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ミセ*゚ー゚)リ猫ふんじゃったようです( ゚д゚ )
1
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 04:56:57 ID:GxTO/Xmc0
百物語参加作品のようです。
.,、
(i,)
|_|
2
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 04:58:13 ID:GxTO/Xmc0
隣の家に住む幼馴染の三瀬ミセリは、幼い頃から音楽の才能に恵まれていた。
中学生の時には、あらゆるコンクールや大会などで優勝を総なめにしていて、コイツはいつか世界的な何かになるんだろうなぁと何の取り柄もない俺はいつも隣でぼんやりと思っていた。
3
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 04:58:42 ID:GxTO/Xmc0
ミセ*゚ー゚)リ『じゃじゃーん!また我が家に賞状増えちゃったー』
( ゚д゚ )『今回の賞状は豪華だな。何の大会で優勝したんだ?』
ミセ*゚ー゚)リ『今回はピアノコンクールで優勝したよ』
( ゚д゚ )『またピアノか、立て続けだな。でも、先週は歌の大会かなんかで優勝してたっけか?』
4
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 04:59:25 ID:GxTO/Xmc0
ミセ*゚ー゚)リ『うん、歌でも優勝したよー。あ、そういえば、その時に審査員から歌姫ミセリって呼ばれちゃったの!だからミルナ、今度から私のこと、ミセリ姫って呼んでもいいよ』
( ゚д゚ )『分かった。お前の才能に嫉妬してる吹奏楽部の連中の前でだけ、音楽の天才ミセリ姫って、呼ぶわ』
ミセ*゚ー゚)リ『ミルナは大事な幼馴染がいじめにあう姿がみたいのかな??』
( ゚д゚ )『ソンナワケナイジャナイカ』
ミセ*゚ー゚)リ『めっちゃ棒読みじゃん!…ってかさ、あの子たちに嫉妬されても困るよね。こちとら幼稚園の頃から音楽の英才教育バリバリ受けた努力型の天才だよ?中学入学して吹奏楽部入ってから楽器始めた連中に嫉妬される筋合いはないっつーの』
( ゚д゚ )『正論だけど心に留めといた方が良いぞそれ』
5
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:00:49 ID:GxTO/Xmc0
ミセ*゚ー゚)リ『ミルナの前以外で言うわけないじゃん。私の内弁慶っぷりを舐めんないでよね!』
( ゚д゚ )『それもそうか。そもそもお前、俺以外の奴とまともに話せないもんな』
ミセ*゚ー゚)リ『音楽の才能に恵まれた代わりにコミュ力壊滅的だからね!』ドヤァ
( ゚д゚ )『別にドヤ顔で言うようなことではないが』
ミセ*゚ー゚)リ『あはは!…あ、そんなことより、ミルナ。今日もピアノの練習するでしょ?』
( ゚д゚ )『あー…そうだな、そうする』
ミセ*゚ー゚)リ『嫌そうなお顔ー』
6
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:01:14 ID:GxTO/Xmc0
( ゚д゚ )『嫌な顔にもなるだろ。音楽のワカッテマス先生、どんな楽器でどんな曲でも良いからクラス全員の前で一曲演奏するのが期末課題だなんて、どうかしてるとしか言いようがない。音楽の才能ない人間の気持ちとか考えたことないと思う、まじで』
ミセ*゚ー゚)リ『私はどんな楽器でどんな曲でも演奏できちゃうからめっちゃラッキーだけどね、今回の課題』
( ゚д゚ )『うぜー。幼馴染じゃなかったらウザすぎてお前の陰口言いまくってただろうな、俺』
ミセ;*゚ー゚)リそ『ひどーい!大切な私の最高級のピアノをタダで使わせてあげて、しかもレッスンにまで付き合ってあげてるのに!』
7
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:02:02 ID:GxTO/Xmc0
( ゚д゚ )『ピアノ貸してくれるのは普通にありがとう。でも、お前教えるのは下手だよな』
ミセ*゚ー゚)リ『天才ゆえの…って奴かしら?』
( ゚д゚ )『天才とかそう言う次元の問題じゃなくて、ドレミファソラシドも辛うじて分かるかどうか、ってレベルの奴に分不相応な楽譜しか渡さないのが敗因だろ。もっと簡単な楽譜よこせ』
ミセ;*゚ー゚)リ『悪いけどそんな難しい楽譜渡してないんだけど…。ってか、今よりレベル下げると、本当に子供が弾くような楽譜になっちゃうよ?みんなの前で発表するのに流石に恥ずかしくない?』
8
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:03:06 ID:GxTO/Xmc0
( ゚д゚ )『…じゃあ、それは、ほら。なんかアレンジしてカッコよくしてくれよ。お前作曲とかもできるんだから、良い感じのアレンジもできるだろ?』
ミセ;*゚ー゚)リそ『なにその信じられないほどの無茶振り!ってか、基本もできてないミルナがアレンジ曲なんて弾けるわけないでしょ!?』
( ゚д゚ )『正論だけど心に留めといた方が良いぞ、それ。真実は時に幼馴染を傷つける…』
ミセ*゚ー゚)リ『幼馴染のために真実を突きつけなきゃいけない時もあるでしょ』
( ゚д゚ )『それも正論だからやめろ。……ちなみに、子供が弾けるレベルだったら、俺が何とか弾けそうな曲ってあんの?』
ミセ*゚ー゚)リ『んー、そうだね。いくつか候補はあるけど、まぁ、やっぱり定番の…』
( ゚д゚ )『定番の?』
9
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:03:27 ID:GxTO/Xmc0
ミセ*゚ー゚)リ『猫ふんじゃった、が良いんじゃない?』
.
