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o川*゚ー゚)oFall in the every nightのようです
1
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/05(木) 21:26:56 ID:.UMmvS9E0
〜注意〜
この作品は、『( ,,^Д^)プラスチックの心臓が痛いようです』という話の番外編です。
それと本作品に出てくるo川*゚ー゚)oはアンドロイドなのにもかかわらずもぐもぐとご飯を食べていますが、まぁドラ〇もんみたいなものだと思ってください。
77
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:20:35 ID:6k8.ocVQ0
( ,,^Д^)「…あ、そうか。これ、どれも俺のために味付けちょっと濃くしてくれてたのか」
半分ほど残った鶏の照り焼きサンドを咀嚼しながら、感心したような口ぶりで言う。
その発言に少し驚いた私は少し遅れて、「ええ、まぁ」と短い返答をした。
( ,,^Д^)「うおっ…クリームチーズのやつもめちゃくちゃ日本酒に合うな」
( ,,^Д^)「どれも本当に美味いよ。ありがとう、キュート」
o川*゚ー゚)o「……どうもです」
o川*゚ー゚)o(……気付かれた)
こっそり加えた手間が容易く察されて、嬉しいやら恥ずかしいやら。
どう反応するのがベストなのか分からなくなり、とりあえず私も空になったカップに紅茶を注いだ。
78
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:21:14 ID:6k8.ocVQ0
お茶を飲み、ホットサンドを咀嚼しながら上を見る。
まるでまだ昼時なのではないかと思い違ってしまいそうな程に鮮やかな紅色が、夜空を隠すかのように咲き乱れていた。
食事の感想を言い合ったり、今日あったことを話しながら花見ならぬ紅葉見は続く。
そんな最中、ふと、はらりと一枚の紅葉が落ちる。
秋風に吹かれたそれはひらひらと宙を踊り、やがて、もう一つの弁当箱の上に着地した。
空洞が目立つようになってきた箱をちらと見て、そろそろいいか、と腕を伸ばす。
今日のメニューは一つではない。
秋と言えばやはり、芋を使った甘いものだろう。
79
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:22:51 ID:6k8.ocVQ0
o川*゚ー゚)o「ね、マスター。こんなのもあるんですよ」
落ちた紅葉を手で払いのけ、ゆっくりともう一つの箱も開ける。
中からは、空に咲いている紅葉の鮮やかさにも負けないほどに、黄金色に輝くスイートポテトが現れた。
まるで機械で作ったかのように完璧な円で形成されたそれらは、上空に浮かぶ十六夜月の代わりのようにも見える。
表面に当たる月光を反射して、それら自身が輝いているような眩ささえ感じられた。
(; ,,^Д^)「スイートポテトか?こんなのまで…凄いな」
o川*゚ー゚)o「ふふふ!ちゃんと味にも自信アリ!です!」
真ん中のものを一つ取り、ぐいっとマスターの方に差し出す。
いつの間にか空になっていた左手でそれを取ったマスターは、しばらく表面を見つめた後、半分ほどを口に含んだ。
80
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:24:47 ID:6k8.ocVQ0
(* ,,^∩^)「……!!うん…めっちゃ、美味しい」
o川*^ー^)o「ふっふ〜!そうでしょう、そうでしょう!」
目を見開きながら続いた二口めで、最初のスイートポテトを完食するマスター。
その後、流れるように日本酒を飲み、また驚いたような顔をした。
(* ,,^Д^)「うおっ…!意外だけど、これもめっちゃ合うな…!」
そう言ってしばらくカップを見つめた後、残りを一気に飲み干す。
カップが離れた彼の口角が上がっているのを見た私は口角を上げたまま、箱に大量にある黄金の甘味を一つ手に取った。
81
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:26:08 ID:6k8.ocVQ0
o川*´〜`)o(うん、冷めても美味し〜!)
