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( ´_ゝ`)裏路地流石肉店のようです(´<_` )
1
:
名無しさん
:2023/03/20(月) 21:27:01 ID:X5KfY9RU0
※閲覧注意
117
:
名無しさん
:2023/04/10(月) 00:14:08 ID:V4NvTrig0
( ´_ゝ`)「心配したんだぞう。いくら弟者だって外郭に行って無事かどうかなんか半々だろうから」
('A`)「へえ、外郭なんて行ってどうするんだ?」
( ^ω^)「きっと産業廃棄物処理だお。わざわざ14時空まで廃棄申請するほどのゴミがここから出るハズないんだから」
('A`)「そもそもここってゴミも出ないんじゃないか?」
(´<_` )「流石に店に出せないようなモンは外に捨てるさ。質ぐらいは考えてる」
( ´_ゝ`)「ところでコーラのおごりはどうなったんだ弟者」
(´<_` )「……忘れてた。今から行ってくる」
( ^ω^)「ついでにブーンたちにもほしいお」
('A`)「俺炭酸水で」
(´<_` )「しょうがないな、兄者のお守り代だ」
( ´_ゝ`)「かわいそうな俺にはアイスも付けたまえ」
118
:
名無しさん
:2023/04/10(月) 00:14:31 ID:V4NvTrig0
(´<_` )「…………」
改めて財布を持って通りを裏に抜ける。わずかだが血と脳漿の残り香が漂う道は、ある意味普段と変わらない裏路地の日常だ。
アイスの代わりにメロンソーダ、それから客用のコーラと炭酸水のボタンを押しながら時々中で引っかかる釣り銭に蹴りを入れる。オーバーオールのエビ人間のマンガじみた顔が釣り銭やボトルを出すたびにガタガタと揺れる。
そう言えばあの女が言っていたレモンスカッシュの噂は本当なのかと一瞬逡巡する。
(´<_` )「あ」
小銭を入れたら決めた商品のボタンを押すという習慣は単なる好奇心にも適用されるようだった。哀れにも、俺の財布に残った最後の小銭は売り切れランプに挟まれたレモンスカッシュの選択に飲み込まれていった。
がこがこと錆びたように揺れる取り出し口から吐き出されたひっくり返ったイエローの缶を手に取る。
(´<_` )「……あっち、マジかよ」
その7 おしまい
119
:
名無しさん
:2023/04/10(月) 00:17:09 ID:V4NvTrig0
今更ですけどはじめての拙作にたくさんの乙とか紹介とかありがとうでございました
万が一リクエストなんかあったらお答えしたいですがそろそろ書き溜めもネタも無くなってきたので次くらいでおしまいにしようと思います みんなにぴーす
120
:
名無しさん
:2023/04/10(月) 15:14:31 ID:0kR6sV7A0
乙です
121
:
名無しさん
:2023/04/10(月) 22:18:00 ID:sQb.x2Lw0
乙乙
初めてなの?凄い!(両手を広げて囲う動作)
122
:
名無しさん
:2023/04/11(火) 01:13:01 ID:hxAFUSJ60
乙乙
123
:
名無しさん
:2023/04/12(水) 06:33:56 ID:hPBb1PTw0
素晴らしき世界観!
