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( ^ν^)うさぎのこころのようですζ(゚ー゚*ζ

1 ◆zPaBylEEnw:2021/10/18(月) 23:28:50 ID:rh4dN39c0








言葉に出来なかったモヤモヤを言い当てられたあの日から、
俺の心はうさぎになった。





( ^ν^)うさぎのこころのようですζ(゚ー゚*ζ






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2名無しさん:2021/10/18(月) 23:29:17 ID:rh4dN39c0


放課後は平等に訪れる。
声ばかり大きいアイツにも、不機嫌さを態度で表すあの女にも、居場所のない俺にも。

にわかに浮き足立つ校舎をさっさと飛び出して、自宅に空っぽの鞄を放り投げ、相棒を背負って街に出る。
シャッター街を通り抜け、年老いた桜の木が鎮座する橋まで来ると自転車のハンドルを切る。
ブレーキなんか握らずに坂道を下って、 舗装された河川敷の遊歩道の脇に自転車を止めた。

セイタカアワダチソウをなぎ倒しながら、道なき道を進んでいく。
毎日通ってるはずなのに、一向にけもの道など出来はしない。
俺よりもこの草の方がずっと強い。悔しいけど、好都合だ。

顔に引っ?き傷を作って、服を草の種だらけにしてようやくたどり着く俺のスタジオ。
頭上では絶えず電車の音が鳴り響く。
街の鼓動を踏みしめて、精一杯かき鳴らすんだ。
でたらめに扱っても、期待以上に返してくれる俺のギターを。

指は勝手に暴れまわる。
やがて弾きなれたフレーズを紡ぎだす。

軽やかなイントロをつま弾く。
軽快なリズムを足で刻んで、口はスキャットを口ずさむ。
橋の下で俺はようやく、世界の一部になれる。
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3名無しさん:2021/10/18(月) 23:29:46 ID:rh4dN39c0



( ^ν^) ♪


ポップで抽象的な歌詞だ。
君と逃げたい、壊れそうなバイクに乗って。
意味不明な歌詞と軽い曲調はただ俺の心を揺さぶる。
モヤモヤする。行き場のない熱量と言葉にできない感情が胸をざわつかせる。
衝動が、性欲が、憂鬱が、鬱憤が濁流となって、

「ねえ」

「それって、恋の歌?」

心が跳びはねる。元気いっぱいの子うさぎのように高く、強く。
生きてきてから今までで一番高く、脈絡なく飛びはねる。

足音うるさく跳びはねる心を掴まえて、掌の中に包み込む。
跳躍を止められた心は、呼吸を止めずに震えていた。息荒く、細かく、騒がしく。

( ^ν^) 「……何」

ξ゚⊿゚)ξ 「今歌ってた曲は、恋の歌なのって聞いたのよ」

聞こえなかったの? と片眉を吊り上げる彼女の顔に見覚えがあった。
教室で、毎日見ている顔だ。
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4名無しさん:2021/10/18(月) 23:30:12 ID:rh4dN39c0

ξ゚⊿゚)ξ 「アタシ、津出だけど」

知ってるよ。とは言えなかった。
言葉を探す間もなく、彼女は問いを重ねる。

ξ゚⊿゚)ξ 「で、今のは恋の歌なの?」

( ^ν^) 「……なんで」

何故彼女がここにいるのだろう。
クラス一目立つ女が、斜面に立って俺を見下ろしている。
ボウボウと遠慮なく生えるセイタカアワダチソウを踏み潰して、仁王立ちしている。
あの狂暴な草に負けない強さを持っているなら、俺より間違いなく強い。人間的に、生物としても。
教室では俺の存在にも気づいていないような、住む世界の違う女が、何故。

ξ゚⊿゚)ξ 「何でって、気になったからよ」

( ^ν^) 「……何で、こんなとこにいんの」

のどの渇きが気になる。気にすればするほど渇く。
生唾を飲み込んでから恐る恐る声を発したが、それは俺の耳に届く前にかき消された。
ひっきりなしに頭上を通る電車の音に。
跳びはねる心の足音に。

ξ゚⊿゚)ξ 「音が聞こえたからよ」

( ^ν^) 「歌が聞こえたから、近づいてみたらたまたまクラスメイトだった」

ξ゚⊿゚)ξ 

ξ゚ー゚)ξ 「まあ、そんなとこ」

彼女はにっこりと微笑んだ。目が合う、そして心が乱暴に跳ねる。
この日から、俺の心はうさぎになった。
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5名無しさん:2021/10/18(月) 23:30:32 ID:rh4dN39c0


