したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

『愛しい貴方の口元に』のようです

1 ◆y7/jBFQ5SY:2022/08/05(金) 20:54:57 ID:PXci47Bk0
百物語のようです2022参加作品

  .,、
 (i,)
  |_|

129名無しさん:2022/08/05(金) 23:06:13 ID:PXci47Bk0



「ねえブーン。聞いてくれる?」

何をしたらいいのか判らなかった。
自分の家。ツンちゃんの家。ぼくたちの家。
この家でぼくは、これまでどうして暮らしてきたのだろう。

家とはただ眠るための場所で、ツンちゃんが待っていてくれる場所で、
住むという行為がぼくにはよく判らなかった。何かをしていなければ落ち着かなかった。
けれど何をすればいいのか判らなかった。ツンちゃんに聞いてみた。抱きしめられた。
桃の香りに包まれて、ひとつ思いついた。

「私、ブーンが好きよ」

押し入れの奥から、年代物となった黄ばんだスーパーファミコンを引っ張り出す。
ディスク型が主流となった現代のゲームに比べ厚みのあるパッケージから、
説明書の下に封じられた内容物を抜く。

灰色のボディにゲームの内容を示すテープが貼られたそれを、
スーパーファミコンに差し入れる。電源を入れる。

130名無しさん:2022/08/05(金) 23:07:14 ID:PXci47Bk0
「やさしくて、責任感が強くて、時々甘えん坊になっちゃうとこもかわいくて……
 愛おしくて。そんなブーンが好き。ずっと前から、ずっと好き。
 ……でも、“だから”好きってわけじゃないの」

シリーズ恒例のオープニング曲が流れ、暗転し、セーブデータを選択する画面が表示される。
データはすべて消えていた。選択肢のない『はじめから』を選択する。名前の入力を促される。
入力する。勇者の名前が決まる。ゲームが始まる。ぼくの分身が、映される。

「気を使ってくれるから好きなわけじゃないの。
 ゲームを作ってるから好きなわけじゃないの。
 好きって言ってくれるから好きってわけじゃないの。
 何かを与えてくれるから好きなんだって……そういうことじゃ、決してないの。
 ブーン、私はね」

ツンちゃんがいた。隣にはツンちゃんがいた。
ぼくにも、ゲームの中のぼくにも、その隣にはいつもツンちゃんがいた。
イベントも、ダンジョンの構図も、どんなボスモンスターが待ち構えているのかも全部知りながら、
何も知らないかのようにああでもない、こうでもないとないと進めていった。
隣のツンちゃんとゲームを進めた。

ツンちゃんがいない時は一人でレベルを上げた。
延々と上げた。時々セーブが消えた。
『はじめから』また、ツンちゃんと進んだ。

131名無しさん:2022/08/05(金) 23:08:00 ID:PXci47Bk0
「ブーンが好きだから、ブーンが好きなの」

好きな人と、進んだ。

「好きだから、幸せなの」

幸せだった時のように、幸せに。

「……ねえツンちゃん」

「……なに?」

「結婚してくれる?」

「……ばか。だめだって、言ったじゃない」

「ん」

彼女を見つめる。ゲームの中のぼくが、彼女を見つめるように。
魔王を倒すよりも特別な、人生最大の告白をするために。
ゲームの中の彼女がぼくを見つめるように、彼女もまた、ぼくを見つめる。
言葉を待つ。ずっと、ずぅっと、待たせた言葉を。


「あの約束の丘で、ぼくと結婚式をあげてくれませんか」


.

132名無しさん:2022/08/05(金) 23:09:02 ID:PXci47Bk0



「私、お買い物に行ってくるわね!」

頬を赤らめた彼女が、転げそうになりながら家を出て。
一人になって、思いふける。こんなにも当たり前で簡単なことを、
ぼくはどうして躊躇っていたのだろう。ぼくは一体、何を気負っていたのだろう。

『ブレクエ』の象徴が刻印された、焦げたジッポライター。
それを手に取り、火を灯す。小さな炎の、小さなゆらめき。
暗闇を照らす焔のきらめき。光。けれど、そんなものに頼る必要はないのだと気づく。

夏は過ぎさり秋香り、冬の風は木枯らしに。
分厚い大気に遮られ、差し込む陽光は強くない。
ああけれど、これで充分あたたかい。

なんだかすこぶる暖かかった。桃色毛布にくるまって、彼女と一緒に寝た時くらいに。
暖かくて、眠たくて、安らぐ感じがした。蓋を閉じて、ジッポを置く。
光はもうある、熱もある。だからいまは、必要ない。これからのぼくには、必要ない――。


.

133名無しさん:2022/08/05(金) 23:10:24 ID:PXci47Bk0



振動音で、目が覚めた。携帯が光っている。
メッセージ。ショボンからだ。開く。添付された画像。

見たことのない――いや、よく見知った、誰よりもよく見知っていたはずの、その絵。
よく見知ったその絵が、昔に比べてスリムとなったケースにパッケージされて、
まるでそう、まるで既に販売されているかのようにパッケージされて、パッケージされて――。

『ブレイブクエスト8』。

テレビの画面が消えていた。電源を入れ直した。
オープニングが流れ、暗転する。セーブデータは消えていた。
『はじめから』が表れた。

ジッポを握りしめていた。


.

