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('A`)ディアマミーのようです
1
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 19:47:31 ID:wn5fO.RQ0
不思議なことに、十年会ってなくてもそいつが父親だとわかった。
別に顔をじっくり眺めたわけじゃない。仕事中によそ見をする余裕なんてないし、気付いたのはそいつが自分の横を通り過ぎたあとだ。
それなのに何故気付けたのか、今でもわからない。
51
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:20:46 ID:wn5fO.RQ0
それは本当に偶然だった。
だがその偶然はあまりに出来すぎていて、俺は初めて神というものを信じそうになった。
【+ 】* ゞ゚)「早く帰ろうよー!」
ミセ*゚ー゚)リ「コラ、ちゃんと前見て歩きなさい!」
52
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:21:30 ID:wn5fO.RQ0
(´・_ゝ・`)「そうだぞ。そんなに慌てなくてもおもちゃは逃げないだろ?」
【+ 】* ゞ゚)「だって早く遊びたいんだもん!」
いつもであれば気にも留めない、幸せそうなどこかの家族。
そこにいるのが親父でなければ、俺が振り返ることはなかっただろう。
53
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:22:07 ID:wn5fO.RQ0
【+ 】 ゞ゚)「ねーお母さん、今日の夜ご飯なにー?」
ミセ*゚ー゚)リ「ふふ、今日はね……ハンバーグよ」
【+ 】* ゞ゚)「やったー!」
親父ははしゃぐ子供を優しい目で見ていた。
人間は変わる。十年もあれば尚更だ。
どんな変化があったのか知らない。知りたくもないが。
54
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:22:39 ID:wn5fO.RQ0
J( ;ー;)し『やめて! 子供には手を出さないで!』
痣だらけの腕で俺を庇った母さん。
(;A;)『母ちゃんを殴るなぁ!』
何もできなかった俺。
.
55
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:23:01 ID:wn5fO.RQ0
J( ’ー`)し『いい? ドクオ。どんなにつらくても、人を恨んでは駄目よ』
ごめん母さん。
俺はやっぱりあいつの息子みたいだ。
.
56
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:23:22 ID:wn5fO.RQ0
('A`)(殺そう)
('A`)(今度は俺が全部奪ってやろう)
本当はずっと、あいつのことが憎かった。
.
57
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:24:09 ID:wn5fO.RQ0
そこからは驚くほどスムーズに事が進んだ。
親父はどうやらまともな仕事をしているようだ。
朝八時に家を出て夜七時には帰宅。妻と子供がそれを迎えて、三人で夕食をとる。
週末はたまに仕事があるものの、日曜は基本的に家族水入らずで過ごす。
日中のほとんどを親父や家族を尾けることに費やした。
無職の俺に時間は掃いて捨てるほどあった。
58
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:24:40 ID:wn5fO.RQ0
(*´・_ゝ・`) ミセ*^ー^)リ 【+ 】* ゞ゚)
その日も家族全員で買い物に出かけていた。
買ってもらったばかりの菓子を頬張る子供。それを微笑ましく見守る両親。
母さんとパンを分け合ったことを、ふと思い出した。
59
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:25:13 ID:wn5fO.RQ0
女は随分と間が抜けているか、防犯意識が薄いらしい。
門の鍵を掛け忘れることが多いのは知っていた。
そして今日も、いつもと同じように掛け忘れていた。
俺は悠々と、難なく侵入できた。
すぐに裏口に回ってマイナスドライバーを取り出す。
窓枠とガラスの隙間を狙って一撃、もう一撃と叩きつける。たった二回でちゃちな窓ガラスは簡単に割れた。
60
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:26:07 ID:wn5fO.RQ0
('A`)(リビングはあっちか)
廊下の先に人気があった。
なるべく音を立てないように、右手にあるものの感触を確かめながら歩く。
不思議と緊張はしなかった。怖じ気づくこともなかった。
61
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:26:36 ID:wn5fO.RQ0
勢いよく扉を開けた。
六つの目が一斉に俺を見る。
親父はソファに腰かけていた。子供が地べたで遊び、女がそれに寄り添っている。
