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混声合唱組曲「青い小径」をモチーフとした四つの群像劇

1 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:26:04 ID:9utyoP.A0

Motif

混声合唱組曲「青い小径」
詩 竹久 夢二
曲 森田 花央里
https://kaorimorita.net/choir/mixed/mixed-blue-path/



- 人は一度この小径をゆけば、もはや再び帰らないだらう。 -
 竹久 夢二


.

7 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:32:14 ID:9utyoP.A0

『ギコ君の誕生日プレゼント、今年はどうすればいいかな?』
『しぃん家に誘われた……。どうすりゃいいんだ?』

このバカップルは、事あるごとに赤裸々に自分たちの関係をさらけ出す。
そのくらい、二人の間で解決しろと思わないでもないが、親友としてそこまで踏み込んで話してくれるのは嬉しくもあった。


モナーが自身の恋心に気付いてからも、相も変わらず相談は続く。

『今度の連休のデートの行き先はVIP cityモナ』
『かぁ〜! 俺達まだ高校生だぜ!? 交通費だけでも馬鹿にならないのに、ゼータクだな……』
『まあまあ、今回もあいつらのために一肌脱いでやるモナ』
『よっしゃ、じゃあモナーはオススメのデートスポットをピックアップしてくれ。俺はいい感じにルートを考えてみる』
『さすが! モララーは頼りになるモナ!』

はじめは目を背けていた。きっと、この想いが通じることはないし、親友同士四人の関係性を崩したくはなかったから。
こうやって二人のためにモララーと動くのも、心の底から楽しかった。

8 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:33:16 ID:9utyoP.A0

『しぃって可愛いモナ……。付き合ってみたいモナ』
『何言ってんだよ、ギコにぶん殴られんぞ』
『ハハハ、冗談モナ、冗談……』

けれど、日に日にしぃへの想いは高まっていく。
しぃが振り向いてくれる可能性は、限りなくゼロに近い。いや、これでも都合の良すぎる解釈だ。
ゼロだ、間違いなく。
それでも、ゲーム内の会話文のように、心の中の選択肢から「告白する」が消えることはなかった。それが、Badエンド確実だろうと。


[しぃに告白しますか?]

【告白する】← 【諦める】

.

9 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:34:52 ID:9utyoP.A0

―――美術室にはモララーしか居なかった。
美術部の部員はモララーただ一人だけなのだから、当然ではあった。

(;・∀・)「どうした!? その傷は……」

彼には申し訳ないが、自分の感情の整理に付き合ってもらおう。
やはり、持つべきものは親友だ。

(#)∀`)「しぃに、告白したモナ……」

(;・∀・)「はぁ!?」

以前から、モララーにはそれとなく、しぃへの想いは仄めかしていたつもりだった。
……だが、この反応を見るに、冗談だと思われていたらしい。
やっぱ、親友だからってすべてが通じるわけじゃないか。ちょっと、残念。

(#)∀`)「僕はしぃのことが好きなんだモナ」

10 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:35:52 ID:9utyoP.A0

(; ∀ )「……ギコに、やられたのか。それは」

モララーがモナーの頬を指し示す。

(#)∀`)「親友の彼女に手を出そうとしたんだモナ。やられて当然モナ」

(; ∀ )「当然って……、あの野郎!」

流石我が親友。まるで自分のことのように憤ってくれる。
だけれども、今殴り込みに行かれても困る。
モナーは、立ち上がろうとしたモララーを手で制して続ける。

(#)∀`)「しぃに、振られちゃったモナ」

改めて声に出すと、なかなか辛い。恋が叶わなかったという事実が、聴覚を通じてじわじわと浸み込んでくる。

(; ∀ )「……本気、だったのか?」

お、聞いてくれるか、親友。

(#)∀`)「本気じゃなかったら、告白なんてしないモナ」

(#)∀`)「親友のはずだったんだけど、しぃを僕のものにしたかったモナ」

この感情は否定できるものではない。

(#)∀`)「まあ、その結果が、これなんだけど、モナ……」

11 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:37:11 ID:9utyoP.A0

もしも、しぃやギコとの出会いが最近で、二人が付き合っていることを知らなければ、無邪気に告白して断られて、諦めも付いただろう。
しかし、実際は何もかも分かりきったうえで、それでも、彼女のことを好きになってしまった。

(; ∀ )「お前は、それでいいのかよ」

なかなか厳しいところを突いてくる。けれど、自分は彼にそれを求めていたのかもしれない。
諦めもできず、だからと言って、再挑戦することもできず。ただただ親友に吐露してばかり。


―――こんな思いをするのなら、しぃのことを好きにならずにいれば良かったのか。


(#)∀ )「そんなの、無理に決まってるモナ……」


行き場を失ったモナーの感情が、静かに、零れ落ちた。

12 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:38:08 ID:9utyoP.A0



2. 花火 (,,゚Д゚)

- うつくしきものは なべてはかなし -


.