134名無しさん:2022/08/05(金) 23:11:24 ID:PXci47Bk0
               ※



「……ああそうだよ。俺が継いで、完成させた」

普通じゃないとは一目で気付いた。痛々しく顔中に残る火傷の痕。
それのせいで表情が読みづらい――とか、そういうことじゃない。
まとっている雰囲気というか、佇まいというか、とにかく空気がおかしかった。

有り体に言えば、危険だと感じた。俺たちが知っているいつもにこやかな
あいつと眼の前のこれが同じ存在であるという事実が、
どうにもちぐはぐで結びつかない。それくらい、異常を感じた。

ブーン。
同僚で、友人で、この粋でいなせなどっくん様をこき使いやがる
頼もしいディレクター――だった、男。変わり果てた、男。

「そりゃ、できれば待ってやりたかったさ。
 お前がどんだけ熱量込めて仕事に当たってたか、知らねえやつはいねえよ。
 でも判るだろ、俺たちゲーム屋がゲームを作り続けなきゃ、
 ちっちゃなちっちゃなうちの会社はすぐに潰れちまうんだ。

 そしたら飯も食えねえし、お前だって帰る場所がなくなる。
 俺たちはクリエイターであってアーティストじゃない。優先すべきは納期と信用。
 そんなこと、お前だって判るだろ」

135名無しさん:2022/08/05(金) 23:12:15 ID:PXci47Bk0
それでも俺は、迎え入れた。俺の家に。
話があるというあいつのメールに嫌な予感が走って、俺の家で会おうと約束した。
会社で再び問題を起こせば、さしもの社長も見限りかねないと考えて。
顔付き合って話し合えば、わだかまりも溶けると思って。

「お前に言うべきかどうかだって迷ったんだよ。
 刺激するべきじゃないって意見も、ちゃんと教えてやるべきだって声もあった。
 俺は……言わないほうが、いいと思った。どっちが正しいかなんてわかんねーけど……
 でも、そうだな。ショボンなら、言うよな。あいつ、いやがるもんな。
 仲間外れとか、あいつが一番いやがることだもんな」

携帯を見る。ショボンからの連絡はない。
ブーンと話すと教えたら、すぐに行くと返事があった。あれから既に三〇分。
来ない。俺が話すことは尽きた。尽きたというか、考えていたことがまるきり吹っ飛んだ。

なんにも思い浮かばねえ。ブーンも何も話さない。
重い時間が、過ぎずに留まる。なんだってんだよ、勘弁してくれ。

「そうそう、俺の部屋、ずいぶん綺麗だと思わねぇ?」

苦手なんだよ、こういう空気。

136名無しさん:2022/08/05(金) 23:13:04 ID:PXci47Bk0
「ありゃ、お前が倒れるちょっと前くらいだったかな。
 あいつちょくちょくうちに来るようになってさ、
 やれ散らかってるだのやれ汚いだのって、頼んでもないのに掃除しやがってよ。
 お前は俺のかーちゃんかってんだよな、んははは!」

わざとらしく笑って見せて、一人の声は虚しく枯れて。
頼むぜなあおい笑ってくれよ。いつもみたいにバカにしてくれ。
バカなやつだと笑ってもらえりゃ、俺はそれで安心なんだ。

「一言もなかったのは……悪かったよ。ちゃんと話すべきだったかもしれねぇ。
 けどよ、お前の功績がなくなったって訳じゃねーんだ。
 俺がやったのは最後の最後の詰めくらいなもんで、あれはお前の作品だよ。
 それによ、お互いこれからだろ? 『ブレクエ』作る機会なんざ、
 これから何度も巡ってくるって!」

だってそうすりゃ少なくともよ、重苦しさは失せるだろ。
どうしていいかわからねんだよ、こういう時に。
真面目でいるのは、怖えじゃねえか。大人らしさが、怖えんだ。

ふざけてないと、耐えられねえんだ。

137名無しさん:2022/08/05(金) 23:13:48 ID:PXci47Bk0
一人用の冷蔵庫を、『じゃじゃーん!」と見せびらかすように開け広げる。
そこには同じ飲料が、タピオカミルクティーがずらりと並ぶ。
「それしかないんかい」と、ツっこんでくれていいんだぜ?
……そうか、これじゃ笑ってくれねえか。

わっせわっせと、盆に載せていくつも運ぶ。
差したストローを、三本一気に吸い上げる。飲み干したら、また次を飲む。
「一人で飲むんかい」って、言いたくなったろ? ……ダメかよ。 

「言ったろ、やみつきになってるって。もうどっくんこれ飲んでないと……
 あひあひあひあひ、頭おかしくなっちゃう〜☆ おら、ブーンも一緒におかしくなれい!」

ストローの先端を押し付ける。おらおらおらと、レイピアのように。
ブーンはまるで避けなかった。ストローの先が、頬をかすめる。
火傷の痕のかさぶたが、ぽろりと剥がれた。じゅくじゅくと液状化された真皮が露出した。

「あ、ごめ……」。それでもブーンは動かなかった。
動きもせず、何も言わなかった。

助けてショボン、早く来て。

138名無しさん:2022/08/05(金) 23:14:43 ID:PXci47Bk0
「結婚するんだ」

……おう?

