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Σz ゚ー )リ空の飛び方のようです

1 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:42:28 ID:8ltjl7rE0

銀色の雨が目の前の小さな世界を濡らしていた。

雨傘どころか、頭を覆う布ひとつ持たない僕は、ただ、家路を急ぐ。
姉が帰りを待っている。

人気のない道を駆け抜けて、あばら家の並ぶ路地へ。

体をかがめて、自宅の扉をくぐり抜けようとした瞬間、背後で爆音が鳴り響いた。

何かが爆発するような音。
雷鳴のように轟く悲鳴。
足元が震えるほどの地響き。

歪で不快なハーモニーが、やがて尾を引いて消えるまで、僕はそこに立ち尽くしていた。

静寂を取り戻した町を振り返る。
あれだけ降っていた雨が嘘だったかのように、完璧な青空が広がっていた。

(#゚;;-゚) 「……お帰り、スィ」



───僕が「生まれた」あの日のことは、今でもよく夢に見る。




.

5 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:45:03 ID:8ltjl7rE0

尻が鱗に覆われたので、躾のターゲットは別の部位になった。
腰、太腿、背中、腹、腕。

柔らかな肌から血が流れると、次の日には傷を中心に鱗が出来ていた。
そうして僕の身体は鱗に覆われる。

母の躾は更に形を変える。

罪の数だけ鱗を剥がされるようになった。

鱗の間に毛抜きを差し込み持ち上げて、力いっぱい引き抜かれる。

Σz ゚ー )リ 「うっ」

(*゚ー゚) 「……ふふふ、痛いのね」

(*゚ー゚) 「よかった」

思わず口から零れたうめき声を聞いて、母は優しく微笑んだ。

(*゚ー゚) 「あげる」

僕の掌の上に、透き通る小さな鱗を置いて、母は次の鱗を摘まみ上げる。
肉片がぶら下がった鱗が山と積まれていく間、僕は頬の内側を噛んで耐え続けた。
.

6 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:45:25 ID:8ltjl7rE0
暫くは安泰だった。
母が剥がせる鱗が残っているうちは。

(*゚ー゚) 「なによこれ」

(*゚ー゚) 「かったいなぁ……え、ホント固い」

無理やり剥がされた傷を守るように新しく生えた鱗は、母の力で剥がせないほど強靭なものだった。
母の躾のおかげで、僕は強い身体を手に入れたのだった。

翌日、母は僕を呼び寄せた。スィ、と優しい声で、僕の名を呼んで。

(*゚ー゚) 「あのさ、まだアンタには躾が足りないよね」

Σz ゚ー )リ

Σz ゚ー )リ 「う、うん」

ひとつため息をついて、母は口を開いた。

(*゚ー゚) 「仕方ないね」

(*゚ー゚) 「ディ」

(#゚;;-゚) 「……はい」

椅子に身体を預けてぐったりしていた姉が顔をあげると、すかさず母は頬を平手で打った。

(#゚;;-゚) 「ヒッ」

(*゚ー゚) 「返事が遅いわよ」

7 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:45:47 ID:8ltjl7rE0
(*゚ー゚) 「あのね、今日からアンタの妹の分もアンタにするから」

(*゚ー゚) 「スィもそこに並びな」

Σz ゚ー )リ 「え、そんな、お姉ちゃんは関係ない」

僕の反論は、姉に振るわれた鞭の音で遮られる。

(*゚ー゚) 「もう一回言わなきゃ分からない?」

(*゚ー゚) 「ディの隣に、おんなじカッコして並びなって言ってんだけど」

これから、姉はぶたれる。
傷がつかない僕の代わりに血を流す。

そんな必要はないのに。

躊躇っていると、母はもう一度ベルトを振り下ろす。

(#゚;;-゚) 「ヒィッ……」

(*゚ー゚) 「ねえ、どうしたの?」

(*゚ー゚) 「アンタが言うこと聞かないせいで、お姉ちゃんが二回も無駄に叩かれたねぇ」

Σz ゚ー )リ 「お母さん、お願いだから僕を叩いて……」

(*゚ー゚) 「まだ口答えするのかい?」

剥き出しになった姉の背中に鞭が走る。

(#゚;;-゚) 「スィ、お願い、大丈夫だから」

(*゚ー゚) 「ほら、お姉ちゃんは優しいねぇ」

涙の溜まった姉の瞳に促され、僕は姉の隣に四つん這いになる。

風を切る音が、姉のうめき声が響き渡る。
僕はじっと床を見つめ、唇を噛んで耐えていた。
姉の顔は見ることが出来ずにいた。
いつまでも、いつまでも。

8 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:46:52 ID:8ltjl7rE0

擦り切れた毛布に包まっても、中々眠気が訪れずにいた。
自分の代わりに姉が打たれる苦しさを忘れたくて、寝返りを繰り返す。

ふと、姉の声が聞こえた。

(#゚;;-゚) 「スィ、大丈夫?」

Σz ゚ー )リ 「お姉ちゃん、ごめん、ごめんね……」

背中の傷が痛むのだろう、うつ伏せに寝床に横たわる姉がそっと微笑んだ。

(#゚;;-゚) 「私は大丈夫、身体が痛いのはすぐに収まるから」

(#゚;;-゚) 「きっと、スィのほうがずっと辛いでしょう?」

Σz ゚ー )リ 「そんなことない。そんなわけないよ」

(#゚;;-゚) 「あなたは優しいから」

母に似た横顔で姉は優しく微笑んで、静かに目を閉じた。
すー、すー、と寝息を立てている。

僕がよく眠れるように、と。

寝息のフリした姉の吐息が、ひときわ深い呼吸に変わるまで、僕は天井を眺めていた。

.

