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理想の彼女をつくるようです
1
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:35:30 ID:QxVx9pHE0
ドエロ祭参加作品
※性的表現有、閲覧注意
.
12
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:43:47 ID:QxVx9pHE0
微かな声でおやすみ、と呟いて内藤は浴室の扉を閉めた。
中折れの扉の曇った樹脂パネル、その向こうで僕の未来の彼女が眠っている。
馬鹿言え。
彼女の素とかいう胡散臭い液体をお湯で溶かしたものが風呂場に置いてあるだけだ。
馬鹿馬鹿しいと分かっていながらも、どこか期待をしてしまっている自分がいた。
( ^ω^) 「これで一晩固めるお」
('A`) 「ゼリーみたいだな」
( ^ω^) 「これでドックンにも彼女ができたお」
( ^ω^) 「めでたい」
にこやかに祝われた。軽薄な拍手付きで。
('A`) 「バカ言え」
('A`) 「ダッチワイフを彼女と呼ぶな」
手を振って拍手を遮る。
( ^ω^) 「……呼びたくなるんだお」
友は語る。
しみじみと、噛みしめるように。
( ^ω^) 「まさに理想の彼女が生まれるんだお」
('A`) 「……ふん」
馬鹿馬鹿しい、嗚呼、あまりにも馬鹿馬鹿しい。
ただ、まあ、一晩ぐらいは信じてみてもいいだろう。失うものはない。
帰り際、玄関で靴を履きつつ内藤が振り返る。
( ^ω^) 「言い忘れてたお」
( ^ω^) 「寝るときには必ず型にいれるんだお」
爪先でトントン、と床を叩いて踵まで靴に収め、ドアノブに手をかける。
ノブをひねる前に、言葉が付け足された。
( ^ω^) 「それさえ守れば、永遠に幸せは続くお」
.
13
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:44:22 ID:QxVx9pHE0
夢を見ていた。
僕は顔のない女を抱きしめていて、相手が血の通わぬまがい物だと分かっていても、情けなく腰を振っていた。
僕の自意識はそれを俯瞰から眺めていて、自分が出演してるAVを見ているかのような構図だな、なんて冷めたことを考えていた。
そんなタイミングで目が覚める。枕元のスマホで時間を確かめるとまだ朝の5時で、妙な夢を見たな、なんて考えながら寝返りをうち、再度眠りにつこうとして慌てて飛び起きる。
彼女の素だ。
あれは一体どうなったのだろう。
部屋は暗く、静まり返っている。
音をたてぬようゆっくりと布団から這い出て、その辺に散らばる雑多なものを踏まぬようにそっと暗い部屋を出る。
浴室の明かりを付ける。
電球色の明かりに照らされた曇った樹脂パネルの向こうを暫く見張ってみる。
薄桃色の型の形は透けて見えるけども、中は動く様子は見受けられなかった。
息を殺してそっと、扉を開ける。
冷えきった湿っぽい風が通り過ぎる。
そこには薄桃色のシリコン型と、その中で眠る女体があった。
('A`) 「う、わ」
僕は昨夜、些かガッカリしていたのだ。
精巧なキャラクリエイトとは裏腹に子供の工作のような作業工程で、これでは蝋人形以下のものしか出来るはずがないだろう、とショックを受けて眠りについたのだ。
ところがどうだ。
型の中で膝を抱えて眠る彼女は、まるで今にも動き出しそうなほどに人間の身体そのものであった。
動き出しそうなほどに、というよりも、動いている気がする。
ゆっくりと寝息を立てて眠っているようだ。裸の背中から腹にかけて、僅かに膨らんではしぼんでを繰り返しているように見える。
.
14
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:44:53 ID:QxVx9pHE0
表面は冷たく冷えていた。
肌と呼んで差し支えないだろう。それだけ精巧にできていた。
肌質も、その内側に走る幾多の血管も、毛穴も、黒子も。
まるで三日前に擦ったかのような治りかけの蚯蚓腫れもあった。三日前には君は存在すらしていなかったのに。
僕は教習所の救命訓練で学んだように、自分の頬を近づけて彼女の吐息を感じてみる。
ささやかに、だが確かに風を感じる。そして近づいてみると彼女の顔の産毛の一本一本まで揺れているのが見受けられた。
('A`) 「まじかよ」
高をくくっていたのだ。精々オーダーメイドのラブドールが出来るくらいだろうと。
しかしここに眠るのは息をしているおそらく人体そのもので、まるで彼女の素なんて液体から生まれたとは信じられないほどに命そのものだった。
('A`) 「ど、どうしよう」
そしてようやく触れてみる。触れてみようと思い立つ。
まつ毛の長い横顔の滑らかな頬に触れようとして、思いとどまる。
初対面の女性に初めて触れる場所には相応しくないだろう。
迷いに迷って選んだのは手首のあたりだった。
胎児のように膝を抱えているその左腕の手首をそっと指先で触れた。
まずはほんの一瞬。そして二度目は、手を重ねるように。
あたたかい。
熱を感じ、命であると確信した瞬間に彼女は目を開けた。
ζ(゚ー゚*ζ
('A`) 「あっ」
目が合った。
ζ(゚ー゚*ζ 「おはようございます」
動いた。そして喋った。
('A`) 「う、うわぁ」
ζ(゚ー゚*ζ 「うわぁ、は酷いなぁ」
('A`) 「いや、だって」
彼女は型から外に手を伸ばし、浴槽の縁を掴んで身体を起こした。
うーん、と唸りながら大きく伸びをする。背をそらして気持ちよさそうに身を伸ばす彼女の大きな胸に釘付けになってしまう。
.
15
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:45:46 ID:QxVx9pHE0
僕は思わず頬をつねる。痛いぐらいにこれは現実で。
ζ(゚ー゚*ζ 「初めまして」
視線を感じたのかどうかはわからないが、両手を祈るように組んだ彼女の腕により胸は隠された。
ζ(゚ー゚*ζ 「私はあなたの理想の彼女です」
そう言って彼女は微笑む。
ζ(゚ー゚*ζ 「初めに教えてほしいの。あなたのお名前は?」
かつてここまで緊張した自己紹介があっただろうか。
乾燥した唇を舐めて、かすれた声で僕は答える。ドクオ、と。
ζ(゚ー゚*ζ 「ドクオさん、ドクオさん」
ζ(゚ー゚*ζ 「身体のカタチだけではなく、心も性格も、あなたの理想でありたいなって思ってるの」
ζ(゚ー゚*ζ 「どんな名前の彼女が、理想ですか?」
考えてもいなかった。彼女に名前を付けるなんて。
理想の名前なんて、考えたこともなかった。
('A`) 「そ、そうだなぁ」
思い出の中の女性たちの名前を思い浮かべてもどこかしっくりこなかった。
世界にたった一人の理想の彼女に、他の女の名前など相応しくない。
短くて、呼びやすくて、可愛らしい響きの名前がいい。
('A`) 「デレ。君の名はデレだ」
にっこりと、満面の笑みを浮かべてデレは頷いた。
それは、僕が彼女に与えた最初のプレゼントだった。
.
16
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:46:26 ID:QxVx9pHE0
名前以外にも色々と与えなければいけなかった。
例えば服だ。着るものは僕の持ってる中でもましなTシャツとジャージでいいとしても、下着がなかった。
ζ(゚ー゚*ζ 「これだけでもいいですよ」
そう言って彼女は下着を付けずに直に僕の衣服を身に着ける。
ブラジャーのワイヤーがなくても彼女の乳房は攻撃的に正面に飛び出していて、Tシャツを着るとその攻撃性はなお一層高まった。
('A`) 「それだけじゃダメだ。目に毒だ」
ζ(゚ー゚*ζ 「ええっ、そんなにお見苦しいですか」
('A`) 「違う、そうじゃない」
パツンパツンになったTシャツ姿は裸でいさせるよりずっと劣情を誘う。
家の中ではそれでもいいけれど、外には到底出せない恰好だ。
('A`) 「あとで一緒に下着を買いに行こう」
女性の下着の買い方も選び方も全く知らない僕がひとりでデレの下着を買いに行けるはずもなかった。
しかしこの恰好のデレを連れ歩くわけにもいかない。
('A`) 「ううむ困った」
ζ(゚ー゚*ζ 「どうしました?」
('A`) 「服を買いに行く服がない、とはこのことか」
ああでもない、こうでもない、と。
僕の僅かなコレクションを一通り着替えて、最適解を見つけたころにはもう、窓の外は白々しく明るくなっていた。
.
