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( ´_ゝ`)どこへでもいけるようです
1
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:36:30 ID:pn6G8Upg0
雨が降っていた。
ザァ、ザァ、ザァ、と。
空は厚い灰色の雲に覆い尽くされていて、地上は陰の中に。
少年は一人、一心不乱に穴を掘っていた。
ザク、ザク、ザク、と。
濡れた土にスコップが突き刺さり、持ち上がる。
出来上がる穴の脇には、深さの分だけ土が積まれている。
ザララ、ザララ、ザララ、と。
静かに音が繰り返される。
様々な匂いが周囲を漂う。
雨の匂い。
土の匂い。
血の匂い。
少年の背後から10歩ほど先には布のかけられた何かの山。
所々人の手足が見え隠れする、大きな山。
少年はただ、いつものように、穴を掘り続けている。
53
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:19:19 ID:pn6G8Upg0
つーはこんな風にでぃが自分の思っていることを語ってくれることが嬉しいのと同時に、
何とも言えないもどかしさも感じていた。
自分と同じように夢を持つ友人が、それを叶えるためのスタートラインにさえ立てないんなんて。
この場所から解放してあげられないことに、つーは強い憤りを覚えた。
そんな気持ちが一気に膨らんで、つーはずっと気になっていた問いを口にすることにした。
(*゚∀゚)「あのさ、もし言いたくなかったら言わなくていいんだけどさ」
(#゚;;-゚)「ん」
(*゚∀゚)「でぃは生きてるとき、どんなことをしている人だったの」
54
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:19:47 ID:pn6G8Upg0
でぃがこの場所にこんなにも強くとらわれているということは、
なんとなくいい話ではないような気がして今まで聞くことができなかった。
しかしここを離れられるきっかけが過去の中になにか隠されているとしたら、
そう思うと聞かずにはいられなかった。
もちろん、アニは10年以上もでぃのためにここにとどまり色々なことを試しているはずで、
自分にできることはもしかしたら何も残ってないのかもしれない。
それでもなんとか助けになる方法を模索したくて、その糸口を探していた。
(#゚;;-゚)「……そうだね、つーにはいつか話さなきゃ、というか話したいって思ってた」
でぃは顔を俯け少しの間黙った後、決意したようにこう口火を切った。
(#゚;;-゚)「あまり気持ちのいい話ではないんだけど、ごめんね」
55
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:20:42 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「ぼくが生きていたのはもう百年ほど前のことになるんだけど」
(#゚;;-゚)「酷い時代だったよ。あちこちで戦争が起きていて、
強いものが弱いものを虐げるのがあの頃の社会の在り方だった」
(#゚;;-゚)「権力者が幅を利かせて、気に入らないことがあればすぐに人を罰する。
恐怖で支配された世の中だった」
(#゚;;-゚)「ぼくはそんな権力者に金で買われた奴隷。
親は子供を売ってお金を得るような人間だったんだ」
(#゚;;-゚)「そこでぼくに与えられた仕事は墓守だった」
(#゚;;-゚)「墓守なんて聞こえはいいけど、要は死体の処理係ってこと」
56
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:21:14 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「ぼくの主人はとても荒っぽい人で、常に村の人に暴力を振るっていた」
(#゚;;-゚)「いうことを聞かない人はいうことを聞くようになるまでぼこぼこにする」
(#゚;;-゚)「でも、加減を知らないからすぐに殺してしまって」
(#゚;;-゚)「ぼくのいた村は全てがその人に支配されていたんだ」
(#゚;;-゚)「ぼくは来る日も来る日も穴を掘って人を埋めた」
(#゚;;-゚)「気に食わないことがあればぼくも殴られたり蹴られたり
することもあったけど、子供には少し甘い人だったんだ」
(#゚;;-゚)「他にも色んな酷いこともされたけど……
ちゃんと与えられた仕事をしていれば、食事と寝る場所をもらえた」