13 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:39:10 ID:9utyoP.A0

空き教室へ入るしぃをギコが見たのは、全くの偶然だった。

いつもはエナメルバッグに入れていた制汗剤を、体育終わりの着替えの時に使ってそのまま机に入れっぱなしにしていたのだ。
部活に絶対に必要なものでもないが、なんとなく、バッグに入れておきたい。だから、教室に取りに戻るつもりだった。
教室の扉に手を掛ける直前、気配を感じて振り返ると階段を上るしぃ。吹部が使う多目的室は、下の階ではなかったか。気になって後を追ってみた。

14 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:40:32 ID:9utyoP.A0

―――まずは、自分の耳を疑った。
付き合ってください、だなんてそんなバカな。

そして、自分の目を疑った。
自分には見せたことのない表情を、しぃはモナーに向けていた。美しかった。


(;´∀`)「―――! ―――!!」

モナーがしぃの好きなところを矢継ぎ早に捲し立てている。ギコが知っているものもあれば、知らない姿もあった。
例えば、毎日牛乳を飲んでいるのは、誰もが知っている。背を伸ばそうと努力する様が、愛らしい。
フルートを吹く後ろ姿は見たことがない。ホルン、とかいう楽器を担当するモナーの特権だろうか。


(* ー )「―――!」

しぃの瞳は、驚きと戸惑いを見せつつも歓喜の色を湛えており、頬は紅潮している。
どれだけ自分がしぃと向き合ってきても、決して浮かべることのなかった表情を、彼はいとも容易く引き出した。



腹の中にどろっとした、どす黒いモノを感じる。その一方で、頭の中は真っ白になっていた。


.

15 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:41:44 ID:9utyoP.A0

気付けばモナーを殴り飛ばしていた。
ふざけるな。どれだけしぃのことを愛してきたかは、紛れもない親友のお前が分かっているはずだろう。


(+)∀`)「……あー、うん。わかってるモナ、わかってるモナ」

(#,, Д )(……は?)


「わかってる」って何だ。分かっているなら、どうして……。


拳に訴えかけたところでどうにもならないことは理解している。

(#,, Д )「―――!!」

(#)∀`)「ぶへぁ」

それでも、目の前の親友に二発目を打ち込まずにはいられなかった。

16 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:43:03 ID:9utyoP.A0

(#,, Д )「……くそっ!」

苛々が収まらない。幼い頃から、すぐに感情的になるのが短所だと周りから指摘されてきた。
この性格が原因でしぃと喧嘩したこともある。それでも彼女との関係を続けてこれたのは、モララーと、そしてモナーの協力があったからこそだ。


ふと、鼻孔に柔らかい香り。
目を向けると、いつの間にかしぃが近付いていた。

(,,゚Д゚)「しぃ……」

(*゚-゚)「……」


ぱしんっ……!


しぃの小さな掌がギコの頬を引っ叩いた。

(,, Д )「……」

そして、彼女は床に崩れたままのモナーの方へ腰を下ろす。

(*゚ー゚)「大丈夫? 立てる?」

鈴の鳴るような優しい声と共にモナーに手を伸ばすしぃ。
彼に向ける表情は、まるで聖母のように思えた。この表情も、ギコは見たことがない。

17 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:44:16 ID:9utyoP.A0


(,, Д )(……痛い)


モナーを殴った己の拳が痛い。
しぃに打たれた己の頬が痛い。


悔しかった。
まず、親友だと思っていた男に、愛する女を盗られそうになったのが悔しかった。
次に、その愛する女が、自分以外の男に対して、自分でさえ見たことのない笑みを向けたのが悔しかった。
三つ目に、それを許容できず暴力にしか訴えることのできない、自身の浅薄さが悔しかった。
そして、今まさに眼前に居る愛すべき女、しぃの姿形が、酷く醜く思えてしまった。それが、何より悔しかった。


(,, Д )(……俺は本当にしぃのことが好きだったのか?)