('A`)「よう、クソ親父」
奴等は突然の乱入者に驚いたようだったが、すぐに俺の手にある鉈に気付いた。
女が悲鳴を上げる。予想していたことだ。「静かにしろ」と鉈をちらつかせば案の定大人しくなった。
62
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:27:13 ID:wn5fO.RQ0
(;´・_ゝ・`)「誰だお前は!」
クソ親父という言葉が聞こえなかったのか、奴が素っ頓狂な声で叫ぶ。
どうやら俺のことは覚えていないらしい。別によかった。今更こいつに何も期待しちゃいない。
63
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:27:49 ID:wn5fO.RQ0
(;´・_ゝ・`)「強盗か!? い、今すぐ出ていけ!」
('A`)「おいおい、随分と偉そうだな。この状況わかってんのか?」
わかりやすいように鉈をもう一度見せてやる。部屋の明かりを反射して、刀身が不気味に光った。
流石の奴も状況が呑み込めてきたようだった。
情けなく垂れた眉をさらに下げて、唇をぶるぶる震わせている。
64
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:28:11 ID:wn5fO.RQ0
(;´・_ゝ・`)「……金か? 金が目的だろう?」
('A`)「ようやく頭が回ってきたな」
(;´・_ゝ・`)「棚の、に、二段目にある。カ、カードは俺の部屋だ。好きに持っていけばいい……だから、妻と子供だけには……」
('A`)「……」
65
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:28:46 ID:wn5fO.RQ0
「妻と子供だけには」なんだ?
手を出さないでくれと、許してくれと、そう言ってるのか?
母さんと俺を殴っていたお前が?
('A`)「今更遅いんだよ」
(;´・_ゝ・`)「ひぃっ!」
ミセ;゚ー゚)リ「やめてぇ!」
66
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:30:09 ID:wn5fO.RQ0
今朝、母さんは小便を漏らした。
皮肉なことにそんな時だけは意識が冴えていた。
泣きながら「ごめんね、ごめんね」と何度も謝っていた。
もう一刻の猶予もない。比例するように、憎しみは膨らみ続けていく。
67
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:30:40 ID:wn5fO.RQ0
親父が後ずさり、それまで沈黙を守っていた女が叫ぶ。
その腕の中から小さな影が飛び出した。
【+ 】# ゞ゚)「お母さんとお父さんをいじめるなぁ!」
(;´・_ゝ・`)「オサム! やめなさい!」
ミセ;゚ー゚)リ「オサムッ!」
68
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:31:20 ID:wn5fO.RQ0
オサムと呼ばれた子供が俺と奴らの間に立ちはだかる。
鉈を怖がる様子はまるでない。一歩でも近づいたら噛みついてやるとでも言いたげに俺を睨んでいる。
女が子供を抱き寄せ、庇うように俺に背を向ける。
体を母親に覆われながら、それでも子供は俺を睨み続けていた。
69
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:31:50 ID:wn5fO.RQ0
(#'A`)『母ちゃんをいじめるなぁ!』
( A )「……」
怖がる様子はない? そんなわけあるか。怖いに決まってる。
いつ拳が飛んでくるのか、怖くて怖くて仕方なかった。
でも屈するわけにはいかなかった。
だって俺が立ち向かわなかったら、母さんを守る人間は誰もいない。
70
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:32:42 ID:wn5fO.RQ0
(;´ _ゝ `)「頼む。何でも持って行っていい、俺を殺したいなら殺せばいい。だから妻とこの子だけは……お願いします……」
目の前にいるのは、母さんと俺を散々殴った男のはずだ。
なのに今はみっともなく震えて、俺のような小汚ない人間に土下座までしている。
後ろにいる妻と息子のために。
71
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:33:11 ID:wn5fO.RQ0
( A )(……どうして)
( A )(母さんと俺には、そうしてくれなかったのかな)
目の前の男を憎む気持ちは消えていた。
虚しさだけが残っていた。
72
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:35:03 ID:wn5fO.RQ0
( A )「もう、いいよ」
結局俺は金を奪うこともなく、殺すこともなく、ただ鉈をちらつかせただけだった。
鉈は逃げる途中の川に投げ捨てた。
状況は変わってない。
母さんの治療費も、家賃も、光熱費も、明日の飯を買う金もない。
俺ができることは一つだけだった。
.
