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夜は眠って朝が来るようです
211
:
名無しさん
:2022/07/17(日) 01:10:29 ID:Z0lTOZeo0
最初にふわふわした気持ちになった時のことを思い出す。嬉しいとか、楽しい気持ちが強かった。強かった、のに。何で今はこんなに……。
o川*゚ー゚)o「……」
『キュートさんは、辛くないですか』
o川;*゚ー゚)o「えっ?」
おはよう屋さんの声が、さっきまでと違くなった気がした。
聞かれた内容が一回で理解できなくて、もう一度頭の中で繰り返してみる。
辛い?辛いって、何が?
『好きな人に順位をつけられて』
なんとなくだけどおはよう屋さんが言いたいこと、わかった気がする。
でも他の人にはわからない事なのかも。1番になることが大事だっていっぱい言われてきたあたしが、1番が欲しいって思う気持ち。
o川*゚ー゚)o「……辛くは、ないよ。順位がなかったらあたし1番になれないもん」
『…1番になったらどうするんですか?』
o川*゚ー゚)o「え……」
1番に、なったら。
わかんない、だって1番になったことないもん。
1番になることだけ頑張ったらいいんだって思ってた。……違うの?
.
212
:
名無しさん
:2022/07/17(日) 01:11:17 ID:Z0lTOZeo0
『1番になった後、彼氏さんは他の女の子と別れるんでしょうか。今1番の人がいても6人彼女がいるわけですから、……。そしたら次は他の子たちに1番の座を取られないよう頑張らなきゃいけなくなりませんか』
o川*゚ー゚)o「そん、なそんなこと……」
『……私の、…知り合いに2番でいいって言ってた人がいました。お付き合いしてる人に他の方がいて、自分は2番でもいい、一緒にいられるならって』
『でも、段々1番になりたい気持ちが大きくなって、1番の人を蹴落とそうと頑張って、辛そうだった……キュートさんは、キュートさんにはそんな風になって欲しくない、です…』
o川*゚ー゚)o「わ…」
o川*゚ー゚)o「わか んない、よ…あたしバカだからそんな難しい話…」
考えたことなかった。
考えなかった?
1番になりたかったくせに、1番になったあとのこと。
『…ごめんなさいキュートさんの気持ち考えずに喋ってしまって…でも……ごめんなさい、もう一つだけ言わせてください』
o川*゚ー゚)o「…なぁに?」
『キュートさんは、馬鹿なんかじゃ決してないです。…会った事はないけど 人の心配が出来て、わからないことはわからないと言えて、いつも明るくて優しい、素敵な女性です。馬鹿なんて、言わないで…』
o川*゚ー゚)o「……………」
o川- -)o「…また明日ね」
『……はい、また 明日』
.
213
:
名無しさん
:2022/07/17(日) 01:12:28 ID:Z0lTOZeo0
電話を切って、そのままベッドに倒れ込む。
胸とお腹がキリキリ痛い。
o川*゚ー゚)o「……」
あんな事言われたのは初めてだった。
1番になれる、それだけしか頭になくて。
友達にはバラすなって言われて、あたしもどこかで「誰かに言ったらまたバカにされちゃうかな」って思って言わなかった。
おはよう屋さんには言えたの。おはよう屋さんはバカになんてしない気がしたから。
その通りバカになんてしなかった。
でも最初に泣いてた時のとは違う、悲しい声してた。
おはよう屋さんには関係ないじゃん。あたしが辛かったとしても。
(優しいですね)
(素敵な女性です。馬鹿なんて言わないで)
おはよう屋さんに言われた言葉が、なんだかすごい宝物みたいな気がして胸の辺りにズシンとのしかかっている。
o川*゚ー゚)o「………あたし本当に素敵なのかな」
o川*;-;)o「……なりたい、な……素敵な人に」
何も考えられなくて、ただただ寝そべって天井を見つめた。
.
214
:
名無しさん
:2022/07/17(日) 01:13:53 ID:Z0lTOZeo0
本日の投下は以上です。
時の流れが早すぎて怖いです。
感想ありがとうございます、ありがたいです。
おやすみなさい。
.
215
:
名無しさん
:2022/07/17(日) 06:01:42 ID:wp2S29Yc0
乙です
216
:
名無しさん
:2022/07/17(日) 06:55:20 ID:u1kkk1zs0
乙です
217
:
名無しさん
:2022/07/17(日) 12:33:39 ID:E4jfC1EQ0
乙
キュート…
218
:
名無しさん
:2022/07/18(月) 10:28:44 ID:5RlivLAk0
乙
おはよう屋さんの言葉選びがほんと良かった
219
:
名無しさん
:2022/08/04(木) 23:39:32 ID:TZdvma.U0
乙乙!
話が進むごとに、夜明けの青白さから少しずつ陽の光が混じっていく雰囲気が好きです。
220
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:19:56 ID:u.2VZEas0
7:00③
.
221
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:20:36 ID:u.2VZEas0
──気が く る いそ う──
(=゚ω゚)ノ「……」
着信音が鳴っている。
何で、この曲にしたんだっけ。
多分、好きな曲だったからだ。
そんなことすら忘れてしまっている。
今はむしろ好きな曲にしなければよかったと思う。
この曲が流れるたび、ああもう会社に行かないといけない時間なんだと身体が重くてしんどくて、お腹が痛くなってしまう。
(=゚ω゚)ノ「…出なきゃ」
電話に出なきゃいけない気持ちが強いのか、着信音を止めたい気持ちが強いのか、それだってもう、わからなかった。
222
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:21:04 ID:u.2VZEas0
(=゚ω゚)ノ「おはようだよぅ、おはよう屋さん」
『おはようございます、いようさん』
(=゚ω゚)ノ「今日は…てて、ごめん口切ってるから喋りにくくて、聞き取りづらいかもだよぅ」
『どうか、されたんですか?』
(=゚ω゚)ノ「……ふふ。昨日、上司に殴られちゃった」
何も面白いことはないのに、思わず笑ってしまいそうになる。
自分でも感情がよくわかっていない。ピリピリと痛む口の端を親指で触る。
親にも殴られたことないのに?あはは、何も面白くない。
223
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:21:35 ID:u.2VZEas0
(=゚ω゚)ノ「おはよう屋さんはさ、言わなきゃよかったなぁって思うこと、ある?」
開けてないカーテンの隙間から漏れる光が天井に形を作っている。
僕はそれを見つめながら、独り言を吐き出す気持ちで話した。
『ついさっき、ありました』
(=゚ω゚)ノ「おはよう屋さんにもあるんだね、前のお客さんかな?あのね、僕はね、毎日、毎時間思ってるよぅ」
(=゚ω゚)ノ「挨拶をしたら、良い日は無視で、良くない日は舌打ちで、悪い日は怒鳴られる。電話をかけて、切ったら馬鹿にされる。聞かれたことに答えたら、人格から否定される」
(=゚ω゚)ノ「それが続くとね、何にも話せなくなるんだよぅ。でも話さないとそれはそれで怒られるから、話そうとするでしょう。そうするとね、身体が震えるんだよう」
(=゚ω゚)ノ「手が冷たくなるのがわかるんだ。それで、熱いのか寒いのかわからないようなじっとりとした汗をかいて、お腹と頭が痛くなる」
(=゚ω゚)ノ「何か喋るたびに言わなきゃ良かったなぁって思ってるよう」
224
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:22:07 ID:u.2VZEas0
止まらなかった。誰かに聞いて欲しかったのかな。わからない。
誰も僕の話なんて聞いてないし、僕にそんな価値はない。
笑われる。指をさされてヒソヒソクスクス。わざと他の人がいる所で大きな声で怒られる。怒られてる内容は僕の人生について、親について、会社がいくら僕に金を出していて、それがどれだけ無駄で、僕はどれくらい上司や同僚や会社に迷惑をかけているのかってことを、こんこんと。
恥ずかしいなんて気持ちはとっくに無いに等しいけど、息がうまく出来なくなって、視界の端っこが暗くなる。重たいものを上に置かれてるみたいに頭を下げて聴くのは辛い。
辛いんだ。
誰かが助けてくれるわけはない。誰も僕みたいになりたくないし、僕も僕じゃなかったら僕を助けたりはしないと思う。
価値がない。だから仕方ない。
頑張るしかない。頑張らなきゃいけない。
それしか、できないから。
他の部署の人たちは楽しそうに話しながら仕事をしていて、電車内で見た他所の会社の人達は今日キツかったななんて励まし合ってて。
なんて羨ましいんだろうと、全く知らない世界を見るような目で見てしまった。
僕は、何かすれば話せばそこにいれば、嫌なことがあるオフィスしか知らないのだ。
225
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:22:36 ID:u.2VZEas0
(=゚ω゚)ノ「昨日は占い、1位だったのに、会社についた瞬間に上司に怒鳴られた。僕がやってないことを僕がやったって怒鳴って、僕の人生を否定して僕が傷付いてるのを見て楽しんでた。僕はやってないって説明したら、言い訳するなって殴られた」
(=゚ω゚)ノ「…今日は占い12位だった」
(=゚ω゚)ノ「行きたく、ないなぁ会社」
(=゚ω゚)ノ「行きたくない…1位であれだよ、12位なんて、さ…」
(=゚ω゚)ノ「僕は何にも出来ないゴミ屑で、いさせてもらってる身分だから、会社を辞めるなんてとんでもないんだけど」
(=⊃ω;)ノ
(=; ω;)ノ「怖いよぅ、怖い、また殴られるんじゃないかって笑われるんじゃないかって、思い出す度に胸が苦しくなるんだよぅ…痛いことより人に馬鹿にされる方がきつい」
(=⊃ω;)ノ「嫌だ、嫌だなぁ行きたくない、行きたくない……駄目だ、駄目なんだよぅそれじゃ……社会人失格だ…」
226
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:23:38 ID:u.2VZEas0
(=; ω;)ノ「お願いだよぅ、おはよう屋さん。言ってほしいんだよぅ、誰かに押してもらわないと、僕はもう…」
『……いようさん………ごめんなさい、ごめんなさい…』
(=⊃ω;)ノ「おはよう屋さん…どうしたの」
『が、…頑張らないでください……頑張らないで、お願いだからもう』
(=; ω;)ノ「……注文と違うよぅおはよう屋さん、僕はあなたに背中を押して欲しいんだよぅ」
『頑張らなくて、いいです』
(=; ω;)ノ「やめてよぅ…」
『だってもう、たくさん頑張ったじゃないですか…いようさんずっとずっと頑張って頑張って、もう、頑張れないとこまできてるじゃないですか…』
(=; ω;)ノ「あ、あんたに何がわかるんだよぅ…会ったこともないじゃないかよぅ!」
『わかり、ます』
『絶対退職届を出す方が良いのに、死んだ方が早くて楽だと思ってしまう』
『何もかも全部が嫌だから、逃げたくて、楽になりたくて、そっちのことばかり考えてしまう』
『わかるんです、わかります、だってそれは少し前の私だ』
『お願いだから、それ以上頑張らないで……』
(=; ω;)ノ「そ、それでも僕、僕は、頑張らないと…」
227
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:24:42 ID:u.2VZEas0
『そ、そんなに頑張りたいのなら!「うるさいヒポポタマス!」って言うの頑張れば良いんです!』
.
