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( ´_ゝ`)どこへでもいけるようです
2
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:37:54 ID:pn6G8Upg0
朝の日差しがいっぱいに降り注ぐ部屋の中は、
香ばしいコーヒーの香りで満たされている。
男は焼き上がったトーストにバターを塗り、それを口に運んだ。
さくり、さくり、と気持ちのいい音を立てて咀嚼する。
開け放たれた窓からは優しく風が流れ込んできて、
窓の桟に置かれた花瓶の花を揺らした。
部屋の中に家具は少ないが決して殺風景ではない。
床や棚の上には所狭しと鉢植えが置かれ、
天井からもいくつもの観葉植物が垂れ下がっている。
光と緑に包まれたその穏やかな空間で、
彼はいつものように朝食を摂っている。
3
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:38:47 ID:pn6G8Upg0
朝食を済ませ台所で食器を洗っていると、玄関の扉を叩く音が聞こえた。
( ´_ゝ`)「どうぞ」
アニが玄関の方に顔を向けながら穏やかな声でそれに応えると、
開いた扉から快活そうな少年が顔を出す。
(*゚∀゚)「先生、おはようございます」
( ´_ゝ`)「おはよう、つー」
部屋に入ってきたつーと呼ばれる少年は、アニが食器を洗ってる様子を見てハッとする。
(*゚∀゚)「もしかしてちょっと来るの早かった?」
( ´_ゝ`)「いーや、今日は俺がちょっと寝坊したってだけさ」
少し心配そうな声で問いかけたつーに、アニはゆるりと微笑んでそう返した。
(*゚∀゚)「なんだ、それならよかった」
つーもそれを聞いてニコニコと笑い返した。
4
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:39:52 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「先生、パン持ってきた」
( ´_ゝ`)「おぉ、いつもありがとな。いくらだい」
(*゚∀゚)「なんとなんと……今日はタダなんだ!」
( ´_ゝ`)「え、なんで」
(*゚∀゚)「今日のは姉ちゃんが作った試作品ってやつ」
( ´_ゝ`)「ほー、しぃちゃんやっと商品作らしてもらえるようになるのかい」
(*゚∀゚)「うん!姉ちゃんが、一番最初のちゃんとしたパンはうちの1番の常連である先生に食べてもらわなきゃって」
( ´_ゝ`)「そうか、そういうことなら遠慮なくいただこうかな」
アニはつーから大きな紙袋を受け取り覗き込むと焼きたての香ばしい香りが立ち上り、
色も形も美しい様々な種類のパンが入っていた。
5
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:40:38 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「こりゃすごいな。お前んとここんなに新商品出すのかい」
(*゚∀゚)「全部商品になるわけじゃないと思うけど、父ちゃんが作るのとは全然種類の違うパンが多いからさ〜。色々試すんだってさ」
( ´_ゝ`)「そりゃいい。お前んとこ肉とかチーズばっかりで、こういう女性受けしそうな商品なかったもんな」
クリームのたっぷり詰まったデニッシュに、真っ赤な苺のジャムが乗ったパイ、
まるでデザートのようなそれらのパンを手に取りながら、アニはうんうんと頷いた。
(*゚∀゚)「先生それほとんど今日中に食べなきゃなやつだからさ、講義終わったらおやつに食べよ」
( ´_ゝ`)「はいはい」
いつも通り食い意地の張ったつーを見て、アニは楽しそうに笑いながらパンを戸棚にしまった。
6
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:42:08 ID:pn6G8Upg0
アニとつーが軽く談笑をしている内に、家には続々と人が集まってきていた。
( ・∀・)「先生おはよー」
(´・ω・`)「おはようございます」
つーと同い年の子や、もう少し年が上の子、数人が次々とアニの家の扉を叩く。
アニと挨拶を交わすとそれぞれ部屋の隅に重ねられた簡易な椅子を取り、適当なところに置いて座っていく。
( ´_ゝ`)「よーし、じゃあ始めるか」
部屋に用意された椅子が全て埋まる頃、アニはそう言うと大きな黒板を用意する。
( ´_ゝ`)「今日はこの花について話をしていくな」
黒板には磁石でいくつかの花の写真が貼りつけられており、
写真の周囲には花の名前や様々な説明のメモがある。
アニは普段から花導師として村の子供達に花についての講義を行っていた。
7
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:42:42 ID:pn6G8Upg0
花導師とは、花を用いて死者の魂が行くべき場所へ導く者のことを指す。
葬いの祈りを込めて育った花には導きの力が宿るとされている。
花の形や色、それぞれに意味があり人の心に寄り添う。
古くは悪意や恨みを抱いたまま死んだ者の魂を浄化するためのものだったが、
時代の流れと共に未練を拭うものだったり、残された者の想いを乗せて
見送るためのものなどへと派生していった。
祈りを込めた花は知識さえあれば誰でも育てることができるし、想いを死者に届けることもできる。
しかし、霊力の強さに応じて育てた花の導く力も変わってくる。
アニは非常に花に知識に長けており、彼の育てる花は死者の魂への影響も大きい。
その身に備わった霊力の強さはもちろんだが、どの花にはどんな想いを込めやすいのか、
どんな花がその霊が抱えた問題を解消する力を持っているのか、そういった知識も豊富だった。
アニは村で花を育て花導師として働きながら、新たな花導師を育てる活動をして過ごしている。
8
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:43:11 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「今日これくらいにしておくか」
アニのその言葉で講義が終わりを告げる。
子供たちはその場で軽く伸びをしたり、隣の子と今し方講義で説明された
花の話を交わしたりして一気にざわざわと賑やかになる。
アニは子供たちが帰り支度をしてそれぞれ家を出ていく姿を見送りつつ、
黒板から写真を剥がしたり書かれたメモを消して後片付けを始める。
( ´∀`)「先生」
綺麗になった黒板をしまっているとモナーが話しかけてきた。
( ´_ゝ`)「ん、どうした」
( ´∀`)「ギコ兄のお店、やっと完成したんだ」
( ´_ゝ`)「おおそうか、そりゃめでたいなぁ」
( ´∀`)「先生のおかげだってすごく喜んでた。お店を見にきてくださいって言ってたよ」
( ´_ゝ`)「ああもちろんだ。お祝いしなきゃな」
9
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:44:08 ID:pn6G8Upg0
その子の兄のギコもかつて、アニの講義を聞きにここに通っていた。
賢く、強い力の花を育てる才能を持った子だったので花導師になる道を選んだ。
村にはアニの講義を受けて花導師になった子が何人かいる。
村内での葬祭はもちろん、隣村や時には別の地域に呼ばれていくこともある。
かつて花導師は死者を弔う存在として数多く存在したが、
風習として廃れてしまった今では随分とその数が減ってしまっている。
アニはそんな現状を憂い、花導師の育成を積極的に進めている。
生きている者の心と亡くなった者の魂、そのどちらにも安寧を与えられる祈りの花に
アニは希望を抱いているから。
だからこそアニは村の子供たちに花のことや世の中のことを教え、
興味を持った子が花導師になれるよう手助けをしている。
10
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:44:44 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「そういえばね」
講義を受けていた他の子供たちがみんな帰って行き、部屋はつーとアニの二人きりになっていた。
つーは右手に持ったチョコレートチップのたっぷりかかったマフィンにかぶりつきながらそう切り出した。
(*゚∀゚)「来週母ちゃんの命日だから、先生にお願いしておいてって父ちゃんが」
( ´_ゝ`)「あぁ、ちゃんと覚えてるよ。お邪魔するから」
(*゚∀゚)「ん。ありがとう、先生」
アニはミルクをたっぷり入れたカフェオレをつーの前に差し出す。
つーは小さく首をこくりとさげて左手でそれを受け取り、顔の前に持ってとふーふーと息を吹きかけた。
そっと口をつけると「あちっ」と小さく声を上げた。
( ´_ゝ`)「ゆっくり飲みな」
アニはそう言、いながら、大きな掌で優しくつーの頭を撫でた。
11
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:45:27 ID:pn6G8Upg0
よく晴れた日の午後、アニはつーの家へと向かっていた。
その日はとても天気のいい日で、真っ青な空にはところどころ小さな雲が浮かび、
太陽の柔らかな光が地上を照らしている。
アニの家から村の中心部までは少し距離がある。
食べ物の買い出しや園芸用品の買い出し、時にはこうして葬祭を頼まれてそのちょっとした距離を歩く。
その道のりには人工物などはほとんどなく、自然にあふれた獣道のような場所だ。
月に2,3度この道をのんびりと歩く時間がアニは気に入っていた。
季節の移ろいと共に変わる景色、自然の中でありのままに生活する動物たちを眺めて楽しむ。
また時には、村へ直進する道から少し外れたところにある大きな川の堤防へと寄り道をした。
川の流れや水の音を楽しみ、川の向こうにある別の村の姿をぼんやりと眺める。
多くの時間を家の敷地内で過ごすアニにとって、それはかけがえのない時間だった。
12
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:46:04 ID:pn6G8Upg0
( ^ω^)「よくきてくれたね」
アニがつーの家に到着すると、ブーンがそれを出迎えた。
ブーンはここ、ホライズンベーカリーの店主でありつーの父だ。
いつもニコニコと愛想のいい男で、パン作りの腕もピカイチなのでいつも客足が絶えない。
( ^ω^)「今日はよろしく頼むね」
