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んじゃめき様の言う通りのようです

1名無しさん:2024/04/22(月) 15:02:05 ID:z/dU44lA0

オレンジデー祭参加作品です

2 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:03:06 ID:z/dU44lA0

从'ー'从「…」

从-ー-从ペコ

从'ー'从 ガチャ

"从-ー-从ペコ

3 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:03:47 ID:z/dU44lA0


我が家は家に入る前と入った後に、二度ずつお辞儀をしなくてはいけない。
しなかった場合、それはそれは恐ろしいことが起きるのだそうだ。
だそう、というのは私が一回もそれを欠かしたことが無いから知る由もないということ。監視カメラが付いているわけでもないのに、せっせとお辞儀をしている。
そういうのコメツキバッタって言うんだっけ。
極力音を立てずに家に入ったにもかかわらず、ニコニコの母が玄関にやって来た。私は心の中で小さくえづいた。

4 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:04:11 ID:z/dU44lA0

从'ー'从「ただいま」

|゚ノ ^∀^)「おかえりなさい。何か、出すものがあるよね」

从'ー'从「……中間テスト、返ってきた」

|゚ノ ^∀^)「うん、知ってる。じゃあ見せて」

早く靴を脱いで家に入りたいが、仁王立ちする母親は何も気にしていないようで小首を傾げている。
学校で配布されたものがある日はいつもこう。とりわけ勘がいい、訳ではない。
私は「お母さんどうしてわかったのかな」と不思議そうな表情を顔に貼り付けて一生懸命、演技をするのだ。
鞄から取り出した紙を受け取って、書かれた点数をまじまじ見ながら母親が恍惚の表情を浮かべて言う。

5 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:04:33 ID:z/dU44lA0

|゚ノ ^∀^)「100点満点じゃない」

从'ー'从「…うん」

|゚ノ *^∀^)「ああ!流石!!」

|゚ノ* ^∀^)「流石!!んじゃめき様のおかげだわ!」

从'ー'从(はあ)

その名前が出た瞬間、私の体温はきっと2℃ほど下がったに違いない。反対に母親は熱気というか熱狂というのか、熱苦しいお気持ちをこれ見よがしに放っていた。

6 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:04:55 ID:z/dU44lA0


我が家には、というより私のお母さんには、神様より仏様より大事な存在がいる。
それは娘である私、ではないのは全く持って残念な話。
『んじゃめき様』という素晴らしい素晴らしい存在がいらっしゃるそうなのだ。

|゚ノ ^∀^)「今日もありがとうございます。昨日もありがとうございました。明日もよろしくお願いします。貴方様のおかげですべて素晴らしい道がひらけています、ありがとうございます。嗚呼、嗚呼!んじゃめき様!」

从'ー'从「…」

7 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:05:22 ID:z/dU44lA0


母は玄関であることを忘れて踊りだしそうな勢いだ。熱い眼差しでどこかを見て、私のテスト用紙は興奮でクシャクシャに握りしめられている。
私がテストで満点を取ったことではなく、「んじゃめき様のお陰様で私がテストで満点を取れた」ことが何より嬉しく素晴らしい事なんだそう。
私はなるべく溜息をつかないよう努めて返事をする。何か反感を買えば長引いてしまう。それだけは避けたかった。

8 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:06:03 ID:z/dU44lA0


从'ー'从「お母さん、勉強のために図書館へ行ってきてもいい?」

|゚ノ ^∀^)「あら、今日もなの?」

从'ー'从「苦手教科をなるべくなくしたくて」

|゚ノ ^∀^)「ふぅん。まあ、んじゃめき様が見てくださってるから大丈夫だろうけど」

お目当ての「答案用紙に感激イベント」が終わったからか、母はクールダウンして自分の爪を見ながらそう言った。
大丈夫、大丈夫、大丈夫?
思わず笑ってしまいそうになったのを逆に利用して口の端を限界まで引き上げた。