(#゚;;-゚)「生かしておいてもらえていたんだ」
57
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:21:40 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「だから僕は人を埋めた」
(#゚;;-゚)「大した理由もなく殺された人たちを」
(#゚;;-゚)「時々、まだ微かに息のある人がいることがあって」
(#゚;;-゚)「でも僕は死体を埋めるのが仕事だから」
(#゚;;-゚)「その人をスコップで殴って、殺してから埋めたんだ」
(#゚;;-゚)「そう、ぼくは人を殺したことがある」
(#゚;;-゚)「正直言うと、ぼくはそういうとき辛くも苦しくもなかった」
(#゚;;-゚)「心のどこかで気持ち良いとさえ思っていた」
(#゚;;-゚)「人として生きることのできない、何の喜びもない生活の中で」
(#゚;;-゚)「唯一快感を得られる瞬間だった」
58
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:22:23 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「信じられないよね」
(#゚;;-゚)「ぼくは人を殺すことに喜びを感じていたんだ」
(#゚;;-゚)「ぼくは、そうやってここに捉われたんだ」
(#゚;;-゚)「恨みや苦しみを抱いたまま死んだ人たちを何十、何百と埋めた」
(#゚;;-゚)「ここはかつて、その人たちを埋めた墓場だったんだ」
(#゚;;-゚)「そして、最後にはぼくもここに埋められた」
(#゚;;-゚)「体が大きくなった子はいらないって、主人に殺されたんだ」
59
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:23:12 ID:pn6G8Upg0
つーは、息をすることさえ忘れてその話を聞いていた。
そしてでぃの壮絶な過去を聞いて呆然とした。
それほどの暗い過去がでぃに覆いかぶさっていたことを知り、大きな衝撃を受けていた。
(#゚;;-゚)「こんな話で、ごめんね」
それまで感情のこもらない平坦な調子で話をしていたでぃが、いつもの穏やかな声でそう言った。
その瞬間、堰を切ったようにつーの目から大粒の涙がぼたぼたとこぼれる。
(*゚∀゚)「でぃ………つらい話させて、ごめんな……」
つーは止まらない涙を服の袖で抑えながら、伝えたい言葉をしっかりと口にする。
60
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:23:41 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「怖がらないの?」
(*゚∀゚)「怖いもんか。おれはお前のことをよく知ってるんだ」
そのまま涙も鼻水もまとめて袖でごしごしと拭うと、つーはまっすぐにでぃの目を見つめた。
(*゚∀゚)「今お前がどんな奴なのかおれはちゃんと知ってるから、
過去のお前がどうだろうとちっとも怖くなんてない」
つーが淀みなく言うその言葉を聞いて、でぃの頬にも涙が一筋伝って落ちた。
(#゚;;-゚)「ありがとう。本当に。今のぼくを、受け入れてくれて」
涙で震える声には安堵の色が滲み、でぃは心からの感謝をつーに伝えた。
61
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:24:12 ID:pn6G8Upg0
それからというもの、つーはいつもぼんやりとでぃのことを考えているようになった。
恨みに捉われて動けない彼をどうしたら助けてやれるのか、自分にできることがあるのか。
( ´_ゝ`)「なぁ、どうしたんだ。最近元気ないな」
そうしていると、その様子に気づいたアニが心配して声をかけてきた。
つーはアニに相談するということをすっかり忘れていた。
というのも、でぃと2人きりで向き合って気持ちが通じたということで全てが閉じてしまっていて、
つーは自分自身がでぃに対してできることをひたすら考え続けていたから。
いつもなら真っ先にアニに相談するようなところを、初めて自分で抱えて考え込んでしまっていた。
(*゚∀゚)「先生、あのさ」
そこでようやく、そもそもアニは自分よりも先にでぃの問題に向き合ってきているんだから
一緒に考えるべきなんだということに気づいた。
(*゚∀゚)「おれこの前、でぃの過去の話を聞いたんだ」
62