こんなことで愛が褪せるほど、しぃへの想いはちっぽけだったのか。
いや、こんなこと、で済ませられるようなことではないか。大切な親友であるモナーが、何年もかけて培ってきたしぃとの愛を揺るがす事態を引き起こしたのだから。
でも、だからと言って、こんなにも簡単に自分の熱情は冷めてしまうものなのか。

18 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:45:40 ID:9utyoP.A0

気付くと、モナーがしぃの手を借りて立ち上がっていた。そして二人が向かい合う。
さっきまでの、腸(はらわた)が煮え繰り返るような感情は、ない。


(*゚-゚)「モナー君。私、モナー君が『好き』って言ってくれたの、すっごく嬉しかった」

(#)∀`)「……」

モナーの頬は赤く腫れ上がり、唇の端からは少量ではあるが血が垂れていた。

(* - )「だけど……、私はモナー君の気持ちに応えることはできないや……」

(#)∀ )「……」

モナーが天井を仰ぐ。無理矢理口角を上げようとするが、頬の痛みと心の底の悲痛な叫びに引き摺られるせいなのか、ぴくぴくと痙攣している。
その様を見ると、本当にモナーはしぃのことが好きなんだな、と思う。
果たして、自分はこれほどまでにしぃを愛してきたのだろうか……。

19 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:47:18 ID:9utyoP.A0

(#)∀ )「しぃ、ギコ……」

(*゚-゚)「……」

(,, Д )「……」

(#)∀`)「ごめんモナ」

今にも泣き出しそうな声を、モナーは絞り出した。
目の焦点は定まっていない。

(*゚-゚)「!」

(,, Д )「……」

そして、逃げるように教室を去っていった。
……しぃの表情は、よく分からない。


(,, Д )(最低だな、俺……)

.

20 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:48:55 ID:9utyoP.A0


『大きくなったら、ケッコンしようね!』

幼い頃に、こんな約束をした記憶がある。当時の彼らに、恋愛感情という概念はなかった。


『小さい頃から、ケッコンする〜って約束してたもんな』
『そんな時からの約束を守るなんて、素敵ねぇ』

何をするにも四人で事を成してきた。その中でも、互いの家が近かったこと、体格が良く何かと他の二人よりも頼られることが多かったことから、取り分けしぃとギコの距離は縮まっていた。


『また喧嘩したモナ!? 何があったか話してみるモナ』
『VIP cityデートなら外せない場所が三つある。そこを回るのに最適なルートは―――』

周りの人間もそれが当たり前のように接し、自分たちもそのように振る舞ってきた。


『ギコ君! お誕生日おめでとう! これからも、ず〜っとよろしくね、約束!!』

約束って、何だ。
これからも、延々と守り通さないといけないものなのだろうか。

21 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:50:45 ID:9utyoP.A0

―――二人っきりの空き教室。どのくらい時間が経っただろうか。
しぃが口を開いた。

(*゚ー゚)「ギコ君って、私のこと好きなの?」

(,,゚Д゚)「……当たり前だろ、約束したんだから」


約束がなければ、どうなっていたのだろうか。
彼女を愛してきたはずなのに、今は愛し方が分からない。


(*゚ー゚)「……そっか」

(*゚ー゚)「私は、ギコ君のこと、好きだよ」

眼前の彼女は、愛を示す言葉を口にし、刹那的に笑った。
その瞳はギコの視線と重なることはなかった。

22 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:51:43 ID:9utyoP.A0



3. ゆびきり (*゚ー゚)

- 「マリアさま ゆめ/\ うそはいひませぬ」 おさなききみは かくいひて -


.

23 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:52:43 ID:9utyoP.A0

ギコ君と付き合うようになったきっかけは何だったっけと、しぃは思考を巡らせた。


『大きくなったら、ケッコンしようね!』

どちらから言い出したかは思い出せないが、幼い頃に彼と指切りをした記憶はある。
多分、その場にはモナーもモララーも居ただろう。


『ヒュー! お二人さん、お熱いね!』
『猫田さんと埴谷さん家の子たちは本当に昔からお似合いだったからねぇ』

他愛もない無邪気な約束の呪い(まじない)は二人の口元を離れると、モナーとモララーを加えたいつもの四人に当然のこととして浸透し、やがて周りに居る狭い田舎町の人間にも伝播し、いつの間にか二人の関係を確固たるものにしていた、はずだった。

24 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:53:59 ID:9utyoP.A0

当たり前のはずだった強固な約束。
将来のことは全く想像できないが、いずれかはギコと結婚するものだとさえ思っていた。そう、約束したのだから。
なのに、モナーはしぃに告白してきた。

嬉しかった。あの特徴的な語尾を抑えてまで、彼は真っ直ぐな愛を伝えてきた。

それでも、彼の想いを受け入れることはしなかった。
何故ならば、それをしてしまうと、ギコへの裏切りとなってしまうから。


約束を破ってしまうのは、いけないことだ。

.