124
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:52:36 ID:PGpDQWzo0
|゜ノ ^∀^)i"
今日も昨日も机の上の景色は変わらない。何度机に向かって万年筆を取っても、紙の中の景色はちっとも変わってくれない。それを苦心して積み重ねたところで薄っぺらい物語の薄っぺらい結末は何ページ重ねても一枚の紙幣にもならない。
それでも書いた。私は、私であるために物語を綴る。
それは祈りのように。それは呪いのように。
作品は私だ。私は作品を生み出すことで私でいられる。
だから、それが出来なくなってしまったなら、私はもう——「私」ではないのだ。
|゜ノ ∀ )
125
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:52:57 ID:PGpDQWzo0
がらん。
( ´_ゝ`)「いらっしゃい」
|゜ノ ^∀^)「こんにちは。ここ、材料の引き取りはしてるかしら」
( ´_ゝ`)「悪いがうちは全部自分で仕入れることにしてるんだ。お嬢さんがそうなってくれるのなら話は別だけど」
(´<_` )「兄者、女に冗談を言うと碌なことがないって学習しなかったのか」
|゜ノ ^∀^)「あら、そうなの。ふふ、冗談だなんて——」
|゜ノ ^∀^)「ねえ。私、ここに殺されに来たの。どうか私を殺してくれないかしら」
( ´_ゝ`)裏路地流石肉店のようです(´<_` )
その8
126
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:53:20 ID:PGpDQWzo0
カウンターに身を乗り出し、レモナと名乗った女は小説家らしい。挨拶もそこそこに手渡されたのはバーコードのない文庫本。表紙は水彩調のタッチで描かれたアジサイのイラストが乳白色の表紙に彩られているだけの簡素な装丁で、それは人気作の押し込まれた本棚の隅で押し固められた短編小説そのものだった。
差し出された本を数ページめくると、序盤こそ軽快なタッチで描かれていたページは徐々にその足取りを重くしていき、まるでペン先を止めた万年筆の作るインクだまりのような停滞を生み出す。苦心して停滞を切り抜けてまた警戒に走り出した分も、やがて一定のタイミングで筆の軽やかさを失う。ありきたりな内容に加えて無関係な緩急が付いた文章はいつの間にか重苦しい展開を迎え、弟者は思わず本を閉じようとした。
|゜ノ ^∀^)「どう、退屈でしょ」
(´<_` )「退屈というほどでもないがなんというか……兄者?」
本を閉じようとした弟者の手から本を取り上げ、兄者はぱらぱらとページを進めていく。数分間の沈黙。そして、中盤まで読み至ったところでぱたりと本は閉じられた。
127
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:53:40 ID:PGpDQWzo0
( ´_ゝ`)「ああ、確かに退屈だね。先へ進むごとにどんどん書き手が退屈している」
|゜ノ ^∀^)「そう、そうね。だからもうすっぱりとやめてしまいたくて」
( ´_ゝ`)「そういうことならお安い御用だ。もうすっかり家も片付けてきたんだろう? 準備さえよかったら奥の作業台にでも行ってくれ」
|゜ノ ^∀^)「ええ——ただ、一つだけお願いを聞いてほしいの」
( ´_ゝ`)「ああ、なんなりと。食材婦人」
|゜ノ ^∀^)「私の体、どこも余さずにここのお店に並べてほしいの。歯の一本も、髪の毛一本も捨てないでほしいの」
|゜ノ ^∀^)「私、ここに来るって決めた時からなるべくいいお肉になれるように頑張ったの。お化粧もしないし、お酒も飲まない。野菜と少しのお魚だけを食べて、今日ここに来るまでは部屋から見える朝焼けと夕焼けしか見ないようにしたの」
|゜ノ ^∀^)「だからお願い。どこも捨てないで、売れ残ってもいいから商品にしてほしいの」
( ´_ゝ`)「ああ、いいだろう。君の歯の一本、髪の一本まで余すことなくこの店に並べることを誓おうか」