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:24:43 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「でぃは自分が埋めた人たちの恨みに捉われて、あの場所から動けないって」
あの時の、でぃの話の光景が勝手に想像されて頭に張り付く。
凄惨な風景、死んだ目で穴を掘り続けるでぃの様子が目に浮かぶ。
(*゚∀゚)「おれ、どうにかしてでぃをあそこから出してやりたいのに、なんも思い浮かばないよ」
なにも思い浮かばないどころか、自分にはどうせ何もできないという
負の気持ちが背中にのしかかってくるのを感じていた。
(*゚∀゚)「だって、だってさ、先生の花畑があるのにでぃは今もあそこにいる」
力の圧倒的な差なんていうのは理解していて、それでも何かそれだけじゃない、
自分にしかしてあげられないことがあるんじゃないかと探し続けていた。
(*゚∀゚)「恨みを、苦しみを抱えた魂は、導いてあげられないのかな……?」
63
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:25:19 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「そっか、お前はずっとそれで悩んでたのか」
何もできない自分に憤り、友人の憂いをまるで自らのことであるかのように
受け取り苦悩するつーの姿を見て、アニは慰めるように優しく頭をなでた。
(*゚∀゚)「先生もずっとこんな風に悩んできたの?」
アニは10数年前にここで花畑を作り、今日までずっとでぃの魂に寄り添ってきた。
つーにとってたった数日このことで思い悩んだだけでも苦しみは大きく、
それを思うとアニの過ごしてきた日々は途方もないものに感じられた。
(*゚∀゚)「先生は、どうしてでぃを救いたいって思ったの?」
つーはこの苦悩を抱えていこうと決意したそのきっかけを知りたいと思った。
同じ悩みを抱く者として。
64
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:25:55 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「そうだな、なんていうのかな」
( ´_ゝ`)「俺は多分、でぃに過去の自分を重ねて見てたんだと思うよ」
( ´_ゝ`)「俺はさ、居場所がなくてここに流れ着いたんだ」
( ´_ゝ`)「故郷の村で感染症が流行ってな、その流行のきっかけがうちの家族だといわれた」
( ´_ゝ`)「当時は俺自身もそうかもしれなと思って、何も言うことができなかった」
( ´_ゝ`)「今思えば、偶然色んなタイミングが重なったことで理由をこじつけられただけだったんだけど」
( ´_ゝ`)「でも実際、家族はみんなその感染症にかかって俺意外はみんな死んでしまって」
( ´_ゝ`)「たった一人になった俺は村を追い出された」
( ´_ゝ`)「だから一人ぼっちで恨みを背負う苦しみは、俺にも少しわかる気がしてな」
65
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:26:24 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「あと、この花畑を作ること自体に俺は自分の居場所を求めたのかもしれない」
( ´_ゝ`)「村を追い出されてから、どこか自分が生活できる場所を探した」
( ´_ゝ`)「でも故郷の近くの村ではうちの一家の噂が流れていて、どこへ行っても拒絶された」
( ´_ゝ`)「そこでもまた自分への負の感情がこれでもかと向けられて、苦しかった」
( ´_ゝ`)「その頃はちょっと生きていく気力をなくしてたんだな」
( ´_ゝ`)「もっと遠くへ、どこまでも遠くへ行こうと思って、村を転々とした」
( ´_ゝ`)「ちょっとだけ自暴自棄になったりして」
( ´_ゝ`)「でも、あちこちの村で花導師として活動する中で様々なものを得た」
( ´_ゝ`)「風来の花導師として生きていくことに意味を見出し始めたりもしてな」
( ´_ゝ`)「そんな風に数年過ごした末に、俺はこの場所にたどり着いたんだ」
66
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:26:52 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「初めてここに来た時、ここには何もなかった」