25 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:54:54 ID:9utyoP.A0

(*゚ー゚)「ギコ君って、私のこと好きなの?」

モナーの去った二人っきりの空き教室で、しぃは恋人に問い掛けた。

(,,゚Д゚)「……当たり前だろ、約束したんだから」


約束。ギコとの関係のきっかけは、いつぞやの約束だった。
二人の愛を裏付けるのは、幼い頃の無邪気な、約束。


(*゚ー゚)「……そっか」

(*゚ー゚)「私は、ギコ君のこと、好きだよ」


紡ぎ出した愛の言葉は、彼に届いているのだろうか。

.

26 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:56:00 ID:9utyoP.A0

空き教室からはギコも去り、しぃだけがぽつねんと佇んでいた。
いつもはギコと二人で居るか、四人で居るか、そうでなければ部活仲間と一緒に居るため、校内で一人になるのは久し振りだった。
陽はとっくに暮れている。


(*゚ー゚)(結局、『好き』って言ってくれなかったなぁ……)

ここまで築き上げてきた愛が、仮初めのものだったとしたら、悲しい。


不意に、スマートフォンが震える。
見ればチャットが届いており、送り主は、モララー。彼もモナーと共に、ギコとの付き合いを支えてくれた大切な親友だ。

しぃは、自分が空き教室に居る旨を入力し、送信マークをタップした。


文字にすればしっかりと形に残るのに、大切なことは、声という、すぐに消えてしまうもので伝えようとするのはどうしてだろう。
そして、すぐに消えるはずなのに、文字以上に自分たちの中を渦巻いて、残る。

27 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:56:49 ID:9utyoP.A0

数分も経たないうちに、モララーは教室にやってきた。

(*゚ー゚)「モララー君……」

( ・∀・)「あいつから聞いたよ」

あいつ、とはモナーのことだろう。

( ・∀・)「しぃ、何でなんだ?」

(*゚ー゚)「……」

(*゚ー゚)「ギコ君と約束したから、かな」

( ・∀・)「……何だよ、それ」

モララーの投げ捨てるような返答には、明らかに侮蔑の色が混ざっていた。
それに加えて、確かな憤りも存在している。

28 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:57:57 ID:9utyoP.A0

(  ∀ )「っざけんなよ……。あいつは、モナーはっ、本気でお前のことを……!!」

(*゚ー゚)「……」

親友のためにここまで怒りを抱く姿を見て、モナーを羨ましく思った。
ギコが、ここまで自分のために感情を露にすることがあっただろうか。


(# ∀ )「『約束』したら何でもするのかよ!? 死ぬ『約束』をしたらお前は死ぬのかよ、小学生かよ!?」

本当に、子どもみたいだな、と思う。

(#;∀;)「ふざけんな! 何でなんだよぉ! モナーはっ、俺はっ!!」

(#;∀;)「約束って! 馬っ鹿じゃねーの!! ―――!!」

顔をくしゃくしゃに歪めて、わんわん泣き叫んで、モナーの苦しみを代弁する。
目の前に冷静さを失っている人が居ると、案外自分自身は冷静なままでいられる。


(*゚-゚)(最低だなぁ、私って……)


自分のことしか考えない自分が、つくづく厭になる。

.

29 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 22:59:28 ID:9utyoP.A0


―――夜闇に浮かぶ門灯の下、片手で折り畳み傘を差しながら、呼び鈴を鳴らす。しばらくすると足音が聞こえ、ドアが開いた。


(,,゚Д゚)「っ! しぃ……」

(*゚ー゚)「……」

呼び鈴を鳴らした相手を確かめもせずにドアを開けるなんて、不用心だなと思った。


(*゚ー゚)「今日はお父さんもお母さんもいないんだよね? 泊まるね?」

(,,゚Д゚)「!!」


ギコの返事を待たずに、素早く傘を畳んで、靴を脱いでずかずかとお邪魔する。
階段を上ってすぐのドアを開ければギコの部屋だ。左手側にあるベッドに腰掛ける。

(,,゚Д゚)「しぃ……」

(*゚ー゚)「ねえ、ギコ君。ギコ君は、私のこと、どう思ってるの?」

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「可愛い? キレイ? もしかして、エロい?」

(,,゚Д゚)「……ごめん」

(*゚-゚)「……私のこと、好き?」

(,, Д )「……ごめん」

(* - )「そっか」


―――二人の間の約束は、果たされそうにない。

.