从^ー^从「そうだね。んじゃめき様が私を守ってくださってるもんね」

9 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:06:30 ID:z/dU44lA0


着替えはシンプルな服を選んで、あらかじめ用意していたバッグを手に取り、流れるように家を出る。その際きちんとお辞儀も忘れない。完璧。完璧な良い子でしょう。

从'ー'从「行ってきます」

んじゃめき様という存在しか見えていない母親でも、元々の人間性の問題か、ねちっこく目ざといから気を付けなくてはいけない。お洒落なんてして外に出た日には、もうアウト。理由なんて後付けの外出禁止が言い渡されてしまう。

10 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:06:57 ID:z/dU44lA0


从'ー'从「はー、鳥肌立ってる。しゃーない、キショかったし」

先程の母親のテンションを間近で見ていた時から肌寒さがあった。バッグに入れていたカーディガンを羽織る。風邪を引くことより、風邪を引いたことによって母親から言われるであろう言葉を浴びせられるのが嫌だからだ。

(んじゃめき様へのお祈りが足らないから風邪なんて引くの。これは罰なのよ)

11 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:07:29 ID:z/dU44lA0

んじゃめき様は私が産まれた頃からいるらしい。
んじゃめき様は神ではなく、んじゃめき様は仏ではなく、んじゃめき様は天使ではなく、んじゃめき様は悪魔ではなく、んじゃめき様は、私なんかにはよくわからないが何だか高尚な存在であらせられるから、そのお言葉に従うのは至極当然なコトなのだ。
だから私がテストで良い点を取れるのは、予習も復習も頑張って、教室中みんなが寝ているようなクソつまらない授業も起きて受けて、塾通いの子たちにも負けないように必死に勉強しているからなんかでは全く無く、全て、んじゃめき様のおかげなんだって。


从'ー'从(いや馬鹿かよ)


母は『んじゃめき様』の声も聞こえて姿も見えているらしいが、私は一度もない。
小さい頃は母の教え通り私の信仰心が薄いからだと思ってお祈りに励んでいたし、その存在を恐れてはいた。母親が自分のことをなんでも知っていて、「んじゃめき様が教えてくれたから」と言うから、本当にいるんだと思っていた。
タネを知れば簡単な話、学校に逐一連絡をして事細かにあったことを聞き出しているだけ。
私の母親はおかしいのだ。本当に見えて聞こえているのかは問題ではなく、「それ」のお陰にすれば物事は万事解決できると思っている依存にも似た酷く弱い心が問題なのだ。
『んじゃめき様』なんているはずがない。

12 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:07:59 ID:z/dU44lA0


从'ー'从(早く解放されたい)

父親は『んじゃめき様』の怒りに触れたから消えてしまったらしい。小学校低学年の頃、帰らなくなった。
母に愛想をつかして去って行ったのだろうと私は思っている。連れて行って欲しかった気持ちより、解放されて羨ましいという気持ちが強かった。

13 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:08:30 ID:z/dU44lA0


家を出てしばらく歩いて、後ろを向く。誰もいないことを確認してバッグの中からお気に入りのバレッタを取り出して髪につけた。

从'ー'从「よし」

手鏡が無いので確認は出来ないが大丈夫な筈。
いなくなる前、こっそりお父さんがくれたものだった。お母さんにばれると大変だから気を付けてねと、そういわれた時はあまり意味が分からない年だったが、お父さんの圧が強かったので隠し持つようにしていた。
結果それは大正解で、母は私が友人からもらったものや学校でもらったものをいつもいつの間にか捨てていた。
んじゃめき様がおっしゃるにはそれらは邪悪な力を秘めていて持っているだけで不幸になるのだそうで、お前はやりたい放題だなと私はうんざりと絶望ないまぜにした最悪の気持ちを味合うほかなかった。