17
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:46:54 ID:QxVx9pHE0
ζ(゚ー゚*ζ 「ありがとうございます。服を貸してくれて」
黒い分厚いプルオーバーと、ジョガーパンツを身に着けた彼女はゆるゆると微笑んだ。
('A`) 「いや、裸でいさせるわけにもいかないだろう」
ζ(゚ー゚*ζ 「私は構いませんよ? ずうっと裸でも」
('A`) 「それは僕が困る」
ζ(゚ー゚*ζ 「どうしてですか?」
近づいて、顔を覗き込んでくる。髪が揺れてふんわりとえも言われぬ香りが漂った。
('A`) 「自分の部屋に、裸の女性と二人きりでいたら、ちょっと抑えきれる自信がないよ」
それが君みたいに美しい女性なら尚更に、と続けるとデレはにっこりと笑う。
ζ(゚ー゚*ζ 「抑えなくていいんですよ?」
('A`) 「それは」
勿論そうしたい気持ちはある。
ある、どころか激しい衝動が僕の身体を突き動かそうとしている。
それでも動けずにいるのは、デレがあまりにも人らしく人そのものであったからだ。
('A`) 「そんなことはできない。君の人格に失礼だろう」
ζ(゚ー゚*ζ 「私の望みは、あなたの望みを叶えることなんですよ」
('A`) 「だとしても、だよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「抱かれたいって私が思っていても?」
('A`) 「思っていても、出来ない」
ζ(゚ー゚*ζ 「どうして?」
('A`) 「男の子を軽く見ないでほしいな」
ζ(゚ー゚*ζ 「ふうん」
.
18
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:48:28 ID:QxVx9pHE0
ζ(゚ー゚*ζ「では、ひとつずつ始めませんか」
いたずらっぽい笑みを浮かべて、デレは話し始めた。
立ち上がってくるりと一回転して、デレは僕を見つめて問いかける。
ζ(゚ー゚*ζ「恋の仕方を知っていますか?」
目を輝かせて話すデレがまぶしくて、僕は思わず目をそらす。
ζ(゚ー゚*ζ「まずは見つめるのです。一方的に」
ζ(゚ー゚*ζ「片思いのように」
デレの語りが途切れる。
気になって顔を上げると、ばっちりと目が合ってしまった。それはもうしっかりと。
嬉しそうにデレは目を細める。
ζ(゚ー゚*ζ「そして見つめ合う」
くるくるとよく変わる表情、言葉以上に明朗に気持ちを伝えてくれるその双眸から目が離せずに、僕はデレと見つめあう。
ζ(゚ー゚*ζ「はじめに絡むのは視線です」
吐息交じりの声でデレは言葉を紡ぐ。
あたたかな手が、僕の手を取った。指先を絡ませて僕らは手を握りあう。
ζ(゚ー゚*ζ「そして手と手が触れ合い」
ζ(゚ー゚*ζ「手が唇に」
僕の手を握ったまま、デレは手を上げて僕の手に顔を寄せる。
手の甲に頬擦りをして、それから、温かく湿った唇が指先に押し当てられた。
ζ(゚ー゚*ζ 「そして」
そう言って彼女の顔が近づいてくる。
僕は動けずにいる。だらしなく隙間のできた僕の唇に、デレの湿った唇が触れて。
ζ(゚ー゚*ζ「唇と唇が」
唇を重ねたままデレは囁く。目を閉じることも忘れて、僕はただ唇の温度を感じていた。
.
19
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:49:34 ID:QxVx9pHE0
唇の薄い皮膚を震わせて、デレは話し続ける。
ζ(゚ー゚*ζ「私の、いえ、私達のような生き物の大きな特性があって」
うん、と相槌を打とうと唇を開けた瞬間に、デレの尖らせた舌先が忍び込んでくる。
おずおずと、何かを確かめるように少しだけ入り込んで、すぐに離れていく。
ζ(゚ー゚*ζ「冷えると固まって、熱いと溶けるんです」
彼女は今、大事なことを話している気がする。
僕の頭の片隅の冷静な部分は必死で耳を澄まして聞き取ろうとするが、僕自身は圧倒的な熱量に抗えずにデレの唇を貪ることに夢中だった。
ζ(゚ー゚*ζ「私達を溶かす熱にはニ種類あって、一つは外因的な熱、もうひとつが、内側の熱です」
初めて触れた時よりももっと熱を帯びたデレの唇をそっと食む。
優しくそうっと歯を立てると、デレは身震いしながら甘い声をあげた。
反応が嬉しくて、今度は少し強く噛みついた。
ζ(゚ー゚*ζ「身も蓋もないことを言えば、発情すると、溶け出すんです」
肩を掴まれ、引きはがされる。
潤んだ瞳がこちらを見つめている。ほんのりと上気した顔がなんとも煽情的であった。
('A`)「それって、大丈夫なの?」
自由になった唇から間抜けな質問が飛び出す。
あまりに抽象的な問いかけで意図は伝わるはずもなく、デレはぽかんとして言葉の続きを待っていた。
('A`)「なにか致命的に欠けたり失ったりしないのか?」
溶ける。ではなく、溶け出す、とデレは言った。
およそ人が普段身体に対して使う表現ではなく、得体のしれない恐ろしさを感じて僕は問う。
.
20
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:50:01 ID:QxVx9pHE0
眉を下げて、デレは柔らかく微笑み、首を左右に振った。
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、型の中で眠れば補修されるので大丈夫です」
型の中で眠る。
そういえば友も言っていた。必ず型で寝かせるんだお、と。
君は、君たちは一体どんな生き物なんだろう。
そもそも生き物なのだろうか。溶けるとは。型とは。理想の彼女とは。
どこから聞いたらいいかもわからず、また、全て知ったら失ってしまうかもしれない危うさを抱いて、僕は言葉に迷う。
ζ(゚ー゚*ζ「なんでこんなことを伝えたかと言うと」
僕の葛藤を知ってか知らずか、デレは言葉を続ける。
続きを話そうと口を開いて、しかし声を出せずに何度か唇を噛みしめていた。
('A`) 「どうしたの、モジモジして」
いえ、その、えっと、と。頬をさらに赤らめて、身体をくねらせて。
それから消え入りそうな声でデレはようやく続きを話してくれた。
ζ(゚ー゚*ζ「キスしたら、もう、溶けてしまいまして」
そう言って彼女は僕の手を取り、そして足の間へといざなった。
僕の手の皮膚は、粘膜に触れる前からもう、蒸した熱を感じていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「あっ」
('A`) 「うわぁ……」
にちゃり、と音を立てて。
粘度の高い、熱を持った湿り気が僕の手を包み込む。別の生き物のように僕の指を飲み込む。
('A`) 「すげぇ……」
どうしようもなく興奮してしまった。
僕がもし彼女と同じ身体だったなら、形を保てなくなっていたかもしれない。
.
21
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:50:46 ID:QxVx9pHE0
溶け出す特徴を持つのは、秘部だけではなかった。
僕の猛りを咥えこむ彼女の口が、動くたびにみるみる溶けて溢れ出した。大量の粘液が僕を包み込む。
鎖骨をついばめば、そこが火照り、湿り気をおびる。
同時にとぷりと、彼女の下腹部が溶け出す気配を感じる。
乳首を撫でると身体が跳ねて、乳首の先からじわりと液体が滲み出す。
全身を使って反応を伝えてくれる彼女にいじらしさばかり募った。
身体中を隈なくまさぐられ、彼女と自分の境目も分からなくなるくらい夢中で絡み合った。
昂ぶりが熱となりそして柔らかい粘度で僕を受け止め全てを受け入れてくれる。
その感度の高さ、敏感さにさらに興奮は高まる。
気づいたころには彼女の身体は人の形を成していなかった。
ぐんにゃりとあらぬ方向に曲がった腕。
あらゆる穴を犯され広げられ、ぽっかりと眼窟を晒す頭部。
関節が増えたかのように数箇所折れ曲がった脚部。
およそ命ある姿とは思えず、僕はただ、彼女の姿をつぶさに眺める。
何もできずに。ただあるがままを見つめる。
それしか出来なかった。
.