ξ゚⊿゚)ξ 「ギターってさ、どこで習ったの?」

クラスのマドンナ、高嶺の花。古臭いそういう言葉がよく似合う華やかで高飛車な女。
一番顔が綺麗で、気が強くて、言葉がきつくって、俺みたいな奴なんててんで相手にしない、津出。
そんな津出が今、俺の隣で俺だけに向かって話している。

( ^ν^) 「俺は独学」

ξ゚⊿゚)ξ 「どんぐらいかかった?」

( ^ν^) 「は?」

放課後、時々会うようになって、気づいたことがある。
こいつは主語を言わない。

ξ゚⊿゚)ξ 

それでいて、理解しなかった聞き手側を責めるように、睨みつけるんだ。
全く理解できずにいると、ため息をついて言葉を足してくれる。
出来の悪い生徒に言い聞かせる教師みたいに。蔑んだ目で。

ξ゚⊿゚)ξ 「あんたぐらい弾けるまで、どんぐらいかかった?」

( ^ν^)「俺は5年くらいやってる」

ξ゚⊿゚)ξ 「そう……」

( ^ν^) 「習えばいいだろ、教室でもなんでも」

ξ゚⊿゚)ξ 「それじゃ駄目なのよ」

津出はひとつ、ため息を落とす。
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6名無しさん:2021/10/18(月) 23:30:55 ID:rh4dN39c0
顔の横で出来すぎなくらい綺麗なカールを描いた毛束をくるくると指で弄んでいる。
色素の薄い髪が、白い肌に淡い影を落とす。

どんな仕草も絵になるな、なんてつい見とれてしまう。
そして胸が高鳴る。ひとつ、ふたつと跳びはねる。

こんなに近くに座っている津出に、胸の高鳴りを気づかれたくなくて、息を止めて捕まえる。
生きのいいうさぎみたいな心を、捕まえて、息の根を止めるんだ。

( ^ν^) 「なんでだよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「ダメなもんはダメなの」

睨まれれば、それ以上は聞けない。
いかにも憂鬱そうに眉をしかめ、ぼんやりと川を眺める津出を、俺はただ見ている。
息を殺して、鼓動を押し殺して。



ξ゚⊿゚)ξ 「ねぇあんた、教えてくれる?」

津出が振り向いた。
同時に、ひとすじの風が吹く。川の向こうから、海に向かって。
水面が光を弾いて、橋の下をきらめかせる。

( ^ν^) 「ギター弾けるようになってどうすんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「はぁ?」

今日イチで見下した視線をいただく。
当然でしょ、と彼女は言う。

ξ゚⊿゚)ξ 「弾きたいから、弾けるようになりたいのよ」

もっともだ、と俺は思う。
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7名無しさん:2021/10/18(月) 23:31:17 ID:rh4dN39c0


女子っていい匂いがするんだ。
漫画とかでそんな表現見たことあるけど、嘘じゃなかった。

シャンプーの匂いなんだろうか。
それとも体臭なんだろうか。体臭ってどこから匂うのだろう。
匂いの源はどこに隠されているのだろう。
余計な事を考え始めると、耳が熱を持ち始める。
耳が熱くなってきたことを意識してしまうともうダメだ。
全身が熱くなって、胸の中が騒ぎ始める。

放課後を共にするようになって随分たつが、いつまでたっても慣れそうにない。
心臓が不規則に飛び跳ね始めると、脳裏にうさぎが現れる。

うさぎを飼いならせ。
捕まえて、撫でて、落ち着かせるんだ。
落ち着きを取り戻すんだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「ねぇ、聞いてる?」

( ^ν^) 「は?」

ξ゚⊿゚)ξ 「ハァ? じゃないわよさっきから呼んでんの」

不意に顔を覗き込まれ、ひときわ大きく胸が弾んだ。
指の間をすり抜けて逃げ出したうさぎを捕まえられずに慌てている。

だんだん、飼いならすのが難しくなってきた。
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8名無しさん:2021/10/18(月) 23:31:38 ID:rh4dN39c0


放課後の親しみやすさとはうってかわって、教室では他人行儀だった。

窓際の後ろから二番目の席に津出は座っている。
授業中よく、津出は外を眺めていた。
ぼんやりと外を眺めていた。

俺はそんな津出を見てしまう。
気が付くといつの間にか、津出を目で追っている。

津出の視界に入りたいと思った。
何とかして、こちらを振り向いてほしいと、ただその気持ちだけが膨らんでいた。
うさぎが跳ねる。
胸の音が教室中に響くようで、俺は津出から目をそらす。