「……わんもあぷりーず?」

「結婚するんだ」

「マジか」

マジか。え、なに。話って、『ブレクエ』の話じゃなかったの?
結婚報告? 用事って、それ? マジで?

「……ぉぉおおマジか! マジでマジでか!
 ついにか決めたかめでてえなおい!」

なんだよなんだよ、それならそうと早く言ってくれりゃいいものを。
どっくんいらん気を回してため息ふぅだぜまったくよお!

「いつ決めたんだよ話せよほれほれ。式はいつですか?
 奥様とはどこで知り合ったんですか? プロポーズはどちらからされたんですか?
 どっくんはかわいいですか? 子どもは何人ご希望ですか?
 ご祝儀は新渡戸を一枚くらいでいいですか?」

マイクを握ったインタビュアーの如く、肩をぶつけて質問攻めする。
ああ楽しくなってきた。気分が乗ってきた。

「おうショボン酒もってこい酒酒……あ、そういやまだ来てないんだった。
 まあいいや、今日は宴会じゃ宴会! 朝になるまでうざ絡みしちゃるから
 覚悟せえよんはははは!」

「でも、だめなんだ」

139名無しさん:2022/08/05(金) 23:15:36 ID:PXci47Bk0
地獄みたいに暗い声でつぶやくブーンに、ちょっぴり一瞬ひるみかける。
いやだなおいおい幸せ野郎、なんて声を出しやがる。
めでたい時にはもっとこう、めでたくバカに踊らにゃ損だぜ。

「おやおや〜? ブーンくんは早くもマリッジブルーかなー?
 よしよし、そういうことならこの恋愛の達人ドクオ様がたっぷりとっくりご教授してしんぜよう!
 ……彼女の一人もいたことねーけど!」

んはははは。笑う。俺だけ。それも途切れる。
両の肩をつかまれた。押された。倒された。

「待て待て待て待てブーンさん? い、いくらどっくんがかわいいからって、
 婚約記者会見でこいつはさすがに背徳的すぎ――」

「子どもが必要だった」

つかまれた肩が、万力のような力にへこむ。

「こ、子ども、子ども子ども、ベイビーちゃんね。
 わかる、わかるよー、赤ちゃんかわいいよねー、いいよねー。俺近づくとすぐ泣かれっけど」

「子どもがいなきゃ結婚できない。子どもがいなきゃ幸せにできない。
 だめなんだ。幸せにしてあげたいのに、幸せにしてあげられないんだ」

140名無しさん:2022/08/05(金) 23:16:15 ID:PXci47Bk0
身を捩って逃げようとしても、まるで身体が動かない。
笑いが出る。笑いが漏れる。おかしいな。おかしくないのにおかしいわ。
はは、はは、はははは。

「おーけーおーけー落ち着けボーイ。話は聞くからいったん離れよーぜ?
 ショボンが来たら勘違いしちゃうよ? そっちの扉開かせちゃうよ?
 ……あのさ、そんな気ねえんだろうけど……ははは、こ、怖えんだよ、ちょっとだけよ。
 だからさ、だからいったん落ち着いて――」


「“あれ”はぼくらの子どもだった!!」


悲鳴が漏れた。

「『ブレクエ』が、ぼくらの子どもだったんだ。彼女を幸せにできる“特別”だったんだ。
 なのにそれを奪われた、ぼくはどうすればいい……なあ、返せよ、返してくれよ。
 ツンとぼくの子どもを、ぼくたちの子ども<幸せ>を返してくれよ、なあ!」

141名無しさん:2022/08/05(金) 23:17:09 ID:PXci47Bk0
「お、落ち――」

「あ」

ブーンが、離れた。

「そっか」

ブーンが、つかんだ。

「虫かぁ」

ブーンが、掲げた。
特注の剣が。
勇者の剣が、掲げられた。
闇の魔物を、葬るそれが。



そういえば、ショボン。
なんであいつ、俺のマフラーなんざ巻いてたんかなぁ――。


.

142名無しさん:2022/08/05(金) 23:18:04 ID:PXci47Bk0
               ※



返せ。
全部、返せ。
全部、全部、返せ。
お前らが喰ったもの、全部、全部、吐き出して、返せ。

返せ。

ドクオは喰われていた。ドクオはドクオではなかった。
ドクオは既に、闇の魔物に食い尽くされていた。ドクオは喰われていた。
だからこれは、敵討ちでもあった。ドクオは友だちだった。いいやつだった。
なんでドクオがこんな目に。許せない。怒りが沸いた。
憎悪の怒りが沸々と、尽きることなく沸き上がった。

目から鼻から、耳から口からへそから穴から、皮を破ってやつらが出ていく。
一匹も逃さない。全部潰す。全部潰す。全部潰して吐き出させる。
奪ったものを、取り返す。喰われたものを、返してもらう。
返して死ね。返して死んで、死にさらせ。

皮だけとなったドクオが跳ねる。
虫を叩いたその下敷きに、皮のドクオがちぎれ飛ぶ。
ドクオのそれと虫のそれとが、混ざった液が飛び跳ねる。

口に入った。目にも入った。けれどまだまだ終われない。
だってやつらは生きている。生きてる限り、光は遠い。
この手でツンを、抱きしめられない。

だから死ね。死ねよ虫。死ね魔物。死ね魔王。死ねよ魔王。死ねよ死ね――――。

.