だからこんなに可愛らしいバレッタを持っているなんて知られたら壊されてから捨てられるだろう。そんなことをされたら私は母親を同じようにしてしまう自信しかなかったので気を付けることにした。

14 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:08:52 ID:z/dU44lA0


从;'ー'从「やば、急がなきゃ」

こんなところで時間をつかっている場合ではないと思いだした私は小走りで図書館へ向かった。

15 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:09:20 ID:z/dU44lA0


町の図書館はわりと大きく、平日も利用者が多い。
入り口の横にある柱に立っている人物を見つけて、息と髪を整えてから声を掛けた。

从;'ー'从「ごめんね、待った?」

( ^^)「ううん、今来たとこだよ」

从*'ー'从「あははお約束」

スッと先程まで身体中にあった黒い気持ちが何処かへ消えていくのがわかった。纏わりつくような霧雨が晴れて清々しい天気になった時のようだった。

16 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:10:12 ID:z/dU44lA0

( ^^)「これ、きみが好きな紅茶買っておいたよ」

从'ー'从「え!ありがとう」

( ^^)「ラウンジ行こ」

从'ー'从「うん!」

お付き合いをしている、山崎くん。
家になるべくいたくなかった私は行き場を求めて図書館へ通うようになっていた。ある日、彼に話しかけられて仲が良くなり付き合い始めた。もちろん母親には内緒だ。んじゃめき様がどうとかの前に、中学生同士で異性交友なんて早い!と言い出しそうだから。

なので週に何回かこうやって図書館で会える時間が、私にとっては何よりも貴重だった。

从^ー^从「えへへ、紅茶美味しい〜ありがとう!」

( ^^)「どういたしまして」

17 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:10:46 ID:z/dU44lA0

私が私という人間になれる時間。
それは今だけ。
あの家に帰れば、紅茶をもらえたことも紅茶が美味しかった事も、全部意味の分からない存在のおかげにされるだろう。
家では私の善行も悪行もすべて盗られてしまうが、この人の前では私の物は私の物のままで良いのだ。
そんな世界があるなんて知らなかった私は、それこそこの人を神さまにしてもいいとさえ思った。

18 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:11:06 ID:z/dU44lA0

从^ー^从(私今、本当に笑ってる)

作り物の笑顔なんかではなく、本当に心の底から嬉しいのだ。だってこの人は私を見てくれて私と話してくれて、私がしたことは私のことして扱ってくれる。
嬉しい。好き。大好き。

それと同時に私が自由にしていても天罰なんてくだらないことが証明されることが快感だった。山崎くんと過ごしているとやっぱりそんなものはないんだと思えてきて、それがとても嬉しく、心強かった。

19 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:11:32 ID:z/dU44lA0



从*'ー'从「はー、たくさん話し込んじゃったね」

( ^^)「ねー」

( ^^)「あ、ごめん。そろそろ帰らないと」

从'ー'从「あ、私もだ。時間経つの早いよね」

( ^^)「ね」

从'ー'从「明日も来れる?」

( ^^)「明日はごめん、委員の仕事があるんだ」

从'ー'从「そっかぁ。じゃあ、来週」

( ^^)「うん、また来週!」

20 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:12:05 ID:z/dU44lA0

最近はこうして門限の時間近くまで沢山話してバイバイの流れ。それだけでも十分楽しいけど、出来ることならもっと話していたいし連絡のやり取りなんかもしてみたかった。
スマホはまだ2人とも持っていない。
山崎君は違う中学校に通っているので、次の約束を取り付けてからお別れをする。
せめて同じ中学校だったら、と思わないこともないがそれだときっと話しかけてすらもらえなかっただろう。
小学校が同じだった子たちがうちの異常さを話してしまって、教師以外で私に話しかける人間なんてもういないのだ。

21 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:12:33 ID:z/dU44lA0

从'ー'从(あ。来週って確か)