振り向いてほしかった。
この痛みを知ってほしかった。
高望みして飛び上がるうさぎを絞め殺す。
首を掴んで、力いっぱい握りしめる。苦しそうに痙攣しても、力は緩めず、ただひたすらに。

うさぎの屍を積み重ねていくことだけが僕の救いだった。
そして荼毘に付さずに溜め込んで積み上げているのは、津出に気づいてほしかったからだ。
君のために、こんなにもたくさんのうさぎが死んでいるんだ、と。



でも津出が知ることはないだろう。
うさぎはただ、俺のために死んでいくのだ。
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9名無しさん:2021/10/18(月) 23:31:59 ID:rh4dN39c0

津出はよく笑う。
そしてよく食べる。

その細い体のどこに入るのだろうと疑問で仕方がないのだが、本当によく食べた。
自宅から持ってきたであろう大きめの二段の弁当箱の隣にヨーグルトを置いている。
そして購買で買ってきたメロンパンまで食べている。
大きな口を開けて、メロンパンにかぶりつく姿を横目で見ていた。

食べても食べても、おなかが空くのよね、と津出は言う。
そしてその健啖っぷりを隠さないのが好ましかった。
繊細さと豪快さを兼ね備える津出の周りにはいつも人がいた。
男女問わず、常に人に愛されていた。
俺とは真逆だ。



授業中、退屈そうに頬杖をついていた津出が、ふと、顔を上げた。
同時か、少し遅れてチャイムが鳴り響く。

ひとつチャイムが鳴って、俺が教室の風景となる時間は終わった。
空っぽの鞄をぶら下げて一人帰路を急ぐ俺なんてよそに、校内は賑やかだった。

工具を抱えた女子の軍団が、かしましく俺の前を通り過ぎる。
もうすぐ、文化祭がある。
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10名無しさん:2021/10/18(月) 23:32:19 ID:rh4dN39c0


津出は真剣だった。
いまだに目的を教えてくれることはないが、毎日真剣にギターの練習をしていた。
弾きたい曲がある、と津出は言っていた。

( ^ν^) 「文化祭にでも出んの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「ハァ?」

( ^ν^) 「その曲で」

ξ゚⊿゚)ξ 「出ないわよ」

( ^ν^) 「じゃあなんで」

ξ゚⊿゚)ξ 「アンタには関係ないでしょ」

( ^ν^) 「バンドでも組むのか」

ξ゚⊿゚)ξ 「いや、周りに楽器できる人いないし」

俺がいるだろ、とは言えなかった。
ギター二人だけではさすがにカッコつかない。
俺にはバンドを組めるような友達はいない。

でも、津出なら。津出さえその気なら、彼女の人望を駆使して、人ぐらい簡単に集められるだろう。
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11名無しさん:2021/10/18(月) 23:33:47 ID:rh4dN39c0
俺は想像する。
二人で共にステージに立つ姿を。
共に演奏して、心と心が通い合う瞬間を想う。

うさぎが元気に跳ねる。
ここにいるよと叫びだす。

ξ゚ー゚)ξ

ξ゚ヮ゚)ξ ♪

俺の想像の中で、津出は笑顔を浮かべていた。
弾けんばかりの笑みを、俺じゃない誰かに向けていた。
俺の想像の中でさえ、津出は俺のものにならないのに、相応しくないとわかりきっているのに、どうして胸が焦がれるのだろう。

うさぎを飼いならせ。
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12名無しさん:2021/10/18(月) 23:34:35 ID:rh4dN39c0


近頃、うさぎが成長してきたのか足音が響くようになってきた。
暗がりで、縦横無尽に跳ねまわるうさぎをじっと眺める。
元気いっぱいだ。

一番近くで跳ねるやかましいうさぎを捕まえる。
手に吸い込まれるように捉えられたうさぎは身を縮めて怯えている。

このまま静かで居てくれたらいいのに。
君たちを殺すのは俺の本意ではないんだ。

あたたかな毛皮が手の中で身じろぐ。
津出を思うたびに、うさぎの身体がびくびくと跳ねた。

殺したくはないけど、でも、しょうがないじゃないか。
この胸の鼓動に気づかれたら、きっと津出は俺を避ける。

津出の隣にいるために、津出を応援するために、仕方のないことなんだ。
流さなければならない血なのだ。

あたたかな肉片となった僕の心を袋の中に閉じ込める。
大事な心だ、捨てたくはなかった。冷凍保存しておけばいい。

殺してもころしても跳びはねる俺の心に俺は辟易としている。
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13名無しさん:2021/10/18(月) 23:35:11 ID:rh4dN39c0



