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( ,,^Д^)プラスチックの心臓が痛いようです
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一回、ぶんと振動したスマホの通知音が聞こえてきて目が覚めた。
バッとベッドから飛び起きて充電器から無理やりスマホを引き抜き、顔認証を待つことなく手早くパスコードを入力してロックを解除する。
スマホを握りしめたまま目を瞑り、深呼吸を一つした。
( ;,,^Д^)(頼む…!)
普段はまるで信じていない神への祈りを捧げながらメールアプリを開き、一番上にきたメールをタップする。
逸る鼓動を抑えつけ、長々と書かれている文章を勢いよくスワイプしてから数十秒、はぁっと息を吐き、力なくベッドへと身を預けた。
視線の先の天井では、白い蛍光灯が煌々と光り続けている。白熱灯にすらエネルギー面で負けているだろうなと、自嘲のため息をもう一つ吐いた。
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o川*゚ー゚)o「“キュート”って名前、付けてくれて、とっても嬉しかったです」
o川*゚ー゚)o「カフェで初めて食べたシュークリーム、一番美味しかったなぁ」
o川*゚ー゚)o「演奏会も楽しかったですね!マスターとカラオケとか、行ってみたかったな〜」
o川#゚ー゚)o「そうだ、向日葵畑も綺麗でしたね。…あの時、ホントに心配したんですからね!」
o川*゚ー゚)o「…でもまぁ、遊園地に連れて行ってくれたので、許しますけど!」
全部、鮮やかなまま覚えている。
記録にも、眼球にも、心臓にも。
この身体の端っこまで、貴方との思い出で一杯だ。
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o川*゚ー゚)o「一回、大喧嘩したこともありましたね。…あの時は、本当にごめんなさい」
o川*゚ー゚)o「水族館、めちゃくちゃワクワクしました!もう本当に、デートしてる気分になれました!」
o川*゚ー゚)o「見せてくれたクリスマスツリーも、凄かったです。あんなのがあるなんて知りませんでした!」
o川* ―)o「…あの時、助けられなくて、ごめんなさい」
o川* ―)o「桜も、一緒に見られそうにないです、ごめんなさい」
感謝。歓喜。反省。恋情。後悔。憤懣。哀愁。
色んな感情が、貴方に会うまではありえなかった想いが飽和する。
ただでさえ抱えきれなかった想いが、もっともっと大きくなる。
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きっと、この想いに限界なんてものはない。
もし私がこれからも貴方と共にいられたのなら、更に大きな想いになっていたんだろう。
だけど、それはありえない話だ。
もう、私には許されない未来だ。
別にいい。私は、私の意識がなくなることに頓着も恐怖もない。
そもそも私は“アイ”、アンドロイド、レプリカント、ロボットだ。
最初から“死”なんて状態は予定されてない。
ああ、だけど、それでも。
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o川*゚ー゚)o「……やっぱり」
o川*゚ー゚)o「もう貴方の隣を歩けないのは、嫌だなぁ」
狂おしい程に愛しいマスターの頬をゆっくりと撫でた。
…あぁ、ほらこれだ。
覚悟などとっくに決めていた筈なのに。
マスターが寝たきりになってから、もう彼と笑い合える日は来ないことなど、理解していた筈なのに。
今更になって、残された時間も殆どないこの状況になって、まだ。
貴方と離れるのが、怖くて怖くて仕方がない。
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o川゚―゚)o「……スリープモード、解除」
私と全く同じ声が、後ろから聞こえてきた。
o川゚―゚)o「キュート様、10分が経過いたしました」
o川゚―゚)o「移植手術を開始――」
o川* Д)o「―――待って!!」
声を荒げて制止する。
手術の施行に入ろうとした妹たちがピタリと動きを止めた。
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o川* ―)o「本当に、あと、少しだけ」
o川* ―)o「――これで本当に、最期だから」
もうない。もう、彼と過ごせる時間は私には残されていない。
このままダラダラと会話を続けたところで、妹たちは強制的に施術に入る。
こうしている間にも、マスターの心拍が弱まっている。
だから、最期に。
これだけは。
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妹たちが少し後ろに下がったのを確認して、マスターの両手を強く握った。
ごつごつとした男性らしい手。私のそれとは違う、力強い手。
この手に触れられるのが好きだった。
隣を歩いている時、何度も繋ぎたいと手を伸ばした。