さすがに焼きたての香ばしさには敵わないが、代わりに冷めたことでより一層、さつまいも本来の甘味が味わえる。
口の中に残る甘さもしつこくなく、重厚なオーケストラを聞いた後の余韻のような心地よさがあった。
ふと、マスターのお酒を飲むスピードが僅かだが、段々と上がっていることに気が付いた。
私自身は酒の何が良いのかまるで理解できていないが、お酒と合わせるのにピッタリの料理や味付け、マスターが好みそうなお酒の種類や風味など、そういったものは把握している。
「雨後の月」は、ブドウや梨を彷彿とさせるような、爽やかな香りに定評のある日本酒だ。
元来持っている滑らかさも、ひやおろしともなれば更に増す。
その柔らかで優しい味わいは、味付けの濃い料理にも、滑らかな甘味にもよく合うだろう。
分析は見事に的中。熱燗にすることでより際立った香りが却って料理の邪魔にならないかとも危惧したが、余計な心配だったようだ。
82
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:27:52 ID:6k8.ocVQ0
( ,,^Д^)「……キュート、中身、空いてる」
o川*゚ー゚)o「へ?…あ、どうも、ありがとうございます」
いつの間にか空いていた私のカップに、マスターは悠然と紅茶を注ぐ。
私にお酒を注がせるのは嫌がる癖に、という感想を抱きながら礼の言葉と共に受け取った。
( ,,^Д^)「綺麗だな」
グラスに口をつけようとした寸前に、ピタリと私の動きが止まる。
ぎょっとして顔を上げると、マスターの視線は私ではなく、やや斜め上に紅葉に向けられていた。
o川;゚―゚)o「そ、そうですね!寒いのに、人が集まるのも納得です!」
o川;゚―゚)o(……びっくりした)
紅葉のことか、と納得しながら紅茶を啜る。
自分にあるまじき、浅慮な早とちりをするところだった。
83
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:31:39 ID:6k8.ocVQ0
( ,,^Д^)「…綺麗といえば、最近、よく同期の女の子たちとも話すんだけど」
o川*゚ー゚)o「……へ」
刹那、紅茶を飲む手が止まる。
あまり聞きたくない、それでいて少し気になる話題が始まりそうな予感がしていた。
マスターは話を続けながら、慣れた様子で自身のカップに次々と酒を注ぐ。
カップからは未だに冷めない熱燗の湯気がほのかに漂っているのが見えた。
( ,,^Д^)「やっぱり、ああいう大きな会社だと、綺麗な子が多いんだよな」
( ,,^Д^)「見た目だけじゃなく、所作とか、仕事も丁寧だし。同期の筈なのに自信なくすよ」
o川* ー)o「……そうですか」
呑気に酒を飲んでは景色を視覚で楽しみ、はぁと満足げに、それでいて少し不安そうな息を漏らす。
それがなんだか私にとっては少し腹立たしく、かといってそれを正直に言葉に出来る訳もなく。
苛々を抑えながら、私は手元の甘味にかぶりついた。
84
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:33:02 ID:6k8.ocVQ0
( ,,^Д^)「東京に引越してきた時も思ったけど、なんでこっちの女の子は、皆綺麗なんだろうな?」
( ,,^Д^)「やっぱりあれか?人が多い分、周りを気にする子が多いからか?」
o川*゚ー゚)o「あ、一枚落ちてきた。わ〜綺麗ですね〜」
( ,,^Д^)「割とパーソナルスペース狭い子もいるし…正直困るんだよなぁ、どうすれば…」
o川*゚ー゚)o「お芋、おいし〜」
少し、いや、かなり不愉快に聞こえる話を聞き流しながらムシャムシャとスイートポテトを放りこんでいく。
じろりと隣を見てみれば、マスターの頬はどことなく赤色に染まっていた。
85
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:34:47 ID:6k8.ocVQ0
o川;゚ぺ)o「……酔ってます?」
(* ,,^Д^)「んあ?……あー、多分、割と」
マスターはだらしなくヘラヘラと笑い、カップに残った酒を全て口にする。
箱の中に残っていた最後のホットサンドに手を伸ばそうとするも、その手はどこかフラフラしていておぼつかなく、若干心もとない。
私以外の第三者が見ても分かる。間違いない、酔っている。
それも、笑ってしまいそうになるくらいに分かりやすいレベルでだ。
86
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:35:41 ID:6k8.ocVQ0