73
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:37:16 ID:wn5fO.RQ0
('A`)「ただいま」
スイッチを何度か押して、電気が切られていることを思い出した。
落ちているものを踏まないようにゆっくり歩く。
手探りでハンガーを探り当てコートをかけていると、小さな声が俺を呼び止めた。
('A`)「ごめん、起こした?」
J( ’ー`)し「ううん。おかえり」
74
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:38:06 ID:wn5fO.RQ0
たったそれだけ喋るのに母さんは随分つらそうだった。
何度も乾いた咳をしている。
俺は母さんの傍に座って、買ってきたパンを取り出した。
いつだったか親方の気まぐれでもらった菓子パンだ。
('A`)「食べられる?」
頷いたことを確認して、パンを小さくちぎった。
一口サイズにしたそれを母さんの口に入れる。
咀嚼が終わって口が開いたらまた入れる。
75
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:38:32 ID:wn5fO.RQ0
J( ’ー`)し「おいしい」
('A`)「これうまいよね。ざらめが甘くてさ」
何度かそれを繰り返したが、しばらくして母さんは口を開かなくなった。
あの時二人で分け合ったパンは、少し欠けただけで役目を終えた。
76
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:38:56 ID:wn5fO.RQ0
('A`)「俺、今日親父に会ったよ」
母さんは喋らない。
('A`)「怒らないで聞いてね。俺あいつを殺してやろうと思ったんだ」
('A`)「でも無理だった。できなかった」
('A`)「ごめん母さん。俺こんな息子で、ごめん」
77
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:39:52 ID:wn5fO.RQ0
布団から腕が伸びて小さく動いた。
母さんの言おうとしている意味がわかって、もう半歩布団に近付く。
枯れ葉のような手が俺の腕を引いた。
いつの間にか俺は母さんの腕の中にいた。
78
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:40:39 ID:wn5fO.RQ0
J( ’ー`)し「我慢したんだね」
( A )「うん」
J( ’ー`)し「えらかったねぇ」
( A )「うん」
79
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:41:21 ID:wn5fO.RQ0
隙間風が体の熱を奪っていく。
もう電気も点かない、水もじきに止まる家。
動くこともままならない母さん。体を痛めた俺。先の見えない日々。
もうどうにもならないことなんて、本当はずっと前からわかっていた。
.
80
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:42:00 ID:wn5fO.RQ0
('A`)「母さん」
('A`)「俺達、もう無理みたいだ」
('A`)「ごめん」
母さんは全部知っていたように笑った。
.
81
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:43:26 ID:wn5fO.RQ0
いざとなると指が震えて、うまく力が入らなかった。
多分そうなると思ってパンと一緒に買っておいたロープを使った。
首に巻いて、力いっぱい絞めた。
母さんが動物のような声を上げる。
涙が勝手にこぼれて、苦しそうな母さんの顔に落ちていく。
最後まで力は緩めなかった。
少しでも早く楽にしてやりたかったから、必死で首を絞めた。
それがせめてもの愛だと信じた。
.
82
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:44:09 ID:wn5fO.RQ0
母さんを殺したあと、踏み台を使ってロープを括った。
なかなかいい場所が見つからなかったが、なんとか出っ張った部分を見つけて括りつけることができた。
最後にもう一度母さんを見る。
まるで眠っているように安らかに横たわっていた。
すぐに行くから。
心の中で呼びかけて、踏み台を蹴った。
.