兄者は満足そうな笑みを浮かべるレモナの手を引き、カウンターの奥へと消える。右手には仕事道具の大鉈を握り、ポケットにはペンチとアイススクーパー、細身の肉切り包丁。
これから彼女はあらゆる肉となり、骨となり、具となるのだ。
128
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:54:19 ID:PGpDQWzo0
( ´_ゝ`)「……」
作業台の上に乗った彼女を見下ろす形になって、ポケットから小さなハサミを取り出した。緑色の瞳を反射させると、死者とは違う光が写る。
( ´_ゝ`)「生きてる人間をそのまま捌くなんてね」
|゜ノ ^∀^)「あら、町の噂じゃ迷い込んだオフィサーを見るも無残に『裏返し』てしまったなんて言われているのに」
( ´_ゝ`)「俺はいつもは捌くだけで殺さないよ。今日だけだ、殺すのは」
|゜ノ ^∀^)「ええ、お手柔らかに」
ハサミを取り出し、レモナの纏っているワンピースを縦に切り開く。下着を身に着けていないのか、その下は曇りひとつない裸体だった。
( ´_ゝ`)「このワンピースには君の髪の毛で刺繍をしようか」
|゜ノ ^∀^)「素敵ね、お気に入りなの」
129
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:54:40 ID:PGpDQWzo0
ワンピースの布地を離れた場所に置き、ハサミを今度はナイフに持ち替える。少し歪んで柔らかな肌を移す銀面を柔らかな双丘の間に沈め、ゆっくりと奥へ押し込み下へ引く。
|゜ノ ∀ )「あ゛、あぁ゛……っ」
( ´_ゝ`)「君の中で、ずっと君を生かしてきたこれがみんなショーケースに並ぶんだ。想像してご覧」
|゜ノ ∀ )「あ゛っ……、え、ええ。うれしい、とても、うれ゛し、いわ……」
( ´_ゝ`)「嬉しいだろう、そりゃ。自分の作品が誰にも見られず腐っていくよりもっとね」
|゜ノ ∀ )「そ……ぅ゛、ね。きっと、そ……ッ゛、……ふ、ふっ゛…………」
130
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:55:04 ID:PGpDQWzo0
小さな釘をハンマーで打ち込み胸骨を割る。横隔膜を引きはがし、それから腹膜を丁寧に裂いて表側からゆっくりと臓器を引き出していく。大小の腸、胃、膵臓。膀胱、子宮、心臓。まだ生きている様々な中身の赤やピンクを古い蛍光灯が煌々と照らし、その臓器が体から一つずつ切り離されていくのを見守っている。
ちょき、ちょき、ちょき。刃先の短いクーパー鋏が彼女から切り離した役目の一つ一つがアルミトレイに並んでいる。もう彼女は何も話さない。最後までふっくらと膨らんだ肺をそっと切り取り、トレイに寝かせる頃には辿り着く先のなくなった気管から漏れる空気もゆるやかに絶えた。
体側に伸びる肋骨を一本一本拾い集めてバケツに投げ込み、俺は少しずつレモナを「骨」と「肉」に変えていく。ナイフで首の頚動脈を裂いたらそこを少しだけ身体より下げてスムーズに血が抜け出るように手助けをしてやれば、血抜き用バケツにゆっくりと深い赤が溜まっては断続的に滴る雫が波紋を残し、消えていった。
131
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:55:26 ID:PGpDQWzo0
がらん。ぽたり。がらん。ぽちゃり。
臓腑をすっかり抜き取られたレモナの腹の中が背骨に繋がる骨盤だけを残して空っぽになる頃、ようやく命の全部が滴下を止めた。
( ´_ゝ`)「よいしょ、っと」
作業台に立てかけた鉈を取り、思い切り振りかぶった。こういうのは一回目標を決めたらあとは思い切りが大事だ。刃の中心がレモナから作業台に達する度、鮮やかな断面が二つ四つと顔を覗かせた。ハロー、ハロー。
最後に振りかぶった刃で繋がりを絶たれた首と胴(——あるいは袋と言うべきか)にはそれぞれにえも言われぬ美しさがあった。かたや中身を全て失った空っぽの胴体、かたや全てを残したまま胴だけを失った美しい首。人の魂や生命のありかは心臓か脳か。この美しい形を見てなお人々はそんなくだらない議論を続けられるのだろうか!
