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101回目の朝のようです
50
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:43:18 ID:WoFRiOIU0
でも、けど、何で今。仮にも付き合っている人間がいて、そいつとはしてないくせに。
そりゃそうだろ、付き合ってるって言ってないし、拒否したのは俺だ。悪いのも俺。
だというのに沸々と体内に溜まっていくものがあった。黒くて重くて、しんどい気持ちだ。
(-@∀@)(女々しすぎる)
(-@∀@)(俺が拒絶したのが悪いくせに……いやでも俺、本当にフォックスとその、そういう事出来るのか?)
(-@∀@)「………」
(;*@∀@)(想像が出来ない……)
.
51
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:43:38 ID:WoFRiOIU0
ともすれば検証だ!と意気込むことにした。ずっとモヤモヤしているとパフォーマンスの質に響くのだ。
必要なことだ。いや付き合うという話をして数ヶ月も経って今更かもしれない。いや何なら付き合って数ヶ月だからこそ考える時期かもしれない、と永遠ぐるぐる考えてしまうのは身体にだって悪いだろう。恋愛中だからなのか元々のものなのか、頭の悪い思考しか出来なくなる。
(-@∀@)「あのさ、手…握手……ハンドシェイクしない」
爪'ー`)「何それ、いいけど」
キスをした話を聞いてから何日か後に、彼は当たり前のように家に来た。後ろめたさなんてこれっぽっちもないのだろう。そりゃそうだ、ただのスキンシップなんだキスなんて、彼にとっては。気にしているのはいつだって俺だけだ。でもって案外そういう事は実際には何でもなかったりするんだ。
だから、検証をする。
52
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:43:58 ID:WoFRiOIU0
(;@∀@)ノ
手を差し出す。
俺と彼にスキンシップは果たして必要なのだろうか。
もしかしたら必要はないかもしれない。そういう関係の人間だって世界にはごまんといるだろう。
テレビや何やを一緒にぼうっと見て、酒を飲んで話したり、仕事してる時は話をしなくてもそこにいて、それが不快ではなかった。彼が近くにいるのは嬉しい。楽しい。愛おしい。
たとえあれ以来、『それらしいこと』をしていなくても。楽しい、そう思う。
ただ、俺と彼は本当に付き合っているのだろうかと、しょうもないくだらない馬鹿みたいな事も思う。
そのマイナス思考を一掃するための案が、口ではなく手を引っ付ける事なのは、俺のビビり具合を推測って察してくれ。
53
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:44:58 ID:WoFRiOIU0
(;*@∀@)入('ー`爪
爪'ー`)「ふ」
爪'ー`)「なぁにこれ」
(-@∀@)「……なんだろ」
存外冷たい手が自分の手と合わさる。
にぎにぎと無遠慮に握られて、何も嫌なことは無かった。
つまるところ、触られるのも触るのも嫌悪感が無い。何をいまさらな話。学生時代、意識をしていなかった時でさえ彼との距離は人よりも近かった。
54
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:45:33 ID:WoFRiOIU0
(-@∀@)(俺……)
(-@∀@)(俺この人とそういう事が出来るかもしれないし、したいのかもしれない)
(;*@∀@)「……」
このよくわからないハンドシェイクだけで結論を出すのは早計だとしても、自分のプラスな感情を発見出来たのは悪いことではない筈だ。
彼の手の平だか僕の手の平だか、はたまた両方が温まって、その熱をまるで遭難者が見つけた小屋の灯りよろしく、救いだと思ったんだ。
55
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:45:57 ID:WoFRiOIU0
爪'ー`)「モララー手ぇあったかい」
(;*@∀@)「フォックスもでしょ」
目をじっと見てみる。相変わらず暮色蒼然とした空のように静かだった。
(;*@∀@)「あ、のさフォックス」
爪'ー`)「……、ごめん、明日早いんだった」
(;@∀@)「え!」
(;@∀@)「あ、ごめん。こんなことして時間潰しちゃって」
爪'ー`)「いや」
56
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:46:27 ID:WoFRiOIU0
一瞬、彼の目が揺れた。
そしてパッと視界が外され、歯磨きして寝るねと言われた。わかったと返事をする前にフォックスは洗面所に消えていく。
自意識過剰気味に言うなら、避けられた、気がした。そういう空気を。
.
57
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:46:54 ID:WoFRiOIU0
(;@∀@)(嫌、だったのかな)
(;@∀@)(や、それなら言うんじゃない?言うだろ?)
(;@∀@)(わからん、わからないんだって彼の考えてることは。一緒にいる時間は増えたけど、彼に関してわからないことも増えたよ)
(;@∀@)(やめろやめろ、不健全だこんな考えは。一緒にいられるだけで、それだけで幸せだろ、そうだろ)
(;@∀@)(そうだろ……)
でも、けど、もしかしたら。 実はそうなんじゃないかと、考えだしたらキリが無かった。 俺の悪癖だ。治りかけのかさぶたを剥がしたり、伸びたささくれを引きむしるような、小さな自傷行為に似ている。
.
58
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:47:24 ID:WoFRiOIU0
(-@∀@)(俺……)
(-@∀@)(好きって、言われてないんだよなあ)
.
59
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:47:46 ID:bBB0Dhw20
彼から決定的な言葉は一度も言われていない。気付いていた。わかってもいた。引っ掛かる所はそこだ。フォックスの本当の気持ちはわからない。
家に来てくれる。話してくれる。俺が拒否をしたけど、キスをしようとしてくれたこともある。だから大丈夫だって言い聞かせて数ヶ月経っていた。
(-@∀@)「気を、遣っていたんだとしたら嫌だな……」
ぽろりと、ずっと奥深くに隠していた言葉を溢した。洗面所からは水の音が聞こえるので、きっと聞こえていないだろう。
フォックスは優しい。学生時代から知っている。
俺の、あの拙い告白のなりそこないのようなものを、優しさで受け止めただけで本当は向こうは何も思っていなかったんだとしたら、どうすりゃいいんだろう。
60
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:48:09 ID:7wUWTCJs0
(-@∀@)「……」
( ・∀・)-@∩
(つ∀・)
(つ∀∩)
核心に触れて酷く落ち込んで阿保みたいだ。
馬鹿で阿呆で忙しいな俺は。
彼はやさしいから、ごっこ遊びに付き合ってくれているだけなのかもしれない。
そんなことに気が付かないまま、よくもまぁ時間を無駄にしたものだ。
61
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:48:43 ID:aqfpprRE0
フォックスは早めに布団に入り、俺もしばらくして眠った。そんなに寝ていない筈なのに早い時間に目が覚めて、ぼんやりしたままフォックスの寝顔を見ると胸が痛くなった。
スマホで時間を確認するとまぁまぁな時間。このまま起きてしまおうと布団から出てカーテンを勢いよく開ける。
62
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:49:07 ID:nmZqSFB.0
シャッ
爪'ー`)「ん……」
(-@∀@)「あ、おはよ。朝早いって言ってたからもう起こした方がいいかと思って」
爪'ー`)「……眩しい」
(-@∀@)「うん、今日天気良いもんな」
爪'ー`)「んー…」
寝ぼけているフォックスを見るのは好きだった。言ったことはない。
じっと見ると何か言われるだろうから盗み見るだけ。
63
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:49:29 ID:nO3.XWdQ0
爪'ー`)「あ、そうだ」
(-@∀@)「ん?」
爪'ー`)「モララーもうすぐ誕生日だよね。なんか欲しいものある?」
聞かれた言葉にそういやそうだったなとぼんやり思った。
欲しいもの。
64
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:49:51 ID:hDmIqQco0
(-@∀@)(欲しいもの、)
(-@∀@)(……フォックス)
爪'ー`)「ん?」
(;@∀@)
自分の考えに愕然とした。
ぱっと思い浮かんだのが 「フォックス」だった。
彼はそこにいるのに。
恋人の、筈なのに。
65
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:50:11 ID:wxcwivX.0
頭を振る。長い前髪が視界を遮る。フォックスが不思議そうにこちらを見ている。
欲しいのか、俺。付き合ってるのに。ああ、駄目だ。駄目なんだ、俺。
(-@∀@)
おれ、君が大事だな。
.