( ´_ゝ`)「何もないどころか、死者の恨みや憎しみの渦巻く不浄な場所だった」
( ´_ゝ`)「村でも呪われた場所と言われていて人も寄り付かない」
( ´_ゝ`)「そんなとこに、ぽつんとでぃがいたんだよ」
( ´_ゝ`)「でぃは俺が話しかけると驚いてな、自分が見えるのかって」
( ´_ゝ`)「あとはお前と同じ感じなんだと思うけど、
でぃのことを知るほどに何とかしてやれたらと思うようになって」
( ´_ゝ`)「でぃを導いてやりたいと思ってこの花畑を作った」
( ´_ゝ`)「もしかしたら俺はそのためにここにたどり着いたのかもしれないと思ってな」
( ´_ゝ`)「それで、この場所を取り巻いていた殺された人たちはの魂は導くことができたんだ」
( ´_ゝ`)「でぃを縛り付けていたものはなくなったはずだった」
( ´_ゝ`)「それでもでぃの魂はまだここを彷徨い続けている」
( ´_ゝ`)「だから俺は今もここにいる」
67
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:27:20 ID:pn6G8Upg0
初めて聞くアニの過去につーは押し黙った。
アニも自分と同じだけど、全然違うんだと実感した。
アニは流れ着いたこの場所に自分のやるべきことがあると、長い年月をかけて向き合い続けてきた。
つーはアニに、なぜでぃを救いたいと思ったのかと尋ねたけれどじゃあ自分自身は?と改めて考えた。
(*゚∀゚)「おれは、でぃが友達だから何とかしたいって思った」
( ´_ゝ`)「それは素敵なことだぜ」
(*゚∀゚)「先生は前に、俺の夢を忘れるなって言ったよね」
( ´_ゝ`)「ああ」
(*゚∀゚)「おれさ、先生みたいに花導師として旅をするのが夢なんだ」
つーは頭に思い描く。
まだ見ぬ花を知り、可能性を知り、多くの人々の苦悩を取り除くことや喜びに寄り添うことを。
(*゚∀゚)「でも、やっぱりでぃのことも導いてやりたいんだ」
それはこの村にとどまってやるべきこと、矛盾した2つがつーの中でぐるぐると渦巻いている。
68
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:28:16 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「どっちも諦めないこと。それがおれの夢なんだ」
まっすぐ前を向くその目は力強く、先ほどまでの迷いや不安に揺れる心はもうそこになかった。
( ´_ゝ`)「それはなかなかに欲張りだなぁ」
(*゚∀゚)「だろ。でもおれはやるんだ。大事なことは絶対手放さない」
( ´_ゝ`)「ああ、お前ならきっとできるさ」
(*゚∀゚)「うん。だから、先生も絶対諦めんなよ」
前に進もうとする背中を押そうとアニは手を伸ばしたが、
振り返るつーにその手を掴まれたような気がした。
69
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:29:16 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「先生もさ、また旅に出たいんだろ」
( ´_ゝ`)「え」
(*゚∀゚)「おれ、ずっと思ってたんだ。先生が講義で昔旅してた話をするとき、
すげー楽しそうだった」
アニが懐かしむように、好奇心に満ちた目で旅の話をするのを聞くたびにつーは不思議に思っていた。
アニはどうしてこの村にとどまっているのか、きっとまだ世の中は彼が見たいものであふれているのにと。
70
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:29:47 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「おれと一緒にでぃのこと導いて、そんで旅に出ようよ」
思ってもなかったその言葉に、アニは目を丸くした。
つーの目は真剣そのもので戸惑いもなく、全ての恐怖を跳ね返すような希望にあふれていた。
( ´_ゝ`)「は、ははは」
(*゚∀゚)「え、ちょ!何笑ってんの先生!?」
( ´_ゝ`)「いやごめん。あはは。なんか、俺そんな風に考えたことなかったから」
溢れ出した笑いが止まらなくなって、アニはけらけらと笑い続けている。
いつの間にか目の端に浮かんでいた涙をそっと拭った。
( ´_ゝ`)「悪い悪い」
(*゚∀゚)「もう、なんだよ。おれは本気なんだからな」
( ´_ゝ`)「うん、わかってるよ。ありがとな」
71