9 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:47:20 ID:8ltjl7rE0
母がさらに効果的な躾を思いついたのは、それから数日後のことだった。

(*゚ー゚) 「スィ、ここに来なさい」

姉の隣で四つん這いになった僕の背中に向けて、母は優しく言った。
僕はすぐに立ち上がる。
姉がこの体勢をしているときは、僕に口答えの余地はない。

(*゚ー゚) 「ね、これを」

満面の笑みを浮かべた母は、僕の右手を掴んで持ち上げる。
手に握らされたのは、母の手汗が染み込み柔らかくしなる、いつものベルト。

(*゚ー゚) 「さ、お願いね」

Σz ゚ー )リ 「え、な、何を?」

(*゚ー゚) 「まずはね、あなたの物分かりの悪さからね」

(*゚ー゚) 「ほら」

Σz ゚ー )リ 「え」

(*゚ー゚) 「早く、打ちなさい」

(*゚ー゚) 「あなたの頭の悪さは、躾ないといけないわ」

10 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:47:42 ID:8ltjl7rE0
優しく微笑んで、母は僕の背後に回る。
力の入らない右腕を僕の代わりに持ち上げて、そして。

(*゚ー゚) 「下ろしなさい」

(*゚ー゚) 「さあ」

(*゚ー゚) 「早く」

Σz ゚ー )リ 「で、出来ないです」

(*゚ー゚) 「今の反抗で、また一発増えるのよ」

(*゚ー゚) 「黙って振り下ろすのが、お姉ちゃんのためよ」

そして僕は。

(*゚ー゚) 「はい、どうぞ」

右腕を。

(*゚ー゚) 「今のは弱かったから駄目ね。はい、もう一回」

姉へ。

(*゚ー゚) 「よろしい」

(*゚ー゚) 「次は、あなたのさっきの反抗の分をどうぞ」

.

11 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:48:07 ID:8ltjl7rE0

姉の傷は増えていく。
僕の手によって。毎日。毎日。

(#゚;;-゚) 「大丈夫だからね、スィ」

(#゚;;-゚) 「気にしないで」

並んで眠りにつく時に、姉は毎晩僕を励ます。

(#゚;;-゚) 「お姉ちゃんは強いんだから」

Σz ゚ー )リ 「ごめん。僕のせいで」

Σz ゚ー )リ 「ごめん」

(#゚;;-゚) 「あのね、スィは私の大事な妹なの」

(#゚;;-゚) 「ずっと今まで通り仲良くしていたいの」

(#゚;;-゚) 「だから、笑って?」

Σz ゚ー )リ 「鱗なんて、無ければよかった」

(#゚;;-゚) 「そんなこと言わないの」

12 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:48:27 ID:8ltjl7rE0
Σz ゚ー )リ 「僕、初めて鱗が出来たとき、驚いたけど、嬉しかったんだ」

Σz ゚ー )リ 「ああ、これでもう痛くないんだって」

Σz ゚ー )リ 「剥がされるのは痛かったけど、それでも、嬉しかったんだ」

(#゚;;-゚) 「うん」

Σz ゚ー )リ 「喜んじゃいけなかったのに」

Σz ゚ー )リ 「お姉ちゃんに、痛い思いをさせるだけだったのに」

(#゚;;-゚) 「大丈夫。お姉ちゃんは、痛くない」

そう言って、姉は寝たふりをする。
その優しさに、僕は救われて、追い詰められていくんだ。

.

13 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:48:47 ID:8ltjl7rE0

気が付けば、僕は自分の鱗を剥がすようになっていた。
母には到底剥がせないこの強靭な鱗も、もっと強いものには負けるんだ。

例えば、僕の尖った歯とか。それから爪とか。

僕は忘れていた。
姉は、僕よりずっと思いやり深くて優しい人だということを。

僕が自傷したら、姉がどう思うか、なんて。
考えもしなかったんだ。


.

14 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:49:16 ID:8ltjl7rE0

(*゚ー゚) 「あなたのせいよ」

(*゚ー゚) 「あなたが傷つけるから、アタシの大切な娘が死んだのよ」

姉が首を吊った日の夜、母は僕を責め立てた。
いつもと同じ、美しい微笑みで。

Σz ゚ー )リ 

Σz ゚ー )リ 「ごめ、んなさい」

いつものように、母は壁にぶら下がるベルトに手を伸ばす。

(*゚ー゚) 「さ、今日の躾の時間……」

(*゚ー゚)

母は言葉を失った。

Σz ゚ー )リ

Σz ゚ー )リ 「ああ、そっかぁ」

僕は漸く気が付いたのだ。
自分の身体の使い道に。

鋭い爪が。尖った牙が。発達した筋肉が。鱗に覆われた身体が。
何のために生まれたのかと。

(*゚ー゚) 「ま、今日はいいわ。お姉ちゃんに免じて許してあげる」

(*゚ー゚) 「明日までに、いい方法を考えてあげるからね」

(*゚ー゚) 「お休み」

そう言って踵を返した母の背中は、酷く無防備で。

.