228
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:25:30 ID:u.2VZEas0
(=; ω;)ノ「……」
『………』
ほんの少し沈黙が続いた。いつのまにか溢れ出ていた涙がスッと引いた。
おはよう屋さんの息を飲む音が聞こえる。
『…すみ、すみません、あの、違うんです、ちょっと頭に血が昇ってしまって…』
(=゚ω゚)ノ「……」
(=゚ω゚)ノ「…ふ」
(=゚ω゚)ノ「は、何…ピポなんだよぅ?」
『ヒポポタマス…じゃなくて、ごめんなさい、あの…喧嘩の必勝法だって教えてもらって…』
(=゚ω゚)ノ「ふっふ…はは、あはは」
(=゚ω゚)ノ「そん、そんなこと、言えたら、言わなきゃ良かったなんてむしろ後悔しないくらい、清々しいかもだよぅ」
(=゚ω゚)ノ「……はは、頑張りたいなら、か……」
『あの、いようさん、言い過ぎてごめんなさい…でも、でも…』
おはよう屋さんはこれでもかってくらい申し訳なさそうな声だった。さっきの勢いとのギャップに、つい口の端が上がって滲みた。
(=゚ω゚)ノ「うん……うん、少し頭冷えたよぅ、ありがとうおはよう屋さん。ちょっと色々考えたい、や」
『………はい』
229
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:26:15 ID:u.2VZEas0
じゃあ、またね。
そんな言葉を自分から言うくらいには身体に体温が戻っていた。
さっきまでの嫌な気持ちが晴れたような、頭の靄が消えたような。
切ったスマホを置く。
(=゚ω゚)ノ「久しぶりに本当に笑ったよぅ」
(=゚ω゚)ノ「どうせ頑張るなら……」
何だっけ、ヒポポ…って何だっけ。
そんなことを上司に言う?ふざけてる。
でも、どうせ何を言ってもふざけんなって言われるんだよなぁ。
じゃあ、良いかな。良いんじゃないかな。
(=゚ω゚)ノ「あ」
(=゚ω゚)ノ「会社、行かなくていーかもう」
急に視界がクリアになった気がした。投げやりな気持ちではない。
社会人失格、カス、ゴミ屑、あとそれから、何だっけ。
230
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:26:51 ID:u.2VZEas0
頑張って、自分を殺して行っても自分はゴミ屑のカスの社会人失格なんだ。
じゃあ、良いさ。良いんだ。良いよ。
(頑張らないで)
(=゚ω゚)ノ「そっか」
(=゚ω゚)ノ「良いのか、そういうのも」
(=゚ω゚)ノ「気でも狂ったかって言われそうだよぅ。ああ、はは。気が狂いそう、か」
(=゚ω゚)ノ「気 がくる いそ、おー」
口に出して歌ってみる。怪我していることも気にしないで。
さっきまでとはもう、全く違う気持ちだった。
.
231
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:28:33 ID:u.2VZEas0
投下は以上になります。
本日はガンバレの日らしいです。
次の話は長くなりそうな為、間隔が空いてしまうかもしれません。
ありがとうございました、おやすみなさい。
232
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 21:56:25 ID:4HBqQuSc0
乙やで
233
:
名無しさん
:2022/08/11(木) 23:50:16 ID:BdFnbVUo0
otsu
234
:
名無しさん
:2022/08/12(金) 00:55:54 ID:WzmBDndA0
乙乙
235
:
名無しさん
:2022/08/12(金) 09:03:54 ID:yZUPGzX20
乙
236
:
名無しさん
:2022/08/13(土) 15:26:33 ID:pxqQ7KYE0
すき
237
:
名無しさん
:2022/08/15(月) 20:29:04 ID:0eMMGEWA0
めっちゃ好き
238
:
名無しさん
:2022/09/05(月) 22:31:39 ID:Hd8kWPf20
悲
239
:
名無しさん
:2022/12/02(金) 20:36:37 ID:s6lkiLv.0
舞ってる
240
:
名無しさん
:2022/12/07(水) 17:56:08 ID:31O7v6SQ0
一気読みしました
最高に好き
241
:
名無しさん
:2022/12/07(水) 23:51:11 ID:ZmoOlU5k0
>>240
シンプルにして最高の賛辞を見かけたので今度から真似します
242
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 22:58:38 ID:nET0qBS60
7:16
.
243
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 22:59:01 ID:nET0qBS60
川; ゚ -゚)「……」
私は何をしてるんだろう。
いようさんの注文を無視してしまった。
それどころか、余計なことを言った。
キュートさんにもそうだ。
言わなくていいことを言ってしまった。
モナーさんは電話に出てくれなかった。
何かあったのだろうか、それとも私が何かしてしまったのだろうか。
ペニサスさんは私を戦友だと言ってくれた。
でも、私がダメな人間だと知ったらガッカリするかもしれない。
ギコさんも、兄者さんも、お客様は皆良い人たちなのに、ちゃんとした人たちなのに、私はどうしてこんなにもダメなくせに余計なことを言ってしまったのだろう。
.
244
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 22:59:36 ID:nET0qBS60
──お前はいつもいつもいつも余計なことばかりだ
人に迷惑をかけて楽しいか?誰が尻拭いしてると思ってる大体お前みたいな人間は存在してるだけで迷惑なのにここ以外行ける場所なんてないんだよ役立たずのカス
川; ゚ -゚)
───アンタの
アンタのせいアンタが
絶対許さない絶対絶対許さないから
川; ゚ -゚)「……」
川∩ ゚ -゚)「やめて」
川∩;- -)「ききたくない」
245
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:00:11 ID:nET0qBS60
もう嫌だもう嫌だもう嫌だ
ここは家なのに他に誰もいないのに行く場所なんて無いのに逃げ出したくてたまらない
逃げ出したい逃げ出したい
嫌だ、嫌だ逃げたい逃げたい逃げたい
川∩;- -)(……何から?)
お腹は空かない、何も食べる気になれない
眠れない、眠りたい、寝られない
私は、人間として生活出来てる?
川∩- -)(─── 疲れた)
疲れて、しまった
.
246
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:01:03 ID:nET0qBS60
川;-;)
川;-;)「っく、…ぅ…」
川;-;)「ぁ…ああ…っ、うぁあ…!」
涙が止まらなかった。
目が痛い。目頭が熱くて鼻もだらしなく流れた。両手で拭っても拭っても壊れたように涙が出る。
川;-;)「もう嫌だ…もう…」
沈む。沈んでいく。
溺れてしまいそうなくらい、涙が流れている。
誰の役にも立てない。私なんかが余計なことばかりしている。
せっかく弟者先生が任せてくれた『おはよう屋さん』でも。
そんな人間に朝が来るはずが、ないんだ。
"川∩ -⊂)"「っ…く、うう…」
川;-;)
:川∩-∩):
泣いて泣いて、ずうっと泣いた。
私は、
私には、私なんかに──
247
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:01:31 ID:nET0qBS60
.
248
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:02:20 ID:nET0qBS60
私が入社したのは大き過ぎず小さくもない、中小企業だった。
人数が少ない部署で、先輩は10以上歳が離れていた。1、2才上の人たちは皆辞めてしまったらしい。3年も我慢せずに辞めることは大罪で、非常識で迷惑な行為で恥ずべき事だから絶対にするなと毎日のように言われた。
最初にあれ?と思ったのはいつだったか。そう、多分1週間くらい経った頃だ。
定時で帰れなくなった。要領が悪いとか、そういうことでは、ない筈。
定時の少し前に大量の仕事を渡される。
急に入った仕事ではなく、朝からあった仕事をもうすぐ終わるという時間に渡され、明日やりますだなんて言えないような状況で取り掛かる。
幸いなのか、私には遅い帰宅になっても心配するような人がいなかった。それでも段々と帰る時間が遅くなり、遂には終電も間に合わなくなった。
タクシーで帰る余裕なんてない。
ヘトヘトになりながら家に帰って、気絶するように寝て、すぐ起きて会社に行って、そんな日が続いていたのに、初任給に残業代はいくらもついていなかった。
いつも定時間際に仕事を渡す上司は「新人なんだから残業代なんか付くわけない」と言った。そんなものなのだろうか。疲れていた私はきちんと調べなかった。調べる暇がなかった。
249
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:03:01 ID:nET0qBS60
( `ー´)「昼飯食いにいくか!」
(’e’)「わー!もちろん課長の奢りですよね?」
リ´-´ル「きゃー!新しく出来たお店行きましょう!」
(゚A゚* )「めっちゃ楽しみ!」
( `ー´)「おいおい誰が奢りだよw調子乗んなw」
(’e’)「へへっさーせんw」
うちの部署で一番偉いのは根野課長だ。部下とよく食事に行ったり悩みを聞いて業務の円滑を図っている。
川 ゚ -゚)「……」
( `ー´)「おい素直」
川; ゚ -゚)「は、はい」
( `ー´)「お前は電話番な」
川; ゚ -゚)「…はい」
リ´-´ル「プ」
(’e’)「おいw笑うなよw」
(゚A゚* )「めっちゃ聞こえるw」
リ´-´ル「だぁってw」
( `ー´)「おら、行くぞ〜」
……私を除いての話。
昼はみんなで外食に行く。
新人は電話番をする。電話番は大事だ。だから、私だけが呼ばれないランチ会が毎日あっても仕方がない。気にしないようにしていた。そういうものなんだと。
250
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:03:35 ID:nET0qBS60
从´ヮ`从ト「素直っち!」
川 ゚ -゚)「あ、お、お疲れ」
5人ほどいた同期の1人が彼女だった。
他の同期に中々会わないのは部署が関わりないからだと思っていたが、いつの間にか辞めていたらしい。
彼女は別の部署だったが、よくうちの部署に顔を出しては話しかけてくれた。
最近は可愛らしいランチバックを抱えてわざわざ私のデスクで一緒にお昼を食べている。
从´ヮ`从ト「素直っちの部署、忙しいんだってね」
川 ゚ -゚)「そう、なのかな」
私以外の人は残業をしていないので普通なのでは、と思う。
でも彼女は自信たっぷりにそう言うので何も言えなかった。私と違っていろんな社員と仲が良い彼女は沢山の情報を持っているので、誰かから何かを聞いたのかもしれない。
从´ヮ`从ト「根野課長ってさぁ、可愛いよねぇ」
川; ゚ -゚)「え?」
从´ヮ`从ト「うちの部署の上司はつまんない人なんだけど、根野課長は必ず挨拶してくれるしぃ〜素直っちは良いなぁあんな人が上司で!」
川; ゚ -゚)「う、うん…」
251
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:05:05 ID:nET0qBS60
他がどんな環境でどういう人達がいるのか知らなかったので、自分だけではなくどこでも不満はあって、他のところが良く見えるのだと思った。
ふいに、彼女のワイシャツから何かキラッと光った。思わず見てしまう。
从´ヮ`从ト「あ、気付いた?ネックレス!可愛いでしょ?」
川 ゚ -゚)「うん、可愛いね」
从´ヮ`*从ト「彼氏が買ってくれたの!も〜本当大好き!昨日もね、ネイル褒めてくれたんだあ」
川 ゚ -゚)「へえー」
彼女は付き合って2ヶ月ほどの彼氏がいるらしく、話題のほとんどがその相手についてだった。幸せそうに話す彼女を見るのは嫌いではなかった。キラキラとしていて私とは大違いだ。
从´ヮ`从ト「クーもさ、社会人なんだから身なり気をつけたら?ほら、爪をピカピカにみがくだけでもちがうとおもうよ」
川 ゚ -゚)「う、うん」
そういうものかと何も疑う事はなかった。確かにパステルカラーの彼女の爪は可愛らしい。自分の何も整っていない爪を見て、ほんの少し恥ずかしい気持ちになる。
川 ゚ -゚)(磨くだけなら……)
その日も残業だったがヘトヘトになりながらコンビニで爪磨きの用具を買って帰った。
風呂に浸かりながら磨く。出てからだときっと疲れて寝てしまうので。
川 ゚ -゚)「……」
川 ゚ー゚)「よし」
手をパーの状態にして突き出す。なるほど確かにツルツルになった爪は綺麗でじっと見てしまう。磨くだけでこれなのだから色やパーツが付いていたらもっと違うだろう。
川 ゚ー゚)「……ふふ」
のぼせてしまう前に風呂を出たが、身体を拭いてからも爪を見るたびに嬉しくなった。
誰も気付かないだろうが、明日の出社が少しだけ楽しみになった。
252
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:05:46 ID:nET0qBS60
