枯れた時に、悲しくなるじゃないか。」
('A`)=3
('A`)「…クーは、ギコやジョルジュみたいになるんだと思ってた。」
二人は仕事や家庭に追われながらも、未だに半月から月一での投下を続けている。
デレは年一かそれより空く間隔で気まぐれに現れては、読み切りを放り投げていく。
殆どの部員は大学時代に集中して活動し満足していくのか、社会人でこれだけ残っている世代は珍しいと、ショボンさんは言っていた。
川 ゚ー゚)「私はあんな速度では書けないよ。…あの二人はいつか、ショボンさんの後継者になるんじゃないかな?」
('∀`)「あぁ、確かにw」
今度はギコとジョルジュが板の管理人か。
俺達しか知り得ないような話題で、笑い合った。
54
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:26:25 ID:oT3/1QlE0
川 ゚ -゚)、「…私は、器用じゃないから。」
川 ゚ -゚)「私は今まで、夢中で小説を書いて読んでいた。とんでもない時間を、ブーン系小説にぶち込んでいた。」
川 ゚ -゚)「だから結婚したら、確実にバレるだろう。書いている姿を隠しきれない。」
川 ゚ -゚)「…怖いんだよ。私の小説を読まれて評されるのが。」
川 ゚ -゚)「もし内臓に触れられて千切られても感覚の無い部分があるとしたら、そこをもぎ取られるような気分だ。」
それを聞いて、俺はゾクッとした。
55
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:27:33 ID:oT3/1QlE0
(;'A`)「…アンチと旦那は違うだろ。」
('A`)「逆に気に入るかもしれないし。」
('A`)「それにクーの事を好きなら…。趣向が違かったとしても、趣味だってそっとしておいてくれるんじゃないのか?」
クーの作風はトンデモ展開を除けば、過激でも何でもない。
だから最悪の言い方をすれば、スタミナの無い素人の小説として片付けられるのだ。
川 ゚ -゚)「…。違うからだよ。大切な人に言われるのは辛いんだ。」
川 ゚ -゚)「普段はそうでも、もし喧嘩になった時に…人質にされたらたまらない。」
川 ゚ - )「私は死ぬしかない。」
そう言い切ったクーは、少し震えていた。
.
56
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:28:37 ID:oT3/1QlE0
('A`)、「そんな事は…」
川 ゚ -゚)「人は、自分の正しさを誇示したい時は手段を選ばないものだよ。…それが愛しい相手でもね。」
川 ゚ -゚)「私だって…きっとそうだ。今まで書くために集めてきた言葉を、暴力に使いかねない。」
川 ゚ - )「だから…。そろそろ良いかなって。」
川 ゚ー゚)「私もドクオと同じく、長期の読み専になるさ。みんなの話が気になるからな。」
('A`)「……」
('A`)「もうネタは無いのか?」
川 ゚ -゚)「え?」
('A`)「書きたい話、無いのか?」
川 ゚ー゚)「書けと言われたら、いくらでも書けるんじゃないかな。」
('∀`)「…書けよ。読むから。」
見えなくなった俺とは、違うなら。
57
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:30:24 ID:oT3/1QlE0
川 − -−)))
クーはゆっくりと、首を横に振った。
川 ゚ -゚)「これから確保した時間で書くとなると、今までの数倍はかかりそうだ。」
川 ゚ -゚)「一行でも上手く書けた時は、そりゃ楽しいさ。だけど投下までの間は辛いだろ。」
川 ゚ -゚)「早く投下したくても、書き終わらないと叶わない。それがもっと長くなるなんて、地獄だよ。」
川 ゚ -゚)「書いている間に世の中はどんどん変わっていく。不幸は世の中に、身近に、いくらでも落ちていて。時間をかけて本気で書いた話が、投下直前で不謹慎だと公開出来なくなる事だってある。家庭を持てば、必然的にその確率は上がる。」
川 ゚ -゚)「…」
川 ゚ -゚)、「…ごめんな。ドクオのここ一年は、まさにそれだったよな。」
('A`)「いや。おかげで本気なのは分かった。」
川 ゚ -゚)「…うん。」
58
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:31:33 ID:oT3/1QlE0
遠くでまた電車の走る音が聞こえると、クーは湯船に浸かるように、両腕をベンチにかけた。
川 ゚ -゚)「きっとさ…。書いている時の私達は、全裸だった。そしてその身で、温泉に浸かっていたんだ。」
('A`)「…温泉?」
川 ゚ー゚)「ああ。誰かがそれぞれの湯を引けば、みんなでそれに浸かって。」
('A`)
('A`)「なん…だと…」
('A`)「俺達は、混浴していたのか。」
川 ゚ー゚)「そうさ。良い塩梅だった。ずっと浸かっていたいくらいに。」
('A`)「…。」
俺は頭に浮かんだその温泉に、浸かることにした。
岩や湯気と共に、みんなの顔が見える。
不思議と首から下の身体には、それぞれが書いた話の情景が代る代る映し出されていた。
('∀`)「…そうだな。」
59
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:32:46 ID:oT3/1QlE0
川 ゚ -゚)「遠いけれど…。結婚式の招待状は、出しても良いだろうか?」
('A`)「…言っておくけど、長年の男友達なんて印象悪いぞ。美和ちゃんやデレ達で華やかにしとけ。ご祝儀は送るから。」
川 ゚ -゚)、
クーは何か言いたげだったけれど、俺は目を合わせなかった。