( ´_ゝ`)「完璧だよ。流石だよな俺」
132
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:55:50 ID:PGpDQWzo0
切り分けられた四肢をシンクに並べ、次はいよいよ首の処理に挑む。この美しいブロンドを一本残さず抜き取って、朝日と夕陽に焦がれたエメラルドの瞳をくり抜いて、それから形のいい唇から覗く形のいい歯を一本ずつ抜く。残った皮膚も他の部位同様に丁寧に剥ぎ取り、舌を引き抜いてからようやく頭蓋を叩き割れる。
その肉体の全て何一つ無駄にしないことのなんと手間のかかることか! つくづくわがままな食材の思し召しの通りに一つ一つを丁寧に処理し、皮膚の残りをすっかり剥ぎ取り終えてようやく先程胸骨を砕くのに使った釘を手にすることができた。
後頭部、少し偏平な形をした部分から神様が作った縫い目を探す。継ぎ目の中心に先端をあてがい、そっと釘の背に金槌を振るえば、たちまち数枚のプレート状に割れた頭蓋の中から彼女の本質回路が顔を見せた。
133
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:56:18 ID:PGpDQWzo0
中に詰まった灰褐色の脳髄は血の海で泳ぎながら一体何を見ていたのだろう。作家と言うからには俺より断然あたまが良いのだろう。たくさんの世界をたくさんのやり方で描いてきたそれをそっと取り上げてボウルによそい、中に溜まった魂のネクタルに浸す。これでいい。これが彼女の全てなのだ。
骨、肉、血、脳、臓腑、皮膚。人体を構成する全てをそれぞれに分け終わる頃にはすっかり夕日は姿を隠していた。
( ´_ゝ`)「弟者、何でもいいから平らなものいっぱい」
(´<_` )「アイロン台なんて気の利いた物がこの店にあるとでも? せいぜい机とカウンター、あとは冷蔵庫と電子レンジの上ぐらいしかない」
( ´_ゝ`)「じゃあそこでいい、しばらく使うなよ」
134
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:57:00 ID:PGpDQWzo0
俺は彼女から引き剥がした皮膚を同じような大きさに切り分けながらそこらじゅうに広げてなめした。弟者のライターに火を付けてわずかな産毛を焼き切り、またある場所の毛は意図的に残す。視界に映るあらゆる場所に彼女の一部を貼り付けて乾燥させている間に取り分けた骨を洗い流して部位ごとに分け砕けた部位は骨粉に、そのままの部分は骨好きの客のために保存庫に移した。
同時に肉の処理も始める。どうしても切り分ける段階で出てしまうくず肉はミートミンサーにかけてミンチにするが、丁寧に切り分ければほんの一袋程度しか出ない。指先を落とした四肢は皮膚を剥がれて吊るされやがて買い手が現れるのを待つ「商品」となる。脳漿や臓腑はパーツごとに値札をあてがい、ショーケースの一番前に飾り立てた。
そうするうちにまた一つ朝焼けが夕焼けに溶け落ちて夜になる。俺は乾いた皮膚に防腐グリースを塗り、それぞれに向きをつけてペンで印を付けた。
( ´_ゝ`)「……ああ、完成だよ。始めようか、人生最後の君の個展を——レモナ・ウィンストン」
135
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:57:20 ID:PGpDQWzo0
そうしてできたのが彼女の皮膚を縫い合わせ、栞紐には艶やかなブロンドを使用したブックカバー。眼球と指先だけを色とりどりの飴で包んだキャンディッドミール。筋張らず、かといって脂肪の付きすぎない健康的な四肢を使った丸々とした枝肉。ケースに並んだ女の全て。切り取った柔らかな尻や乳房の脂肪はパウチに詰めたし、抜き取った血はゼリーにしたり脂肪と混ぜてバタージャムにしてもみた。最後に切り口を縫い直しておまけに金の紫陽花の刺繍を施したワンピールをトルソーに着せて飾れば、たちまち裏路地の肉屋はたった一人の女による展示会の様相を成した。
そう、ここに並ぶすべてが『彼女』——の、はずだった。
( ´_ゝ`)「残るはこれだけ、か」
136
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:57:47 ID:PGpDQWzo0