川 ゚ -゚)「おはようございます…」
(’e’)「……」
リ´-´ル「…」
(゚A゚* )「…」
( `ー´)「素直、お前さぁ」
川; ゚ -゚)「はっ、はい」
いつも挨拶をしてもほとんど返って来ることはないのに、その日は名前を呼ばれた。低い声だった。
( `ー´)「何だその爪、ふざけてんのか」
川; ゚ -゚)「、え」
( `ー´)「爪だよ爪!」
( `ー´)「お前仕事もろくに出来ない癖にオシャレなんかしやがって」
川; ゚ -゚)「え、あ、あの」
リ´-´ル「プッ」
(゚A゚* )「クスクス」
(’e’)「やばw」
253
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:06:57 ID:nET0qBS60
頭が真っ白になった。言葉が出なくて、指先が震えた。後ろで笑われている声が聞こえて身体が動かなくなってしまった。逃げたい、隠れたい気持ちでいっぱいなのに。
( `ー´)「なぁ!こいつ調子乗ってるよな?」
(’e’)「マジうけるw」
リ´-´ル「えーどうしたの素直さん、そういう事する子だっけ?」
(゚A゚* )「オシャレしたい気持ちはさぁ…フッ、仕事一人前に出来るようになってからにしよ?」
川; ゚ -゚)「……す、…すみません…」
( `ー´)「親は教えてくれなかったのかねえ!」
川; ゚ -゚)
磨いただけ。他部署のあの子も先輩達も、キラキラしたネイルで、私のは磨いただけだった。でもダメだった。当たり前の事なんだ。恥ずかしい。
指先が冷たくなって顔を上げられなかった。耳にクスクス笑う声がこびり付いて、視線が痛い。
絆創膏でも貼って隠そうか。いやそれもきっとみっともないと言われるだろう。爪を隠すようにペンを持ったりした。
あんなに嬉しくなった爪だったのに。
川 ゚ -゚)(……なんだろう、な…)
川 ゚ -゚)(私が仕事出来ないからいけない…)
川 ゚ -゚)(………んだよ、ね…)
川 ゚ -゚)(私そんなに仕事出来てない…のかな…)
他の人の仕事を押し付けられていたのは、不出来だからだったのだろうか。
254
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:07:30 ID:nET0qBS60
从´ヮ`从ト「ねえっ素直っちってば!」
川; ゚ -゚)「え、あ、ご、ごめん」
从´ヮ`从ト「もー、何ボーっとしてんのぉ」
ぼうっとしてしまっていた。今日もまた部署の人たちは外にランチへ行った。
彼女の爪を見てまた気持ちが重くなる。
そうだ、彼女に話してみようか。爪、磨いたけど怒られちゃったって。案外慰めてくれるかもしれない、そんな事ないと言ってくれるかもしれない──
川; ゚ -゚)「きょ、今日さ…爪磨いてきたんだけど、課長に仕事出来ないのにオシャレするなって言われちゃった」
从´ヮ`从ト「えー?」
从´ヮ`从ト「根野課長が言ったんならそーなんでしょ。素直っちさぁオシャレしてる場合じゃなくない?」
川; ゚ -゚)「え」
从´ヮ`从ト「昨日もさぁ、素直っち残業したんでしょー?それで根野課長帰れなかったらしいじゃん。社会人としてどーなの?」
課長はいち早く帰宅したはずだ。奥さんが妊娠したとかで残業なんてやってられないからと大量の仕事を私に渡していった。他の人達もそそくさと課長に続いてタイムカードを切っていったので残業をしたのは私1人だった、いつも。
255
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:08:12 ID:nET0qBS60
川; ゚ -゚)「あの、課長は从´ヮ`从ト「ねっ、ていうか素直っちって親いないんでしょ?」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「何で知ってるの」
从´ヮ`从ト「うーわマジなんだ?事故で死んだって!」
ざわざわと全身の血が引いていく感覚がした。
何で目の前の人がそれを知っているのか、何でそれを嬉しそうに話しているのか何も分からなくて眩暈がする。
从´ヮ`从ト「素直っちのせいなんでしょ?」
ガツンと、何か重い物で殴られた、気がした。
川 ゚ -゚)「……、私が信号渡ろうとしたら飲酒運転の車が来て両親が助けてくれた」
从´ヮ`从ト「やっぱりー!マジの話だったんだ、絶対嘘だと思ってたぁ」
川 ゚ -゚)「ねえ、何で知ってるの?」
从´ヮ`从ト「ちょw素直っち顔怖〜い!みんな知ってるんじゃない?私も人に聞いただけだよぉ」
256
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:09:19 ID:nET0qBS60
個人面接の時にしつこく聞かれて話した。面接官は根野課長だった。本当に、みんな知っているのだろうか。
川; ゚ -゚)「…」
嫌だ。
両親のことで後ろ指差されるのはもう慣れてきているが、会社でさえそんな事されるのは嫌だった。
川 ゚ -゚)(別の話題…)
川 ゚ -゚)「……そう、いえば彼氏さん、元気?」
从´ヮ`从ト「ふふっ、話題逸らし露骨過ぎじゃない?もぉごめんって、この話はしないようにするねっ」
川 ゚ -゚)「…彼氏さんとはどうやって出会ったの?」
从´ヮ`从ト「え?wまじか。わざと?」
川 ゚ -゚)「……?」
从´ヮ`从ト「私さー…根野課長と付き合ってるんだあ」
耳を疑った。同じ名字の人、いたっけ?
いや『根野課長』は1人だけだ。私の上司の課長だ。
257
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:10:07 ID:nET0qBS60
川; ゚ -゚)「えっ?で、でも課長って奥さんいるよね?」
从´ヮ`从ト「そーだけど、関係なくない?アタシは2番目でいーんだ別に。だって彼が好きだし…」
川; ゚ -゚)「でも、不倫なんてやめなよ……」
从´ヮ`从ト「幸せだもん!」
川; ゚ -゚)「……」
从´ヮ`从ト「アタシめちゃくちゃ愛されてて幸せだから!」
お前如きがとやかく言うなと、言われた気がした。全部わかっててやっているのだからと。そうなんだとしか言えず、昼休憩の時間が終わったので彼女は帰って行った。
川 ゚ -゚)(あ、そうか……)
よくよく考えてみれば彼女は『根野課長』について言及する事が多かった。うちの部署について詳しかった。昼にわざわざうちの部署に来るのは、私というよりは課長の姿を追っていたからかもしれない。
川 ゚ -゚)(……本当に2番目で幸せ、なんだ…)
その後も普通に彼女は一緒に昼食を取り、その度に課長との話を私に聞かせた。私は何度か辞めた方がいいと言ったが、笑って流された。
課長の奥さんが出産されたと、部署で話しているのを聞いてどうしようもない気持ちになった。
258
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:11:09 ID:nET0qBS60
リ´-´ル「おめでとうございます〜」
(゚A゚* )「えー写真見せてくださいよ〜」
(’e’)「課長似じゃないっすか!」
( `ー´)「まぁな〜!もうめちゃくちゃ可愛いんだわこれが」
(’e’)「じゃあお祝いに飲みいきましょ!」
リ´-´ル「もーっあんたが飲みたいだけでしょー!」
(゚A゚* )「めっちゃうけるw」
( `ー´)「ま、祝い事だしな!行くか!素直!」
川; ゚ -゚)「え、あ、はいっ」
( `ー´)「これ、明日までに終わらせておけよ」
川; ゚ -゚)「……はい」
定時は過ぎていた。今日も帰るなということだろう。最近は夜中に会社の近くの漫画喫茶でシャワーを浴びて会社に帰る生活をしている。仕事がいつまでも終わらない。終わらないように、任されるから。
楽しいことなんてなかった。ただ一刻も早く仕事を終わらせたい、解放されたい。そればかり考えて、3年経てば辞めても良いんだと思っていた。
川 ゚ -゚)(なんか……何なんだろうな…私は…)
259
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:11:55 ID:nET0qBS60
从´ヮ`从ト「昨日課長にデートすっぽかされたマジ最低」
川 ゚ -゚)、「あ、ああ…」
昨日の様子を思い出す。課長は飲みに行ったが先約があったのか。
彼女は可愛らしい小指の爪を齧りながら舌打ちをした。
从´ヮ`从ト「マジでさぁ嫁と別れさせたいんだよね。課長、嫁のこと嫌いみたいだし見てて可哀想だもん」
从´ヮ`从ト「アタシの方が課長と相性イイしさぁ絶対1番になれるよ」
从´ヮ`从ト「素直っちがさぁ残業しなけりゃアタシ課長とデート出来るんだよー?もうちょっと頑張ってよ」
川 ゚ -゚)
260
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:12:42 ID:nET0qBS60
何を。
何を頑張れば良いのだろう。
まだ頑張りが足りていないのか。
私が頑張っても仕事は全部渡されるし、そもそも残業しているのは私1人だ。
川 ゚ -゚)(課長、彼女と会えない理由を私のせいにしてるんだ)
川 ゚ -゚)(それって、愛されてるの……こんなに1番になりたいくらい好きな相手なのに…?)
川 ゚ -゚)「も、」
川 ゚ -゚)「もう、やめたら…」
从´ヮ`从ト「は?」
彼女に睨まれても口は止まらなかった。
彼女がこのまま辛い思いをすることになるのなら、それよりはマシだと思ったからだ。
川; ゚ -゚)「か、課長のとこ、お子さん産まれたんでしょ…?それなのに不倫がバレたりしたら」
从´ヮ`从ト「なにそれ」
川; ゚ -゚)「え」
从´ヮ`从ト「なにそれなにそれなにそれなにそれ?」
261
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:13:42 ID:nET0qBS60
从´ヮ`从ト「何それ聞いてないだって課長子ども嫌いだからってアタシにピル飲ませてゴムだって絶対着けてたんだよ。え?何?嫁ともやってたってこと?レスだって言ってたくせに?嫁に生で入れたやつ入れられてたの?何で……えっ、何で?ねえ子ども産まれてんじゃんその間に何ヶ月あったと思ってんの何で早く教えてくれなかったの?」
川; ゚ -゚)「あ、の」
从´ヮ`从ト「ねえ!!何でだよ!」
川; ゚ -゚)「っ」
从´ヮ`从ト「ねえ何で?アタシが不幸になるの見たかったの?」
从´ヮ`从ト「アタシの幸せぶち壊しやがって」
川; ゚ -゚)「ご、ごめ……」
从´ヮ`从ト「絶対許さない」
从´ヮ`从ト「アンタのせい」
从´ヮ`从ト「アンタのせいで幸せになれなかった」
从´ヮ`从ト「絶対許さない絶対絶対許さないから」
.
262
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:14:48 ID:nET0qBS60
彼女はその日、早退したらしい。私は追いかけることも出来ずにただひたすらに積み上げられた書類を片付けて、日付を跨いでから会社を出た。タイムカードがなかったけどどのみち残業代なんてつかないのだから気にしない。それより酷く疲れていたから流石に家に帰りたかったのだ。
そのあと私は熱が出て休みを貰った。数時間寝たら下がった。
川 ゚ -゚)(……彼女は大丈夫、かな…)
ぼうっとした頭で考えた。今更ながら私は彼女の連絡先も知らない。
1日ぶりに出社する身体が重いのは病み上がりだからだろうか。このまま家にいれたらいいのに、なんて思考を投げ捨てて来た。入社2年目で有休を使うことは最低だと課長が言っていたから。
川; ゚ -゚)「お、おはようございます昨日はお休みして申し訳ありません…」
(゚A゚* )「うわ」
リ´-´ル「……」
(’e’)「やっば」
挨拶を返されないのはいつものことだけれど、この日は指をさされヒソヒソと話されていた。足が震えないよう、ぎゅっと制服を掴む。
263
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:15:32 ID:nET0qBS60
( `ー´)「……おい素直」
川; ゚ -゚)「は、い」
( `ー´)「お前…やってくれたなぁ」
川; ゚ -゚)「えと、お休みの件ですか…?」
(#`ー´)「労基にチクったことだよ!お前が勝手に残業してたくせに残業代も出ないブラックだって言ったらしいなぁ!?」
川; ゚ -゚)「…!?そん、なこと私、してな…」
労基にピンと来ず、何回も頭の中で反芻した。その意味がわかった瞬間、手や顔やあらゆる場所から血が引いていった。
(#`ー´)「お前はいつもいつもいつも余計なことばかりだなぁ、人に迷惑をかけて楽しいか?誰が尻拭いしてると思ってる大体お前みたいな人間は存在してるだけで迷惑なのにここ以外行ける場所なんてないんだよ役立たずのカス!」
川; ゚ -゚)「……、」
(#`ー´)「素直空だって名乗っておいて言い訳しやがって」
リ´-´ル「どーすんの?正式に残業禁止になったんだけど」
(゚A゚* )「これから繁忙期だし至急の仕事終わんないんだけど?」
(’e’)「……ッチ」
川; ゚ -゚)「……っ」
264
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:16:12 ID:nET0qBS60
彼女だった。証拠も何もないけれど、あの日あの後私のタイムカードなどを持って行ったんだ。何のためにこんなこと。
『許さない絶対絶対許さない』
川; ゚ -゚)(……私、私の、せいなの……?)