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:30:19 ID:pn6G8Upg0
それから、アニとつーは今まで通りの生活をしながらもより熱心に花のことを調べた。
つーの霊力はだんだんと強くなり、育てる花の導きの力も強くなった。
相変わらずでぃとはいい友人関係で、日々色んなことを話して過ごした。
けれど変化は気づかぬうちに彼らに忍び寄り、すぐそこまで迫ってきていた。
でぃの姿が見えない日が増えたり、顔を合わせているときでもぼんやりとし
て声が聞こえていない様子の時もあり、何かがおかしかった。
つーが理由を尋ねてもはっきりとした答えは得られず、靄を抱えたような日々が過ぎていった。
72
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:30:58 ID:pn6G8Upg0
ある晴れた日の午後、つーはいつものようにでぃに自分の育てた花の花束を渡した。
(#゚;;-゚)「ありがとう。ガーベラは久しぶりだね」
(*゚∀゚)「そうかもね」
( ´_ゝ`)「白一色か。綺麗だな」
つーとアニは講義のあとの水やりや草取りを終えて休憩をとっていた。
(*゚∀゚)「でぃ、今日はなんか調子よさそうだね」
(#゚;;-゚)「今日は2人に話がしたくって。しゃんとしなきゃと思って」
(*゚∀゚)「話?」
73
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:31:35 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「うん。ぼく、2人に謝らなきゃいけなくて
(*゚∀゚)「謝る……って何を?」
(#゚;;-゚)「ぼくはね、導かれなかったわけじゃないんだ。導きを拒否したんだ」
( ´_ゝ`)「……」
(#゚;;-゚)「ぼくは自分の意思でここにとどまっている」
(*゚∀゚)「えっと、どういうこと……?」
74
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:32:12 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「怖かったんだ、何もかもが」
(#゚;;-゚)「ぼくは生きている間誰にも愛されなかった」
(#゚;;-゚)「体も心も傷つけられて、そのまま最期を迎えた」
(#゚;;-゚)「死んだ後もここに取り残されて寂しかったし、
恨みの呪いに縛られることはとても辛いことだった」
(#゚;;-゚)「でも、アニが助けてくれた」
(#゚;;-゚)「初めて優しさを知った」
(#゚;;-゚)「初めて穏やかさと言うものを感じた」
(#゚;;-゚)「もうそれを失いたくないって思ったんだ」
75
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:32:38 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「きっと導かれた先にもぼくを待つ人はいない」
(#゚;;-゚)「人を殺して喜ぶような心を持った僕が導かれる先は、きっと心安らぐ場所じゃない」
(#゚;;-゚)「それにもし長い時を経て生まれ変わったとして、そこでもまた辛い人生が待っていたら?」
(#゚;;-゚)「前へ進むってことは、希望を持つってことだよね」
(#゚;;-゚)「抱いた希望が壊されてしまうくらいなら、ぼくはこのままでいいって思ったんだ」
(#゚;;-゚)「アニが傍にいてくれれば、この穏やかな日々があれば」
(#゚;;-゚)「ぼくはもう、それで、いいって」
76
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:33:12 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「でも、つーに会ってぼくの気持ちは少しずつ変わっていった」
(#゚;;-゚)「多分僕だけじゃない。アニも変わっていったんだ」
(#゚;;-゚)「つーの夢に向かう気持ちや、ぼくに対する決意」
(#゚;;-゚)「そういうの全部が、ぼくの心に勇気をくれた」
(#゚;;-゚)「前に進む勇気を」
(#゚;;-゚)「ぼくもどこかへ行きたいって夢を話したけど」
(#゚;;-゚)「あれは、本当はここから離れる勇気が欲しいってことだったんだ」
77