143名無しさん:2022/08/05(金) 23:18:52 ID:PXci47Bk0

「……ドクオ?」

……ショボン?

ショボンが来た。ぼくに触れずにショボンが通った。
揺れるマフラーをはためかせ、分厚い手袋でドクオに触れた。
皮となったドクオを抱いて、頭をうずめてひとつになった。

「……ちがう」

そこに在るのは、一塊の完全で。不純なものなど見当たらず。
そこに虫など、いるはずもなく――。

「虫が――」

ショボンが、つぶやいた。



返してよ。


.

144名無しさん:2022/08/05(金) 23:19:40 ID:PXci47Bk0
飛び出していた。走っていた。
訳も判らず駆け出して、訳も判らず叫んでいた。

違う。ぼくは殺していない。虫がやった。虫がドクオを喰った。
虫がドクオを殺したんだ。だから殺したんだ。だから虫を殺したんだ。
奪われたものを取り返すために、返してもらうために殺したんだ。

だからドクオは殺されていたんだ。
ぼくがあいつを殺す前に、ドクオは既に殺されたんだ。
犯されなぶられ殺されたんだ。殺される理由があったんだ。
喰われた原因があったんだ。それはなんだ。なんだ。ドクオはなんで喰われたんだ。


タピオカだ。虫の卵だ。
――ああ、ツンちゃんが危ない。

.

145名無しさん:2022/08/05(金) 23:20:45 ID:PXci47Bk0
空から雨が降ってきた。雨ではなかった。虫だった。
虫の雨が、空から無数に降り注いできた。地から這い出てきた。
アスファルトを割り、木々を割り、道行く人々を割って虫どもが、地へと侵攻を開始した。
地面は蠢く河と化し、日の輪はその輪を齧られ堕ちた。空に残った残月も、抵抗虚しく闇に呑まれた。
すべてが闇に呑み込まれた。世界は闇に支配された。それでもぼくは、行かねばならない。

ツンちゃん、ツンちゃん、ツンちゃん、ツンちゃん。

ぼくの幸福。
ぼくの希望。
ぼくの生命。
ぼくの女神。
ぼくの伴侶。
ぼくの未来。
ぼくの憧憬。
ぼくの夢。
ぼくの疵。
ぼくの形。
ぼくの道。
ぼくの愛。
ぼくの光。
ツンちゃん、ぼくの、愛しい貴方。
.

146名無しさん:2022/08/05(金) 23:21:49 ID:PXci47Bk0
聖なる種火が示す路。暗闇焦がして見えゆく我が巣。駆け上がる。
駆け上がって、駆け上がる。闇に呑まれた世界を掻いて、彼女の下へと駆け上がる。
あってはならないその事が、ありはしないと認めるために。光を浴びたあの日の君を、
ずっとずぅっと信じるために。ずっとずぅっと、ずっとずぅっと――。

「ツンちゃん!」

愛しい貴方の口元に。
蠢くそれが生えてるなどと――――――――










.

147名無しさん:2022/08/05(金) 23:22:33 ID:PXci47Bk0






       ああ。
        おやすみツンちゃん、
             ぼくの愛した
                 愛しい貴方。





.

148名無しさん:2022/08/05(金) 23:23:46 ID:PXci47Bk0
               産

生命よ愛で繋がり給う!(ああしかし、ぼくはその輪を結べなかった)。

小鳥(虫)の鳴に、馬(虫)のいななき。
地から這い出て虫(虫、虫)はざわめき、つられて人(虫虫虫)は、空を見ます。
そこにはなんと、太陽が。

絶望と共に見上げることも、夢見ることも忘れたそれが、
空から地上をさんさんと、遍く生命を照らしています。
そう、世界は今こそ本当に、ついに光を取り戻したのです!
悪しき闇の大魔王は、今こそ真に倒されたのです!

人々(虫。虫の群れ。虫の波)は歌い、踊り、手を取り合って歓び合い、そして感謝を捧げました。
世界を創りし主なる神に、芽吹きとつむぎの精霊に、
そして――光を取り戻した勇者たちに。

149名無しさん:2022/08/05(金) 23:25:10 ID:PXci47Bk0
海辺の丘、約束の地(海辺の丘、約束の地)。
彼ら(ぼくら)にとって特別なその場所で、彼ら(ぼくら。ぼくとツン)にとって特別な儀式がいま、
大勢の人々(虫だ。虫の参列)が見守る中で執り行われようとしていました。