兄者が両手に抱えたのは31本の歯。一本一本丁寧に引き抜かれ水洗いされたエナメル質。どこを見ても一寸の腐敗こそないものの、その表面は俄かにコーヒーの色を纏っていた。わずかな終生の果てを肉として生きたとしても、そこにはそれよりはるかに長い時間歩んできた人間としての生が残されていた。
( ´_ゝ`)「んー……ニュッ君に売るのはナシ、ドクオも歯は食わないし……」
これをどうしたものか。握ると鋭利な痛みを伝えてくる乳白色のエナメル質を手に辺りを見回す。
( ´_ゝ`)「おっ」
ふと目に留まったのは、昔骨粉を作るときに使おうとしたがあんまりにも手間がかかると使わなくなった中くらいの大きさの乳鉢。石臼では細かくなりすぎてしまい骨と歯の違いを表現できないからこそ、これがうってつけだった。
まだ汚れもほとんどない乳鉢に試しに臼歯を数本からからと落とし、必死に乳棒でたたきつけるように砕く。硬いエナメル質は傷一つ付かず、ただいたずらに疲労が蓄積されていった。
137
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:58:12 ID:PGpDQWzo0
(;´_ゝ`)「くっ……この、なまじ健康なっ、ばっかりにっ……!」
がりがり、ごろごろ。ぱきん、ぱきん。必死に力を込めて叩きつけると、徐々に咬合面の方からヒビが入り始める。欠けはじめた部分を執拗に叩き、またあるいは歯根などの細い部分を狙うと小さな欠片が鉢の底に溜まっていった。硬い表面さえ砕いてしまえばあとは何もかもが容易く、鉢の底で転がしているうちに行儀良く並んだエナメル達は数時間もすれば不揃いな粒子へと化ける。乳鉢の中身が31本の歯から粉末になる頃には疲労とともに一つのインスピレーションが兄者の中に湧き上がっていた。
( ´_ゝ`)「なあ、俺も展示したいな。折角の彼女の展示会だけどさ」
(´<_` )「おk、徹夜のしすぎて兄者の気が触れたのは理解したが説明を聞こうじゃないか」
( ´_ゝ`)「あのな————」
138
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:58:38 ID:PGpDQWzo0
眠気と疲労で光を失った兄者の目は僅かに笑みを浮かべていた。頷き合う同じ顔の双子はそれぞれ動きだし、一方は血液を、もう一方は脂肪の詰まったパウチを取り出して作業台に着いた。乳鉢を囲うように並べた小さな空の器とシリンジが二本。それから隣には空っぽの額縁を並べ二人は向かい合った。
二人はパウチに分けた中身を数ccずつシリンジの中へ抜き取っていく。それからいくつかの器に分けた破砕歯の粉末にそれぞれの感性に任せた分量で混ぜ込み、時にはあえて色ムラを作るように着色した。血の赤、脂肪の黄色、骨と歯の白、その隙間を埋める薄褐色。手元でこねて色を付け、感覚のままに袋の中身を額縁に散らせば——
(´<_` )「なんだ、まさか俺に合わせたか?」
( ´_ゝ`)「いいや、間違いなく俺の感性だ」
(´<_` )「……つくづく流石だよな、俺ら」
139
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:59:07 ID:PGpDQWzo0
そこには、自然と小さな砂浜と夕焼けが現れた。
二人の手が止まり額を閉じるうちにも徐々に血の色は乾いて色は褪せていく。それでも酸化防止用のスプレーをかけてしまうのは、死の直前まで美しい肉であるためにすべてを律してきた彼女にはあまりにも無粋に思われたからだ。
糊付けしただけの額縁の中身が極力崩れないようにカウンターの上に寝かせるように飾り、買ったはいいものの持て余してモニュメントの墓場になっていたラックをカラーボックスをいじって作った本棚に置き換えた。
あとは観客と、あわよくば目の良いディーラーが現れるのを待つだけだ。
140
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:59:31 ID:PGpDQWzo0
がらん、からん。
それから数日、死んだようにカウチで眠り続ける兄者の安否を無視するようになって久しい弟者が懐かしい古戸鐘の声を聞いた。