66
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:50:32 ID:1f.WmreE0
爪'ー`)「……なに、ありがとう?」
声に出ていたらしく、フォックスが少し照れたような顔をしていて、何故だか無性に泣きたくなった。誤魔化すようにそのまま言葉を口から出した。
(-@∀@)「俺、やっぱりフォックスが大事、なんだよ」
爪'ー`)「……うん?」
(-@∀@)「ごめん、フォックス、俺、君が」
爪'ー`)「うん」
67
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:51:06 ID:AAFTHtHI0
きっと隣に座ったら言えなくなってしまう言葉を、少し離れた距離で紡ぐ。今まで口にする前に考えようとしていたのに、スルスルと溢れていく。涙の代わりに溢れているような、そんな感覚だった。泣く資格も何もないのに。
(-@∀@)
俺は君が好きだった。好きな気持ちを消したくないんだ。
この気持ちを、駄目なものにしてしまうのは嫌なんだ。
だから、ちゃんとしよう。ちゃんとするためにおわりにしよう。
暗い空も明るんで静寂が欠けた時間に、俺らは別れ話をした。以前の彼の目を彷彿させる空が、少しだけ開いたカーテンから覗いていた事だけ印象的で覚えている。
フォックスはほんとうに静かに俺の話を聞いて、一通り終わった時に、うん と頷いた。
それからすごく久々に感じる顔で笑って、わかったとだけ言った。
眩しそうな顔だった。
ずっと見ていたかったけど、それは何だか自傷行為に近い気がして、見るのをやめた。
68
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:51:30 ID:/G1dOfyk0
これが、俺とフォックスがおつきあいをやめた日の、朝の話だ。
(-@∀@)
爪'ー`)
お付き合いを辞めても、音楽は辞めなかった。大好きなことだし、周りに何も言っていなかったから気まずさは少ない。
忙しない活動は俺らの事情お構いなしで、むしろそれに救われたところも、ある。
それから季節が何度も変わったけれど、ライブをしていろんなところを回って曲を作って演奏して、付き合う以前と何ら変わりなかった。
それが結局のところ、すべてなのだと、そう自分に言い聞かせるように飲み込んだ。
69
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:52:05 ID:/G1dOfyk0
( ・∀・)つⅡ
( ・∀・)「………行く準備するかあ」
長い息を吐いて持っていたグラスを置く。
彼とのことを久々に思い出して、目の前がちかちか光る。
眩しいものではないくせに、暗く静かな場所に置きっぱなしにしていたくせに、俺はいまだにあの思い出が夢のようにまばゆいものだと、思っているのかもしれない。
.
70
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:52:36 ID:/G1dOfyk0
+ + + +
早めに仕事場へ行くとメンバーのクックルがいた。
ジムから直で来たらしい。柔らかそうな髪が湿っぽいのは一汗かいた後だからか。
( ゚∋゚)「はやいなモララー、珍しい」
( ・∀・)「箱詰め作業から逃げてきた〜」
( ゚∋゚)「大丈夫なのかそれ、終わんの?」
( ・∀・)「終わらせる」
( ゚∋゚)「まあなんだかんだ言って終わらせるよな、人に荷物見られたくないもんね」
( ・∀・)「そうなのよ」
71
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:53:11 ID:/G1dOfyk0
俺の面倒な部分を知ってくれている人間なので、話をわかってもらえるのが助かる。
引越し祝いに奢るよと自販機まで連れて来られ、労いの言葉と缶コーヒーをありがたく頂戴した。
プルタブを開ける音が廊下に響いて、沈黙になるのが嫌だったから話題を探しながら目を合わせると、クックルが話し始めた。
( ゚∋゚)「そういえばさ聞いたよ、結婚するんだって?おめでと」
( ・∀・)「?」
( ・∀・)「ああ」
72
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:53:40 ID:/G1dOfyk0
一瞬何の話か全くわからずに簡単な声で返そうかと思ったが瞬時にシナプスがつながり、思い出してやはり簡単な言葉を吐き出したのだった。
先日、とはいえども結構前なのだが、久しぶりに実家に帰った際自分も聞いたばかりだった。
兄が結婚するらしい。
それはまたおめでたいことでと思ったのもつかの間、兄弟間で結婚祝いなんて何を送るのがベターなのかと頭を悩ませた。だってそんな経験がないもんさ。
そうしてわからないことは周りに聞いていけと、マネージャーに体当たりして聞いてみたのだが、奴は一人っ子だったために調べておくと言われたまま日が過ぎていた。口止めはしていなかったのでそこから漏れたのだろう。
クックルは昔、本当に昔兄と会ったことがあるし別に困ることは無いのだが、何だか自分が言われたみたいなむず痒さがあって鼻をこすった。
73
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:54:04 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「俺ほら、ねーちゃんいるから、どうだった?って聞かれたのよ」
( ・∀・)「ああ、そっか、そうだったね。クックルに聞きゃ早かったな」
( ゚∋゚)「ねーちゃん結婚した時、もう何が欲しいか直で聞いちゃったよ。金だってさ」
(;・∀・)「だよねえー!そうだとは思ってたけどもなんかさあ、なんかねえ?」
( ゚∋゚)「モララーの気持ちはわかるけどね、まあ、そんなもんだよ」
(;・∀・)「はあー、 ですよねえ」
一気に脱力してしまう。 サンプル数が1しかなくてもそれが正解だとわかるくらいには歳を重ねている。
コーヒーを飲みながら、自分がロマンチック過ぎるのか?と場違いな事を考えた。
74
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:54:29 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「結婚ねぇ…。プロポーズしたいなあ」
( ・∀・)「え、………」
クックルが髭を触りながら真顔でそんな事を宣う。
あれいま恋人いたっけ。情報が無さすぎて脳内を探る。こんなに神妙な顔をするくらい、ホの字の相手なら少しくらい耳にしていそうなものだがいかんせんわからず、何を返せば良いか口籠もってしまう。
そんな俺を見かねてか、ペシンと軽いチョップをお見舞いされた。
( ・∀・)「あだ」
( ゚∋゚)「いや相手いないけどね、憧れんじゃんって話。いいよ気ぃ遣って頑張ってスルーしないで聞けよ虚しいから」
(;・∀・)「ああ、なんだ、びっくりしたー!」
自分とはまた違う地雷原のある男なので、恋愛関係を踏んでいいのかわからないのだ。
けれどロマンチックな部分が隠さずともあるから、たまにこういった罠を仕掛けられる。無駄にびくびくしてしまった悔しさから、声が大きくなってしまった。
75
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:54:58 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「モララーはそういうの無いの」
( ・∀・)「え?」
( ゚∋゚)「プロポーズぐらいの熱い気持ちをもてあそんでるとか、誰かそれを言いたい相手とか」
( ・∀・)「てーんでないんですよねえ」
先程思い出していた過去は昔の話で、しかも話せる相手ではない。
最近何かあったかと聞かれれば悲しいかな何もない。無くはなかったかもしれないぐらい小さな事はあったけど、何だか恋愛モードにはなれず発展しなかった。
乾いてるねーバンドマンのくせになんて言われて大きな声で笑ってしまう。
76
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:55:20 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「そういう人できたら言えよ、寂しいから」
( ・∀・)「あ!あれやってよクックル、フラッシュモブ。失敗したらクックルのせいだってなじるから」
( ゚∋゚)「フラッシュモブとか絶対嫌なタイプでしょモララー」
阿保みたいなことを言って、それで笑ってくれる人がいることのなんと贅沢なことか。
俺はいい人が周りにいて、それに気付けてハッピーだ。しみじみそう思うのは良い歳の重ね方をしてきた証拠だと自分を褒めてやりたい。昔の痛いところに触れてしまったので、出来る限り自分に優しくしてあげたいのだ。
77
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:55:40 ID:/G1dOfyk0
( ゚∋゚)「……最近、元気?」
髭を摩りながら目を細めて聞いてくるクックルに首を傾げる。
( ・∀・)「んん?わかんない。兄とは会えてないのよ」
( ゚∋゚)「じゃあなくてさ、お兄さんじゃなくて、弟くんの方、モララーくんの方の話」
( ・∀・)「……おれ?」
78
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:56:12 ID:/G1dOfyk0