その中心にいるのは、一対の男女。
勇者として世界を救い、その役目を終え、
ただ一人の人の特別になろうとしている男(男じゃない。ぼくは男性を喪った)。
彼の勇者を支え、その身と心とを癒やし、
勇者を終えた男と添い遂げる意を固めた光の巫女。

白無垢に身を包んだ花嫁と花婿。

「おめでとう!」「お幸せに!」「浮気するんじゃないですよ!」

心優しくも頼もしき冒険の仲間たち(社長、朝日。共に『ブレクエ』を作った面々。
見知った面々の幻)が、花道を歩む二人を祝します。花婿は彼らの声援に応えるよう、
羽根のように軽い花嫁(本当に軽い。内側を喪った彼女は本当に軽い)の、
華奢で柔らかなその腰をしっかと抱きしめました(ぼくが全部喰ったから。
彼女を喰ったやつらを全部、一匹残らず喰ったから)。
声援が、一際大きく盛り上がります(だから、軽い。とても、軽い)。

「お似合いですよ!」「ひゅーひゅー!」「お二人に主と精霊の加護がありますよう!」

困難な旅を手助けしてくれた各地に生きる人々(提携する企業の人々。
作曲家の先生。プロデューサーのレモナさん。その他大勢。大勢の協力者)が、
光あふるるこの新たな世界を愛する人達(一本のゲームを共に作った人達)が、
花道を歩む二人を祝します。花婿は彼らの声援に応えるよう、天より授かりし光の象徴、
聖なる種火(……ジッポ)を一際高く掲げます。人々はその眩さに目を細めながら、
花道を歩む二人をしっかと見守り続けました(虫の闇間に頼りなく灯る、『ブレクエ』のジッポ)。
.

150名無しさん:2022/08/05(金) 23:26:05 ID:PXci47Bk0
二人は歩みました。緩やかな傾斜を描くその丘を、かつてそこで出会い(出会い)、別れ(別れ)、
そして誓いと共に再会(……再会)を果たしたその場所へと、これまでの冒険と同じだけの長さの道を、
これからの二人の長さを予期させる路を、同じ速度で、同じ歩幅で、同じ呼吸で歩みます。
歩んで、歩んで――そうして二人は、着きました。地(……ショボン)と太陽(……ドクオ)の二神官、
此方(此方の地。ギュノスの地)と彼方(彼方の陽。アンドロの陽)を司る、大小不揃いな二人の前へと。

「我々は」「我々は」「空言を見定める者にして」「真言を見極める者」
「欺心を咎める者にして」「誠心を称える者」「憎を憎むる者にして」「愛を愛する者」
「花婿よ」「花嫁よ」「汝ら嘘偽ることなく」「真なる誓いを果たすと誓うか」

「はい、誓います」
(いいや、誓えない)

花婿が答えます。花嫁がうなずきます。
二人の神官は土なる方は土なる方へ、陽なる方は陽なる方へ、それぞれ分かれて問いかけます。

「汝、花婿。汝は己が伴侶を尊び、敬い、その生涯を捧げると誓うか」
「汝、花嫁。汝は己が伴侶を尊び、敬い、その生涯を捧げると誓うか」

「汝、花婿。汝は伴侶が幸福を願い、歓び、その生涯を捧げると誓うか」
「汝、花嫁。汝は伴侶が幸福を願い、歓び、その生涯を捧げると誓うか」

「汝、花婿。汝は伴侶が哀しみを憂い、分かち、その生涯を捧げると誓うか」
「汝、花嫁。汝は伴侶が哀しみを憂い、分かち、その生涯を捧げると誓うか」

「汝、花婿。汝は伴侶が苦難を我が物とし、共に歩み、その生涯を捧げると誓うか」
「汝、花嫁。汝は伴侶が苦難を我が物とし、共に歩み、その生涯を捧げると誓うか」

「はい、誓います」
(誓えないんだ、ショボンにドクオ)

151名無しさん:2022/08/05(金) 23:26:59 ID:PXci47Bk0
花婿が答えます。花嫁がうなずきます。
二人の答えに、神官たちは最後の誓いを、声を合わせて問いかけます。

「汝、花婿」「汝、花嫁」
「汝らは審判のその後の後までも」「分かたれざるひとつの生命で在ると誓うか」

そうして問いかけた神官たちが、互いの両手(手袋ではない、素手の、その手)を重ね合わせて、
花婿と花嫁の前へと伸ばします。花婿は、花嫁にうなずきかけました。
花嫁もまた、花婿にうなずき返しました。二人は差し出された神官たちの手のひらへ、
光と平和の象徴たる聖なる種火(彼女がくれた、宝の灯火)をそっと彼らに捧げます。

「宜しい、ならば」「誓いのくちづけを」

光を受け取った神官たちが、花婿と花嫁に示します。
花婿は、花嫁に向き直りました。花嫁は、花婿に向き直りました。
奇跡のような人、夢のような人。何よりも大切で、愛おしくて、幸せにしてあげたい人――
いや、ちがう、そうではない。必ず、何に変えても幸せにしなければならない人。

(幸せにしなければならなかった人)

愛する人。

(愛する人)

「愛しているよ」

(いまだって)