10
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:04:13 ID:GxTO/Xmc0
ミセ*゚ー゚)リ猫ふんじゃったようです( ゚д゚ )
.
11
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:04:42 ID:GxTO/Xmc0
幼馴染の三瀬ミセリは、幼い頃からどうしようもなく「ドジ」な奴だった。特に高校時代のミセリはよく転ぶし、よく物をなくすし、俺が隣にいないとまともな日常生活を過ごすことができないレベルの「ドジ」だった。
心配だったので、大学もできれば同じ所へ行きたかったが、ミセリは音大へと進学した。音楽の才能がない俺は理系の大学へ進学し、人生で初めて、それぞれ別の道を歩むこととなった。
俺がいなくて平気かよ、と思っていたが、音大はミセリのような奴でも友達になってくれる変人奇人も多くいたようで、ミセリも楽しそうな大学生活を送っていた。
12
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:06:12 ID:GxTO/Xmc0
大学生になり、俺とミセリの関係は疎遠になったかと言うと、そんなことはなくて、お互い時間が合う時はいつでも宅飲みをして、近況を話したり、馬鹿話をして過ごしていた。
宅飲みでは、ミセリの大学でのとんでない伝説的な「ドジ」エピソードを聞いて、俺は涙を流しながら笑った。
ミセリは笑いすぎ、と顔をしかめていたけれど、俺はミセリの「ドジ」話を聞くたびに、自分に音楽の才能が与えられなかったことを非常に腹立たしくおもっていた。
それでもミセリが、大学では新しい友達ができたと喜んでいたから、俺はミセリに合わせて笑っていた。
13
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:06:54 ID:GxTO/Xmc0
高い教科書を何度もなくしてしまう「ドジ」話。
おそらく酔ったかなんかで、課題で作曲した楽譜を破ってしまった「ドジ」話。
大学の近くにある廃墟に住み着いている猫たちを撫でようとしたら引っ掻かれてしまったドジ話。ピアニストになろうとしている奴が手を引っ掛かれるなんてダメだろ、とこれだけは注意した。
他にも色々な「ドジ」話があったが、ミセリが笑いながら話すから、俺も笑った。ミセリよりも大きい声で笑った。涙を流しながら、笑った。
14
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:07:16 ID:GxTO/Xmc0
…だけど、俺があのとき、笑うのではなくて、正論をアイツに突きつけていれば、こんなことにはならなかったのかもしれないと思わずにはいられない。
15
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:08:17 ID:GxTO/Xmc0
ある日、バイト先に母親から電話が来た。震える声で伝えられた病院名を聞き、俺は店長に許可を貰うこともせず店を出た。そして、車道に飛び出して無理やりタクシーを止めて、病院へと向かった。
その病院はミセリの通う音大の近くにある病院で、俺のバイト先から少し遠かった。
もっとミセリの大学に近いところでバイトをしていれば、と悔やんでも悔やみきれない。
16
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:09:02 ID:GxTO/Xmc0
病院についたとき、模範的な英才教育ママで、上品の塊みたいなミセリの母さんが、人目を憚ることなく絶叫しながら、暴れていた。
ごめんなさいごめんなさいと泣いている四人組の大学生に向かって罵詈雑言の言葉を吐き、今にも飛びかかって殺してしまうのではないかと思った。
俺の母親が涙を流しながら、必死にミセリの母さんに抱きついて、なんとかミセリの母さんが罪を犯さないようにしていた。
17
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:09:40 ID:GxTO/Xmc0
俺が呆然と立ち尽くしてその光景を眺めていると、まずミセリの母さんが俺に気付いて、そして、俺に向かって叫んだ。
ζ(;、;*ζ 「ミルナ君!ミセリがね、ミセリが死んじゃったのよ!!この子たちの馬鹿げた嫉妬のせいで、ミセリが、私のミセリが!!」
.