22
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:51:32 ID:QxVx9pHE0
やがて、僕は恐る恐る彼女の肌に触れてみた。
温かく、そして湿っていた。見た目とはそぐわない、生々しい命の息吹を感じる。
「寝るときは型に入れるんだお」
ふと、友の言葉を思い出した。
押し入れから型を引っ張り出し、身じろぎせずに横たわる彼女の隣に広げた。
脱力しきった身体の下に腕を差し込み、ぐっと力を込めて持ち上げると、
雑煮の餅のように柔らかく、身体が伸びた。
('A`) 「えっ」
さらに持ち上げると、薄く長く伸びていく。
ばつん、と音を立ててちぎれた。
ねっとりと伸びたデレの身体の一部が腕に絡みつく。
('A`) 「うわ」
('A`) 「か、型に」
型に入れて寝る。
それだけ守れば、今の幸せが永遠に続くと友は言っていた。
型に入れよう。そして寝よう。
大きな欠片を持ち上げて型の底に寝かせる。
小さなかけらを拾い集めてその上に乗せた。
質量がまだ足りぬ気がして、寝台の上のわずかなぬめりさえも見逃さぬよう隈なくシーツを撫でて確かめる。
桃色のゆりかごに全てを委ねて僕は眠りの国へ逃げ込んだ。
.
23
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:52:26 ID:QxVx9pHE0
雨音が部屋を満たしていた。
パチパチと弾ける音、そして香ばしい匂いが漂ってきて、僕は目を覚ます。
気づけば朝になっていて、昨夜の狂乱が嘘のように穏やかな景色が広がっている。
ζ(゚ー゚*ζ 「おはよう」
裸のデレが台所に立って料理をしている。
昨日形も残らぬほどに溶けてちぎれた痕跡などどこにもない。傷ひとつない綺麗な身体だった。
('A`) 「おはよう」
夢のような景色だな、と僕はただ後ろ姿を眺めている。
手際のいい動き、揺れる髪、そして尻。
尻?
('A`) 「……何で裸なの?」
不自然な所にようやく気づいて僕は問いかける。
ζ(゚ー゚*ζ 「昨日の服、汚してしまったから」
恥ずかしそうに答える彼女がとても可愛らしい。
可愛さをしばし楽しみ、それから裸でいることの危険性を思い出す。デレは熱に弱かったはずだ。
慌てて部屋着とエプロンを渡そうとして思いとどまり、エプロンだけを渡した。
('A`) 「じゃあ、とりあえずこれでも付けて。火傷したら危ないから」
ζ(゚ー゚*ζ 「えへへ、ありがとう」
なんの躊躇いもなくエプロンだけを身に着け料理を続ける彼女を見て僕は思う。
恥じらいがあって初めて裸エプロンは成立するのだと。
.
24
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:54:03 ID:QxVx9pHE0
('A`) 「料理をするのは熱くないの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「多少は熱いけど、でも大丈夫」
菜箸を器用に扱いながら彼女はそう言った。
ζ(゚ー゚*ζ 「外からの多少の熱には耐えられる構造になっているの」
ζ(゚ー゚*ζ 「でないと、暑いところで過ごせないでしょう?」
バカンスにも行けないね、と僕が茶化すと、デレは大真面目に頷いた。
ζ(゚ー゚*ζ 「そう、バカンスにも行けない」
('A`) 「南の島に?」
ζ(゚ー゚*ζ 「そうよ、南の島にバカンスに行けなきゃ困るもの」
一昨日まで鍋の中に溶けていた女が尤もらしく言う。
.
25
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:54:30 ID:QxVx9pHE0
人が日常的に感じる程度の熱には耐えられるように作られているの、とデレは話し出す。
私たちは人と共に生きられるように設計されたから、と。
だから料理もできるしアイロンがけも出来る。
すこし柔らかくなってしまうけどお風呂にも入れるの。出た後は型に戻って休まないといけなくなるけれど。彼女はそう言いながらフライパンに塩を振り入れた。
('A`) 「サウナは?」
ζ(゚ー゚*ζ 「サウナはちょっと難しいかな。すぐに液体にはならないけれど、形は保っていられないわ」
('A`) 「常春の島くらいしかいけない」
ζ(゚ー゚*ζ 「バカンスには十分でしょう」
ζ(゚ー゚*ζ 「だからね、ちょっとやそっとの熱さには耐えられるの」
ζ(゚ー゚*ζ 「私を溶かすのは、内から湧き上がる熱なの」
昨夜の痴態を思い返す。お互いの輪郭が不確かになるほど絡み合った、濃厚な記憶を。
('A`) 「昨日は、そんなに熱が湧きあがったの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん、恥ずかしいな……あんなに溶けちゃって」
恥ずかしがらなくていい。そう伝えたかった。
君が心から喜んでくれていることが直接的に伝わってくるのはありがたいことなんだ、と。
でも僕は黙って、恥ずかしがる彼女を眺める。
裸エプロンが相応しくなりつつある彼女をただ見つめている。
.
26
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:55:07 ID:QxVx9pHE0
皿が二枚並べられる。
トーストが一枚ずつ、ハムが一枚ずつ、そして目玉焼きが一つずつ置かれていく。
レタスとトマトを添えて、おまけにヨーグルトとコーヒー付きだ。ご機嫌な朝食だ。
ζ(゚ー゚*ζ 「どうして食器がペアで揃っているの? 一人暮らしだと思っていたのに」
('A`) 「母が。ここに住み始めるときに、母が買いそろえてくれたんだ」
いざという時に困らないように、と。
その時は嫌がって見せたけれど、今は母のそのお節介ぶりに心から感謝している。
いざという時とはこういうことかと。
まさか、まさかね。
彼女の素から作られた彼女が、まさか食事を摂るなんて。
いただきます、と手を合わせてからデレはフォークを手に取り、レタスを口に運んだ。
しゃくしゃくと小気味いい音を立ててレタスは噛み砕かれる。
('A`) 「食べられるの?」
あまりに自然に食事をする姿にあっけにとられてしまった。
ζ(゚ー゚*ζ 「ええ、食べられます」
口もありますし。そう言って彼女は口を開いて見せた。
ぽっかりと開いて見せる赤い咥内がぬらぬらとテカり、僕の劣情を誘う。
いや、わざと誘っているのだ彼女は。その証拠に、舌を突き出して上下に揺らしている。
何もない空中に、透明な何かがあるかのように──おそらくそれは棒状であり程よい硬さを有しているのだろう──なまめかしくいやらしく、舌を突き出していた。
.
27
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:55:32 ID:QxVx9pHE0
誘っているの?
そんな質問を飲み込んで、僕は違う疑問を投げかける。
('A`) 「食べたものはどこへ消えるの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「それは、あなたと同じように」
そう言って彼女は黙って口を開け、それから一本立てた人差し指で己の喉を縦になぞり、胸の間を通って、掌で腹を丸を描くようにさすった。
ζ(゚ー゚*ζ 「だって、食べなきゃ熱量が足りないもの」
そう言って彼女は胃のあたりを撫でる。
それに伴って、ゆさゆさと胸が揺れる。
ζ(゚ー゚*ζ 「食べるとね、身体が熱くなっていくの」
('A`) 「熱くなるの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「へへっ」
先ほど飲み込んだ質問を聞こうとして、また飲み込む。
それは聞く必要がなくなったから。
目の前でたくし上げられた裾から零れ落ちた乳房、その先端が艶やかに湿り気を帯びていたから。
.