15 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:49:38 ID:8ltjl7rE0

僕の爪は母の背中をいとも容易く貫いた。
熱したナイフでバターを切り取るように抵抗なく半分こ。母の体が床に崩れ落ちる。

鮮やかな赤が足元に広がる。
皮膚をはぎ、黄色い脂肪に守られた内にはなまめかしく光る臓器があった。
震えている。
消えかけた灯火が最後に一度大きくゆらめくように、母の命が燃えている。

母は肉になった。物言わぬ肉片になった。

皮を、髪を、爪を、邪魔なものは全部払いのけて、純粋な肉をつくっていく。
赤々と脈打つ繊維が美しいなと僕は思う。

静かに寝ている母が好きだった。
怒っていないときの母が好きだった。時折訪れる、機嫌のいい日が好きだった。
やさしい母が好きだった。

鱗があったら良かったのにね。
生まれた時から鱗があったら、傷つかずに済んだのにね。
姉も、僕も、母も。

16 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:50:29 ID:8ltjl7rE0




護ってあげられなかった。
役に立たない爪だ。
自分を傷つけるよりもっと有効な使い方があったのに。
もっとはやく気づいていたら、姉を失わずに済んだのに。


僕の身体が喜んでいる。
血を吸って爪が輝いている。
肉を食んで牙が唸る。もっと欲しいと叫んでいる。

いくら細かく切り裂いてもまだ足りなかった。

姉が泣いている。どこかで姉が泣いている。

Σz ゚ー )リ 「ごめんね、お姉ちゃん」



.

17 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:50:50 ID:8ltjl7rE0


























.

18 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:51:31 ID:8ltjl7rE0
─────
───


( ^ω^) 「おっはーーお」

('A`) 「おう」

( ^ω^) 「相変わらずしけた顔してるおね」

('A`) 「うっせーな」

チャリン
ピッ
ガラガラッ

カシュッ
('A`) 「ふい〜」
っ日

( ^ω^)
  つ】ピッ

  『続いてのニュースです』

  『ハイナル街にて、女性が竜人に殺害されました』

  『家屋には別の女性の遺体もあり――』

('A`) 

( ^ω^) 「うわーお」

('A`) 「竜人の犯行って、マジで言ったか?」

( ^ω^) 「確かにそう聞こえたお」

('A`) 「お前がやったん?」

( ^ω^) 「何でそうなるお」

19 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:51:51 ID:8ltjl7rE0

('A`) 「だってオメーよお」

( ^ω^) 「言いたいことはわかるお」

( ^ω^) 「ここの奴らがヤッたんじゃなきゃ、つまり」

('A`) 「野生の竜人ってこったろ?」

( ^ω^) 「ありえるのかお、天然ものの竜人って」

( ФωФ) 「うむ。吾輩も初めて会ったのである」

( ^ω^) 「お、おはようございますおっ」

('A`) 「大佐、何故ここに」

( ФωФ) 「吾輩もコーヒーの一本くらい飲みたいのである」
  つ日

( ^ω^) 「初めて会ったって、なんですかお」

( ФωФ) 「彼女は、我が軍が保護したである」

('A`) 「彼女って、オンナァ?」

( ^ω^)

('A`) 「マジで?」


───
─────

20 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:52:14 ID:8ltjl7rE0

独りぼっちになった僕は、あちらこちらを移動させられ、覚えきれないほどの人々と会い。
数日の内に騎竜兵の一員となった。

<_プー゚)フ 「君には、過去を捨ててもらいたい」

<_プー゚)フ 「君が、母親を殺めた日」

<_プー゚)フ 「母と共に、娘のスィも死んだ」

<_プー゚)フ 「分かるかな? スニフィ」

Σz ゚ー )リ 「はい」

<_プー゚)フ 「騎竜兵は、君と同じ竜人だけで構成されている」

<_プー゚)フ 「そう緊張しないでくれ」

<_プー゚)フ 「今日から、君は私の仲間だ」

よろしくな、と呟いて、彼は私の手を取った。
乾いてがさついた武骨な手から、不器用な温もりが伝わってきた。

.