18
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:10:25 ID:GxTO/Xmc0
ミセリが死んだ。幼馴染の三瀬ミセリ、音楽の天才が、あのミセリが死んだ。
あまりにも信じ難いミセリの死を告げられて、俺は頭が真っ白になり、四人組がどのようにしてミセリを殺したかについて叫ぶミセリのお母さんの声をまったく聞くことができなかった。
とりあえず、頭が真っ白になった俺は、目の前にいる四人組に向かって飛び掛かろうとした。殺すつもりだった。
19
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:11:31 ID:GxTO/Xmc0
だけど、そのとき、席を外していた刑事さんが戻ってきて、俺に強烈なタックルをして止めてくれたのだった。
刑事さんは「コイツらは法で裁かれる人間だ。君が罪を犯す必要はない」と言って、暴れる俺を押さえつけてくれた。
刑事さんが止めてくれなかったら、きっと俺は彼らを殺してしまっていただろう。もし俺がそんな罪を犯したら、ミセリは俺のことを嫌いになっていたかもしれない。
刑事さんには感謝しかない。
20
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:12:22 ID:GxTO/Xmc0
幼馴染の三瀬ミセリの死は、テレビや新聞にも大々的に取り上げられた。
ミセリがテレビや新聞に取り上げられるなら、「天才ピアニスト現る」とか、作曲家としての才能を買われて華々しい仕方で出ると思っていたのに。
まさか、こんな形でテレビに出るだなんて、本当に腹立たしいことこの上なかった。
.
21
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:13:48 ID:GxTO/Xmc0
ミセリの死に方は、本当に酷いものだった。
あの四人組はミセリと同じゼミの学生で、彼らはミセリの才能に嫉妬して、楽譜を破ったり隠したりして、憂さを晴らしていたそうだ。
ある日、ミセリが廃墟に入っていくのを見た彼らは、ミセリが野良猫たちに餌をあげているのを見て、とんでもないことを思いついた。
それは、ミセリにマタタビやら鰹節の粉をぶっかけて、野良猫たちをたくさん集めた廃墟の狭い部屋に閉じ込めるというイタズラだった。
22
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:17:02 ID:GxTO/Xmc0
何で彼らがそんな馬鹿げたことを思いついたのか、知る由もない。おそらく、酒の力とノリというものなのだろう。
ミセリが「やめて」と言ったのにも関わらず、彼らはミセリを沢山の野良猫がいる部屋へと閉じ込めた。
そして、ミセリの叫ぶ声が漏れ出てくるのを聞きながら、彼らは酒を飲んで、みんなで歌を歌って、一時間ほど過ごしたそうだ。
ミセリの声が全く聞こえなくなって、彼らが扉を開けたら、見るも無惨なミセリの姿がそこにあった、というわけだ。
23
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:17:51 ID:GxTO/Xmc0
彼らがミセリを閉じ込めたときに歌った歌から、この事件はテレビや新聞で「したらば音大生猫ふんじゃった事件」と呼ばれるようになった。
ミセリのニュースがテレビで流れるたびに、俺は中学生時代の、ミセリとの特別な思い出を思い出さずにはいられなかった。
24
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:19:44 ID:GxTO/Xmc0
猫ふんじゃったを弾くことに決めてから、毎日練習して、片手でやっと弾けるようになった猫ふんじゃったをクラスメイトの前で演奏するのは相当恥ずかしいなと思っていた俺を見かねて、ミセリが連弾で弾くことを提案してくれたのだ。
( ゚д゚ )『ミセリと連弾って、なんか卑怯な気がするな』
ミセ*゚ー゚)リ『連弾しちゃいけないなんてワカッテマス先生言わなかったし、ミルナはミルナでちゃんと演奏するんだから問題ないでしょ!』
25
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:20:11 ID:GxTO/Xmc0
( ゚д゚ )『でも、連弾するにしても俺は猫ふんじゃった以外弾けないぞ』
ミセ*゚ー゚)リ『わかってるよ。だから、この楽譜で連弾する』
( ゚д゚ ;)そ『おわ、何だこの音符がいっぱいの楽譜!弾けるわけねーだろ!』
ミセ*゚ー゚)リ『それは私が弾くパート。ミルナはひたすら片手で猫ふんじゃった弾いてれば大丈夫』
26
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:20:52 ID:GxTO/Xmc0
( ゚д゚ ;)『えぇ…?ってか、何なんだよ、この楽譜は』
ミセ*゚ー゚)リ『猫ふんじゃったのアレンジ曲だよ。アレンジしてなんかカッコ良くしてって言ったのはミルナでしょ?ご要望通りにしたんだから褒めてよね』
( ゚д゚ )『…音楽に関してだけは本当に天才だよな、ミセリ』
ミセ*゚ー゚)リ『ふふん、心から愛を込めて感謝してよね。私のような天才が幼馴染なことを!』
( ゚д゚ )『はいはい、感謝感謝』
ミセ;*゚ー゚)リ『全く愛情がこもってないんですけど!?』
27
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:21:25 ID:GxTO/Xmc0