皆んなの視線が痛い。
心臓が耳のそばにあるかのように、だくんだくんとうるさくて仕方なかった。
どうしようどうしようどうすればどうすれば何で何で何で何で何で何で何で。
言葉が出せない。口がひどく重くて開かない。
何か、何か言わなきゃ。ずっとこのままだ。どうにかしなきゃ。
川; ゚ -゚)「、わ」
川; ゚ -゚)「私が残って終わらせ、ます」
( `ー´)「残業すんなって言われてるからよぉ、電気つけんなよ。あとエアコンも」
川; ゚ -゚)「は、い…」
リ´-´ル「プッ…パソコン付けていいのにエアコンつけるなとか…」
(゚A゚* )「めっちゃ鬼w」
(’e’)「じゃーあ俺たちはちゃんと会社の方針に従って定時に帰りましょーね!」
265
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:17:08 ID:nET0qBS60
地獄だった。
終わらない仕事を1人でずっとずっとずっとずっとやって。
暗い、春先といえども寒い部屋の中で悴む指でキーボードを叩く。
誰も助けてくれない。
当たり前だ、私みたいなやつ、私が悪いのだから。
川 ゚ -゚)「……何してるんだろう私」
川 ゚ -゚)「もう外、真っ暗だ」
川 ゚ -゚)「朝になったらみんなが出社してきちゃう」
川 ゚ -゚)「………朝なんて、来なきゃいいのに」
ずっと夜ならいい。惨めな顔を見られずに済む。
ずっと夜ならいい。怒鳴られないで、無視されないで、笑われないで済む。
川 、)「しにたい」
川 、)「うそ、うそです、ごめんなさい違います、お父さんとお母さんが守ってくれた命を無駄になんか」
川 、)「でもだめだもうなんで、わたしは、もう、いやだ、だめだ…なんか、もう……」
川 、)「つかれ、た…」
266
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:17:55 ID:nET0qBS60
仕事は8割しか終わっていなかったが、そのままにして家に帰った。どうやって帰ったかは覚えていない。線路を前にしちゃいけない気がして、なんとなく歩いて帰った気がする。倒れ込むようにベッドに顔を埋めると不思議なことに顔を離せなくなった。立ち上がれなくて、かと言って眠ることも出来ず、重たい頭で朝日が昇って来るのを見た。
会社に行かなきゃ。
そう思うのに身体が動かない。
立たなきゃ
着替えなきゃ
ちゃんと、しなきゃ
川; ゚ -゚)「……」
会社に電話をした。相手に姿は見えないのに土下座している気持ちで、吐きそうな気持ちで声を捻り出す。
川; 、)「会社、しばらく休ませてください」
『辞めます』と言えていれば何か変わったのかもしれない。それでも最初に言われた言葉が呪いのように髪を引っ張り私にそれを言わさないようにした。
『……チッ』
舌打ちとガチャ切りが耳に残ったので両手で塞いだ。そのまま座り込んで、静かに息を殺す。しばらくして目から涙が出ていることに気付いたが、何も出来なくてそのままにした。
数日、眠れなかった。
どうしようもなくなり病院を探した。
そうして私は、『おはよう屋さん』になったのだ。
267
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:19:09 ID:nET0qBS60
どうして
どうして
いつも余計なことをしてしまうんだろう
朝が来なければいい
そう言ったのは私だ
仕事が出来ない私に、私なんかに、朝は来ないんだ──
川;-;)「っくぁ、……ふ、」
川;c;)「ぅあ…ぁあああああ…ひっ、…うわぁぁああん……」
:川∩-∩):「いやだ、もう……ひっぐ、いや、だ……」
寒い、暗い、冷たい
ひとりだ、わたしは
助けて
助けて
誰か、助けて───
268
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:19:49 ID:nET0qBS60
──大丈夫、大丈夫モナ
.
269
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 23:20:32 ID:nET0qBS60
声が、聞こえた。
.
270
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 01:54:21 ID:UwMJ5o4Q0
乙
271
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 04:46:02 ID:mtKz489I0
乙
272
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:15:17 ID:ePFKj8co0
7:15
.
273
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:20:26 ID:ePFKj8co0
川÷-÷)
川÷ -÷)「ん…
川÷ -#)「目、痛……」
.
274
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:21:27 ID:ePFKj8co0
顔が硬かった。
目が開かない。
洗面台まで、壁伝いにどうにかして向かって、お湯で目の辺りを拭う。
川# -#)「は、はは…何だこのひどい顔…」
目の周りが赤く腫れていた。まつ毛にべったり目脂がついて固まっている。
カピカピになった髪の毛は頬に貼り付いて、笑えるくらいのひどい顔だ。
顔を念入りに洗う。なんとか目脂などは落とせた。
275
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:22:01 ID:ePFKj8co0
川 ゚ -゚)「……」
川; ゚ -゚)「ね……てた?」
川; ゚ -゚)「そうだ、泣き疲れて……眠れた!!」
泥のようにとはよく言うが、屍のように眠っていたようだった。
どれくらい眠れたのだろう、頭が軽いような、フラッとしているような…
川 ゚ -゚)「え?」
スマホを見てみる。
着信数が何件かあることよりも──日にちと時間が気になった。
川 ゚ -゚)「………あれ?1日、経ってない…?」
川 ゚ -゚)「7時?7時って朝と夜どっちの…」
川; ゚ -゚)「………朝!!」
7時16分。誰の時間にも間に合わない。
何件かきていた着信はみんなからだ。いつもの時間に電話が来なかったからかけてきてくれたのだろう。
川; ゚ -゚)「どど、どうしよう…!とりあえず電話!」
276
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:22:37 ID:ePFKj8co0
手が震えて上手く画面をタッチ出来ない。
とりあえず1番早い時間の兄者さんにかけなきゃ。
川; ゚ -゚)(どうしようどうしよう。みんなを起こせなかった)
怒られることより失望されることの方が遥かに怖かった。
また迷惑をかけてしまった。どうしようどうしよう。
川; ゚ -゚)(謝っても何にもならない……)
『もしもし!?クーさん大丈夫!??』
コール音が鳴るか鳴らないかのタイミングで兄者さんが電話に出た。
その速さに驚きながらも、見えない相手に頭を下げる。
川; ゚ -゚)「ご、ごめんなさい兄者さんこんな時間になってしまって!その、ね、寝過ごしてしまって…」
『えっ!!!』
川;> -<)「!」
『眠れたの!???』
277
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:23:11 ID:ePFKj8co0
大きな声が耳に響いた。びっくりした。
元気な人だけれど、大きな声を聞いた事はない。
怒ったりしているわけでもなく、兄者さんはただ驚いているようだった。
川; ゚ -゚)「はい、気付いたら…眠れてて…」
『よ』
川; ゚ -゚)「よ?」
『良かったーー!!良かったね、本当に良かった!眠れたんだね、そっか……ってもしかして他のお客さんにも電話できてない!?ごめん、いいよ、他の人も心配してるだろうから電話してあげて!』
そう、そうだった。他のお客さんのことも起こせていない。兄者さんの機転の速さに驚きながらも返事をする。
川; ゚ -゚)「は、はい!!ありがとうございます!」
278
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:23:45 ID:ePFKj8co0
濁流のように、怒涛のスピードだった。まだ頭がチカチカしている。
そして勢いに押された。
通話を切ってまた別の番号を探す。
その時、何かが引っかかった。
川; ゚ -゚)(あれ、兄者さん……私の名前呼んだ?)
弟者先生経由で知っていても不思議ではないけど、呼ばれたのは初めてだった。
いつもはみんなと同じく『おはよう屋さん』と呼んでくれていたので、電話で名前を呼ばれるのは何だか変な気分だった。
川; ゚ -゚)「そ、それより今はギコさんに連絡しないと…」
深呼吸をして、震える指に力を入れてタッチした。
.
279
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:25:23 ID:ePFKj8co0
本日の投下は以上になります。
ありがとうございました。
色々なコメントやビブーンリオバトルでの紹介、ありがとうございました。
280
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 09:23:18 ID:7vSpRrF20
おつ
281
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 15:51:40 ID:qjKRu./A0
待ってた〜〜乙乙
282
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 15:54:43 ID:fyasdIR20
乙です
283
:
名無しさん
:2023/02/01(水) 00:53:03 ID:XfSCYFSQ0
乙乙
284
:
名無しさん
:2023/02/01(水) 20:21:21 ID:MSvswKAc0
つらい
285
:
名無しさん
:2023/02/05(日) 13:04:32 ID:OpQerIAE0
めちゃくちゃ苦しくて辛くて読み応えがあって最高で最高
大好き乙乙
286
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:52:54 ID:I0WHBbXU0
7:25
.
287
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:53:25 ID:I0WHBbXU0
ギコさんは暖かいひと。話していてそれを感じる。
着信履歴には彼もいた。
もう起きていて、連絡が無いことを不思議に思ってかけてくれたのかもしれない。
川; ゚ -゚)(申し訳ないな…)
いつもは何回か鳴らすコールも、今日は2回目で相手の声が聞こえてきて、事の重大さにぶわりと鳥肌が立つ。
(;,,゚Д゚)『おはよう屋さん!!良かったぁ、心配したよ〜』
川; ゚ -゚)「本当にごめんなさい!!」
.
288
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:54:04 ID:I0WHBbXU0
電話先で頭を下げたところで何にもならないが、そうでもしないと気持ちが済まなかった。
ギコさんの声はいつもよりクリアで、起きたばかりでないことが伝わってくる。当たり前だ、もう彼の依頼する時間から2時間以上経っている。
(,,゚Д゚)『ううん、大丈夫だよ。俺はほら、仕事してるわけじゃないし、おはよう屋さんなら連絡くれるだろうなって思ってご飯作って待ってたんだ』
川; ゚ -゚)「そう、だとしても依頼の時間に起こせなくて申し訳ありません」
(,,゚Д゚)『まぁあるよね、そういう時もさ』
ゆったりとしたいつも通りのギコさんの喋り方に、焦る気持ちが少しだけ落ち着く。
謝る事しか出来ないのがもどかしい。
(,,゚Д゚)『あっ』
川; ゚ -゚)「ど、どうかしましたか」
(,,゚Д゚)『そっかぁ。なんか、足らないと思ったんだよね』
川;゚ -゚)「……?」
289
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:54:35 ID:I0WHBbXU0
(,,゚Д゚)『おはよう屋さん、おはよー!』
川 ゚ -゚)「お、……おはようございます」
とても朗らかな挨拶が耳に響く。一瞬気を取られ、同じ言葉を返した。
(,,゚Д゚)『ご飯作ったんだけど、もう一口食べてたんだけど、なんか足らない気がして。でもわかった』
(,,゚Д゚)『挨拶だね!』
290
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:55:05 ID:I0WHBbXU0
(,,゚Д゚)『ご飯を作るのに、工程っていうのがあるんだ。卵の殻を割るとか、野菜の皮を剥くとか、そういうの』
川 ゚ -゚)「はい」
(,,゚Д゚)『俺にとって、おはよう屋さんにおはようって言うのが美味しい朝ごはん作るために必要な工程なんだ。大事な大事な、工程になってるんだ』
(,,^Д^)『おはよう屋さんのおかげで、それに気付けたよ』
顔も知らない、どんな人かもわからない。
けれど、いつだってギコさんの言葉に自分は救われていると思う。
お日様みたいな暖かさと眩しさが、胸をじんと熱くさせた。
291
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:55:44 ID:I0WHBbXU0
川 ゚ -゚)「ギコさんはいつも眩しいですね」
(,,゚Д゚)『えっ俺、光ってる?』
川 ゚ー゚)「…はい」
(,,゚Д゚)『気付かなかった……あ、でも光って熱を発してるんだったら今朝のご飯とか作るの楽だったかも。熱出せたら料理人としては最強だよね』
本気で話しているギコさんに思わず笑ってしまう。
川 ゚ -゚)「今日の朝ごはんは、」
何ですか?と聞こうとした時だ。
.
292
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:56:15 ID:I0WHBbXU0
──ぐうぅぅ、と音が、した。
.
293
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:56:46 ID:I0WHBbXU0
周りを見渡しても音の発生源はない。他に誰もいない。
どう考えても自分の、腹から発せられた音。
腹の音が鳴ったのだ。
川;* ゚ -゚)「……!あ、あのギコさ…」
まさか聴こえてやしないだろうと恐る恐るギコさんの名前を呼ぼうとして、
(,,゚Д゚)『おはよう屋さん!!』
川; ゚ -゚)「はいっ」
(*,,゚Д゚)『今、お腹鳴ったよね!??お腹すいたの??良かったねえ!!!』
過去一大きな声で応対され、顔面に熱が集まるのがわかった。
穴があったら入りたいというが賃貸に穴はない。布団に包まりたかった。
(,,^Д^)『お腹の音、電話越しでも聴こえるんだね。…っははは、すっごい聴こえた!』
川;*-"-)
気恥ずかしさが電話越しの嬉しそうな声に絆されてしまう。
人のお腹が鳴ってこんなに喜ぶ人間は初めてだ。
294
:
名無しさん
:2023/04/19(水) 23:57:33 ID:I0WHBbXU0
川;*-"-)「……ギコさんすみません、他のお客様にも謝罪をするので…」
(,,゚Д゚)『ああ、そうだよね!ごめんね!でも本当に良かったね!美味しいもの、食べてね!』
川 ゚ -゚)「あの…」
(,,゚Д゚)『うん?』
川 ゚ -゚)「明日、美味しい朝ごはんのレシピ、教えてください」
(,,゚Д゚)『!』
(,,^Д^)『…いつでも、頼りにして』
川 ゚ー゚)「…ありがとうございます」
力強い返事に元気が出た。
結局彼の朝ごはんを聞きそびれてしまったけれど、明日また聞けばいい。
大きく深呼吸をして電話を終えた。
.