酒を飲み始めて、まだ一時間がやっと経過したというところ。
マスターは酒豪という訳ではないが、下戸という訳でもない。
自分の許容量は理解しているようだったし、私も魔法瓶の中には完全に酔っぱらってしまうレベルの量は入れていない筈だ。
どうしてだろうかと疑問に思った矢先、とあることを思い出した。
熱燗、温度が高いアルコールは体内での吸収が早く、常温や冷酒よりも酔いやすいと聞いたことがある。
私には関係のない話だと思っていたが、マスターのことを失念していた。
基本的に、彼はよく冷やした冷酒を好む。それに慣れている彼にとって、熱燗を飲むのに適したペースというのは危惧できなかったのだろう。
87
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:40:27 ID:6k8.ocVQ0
(* ,,^Д^)「あ、そうだ。配属された所なんだけどさ、上司の一人が面接の時に俺を案内してくれた人で…」
o川# ー)o「……すいません。聞き取れませんでした」
(* ,,^Д^)「あの人も美人なんだよなぁ。どうしても気を抜くとじっと見てしまいそうになるんだよ」
o川# ー)o「すいません。よくわかりません」
(* ,,^Д^)「しかもめちゃくちゃ仕事出来るんだよ。俺たち新人の進み具合まで把握してるし…やっぱり、持ってる人ってのは何でも持ってんのかなぁ?現実って残酷だよな〜」
o川# ー)o「ご用件はなんでしょう」
只管に聞き心地が悪い話を、どこぞのバーチャルアシスタントよろしく作業的に流す。
まぁ例え彼が酔ってなくとも、まともに取り合うことはしなかっただろう。
マスターは普段からこういった話をしない人だ。
しかしこの様子を見るに、私に遠慮していたのか、それとも普段は理性で抑えていただけなのか。
とにもかくにも、他の女性についての誉め言葉が彼の口から出ることが、非常に不快なノイズのように聞こえて仕方がなかった。
88
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:41:53 ID:6k8.ocVQ0
o川#- -)o(……うるさ)
左耳の聴覚を一時的に遮断し、未だ暖かい紅茶を嚥下する。
斜め上を見上げる。さらさらと雅な音をたてながら揺れる紅葉がライトアップに照らされて眩しく網膜に映る。
何か別のことを考えよう。胸に燻る黒いモヤモヤを吹き飛ばすため、私は違うことに頭を回すことにした。
そうだ、セットで買った金木犀の紅茶とやらがまだ残っていたはずだ。次はそれをマスターと一緒に楽しむのもいい。
明日の朝食は何にしよう。彼は随分と酔っているようだから、胃に優しいものにしようか。
今日は出かけたのだから、明日は家でゆっくりするべきだろうか。
そういえば、そろそろクリスマスの時期だ。
以前から作ってみたかったシュトーレンとやらの材料でも、マスターと共に見繕いに行こうか――。
89
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:43:12 ID:6k8.ocVQ0
o川* ー)o「………私は、綺麗じゃないんですか」
ふいに思考が途切れ、本音が漏れた。
90
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:46:00 ID:6k8.ocVQ0
カップに残る水面に映った自分の顔を見る。
人間に受け入れられやすいよう、予め設計されて作られた顔だ。
それがどれほど整っているのか、どれほど人の目を惹くのかはある程度自覚している。
実際、それに誇りも持っている。その綺麗さも含めて“優秀”な私だ。
顔だけではない。髪の毛一本から足のつま先に至るまで、人間ならば奇跡と称されるほどの秀麗さになるよう設計されている。
どんな人間の女性よりも魅力的に作られている。それが私であるはずなのに。
自覚している。無意味な嫉妬だ。
いくら私の見た目が上手く取り繕われていたとしても、一皮剥けば、中身は無機質な鉄の塊に過ぎない。
家の中で動くルンバに慕情を抱くものなどいない。
反対に、自分を購入した人間に恋情を抱くルンバだっていない。
私が抱いているこれは、単なる“バグ”。整備不良の一種に過ぎない。
91
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:46:54 ID:6k8.ocVQ0
別に、どうなりたい、という訳ではない。
彼が私を必要だと思ってくれるならそれでいい。
すぐ傍で彼の笑顔が見られる、彼の隣を堂々と歩ける。その程度で満足なのだ。