28
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:55:57 ID:QxVx9pHE0
ζ(゚ー゚*ζ 「まだお風呂には入りたくないんです」
事後、僕の胸に頭を預けてうとうとしていたデレを入浴に誘うと、あっさりと断られた。
('A`) 「まだ、ってどういうこと?」
浴室は明るいから裸を見られたくない、とかそんな理由だろうか。
そんな考えがよぎるがすぐに自分で否定する。裸エプロンすら恥じない子だったのに、と。
ζ(゚ー゚*ζ 「私って、わたしたちって、出来上がってすぐは溶けやすいんです」
ほら、と彼女は横たわったまま、両腕を天井に向けて突き上げた。
ζ(゚ー゚*ζ 「昨日よりずっと、ちゃんと身体の形を保っているでしょう?」
昨日と同じくらい興奮したし、昨夜よりずっと激しく絡み合ったのに。
そう言って彼女は頬を赤らめる。照れながら僕のわき腹をつついてきた。
('A`) 「くすぐったいよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「ふふふ」
はにかんでごまかそうとするデレの手を掴む。
僕は左手で彼女の両手首を一掴みにすると、空いた右手でデレのわき腹をくすぐる。
ζ(゚ー゚*ζ 「あ、やだぁ」
キャッキャッとはしゃぎながら身をよじっていたが、僕がそれでも手を止めずにいると、だんだんといやらしく乱れていく。
全身がしっとりと湿り始め、熱く火照り出す。くすぐっているわき腹から熱が生まれ、さざ波のように全身に広がっていく。
腰の骨の形を爪の先でなぞる。身を震わせて彼女は大きく喘いだ。喘ぎ声とともに粘液が溶け出す。じわりじわりと、足の間から、そして臍からも。
ひくひくと震えながらとろりとした粘液を湛える臍にそっと指先をねじ込んだ。
ねちゃり、ねちゃり。
指の動きに呼応して、水音が響く。彼女は腰をくねらせて快感に耐えていた。
臍には指を突っ込んだまま、僕は怒涛を彼女の秘部へとねじ込んだ。
強い締め付けが一瞬僕を拒んだが、すぐに受け入れるかのように波打って、まるで別の生き物のように僕のそれを飲み込んで離さない。
どのくらい経ったらお風呂に入れるのか、聞くの忘れたな。
ちょっと前の会話の続きが不意に頭をよぎるが、今この瞬間はそんなことは全くもってどうでもよかった。
僕はなお一層強く奥を抉り、ありったけの快感を奥へと叩きつける。
たっぷりと放出した僕の熱が彼女を内側から溶かし、デレは大きな声を上げて果てた。
.
29
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:56:42 ID:QxVx9pHE0
とにかく僕たちは目が合う度にキスをしたし、キスをすればもう止まれるはずもなかった。
この部屋は二人で過ごすには狭すぎて、どこにいても触れ合えるせいで、お互いの熱で高まりっぱなしだった。
服を買いに外に出たのは日が西に傾き始めた頃だった。
お互いの汗や体液を拭ってこざっぱりした僕らは、夕方の街を連れ立って歩く。
ζ(゚ー゚*ζ 「あのう」
('A`) 「ん?」
目的地に向けて、手をつないで歩いていると、おずおずとデレが声を上げた。
ζ(゚ー゚*ζ 「家だと気にならなかったんですけど、外に出るとちょっとスース―しますね」
無理もない。
デレの身体のサイズに合うような女性用の服や下着などが僕の部屋にあるはずもなく、素肌に直接衣服を纏ってもらうしかなかった。
僕の服だけではあまりに無防備で、見ていても心許ない。
('A`) 「恥ずかしい?」
ζ(゚ー゚*ζ 「ちょっとだけ」
あっさりと答えてから、すこしはにかみながら訂正の言葉を口にした。
ζ(゚ー゚*ζ 「……いえ、とても」
('A`) 「生地に染みちゃうからさ、溶けるのは我慢してね」
ζ(゚ー゚*ζ 「我慢しようと思って止められるものじゃないんですよぉ」
自宅から一番近いショッピングセンターに入る。
お洒落な服屋などがあるわけではないが、食品や文具や、ちょっとした肌着などは売っているような、そんなこじんまりとしたショッピングセンターの片隅で、デレのための下着を見繕う。
.
30
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:57:29 ID:QxVx9pHE0
ζ(゚ー゚*ζ 「ねぇねぇ、ドクオさん」
こんな形になってるんだな。
彼女と一緒であることを免罪符に、僕は下着売り場を眺めていた。
切れかけの蛍光灯がちかちかと瞬き、艶やかなサテンがてらりと光る。
('A`) 「はいはい」
ζ(゚ー゚*ζ 「あの、何だか落ち着かなくって」
('A`) 「どうしたの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「視線を感じるような気がしてしまって」
('A`) 「そうなの?」
こんな寂れた田舎のショッピングモールには似つかわしくない美女がいたら嫌でも見てしまうものだ。フロアのあちこちに設置された休憩用のベンチには、暇そうな高齢男性が数人座っている。
('A`) 「悪いことしてるわけじゃないんだから、気にしなくていいよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「いえ、その、嫌とかじゃなくって」
俯いて、ゆるゆると首を振って。
それから、消え入りそうな声で彼女は囁いた。
ζ(゚ー゚*ζ 「ちょっと、蕩けてしまいそうで」
('A`) 「見られたくない?」
('A`) 「それとも、もっと沢山見られたい?」
ζ(゚ー゚*ζ 「……どっちもです」
ζ(゚ー゚*ζ 「見られると熱くなるので嬉しいです」
ζ(゚ー゚*ζ 「でも、早くドクオさんと二人きりになりたいです」
('A`) 「そっかぁ」
手早く買い揃えると、僕らは急いで帰路につく。
手を握ると温かく汗ばんでいて、僕の手まで溶かされそうなほどの熱を湛えていた。
.
31
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:58:51 ID:QxVx9pHE0
───
──
─
ようやく私は決心しました。
僕の目の前で正座なんてして随分と畏まって言うので、僕は続きを聞くのが怖かった。
('A`) 「えっと、何の話ですか」
ζ(゚ー゚*ζ 「お風呂に入ろうと思います」
デレが僕の家に来て二週間が経った。
その間に僕らは随分と仲良くなった。沢山言葉を重ねて、それ以上に身体を重ねた。
甘く溶け合う濃密な日々を過ごしながらもデレは身体を完成させたらしい。
入浴の熱に耐えられると、自信を持てるようになったらしい。
ζ(゚ー゚*ζ 「最近身体も安定してきましたし」
('A`) 「そうなの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「そう感じませんか?」
('A`) 「昨日もあんなにびしょびしょにしてたのに?」
ζ(゚ー゚*ζ 「それは仕方ないじゃないですか」
ニヤニヤしている僕に構わずに、そうじゃなくて、と彼女は強い口調で言い放つ。
そうじゃなくて、熱に強くなったんです。内側の熱には弱いけれど、外的な熱には耐えられるようになってきました。一緒に入ってくれませんか、と。
ζ(゚ー゚*ζ 「……お嫌ですか?」
心配そうに眉をひそめて僕の顔を覗き込んでくるもんだから、慌ててニヤニヤを引っ込める。
背筋を伸ばして姿勢を正す。そして畏まって僕は答える。
('A`) 「よろしくお願いします」
.