その度に、バレないように手を途中で止めて引っ込めた。
顔を見下ろす。
私の影が、彼の眠り顔に差し込んだ。
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最期に伝えたいこと。
ずっと今まで言えなかった、言いたかったこと。
私はロボットで、彼は人間だ。
伝えたところで報われない、実らない。彼に迷惑をかけるだけ。
だからずっと、胸の奥の奥に秘めていた隠しごと。
手が震えた。視界が歪む。周りの何もかもが聞こえなくなる。
体中の細胞が沸騰しそうになる。体中の液体が逆流しそうになる。
喉が渇いた。心臓が、今にも飛び出しそうなくらいにうるさくて痛い。
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さぁ、言え。伝えろ。たった一言だ。
もう時間もない。これを逃せば、もう、私にこんな機会は一生訪れない。正真正銘のラストチャンス。
二文字の方でも、五文字の方でも、好きな方を選べばいい。
マスターはまだ眠っている。
返事はこなくても、拒絶される心配はない。
告げるんだ。言葉にしろ。
想いを、感情を、この恋を、愛を。
マスターの手をぎゅっと握りしめる。
あの七月の夜のように、初めて会った時と同じように。
彼の手を、トクトクと鼓動を続ける自分の胸に押し当てた。
覚悟は決まった。
マスターの顔を真直ぐに見る。
相応しい笑顔を作る。
彼の手を握ったまま、私はゆっくりと口を開いた。
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o川* ―)o「マスター」
言うんだ。
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o川*;-;)o「アイを、どうぞ」
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―――ああ、 やっぱり 私は
ポンコツだったみたいです、マスター。
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第八話、投下しました。
次回、最終話です。よろしくお願いします。
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すっげぇー
寿命が延びました
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乙
次最終回か
ここから最後どうなるのか
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乙です!!!
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乙
読み返してきたけど、めっちゃ伏線張ってたんやな
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3匹の鳥が優雅に飛んでいく様を、病室の中から呆と見上げる。
自由に空を飛ぶ鳥たちに羨望の目を向けるのは、随分と久しぶりのことだった。
昔は毎日のように病室の窓から見えた飛ぶ鳥や、外を走り回る子供たちが羨ましくて仕方がなかったものだ。
健康になるにつれそのような感情は薄れてきていたのだが、いつの間にか自分は、当時あれほど願っていた“当たり前”の大切さも忘れてしまっていたのだと自覚する。
視線を自分の体へと戻した。
未だに包帯だのガーゼだのが目に付くが、目覚めた時にあった無数の管や仰々しい機械などは既に取り外されている。
しかし、未だに体は満足に動かない。
自分の主治医となったらしい男性の医師曰く、もう一週間は念のため安静にしておかなくてはならないようだった。
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実際、自分も今はあまり動く気にはなれない。
体力がまだ回復しきっていないのか、長期間の睡眠から目覚めたばかりだからなのか。
上手く言葉で表現できないタイプの倦怠感が体にのしかかっていた。
はぁと溜息をつきながら、もう一度ベッドに横たわる。
( ,,^Д^)(…何の夢、見てたんだっけ)
ここ数日、目が覚めてから俺はずっと同じことを考えている。
随分と長い夢を見ていたような気がするのだ。
実際長く眠っていたようであるから、別にその認識は間違いではない。
長期の眠りだ。夢の一つや二つ、いや、十や二十でも見ていない方が不思議というものだろう。
だけどそうじゃない。
俺はずっと、一つの夢を見続けていたような気がしていた。
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内容は全く思い出せない。
長いような、短いような。
幸福で満ち足りたような、後悔に押しつぶされるような。
矛盾する感想が朧気ながら浮かぶ程度の、不思議で取り留めのない感覚があった。
けれど、大事な夢だった。重要な内容だった。
決して忘れてはいけないものだった。
そんな根拠のない確信だけが、ずっと煙のように纏わりついている。