…そう、言い聞かせてきた。
それだけで「満足しろ」と。それ以上、望むことは許されないし、意味もないと。
だがどうしたことか。その先を切望する自分がいる。
自分を見て、「可愛い」とか「大事だ」と思って欲しいと願ってしまう。
彼の“特別”になれたのなら、どれほど幸せだろうと夢を見てしまいそうになる。
無駄な思想だ。やるせない想いと共に、カップに残った紅茶を一息で飲む。
なくなってしまった、もう一度注ごう。
そう考え、すぐ傍に置いていた水筒に向かって手を伸ばす。
その途端、ぎゅっと腕を掴まれた。
92
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:51:24 ID:6k8.ocVQ0
o川;゚―゚)o「えっ……?」
( ,,^Д^)「おい、俺の話、聞いてるか?」
ほんのり頬が上気したままのマスターが、普段より数割ほど胡乱とした目で問いかけてくる。
やばい、本当に全然話聞いてなかった。
o川#-' -)o「あー…そうですね、美人さんばっかりで、いいですねー」
聴覚を切る寸前までに聞いた話を思い出し、適当な返事をする。
どうせ同じような話をずっとしていたのだろう。
マスターだって男性だ。見目が整った女性に興味があるのが当然だし、私がそれに不満を抱く権利なんてものはない。
小さな針が刺さったような胸の痛みを無視しながら水筒を掴んだ。
93
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:53:47 ID:6k8.ocVQ0
( ,,^Д^)「違う。…やっぱり聞いてなかったな」
ぐっと腕を引かれる。
一体何なのだ、と隣に顔を向けると、すぐ傍に彼の双眸があった。
o川;゚―゚)o「な、なんですか!もう、職場に綺麗な人が多いのは分かりましたって!」
( ,,^Д^)「はぁ?職場の話なんてもう終わっただろ」
o川#-' -)o「あーはいはい!そっか、紅葉の話でしたね!いやーもうホントに綺麗ですよね!ネットで画像検索して出てくるやつとは大違いで――」
( ,,^Д^)「それも違う。…つーか、さっきお前が聞いてきたんだろ」
否定の言葉と共に、ぎゅっと空いていた方の手を握られる。
いきなりの感覚に、うっかり手に取った水筒を零しかけてしまった。
危なかったと胸を撫で下ろすと共に、文句を言おうと顔を上げる。
すると、彼は真直ぐに私の両目を見つめてこう言った。
94
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:55:27 ID:6k8.ocVQ0
( ,,^Д^)「お前の話だ」
( ,,^Д^)「俺は、お前が一番、綺麗に見えるって言ったんだ」
途端に、辺りが静かになったような気がした。
95
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:57:38 ID:6k8.ocVQ0
o川;゚―゚)o「…………ほぇ」
あまりの衝撃的な言葉に、口から間抜けな声が漏れ出る。
今、私は何を言われたのだろうか。
メモリに残った音声ファイルを参照し、もう一度確認しようと試みる。
しかしそれより先に、マスターは私を正面から見据えながら再び話を紡いだ。
( ,,^Д^)「何だろうな?いや、そう作られてるから、美人に見えるってのは分かってんだけど、にしてもなぁ……」
( ,,^Д^)「それにお前、どっちかというと可愛い系だろ?なのに、たまにお前がこう…花の精霊みたいに綺麗に見えるんだよな」
むにむにと無遠慮に頬を触られる。
一体私は今、何を言われているのか、何をされているのか。
突如として押し付けられた情報の洪水に、頭が茹で上がりそうだった。
96
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:58:51 ID:6k8.ocVQ0
( ,,^Д^)「可愛く見える時もあれば、綺麗に見える時もある……」
( ,,^Д^)「これなんでだろうな?他の女子と何が違うんだ…?んん〜?」
o川;*゚Д゚)o「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと、あの…!」
「飲みすぎだ」。そう言って彼の手を払いのける。
マスターはそれでも胡乱な目をしながら、再びこちらに手を伸ばしてくる。
身構えるよりも一瞬早く、彼の手が私の髪に触れた。
97
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/06(金) 23:59:58 ID:6k8.ocVQ0