クックルとはフォックスよりも長い付き合いで、小学生からになる。と言っても途中で中学校に来るのをやめてしまい、暇してるというのでバンド活動に誘ったら楽しかったらしく今もこうして一緒にやっている。
飽き性で長くものを続けるのが苦手だと言っていたクックルが、演奏だけはずっと飽きないと言っているのが俺も嬉しかった。
クックルにフォックスとのことを言ってはいない。
けれど何かしら察するものがあったのか、お付き合いをやめた後、何回かご飯に誘われたりしていた。スケジュールが合わなくて結局行けなかったが、もし行っていたら相手は言わないにしても何があったかは話してしまっていたかもしれない。メンバー恐るべしだ。
79
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:56:38 ID:/G1dOfyk0
( ・∀・)「元気だよ俺は。元気すぎてダンボール10個ぐらい持てそう」
( ゚∋゚)「なら、良いんだけど。ってか元気なら早く詰め込み終わらせろよ」
含み気味にそう言って、甘ったるい匂いがこちらまで来るキャラメルなんたらなんたーらを飲んでいるクックルに、どこまで何をわかっているんだろうとドキドキしてしまう。
言えないんだよ、いくらお前でも。フォックスに悪いことはしたくないんだ。
心配おかけしてすまんねの気持ちと一緒に、缶をゴミ箱に捨てた。
( ゚∋゚)「ま、お兄さんに結婚おめでとうって伝えといてよ」
( ・∀・)「うん、言っておく」
( ゚∋゚)「打ち合わせもう始まる?」
( ・∀・)「そだね」
80
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:57:24 ID:S8xYEwMM0
( ・∀・)(結婚かぁ)
( ・∀・)(そういえば、昔フォックスと結婚式行ったな)
周りは割と早いほうで、仲の良かった友人たちの式に何度か出席をした。
どの季節のどの式の誰のであってもハッピーな人たちが厳かに一生涯を誓い合うさまはどことなくジンとくるものがあったな。
高校の共通の友達に2人して呼ばれたのだ。
桜が散る季節だったか、早々にネクタイを緩める俺に笑っていた。
.
81
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:57:51 ID:s9JOVC020
爪'ー`)『プロポーズできるってさー、すごいよね』
しみじみ言う彼の横顔が印象的だった。
(-@∀@)『えー?』
爪'ー`)『すきっていうの、結構勇気いるのにその上でしょ。すごいよね』
(-@∀@)『うーん、そうだね』
.
82
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:58:26 ID:4oF0q/Y20
( ・∀・)「……」
"(( -∀-))"ブンブン
あれはお付き合いをする前のことだったが、確かに彼から終ぞその言葉を言われることはなかったなと、余計なことまで思い出して頭をおもいっきり振った。
( ゚∋゚)「あら」
( ・∀・)「ん?」
( ゚∋゚)「フォックス、体調悪いから今日来ないって」
( ・∀・)「え」
申し訳ない事に少し気まずいなと思っていたところだった。今更すぎる話だから極力変な態度は取らないよう努めるつもりではいたが、まさか会えないとは思わなかった。あんまり体調崩すことないのに、どうしたんだろう。
大丈夫かというメールを送るか悩みに悩んで、結局やめた。
.
83
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/22(月) 17:59:08 ID:4oF0q/Y20
長くなるので今日はここまで
続きます
84
:
名無しさん
:2024/04/22(月) 19:42:49 ID:LBVdY.0s0
乙津
85
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:09:33 ID:ppuPCi7c0
朝が来ない。目を開けば明るいし、一応眠っている筈なのに。
爪'ー`)「んー……」
夢見が悪いと目覚めた時の気分も悪い。ベッドの上で目をこする。
珈琲でも淹れて優雅な演出でもしようかと立ち上がってから、買い置きがなくなっていることに気付く。
行きつけの珈琲屋に出向いたものの、ちょうど好きな銘柄が売り切れていて、じゃあ今度また、と言って日が過ぎていた。
そういうことはよくあった。欲しいものを手に入れられることが少ないのだ。 自分の運が悪い気がするのは気のせいなのだろうか。
ついていないと思うのは負けな気もするし、何よりそれでも楽しくやっている自分をみじめなものにしたくなさすぎるから、そういう風に考えたくはないが、人から言われる回数も多かった。
86
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:10:03 ID:ppuPCi7c0
『フォックス、ついてないね』
爪'ー`)(大きすぎるお世話だ)
生欠伸をかみ殺して、仕方がないから水をコップに注ぐ。
いらぬ心配を人にかけてしまった罰かもしれない。睡眠の質が下がっている理由なんてもう分り切っていた。
先日、偶然聞いてしまったモララーとクックルの会話が原因だ。
( ゚∋゚)『結婚するんだって?おめでと』
ぐらりと足元が急に重くなって、とにかくこの場にいないほうがいいと思って足が動くうちに離れた。打ち合わせは体調不良を理由に出なかった。モララーの顔を見る余裕がなかったから。
周りにスタッフも誰もいなかったのは不幸中の幸い、いや話していた内容は不幸なんかでは、ないのだけれど。
87
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:10:29 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)(恋人ができたって話はここ数年聞いていなかったのになぁ)
もしかしたら気を遣って耳に入れないようにしていたのかもしれない。
でも、俺には言わないのにクックルには話すんだ。いやクックルも聞いたって言っていたから誰かほかの人間から聞いたんでしょ、社長とかマネージャーかな、俺には話してくれるのかな。
爪'ー`)(そもそも、そもそもが)
爪'ー`)(モララー、結婚するの、まじで、なんで)
ぐるぐる思考が回り回って、息が苦しくなった。体調不良は嘘ではなかった。
いやなんでって 馬鹿か。するでしょ、そんなん。それで、言わないでしょ、俺には。
俺とモララーは昔、付き合っていたのだから。
88
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:11:02 ID:ppuPCi7c0
爪;'ー`)「……はぁ、眠…」
いつも夢には同じあの家のカーテンが出てくる。
乳白色のベルベット調のカーテンが、窓も開いてないのに揺れて何か言いたげにしていた。
俺もう、現実世界でお前に会うこと無いんだぜ。
布にわざわざそんなことを教えてやる必要は一切無いのに、傷口をなぞるように言ってやった。そうしてこれが夢だと悟り、目が覚めて大きなため息をつくのがここ最近の不服なマイブームなのだ。
悪夢はよく見るほうなので、きっと本番前に音が出ない夢や気がついたら本番の時間過ぎている夢なんかよりは数百倍マシかもしれない。
爪;'ー`)(いや嘘嘘。くるものがあるよ、この夢は)
だって自分の過去の象徴で、自分の未来にない光景だからだ。
89
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:11:36 ID:ppuPCi7c0
学生からの付き合いだった。数えると長い年月共にいる。学友で、仕事仲間で、それから。
俺がモララーを気になりだしたのはいつからかなんてわからないほど、いつの間にかだった。
近くにいるなあって思っていたのが近くにいないなに変わって、気づけば姿を目で追うように。いや、追うでしょあんなの。
おとなしいタイプかと思えば俺と好きなバンドが被ってて、一緒にライブに行けばひたすら楽しそうにしてて終わったらべらべら感想話して。
熱量が面白いやつだった。人前に立つのが苦手だと言って、客席を見えないようにするために眼鏡を外してライブをするとこだとか、現代文が苦手なくせに作詞させりゃ良い曲書いてくるとこだとか、面白いとこしか無い。
そりゃ今に至るまでに色々な衝突もあったけど、それを含めて。
90
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:12:08 ID:ppuPCi7c0
人間として好きなんだと思ってた。だって俺、女が好きだし。モララーが横にいれば楽しいけど付き合うとか考えた事もなかったよ。
でもいつかの付き合っていた彼女に、モララーの話をした瞬間「私も別に好きな人できたから」と振られた時、
もってなんだよというより先に「え、そうなの」と口に出してしまった。
俺の失敗だ。
そんなわけないじゃんという自分より、なるほどそうかという自分のほうが強かった。
すとんと思いのほか自分の奥深くに落ちるような、納得のいく二文字に、だからなんだよと若い俺は頭を振った。
例え俺がそうでも、そうであっても、それを自覚しても、自覚したからこそ、手に入らない存在だと気が付いてしまったわけだ。
91
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:12:42 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)
(-@∀@)『フォックス、ついてないね』