「津出がオーディション通ったらしいよ」


センセーショナルなニュースはあっという間に学校中に広まった。
下級生が大勢見学に来て、扉の向こうから覗いていた。

ξ゚⊿゚)ξ

津出はいつも通りだった。
いつも通りツンと澄まして、クラスの女王気取りで。

噂についての質問は全て黙殺していた。



いつもの場所で、俺はいつもより不安だった。
夢が叶った津出は、もうこんな場所へは現れないだろうと。

でもいつもの時間に来た。
何事もなかったような顔して来た。

俺も何事もなかったかのようにいつも通りギターを教える。
いつも通りってなんだっけ。指が震えた、声が震えた。
遠慮なく跳びはねるうさぎに今日は勇気づけられた。俺は生きてるんだ。

そわそわしている俺を見かねて、津出は言った。

ξ゚⊿゚)ξ 「聞きたいことがあるなら、さっさと聞いたらいいじゃない」

( ^ν^) 「お、オーディション通ったって、本当?」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうよ」

( ^ν^) 「まぁ、なんていうか、まぁ」

うまい言葉が見つからなかった。
疑問をぶつけるのか、想いを伝えるのか、何も出てこず頭は真っ白だった。
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14名無しさん:2021/10/18(月) 23:35:44 ID:rh4dN39c0
渇いた唇を湿らせて、ようやっと言葉を絞り出す。

( ^ν^) 「おめでとう」

綺麗に整った眉毛を片方だけ器用に持ち上げて、津出は微笑んだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「へぇ」

ξ゚⊿゚)ξ 「祝ってもらえるとは思わなかったわ」

ξ゚⊿゚)ξ 「あんた、アイドルとか嫌ってたでしょう」

( ^ν^) 「アイドル?」

予想外の単語を聞いて、しばし戸惑う。
俺の惑いには気づくことなく、津出は言葉を重ねた。

ξ゚⊿゚)ξ 「オーディションの一芸用に、ギターを弾きたかったのよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「ダンス以外にも特技が欲しくて」

ξ゚⊿゚)ξ 「でも、駄目ね付け焼刃じゃ」

ξ゚⊿゚)ξ 「バレエのほうがよっぽど評価されたわ」

眉間にしわを寄せて、首を振って苦笑する津出の姿は絵になった。
どんな表情でも美しく、話半分に見とれてしまう。
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15名無しさん:2021/10/18(月) 23:36:05 ID:rh4dN39c0

アイドルの語源は「崇拝されるもの」だという。

俺にとってまさに津出はそれだった。
ひとつひとつの所作に夢中になる。髪の一本一本まで、指先のたおやかな動きまで。

贄を捧げて信仰し続ける。
祈ることなら、日々してきた。

( ^ν^) 「お前、アイドルになりたかったの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうよ、最初に言わなかったかしら」



( ^ν^) 「聞いてない」

一度も聞いたことはない。
お前、あのバンドに憧れてたじゃないか。


ξ゚⊿゚)ξ 「まぁ、役には立たなかったけど、アンタには感謝してるわ」

ξ゚⊿゚)ξ 「ありがとう」

( ^ν^) 「バンドに憧れてるんだと思ってた」

だってあのバンドの曲を弾いてたじゃないか。
すぐに弾けるようになりたいって、一生懸命に頑張ってたじゃないか。

憧れてるって、言ってたじゃないか。

( ^ν^) 「俺と一緒に、バンド組んでくれるもんだと思ってた」

ξ゚⊿゚)ξ 「冗談でしょう?」

ξ゚⊿゚)ξ 「あんた友達いないじゃない」

情けない俺を鼻で笑う。
その姿に見とれてしまうことが、とても情けなく悔しい。
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16名無しさん:2021/10/18(月) 23:36:30 ID:rh4dN39c0


その日以降、津出は河川敷に現れなくなった。
予感はしていた。予想もしていた。
でも僅かな期待を持って、毎日ここに来てしまう。
授業が終わってから、日が暮れるまで、ぼんやりと佇んでいた。

だってここだけが、俺と津出を結ぶ唯一の場所だから。

津出がここを捨てたとしても、俺が手放すわけにはいかないんだよ。
だって俺は、津出の一番の理解者でありたいから。

津出が困ったときの助けになりたいから。

ここに来たら絶対助けてやる。
俺だけはずっと、津出の味方でありたいんだ。

津出の横顔を思い出す。
あの美しい夕暮れを、きらめく水面を思い出す。

うさぎが胸の中で、ひとつ、遠慮がちに跳ねた。
その痛みが俺を生かす。
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17名無しさん:2021/10/18(月) 23:36:53 ID:rh4dN39c0