(´<_` )「……いらっしゃい、兄者。個展を始めて初めてのお客だぞ」
( ´_ゝ`)「うーん……ああ、これは随分都合の良い方がお越しだ」
血みどろのエプロン姿のままカウチに臥せっていた兄者の姿に目を顰めた男は様変わりした店内に目線を配るとたちまち表情を緩めた。
( <●><●>)「おや、ここは書籍も取り扱うようになったのですか」
141
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 01:59:55 ID:PGpDQWzo0
( ´_ゝ`)「ブックカバー付きで限定販売中。知ってるかい? その本は作者、レモナ・ウィンストンそのものさ」
( <●><●>)「ええ。自費出版の作品ばかりですが、こういうものばかりを集める者もいるのです」
白い手袋をした手で壊れものを扱うように皮製のブックカバーを当てた本に目を通すワカッテマス。しかしやはり本の半ばで黒い眼差しの巡りは止まり、本は閉じられた。
( ´_ゝ`)「流石はお目が高いね。ところでそこの絵も彼女自身なんだが、興味は?」
( <●><●>)「生憎ですがこの手の作品はギャラリーで見飽きています」
(´<_` )「ま、描いたのは俺たちだしな」
( <●><●>)「素人じゃないですか」
( ´_ゝ`)「ちなみに今は流石肉店は「レモナ・ウィンストン個展』セールの実施中だ。今ならショーケースの中身から枝肉まで何もかもがレモナ・ウィンストンそのものさ」
142
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 02:00:34 ID:PGpDQWzo0
( <●><●>)「……ふむ。でしたらこの本をいただきましょうか」
( ´_ゝ`)「まいど。そうだな、一冊彼女への香典として4万アンだ」
( <●><●>)「今までの彼女の作品の中では間違いなく最高額でしょうね。……いいでしょう、ではこの通り」
淀みのない動きで札を取り出すワカッテマスの腕の中に収まったレモナの本は、中の表紙の紫陽花を写すように開かれた瞼で淡い色の瞳を形作りこちらを見つめているようだった。
( ´_ゝ`)「おめでとう、君は今までの人生史上最高額で評価されたよ」
その8 おしまい
143
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 02:20:22 ID:xrJ9sruU0
うーむ味わい深い
144
:
名無しさん
:2023/04/15(土) 04:25:08 ID:GzkXdYTI0
乙
145
:
名無しさん
:2023/04/17(月) 00:04:34 ID:VlRv.dds0
age
146
:
名無しさん
:2023/04/17(月) 01:13:08 ID:eUelBac.0
乙
互いの利益が一致しただけの関係のはずなのに、兄者の仕事ぶりが真摯すぎて…
愛だな、と思った。誰に対しての、とは言えないけれど
147
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 15:46:06 ID:aHAVVC1s0
—エピローグ
(*^ω^)「おいしいお! おいしいお! 揚げたてのモモ肉おいしいお!」モグモグ
('A`)「おお……残った骨にまで味が染みついている……」バリバリ
( ´_ゝ`)「大盛況じゃないか、流石だよな俺ら」
(´<_` )「まさかいきなり兄者が『肉の卸だけじゃなく料理もやりたい』なんていうとはな」
( ´_ゝ`)「説明乙」
( ^ν^)『でも急にチキン屋を開くなんて言うからついに失業しやがったと思った』
(´<_` )「食わないなら帰れ、この店狭いんだ」
( ^ν^)『高額融資者になんて口を……』
148
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 15:46:51 ID:aHAVVC1s0
( ´_ゝ`)「そうだぞー。ニュッ君が大口に仕事が入って更なるワンチャンスを掴むが為にうちの店に出資してくれたんだから」
(´<_` )「なんだかんだ金持ちと労働者両方に愛される店ってのはいいもんだな」