誰かに言われた声が頭の中で響いた。
ついてないね。
そう言って笑ったのは眼鏡をかけた学生時代のモララーだった。
食べたかったアイスがコンビニに無かった。隣で早々に自分のアイスを確保していたモララーが、楽しそうに笑いながら言う。うっせ、唇を尖らせて返せばまた、清々しく笑った顔がしばらく脳裏に焼きついて離れなかったんだ。
92
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:13:10 ID:ppuPCi7c0
だから、本当にたまたま、偶然、棚から落ちてきた牡丹餅を俺は必至でキャッチしたんだよ、あの時。
打ち合わせを兼ねて入ったカフェでいくつか他愛ない話をして、モララーは楽しそうな顔で笑っていた。
(-@∀@)「好きだなぁ」
一瞬自分の心の声が漏れたのかと思ったが、違った。モララーが言ったんだ。
主語も何もなかったけれど、表情や脈絡を考えても多分恐らくきっと俺に向けての発言だろう。そうであって欲しい俺の妄想でなければ。
心臓が爆音で跳ねて、何で返せば良いのか脳がフルで回転しているのがわかった。
爪'ー`)(あ、逃がしちゃだめだこれ)
そう、思ったんだ。これは最初で最後のチャンスなんだって。
反対にモララーはどうやって今の失言を取り消そうかあぐねている様子だった。
笑ってなんだよそれって放流すればきっともう会えない言葉だと、そう思って考えるより先に口が動いていた。
爪;'ー`)「───じゃあ付き合お」
先にも後にもこれほどダサい告白はないだろうって、ほんの少し噛みかけながらの言葉が口から溢れたのだ。
93
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:13:39 ID:ppuPCi7c0
勢いというのは怖いもので、俺は柄にも無く結構必死だったから無理矢理モララーとの付き合いを丸め込んだ。何をどうするかなんて考えちゃいなかった。今だからわかる、それもきっと良くなかった要因なんだろう。
それでもその時は手が震えるくらい、嬉しかったんだよ。
誤魔化すようにモララーの手を握って、これが夢じゃないって思う事が精一杯で何を話したかあんまり覚えてない。
だからそのあとしばらくはお互い多忙で会えなかった時、本当に付き合う事になったのか心配になったけど向こうからも連絡がなかったのでこちらからもしなかった。
仕事で会えるし。キャラじゃないし。
94
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:14:10 ID:ppuPCi7c0
(;@∀@)「あ! え、あ、う」
爪'ー`)
爪*'ー`)
ようやく会えた時にモララーが顔にありありと「どうしよう」が浮かべているのを見て思わず笑ってしまった。
可愛いなんて、同い年の、それも男に思うなんてどうかしてるのかもしれない。それでも良かった。
周りに言うか聞いてみれば血の気が引いたような真っ青な顔でしないと言われ、ほんの少し残念だと思った。そしてすぐ、自分は誰かに自慢したいのかと気付いてあまりの浮かれっぷりに恥ずかしくなったのだ。
95
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:14:33 ID:ppuPCi7c0
爪;'ー`)(そりゃそうだわ、モララーのリアクションは当然だよ。危ねー)
爪'ー`)(大事にしたい、は変か?でもなぁ、今までみたいにすぐ別れても良いって思えないんだよな)
爪'ー`)(仕事仲間でもあるし、距離感間違えないように慎重にいくか)
96
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:14:56 ID:ppuPCi7c0
昔から一緒に過ごして来て大体のことを知ってる相手に慎重ってどういう事だと自分でも謎に思ったが、付き合えているだけで嬉しくて、不思議な満足感があった。
どこで会っても誰かにバレないよう、『普通』を頑張って努めて努めて努めて、努力賞を貰っても良いぐらいだ。
爪'ー`)「……全然付き合ってる感がねえ」
それはそう。今までと同じく『普通』にしているのだから。
じゃあ何をすれば『普通』じゃなくて『恋人』なのか。
そもそもモララーは『普通』に対して何も言ってこないし、もしかしてそれで案外満足していたり、するのか?
爪;'ー`)「それは…流石にきついんだけど…」
97
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:15:19 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)〜〜♪
爪'ー`)(誰だ?)
爪;'ー`)(モララーから着信だ!)
考えていた人物からの突然の連絡に焦りスマホを落とし掛けた。
留守番登録していたことを忘れていて出る前に切れてしまった。いつもはメッセージのやり取りだけで電話なんてもしかしたら初めてだったので驚いたのだ。
すぐに掛け直すと「家に行っていいか」と聞かれ一瞬返答に詰まる。
そりゃもちろん良いけれど、モララーの真意がわからない。本当に言葉通り楽器を借りたいだけだとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしい。
98
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:15:48 ID:ppuPCi7c0
爪;'ー`)(家に来るのは良いけど、来たら何かしない自信ないしな)
爪;'ー`)「あーーー……ちょっと…」
(;@∀@)『あ、そうだよねごめん突然すぎた申し訳ない』
難色を示す声に対してモララーはするりとその話をおしまいにしようとするから、違うとわりかし強めに声を出してしまった。
爪;'ー`)「いや、そうじゃなくて、………俺が持ってくよベース、お前の家に」
(-@∀@)『え』
爪;'ー`)(モララーの家なら変な気分にもならないでしょ、あいつんち四方八方音楽に関係するもんばっか置いてあるし)
爪'ー`)「……行ってもいい?」
ええいままよ、の気持ちはあった。どうにかなれと。
電話で良かった。今きっと俺情け無い顔してる。
(-@∀@)『うん』
優しい声だった。機械越しではあるけれど。
その返事に、思いの外ホッとしてしまったのは内緒だ。
99
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:16:18 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「おじゃまします」
( ・∀・)「どうぞ〜」
学生時代に何度もモララーの家に行ったことはある。あるが今回は全然違うわけだ。何か買って行ったりすれば良かったかもしれない、でもそれはそれで意識しすぎと思われるかなんて悩んでそのままで来てしまい、少々後悔する。
部屋は片付いていて、若干居た堪れなさを感じた。
爪;'ー`)(モララー何で眼鏡外してんだ?どういう意味だ?)
爪'ー`)「てかさぁモララー、なんで眼鏡外してんの?」
( ・∀・)「と、くに意味は、ないよ」
ライブの時に眼鏡を外しているのは緊張するからだと、昔々に教えてもらった。
爪'ー`)(もしかして、モララーも緊張…してんのかな)
100
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:16:46 ID:ppuPCi7c0
目が合ってすぐ逸らされ、そのままキッチンへ消えていくモララーにそうだったら嬉しいのにと思った。
カウンター越しに覗いてみると、青くて綺麗なグラスを取り出して茶を注いでいた。
気を遣わなくて良いのに。
( ・∀・)「青いのが透けて綺麗だったから、フォックス用に良いかなって思ったんだよ」
爪'ー`)「わざわざ買ってくれたの?」
『わざわざ』なんて強調する必要なかったかと、言ってから気がついたが遅く、消すことの出来ない言葉がモララーに落ちていった。
(;・∀・)「あ。や、うち普段人来ないから食器自分のしか無くて、紙コップよりは良いじゃん、何回も使えるし」
焦るような口振り。言い訳じみた言い方をするのは照れ隠しだと、長い付き合いで知っている。本当に俺のために買ってくれたんだ。
101
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:17:40 ID:ppuPCi7c0
渡された綺麗なグラスはどっかの誰かみたいな、からっとした晴天のような色をしている。
まるで宝物を手にした気分だったんだ。
爪*'ー`)「キレーだな。サンキュー」
モララーが今日どんな気持ちで声をかけてくれたのかはわからないが、それでもこいつなりに色々考えてくれているのが嬉しかった。
102
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:18:12 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「明日さあ、こっからのほうが近いから泊ってもいい?」
わりと話し込んだ後のこと。そういえば言うのを忘れていたなと思い出して尋ねた。
これは下心があるわけではなくて、本当の話だった。いや何かしら進展があれば良いとは思うけど、きっと何もできないだろうさ、最初なんて。
断られると思っていなかったので、モララーの丸い目が揺れたことに焦った。
爪;'ー`)「なんかまずかった?」
( ・∀・)「や、大丈夫、だけど。あ、待って布団一組しかねぇよ」
爪'ー`)「いーよ別に」
爪;'ー`)(布団のこと考えてなかった!いいよって言ったけど良いのか?本当に?)