30 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:00:39 ID:9utyoP.A0

ギコをベッドに腰掛けるように促し、しぃは口を開いた。

(*゚ー゚)「あのね、あのあと、モララー君に怒られちゃった」

(,,゚Д゚)「モララーが?」

(*゚ー゚)「『約束』って何だよ〜、ふざけるな〜って」

二人並んで会話をするのが、しぃは好きだった。


(,,゚Д゚)「あー、まあ、そう思うよな。……だけど、あいつだって俺らの『約束』を分かったうえで、応援してくれてたんじゃないのか?」

(*゚ー゚)「だよね。でも、あんな剣幕だと、何も言えなくなっちゃった」

(,,゚Д゚)「あいつが怒ることもあるんだな」

(*゚ー゚)「びっくりしちゃった」

ちょっとした拍子に、ギコの腕が身体に触れる。この感覚が、しぃは好きだった。

31 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:02:21 ID:9utyoP.A0

(,,゚Д゚)「で、そのあとはどうしたんだ?」

(*゚ー゚)「声を聞きつけたモナー君がやってきたから、あとはお願いしちゃった」

(,,゚Д゚)「ふっ、ひでーな」

(*゚ー゚)「ギコ君だって、私を教室に置き去りにしたじゃない」

(,;゚Д゚)「それは……」


ギコは、こちらの目を見ようとしない。


(*゚ー゚)「ギコ君、こっち向いて」

(,;゚Д゚)「あー……」

彼の目の焦点は定まらず、黒目が忙しく揺れる。その様が意外と愛らしい。


(*゚ー゚)「ギコ君は私のことが好きじゃないのかもしれないけど、私はギコ君のことが好き」

(,,゚Д゚)「しぃ……」

(*゚ー゚)「だから、約束しよ。一週間以内に、私はギコ君を振り向かせる。だから、ギコ君は一週間以内に私のことを好きになるの」

(,,゚Д゚)「『約束』を責められたのに、また、約束するのか」

(*゚ー゚)「うん」

(,,゚Д゚)「約束を守れなかったら?」

(*゚ー゚)「そしたら、また、約束をする」


果たされない約束もあるだろう。それでも、何度も、何度も約束を重ねていく。
そしたら、いつかは再び事実として、固く結び付くのではないだろうか。


そんな、根拠もない期待を込めて。
雨音だけが響く部屋の中、二人の男女が、指を結んだ。

32 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:02:52 ID:9utyoP.A0



4. あなたの心 ( ・∀・)

- あなたの心は 鳥のやう -


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33 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:04:03 ID:9utyoP.A0

(;・∀・)「どうした!? その傷は……」

四人の中では一番冷静な性格のモララーでも、いきなり美術室に入ってきた、頬に痣を浮かべ唇に血を滲ませたモナーを見て、動転せずにはいられなかった。
だがそれ以上に、口を開いたモナーから発された言葉が、モララーの心に深々と突き刺さった。

(#)∀`)「しぃに、告白したモナ……」

(;・∀・)「はぁ!?」

冗談だと思っていた。
しぃがギコと付き合っているのは周知の事実だったし、まさかそんな彼女にモナーが告白するとは思ってもみなかった。

……いや、正確に言うならば、するわけがないと思い込もうとしていた。
思い返せば、そういう節はあったのかもしれない。
男女別の体育の授業中、サッカーボールを取り損ねたのは、ソフトボールを投げるしぃに見惚れていたからなのだろうか。
しぃの話題になると、モナーの声はほんの少し上ずって力が籠っていた。
「付き合ってみたい」という、「冗談」を耳にしたこともあった。