( ゚д゚ )「…ミセリと演奏するだなんて、少しでも足を引っ張りたくないと思って毎晩練習したなぁ。それで、課題発表で演奏を終えた時、あの無口なワカッテマス先生が「ブラボーなのはワサッテマス!!」って大きい声で拍手喝采したんだよな、あれは最高に面白かったな。ミセリの奴、ワカッテマス先生の物真似上手くて酔うといつもやってたな」
あの時は照れて言えなかったが、俺はいつもミセリに心の中で感謝していた。俺みたいなつまらない男とずっと一緒にいてくれた幼馴染の三瀬ミセリの存在は、俺にとって何よりもかけがえのないものだったから。
28
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:22:13 ID:GxTO/Xmc0
…だけど、彼女が音楽の天才だったことを感謝したことはほとんどない。ミセリが普通の人間であってくれたら、こんな事件起きなかっただろうし、彼女は今も生きて俺の隣にいたはずだから。
ミセリがどれだけ音楽ができようが、俺にはどうでも良いことだった。むしろ、ミセリが音楽のレッスンをする時間を忌々しく思っていたほどだ。コンクールや大会にはいつも誘われていたけれど、一度も行ったことはなかった。
29
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:23:09 ID:GxTO/Xmc0
ミセリと俺の時間を奪う音楽が、俺は大嫌いだった。
俺は、ミセリとくだらない話やゲームをしたり、テスト勉強を呻き声を上げながらやったり、特別でもなんでもない、ただのありきたりな時間を過ごすことだけを、いつも心から望んでいた。
ミセリと過ごすこの毎日がずっと続けばいいのに、と子供の時からずっと願っていた。
それなのに、そんな些細な願いさえも、もう叶わないものとなってしまったのだ。
( ゚д゚ )「……まぁ、実際はもう少し欲張った願いも持ってたけど。さっさと伝えるべきこと、伝えとけば良かったよな」
これも今となっては叶わないものになってしまったが。
30
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:23:41 ID:GxTO/Xmc0
幼馴染の三瀬ミセリが死んでから、半年の月日が経った。
( ゚д゚ )「…ふー」
音楽なんてなければ、と今でも思っているくせに、俺は今、ミセリの部屋に今でも置かれている最高級のピアノの前にいる。
31
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:25:08 ID:GxTO/Xmc0
今、この家には俺以外誰もいない。
つい先日、ミセリの母さんが死んでしまったのだ。
母娘二人の生活だったのに、ミセリが殺され、ひとりぼっちになってしまったミセリの母さんが心を病んでしまったのは当然だった。
何度も何度も自殺未遂を繰り返し、そして、あろうことか入院先の病院で自死してしまったのだ。
32
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:25:34 ID:GxTO/Xmc0
お見舞いにいくたびに、ミセリの母さんから何度も、ミセリの部屋だけはそのままの形でずっと維持してほしいと懇願された。
本当は、このミセリの母さんからの願いを俺は受け入れたくなかった。
でも、俺宛の遺書にまでこの願いが書かれていたし、ミセリの家の鍵まで遺書と共に封筒に入れられていたので、俺はこの願いを引き受けるしかなかった。
33
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:26:09 ID:GxTO/Xmc0
( ゚д゚ )「世話になったミセリの母さんからこんなお願いされたら、俺がミセリのこと追いかけられないじゃないですか」
ポツリと愚痴を漏らしながら、ミセリの母さんが入院してから埃が被った家の中をくまなく掃除した。
そして、全ての部屋を掃除し終えて、今、ミセリの部屋に置かれたままの、持ち主を失ったピアノの前に俺は立っていた。
34
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:27:05 ID:GxTO/Xmc0
( ゚д゚ )「お前は相変わらずかっこいいピアノだよ、うんうん」ナデナデ
幼稚園や小学校低学年の時は、よく二人でこのピアノで遊んだものだ。
たくさんの思い出があるにも関わらず、このピアノを見ると、やはりミセリがアレンジした、あの猫ふんじゃったを一緒に練習したときが思い起こされる。
俺のすぐ隣で、ミセリの白く、長い指で奏でられたあの演奏が、
いつもはヘラヘラしている癖に音楽のこととなると大人びた顔へと、俺の知らない美しい三瀬ミセリへと変わるあの瞬間を間近で見たあの日々が、何年経ってもどうしても忘れられないのだ。
35
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:27:40 ID:GxTO/Xmc0
( ゚д゚ )「…猫ふんじゃった事件とか、ふざけた名前つけやがって」
俺とミセリの大切な思い出の曲が汚されたままだなんて、俺は耐えられなかった。
ミセリが最後に聞いたかもしれない曲が、ミセリを殺した奴らの猫ふんじゃっただなんて、俺は耐えられなかった。
だから、俺は。
36
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:28:37 ID:GxTO/Xmc0
ギィ…
埃が被った蓋を上げる、懐かしい鍵盤が目に入る。
幼稚園の時、勝手に触るとよく怒られたことを思い出す。
( ゚д゚ )「悪いな、ミセリ。お前のご自慢の最高級のピアノ、勝手に使わせてもらうぜ」
.