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:35:45 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「ぼくも本当は、アニにずっとここにいてもらうことがいいことだとは思ってなかった」
(#゚;;-゚)「大好きだから」
(#゚;;-゚)「大好きってことは大事ってことだ」
(#゚;;-゚)「大事な人にはそばにいて欲しいけど、でも」
(#゚;;-゚)「自分のしたいと思うことをできる人生であって欲しいって、そう思えた」
(#゚;;-゚)「アニ、ありがとう。僕に初めて居場所をくれて」
(#゚;;-゚)「ぼくの居場所になってくれて」
(#゚;;-゚)「そして、本当にごめんなさい。君の足を止めてしまって」
(#゚;;-゚)「つーもごめんね。君の夢に向かう気持ちに壁を作ってしまった」
78
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:36:14 ID:pn6G8Upg0
でぃは最後まで2人の目を見て、気持ちの全てをぶつけた。
後悔と謝罪、希望と決意、それらで今までの日常を壊し捨てることを選んだ。
( ´_ゝ`)「まいったね、こりゃ」
でぃの言葉が途切れ、しばしの沈黙の後アニはぽつりとつぶやいた。
( ´_ゝ`)「なんとなく、気づいてはいたんだ」
( ´_ゝ`)「それでもお前の気のすむまでここにいればいいって、そう思ってた」
( ´_ゝ`)「それで俺の一生を使ったとしても悔いはないって」
( ´_ゝ`)「お前が前に進めて嬉しいのに、ちょっと寂しい気分だ」
( ´_ゝ`)「でぃ、お前は俺にも居場所をくれたんだよ」
( ´_ゝ`)「ありがとうなんて、こっちのセリフなんだよ」
79
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:36:56 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「でぃ、なに謝ってんだよ」
(*゚∀゚)「自分の気持ちにケリをつけさせてやるのも含めて、導くってことなんだとおれは思う」
(*゚∀゚)「未練を洗い流してやるとか、残した痛みを和らげてやるとか、そんなことばっかりじゃなくてさ」
(*゚∀゚)「きっとそれが、俺からでぃに贈った花にしかできないことだったんだよ」
(*゚∀゚)「これで俺の夢が一個叶ったんだ」
3人はそうやって笑いあった。
旅立ちを称え合うように。
80
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:37:45 ID:pn6G8Upg0
でぃはつーにもらった白いガーベラの花束を抱いて、花畑の真ん中に立った。
アニとつーは同時に唄い始める。
それは別れの唄。
またいつか会える日を夢見る旋律。
これから行く道が、あなたにとって素晴らしいものでありますようにと祈るための唄。
スイートピーの花が舞い上がる。
花弁がでぃの周囲を漂い、光が彼の体を包み込んでいく。
その様子は幻想的で、つーは自分が初めて導くというその光景に感動を覚えた。
でも、涙は流さなかった。
お互いに笑顔で前に進むと約束したから。
81
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:38:13 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「せんせーーーー全然片付いてないじゃんか!」
アニの家ではいつものようにつーの元気な声が響き渡る。
つーの言葉に、アニは頭を掻きながら舌を出しておどける。
それは見慣れた光景。
( ´_ゝ`)「へっへっへ、まぁもうすぐ終わるって」
(*゚∀゚)「あと3日だよ!?間に合うのかよ。しかも明日は色んなとこ挨拶して回るからほとんどなんもできないだろうし」
( ´_ゝ`)「まぁ見とけって、俺はラストスパートに定評があるんだから」
(*゚∀゚)「そんなの自慢になんねーし!」
( ´_ゝ`)「お前はどーせもう全部終わって暇なんだろ?だからケツ叩きにきたんだろ。ついでに手伝って行けよ」
つーがもう少し子供の頃にはしっかりとした大人ぶって見せていたアニだったが、
すっかり立派な青年なった今となっては助手に甘えるダメなおじさんと化していた。
(*゚∀゚)「先が思いやられる!!」
82
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:38:48 ID:pn6G8Upg0