( ´_ゝ`)「えぇ。どこでやりますか」
( ^ω^)「庭でやってもらおうかな。つーが母ちゃんのためにって育てた花が咲いてるんですよ」
( ´_ゝ`)「おぉ。つー、お前花の準備してくれたのか」
(*゚∀゚)「へへ、そうなんだ」
つーは少し照れ臭そうに笑った。
13
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:47:10 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「先生の育てる花みたいに力は強くないけど、おれもちょっとずつちゃんと咲かせられるようになってきたからさ」
( ´_ゝ`)「いいことだ。花に込める想いが大事だからな」
照れつつも誇らしそうな笑みを漏らすつーに、アニは敬意を込めて頭をポンポンと撫でた。
( ´_ゝ`)「じゃあ俺の持ってきた花も、庭のどっかいい感じのところに置いといてくれ」
(*゚∀゚)「わかった!」
つーはアニの持っていた花束をとても大切そうに受け取り庭へと向かう。
するとつーと入れかわるのように、しぃがキッチンの扉を開いて入ってきた。
(*゚ー゚)「アニさん、ご無沙汰してます」
( ´_ゝ`)「久しぶりだね。この前はパンご馳走様。どれもおいしかったよ」
(*゚ー゚)「ふふ、どういたしまして。お口に合ってよかったです」
14
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:48:04 ID:pn6G8Upg0
和気藹々と会話をしながら3人は庭へと移動していく。
庭には太陽の光が降り注ぎ暖かい空気が満ちている。
水をやったばかりの花は水滴を滴らせ、陽の光が反射してキラキラと輝いて見せる。
庭の中で一番美しく花の飾り付けられた場所には白くて可愛らしい椅子が置かれ、
座面には美しい女性の写真が立てられている。
つーの母親の写真だ。
( ´_ゝ`)「では始めましょうか」
15
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:48:41 ID:pn6G8Upg0
4人が椅子の周りを囲んで立ち、思い思いに花を一凛手に取る。
ブーンの手には薄青のアガパンサス。
しぃの手には白いエーデルワイス。
つーの手にはピンクのグラジオラス。
それぞれが花を持ったのを確認すると、アニは白いダリアを手にして胸の前にかざす。
そしてアニは静かに唄いはじめる。
それは死者に心を伝えるための唄。
花を受け取ってもらうための報せの唄。
もう決して泣かないとつーは決めていた。
でもその唄の清廉さと、庭を包む空気のあまりの美しさに自然と涙が溢れた。
静かに、声も出さずに溢れる涙を零し続けていると、不意に頭上になにかの気配を感じた。
静かに頭を上げると頭の上に覚えのある感触があった。
温かくて心地よい髪の上を滑る感触。
16
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:49:13 ID:pn6G8Upg0
アニの唄声が途切れ、ブーンたちの方に向き直る。
( ´_ゝ`)「喜んでますよ、ツンさん」
( ^ω^)「そうですか」
その言葉にブーンはゆるりと微笑むが、どこか憂いを帯びたように水気を含んだ声で応えた。
(*゚∀゚)「母ちゃん、笑ってた」
( ^ω^)「え?」
(*゚∀゚)「おれわかったんだ。母ちゃん笑いながら頭をなでてきたんだ」
つーは写真の乗った椅子に近づいてじっと母の写真を眺めると、握っていた花をそっと手向けた。
( ´_ゝ`)「つー、お前随分と霊を感じる力が成長していたんだな」
(*゚∀゚)「こんなにはっきり感じたの初めてだった」
( ´_ゝ`)「相手は自分の母親だ、感情が強くリンクしたのかもな」
17
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:49:59 ID:pn6G8Upg0
( ^ω^)「そうか……ツンの笑う声、つーには聞こえたんだ」
ブーンはどこか安堵したようにに、そして先ほどよりも喜びを滲ませたように微笑んでいた。
アニの言葉を信じていないというわけではなかったが、実の息子の言葉でより深い実感を得たようだった。
( ´_ゝ`)「今日はツンさんの心がより強く感じられたように思えるよ」
(*゚∀゚)「そうなの?」
( ´_ゝ`)「ああ。きっとお前の育てた花の力も強くなってるんだ」
(*゚∀゚)「そっか」
アニはつーに優しい眼差しを向ける。
つーはふっと空を見上げると太陽に右手をかざし、力強い決意を示すようにその手をグッと握った。
18
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:50:32 ID:pn6G8Upg0
( ^ω^)「さて、営業再開と行きますかね」
4人は庭から部屋の中へと戻り、ブーンがツンの写真をいつもの場所に戻す。
周りはアニが持ってきた花やつーの育てた花を飾り、
色とりどりの花の中で笑う彼女はより美しく見えた。
( ´_ゝ`)「さすが人気店、おちおち休んでいられませんね」
( ^ω^)「まあね」
(*゚ー゚)「それにそろそろ村長が来る時間ですもんね」
( ^ω^)「もうそんな時間か。つー、看板裏返してきて」
(*゚∀゚)「うん」
つーが店の玄関へ向かうと、村長が扉小窓からについた小窓から中の様子を伺おうとするところにちょうど出くわした。
(*゚∀゚)「噂をすれば!」
/ ,’ 3 「なんだ、私の噂をしてたのか?」
( ^ω^)「あ、村長。いらっしゃいませ」
(*゚ー゚)「いらっしゃいませ。そろそろいらっしゃる頃ねって話してたところでしたの」
19
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:51:06 ID:pn6G8Upg0
/ ,’ 3 「なんだそういうことか。もう店はやっているのかい」
( ^ω^)「えぇ、今ちょうど開けようと思ってたところです」
/ ,’ 3 「そうかい、よかったよ」
村長のアラマキは嬉しそうにうんうんと頷き、パンの並ぶ棚へ向かおうとする。
そこで初めてアニがいることに気づいた。
/ ,’ 3 「なんだアニも来ていたのか」
( ´_ゝ`)「ええ、村長こんにちは」
/ ,’ 3 「ちょうどよかった、お前に話すことが合ったんだよ。ちょっと茶でも付き合わんか」
( ´_ゝ`)「構いませんよ」
/ ,’ 3 「よかった。ブーン、コーヒーを二つ頼むよ」
( ^ω^)「かしこまりました」
/ ,’ 3 「あとはおやつのパンも選ぶとするか。お前も好きなのをとっていいぞ」
( ´_ゝ`)「ほんとですか。ありがとうございます」
アニはすかさずトングとトレイを手にすると、ひょいひょいとパンを選び取っていく。
/ ,’ 3 「お前ほんとこういう時高いのばっかり選ぶなぁ……」
20
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:51:45 ID:pn6G8Upg0
パンを選び終えアラマキとアニはカフェスペースの方へと向かう。
お盆の上にはドーナツやスイートポテトなどの甘い菓子パンばかりが乗っている。
( ^ω^)「……やっぱり甘いパン人気だよなぁ。明らかに売り上げ上がったもんなぁ……」
(*゚ー゚)「言ったでしょう、父さんのパンはすっごく美味しいけど食べ応えがありすぎるのよ」
( ^ω^)「僕も甘い系のパン覚えようかな……」
(*゚∀゚)「父ちゃん、おれもおやつ食べていい?」
つーはすでにお盆にいくつものパンを乗せて持ってきていた。
ベーコンエピにフランクフルトパン、チーズベーグルなど、どれもブーンお得意の総菜パンばかりだった。
( ^ω^)「いいよ」
それを見たブーンはニコニコ顔をさらに緩ませてそう答えた。
(*゚ー゚)「父さんお得意のパンは息子への甘さ故ってところかしらね」
それを見たしぃは頬にそっと手を当てるとかすかに首を傾げ、困ったように笑いながらふぅとと息をついた。
(*゚∀゚)「ありがと!姉ちゃん、カフェオレ作ってー」
(*゚ー゚)「はいはい」
21
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:52:33 ID:pn6G8Upg0
つーがチーズベーグルを頬張りながら本を眺めていると、しぃがカフェオレを持って席にやってきた。
(*゚ー゚)「お客さんがお話してるんだから、家に入って食べたら?」
(*゚∀゚)「えー、ここの方が快適なんだもん」
ホライズンベーカリーのカフェは壁が一面ガラス戸になっており、
天気のいい日は戸を開け放して半カフェテラスのようになる。
窓の外はきれいに手入れされた草木や花が数多く植えられており、
季節ごとに美しい景色を楽しむことができる。
つーはよく子供のころからいつもこのカフェスペースおやつを食べながら本を読んでいた。
店の客の多くが常連で、しかも村の住民パン屋のということもあり、
パン屋の息子がカフェの一席を占領していたとしても何か言う人はいなかった。
/ ,’ 3 「しぃ、私らのことなら気にすることないよ。そこはつーの定位置だ」
(*゚ー゚)「そうですか?いつもすみません」
(*゚∀゚)「ありがとー村長!」
(*゚ー゚)「みーんなつーに甘いんだから」
しぃはやれやれといった感じでそうつぶやくと、軽く微笑んでつーの前にカフェオレを置いた。
22
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:59:07 ID:pn6G8Upg0
作者です。投稿の順番を間違えました。
次のレスに書き込む内容(
>>23
)の次に
>>21
という順番に読んでください。
お手数おかけして申し訳ありません。
23
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 16:59:52 ID:pn6G8Upg0
つーがパンと花図鑑をもってカフェスペースの席に着く。
つーの座る席の対角線上にはアラマキとアニが和やかな様子で雑談しているのが見えた。
/ ,’ 3 「それにしても、うちの村も随分花導師が増えたなぁ」
( ´_ゝ`)「ですね。うちの村には素質のある若者が本当に多い」
/ ,’ 3 「不幸が少ないに越したことはないが、なくなるもんでもない。村民たちの心の支えとして本当に重要な役割を担っているな」
( ´_ゝ`)「まぁ直接的な死に関することだけが花導師の対応の全てではありませんしね。
元は死者を弔い魂を鎮め、時に浄化し、生者の心の安寧を支えるもの。花は様々な場面で人を支えるものです」