21 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:52:46 ID:8ltjl7rE0




そして僕は、彼と出会った。


他の竜人との顔合わせも終わり、施設の案内を兼ねて竜の見学をしていた。

騎竜兵には一人ひとり、相棒となる竜があてがわれるという。
車に乗せられ、広大な敷地に点在する竜舎を訪ねては竜の紹介をされるが、名前も顔も覚えられやしない。
ここ数日の目まぐるしい変化に、僕は疲れ切っていたのだ。

('A`) 「次で最後っスけど……どうします?」

ハンドルを握る騎竜兵─名前は聞いたはずだが忘れてしまった─がふと声を上げた。

( ФωФ) 「アムリタだな、行ってくれ」

('A`) 「大丈夫スか」

( ФωФ) 「お前の懸念は分かるが、構わん」

( ФωФ) 「うまくいけば、アムリタがスニフィの相棒になる予定である」

車が停まり、降車を促される。
先程までは先頭に立って竜舎に入り案内してくれた騎竜兵の彼は、扉の中に足を踏み入れるのを躊躇っていた。

('A`) 「……どうぞ」

Σz ゚ー )リ 「入って、いいんですか?」

('A`) 「うーん……」

( ФωФ) 「進むである」

そっと背中を押され、暗い室内へ一歩踏み出した。
他の竜舎では感じなかった悪臭がむわりと身体を包み込む。

暗闇の奥から、低い唸り声が聞こえてくる。

22 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:53:24 ID:8ltjl7rE0

だんだんと大きく、ビリビリと空気を震わせて咆哮が響き渡り、唐突に途切れた。

('A`) 「あれ?」

扉の外に立つ男が疑問の声を上げる。

( ФωФ) 「アムリタ」

大佐は、暗闇に向けて静かに語りかける。

( ФωФ) 「分かるだろう? 母の匂いが」

( ФωФ) 「明かりを灯すぞ、アムリタ」

一拍置いて、大佐は壁に指を這わせる。
パチリと音が鳴り、竜舎は煌々と照らされる。

( ФωФ) 「さあ、彼が君の相棒である」

.

23 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:53:48 ID:8ltjl7rE0


  ノ,, ゚ 了


白と黒の鱗を身にまとった大きな竜は、僕をじっと見つめている。

( ФωФ) 「彼女は、スニフィという」

手で僕を示して、大佐はアムリタに向けて語りかける。
大きな声で、ゆっくりと。

( ФωФ) 「今日から、お前の相棒だ」

Σz ゚ー )リ 「……ども」

反応に困り、とりあえず会釈をしてみる。
アムリタと呼ばれた竜は、一歩、こちらに近づいた。

首を伸ばし、鼻先を近づけてくる。

( ФωФ) 「母の匂いを感じるか」

Σz ゚ー )リ 「あの、何ですか? 母の匂いって」

( ФωФ) 「悪いが説明は後程」

僕の声を遮り、大佐はまた声を張り上げる。

( ФωФ) 「アムリタ、彼女をまた連れてきても構わないだろうか」

首を垂れる竜を見て、大佐は満足げに頷くと、僕の背中を押した。

( ФωФ) 「では、戻るである」

扉の手前で振り返ると、アムリタはまだ僕を見つめていた。

.

24 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:54:25 ID:8ltjl7rE0

('A`) 「ソイツ、何者ですか」

口火を切ったのは、またしても運転手の騎竜兵だった。

( ФωФ) 「不思議であろう? 何故コイツがアムリタにおびえるのか」

運転手を無視して、大佐は僕に問いかける。

Σz ゚ー )リ 「……ええ、少し」

( ФωФ) 「臭かったであろう、あの竜舎だけ」

他の竜舎では感じなかった悪臭は確かにあった。
原因も何となく気が付いていた。
アムリタの竜舎の床は、異様に汚れていたのだ。
おそらく、糞尿で。

( ФωФ) 「掃除が行き届いていないのは、奴が人間を寄せ付けないせいである」

( ФωФ) 「竜舎に立ち入るものは誰であれ、吠えられ、攻撃されて追い出される」

( ФωФ) 「吾輩も、アムリタにあそこまで近づいたのは今日が初めてである」

酷く汗をかいたよ、と、大佐は気さくに笑って。

( ФωФ) 「アムリタが人を嫌うのはな、母親を人間に殺されているからである」

( ФωФ) 「スニフィ」

( ФωФ) 「君が浴びた竜の血は、アムリタの母親のものである」

('A`) 「あ」

運転手が声を上げた。

('A`) 「2年前の、狂竜討伐」

('A`) 「ああ、それで、ハイナル街に居たのかスニフィは」

25 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:54:45 ID:8ltjl7rE0

Σz ゚ー )リ 「狂竜討伐?」

聞きなれない言葉をオウム返しに呟いたところで、僕の脳裏に思い出が蘇る。
銀の雨が降りしきる中、家路を急いだあの日のことを。

Σz ゚ー )リ 「雨の日の、爆発音……」

( ФωФ) 「あれは雨ではない。傷を負いながらも飛び回って逃げ続けた、アムリタの母の血液である」

('A`) 「まさか、それ浴びたからって竜人になったとか言わないッスよね」

( ФωФ) 「そのまさかであるよ」

( ФωФ) 「スニフィ、君以外の竜人は皆、胎児の頃から竜の血液を投与して生まれている」

( ФωФ) 「ここにいるドクオも含めてな」

('A`) 「だって、竜の血浴びただけで竜人になるなんて、聞いたことないッスよ」

('A`) 「それが本当なら、ハイナル街は竜人だらけじゃないッスか」

( ФωФ) 「恐らく、幾つかの条件が重なったのだろうとハインリッヒは言っていたよ」

( ФωФ) 「生傷だらけの子供が十分以上浴び続けたら、もしかしたらあり得るかも、とな」

('A`) 「生傷ぅ?」

( ФωФ) 「スニフィの鱗は、他の竜人に比べ発達している」

( ФωФ) 「騎竜兵として日々戦闘するお前たちよりも傷を負う日々を送っていたという、何よりの証拠である」

( ФωФ) 「まあ、深くは聞くまい」

('A`) 「まあ親殺しってことで大体想像つくッスけどねぇ」

( ФωФ) 「お前はもう少しデリカシーを覚えるである」

.

