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( ^ω^)ほまいに ほまいに まるたすにむす(ω^^ )

1 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:01:31 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

きらり落ち行く流れ星!
きらめく尻尾に流るる光。夜空を駆けるその瞬きを、見上げて人は思います。
大きな光。きれいな流星。ちょっぴり不気味で、とっても不思議。
それは多くの地上の人が、誰からともなく祈ります。
神秘的なその輝きに、神様みたいな光の筋に、思い思いに願います。
とても私的で、とても大事な、数え切れない唯一無二の願いごと。

臆病者の男の子は、図鑑を抱きしめ祈ります。
どうかどうか、おじさんみたいな学者さんになれますように。

がんこで意地っ張りな女の子は、大好きなおかあさんと祈ります。
どうかどうか、これからも正しいあたしでいられますように。

ひねくれ屋さんな男の子は、空色りぼんを指に絡ませ祈ります。
どうかどうか、山みたいな大金が俺のものになりますように。

どうか、どうか。どうか、どうか。

もちろんブーンも祈ります。
小鳥の身体に土のお布団ざっざと被せ、スコップ握って祈ります。
どうかどうか、ホマホマともう一度会えますように。
どうかどうか、お空を自由に飛べますように。
どうかどうか、おとうさんとおかあさんが仲直りしますように。

欲張りブーンはみっつも祈って、だけど足りないことに気づきます。
一番大事な願いごと。なにより忘れちゃいけないそのこと。
特別なおまじないを唱えてブーンは、お空の光に祈ります。

ほまいに ほまいに まるたすにむす
ほまいに ほまいに まるたすにむす

どうかどうか、お星さま――やさしい世界に、なりますように!


.

2 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:02:37 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

はっけよい……のこった! のこった! のこった!

したらば島の男の子たちが、今日もいつもの空き地で遊んでいます。
威勢よくぶつかって、押し合って、足をすくって器用に投げて。
どうやら今日は、みんなでお相撲を取っているようです。
やんややんやと囃し立てて、土俵の二人を応援して、
かと思えば口汚い野次を飛ばして、子どもたちは思い思いに楽しんでいました。

暑い日差しに肌を焼かれて、いまこの輪の中心にいるのは二人の男の子。
ひとりは同級生よりも一回りも蓋周りも大きい巨漢の子。
もうひとりは、長い髪を空色のりぼんに束ねたやせっぽちな男の子。まるで大人と子どもの体格差です。

けれどやせっぽちの男の子はまるで臆した様子なく、堂々と土俵に立っています。
どころか彼は挑発するように、人差し指を曲げて巨漢の子を招きます。
巨漢の子は目の前の男の子を鋭くにらみ、握った拳を地面に付きます。
二人が正面に向かい合って、さあ始めるぞと行事が団扇を掲げ――振り下ろします。

勝負は一瞬で決着しました。
やせっぽちの男の子の、瞬時に飛び出したその勢いになすすべなく、
巨漢の男の子は土俵の外へと一直線に押し出されてしまったのです。

「どっくんすげー! これで十連勝だー!」

観衆が沸き立ちます。それもそのはず、どっくんと呼ばれた彼――
ドクオは誰にも負けない無敗のままに、十人抜きを果たしてしまったのですから。
これは彼ら子どもたちの間において、大変な偉業といえました。
けれどドクオは仲間たちの声を気にするふうもなく、いつもの仏頂面で周りを見回します。

('A`)「次」

年の割に低い声で、ドクオが挑戦者を募ります。でも、誰も名乗り上げません。
それもそのはず、無様に負けるとわかっていながら挑むだなんて、そんな恥ずかしいことったらありません。
結局その場の誰もが沈黙したまま、周りを見回していた
ドクオはある一点を凝視して、一人の男の子を指名しました。 

('A`)「ブーン」

男の子の周りから、さっと他の子達が離れます。

('A`)「来い」

そういって、ドクオが手招きします。
だけどブーンは驚いて、すぐには立ち上がることができませんでした。
だって今日は、見ているだけでいいと言われたから付いてきたのです。
相撲なんて、あんなに痛そうなことをするつもりなんて、ブーンはまったくありませんでした。

3 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:03:15 ID:X1XrWvU60
ブーンの気持ちなんかまったく他所に、黙り込んでいた観衆がまたまた騒ぎ始めます。
ブーン、ブーン、のろまのブーン、まぬけのブーン。ブーンなんかじゃ、一秒だって持たないぜ。
せいぜいいいとこ見せてみろー。笑わせてくれー。げらげらげら、げらげらげら。
みんな、勝手なことを言ってきます。いよいよブーンは縮こまって、動けなくなってしまいました。

ばしん!と、大きな音が辺り一帯に響き渡りました。ドクオが地面を踏みつけたのです。
その音で、あれだけ騒いでいた観衆が一斉に押し黙りました。

( A )「ブーン」

ドクオがもう一度、ブーンを呼びます。それは、怒っている声には聞こえませんでした。
ドクオを見つめていると、ドクオがうんとうなづきました。ブーンは立ち上がりました。
そうして、手招きに応じて土俵に上がります。みんながしていた見様見真似に両の拳を地面に付けて、構えます。
目の前のドクオと、向き合います。間の行事が、団扇を掲げます。そして――はっけよい、のこった!

ブーンは飛び出しました。飛び出して、同じように飛び出してきたドクオと正面からぶつかります。
けれど二人ぶつかって、その衝撃は思ったほどのものではありませんでした。
ドクオが、ブーンの身体をつかみます。ブーンもおんなじように、ドクオの身体をつかみます。
前へ前へとぐいぐい押そうとしますが、ドクオはまるで下がりません。
けれどブーンも、まるでぜんぜん後ろに下がりはしませんでした。

( A )「足、蹴れ」

耳元で、ささやき声が聞こえました。ブーンにしか聞こえないような、小さな小さなささやき声。
ドクオの声です。対戦相手であるはずのドクオが、ブーンに向かってささやきかけていました。

( A )「いいから蹴れ。蹴り転ばすんだよ」

ドクオがさらに続けます。見れば、ドクオの足は片方が、
ブーンにとってずいぶんと蹴りやすそうな場所に位置していました。
ドクオはこれのことを言っているのでしょうか。
でも、どうして? 疑問符が浮かびます。ドクオはブーンとお相撲で戦っているのではないの?

がっぷりつかみあったままの硬直。この異変に、観衆がどよめきました。どうもありえないことが起こっている。
あのブーンが、まぬけのブーンがどっくんと互角の勝負をしているだなんて。
その光景を、素直に受け取る者は一人もいませんでした。

ブーンすごい、ブーンがんばれと賛辞や応援を送るのではなく、疑いの目を向けたのです。
ドクオはもう一度、それまでよりも強い口調で言いました。蹴れ、蹴れ。
言われてブーンも、自分の足を意識します。けれどブーンにはどうしても、
ドクオを蹴ることはできませんでした。ドクオを蹴るなんて、そんなこと。

その間にも疑いは膨れ上がり、もはや確信となって攻撃しやすい対象――
即ちブーンへの批難となって吹き出します。子どもたちは口々に吐き捨てました。
イカサマ、イカサマ、ブーンのイカサマ八百長やろー。お前なんかゼッコウだ!
批難の声は留まることなく膨れ上がり、合唱となって繰り返されます。
イカサマ、イカサマ、ブーンのイカサマ八百長やろー。お前なんかゼッコウだ!

お前なんか、ゼッコウだ!

4 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:03:52 ID:X1XrWvU60
ξ#゚⊿゚)ξ「なにやってんのよあんたたち!」

狭い空き地の入り口に、みんなの視線が注がれました。そこには一人の女の子。
眉と目尻をぐぐっと吊り上げ女の子は、ずんずんずんずん構わず土俵に上がりこんで
大きな声でもう一度、みんなに向かって言いました。「なにやってんのよあんたたち!」。
白けた空気が漂います。「なんでツンがいんだよ」「めんどくせー」。そんな声が聞こえてきます。

ツンという名のその女の子にも、それらの声は届いていました。
だけどもツンはぴーんと胸を張りに張り、まったく臆せずにらみます。
にらんだ瞳のその先には、無敗の王者のドクオ関。

('A`)「……なんだよ」

ξ#゚⊿゚)ξ「なんだはこっちのセリフなのよ! よってたかっていじめちゃって、来年にはあたしたち、
      一〇歳にもなるのよ。もういつまでも子どもじゃないのにまだこんな間違ったことばっかりして、
      あんたたち恥ずかしいと思わないの!」

('A`)「決めつけんなよジコチュー」

ξ#゚⊿゚)ξ「なにがよ!」

('A`)「俺はただ、ブーンを励まそうとしただけだ」

ξ#゚⊿゚)ξ「わけわかんない! わかるように言いなさい!」

('A`)「どうせお前も知ってんだろ、飼ってたペットがくたばったんだ。
   だから催し開いて、元気づけてんの。なあ、お前ら!」

二人の舌戦を見守っていた観衆が、ドクオの言葉に便乗します。そうだそうだ、俺達は励ましてただけだ。
ブーンのためだ。お前なんかお呼びじゃねーの。引っ込めぶーす。帰れ帰れ。
意を得た彼らは今度は帰れと、声を合わせて叫びます。ツンは拳を握りしめ、結んだ唇を震わせ、
目尻にはうっすら涙が溜まっています。でも、それで引き下がるツンではありません。

ξ#゚⊿゚)ξ「だったらさっきのは何よ、ゼッコウゼッコウって!
      あたし、ちゃんと聞いたもの。ごまかされたりなんかしないんだから!」

ツンは必死になって言い返しますが、一度始まった帰れのコールは鳴り止みません。帰れ、帰れ、帰れ。
ツンは逃げませんでした。行事の団扇を乱暴にひったくって、それを観衆に向かって投げつけます。
投げつけて、彼女は叫びます。「あたしは間違ってない!」。

('A`)「おお怖い怖い。首切り判事の娘はやっぱり、独りよがりで横暴なんだな」

ドクオの言葉に、周囲が更に呼応します。えんざいえんざいえーんざい。
ツンのとーちゃん首切り判事ー。ツンはいよいよかっかして、その場で地団駄踏みだします。

5 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:04:30 ID:X1XrWvU60
ξ#゚⊿゚)ξ「お父様を侮辱するな! お父様は間違えない、間違えたりなんかしない!」

ツンが怒れば怒るほどにおもしろがって、笑い声は際限知らずに膨れます。
この時にはもうツンの目からはぽろぽろぽろと、玉のような涙がこぼれていました。

それでもツンは引きません。
観衆の中心に、子どもたちの親分に向かって、今までで一番大きな声で叫びました。

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたのおとうさんなんかと一緒にしないで!!」

周囲が、一瞬で静まり返りました。うぐっと潰れた吐息が、ツンの口から漏れ出します。
ドクオが無理やり、ツンの胸ぐらをつかんだせいです。いまにも食い殺してしまいそうな血走った目で、
ドクオはツンをにらみます。その視線を受けて、でも、ツンは更に続けました。

ξ#゚⊿゚)ξ「やれるものならやってみなさいよ。そしたらあんた、逮捕だからね!
      裁判にかけられて、有罪になっちゃうんだからね!」

張り詰めた時間、張り詰めた空気。つばを呑むことすらはばかられる緊張。
無限に続くかのように思われたその静寂を真っ先に破ったのは、ドクオでした。

('A`)「冷めた」

言って、ドクオがツンを放します。ツンを放してそのままドクオは、空き地から出ていってしまいました。
どっくん、どっくん。観衆に甘んじていたドクオの仲間が、親分の後を追ってぞろぞろ空き地から出ていきます。

ブーンもそれに続こうとしました。
ツンが現れて、ここで何が起こっていたのかさっぱり理解していないブーンはどうしていいのかわからず、
何を考えるでもなく人の波に乗ってついていこうとしたのです。
けれどブーンのその足は、ぴたっと止まってしまいます。

「ついてくんなよ、知恵遅れ」

ドクオの仲間が、拒絶を顕に言いました。そしてみんな、いなくなります。
ブーンは空き地で、二人ぽっちに取り残されてしまいました。

ξ゚⊿゚)ξ「あんた、怪我は」

鼻をすんすん鳴らしながら、ツンが問いかけてきます。
ブーンはぐるりと身体を見回し、なんにもないと答えました。するとツンは、急にかっかと怒り出します。

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたも嫌なら断りなさいよ、どうしてさせるがままなのよ!」

息つく間もなくばしばしと、言葉のマシンガンが飛び出します。ブーンは困ってしまいました。
どうしてツンは、こんなに怒っているのだろう。困ったな、困ったな。
そう思って、けれどブーンに手立てはありません。ただただこのままたちんぼして、
ツンが鎮まるのを待つ以外にないのです。このツンという同級生の女の子のことが、
ブーンはちょっぴり苦手でした。いっつもぴりぴり怒っていて、怖かったのです。

6 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:04:53 ID:X1XrWvU60
その時です。空き地の端の木陰から、がさごそと草の倒れる音が聞こえてきました。
ブーンもツンも、音のした方へと目を向けます。孤独なその木を盾に、こちらを覗く人影ひとつ。
視線に気づいて、ぴゃぴゃっと姿を隠します。

ξ#゚⊿゚)ξ「隠れても無駄よショボン、あんたがそこにいたことあたし、ずっと知ってたんだから!」

木陰の裏からは、何の反応もありません。

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたブーンの友達でしょ、どうして助けに来なかったのよ!」

ショボン! ツンがもう一度叫びます。反応はありません。地面に落ちた団扇を、ツンが放り投げました。
かさり。ぺらぺらな団扇の紙が、孤独の木とぶつかります。ショボンが陰から飛び出してきました。
本当に、そこにはショボンがいました。ショボンは何も言わないままに、いっぱいの涙を目元に溜めて、
それからすぐに、ばっと勢い走り出します。

ξ#゚⊿゚)ξ「そうやってすぐ逃げる!」

もどってきなさい。そう言っている間にもショボンの姿は小さくなって、
もうその背も見えなくなってしまいました。ツンはまた、ぷんぷんと怒っています。
ブーンは、どうしようかな。ブーンも空き地、出ていこうかな。

ブーンは困って、困って困って、お空を見上げました。
お空には鳥が群れをなして、気持ちよさそうに飛んでいます。
ぴゅいー、ぴゅいー、楽しそうに鳴いています。あ、そうだ。行くとこ決めた。
空を飛ぶ鳥を見て、ブーンは思いつきました。

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたね、ありがとうくらい言えないの!」

藪から棒に、ツンがブーンに言ってきます。ありがとう。なんのだろう。
ツンの言葉が何を指しているのかブーンにはいまいちわかっていませんでしたが、
それでもツンがブーンのために何かをしてくれたらしいこと程度は、ブーンにもうっすら理解できました。
だからブーンは、言われたとおりにお礼をいいます。ありがとう、ツン。ありがとう。

ξ゚⊿゚)ξ「……そうよ、それでいいのよ。お礼を言えたのは正しいことだわ、褒めてあげる」

ふんと鼻を鳴らしつつ、それでもツンは機嫌を取り戻したようでした。ああよかった、一安心。
その後ツンは、もうあいつらと付き合っちゃだめよと言い残し、島のどこかへ行ってしまいました。
最後に残ったブーンはけれど、もう行き先を決めています。島で一番高いその場所。裏山見上げ、思います。


うん。ホマホマに、会いに行こう。


.

7 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:05:30 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

日本の南のその外れ、人口三〇〇〇人にも満たない小さな離島が、ブーンの住むしたらば島です。
年間を通じて温暖な気候に位置するためか、島の人々はこれまでずっと、
時間の流れのゆるやかでのんびりとした生活を送っていました。

そしてそれは人に限らず、島に生きる動物たちも。
どこか警戒心に欠けた動物たちはともすれば島の人に友好を示し、同じ空間にいることを許してくれます。
ホマホマも、同じ。裏山で出会ったホマホマと、ブーンはすぐに仲良くなりました。

ホマホマとは、ふくふく膨れた羽毛がかわいい、一匹の小鳥です。
怪我をしたホマホマを山で見つけて、ショボンの手を借り治療すると、ホマホマの方から懐いてきてくれたのです。
手の中でころころすりすり身体をこすりつけてくれるホマホマのことが、ブーンはとっても大好きでした。
人間じゃなくってもブーンにとってホマホマは、大事な大事な友だちでした。

でも、ホマホマは死んでしまいました。
夏休みに入ったうれしいその日に、おとうさんが殺してしまったのです。

ブーンには不思議でしょうがありませんでした。
ホマホマはあんなにかわいいのに、どうしておとうさんはあんなに怒っていたのだろう。
おとうさんはどうして、あんなに怒ってしまうのだろう。考えても、考えても、ブーンに答えはわかりません。
だからブーンは、考えることをやめました。

ショボンが言うには、死んだ生き物は土に埋めるといいのだそうです。生き物は土の中でばらばらになって、
自然の一部にもどって、巡り巡ってまた新しい生命に生まれ変わるのだと、ショボンはそう言っていました。
ショボンの言葉はむつかしくてブーンにはよくわかりませんでしたが、でも、いいなって、思いました。
生まれ変わる。ホマホマが、生まれ変わる。また会える。
それは、いいな。とっても、いいな。ブーンはそう思いました。

だからブーンは、ホマホマを埋めました。一日でも早くホマホマと再会できるように。
またあのふわふわな身体を、てのひらの中で包めるように。二人が出会った裏山の、小さな洞穴の真下のそこに、
ブーンはホマホマを埋めました。今日は生まれ変わっているのかな。明日は生まれ変わっているのかな。
その次の日は、その次の次の日は。その次の、次の次の――。指折り数えて、その日を夢見て。

鳥の鳴き声が聞こえます。したらば島には、たくさんの野鳥が生息しています。
いま鳴いていたのは、どんな鳥だろう。ショボンになら、わかるのかな。
でも、ショボンのお勉強は図鑑を眺めるばかりだから、鳴き声まではわからないかもしれない。

そういえばショボンは、今日はどうしたのだろう。どうしてあそこに隠れてたのかな。
どうして逃げて行っちゃったのかな。怒るツンが、怖かったのかな。ショボンは怖いの、嫌いかな。

とりとめのないことを頭に浮かべて、ブーンは山を登ります。そうしている間に目的地は、もうすぐそこです。
ホマホマは、今日は生まれ変わってるかな。生まれ変わってるといいな。
胸弾ませて、ブーンはお墓に辿り着きます。でも、そこにホマホマの姿はありませんでした。

そっか。今日はまだ、生まれ変わってないんだね。
それは確かに残念でしたが、ブーンは特に落ち込みはしませんでした。だって、ショボンは言ったのです。
生まれ変わるって。それならこうして通っていれば、いつかは会える。絶対会える。
それはもう、間違いのないことなのです。だからブーンは登った時と同じくらいの気安い気持ちで、
山を降りようとしました。けれど、その足が止まります。

8 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:06:30 ID:X1XrWvU60
鳴き声。すぐ側から聞こえてきました。
その鳴き声は鳥のようで、でも、どこか鳥じゃないような、なんだかおかしな声でした。
ブーンは辺りを見回します。どこにも、なにも、陰すらありません。気のせいかしら。
そう思うと、またまた鳴き声が、山の中に響きました。ブーンは気づきました。
鳴き声は、ブーンの頭より高いところから聞こえていました。ブーンは顔を上げました。
洞穴の天井のその上に、生き物が、いました。


ホマホマ!


一目でわかりました。それはホマホマです。ホマホマなのです。
姿形は死んじゃう前とぜんぜん違っていましたが、
それでも目の前の生き物がホマホマだと、ブーンにははっきりわかりました。

ホマホマ、ホマホマ。大好きな友達を連呼して、ブーンは頭上に手を伸ばします。
けれどホマホマはどういうわけか、怯えるように後ずさってしまいました。
どうしたの、ホマホマどうしたの。ブーンだよ、ホマホマの友だち、ブーンだよ。
訴えかけても、ホマホマは警戒して近づきません。

ブーンは悲しくなってしまいました。ホマホマは、ブーンを忘れてしまったのかしら。
生まれ変わると、みんな忘れてしまうのかしら。そんなことは聞いていませんでした。
でももしそうならそれはとても悲しくて、げんこつされた時にも流れなかった涙を、
ブーンは流してしまいそうになります。

その間にもホマホマは、じりじり身体を後ずらせて、少しずつブーンから離れていきます。
どこへ行くの、ホマホマ、どうして逃げるの。いくら狭いしたらば島とは言え、
一度見失ってしまったら次また会える保証はありません。ここで別れてしまったら、
もう二度とホマホマに会うことはできないかもしれません。ブーンは懇願します。
行かないで、ホマホマ、行かないで。

そうだ、と、ブーンは思いつきます。ホマホマなら、ホマホマがホマホマならきっと耳を傾けてくれる言葉。
その特別なおまじないを、怖いものなんてなんにもないを、ブーンは唄って聞かせます。

9 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:06:58 ID:X1XrWvU60
ほまいに ほまいに まるたすにむす
ほまいに ほまいに まるたすにむす

ホマホマの動きが止まりました。きょろきょろ大きなその瞳で、伺うようにこちらを覗いています。
ブーンはさらに繰り返します。ほまいにほまいにまるたすにむす、ほまいにほまいにまるたすにむす。
繰り返すたび、ホマホマは首を傾げて近づきます。
そうして身を乗り出したホマホマが、身体から何かを突き出しました。

細くて薄い、半透明の触手の束。その束を手のようにして、ホマホマがブーンに触れてきました。
ほわほわでふくふくで、やわらかくてあったかな、安心の感触。ああ、やっぱりホマホマだ。
ホマホマはやっぱり、ホマホマなんだ。ブーンはホマホマに会えたんだ、会えたんだ!