どうにか思い出そうと目を瞑る。
霧がかかっているかのような、ぼんやりとした頭で考える。
忘れてはいけない。思い出さなくてはいけない。
ベッドの上で横になっているという怠惰な姿とは裏腹に、さほど優秀でもない頭だけが必死に回ろうともがいている。
けれども、一向に夢の内容を思い出せる気配はない。
目を開く。窓の外から、雲一つない綺麗に青空が見える。
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( ,,^Д^)(キュートは、どうしてるかな)
上手く回らない頭の中に、未だ顔を出さない同居人のことが思い浮かんだ。
俺が病院のベッドの上で目を覚ましてから三日。
この三日間で顔を合わせたのは病院関係者だけ。
キュートのことだ。俺が目を覚ましたと知ったらいの一番に飛んできそうなものだと思っていたのだが。
昨日、デレ先生がここに来た。
彼女曰く、俺への面会は大事をとって制限しているとのことらしい。
( ,,^Д^)(…とはいえ、キュートは無理やりここに来そうなものだけど)
デレ先生から話を聞いたとき、俺は呑気にそう考えていた。
しかし実際、キュートは律儀に病院のルールを守っているのか、一向に見舞いには来ていない。
いや、そもそも確か俺は数ヶ月単位で眠っていた筈だ。
俺の代わりに色んな雑務に対応して、てんてこ舞いになっているのかもしれない。
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病院特有の真っ白な壁が眼前に迫り、なんとなく居心地が悪く感じて、もう一度ごろりと体勢を変える。
こんなに静かな環境は一体いつぶりだろう。
ここ半年近く、ずっと騒がしいのがいたから静寂が気になるのだろうか。
( ,,^Д^)(…とりあえず、キュートが来たら)
( ,,^Д^)(一言謝らないといけないかな)
そんなことを考えながら寝返りを打つ。
いつ来るのだろう。明日か、明後日か、はたまた今日の夜だろうか。
あいつが来たらまずどんな話をしようか。
聞きたいことや確かめたいこと、放したい事がたくさんあるのだ。
目を瞑りながら、いつの間にか“当たり前”になっていた彼女について思いを馳せる。
ドクンと心臓が強く鳴った、気がした。
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最終話『アイをどうぞ』
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(-@∀@)「…はい!じゃあもう服着ていいですよー」
( ,,^Д^)「どうも」
眼鏡をかけたこの男性が、今の俺の主治医である“朝比奈先生”。
ぼさぼさの髪と野暮ったい眼鏡から、正直第一印象はあまり良くなかった。
だが、ほぼ毎日顔を出しに来てくれることから、きっと良い医者なのだろう。
簡単な検査が終わり、病院服に着替える。
俺が目を覚まして、今日でちょうど一週間。
ついこの間までは12月の猛烈な寒さが世間を包んでいた筈なのだが、俺が呑気に寝ている間に、暦は既に3月に突入していた。
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…正直、事故については、あまりよく覚えていない。
12月の末。キュートと煌びやかなクリスマスツリーを見に行った帰り道。
猛烈に降っていた雪空の下、俺はコンビニの前でキュートが出てくるのを待っていた。
ぼんやりと上から落ちてくる雪を見ながら、キュートを待っていたあの時。
俺がふと数十メートル先の交差点の方に視線を向けたのは、何か不審な音が聞こえたからとか、そういった理由は何もない。
ただ、本当になんとなく交差点を見ただけだ。
まるで何かから逃げるように、交差点の中心へと走っていく少女。
小学生か、下手をすればもっと下だろうか。
そんなことを考えながらぼんやりと少女を見ていると、すてんと、少女が転ぶのが見えた。
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大丈夫だろうか。心配しながら、少し小走りで交差点へと向かう。
俺の他に、少女に駆け寄ろうとする人はいなかった。
親は何をしているのか、そもそもどうして周りの人間は見て見ぬふりをしているのか。
義憤に駆られながら交差点に入った。
信号は青のまま。点滅している様子もない。
すぐに少女を起こして離れれば危険もないだろう。
そう判断し、俺は交差点のど真ん中で転んだままの少女に手を差し伸べた。
(; ,,^Д^)『君、大丈夫か?立てる?』
lw´; _;ノv『……』コクン
(; ,,^Д^)『そっか…お父さんやお母さんは?』
lw´; _;ノv『……』フルフル
大きな両目の箸に大粒の涙を浮かばせながら、首を横に振る少女。
彼女を立たせ、可愛らしい服についた汚れや雪を軽く払う。
下を見ると、少女のスカートには少し赤い色が滲んでいた。
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立ち合えて嬉しい!リアタイ支援!!