つーにがみがみ言われながらなんとか旅の支度を終わらせた翌日、
アニはホライズンベーカリーへ挨拶にきていた。
( ´_ゝ`)「ブーンさん、とうとう明後日出発です。すみませんが息子さんお借りしますね」
( ^ω^)「ご丁寧にありがとね。息子のこと頼みますわ」
いつものように愛想よくニコニコと笑っているブーンに、アニは深く頭を下げた。
( ´_ゝ`)「ブーンさんにもつーの将来ついて考えはおありだったかと思います。
勝手なことをしてしまって本当に申し訳ない」
アニは、つーが望んだこととはいえ花導師として旅に連れ出してしまうことを心から申し訳なく思っていた。
83
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:39:15 ID:pn6G8Upg0
( ^ω^)「いや、僕はつーには自由に未来を選択してほしいと思ってるんです」
( ^ω^)「僕はツンと一緒にパン屋を開くって決めたときに約束したことがあるんです」
( ^ω^)「パン屋は僕たちの夢であって、それを子供たちに押し付けてはいけないって」
( ^ω^)「パン屋の子供だからパン屋になる道しか選べないなんていうのは、違うと思うんです」
( ^ω^)「僕らが自由に選択できた喜びは、当然子供たちにも与えられるべきなんです」
84
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:39:54 ID:pn6G8Upg0
( ^ω^)「ありがたいことに、しぃはパンを作る喜びを知ってくれました」
( ^ω^)「僕は最初心配しました。しぃは自分がパン屋を継がなきゃって、
本当に自分のしたいことを我慢してるんじゃないかって」
( ^ω^)「そういったら怒られました」
(*゚ー゚)「お父さん、私を見くびらないで」
(*゚ー゚)「自分の娘が選んだ道を信じないの?」
85
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:40:36 ID:pn6G8Upg0
( ^ω^)「本当にあの子はツンそっくりだ」
( ^ω^)「僕がパン屋をやるって決めたとき、ツンにも同じように怒られたんです」
( ^ω^)「僕の夢に付き合わなくたっていいんだよって言ったら、バカにしないでって」
( ^ω^)「すみません、話がちょっと脱線しましたね」
( ^ω^)「とにかく、だからつーが花導師を目指したいというのなら僕は全力で応援します」
( ^ω^)「つーにもパン作りは仕込んでおきました。おいしいパン、食べさせてもらってくださいね」
86
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:41:07 ID:pn6G8Upg0
話を終えてホライズンベーカリーを出るアニの手には大きな紙袋があった。
( ´_ゝ`)「餞別だって。そんなのいいのにな」
家までの帰り道、アニは少し遠回りして川の堤防を歩く。
お気に入りの景色も見納めだと、少ししんみりしながら川の流れを眺めた。
袋から一つパンを取り出し、近くの岩に腰かけてから一口食べる。
ブーンのチーズたっぷりブレッドはとても濃厚で、いつも通り絶品だ。
( ´_ゝ`)「これも懐かしい味になるんだなぁ」
柄にもなく哀愁を感じていると、森の道の方からアニを呼ぶ声が聞こえてくる。
( ´_ゝ`)「ギコか?おーーい、こっちだぞ」
( ,,゚Д゚)「アニさんここにいたんですね」
( ´_ゝ`)「よおどうしたんだ。お前も別れのあいさつに来てくれたのかい」
( ,,゚Д゚)「まぁそうっちゃそうなんですけど、でもそうではなくて」
87
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:42:25 ID:pn6G8Upg0
( ,,゚Д゚)「アニさん、花畑のことはオレとか元生徒連中に任せてください」
アニは突然のことにきょとんとして、黙ってギコの話を聞く。
元々アニは花畑を今のままにして旅に出ることを決めていて、周りにもそう伝えていた。
世話がなければ枯れてしまうものもあれば、そのままでも咲き続けるものもあり、
全てを自然に任せるつもりだった。
( ,,゚Д゚)「あの花畑は村にとっても大切な財産です」
(
´_ゝ`)「でもお前らだって忙しいでしょ。お店に葬祭に自分とこの花の世話だってある」
( ,,゚Д゚)「そうかもしれませんが、うちの村には花導師が多いんです。みんなで回せばラクショーです」
( ´_ゝ`)「まぁそうかもしれんが」
88