以前よりほんのちょっぴり大きなホマホマが、ブーンのてのひらに移ります。
ブーンはそれを、胸の側に寄せました。むずむずこしょばい感触が、そのままうれしい気持ちに変わりました。
生まれ変わった、生まれ変わった、ホマホマは生まれ変わった、生まれ変わってくれたんだ。

うれしくてうれしくて、たまりません。うれしくてうれしくて、仕方ありません。
じっとなんかしていられずに、ブーンはその場をぐるぐる回って、回ったそのままホマホマに、
おかあさんのようにやさしく言い聞かせてあげました。どこにももう、行ったりなんかしないでね。
死んじゃったりなんか、しないでね。

ブーンがそうしてささやき回っている間、ホマホマは胸の裡でずっとずっと、むずむずもぞもぞ動いていました。
むずむず、もぞもぞ、むずむず、もぞもぞ、窮屈そうに、身体をよじり動いていました――。


.

10 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:07:41 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

(´・ω・`)「あのね、ブーン。昨日はごめんね。ほんとにごめんね」

朝一番。島のにわとりがこけこっこと鳴くと同時に、ショボンが訪れうつむきました。

(´・ω・`)「ぼく、どうにかしようとは思ったんだよ。ほんとだよ。でも、でも……ぼく、やっぱりこわくって……」

なんだかとっても苦しそうに、ショボンはブーンに謝りました。でも、ブーンにはよくわかりません。
ショボンはどうして謝ってるのだろう。ブーン、ショボンに何か、ひどいことされたかしら。
ぜんぜん覚えがありません。だったらもう、謝ってもらうことなんてありません。
だってショボンは、友だちなのですから。

(*´・ω・`)「うん……ブーン、ありがとう」

どういたしまして。垂れ下がった眉毛が印象的な目の前の男の子に、ブーンはそう、返します。
ショボンがえへへとわらいました。それでもう、仲直りです。けんかなんて、最初っからしてないけどね。

(´・ω・`)「あのね、ブーン。今日、おじさんが島に来るの。一緒に迎えに行こっ」

ショボンに誘われ、ブーンは船着き場へと向かいました。
海に囲まれたしたらば島においてこの船着き場は、ゆいいつ外の世界と行き来が可能な場所です。
ブーンはまだ、したらば島の外へ出たことがありません。

ショボンが言うには外の世界はすごい場所で、なんと人が空を飛べてしまうそうです。
鳥たちみたいに、自由にお空を飛び回る。なんて素敵なことでしょう。いつかお外に行きたいな。
ホマホマと一緒に、行きたいな。ショボンの話を聞いて以降、ブーンはずっと、そんな夢を抱いていました。

いつか、お空を飛びたいな。

(*´・ω・`)「シャキンおじさん!」

(`^ω^´)「やあショボン、久しぶりだな! わっはははは!」

わはわはわはと、鼻から下がもじゃもじゃのひげに覆われた
とっても大きな男の人に、ショボンが一目散に駆け寄っていきます。

(`^ω^´)「わははわはは! ずいぶん大きくなったなショボン、
 もうおとうさんより大きくなったんじゃないか、わっははは!」

(*´・ω・`)「そんなことあるわけないよ! だってぼくまだ、三年生だよ」

(`^ω^´)「わははは! そうかそうか三年生か! わはははは!」

豪快なわらいごえを上げるシャキンおじさんを、ショボンは目をきらきらさせて見上げていました。
とってもうれしそうなその顔を見て、なんだかブーンもうれしくなってきてしまいました。

11 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:08:13 ID:X1XrWvU60
(`・ω・´)「おやおやおや? そちらにいるのは内藤さんちのブーンくんじゃないかな? どうかな? 違うかな?」

(´・ω・`)「うん、ブーンだよ! ね、ブーン。覚えてるよね、おじさん。シャキンおじさんだよ!」

物覚えのあまりよくないブーンでしたが、シャキンおじさんのことはよく覚えていました。
だってこんなに豪快にわらうひげもじゃの人、ブーンの周りには一人だっていなかったのですから。
ブーンは三年生らしく、きちんと元気に挨拶します。するとおじさんは笑う時とおんなじくらい大きな声で、
「えらい!」と褒めてくれました。褒められると、口元がゆるんでしまいます。

(´・ω・`)「ねえおじさん、ぼくたちいま、夏休みなの。夏休みの間は一緒にいられる?」

(`-ω-´)「う〜ん? むむむむ……それはどうだろうなあ」

(´・ω・`)「だめなの?」

しゅんとした声で、ショボンがいいます。おじさんが、むむむと唸っている間に、もう一度ショボンがいいます。
だめなの? 合わせてブーンも、真似します。だめなの?
むむむと唸っておじさんは、ショボンとブーンの顔を交互に見回しました。

(`-ω-´)「どうだろうなあ、お仕事しだいだなあ」

(*´・ω・`)「お仕事!」

先程までとは打って変わって、ショボンの声に明かりが灯りました。

(`・ω・´)「どうしたどうした甥っ子ショボンよ、仕事の中身が気になるか!」

(*´・ω・`)「うん!」

(`^ω^´)「そうかそうか、気になるか! わっはははは!」

おじさんはひとしきりわらってから、ブーンたちに近寄るよう手招きします。
二人は顔を見合わせて、おじさんの側に近づきました。おじさんが、こそっと小さな声でささやきます。

(`・ω・´)「実はおじさん、とーっても偉い人たちから秘密の任務を受けてやってきたのだよ」

(*´・ω・`)「秘密の任務!」

ショボンと揃って、ブーンも大きな声を上げます。秘密の任務。なんだかとっても素敵な響きです。

(`・ω・´)「う〜ん、そうだなあ……ショボンにブーンくん、
     もしよかったらおじさんの仕事を手伝ってはくれないかい?」

(*´・ω・`)「いいの!」

(`^ω^´)「もちろんだとも!」

12 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:08:51 ID:X1XrWvU60
ショボンのお目々が、これ以上ないくらいにきらきらと輝きました。
興奮して、ブーン手をつかみながらその場でぴょんぴょん跳ね出します。
それで、それで! ぼくたちはなにをすればいいの! 口早に、ショボンがおじさんに問いかけます。
おじさんはわははと豪快にわらって、こほんとひとつ咳払い、うやうやしく答えます。

(`・ω・´)「きみたちは覚えているかな? つい先日、大きな大きな流れ星が夜空をびゅーっと落ちていったのを」

(´・ω・`)「覚えてる! ぼく、お祈りしたから!」

(`・ω・´)「ほほう、お祈り! ショボンはなんてお祈りしたんだね?」

(*´・ω・`)「それは……内緒!」

(`^ω^´)「わはは、内緒か! そりゃあいい、わははは!」

(´・ω・`)「それで、それでおじさん、その流れ星はどうしたの?」

(`・ω・´)「実はその流れ星がね、ここだけの話……
     なんとなんと、このしたらば島に落ちた可能性があるそうなのだよ!」

(*´・ω・`)「したらば島に!」

ショボンがびっくりしています。でも、これにはブーンもびっくりしてしまいました。
したらば島に、あのお星さまが! ブーンもあの日の流れ星のことは、よく覚えていました。
だって流れ星は、ブーンの願いをもうひとつ、すでに叶えてくれていたのですから。
神様みたいに願いを叶えてくれた流れ星。あの星が、ブーンたちの島に!

(`・ω・´)「おじさんの任務はあの流れ星を調べること。だけどもそのためには、
     何はなくともお星さまを見つけないといけない。だからそのために――」

(´・ω・`)「わかった!」

(`・ω・´)「お、察しがいいな! はいでは、ショボンくん!」

(´・ω・`)「ぼくたちで、その流れ星を見つけだせばいいんだね!」

(`^ω^´)「ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん! だいせいかいー!」

(*´・ω・`)「やったあ!」

ショボンがブーンに向かって、手を掲げました。ブーンは首を傾げます。
上げて、上げて、ショボンが言います。言われてブーンは、ショボンの真似して手を掲げます。
ぱちん! 二人のてのひらが重なって、青い空に景気の良い音が響き渡りました。
その光景を見て、おじさんはやっぱりわらいます。

13 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:09:32 ID:X1XrWvU60
(`^ω^´)「わっははは! 仲良きことは美しきかなだな!
     そんな二人に敬意を表して、もし流れ星を見つけたらお礼をあげよう!」

(´・ω・`)「お礼?」

(`・ω・´)「そうだね、出せるのは、だいたい……ええい、ふたりには特別一〇〇万円あげちゃおう!」

(´・ω・`)「一〇〇万円!?」

一〇〇万円。驚く声を上げるショボンの隣で、ブーンは一人、指を折ります。
一◯◯万円って一◯◯玉の、何枚くらいになるのかしら。一〇枚? 一〇〇枚?
わかりませんが、数え切れないくらいにたくさんなことくらいは、ブーンにもなんとなく伝わりました。
きっと、なんでも買えちゃうくらいのお金です。

(*´・ω・`)「一〇〇万円もあったら……動物図鑑、どれだけいっぱい買えるのだろう!」

(`^ω^´)「本当は一◯◯万円なんて目じゃないのだけど……予算の都合がね!
 いやあ、お偉いさんというものはどこも頭が固くっていけないな! わはははは!」

一◯◯万あったら、お空も飛べるようになるかしら。
もしそうだとしたら、それはとっても素敵なことだと思いました。
あのお星さまにお祈りしてから、なんだかいいことばっかりつづている気がします。
でも、と、ブーンは思いました。お星さまって、どんな形をしているのだろう。
考えても、答えは出ません。ブーンはおじさんに聞いてみます。

(`・ω・´)「それはおじさんにもわからないんだ。ごつごつした岩みたいなのか、
     お星さまの形をしているのか、それともぜんぜん、まったく想像もできない姿なのか」

おじさんにもわからない。わからないものを、探し出す。それはなんだか、とってもむつかしそうです。
そんな大変なことブーンにできるかしら。ブーンは不安になります。

(`^ω^´)「そう、だから見慣れないものを見つけたら、とりあえずでいいからもってきてほしいんだ。
     夏休みの余暇の、そのついでで構わないからさ! わはははは!」

14 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:10:08 ID:X1XrWvU60
おじさんがそれだけいうと、島の方から役所の人たちが汗をふきふき集まってきました。
どうやらシャキンおじさんを出迎えに来たのは、ショボンたちだけではなかったようです。
おじさんは面倒だけど偉い人たちとお話しなきゃいけないからと言って、
役所の人たちと一緒にわははとわらいながら行ってしまいました。
残されたブーンはショボンと二人、またねと手を振り見送ります。

(*´・ω・`)「ねえブーン、どうしよう。一〇〇万円だって!」

おじさんの姿が見えなくなってすぐに、ショボンが興奮して言いました。
うん、どうしよう。ブーンもうなづきます。一〇〇万円、流れ星。
夏休みが始まってまだ間もないのに、いろんな出来事が目白押しです。

(*´・ω・`)「それ、それに……おじさんのお手伝いができるなんて!」

両の拳を握りしめて、ショボンがまたまた跳ねました。そしてショボンはブーンに向かって、
おじさんが如何にすごいかを語ります。それはもう、これまでも何度も何度も聞いたお話でした。
ショボンのおじさん――シャキンおじさんは世界中を飛び回っている偉い学者さんで、
中でも動物に関するえきすぱーとなのだそうです。

小さいものは目にも見えない虫より小さな生き物から、大きいものはとうの昔に絶滅した恐竜から
威厳たっぷりに海を泳ぐくじらまで、何でも知ってるすごい人なのだそうです。
ショボンにとっておじさんは、どんな番組の主人公よりかっこいい最高のヒーローなのです。



そういえばと、ブーンはふと、疑問に思いました。
おじさんは動物の学者さんなのに、どうして流れ星を調べようとしているのだろう。
流れ星ってブーンが知らないだけで、本当は生き物なのかしら。ブーンは不思議に思います。

不思議に思いながらもブーンはまた、別のことを考えていました。
ショボンはおじさんに憧れて、動物の勉強をたくさんしている動物博士です。
死んじゃう前のホマホマをどう育てればいいのか教えてくれたのも、このショボンです。

(´・ω・`)「うん? ブーン、なーに?」

ブーンはショボンの手をつかんで、付いてきて欲しいとお願いしました。
生まれ変わったホマホマをどう育てればいいか、教えてもらおうと思ったのです。
あのね、ホマホマがね、ちがくなってね。ブーンは言います。

ブーンの話は要領を得ず、ショボンには伝わっていない様子でした。
けれど、それでもショボンは言ってくれました。「いいよ。ブーンの行きたいとこ、付いてくよ」。
ショボンはやっぱりやさしくて大好きな友だちだって、ブーンは思いました。

15 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:10:40 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

(*´・ω・`)「わあ……わあ! ブーン、これ、なに? この子、なに? こんな生き物、見たことない!」

驚いているのか興奮しているのか、ショボンはホマホマを見て
たくさんの疑問符をブーンにぶつけて来ました。所は裏山の、お墓を作った小さな洞穴。

よかった。ブーンは安堵します。ブーンのお願い通りホマホマは、洞穴に敷いた毛布にくるまり
ブーンが来るのを待っていてくれました。本当は、ちょっぴりだけ心配だったのです。
ホマホマは、ホマホマじゃないんじゃないかって。でも、ホマホマはやっぱりホマホマでした。
だって、こうしてお願いを聞いてくれたもの。

(;´・ω・`)「あ、危ないよブーン! 毒とかあるかもしれないよ!」

ぴゅいぴゅい鳴いて跳び寄ってきたホマホマをてのひらに乗せると、ショボンがおかしなことを言いました。
ホマホマに毒なんて、そんなものあるはずがありません。
ツンの言う通り、ショボンは人より怖がりさんなのでしょう。
ふふっとわらって、ブーンはホマホマをほほに近づけます。
ホマホマの糸みたいな触手が、ほほにさわっと触れました。ふふ、うふふ、くすぐったい。

(´・ω・`)「ねえブーン、もしかしたらこの子、新種の動物かもしれないよ」

ホマホマが危なくないとわかったのか、おっかなびっくりショボンがホマホマに触ります。
ホマホマはそれくらい慣れたもので、撫でられるに任せて目を細め、頭をくいっと上向けていました。

(*´・ω・`)「ブーン、ねえブーン、これはすごいことだよ。
     この子がもし、もしもほんとに新種の生き物だったりなんかしたら……
     だってそんなの、ぼくたち学者さんになっちゃうかもしれない!」

ショボンが飛び跳ねて喜びます。その喜びようはおじさんから流れ星の話を聞いたのとおんなじくらいで、
だからそれは本当に、心から喜んでいるに違いありません。ショボンが喜んでくれて、
理由もよくわからないままにブーンもうれしくなりました。二人でぴょんぴょん飛び跳ねます。
てのひらのホマホマが何事だといった様子で、忙しなく首を回していました。

(*´・ω・`)「いますぐおじさんに見せに行こう! おじさんならきっと、どうすればいいか教えてくれるよ!」

うん、そうしよう、そうしよう! ブーンは賛同します。
シャキンのおじさんならきっと、生まれ変わったホマホマをどう育てればいいか教えてくれるはずです。
ショボンにわからないことも教えてくれるはずです。

そうすれば、今度こそブーンはホマホマとずっとずっと一緒にいられるはずです。
あんなに悲しい思いをしなくてすむはずです。
ね、そうだよね、ショボン。ブーンは上機嫌で、ショボンに湧き上がる気持ちを話しました。

16 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:11:08 ID:X1XrWvU60
(´・ω・`)「……ブーン。もしかしてこの子、飼うつもりなの?」

けれどどうしたことでしょう。あんなに喜んでくれていたショボンだったのに、
いまはなんだかむつかしい顔をしています。その顔を見ていると、ブーンも不安になってきました。
ブーンはただただホマホマと一緒にいたいのだと、つたない言葉で一生懸命訴えます。
でも、ショボンの表情は変わりませんでした。

(´・ω・`)「それは、むつかしいよ。だって、この子はこの子しか見つかってないんだから。
     貴重、っていうか……。たぶん外の大学とか、研究所とか、そういう所に連れてかれちゃうと思う」

じゃあ、ブーンもついていく。そう言いますが、ショボンは首を横に振ります。
ああいうところはとってもデリケートだから、部外者が勝手に入ることなんてできない。
たまに見せてくれるくらいはしれくれるかもしれないけど、一緒に暮らすなんて、そんなことできっこない。
ショボンは苦しそうに、ブーンに告げます。

ブーンは、ショボンの言葉の全部を理解できたわけではありません。
でも、聴き逃がせないことだけは、きちんとわかりました。おじさんに見せたら、ホマホマが連れて行かれちゃう。
連れて行かれたら、もう会えなくなっちゃう。……そんなの、絶対にいやです。
連れて行かれちゃうのなら、会えなくなっちゃうのなら、おじさんになんか見せない。
誰にも見せたりなんかしない。ホマホマは、ぼくのホマホマなのだから。ブーンは強く、ショボンに言います。

(´・ω・`)「あのねブーン。確かにぼく、ホマホマは生まれ変わるって言ったよ。
     でも、この子はたぶん、ブーンのホマホマじゃ、ないと思う。
     だって、まだ……ホマホマは、その、土にもなってないと、思うし……」

ホマホマは、ホマホマだよ。ブーンはあくまで折れません。

(´・ω・`)「でも、この子が新種の生き物だとしたら、その発見を隠すなんて絶対にいけないことだし……」

ショボンがなんて言っても、ブーンはホマホマと離れない。
ブーンの頑なな様子に、ショボンは困った顔をします。
困った顔をして、うんうんと唸り始めて……うん、と、ちいさくうなづきました。

17 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:11:36 ID:X1XrWvU60
(´・ω・`)「……ねえブーン、これならどうかな」

ショボンの言葉に、ブーンはちょっぴり警戒しながら耳を貸します。
胸に押し付けられているホマホマが、いささか苦しそうにぴゅいと鳴きました。

(´・ω・`)「ぼくたちでその子のことを調べちゃうんだ。ぼくたちがその子の――ホマホマの第一人者になるんだよ。
     そうすればきっと、君とホマホマを離れさせようとする人なんて一人もいなくなるよ。だって、第一人者なんだもん」

それは……ホマホマと一緒にいていいってこと?

(´・ω・`)「そうだよ、ぼくたちで育てようってこと!」

ぼくたちで育てる!

(*´・ω・`)「おじさんもきっと認めてくれる!」

認めてくれる!