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( ,,^Д^)『…歩ける?手、貸そうか?』
lw´つ _;ノv『…だいじょぶ……』
( ,,^Д^)『遠慮しなくていいよ、ほら』
安心させようと笑顔を作って少女の手を握る。
少女は最初は遠慮していた様子だったが、やはり足が痛んだのか、ゆっくりと手を握り返してきた。
ちらりと信号機を見る。
色は未だ青。雪が降りしきる悪天候の中でも、都会の信号機はLEDでよく見える。
まだ点滅も始まっていないが、ここは交差点のど真ん中だ。早目にここから離れるに越したことはない。
少女の手を握り、ゆっくりと歩き出そうとした。
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その瞬間だった。
突如、鼓膜が破れそうになるほどの轟音。
すぐさま音の方に顔を向けた。
太陽か何かと見紛うほどの強烈なライト。
凄まじいブレーキ音と、体全体が吹き飛びそうな風圧。
とんでもないスピードでこちらに向かってくる車体。
そこから先は、記憶がかなり曖昧だ。
まず、咄嗟に少女を突き飛ばした。
すぐに自分も避けようと、少女を突き飛ばした反応で後ろに逃げようと試みた。
しかし遅かった。車に気付くのも、気付いた後の反応も。
今までに感じたことのないような痛みが体全体を襲い、体の内側からぐしゃりと聞こえてはいけない音がした。
そこからは完全に覚えていない。
気が付けば俺は病院のベッドの上で、大量の管に繋がれていた。
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(-@∀@)「…うん。骨もくっついてるし、レントゲンも問題なし」
(-@∀@)「あと三日の検査入院と退院手続きが済めば、すぐにお家に帰れますよ」
事故のことを考えていた頭が、朝比奈先生の言葉ではっと現実に引き戻される。
先生は手に持っていたタブレットから顔を上げ、こちらを見てニコリと微笑んだ。
(-@∀@)「ちょっと早いけど、君の退院用の服とかはそこに置いてあるからね!」
先生が指を差した方向を見る。
見舞いに来た客用に用意されている横長の茶色のソファー。
その上に、新しさを感じる服一式と、俺が日頃から使っていたキーケースが置かれていた。
(-@∀@)「あ、そうだ。他に何か聞いておきたいこととかありますか?」
( ,,^Д^)「へ?え、ええと…そうですね……」
ここ一週間、先生が病室を訪れる時にいつも聞いてくる質問だ。
「就活でもいつも似たようなことを聞かれたな」と、場違いな考えが頭に浮かぶ。
去年からずっと苦労していた就活が、今では何故か、遥か昔のことのように思えた。
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いつもなら「特にないです」とか「大丈夫です」と言って終わらせていた質問。
しかし今日は違う。別に大したことではないが、一つだけ聞きたいことがあった。
( ,,^Д^)「…あの、俺への面会って、いつ頃許可出ますかね?」
(-@∀@)「…許可?」
( ,,^Д^)「いやその、あと数日で退院なのにこんなこと聞いても仕方ないですけど…」
本当に大したことじゃない。
あと三日待てば退院だ。家に帰れば、嫌でもあの喧しいロボットと顔を合わせる羽目になる。
今更見舞いの許可が下りたところで、彼女に会う日がほんの数日早まるだけだ。
分かっている。あとほんの数日我慢するだけ。
それなのに、どうしてだろうか。数ヶ月ずっと眠っていたからだろうか。
一日でも、一分でも、一秒でも早く。
俺は今、キュートに会いたくて仕方がなかった。
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(;-@∀@)「…ええと、何のお話ですかね?」
朝比奈先生の首が捻られる。
俺が何を言っているのか理解できない、といったような様子だった。
(; ,,^Д^)「ああ、すいません!我儘みたいなこと…」
(;-@∀@)「…いえ、そうではなくて」
(;-@∀@)「――面会の“許可”って、何です?」
( ,,^Д^)「………えっ?」
(;-@∀@)「別に、不許可とか、出してないですけど……」
困ったような苦笑いを浮かべながら、朝比奈先生はぽりぽりと頬を掻く。
まるで、俺がおかしいことを言っているかのような反応だった。
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(; ,,^Д^)「いや…でも、デレ先生が……」