「冗談」は、「冗談」ではなかったのか。


(#)∀`)「僕はしぃのことが好きなんだモナ」

あっけらかんとモナーは、聞きたくもない自身の想いを口にした。

34 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:05:52 ID:9utyoP.A0

(; ∀ )「……ギコに、やられたのか。それは」

本当に聞きたいことはそれではない。


(#)∀`)「親友の彼女に手を出そうとしたんだモナ。やられて当然モナ」

(; ∀ )「当然って……、あの野郎!」

いますぐにでも、この場を立ち去りたかった。が、モナーに止められる。


(#)∀`)「しぃに、振られちゃったモナ」

彼は吐き捨てるように呟いた。その声はあまりに悲哀に満ちていて、耳にするのが辛かった。
しかし、その言葉に、安心してしまった自分が居た。

(; ∀ )(ダメだ、俺、最低だ)


(; ∀ )「……本気、だったのか?」

本当は、聞きたくない。けれども、目の前で苦しむ彼は、話を聞いてもらうことを求めている。
だったら、それを拒むことはできない。

(#)∀`)「本気じゃなかったら、告白なんてしないモナ」

(#)∀`)「親友のはずだったんだけど、しぃを僕のものにしたかったモナ」

普段決して表すことのない感情を、素直にさらけ出してくれるのは嬉しかった。

(#)∀`)「まあ、その結果が、これなんだけど、モナ……」


その感情が自分に向くことなど、決してないのだが。

.

35 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:07:06 ID:9utyoP.A0


(; ∀ )「お前は、それでいいのかよ」


自分は何を聞いているのだろうか。きっと、良いわけがない。でも、どうしようもない。
だから彼は苦しんでいるのではないか。


(#)∀ )「そんなの、無理に決まってるモナ……」


「良い」でも「悪い」でもなく、「無理」。どれだけ辛かったのだろう。どうして、自分は気付けなかったのだろう、気付かなかったのだろう、気付こうとしなかったのだろう。
そんなに哀しい顔をしないでほしい。

36 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:09:01 ID:9utyoP.A0


当たり前の存在が、特別な存在に切り替わるきっかけは何なのだろうか。
心の中のコップに長年の会話や感情が蓄積していって、ある一定量を超えると恋となって溢れ出るのだろうか。


モナーはその溢れ出た想いを口に出した。けれども自分は……。
できるものなら同じように伝えたい。叶うものなら、これまで親友として付き合ってきた以上に、距離を縮めて共に歩んでいきたい。ずっと、傍に居てほしい。


……そっと、モナーの顔に手を当て、こちらに向かせる。
そして、ゆっくりと自身の顔を近付け、二人の唇と唇の距離を、ゼロにした。


(#)∀ )「!?」

(; ∀ )(何やってんだ俺!? やばいやばいやばいやばい……)

慌てて顔を背けると共に、乱暴にモナーを突き放す。ずん、と壁にぶつかる鈍い音がする。
衝撃で近くの棚の画材がカタカタと鳴った。


(#)д`)「……!!」

(; ∀ )「違う! 違うんだ……!」


いや、違わない。それでも、出てくるのは否定の言葉ばかり。


(#)д`)「モララー……」


否定しなければ、これまで親友として歩んできた道のりも崩してしまいそうだから。
やめてくれ、そんな顔で見ないでくれ。


(; ∀ )「う、うわあああああああああっ!!!」

美術室を飛び出す。
もう、戻れやしないのだろうか。

37 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:09:52 ID:9utyoP.A0

(; ∀ )「クソッ! クソッ!!」

どうしてこんな思いをしなければならないのか。
モナーとは親友同士で、いつの間にか親友以上の感情を抱くようになって、でも、彼はしぃのことが好きで……。


(; ∀ )「何なんだよ……」

しぃはギコと付き合っていたのではないのか。なのに何故、彼女のことを愛するようになったのか。


(  ∀ )(うぜえな……)


それは、親友であるしぃに対して初めて抱いた感情。早い話が、八つ当たりである。
スマートフォンを取り出し、送信先にしぃを選択。
彼女が空き教室に居ることが分かると、モララーは足早に向かっていった。