295
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 05:34:44 ID:PFF6PVns0
お気に入り来てる!
296
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 08:35:50 ID:BdwU2Qr20
めちゃくちゃ苦しいけど素敵な作品だ
ゆっくりでいいから更新楽しみにしてる
297
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 18:16:53 ID:1jam4QoI0
続き嬉しい!
ギコさんあったけえ…
298
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:41:52 ID:ioeW7FQg0
7:35
.
299
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:42:54 ID:ioeW7FQg0
何か口に入れないとまた、お腹が鳴りそうだった。
それでも、そんなことよりも大事な連絡をする為に、素早く通話ボタンを押した。
ワンコール目が鳴るか鳴らないか位のタイミングで、声が聞こえる。
('、`*;川『やっと出た!良かった!もう、心配した!』
ペニサスさんは、強くて──強くなるために武装をしているかっこいいひと。
いつもこちらのことを考えて言葉を紡いでくれる人だった。
今だって電話に出た声が心配してくれていたのを物語っている。
.
300
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:43:31 ID:ioeW7FQg0
川; ゚ -゚)「ごめんなさいペニサスさん、遅くなってしまって」
('、`*;川『ごめん、じゃないでしょ?』
川; ゚ -゚)「す、すみません…」
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
履歴には彼女からの着信が1番多かった。私に何かあったのではとヤキモキさせてしまったのだろう。
こちらが何も喋れずにいると、もう、とペニサスさんが溜息混じりの声を上げた。
.
301
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:44:04 ID:ioeW7FQg0
('ー`*川『『ごめん』じゃなくて、『おはよう』でしょう、おはよう屋さん』
川; ゚ -゚)「……お、おはようございます、ペニサスさん」
('ー`*川『おはよう』
いつもの優しい声だ。
胸が痛くなる。
お客様たちは優しい人ばかりで自分の不甲斐なさに心苦しい。
('、`*川『私は大丈夫よ、昨日の夜になんかすごい人身事故があったらしくて、今朝もまだ復旧してなくて電車遅れに遅れてるから、有休取っちゃった』
川 ゚ -゚)「そう、なんですね」
ホッとしてしまった。
心配をかけて、迷惑をかけてしまったことには違いがないというのに。
302
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:44:41 ID:ioeW7FQg0
川; ゚ -゚)「あの、」
('、`*川『申し訳ない、って思ってる?』
川; ゚ -゚)「はい、申し訳ありませんでした」
('、`*川『そうよね、初めての失態、失敗かな?責任感じるしどうにかしたいって思うわよねぇ……んー、それじゃあねおはよう屋さん』
川; ゚ -゚)「はい」
('、`*川『私がなんか喜びそうなこと言って。そしたらチャラってことで』
.
303
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:45:28 ID:ioeW7FQg0
ペニサスさんは思いやりのある人だった。
私を、私なんかを戦友と言ってくれた。
今だってこうして私が気にしないように言ってくれている。
川; ゚ -゚)「……喜びそうな…」
何を喜んでくれるのかなんて、知り得るような関係ではない。
モーニングコールを依頼する側とされる側なのだから。
でも、ペニサスさんは思いやりに溢れていて、相手のことを考えてくれる人。
それだけは知っている。それだけ知っていれば十分な気がする。
彼女が以前、声を弾ませて提案してくれたことが頭をよぎった。
.
304
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:46:01 ID:ioeW7FQg0
川 ゚ -゚)「……ペニサスさん」
川 ゚ -゚)「私今日、空色のマニュキュア買ってきます」
('、`*川『……』
('ー`*川『お揃いじゃない』
川 ゚ー゚)「はい」
('ー`*川「ふふ、それは嬉しいわ」
.
305
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:46:42 ID:ioeW7FQg0
戦友のお揃いを喜んでくれるような人。そういう人。
電話の向こうでふわりと明るい声が聞こえて、なるほどお揃いというのはどこか照れ臭くてけれど嬉しい気分になるものなんだと知った。
川 ゚ -゚)「ありがとうございます、ペニサスさん」
('ー`*川『何が?ほら他の人にも電話しなきゃじゃない?もーチャラだからね。明日はよろしく』
川 ゚ -゚)「はい!」
さっぱりとした空気が心地よかった。
通話を切る。
握手を交わす時みたいに、ぎゅっと、手を握りしめた。
.
306
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:47:40 ID:ioeW7FQg0
7:45
.
307
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:48:26 ID:ioeW7FQg0
何度も、何度も通話ボタンを押す。キャンセルを押して、また通話ボタンを繰り返し押す。
繋がらない。
いつまでもモナーさんに繋がってくれない電話に胸が痛くなる。
私が何かしてしまったのなら、嫌われてしまったのなら、良い。
川; ゚ -゚)(モナーさんに何かあったのかな)
そちらの方が怖かった。
きっと、私から連絡が来なかったみんなも似たような不安を持たせてしまったかもしれない。
.
308
:
名無しさん
:2023/04/20(木) 19:49:09 ID:ioeW7FQg0
川; ゚ -゚)(後で、後でまた電話掛けよう…)
今はきっと出られないだけだ。
きっとそうだ。
震える指先を無視して、次の番号を押した。
.
309
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 00:11:55 ID:UOJi8DBw0
どきどきする
310
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 03:26:09 ID:zHMCtzSA0
ハラハラ
311
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 06:33:32 ID:IjeIfx5w0
乙乙
クー、ネイルで嫌な思いした事もあるのに前向きになれて良かった。
モナーさんが心配
312
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 08:45:03 ID:x8.lkzbU0
乙
313
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 20:58:42 ID:QACZV9gQ0
7:50
.
314
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 20:59:27 ID:QACZV9gQ0
彼女もいつも沢山のコールを鳴らして、それから起きる人だった。
けれど今朝は一回、着信履歴があった。
時間通りに電話が来なくて怒っている──いや、自意識過剰かもしれないけれど怒るよりかは心配をしてくれている、と思う。彼女も優しい人だから。
o川;*゚ー゚)o『おはよう屋さん!大丈夫?』
川; ゚ -゚)「すみませんキュートさん!電話出来なくて…」
2コール目で出てくれたキュートさんの声はいつもよりハッキリしていて、少しだけ焦っているようだった。
二言目で『大丈夫』が出てくる所に彼女の暖かさを感じ、胸が痛む。
o川*゚ー゚)o『体調悪いのかと思ってね、一回電話したけど寝てるの邪魔しちゃだめかなって切っちゃったんだ、起こしちゃったならごめんね』
川; ゚ -゚)「いえ、…こちらが悪いのであってキュートさんが謝ることはないです。本当にすみませんでした」
315
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:00:06 ID:QACZV9gQ0
o川*゚ー゚)o『あー、あのね大丈夫だよお、わたしもう早起きする必要ないんだあ』
川 ゚ -゚)「え」
あっけらかんと、彼女が答える。
その声に清々しささえ感じて一瞬戸惑ってしまった。
o川*゚ー゚)o『昨日、おはよう屋さんと話した後、色々考えてみたの。考えて、考えてたらね、いつのまにかお昼になってて、彼氏に電話し忘れちゃってて。そしたらさ、起こせよ!って電話が来てね』
o川*゚ー゚)o『彼氏から電話来たの、それが初めてだったんだ』
ぽつりぽつり、キュートさんが話す声は少し小さいけど、確かに聞こえる。
可愛らしくて鈴みたいで、いつも明るい私の好きな声。
昨日彼女に話したことを思い出して、スマホを持つ手に力が入ってしまう。
316
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:01:07 ID:QACZV9gQ0
o川*゚ー゚)o『それってさ、もう1番にはなれないんだってわかるにはじゅーぶんだよね』
あははと彼女が小さく笑った。
o川*゚ー゚)o『わたし1番になれないよね?って彼に言ったら、バカがものを考えるなって言われたんだ
彼氏はバカって言う、だけど顔も知らないおはよう屋さんはバカじゃないって言ってくれる』
川; ゚ -゚)「……」
o川*゚ー゚)o『どっちが正しいんだろう?どっちかわからない時は、信じたい方を信じれば良いっておばあちゃんが言ってたから』
o川*゚ー゚)o『わたし、おはよう屋さんの言葉を信じたいって思ったんだ』
川 ゚ -゚)
.
317
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:02:01 ID:QACZV9gQ0
o川*゚ー゚)o『だからさ、人にモーニングコールさせてまで早く起きて何してるのって聞いてやったの。そしたらね、本命の彼女にモーニングコールしてるんだって』
o川*゚ー゚)o『笑っちゃった。彼氏が言った言葉で笑ったの久しぶりだよ』
o川*゚ー゚)o『リレーみたいにさ、おはよう屋さんに起こしてもらったわたしが彼氏を起こして、彼氏は1番の彼女起こして、もしかしたら本命も誰かを起こしてるかもしれない、めちゃくちゃウケるよね』
はーあ、と一際大きなため息が聞こえた。
ため息だけどどこか吹っ切れたような、背負っていた荷物が軽くなったみたいな、そんな風に聞こえた。
o川*゚ー゚)o『わたしは彼の1番にはなれない……ううん、なりたくないなって思って、フッちゃった!!へへっ、だからね、もう別に早く起きる必要がないの。バカだよねぇ本当さ』
318
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:03:48 ID:QACZV9gQ0
良かったと思って良いのかわからない。
でもキュートさんは笑っている。
彼女の笑っている声が何より良いなと感じたのだ。
素敵な人だから、笑っていて欲しい。
川 ゚ -゚)「……キュートさんは、馬鹿なんかじゃないです。元彼さんがクズなだけだったんですよ」
o川*゚ー゚)o『………』
川; ゚ -゚)「あっ、す、すみません」
電話が切れたかと思うくらい、キュートさんが無言になってしまい、言い過ぎたことを詫びる。けれどキュートさんは馬鹿ではない。これだけは伝えたかった。
o川*゚3)o『ぷっ』
川; ゚ -゚)「ぷ?」
319
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:04:49 ID:QACZV9gQ0
o川*>ヮ<)o『あっははははははははははははは!!!』
o川*゚ー゚)o『い、言うじゃんおはよう屋さん…あーお腹いた…』
川 ゚ -゚)「…」
川*゚ -゚)「へ、へへ」
o川*゚ー゚)o『あっ、朝から沢山笑って健康になっちゃったよお』
川 ゚ -゚)「良いことです」
.
320
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:05:39 ID:QACZV9gQ0
o川*゚ー゚)o『あ〜あ!絶対いい人見つけよ!その人が1番だとか、順位なんてどうでも良いくらい好きになるんだ絶対!』
川 ゚ー゚)「……応援、してます」
o川*゚ー゚)o『ありがと!…あ、大変!おはよう屋さん!』
川 ゚ -゚)「はい」
o川*゚ー゚)o『おはよー!!』
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「おはようございます、キュートさん」
o川*゚ー゚)o『早起きする必要なくなったけど明日もお願いしていーい?ずっと起きてた時間に起きなくなるのも、おはよう屋さんに挨拶できないのも寂しいからさ』
川 ゚ -゚)「もちろんです。また明日、電話しますね」
.
321
:
名無しさん
:2023/04/21(金) 21:06:55 ID:QACZV9gQ0
彼女らしい理由に胸の辺りが温かくなった気がした。
キュートさんはもう吹っ切れたようだった。
なるほど、朝から笑うのは健康に良いというのは本当かもしれない。
川 ゚ -゚)(……彼女も、こうなれてた可能性、あるのかな…)
川 ゚ -゚)(……ううん、考えても仕方ないんだ、きっと)
頭を振って次の番号を押した。
.
322
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 03:28:09 ID:KLIEUUJg0
キューちゃんよかった……
みんなあったけぇ……
323
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 08:17:18 ID:awXbLsGM0
乙
324
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 19:58:21 ID:ExCJg5i60
8:00
.