/ ,’ 3 「そうだな。花導師を育てていくことはわが村にとって重要なことだ」
( ´_ゝ`)「村長がそれを受け入れてくれたから、俺は感謝してるんですよ」
/ ,’ 3 「そんな改まって、お前らしくもない」
24
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:00:53 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「そういえば、俺に話ってなんなんです?」
とりとめもなく話をし、2杯目のコーヒーをおかわりしたところで思い出したようにアニが訪ねた。
/ ,’ 3 「ああ、そうだったなすまんすまん。前にも一度あった話しなんだが、
ノースブロックの村でまた花導師の指導を求めていてなぁ」
( ´_ゝ`)「インディゴビレッジでしたっけ。一度行きましたね」
/ ,’ 3 「お前が行った後も、お前の元生徒を何度か行かせているんだが」
( ´_ゝ`)「ギコとかですか?」
/ ,’ 3 「そうだ。だがなかなか村内で人が育つところまでいかないらしくてなぁ」
( ´_ゝ`)「北の方は環境的にも花の育成が難しいし、元々花導師の活動する文化自体活発ではありませんしね」
/ ,’ 3 「だなぁ。でもインディゴは花導師を育てて定着させたいという意志が強くてな、
としてもできる限り協力してやりたいと思ってる」
( ´_ゝ`)「同感ですよ」
25
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:01:31 ID:pn6G8Upg0
/ ,’ 3 「ギコも随分立派になったし少し長期にはなるが行ってもらおうと思ったんだが、
あいつ最近ようやく店を構えたろう」
( ´_ゝ`)「ですね。あいつは今大事な時だと思います」
/ ,’ 3 「なんで申し訳ないがお前に行ってもらえないかと思ってなぁ。
お前なら短期でも十分に知識を残してこれるだろうし」
( ´_ゝ`)「なるほど。わかりました、引き受けましょう」
/ ,’ 3 「ありがたい。でもすまないなぁ。お前は花畑の世話やら子供たちへ講義やらと色々あるから、
あまり長く家を空けたくないというのに」
( ´_ゝ`)「大丈夫です。最近俺には優秀な弟子もいるんでね」
そうい言うとアニはチラッとつーの方を見る。
もっとも、つーは本に夢中でさっぱり気づいていないようだったが。
その様子を見てアラマキはフハッと笑いを漏らした。
/ ,’ 3 「そりゃあよかった」
26
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:02:26 ID:pn6G8Upg0
空がほのかに朱色に色づき風がひんやりとしてきた頃、しぃはカフェのガラス戸を閉め始める。
( ´_ゝ`)「あ、まずい。今何時だ」
いつの間にか随分と時間が過ぎており、アニは壁に掛けられた時計に目をやる。
( ´_ゝ`)「すみません、俺今日時計屋によって帰らなきゃいけないんです。もうすぐ閉まっちまう」
/ ,’ 3 「おお。すまんな長々と」
( ´_ゝ`)「いえ。すみませんが先に失礼しますね。ごちそうさまです」
そう言いながらアニは席を立ち、椅子の背もたれにかけた上着を掴むと出口へ向かう。
(*゚∀゚)「あ、先生帰んの」
( ´_ゝ`)「おう。また明日な、優秀な助手君」
(*゚∀゚)「え」
27
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:03:05 ID:pn6G8Upg0
突然の言葉につーの思考は止まった。
自分が先生の助手?優秀な?アニの言った言葉を反芻し、噛みしめ、
後から後から喜びの感情が湧いてきた。
どんな脈絡から発せられた言葉なのかはわからずとも、
尊敬している相手からそんなことを言われれば嬉しいに決まっていた。
( ´_ゝ`)「村長、詳しいこと決まったら教えてくださいね」
つーのそんな様子を他所にアニはいそいそと玄関へ向かうと、
外へ出るまえにもう一度アラマキの方を振り向きそう告げる。
/ ,’ 3 「ああ、わかったよ」
アラマキの返事を聞くと、軽く頭を下げてから店の外へと出ていった。
28
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:03:39 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「でだ、俺がいない間花の世話を頼みたいんだ」
村長からの頼みを引き受けた数日後、いつものように講義を終えた後に
アップルパイを食べながらアニはつーにそう言った。
(*゚∀゚)「へ。先生がいない間ってどういうこと」
( ´_ゝ`)「花導師指導で数日家を空けることになってな。
俺の優秀な助手であるつーくんに大事な花畑の世話を頼みたいってわけだ」
(*゚∀゚)「あ、助手ってそういうことだったのか!」
またアニから助手と呼ばれ、つーはあの時の嬉しい気持ちが胸に湧き上がってきていた。
憧れの先生からの頼まれごと、それはなんだか成長を認められたような気がして
とても心地のいいものだった。
29
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:04:18 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「でも、おれでほんとに大丈夫かな」
( ´_ゝ`)「なんだ弱気じゃないか。らしくないな」
(*゚∀゚)「いやだって、先生の生徒にはおれよりも上手に花を咲かせる人もいっぱいいるじゃんか」
柄にもなく謙遜する様子を見せるつーに、アニは優しく笑いかける。
( ´_ゝ`)「この前ツンさんの命日の時に見たお前の花、あれは本当にしっかり祈りが込められてた」
(*゚∀゚)「ほんと!?」
( ´_ゝ`)「ああ。実の母親へのものだからっていうのがあったにしたって、
あれだけ祈りを込められればたいしたもんだ」
(*゚∀゚)「そっか……」
つーは微かにその身を震わせた。
アニがくれた言葉を両手でしっかりと受け止めて、強く強く抱きしめる。
努力が実るということがこれほどまでに嬉しいのかと、強く実感していた。
30
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:05:04 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「いつから行くの?」
( ´_ゝ`)「2週間後くらいかな」
(*゚∀゚)「割と先なんだね」
( ´_ゝ`)「子供たちに講義が休みだって伝えないといけない。あと俺がいない間葬祭を受けられないってのも」
(*゚∀゚)「あ、そっか」
( ´_ゝ`)「それに短期間で終わらせるためにも指導用の資料をまとめておきたいんだ」
(*゚∀゚)「うへ〜大変そう」
( ´_ゝ`)「そ、大変だぞ。だから準備の手伝いも期待してるよ、助手君」
(*゚∀゚)「!」
アニに期待をかけられてると感じる度に、つーの心には喜びが込み上げてきた。
今まで教えてもらうことばかりで、アニへの感謝を示したいのに何もできなくてもどかしいと感じていた。
小さい頃からずっと見てきた遠い憧れに、やっと少し近づけたような気がしていた。
31
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:05:47 ID:pn6G8Upg0
アニが出発するまでの間、2人はやるべき作業に追われる日々を過ごした。
指導先で起こりそうな問題を予想するための確認作業や、地域の気候に合う育成しやすい花の調査、
その他にも村人たちへの連絡などでやることは山積みだった。
バタバタと毎日が過ぎ去り、あっという間にアニが出発する日がやってきた。
( ´_ゝ`)「じゃ、頼んだよ」
そんな短いあいさつを告げると、アニは背を向けて右手をひらひらと振った。
(*゚∀゚)「いってらっしゃーい!」
つーは遠ざかっていく背中にぶんぶんと手を振って見送る。
かけられた期待に応えようと意気込みを抱きながら。
32
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:06:18 ID:pn6G8Upg0
アニの家の花畑は、様々な研究ためにのために多くの種類の花が咲いておりとても広い。
花を区画ごとに確認して必要に応じて水をやり、
その他にも栄養剤の要否や害虫の有無などを見て対応する必要がある。
それらをこなすのは大変だったが、つーは事前に教わった通りに作業をこなしていく。
それは大きなやりがいを感じるものだった。
アニが村を出発して3日ほど経ち花の世話にも慣れてきた頃、つーは先生のいない寂しさを感じ始めていた。
アニはこの村出身ではなかったがつーが小さい頃から村に住んでいて、
父のブーンと懇意にしていたこともあり幼い頃から年の離れた兄のように慕ってきた。
アニがあまり村から離れたがらないということもあり、これほど顔を合わせないのはとても珍しいことだった。
33
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:07:00 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「そういえば今回も、向こうでの滞在がなるべく長引かないようにってたくさん資料作っていったよな」
知識というのはそんなに容易く身につくものではなく、
口で伝えたことを覚えるためには何度も確認することが必要になる。
だから資料をあらかじめ用意して効率化を図り、なるべく早く帰ってくると言っていた。
(*゚∀゚)「先生はどうして村を離れるのをあんなに嫌がるんだろう」
突然そんな疑問がわいた。
もちろんつーにとってはアニが近くにいないと寂しいし、
村を好きでいてくれることは嬉しいことだと感じていた。
しかしアニは、この村に住むようになる前は様々な村を転々とし、
色んな形で花導師の活動や文化を広めていたという。
講義でそのことを語り、生徒たちにもそういう気持ちがあればぜひ挑戦してみてほしいと語りかけていた。
アニはこの村で花導師を育てることにも熱心だし、花導師という存在を知られていない場所に
それを広めることもとても重要だといつも語っていた。
だとすれば、過剰に村を離れることを拒否する姿勢はなんだか矛盾しているとつーには感じられた。
34