37
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:29:11 ID:GxTO/Xmc0
三瀬ミセリは音楽の天才だった。彼女はどんな楽器でも演奏できたが、なかでも一番のお気に入りはピアノだった。彼女はピアニストを目指していた。生きていれば、きっと有名なピアニストになっていたことだと思う。
そんな天才的ピアニストのために奏でられるレクイエムが、ズブズブの素人が片手で弾く曲、しかも、猫ふんじゃっただなんて、ふざけた話だ。
だから、せめてミセリがアレンジした猫ふんじゃったをカッコ良く弾いて、レクイエムとして捧げたいのだが…
( ゚д゚ )「おい、天才馬鹿ミセリ。お前のアレンジした楽譜、お前のパートはどうやって弾けばいいんだよ。これ明らかに指が10本は足りないぞ」
38
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:30:42 ID:GxTO/Xmc0
ミセリにレクイエムを捧げると決めた日から、俺はミセリの部屋で毎日ひたすらミセリがアレンジした猫ふんじゃったを弾き続けた。
弾き続けていく中で、成長を感じなくもなかったが、それよりも何よりも、俺とミセリの死ぬ順番が逆なら良かったのにと思わずにはいられなかった。
( ゚д゚ )「…先に死んだのが俺だったら、きっとお前はその歌声と、あの奏でるものすべての心を引き込ませる演奏を俺にレクイエムとして捧げてくれただろうにな」
しかし、現実は非情だ。
どうあがいても、先に死んだのはあの天才三瀬ミセリであり、残ってしまったのは何の取り柄もないこの俺、高知ミルナなのだ。
39
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:37:05 ID:GxTO/Xmc0
それにしても、少しずつ上達しているとはいえ、毎日毎日こんなどうしようもない演奏を聞かされて、ミセリも天国でうんざりしているかもしれない。
( ゚д゚ )「…ま、お前のアレンジした最高にかっこいい猫ふんじゃったを弾けるようになるまでは生きるつもりだから、気長に天国で待ってろよ」
「例えミルナが不老不死になってもこの猫ふんじゃったを弾くのは無理じゃない?」と馬鹿にする声が聞こえたような気がした。
とにもかくにも、俺は今日も、また、これからも、あの天才三瀬ミセリに捧ぐ猫ふんじゃったをひたすら弾き続けるのだ。
40
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:37:26 ID:GxTO/Xmc0
(
)
i フッ
|_|
41
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 05:37:55 ID:GxTO/Xmc0
使用したお題
・●●●事件
・「逆なら良かったのに」
・縛りお題: 幽霊、狂人、妖怪、呪具などのホラーシンボルが登場しないor描写されない
42
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 08:05:15 ID:GtxnIZmg0
乙乙
切ない
43
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 08:24:33 ID:C/xauic60
乙
44
:
名無しさん
:2022/08/16(火) 05:34:21 ID:w6.8psfA0
おつ!
めちゃくちゃ切ないけど好きだ
45
:
名無しさん
:2022/08/17(水) 01:22:43 ID:5NuZ1q520
乙乙
46
:
名無しさん
:2022/08/18(木) 23:07:59 ID:OQoUlIWk0
乙乙
めっちゃ辛い…
47
:
名無しさん
:2022/08/27(土) 16:37:17 ID:9x/JlS9U0
乙
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