26 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:55:06 ID:8ltjl7rE0

新入りの僕にあてがわれた初めての仕事は、アムリタの竜舎の掃除だった。
アムリタは竜舎の隅に丸くなり眠っていた。
僕は散らばる寝藁をかき集めて外に出し、床に水を流して糞尿を洗い流す。

竜人以外は竜に近づけない。

彼らの爪は人間の肌などいともたやすく裂いてしまう。牙は人の背骨までかみ砕いてしまう。
竜人である僕は、その危険がない。
それでも竜に近づくのは怖かった。

('A`) 「どうだった?」

Σz ゚ー )リ 「はい、掃除完了しました」

('A`) 「食われなかったのか」

Σz ゚ー )リ 「はい」

('A`) 「よかったな」

( ^ω^) 「おいすー」

('A`) 「のんきな顔が来たぞ」

( ^ω^) 「僕はブーンだお、でそっちのへちゃむくれがドクオ」

( ^ω^) 「宿舎に案内するお」

('A`) 「よろしく頼む。どこだね、案内したまえ」

( ^ω^) 「お前には言ってない」

27 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:55:27 ID:8ltjl7rE0

僕にあてがわれたのは小さな一人部屋だった。
正確には、二人部屋を一人で使うことになった。

この施設に、女性の竜人は僕ひとりだったから。

Σz ゚ー )リ 「……ふぅ」

一人になったのはいつぶりだろう。
あの日からずっと、監視や拘束がついていたから。

備え付けの棚の中に、僕の財産のすべてが詰まった小さな鞄が置いてある。
思う存分ぼんやりしていい加減孤独を持て余した僕は、鞄の中をまさぐった。

手垢のついた小さなノートを取り出す。
姉が、あの慎ましく優しい静かな姉が、一つだけ大事にしていた手帳だった。

軍の検閲は入ったのだろうが、見たところ手帳はそのままの姿だった。

開こうとして、その手を止めた。

姉の心を覗くのが怖かった。
僕が苦しめて死なせてしまった姉の、その心の在り方を見る勇気は僕にはなかった。

Σz ゚ー )リ 「お姉ちゃん」

Σz ゚ー )リ 「ごめんね」


僕らの家は、どうなっているだろう。
姉の墓参りはできるのだろうか。
母と姉は、同じ墓に眠っているのだろうか。

だったら、寂しくないかな。
僕もいつか、そこに入れるだろうか。

僕のこの体は、ちゃんと死ねるのだろうか。
死に方が見つかるまで、僕は、生きようと思う。

28 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:56:02 ID:8ltjl7rE0
───


竜に鞍を付けることはない。
もちろん手綱もだ。

つかまりやすそうなでっぱりがいくつもあるような、そんな見た目に反して、アムリタの身体はつるつると滑る。
それでもなんとかしがみついて僕は登る。
しがみつくときに爪が刺さり、アムリタが身をよじる。