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:07:29 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「おれはいつか旅に出たいな」
アルストロメリアの花たちに水を撒きながらぽつりとつぶやく。
(*゚∀゚)<ここでは咲かない種類の花のこととか、他の地域では人と花がどんな関係性を築いているのかも知りたい>
(*゚∀゚)<花は様々な形で人に寄り添っている、先生はそう言っていた>
(*゚∀゚)<花導師以外にも花を扱う人のための役割があって、花導師の存在を知らないところもある>
つーは自分の興味や関心ごとにに考えを巡らせながら、ゆっくりと空を見上げた。
(*゚∀゚)「早く一人前になりたいな」
35
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:07:58 ID:pn6G8Upg0
ガーベラの花壇へと向かうと人影があった。
アニの花畑は出入りが自由にされているので特段珍しいことでもなかったが、
つーは驚いて足をぴたりと止める。
つーと同い年くらいの少年のようだが、その顔に見覚えはない。
小さな村の中では同い年の子供は皆顔見知りだったため、
見たことのない少年がそこにいるということに驚いていた。
(*゚∀゚)「君、だれ?」
つーが思わず声をかけると少年はびくりと肩を揺らし、ゆっくりと振り返った。
36
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:08:32 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「え………」
(*゚∀゚)「あ、ごめん。おれはつーっていうんだ」
挨拶もせずにいきなり「誰」と尋ねてしまったことが
威圧的にとられてしまったかもしれないと思い、つーは慌てて自分から名乗った。
(*゚∀゚)「村のあっちの方に住んでて、先生がいない間ここの花の世話を頼まれてるんだ」
(#゚;;-゚)「……先生って、アニのこと?」
(*゚∀゚)「あ、そうそう。君は先生の知り合いなんだね」
(#゚;;-゚)「うん……まぁ、そうかな」
(*゚∀゚)「村で見たことない子がいることなんてめったにないからびっくりしたんだ。いきなりごめんな」
(#゚;;-゚)「気にしないで」
(*゚∀゚)「で、君の名前は?」
(#゚;;-゚)「でぃ」
(*゚∀゚)「でぃか。よろしくな」
つーが人懐っこく笑って見せると、でぃも少しだけ微笑んだ。
37
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:09:04 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「んで、でぃはどこからきたんだ?川の向こうの隣村?」
(#゚;;-゚)「いや。僕は幽霊なんだ。ずっとここにいる」
(*゚∀゚)「………え?」
思ってもみなかったその返答につーは絶句した。
つーの目にははっきりとでぃの姿が映っていて、生きている人間と何ら変わりないように見えた。
今まで霊の存在を感じることはあっても、それほどまでにはっきりと視認したのは初めてだった。
(#゚;;-゚)「地縛霊って言えばいいのかな。この土地に捉われて動けない幽霊」
(*゚∀゚)「え、いや、でもさ」
つーはここに幽霊がいるという事実も受け入れがたかった。
なぜならここはアニの作った導きの花が咲く場所、導きの花は死者の魂を行くべき場所へ導く花だ。
そんな場所に地縛霊がとどまっているということはとても信じられないことだった。
(#゚;;-゚)「アニは最初、僕をここから自由にするためにこの花畑を作ったんだ」
38
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:09:32 ID:pn6G8Upg0
この花畑がなぜ作られたのか、それはつまりアニがなぜここで暮らすようになったのかという話に繋がる。
(*゚∀゚)「じゃあでぃは、先生の花でも導くことのできない霊ってことなのか」
(#゚;;-゚)「ん……まぁそういことになるね」
アニがなぜ村の栄えたところから離れたこの場所を選んで家を構えたのか、
つーが今まで疑問に感じていたことが解けていく。
賑やかさよりも静けさを好んでいるといったことも想像できたが、
実際にはこの花畑が理由になっているのだろうと思っていた。
では花畑がこの場所である理由が何なのか、確かに環境のいい場所ではあるが、
住宅街からそれほど離れていないところにも花畑に適した土地はたくさんあった。
実際アニから指導を受けて花導師になった者たちは、村の中心部から近い場所を勧められて花畑を作った。
でぃの存在がこの花畑の理由だったのだと、つーは納得した。
39
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:10:36 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「でぃは今までもずーっとここにいたって言ってたよね」
(#゚;;-゚)「うん」
(*゚∀゚)「そっかー。なんで今まで気づかなかったんだろう」
ツンの命日の一件から、つーは急激に霊を知覚する能力が伸びていった。
霊の存在を感じたり、ぼんやりと霊の姿を認識することができるようになっていた。
しかしでぃのことは今まで少しも感じたことがなかったし、その上今突然はっきりと認識できるようになった。
(#゚;;-゚)「ぼく、霊力の強さとかに関係なくあまり人に見えないらしい」
(*゚∀゚)「え、そうなの」
(#゚;;-゚)「うん。今までアニ以外ではっきりぼくの存在を知覚した人はいない」
(*゚∀゚)「じゃあおれが二人目ってこと? 」
でぃがその言葉にこくりと頷くと、つーはニカッと嬉しそうに笑った。
(*゚∀゚)「なんか、なんかそれってすげーじゃん!?」
その笑顔の屈託のなさにでぃは一瞬きょとんとしたが、つられてすぐににっこりと微笑んだ。
40
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:11:18 ID:pn6G8Upg0
翌日の午後、でぃが花畑と花畑の間に置かれたベンチに腰かけていると、つーがやってきて隣に腰を下ろした。
(*゚∀゚)「こんにちは!」
(#゚;;-゚)「こんにちは」
つーの元気のいい挨拶に思わず「ふふ」と笑いを漏らし、でぃも挨拶を返した。
(#゚;;-゚)「花の世話は順調?」
(*゚∀゚)「残り3分の1ってところかな。ちょっと休憩」
そういいながら、つーは手に持った紙袋をがさがさと探る。
(*゚∀゚)「あのさ、よかったらこれ」
つーは小さなガーベラの花束をでぃに差し出す。
41
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:12:03 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「これって……」
(*゚∀゚)「これ、おれが育てた花なんだ」
(#゚;;-゚)「つーが?」
(*゚∀゚)「でぃさ、昨日ガーベラの花畑じーっと見てたじゃん。好きなのかなって」
(#゚;;-゚)「それで持ってきてくれたの?」
(*゚∀゚)「先生の育てる花みたくたくさん祈りは込められてないし、まだ全然未熟なんだけどさ」
でぃは花束を受け取り、両手の中に納まったそれを静かに見つめている。
赤、黄色、ピンク、鮮やかな色彩にでぃの心は満たされていく。
(*゚∀゚)「せっかく友達になったんだし、おれの花も見てもらえたらって思ったんだ」
(#゚;;-゚)「すごくきれい。ありがとう」
42
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:12:50 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「おれもさ、でぃが行くべきところに導けるように手伝いがしたいんだ」
花を慈愛の瞳で見つめ愛でているでぃを眺めて、つーはそう語りかける。
(*゚∀゚)「先生の花で導けないんだから、おれの花じゃ何にもできないのかもしれないんだけどさ」
(#゚;;-゚)「……」
(*゚∀゚)「だとしても、何にもしないってのはなんか違う気がしてさ」
つーは希望に満ちた目で前を向く。
新たな友達の、そして先生の手助けがしたい、けど自分では力不足なことも十分に分かっていて。
それでも何か成し遂げたいと思うことを胸に抱いたとき、
それに向かって全力を注ぐべきだし精いっぱい背伸びをしたいとつーは思っていた。
でぃはそんな彼の光と決意に満ちる目を見て、すっと目を伏せた。
(#゚;;-゚)「ありがとう、つー」
その言葉は、でぃ心の底から溢れ出てきた感情そのものだった。
43
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:13:47 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「でぃに会ったのか!?」
アニは荷解きをしていた手を止めてつーの方を振り向くと、驚いた様子でつーにそう聞き返す。
(*゚∀゚)「そう!友達になったよ」
つーは頑丈な紐でひとくくりになっている数冊の本をほどきながらそう返し、手に持った本を棚に押し込んでいく。
( ´_ゝ`)「まさかでぃの姿が見られるやつが俺意外にもいるとはな」
(*゚∀゚)「へへ〜!でもほんと、なんでなんだろうね」
( ´_ゝ`)「でぃのことは謎だらけさ。霊力が強い奴でも見えないし、
あれだけ導きの花を咲かせても導くことができない」
すっかりに旅の荷物の片づけを中断し、つーが持ってきたドーナツを1つ摘み上げて口に運ぶ。
(*゚∀゚)「先生!全然片付け進んでないのにおやつ食べちゃダメ!!」
( ´_ゝ`)「すまんすまん」
44
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:14:47 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「先生はさ、でぃを導きたいからここで色んな花を育ててるんだろ」
( ´_ゝ`)「ん、まぁそうだな。何がきっかけになるかわからんからな」
(*゚∀゚)「おれも手伝うから。おれもでぃを導いてやりたい」
( ´_ゝ`)「おお、頼りになるな。さすが俺の助手だよ」
(*゚∀゚)「へへ」
( ´_ゝ`)「でもな、お前はお前の夢を忘れるなよ」
(*゚∀゚)「え」
つーは元々未来について漠然としたものをいくつか抱いているだけで、