( ,, Д)「――ずっと、こうしたかった気がするんだ」
o川*゚―゚)o「………え」
スイッチが切り替わったみたいに、彼の声のトーンが低くなる。
噛みしめるように放たれたその言葉からは、いつになく真剣な感情が伺えた。
98
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:01:06 ID:7OkpXiWY0
( ,,^Д^)「…春にさ、桜、観に行っただろ?ほら、去年の秋から約束してた」
o川;゚ー゚)o「は、はい…綺麗、でしたね。あれも」
メモリに残った景色を思い返す。
近所の広い公園。その中心に聳え経つ、大きな一本の桜の木。
とても一本の木とは思えないくらい立派に、その桜は周囲の空間を薄桃色に染め上げ、春風に吹かれて舞い上がる花弁と共に幻想的な世界を作り上げていた。
言葉如きでは表せない程の絢爛さに、思わず瞬きすら忘れてしまったほどだ。
99
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:02:26 ID:7OkpXiWY0
( ,, Д)「…あれ見た時にさ、なんでか、“ありえない”って思ったんだ」
( ,, Д)「お前と二人で、並んで桜を見れるなんて、奇跡だって、何故か分からないけど本気で思った」
( ,, Д)「…今でもたまにそう思う。ふとした時に、“ああ、夢みたいだな”って思うんだ」
私の髪を梳きながら、マスターはぽつりぽつりと話し始めた。
家に帰って、私に「おかえりなさい」と言われた時。
私の作ったご飯を食べている時。
私と並んで、近所を歩いている時。
そういう当たり前の日常の一瞬に、やるせないような、泣きたくなるような、形容し難い感傷的な気分になるのだと。
( ,, Д)「…悪い、変なこと言ったな」
「忘れてくれ」と言い残し、彼の手がするりと私の髪から離れる。
これで話は終わりだと言わんばかりに、彼は再び酒を口に含んだ。
100
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:04:28 ID:7OkpXiWY0
o川*゚ー゚)o「…………」
私は何も言えなかった。
理解できなかったからではない。むしろその逆。
この半年間、私もよく、同じことを考えていたからだ。
貴方が「ただいま」と言う度に、いつもほっとしていた。
私の料理を美味しそうに食べる貴方を見て、無性に泣きたくなる時があった。
隣を歩く貴方の足音が、愛おしく聞こえて仕方がなかった。
じっと俯きながら、何を言えばいいのかと考える。
空になったカップには、当然答えなど書かれていない。
それでも、何か言わなければ。
「私も同じ気持ちでした」と、伝えなければ。
o川* ―)o(………違う)
そうじゃない。言うべき言葉は、伝えたいことはそうじゃない。
もっと言わなくちゃいけないことが、言いたくても、言えなかったことがある筈だ。
101
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:06:02 ID:7OkpXiWY0
o川* ―)o「……マスター」
( ,,-Д^)「………うん?」
o川* ―)o「私も、変なこと言っても、いいですか」
カップを置き、パンと両手で勢いよく頬を叩いた。
ずっと言いたかったこと。言えなかったこと。
バグだの無意味だのと、あれこれ自分に言い訳をして、胸の奥に仕舞いこんでいた言葉。
覚悟を決める。
二文字でも、五文字でも、どちらでもいい。
言わなきゃいけない。どこの誰の為でもなく、他でもない私のために。
――最期まで言えなかった、臆病だった何処かの私のために。
102
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:08:55 ID:7OkpXiWY0
o川* ―)o「マスター」
下を向いたまま彼を呼ぶ。
ぎゅっと握ったままの拳が震えているのが分かる。
拳だけじゃない。きっと、さっきの私の声色も平素とは違っていただろう。
なけなしの勇気を振り絞る。
どう伝えようか、なんて言おうか。拒絶されたらどうしようか。
それでも言おう。二文字にしよう。言葉にしよう。
ずっと塞ぎこんでいた想いを、エゴを、貴方に伝えよう。
締め付けられるように痛む心臓の鼓動を聞きながら、一つ、大きな深呼吸をした。
103
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:10:18 ID:7OkpXiWY0