(-@∀@)「照屋さん?んー…何か勘違いしたのかな…あの人、優秀だけど偶にちょっと抜けてるとこあるし…」
「照屋が勝手なことを言っただけだ」
遠慮なく病室の扉がガラリと開かれる。
聞き馴染みのある、人への思いやりが一切感じられない声。
振り向かずとも、誰が病室に入ってきたのか嫌でも理解できた。
(; ,,^Д^)「……父さん」
(,,゚Д゚)「目が覚めた、と聞いて来た」
( ,,^Д^)「…ああ、一週間前にな」
俺の皮肉にも眉一つ動かすことなく、父はこちらへと歩みを進める。
いや、そもそも既に俺のことを見ていない。
父の視線は、朝比奈先生が持っているタブレットへと向けられていた。
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(;-@∀@)「ね、猫田先生…」
(,,゚Д゚)「ご苦労、朝比奈。カルテを見せろ」
父からの高圧的な物言いに、朝比奈先生はおずおずとタブレットを差し出す。
部下にもそんな態度なのかと言いたくもなったが、言ったところで何にもなりはしないと口を噤む。
受け取ったタブレットを無表情で見続けること数分。
必要な情報は見られたのか、父はぶっきらぼうにそれを朝比奈先生に返却した。
(,,゚Д゚)「経過良好。特に大事はないな」
(,,゚Д゚)「何かあればすぐに知らせろ。いいな」
(;-@∀@)「は、はい…」
父の言外の圧力に、朝比奈先生は冷や汗を浮かべて首肯する。
父が振り向く。それに俺は身構える。
…が、俺なんてそもそも眼中に入っていなかったように、父は俺の前を悠然と通り抜けた。
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(; ,,^Д^)「……っ!待てよ!」
反射的に父の白衣を掴んで呼び止める。
このまま帰らせる訳にはいかない。
普段であるのなら父と会話などしたくはないが、今は別だ。
聞きたい事があった。ついさっき生まれた、謎の疑念について。
(; ,,^Д^)「“デレ先生が勝手なことを言った”って、何だ?」
(; ,,^Д^)「キュートがここに来ないのは、面会禁止だからじゃないのか!?」
父が心底面倒そうにこちらを見る。
もうとっくに見慣れた氷の視線。今更そんなものに臆する理由もつもりもない。
俺にとって一番優先するべきことは、半年以上前から決まっている。
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(; ,,^Д^)「あんた、全部知ってんだろ」
(; ,,^Д^)「…なぁ、どこだよ。あいつが来ないなんて、おかしいんだよ」
(; ,,^Д^)「キュートは、何処だ」
沈黙が病室内を満たしていく。
朝比奈先生は事情を飲み込めずアタフタしていて、父はそれと対照的に身じろぎ一つしようとしない。
数秒、じっと父の目を見続ける。
根負けしたのか、父ははっと小さな息を吐くと背後にいる朝比奈先生の方に目を向けた。
(,,゚Д゚)「朝比奈、確かまだ回診があったろう。ここはもういい」
(;-@∀@)「えっ…?い、いえ、午前はもうありませんが…」
(,,゚Д゚)「…私に二度、同じことを言わせる気か?」
はっと何かに気付いたように、朝比奈先生は素早く頭を下げて病室から出て行った。
彼が座っていた椅子の上にはタブレットが残されたままである。
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( ,,^Д^)「…“アイ”について知らないのか」
(,,゚Д゚)「全員が知っている訳がないだろう。照屋は数少ない例外だ」
残されたタブレットを父が拾う。
(,,゚Д゚)「それで、具体的に何が聞きたい。手短に済ませろ」
タブレットを操作しながら、こちらを見ることなく語り掛けられる。
こちらとしてもダラダラと長くお喋りをするつもりなどない。
( ,,^Д^)「…なんでキュートは、ここに来ない」
要約した、簡潔な質問を口にする。
細かいことを言えば聞きたいことはもっとある。
デレ先生のこと、自分の身体のこと、事故のこと。
自分にまつわることなのに、まだ詳しく知らないことだらけだ。
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(,,゚Д゚)「照屋からはなんと言われた」
今までと同様、声だけで視線はこちらに向けられることはない。