アニに対し将来何になりたいかという話をしたことはなかった。
ブーンの営むパン屋のこともあるし、誰に対してもなんとなく語れずにいたという部分もある。
ただ、最近急激に自分がどうなりたいのかというものを具体的に持ち始めていた。
だからアニの口から急に「夢」という言葉が出たことに少々驚いていた。
45
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:15:13 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「お前が花導師を目指すとしたら、きっと立派な花導師になれるだろう」
アニはつーの目をまっすぐに見つめ、優しい声で言葉を続ける。
( ´_ゝ`)「俺は決して、お前の未来に対する視野を狭めたくて助手なんて扱いをしているわけじゃない」
つーから見たアニはいつもなんとなく緩く構えていて、
誰に対しても物腰柔らかでちょっと不真面目もある、そういった印象だった。
でも今話をしているアニは、いつものように優しげではあるがとても真剣な目をしていて、
ちょっと雰囲気が違うように感じられた。
( ´_ゝ`)「お前にとってこれが大事な経験になればいいと思ってるし、
その上で自ら選択肢を選べたらいいって思うよ」
46
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:15:40 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「……うん」
少し気圧されたような様子で返事をしたつーに、
アニはいつものようなふにゃふにゃとした笑顔を見せて頭をぐりぐりと撫でる。
( ´_ゝ`)「ちょっと堅苦しかったかね」
(*゚∀゚)「ううん」
つーは頭を撫でられ、されるがままになっている。
下を向いた顔で涙がこぼれそうになるのをグッと我慢していた。
つーは嬉しかった、アニが真剣に自分の行く先のことを考えていてくれるということが。
「ありがとう」と伝えたかったが、涙がこぼれないように必死に我慢していたから声が出なかった。
47
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:16:15 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「え、俺の夢?」
(#゚;;-゚)「うん」
アニから自分の夢について深く考えるきっかけもらって、より具体的に思いを巡らすことが増えていた。
そんなタイミングででぃとも同じ話をすることがあった。
(*゚∀゚)「この前先生ともそんな話したな」
(#゚;;-゚)「へぇ、そうなの」
(*゚∀゚)「だからちょうど色々考えてたんだけど」
つーは自分で自分の考えを改めてまとめるためにもでぃに聞いてもらおうと、一呼吸おいて語り始めた。
48
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:16:47 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「前にも話したけどおれんちってパン屋でさ、今は父ちゃんと姉ちゃんが店を回してるんだ」
(*゚∀゚)「姉ちゃんも前はただ手伝ってる感じだったけど、
最近は商品開発したり前よりパン屋の仕事に精を出してるって感じで」
(*゚∀゚)「それを見てて、姉ちゃんはパン屋をやるって決めたのかなっておれは思ったんだ」
(*゚∀゚)「おれも父ちゃんのパン大好きだし、
パン屋の手伝いをして跡を継ごうって考えたりしたんだけど」
(*゚∀゚)「父ちゃんはそんなこと全然言わなくて、自分のやりたいようにしたらいいって言うんだ」
(*゚∀゚)「そういわれて考えてみると、おれが今一番興味あることってやっぱり花のことなんだよな」
(*゚∀゚)「先生の講義を受けて、自分でも花育てたりしてみて、
それがおれにとってすごく大事なことだって実感があるんだ」
49
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:17:13 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「じゃあ、花導師になることがつーの夢?」
(*゚∀゚)「うん、それもあるけど」
(*゚∀゚)「おれは花導師になること自体っていうより、どんな花導師になりたいかっていうのが夢なんだ」
(*゚∀゚)「おれ、もっと花導師ってものを世の中に広めたいと思ってるし、花のことももっとたくさん知りたい」
(*゚∀゚)「花が人間に及ぼす影響って、今の花導師がやっていることよりももっとたくさんあってさ」
(*゚∀゚)「心の病気に寄り添ったり、人の喜びや悲しみに添えることもできて」
50
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:17:39 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「だからおれは旅に出たい」
(#゚;;-゚)「旅」
(*゚∀゚)「ここにいるだけじゃ知ることのできないことを知りたいし、おれのやってることもみんなに伝えたい」
(#゚;;-゚)「なるほどね」
でぃは遠くを見つめるような目をしながら、つーの話を噛みしめる。
(*゚∀゚)「でぃはさ、なんか夢ってある?」
(#゚;;-゚)「幽霊のぼくに、夢?」
でぃはびっくりして聞き返す。
51
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:18:11 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「関係ないよ。死んでたって生きてたって、おれにもでぃにも同じように意思があるんだから」
(#゚;;-゚)「でも、夢を持ったところでぼくはここを離れられない」
(*゚∀゚)「そこはさ、もしここを離れることができたらってことで」
つーはいつも前向きに物事を考えて、勇気の出る言葉をでぃに投げかけた。
それは無責任な押し付けではなく、でぃの背中をそっと押してくれるような優しさがあった。
(#゚;;-゚)「……そうだな」
でぃはつーにもらったクレマチスの花束をぼんやりと眺めてから、すっと目を閉じて話始める。
52
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:18:52 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「ぼくもつーと同じなのかもしれない」
(*゚∀゚)「おれと?」
(#゚;;-゚)「うん。ぼくも、ここにはないものを見にどこかに行けたらって思うよ」
(*゚∀゚)「そっか」
(#゚;;-゚)「サウスブロックのオルランドって場所を知ってる?」
(*゚∀゚)「いや、聞いたことない」
(#゚;;-゚)「随分昔の話だけど、そこには他の地域には咲かないような珍しい花が沢山咲いてるって聞いたことがある」
(#゚;;-゚)「その中でも特に珍しいのが、地面一面に咲く青紫色の小さな花」
(#゚;;-゚)「それこそ絵でしか見たことないような存在さえ曖昧なものだけど」
(#゚;;-゚)「ぼくはあれが見たいって思ってたんだ。今、思い出したよ」
53
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:19:19 ID:pn6G8Upg0
つーはこんな風にでぃが自分の思っていることを語ってくれることが嬉しいのと同時に、
何とも言えないもどかしさも感じていた。
自分と同じように夢を持つ友人が、それを叶えるためのスタートラインにさえ立てないんなんて。
この場所から解放してあげられないことに、つーは強い憤りを覚えた。
そんな気持ちが一気に膨らんで、つーはずっと気になっていた問いを口にすることにした。
(*゚∀゚)「あのさ、もし言いたくなかったら言わなくていいんだけどさ」
(#゚;;-゚)「ん」
(*゚∀゚)「でぃは生きてるとき、どんなことをしている人だったの」
54
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:19:47 ID:pn6G8Upg0
でぃがこの場所にこんなにも強くとらわれているということは、
なんとなくいい話ではないような気がして今まで聞くことができなかった。
しかしここを離れられるきっかけが過去の中になにか隠されているとしたら、
そう思うと聞かずにはいられなかった。
もちろん、アニは10年以上もでぃのためにここにとどまり色々なことを試しているはずで、
自分にできることはもしかしたら何も残ってないのかもしれない。
それでもなんとか助けになる方法を模索したくて、その糸口を探していた。
(#゚;;-゚)「……そうだね、つーにはいつか話さなきゃ、というか話したいって思ってた」
でぃは顔を俯け少しの間黙った後、決意したようにこう口火を切った。
(#゚;;-゚)「あまり気持ちのいい話ではないんだけど、ごめんね」
55
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:20:42 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「ぼくが生きていたのはもう百年ほど前のことになるんだけど」
(#゚;;-゚)「酷い時代だったよ。あちこちで戦争が起きていて、
強いものが弱いものを虐げるのがあの頃の社会の在り方だった」
(#゚;;-゚)「権力者が幅を利かせて、気に入らないことがあればすぐに人を罰する。
恐怖で支配された世の中だった」
(#゚;;-゚)「ぼくはそんな権力者に金で買われた奴隷。
親は子供を売ってお金を得るような人間だったんだ」
(#゚;;-゚)「そこでぼくに与えられた仕事は墓守だった」
(#゚;;-゚)「墓守なんて聞こえはいいけど、要は死体の処理係ってこと」
56
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:21:14 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「ぼくの主人はとても荒っぽい人で、常に村の人に暴力を振るっていた」
(#゚;;-゚)「いうことを聞かない人はいうことを聞くようになるまでぼこぼこにする」
(#゚;;-゚)「でも、加減を知らないからすぐに殺してしまって」