少しすると「仕事も忙しそうだしな」とぽつりと聞こえて、その話は終わった。
川 ゚ -゚)「そろそろ帰ろうか。」
('A`)「ああ。」
60
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:33:35 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
俺達は、帰り道の途中にあるコンビニに立ち寄った。
('A`)「悪かったな。寄ってから公園まで行けば良かった。」
('A`)σ「水、二人分買ってくるから。」
川 ゚ー゚)「なら私は、外で待っているよ。」
そう言ってクーは、額縁が入った紙袋を預かってくれた。
イラッシャイマセー
∆⊂('A`)(…こういうの、クーの彼氏ならすぐ気付くんだろうな。)
そう思いながらミネラルウォーターのペットボトルを2つ、かごに入れた。
61
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:34:19 ID:oT3/1QlE0
('A`)つ∆「はい。」
紙袋を受け取った俺は、クーにペットボトルを渡した。
川 ゚ -゚)「ありがとう。お金…」
('A`)「いいよ。額縁用意したのクーだろ。」
川 ゚ー゚)「そうだよ。」
二人でペットボトルのキャップを開けて、店の前で少し飲んだ。
('A`)(もうめったにこの道も歩かないんだろうな…)テクテク
('A`)(…誰かが、卒業でもしない限り。)テクテク
62
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:36:19 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
川 ゚ -゚)「ドクオ側の電車は10分後か。私はもう一本あるし、見送ろうか?」
('A`)「いいよ。ほら、クー側のが来ただろう。」
カタタン カタタン
川 ゚ー゚)「元気でな。」
('A`)「ああ。」
('A`)つ□「これ、ありがとうな。」
そう言って俺はクーに見えるように、紙袋を腰の辺りまで持ち上げた。
「今までずっと、ありがとう。」そう伝えたかったけれど、連絡先を消す訳ではないし、匿名とはいえ読んだスレの中で、コメントを交わす事だってあるだろう。
だから、それだけを伝えた。
電車のドアが開き、クーがそれに乗り込む。
俺が見送る形だ。
('A`)「…あれ?」
ドアがまだ閉まらない。
数秒すると、時間調整をするため少々停車するとアナウンスが流れた。
('A`)∏)) ブブッ
('A`)(クーからだ。「反対側のホームは遠いしもう行ってくれ」、か。)
クーが苦笑しながら手を振っている。
俺も手を振り返して、それに従う事にした。
63
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:38:23 ID:oT3/1QlE0
('A`)))(……長い、恋だったなぁ…。)
それは、クーに告白しようとしてからの数年だけではない。
誰かが書いた話に夢中になって、その役をこなすキャラクターを好きになって。
初めて書き込みをした日のドキドキも。
初めて投下をした日の手の震えも。
誤字脱字を出してしまった日の絶叫も。
上手く書けた時の達成感や、言葉が浮かばず一文字も書けない日の、苛立ちや焦りも。
疲れ目を増長させる、新聞配達のバイク音も。
人と比べて己の幼さを恥じた日も。
人生で一番後悔をした夜も。
自分が紡いだ言葉に、魔法を見付けた奇跡と。
褒めて貰えた時の、ニヤニヤとホッとする気持ちが混在する瞬間も。
そして俺を暖かく迎え入れてくれた、ぬるめ寄りの温泉のような場所。
ファイナルに恋をした。
64
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:39:19 ID:oT3/1QlE0
俺は、最後の最後までクーに好意を伝えられなかった。
一歩踏み出した先の不幸が、怖かったからだ。
クーがベンチで語った言葉と同じ事になってしまう未来が。
振られたり、些細な男女のいざこざで喧嘩別れなんかしたりして。
魔法が使えるはずの指が、呪いの言葉を打って。
出会った事すら嫌になって、ファイナルが嫌になって。
クーやみんなが面白いと言ってくれた俺の作品まで、こんな物邪魔だと捨てる、もしもの未来が。
65
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:40:22 ID:oT3/1QlE0
画面からふと顔を上げた時に見える、みんなの真剣な顔。
ワイワイと料理を囲む俺達を見て、満足そうな顔をするショボンさん。
面倒見が良くて、尊敬するギコ。
憧れの作家、ジョルジュ。
ムードメーカーの、デレ。
俺なんかを凄いと慕ってくれた、美和ちゃん。
俺をファイナルへと導き、いつも傍にいてくれた
川 ゚ー゚)
大好きな、クー。
怖くて仕方がなかった。
俺の一番の宝物達が、ガラクタに変わってしまうもしもの未来が。
66
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:41:03 ID:oT3/1QlE0
('∀` )))(ははっ!それってまるで、昔クーが書いた小説みたいじゃないか!なんて___)
('A` )
( 'A`)
プシュー
ガタン
カタタン カタタン
( 'A`)
('A` ))
('∀` )))(…いや。違うさ。)
67
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:42:16 ID:oT3/1QlE0
_____
___
__
('A`)(…。どこかの酔っ払いが、ゲロでもしたか?)