俺も一々目くじらを立てることなく、先日ここを訪れたデレ先生のことを想起した。
普段から、朗らかな笑顔を浮かべている印象が強い女性だった。
実の妹が入院している時も、困ったように笑っていた。
彼女は医者だ。それも、あの年齢で父の研究にも携わっているくらいには優秀。
聡明で、明るく、医者として求められる精神力もある。
強い女性(ひと)なのだろう。勝手ながらそう思っていた。
しかしあの日、目が覚めた次の日。
大慌てで病室に来たデレ先生は、今まで見たことがないくらい真剣な表情をしていた。
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ζ(゚ー゚;ζ『タカラくん…起きたの!?自分の名前とか、ちゃんと言える!?』
ζ(゚ー゚;ζ『まさか本当に…ええと、どうしよう、何から検査すれば…!』
慌てふためくデレ先生の姿は、当時朧気だった俺の頭にもしっかり記憶されている。
その後、簡単な検査をいくつか受けさせられ、色んな質問を矢継ぎ早にされた。
ζ(゚ー゚*ζ『身体に何か違和感はない?』
ζ(゚ー゚*ζ『息苦しさは?ちょっと歩いてみて』
ζ(゚ー゚*ζ『事故の記憶はある?眠ってる間の意識は?』
とにかく、質問だらけだった。
あまりのやることの多さと質問量に、最初、自分の主治医はデレ先生なのだと勘違いしていたほどに。
取調べにも似た診断は一日中続き、“これで終わり”と言った彼女に俺はこう尋ねた。
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( ,,^Д^)『そういえば、キュートはどうしてます?』
( ,,^Д^)『多分家のこととか、あいつに任せっぱなしにしてると思うんですけど…』
( ,,^Д^)『先生の方からあいつに来てくれって伝えてくれません?俺、今スマホもなくて』
ζ(ー ;ζ『……っ』
(; ,,^Д^)『……先生?』
俺の質問に、デレ先生は少しばかり遅れて口を開いた。
ζ(ー ;ζ『……無理だよ…』
(; ,,^Д^)『えっ?』
ζ(゚ー゚;ζ『…っ!ごめんなんでもない!』
ζ(゚ー゚;ζ『ええと…面会は、ちょっとまだ難しいんだ。タカラくんが今回受けた手術はちょっと特殊なヤツだから…』
ζ(゚ー゚;ζ『しばらくは、誰もお見舞いとか来れないの』
タブレットに映し出されているのだろう、俺のバイタル情報を見ながら早口に説明がなされた。
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( ,,^Д^)『そっか…キュートも無理なんですか?』
ζ(゚ー゚;ζ『…………』
ζ(ー ;ζ『………難しい、かな』
ぼそりと呟くような肯定の返事。
今思い返せば、彼女は巧みに俺に視線を向けまいとしていたのだろうか。
だけど、あの時の俺はそんなことも気付かずに彼女の話を鵜吞みにしていた。
記憶の思い返しをやめて、父の方を見る。
じっと静かに、父は俺の返答を待っている。
( ,,^Д^)「…誰も面会に来れないようにしてるから、キュートは見舞いに来れないんだって、言われた」
( ,,^Д^)「俺の手術、なんか、特殊なやつだったんだろ?」
自分がどんな状態だったのかはある程度聞かされている。
打撲や裂傷といった外見上の怪我だけではない。
内臓の損傷に大量出血、おまけに心臓もほぼ停止。
事故現場が病院から近くなければ、間違いなく死んでいたらしい。
あの雪の中、救急車がスムーズに通行出来たのも大きいとのことだ。
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そんな大怪我に加え、二ヶ月以上の意識不明状態。
治療も手術も生半可なものでないことくらい、何の医学知識も持たない俺でも分かる。
( ,,^Д^)「どうせ、あんたが俺の見舞いに来たのも、その特殊な手術の出来を確認するためなんだろうさ」
俺の発言に、父は一瞬だけ視線をこちらに向けた。
どうやらこれは正解だったらしい。
(,,゚Д゚)「…他には」
( ,,^Д^)「特に何も。強いていうなら、退院時期の説明くらいで」
(,,゚Д゚)「お前じゃない。r-Q10についてだ」
( ,,^Д^)「…いや?面会云々の説明くらいで……」
(,,゚Д゚)「そうか。私に丸投げか、面倒だ」
タブレットの操作が終わったのか、父はこちらに液晶画面を向けた。
訝しみながら、目を細めてそれを見る。
それが自分のCT画像だと気付くのに、数秒を要した。
-
( ,,^Д^)「……俺のやつ?見せられても分かんねーんだけど」