頭の中で暦を思い浮かべて、次に会う日付が付き合って半年になる事に気付く。
山崎君は覚えているかな。初めて喋った時のこと。
あの時話しかけられてすっごくうれしかったんだ、私。

从'ー'从(どうしよう、せっかくだから何か記念っぽいことしたいな)

从'ー'从(お菓子か何か作る?でもそんなことしたら絶対母親にばれる…)

平穏と記念を天秤にかけて、仕方なく平穏を選ぶことにした。バレて全てを失ってしまっては元も子もないのだ。
すごすごとお辞儀を忘れずに家に入った。

22 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:13:44 ID:z/dU44lA0



|゚ノ ^∀^)「来週お母さん、出かけてくるから。帰り少し遅くなるけど、家にいるのよ」

从'ー'从「えっ」

んじゃめき様も神様も仏様も何も信じていない私だけど、この時ばかりは何かに向かってありがとうと心の中で叫んだしガッツポーズもした。
帰ってくるなり母親が不在を教えてくれたのだ。
何かの罠かと思ったが、罠にかける必要も無いのだから杞憂だろう。

从'ー'从(学校から帰ったらすぐにお菓子作って片付けて持って行けばきっと間に合う!)

从*'ー'从(こんなタイムリーなこと起きるなんて、絶対私の日頃の行いが良いからでしょ!)

23 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:14:35 ID:z/dU44lA0

だって私、尽くしてるもん。頑張ってるもん。
勉強もだし学校もクラスメイトから疎まれても負けないで、母親にも逆らわないで、これ以上無いってぐらい頑張っているから、少しくらい恋愛に力を入れても良いって言ってくれてるんだよ、世界が。きっとそう。きっとそう!

…从*'ー'从(何作ろう、明日山崎くん図書館来ないからお菓子の本読んでおこうかな)


|゚ノ#^∀^)「ちょっと!んじゃめき様へのお祈りをきちんとしなさい!じゃないと声が聞こえなくて、んじゃめき様のお言葉に従えないんだから!」

从'ー'从

24 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:15:02 ID:z/dU44lA0


浮かれてそのまま部屋に戻ろうとした。いつもならきちんとお祈りをする、ところだった。それで叱られるのもわかっているし、いちいちそんな事で時間を潰してしまう事が嫌だからきちんと努めていた。
でも今日は少し、強気だった。反抗心というか、哀れな人間の言葉を聴いてあげても良いか、みたいな優しい気持ちが産まれた。
恋をすると人は強くなれる、だとか陳腐でありがちな台詞が頭をよぎって、良いじゃんそれって思ったんだ。
いつもは嫌いで仕方がない母親の、どこを見ているかわからない目を覗き込んでみる。

25 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:15:32 ID:z/dU44lA0

从'ー'从「……ねぇお母さん」

从'ー'从「んじゃめき様の声が聞こえないとどうなるの」

|゚ノ ^∀^)「従うべきお言葉がわからず、悪い事が起きるわ」

从'ー'从「んじゃめき様の声に従ってれば良いんだ?」

|゚ノ ^∀^)「当たり前でしょう。んじゃめき様の言う通りにすれば、何も間違いないの」

从'ー'从「そっか」

从^ー^从「そうだよね!」

26 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:15:54 ID:z/dU44lA0


母が言うたびに笑いそうになる。
間違いないんだ、そうなんだ。ま、私には関係ないんだけど。だって声なんて聞こえないし、そもそも祈らなくても良いこと、起きてるし。
私の人生なんだから、私の言う通りにしかしたくないの。

从'ー'从(間違いなのは、お母さんの方。絶対そうだよ)

仕方なくお辞儀をして祈るようにしながら、どんなお菓子を作ろうかだけをずっと考えていた。

27 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:16:16 ID:z/dU44lA0



从'ー'从「できた〜…」

山崎くんとの約束の日だ。へとへとになりながら図書館へ向かう。
せっかくだから可愛い恰好もしていきたかったけど、クッキーを焼いてばれないよう片づけをするだけで時間が押してしまった。仕方なくいつもの格好にいつものバレッタをつけていく。