(-@∀@)「そうだねー。都市の方にも君たちみたいな有名なパイ屋があったけど潰れちゃったそうだし、今がチャンスなんじゃないかな」
(*´_ゝ`)「都市にとどろく流石肉店の名……最高じゃないか!」
(´<_` )「そのうちリフォーム費用も貯まれば俺達だってベッドで眠るぐらいのスペースも確保できるんじゃないか?」
(*´_ゝ`)「よーし! 景気づけにじゃんじゃん捌いてじゃんじゃん揚げちゃうぞー!」
(´<_` )「俺もちょっと出てくるか。ブーンがえげつない勢いで食い進めていくから在庫が危うい」
( 。^ω^)バクバクブンブン
149
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 15:47:45 ID:aHAVVC1s0
( <●><●>)「……?」
(´<_` )「ワカッテマスさんも、悪いけどうちに立ってても上等な酒やらつまみやらは出ないぞ。今のところあるのはチキンのフレーバーが3種類だけだからな」
( <●><●>)「いえ、誰か来ます」
(´<_` )「……っ、うわ、本当だ。なんで俺より先」
( <_ ;)「に゛っ……!?」
(;^ω^)「お……お゛っ゛っ、うげえぇええェエッ」ビチャビチャ
(;-@∀@)「ニュッ君これやばいね、何? 精神汚染系?」
(;゜A゜)「あ、頭割れ、ぶー、んッ、げぼォっ」ガクガク
(;^ν∩)『あのアマ、来やがった』
150
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 15:48:05 ID:aHAVVC1s0
がらんがたん、ごん。
从*゜∀从つ♉︎+『おーーいニュン坊!! 完成だ! 完璧な加工だ!』
(;^ν^)『あーーっとマジでちょうどいいタイミングですねえワカッテマスさん例のご依頼の品ですが!!』
(ii<●><●>)「何となくそんなような気はしていました、が……少し場所を変えましょうか……」ウプ
从 ゜∀从『ケケケ……なんだァ? この加工師ハイン様の珠玉の逸品に感涙失禁思わず恍惚境か?』
( ;ω;)「おっ、おぇ゛、ごめんなさいお、おに゛ぐざん、あに、じゃっ」
三(ii-@∀@)「あーっとこれから急患が入る予定なんだった! それじゃニュッ君お勘定お願いねまた来週ね」
(;^ν^)白『オートタクシー大至急! 場所は——』
——裏路地流石肉店改め、
( ´_ゝ`)裏路地流石チキンのようです(´<_` )
151
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 15:48:27 ID:aHAVVC1s0
(*´_ゝ`)「ふんふーん……奮発してガーリックチリまで作っちゃって俺って天才かも……」
( ´_ゝ`)「え? 何この惨劇……ちょっと! 誰もいないしゲロまみれだし」
(;´_ゝ`)「お勘定もらってないんですけどー!?」
おしまい。
152
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 15:48:47 ID:aHAVVC1s0
【おまけ】
( ・∀・)「モナー先輩知ってます? 最近この辺にめちゃくちゃガーリックチキンが美味しい店ができたらしいんですよ」
( ´∀`)「モナモナ? この辺に新しいチキン屋なんてあったモナか」
( ・∀・)「あっ! 今タクシーが出てきた通り! あそこを通ったところにあるらしいですよ! モナー先輩!!」グイグイ
( ´∀`)「ぐいぐいすなモナ」モナバタ
( ・∀・)「いきましょうよーちょうど小腹なんですよーせんぱーい」
( ´∀`)(あの通り……)
( ´∀`)「じゃあモララー、お小遣いあげるから行ってくるモナ。どうせモナに奢られるつもりモナ? モナは遠慮しとくモナ」チャリチャリ
三(*・∀・)「やったやったーー!! ゴチです先輩!!」
( ´∀`)「…………晩御飯が食べられなくなるのも嫌モナから、ね」ボソッ
ほんとにおしまい。
153
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 15:53:59 ID:hAuEuT2.0
乙!