o川* ー)o「マスター」
o川* Д)o「私は、わたし は」
胸の奥、作り物のプラスチックの心臓が、痛いくらいに騒めき立つ。
関係が変わってしまうかもしれない。
もう、明日から、貴方の隣にいられないかもしれない。
怖い。拒絶されるのが、怖くて怖くて堪らない。
それでも。
104
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:11:38 ID:7OkpXiWY0
o川* ー)o「わ たし は」
o川* ー)o「私は、マスターが、貴方が」
震える喉を懸命にしめて、口が閉じないよう力を込める。
貴方が私を、”そういう存在”として見ていないのは分かっている。
だけど、それでも、そうだったとしても。
何も言わずに終わるより、絶対に、こうするべきだと思うから。
そうすべきだと、誰かに言われた気がするから。
o川* Д)o「貴方、が―――!」
想いを告げようと、顔を上げた。
105
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:15:23 ID:7OkpXiWY0
( ,,-Д-)zzzフゴー
間抜け面が、すぐ目の前にあった。
106
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:18:25 ID:7OkpXiWY0
o川* Д)o「……………」
o川* Д)o「………」
o川* ー)o「」
o川* ー)o「……」
o川* ー)o「…………」
o川* ー)o「……………………」
o川*゚ー゚)o「…………………いや、は?」
107
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:20:02 ID:7OkpXiWY0
喉の震えが止まる。
同時に、胸の痛みなどまるでなかったかのようにスッと消える。
どうやら、私の一世一代の告白は。
眠りこけるマスターの顔を見ると同時に不発に終わったようだった。
o川#゚―゚)o「………」
o川#゚―゚)o「……え、コレ、ぶん殴っても許されますよね」
平手打ちの一発でもかましてやろうか。
そう思い手を振り上げるも、私の中のプログラムが「それはちょっと…」と禁止する。
腕を下げ、思考を巡らせること数秒。
これならば、と指をデコピンの形にし、マスターの額に近付ける。
プログラムからの注意もない。どうやらこれくらいならいけるらしい。
私は人間の頭蓋骨が割れない程度の力を込め、マスターの額目掛けて指を弾いた。
108
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:23:49 ID:7OkpXiWY0
Σ(; ,, Д)「うごっ!!」バチィン!!
(メ ,,-Д-)zzz「………」フゴー
o川#゚―゚)o「いや起きなさいよ」
苛立ちを覚えながらマスターの顔を覗き込む。
健やかな寝息と、落ち着いた呼吸音。どうやら本当に眠っているようだった。
彼が未だ手に持っているカップを手に取り、水筒に戻す。
もう殆ど呑みきってしまっていたのか、と水筒の重さから静かに納得した。
確かに最近はかなり疲れていたようだし、今日は酒が回るのも早かった。
眠ってしまうのも仕方がない。そう自分に言い聞かせても、やはりどうして、よりによって今眠るのかということへの怒りは収まりそうになかった。
o川# ー)o「まっっったく……仕方のない人なんですから…」
気を取り直そうと紅茶を注ぎ、スイートポテトと共に味わう。
しばらくそうしながら紅葉を見てから、私はゆっくりとマスターに視線を戻した。
109
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:26:49 ID:7OkpXiWY0
o川*゚ー゚)o「…まぁ、これでよかったかもしれませんね」
安堵のため息をつき、眠ったままのマスターの頬をツンツンと指で突く。
まぁまぁな力を込めたデコピンでも起きなかったのだ。これくらいで目を覚ますことはないだろう。
o川*゚ー゚)o「………」
今なら、何をしても目覚めない。
つまりそれは、今なら何を言っても、聞かれることはないということ。
口に残っていたスイートポテトを飲み込み、マスターの隣に改めて座り直す。
紅葉の下で呑気に眠る彼を見つめながら、私はゆっくりと口を開いた。
110
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:29:17 ID:7OkpXiWY0