32
:
名無しさん
:2022/05/04(水) 23:59:34 ID:QxVx9pHE0
目一杯蛇口を捻ると、少し遅れて水が溢れ出した。浴槽にお湯を溜めるのは何時ぶりだろう。
そういえば、普段シャワーばかりで最近全然使っていなかった。それこそ、デレが生まれたあの日以来だ。
威勢のいい音を立てて浴槽の底に流れ落ちる水を見て、僕は二週間前のことを思い出していた。
('A`) 「君は」
君はここで身体を得たことを覚えているのだろうか。
形は僕が特注したけれど、君の人格はどこから来たんだろう。
幾度身体を重ねても、肝心なところは何一つ聞けていなかった。
好みの目玉焼きの火加減や塩の量は聞けるのに、目玉焼きの焼き方を学んだのは何時なのか、それは聞くのをためらってしまうんだ。
君があの鍋に入る前のことを知ってしまったら、今のこの幸せを失ってしまいそうで。
やがてお湯が溜まり、僕はデレを呼び寄せる。
ζ(゚ー゚*ζ 「さて、入りますね」
彼女は普段と同じような笑顔で、しかしどことなくひきつっているように見える。
恐る恐る足の爪先をお湯の中に差し入れる姿を僕はただ見守る。
ζ(゚ー゚*ζ
ちゃぽん、と控え目な水音。同時に彼女の顔が顰められ、そして和らいだ。
彼女の視線の先の左足の爪先を見やる。お湯の中に入っても、足の形は保たれていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「……ねえ」
('A`) 「うん」
ζ(゚ー゚*ζ 「触ってみて」
僕はお湯に手を差し入れ、彼女の足先までたどり着く。
恐る恐る、指先で確かめる。最初はそっとなぞって、次はすこし強くつついてみる。
確かな弾力が僕を跳ね返す。
指がめり込むこともなく、溶けて穴が開くこともなく、肌らしい弾力で僕の指を拒んでいた。
.
33
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:00:04 ID:bFlB4tFo0
('A`) 「溶けてないよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「よかった」
彼女の表情がようやく緩んだ。
('A`) 「これで君はどこにでも行けるね」
ζ(゚ー゚*ζ 「ええ、南の島にも行けるわ」
彼女は安堵した表情で浴槽に胸のあたりまで潜り込んだ。
僕もその隣に身体をねじ込んで、それからあちこちをつついてなぞって撫でまわす。
('A`) 「ここも溶けてない、ここも」
隈なく身体を探索していく。足の指の間、ふくらはぎ、膝の裏の窪み、内腿の柔らかなところ。
彼女はくすぐったそうに身をよじる。
ζ(゚ー゚*ζ 「あ、ねえ、そんなに触っちゃやだよ」
('A`) 「痛い?」
ζ(゚ー゚*ζ 「痛いとかじゃ、なくって」
吐息が短く荒いリズムを刻んでいた。
気づけばお湯がほんのりと白く濁っていて、浴槽の底が見えなくなっていた。
('A`) 「溶けた?」
僕は立ち上がる。
慌ててデレを浴槽から出そうと両脇に手を差し入れると、彼女はそれを拒んだ。
赤い顔をしてゆるゆると首を振って、僕の手首を掴む。
ζ(゚ー゚*ζ 「熱くて、じゃなくってぇ」
掴まれた手を引かれ、彼女の太ももの間へと誘われた。
ぬるり、とお湯ではない粘り気を感じる。足先やお腹や背中とは違い、そこだけが夥しく溶けていた。
.
34
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:01:11 ID:bFlB4tFo0
('A`) 「大丈夫?」
僕はただただ心配だった。
湯の中に流れてしまった、デレだった液体のことが気になって仕方がなかった。
永遠に失われてしまうであろう彼女の一部。形を得る前の彼女のような色をした湯舟の中。
デレはそんなことは気にも止めず、僕の手に秘部を擦り付けて快感を貪っていた。
いつもよりもかなり積極的に乱れていた。
('A`) 「どうしてそんなに興奮しちゃったの」
ζ(゚ー゚*ζ 「熱に弱くって」
ζ(゚ー゚*ζ 「溶けずに身体の形を保てるようにはなったけれど」
ζ(゚ー゚*ζ 「身体があったまると、その、どうしようもなく興奮してしまって」
恥ずかしいけど、止められないんです、と。
僕の指を咥え込んで一心不乱に腰を振りながら、蚊の鳴くような声でデレは囁いた。
思い切って僕は指を引き抜く。
ζ(゚ー゚*ζ 「あ、やだぁ」
名残惜しそうに腰を揺らす彼女を立ち上がらせる。
('A`) 「後ろ、向いて。壁に掴まってて」
ζ(゚ー゚*ζ 「う、うん」
彼女は言われるがままに後ろを向いて、壁に手をついて尻を突き出した。
昂ぶりを隠すことなくゆらゆらと腰を振り、刺激を求めているその姿を眺める。
足の間から流れてお湯に落ちる彼女のひとしずくさえも愛おしかった。
('A`) 「いい景色だね」
ζ(゚ー゚*ζ 「いじわる。からかわないでくださいよ」
('A`) 「入れてもいい?」
ζ(゚ー゚*ζ 「お願いします」
僕は僕の収まるべき場所へと潜り込む。
その暗がりはいつもよりもなお一層強く締め付けて、僕のことを決して離そうとしなかった。
.
35
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:01:46 ID:bFlB4tFo0
.
36
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:02:21 ID:bFlB4tFo0
布団の上で本能に任せて腰を振りながら、僕は以前の情事を思い出していた。
三か月前、白濁の湯の中で愛を交わした日のことを。
あの日の熱を。懐かしい粘り気を。
ζ(゚ー゚*ζ 「……どうしたの?」
デレが振り向いた。気づけば僕は腰を振るのをやめてしまっていたのだ。
('A`) 「いや、えっと……」
言葉に詰まって、僕は力強く腰を打ち付ける。奥を抉るように。
('A`) 「……これ、気持ちいい?」
ζ(゚ー゚*ζ 「気持ちいいよぉ」
えへへ、と彼女ははにかんで、当たり前のようにそう答える。
('A`) 「そっか、ならいいんだ」
ζ(゚ー゚*ζ 「……どうしたの?」
下半身はつながったまま首だけこちらに振り向いて、もう一度、心配そうに尋ねられる。
('A`) 「何が?」
ζ(゚ー゚*ζ 「だって、前は聞かなかったのに、そういうの」
君の言う通り、僕は今まで聞いたことはなかった。
君の身体は言葉より饒舌に喜びを語ってくれていたから。
とめどなく溢れる奔流が僕に愛を叫んでくれていたから。
('A`) 「言葉にしてほしい日だってあるんだよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「それなら幾らでも言うよぉ」
そうしてデレは甘い声をあげて腰を振る。
そこが気持ちいい、もっとして、やだ、そこきもちいい……。
デレの声が部屋に虚しく響き渡る。
僕は目を閉じる。
以前より濡れなくなったことからは目を背けて、僕はただがむしゃらに腰を振った。
.
37
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:02:55 ID:bFlB4tFo0
彼女は変わってしまった。
誰が見ても間違いなくそう感じるだろう。彼女を知る人などこの世に僕以外存在しないのだけれど。
笑いのツボが変わった。飲み物の温度が変わった。服の好みが変わった。
お風呂に毎日入るようになった。
僕の部屋に来て間もなく四か月。
彼女はより人らしくなり美しく垢ぬけていく。
何よりも。
いつからか彼女は夜、零れ落ちることがなくなった。前後不覚になるほど乱れることも、溶けすぎて身体のコントロールが利かなくなることももうない。
ζ(゚ー゚*ζ 「一緒に寝てもいい?」
パステルカラーのふわふわした寝巻に身を包んだ彼女が、僕の寝床へとやってきた。
('A`) 「もちろん構わないよ」
何も考えずに答えてから、ふと、違和感を覚える。
('A`) 「あれ、型は?」
ζ(゚ー゚*ζ 「多分、もう使わなくても大丈夫」
何気なく彼女が放ったその一言が、僕の心を酷く締め付けた。
もう、彼女は必要としないのだ。
どんなに溶けても零れても、夜の間に修復してくれるあのゆりかごを。
それはつまり、あの熱と快楽に溺れた夜はもう永久に失われたということに他ならず。
('A`) 「いいよ、一緒に寝ようか」
ζ(゚ー゚*ζ 「嬉しい、ずっと夢だったの」
ζ(゚ー゚*ζ 「あなたと一緒の布団で、一緒に朝を迎えるのが夢だったの……」
しみじみと呟いた彼女のその瞳には涙がきらりと光っていた。
彼女の頭を胸に抱いて、寝息をただ聞いていた。
変わりゆく君に追いつけない心のまま、初めて共に朝を迎えるのだ。
.