152名無しさん:2022/08/05(金) 23:27:41 ID:PXci47Bk0
そう言って花婿は、花嫁のヴェールをめくりました。
そこには花婿のよく知る顔が(ツンちゃん……)、共に苦難を乗り越え、支え合い、
いままたこうして隣り合った未来を歩もうとしている人の顔が、光を浴びて輝きます。
光を浴びたその口元に、視線を向けて花婿は――そしてそのまま、固まりました。

(……判ってる。判ってた)
「はやく」「はやく」
観衆が、二人を囃します。

(判ってたけど怖かった。自信がなくて怖かった)
「はやく」「はやく」「はやく」
精霊が、花婿を急かします。

(君の告げる『幸せ』が)
「はやく」「はやく」「はやく」「はやく」
世界が、繰り返します。

(哀れなぼくへの慰めみたいで)
.

153名無しさん:2022/08/05(金) 23:28:21 ID:PXci47Bk0
けれどそれでも花婿は、固まったまま動きません。
愛しい花嫁を見つめながらも、どういうわけかその顔は、迷いのような憂いを残して。

見守る神官のてのひらで、聖なる種火がくわりと揺れます。
大地に根付いた地の神官が、見定め見極め咎めるように、花の二人を凝視します。
やがては空も細り行き、針へと尖った陽の光明。
稜線描く地の果てへ、呑まれるように落ち行きます。刺し行くように、同化します。

光はもはや、種火が食める口腔のみに。
それでも悩むる花婿は、それでも固まり動きません。

だから。
(だから)

ついには待ちゆく花嫁が、一字に結んだ紅の端を、彼の前にて割ったのです。

154名無しさん:2022/08/05(金) 23:28:54 ID:PXci47Bk0



(ごめんなさい、おとうさん)
はやく。
(ごめんお、ツン)


.

155名無しさん:2022/08/05(金) 23:29:23 ID:PXci47Bk0
「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」
「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」
「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」

(ああ)

花婿と花嫁。二つにしてひとつへと重なった影に、惜しみのない感謝が送られます。
千の声が、万の声が、億の、兆の、世界すらゆるがす世界そのものとなった声が、
この結びの中心に在る二人に向けて送られます。ありがとう、ありがとう、ありがとう、ありがとう。
それは無限に送られます。何故ならば。

(ああそうか、そういうことか)

156名無しさん:2022/08/05(金) 23:29:54 ID:PXci47Bk0
「おとうさん」「おかあさん」「おかあさん」「おとうさん」

愛くるしく響き渡る稚児の笑み声。
飛び出た二人の双児の愛児が、父母を見上げて謡います。
花婿の面影を、花嫁の面影を、愛する者同士の面影を共に残した鏡写しの寵児らが、
愛を無邪気に謳います。父なる者に、母なる者に、重なり合う二人の裡に重なって、
ひとつと化して謳います。生なる歓びを謳います。何故ならば。

(お前たちも、ぼくと同じなんだな)

157名無しさん:2022/08/05(金) 23:30:30 ID:PXci47Bk0
「おかあさん」「おとうさん」「おとうさん」「おかあさん」

そうして起源を呼ぶ声に、確かに花嫁との子である双児の愛児に、
抱きつかれて花婿は、ただただ彼らの唄に耳を傾けました。
彼らの言葉を、彼らの想いを、彼らの歓びを我が物として、彼は世界を受け入れました。
受け入れました。世界が愛で回ります。愛で世界が満たされます。何故ならば。

(ぼくと同じく輪の外へと弾かれた、不完全な未満生命)

158名無しさん:2022/08/05(金) 23:31:39 ID:PXci47Bk0
永劫その唄が続く限り――そして終わりを迎えるその時まで、彼は己を委ねました。
愛に己を委ねました。何故ならば――。

(結びて産じ、散じ行く。それこそが生命の本懐。連環螺旋の導く理。
 けれどアンドロでもギュノスでも在れなかったぼくらは、自力で生命をつむげなかった。
 寄りて喰らいて代替的に、意識を介して繁殖する。実体持たぬイドの陽炎。
 それがぼくらだ、クリエイター<お前らとぼく>だ。あれでもなければこれでもない。
 削ぎ落としでしか表現できない、空想上の真空体だ。

 ああそうだよな、そうなんだよな。そんなみっともない在り方でも、それでもお前は生命なんだな。
 理性も自我も超越して、ただただ己を拡げたいんだ。つながり結んで重なり合って、
 一なる歓喜に浸りたいんだ。判るよ、判る。お前が判る。だってそれが、“愛”だもの。

 だからお行きよ、ぼくらの双子。ぼくらという名の物語<遺伝子>乗せて、
 どこどこまでも散じてお行き。闇の外へと拡げてお行き。ぼくは彼女とここにいるから。
 桃の香りの歯抜けの彼女と、何時何時までもここにいるから。君らの起源は、ここにいるから――)

一際高き唄に合わせて――種火の灯が、閉じました。


.