(*´・ω・`)「ね、そうしよう? そうしよう?」

そうする! そうする! 先程までの警戒心はどこへやら、ブーンは再び有頂天です。
それに、やっぱりショボンはすごい。頭が良くて、ブーンには考えもつかないことを思いついて、
問題なんか立ちどころに解決してしまうのですから。ホマホマ抱きしめ、ブーンはぴょんぴょん跳ねました。
ショボンも合わせて跳ね跳びます。二人でぴょんぴょん跳ね跳びます。
ホマホマはやっぱり、何事だって首をぐるりと回しています。

でもその狂乱は、いつまもでは続きませんでした。

18 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:12:07 ID:X1XrWvU60
ξ ⊿ )ξ「そうはいかないわ!」

山の空気をばりりと裂いて、きんと高いその声が響きました。
ブーンとショボンは、声のした方へと同時に振り向きました。
そこには女の子が、山の景色には似つかわしくない綺麗で
高価そうなお洋服をみにまとった女の子が立っていました。

(;´・ω・`)「わあ、ツンだ!」

そこには同級生の女の子で、仕切り屋さんのツンがいました。
思わぬ人物の来訪に驚いたショボンは、思わず叫び声を上げてしまいます。
ツンの整った眉と切れ長で大きなお目々のその端が、ぐぐいと余計に吊り上がります。

ξ#゚⊿゚)ξ「なによ、わあって、なによ!」

(;´・ω・`)「だ、だって……どうしてここにいるの?」

ξ゚⊿゚)ξ「ついてきたのよ! だってブーンったらそわそわして、
      あんまり怪しいんだもの。悪巧みを疑って当然だわ!」

言って、ツンがびっと指差しました。

ξ#゚⊿゚)ξ「そしたら、案の定じゃない!」

指を差したその先にはショボンとブーンと、それにホマホマ。

(;´・ω・`)「ぼ、ぼくたち、わるいことなんてなんにもしてないよ!」

ξ゚⊿゚)ξ「誤魔化したって無駄よ! あたし、全部聞いてたもん。
      あなたたち、二人でその生き物を育てるつもりなんでしょ?」

ブーンはショボンと顔を見合わせて、こくんとふたりでうなづきます。

ξ#゚⊿゚)ξ「子どもだけで生き物を飼うなんて、そんなのいけないことよ!
      それも内緒でだなんて、絶対間違ってる!」

(;´・ω・`)「で、でもツン――」

ξ#゚⊿゚)ξ「聞かないわ! 言い訳なんてなーんにも聞かない、聞いてなんかあげません!」

それだけ言うとツンはぱっとブーンに近寄って、ブーンの手からホマホマをひったくってしまいました。
そしてその場でくるりと向きを変え、たったと麓へ駆け出します。あっという間の出来事でした。
わあと叫んでショボンが駆け出し、ブーンもその後を追いました。

19 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:12:36 ID:X1XrWvU60
(;´・ω・`)「ツン、どこへ行くの!」

ξ#゚⊿゚)ξ「先生に言うの!」

追いかけながら問いかけるショボンに答えてツンは、麓が近づくに連れ一層加速し山を降ります。
クラスでも五本の指に入る俊足は、ひらひらぶわぶわとスカートが風の抵抗を受けているというのに
とてつもないスピードでした。どんけつから五番以内のショボンでは当然追いつくことができず、
足をもつらせその場に転げてしまいます。けれど、ショボンは叫びました。
「ツンを止めて! ホマホマをとられちゃう!」。ブーンの足の回転が、更に更に早まります。

走ります、走ります、ぐんぐんぐんぐん走ります。迫り来るブーンを見て、ツンは目を丸くしていました。
ツンが驚くのも無理はありません。ブーンはクラスで早くも遅くもない、
普通くらいの順位にいたはずだったのですから。
それがいまはツンよりもずっと早く、まるで大人みたいな勢いで向かってきているのです。

二人の差は、どんどんと縮まっていきました。ツンは一生懸命走ります。
けれど、それでもブーンを引き離せません。麓まで後少しというところで、そして、そして――
ツンは、ブーンにつかまってしまいました。

ξ;゚⊿゚)ξ「な、なによ……」

ツンは圧倒されてしまいました。いつも大人しくにこにこわらって、
何を考えているのかいまいち読めないクラスメイトのブーン。
そのブーンが、必死の形相でツンをにらんでいたのですから。
ふぅふぅ、うぅうぅ、獣のように、熱い息を吐き出していたのですから。

ξ#゚⊿゚)ξ「あたし、間違ってないもん……間違ってないもん!」

ぎゅうぎゅうと握られた腕が、ちぎれちゃいそうなくらい痛かったのですから。

ξ ⊿ )ξ「……ブーン、あんたわかってるの?」

こわいくらいな、ものでしたから。

ξ ⊿ )ξ「生き物を育てるのって、そんなに簡単なことじゃないのよ。
      失敗して、うまくいきませんでしたじゃすまないの。生命は取り返しがつかないんだから。
      それでもし……もしまたホマホマの時とおんなじようなことになったら――
      悲しい気持ちになっちゃうのは、あんたなんだから!」

それでもツンは、叫びました。
ホマホマが死んでしまって、ブーンがどれだけ悲しんでいたかを知っていましたから。
ブーンみたいに要領のよくない子は、周りが面倒をみてあげなきゃいけない。
正しく導いてあげなきゃいけない。あたしが、そうしなきゃいけない。
そうするだけの責任が自分にはあるのだと、ツンは思っていましたから。

だけど。

20 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:13:09 ID:X1XrWvU60
手の中で、もぞもぞとこそばゆい感触がしました。
鳥のようなその頭が、指の間からぴょこんと浮かび上がります。ブーンの目の色が、途端に変わりました。
手の中の生き物も、もぞもぞと身をよじってここから逃げ出そうとします。
ブーンを見上げ、ブーンのところへ帰ろうとしています。それはもう、火を見るよりも明らかな光景でした。

手を広げます。ふわっと何か半透明な糸を出したその生き物は、
それを棒高跳びの棒みたいに支えとしてブーンのところへ――元の場所へともどっていきました。
おかえり。ブーンの言葉に答えるように、生き物がぴゅいと鳴きました。ツンは、思います。

あたしは間違ってない。間違ってなんかない。
でも――。

ξ゚⊿゚)ξ「……ねえ」

ひいふうひいふう苦しそうに息をするショボンが来るのを待って、ツンは問いかけました。

ξ゚⊿゚)ξ「あんたたち、どこで育てるつもりなの?」

ブーンの家? たずねてみると、ブーンは強く首を横に振ります。
それならショボン? ショボンも、うちはちょっとと口を濁しました。じゃあ、他に当てはあるの?
まさかあの洞穴で飼い続けるつもりじゃないでしょうね。
問い詰めると、ふたりはうぅと、要領の得ない返事をしてきました。

ξ゚⊿゚)ξ「なによ、なんにも決まってないんじゃない!」

だってと、ショボンが言い訳します。だってもへちまもありません。
生き物を飼うのに住む場所も用意していないなんて、無責任にも程があります。
だから――ツンは、言いました。

ξ゚⊿゚)ξ「ついてきなさい」

ついさっきまで駆け下りていた裏山を、ツンはもう一度登り始めました。
五歩、十歩。歩いて気づき、振り返ります。「早く!」。二人が慌てて追いかけてきます。
そのまま三人は山を登り、ブーンたちがいたあの洞穴も越えて登り、見晴らしよく開けたその場所に出ました。
そこには一軒の、荒々しい丸太をそのまま材料にして組み立てたログハウスが建っていました。

ツンは、躊躇うことなくそのログハウスへと入ります。

(;´・ω・`)「ツン、まずいよ、勝手に入っちゃ……」

ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ。ここ、お父様のものだから」

21 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:13:37 ID:X1XrWvU60
おじゃましますと小声でいって、ショボンは家へと入ります。
ログハウスの中は外観の印象そのままの茶一色で、家の中なのにまるで自然の中にいるようでした。

ξ゚⊿゚)ξ「ここね、建てたはいいけどぜんぜん使ってないの。
      お父様はお忙しくて島には中々来てくださらないし、
      お母様は足を悪くされてしまったし。だからここ、誰も来ないの」

(´・ω・`)「そうなんだ。なんだかもったいないね」

きょろきょろと周囲を見回しながら、ショボンは答えます。
二階も、それに地下へ続く階段まであります。すごいや、なんだか秘密基地みたい。
ショボンはこの場所を、一目で気に入ってしまいました。

ξ゚⊿゚)ξ「そう、もったいないのよ。……だから、あんたたちに貸してあげる」

(´・ω・`)「え!」

ξ*゚⊿゚)ξ「勘違いしないでよね、あたしはまだ認めたわけじゃないんだから!
      あんたたちが間違ったことをしたら今度こそその子、大人の人に預けちゃうんだからね!」

威勢よくそう言ったツンでしたが、けれど続くその言葉はだんだんと、尻すぼみに小さくなっていきます。

ξ* ⊿ )ξ「預けちゃうから、だから、だから、そのう……」

ブーンとショボンは、続く言葉を待ちます。
けれどツンは押し黙ったままそっぽを向き、もごもご口を動かすばかりで何も言いません。
どうしたものかとショボンがブーンに視線を投げかけようとしたその時、ホマホマが一声ぴゅいと鳴きました。
それを契機とするようにツンは腰に手を当て腰を剃り、えへんと咳をし宣言しました。

ξ*゚ー゚)ξ「あんたたちが正しくその子を育ててあげられるかどうか、あたしが監督してあげる!」

22 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:14:09 ID:X1XrWvU60



(´・ω・`)「なに、ブーン。ホマホマがどうかしたの?」

ツンとの一連の騒動が終わったその後、これから何を準備するか
三人で話し合っていたその時に、ブーンはショボンに助けを求めました。
大事にてのひらに包んでいたホマホマが、なんだかぐったりしているように視えるのです。

ξ゚⊿゚)ξ「おねむなのかしら」

覗き込んで、ツンがいいます。そうなのかな。
確かに色々あって、疲れて眠くなってもおかしくないかも。ブーンはそう思います。
けれどショボンは納得しなかったのか、指先で探るようにホマホマを確かめると、ブーンに向かって問いかけました。

(´・ω・`)「……ねえブーン、きみ、ホマホマと会ってから何かご飯、あげた?」

聞かれてブーンは、首を横に振ります。

ξ#゚⊿゚)ξ「信じられない!」

ツンがきんきん怒り出します。
ツンのその態度に、ブーンよりもむしろショボンが怯えながら、それでもショボンは
ホマホマを確かめる手を止めませんでした。ホマホマに触れながら、ショボンがつぶやきます。
昆虫にも、無脊椎動物にも似た特徴があるけれど……でも、くちばしはやっぱり鳥に似てる。それなら――。

(´・ω・`)「ちょっと待っててね」

二人にそう言い、ショボンがログハウスから出ていきます。
残されてブーンはしばらくツンからお説教されていましたが、
次第にツンも落ち着いたのか、てのひらのホマホマをなで始めました。

ξ゚⊿゚)ξ「それにしても、変なの。こんな生き物あたし、見たことないわ」

ホマホマをなでながら、ツンは言います。
一見して鳥のようだけれど、なんだかぜんぜん違う生き物がごちゃごちゃに混ざっているようにも見える。
それにあの、うにうに出たりもどったりする糸みたいな触手。さっきは夢中で気にしなかったけども、
少し気持ち悪い気もする。本当に、何の生き物なのかしら。ツンは不思議に思います。

ξ゚⊿゚)ξ「……もしかして、宇宙人だったりして」

そして、ぱっと思い浮かんだ言葉を深く考えることなく口にしました。それからはっと、気づきます。
ブーンが、ツンのことを見ていました。顔が、かあっと熱くなりました。

ξ*゚⊿゚)ξ「バ、バカね、本気にしないでよ! おばけも妖怪も宇宙人も、
      そんなのこの世にいっこないの。だってそんなの、間違ってるもの!」

23 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:14:43 ID:X1XrWvU60
ホマホマは。

ξ゚⊿゚)ξ「なによ?」

ホマホマは、ホマホマだよ。

ξ゚ー゚)ξ「……そうね。たぶんそれで、正しいんだわ」

(´・ω・`)「おまたせ」

かたこと音を立てて、ショボンが家の中へともどってきました。おかえり。
自然と口に出て、迎えます。それはツンも同じだったらしく、彼女もおかえりと言いかけましたが、
その声はたちまちのうちに大きな大きな、それは大きな悲鳴に変わってしまいました。

ξ;゚⊿゚)ξ「な、な、なによそれ!」

(´・ω・`)「なにって、みみずだけど」

ショボンの片手には透明なびんが握られ、
その狭い空間にはうねうねとまだ生きたままのみみずが数匹折り重なって閉じ込められていました。

ξ;゚⊿゚)ξ「そんなもの持って入らないでよ!」

(´・ω・`)「でも、ホマホマにご飯をあげないと」

ξ;゚⊿゚)ξ「ご、ごはん!? それが!?」

(´・ω・`)「おおげさだなあ。ツンだってお肉を食べるでしょ。それと同じだよ」

ξ;゚⊿゚)ξ「ぜんっぜんっちがうー!」

そんなに気持ち悪いかなあ。
そうつぶやきながらショボンはいつの間にか用意したピンセットで、びんの中のみみずをつまみあげようとして――
その手を止め、ブーンの方へと向き直りました。

24 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:15:14 ID:X1XrWvU60
(´・ω・`)「ブーン、あげてみる?」

いいの? ブーンは問い返します。「もちろん」と、ショボンは返しました。
だってホマホマを見つけたのはブーンなんだからと言って。ブーンはショボンからびんとピンセットを受け取り、
うねうね動くみみずの一匹をつまみあげました。そしてそのうねうねを、ホマホマの口元に近づけます。

ξ;゚⊿゚)ξ「ほ、ほんとにこんなの食べるの?」

(´・ω・`)「鳥と同じなら雑食性だし、だいじょうぶだと思うけど……」

乗っかるようにしてショボンの背から覗き見ているツンと、
後ろからの重みにちょっと苦しそうにしているショボンの二人が、息を潜めて見守ります。
ホマホマは目の前のみみずに興味を抱いているのか目をぱちくりとさせ、しきりに首を傾げながら凝視しています。

ご飯だよ、ホマホマ。ホマホマのご飯だよ。ブーンがやさしく言い聞かせます。
その声に反応したのかホマホマは、一度首をブーンの見ている方へと上げて、そして――かっ!
素早い動きで目の前のみみずをついばみました。

(*´・ω・`)「食べた、食べたよ!」

入れたりもどしたり、傍から見ているとずいぶんへたっぴに見える食べ方でしたが、
それでもホマホマはたしかにみみずを食べていました。かっ、かっ、かっと頭を前後させ、
くちばしを鳴らして少しずつ、少しずつ目の前の食事を口の奥へと飲み込んでいきます。

ξ*゚ー゚)ξ「食べてるものは気持ち悪いけど……ふふ、こうしてみるとなんだかかわいいわね」

ツンの言葉に、ブーンも同じ気持ちでした。
目の前の食事に一生懸命なホマホマの姿はとてもかわいらしく、愛らしいものでした。
いつまでも、いつまででも見ていられるくらいに、本当に愛しい、愛しい、姿をしていました。
ホマホマは、生きていました。生きて、ここにいました。

一匹のみみずを食べ終わるまでの長い長い時間。
三人はいつまでも、いつまでも、生きるホマホマの姿を見守っていました。


.

25 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:15:45 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

家に帰ると、おとうさんとおかあさんが怒鳴り合っていました。
きみがわかってくれないからわるいんだ。あんたなんかに付いてくるんじゃなかった。
二人の声が、テーブルが叩かれたり食器が割れたりする音に混じって聞こえてきます。

ブーンは慌てて耳を塞ぎ、そうっと忍び足で自分の部屋へともどりました。
そうして部屋の中の自分箱から残り少ない乾パンを取り出すと
むしゃむしゃそれを急いで食べて、そのままお布団に潜ります。

お気に入りの、まっしろまくら。
それを上から頭に被せ、ぐいっと折り曲げ耳まで塞ぎ、そうしてそれを、唱えます。
ほまいに、ほまいに、まるたすにむす。ほまいに、ほまいに、まるたすにむす。
こわいのなんて、何にもない。やなことなんて、どこにもない。

これは、特別なおまじない。
ほまいに、ほまいに、まるたすにむす。ほまいに、ほまいに、まるたすにむす。
明日になれば、いいことだらけさ。

26 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:16:32 ID:X1XrWvU60



(  ∀ )「ブーン」

部屋の扉の開く音が、聞こえてきました。どっどっどっと、心臓がうるさく鳴ります。
ブーンはぎゅうっと、まっしろまくらに隠れました。
ほまいに、ほまいに、まるたすにむす。ほまいに、ほまいに、まるたすにむす。

(  ∀ )「ねえブーン。ブーンはおとうさんの味方だよね?」

布団の上から、身体をゆすられます。どっどっどっ。どっどっどっ。

(  ∀ )「寝た振りなんてしてないでよ。わかってるんだよ。起きてるんだよね。
     おとうさん、ブーンのことなら全部わかるんだ。だっておとうさん、ブーンのおとうさんなんだから。
     おとうさんは、ブーンのたった一人のおとうさんなんだから」

何度も何度も、おまじないを唱えます。
おとうさんはおとうさんじゃないけれど、夜のおとうさんはとりわけおとうさんじゃありません。
声を上げたらホマホマみたいに、ホマホマが死んだ時みたいにされてしまうかもしれません。
だからブーンは、隠れます。まっしろまくらに、隠れます。

(  ∀ )「……そっか、ブーン。愛しているよ」

すぐ側で、爆弾みたいなとんでもない音が聞こえました。
ブーンはびっくりして、意識に反して身体がびくんと跳ねてしまいました。気付かれちゃった?
気付かれちゃったかも。ばくっ、ばく、ばくっと、心臓が痛いくらいに飛び回ります。
けれど、おとうさんは何も言ってきませんでした。
何を思っているのか、そこにいるのかすら、ブーンにはわかりませんでした。

だからブーンは、ただただおまじないを唱えます。
ほまいに、ほまいに、まるたすにむす。ほまいに、ほまいに、まるたすにむす。
早く明日になればいいのに。


 
いつの間にか、眠っていました。朝の日差しが、ブーンの部屋を明るく照らします。
それでブーンは、気が付きました。部屋の壁が、こぶしの形に陥没しているのに。


.

27 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:17:00 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

これは、子どもたちの間で流れる噂。
いつかの夜空を照らした流星、あの流れ星に、関わる噂。
実を言うとあの流れ星、ぼくらがしたらば島に落ちたらしい。
見つけた人には一〇〇万円と、勇者の栄誉がもらえるけれど、それは誰にも手に取れない。

だってそれは、宇宙のもの。

未知の微生物と、未知のウイルスと、未知の未知にまみれにまみれ、触れればすぐにもぐずぐずに。
子どもがさわればたちどころに、ぐずぐずぞんびがどろどろゼリーに。
だからけっして触っちゃいけない。けっしてけっして、さわっちゃいけない――。


ξ#゚⊿゚)ξ「――なーんて、バ…………ッカじゃないの!」

所は裏山のログハウス。三人で育てると決めてから毎日集まり二週間が経ち、
夏休みも残すところもう半分っぱかしとなったその日、ツンは怒りに怒りまくっていました。
ツンの声に驚き触手を伸ばしかけたホマホマの毛をブラシしながら、ショボンが言います。

(´・ω・`)「だけど、一〇〇万円もらえるのは本当だよ。おじさん、約束してくれたもの」

けどおじさん、ここだけの話って言ってたのにな。
ショボンの付け加えた言葉にけれどツンは、耳を貸すことなく怒ります。

ξ#゚⊿゚)ξ「あたしは! みんなが根も葉もない噂を盾に
      好き勝手してることが許せないの! 特に……あのドクオたちが!」

そう言って、ツンが床をどんと叩きました。
今度は夏休みの宿題を解くことに集中していたブーンが、びっくりして顔をあげました。
どうしたの。そう尋ねると、ツンがドクオたちに怒っているんだよとショボンが教えてくれます。
見るとたしかに、ツンは一人できぃきぃドクオの悪口を叫んでいました。

ドクオの話は、ブーンの耳にも入っていました。
流れ星と一〇〇万円の噂を聞いたドクオは仲間たちを引き連れ、毎日毎日島のあちこちを練り歩いているそうです。
なんでも魚屋が怪しいと店の中をひっくり返したり、外から観光に来た人をバットで殴ったとかいう噂もあって、
大人も困っているのだとか。

ξ#゚⊿゚)ξ「どうせろくでもないことに使うに決まってるわ!」

そう決めつけて、決めつけた自分の言葉にツンがなおさら怒ります。
ショボンを見ると、ショボンも眉を下げてブーンを見ていました。
本当はブーンも、それにショボンも、落ちた流れ星のことは気にしていたのです。
けれどツンの手前おおっぴらに探しに行ける状況でもなく、頼んでくれたおじさんには申し訳ないと思いつつ、
くさむらにぱっと飛び込むくらいで流れ星探しについてはほとんど何もしていませんでした。

それに、ブーンにはホマホマがいます。
一〇〇万円は一〇〇円玉じゃ数え切れないくらいの大金ですが、
でも、ホマホマの方がずっとずっと大切です。ホマホマが、一番です。

28 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:17:26 ID:X1XrWvU60
(´・ω・`)「でもさ、でもさ……もしも一〇〇万円もらえたら、二人なら何に使う?」

ξ#゚⊿゚)ξ「ショボン、あんたまで――」

(´・ω・`)「例えばの話だよ」

すかさずショボンがフォローを入れます。
二週間前はずいぶんとツンをこわがっていたショボンも、いまではもうその扱いにも慣れたものでした。
ほら、ホマホマも聞きたいって言ってるよ。それだけいうと、あれだけ烈火の如く怒り狂っていたツンも、
仕方ないわねといった具合に落ち着くのです。