从*'ー'从(山崎くん、喜んでくれるかな)

生まれて初めて、一番楽しい気持ちだった。
好きな人に何かを作ることってこんなに幸せな気持ちになれるんだ。
顔のニヤつきを抑えて、いつもの場所に立っている男の子に手を振った。

28 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:16:38 ID:z/dU44lA0

从'ー'从「待った?」

( ^^)「ちょっとだけ。早く会いたくていつもより早く着いたから」

从*'ー'从「えへへ、私も早く会いたかったぁ」

从*'ー'从「あのね、今日って何の日かわかる?」

( ^^)「君と会える日?」

从*'ー'从「惜しい。私たち付き合って半年なの。だからその、クッキー作ってきました」

( *^^)「すごい、ありがとう。嬉しいし、それに照れるね」

29 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:17:11 ID:z/dU44lA0


いつも通りラウンジに行くことにした。
飲食が許可されているのでそこで2人で食べよう。
山崎くんが自分と私の分の飲み物を自動販売機で買ってくれた。

( *^^)「美味しそう。君って料理上手なんだね」

从*'ー'从「初めて作ったよ〜。でも味見したから大丈夫、だけど美味しくなかったらぺっしてね」

( *^^)「君が作ってくれたもの、捨てたりしないよ。いただきます」

( *^^)「美味しい!」

从*^ー^从「良かったぁ〜」

他愛無い会話が楽しかった。
ラウンジを利用する人はあまりおらず、声量も気にすることなく話せた。
ここに2人でいると、世界に2人しかいないような気持ちになれるのだ。

30 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:18:11 ID:z/dU44lA0

( *^^)「というか、半年記念とかなら図書館じゃなくてどっちかの家とかでゆっくりお祝いすれば良かったかな」

从'ー'从「え、あ」

从'ー'从「うーん、うちはどうだろ、男の子連れて来たらお母さんびっくりしちゃうかも」

从;'ー'从「あ、山崎くんが嫌とかじゃなくてね、その、うち、お母さんちょっと変なの……スピにハマってたりするし、山崎くんも驚いちゃう、かもだし」

( ^^)「えー?」

从;'ー'从

( ^^)「女の人ってスピリチュアルなもの好きだよね、うちの母さんも星占いとか好きだよ。変じゃないって」

从'ー'从

从*'ー'从「そ、そっか」

31 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:18:57 ID:z/dU44lA0


全部を言えたわけではないけれど、私の汚い部分まで肯定してもらえたような気になる。重たいものが空気を抜いてペラペラになって、詰まっていた息がしやすくなった。
パッと目の前が明るくなる。
私、やっぱりこの人が好きなんだ。この人を好きで間違いないんだ。


( *^^)「でも僕も緊張するから、家はまだ先でも良いか」

从*'ー'从「…だね」

32 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:19:46 ID:z/dU44lA0




( ^^)「それにしてもそっか、あれから半年経つんだー」

美味しそうにクッキーを食べながら山崎くんがそう言った。
私はずっと聞きたかったことを尋ねてみる。

从*'ー'从「うん。ねえ、あの時何で声かけてくれたの?てか、あの、なんで私の事好きになってくれたの?」

( *^^)「うわー、恥ずかしいよ」

从*'ー'从「いいじゃん教えてよ〜」

33 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:20:15 ID:z/dU44lA0


山崎くんがクッキーをもう一枚食べて回答を誤魔化す。私も一枚貰って笑いながら齧った。
嬉しい。幸せ。これが幸せでしょう、私、幸せだ。
ねえ、私幸せなの、わかる?
この幸せって私がもたらしたものであって、山崎君が持ってきてくれたもので、二人で手に入れたものなの。
んじゃめき様なんて存在は関係ないしそんなものの言う通りになんかしなくても、幸せになれるんだよ、お母さん。