どうやらこっちの路線も出発が遅れるらしく、未だに電車が来ない。
俺はホームに備え付けられた硬いオレンジの椅子に座り、紙袋を膝に乗せた。
('A`)「…ん?何だこれ?」
額縁の裏に、受け取った時には見当たらなかった黒い汚れがあった。
('A`) …?
ガサッと紙袋から取り出すと、それは油性ペンで書かれた文字だった。
『君に気付いて大正解だった b』
b…
クーが、小説でよく使っていたグッドサインだ。
68
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:43:27 ID:oT3/1QlE0
両親の誘いに乗って山に登り、海に潜り、
空から飛び降りて、洞窟探検をしていれば。
俺はまだ、書き続けていられたのだろうか。
('∀`)(…父さん母さん。だけど俺も、大冒険をしたんだ。)
('∀`)(真っ暗な氷の山にキラキラと咲く、シリウスの欠片を見たよ。大きなポップコーンが跳ねる、トランポリンの街も!)
('∀`)(砂漠に住むアレキサンドライトのトゲを持つ剣竜の背中にだって、乗ったよ!)
('∀`)(大変な旅だったけれど、一人じゃないから寂しくなかったよ。)
('∀`)(ブーンに、ツンに…)
('∀`)(それからクーや、みんなと行ったんだ!)
69
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:44:30 ID:oT3/1QlE0
これからの俺はきっと今より様々なものを見て、色んな事を学び想うのだろう。
そうしたら、いつか。
ブーンが両手を広げ、ツンデレがツインテールを揺らして。
⊂二( ^ω^)二⊃ ξ*゚⊿゚)ξ
また、やって来てくれるだろうか?
そう思いながら、紙袋ごと額縁を抱きしめた。
終
70
:
◆5iBw4nf/rQ
:2024/04/25(木) 13:45:19 ID:oT3/1QlE0
BGM
始まりのヒト ナチュラル ハイ
ファイナルってどういう意味なんじゃろと思って書きました。
71
:
名無しさん
:2024/04/25(木) 15:26:13 ID:yxSRmoms0
乙
72
:
名無しさん
:2024/04/25(木) 15:32:53 ID:jEpiOqG20
乙乙
全部が良すぎてびっくりした
心臓が締め付けられてる気分
良いものを読んだ
73
:
名無しさん
:2024/04/25(木) 20:04:14 ID:NF57mafI0
>>63
が好きすぎる
乙です
74
:
名無しさん
:2024/04/26(金) 02:00:49 ID:jyDKGAjo0
乙!
ブーン系へのでっかい愛を感じる作品だった
すごく好き
75
:
名無しさん
:2024/04/28(日) 17:16:43 ID:6s04VlOU0
乙
この話を読めてよかった。
76
:
名無しさん
:2024/04/29(月) 11:39:28 ID:dwQhul8Y0
あかん!泣いてしまう!
77
:
名無しさん
:2024/04/29(月) 19:06:17 ID:uO4RA8bM0
良かった
78
:
名無しさん
:2024/05/02(木) 23:47:10 ID:x3n9dMKU0
一回乙って言ったんだけどさ、なんかいいなって何日も思ってるから、もっかい乙って言うね
79
:
名無しさん
:2024/05/08(水) 13:12:47 ID:7zkwo12I0
わかる
読み終わってから何日も「よかったなぁ」の余韻味わってる
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