爪;'ー`)(でもモララーも泊まって良いって言った、ってことは、何だ?何とも思ってないのか、それとも)
爪;'ー`)(わかんねー。とりあえず普通にしてよ。一緒の布団入るの意識してんのダサすぎる)
103
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:18:59 ID:ppuPCi7c0
普通を徹底しようと出前を提案して、スマホを覗く。視線を感じてそちらを向けばモララーがじっと見ていた。
爪'ー`)
( ・∀・)
何かを問うように膜の張った目がこっちを伺っている。
手を重ねるとそれに対して何か言いそうにしていた。
その前にでこをコツンと当てて、口と口をくっつける、寸前で顔を離した。
104
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:19:32 ID:ppuPCi7c0
(;*・∀・)「いま、の」
爪'ー`)「初めて、それらしいことしてみたけど」
(;*・∀・)「いちいち口に出すなよ…」
爪;*'ー`)「モララーがじっと見てくるからさぁ」
105
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:20:00 ID:ppuPCi7c0
普通にすると言っておきながら我慢が出来なかった。真っ直ぐ見つめられたら良いのかなって思うだろ、仕方ないじゃん。言い訳をしながら一気に熱くなった頬を冷まそうと手で仰ぐ。くっつけてしまえばよかったけど、モララーがどういうつもりだったかわからなかったので最後の理性で止めた。
モララーの顔が朱色に染まっているだけでも満足ではあった。
(;*・∀・)「フォ、フォックスは慣れてるだろーけど、俺はそんな、慣れてないんだよ」
爪;'ー`)(あ、やっぱそうなんだ)
モララーは友人同士であっても性的な話を苦手としていた。下ネタがダメなタイプ。キスだセックスだ、いくつになっても話が出るたびに顔を真っ赤にして逃げていたのを見るたび、今日日中学生だってそんなに照れないだろうと思っていた。
たまに彼女が出来ているのを知ってはいたが、それでどこまで行為が進んだだのいう事は教えてもらえずだった。
爪;'ー`)(そういうの苦手そうだとは思ってたけど、やっぱり今日はそういうお誘いじゃなかったわけね)
爪'ー`)(まぁ、焦る必要ないし、じっくり行きゃいいさ)
106
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:20:25 ID:ppuPCi7c0
初めてモララーの家に行ってから何ヶ月か経つ頃、その間も何度か家に行くようになった。
爪'ー`)「今日行っていい?」
( ・∀・)「いいよ」
毎回聞いていた。
いつか、もしいつか一緒に住むようになったら聞けなくなってしまう言葉だから。
107
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:20:56 ID:ppuPCi7c0
俺はどちらかというと臆病だった。
ほしくてたまらないものがあったとして、手に入れられたあと無くしてしまったり壊れてしまうのが怖くて、それならいっそ手に入れない方がいいと思うくらいには臆病なのだ。だからいつも本当に欲しいと思ったものはなるべく手を出さないようにしてきた。
唯一手に入れたのは音楽ぐらい。
だからモララーと付き合えるって、本当は心の底から嬉しくて仕方がなかったくせに、余裕のなさだとかを見られたくなくていつも通りの『普通』を徹底するようにした。特にモララーがキスやそれ以上のことを意識しているのがわかったから、大丈夫になってからする、とだけ伝えた。いつになるかわからないけど、別にいつまででも待てるさ。
無くなる方が怖い。
嫌われるのは怖い。
好きだと言ったのは確かにあいつで、受け取ったのは俺だけど、もしそれがモララーの勘違いだったり、俺の好きとは違ったらどうしよう。
モララーがそれに気づいてしまったらと考えて苦しくなった。ずっとそのことに気が付かないでほしくて、好きだと口に出して言えたことは無い。
ずっと卑怯だったのだ、俺は。
108
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:21:22 ID:ppuPCi7c0
モララーが謎のハンドシェイクを求めた時、あいつがじっと俺の目を見て何か言いたそうにした事も気付いていたけど、また空振りするのが怖くて、間違えないように避けた。
いつもはモララーが先に寝るけれど、その時は誤魔化すように先に眠った。
次の朝にカーテンを開けるモララーを見て、泣きたくなるような、なんとも言えない気持ちになった。眩しくて、愛おしくて、ずっとこのままなら良いのに。そんなわけにもいかないくせに。
109
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:21:44 ID:ppuPCi7c0
そのあとの事だ。
爪'ー`)「モララー、誕生日何欲しい?」
( ・∀・)「……」
( ・∀・)「おれ、……フォックスが大事だよ」
モララーは俺の顔を見て少しだけ笑って、おれら終わりにしようか、と言った。
静かな、朝になる時間帯。眩しい光が差し込んで来ていたのに、あれだけ眩しかったはずなのに。
110
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:22:07 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)(嫌だ)
爪'ー`)(無くしたくない)
爪'ー`)(でも)
俺はこいつに何かしてあげたか?
貰ってばかりで、何もしてこなかった。
爪'ー`)(俺は幸せだったけど、俺じゃモララーを幸せには出来ないんじゃ、ないか)
爪-ー-)
爪'ー`)「…………うん」
111
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:22:35 ID:ppuPCi7c0
情け無い事に俺は頷くことしか出来なかった。モララーが本心で言っているとわかったし、それに対して弁明できるほど俺は何もしてこなかったし、何も言ってこなかったから。あいつが俺を大事だと言ってくれるなら、俺はそれを大事にするしかない。
そう思って、返事をした。
これが俺とモララーの終わった話。
いつ思い出しても拙く幼い、恋のなり損ないのような関係だった。
.