38 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:10:46 ID:9utyoP.A0

空き教室にはしぃが一人佇んでいる。校内で一人っきりの姿は珍しい。

(*゚ー゚)「モララー君……」

( ・∀・)「しぃ、何でなんだ?」

この問いには二つの意が含まれていた。
何故、モナーの好意を無下にしたのか。
そして、何故、モナーはしぃに好意を持ったのか。


(*゚ー゚)「……」

(*゚ー゚)「ギコ君と約束したから、かな」

( ・∀・)「……何だよ、それ」

(  ∀ )「っざけんなよ……。あいつは、モナーはっ、本気でお前のことを……!!」

こんな奴を、モナーは愛しているのか。あれだけ彼を苦しめるのであれば、せめてギコとは心の底から愛し合うべきではないのか。

(*゚ー゚)「……」

何もかも諦めてしまったように平然と答えるしぃが、ひたすら憎らしい。

39 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:12:15 ID:9utyoP.A0

(# ∀ )「『約束』したら何でもするのかよ!? 死ぬ『約束』をしたらお前は死ぬのかよ、小学生かよ!?」

(#;∀;)「ふざけんな! 何でなんだよぉ! モナーはっ、俺はっ!!」

(#;∀;)「約束って! 馬っ鹿じゃねーの!! ―――!!」

約束は単なるきっかけではなかったのか。
お前らの薄っぺらい愛のために、モナーは、自分は、想いを飲み込まないといけないのか。

いや、仮にしぃとギコが本気で愛し合って、モナーがしぃに対して恋愛感情を抱かなかったとして、果たしてモナーはこちらを向いてくれることはあるのか。


―――唇が触れた直後に彼の見せた、驚きと拒絶の入り混じった顔。


(#;∀;)「あああああああああああぁぁぁあああああ!!!」

(*゚ー゚)「……」

しぃのせいなんかではない。全ては自分の蒔いた種だ。
親友だから、同性だからといって心の真実から目を反らしていたくせに、モナーのしぃに対する特別な感情にも気付かない振りをしていたくせに、いざ彼が告白をしたとなったら、ありとあらゆる過程を吹っ飛ばして己の欲を押し付けたのだから。

40 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:13:18 ID:9utyoP.A0

―――ふと、肩を軽く叩かれる感触。

(#)∀`)「モララー」

振り向くと、愛おしい彼が立っていた。

(#;∀;)「な、んで……」

(#)∀`)「だって、モララーの声、廊下に丸聞こえモナ」

肩を竦めて苦笑する。

(*゚ー゚)「ふふっ」

釣られてしぃも可愛らしく微笑んだ。この笑みにモナーは惹かれたのだろうか。


(#)∀`)「しぃ、申し訳ないけど、モララーと二人にしてほしいモナ」

(*゚ー゚)「……そっか、わかった」

扉へ向かっていくしぃ。その扉に手を掛けた時、しぃはぽつりと呟いた。


(* - )「ごめんね。本当に、ごめん」


その声は震えていた。まるで、あらゆる感情が零れ出ないようにしているかのようだった。

.

41 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:14:54 ID:9utyoP.A0


(#)∀`)「……」


しぃの出ていく様を眺めるモナーの顔はとても優し気で、彼女への愛情がひしひしと伝わってくる。


(#)∀`)「モララー」

その優しい表情が、こちらに向く。

(#)∀`)「さっきはごめんモナ」

そう言うと、彼はモララーをぎゅっと抱き締めた。


(  ∀ )「―――!」

モナーの体温が直接伝わってくる。温かい。

(  ∀ )「俺の方こそ、ごめん」

(#)∀`)「……」

(  ∀ )「嫌、だったよな」


この期に及んで、何て卑怯な聞き方をしているのだろう。
「そんなことないよ」を期待する、モナーの優しさに付け込んだ問い。

.