(´・ω・`)「そうだね、ぼくなら――」

ξ゚⊿゚)ξ「どうせ動物図鑑を山ほど買うんでしょう?」

(*´・ω・`)「すごいやツン! きみはエスパーなのかい?」

ξ*゚⊿゚)ξ「わかるわよそれくらい。あれだけ毎日あんたの趣味を聞かされてればね」

当たり前よと言いながら、ツンはどこか得意げです。それじゃあツンは?
ブーンがツンに問いかけます。そうねえと言ってツンは、ぴんと立てた指を口の端に当てます。

ξ゚⊿゚)ξ「……さしあたって、この子の食費かしらね」

(´・ω・`)「あー、うん、それはそうかも」

ツンの言葉を受けて、三人がホマホマへと視線を集めます。ホマホマは不思議そうに首を傾げました。
その仕草は二週間前と変わらないかわいらしいものでしたが、一点、大きく違う所があったのです。
それは、サイズ。てのひらに収まるくらいに小さな小さなホマホマでしたがいまではもう、
高岡さんちの柴犬の文太と比べても遜色ないくらいに大きくなっていました。
とてもではありませんが、てのひらには乗せられないサイズです。

日に日に大きくなっていくホマホマにショボンは「ちょっと異常な気がする」と言っていましたが、
ツンは「実際に起こっているだからこれは正しいことなのよ!」と返していました。
ブーンもツンに賛成でした。ホマホマは、ホマホマです。何もおかしいことなんてありません。

ただ問題は二人が言う通り、ご飯をどう用意するか。
みみずで間に合ったのはみんなで集まってから三日の間、
その後はみんなのお小遣いでお肉屋さんからお肉を買うことに決定しました。

とはいえブーンはお小遣いをもらっていませんでたし、ショボンはもらった端から図鑑を買って、
いつでもすっからかんです。なので結局余裕のあるツン一人に頼って買ってもらっているのですが、
ホマホマがこれ以上大きくなるようだったらどうしようと、ツンとショボンは心配していたのです。

29 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:17:52 ID:X1XrWvU60
(´・ω・`)「でも、本当にそれでいいの? 一〇〇万円だよ? なんでも買えちゃうんだよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ。欲しいものなら全部、おとうさまが買ってくださるもの」

事も無げにツンがいいます。二人はほへぇとため息を漏らすしかありません。

ξ゚⊿゚)ξ「それで? ブーンは何が欲しいのよ」

問われてブーンは、考えます。二週間前に、シャキンおじさんから一〇〇万円の話を聞いた時は、
ブーンはまっさきに空を飛びたいと思いました。鳥のように風に乗って、遠い遠い、
果てのない空を自由に飛んでいきたい。そう思ったものでした。でも、いまは少し、違います。

ブーンは答えます。
ブーンと、ショボンと、ツンと――ホマホマと、これからもみんなと、ずっと一緒にいたい。
いつまでもいつまでも、こうして一緒にいたい。ブーンはそう、答えました。

ξ゚⊿゚)ξ「なによそれ、答えになってないじゃない」

ツンが不満を漏らします。答えになってない。たしかにそうかもしれません。
でも、いまはこの願いが一番なのです。お空への憧れがなくなったわけではないけれど、
一番は、みんななのです。それだけは、間違い有りませんでした。

(´・ω・`)「ふふ、でもそれ、とってもいいって思うな」

くすくすとわらって、ショボンが同調してくれます。

ξ゚ー゚)ξ「ま、そうね。あたしもそれ、正しいって思うわ。ブーン、褒めてあげる」

ツンもわらって、同調します。怒っているとこわいツンも、こうしてわらうと気持ちが良くて、
とっても好きだってブーンは思います。ツンだけでなくショボンのことも、ホマホマのことも、
ブーンはとっても好きだって思いました。ブーンにはわかりませんでした。

どうしてこんなにうれしいんだろう。考えても考えても、ブーンに答えはわかりません。
けれど同時に、ブーンはこうも思いました。わからなくってもいいや。だって、こんなに幸せなんだもの!

そうしてブーンは今日の日も、ショボンと、ツンと、ホマホマと、
日が暮れるまでのいっぱいを、大好きな友だちと一緒に過ごしました。



そして、更に五日が経って。
ホマホマの身体は、図鑑のくまより大きくなっていました。


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30 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:18:24 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

( ・∀・)「ブーン、今日はおとうさんとお散歩してくれるね」

朝日を浴びて目が覚めて、いつものように裏山へ行こうとすると、おとうさんに呼び止められました。
おとうさんはにこにこと、なんだかずいぶん機嫌が良さそうです。それはまるで、以前までのおとうさんみたいに。
それでもブーンは、お散歩なんか行きたくはありませんでした。だって裏山では、ホマホマが待っているのです。

(´・ω・`)「……うん、わかった。ツンにも言っておくね」

迎えに来ていたショボンに事情を説明し、裏山へ駆け上るその背をブーンは見送ります。
本当は、このまま付いていきたい。でも、誘いを断ってしまったらおとうさん、どうなってしまうかわからない。
だからブーンは仕方なく、おとうさんについて散歩に行くことに決めたのです。

( ・∀・)「いやだなぁ」

いやだなぁ、いやだなぁ。おとうさんが、つぶやきます。
ブーンはうつむいて、歩くおとうさんの後ろについて行きました。
あっちへふらふら、こっちへふらふら。おとうさんは、どこへ向かっているのでしょうか。
行ったり、もどったり、曲がったり、やっぱりもどったり、その進む先には、まったく見当がつきません。

( ・∀・)「どこへ行っても見知った顔。いやだなぁ。息が詰まってしまいそうだ。ねえ、ブーン」

島のあっちこっちを歩いていると、あっちこっちで島の人と出会います。
島の人はおとうさんを見ると、大人なのに挨拶もしないで、距離をとって遠巻きに、
伺うようにブーンとおとうさんを横目でじろりとねめつけていました。その視線が、ブーンはとってもいやでした。
いやだなぁと、おとうさんがつぶやきました。ブーンも心の中でつぶやきました。いやだなぁ。

( ・∀・)「誰もいないところへ行きたいなぁ。ぼくのことなんか誰も知らない、そんなところへ行きたいなぁ」

やがてブーンとおとうさんは、島の端の岬にまで到着しました。
切り立った崖の下では、強い風に煽られた海がざぶんざぶんと大きな波を描いています。
ブーンは泳げませんでした。あんなところに落ちてしまったら、きっとひとたまりもありません。
想像して、ぶるると身体をふるわせます。

31 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:18:50 ID:X1XrWvU60
(  ∀ )「海の底ならさ、きっと誰もいないよね」

おとうさんが、ブーンの手をつかみました。

(  ∀ )「ブーン、あのね、このままさ? おとうさんと二人、遠いところへ行っちゃおうか」

ブーンの手をつかんだままおとうさんがじりじりと、崖の縁へと向かって歩きます。
ブーンは、踏ん張ろうとしました。けれどおとうさんにはまるで敵わず、おとうさんが進む毎に、
ブーンの身体も崖の縁へとじりじり近寄っていってしまいます。

放してと、ブーンはいいました。
おとうさんは振り返りません。おとうさんと、ブーンは呼びました。おとうさんは振り返りません。
おとうさん、おとうさん。繰り返しても、おとうさんはまるで聞こえていないみたいに、
まっすぐ、まっすぐ、進んでいきます。崖の縁の、その先へと、じりじり、じりじり、進んでいきます。

みんなのことが――ホマホマのことが、瞬間的に思い浮かびました。それでブーンは、唱えます。
ほまいに、ほまいに、まるたすにむす! ほまいに、ほまいに、まるたすにむす!

――おとうさんが、止まりました。

(  ∀ )「おとうさんが教えたおまじない、覚えててくれたんだね」

振り返ったおとうさんはにこにこと、とてもうれしそうにわらっていました。

(  ∀ )「そうだよね、ブーンはおとうさんの味方だもんね」

そしておとうさんはその場にしゃがみ、視線を合わせ、がっちりと両肩をつかんできました。

(  ∀ )「ねえブーン。もしも、もしもだけど、おとうさんとおかあさんのどっちかしか選べないとなったら、
 ブーンはおとうさんを選んでくれるよね。おとうさんと暮らしてくれるよね。
 ブーンは、ブーンだけは、おとうさんの味方でいてくれるもんね」

おとうさんはにこにことわらっていました。でも、わらっていても、わらっていませんでした。
心が、まるで、わらっていませんでした。

(#  ∀ )「ブーン、いってよ。ブーンは、おとうさんの、味方だよって。……いえよ!」

突き飛ばされました。突き飛ばしたブーンに乗っかっておとうさんが、握りしめた拳を振り上げました。
ごめんなさい。守るように頭を抱え、思わずブーンは叫びます。

――予想した衝撃は、いつまで経ってもやっては来ませんでした。
ブーンが薄く目を開けると目の前では、おとうさんは泣きそうな顔をしながら首を横に振っていました。

32 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:19:19 ID:X1XrWvU60
(;  ∀ )「ああ違うんだ、違うんだブーン。おとうさんは怒ってなんかいないんだ、おかしくなんかないんだよ……」

ぼくはおかしくない、おかしくない。病院なんて、必要ない――。
両手で顔を覆い、おとうさんがしくしく泣き出します。泣き出したおとうさんを前にブーンは、
物音を立てないように、気付かれないようにしながら、おとうさんから離れました。
離れて、離れて、それで、おとうさんの姿が見えなくなるのと同時に、走り出しました。



家ではおかあさんが外からでも聞こえるくらいの叫び声を上げて、家の中のものを壊しまわっていました。
このまま家の中へ入ったら、割られた食器と同じ目に遭うかも知れません。
ぶたれて、蹴られて、怒られて、それは、楽しい想像ではありませんでした。
だからブーンは家には帰らず、そのまま島を横断しました。
横断したらば裏山へ――みんなのところへ、急ぎました。



ショボン、ツン。返事はありません。ログハウスの中は真っ暗で、二人はもう、帰ってしまった後のようでした。
ホマホマ、ホマホマ。ホマホマはいるはずです。ホマホマのおうちはここで、どこにも帰りはしないのですから。

でも、ホマホマはどこにいるのでしょう。
考えてみると、ブーンたちが帰った後ホマホマは、いつもどうしているのでしょう。
一人ぼっちで、さみしさにふるえているのでしょうか。
考えると、なんだか自分がとんでもない仕打ちを課してしまっていたような気がしてきます。

ホマホマ、ホマホマ。ブーンは呼び続けます。
一階を探して、二階に上がって、けれどホマホマの姿は見当たりません。
残す所は地下のみですが、でも、地下にあるのは家のお風呂と同じくらいの狭い空間だけで、
あんなところではホマホマなんかぎゅうぎゅうで、とっても窮屈なように思えます。
それでも他に見当たらない以上、思いつくのはそこしかありませんでした。

33 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:19:50 ID:X1XrWvU60
果たしてホマホマは、地下にいました。
案の定その大きな体を窮屈そうに丸めて、地下の空間にすっぽり収まっていました。
その腹には、ホマホマがまだ小さかった頃にブーンがあげた、あの使い古しの毛布が抱きしめられています。

ホマホマ。ブーンが、呼びかけました。
ホマホマはいつもより小さくお目々を開き、狭いその空間の中でわずかに頭を上げました。
ホマ。ホマホマが、一声鳴きます。なんだかそれがたまらなくて、ブーンはそのままホマホマに抱きつきました。
頭を押し付け、ブーンは言います。

どうしておとうさんは、怒るんだろう。どうしておかあさんは、怒るんだろう。
おとうさんだけじゃない、おかあさんだけじゃない。同級生も、
先生も、島の人も、どうしてみんな、あんなに怒ってしまうのだろう。

怒る人は、とってもこわい。胸がぎゅうっと、苦しくなる。島の外も、そうなのかな。
世界中、どこでもみんな、そうなのかな。みんなみんな、怒って怒って、怒ってしまう、
そんなふうな、生き物なのかな。そんなの、やだな、そんなの、こわいな。ブーンは、静かに、言いました。


みんながやさしく、なればいいのに。やさしい世界に、なればいいのに。


ホマホマが、身体の至るところから自前の触手を、薄く発光したそれらを伸ばしました。
仄かに輝く、その光。いつかどこかで、見たような。ブーンはそれに、触ります。
ふよふよとした、不思議な感触。その感触が、ブーンの全身を包んでいきます。
ホマホマの触手が、ブーンの身体を包んでいきます。


まっしろまくらに、包まれてる。ブーンは瞬時に、そう思いました。
ホマホマは、まっしろまくら、そのものでした。


これでもう、安心でした。こわいのなんて、ありません。やさしい幸せしか、ありません。
ブーンはうふふとわらいます。わらってブーンは、つぶやきます。
ホマホマ、ホマホマ、大好きだよ。ずっとずっと、大好きだよ――。


おやすみ、今夜。幸せに、また明日。


.

34 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:20:15 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

おとうさん!
ブーンは飛び起きました。心臓が、どっどっどっどっ、鳴っています。
こわい夢。とってもとても、いやな夢。でも、それがどんな夢だったのか、ブーンは思い出せません。
とてもとても、怖かったのに。とても、とても――。

背中に、ふわっとした感触が当たりました。振り返るとそこには、ホマホマがいます。
そうだった、ブーン、ホマホマと一緒におやすみしたんだった。

ホマホマはねぼすけなのか、未だに半目を開けたり閉じたりしています。
なんだか昨日よりも一層窮屈そうに丸まっているホマホマを、ブーンはやさしく撫でてあげます。
ホマホマはこしょばゆそうに身体をぶるるとふるわせると、開閉していたまぶたを完全に閉じました。
口からふふっと、笑みが漏れます。

その時です。頭上から、がたがた物音が聞こえてきました。ショボンとツンでしょうか。
でも、それにしてはなんだかずいぶん騒がしい気がします。
がたがた、がたがた、家の中のものを、まるでひっくり返しているみたい。

ブーンはもしかしてと、おそろしいことを想像してしまいます。
もしかして、おとうさんが探しに来たんじゃ。ぼくに怒って、ここまできたんじゃ。

どうしよう、どうしよう。ブーンは混乱します。
だって、おとうさんがホマホマを見つけてしまったら――。
生まれ変わってくれるにしても、あんな悲しい思い、もう二度としたくありません。


お別れなんて、したくない。


物音がしても気にせず、ホマホマは眠っています。
ブーンは眠ったままのホマホマに、静かに、けれどきっぱりと言いつけます。
ここで待っているんだよ。絶対に出てきちゃだめだからね。

ほとんど全身はみだしながらも毛布でホマホマを覆い隠し、ブーンは一階へ上がります。
心臓が、どっどっどっどっ、鳴っています。一段、一段、上がるごとに、どっどっの動きも、激しくなります。
それでもブーンは、上ります。怒られるのは、怖い。けれど、ぼくだけが怒られるなら。
ホマホマが、おとうさんに見つからないですむのなら。

そしてブーンは、一階へと到着し――。

35 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:20:40 ID:X1XrWvU60
「なんだてめー! どっから出てきた!」

かっかと怒った顔で、野球のバットを振り回しているその人物。
そこにいたのは、おとうさんではありませんでした。少年。それも、見たことのある顔です。
そう、彼は確かクラスの同級生で、いつもドクオと一緒にいる男の子。ドクオの仲間の一人です。

「おいみんな、ちょっと来いよ!」

彼がそう叫ぶと二階や他の部屋から、同じ年頃の子どもたちがぞろぞろと集まってきました。
彼らは手に手にバットや角材など危なそうなものを持ち歩いて、ずいぶんと乱暴な雰囲気です。

「俺らさ、一〇〇万円探してんの。なんか知ってる? 隠すと為にならないよ?」

そういえばと、ブーンは思い出します。ツンやみんなが言っていました。
ドクオたちが流れ星を探して、島中を荒らし回っているって。
大人も迷惑するくらい、好き勝手乱暴なことをしているって。

ブーンは不安になりました。ここには流れ星なんてありません。
でも、もしも彼らがホマホマを見つけたら――。やさしく扱ってくれるとは、とてもでないけど思えませんでした。

「なあてっちゃん、そこ、階段がある」

「ほんとだ。なに、地下あんの?」

男の子たちが、ブーンの背後の階段に気づきました。
気づいて男の子たちは、ブーンを押しのけるようにして奥へと入ろうとします。
でも、その先にいるのはホマホマです。ブーンは……両手を広げ、道を塞ぎました。

「は? なに、邪魔すんの?」

怒った気配。萎縮しそうになりますが気を張って、両手をぐっと伸ばします。

「怪しいよ。絶対なんか隠してる」

「一〇〇万円かな」

「一〇〇万円だよ絶対!」

男の子たちが騒ぎ立てます。一〇〇万円、一〇〇万円、声を合わせて連呼します。
先頭に立った男の子が、バットをちらつかせてすごみました。「どかないと酷いぞ」と、彼は言います。
ブーンは、動きませんでした。

36 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:21:11 ID:X1XrWvU60
「そうかよ、そんならなあ……こうだぞ!」

バットが掲げられ、振り下ろされました。思わず目をつむります。
けれど殴られた感触は訪れず、その代わりに、男の子たちのブーンをバカにするわらい声が
ログハウス中に響き渡りました。目を開くと、バットはブーンの直前で寸止めされていました。

「知恵遅れはな、けんじょーしゃの言うこと黙って聞いてりゃいいんだよ!」

どけよと、先頭の男の子が足や胴を叩いてきました。
勢いなくぶつけられたそれらは大して痛くありませんが、固く重いその感触は、
本気で叩かれた時のことを想像させるに充分な冷たさを持っていました。

ホマホマ。大の字の姿勢のまま、ブーンは背後を振り向きました。
それが合図となって男の子たちが、いっせいにわっとなだれ込んできました。
とてもではないけれど、ブーン一人で抑えることはできません。
ブーンは流されそうになりながら、心の中で呼びかけます。

ホマホマ、ホマホマ、ホマホマ――!

ξ ⊿ )ξ「待ちなさい!!」

37 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:21:39 ID:X1XrWvU60
きんと高いその一声。こんなに威勢の良い声を出せるのは、したらば島でも一人しかいません。
そこにいたのは、もちろんツン。ブーンの友だちの、一人でした。

「なんだよブス、でしゃばんじゃねーよ――」

ξ゚⊿゚)ξ「あんたたち、そこから一歩でも踏み入ればすぐにも訴えるから!」

訴える。その一言に、男の子たちがざわめきます。

「な、なんだよ。おまえ関係ねーじゃん。なんのケンリがあって訴えるとかぬかしてんだよ」

ξ゚⊿゚)ξ「権利ならあるわよ、ここはあたしのおとうさまの所有物なんだから!」

ざわめき声が、大きくなります。

ξ゚⊿゚)ξ「あんたたちは住居不法侵入の、立派な犯罪者なの。あたしが訴えたら、少なくとも二〇年間は牢屋暮らしよ。
      学校にも行けないし、おとうさんともおかあさんとも会えなくなる。あんたたち、その覚悟はあって!?」

いまやもう男の子たちは、ブーンなんか放ってひそひそ相談を始めます。
「ハッタリだよ、こんなんで捕まるわけないって」「そうだよそうだよ、でまかせいってんだよ」
「でもツンの親父、裁判の人だし……」「じゃ、ほんとに?」「ほんとに捕まっちゃう?」
「やだよ俺、捕まりたくないよ」「俺だってやだよ」。
明らかに怯えを見せる男の子たちに向け、声高らかにツンが最後通告を突きつけます。

ξ゚⊿゚)ξ「さあどうするの。いますぐ出ていっていつもの夏休みにもどるか、
      愚かにも好奇心を満たそうとしてぶざまに逮捕されるか。二つに一つよ!」

うう。男の子たちが顔を見合わせ、たじろぎます。

ξ゚⊿゚)ξ「さあ、さあ! どっち!」

38 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:22:08 ID:X1XrWvU60
( A )「いいや、どっちも選ばない」

空色りぼんをひるがえし、男の子が一人、場の中心へと割って入って行きました。
彼はうろたえる男の子たちから野球バットをひったくると、それを軽々ふるってぴしり!
ツンの鼻先へと突きつけました。

('A`)「お前を黙らせるのが手っ取り早くて、簡単そうだ」

「どっくん!」

そこにいたのは男の子たちの親分、ドクオその人でした。
ドクオの登場に、あれだけ怯えていた男の子たちがいっせいに沸き上がります。
ドクオの背中には、そうさせてしまうだけの強さが宿っていました。

どっくん。ブーンも自然と、つぶやいていました。
その声が聞こえたのかそうではないのか、ドクオがちらと、ブーンを見ます。
けれどその視線はすぐに目の前のツンへともどり、ぎりぎり歯を噛み締めて
自分をにらむツンへと彼は、落ち着いた声で話しかけました。

('A`)「ツン。お前の言う通り、このまま帰ってやってもいい」

ドクオの言葉は、その場にいる誰の予想にも反したものでした。
目の前のツンも面を食らった顔をしていましたし、味方であるはずの男の子たちも、不満の声を上げます。
ただしその不満の声は、ドクオのひとにらみで沈黙させられてしまいましたが。

('A`)「ただし、ひとつ条件がある」

ξ゚⊿゚)ξ「……なによ」

('A`)「お前、うそついたよな」

ξ;゚⊿゚)ξ「な、なんのことよ」

('A`)「住居不法侵入で二〇年の懲役なんて、あるわけねえだろ」

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、あるわよ!」

いいとこ三年ってとこで、それだって大人の話だと付け加えるドクオに、ツンが反論します。
けれどその声はふるえていて、ブーンから見ても信頼に欠けた態度に思えました。
明らかに、ツンの方が圧されていました。

39 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:22:32 ID:X1XrWvU60
('A`)「『あたしはうそをつきました。でまかせ言ってごめんなさい』。そう言って土下座するなら、帰ってやる」

ドクオがバットで、ツンの肩を押しました。
くちびる噛み締めうつむいたツンが、わずかによろけます。ドクオが更に、ツンを押しました。

('A`)「間違ってたって認めろよ、“おじょうさま”」

ξ#゚⊿゚)ξ「あたしは!」

真一文字に結ばれた口が、大きく裂けました。

ξ#゚⊿゚)ξ「あたしは間違ってない! ほんとのこと言った、正しいこと言ったの!」

('A`)「何の苦労も知らない金持ちおじょうさまが、何が正しいだよ」

ξ#゚⊿゚)ξ「あたしは正しいこと知ってるもん! あたしの知ってる正しいこと、
      あんたが知らないだけだもん! あんたが、あんたが――」

ツンが、一際大きな声で、叫びました。


ξ#゚⊿゚)ξ「あんたのおとうさんが、頭のおかしい人だから!」

.