112
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:23:01 ID:ppuPCi7c0
+ + +
爪;'ー`)「…」
今日の会議にモララーはいなかったはずだ。
不在を確かめてから参加を決めるなんてよっぽど最低だと、自分でも思う。
でも今のメンタルで会いたくない、絶対に。まじまじと過去の苦すぎる出来事を思い返してしまい、変に意識してしまう、絶対。
と言ってもいつまでも会わないという事はできない。同じバンドのメンバーだし。
早くこの感情を飲み込んでしまわないといけないのだ。
113
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:23:26 ID:ppuPCi7c0
( ゚∋゚)「顔やばいぞフォックス」
爪'ー`)「知ってる。イケメンでしょ」
クックルはいた。別にいる事は悪くないが、そもそもクックルの口から聞いたことが原因だしなと少し思い出して刺々しくなってしまう。
( ゚∋゚)「隈がなけりゃもっとイケメンだよ、どうしたの」
爪'ー`)「……何だろう、ねー」
114
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:23:49 ID:ppuPCi7c0
自分でもどうしたのかわかっていない。たかだか昔付き合っていたやつが結婚するって聞いただけ。それだけ。元カノが3児の母になっているって聞いた時はこんな気持ちになったんだっけ?覚えていないけど、ここまでじゃなかった気がする。
お前そんなところまで特別である必要、ないんだぜ。溜息を吐きかけて、余計な心配を増やさないよう深呼吸に変えた。
誤魔化しながらポットに入ったコーヒーを紙コップに注ごうとして、止められる。
( ゚∋゚)「カフェイン摂るのやめとけって。ルイボスティーでも淹れてやろうか」
こいつが一時期ハマって水筒に入れて持ってきていた事を知っているから、あながち本気かもしれない。
熱し易く冷め易いんだと言っていたが、好きになれるものが多いのはすごい事だよなぁと思っている。言ってやったことはないが。
115
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:24:13 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「クックルお母さんみたいだな」
( ゚∋゚)「そんな顔色してるやつ目の前にいたらだれでもこうなるっての。モララーいなくて良かったな」
一瞬、見透かされたのかと思って顔をあげた。
クックルの眼には情けない顔のやつが映っている。俺か。
こいつとも長い付き合いだけれど、モララーとの関係は言わなかった。3人のバンドでそんな申し訳ない事言えるわけがない。若い頃の遅刻癖とか女癖とかで苦労はさせられてきた相手ではあるが、同じくらい苦労も共にしてきた相手だ。気を遣われるかネタにされるかのどちらかなら黙っているのが賢明だ。
爪'ー`)(吐き出せば少しは楽になんのかな……もうわからなすぎてどうでもいい気持ちが大きいかも)
116
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:26:11 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「……あのさぁ……知らない話していい?」
( ゚∋゚)「駄目って言えないでしょ、この状況で」
酷く嫌そうな表情で、聞いてやるからさっさと話せとハンドサインを向けられる。
なんだかんだ聞いてくれるから優しいのだ、この男は。
爪'ー`)「……昔付き合ってた人が結婚するらしいんだけど、俺それに傷ついてるっぽい」
( ゚∋゚)「うわあ不健全。未練がましい。フォックスわりと重いよね頭軽いのに」
爪;'ー`)「うっせ」
( ゚∋゚)「あっ、もしかしてここしばらく彼女作らなかったのってそいつに未練たらたらだったからか!」
爪;'ー`)「デリカシーないなあ!」
前言撤回する。
( ゚∋゚)「話してみたら?いやコンタクト取れんのか知らないけど、フォックスの中で区切りがついてないなら、話して潔く諦めりゃ良い」
爪'ー`)「何をいまさらって思われないかな」
( ゚∋゚)「しらねーよ、お前が良く分かってんじゃないの、相手のこと」
爪'ー`)「………」
117
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:26:54 ID:ppuPCi7c0
水を飲み干して床を見つめる。
わかっているんだろうか、俺は、あいつのこと。
わかってないから、何も言わなかったから──。
( ゚∋゚)「フォックス結構、馬鹿みたいに色々考えるくせに口に出さないとこあるでしょ」
爪'ー`)「馬鹿みたいは余計。確かに言ってなかった、けど」
( ゚∋゚)「相手は今お前が未練たらたらなのも、付き合ってた時どう思ってたかも知らないんじゃない」
爪;'ー`)「だってかっこ悪いじゃんよ…」
( ゚∋゚)「お前のかっこ悪いとこ見て幻滅するような相手だったの?趣味悪〜」
( ゚∋゚)「お前がそんだけ気にする相手なんだから結構なやつなんじゃないの、知らんけど。じゃあちょっとぐらいかっこ悪いとこ見せたって気にしないと思うけどね」
爪'ー`)「クックル…」
思わず胸がほんのり熱くなってしまう。口の悪いやつだがやはり仲間思いの優しい男だ。
( ゚∋゚)「まぁもう別れてるし結婚する相手だけどな」
爪;'ー`)「お前まじで優しくないな!?」
118
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:27:42 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)(まぁでも、話してないな)
別れてから結構経つが、気まずさも忘れるくらい忙しくていつの間にか元の、ただの友人で仕事仲間に戻っていた。その方がモララーにとっても良いのかもしれない、と言い聞かせるようにして、その実自分が考えることを放棄していただけだ。
爪'ー`)(…するかぁ?今……)
クックルの言う事は一理あるが、それにしたって急というか唐突過ぎやしないだろうか。
ああまた考えて何もしないでいる。でも脈略がなさすぎるのもどうよって思うじゃん。
( ゚∋゚)「あ」
爪;'ー`)「ん?」
( ゚∋゚)「いやぜんぜん関係ない話だけど、モララー引越し準備やっと終わり見えてきたんだってさっき連絡来たから、差し入れ持ってってやってよ。俺いけないから」
爪'ー`)「……」
( ゚∋゚)「何」
爪'ー`)「クックルさぁ…愛してる」
( ゚∋゚)「きしょ。言う相手間違えてんなよ」
ばっさりツッコミが入る。空になった紙コップをクックルが取り上げて捨ててくれた。行動は優しいのに言葉は冷たい。
これはこれで本音なんだけど、と言おうとして見たクックルの顔があまりに嫌すぎると物語っていたので、何十周年かのアニバーサリーイヤーまで言うの取っておこうと、笑うだけに留めた。
119
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:28:07 ID:ppuPCi7c0
+ + + +
(;@∀@)「ふぇー、つかれたな」
ようやく終わりの兆しが見えてきた。あらかた箱詰めは終わった。台所用品にガムテープをすれば完璧だ。
荷造りって頭も使うんだな。明日仕事終わったらきっともう体力無くなっているだろうから今日終わらせらて良かった。
(;@∀@)(夜飯……出前頼むかなぁ)
ピンポン。
簡単なチャイムが鳴る。
クックルかなとカメラを覗いて見れば丸い頭が映っていて、俺は「え」と夜にふさわしく無い声量を出してしまった。
120
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:28:39 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「おつかれ」
(;@∀@)「お、おつかれ……えー、来てくれたのは嬉しいんだけど、えっ、どうしたの?あの、うち引越しするから今なんにも無くてですね」
鍵を開けてドアも開けた先にいたのはまごう事なくフォックスだった。
幻覚でも妄想でも無いなら言っておかねばと白状する。ちょうど箱詰めの作業を終えたばかりのこの家には酒も何も無い。クックルに終わったから褒めてくれよとウザ絡みの連絡はいれたが、こんな差し入れされたのは初めてだ。
爪'ー`)「知ってるよ、クックルから聞いた。んでピザと酒持ってきた」
(-@∀@)「え、あ、ええ…ありがとうございます…?」
爪'ー`)「いや本当に感謝して、タクシーのおじさんに。めちゃくちゃ申し訳なかった」
(;@∀@)「うわ!わざわざ買ってこなくても出前すりゃよかったのに!や、玄関で話すことじゃないな。上がって、マジであの、スリッパしまっちゃって」
爪'ー`)「うん、お邪魔します」
(;*@∀@)「……」
久しぶりに聞いたその言葉が、ほんのちょこっと嬉しかったのは内緒だ。
121
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:29:04 ID:ppuPCi7c0
家具はギリギリあったので良かった。ソファーに腰掛けて、持ってきてくれた酒を開ける。じっとこちらを見つめているフォックスと目が合って、へにゃりと笑ってしまった。
(-@∀@)「そういえば体調大丈夫なの?」
爪'ー`)「うん、元気。今なら20キロ軽く走れる」
(-@∀@)「それは何より」