俺はただの法学部生だ。
優秀な兄や父と違い、こんな画像を見せられたところで述べられる所見など一つもない。
(,,゚Д゚)「先ほど撮影した“今”のお前の心臓だ。今のところ、何の拒絶反応もなく動いている」
( ,,^Д^)「…さっき朝比奈先生に聞いたよ。俺が聞きたいのは、キュートはどうしてるかって……」
(,,゚Д゚)「だから見せた。“これ”だ」
( ,,^Д^)「……はぁ?」
話の意図がまるで見えない。
話が嚙み合っているのかいないのか、その判断が判然としない。
こんな画像を見せられて一体何を理解しろというのか。
-
(,,゚Д゚)「見せたほうが早いと思ったが…まぁいい、端的に言おう」
そう言って、父はタブレットの画面を拡大させる。
中心に映し出されていた白い影が、更に大きく表示された。
(,,゚Д゚)「r-Q10は、もうここには来ない」
(,,゚Д゚)「というか、ある意味もう“いる”。お前の質問はそれ自体不当だ」
トントンと、父はタブレットの画像を指で示した。
(; ,,^Д^)「…何言って……」
要領が掴めない。
父らしからぬ、随分と回りくどい説明に頭がこんがらがりそうになる。
「ちゃんと説明しろ」。そう言おうとして俺は喉に力を込める。
発そうとした言葉が音になろうとしたその直前、俺ははっと発言をやめた。
-
(; ,,^Д^)(――さっき、なんて言った?)
父の口から放たれたとある単語を思い返す。
気にも留めず、軽く流した言葉の節々。
俺の“今の”心臓って何だ。
“拒絶反応”って、なんだ。
(# ;;- )『第三世代は、“心臓”にも対応した――』
(; ,,^Д^)「――あ、んた 」
どわっと冷や汗が吹いて出る。
ありえない。そんなはずはない。
いや、そういえばデレ先生は特殊な“手術”としか言っていない。
行われたのが“移植”じゃないと、彼女は断言しなかった。
それでもありえない。
だって、デレ先生は「面会に制限がかかってる」と言ったのだ。
もしこの予想が当たっているのなら、彼女のあの発言はその場限りの方便ということになる。
-
軽々しく嘘をつくような人じゃない。
じゃあ、朝比奈先生の発言は?
彼が「面会の制限などない」と言ったのが、嘘なのか?
(; ,,^Д^)「まさ、か 」
(,,゚Д゚)「流石に気付いたか。鈍いやつだ」
父の目線が少し下がっていることに嫌気がして、さっと胸を抑える。
ドクンドクンと、どこか今までよりも力強さを感じる鼓動音。
ありえない。
ありえない。ありえない。ありえない。
ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない。ありえない
無数に溢れてくる否定の言葉が、眼前の冷たい眦に貫かれていく。
そんな筈はない。できっこない。
不可能だ。非現実的だ。ありえないことだ。
あいつは、キュートは、今も、きっと、
マンションで、あの部屋で、呑気な顔でシュークリームでも食べていて――。
-
(,,゚Д゚)「今、お前が抑えている“それ”は」
(,,゚Д゚)「r―Q10のコアだったものだ」
-
――気が付けば、転んでいた。
腕に力を込めて顔を上げる。
父の黒い革靴が目と鼻の先にあるのが見えた。
身体に走る痛みも顧みず、微動だにしない父を睨みつけた。
(,,゚Д゚)「……親に手を上げるように育てた覚えはないが」
脳が沸騰しそうなほどに血が昇っている自分を、どこか他人事のように見下ろしている感覚。
…そうか。
今、父に掴みかかろうとしたのか。俺は。
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(# ,, Д)「育てられた、覚えも、ない…!」
すんなりと言うことを聞かない身体に鞭打って、無理やり立ち上がろうとする。
倒れた拍子にぶつけた肘や膝がジンジンと痛む。
だがそれよりも、どうしてか、胸の拍動の方がより痛く感じた。
(# ,,^Д^)「適当なこと、ほざいてんじゃねぇぞ…!」
(,,゚Д゚)「親に向ける言葉ではないな」
足に力を込めて立ち上がるも、思った通りに力が入らない。
父に詰め寄るため、一歩踏み出そうと足を前に出そうとする。
しかしそれよりも前に、父が俺の肩を最小限の力で軽く小突いた。
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やべ、1000まで来ちゃいました。
次スレ立てます。申し訳ない…。
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