38
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:03:30 ID:bFlB4tFo0
久しぶりに一緒にお風呂に入ろう。
そんな誘いにデレはこころよく頷いてくれた。
そういえば共にお風呂に入るのを止めたのも僕が言い出したことだった。
いつだってデレは僕の願いを叶えてくれる。疑問を呈することもなく、反対意見を言う事もなく。
ζ(゚ー゚*ζ 「お腹つかまないでよぉ」
('A`) 「じゃあ、どこを掴んでほしいの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「えへへ」
身体のあちこちを触って確かめる。
肌の弾力が優しく、しかし確実に僕を拒む。
それが寂しくて、一緒に入浴するのをやめたのだ。
崩れ落ちそうな不安定さが失われてしまったことに僕はひそかに心を痛めてしまう。
ζ(゚ー゚*ζ 「……あのね」
ζ(゚ー゚*ζ 「むね、触ってほしいの」
はにかみながら言う彼女に請われるがまま僕は揉みしだく。やわやわと捏ねてから、強く握りしめるように、ぎゅっと。その瞬間彼女は甘い声で哭いた。
無情にもいつまでも乾いたままの肌のせいで、喘ぎ声すら嘘くさく思えてしまう。
そう、僕は物足りなさを感じ始めていた。
.
39
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:04:08 ID:bFlB4tFo0
台所から鋭い悲鳴が聞こえてきて、僕は慌ててデレの元へと向かった。
穏やかな昼下がり、少し遅い昼食を用意してくれているはずだった。
ζ(゚ー゚*ζ 「あっつ、かったぁ……」
デレは右手をおさえて唸っている。
('A`) 「大丈夫? 怪我したの?」
ζ(゚ー゚*ζ 「ううん、ちょっと火傷しちゃっただけ」
('A`) 「ちょっとだけなんて声じゃなかったよ。見せてごらん」
ζ(゚ー゚*ζ 「ほんとうに、大したことじゃないのよ」
そう言って彼女は左手をそうっと外す。
熱した鍋の縁に誤って触れてしまったのだろう。手首が横一直線に爛れて溶けていた。
('A`) 「大変だ、すぐに冷やさなきゃ」
僕は慌てて蛇口を捻り、デレの手をとる。
勢いよく迸る水流に傷口を向けようとするとデレは強い力でそれを拒んだ。
ζ(゚ー゚*ζ 「ドクオさん」
('A`) 「えっ」
ζ(゚ー゚*ζ 「大丈夫。型に戻れば修復されますから」
('A`) 「ああ、そっか」
失念していた。彼女は人ではなかったことを。
('A`) 「……傷、見せて」
ζ(゚ー゚*ζ 「心配してくれてありがとう」
彼女は手のひらを返して傷口を晒す。
ぱっくりと開いた傷の内から流れ出る彼女の中身。傷口を潤してテカテカと光っている。
('A`) 「痛い?」
ζ(゚ー゚*ζ 「少し。でも大丈夫」
そうか、痛いのか。
僕は傷口から目を離せずにいる。彼女から溢れる粘液から、目を離せずにいる。
体のどこかが熱を帯びていく。そんな気配を、妙に冷えた頭で感じていた。
.
40
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:04:36 ID:bFlB4tFo0
その日の夜は、久しぶりに離れて寝た。
僕はベッドで、彼女は型で。
ひとりでのびのびと寝たらいいのに、なんだか落ち着かなくていつもの右側に寄って寝た。
ζ(゚ー゚*ζ 「おはようございます」
('A`) 「大丈夫?」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん、もうすっかり」
へらりと笑いながら彼女は昨日と同じように手首を見せつけてくる。
時間が戻ったかのように跡形もなく傷は消えていた。治ったのではなく消えたのだ。何もなかったかのように。
('A`) 「それはよかった」
ζ(゚ー゚*ζ 「心配かけてごめんね」
ζ(゚ー゚*ζ 「型に入れば元通りになるの」
('A`) 「それはよかった」
どんなに溶けても君は朝になれば元に戻る。
溶けない日々が続き、いつのまにか忘れてしまっていた。
ζ(゚ー゚*ζ 「久しぶりに型に寝たら、肌もすべすべになったかもー」
頬を抑えながら嬉しそうにデレは言う。
君が嬉しそうで、僕も嬉しい。
こうやって君の幸せだけを願えたらいいのに、僕の今の望みは。
('A`) 「デレ」
名前を呼ぶと、デレは笑顔で振り向いた。なぁに、と尋ねてくる彼女の優しさに、僕は思い切って望みを伝える。
('A`) 「……したいことがあるんだ」
ζ(゚ー゚*ζ 「いいわよ」
内容も聞かずに頷いて、デレはふんわりと微笑んだ。
君はいつだって、無垢な笑顔で僕の望みを受け入れてくれる。
.
41
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:05:35 ID:bFlB4tFo0
ぐちゃりぐちゃり。
派手に水音を立てて、デレは僕を受け入れる。
突き上げるたびにどぷりと中身が溢れて流れ出す。
('A`) 「ああ、デレ」
('A`) 「気持ちいいよ」
ζ(゚ー゚*ζ 「う、あ」
大型家電量販店で選んだ、太さ19ミリのヘアアイロン。髪に使えば艶やかなカールヘアーが作れるであろうそのコテで彼女の膣を貫いた。
内側から強制的に溶かしてしとどに濡らしたその穴を今度は自身の怒涛で突き上げる。
粘度の高い余熱が僕の脳を溶かしていく。
('A`) 「すごく感じてくれて嬉しいよ」
突き上げるたびに、どろりとした彼女の一部が溢れ出す。
ぬちゃぬちゃとした粘度が僕を包み込む。熱が、湿り気が、僕の心を溶かしていく。
一度精を放っても昂ぶりは収まらず、無我夢中で腰を振り続けていた。
気づいたころには、水音や嬌声が止んでいた。中が冷えて固まりかけていたのだ。
('A`) 「冷めちゃったな」
ヘアアイロンの電源を入れる。ほんの僅か待つだけで、熱を帯びて緑色のランプが灯る。
僕は自身を引き抜いて、ひくつく孔にヘアアイロンを突き立てる。
ζ(゚ー゚*ζ 「う、あああああぁ」
身を震わせて彼女は叫んだ。高く上がった嬌声とともに、また彼女は溢れ出す。
細かく震えている彼女の濡れそぼった隙間に僕はただ愛を叩きつけるんだ。
.
42
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:06:19 ID:bFlB4tFo0
それからは僕らの愛の行為においてヘアアイロンが手放せなくなった。
性欲が高まると、僕は棚からヘアアイロンを取り出す。コンセントを差してスイッチを入れる。
赤色のランプが緑色のランプに変わるとそれは温まったサインだ。
同時にデレはおとなしく尻を差し出す。僕はアイロンを突き立てて彼女を濡らす。そしてセックスをする。冷めて乾いたらまた同じ行程を繰り返す。温めて、濡らして、挿入する。その繰り返しだった。
温かな粘度に触れると安心したし、より昂った。その分乾きと冷えを感じてしまうとあっさりと萎えるようになってしまった。熱こそが愛の温度で、粘り気は言葉よりも確かに快感を教えてくれると信じて疑わなかった。
冷めたら温め直せばいい。
熱を与えるとデレの感度は確実に上がった。身を震わせて叫ぶ彼女の声が堪らなく高めてくれた。
そのうちそれすらも面倒になってしまった。
最中は勿論気持ちいいし、定期的に波のような性欲が僕を襲う。でもヘアアイロンを温めるのも面倒だし、後片付けはもっと面倒だった。デレに隠れて自慰で済ませるようになった。狭い六畳間には隠れる場所などないから、浴室で手早く処理をしていた。
.