40 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:22:57 ID:X1XrWvU60
ごつん――鈍い音が、部屋の中に響き渡りました。ツンが、床に倒れました。
ドクオのバットには、血が付着しています。どよめき。なに、なに、と、男の子たちが繰り返します。
その中で、ツンがふらふらと立ち上がりました。頭を押さえ、たらたらと血を流しながら、立ち上がりました。

ドクオが、更に振りかぶりました。

やりすぎだよ。誰かが言いました。もういいよ、帰ろうよ。他の誰かが言いました。
ドクオは振りかぶったまま動きません。ツンも、たらたら、たらたら頭から血を流して、それでも退きません。
そして、言います。「あたしは間違ってない」。ドクオのバットが、更に高く振りかざされました。

「どっくんもやっぱり、気狂いなんだ――」

誰かが言った、その言葉。その言葉が、スイッチでした。
振りかざされたバットが、からから床に転がります。
ゆっくりと、空色りぼんで結んだ後ろ髪を回すように、ドクオが振り返ります。
そして、男の子たちの間に入ったドクオは「お前だな」と言って、一人の男の子を殴り飛ばします。

悲鳴を上げて鼻を押さえるその男の子を、けれどドクオは逃しませんでした。
ごろごろ転がるその身体めがけ、重く足を踏み降ろします。えふっと、男の子が息を吐きました。
それでもドクオは止まりません。何度も、何度も、踏みつけます。めったやたらに、踏みつけます。
亀になって、意味不明な叫び声を上げる男の子を、手加減なしに、踏みつけます。
何度も、何度も、何度も、何度も。

「死んじゃう、死んじゃうって!」

男の子たちが、止めに入りました。それでもドクオは踏みつけて、
慌てて抱きついた男の子に、無表情のまま、言いました。「お前もか――?」。

わあわあ叫んで、男の子たちが逃げだします。
踏みつけられていた男の子も、ばたばた壁にぶつかりながら、一散にドクオから逃げていきました。
残されたドクオは自分をにらむツンを一瞥すると放り捨てたバットを拾い、それから――
何も言わず、部屋から出ていきました。

どっくん。途中、ブーンが一度、ドクオに呼びかけた時。
ドクオは一瞬だけでその場に留まりましたが、程なくして歩き始め、静かに、静かに、外へと出ていきました。

41 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:23:27 ID:X1XrWvU60
(;´・ω・`)「つ、ツン……あの、手当しないと……」

どこに隠れていたのか、いつの間にかショボンが、ツンの側に立っていました。
垂れがちな眉を更に下へと下げて、ショボンはツンを心配します。
けれどツンは目にいっぱいの涙を溜めてぷるぷるふるえながら、
それでも涙をこぼさないでショボンをにらみました。
まるでショボンを批難するようなその視線に、ショボンがたじろぎます。

(;´・ω・`)「だ、だってぼく……」

それきり、ショボンは押し黙ってしまいました。いやな沈黙が、部屋の中に充満します。
騒動の間中、ずっと両手を広げて仁王立ちしていたブーンも、
どうしていいのかわからずその場に立ち尽くしていました。

と、その時です。背中が何かに押されました。

ホマホマ。振り向くと、そこにはホマホマがいました。
ホマホマはぐいぐいと、ブーンの背中を押してきます。どうやら一階に上がりたいようです。
ブーンは仁王立ちの格好を解いて、ホマホマのしたいままにさせてあげました。

(;´・ω・`)「あ、ホマホマ、いまは……」

ツンに近づくホマホマを、ショボンがやんわり止めようとします。
けれどホマホマは制止を聞かず、そのままツンの側へと寄りました。
そしてホマホマは、生まれ変わったばかりの時とは比べものにならないくらいに
太く長く成長した触手を伸ばし、ツンに触れ始めたのです。まだ血が止まらない頭の、
ツンが押さえたその手の上から、ホマホマは自らの触手を重ねます。

ぽうっと、仄かな光がツンの頭に注がれました。
ツンはホマホマの行動に何も言わず、されるがままになっていましたが、
突如あれっと、困惑するような、不思議に思うような、そんな顔をして、視線を上向かせます。

42 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:23:52 ID:X1XrWvU60
ξ゚⊿゚)ξ「……ショボン。それに、ブーンも。ちょっと来て」

言われてブーンは足早に、ショボンは少しためらうように、ツンの直ぐ側へと寄りました。
そして「見て」というツンの言葉に従い、先程までツンが押さえていた額の辺りを注視します。
そこには、ツンの流した血がべっとりと付着していました。ショボンが目を背けようとします。

しかしツンはそれを許さず、ちゃんと見てと、加えて指示を出してきました。
そう言われて仕方なく、ブーンとショボンは再びそこの、ドクオに殴られた場所を観察します。
――それで、気が付きました。

(;´・ω・`)「……ねえ、どういうこと? ぶたれたのって、ほんとにここ?」

ツンはうなずきます。形の良い、きれいでなめらかなおでこ。
そう――“傷一つない”、きれいなきれいな。
血だけはべっとり付着して、だけどその血が出てきた、傷はなくって。

(;´・ω・`)「怪我、しなかったってこと……?」

ξ゚⊿゚)ξ「違う。だってさっきまでは、死んじゃうくらいに痛かった」

ツンが、見上げます。この二〇日ほどで、自分たちよりずっとずっと大きくなった、その生き物を。
三人で育てた、ホマホマを。

ξ゚⊿゚)ξ「あなたのおかげなの……?」

ホマホマは何も言いませんでした。
何も言わず、昨日よりも更に一回り大きくなったように
見えるその身体をくくーっと伸ばして、寝固まった全身をほぐしています。

(;´・ω・`)「でも、そんな……そんなのありえないよ!」

ショボンが叫びました。そんな生き物みたことない、どこの図鑑にも載ってない。
そう言って。対象的にツンは落ち着き払って、ホマホマに向かって腕を伸ばします。
ツンの意図を理解したのか、ホマホマが高くに位置するその頭を手の届く場所まで下ろします。
下りたその首をツンは抱きしめ、これまで聞いたことのないくらいにやさしく、
おだやかな声で、つぶやくように、言いました。

ξ゚⊿゚)ξ「ありえるんだから、ありえるのよ。この子は人の気持ちがわかって……人の痛みが、わかるのよ」


.

43 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:24:36 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

('A`)「ブーン」

あの後。ツンの流した血をきれいにして、念の為にと裏山を降りて、二人と別れたその後。
裏山にほど近いその場所で、ブーンは誰かに呼びかけられました。振り向くと、そこにいたのはドクオ。
先程ツンを叩いて怪我をさせた、ドクオその人でした。

('A`)「一人か?」

ブーンはうなづきます。

('A`)「……あいつ、どうだった」

ドクオが話しかけてきます。でも、ブーンにはなんのことかわかりません。

('A`)「わかるだろ。さっきの……あいつのことだよ」

ドクオが続けます。でも、やっぱりブーンにはわかりません。

('A`)「……ツンのことだよ。怪我、どうだ」

ようやくわかりました。
だいじょうぶ、ぜんぜんなんともなかったよ。ブーンはそう答えます。

('A`)「ふぅん。ま、あんなやつどうなろうと知ったこっちゃないけど」

そう言いながらドクオは、どこか安堵したようでした。
ドクオもやっぱり、気にしていたのでしょう。ブーンの知っているドクオは、そういう人でした。
大勢の仲間に囲まれる前のドクオは。そこで、ブーンは気づきます。おかしいな。
周りをきょろきょろ見回し、それからブーンは、ドクオがしたのと同じように尋ねました。どっくん、一人?

('A`)「ああ。あいつらもう、ついてけないんだと」

友だちなのに?

('A`)「あんなやつら、友だちなものかよ」

友だちじゃないのに、一緒にいたの?

('A`)「……なあブーン、時間、あるか?」

ブーンはまたまた、うなづきます。

('A`)「そうか。じゃ、ちょっと付き合えよ」

44 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:25:18 ID:X1XrWvU60



防波堤のその上座り、海に向かって二人はアイスを揃って舐めます。
肌を焼く日差しは痛いくらいにじりじりしますが、潮風のおかげでそんなに暑くはありません。
だけどアイスはそうはいかず、見る間に形を崩していきます。ありがとう。ブーンはもう一度いいました。
別にとドクオが返します。それより早く食べちゃえよと。
大量の汗を吹き出すように溶けていくアイスを、ブーンは慌てて舐めていきます。

ドクオに付いていった先には、島で唯一の駄菓子屋がありました。
そこへ付いた途端、ドクオはアイスコーナーの前で「何がいい」とブーンに問いかけてきました。
ブーンは答えられませんでした。だってブーンにはお小遣いがなく、アイスを買うお金がなかったのです。
でもドクオは、続けてこう言ったのです。「いいよ、買ってやる」。ほんとに?
驚いて、そう問い返したブーンにドクオは、そっぽを向いて言いました。「うそつかないよ、お前には」。

('A`)「実際さ、たまったもんじゃないよな」

食べ終え残ったアイスの棒を、ドクオが海へと放ります。

('A`)「親のせいで、人生左右されるなんてよ」

ブーンも真似して、放りました。わるいことだとは、わかっています。
ツンならきっと「間違ってる!」と怒るでしょう。でもブーンはどうしても、
ドクオと同じことがしたくてたまりませんでした。だって、二人でいたずらわるさをするなんて、
まるで昔にもどったみたいで。ドクオとこうして二人並んで、仲の良かった頃にもどれたみたいで、それがうれしくて。

('A`)「金があればな」

給食のメニューで何が好きとか、三年になってからの担任より一・二年の頃のほうがよかったとか、
本当に、本当にたわいのない話題で、二人は一時間も二時間も話し合っていました。楽しい時間でした。
ショボンとも、ツンとも違う。ホマホマとも違う。ドクオとだから感じる楽しさを、確かにブーンは感じていました。

ブーンは思いました。どっくんがこんなふうに、昔みたいでいてくれるなら。
それならできればどっくんも、ブーンたちと一緒に、ホマホマを――。浮かびかけた思考。
その考えを打ち消すような冷たい声で、ドクオがとうとつにつぶやきました。「金があればな」。

('A`)「金さえあれば、どこへだって行けるのに。こんなクソみたいな島捨てて、外で勝手に生きてやるのに」

ドクオは海の向こうを、水平線のその更に向こう側を、まっすぐに見つめます。
見えないはずの何かを、確かに見据えるようにして。

45 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:25:44 ID:X1XrWvU60
( A )「一〇〇万円が、あればな――」

一〇〇万円。シャキンおじさんが約束した、流れ星の懸賞金。
ドクオがそれを得るために躍起になっていることは、おそらく島の誰もが知っています。
けれど、どうしてドクオが一〇〇万円を欲しがっているのか、
それを知っている人はきっとぜんぜんいないんじゃないかと、ブーンは思いました。

一〇〇万円を手にしたら、ドクオは島の外の、ブーンの知らない場所へ行ってしまうのかしら。
島を出たらもう、二度と帰ってこないのかしら。考えていると、ブーンは悲しくなってきました。
クソだなんて思うくらい、ドクオはしたらば島が嫌いなのかな。ブーンがいても、いやなのかな。
出ていったらもう、ブーンとも会ってはくれないのかな。

隣に座る男の子の、髪を結んだ空色りぼんを見つめます。

('A`)「なあブーン。お前、うそつくとき下唇噛むくせがあるの、知ってた?」

ドクオの言葉に我に返って、ブーンは首を横に振りました。
そんなくせがあるなんて、いままでぜんぜん気づきもしませんでした。

('A`)「で、さ。ちょっと聞きたいんだけど」

ドクオがこちらに振り向きました。後ろの髪と、空色りぼんが見えなくなります。

('A`)「お前、俺に隠し事してるだろ」

46 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:26:14 ID:X1XrWvU60
答えに、詰まりました。隠し事。ドクオの言う通り、ブーンはドクオに隠し事をしています。
もちろんそれは、ホマホマのこと。さっき浮かびかけた考えが、再び浮上します。
ドクオとも一緒に、ホマホマを育てたい。四人でホマホマを見ていきたい。
ブーンにとっては、それが一番うれしい考えです。

でも、もしホマホマのことを勝手に教えたら――ショボンはいったい、どう思うでしょうか。
ドクオについさっき殴られたツンは、いったいどう思うでしょうか。
二人がいやがるのは、間違いありませんでした。二人のことを考えたら、ドクオに教えることはできません。
隠し事は、隠し事のままにしておかなければいけません。

その場合、どうすればいいのでしょう。隠してないよとうそをつく。
そうすると下唇を噛んで、うそをついているとバレてしまいます。
なら、隠しているよと言えばいいのでしょうか。それもなんだか変な話です。
何を隠しているんだと問い詰められたら、ブーンにはどうすればいいかわかりません。

どうすればいいのだろう。適当なことを言って……あれ? そうすると下唇は、噛んじゃいけないんだっけ?
噛まなきゃいけないんだっけ? あれ、あれれ? ブーンはすっかり混乱してしまいました。

('A`)「……ま、いいけどよ」

ブーンが答えるよりも先に、ドクオが立ち上がりました。
ブーンは未だにしどろもどろしたままで、隣のドクオを見上げます。

('A`)「俺、絶対に一〇〇万ものにするから」

ブーンを見下ろし、ドクオが言います。

('A`)「独り占めするつもりなら、ブーン、お前でも許さねぇ。覚えとけ」

日差しはすでに夕の赤で、空の色を反映するそのりぼんもまた赤色の染めながら、
背を向けドクオが去っていきました。その背中を見送りながらもブーンは、なおも悩み続けていました。
どう答えればよかったのか、ドクオは何を望んでいたのか、考えて、考えて、わからなくて、悩んでいました。


.

47 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:26:45 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

あれは、いつのことだったろうか。目を閉じドクオは、思い出します。
物心つくかどうかといった頃、ドクオは本州から母の実家のしたらば島に越してきました。
当時のドクオは大変な人見知りで、大人だけでなく同い年くらいの子どもも怖くて、
右を向いても左を向いても知らない人ばかりの島の生活に泣いてばかりの毎日を送っていました。

あんまりにもひどいドクオの人見知り。
それを見かねておとうさんが、働いていた工場の催しが開かれるたび、ドクオを連れて行くようになります。
もちろんドクオは、知らない人ばかりの集まりにいやだいやだとぐずります。けれどおとうさんも頑なで、
泣きじゃくるドクオを抱き上げ無理やり運んでしまいます。ドクオには成すすべがありません。

それはおとうさんに連れてこられて何度目だったか。
その日もドクオは、おとうさん、帰りたい、おかあさん、帰りたいと訴えて、けれど聞き入れてもらえず、
仕方なく隅っこでお菓子を食べ、苦しい気持ちをまぎらわせていました。


そこで、彼は出会いました。
自分と同じく、おとうさんに連れてこられたその男の子と。


きっかけは、些細なことでした。
じーっと自分を見ている男の子にドクオは居心地の悪さを感じながら、早くどこかへ行って欲しいと祈っていました。
けれど祈りは届かず男の子はあろうことか近寄って、「おいしい?」と話しかけてきたのです。
ドクオはもう、パニックです。どうしたらいいかわかりません。わからないけど、わからないながらに、
男の子がお菓子を欲しがっていることには気がついて、それを上げると、渡しました。

男の子は「いいの」と言いながら、ほとんど待つことなくお菓子を受け取り、ぱくぱくむしゃむしゃ、
あっという間に平らげてしまいます。そして――そして男の子は、満面の笑みを浮かべ、こう言いました。
「ありがとう!」。

それは、不思議な感覚でした。いままで感じたことのない、なんともいえない感覚。
くすぐったいような、身体がむずむず動き出しちゃいそうな。ドクオは他のお菓子も取り出して、
男の子に差し出しました。「……たべる?」「いいの!」。男の子は、遠慮なんか知らずに、
与えられたものを与えられるだけ食べてしまいました。

その食べ方が、そして食べた後に必ず言ってくれる「ありがとう」が、
なんとも形容することのできない感覚をドクオにもたらしたのです。

後日、その子はドクオの家にやってきて、お礼と言って細長い布切れをプレゼントしてくれました。
晴れの日とおんなじ、空色のりぼん。光に透かすときらきら光るそのりぼんは、男の子の宝物だったのだそうです。
でも、宝物のりぼんよりもドクオの方が大事だと、男の子は言いました。「どっくん大好き!」。

そう言って男の子は、太陽みたいにわらいました。ドクオもおんなじ気持ちでした。
この子とずっと、なにがあっても一緒にいたい。これからもずっと、ずっとずっと。そう、思いました。


ブーン。ぼくの、初めての友だち。

.