325
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 19:58:58 ID:ExCJg5i60
深呼吸をする。
いようさんは、モナーさんと同じく着信履歴が無かった。
でも彼はいつも私の着信で起きているわけではなく、その前から起きていた筈。
今日もそうだとしたら連絡がない事を不思議に思ってもおかしくはないのに、何もない。
川; ゚ -゚)(………)
昨日の会話で、いようさんが限界まで来ている事はわかった。注文を無視しただけではなく余計なことまで言ってしまった。
川; ゚ -゚)「出てくれるかな…」
.
326
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 19:59:36 ID:ExCJg5i60
コール音が鳴る。何回も鳴っている。いつもなら3コール辺りで取ってくれる。
嫌な予感で胸がじくじくしてきた。
(── 昨日の夜になんかすごい人身事故があったらしくて──)
急にペニサスさんが言っていたことが頭をよぎった。
違う。
そんな事はない。
違う。
大丈夫。
何が大丈夫?
川; ゚ -゚)(お願い……出て)
.
327
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:00:25 ID:ExCJg5i60
10コール鳴った、時だった。
.
328
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:01:10 ID:ExCJg5i60
(=゚ω゚)ノ『うぅ…おはようだよぅ、おはよう屋さん』
川; ゚ -゚)「いようさん…!」
良かった。
出てくれた。
本当に良かった。無意識に噛んでいた下唇をゆっくり離して安堵する。
(=゚ω゚)ノ『ごめん、ごめんよう寝てたよぅ』
(=゚ω゚)ノ『あのね、昨日おはよう屋さんに言われて、頑張らないでみたんだよぅ。でもある意味、頑張ったのかなぁ?』
川; ゚ -゚)「頑張っ、た…?」
(=゚ω゚)ノ『うん、入社して初めて、会社サボったんだ』
川; ゚ -゚)「え」
329
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:02:15 ID:ExCJg5i60
(=゚ω゚)ノ『始業時間が近づくにつれ心臓がおかしくなりそうなくらいバクバクして、胃もぺちゃんこになるんじゃないかってくらいきゅーーってなったんだけど、会社に行ってもそうだったって気付いてからちょっと気楽になってさ』
(=゚ω゚)ノ『上司から鬼電すごかったよぅ、着信履歴上司で埋まってた。スクショ取れば良かったよぅ。でもね、ずーーっと鳴っててムカついたから出て、言ってやったんだ。……なんて言ったと思う?」
今までに無いいようさんの楽しそうな声に面を食らう。
あまりにも子どものような、悪戯っぽい声でいようさんが聞いてくるので一瞬固まる。
考えたがわからない。
川 ゚ -゚)「…なんて、言ったんですか?」
ふふっと彼が笑う。
(=゚ω゚)ノ『うるせー馬鹿野郎!!こんな会社辞めてやる!って言ってやったよぅ!』
(=゚ω゚)ノ『おはよう屋さんに教えてもらったヒポポタマスは言い損ねちゃったけど、スッキリしたよぅ!』
川 ゚ -゚)「は 」
川 ゚ー゚)「はははっ」
.
330
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:03:04 ID:ExCJg5i60
(=゚ω゚)ノ『それでそのまま寝てたよぅ』
(=゚ω゚)ノ『ずっと会社から電話来てたけど無視して、それで今、また電話かって思ったんだけど、僕おはよう屋さんは着信音設定してて』
(=゚ω゚)ノ『知ってる?この曲。これが流れてきたから、あっおはよう屋さんだ!って飛び起きたんだよぅ!』
いようさんが歌詞の一節を歌ってくれた。
父が好きだったバンドだ。昔よく歌っていたから知っている。
川 ゚ -゚)「知ってます、……そう…よか…よかった…」
色んな情報が怒涛に来て少しだけ混乱してしまった。とりあえず良かったのだと、いようさんが電話に出てくれて笑っているから、良かったのだと思う。
はたと一つ、気付く。
331
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:03:55 ID:ExCJg5i60
川 ゚ -゚)「あれ、その曲……最初の歌詞って確か…」
川 ゚ -゚)「『気が狂いそう』」(=゚ω゚)ノ
川 ゚ -゚)「……って歌い出しで電話に出てたんですか」
(=゚ω゚)ノ「うん、気が狂いそうだった」
川 ゚ -゚)「はは、ははは…」
332
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:04:34 ID:ExCJg5i60
涙が出るまで笑ってしまった。電話の向こうのいようさんも笑っている。
大丈夫だと、思った。何がかはわからない。
電話越しで顔も見えていないけど、いようさんが眩しいくらいに笑っているから、大丈夫だって思えたのだ。
(=゚ω゚)ノ『明日は流石に会社に行って決着つけなきゃだから起こしてもらえるかな?』
川 ゚ -゚)(決着……)
川 ゚ -゚)「はい」
(=゚ω゚)ノ『それじゃあまた明日』
川 ゚ -゚)「はい、また明日」
.
333
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:05:34 ID:ExCJg5i60
頑張れとも言わず、頑張れと言ってくれとも言われずに電話を切る。
笑って引き攣ったお腹がまだ痛い。
川 ゚ -゚)(決着、か…)
いようさんはずっと戦っている。
ペニサスさんが私に言ってくれたように、私も彼の戦友になりたい。
そのために出来ることを、しよう。
.
334
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 20:07:06 ID:ExCJg5i60
本日の投下は以上です。
いつもコメントや乙、ありがとうございます。とても嬉しいです。
もうすぐ終わります。お付き合い頂けたらとおもいます。よろしくお願いします。
335
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 23:13:38 ID:ePWDUHVQ0
やばい
336
:
名無しさん
:2023/04/22(土) 23:32:51 ID:t5jcwdxQ0
乙乙
337
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 03:36:05 ID:ufg9ZMBw0
ぃょぅの背中をがんばれ以外の言葉で押せるのはクーだけだぜ
338
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 06:30:30 ID:ygyIGPD.0
乙です
339
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:17:51 ID:FKcm0JNw0
8:20
.
340
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:18:31 ID:FKcm0JNw0
皆電話に出てくれた。モナーさんを除いて。
モナーさんは昨日から連絡が取れていない。
川; ゚ -゚)「もう一度かけてみよう…」
スマホを握りしめてボタンを押そうとした瞬間、電話が鳴った。
川; ゚ -゚)「!」
ディスプレイに表示された名前を見て身体がぴょんと跳ねてしまう。
誤ってスマホを落とさないよう努めて、急いで出た。
川; ゚ -゚)「モナーさん!!!」
『しぃだよ!』
川; ゚ -゚)「……?!」
.
341
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:19:17 ID:FKcm0JNw0
電話はモナーさんからかかってきた筈だった。表示は間違いない。
けれど聞こえてきたのは元気な幼い女の子の声だった。思わず耳からスマホを離して凝視してしまう。
『あのねーおじいちゃんに、ごでんわしてくれたよね?さっきずっとごでんわなってて、しぃ、いーっぱい探してシュマホ見つけたの!それで、大事なおはなしだっておもったから、ごでんわしたんだあ!』
川; ゚ -゚)「…えっと、はい…しぃちゃん、ありがとうございます。あの……おじいちゃんに代わってくれますか?」
多分恐らく電話の相手はモナーさんの孫娘さんで間違いない。
電話を探したという事は、どこかに無くしてしまっていて出られなかったのかもしれない。
良かった。それなら、良かった。
.
342
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:20:12 ID:FKcm0JNw0
『おじーちゃんはー、まだねんねしてますっ』
川 ゚ -゚)「え?」
『全然起きないんだよ、しぃも早くあそびたいんだぁ…』
『コラ、電話で悪戯したらダメだろう…繋がってるのか?もしもし?……どなた、ですか?………っあ、えっと…もしかして『おはよう屋さん』?』
女の子がきゃーと軽い声を出して遠ざかっていくのが聞こえ、代わりに男性の声になった。モナーさんの息子さんだろうか。
お客様以外におはよう屋さんと呼ばれるのは少し照れ臭かったが、モナーさんから説明がいっていたなら怪しまれるより良かったかもしれない。
川; ゚ -゚)「あ、は、はい…あの…」
『……父は亡くなりました』
.
343
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:20:58 ID:FKcm0JNw0
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「え?」
344
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:21:40 ID:FKcm0JNw0
『今は式の手続きなどがあって、きっとしばらく連絡出来なくなると思うので先に伝えても良いですか。父が貴方宛の手紙を書いていたんです、彼女に伝えて欲しいって……関係ない私が読んでしまうのは申し訳ないのですが読んでお伝えしても?』
川; ゚ -゚)「いえ……、いえ、お願い、します」
口の中が一瞬で乾いて声が上手く出せなかった。
絞り出すように、返事をする。
モナーさん。
モナーさん。
亡くなった。
亡くなった?
.
345
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:22:20 ID:FKcm0JNw0
『ねー!しぃのお手紙もよんで!』
『うん、しぃのお手紙は後でゆっくり読むよ。先に、お姉さんへのお手紙読むね。これはきっとおじいちゃんにとって大事なお手紙なんだ』
『いいよ!しぃ、静かにしてるね!』
『ありがとう。……すみません、えっと、読みますね。おはよう屋さん、おはよう』
川; ゚ -゚)「……」
『パパ!ちがうよ!おじいちゃんみたいに言って!』
『ええ……わかった。すみません、…』
.
346
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:23:23 ID:FKcm0JNw0
( ´∀`)『……おはよう屋さん、おはようモナ。貴女と最後に電話で話した後、私はまた未来を見たんだモナ。二つ。一つはまるで夢の中みたいな場所で、顔を見たことが無いけれどおはよう屋さん、貴女が出て来たモナ』
川; ゚ -゚)「…っ」
( ´∀`)『まるで真っ暗な夜を怖がっているかのように、孫娘みたいに、沢山泣いていた。おはよう屋さんは朝が来るか知りたいと言っていたモナね。──大丈夫』
(──大丈夫、大丈夫モナ──)
川; ゚ -゚)(……あ)
( ´∀`)『あれは貴女に朝が来る未来だった。怖くても、いつだって夜は眠って、眩しい朝が必ず来るから 私に連れて来てくれていた朝のように、美しい朝が来るから、大丈夫、大丈夫モナ』
( ´∀`)『もう一つは私にお迎えが来る未来だった。だから、今こうやって手紙を書いているモナ。電話に出られなくて、不安な気持ちにさせてしまって申し訳ないモナ。短い間だったけれどとても大事な時間だった。良い朝をどうもありがとう』
( ´∀`)『おはよう屋さんに来る朝が どうぞ、良い朝になりますように』
347
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:24:06 ID:FKcm0JNw0
川; -゚)(声が)
川⊃-;)(──声が、聞こえたんだ。あの時)
暗くて寒くて怖くて何もかもが嫌で、どうしようもない場所にいた私を助けるように、声が聞こえて、そうして私は──。
あの時の、あの声はそうか、モナーさんだったのか。
:川∩-∩):「……っ」
.
348
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:24:56 ID:FKcm0JNw0
『以上です……あの、貴方にこんなことを聞くのはおかしな事だと思う、んですがその…私はずっと父の、あの話が苦手で信じてこなかった……母が亡くなる時だってわからなかったくせに、と…』
『こんな手紙を残してたくらいだから、……未来が見えていたのは、本当だったんでしょうか』
ズッ川⊃-;)「…、」
川∩-∩)"
'川 ゚ -゚)'
川 ゚ -゚)「モ、モナーさんは……お父様は未来が見えていました」
川 ゚ -゚)「見えて、私の、私の未来も見てくれたんです、朝が来る未来を。…ありがとうございました」
349
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:25:37 ID:FKcm0JNw0
『そうです、か…』
『お話終わったあ?次しぃの番だよっ!』
『うん、うん……あの、落ち着いたらまた連絡させてください』
川; ゚ -゚)「あ、は、はい、お願いします」
.
350
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:26:24 ID:FKcm0JNw0
通話を切って、大きく深呼吸をする。
ずっと開けていなかったカーテンを力強く開けた。
窓ガラスに酷い顔をした自分の顔が映って小さく笑う。
川 ゚ -゚)「……おはよう、私」
外は良い天気だった。
晴れている日なんて珍しく無いのに、明るく綺麗な空に感じる。
見てくれたんだ、モナーさんは。朝が来る、未来を。
川 ゚ -゚)「私にも、朝は来るんだ」
.