159名無しさん:2022/08/05(金) 23:32:27 ID:PXci47Bk0
               散



ミセ*>∀<)リ「はいここで暗転どーん! SEずずーん! んでもって観客わぎゃーん!!」

(゚、゚トソン「……はい却下。悪趣味過ぎます」

ミセ*゚Д゚)リ「えぇー!」

(゚、゚トソン「えぇーじゃありません。せっかくの新入生たちをもれなく転校させる気ですか」

ミセ*///)リ「こんな脚本書いちゃう先輩がいる学校に入れて……
     あたし幸せ! ……みたいな?」

(゚、゚トソン「ありえません」

ミセ*`へ´)リ「……けっ、根性なしどもがよぅ!」

(゚、゚トソン「架空の新入生にケチつけない」

ミセ `へ´ )リ「べぅー」

(゚、゚トソン「そもそもなんですか、この『極めて閲覧注意』って」

ミセ*゚ー<)リ☆「ミセリのやさしさをその一文に込めてみました!」

(゚、゚トソン「台本に書いても無意味なんですよ」

ミセ;゚ー<)リ「こころやさしきあたしのハートが――」

(゚、゚トソン「伝わりません」

ミセ  `へ´ )リ「べーうぅぅ〜」
.

160名無しさん:2022/08/05(金) 23:33:11 ID:PXci47Bk0
もちまんじゅうのように頬を膨らませ、ミセリが机につっぷす。
駄々っ子モードだ。ぶちぶちぶちぶち、自分がどれだけがんばったか、
どれだけ苦労したかを延々延々語りだす。まったくこれだからミセリは……
かっわいいんだよなぁ、もう。

(゚、゚トソン「……けどまあ、よくできてるとは思いますよ。
     読み物としては惹き込まれましたし」

ミセ*>∀<)リ「んだろぉー!」

ちょろい。ちょろかわいい。

(゚、゚トソン「劇部の脚本としては落第ですが」

ミセ*`皿´)リ「んだとぉー!」

ころころ変わる表情かわいい。食べてしまいたい。

161名無しさん:2022/08/05(金) 23:33:55 ID:PXci47Bk0
(゚、゚トソン「ところでミセリ、もしこの脚本でやるとして、
     あなたは誰を演じるつもりなのですか? やっぱりドクオですか?」

ミセ*`ー´)リ「やっぱりの意味がよくわかんネですけど、
       あたしにぴったりの役はもちろん決まっていますのことよ」

(゚、゚トソン「ほう」

ミセ*>∀<)リ「あたしにぴったりの役は〜……はいドラムロール!」

(゚、゚トソン「だらららら」

ミセ*゚ー<)リ☆「はいそこのあなた大正解! あたしにぴったりの役は〜……
       ずばり! レモナさん! でぇす!」

(゚、゚トソン「最も遠いところ来ましたね」

ミセ*´ー`)リ「ほらあたし、可憐な清楚系だから……
       うふふ、小鳥さんごきげんようって毎朝ご挨拶してるから……」

(゚、゚トソン「初耳ですね」

ミセ*゚∀゚)リo彡゜「あでもでもでもね! レモナさん実は男だから! 憧れのレモナ先輩が
        男だとわかって悶々とする後輩くんの裏ストーリーとかあるから!」

(゚、゚トソン「腐ってますね」

162名無しさん:2022/08/05(金) 23:34:39 ID:PXci47Bk0
ミセ*゚ー゚)リ「トソンはやりたい役あった?」

(゚、゚トソン「私ですか? 私は裏方専門ですから」

ミセ*゚ー<)リ☆「いーじゃんいーじゃん、今年は挑戦してみようぜ!
       何事もチャレンジですよチャレンジング、生命短しチャレンジングせよ乙女!」

(゚、゚トソン「語呂が悪い。けれど、そうですね。この中から選ぶなら、ですが……ショボンかと」

ミセσ゚∀゚)リσ「あ、やっぱりぃ!」

(゚、゚トソン「なにがやっぱりですか」

人の気も知らないで、まったく。
生ぬるくなってしまったタピオカミルクティーを手に取って私は、
カップから突き出たストローに口をつけようとし――一瞬、ためらった。
……何をバカな。作り話、作り話。

(゚、゚トソン「で、どうしますか。大規模工事が必要ですが、
     やる気があるなら付き合いますけど」

ミセ*゚ー゚)リ「え、もしかして手伝ってくれる感じ?」

(゚、゚トソン「当然です。何のために下読みしたと思っているんですか」

ミセ*>∀<)リ「んっひゃーん! トソンおねえちゃんだぁーいすきぃー!!」

……にやけるな、バレる。

163名無しさん:2022/08/05(金) 23:35:09 ID:PXci47Bk0



(゚、゚トソン「そろそろ帰りましょうか」

空のカップを、がこんと捨てて。


.