43
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:06:53 ID:bFlB4tFo0
───
─
抱いてほしい、と彼女が請うてきたのはそれから暫く経った頃だった。
夕飯を共に食べ、穏やかに団欒を済ませ、そして二人並んで食事の後片付けをする。
僕が皿を洗っている間に、デレは明日の朝食の準備をしていた。時々手が触れあって、そのたびに微笑みを交わした。
こんな日々が続けばいい。肉体関係がなくたって、僕らは以前よりも仲が良いし、一緒にいて居心地がいい。心からそう思っていた。
しっかりと温まった身体で浴室から出ると、下着姿のデレが真剣な顔で立っていた。
そうして彼女は請うたのだ。抱いてほしい、と。
ζ(゚ー゚*ζ 「どっくん」
('A`) 「ん?」
初めて買ってあげた下着姿で、頬を赤らめて僕にねだってきた彼女の足の間は酷く濡れていた。
濡れそぼった下着からデレの一部がしたたり、床に落ちるほどに。
彼女の右手にはヘアアイロンが握られていた。
('A`) 「いいよ、しようか」
目の前に四つん這いになって、手で穴を広げて腰を揺らして誘う彼女に僕は重なる。
熱い裂孔を抉りながら僕はひとつの結論にたどり着いていた。
こんな形はもう、終わらせなければならない、と。
.
44
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:07:53 ID:bFlB4tFo0
僕の気持ちとは裏腹に、日に日にデレの誘惑はヒートアップしていった。
いつの間に手に入れたのだろう。下着の面積が小さくなっていったり、反対にフリルやレースが増えていったり。
ある時にはつやつやした合皮のボンテージ姿で、あまりにもぎこちなく僕を罵るものだから、興奮よりも先に大笑いしてしまった。
ζ(゚ー゚*ζ 「こういうのは好きじゃなかった?」
('A`) 「嫌いじゃないけど、ちょっと、似合わな過ぎて」
ζ(゚ー゚*ζ 「そんなぁ。練習したのに」
僕が隠していた少しハードなAVを見ていたらしい。涙ぐましい努力を重ねていたデレが愛おしく、思わず抱きしめる。
('A`) 「かわいいな」
ζ(゚ー゚*ζ 「そういう反応が欲しかったんじゃないのにぃ」
ぷくり、と。頬を膨らませて可愛らしく怒るデレの右手には、太い蝋燭が握られていた。
そう、どんなコスプレをするときにも、彼女は必ず熱源を用意するようになっていた。
自身の身体のあちこちを温め、柔らかく溶かしながら執拗に性行為を求めてくるのだ。
まるで己の存在価値を確かめるかのように。
柔らかく蕩ける身体を抱くのは楽しくはあった。
しかし交わりを求められれば求められるほど、飽き飽きとしてくる。
それはもう愛の行為ではなくノルマであり、義務であり、退屈そのものであった。
.
45
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:08:50 ID:bFlB4tFo0
その日もいつもと同じように、義務のような射精を終えて僕は天井を眺めていた。
脱力しきって僕に身をゆだねるデレの手を取る。
白くて滑らかな手の甲にそっと口づける。
ζ(゚ー゚*ζ 「……えへへ」
('A`) 「前はこんなことするだけでも溶けてたよな」
ζ(゚ー゚*ζ 「あの頃はまだ身体も不安定で溶けやすかったのよ」
('A`) 「……ふうん」
確かに不安定ではあったが、それ以上にときめきが興奮がそうさせていたのではないか。
倦怠期はどのカップルにもあるんだろう、きっと。
誰だって経験する辛さだからって、誰でも乗り越えられるわけじゃあない。
乾ききった手の甲に、あたたかな吐息を吹きかける。
ζ(゚ー゚*ζ 「なによぅ」
('A`) 「デレ」
('A`) 「愛してるよ」
ζ(゚、゜*ζ
しばし、目を丸くして。
それからふにゃりと、目元を下げて彼女ははにかんだ笑顔を浮かべた。
ζ(゚ー゚*ζ 「私も」
ζ(゚ー゚*ζ 「あなたのことが、だいすきよ」
君は必ずそう言ってくれる。
でも相変わらず手の甲も頬も唇も乾いたままで、身体は言葉よりずっと正直に真実を伝えてくれていた。
.
46
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:09:31 ID:bFlB4tFo0
彼女の内腿の間にそっと手を差し入れる。
そこは先程の熱が嘘のように冷たく、残酷に乾いたまま僕を受け入れてくれる。
ζ(゚ー゚*ζ 「えっちぃ」
('A`) 「ははは」
('A`) 「デレ、君を」
('A`) 「君を溶かしたい」
ζ(゚ー゚*ζ 「いいよ」
('A`) 「僕の指ではもう、君を溶かせないから」
ζ(゚ー゚*ζ 「そんなことないよ」
('A`) 「骨の髄まで君を溶かしたい」
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ 「ええ、いいわよ」
彼女は当たり前のように頷いた。いつものように、僕の願いを受け入れる。
.
47
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:10:31 ID:bFlB4tFo0
カチカチカチ。
ほんの一瞬火花が散ったのちに、青い炎がぐるりと円を描く。
三徳包丁の刃先をガスコンロで炙る。
刃が熱を帯びていく様を僕はただ見ている。
ζ(゚ー゚*ζ
デレは笑っていた。
能天気で朗らかな微笑みを浮かべて寝そべっている。
('A`) 「どうして」
('A`) 「どうして笑っていられるんだ」
君は今損なわれそうとしているのに。
ζ(゚ー゚*ζ 「それがあなたの望みなら」
君はいつも僕の望みを叶えてくれた。
僕の望みをかなえるのが自分自身の望みなのだと彼女自身が信じて疑わなかったのだ。
ζ(゚ー゚*ζ 「柔らかく溶けて、あなた好みになれたらどんなに幸せなことでしょう!」
.
48
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:11:18 ID:bFlB4tFo0
大きな物を小さくするとき、人はどこから解体するのだろう。
腕を付け根から落とそうと包丁を脇に差し込んで、すこし考えて止める。
('A`) 「デレ」
('A`) 「君が好きだよ」
左手の薬指、その繊細で華奢な指先を掴んで、指の根元に包丁を押し当てる。
あまりにも抵抗なくあっさりと刃が入り、火にかけている鍋の底にぼとりと指が落ちた。
ζ(゚ー゚*ζ 「私も」
指が損なわれた断面からは乳白色の液体がどろりと零れる。
ζ(゚ー゚*ζ 「私もあなたが大好きよ」
言葉とともに、さらに溢れる。
デレの中身が零れ落ちていく。
その湿り気に僕はどうしようもなく興奮してしまう。
ぐちり。
先程まで指が生えていた断面に、僕は自分の指を差し込んだ。
ねちゃねちゃと粘度の高い熱が僕の指を包み込む。
深く差し込めば適度な弾力で締め付けて、引き抜けば大量の液体が溢れてくる。
.
49
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:12:10 ID:bFlB4tFo0
どぷり、と鍋に液体が落ちる。
ふと我に返り指を抜く。
ぽっかりと空洞が開いた指の付け根が、物足りなさそうにひくついていた。
('A`) 「もしかしてだけど」
('A`) 「気持ちいい?」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん、痛いけど」
('A`) 「それはよかった」
それはよかった。
君の快も不快も痛みも全て僕のものになればいい。
('A`) 「もっと君を感じたい」
('A`) 「デレの中に入りたい」
ζ(゚ー゚*ζ 「うん、いいよ」
ぐちゃり、ぐちゃり。
('A`) 「君はいつも、僕の願いを叶えてくれるね」
彼女は溶けていく。
('A`) 「君は、君自身はどうしたいの」
('A`) 「君の願いは」
ζ(゚ー゚*ζ 「私の願いは、あなたの理想であることだよ」
('A`) 「僕の理想はさ」
('A`) 「僕の言う事なんてひとっつも聞いてくれない我儘な女の子なんだ」
('A`) 「気ままに我儘に僕を振り回してくれる、そんな子が」
ζ(゚ー゚*ζ
ζ(゚ー゚*ζ 「でもあなた」
ζ(゚ー゚*ζ 「
彼女は何かを言いかけていた。その言葉は僕に届く前に、鍋の中に溶けて消える。
.
