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月夜の蟹のようです

16名無しさん:2023/10/05(木) 01:19:46 ID:Le8acQQY0

許可を取っているといわれても、乗り気にはなれなかった。業者が処分にくる前に金目のものを持って帰るなんて、空き巣をしているような罪悪感に襲われる。
そもそもよく知らない親戚の家のものなんて欲しくもない。生理的に受け付けない。
幽霊なんて信じてはいないが、思い入れのあるものを持ち帰るなんてしたらバチが当たる気がする。

全く乗り気ではない俺のことなどお構いなしに、祖父は戸棚を開け、クリスタルのグラスを取り出し俺に手渡してくる。

( ФωФ) 「いらんか」

( ^ν^) 「しまうとこないし……」

( ФωФ) 「そうか」

祖父はグラスを戸棚に戻し、続いて銀食器を取り出す。同じ問いに、同じように答える。
早く帰りたかった。この家のものなど、何一つとして持ち帰りたくはなかった。

台所の隣に仏間があり、仏壇とベッドと、電子ピアノが置かれていた。
祖父は鈴を鳴らし、手を合わせる。遅れて俺もそれに倣う。
仏壇の隣の壁に、手書きのメッセージが貼られている。「笑顔で頑張れ」と。

( ФωФ) 「ほれ、このピアノだよ」

YAMAHA、P-60。
鈍いシルバーの電子ピアノに触れながら、祖父は俺の顔を見た。

( ^ν^) 「置くとこ、ない」

( ФωФ) 「ウチに置いててもいいぞ」

( ^ν^) 「そもそも、弾けないし」

( ФωФ) 「大学で音楽サークルに入ったって聞いた」

( ^ν^) 「もうやめたし」

( ФωФ) 「なんでだ」

( ^ν^) 「友達と喧嘩したら大事になっちゃって……もう行けなくってェ……」

( ФωФ) 「ピアノなんて、友達いなくてもできるだろ」

( ^ν^) 「ピアノ、そもそも興味なかったし」

( ФωФ) 「でも」

俺が何度断っても祖父は懲りずに勧めてきたが、続く言葉を失ってとうとう黙り込んでしまった。
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