42 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:16:19 ID:9utyoP.A0


(#)∀`)「正直、軽蔑したモナ」


(  ∀ )「……」

(#)∀`)「親友が失恋したというのに、いきなりキスするなんて……、しかも男同士、どうかしてるモナ」


良かった。モナーは強かった。
心が張り裂けそうなほど辛くはあるが、彼を中途半端に縛り付けることはなさそうだ。


(#)∀`)「弱ってるタイミングなら、チャンスがあると思ったモナ? 馬鹿にしないでほしいモナ」

(  ∀ )「……ごめん」

(#)∀`)「別にいいモナ。僕の方こそ、ごめんモナ」

モナーの、抱き締める力が強くなる。


(#)∀`)「本当はなんとなく、気付いてたモナ。お前が、僕に対して親友以上の想いを抱いてたの」


(  ∀ )「―――!」

43 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:17:30 ID:9utyoP.A0

(#)∀`)「だけど、気付かない振りをしてたモナ。僕もしぃのことを愛してたんだから、お前の気持ちも十分に理解してたはずなのに、それを無視してたモナ」

(#)∀`)「結局僕は自分のことしか考えられない、最低な野郎モナ」

(  ∀ )「そんなこと……!!」

(#)∀`)「僕はモララーの想いを受け止めることはできないモナ。でも、こんな最低な野郎でも、これからもずっと親友として傍に居続けてほしいモナ!」


親友として。
とっくに分かっていたはずではあるが、自分の想いが叶うことがないのだということが、ずん、と圧し掛かる。


(  ∀ )「これからも、一緒に居ていいのか……?」

(#)∀`)「当たり前モナ!」


だけど、心はじんわりと温かい。


( ;∀;)「うぅ……」

(#)∀`)「ぷっ、泣き顔ブサイクモナ!」

( ;∀;)「うるさい! お前だってひでえ顔だろ!」

(#)∀`)「それはギコのせいモナ」


一生誰かを傍に置き続けることは、きっとできないのだろう。
それでも、今、一緒に居ることのできるこの瞬間を、永遠に心に刻むことはできる。

.

44 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:18:29 ID:9utyoP.A0









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45 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:19:23 ID:9utyoP.A0


―――翌朝。


(*゚ー゚)「あ、おはよう……」

(,,゚Д゚)「……よお」

しぃがいつもよりも小さな声で挨拶をする。傍にはギコも立っている。

( ・∀・)「……うっす」

モララーは二人に対して素っ気なく返事をする。

(*゚ー゚)「あ、モナー君、おはよう……」

(//)∀`)「……おはようモナ」

少し遅れてモナーもやってきた。頬にはまだ痣が残っている。
結局、通学路のいつもの集合場所に四人は集っていた。狭い田舎町で十年以上行ってきた習慣は、簡単には変わらない。

46 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:20:46 ID:9utyoP.A0

( ・∀・)「……ギコ」

(,,゚Д゚)「何だ?」


( ・∀・)「一発、お前を殴らせてくれないか?」


殴ったところでどうしようもないのは分かっている。
だが、それはギコもお互い様だろう。


(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「……いいよ」

(,,゚Д゚)「ふっ、お前が答えるのか……」

ギコが微笑しながらのっそりと近付いてくる。


(,,゚Д゚)「いいぜ、来いよ」


どっしりと構えるギコ。改めて向かい合うと彼の体格の良さが分かる。

47 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:21:51 ID:9utyoP.A0

(//)∀`)「やっちゃえ〜モナ」

力の抜けた声で囃し立てるモナー。そして、続けてモララーの名を呼んだ。


(//)∀`)「モララー、本当にごめんモナ」


(  ∀ )「……」


じっとモララーを見つめて、モナーはそう言った。
その真っ直ぐな瞳をしぃにも向けていたのだろう。


(//)∀`)「あと、ありがとモナ!」


(  ∀ )「―――!!」

.

48 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:22:53 ID:9utyoP.A0


一度、空を見上げる。鼻の奥がつんとして、込み上げてくるものを、どうにか飲み込む。
そして、きりっとギコの方を向く。


(#・∀・)「うおおおおお!!!」


(,,゚Д゚)「……!」


(*゚ー゚)「―――!」


(//)∀`)「―――! ―――!!」


モララーの拳がギコの頬を穿つ。
青空へ鳥が四羽、羽ばたいていった。

49 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:23:26 ID:9utyoP.A0



- 青い小径の向こうで、再び帰らぬ、幼き日のあなたと会えますように。 -
 森田 花央里


.

50 ◆W7TGvfhVDc:2021/10/23(土) 23:23:53 ID:9utyoP.A0
以上です。間に合ってよかった

51名無しさん:2021/10/24(日) 01:12:48 ID:AEjPk8qg0
なんやかや良い関係なんやなって

52名無しさん:2021/10/24(日) 14:15:10 ID:UPGH44J.0
乙です!!!

53名無しさん:2021/10/25(月) 08:24:50 ID:cSUJ7GvI0
ものすごく辛い四角関係のはずなのに、ちゃんとみんな腹をおさめたのがほんとに友達なんだなって感じで良い


54名無しさん:2021/10/25(月) 13:57:00 ID:CrIqsGmg0
AAの配役いいね
ギコしぃのその後が気になる!乙

55名無しさん:2021/10/26(火) 19:26:48 ID:HD4.X2ns0

切ないけど爽やかで好き

56名無しさん:2021/10/28(木) 13:41:20 ID:ySTk2TxA0

学生時代の古傷が疼いたわ


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