Σz ゚ー )リ 「あっ、ごめん」

爪を立てないように気を付けながら、滑り落ちないように踏ん張りながら、
ようやく首の付け根にたどり着く。

Σz ゚ー )リ

Σz ゚ー )リ 「……高い」

アムリタ、君はいつもこんな高さから世界を見ていたのか。
空がぐっと近づいて、人は随分とちっぽけに見える。

風が強く吹いた。
ひとつ、羽ばたいただけで、僕は空の上にいた。


Σz ゚ー )リ

Σz ゚ヮ )リ 「すごーい」

僕は、空の上にいた。

29 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:56:27 ID:8ltjl7rE0

空だ。
まっすぐに空に落ちていく。
頬を切る風が耳元で騒がしい。でも、とても静かだ。

空に出て分かった。
翼のない僕だけど、僕の体は空のためにある。
空は僕のためにある。

アムリタは僕の翼となって、強く、力強く空をこぐ。
空だ。空だ。空だ。
爪が、肌が、鱗の一枚一枚が、空に洗われて喜びに震えている。

この胸の粟立ちはなんだ。

ああ。

Σz ゚ー )リ 「……楽しい」

Σz ゚ヮ )リ 「楽しい」

Σz ゚ワ )リ 「たのしい!」



脳裏に姉の声が鳴り響く。

(#゚;;-゚) 「楽しい? スィ」

Σz ゚ー )リ

楽しくなんかないよ。
姉の命を奪った僕に、幸せになる権利なんかないんだよ。

目を閉じると、空なんてただ寒くてうるさいだけの場所だ。

30 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:56:53 ID:8ltjl7rE0

朝起きて、竜舎の掃除をする。
アムリタに食事を与えて─なんと竜は果物を食べるんだ─そして、毎日空を飛ぶ。

時々、任務があった。
先輩竜人とそのバディである竜と一緒に、偵察に行った。

戦闘はしたことがなかった。

朝から晩までアムリタと共にいた。
言葉は交わせなくとも、僕らは兄弟のように仲良くなっていった。

時々、アムリタの竜舎で寝た。

夜、あんまりにも眠れなくて、毛布一枚持ってアムリタの竜舎に忍び込んだ。
いつもと違う時間に現れた僕に最初はちょっと戸惑っていたようだけど、アムリタはただ黙って、身体をずらした。
空けてくれたスペースに滑り込むと、アムリタは僕に寄り添ってくれた。

お互いの呼吸を聞いていた。
背中に何かが当たる。アムリタが鼻先をこすりつけていた。

Σz ゚ー )リ 「アムリタ、どうしたの?」

きゅう、と竜は鼻を鳴らす。

Σz ゚ー )リ 「僕、ここにいたら邪魔かな」

僕がそう問うと、アムリタは動きを止めた。

次は毛布を持ってこなくてもいいや。
思っていたより柔らかい寝藁と、スローテンポで刻まれる鼓動に包まれて、僕はすぐに眠りに落ちた。
ゆりかごより寝心地がいいな、と僕は思う。ゆりかごで眠った記憶なんてないけれど。

寝て、起きて、食べて、飛んで、疲れて眠る。
そんな日々の繰り返し。
先輩の騎竜兵は戦いに出ていたけど、僕とアムリタは戦線に呼ばれることはなかった。
届け物や偵察程度、それも先輩と一緒だった。

Σz ゚ー )リ 「僕がまだ子供だからかな」

戦いなんてしたくはないけど、役立たずでいるのも、少し辛い。

31 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:57:19 ID:8ltjl7rE0

ある日、竜舎の屋上にある鐘が、高らかに鳴り響く。
タカラという名の騎竜兵のバディである竜が死んだのだ。

戦地から一人帰還したタカラは、いつもと変わらぬ笑顔で過ごしていた。
バディを失うって、翼を失うって、どんなにか辛いだろう。

Σz ゚ー )リ 「……」

( ^ω^) 「どうしたお、憂鬱そうな顔して」

食堂でブーンが声をかけてくる。

Σz ゚ー )リ 「相棒を失うって、どんな気持ちなんだろうって」

( ^ω^)

( ^ω^) 「覚悟は、しておいた方がいいお」

( ^ω^) 「竜人と竜は、違う生き物だから」

Σz ゚ー )リ 「どういう事?」

( ^ω^) 「きっといつか、別れがくるお」

( ^ω^) 「そう思ってた方が、気が楽だお」

('A`) 「もっとハッキリ言ってやったらいいだろ」

( ^ω^) 「ドクオ」

('A`) 「俺たち竜人は竜を─」

( ^ω^) 「ドクオ、そこまでだお」

('A`) 「甘ちゃんが」

32 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:57:39 ID:8ltjl7rE0

次の週、ドクオが長年連れ添った、クーという竜が死んだ。青い綺麗な遺体を前に、ドクオはただ黙って立ちすくんでいた。何度も、顔を撫でていた。

Σz ゚ー )リ 「……竜も、死ぬんだね」

僕はアムリタの母の血を浴びた。アムリタの母が死んだ日に、僕は竜人として生まれた。
想像できなかった。
アムリタがどんな死に方をするのか、想像できなかった。

.

33 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:58:04 ID:8ltjl7rE0
─────
───


( ^ω^) 「お、スィ」

Σz ゚ー )リ 「こんちわ」

( ^ω^) 「随分慣れたおね」

Σz ゚ー )リ 「?」

さっきのフライト、見てたお、と彼は窓を指さした。

( ^ω^) 「もうすっかり乗りこなしてるおね」

Σz ゚ー )リ 「そうかな」

( ^ω^) 「自信もっていいお」

('A`) 「あ、いたいたスィ」

( ^ω^) 「ドクオもさっきの見てたかお?」

('A`) 「ん? 俺はスィを呼びに来ただけだ」

Σz ゚ー )リ 「?」

('A`) 「大佐がお呼びだぜ」

( ^ω^) 「おー……」

.

34 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:58:34 ID:8ltjl7rE0

( ФωФ) 「アムリタを殺せ」

Σz ゚ー )リ 「……へ?」

( ФωФ) 「明日、アムリタを死なせよ」

( ФωФ) 「スニフィ」

( ФωФ) 「竜人は、そのために生を得たのだ」

指令が下された。
武器の支給はない。ただ日時を指定されて、部屋へと返された。

('A`) 「俺たち竜人は竜を─」

あの日のドクオの言葉の続きが今なら分かる。

('A`) 「─滅ぼすために、生まれたんだ」

僕の爪がアムリタを殺す。
僕の牙がアムリタを殺す。

竜人 それは竜を殺すために生まれた生き物だ。
人類が竜に対抗するための最終手段。

人は武器を作った。竜を手なずけようとした。
全ての理想をかなえたのが僕ら竜人だった。
竜人の爪は竜を殺す。

僕ら、ではない。
僕は望まれずして生まれた竜人だから。
僕の爪も、竜を殺せるのだろうか。
.