351
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 21:26:56 ID:FKcm0JNw0
夜は眠った。
朝を迎える準備をしよう。
352
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 22:15:22 ID:sDhc5sB60
乙です
353
:
名無しさん
:2023/04/23(日) 22:20:56 ID:A2XZns3s0
乙乙
ごでんわで萌えたのにぎゅってなった
354
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 01:07:02 ID:SQEzGk0g0
乙乙
355
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 03:46:18 ID:FMVhIYFE0
毎日うれしい
乙
356
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:24:52 ID:yazT6Rzk0
.
357
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:25:26 ID:yazT6Rzk0
深呼吸を5回して、震える手を隠すように握りしめる。
久々に見た会社の外観は何だか小さく古く見えた。
始業時間が過ぎてから会社のドアを開けるのは初めてで、血が末端に行き渡っていない冷たい手に変に力が入ってしまう。
部署のドアを開こうとして、誰かの笑い声が聞こえる。
足が竦む。怖い。
されて来たこと言われて来たことを思い出して、息がヒュッと詰まった。
川; ゚ -゚)(でも)
これを越えないといけない。
決着を、つけないと。
358
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:25:55 ID:yazT6Rzk0
ギッと嫌な音を立ててドアを開く。
中にいた、多くない人数の目が一斉にこちらを向いた。
痛い。
川; ゚ -゚)(怖い)
視線に重くて濃い毒でも塗られているかのように、突き刺さって離れない。
目を瞑って耳を塞いでしまいたい。
それじゃあ、終わらない。
なるべく周りを見ないように、一直線で一番行かなくてはいけない場所に足を動かした。
川; ゚ -゚)「おひ、…っ、お久しぶりです」
359
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:26:45 ID:yazT6Rzk0
急に酸素が薄くなった気がした。
息を頑張って吸う。頑張って吐く。過呼吸にならないように、そっと。
ばくばくと心臓の音が響くくらい、部署内は静まり返っていた。
先程まで談笑していただろうに、今は不自然な程誰も言葉を発していない。
( ^Д^)「うわぁ久しぶりに顔を見たけど相変わらず辛気臭い顔してるよね!」
川; ゚ -゚)「っ」
(’e’)「ぷ」
(゚A゚* )「ちょw」
リ´-´ル「www」
課長が、根野課長が口を開く。
それが合図とばかりに周りも口を開いて嘲る。
そう、そうだった。こういうところだったのだ。
360
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:27:24 ID:yazT6Rzk0
( `ー´)「ははっ、冗談冗談!それで?誰かさんが労基にチクッたせいでみんなが迷惑を被ってるわけだけど、その間たっくさん休んで少しは頭冷えた?」
川; ゚ -゚)「……ろ、労基に、連絡したのは私じゃ、ないです…休んでたのは…申し訳ありません」
( ^Д^)「はっはっは!!そのゴニョゴニョ喋るの全然変わってないね休んだ意味ないじゃん何してたの?何しに来たのねぇ、働く?机ないから立ってしろよ」
川; ゚ -゚)「わた、私は…」
言いに来た。
言う為に来たんだ。
爪の跡がついてしまうほど力強く拳を握る。
言わなきゃ。
川; ゚ -゚)「っ」
川; ゚ -゚)「や、……やめ、ます」
361
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:28:28 ID:yazT6Rzk0
顔を見れなかった。
ずっと見て来た部署の床がそこにはあって、目がチカチカした。
顔を見るのが、目を合わせるのが怖かった。
失望してる表情も理不尽に怒る表情もどれも見たくなくて、ずっと頭を下げている。
靴の先端が情けなく見えた。
( ^Д^)「はぁ?」
( ^Д^)「は!あ!?」
川; ゚ -゚)「、」
大きな声が怖い。
肩が揺れ、胃の辺りがきゅうっと痛くなる。
( ^Д^)「ねーえみんな聞いて〜?みんなが残業したり休日出勤しても残業代出なくなったのは誰かが労基にチクって残業させないようにしたからなんだけどお!その原因がなんかぁ、辞めたいって!!」
( ^Д^)「散々みんなに迷惑かけたくせにぃ!!まだ迷惑かけるってさぁ!!どう思う!??」
川; ゚ -゚)「……」
362
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:29:12 ID:yazT6Rzk0
人の視線が、痛い。
小さく笑う声が耳に入って、指を差されてるのが目に映って、自分の呼吸と早い鼓動がうるさく感じる。
(’e’)「仕事しないで休んでたくせに?」
リ´-´ル「退職って…やば」
(゚A゚* )「気狂ってんじゃね?」
(’e’)「w」
リ´-´ル「ははっ」
363
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:29:50 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)(──気が狂う?)
最近どこかで耳にしたフレーズに体が止まる。
川 ゚ -゚)(…気が 狂いそう …)
川 ゚ -゚)「……」
そうだ、いようさんの着信音──…
.
364
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:30:54 ID:yazT6Rzk0
周りの目や声に吐き気がして、口から何かが出そうだと思ってから気付く。
そうだ、今日は随分久しぶりに朝ごはんを食べたんだ。
ギコさんに教えてもらって作った、美味しい卵かけご飯。
震える指先を抑えるために手を見ると、色が塗られた爪が目に映った。
自分の好きな空色と、ペニサスさんが好きなオレンジ色。二色買ったんだ、綺麗だったから。
まるで今朝見た朝焼けのような、綺麗な色。
昨日も少し眠れた。今日はみんなを起こす事が出来た。
仕事が出来たんだ、私の、私が出来る仕事。
川 ゚ -゚)( 夜は眠った。後は── )
.
365
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:31:26 ID:yazT6Rzk0
(´<_` )『夜がなければ、朝もないです』
(=゚ω゚)ノ『言ってやったんだよぅ!』
('、`*川『好きな色とかを塗ってるとね、元気になれるの』
(,,゚Д゚)『美味しいものを作って食べて、1日を始めるんだ』
o川*゚ー゚)o『言葉の暴力が1番痛いの』
( ´∀`)『どうぞ、良い朝になりますように』
366
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:32:01 ID:yazT6Rzk0
私は、おはよう屋さん。
私は、私には、私にも。
川 ゚ -゚)( 朝は、来る )
.
367
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:32:29 ID:yazT6Rzk0
深呼吸をする。
キュートさんに聞いた。いようさんに教えた、必勝法。
ムカつく奴には──
川 ゚ -゚)「う、」
川# ゚ -゚)「うるせーヒポポタマス!!こんな会社辞めてやる!!」
368
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:33:16 ID:yazT6Rzk0
……
…
.
369
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:34:34 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「おはようございます、いようさん」
(=゚ω゚)ノ『おはよう、おはよう屋さん。今日面接だよぅ〜緊張するなぁ、決まると良いんだけど』
川 ゚ -゚)「もし良ければなんですけどおはよう屋さんとか、いかがですか?面接要りませんよ」
(=゚ω゚)ノ『んー、僕は起こしてもらう方が好きだなぁ』
川 ゚ -゚)「気が狂いそう、の一節で?」
(=゚ω゚)ノ『そうだよぅ』
川 ゚ -゚)「ふふふ、面接頑張ってください」
(=゚ω゚)ノ『うん、ふふ、お願いして言ってもらってた時より全然明るい声で応援してくれるね』
川 ゚ -゚)「自然に口から出てました」
.
370
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:35:09 ID:yazT6Rzk0
会社に退職宣言をしてからひと月が経った。
私に朝が来ていない時もそうだったように、世界は何事も無かったかのように緩やかに回って動いている。
.
371
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:35:49 ID:yazT6Rzk0
いようさんは無事に離職出来、今は新しい就職先を探すのに忙しいらしい。
(=゚ω゚)ノ「前のところで働くのに比べたら面接も怖くないんだよぅ」
そう言って今も規則正しく生活を送るためにモーニングコールは続けてくれている。
ただもう占いは見てないのだそう。
.
372
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:36:22 ID:yazT6Rzk0
ギコさんはモーニング専門の喫茶店を開きたいんだと教えてくれた。
(,,゚Д゚)「おはよう屋さんに食べてもらいたいなって前に思った事あったんだけど、おはよう屋さんだけじゃなくて色んな人に食べてもらえたら嬉しいよね」
(,,゚Д゚)「お店開くのにお金も勉強も必要だからすぐには難しくても、いつか絶対開くからさ。食べにきてよ」
私は以前より食欲が増した。多分ギコさんの朝ご飯の話や夢の話を聞いているからだと思う。
.
373
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:37:09 ID:yazT6Rzk0
ペニサスさんは私がポロッとお化粧の仕方教えて欲しいと言ったのを聞いて、メイク動画の配信を始めてみようかと言っていた。
('、`*川「3時間もかけてるし誰かの役に立てたら本望っていうのかしらね」
('ー`*川「スッピン晒すの勇気いるけど、ま、それくらいビフォーアフターあった方が映えて楽しいでしょ」
今でもあの時買った空色とオレンジ色のマニュキュアは宝物だ。
.
374
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:37:49 ID:yazT6Rzk0
キュートさんはあれから恋人募集で、俄然燃えている。
o川*゚ー゚)o「ぜーったい良い人見つけるよ!」
o川*゚ー゚)o「そのために自分磨きをがんばるの!中身も頑張るし、お化粧とかもキラビヤカー!に出来るようにするんだ!」
ペニサスさんが配信を始めたら紹介しようと思っている。
.
375
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:39:11 ID:yazT6Rzk0
それから、モナーさんの息子さんがお客様になってくれた。
落ち着いてから改めて連絡をくれて、おはよう屋さんとは何か、どういうシステムなのか聞かれたので冷静になって怪しまれたのかと冷や汗をかいたけれど違った。
奥様が2人目ご懐妊で里帰りをしている間、起きるのが難しいのだそう。
たまにしぃちゃんが出てお話してくれる。
時計の音も聞こえる。
.
376
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:39:45 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「さて、と」
今日はもう1人大事な人に連絡を入れる。お客様ではない。
軽く深呼吸をして、通話ボタンを押した。
.