50
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:13:15 ID:bFlB4tFo0
('A`) 「なあ、デレ」
('A`) 「僕の声は聞こえてるか」
('A`) 「……気持ちいいかい」
('A`) 「今君は幸せか?」
かたちが失われたことを確認して、コンロの火を止める。
頭よりも胴体の方が溶けづらく、最後まで残ってしまった。
粘度の高い、どろりと固まる液体の中でいつまでもへその窪みが溶け切らずに残っていた。
人の中心は心臓でも脳でもなくへそなのだろうか。
へその中心の空洞が消え去るまで、僕はただじっと鍋を見つめる。
気づけば乳白色の液体が鍋いっぱいに満ちている。
ほのかなぬくもりを湛えて、微かに湯気を立てて、ただ静かに渦巻いている。
なあデレ、君は今どんなかたちにもなることが出来る。
君はこの姿が一番幸せなのではないか
形がなければ、理想との差異にもがき苦しむことはないんだ。
だって君はなんにでもなれる。
.
51
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:14:33 ID:bFlB4tFo0
連絡もせずに突然現れた僕のことを、友人内藤は快く迎えてくれた。
( ^ω^) 「来たかお」
('A`) 「どういう意味だ」
( ^ω^) 「いや、ドックンならもう少し長く楽しむかと思っていたんだお」
('A`) 「お前は」
( ^ω^) 「おっ?」
('A`) 「お前は、その……どのくらいで手放したんだ」
( ^ω^) 「僕はツンと3年過ごしたお」
('A`) 「ああ、元カノの」
( ^ω^) 「気づかなかったお?」
('A`) 「気づくわけないだろ」
('A`) 「お前、三年付き合った彼女を溶かしたのか」
( ^ω^) 「溶かした?」
彼は目を丸くする。
( ^ω^) 「まさか。ツンは自ら溶けたんだお」
('A`) 「自分からって、そんな」
( ^ω^) 「ドックンは、自分の手で溶かしたのかお」
('A`) 「……」
( ^ω^) 「いいおいいお、何も言わなくて」
カップルにはそれぞれ事情があるから。ぽつりと、寂し気に内藤は呟いた。
内藤の以前の恋人のツンには何度か会ったことがある。当時は彼女が人であると信じて疑わなかったが。
小さな諍いを繰り返しながらも仲睦まじく寄り添う姿にかつては嫉妬したものだ。
.
52
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:15:23 ID:bFlB4tFo0
自らを溶かすまでに追い込まれたツン。手足を?がれても笑顔で愛を語り続けていたデレ。
彼女らは何故、そこまで献身的に盲目的に愛に生きるのか。
黙りこくった僕に向けて内藤は言葉を続ける。
( ^ω^) 「誰かに譲るのが一番だお、処分するのは大変なんだお」
( ^ω^) 「彼女らは、誰かの彼女でいる間は安定しているから」
('A`) 「なあ、ひとつ聞いてもいいか」
( ^ω^) 「なんだお」
('A`) 「お前、あれをどこで手に入れたんだ」
にい、と友は笑う。
( ^ω^) 「どっくんと同じだお」
( ^ω^) 「突然、友達から貰い受けたんだお」
('A`) 「……」
( ^ω^) 「型の送り状の住所に行けば、何か分かるかもしれないお」
( ^ω^) 「行くかお?」
('A`) 「ああ、確かに」
彼女らを生み出し、永遠の美しさを保つゆりかご。ウェブ上で注文すればすぐに届く、あの型の送り先。確かにそこに行けば、何かしらの手がかりは得られるかもしれない。
揺らぎない微笑みを崩さない内藤の顔を見て、それ以上考えるのを止める。
おそらく彼も何度もそう考え、そして行動に移さずに今に至るのであろう。その気持ちが痛いほどに分かる。
('A`) 「いや、やっぱりやめとくよ」
いつでも手に入れる手段を得てしまうことが恐ろしく、唯一の手がかりの糸から手を放す。
夢は夢のままでいい。手に入らないから綺麗なのだ。
('A`) 「なあ、彼女欲しいって、言ってたよな」
炊き出しでしか見かけないような大きな鍋を抱えて、僕はとある友の家の扉をノックする。
扉が開き、僕はかつて彼女だったものを差し出すんだ。
.
53
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:16:44 ID:bFlB4tFo0
('A`) 「じゃ、もう帰るよ」
狐につままれたかのような顔をして型を眺める友人に別れを告げる。
(,,^Д^) 「え、これ、あとはどうすればいいんだ?」
('A`) 「一晩冷やし固めればいいんだ」
(,,^Д^) 「その後は?」
('A`) 「きっと彼女が教えてくれる」
(,,^Д^) 「はー?」
なみなみと注がれた乳白色の液体を前に呆然と立ちすくむ友。
かつて僕だけの彼女の姿を成していたその液体がこれから彼好みの姿へと生まれ変わる。
一晩かけて冷やし固められて、彼の理想の女神となる。
自分自身が望んだこととはいえ、生まれ変わったあとの姿など見たくはなかった。
彼女が思い出になる前に、別の姿で上書きされることだけは回避したかった。
静かに玄関に戻り、靴を履く。
左足の爪先で床を叩いた瞬間に、いつの日か見送った内藤の背中を思い出した。
('A`) 「ああ、そうだ」
これだけは伝えねばならない。
足を止めて振り返ると、友は怪訝な顔で言葉の続きを待っていた。
('A`) 「必ず、型に入れて寝かせるんだぞ」
そう、それだけ守れば。
毎晩必ず型に戻せば、彼女は毎朝再生するのだ。
美しさも尊さも損なわれることなく。
('A`) 「それだけ守れば、永遠に彼女は理想の彼女のままだ」
永遠に。それを君が望もうが望むまいが。
.
54
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:18:31 ID:bFlB4tFo0
―
―――
―――――
('A`) 「ただいま」
ひとりきりの部屋に僕は呼びかける。
虚しくこだまする声に一抹の寂しさと、そしてほんの少しの安堵を覚えた。
彼女の定位置だった部屋の角にももちろん彼女はいない。シリコンでできた彼女の型だけがそこにはあった。
彼女は既に失われていて、そしてもう戻ることはないのだ。
主を失った型のみが僕の手元に残る。
僕が選んだ理想の形。
恋人にはこうであってほしい、これなら愛せると選んだ、理想の姿かたち。
抜け殻のようにただ静かに鎮座する薄桃色のシリコン型のその内側をなぞる。
恋人の内腿に指を添わせるかのようにそっと優しく撫でてみる。
彼女が僕の理想に近づけば近づくほど、理想の愛からはかけ離れていった。
彼女の笑顔に思いを馳せる。
もう二度と出会うことはないだろう。絵に描いたように完璧に美しく優しく献身的で穏やかな、理想的な女性とは。
夢のような日々は溶けるように消えていった。
甘い夜は過ぎ去り、またひとつ、白々しい朝を迎える。
理想の彼女には、まだ出会えずにいる。
理想の彼女をつくるようです end
55
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 00:42:24 ID:KSmTqTL20
刺さりすぎて死にそう乙
もうなんなの、なんなの、好き
56
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 08:20:43 ID:bFlB4tFo0
>>52
一行目
手足をもがれても笑顔で愛を語り続けていたデレ。
に脳内変換お願いします。なぜ化けた。
57
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 11:32:39 ID:VTmubLjY0
乙乙乙乙
58
:
名無しさん
:2022/05/05(木) 13:41:51 ID:CFBL11ck0
美しい
乙
59
:
名無しさん
:2022/05/06(金) 00:59:11 ID:AYZnD5gM0
>>54
イメージで支援曲つくった
https://piapro.jp/t/MiDV
ついでに
>>54
読み上げも作ったのでお収めください
https://twitter.com/JihouMegane/status/1522244182374760450
60
:
名無しさん
:2022/05/06(金) 13:07:36 ID:acMwMxvI0
ものすごくよかった…
乙
61
:
名無しさん
:2022/05/06(金) 21:12:02 ID:2rQ51Dfc0
しっとりした文体がいいなぁ
短編ドラマみたい
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