154
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:07:47 ID:O0PlMgBc0
チキン店
155
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 02:39:50 ID:5tX0l5dI0
乙です
156
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 08:23:24 ID:UrEx8KZc0
ID変わっちゃったけど
>>1
です
これにて( ´_ゝ`)裏路地流石肉店のようです(´<_` )のお話はおしまいです たくさんの乙とか感想などいただきましてありがとうございました
ずっとブーン系を読み続けてただけの人間なので1ヶ月も頑張れてよかったとおもいます
ちなみに今日からとある場所で本当にチキン屋さんが始まるとかなんとかむにゃむにゃ……(改めて世界観をお借りしたproject moonに愛を込めて、ぴーす)
157
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 00:09:36 ID:fY0orpHQ0
めっちゃよかった
158
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 14:48:41 ID:YCDudKNU0
楽しかったです!ありがとう
159
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 16:15:33 ID:EShUiMEs0
乙乙
モナー鬼畜過ぎない?
160
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 23:51:25 ID:gyTSuR7c0
よかった。完結乙です
モララーは…本当に食べてしまったのか?
161
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 03:02:36 ID:fX20Wnko0
緑髪のエレアは殺せ
162
:
名無しさん
:2023/04/26(水) 21:31:33 ID:/4Xau7eY0
https://postimg.cc/BLnwfWMk
多分TETHぐらいのビロード
163
:
名無しさん
:2023/05/03(水) 15:48:25 ID:c7Ye36MA0
[番外編]
Rrrr……
( ´_ゝ`)「はい、流石チキン」
(´<_` )「本当にこの店名でよかったのか?」
( ´_ゝ`)「へー、人差し指からGW特別の指令……はいはい……了解しました、直ちに」ガチャン
(´<_` )「……俺たちはベッドを買うより先に都市に出るべきかもな。ふざけた指令だの約束だのに付き合ってるのも嫌になってきた」
( ´_ゝ`)「そう言うなって。なに、随分簡単だったよ」
( ´_ゝ`)『完結及び打ち切りの代償として読者の質問になんでも答えろ』
( ´_ゝ`)「……読者って何? 顧客ならわかるが……」
(´<_`;)「ああそうかい、その程度で済んでよかった……」
164
:
名無しさん
:2023/05/03(水) 15:49:06 ID:c7Ye36MA0
( ^ν^)『と言う訳で改めて作品に対する質問とかなんかを募集して適当に答えるぜ。結構投げっぱなしで終わったから拾いきれてない諸々とかあとは好きなキャラへのあれこれとかな』
( ´_ゝ`)「ちなみに何も来ないと俺たちは人差し指の執行者に指令の未履行として殺されかねないからな、遠慮なく頼む」
(´<_` )「別に執行者の一人や二人……いやまあ面倒がないのはいい事だからな、無きゃ無いで構わないしあるならいくらでも頼む」
( ^ν^)『期間はGW期間だから5/7いっぱいな。ちなみに俺らは年中無休だからよろしく』
165
:
名無しさん
:2023/05/04(木) 02:31:56 ID:uzB54ayE0
正直言うともっともっと読みたかったんだぜ……
色々気になる伏線があるけど、そうだね
ドクオとニュッ君へ、レモナのサンセットビーチの絵を見た感想があれば教えて
166
:
名無しさん
:2023/05/04(木) 05:13:33 ID:rJqjzzEY0
>>165
('A`)「しばらく店に飾ってあった絵って二人が描いたんだな。そういう才能があるとは思ってなかったが……なんだ、綺麗だとは思ったよ」
( ^ν^)『ワカッテマス氏の言う通りあの手の商品はうちのギャラリーでバカみたいに並んでるからノーコメント。ただ一卵性双生児の意識共有がベースなのは悪くねえ』
('A`)「……食べれる絵って、いいよな」
( ^ν^)『バカ』
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