35 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:59:07 ID:8ltjl7rE0

( ФωФ) 「スニフィに、やれるだろうか」

<_プー゚)フ 「相討ちでも構わないよ、野生は役に立たないから」

( ФωФ) 「失敗したときには」

<_プー゚)フ 「竜砲でふたりとも殺せ」









( ФωФ) 「竜砲を、用意するである」

('A`) 「はぁ」

( ФωФ) 「そんな顔をするでない、万一の為にだ」

('A`) 「生憎、この顔は生まれつきでして」

( ФωФ) 「出番はないと信じているである」

('A`) 「だといーっすけど」

.

36 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:59:33 ID:8ltjl7rE0

静かに眠っていたアムリタは、僕の足音を聞いてか巨躯を揺すらせた。
片目を開いて、僕を見ている。
自分のことを殺しに来た僕を、じっと見ている。

Σz ゚ー )リ 「アムリタ」

竜は答えない。

Σz ゚ー )リ 「一緒にさぁ、逃げちゃおうか」

死ななくていい世界へ。
殺しあわなくてもいい世界へ。

アムリタの背にいつものように乗っても、彼は飛び立とうとはしなかった。
頭を垂れて、僕を待っていた。僕の爪を待っていた。

暴れると思っていた。
抵抗されて、暴れて、刺し違えになるかもと、なってもいいやと、思っていたんだ。

僕は死ぬチャンスもなく、ただアムリタを殺す。
粛々と死を受け止める友の命をこの手で奪うのだ。

Σz ゚ー )リ 「……ねぇ」

Σz ゚ー )リ 「一緒に逃げようよ」

Σz ゚ー )リ 「一緒に、生きようよ」

瞼を閉じて、じっと僕の声を聴いているアムリタの、その顔に触れる。
そっと触れると、アムリタはうっすらと瞼を開いた。
僕らは見つめあう。

37 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 22:59:55 ID:8ltjl7rE0

僕らは見つめあう。お互いの姿を確かめ合う。
死を前にして、別れを前にして、僕らに残された道は一つしかなかった。
それはあまりにも背徳的で避けてきた道だ。
できることならこんな思いから目を背けて、あたたかな日々を送っていたかった。
きっと彼も同じ思いで、だからこそ今日まで僕らはこうして、兄弟のように仲睦まじく過ごしていたのだ。
でも僕らに残されたのは今日しかなかった。だから。だから。

Σz ゚ー )リ 「一緒になろうよ」

僕らは惹かれあう。
強く、つよく、抗えない程に強く。

38 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 23:00:17 ID:8ltjl7rE0

アムリタの身体から芳香が立ち昇っていた。
嗅いだら身体が熱くなるような、そんな強い香りだ。
熱くて熱くて、熱を持て余して、僕らは近づく。
触れあって、熱を確かめ合って、熱を交換して。
拍車がかかって僕らはぶつけあう。
欲望をさらけ出し、粘膜をこすり合わせる。
抵抗はしなかった。
受け入れきれなくて、たとえ壊れてしまっても、それでもいいと心から思った。

僕の身体の準備はできていた。
十分に湿って。

アムリタの中心は僕の熱源を探るようにひっきりなしに前後していた。
入り口を探して暴れ回る彼をいざなう。
深い奥地へ。
鋭い痛みと強い幸福が僕を満たす。
痛みはだんだんと快楽へと変わる。



熱が果てて、
僕はアムリタを分解する。

爪で皮膚を貫いて、
銀色の血があふれ出す。

アムリタの爪が僕を貫いた。
銀色の海に溺れていく。

生と死のはざまで僕たちは溶け合った。
お互いの熱で身体を温め続けた。
アムリタの身体が冷えて、硬くなってしまっても、ずっと。

こうして僕は死に方と翼を失ったのだ。
僕の手で、葬ったのだ。姉も、母も、友も。

39 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 23:00:54 ID:8ltjl7rE0


ひとりきり、部屋の壁を見るのにも飽きて、姉の手帳を開いてみる。
今の僕の心なら、姉のどんな言葉でも受け入れられる気がした。
姉の恨みつらみで、僕の心を貫いてほしかった。
責めて、責めて、責めぬいて、許さずにいて欲しかった。
僕自身が僕を許せないから。

擦り切れた表紙をそっとめくる。
姉の字が、声になって聞こえてくる。

Σz ゚ー )リ 「お姉ちゃん」

(#゚;;-゚)

姉の生きた証だ。
周囲の目から隠すように、いつも背中を丸めて書いていたのは、詩のようなものだった。
やさしい言葉が並んでいた。
傷だらけの姉とは裏腹に、暖かくて幸せな世界がそこにあった。

Σz ゚ー )リ 「お姉ちゃんは、今、こんな世界にいるのかな」

Σz ゚ー )リ 「天国って、こんなところだといいな」
.