377
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:40:41 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「こんにちは弟者先生」
ドアを開くとパチクリとした先生が驚きながらも出迎えてくれた。
(´<_` )「…あ、れ?予約…」
川 ゚ -゚)「受付の方に直接したんです」
いつもは弟者先生のご兄弟である兄者先生に予約のお願いをしていた。
今日は兄者さんを通さず、正規の方法で予約をしたのだ。
何となくそちらの方がいいと思ったから。
(´<_` )「そっか…こんにちは…よりおはようのが良いかな?顔色が良くなってきましたねクーさん」
川 ゚ -゚)「はい。今日丁度、退職の手続きが済みました。しばらく貯金とかもあるからおはよう屋さんを続けようと思っています、お客様もいらっしゃいますし、新規の方も依頼があって」
(´<_` )「それはそれは……わからない事があったら言ってくださいね」
378
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:41:19 ID:yazT6Rzk0
どうぞ掛けて、とソファーに通されたので腰掛ける。
弟者先生はどれにしようかなとお茶の缶を選んでいる。
やはり最初に会った頃より先生は痩せていた。
初めて来た時のことを思い出そうとして少しぼんやりしてから気がつく。
今日は用があって来たのだった。
川 ゚ -゚)「……わからない事というか、言いたい事言っても良いですか?」
(´<_` )「言いたいこと、ですか?」
先生がわざわざこちらを向いてくれた。
律儀な人だと思う。
そこまで会話をしていないはずなのに、その確信が私には、ある。
川 ゚ -゚)「私、絶対にずっと夜のままで、朝なんて来ないって思ってました。ずっとずっと、1人だって……でも朝が来たんです。1人じゃなかった、おはよう屋さんだったから」
言いたかった。
順番をつける必要は無いので付けないけれど、恐らくきっと言った方がいい人の1人だから。
379
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:42:02 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「私をおはよう屋さんにしてくれて……朝を連れてきてくれてありがとう兄者さん」
(´<_` )「いやっ!そんなんクーさんが頑張ったんだよ!俺は何もしてないって!」
(´<_` )
川 ゚ -゚)
(´<_` )「……………って兄者なら言うと思いますよきっと伝えておきますねはははははは」
(´<_` )「は、は」
川 ゚ -゚)
川 ゚ -゚)「いいえ、先生に言いたかったので」
380
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:43:02 ID:yazT6Rzk0
弟者先生は持っていた缶を落としかけ、すんでのところで掴んだ。けれどその手が震えてカタカタ音がしている。
(´<_`;)「……ごめんなさいすみません申し訳ないです騙すつもりはなかった…って言っても意味ないかもしれないですけど本当にすみません、申し訳ありませんでした訴えるなら私個人でお願いします」
川; ゚ -゚)「いいえ、いえ、違います、責めたいわけではなくて、本当にお礼が言いたかったんです。私の、おはよう屋さんの最初のお客様に」
おはよう屋さんを勧めてくれたのは弟者先生だった。
おはよう屋さんの初めてのお客様は兄者さんだった。
彼が、彼らが居なかったら私に朝が来ていなかったと思うから、その礼を言いたかった。
カマをかけたのは……ほんの少しの悪戯心からだったかもしれない。
381
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:43:43 ID:yazT6Rzk0
(´<_` )「俺にはね、兄者…7つ歳が離れた兄がいたんです。クーさんは兄に似ていたんですよ」
川 ゚ -゚)「お兄さんに、ですか?」
お互いコメツキバッタのように頭を下げ合ってしばらくして、先生が先に落ち着きを取り戻した。
改めて先生が淹れてくれたお茶の香りが鼻を擽る。
湯気が揺らめく。
(´<_` )「日記を読みました、兄の。そこに書いてあったことと貴方が言っていたことが似ていて、どうしても……朝が来るようにしたかった」
(´<_` )「最後に会話をしたのは俺でした。なぜ俺に電話をかけたのかはわかりません。ただ思い出して話したかったのかもしれない」
382
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:44:24 ID:yazT6Rzk0
………
……
…
( ´_ゝ`)『弟者、おはよう屋さんって覚えてる?』
急に電話してきてそんな内容を話すもんだから、何だよと思いました。
毎年祝ってくれていた誕生日にお祝いの連絡もくれなかったくせにと、少し恨んでいたんです。……そう、子供だったんですよ俺は。
(´<_` )「…なんだっけ」
兄の質問の答えを、本当は覚えていました。
けれど深夜0時を越えて呑気に連絡してきた兄に苛立ち、すっとぼけたんです。
( ´_ゝ`)『忘れちゃったか。俺がさ、高校の時に朝起きれなくてさ、妹者と弟者が「おはよう屋さんだー!」って起こしてくれたんだよ』
( ´_ゝ`)『あれをさ、思い出したんだ。あの、2人におはよー!って起こしてもらえたの、すごく嬉しくて。本当は少し前に起きてたのに、寝てるふりしてたこと、何回かあったんだ』
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)『いい朝来たなぁって、すっごい嬉しかったんだよ』
( ´_ゝ`)『……ありがとな。それで、それで…ごめん。ごめんな』
383
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:45:15 ID:yazT6Rzk0
完全に酔っ払ってるんだと思いました。
声が何となく震えていたから、ああ酒飲んで酔っ払って電話をしてきたんだろうと。
(´<_` )「…別にいいよそんな昔のこと。用件、それだけ?」
( ´_ゝ`)『うん、そうだな…それが言いたかったんだ』
( ´_ゝ`)『俺、しばらく朝が来てないんだけどさ、今ならいい朝が来そうだ』
(´<_` )「……そう、良かったな」
眠くて。その日の俺は本当に疲れていて、身体もベッドに溶ける勢いで、眠たかったんです。
だからそんな、返ししか出来なかった。
( ´_ゝ`)『おやすみ、弟者。良い朝を』
それをいうなら良い夢をじゃないのかよ、という言葉すら出ずに電話を切って、俺は深い深い眠りについたんです。
──兄者ほどでは、ないけど。
384
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:46:10 ID:yazT6Rzk0
何日かが経った朝、リビングが酷く騒がしくて目が覚めました。
父が泣いて母がすごい顔をしてて、妹は今にも泣き出しそうな顔でオロオロしていました。
(´<_` )「どうしたんだ一体」
l从;・∀・ノ!リ人「兄者…が……」
そこからはあまり覚えていないんですけどね。
気がついたら葬式の最中で、俺は制服を着崩さず着て、何だか窮屈そうな箱に入った兄者の顔を見ていました。
(´<_` )「おはよう」
(´<_` )「おはよう兄者、朝だぞ」
(´<_` )「…おはよう、ってば…」
何回も何回もバカみたいにおはようと言いましたが、兄者は返事をすることもなかったし起き上がることもなかった。
385
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:46:52 ID:yazT6Rzk0
兄者が一人暮らししていた家を片付けてる時に日記を見つけました。
俺が高校でバカやっているとき、兄は会社でいじめられていた。
自分の小さな世界しか知らなかったから、大人の世界でもいじめがあるなんて知らなかったんです。
兄がされてきたことの断片を聞いてそれだけで吐き気がしましたね。
いい大人なのに、いい大人が、なんで。
あれだけ優しくて明るかった兄の顔が、やつれて、ボロボロで、目を開けていなくても酷く変わっているのがわかったんです。
『──朝4時半頃が1番辛い。みんなが段々と活動を始めていく。朝が始まっていく。俺には朝は来ない。でも働かなきゃ。どうして眠れないのか、どうして朝が来ないんだ。
わかった、迎えに行けばいいんだ、朝を』
救えなかったことの贖罪だとか、そんな立派なものでは、ないんです。
この職をやっていても救えないことだってままある。
それでも。
386
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:47:31 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「眠れるようになりたいんです、朝が…来ないのが辛くて」
『─俺、しばらく朝が来てないんだけどさ、』
(´<_` )「……」
(´<_` )「…おはよう屋さん、やってみない?」
387
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:48:11 ID:yazT6Rzk0
…
……
………
(´<_` )「どうにかしたかったんです」
(´<_` )「俺に直接っていうよりは顔も知らない相手の方が良いかと思って兄のフリを」
(´<_` )「……いや、違うか。兄にも朝が来て欲しかったのかも」
弟者先生の声をこんなに落ち着いて聞いたのは初めてかもしれない。
兄者さんの声に似ているなとは思っていたけれど、テンションが違くて気付かなかった。
あの時、私の名前を呼ばなかったら気付かないままだったかもしれない。
でも気付いた時、兄者さんも弟者先生も悪い感情でこんな事をする人たちには思えなかった。何かしら理由があるのだと。
(´<_` )「個人のエゴに付き合わせてしまった。職権濫用もいいところです。本当に申し訳ありませんでした」
弟者先生はすっかり顔色が悪くなってしまったので申し訳なくなる。土下座でもしかねそうな勢いだ。
失敗は流されるより受け止めてもらう方が失敗した側は軽くなる事もある、それを私は知っている。
388
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:48:48 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「……申し訳ないと、思ってるんですよね」
(´<_` )「勿論」
川 ゚ -゚)「……そう、ですね。わかりました。そしたら、私が喜びそうな事言ってください。そしたらチャ、チャラにしますよ」
(´<_`;)「ええ。ええー……」
弟者先生はしばらく黙った。
そうして、一言
389
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:49:31 ID:yazT6Rzk0
(´<_` )「……爪、綺麗ですね」
川 ゚ -゚)
川 ゚ー゚)「そうでしょう」
390
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:50:09 ID:yazT6Rzk0
先生と話をした。
出してくれたお茶は何ていうのかとか、そういった他愛もない話。
今までで一番長く話をしてみて気付いたのは、大人しめのイメージがあった弟者先生が実は明るい人だったこと。
川 ゚ -゚)(電話で話していた兄者さんの性格は弟者先生の素だったのかもしれないな)
徹底してくれていたんだなとじんわり思う。
話して、話せて良かった。
お茶のおかわりを注ごうとしている先生に、そろそろお暇しますと伝えて浮かんできた疑問をそのまま投げてみる。
川 ゚ -゚)「もうひとついいですか?」
川 ゚ -゚)「先生は、4時に起きて眠くなかったんですか?」
(´<_` )「せっかくだからジョギングしてたよ。おかげさまでだいぶ痩せました。ありがとうございます」
初めて先生の笑顔を見た。
優しい顔だった。
391
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:51:40 ID:yazT6Rzk0
受付の人にもお礼を言って、それから目を見て挨拶をし、病院を後にした。
川 ゚ -゚)(もう夜になってる)
辺りがあっという間に暗くなっている。
夜から抜け出せなくなったあの日から、随分と月日が流れて季節も変わった。
私以外には当たり前に朝が来て、また夜が来てそれの繰り返しだったのだから当然だ。
392
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:54:15 ID:yazT6Rzk0
私はあれから少しずつ眠れる時間が増えている。
たまにひどい夢を見て飛び起きてしまう時もあるけれど、それでも、朝を迎えることができていた。
川 ゚ -゚)(……また突然眠れなくなるかもしれない)
朝が来なくて、夜に取り残されてしまうかもしれない。
川 ゚ -゚)(…でも)
私はもう、1人ではないことを知っている。
それはとても強い支えになる。
だから、大丈夫。
きっと大丈夫。
393
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:54:49 ID:yazT6Rzk0
帰宅して買ったものを冷蔵庫に詰め込む。
昨日ギコさんから教えてもらったメニューを作ってみたくて、久しぶりにスーパーに長居してしまった。
川 ゚ -゚)「明日の朝ご飯の材料、買い過ぎちゃったかな…」
川 ゚ -゚)「…いやお昼も夜も食べるからいいか」
パソコンの電源を入れるとメールが届いていた。
おはよう屋さんの、依頼のメール。
394
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:55:35 ID:yazT6Rzk0
川 ゚ -゚)「……依頼理由、『夜が好きでずっと遊んでしまう。でもどうしても起きたいからお願いします』…か…」
川 ゚ -゚)「……」
カタカタとキーボードをゆっくり打つ。
川 ゚ -゚)「どんな夜であってもきっと誰にでも朝は来ます」
川 ゚ -゚)「あなたにとって良い朝が来るお手伝いが出来たら、幸いです」
川 ゚ -゚)「おはよう屋さんとお呼びください。よろしくお願いします」
川 ゚ -゚)「……よし、っと」
395
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:56:26 ID:yazT6Rzk0
眠る準備をしなくては。
なぜなら明日も早い。
私の仕事がある。私が出来る、大事な仕事だ。
川 ゚ -゚)「……」
川 ゚ー゚)「…おやすみなさい」
396
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:57:15 ID:yazT6Rzk0
朝は来る
誰しもが夜を迎えて、そして朝が来る
眠れなかった 眠らなかった わたしにも来た
朝が
貴方にとっての 新しい一日を始める朝が来ないのなら
わたしが朝を連れて行くから
どうぞ、皆様どうか良い朝を。
了
397
:
名無しさん
:2023/04/24(月) 23:59:32 ID:yazT6Rzk0
以上で投下終了になります。
1年以上お付き合いくださり、本当にありがとうございました。
感想や乙、あたたかいコメントのおかげで書ききる事が出来ました。
どうぞ皆さまも良い夜、良い朝をお過ごしください。
本当にありがとうございました。
398
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 00:05:02 ID:T.jyd0Mg0
乙!クーの天職が見つかってよかった
399
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 00:08:50 ID:7/MJwXuY0
何回でも読み返したい 乙
400
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 00:20:38 ID:ps1vXwJI0
素晴らしい
401
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 01:51:54 ID:YGGPB.5s0
乙!すごい良い読後感で暖かい気持ちになりました。未来に希望を感じさせるね!
402
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 03:00:51 ID:xhlZoVn.0
乙
すごく良かった
403
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 04:58:15 ID:PT9sIT2A0
乙乙
クーは本当にヒポポタマスって言ったのw
ギコの朝ご飯専門店はとても需要があると思う。
お疲れさまでした。
404
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 06:19:19 ID:frgac/PE0
乙。優しい作品だった。
405
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 06:55:24 ID:Sw3bzzOk0
優しい雰囲気になりました、ありがとうございます
406
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 09:00:08 ID:zpsI.g6s0
おつです
407
:
名無しさん
:2023/04/25(火) 21:46:06 ID:Dk/xHLxo0
素晴らしかった。乙です!
408
:
名無しさん
:2023/04/26(水) 00:10:09 ID:RC3rDUWY0
泣いた 感動した
乙
409
:
名無しさん
:2023/04/27(木) 22:35:17 ID:bESSbhUc0
乙
最初から一気に読んだ
めちゃくちゃ良かった
410
:
名無しさん
:2023/05/04(木) 21:49:21 ID:HSvcUnm.0
乙
411
:
名無しさん
:2023/05/13(土) 22:12:35 ID:YrtcQDG60
素敵な物語をありがとうございました。
412
:
名無しさん
:2023/06/03(土) 14:46:44 ID:.EQ7bngs0
ぼろぼろに泣いてしまいました
この作品を生み出してくれて、本当にありがとう
413
:
名無しさん
:2023/06/06(火) 19:49:11 ID:ESXX57IE0
今更ながら読みきった、乙
面白かった
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