(#゚;;-゚)「ぼくのいた村は全てがその人に支配されていたんだ」
(#゚;;-゚)「ぼくは来る日も来る日も穴を掘って人を埋めた」
(#゚;;-゚)「気に食わないことがあればぼくも殴られたり蹴られたり
することもあったけど、子供には少し甘い人だったんだ」
(#゚;;-゚)「他にも色んな酷いこともされたけど……
ちゃんと与えられた仕事をしていれば、食事と寝る場所をもらえた」
(#゚;;-゚)「生かしておいてもらえていたんだ」
57
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:21:40 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「だから僕は人を埋めた」
(#゚;;-゚)「大した理由もなく殺された人たちを」
(#゚;;-゚)「時々、まだ微かに息のある人がいることがあって」
(#゚;;-゚)「でも僕は死体を埋めるのが仕事だから」
(#゚;;-゚)「その人をスコップで殴って、殺してから埋めたんだ」
(#゚;;-゚)「そう、ぼくは人を殺したことがある」
(#゚;;-゚)「正直言うと、ぼくはそういうとき辛くも苦しくもなかった」
(#゚;;-゚)「心のどこかで気持ち良いとさえ思っていた」
(#゚;;-゚)「人として生きることのできない、何の喜びもない生活の中で」
(#゚;;-゚)「唯一快感を得られる瞬間だった」
58
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:22:23 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「信じられないよね」
(#゚;;-゚)「ぼくは人を殺すことに喜びを感じていたんだ」
(#゚;;-゚)「ぼくは、そうやってここに捉われたんだ」
(#゚;;-゚)「恨みや苦しみを抱いたまま死んだ人たちを何十、何百と埋めた」
(#゚;;-゚)「ここはかつて、その人たちを埋めた墓場だったんだ」
(#゚;;-゚)「そして、最後にはぼくもここに埋められた」
(#゚;;-゚)「体が大きくなった子はいらないって、主人に殺されたんだ」
59
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:23:12 ID:pn6G8Upg0
つーは、息をすることさえ忘れてその話を聞いていた。
そしてでぃの壮絶な過去を聞いて呆然とした。
それほどの暗い過去がでぃに覆いかぶさっていたことを知り、大きな衝撃を受けていた。
(#゚;;-゚)「こんな話で、ごめんね」
それまで感情のこもらない平坦な調子で話をしていたでぃが、いつもの穏やかな声でそう言った。
その瞬間、堰を切ったようにつーの目から大粒の涙がぼたぼたとこぼれる。
(*゚∀゚)「でぃ………つらい話させて、ごめんな……」
つーは止まらない涙を服の袖で抑えながら、伝えたい言葉をしっかりと口にする。
60
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:23:41 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「怖がらないの?」
(*゚∀゚)「怖いもんか。おれはお前のことをよく知ってるんだ」
そのまま涙も鼻水もまとめて袖でごしごしと拭うと、つーはまっすぐにでぃの目を見つめた。
(*゚∀゚)「今お前がどんな奴なのかおれはちゃんと知ってるから、
過去のお前がどうだろうとちっとも怖くなんてない」
つーが淀みなく言うその言葉を聞いて、でぃの頬にも涙が一筋伝って落ちた。
(#゚;;-゚)「ありがとう。本当に。今のぼくを、受け入れてくれて」
涙で震える声には安堵の色が滲み、でぃは心からの感謝をつーに伝えた。
61
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:24:12 ID:pn6G8Upg0
それからというもの、つーはいつもぼんやりとでぃのことを考えているようになった。
恨みに捉われて動けない彼をどうしたら助けてやれるのか、自分にできることがあるのか。
( ´_ゝ`)「なぁ、どうしたんだ。最近元気ないな」
そうしていると、その様子に気づいたアニが心配して声をかけてきた。
つーはアニに相談するということをすっかり忘れていた。
というのも、でぃと2人きりで向き合って気持ちが通じたということで全てが閉じてしまっていて、
つーは自分自身がでぃに対してできることをひたすら考え続けていたから。
いつもなら真っ先にアニに相談するようなところを、初めて自分で抱えて考え込んでしまっていた。
(*゚∀゚)「先生、あのさ」
そこでようやく、そもそもアニは自分よりも先にでぃの問題に向き合ってきているんだから
一緒に考えるべきなんだということに気づいた。
(*゚∀゚)「おれこの前、でぃの過去の話を聞いたんだ」
62
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:24:43 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「でぃは自分が埋めた人たちの恨みに捉われて、あの場所から動けないって」
あの時の、でぃの話の光景が勝手に想像されて頭に張り付く。
凄惨な風景、死んだ目で穴を掘り続けるでぃの様子が目に浮かぶ。
(*゚∀゚)「おれ、どうにかしてでぃをあそこから出してやりたいのに、なんも思い浮かばないよ」
なにも思い浮かばないどころか、自分にはどうせ何もできないという
負の気持ちが背中にのしかかってくるのを感じていた。
(*゚∀゚)「だって、だってさ、先生の花畑があるのにでぃは今もあそこにいる」
力の圧倒的な差なんていうのは理解していて、それでも何かそれだけじゃない、
自分にしかしてあげられないことがあるんじゃないかと探し続けていた。
(*゚∀゚)「恨みを、苦しみを抱えた魂は、導いてあげられないのかな……?」
63
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:25:19 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「そっか、お前はずっとそれで悩んでたのか」
何もできない自分に憤り、友人の憂いをまるで自らのことであるかのように
受け取り苦悩するつーの姿を見て、アニは慰めるように優しく頭をなでた。
(*゚∀゚)「先生もずっとこんな風に悩んできたの?」
アニは10数年前にここで花畑を作り、今日までずっとでぃの魂に寄り添ってきた。
つーにとってたった数日このことで思い悩んだだけでも苦しみは大きく、
それを思うとアニの過ごしてきた日々は途方もないものに感じられた。
(*゚∀゚)「先生は、どうしてでぃを救いたいって思ったの?」
つーはこの苦悩を抱えていこうと決意したそのきっかけを知りたいと思った。
同じ悩みを抱く者として。
64
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:25:55 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「そうだな、なんていうのかな」
( ´_ゝ`)「俺は多分、でぃに過去の自分を重ねて見てたんだと思うよ」
( ´_ゝ`)「俺はさ、居場所がなくてここに流れ着いたんだ」
( ´_ゝ`)「故郷の村で感染症が流行ってな、その流行のきっかけがうちの家族だといわれた」
( ´_ゝ`)「当時は俺自身もそうかもしれなと思って、何も言うことができなかった」
( ´_ゝ`)「今思えば、偶然色んなタイミングが重なったことで理由をこじつけられただけだったんだけど」
( ´_ゝ`)「でも実際、家族はみんなその感染症にかかって俺意外はみんな死んでしまって」
( ´_ゝ`)「たった一人になった俺は村を追い出された」
( ´_ゝ`)「だから一人ぼっちで恨みを背負う苦しみは、俺にも少しわかる気がしてな」
65
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:26:24 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「あと、この花畑を作ること自体に俺は自分の居場所を求めたのかもしれない」
( ´_ゝ`)「村を追い出されてから、どこか自分が生活できる場所を探した」
( ´_ゝ`)「でも故郷の近くの村ではうちの一家の噂が流れていて、どこへ行っても拒絶された」
( ´_ゝ`)「そこでもまた自分への負の感情がこれでもかと向けられて、苦しかった」
( ´_ゝ`)「その頃はちょっと生きていく気力をなくしてたんだな」
( ´_ゝ`)「もっと遠くへ、どこまでも遠くへ行こうと思って、村を転々とした」
( ´_ゝ`)「ちょっとだけ自暴自棄になったりして」
( ´_ゝ`)「でも、あちこちの村で花導師として活動する中で様々なものを得た」
( ´_ゝ`)「風来の花導師として生きていくことに意味を見出し始めたりもしてな」
( ´_ゝ`)「そんな風に数年過ごした末に、俺はこの場所にたどり着いたんだ」
66
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:26:52 ID:pn6G8Upg0
( ´_ゝ`)「初めてここに来た時、ここには何もなかった」
( ´_ゝ`)「何もないどころか、死者の恨みや憎しみの渦巻く不浄な場所だった」
( ´_ゝ`)「村でも呪われた場所と言われていて人も寄り付かない」
( ´_ゝ`)「そんなとこに、ぽつんとでぃがいたんだよ」
( ´_ゝ`)「でぃは俺が話しかけると驚いてな、自分が見えるのかって」
( ´_ゝ`)「あとはお前と同じ感じなんだと思うけど、
でぃのことを知るほどに何とかしてやれたらと思うようになって」
( ´_ゝ`)「でぃを導いてやりたいと思ってこの花畑を作った」
( ´_ゝ`)「もしかしたら俺はそのためにここにたどり着いたのかもしれないと思ってな」
( ´_ゝ`)「それで、この場所を取り巻いていた殺された人たちはの魂は導くことができたんだ」
( ´_ゝ`)「でぃを縛り付けていたものはなくなったはずだった」
( ´_ゝ`)「それでもでぃの魂はまだここを彷徨い続けている」
( ´_ゝ`)「だから俺は今もここにいる」
67
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:27:20 ID:pn6G8Upg0