o川*゚ー゚)o「…知ってますか?マスター」
o川*゚ー゚)o「私ね、実はもう半年以上、スリープモードになってないんですよ」
私はアンドロイドだ。人間と違い、眠る必要はないしその機能もない。
ただ、類似機能としてスリープモードというものがある。
単に、エネルギーの節約の為の機能だ。
基本的に動く必要のない夜などは、スリープモードに移行することがプログラム上でも推奨されている。
だが、私は全くそうしていない。
マスターには悪いが、私はエネルギーを節約する気など毛頭ない。
それは何故か。
o川*^ー^)o「…ふふ。皺寄ってる」
単純な話である。
私は、マスターの寝顔を見るのが大好きなのだ。
111
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:31:08 ID:7OkpXiWY0
マスターにも家族はいる。気心知れた友人さんたちもいる。
…正直気に食わないが、職場には仲の良い女性の知り合いもいるらしい。
だが、いくら仲が良くても、彼らはマスターの寝顔を毎晩見ることはできない。
彼らは知らない。マスターが夜中に何度寝返りを打つのか。どんな顔で眠るのか。
私だけの特権。マスターが、私にだけ毎日見せる顔。
それを見るのが、楽しくて、愛おしくて堪らないのだ。
112
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:32:15 ID:7OkpXiWY0
o川*゚ー゚)o「……好きです」
o川*゚ー゚)o「大好き、です。マスター」
頬に触れながら、言えずじまいだった言葉を口にした。
ずっと言いたかった、言えなかった、言おうともしなかった、諦めの言葉。
……眠っていれば、こんなにあっさり言えるのになぁ。
113
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:33:56 ID:7OkpXiWY0
o川* ー)o「私が、どんな想いで貴方の寝顔を見てるか、知ってますか」
聞いていないのをいいことに、話を続ける。
未だにマスターからは静かな寝息が聞こえるままだ。
o川* ー)o「貴方の寝顔を見る度に、その度に、貴方のことが好きになるんです」
o川* ワ)o「…おかしいですよね、私、人間じゃないのに。ただの、ちょっと便利なロボットなのに」
髪を梳く。彼が私にしてくれたように。
起こさないように、それでいて自分の恋心を満たせるように、ゆっくりと優しく髪を撫でる。
114
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:35:42 ID:7OkpXiWY0
o川* ー)o「…私は人間みたいに夢を見れませんけど」
o川*゚ー゚)o「たまに、“夢を見てるんじゃないか”って、思うことがあるんです」
最近、稀に不思議な感覚に襲われることがあった。
本当の私は、暗い、土の中のような場所にいるのではないか。
そんな感覚がしたかと思えば、今度は、マスターの身体の一部になったような。
はたまた、どこか遠い雲の上から、呆けたように街を見下ろしているような感覚になることもあった。
どれも説明し難い、ただの不具合と一蹴するにはあまりに不思議な現象。
その感覚に襲われた一瞬の後、マスターの元気そうな顔を見る度に、こう思うのだ。
――私は今、幸せな夢の中にいるのではないか、と。
115
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:36:54 ID:7OkpXiWY0
o川* ー)o「怖いんです。“おやすみ”って貴方に言われた後の、一人の夜が」
o川* ー)o「スリープモードにして、朝にそれが解除されて、目を開けた時」
o川* ー)o「目の前に貴方がいなかったらって思うと、途端に、起きていたくなるんです」
馬鹿みたいな妄想だ。何の根拠もない言い訳だ。
人間ならいざ知らず、夢も見れないアンドロイド風情が何を感傷に浸っているのか。
それでいざというときにエネルギー不足に陥ったらどうするのか。
分かっている。理解している。
それでも、貴方の寝顔から目を離すのが、どうしても嫌だった。
116
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:38:33 ID:7OkpXiWY0
o川* ー)o「貴方はきっと、知らないんでしょうね」
私が貴方に、どれほど重い想いを抱いているのか。
貴方がこちらを見てくれない未来を想像しては、どれほど心を痛めているのか。