48 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:27:10 ID:X1XrWvU60
爆発による、ガス漏れ事故。おとうさんが働いていた工場で起きた、けれど起きなかったことにされた事故。
大規模に発生したその事故では多くの工員がガスに呑まれ、意識不明の重体に陥りました。
けれど幸いその後の処置も適切で、大多数の工員は後遺症もなく早々に職場復帰を果たします。
何事もなかったかのように、働き始めることができたのです。

そう、大多数は。

ドクオのおとうさんは、二人いた例外のうちの一人でした。
頭をやられたおとうさんは人が変わったように乱暴になり、
おかあさんにも、ドクオにも暴力を振るうようになります。

工場からは解雇され、退職金として渡された金もすぐに食い潰し、
そうすると近隣にたかりだし、気に食わないことがあるとすぐに暴れるような生活を送るようになりました。
始めは同情的な視線を向けていた島の人も、すぐに愛想を尽かします。
愛想を尽かされて、おとうさんはますます乱暴に拍車をかけます。至るところで問題を起こします。

そしてついに、その日がやってきました。
島のおばあさんをおとうさんが大怪我させて、さすがに看過できないと逮捕されたのです。
おとうさんが犯罪者に。それは、ドクオにとって非常にショックな出来事でした。
けれどもし、もしもただの犯罪者であれば、ドクオのこれからはまだしもマシなものになっていたかもしれません。

おとうさんは、犯罪者にはなりませんでした。病院に送られたのです。頭の病院に。
そしてそこは病院とは名ばかりの、狂人をつなぎとめておくことしかしない牢獄だったのです。
一度だけ、おとうさんに会いに行ったことがあります。おとうさんはドクオを見てもドクオとわからず、
誰に向かっているかも定かでない様子で、叫んでいました。「俺はおかしくない。おかしいのはお前らだ」。

今でも件の工場は、おばけ煙突からもくもく煙を吐き出し稼働を続けています。
それが、島の人間の総意でした。気の狂った人間未満なんかより、島の利益。それが、彼らの本音だったのです。
結局、全部、金でした。

工場は事故なんか起こしておらず、ドクオのおとうさんはただただ頭がおかしかった。
最初っから、気狂いだった。そういうことにされました。そうして大人たちはおとうさんだけでなく、
おかあさんや、ドクオのことも腫れ物のように扱い出します。そしてその特別扱いは、
子どもたちへと容易に伝播します。最悪の形で、伝わっていきます。

ドクオは、強くならなければなりませんでした。強くならねば、いつまで経っても抜け出せない。
石当ての的から、雑巾を口に突っ込まれる遊びから、階段から突き落とされる度胸試しから、
いつまでも経っても抜け出せない。強くならねば。

強くならねば。

49 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:27:39 ID:X1XrWvU60
ドクオは、強い人の、ふりをします。乱暴で、いつも不機嫌で、恐れ知らずで――怒っていて。
同級生にも、先生にも、島の大人にも同じように、強い自分を見せつけました。
次第次第に、ドクオを見る周りの目が変わっていきます。“ドクオはそういうやつだ”という風潮が、
強固に形成されていきます。強いドクオが、作られていきます。

それは始め、確かに演技だったのです。乱暴なふり、怒ったふり、憎んだふり、
強くなるための、それはただのふりだったのです。けれど周りがドクオを“そういう”人物だと見ていくうちに、
ドクオはいつしか演技の気持ちに呑まれていきました。いつも怒って、怒って、怒ることに後悔しても、
苦しく感じても気持ちを抑えられず、怒ることしかできなくなってしまいました。

誰も彼もが、憎くて仕方ありませんでした。同級生も、先生も、島の大人も、
おとうさんを見捨てたおかあさんも、ガスなんかで狂ったおとうさんも、みんな、みんな、
憎くて、憎くて、仕方ありませんでした。何もかもが憎くて、憎くて、仕方ありませんでした。

たったひとりの、例外を除いて。


ブーン。俺の、唯一の友だち。


うそをつくときに、下唇を噛むくせ。そんなの全部、うそっぱちです。ブーンはうそをつきません。
うそをつかないのだから、そんなくせなんかあるわけないのです。だからブーンは、うそなんかついていません。

でも、ブーンは隠し事をしています。誰にだってわかります。
くちびるを噛まないよう、あれだけ慌てていたら。何を隠しているのかまでは、もちろんわかりません。
でも、ドクオには予感がありました。ブーンが隠しているのは、おそらく、きっと――。



夕の赤に染まったブーンは家へと帰らず、降りたばかりの裏山へと再び登っていきます。
その姿をドクオは、隠れて見ていました。ブーンからもらった空色りぼんに触れながら、
裏山へ消えていくブーンの背中を見つめていました。


.

50 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:28:24 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

シャキンおじさんが帰ってしまう。
この報を受けて、ショボンの気持ちは少なからずかき乱されていました。
理由はいまいちぴんときませんでしたが、成果が出ないなら予算の無駄遣いを止めて引き上げろと、
偉い人から言われてしまったのだそうです。シャキンおじさんは今日の日暮れにも、
したらば島を後にしてしまうとあの豪快なわらいごえと共に言っていました。

おじさんがいなくなってしまうのは、単純にさみしいことです。
ブーンやツン、それにホマホマといることがつまらないとはもちろん言いませんが、
しかし今年はおかげで、おじさんとの時間がまるで取れませんでした。
おじさんとフィールドワークに出たり、海外の見たことも聞いたこともない動物の話を教えてもらったり、
楽しみにしていたそうした時間が、まるで取れませんでした。それは、とても残念なことでした。

けれどいま、ショボンを悩ませている理由はそうした単純なさみしさなどではない、
もっと重大な理由によっていました。

ホマホマ。

おうちに帰らなかったブーンと抱き合い、ショボンが来るまでぐっすりと眠っていたホマホマ。
そのホマホマは、昨日よりも明らかに大きくなっていました。インド象より、一回り小さいくらいでしょうか。
このまま成長したら、二・三日のうちにもあの二階建てのログハウスより大きくなってしまうかもしれません。
それは決して、大げさな予測とはいえませんでした。だってホマホマの成長速度は、本当に常軌を逸していたのですから。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、それでどこにするのよ」

(´・ω・`)「そんなの、ぼくに聞かれても……」

ξ゚⊿゚)ξ「なによ。だったらおとうさまのログハウスでいいじゃない」

(´・ω・`)「でも、ホマホマにはもう、あそこは狭いよ。たぶんすぐにも壊しちゃう」

ξ゚⊿゚)ξ「それは、そうだけど……」

ショボンたちは、ホマホマでも住める新しいお引越し先を探していました。
もちろんそんな場所、簡単には見つかりません。この狭いしたらば島の中で、
大きな大きなホマホマが自由に動き回れる場所なんて、そうあるはずがないのです。

51 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:28:49 ID:X1XrWvU60
三人は結局行き先を見つけられないまま、ブーンの提案に従って元の場所――
前のホマホマを埋めたあの洞穴へ行こうと決めました。
のしのし歩くホマホマを横目に、ショボンはさらに思います。
大きさだけじゃない。この大きさだけが、異常なんじゃない。

昨日の、ツンの一件。ツンの怪我をたちどころに治してしまった、あの出来事。
今朝当たり前の顔をしてログハウスに現れたツンの額には、
やはり傷の痕など爪の先ほどにも見当たりませんでした。あれは、夢ではなかったのです。
ホマホマは本当に、ツンの傷を治してしまったのです。魔法のように、一瞬で。

あんなことができる動物なんて、絶対に存在しません。存在するはずがありません。
……少なくとも、この“地球上”には。ショボンは、考えました。考えて、考えて、でも、
その考えを打ち消すことはできませんでした。バカげた妄想かもしれません。
言えば、わらわれてしまうかもしれません。でも、でも……もしかしたら。もしかしたら、ホマホマは――。

(´・ω・`)「二人とも、聞いてくれる?」

これじゃぜんぜん足りないわね。
洞穴の前につき、用意していた食事をホマホマに与えていたブーンとツンに、ショボンは話しかけました。

(´・ω・`)「あのさ、ぼく、考えたんだ。いっぱい、考えたんだよ」

二人の不思議そうな顔を見て、言葉に詰まりそうになります。
なんでもないよと言葉を取り下げたくなる臆病が、顔を覗かせます。
特に、ブーンの顔を見て。ホマホマをホマホマの生まれ変わりと信じ、
全身で大好きを表すブーンを見てきて。でも、それでも。

(´ ω `)「でも……でもやっぱり、こうする他ないって思ったんだ……ホマホマのこと」

このままにはしておけない。だってこのままにしておいたらきっと。

(´ ω `)「おじさんに全部――」

悲しむのは――。

(´ ω `)「話し――」

52 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:29:14 ID:X1XrWvU60
( A )「話の途中に失礼するぜ」

ショボンの話を、誰かが強引に遮りました。ツンではありません。
ホマホマでも当然ありません。ショボンの話を遮ったのは、ここにいるはずのない男の子――
島一番の乱暴者、ドクオでした。ドクオはブーンを後ろから羽交い締めにして、
ちきちき伸ばしたカッターナイフをその首元に当てています。

ξ#゚⊿゚)ξ「あんた――」

('A`)「動くな!」

ぐっと、ブーンの首にカッターナイフが押し当てられます。
ブーンはただただびっくりした様子で、その場に硬直しています。

('A`)「なんだよ、一目瞭然じゃねーか」

硬直するブーンを伺うように首を曲げたホマホマ。
そのホマホマを、ドクオは見上げて言いました。あんまりにもあっさりと、言い放ちました。

('A`)「こいつだろ、流れ星」

横目でショボンは、見ました。ツンが、悔しそうな顔をしているのを。
驚いたのではなく、悔しそうであったのを。ドクオも、それで確信したのでしょう。
勝ち誇ったように、口元を歪めました。

ξ;゚⊿゚)ξ「ち、違う、そんなこと――」

('A`)「うそつきは黙れよ」

言われてツンは、押し黙ってしまいました。思い当たる所があったのでしょう。
苦々しい顔をして、ドクオをにらんでいます。そんなツンを見て、ドクオが吐き捨てるように言いました。

('A`)「こんな意味不明ないきもん、自然にいてたまるか」

ショボンも、まったくの同意見でした。
ツンにしても、表立って認めることはなくとも内心では同じ気持ちでしょう。
ホマホマは、余りにも自然離れしている。それがごく普通の、一般的な感覚なのだとショボンには思われました。
……ただ、ただ一人。

53 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:29:39 ID:X1XrWvU60
( A )「……そうだよな」

ブーンだけは。
ブーンだけは、みんなが何を言っているのかわからないと言った顔をして。
普通とか、一般的とか、そんな感覚抜きに、ただただ大好きの気持ちだけで、大きく大きく育つホマホマを見ていて。

('A`)「ブーン。お前はそういうやつだよな」

お前だけは……。ドクオが小さくつぶやきました。
その姿はなんだかずいぶんと頼りなくて、いつものドクオから感じる乱暴な気配がまるでありません。
それなら――ショボンは、意を決します。

(;´・ω・`)「ど、ドクオ!」

('A`)「あ?」

ドクオが手元のカッターナイフを、再びブーンに押し付けます。
乱暴なあの気配が、瞬時にもどってしまいます。ショボンは慌てて、弁明しました。

(;´・ω・`)「ま、待って! きみの邪魔するわけじゃないんだ!」

ドクオは疑うような視線で、ショボンをにらんでいます。
その視線に生唾ひとのみ、乾きそうになる口の中を唾液で濡らして、ショボンは話を続けます。

(;´・ω・`)「き、きみの目的は、ホマホマをおじさんに届けて一〇〇万円を手に入れること。そうでしょう?」

('A`)「……ああ」

(´・ω・`)「それなら……それならぼくも、きみに協力するよ」

54 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:30:13 ID:X1XrWvU60
ξ;゚⊿゚)ξ「ショボン!?」

悲鳴のように、ツンが叫びました。
それはたぶん、至極当然の反応で。ショボンにも、ツンの気持ちはわかって。
でもだからこそ、ぼくが言わなきゃいけない。ショボンは泣きそうになる自分を諌め、ツンと向き合います。

(´・ω・`)「ツンは、一〇〇万円なんて必要ないよね。ぼくも、図鑑は諦めるよ。
     だからドクオに、上げちゃおう。それがたぶん、一番いいんだ。いいんだよ」

ξ#゚⊿゚)ξ「なにいってんのよそんなの、約束したじゃない、あたしたちで育てるって――」

(´ ω `)「ぼくたちだけじゃもう無理なんだ!」

思った以上に大きな声が出てしまいました。ツンがびっくりした顔をしています。それに、ショボン自身も。
だけど、それで止まるわけにはいきません。説得を、つづけます。

(´ ω `)「ツンだって言ってたじゃないか。これ以上大きくなったら、ご飯の用意もできなくなるって。
     おうちだって用意してあげられないし、それに……ホマホマが何をできるのか、本当のところ、
     ぼくたちは何もわかってない。ツンはバカみたいって言ってたけど、微生物とか、ウイルスとか、
     ぼくたちにはそういうことも調べられない。もしホマホマが病気になったとして、ぼくたちには何もできない」

ξ ⊿ )ξ「なんでよ……これまでうまく、やってきたじゃない……」

(´ ω `)「おじさんなら、信用できるから。たまに会わせてもらえるよう、ぼくから頼むから」

ξ ⊿ )ξ「でもそんなの……そんなのあんまり、薄情よ……」

(´ ω `)「いっぱいお願いするから。ぼく、おじさんにいっぱい、お願いするから……」

ツンが泣き出していました。泣いて、でも、それ以上の反論はしてきませんでした。
ショボンも、泣きたいと思いました。だけど、まだです。泣くのはやるべきことを終えた、その後です。

(´・ω・`)「聞いてのとおりだよ。ドクオ、ぼくはきみをおじさんのところへ案内する。
     だからもう、その危ないものをブーンから離して……。だからお願い、理解して――」

言って、ショボンは視線を移します。ドクオのほんとにすぐ隣の、彼と、向き合う為に。

(´ ω `)「ブーン、きみも」

55 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:30:39 ID:X1XrWvU60
ブーンは、少しだけ頭の回転が鈍い子です。それ自体が悪いわけではありません。
自分やツンにはなくて、彼の持ってる素敵な部分を、ショボンはたくさん知っています。
でも、それとは別に、彼が物事の理解を苦手としていることは疑いようのない事実です。
ショボンたちの会話をブーンがどこまで理解しているか、半分もわかっていないかもしれません。

それでもショボンは、ブーンに理解してほしいと思いました。
理解して、その上で納得して、ホマホマを送り出して欲しいって。
ブーンが気付かないうちにホマホマを連れ出し、おじさんに引き渡すことも、やろうと思えばできたかもしれません。

でも、そんなふうにはしたくありませんでした。だって、ホマホマ一番の友だちはどう見たって、ブーンです。
知らない間に友だちと引き裂かれたらどれだけ悲しいか、それくらいショボンにだってわかります。
だからショボンはブーンに、納得した上でのお別れを選んでほしかったのです。

それは、ショボンのわがままかもしれません。
自分にとって、都合のいい考えなのかもしれません。
けれどショボンには、他に思いつきませんでした。
みんなの“悲しい”を最小限にする方法を、他に思いつきませんでした。

ブーンは、動きませんでした。

56 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:31:11 ID:X1XrWvU60
('A`)「……なあブーン、なにも、一〇〇万じゃなくっていいんだ。お前とだったら、山分けでいい。
 こいつを持っていってさ、俺とお前で五〇万ずつ、もらってこようぜ」

羽交い締めはしたままに、けれどカッターナイフを下ろしてドクオが、ブーンの説得を始めました。
不気味なくらいにやわらかな声色で、まるで誰か、ドクオじゃない別人みたいに。

('A`)「いいよ。なんなら俺が、三〇でもいい。二五でもいい。お前が七五で、分けたきゃそいつらと分けたっていい。
 それだって充分だ。このクソみてぇな島から出ていくには、それで充分だよ。だから、ブーン」

すがるみたいに。

('A`)「金がいるんだよ。島の外に行く金、このクソみてぇなしたらばから離れるための金が」

泣き出してしまうみたいに。

('A`)「それで、島の外に行って、それで……」

崩れ落ちてしまうみたいに。

('A`)「親父に、まともな治療を受けさせてやるんだ。全部、元に、もどすんだ……そしたら――」

年相応、みたいに――。

( A )「そしたらさ、そしたら俺たちだって――」

57 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:31:40 ID:X1XrWvU60
いやだ。
ブーンが、言いました。屹然とした、ブーンらしからぬ声で。
短く、はっきりと、拒絶を、示しました。

( A )「……なあブーン。それってさ」

ドクオの、ふるえた声。

( A )「俺じゃなくて、この怪物を選ぶってことで、いいのかな――」

――ブーンは、答えませんでした。

( A )「……そうかよ」

あ、と、声が漏れました。カッターナイフを逆手に握ってドクオが、拳を高く掲げたのです。

(;A;)「そうかよぉ!!」

その後のことは、すべてが一瞬でした。ショボンは見ました。
カッターナイフを握りしめたドクオが、それをブーンに向けて振り下ろそうとしたのを。
それが、途中で止めらたのを。ドクオの腕に、ホマホマの触手が絡みついたのを。
それで、それで――ドクオの身体が、溶け始めたのを。

( A )「……あーあ」

ぐずぐずと溶けていく自分の身体を見下ろし、ドクオがさみしそうにわらいました。
わらって、そしてドクオは、こんなうふうに、こぼしたのです。


昔はよかったなあ――。

.

58 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:32:10 ID:X1XrWvU60
それで、おしまいでした。ドクオの姿はもう、どこにも見つかりません。
ドクオがいた場所には彼が来ていた衣服と、いつも巻いていた空色りぼんと、
ぐじゅぐじゅと粘性の高い液体が広がるばかりでした。

ショボンは、足元にまで滑ってきたドクオのカッターナイフを拾いました。
そしてそれを、見てしまいました。ちきちき伸ばされていたカッターナイフには、
物を切るための刃が付いていませんでした。

ξ; ⊿ )ξ「……なに。なんなの?」

ツンがつぶやきました。ショボンにも、わかりませんでした。
――いえ、わかりたく、ありませんでした。
目の前起こった出来事を理解したくないと、頭が現実を拒絶していました。

だって、これって、ドクオ、死――。

59 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:32:42 ID:X1XrWvU60
ξ; ⊿ )ξ「いやあ!」

ツンが悲鳴を上げます。見るとホマホマが、ツンに向かって触手を伸ばしていました。
その速度は緩慢で、避けることはむずかしそうには見えません。けれど半狂乱となったツンはよろけて、
転んで、前後不覚に陥っていました。そうして倒れたツンに、更に増えたホマホマの触手が伸びていきます。

ξ;⊿;)ξ「やだ、やだあ!!」

這いずった状態から転げるようにして、ツンが跳ね回ります。
そしてなんとか立ち上がったツンは勢いそのままに、裏山を駆け下りていってしまいました。
意味不明な言葉ともつかない叫びが、すさまじい速度で遠く小さく消えていきます。

(;´・ω・`)「ブーン!」

頭がおかしくなってしまいそうでした。
ブーンはホマホマに抱きついて、ホマホマもまた触手でブーンを抱きしめて、
ふたりがくっつきあっているその光景に、ショボンはおかしくなってしまいそうでした。

(;´・ω・`)「ブゥーン!!」

何の返事もありませんでした。ブーンはこちらを振り返りもしてくれませんでした。
動悸が激しく、何かを考えるなんて、もう、無理でした。ショボンにはもう、無理でした。
助けが必要でした。助けてくれる人が必要でした。自分以外の、どうにかしてくれる人が、ヒーローが、必要でした。

ブーンとホマホマに背を向けて、ショボンは山を駆け下ります。あの人なら、あの人ならなんとかしてくれる。
あの人の下へ行けばなんとかしてもらえる。まだ間に合う、まだ間に合うはず。まだこの島にいるはず。
まだ帰っていないはず。いれば聞いてくれるはず。ぼくの頼みを聞いてくれるはず。
そのはず、そのはず、あの人なら。あの人――シャキンおじさんなら。



(`^ω^´)「おおショボン、来てくれたのか! 見送ってくれないのかと思っておじさんさみしかったぞ、わははは!」

波止場で帰りの支度をしていたシャキンおじさん。
いつもの笑い声で迎えてくれたおじさんに、ショボンは叫びました。
焼けそうなのどを振り絞り、ただただ頭に浮かんだその言葉を叫びました。


ホマホマを助けて!


.