目の下に隈が見えたけど、きっと触れてほしくないんだろうなと軽く流した。あまり飲ませない方がいいかもしれない。どの立場でそんな事って、同じバンドのメンバーとしてならいいだろ。
カチンと缶をぶつける。かんぱい、と言った後豪快な嚥下音が聞こえた。
爪'ー`)「久しぶり」
(-@∀@)「会ってんじゃん、なんだよ酔ってんのかよ」
122
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:29:25 ID:ppuPCi7c0
フォックスはなんか、ふわふわしているように見えた。
久々にうちにいるフォックスを見るから、俺も少し浮かれてそう見えているだけかもしれないけど。
別れて月日が過ぎているのに、一緒にいることが嬉しいと思ってしまうんだ、俺。
駄目だなあ。あのグラスを見つけて昔のことを思い出したから余計なのかも。
爪'ー`)「眼鏡かけてるモララー久々に見たなって」
(-@∀@)「あー。ずっとコンタクトだったもんね。や、しまっちゃったんだよね。でもってどこに入れたかわからないの」
爪'ー`)「ははは」
123
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:29:53 ID:ppuPCi7c0
はぁ、と息が漏れたのが聞こえた。多分溜息とかじゃなくて、深呼吸みたいな、気持ちを落ち着かせるための息みたいだった。フォックスの顔を見る。目が、優しい色をしている。ぎくり、でもなくどきり、でもない、心臓か身体が変な跳ね方をした。怖いわけではないのに、何か見てはいけない気がしてパッと視線を外した。
爪'ー`)「あのさ、えーっと。なんていうか、話していい?」
(;@∀@)「ええ、改まって何さ。なんか怖いからやだな」
爪'ー`)「なんだよ、 聞けよ俺の話」
(-@∀@)「早く話せよ酔っ払いめ」
爪'ー`)「あのさあ、最近ずっと夢見んの」
爪'ー`)「あの頃の夢で、起きたらモララーはいなくて、そんでがっくりしてる、朝から」
ごくんって音が響いた。
想像していたような話とは全く違う方面の内容だったから、情報が耳から入って頭が理解するまでに時間がかかって、耳鳴りすらした。
嚥下音よりも心臓がうるさくて、小さく笑う君の声が聞きたいのに聞こえない。胸の奥に靄が広がるようだった。
124
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:30:19 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「ずっと後悔してる。あの時何で泣いて嫌だって言わなかったのかって」
フォックスが言っている『あの頃』や『あの時』が、俺が思っているのと同じか確証はなかった。俺がこの間思い出していた時と一緒なんだろうか。
もしそうなら、そうだとしたら、フォックス、今何の話をしてるんだ。
(;@∀@)「……だっ、」
(;@∀@)「だって、そんな、フォックスは俺に付き合ってくれてただけでしょう」
思いの外裏返った声が出てしまったけど、誰も笑わない。フォックスは眉間に皺を作って、変な顔になった。
爪'ー`)「俺そんな残酷なこと、しないよ」
(;@∀@)「でも」
爪'ー`)「俺は、モララーが」
125
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:30:44 ID:ppuPCi7c0
(;@∀@)「待っ、 フォックス酒こぼしてる」
爪;'ー`)「え?あ、うわ」
何か冷たいものが手にかかった。見ればフォックスが持っている缶ビールだった。
傾いていた彼の手をグイと持ち上げて缶を取る。結構な量が何も敷かれていない床に広がって、アルコール特有の匂いが漂った。
爪;'ー`)「ごめん」
(-@∀@)「や、フォックスがかかってなくて良かった」
酔っているのだろうか、酒は強いはずだが缶ビール一本で酔ったのか?
体調が良くなさそうだったし、それでかもしれない。
台所に布巾を取りに行ったが、それは先ほど段ボールに仕舞ったのだった。
何か拭くものあったかと辺りを見渡して、視界にチラッと青いグラスが入った。あれは彼のものだと頭が認識するより先に、口から言葉が出ていった。
(;@∀@)「あ。そう、あのさ、一応聞いておくけどあのグラス、どうする?」
テーブルにティッシュが置いてあったみたいでフォックスが拭いてくれていた。俺の言葉に頭を上げて、驚いたような、でもどこか嬉しそうな不思議な顔をしている。
126
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:31:10 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「……青い、きれいなやつ?まだ持ってたんだ」
(-@∀@)「そりゃ、捨てるもんでもないし……ずっとしまってたんだけど、お前がいらないならこのまま新居に持って行こうかなって。嫌だったら申し訳ないから聞いておきたくて」
爪'ー`)「嫌じゃない、っていうかむしろそれそっちが嫌なんじゃないの?大丈夫なの」
拭いたティッシュのゴミをわざわざ持ってきてくれた。ついでに手を洗わせる。
やはりフォックスをスリッパなしに歩かせるのは罪悪感がある。掃き掃除もしてないし時間が時間だったから掃除機もかけられなかったのだ。
(-@∀@)「大丈夫って?壊れたとかじゃないのに捨てる方が嫌なんだよ」
爪'ー`)「いや、モララーっていうか……相手、…」
爪;'ー`)「えー、もうさぁ聞いていい?ってか聞くね?どんな人?いつから?モララーから言ったの?付き合ってた人間が使ってたグラス新居に持って行くの許してくれるくらい良い人なの?」
127
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:31:38 ID:ppuPCi7c0
ずいとフォックスが突然近づいて怒涛の質問を浴びせてくる。
けれど何の話をしているのか、全くわからない。勢いに押されて混乱して、考えが追いつかない。
(;@∀@)「え、え、……何え??何、何の話になってるこれ」
爪;'ー`)「本当は俺だって聞きたく無かったよ、なかったけどさぁ!あんまりにもモララー言わないし、気になるじゃん…言いたくないならいいけど、いや、聞きたいわ。言ってよ」
(;@∀@)「や、マジで何の話?俺の知らない話題になってない?」
爪'ー`)「……誤魔化してる、わけじゃなくて本当にわかんない?」
(-@∀@)「わっ…かんない…」
128
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:32:04 ID:ppuPCi7c0
必死だ。フォックスもだし、俺も。どちらも真面目にわからない話をしている。
腕を組んで首を傾げても何もわからない。フォックスも同じように首を傾げている。
少し悩むような顔をしてから視線を床にやって、それから俺を捕らえた。
爪'ー`)「モララー、結婚すんでしょ」
自分から口にしたくはなかった、とでも言いたそうな目だった。ライブの時に見るような真剣な表情だからそっちに意識がいってしまってよくない。フォックスが言ったことを頭の中でゆっくり噛み砕いてみる。
結婚。
最近沢山聞くワードだ。
結婚?誰が?
今、主語を俺にしてなかったか?
129
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:32:25 ID:ppuPCi7c0
(-@∀@)「………んんんん……?…若干、その、違うな」
爪'ー`)「なにが」
(-@∀@)「結婚するけど俺じゃなくて、兄の話だよ」
爪'ー`)「は?」
(-@∀@)「うん」
.
130
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:32:55 ID:ppuPCi7c0
誰から何を聞いたのだろう。というかそんな噂が知らない間に飛び交っているのか?怖すぎる。俺やマネージャーやクックルとの会話が変に伝わっているのかもしれない。
見れば唸りながらフォックスが片手で顔を抑えてしゃがみ込んでしまったので、俺もつられてしゃがみ込む。
爪;∩ー`)「…………えっ、うぅそ、嘘、嘘でしょ?」
(-@∀@)「ほんとう」
爪∩ー`)「なにそれ、何?」
爪;∩ー`)「だっっっっさすぎない俺?勘違いでずっとこんな……嘘でしょ?」
(-@∀@)「申し訳ないけど嘘ではないよ、俺、そんなハッピーな話、これっぽっちもないので」
爪;∩ー∩)「はぁああああ何…なんだよそれまじでー?うーわ…あー…」
(-@∀@)「…ふっ」
131
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:33:18 ID:ppuPCi7c0
爪∩ー∩)「……笑ってんなよ…」
(*@∀@)「ははは、ついてないねフォックス」
爪∩ー∩)
俺も大概だけど、感情がジェットコースターのようになっていたフォックスに思わず笑ってしまう。両手で押さえた隙間から不服そうな目が覗いていて、思いっきり視線が合ったからまた笑った。
132
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:33:55 ID:ppuPCi7c0
爪∩ー`)
爪'ー`)
(*@∀@)
爪'ー`)「ふ」
爪'ー`)「さっき言いかけたけど」
(*@∀@)「ん?」
133
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:34:24 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「俺、お前が、モララーが好きだよ」
.