164名無しさん:2022/08/05(金) 23:35:58 ID:PXci47Bk0



夕焼け小焼けの下校道。隣の彼女と些細な会話。
彼女の時間を独り占めする、私と彼女の二人の時間。
これってつまり、実質デートなんじゃないですかね。
そんな内心露とも漏らさず、都村トソンはすまします。

(゚、゚トソン「そういえばミセリ、ひとつ確かめておきたいのですが」

ミセ*///)リ「え、スリーサイズ? やだあたちはずかちい、でもでもみんなが求めるなら……
     おい誰だいま『体重は?』とか宣いやがったのは」

(゚、゚トソン「やっぱりあなた、ドクオですよね」

ミセ*´ー`)リ「……うふふ、なにかしらうふふ」

(゚、゚トソン「タイトルですよ」

夕日を浴びた彼女の顔には昼とは違う影が差し、
ふざける中にもほんの時折、ちらっと怪しい色気が滲んで。

(゚、゚トソン「タイトル、決めてあるんですか」

ミセ*`ー´)リ「ふっふんなーんだそんなこと。このミセリちゃんに抜かりはないぜ!」

言ってミセリはくねくねうっふんバカっぽく、指先を唇に当てたポーズを取る。
自然その指先に、私の視線は集中する。

165名無しさん:2022/08/05(金) 23:36:25 ID:PXci47Bk0




「『愛しい貴方の口元に』。蠱惑的で、魅力的でしょ?」



.

166名無しさん:2022/08/05(金) 23:37:15 ID:PXci47Bk0
つややかに光る、ミセリの紅。
その紅が、撫でさする指先に合わせて
ゆっくりと、
ゆっくりと、
ゆっくりと下がって、
下がって、開いて――。

(゚、゚*トソン「……ま、悪くはないんじゃ、ないですか」

無理くり視線を他所へと外す。
いけないいけないいけません、私たちは清く正しき高校生。
そういう関係はもっと大人になってから。
誘惑なんかに屈しはしません、都村トソンは負けません。
がんばれトソン、ファイトだトソン。

私の自制にまったく気づかず、ミセリは私を惑わして。魔性の女といつも思う。
けれどもしかし、それなのに。どうして私は幸せなのか。この混乱すら心地良く、
いついつまでも一緒にいたいと、私は切に、そう願う。

一緒に学んで、一緒に遊んで。一緒に笑って、一緒に泣いて。
一緒に暮らして、一緒に結んで――だからいつも、別れ道はさみしくなる。

167名無しさん:2022/08/05(金) 23:38:01 ID:PXci47Bk0
(゚、゚トソン「それではミセリ、また明日」

ミセ*゚ー<)リ☆「うんトソン、まったねー!」

何度も何度も振り返りながら遠ざかるミセリを、私はそのまま見続ける。
ぶんぶんぶんと手を振って、きゃっきゃと笑う彼女の姿を。
その姿が小さく小さくなればなるほど、胸の痛みは大きく大きく広がって。
だから私は、いつも最後まで見届けない。彼女が角を曲がる前に、私の方から背中を向ける。
それが今日の一日の、本当の意味でのお別れ時。

――の、はずだった。

168名無しさん:2022/08/05(金) 23:39:15 ID:PXci47Bk0
「とーそんっ」

ミセリ?
振り向いた。彼女がいた。夕日を浴びて、手を振っていた。

「なにか――」

言いかけた言葉が、止まった。止まって私は、それを見た。
それはきっと、目の錯覚。光の加減が生み出した、朱い夕日の困った悪戯。
だってそんなの、あるはずない。だってあれは、作り話。
あなたが作って、私が読んだ、どこにでもある作り話。だってだって、だってそんな――。


愛しい貴方の口元に、蠢くそれが生えてるなんて――――。


彼女のささやく小さな声が、私を越えて空を飛び、拡がるように散っていく。
私を越えて、枠越えて、誰かの下まで散っていく。

“『』見る貴方”の、その下までも。

夕日が堕ちて、闇夜の時間。黒い雨が、降り出した。
雨の向こうで佇む彼女が、唇開いて、ささやいて――。


.

169名無しさん:2022/08/05(金) 23:39:51 ID:PXci47Bk0











               むすんだよ








.

170名無しさん:2022/08/05(金) 23:40:32 ID:PXci47Bk0


  (
   )
  i  フッ
  |_|

171名無しさん:2022/08/05(金) 23:42:51 ID:xJ4RJDE.0
乙です。こんな救いのない話をミセリが書いたという事実…。
胸が圧迫されるような文章力でした。

172 ◆y7/jBFQ5SY:2022/08/06(土) 00:52:55 ID:6qOq9g4w0
>>12
繰り返しはミスですごめんなさい……
正しくは一回だけ「むすんだよ」で

173名無しさん:2022/08/06(土) 07:50:49 ID:Wqv.6j8U0
乙です

174名無しさん:2022/08/09(火) 23:43:15 ID:unH75ZHA0
悲惨すぎる……読んでて気色悪くてよかった


175名無しさん:2022/08/11(木) 00:52:55 ID:i2E.Eob60
断トツで面白かったから上げるよ

176名無しさん:2022/08/13(土) 03:57:21 ID:yggOu50A0
めっちゃ引き込まれたけど、ミセ*゚ー゚)リやばいな

177名無しさん:2022/08/16(火) 20:00:33 ID:EqLtMQXc0
乙乙
ゲームのように途中からやり直せたら良いのにと思わずにはいられない作品でした。
大人のホラーで素敵でした。

178名無しさん:2022/08/27(土) 16:35:25 ID:CEhgr72I0



新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板