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:42:55 ID:pn6G8Upg0
( ,,゚Д゚)「家は引き続き子供たちへの講義に使わせてもらいますね。ちゃんと掃除もします」
( ´_ゝ`)「うん、子供たちのことは頼むよ。まだ学びたいって子たちがいっぱいいるしさ」
( ,,゚Д゚)「アニさんがいつ帰ってきてもいいように、いつだって賑やかで綺麗にしておきますよ」
ギコはクソがつくほどの真面目な顔でそんなことを言う。
( ,,゚Д゚)「ここはもうアニさんの帰りを待つ人でいっぱいの、アニさんの故郷なんですから」
( ´_ゝ`)「なんだよ、泣かせて来るんじゃん」
89
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:43:46 ID:pn6G8Upg0
つーとアニが旅立つ日、まだ太陽が顔を出したばかりの早朝。
挨拶は事前に済ませたから、当日の見送りはいらないと伝えてあった。
2人の旅をスタートするならば、2人きりでいつものように変わりなくと思っていたから。
( ´_ゝ`)「よし、行こうか」
(*゚ー゚)「行こう!」
2人はアニの家の花畑から出て、村の中心地とは逆の方向へ歩き出す。
最後にもう一度振り返り、つーは花畑に向かって大きく手を振った。
花畑の真ん中にたたずむ小さな墓石に向かって。
彼はもうそこにはいない。
だからそれは、彼と紡いだ思い出とのしばしの別れの挨拶だった。
fin.
90
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:50:40 ID:pn6G8Upg0
イメージ楽曲
Nowhere / [.que]
//youtu.be/dCf8zzfMuy4
Anywhere / [.que]
//youtu.be/QggkidPDHzI
91
:
名無しさん
:2021/10/22(金) 21:37:55 ID:otl3eb/c0
登場人物みんないいなぁ
92
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 03:52:18 ID:W6X6qcQ20
おつです
93
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 11:30:54 ID:P0LnihF20
なんて優しい物語なんだ
癒やされる
94
:
名無しさん
:2021/10/25(月) 01:32:11 ID:gt3aGPWM0
柔らかくて儚くて眩しい
だいすき
95
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/26(火) 11:46:28 ID:GDLjaw.k0
BBH管理人さんへ
まとめていただいた内容に以下2点の修正をお願いしたいです
>>22
を削除
>>21
と
>>23
の順番入れ替え
つまり以下の順番にしていただきたいです
>>20
>>23
>>21
>>24
お手数おかけしますがよろしくお願いします
96
:
BBH
◆CaOyByoJC6
:2021/10/26(火) 12:24:13 ID:.pcr1Nz20
>>95
修正しました!ご確認ください
97
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/26(火) 14:06:03 ID:GDLjaw.k0
>>96
確認いたしました!ありがとうございます!!!!
98
:
名無しさん
:2021/10/28(木) 16:04:40 ID:tzVWOg020
温かい話だった
癒された 乙でした
99
:
名無しさん
:2021/10/30(土) 17:48:41 ID:ByOYmKUI0
おつ
いい話だ……
100
:
名無しさん
:2021/11/01(月) 18:59:15 ID:BhFwzy5.0
停滞していたものがゆっくり流れ始めるような話でいいなあ
乙
101
:
名無しさん
:2021/11/02(火) 07:06:51 ID:NBnrhlSc0
乙
とてもいい読み切り漫画を読んだ感じだった
情景が浮かびやすい
102
:
名無しさん
:2021/11/06(土) 18:51:58 ID:tPF88DD60
良かった……
最初人を埋めてたシーンだったから身構えたけどそんな心配要らなかった
心が暖かくなったよ
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