初めて聞くアニの過去につーは押し黙った。
アニも自分と同じだけど、全然違うんだと実感した。
アニは流れ着いたこの場所に自分のやるべきことがあると、長い年月をかけて向き合い続けてきた。
つーはアニに、なぜでぃを救いたいと思ったのかと尋ねたけれどじゃあ自分自身は?と改めて考えた。
(*゚∀゚)「おれは、でぃが友達だから何とかしたいって思った」
( ´_ゝ`)「それは素敵なことだぜ」
(*゚∀゚)「先生は前に、俺の夢を忘れるなって言ったよね」
( ´_ゝ`)「ああ」
(*゚∀゚)「おれさ、先生みたいに花導師として旅をするのが夢なんだ」
つーは頭に思い描く。
まだ見ぬ花を知り、可能性を知り、多くの人々の苦悩を取り除くことや喜びに寄り添うことを。
(*゚∀゚)「でも、やっぱりでぃのことも導いてやりたいんだ」
それはこの村にとどまってやるべきこと、矛盾した2つがつーの中でぐるぐると渦巻いている。
68
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:28:16 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「どっちも諦めないこと。それがおれの夢なんだ」
まっすぐ前を向くその目は力強く、先ほどまでの迷いや不安に揺れる心はもうそこになかった。
( ´_ゝ`)「それはなかなかに欲張りだなぁ」
(*゚∀゚)「だろ。でもおれはやるんだ。大事なことは絶対手放さない」
( ´_ゝ`)「ああ、お前ならきっとできるさ」
(*゚∀゚)「うん。だから、先生も絶対諦めんなよ」
前に進もうとする背中を押そうとアニは手を伸ばしたが、
振り返るつーにその手を掴まれたような気がした。
69
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:29:16 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「先生もさ、また旅に出たいんだろ」
( ´_ゝ`)「え」
(*゚∀゚)「おれ、ずっと思ってたんだ。先生が講義で昔旅してた話をするとき、
すげー楽しそうだった」
アニが懐かしむように、好奇心に満ちた目で旅の話をするのを聞くたびにつーは不思議に思っていた。
アニはどうしてこの村にとどまっているのか、きっとまだ世の中は彼が見たいものであふれているのにと。
70
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:29:47 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「おれと一緒にでぃのこと導いて、そんで旅に出ようよ」
思ってもなかったその言葉に、アニは目を丸くした。
つーの目は真剣そのもので戸惑いもなく、全ての恐怖を跳ね返すような希望にあふれていた。
( ´_ゝ`)「は、ははは」
(*゚∀゚)「え、ちょ!何笑ってんの先生!?」
( ´_ゝ`)「いやごめん。あはは。なんか、俺そんな風に考えたことなかったから」
溢れ出した笑いが止まらなくなって、アニはけらけらと笑い続けている。
いつの間にか目の端に浮かんでいた涙をそっと拭った。
( ´_ゝ`)「悪い悪い」
(*゚∀゚)「もう、なんだよ。おれは本気なんだからな」
( ´_ゝ`)「うん、わかってるよ。ありがとな」
71
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:30:19 ID:pn6G8Upg0
それから、アニとつーは今まで通りの生活をしながらもより熱心に花のことを調べた。
つーの霊力はだんだんと強くなり、育てる花の導きの力も強くなった。
相変わらずでぃとはいい友人関係で、日々色んなことを話して過ごした。
けれど変化は気づかぬうちに彼らに忍び寄り、すぐそこまで迫ってきていた。
でぃの姿が見えない日が増えたり、顔を合わせているときでもぼんやりとし
て声が聞こえていない様子の時もあり、何かがおかしかった。
つーが理由を尋ねてもはっきりとした答えは得られず、靄を抱えたような日々が過ぎていった。
72
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:30:58 ID:pn6G8Upg0
ある晴れた日の午後、つーはいつものようにでぃに自分の育てた花の花束を渡した。
(#゚;;-゚)「ありがとう。ガーベラは久しぶりだね」
(*゚∀゚)「そうかもね」
( ´_ゝ`)「白一色か。綺麗だな」
つーとアニは講義のあとの水やりや草取りを終えて休憩をとっていた。
(*゚∀゚)「でぃ、今日はなんか調子よさそうだね」
(#゚;;-゚)「今日は2人に話がしたくって。しゃんとしなきゃと思って」
(*゚∀゚)「話?」
73
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:31:35 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「うん。ぼく、2人に謝らなきゃいけなくて
(*゚∀゚)「謝る……って何を?」
(#゚;;-゚)「ぼくはね、導かれなかったわけじゃないんだ。導きを拒否したんだ」
( ´_ゝ`)「……」
(#゚;;-゚)「ぼくは自分の意思でここにとどまっている」
(*゚∀゚)「えっと、どういうこと……?」
74
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:32:12 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「怖かったんだ、何もかもが」
(#゚;;-゚)「ぼくは生きている間誰にも愛されなかった」
(#゚;;-゚)「体も心も傷つけられて、そのまま最期を迎えた」
(#゚;;-゚)「死んだ後もここに取り残されて寂しかったし、
恨みの呪いに縛られることはとても辛いことだった」
(#゚;;-゚)「でも、アニが助けてくれた」
(#゚;;-゚)「初めて優しさを知った」
(#゚;;-゚)「初めて穏やかさと言うものを感じた」
(#゚;;-゚)「もうそれを失いたくないって思ったんだ」
75
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:32:38 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「きっと導かれた先にもぼくを待つ人はいない」
(#゚;;-゚)「人を殺して喜ぶような心を持った僕が導かれる先は、きっと心安らぐ場所じゃない」
(#゚;;-゚)「それにもし長い時を経て生まれ変わったとして、そこでもまた辛い人生が待っていたら?」
(#゚;;-゚)「前へ進むってことは、希望を持つってことだよね」
(#゚;;-゚)「抱いた希望が壊されてしまうくらいなら、ぼくはこのままでいいって思ったんだ」
(#゚;;-゚)「アニが傍にいてくれれば、この穏やかな日々があれば」
(#゚;;-゚)「ぼくはもう、それで、いいって」
76
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:33:12 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「でも、つーに会ってぼくの気持ちは少しずつ変わっていった」
(#゚;;-゚)「多分僕だけじゃない。アニも変わっていったんだ」
(#゚;;-゚)「つーの夢に向かう気持ちや、ぼくに対する決意」
(#゚;;-゚)「そういうの全部が、ぼくの心に勇気をくれた」
(#゚;;-゚)「前に進む勇気を」
(#゚;;-゚)「ぼくもどこかへ行きたいって夢を話したけど」
(#゚;;-゚)「あれは、本当はここから離れる勇気が欲しいってことだったんだ」
77
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:35:45 ID:pn6G8Upg0
(#゚;;-゚)「ぼくも本当は、アニにずっとここにいてもらうことがいいことだとは思ってなかった」
(#゚;;-゚)「大好きだから」
(#゚;;-゚)「大好きってことは大事ってことだ」
(#゚;;-゚)「大事な人にはそばにいて欲しいけど、でも」
(#゚;;-゚)「自分のしたいと思うことをできる人生であって欲しいって、そう思えた」
(#゚;;-゚)「アニ、ありがとう。僕に初めて居場所をくれて」
(#゚;;-゚)「ぼくの居場所になってくれて」
(#゚;;-゚)「そして、本当にごめんなさい。君の足を止めてしまって」
(#゚;;-゚)「つーもごめんね。君の夢に向かう気持ちに壁を作ってしまった」
78
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:36:14 ID:pn6G8Upg0
でぃは最後まで2人の目を見て、気持ちの全てをぶつけた。
後悔と謝罪、希望と決意、それらで今までの日常を壊し捨てることを選んだ。
( ´_ゝ`)「まいったね、こりゃ」
でぃの言葉が途切れ、しばしの沈黙の後アニはぽつりとつぶやいた。
( ´_ゝ`)「なんとなく、気づいてはいたんだ」
( ´_ゝ`)「それでもお前の気のすむまでここにいればいいって、そう思ってた」
( ´_ゝ`)「それで俺の一生を使ったとしても悔いはないって」
( ´_ゝ`)「お前が前に進めて嬉しいのに、ちょっと寂しい気分だ」
( ´_ゝ`)「でぃ、お前は俺にも居場所をくれたんだよ」
( ´_ゝ`)「ありがとうなんて、こっちのセリフなんだよ」
79
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:36:56 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「でぃ、なに謝ってんだよ」
(*゚∀゚)「自分の気持ちにケリをつけさせてやるのも含めて、導くってことなんだとおれは思う」
(*゚∀゚)「未練を洗い流してやるとか、残した痛みを和らげてやるとか、そんなことばっかりじゃなくてさ」
(*゚∀゚)「きっとそれが、俺からでぃに贈った花にしかできないことだったんだよ」
(*゚∀゚)「これで俺の夢が一個叶ったんだ」
3人はそうやって笑いあった。
旅立ちを称え合うように。
80
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:37:45 ID:pn6G8Upg0