隣に貴方がいることに、私が毎日、どれほど心を躍らせているのか。
髪からゆっくり頬へと手が流れていく。
手のひらから伝わる体温に、私の胸が安堵する。
o川* ー)o「話をする度に、触れられる度に、寝顔を見る度に」
o川* ー)o「昨日より、もっと貴方のことが好きになる。貴方に落ちていく。嵌まっていく」
捨てなければ。切らなければ。
分かっていながら抱えていた想いは、いつの間にか、私の処理能力なんかでは片づけられないくらいに大きなものになっていた。
117
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:40:26 ID:7OkpXiWY0
きっと、この想いに際限なんてものはない。
明日の私はきっと、今日の私よりもずっと、貴方のことが好きになっているのだろう。
o川* ー)o「………マスター」
言葉を区切り、頬を撫でる。
風に髪が揺られる中、閉じられている瞳を見つめた。
世界の何よりも、誰よりも、神様よりも、愛おしい人。
o川* ー)o「私は」
o川*゚ー゚)o「――毎晩、貴方に恋をしているんです」
118
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:42:24 ID:7OkpXiWY0
――強く、冷たい秋風が吹いた。
空に咲いていた紅葉が舞い、数えきれないほどの葉が宙をひらひらと滑空していく。
その内の一枚が、はらりとマスターの頭に乗った。
私にはそれが、何故だかとてもおかしく思えた。
彼の頭に乗った紅葉を払うことなく、私は再びカップに紅茶を注ぎ、空いている手で残っていた最後のスイートポテトを掴む。
満月のような円形に整えられたそれを一口で頬張り、濃厚な甘みを味わった後、ゆっくりと紅茶を飲む。
はぁっと息を吐き、健やかに眠ったままのマスターを見つめた。
119
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:44:10 ID:7OkpXiWY0
o川*゚ー゚)o「……ちょっとくらいなら、いいですよね」
カップを水筒へと戻し、すっかり空になった弁当箱を片付ける。
そして、ゆっくりとマスターのすぐ傍に移動し、ピタリとその身体をくっつけた。
o川* ー)o「30分…くらいだけ、だから」
コートを脱ぎ、マスターと自分に布団みたいに羽織らせる。
横にいるマスターから、心地よい体温が伝わってくる。
今日だけ、今日だけだと自分に繰り返し言い聞かせながら、久方ぶりのスリープモードを起動した。
o川*- ゚)o(……いや、やっぱり…)
o川*- -)o(…1時間……かな……)
o川*- -)o「………おやすみなさい、マスター」
120
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:44:43 ID:7OkpXiWY0
省エネ状態に入ろうと、完全に瞼が下ろされるその直前。
上空に咲き誇る、絢爛な無数の紅葉の隙間から。
私たちを優しく見守るような、淡く輝く月光が見えた。
121
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:46:27 ID:7OkpXiWY0
o川*゚ー゚)oFall in the every nightのようです
〜おしまい〜
122
:
◆xBGwFOoFSw
:2023/10/07(土) 00:49:14 ID:7OkpXiWY0
『( ,,^Д^)プラスチックの心臓が痛いようです』という話の番外編でした。
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1682518446/
読んでいただき、ありがとうございました!
123
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 06:42:59 ID:pixKWcDU0
乙!!
124
:
名無しさん
:2023/10/07(土) 20:29:35 ID:MVX7e3SY0
乙乙
肌寒い中で食べる紅茶とスイートポテト、美味しそう。
125
:
名無しさん
:2023/10/09(月) 07:47:06 ID:yOqiPjys0
おつ!
ifストーリー幸せそうで辛い
126
:
名無しさん
:2023/10/12(木) 21:58:46 ID:9ClNo6zs0
ハッピーif泣いた
乙
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