60 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:33:09 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

お腹空いているよね。何か持ってくるからね、待っててね。
二日ぶりに、ブーンはおうちに帰りました。

( ;∀;)「違うんだ、違うんだぼくは、ぼくはただぁ……」

おとうさんが、泣いていました。
おかあさんが、転がっていました。
転がったおかあさんからはだくだくだくと、赤い血が広がっています。

( ;∀;)「ぼくはおかしくない……おかしくないんだ……おかしくないんだよ!! あぁ、あぁぁ……」

おとうさんはあぁあぁうめいて、ブーンが帰ってきたことにも気付かないまま、
ふらふらと家の外へと大量の血が付着した格好のまま出ていってしまいました。
ふらふら、ふらふら、怒って、泣いて、島のどこかへ消えていきました。

ブーンは、理解してしまいました。

人は、怖いから怒るんだ。おとうさんも、みんなも、怖くて仕方ないから、怒ってたんだ。
怖いのなんてなんにもないって信じるものを――まっしろまくらを見つけられなかったんだ。
だからみんな、やさしくないんだ。やさしくなんか、なれないんだ。ああそうか。そっか。そうだったんだぁ――。

家の中は台風が通り過ぎたみたいにめちゃくちゃで、ごはんをおろか、
ブーンの部屋へいくこともむつかしそうでした。ブーンは困ってしまいました。
ホマホマはきっと、お腹を空かせてる。何か見つけて、持っていってあげないと。だってそう、約束したのだから。

辺りを見回し、けれどやっぱり何も見つからなくて、ブーンはふと、視線を足元へ下ろします。
おかあさん。だくだくだくだく血を広げて、もうぴくりとも動かなくなった、おかあさん。
その姿はまるで、生まれ変わる前のホマホマみたいです。それじゃあきっと、おかあさんは死んじゃったのでした。

61 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:33:45 ID:X1XrWvU60
そうだ、いいこと思いついた。

ブーンはのこぎりを探しました。
おとうさんが昔、日曜大工に使うんだといって揃えたものが、どこかにしまわれていたはずです。
でも、それもやっぱり見つかりません。のこぎりが見つからないと、困ります。だって、切断できません。
そのままじゃ重たくって、ブーンは持ち上げられないのです。

あ、と、ブーンは思いつきました。今日のブーンは冴えていました。
ぎざぎざに割れた、テーブルの破片。これならのこぎりの代わりになるんじゃないかしら。
ブーンはさっそく試します。おかあさんの腕にテーブルの破片を当てて、一気に引きます。
でろ。少し、中身がこぼれました。こうしていれば、切れるかな。ブーンは続けます。
でも、なんだかのこぎりよりも、うまくいっていない気がします。

ブーンはやり方を変えてみました。とがった部分を、突き刺してみるのです。これならどうでしょう。
えいや、ざくり。えいや、ざくり。さっきよりも、ずっといい感じです。

でも、なんだか今度は、固い所にぶつかってしまいました。骨です。
何度か試してみたものの、破片で骨はどうにかできそうにありません。それならたぶん、砕けばいいんだ。
とんかち、とんかち、とんかちの、代わりになるもの。これならどうかな。

もう何年も使わないまま置きっぱなしの、トースター。がちがち固いこの子なら、きっと骨にも負けないはず。
えいや、がこん。えいや、がこん。ぶちぶち、ごとり。うまくいきました。腕が、上手に、取れました。

後は、同じことの繰り返しです。テーブルの破片がダメになっても、代わりは他にいくらでもありました。
トースターがひしゃげても、鉄のお鍋が、ありました。えいや、えいや。ぶちぶち、ごとり。
えいや、えいや。ぶちぶち、ごとり。全部が全部、順調でした。おかしなことなど、ひとつもありませんでした。
そうしてブーンは、ホマホマごはんをすっかり用意、できました。

おかあさんはもう、おかあさんの姿をしていませんでした。
きっとそうして、次の姿へ生まれ変わるのです。

持てるぶんを袋に詰め込み、裏山を登ります。ホマホマのことを思って、登ります。
他にも考えなきゃいけないこと、考えたいことはいろいろあったような気もしますが、
それが何か、ブーンには結局わかりませんでした。わからないってことは、後回しでいいってこと。
いまは、ホマホマ。ホマホマに、ごはんを届けるんだ。待っててね、待っててね、ホマホマ。
ぼくの大好きな、ホマホマ。ぼくの、ホマホマ。ホマホマ――。

62 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:34:11 ID:X1XrWvU60



裏山の、小さな洞穴。そこに、ホマホマはいませんでした。
ホマホマがいるはずのその場所には、薄く発光した卵型の物体が、周りの木々を押し倒して鎮座していました。
ブーンはその物体に、ぴたりと添います。ブーンにはわかったのです。それは、ホマホマでした。
姿形は変わっても、間違いなくホマホマでした。生まれ変わろうとしているのです。
ホマホマはまた、生まれ変わろうとしているのです。ブーンにはそれが、わかりました。

ずぶずぶずぶと、ブーンの身体がホマホマのうちへと沈んでいきます。
ブーンは抵抗しませんでした。招かれるままに、ホマホマへと入っていきます。
それは、とても心地良くて、安らぎを覚える感覚。ブーンは理解しました。すべてを理解しました。
これが、やさしいってことなんだって。やさしい心地、やさしい音。やさしい匂いに、やさしい光――
ああ、やさしい世界は、ホマホマの中にあったんだ!


ホマホマ。これからずっと、一緒だよ。ずっと、ずぅっと、一緒だよ。
そうしてブーンは自分全部を、生まれ変わるホマホマへ委ねました。


.

63 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:34:46 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

正しい人になりなさい。他の誰も関係ない。
みんなが不正に手を染めても、きみは正しくありなさい。誰のためでもない。
おとうさんのためで、おかあさんのためでもない。きみのために、正しくありなさい。
正しさに反することは、後ろめたいこと。後ろめたさは、必ずきみの重荷になる。
きみの心を、苦しめる。だから、正しくありなさい。他ならぬきみのために、正しいきみで、ありなさい――。

おとうさまのお言葉。その本当の意味を、いまになってようやくツンは、理解しました。
心が、苦しい。あたし、間違えた。きっとあたし、ホマホマを傷つけた。
ホマホマはあたしを心配してくれていたんだ。ドクオの……ことだって、ブーンを守ろうとしただけだったんだ。
ホマホマのしてしまったことは、正しく、ないのかもしれない。
でもその気持ちは、友だち思いのその気持ちはきっと、間違ってない。間違ってなんか、ない。

それなのにあたし、あんなふうに拒絶して、逃げて、閉じこもって。こんなの絶対、正しくない。
あたし、間違っちゃった。おとうさま、あたし、間違っちゃった。

部屋に閉じこもってツンはもう、どうしていいのかわかりませんでした。正しくあること。
それがツンのすべてだったのです。それが正しくなくなって、間違ったものになってしまって、
その後どうしたらいいのか、ツンにはそれが、わからなかったのです。

64 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:35:16 ID:X1XrWvU60
「ツンちゃん」

おかあさま。扉のノックと共に、廊下からおかあさまの声が聞こえてきました。
ツンは腰を浮かせかけ、でも、やっぱり腰を下ろします。
どんな顔をしておかあさまを迎えればいいのか、わからなかったのです。

「ねえツンちゃん。そのままでいいから、聞いてくれる?」

日も落ち静けさを得たしたらば島の中では、
おかあさまのやわらかだけれど控えめな声も、よく聞こえます。

「ツンちゃん。おかあさんには何があったかわからないわ。
 でもツンちゃん、今日、何か間違えちゃったのよね。ツンちゃんがこんなふうになる理由なんて、他にないもの。
 きっと、苦しんでるのよね。ツンちゃん、きっと、とっても」

扉越しに、おかあさんは続けます。息を潜めて、ツンは耳を傾けます。

「だけどね、おかあさん思うの。
 今日、ツンちゃんが失敗したことは実はとても、いいことだったんじゃないかって」

いいこと? ずいぶんとおかしなことを、おかあさまは言い出します。
いいことなんかじゃ、ぜんぜんない。だってあたしは悪い子で、それだけが事実なんだから。
そう言い返しそうになりながら、けれどもツンは、やっぱり何も言わずに黙っていました。
これ以上、間違いたくはありませんでした。

「ツンちゃんはとてもいい子だから、いままでずっと、おとうさまの言うこと守ってきたのよね。
 それはとってもえらいことだって、おかあさん、思う。だけど、ツンちゃんがとってもいい子だからこそ、
 気づけないでいたことがあったの」

気づけないでいたこと?

「ツンちゃん。人はね、間違っちゃうものなのよ」

65 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:36:26 ID:X1XrWvU60
……とつぜん、額がむずがゆくなりました。

「おかあさんだってそう。おとうさまだって、そうなの。
 どんなに立派な人でも、いつも、どんな時でも正しい人でいるなんて、そんなことできはしないの。
 だって人は、神様じゃないもの」

野球バットで殴られた、その場所が。ホマホマに治してもらった、その場所が。

「だからね、ツンちゃん。大切なのは、正しいことじゃない。
 正しくなりたいと思う気持ちだって、おかあさんは思う」

むずむず、むずむずって、治まりませんでした。

「だってそれなら、間違っちゃってもやりなおせる……ね、ツンちゃん。そう思わない?」

ξ ⊿ )ξ「やりなおせる……」

やりなおせる……本当に? そう思うと、額のむずむずはいよいよ暴れだして、
なんだか身体ごと持っていかれてしまいそうなくらいです。おかあさま、本当?
あたし、やりなおせるの? 間違っちゃっても、正しくなりたいと思って、いいの? 

ξ ⊿ )ξ「……おかあさまにとっての正しさって、なに?」

「ツンちゃんが幸せでいられるように、見守ること」

その言葉を聞いた瞬間です。額がぱーんと、弾けました。
ツンの中にあったものが、外に向かって飛び出してきたのです。ツンは飛び出したそれに触れました。
仄かに発光した、うねうねと不思議な動きをする触手。見覚えのある、この形。
間違いありません。これは、ホマホマの――。

「ツンちゃん?」

ツンにはわかりました。いままでわからなかったことが、一気にわかりました。
ホマホマのこと、流れ星のこと、ブーンや、ショボンや、ドクオのこと。
それに――自分にとっての、正しいことも。ホマホマは、ツンの中にいました。
ツンは、ホマホマでした。思いも、気持ちも、だから全部、わかります。もう、怖くなんか、ありません。

謝りに、行こう。

「ツンちゃん、行っちゃうのね……?」

おかあさまが、言いました。どこかさみしそうな、その声で。
足の悪いおかあさま。どこへも行けず、あたしが行ったら一人でここで、待ち続けるしかないおかあさま。
やさしくて、おっとりしていて、大好きで――大好きで大好きな、おかあさま。

だいじょうぶ。

ξ* ワ )ξ「だいじょうぶよ、おかあさま。きっと、ぜんぶ――ぜんぶがぜんぶ、だいじょぶだから!」

66 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:37:08 ID:X1XrWvU60
ツンは窓から飛び出しました。驚くほどに軽い身体は、月夜の島を羽のように駆け抜けます。
誰かが悲鳴を上げました。悲鳴に木霊し人々が、家の中から顔を覗かせ次々次々、奇天烈怪奇な声を上げます。
おばけに妖怪、宇宙人。ツンを指差し好き勝手、排他の槌を振るいます。ああ、ああ、けれど、でもでもだけど!
そんなことでは止まりません。ツンはもうもう、止まりません!

だってこんなの、初めてです。こんな気持ちは、初めてなのです。
どこまででも行けてしまう。どこまででても走れてしまう。島から島へ、海から海へ、
どこへだって、どこまでだって、行けてしまう。そう、それはきっとあのお空の、その先の先の、その先にだって――。

世界がぐるりと、ひっくり返りました。
身体のあちこちがばたばたぶつかり、痛くはないけれど衝撃に前後や上下を見失います。
なに。そう思って伸ばした五指が、ツンの目の前で弾けました。身体を見下ろしました。
ツンは転んでいました。手の指と同じように、ひざから下がなくなっていました。

ばらら。耳慣れない音が、辺りに響き渡りました。その音がする度に、ツンの身体は削れていきます。
ばらら。肩が跳びます。ばらら。腰が抉れます。ばらら。顔が砕けます。ばらら。音が消えます。

それは、背後から訪れていました。ツンは振り返ります。
ずいぶんとへんてこなマスクをした人たちが、並んでツンを見下ろしていました。
その手には、学校で禁止しているのに男の子たちが好んで持ち歩いていた物体によく似た――
そうです、エアガンによく似たものを、両手で抱えていました。エアガンによく似たそれが、光りました。
ツンの身体がまた一部、弾け跳びました。

67 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:37:32 ID:X1XrWvU60
痛みはありませんでした。痛みもないし、怖くもありませんでした。ツンは気づいていたのです。
いまこの瞬間にも、あたしは生まれ変わってる。中にいるホマホマが、失った場所を元にもどしてくれていました。
額からだけだった触手も、全身から飛び出すようになっていました。
恐れる必要なんて、どこにもありませんでした。

あたしはホマホマで、ホマホマはあたし。
そこには、安心ばかりがありました。

しゅこーしゅこーと独特な呼吸音が、ツンの周りを囲みます。
ねえあなたたち。あなたたちは、どうしてこんなことするの。あなたたちはどこの、だれ子さんなの。
ツンは話をしようと思いました。この人たちはたぶん、勘違いしているだけ。ホマホマを知らないだけ。
ホマホマを知ればきっと、お話できる。誤解は解ける。そう思って、話をしようと試みました。
けれどそれは、適いませんでした。

掃除機のホースの、そのさきっぽの口みたいな場所から、家みたいに大きな炎が飛び出してきました。
ツンへと向けられたその炎は、容赦なくツンの身体を燃やしていきます。
皮膚が剥がれ、肉が焦げ、ホマホマがそれを元へ戻すより早く、ツンの身体は小さな、
小さな小さな炭の塊へと化していきました。もう、維持できませんでした。
それでもツンは、怖くなんかありません。

そして事切れるその直前、裏山見上げて燃え終えツンは、心穏やかに祈りました。
最後の最後のその最後まで、心穏やかに祈りました。


ブーン。後は、お願いよ――――。


.

68 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:38:07 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

島が、燃えていました。生まれ育ったしたらば島が、思い出深い生まれ故郷が、見渡す限りに燃えていました。
どうして。ショボンはつぶやきます。どうして。答えをもとめてつぶやきます。どうして。帰らぬ答えを求めます。
どうして、どうして、どうして――。

どうしてなのさ、シャキンおじさん。



(;´ ω `)「どうして!」

ショボンは叫びます。

(;´ ω `)「どうして止めてくれなかったの!」

友だちだったものの残骸を前に、ショボンは叫びます。

(;´ ω `)「どうしてツンを殺したの!」

もはやツンとわからないその炭を掻き寄せ、ショボンは叫びます。

(;´・ω・`)「おじさん!!」

大好きなおじさんに、叫びます。

でも、おじさんは。おじさんは、答えてはくれませんでした。
答えずに、これまでに一度だって見たことのない冷たい目で、ショボンを見下ろしました。
それは、ショボンの知っているおじさんではありませんでした。そして――次の瞬間、視界が奪われました。
何かを頭に被せられ、拘束されて、波音の聞こえる場所に閉じ込められました。

どうしてさ。どうしてツンが、あんな目に。ショボンはただ、友だちを守りたかっただけです。
誰よりも信頼できるおじさん。ぼくのヒーロー。おじさんならきっと、
ホマホマをどうすればいいか教えてくれるはず。なんとかしてくれるはず。
そう思って、ショボンはおじさんをホマホマの下へ案内しようと思って、本当に、それだけのつもりだったのです。

触手を生やしたツン。そのツンを、容赦なく銃で攻撃したガスマスクの人たち。
火炎放射器で、燃やし尽くした人たち。――おじさんの、命令に従った人たち。

ツン。ごめん、ツン。ぼくのせいだ。ぼくが、おじさんを信じたから。
約束を破って、おじさんに話してしまったから。きみがあんな目にあったのは、ぼくのせいだ。
ごめん、ツン。ごめん、ごめんなさい――。

69 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:38:38 ID:X1XrWvU60



泣いてばかり、いられませんでした。ブーン。それに、ホマホマ。
もしかしたらおじさんは、二人のこともツンとおなじようにするつもりかもしれません。
それだけは防がなければなりませんでした。だって二人は、ブーンは、それに、ホマホマも――友だち、なのだから。
頼れる人は、誰もいませんでした。あのおじさんが、裏切ったのです。
ドクオの仲間も、大人も、先生もおとうさんもおかあさんも、信用できません。だから、だから――。

ショボンを戒める拘束は、思いの外簡単に外れました。
閉じ込められていると思った部屋にも、鍵はかかっていません。外へ出ます。
ショボンは波止場の船にいました。船の上から、島を見ました。島は、燃えていました。
熱に煽られ、流れる涙が蒸発します。いつまでも留まってはいられませんでした、

燃える島を、ショボンは走ります。島で唯一の駄菓子屋。子どもだけで集った空き地。
毎日通った学校。それらが燃え崩れていくさまを横目に、ショボンは駆け続けました。
一目散に駆け続けました。裏山へ。ホマホマのいる、裏山へ。おじさんには、場所までは教えていません。
全力で走れば、きっとおじさんよりも早くに着けるはず。ううん、違う。おじさんより早く、着くんだ。
着かなきゃいけないんだ。それで――ぼくが、守るんだ。

ホマホマを、それにブーンを、守るんだ。ぼくが二人を、守るんだ!



(´・ω・`)「これって……」

ホマホマがいるはずのその場所。
前のホマホマを埋めたその洞穴のあった場所には、奇妙で大きい卵型の物体が、
仄かに明滅を繰り返していました。ショボンはそれに、おそるおそると触れてみます。
とくん、とくんと、脈動を感じました。暖かさを感じました。どうやらこれは、生きているものみたいでした。

(´・ω・`)「ブーン。きみも、そこにいるの……?」

自分でも不思議と思いながら、ショボンにはそう感じられました。ブーンはここにいる。この中にいる。
そして――これは、ホマホマだ。なにがなんだか理解がもう追いつかないけれど、とにかくこれは、ホマホマなんだ。
問題は、これをどうやって隠すか――。

(` ω ´)「信じていたよ、ショボン」

70 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:39:06 ID:X1XrWvU60
背筋が、凍りつきました。背中に投げかけられたのは、ショボンのよく知るその声。

(`・ω・´)「お前は友だちを見捨てるような子じゃないって、おじさんは信じてた」

(;´・ω・`)「……おじさん」

(`・ω・´)「ツンくんのことは偶然だった。まさかお前に案内してもらっている途中で、
     “感染者”に遭遇するとは。おかげでずいぶんと遠回りしてしまった」

瞬間的に、ショボンは思い至りました。自分の拘束が、いやに甘かったこと。
扉に施錠もせず、簡単に船から出られたこと。全部、仕組まれたことだったのです。
ホマホマの正確な位置を知らないおじさんがショボンに自ら案内させるための、その手段として。
ぼくは、尾行されていたんだ。ショボンはそれを、理解してしまいました。

おじさんはガスマスクを装着していました。
おじさんの周りにいる人たちも、同じようにガスマスクを装着していました。
ガスマスクを装着した彼らが、抱えた機関銃を背後の卵に――ホマホマに向けます。
ショボンは自分を盾として、ホマホマの前に立ちました。

守るんだ。ぼくが、守るんだ。

71 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:39:33 ID:X1XrWvU60
(`・ω・´)「……ショボン、以前話したね。異なる環境からやってきた外来種が、
     元々そこで暮らしていた在来種を絶滅させてしまった話を」

覚えはもちろんありました。でも、ショボンは答えません。
いつかのブーンみたいに両手を広げ、背中のホマホマを守ります。

(`・ω・´)「彼らも同じなんだ。彼らもまた、この地球の外から来た外来種。星の海を泳ぎ渡る、一粒の流れ星なんだよ」

流れ星。夏休みが始まったその日、祈りを捧げたあの光。なんだかもう、遠い昔のことのように思えます。

(`・ω・´)「彼らが地球へ訪れたのは今回が初めてではなくてね。
     以前はアフリカの小国で、その時は周辺諸国諸共焼き尽くさない限りどうしようもない事態にまで発展してしまった。
     おじさんはそうした悲劇が二度と起きることのないよう、世界中を飛び回っているんだ」

空振りばかりで、タダ飯ぐらいだなんて揶揄されてきたがね。
いつもの様子とは打って変わって、どこか陰のある様子でおじさんがわらいます。
それを見て、ショボンの胸がずきんと痛みました。

(`・ω・´)「お前が彼を――そのホマホマを大事に思っていることは、その態度を見れば判るよ。
     だがねショボン、残念なことだが――」

ガスマスクの群れが、じりっと包囲を狭めます。

(`・ω・´)「人類にはまだ、ホマホマと暮らす準備が整っていないんだ」

じりじりと、じりじりと包囲は狭まります。手を伸ばせばもう、届きそうな位置にまで。
もう、どうしようもないのかもしれない。弱気の心が顔を覗かせます。逃げたい気持ちが、背中を突きます。
でも、でも――逃げない。逃げてばかりのぼくだけど、今日だけは、いまだけは、逃げない。

72 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:40:05 ID:X1XrWvU60
(´ ω `)「……感染者って、いったよね」

絶対に。

(´・ω・`)「ぼくもツンと同じくらい、長い間ホマホマと一緒にいたんだよ。だから、ぼくもおんなじだ。
 きっと、“感染”してる。おじさん、わかるよね。ぼくも、ツンも、ホマホマも、もう、おんなじなんだ。
 だからもしも、もしもほんとにホマホマを殺したいっていうのなら――」

逃げない。

(#´・ω・`)「ぼくのことだって、おんなじように殺してみせろ!」

(` ω ´)「ショボン――」

ガスマスク越しに、おじさんの顔が見えました。あっ、と、ショボンは声を漏らします。
だってその顔は、物心ついた時から憧れ続けたおじさんの、豪快なわらいが聞こえてきそうなあの顔で――。

(`・ω・´)「お前の言うとおりだ」


ああ、おじさん。おじさんあのね。
ぼく、おじさんみたいになりたかったんだ――――。


.