83
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:45:01 ID:wn5fO.RQ0
結論から言うと、俺は死ねなかった。
ボロアパートの一角では俺の体重を支え切れなかったらしい。
ロープを引っ掛けたところが折れて、俺は床に投げ出された。
とんでもない物音を聞いた下の住民が通報したそうだ。
大家と警察が見たのは、気絶している俺と事切れている母さんだった。
84
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:46:06 ID:wn5fO.RQ0
「――――以上のことから、当時被告が正常な判断ができなくなっていたことは明らかです」
「金銭面の逼迫、老いた母親の介護……これは被告だけの責任ではなく、社会全体の問題と捉えるべきではないでしょうか? 寛大な措置を求めます」
俺の弁護人だとかいう男が必死に話しているというのに、俺は上の空だった。
弁護人は俺の刑罰を軽くしようと願っているようだったが、俺にとってそんなものどうでもいいことだった。
85
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:46:32 ID:wn5fO.RQ0
たとえ無罪になろうが、この場にいる全員が俺を許そうが、俺は俺自身を許せない。
世界中の人間に許されたところで、母さんは帰ってこない。
「鬱田被告、何か言いたいことはありますか」
裁判長だとかいう男が俺を促した。
頷いて立ち上がる。たくさんの視線が自分に集中するのがわかった。
86
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:46:54 ID:wn5fO.RQ0
('A`)「俺は実の親を殺しました」
('A`)「それはとてもひどいことで、許されることではありません。許されるべきではないと思います」
('A`)「……だけど、もし許されるなら」
('A`)「次も母さんの息子に生まれたいです」
('A`)「今度こそ親孝行をしたいです」
87
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:48:48 ID:wn5fO.RQ0
どこからかすすり泣く声が聞こえる。
今俺に向けられている同情でパンを一つでも買えたなら、どれだけよかっただろう。
すぐに行くから。もう一度心の中で、母さんに呼び掛けた。
.
88
:
◆Wpbv.CwYXc
:2021/10/18(月) 20:49:48 ID:wn5fO.RQ0
以上です。ありがとうございました。
↓使用した楽曲
パンの唄/鬱P feat. 赤飯
https://utsup.bandcamp.com/track/--74
89
:
名無しさん
:2021/10/18(月) 22:06:13 ID:oQ14dhsg0
乙……つっらい……
90
:
名無しさん
:2021/10/18(月) 23:22:48 ID:a0JO2eug0
実在の事件であったねぇ……
素晴らしく陰惨で良かった。乙
91
:
名無しさん
:2021/10/18(月) 23:55:09 ID:RE0q9Cec0
乙
92
:
名無しさん
:2021/10/19(火) 00:40:58 ID:nzDDiLIw0
ああ……これです、これです
93
:
名無しさん
:2021/10/19(火) 12:32:54 ID:Kjs2jz2w0
つらい…
94
:
名無しさん
:2021/10/28(木) 07:27:58 ID:1wyM6KmM0
ただただ泣いた
そして文章がめちゃくちゃスムーズで丁寧で読みやすかった
はい俺で他作品チェック出来るのすごく楽しみです
95
:
名無しさん
:2021/10/28(木) 09:57:45 ID:2Q3AiYog0
乙です
ドクオとカーチャンの事を考えると本当につらいな…
96
:
名無しさん
:2021/10/29(金) 18:28:49 ID:c5Apcslk0
おつ
なんて悲しい……
97
:
名無しさん
:2021/11/06(土) 12:41:38 ID:/19vZ0gg0
お母さんの前で音読してくれ
98
:
名無しさん
:2021/11/06(土) 18:49:13 ID:.NikG/zU0
ドクオが一線を越えなかったぶん余計に辛い
文章すげー読みやすかった、乙
99
:
名無しさん
:2021/11/09(火) 19:21:19 ID:iFWkVBnY0
>>97
やめろわらう
100
:
名無しさん
:2025/02/10(月) 21:05:56 ID:59/5lCek0
こんなにキツい作品あったのしらなかった
しばらく引きずるくらい面白かった、乙
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