でぃはつーにもらった白いガーベラの花束を抱いて、花畑の真ん中に立った。
アニとつーは同時に唄い始める。
それは別れの唄。
またいつか会える日を夢見る旋律。
これから行く道が、あなたにとって素晴らしいものでありますようにと祈るための唄。
スイートピーの花が舞い上がる。
花弁がでぃの周囲を漂い、光が彼の体を包み込んでいく。
その様子は幻想的で、つーは自分が初めて導くというその光景に感動を覚えた。
でも、涙は流さなかった。
お互いに笑顔で前に進むと約束したから。
81
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:38:13 ID:pn6G8Upg0
(*゚∀゚)「せんせーーーー全然片付いてないじゃんか!」
アニの家ではいつものようにつーの元気な声が響き渡る。
つーの言葉に、アニは頭を掻きながら舌を出しておどける。
それは見慣れた光景。
( ´_ゝ`)「へっへっへ、まぁもうすぐ終わるって」
(*゚∀゚)「あと3日だよ!?間に合うのかよ。しかも明日は色んなとこ挨拶して回るからほとんどなんもできないだろうし」
( ´_ゝ`)「まぁ見とけって、俺はラストスパートに定評があるんだから」
(*゚∀゚)「そんなの自慢になんねーし!」
( ´_ゝ`)「お前はどーせもう全部終わって暇なんだろ?だからケツ叩きにきたんだろ。ついでに手伝って行けよ」
つーがもう少し子供の頃にはしっかりとした大人ぶって見せていたアニだったが、
すっかり立派な青年なった今となっては助手に甘えるダメなおじさんと化していた。
(*゚∀゚)「先が思いやられる!!」
82
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:38:48 ID:pn6G8Upg0
つーにがみがみ言われながらなんとか旅の支度を終わらせた翌日、
アニはホライズンベーカリーへ挨拶にきていた。
( ´_ゝ`)「ブーンさん、とうとう明後日出発です。すみませんが息子さんお借りしますね」
( ^ω^)「ご丁寧にありがとね。息子のこと頼みますわ」
いつものように愛想よくニコニコと笑っているブーンに、アニは深く頭を下げた。
( ´_ゝ`)「ブーンさんにもつーの将来ついて考えはおありだったかと思います。
勝手なことをしてしまって本当に申し訳ない」
アニは、つーが望んだこととはいえ花導師として旅に連れ出してしまうことを心から申し訳なく思っていた。
83
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:39:15 ID:pn6G8Upg0
( ^ω^)「いや、僕はつーには自由に未来を選択してほしいと思ってるんです」
( ^ω^)「僕はツンと一緒にパン屋を開くって決めたときに約束したことがあるんです」
( ^ω^)「パン屋は僕たちの夢であって、それを子供たちに押し付けてはいけないって」
( ^ω^)「パン屋の子供だからパン屋になる道しか選べないなんていうのは、違うと思うんです」
( ^ω^)「僕らが自由に選択できた喜びは、当然子供たちにも与えられるべきなんです」
84
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:39:54 ID:pn6G8Upg0
( ^ω^)「ありがたいことに、しぃはパンを作る喜びを知ってくれました」
( ^ω^)「僕は最初心配しました。しぃは自分がパン屋を継がなきゃって、
本当に自分のしたいことを我慢してるんじゃないかって」
( ^ω^)「そういったら怒られました」
(*゚ー゚)「お父さん、私を見くびらないで」
(*゚ー゚)「自分の娘が選んだ道を信じないの?」
85
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:40:36 ID:pn6G8Upg0
( ^ω^)「本当にあの子はツンそっくりだ」
( ^ω^)「僕がパン屋をやるって決めたとき、ツンにも同じように怒られたんです」
( ^ω^)「僕の夢に付き合わなくたっていいんだよって言ったら、バカにしないでって」
( ^ω^)「すみません、話がちょっと脱線しましたね」
( ^ω^)「とにかく、だからつーが花導師を目指したいというのなら僕は全力で応援します」
( ^ω^)「つーにもパン作りは仕込んでおきました。おいしいパン、食べさせてもらってくださいね」
86
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:41:07 ID:pn6G8Upg0
話を終えてホライズンベーカリーを出るアニの手には大きな紙袋があった。
( ´_ゝ`)「餞別だって。そんなのいいのにな」
家までの帰り道、アニは少し遠回りして川の堤防を歩く。
お気に入りの景色も見納めだと、少ししんみりしながら川の流れを眺めた。
袋から一つパンを取り出し、近くの岩に腰かけてから一口食べる。
ブーンのチーズたっぷりブレッドはとても濃厚で、いつも通り絶品だ。
( ´_ゝ`)「これも懐かしい味になるんだなぁ」
柄にもなく哀愁を感じていると、森の道の方からアニを呼ぶ声が聞こえてくる。
( ´_ゝ`)「ギコか?おーーい、こっちだぞ」
( ,,゚Д゚)「アニさんここにいたんですね」
( ´_ゝ`)「よおどうしたんだ。お前も別れのあいさつに来てくれたのかい」
( ,,゚Д゚)「まぁそうっちゃそうなんですけど、でもそうではなくて」
87
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:42:25 ID:pn6G8Upg0
( ,,゚Д゚)「アニさん、花畑のことはオレとか元生徒連中に任せてください」
アニは突然のことにきょとんとして、黙ってギコの話を聞く。
元々アニは花畑を今のままにして旅に出ることを決めていて、周りにもそう伝えていた。
世話がなければ枯れてしまうものもあれば、そのままでも咲き続けるものもあり、
全てを自然に任せるつもりだった。
( ,,゚Д゚)「あの花畑は村にとっても大切な財産です」
(
´_ゝ`)「でもお前らだって忙しいでしょ。お店に葬祭に自分とこの花の世話だってある」
( ,,゚Д゚)「そうかもしれませんが、うちの村には花導師が多いんです。みんなで回せばラクショーです」
( ´_ゝ`)「まぁそうかもしれんが」
88
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:42:55 ID:pn6G8Upg0
( ,,゚Д゚)「家は引き続き子供たちへの講義に使わせてもらいますね。ちゃんと掃除もします」
( ´_ゝ`)「うん、子供たちのことは頼むよ。まだ学びたいって子たちがいっぱいいるしさ」
( ,,゚Д゚)「アニさんがいつ帰ってきてもいいように、いつだって賑やかで綺麗にしておきますよ」
ギコはクソがつくほどの真面目な顔でそんなことを言う。
( ,,゚Д゚)「ここはもうアニさんの帰りを待つ人でいっぱいの、アニさんの故郷なんですから」
( ´_ゝ`)「なんだよ、泣かせて来るんじゃん」
89
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:43:46 ID:pn6G8Upg0
つーとアニが旅立つ日、まだ太陽が顔を出したばかりの早朝。
挨拶は事前に済ませたから、当日の見送りはいらないと伝えてあった。
2人の旅をスタートするならば、2人きりでいつものように変わりなくと思っていたから。
( ´_ゝ`)「よし、行こうか」
(*゚ー゚)「行こう!」
2人はアニの家の花畑から出て、村の中心地とは逆の方向へ歩き出す。
最後にもう一度振り返り、つーは花畑に向かって大きく手を振った。
花畑の真ん中にたたずむ小さな墓石に向かって。
彼はもうそこにはいない。
だからそれは、彼と紡いだ思い出とのしばしの別れの挨拶だった。
fin.
90
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/22(金) 17:50:40 ID:pn6G8Upg0
イメージ楽曲
Nowhere / [.que]
//youtu.be/dCf8zzfMuy4
Anywhere / [.que]
//youtu.be/QggkidPDHzI
91
:
名無しさん
:2021/10/22(金) 21:37:55 ID:otl3eb/c0
登場人物みんないいなぁ
92
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 03:52:18 ID:W6X6qcQ20
おつです
93
:
名無しさん
:2021/10/23(土) 11:30:54 ID:P0LnihF20
なんて優しい物語なんだ
癒やされる
94
:
名無しさん
:2021/10/25(月) 01:32:11 ID:gt3aGPWM0
柔らかくて儚くて眩しい
だいすき
95
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/26(火) 11:46:28 ID:GDLjaw.k0
BBH管理人さんへ
まとめていただいた内容に以下2点の修正をお願いしたいです
>>22
を削除
>>21
と
>>23
の順番入れ替え
つまり以下の順番にしていただきたいです
>>20
>>23
>>21
>>24
お手数おかけしますがよろしくお願いします
96
:
BBH
◆CaOyByoJC6
:2021/10/26(火) 12:24:13 ID:.pcr1Nz20
>>95
修正しました!ご確認ください
97
:
◆5b38lHWufU
:2021/10/26(火) 14:06:03 ID:GDLjaw.k0
>>96
確認いたしました!ありがとうございます!!!!
98
:
名無しさん
:2021/10/28(木) 16:04:40 ID:tzVWOg020
温かい話だった
癒された 乙でした
99
:
名無しさん
:2021/10/30(土) 17:48:41 ID:ByOYmKUI0
おつ
いい話だ……
100
:
名無しさん
:2021/11/01(月) 18:59:15 ID:BhFwzy5.0
停滞していたものがゆっくり流れ始めるような話でいいなあ
乙
101
:
名無しさん
:2021/11/02(火) 07:06:51 ID:NBnrhlSc0
乙
とてもいい読み切り漫画を読んだ感じだった
情景が浮かびやすい
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