从'ー'从(一生、教えてあげないけどね)

34 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:21:07 ID:z/dU44lA0

( *^^)「……あの時さ、あの時も同じ髪留めしてたよね」

从*'ー'从「うん!覚えてるんだ〜」

お父さんに貰った唯一の物。
無くしたり取られたりしたら嫌だから特別な日しか付けない。
あの日、なんとなく付けたいなって思って付けたの。
思わずバレッタを触る。これが2人を結びつけてくれたのかな。

从*^ー^从(だとしたらお父さんにお礼言いたいな)

( *^^)「忘れないよ!だって綺麗な髪留めだなってしばらく見てたんだ。話しかけようかずっと悩んでて、それでさ、いい子だから話しかけなさいって」

( *^^)「んじゃめき様がおっしゃったから」

从*^ー^从

从*'ー'从

35 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:21:43 ID:z/dU44lA0






从'ー'从

从'ー'从「え?」

36 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:22:13 ID:z/dU44lA0

隣を見ようとして体が動かなかった。
動かないというよりは動けない。
ぶん殴られたようなひどい衝撃が体中に走って、脳がチカチカ、ビービー警戒音を鳴らしている。
何?何で?何が、どうして、何で

从'ー'从「 ぇ あ、」

( *^^)「すっごく緊張したんだけどね。女の子に声掛けるなんて初めてだったし」

( *^^)「近くで見たら君、すっごく可愛いし」

37 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:22:44 ID:z/dU44lA0


おおよそ生きてきた中で自分の母親しか口に出したことが無かった名前が、隣に座っていた私の幸せの象徴からでてきたのだ。

聞き間違いでしょう、そうでしょう?

そう言いたいのに、口だって開かない。動かすたびに心臓の音が壊れそうなくらい響いて、ようやく彼の顔を見ることができた、筈なのに。
彼はどこを、誰を見ているの?

目が合っている筈なのに、私が今どれほどひどい顔をしているのかまったく気にすることもなく、その人は笑って『幸せ』そうにしている。

从'ー'从(なん、で?)

从'ー'从(私の幸せって、だって、私が……私の言う通りにして手に入れたものじゃ…)

38 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:23:28 ID:z/dU44lA0


( *^^)「付き合えることになって嬉しかった。だって本当に君はいい子だったから」

( *^^)「あの時、声を掛けて良かった!」

彼が、誰かに似たような熱い眼差しで言葉を続ける。
口の中に残っている甘いはずのクッキーの、味がもうわからなかった。


( *^^)「んじゃめき様の言う通りだったよ!」

39 ◆JeuQiOyU3U:2024/04/22(月) 15:23:51 ID:z/dU44lA0


おしまい

40名無しさん:2024/04/22(月) 15:33:44 ID:AfU3pBeU0

お母さんにバレて酷いことになるかと身構えてたら、もっと残酷だった
ここで終わっちゃうのも後味エグくて好き

41名無しさん:2024/04/22(月) 17:55:27 ID:cLavMtNE0


42名無しさん:2024/04/22(月) 20:03:38 ID:om0JzFJY0
乙乙
母親とは絶対遭遇させたくないやつだー!!

43名無しさん:2024/04/22(月) 20:06:40 ID:GF0SxXJw0
これを私に読ませたのも、んじゃめき様がそう言ったからなんだよね

44名無しさん:2024/04/22(月) 21:36:31 ID:r.p7Kuww0
乙!
めっちゃ最悪で良かった

45名無しさん:2024/04/23(火) 20:17:19 ID:QodQoZEQ0
お、乙…
結局んじゃめき様とは何だったのかわからないところも後味悪い…

46名無しさん:2024/04/28(日) 18:43:54 ID:0FkmmcCw0

純粋な褒め言葉として受け取って欲しいんだが、後味悪くて最高。
この後を想像する余地があるのも、不安がましていいね。


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