40 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 23:01:17 ID:8ltjl7rE0




スィ

僕の名が現れた。名を呼ばれてハッとする。
気づけば、最後のページだった。

手帳の最後のページに、姉の文字が刻まれている。
僕にあてた手紙だった。

姉はいつ、これを書いたのだろう。

─────
───


竜は 竜にしか殺せない
スィ
どうか いつまでも いつまでも 幸せに生きて


───
─────


自ら命を絶つ前だろうか。
姉は僕を恨んで死んでもいいのに、最期まで僕の幸せを祈ってくれていたのだ。

41 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 23:01:39 ID:8ltjl7rE0




姉の死に方を忘れられはしない。
白くて細い首に食い込んだ縄をちぎりたかった。
あまりにも穏やかな死に顔にその手は止まった。
彼女はそれを望んでいたのだ。




.

42 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 23:02:05 ID:8ltjl7rE0




母は死ぬとき、どんな顔をしていただろうか。
背中を貫いたから、顔は見えなかったはずだ。
でも僕の記憶の中で、母は微笑んでいる。
優しい笑顔で愛してくれる母を、僕は抱きしめながら貫くのだ。






.

43 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 23:02:27 ID:8ltjl7rE0





アムリタは静かだった。
死を静かに受け入れていた。
彼はこれを望んでいたのだ。





.

44 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 23:02:51 ID:8ltjl7rE0

アムリタが息絶えて、この世界から竜は絶滅した。
そうして僕は不死の身体を手に入れた。

翼も持たず、空も飛べず、死ぬことすらできないこの体を。

空の飛び方を知りたい。
死に方を知りたい。


どうか いつまでも いつまでも 幸せに生きて

幸せに生きるのって、どうしたらいいんだろう。
答えが見つからず、僕は途方に暮れる。
姉の祈りが僕を呪う。




竜を喪った世界において、竜人たちが覇権を握った。
人間より強い身体と、するどい爪、そして専用兵器で武装して、戦線で活躍していた。
僕にも一通りの武装が与えられた。
武装は嫌いだ。重いし、痒くなるし、苦しい。
時々僕の意思に反した動きをする。拘束具みたいだ。

そして野生の僕に出番はない。
毎日、同じ訓練を繰り返している。

翼を失って、僕はただ地面を這いつくばって生きている。
地面に縛り付けられている。

45 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 23:03:32 ID:8ltjl7rE0

始まりは痒みだった。
背中のむずがゆさが続き、イラついていた。

手が届かない位置が無性に痒くて、刺激できるものを探す。
部屋の柱にこすりつけても、治まりはしなかった。

そのうちに火照りが訪れた。
顔が熱くなり、思考がぼんやりとし始める。

どうしようもない浮遊感と全身に広がる痒みにうなされて、暴れ回っていたらいつしか気を失っていた。






やがて冷たい朝が訪れた。

目が覚めると、全身にびっしょりと汗をかいていた。
汗を吸ったのか、身体にかかった布団がとてつもなく重く、僕を押しつぶしていた。

重たい布団をやっとの思いで蹴とばすと、それは前の僕だった。
僕の形をした皮だった。

抜け殻を捨てて、僕はさらに強い体を手に入れた。完全な不死だ。


竜は竜にしか殺せない
スィ
どうか いつまでも いつまでも 幸せに生きて

────
───


46 ◆8MZnxtWeys:2021/10/23(土) 23:03:56 ID:8ltjl7rE0






Σz ゚ヮ )リ 




床に座る僕を、僕は空から見ている。
背中を丸めて息を止めると、背中がパックリと割れて翼が生えてくる。
大きな翼をはためかせて、空を自由に飛び回る。
旋回しながら高く高く舞い上がる。僕はどんどん小さくなる。

空は広い。
自由に飛び回る夢を見ながら、小窓から空を見つめる。
鉄格子のはまった窓の向こうで、空はどこまでも青かった。

僕は空を眺める。
いつまでも。いつまでも。



47名無しさん:2021/10/23(土) 23:25:14 ID:Jwhc155.0


48名無しさん:2021/10/24(日) 01:00:44 ID:/.pHLt3E0
うーむ、何とも言えないもやもや感

49名無しさん:2021/10/25(月) 18:50:23 ID:tbgUZxgw0
少しは救われた……のかな?

50名無しさん:2021/10/26(火) 00:45:28 ID:qIkVT3SM0

なんとも不思議な話だった

51名無しさん:2021/10/26(火) 13:10:11 ID:Cbgfg10Y0
おつおつ
好き

52名無しさん:2021/10/28(木) 07:17:56 ID:mSzNudEY0
乙…
まったく心が晴れず救いがない話だった

53名無しさん:2021/11/21(日) 12:13:00 ID:0YfyvWXQ0
素晴らしい作品をありがとうございました(スキャンしなおした投票絵です)

https://downloadx.getuploader.com/g/3%7Cboonnews/215/%E7%A9%BA%E3%81%AE%E9%A3%9B%E3%81%B3%E6%96%B9%E3%81%AE%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%A7%E3%81%99%20%282%29.jpg

54名無しさん:2021/11/21(日) 13:24:12 ID:vNTIEH2c0
>>53
めっちゃいい


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