134
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:34:52 ID:ppuPCi7c0
ひゅ、と息を飲む。
それはずっと、ずっとずっと欲しかった言葉で。
(-@∀@)「 は 」
爪'ー`)「本当は、モララーが最初に言った時より前から好きだった。付き合えたのも嬉しかった」
爪'ー`)「もう今だいぶダサいから、ダサいついでに全部言うね、別れるってなった時本当はすっっっげぇ嫌だったの、俺」
(;@∀@)「や!だってそれこそお前、何も」
爪'ー`)「幸せになってほしかった、好きだから。って言うと免罪符になるわけじゃないけどさ。俺と一緒になるのは幸せじゃないんだって、幸せになれることはないんだと思ったんだよ。じゃあ離れた方がいいのかなってさ、言い訳だけど」
フォックスはじっと床を見ていた。床を見ながら静かに、話を続ける。
135
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:35:47 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「他のちゃんとした人と幸せになればいいって思ってたんだ。それはほんとう でもさ
実際モララーが結婚するって聞いて駄目だった俺、他の奴と幸せになんかなるなよって、最低でしょ」
わけもわからずただひたすらに、紡がれる言葉を必死に追って胸に拾いこんだ。
胸が苦しくて、息が難しくて、変に溜息にならないよう、あえて大きく息を吸い込んでからゆっくり吐き出す。
目がちかちかして心臓はライブ時と同じくらい、動いていた。
爪'ー`)「俺よりモララーのことを好きなやつじゃなきゃ渡してやりたくないんだけど、俺ね、モララーのことが好きな人間が100万人いたとして、その誰よりもお前の事好きな自信があるんだよ」
悪戯っぽく笑いながら、視線を下に向けるフォックスの表情を、俺は知っている。
照れている時に、それがばれないように平気な顔をするんだ。
俺はその顔がひそかに好きだった。
人間臭くて、完璧でいようとしている姿がいとおしくて。
136
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:36:29 ID:ppuPCi7c0
ばかだなあ、と口から出て、そのまま笑う。
(-@∀@)
( ・∀・)-@∩
( ・∀・)
( ;∀・)
( つ∀・)「ばかだフォックス、おれを支持する人間なんて100万人もいないよ。そんな、モノ好きさあ、いたとして今目の前にいる、おれが好きな1人ぐらいなんじゃねえの」
.
137
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:37:01 ID:ppuPCi7c0
ぼろっと、フォックスの頬を汗が転げ落ちて行ったのでそんなに暑かったかとエアコンのリモコンを取りに行きかけて気付く。
爪;ー`)
汗ではなく涙だ。
それは今まで一緒にいて一度たりとも見たことはなかった。
きれいな人は泣くときもきれいなのかと、つい感心してしまって思わずいじりそうになったがやめておいた。酒の席で涙腺が緩むことぐらい、俺だって何度もあるから。
だというのにフォックスは真顔で俺を指さして、「モララー、目からも鼻からも出ててすごいよ」といじってきたので小さな裏切りに会った気分になったのだった。
爪;ー`)「気づいたんだよ、お前の幸せは俺が決めることではないし、そもそも俺と一緒だと幸せになれないんじゃなくて、幸せに、なれるようすりゃいいんだよな」
フォックスは汚いと言って、自分のほうは気にせず俺の顔を自分のシャツの袖で拭いてくれた。
138
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:38:21 ID:ppuPCi7c0
( つ∀;)「いい年して、何してんだろうねおれら」
爪'ー`)「年関係ないだろ、こんな、すごい事」
( ;∀∩)「ははは」
爪'ー`)「あとね、いくつになっても俺、何してんだって言われるようなことしてたいな、お前と、あとクックルと」
( ⊃∀∩)"
( ・∀・)
( ・∀・)「一蓮托生だ」
爪'ー`)「道連れとも言う」
(*・∀・)「ははは」
爪*'ー`)「ふっ、はは」
139
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:39:15 ID:ppuPCi7c0
ひとしきり泣いて、それから笑った。
台所でしゃがみ込んで何を馬鹿なことしてんだろうね。ピザは冷めるし酒はこぼすし、荷造りまだ少し残ってるし、散々だ。散々なのにどこかすっきりしていて、今までずっとあった黒い雲が消え去ったような気持ちだった。
瞼がかぴかぴに乾いて重たい。
カーテンの奥が仄明るくなってきている。明日が、もう今日だけど、仕事が午後からで良かった。
眠気が一気にやってきて、それはフォックスも同じみたいだった。
( ・∀・)「なんて顔してんの」
爪'ー`)「だって、モララー眩しい」
( ・∀・)「朝だからでしょ」
眩ゆいとばかりに目を細めて、フォックスが笑っている。
俺じゃなくて明るいのは外だろう。
140
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:39:51 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「どうだろ、好きだからじゃん」
( ・∀・)「朝が?」
爪'ー`)「モララーが。好きな人って眩しく見えるじゃん」
( ・∀・)「……フォックス、付き合ってるときでさえ言わなかったじゃんよ。好きって、俺は100回くらい言ったのに」
100回は盛ったかもしれない。でもそれくらいの気持ちだから良いだろ。
何かが、そっと手の上に乗った。視線を向けるとフォックスの手が、俺の手の上に重なっている。
141
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:40:23 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「じゃあこれから101回言う」
( ・∀・)「プロポーズじゃん、それ」
爪'ー`)「そうだよ、プロポーズ。一生好きだから、それくらいの言葉」
手のひらの熱が、どちらのものかなんてもうわからない。やっぱりわからない事だらけだ、この人。
でも昔よりわかる事はずっとある。
優しい目が少しだけ恥ずかしそうな色を乗せていること。きっと今、照れているであろうこと。
( ・∀・)
じっと目を見つめていると、ごつんと長い前髪ごとでこにぶつかって、口が唇にくっついた。ぽかんとしている間に顔が離れて、してやったり顔をされる。
爪'ー`)「俺と、幸せになってくれる?」
( ・∀・)「……いま、もう、だいぶ幸せだけど」
爪'ー`)「そりゃ良かった」
142
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:40:48 ID:ppuPCi7c0
手をぎゅっと握られて、目の前がちかちかしている。夢じゃないんだ、これ。
夢じゃないんだこれ。
(;*・∀・)「夢じゃないよね?」
爪'ー`)「今から見るんだよ、もう寝よ」
(;*・∀・)「うん……あ、布団一組しかないけど」
爪'ー`)「十分」
143
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:41:59 ID:ppuPCi7c0
時明かりが部屋に入って、完全に朝になっていた。
そんな時間に布団に入り込むことの、なんと不健康なことか。こちらを向いて横になっているフォックスが口を開く。
爪'ー`)「やっぱ言わなきゃ駄目だったなぁ」
( ・∀・)「何?」
爪'ー`)「クックルサンキューって話」
( ・∀・)「よくわかんないけど、声でかいよ」
爪'ー`)「気持ちの分でかくなった」
信じられるか?何事もなかったみたいに、またフォックスがいる。隣にいるんだ。
これからまた付き合うかはわからないけど、それは起きてから話せばいい。
話す時間はいくらでもあるから。
( -∀・)「あ」
目を閉じかけて、そういえばと思い出したことがある。
( ・∀・)「……次のとこはさあ、防音すっごいちゃんとしてる、とこ、だよ」
爪'ー`)「へー」
144
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:42:28 ID:ppuPCi7c0
爪'ー`)「行ってもいい?」
( ・∀・)
( ・∀・)「俺、お前にそう聞かれるの実は好きなのよ」
口の端を上げて笑えば、朝の眩しい光を受けながらフォックスも笑った。
145
:
◆gSMF7Mrmu.
:2024/04/23(火) 17:42:57 ID:ppuPCi7c0
以上です。
ありがとうございました。
146
:
名無しさん
:2024/04/24(水) 05:46:55 ID:iARiRX9g0
乙乙
147
:
名無しさん
:2024/04/24(水) 08:11:05 ID:EHUZi5h.0
乙
148
:
名無しさん
:2024/04/24(水) 20:56:49 ID:qgYl1tj60
良かった。乙
149
:
名無しさん
:2024/04/25(木) 10:51:15 ID:sSwboVec0
眩しいの良いな
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