一人きりの夕暮れをいくつ数えただろうか。
すこしずつ暖かくなり、暗くなるのが遅くなったころ、俺は津出と出会う。
大柄の男と連れ立って歩く、津出と出会う。

津出の幼馴染の男だ。
友人にしては近すぎる距離で、恋人と呼ぶには曖昧な距離を保って二人は歩いていた。

ξ゚⊿゚)ξ( ^ω^)

 ξ ゜)ξ( ^ω^)

津出と目が合った。俺と認識して、すぐに目をそらす。
見て見ぬふりをするべきか。迷っていると、胸が締め付けられるように痛んだ。
うさぎは正直だ。情けない俺よりずっと。

( ^ν^) 「よぉ」

平静を装った声を作って、のんきに声をかけてみる。
一番知りたくて、一番聞きたくない質問を出来たのは、俺一人の力じゃない。
死んでいったうさぎたちが、俺の背中を押してくれた。

( ^ν^) 「お前ら、付き合ってんの?」

津出が言葉に迷ってか唇を一瞬開いて、閉じた。
その間に男があっさりと答えた。

( ^ω^) 「いや、同じ方向だから一緒に帰ってるだけだお」

男の言葉に重なって、津出もはっきりと言葉を紡いだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「そうよ」

津出の合意は、いったいどちらの発言に対するものだったのだろう。
戸惑いを隠せずにいると、津出はもう一度口を開いた。
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18名無しさん:2021/10/18(月) 23:37:13 ID:rh4dN39c0

ξ゚⊿゚)ξ 「付き合ってるのよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「悪い?」

津出が顔色一つ変えず言ってのけた。
俺よりも、津出の隣の男のほうが先に身じろいだ。

( ^ω^) 「お?」

俺の存在が?き消えたかのように、二人は見つめあう。
夕暮れの街で見つめあう二人は絵になった。
長い影がふたすじ、近づいて一つになるのを俺は見ていた。直視は、できなかったから。

ξ゚⊿゚)ξ 「いいでしょ」

ξ゚⊿゚)ξ 「アタシは、ツンは、ブーンのことが好きなの」

( ^ω^) 「僕だって好きだお
        でも、ツンの今後のために黙っておこうって思ったのに」

男が振り向く。俺の姿を確認して、そしてまた津出に向き合った。

( ^ω^) 「まさか他の人の前で」

ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫よ」

ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンと付き合うのは、津出令佳であって星空デレではないわ」

それに、と言葉を続けて。
津出は、ゆっくりと俺の方に振り向いた。

ξ゚ー゚)ξ 「ずっと応援してくれるって、言ってくれたもんね」

ね? と小首を傾げ俺を見つめる。
同意することしか、できなかった。だって津出は、アイドルだから。
俺にとっての、俺だけの、アイドルだから。
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19名無しさん:2021/10/18(月) 23:37:39 ID:rh4dN39c0
かすれる声で俺は答えた。そう答えるしかなかった。
津出の仰せのままに。

( ^ν^) 「ああ、俺は津出の味方だ」

津出が微笑んだ。今まで見た中で一番の笑顔だった。
でも俺は知っている。俺にとっての一番よりはるかに素晴らしい笑顔を津出は隠し持っていて、そして俺じゃない奴に向けるんだ。

( ^ω^) 「ふたりは友達だったのかお?」

話してるとこ、初めて見たお、と戸惑う男に津出は告げる。

ξ゚⊿゚)ξ 「ギターの先生よ」

( ^ν^) 「……ああ」

ξ゚⊿゚)ξ 「この先も、応援よろしくね」

ξ゚⊿゚)ξ 「私の、デレのファン一号として」

異議あり! と男が口を挟んできた。

( ^ω^) 「僕は一号じゃないのかお」

ξ゚⊿゚)ξ 「あのねぇ、ファンとは付き合えないけどいいの?」

( ^ω^) 「一号じゃなくていいお」

ξ゚⊿゚)ξ 「いい子ね」

じゃ、またね、と津出は言う。
困ったら、いつでもレッスンに来いよ、俺はいつでもあそこにいるから、と俺は言うしかなかった。

日が暮れる。
夕焼けが暗闇に飲まれる瞬間を、俺はただ、一人で見ていた。
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