73 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:40:41 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

「隊長。爆破の準備、整いました」

(` ω ´)「……ああ」

部下の言葉に返事をし、シャキンは額に穴の空いた甥っ子の頭を撫でました。
臆病で、泣き虫で、けれどほんとは勇敢な、たった一人の私の甥っ子。自分を慕い、憧れの視線を投げかけ、
帰ると言えば悲しんで、会うと言えばぴょんぴょこ飛び跳ね喜んでくれた男の子。かわいいかわいい、俺のショボン。

だれが好き好んで、撃つことなどできましょう。それでも撃たねばなりませんでした。
妨害しようというのなら、感染疑いがあるのなら、誰であろうと区別なく、適切に処理しなければなりません。
そこに私心は、挟みません。

もはや二度と目を覚ますことのない甥っ子に向かい、シャキンはつぶやきます。
判ってくれとは言わないよ。けれどお前が友だちを守ろうとしたように、おじさんも人類を守りたいんだ。
だから――おじさんは最後まで、ショボンの尊敬してくれたおじさんで居続けるからな。

「隊長、そろそろ」

(`・ω・´)「……わかっている」

促され、シャキンは爆薬の起爆を指示します。目標は当然、“ホマホマ”。
宇宙から飛来した、厄災の星。これ一つを駆除するために、少なくない犠牲を支払わされました。
したらば島はもう、人の住む島としては機能しないでしょう。

大勢の建物が、そして人が、自分たちの放った火炎によって焼却されていきました。
それは間違いなく痛ましい、虐殺と呼んで差し支えのない唾棄すべき行いです。
それでも、まだこれで済んでよかった。以前の規模を考えれば、十分に被害を抑えられたと言うことができました。
現場が絶海の孤島であったことも、運がよかったといえました。

そう、運が良かった。
そう思わなければ、とてもでないがやりきれないと、シャキンは思いました。
けれど同時に、こうも考えてしまいます。

もしも、もしもショボンがこの生き物を、見つけたその時に教えてくれていたならば。
そうでなくともせめて、せめて異常に気づいたその時にでも教えてくれていたならば。
そうすれば結果はもっと、違っていたかも知れない――。

……いや、よそう。もしもをいくら考えようと、喪われたものはもどってこない。
人は、生命は、悲しいほどに不可逆なものなのだから。
今はただ、これを食い止められたという事実だけを受け止めよう。
そうだ、これを破壊することで悪夢にも一先ずの終止符を打つことができるのだ。だから――見届けよう。

74 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:41:08 ID:X1XrWvU60
そして――設置された爆薬がホマホマの卵を吹き飛ばしました。
それはこの地球上から、跡形もなく消え去ります。

……終わった。ガスマスクの内側で、深く息を吐き出します。部下の間にも、弛緩した空気が漂いました。
彼らにとっても、気の進む任務ではなかったでしょう。存分に労ってやらねばならない。
この島から離れたら、たっぷりと――。

「待ってください……これは、そんな!」

部下の一人が、何かに驚いていました。どうした。周りが声をかけます。
驚いた様子の部下は、“ホマホマ”のあった場所をしきりに指差し、叫びました。

「こいつ、中になにも――」

とつぜん、地面が大きく揺れました。立っていることすら困難な、大きな地震。
なんだいったい、こんな時に。姿勢を低くして、シャキンは地震が治まるのを待ちます。
しかし地震は治まることなく、どころか一層激しさを増し、そして――“それ”が、飛び出しました。

「隊長!!」

何かが――巨大すぎて全貌を把握できない何かが、地面を突き破って飛び出しました。
大地が裂け、何人かの部下が呑み込まれ落下します。ショボンの遺体が落下します。
シャキンは思わず手を伸ばし、けれどその手は届きませんでした。
ショボンの遺体は暗い暗い、見通すことも適わぬ地の底へと真っ逆さまに落ちていってしまいました。

なにが、いったい何が起こっているんだ。
とにかく被害を抑えるため、シャキンは部下に呼びかけようと辺りを見回し――
そこで、見てしまいました。島中を埋め尽くすように暴れまわる、無数の触手の塊を。

バカな……まさか、すでにここまで。

75 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:41:34 ID:X1XrWvU60
「……隊長」

部下の一人が、静かに呼びかけてきました。シャキンが振り向きます。
その部下は破れたマスクを自ら外し、隠されたその表を晒します。
部下の顔からは、大小様々な触手が伸びかけていました。

「隊長。自分はこれまでのようです」

懐から取り出した拳銃を口に咥え、引き金を引きます。部下は倒れ、触手の成長も止まります。
その間も地面からは極大のそれ――“ホマホマ”の触手が地を割りその数を更に増やし、
呑まれ、跳ねられ、突き飛ばされ、次々と部下が犠牲になっていきます。
行き場を失った部下が、シャキンの側に寄って叫びます。隊長、隊長、隊長。

決断の時が、迫っていました。この“ホマホマ”は、もはや通常兵器で太刀打ちできる相手ではありません。
そしてこのまま放置すれば、その被害規模はどこまで膨れ上がることか。
いまここで、決定的な手を打たねばなりませんでした。
決定的な手を、シャキンはその手に有していました。しかし、それを行うということは――。

部下の一人が、背中をぶつけてきました。

「隊長、覚悟はできてます」

別の部下が、銃で触手を牽制します。

「人類の礎になれるんです。本望ですよ」

生き残った部下が、触手の群れと戦っています。誰一人、唯の一人も逃げ出さず。
自らを犠牲とすることも厭わずに。彼らはまだ、諦めてはいませんでした。人類の、その存続を。

そうです、シャキンは既に、決意していたのです。
ショボンを殺したこの手で、何が何でも人類を守ると。そう決意していたはずです。
その為ならば、何を犠牲にしても構わないと。

76 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:42:03 ID:X1XrWvU60
(`・ω・´)「……核の発射を要請する」

部下のすべてが、了解の意を示しました。
シャキンは携帯型送信デバイスを取り出し、キーの解除に取り掛かります。
網膜認証――OK。音声認証――OK。指紋認証――OK。
残すはパスコードの入力。一六桁の、不作為に決定されたランダムな文字列。当然頭に入っています。

躊躇うことなくシャキンは次々、該当する文字や数字を入力していきました。
三桁目、四桁目、五桁目――八桁目、九桁目、一〇桁目。
完了は目前――という、その時です。


シャキンの右肩から先が、吹き飛びました。


(* ∀ )「そうだ、そうだよ、簡単なことだったんだ!」

“ホマホマ”の仕業ではありませんでした。明らかにそれは、銃撃による負傷。
この場にいる何者かが、シャキンを撃ったのです。
そしてその銃撃は更に、シャキンの胸部と腹部とを貫通しました。

(* ∀ )「味方が欲しいなら、味方になればよかったんだ。簡単なことだ、簡単なことじゃないか!
 ねえ、そうだよね、そうだと言って、ねえ――」

犯人は、すぐに見つかりました。
黒く乾いた血痕を衣服に付着させ、涙とよだれとを垂れ流しにしてわらう男。見覚えのある、その顔。
工場事故の一件を境に、したらば島民に気狂いの烙印を押された二人のうちの一人――。


(* ;∀;)「ブゥゥゥーン!!」


ブーンの、おとうさん。

77 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:42:27 ID:X1XrWvU60
男は、叫び声を上げると同時に事切れました。
シャキンの部下が撃ち返し、急所に当たって即死したのです。
彼がなぜこのような愚行に出たのか、本当に狂ってしまっていたのか――
その答えを暴く機会は、永遠に失われました。
しかしそれを嘆いている余裕など、いまのシャキンにあるはずもなく。

経験的に、理解できました。自分の生命はもはや、もって一〇分程度だと。
そのこと自体に、惜しい気持ちはありません。いずれにせよ、ここで果てるつもりだったのですから。
ですがその前に、死ぬ前に、成すべきことを成さねばなりません。入力途中のパスコード。
その入力を完遂し、人類の英知をこの島へと叩き込まなければなりません。

「隊長!」

吹き飛んだ腕に握られたデバイスを、部下が運んできてくれました。
幸いなことに、デバイスは無傷のままです。これならば、何の問題もありません。
残り、六桁。かすむ視界に朦朧としつつ、シャキンは残った左手で入力を続けます。

途中、右腕とデバイスを固定してくれていた部下が触手にやられました。
シャキンは這いずり、右腕をくわえ、引き寄せます。そして、そして――
入力を終え、押しました。要請の完了を告げる、送信のボタンを。

もはやもう、シャキンにできることはありません。後はただ、待つしかありませんでした。
気づけば周りには生者はおらず、辺りには部下やシャキンを撃った男の死骸が転がっています。
痛ましい光景でした。けれどシャキンに、後悔はありませんでした。
勇敢に戦い散った部下のみなを、何よりの誇りに思いました。誇りを胸に、その場に転がりました。

仰向けの身体が、勝手に動きました。内側から何かが暴れているのがわかります。
それは出口を探し求め、そしてついに、その場所を見つけ出しました。
欠損した右肩の断面から、淡い光を発する触手が飛び出しました。感染です。
傷口から感染ったのか――そうではないと、シャキンは気づきます。

周囲の死体が立ち上がっていました。そのどれもが、シャキンのそれと同じ触手を生やしています。
そしてその中には、完全防備のままに操られている者も数名見当たりました。

そうか。もはや、マスクも用を為さないということか――。

78 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:42:55 ID:X1XrWvU60
シャキンはマスクを剥ぎ取ります。そして解き放たれたその空間で、生の空気を吸い込みます。
不思議なことにそれは、普段のしたらば島のそれより清らかで、澄み渡っているように感じられました。
もしかしたらそれは彼の――“ホマホマ”の存在によるのかもしれない。シャキンはそのように思います。

人類の存続を脅かす、宇宙より訪れた悪魔。
ですがシャキンは、それ自体を憎んでいるわけではありませんでした。
神秘的で、数多の謎に満ちた生命体。もしも共存が可能であるならば、
これほど知的好奇心を刺激される存在など他にはありません。

もう間もなく、核はこのしたらば島を消し去ることでしょう。それは即ち、“ホマホマ”の消滅も意味します。
それを惜しいと思う気持ちがどこかに、そして確かにシャキンにはありました。
もし彼らと友好的な関係を築けるならば、それはどんなに素晴らしいことか。
けれど、どうしようもないのです。ショボンにも言った通り、人類にはまだ、その準備が整っていないのだから――。

大地が一際大きくゆれました。まるで“ホマホマ”が、自身の最後を予見したかのように。
すまない。だが、諦めてくれ。届くことは期待せずに、シャキンはつぶやきました。
大地がまた、大きくゆれました。そのゆれは留まることを知らず、
更に大きく、更に大きく、更に大きくなっていきます。

それはもはや、いままでの事態を超える異常事態でした。何かが起こる。
もはや身じろぎもできなくなったシャキンにもそれは直感的に感じ取れました。
だが、いったい何を。シャキンが困惑する間も振動は巨大化し、山を揺らし、島を揺らし、そして、そして――。

「……ああ」



“それ”が、空へと、舞い上がりました。



かすれた視界のうちにもシャキンはそれを捉えました。
はっきりとそれを、捉えました。そして思ったのです。
それを見上げてシャキンは、そう、思ったのです。


美しい――――。


それが、シャキンの最後の感情でした。シャキンの意識は途切れます。
“それ”が飛び立った直後、“それ”と交錯するように飛来してきたミサイルが、
目標を逸したしたらば島を直撃したことによって――。


.

79 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:43:25 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

空、空、お空!
星と海のその間、どこまでだっていける場所。どこへだってつながる場所!
遮るもののないお空を舞って、ブーンは興奮し通しでした。

ホマホマの目で、ホマホマの翼で、ホマホマの触手で、ブーンはお空を感じます。
ホマホマとひとつになってお空の風に、ブーンはびゅうっと乗っかります。
ああ、なんて心地。なんて幸せ。これが空を飛ぶってこと。これが自由ってこと。
どこへでも、どこまででも行っていいってこと――!

だけど、ちょっぴり不安もありました。
だってここにはブーン<ホマホマ>だけで、ホマホマ<ブーン>だけで、他には誰もいないのです。
ブーン一人で、どこまでいけるものかしら。ずっと一人で、飛べるのかしら。
それは心細くもなるというものです。

でも、そんな心配なんて、ぜんぜんいらないことでした。

ξ ー )ξ『バカね、あんた一人に任せるわけないでしょ』

(´ ω `)『そうだよブーン。ぼくたちみんなでホマホマを見る……でしょ?』

光の粒が、人の形を描きます。ブーンもよく知るその二人。
夏休みの間中、仲良くホマホマを見てきた友だち。間違いようがありません。
ショボンにツン。二人はここに、生きていました。生まれ変わって二人もここに、ちゃんと一緒にいてくれました。
絶対に離れないこの場所で、絶対に離れないよと一緒にいてくれました。
怖いものなんてもうなにも、どんなとこにもありはしません。

(´・ω・`)『ねえ、どこまで行こうか?」

ξ゚ー゚)ξ『決まってるじゃない。ね、ブーン?』

ブーンの隣で、二人が楽しげにわらいます。ブーンもわらいます。
だってだって、うれしくって楽しくって仕方がないんだもの。どこへ行こう、どこまで行こう。
それはもちろん、決まっていました。
ブーン<ホマホマ>はホマホマ<ブーン>の触手の翼を、大きくお空に広げました。


翼の側で、何かが爆発しました。


(´・ω・`)『戦闘機だ!』

ショボンが指差し、叫びます。そこには鋭角的なフォルムの戦闘機が、二つ並んで飛んでいました。
戦闘機が、ばららばららと、機銃でホマホマ<ブーン>を撃ってきます。
更には底面に備えたミサイルを、ばしゅうと勢いよく発射してきました。
ミサイルは物凄いスピードで、一直線にホマホマ<ブーン>へと向かってきます。

80 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:43:50 ID:X1XrWvU60
( A )『あんなもん、びびることないぜ』

ショボンともツンとも異なる声が、ブーン<ホマホマ>のすぐ側から聞こえてきました。
それと同時にホマホマ<ブーン>から、光る粒が大量に吹き出します。
吹き出した光る粒は雪のようにゆっくりと、ゆっくりと下降していきます。
そのゆっくりとした動きの粒が、直線的に進むミサイルへとぺたぺた付着していきました。
するとどうでしょう。あんなにもすさまじい速度で飛んでいたミサイルが、勢い失い落下していったのです。

二機の戦闘機も同様でした。
戦闘機もミサイルと同じようにぺたぺた光の粒に全身包まれ、海の上へと落ちていきました。
それでもう、おしまいでした。ブーン<ホマホマ>たちを遮るものは、どこにもありませんでした。

('A`)『まったくよ。危なっかしくて見てられねえぜ』

さっきとおんなじその声が、またまたブーン<ホマホマ>を呼びました。
間違いありません。そこにいるのは――ドクオ。ホマホマに溶かされてしまったはずの、あのドクオです。
ドクオがいました。ドクオがいました。その事実にブーン<ホマホマ>はほんとにうれしくって、
ホマホマ<ブーン>の巨大な身体を操り、空中をぐるぐるとぐるぐると飛び回ります。
そんなブーン<ホマホマ>にドクオが『へっ』と、そっぽを向きます。

('A`)『お前らだけじゃどうにも心配だ。仕方ねえから、俺も付いてってやるよ』

明後日向いてドクオは一人、そんなことを言っています。
だけれどドクオのそんな言葉に、くすくすくすっとツンがわらって、意地悪っぽく言いました。

ξ゚ー゚)ξ『あらあらどうしてそんなこと。頼んでなんかいないけど?』

(´・ω・`)『こんなになってもドクオはまだまだ、天の邪鬼のままなんだから』

('A`)『あ? んだと』

(´・ω・`)『ふふ、怖くなんかないよ。ぼくらはだって、ホマホマなんだから』

ξ゚ー゚)ξ『そうよドクオ、あたしたちはもうホマホマ。でもそれだからこそ、正しくなろうとがんばるの』

(´・ω・`)『きちんとはっきり言葉にしてさ』

ξ゚ー゚)ξ『あんたの気持ちを、伝えなさいな』

81 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:44:18 ID:X1XrWvU60
二人に散々やり込められて、ドクオはもう、言い返せません。
言い返せるはずがなかったのです。だってドクオの本心は、言葉とぜんぜん違うのですから。
ドクオはぺたりと、ブーン<ホマホマ>に触れます。

('A`)『あ、あのさ、ブーン。その……』

つっかえつっかえ、ドクオは言います。

( A )『俺たちそのさ、またさ、そのさ、昔、みたいにさ、なれる……かな』

とくとくとくとく、鼓動伝えて。

( A )『ねえ。ぶ、ぶ、ぶ……ぶんちゃん』

空色りぼんを、風になびかせ。

('A`)『俺ともっかい、友だちになってください』



うん、どっくん!



ホマホマ<ブーン>が、もう待ちきれないって鳴きました。
水平線の向こうから、目の眩む明日がまあるい頭を覗かせました。
夜明けです。日の昇るこの世界を、みんなはびゅうんと飛びました。
みんなで一緒に飛びました。世界中に光の粒を、ホマホマの光を届けるために。
まっしろまくらが地上のみんなを、ふんわりやさしく包んでいきます。

怖いのなんて、ありません。怒ったりなんかも、ありません。
みんなみんな、生まれ変わっていくのです。みんなみんな、やさしく生まれ変わるのです。
そうです、だってホマホマ<ブーン・ショボン・ツン・ドクオ>は――――。


.

82 ◆wQhshzUdxA:2021/10/17(日) 00:44:45 ID:X1XrWvU60
               ミ☆

きらりぼくらは流れ星!
きらめく尻尾に流るる光。陽を背に駆けるその瞬きを、見上げて人は思います。
大きな光。きれいな流星。ちょっぴり不気味で、とっても不思議。
それは多くの地上の人が、誰からともなく祈ります。
神秘的なその輝きに、神様みたいな光の筋に、思い思いに願います。
とても私的で、とても大事な、数え切れない唯一無二の願いごと。

勇気を秘めた男の子は、みんなと一緒に祈ります。
どうかどうか、生き物にやさしいぼくでいられますように。

本当の正しさを知った女の子は、みんなと一緒に祈ります。
どうかどうか、間違いにやさしいあたしでいられますように。

素直さを取り戻した男の子は、みんなと一緒に祈ります。
どうかどうか、友だちにやさしい俺でいられますように。

どうか、どうか。どうか、どうか。

もちろんブーンも祈ります。
愛する小鳥とお空を飛んで、みんなと一緒に祈ります。
どうかどうか、ショボンの祈りが届きますように。
どうかどうか、ツンの祈りが届きますように。
どうかどうか、どっくんの祈りが届きますように。

欲張りブーンはみっつも祈って、だけど足りないことに気づきます。
一番大事な願いごと。なにより忘れちゃいけないそのこと。
特別なおまじないを唱えてブーンは、お空の光に祈ります。

ほまいに ほまいに まるたすにむす
ほまいに ほまいに まるたすにむす

どうかどうか、お星さま――やさしい世界に、なりますように!




                                 おわり

83名無しさん:2021/10/17(日) 01:10:52 ID:VmsdYuQk0
可愛くって可哀想でたまらんわ…
リボンが似合うどっくんいいですね

84名無しさん:2021/10/17(日) 01:41:58 ID:8yxwVjAk0
乙ん
ほまほまヤバすぎる

85名無しさん:2021/10/17(日) 10:31:52 ID:vATsiuZk0


86名無しさん:2021/10/17(日) 13:32:41 ID:L/PV0Mfo0

救済系の鬱だぁ…

87名無しさん:2021/10/20(水) 22:49:21 ID:V.7Zoac60
怖すぎるのになんて爽やかな読後感…

88名無しさん:2021/10/22(金) 05:07:43 ID:3haaSHac0
乙!ハッピーエンドだな!

89名無しさん:2021/10/25(月) 13:07:57 ID:ulhJpx860

こんなにふんわりとした可愛らしい世界観でしっかりしんどいってすごい

90名無しさん:2021/10/25(月) 22:25:24 ID:P1Ze43q20
おつ
すごいものを見た……

91名無しさん:2021/10/26(火) 09:45:54 ID:8KABbvNY0
「人類にはまだ、ホマホマと暮らす準備が整っていないんだ」の言葉でシャキンの優しさが伝わった
映画観た後みたいな満足感ある話だった…乙

92名無しさん:2021/10/27(水) 14:42:57 ID:5cHKu2i20
最終的にどこに感情を着地させたらいいのかが分からない…すごい話だった…

93名無しさん:2021/10/28(木) 15:49:30 ID:AX8SBd2Q0
いやあ、ハッピーエンドでしたねぇ

94名無しさん:2021/11/06(土) 12:27:45 ID:b4Vm4FwM0
大きくなっても毛布を抱きしめているホマホマが可愛すぎる

95名無しさん:2021/11/14(日) 19:39:05 ID:ESn8sOXo0
ドクオとブーンの友情がよかった。
夏の子供映画のようなお話をありがとう、映画化したらぜひ見たい

('A`)
https://downloadx.getuploader.com/g/3%7Cboonnews/207/ほまいに.jpg


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