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《よばい》のようです

1作者 ◆tC5OCB/ucI:2021/10/16(土) 00:12:02 ID:RGmrMqgE0
とあるスレッドをブーン系小説として再構成したものになります
本作品は特定の文化などに対する差別的な描写が存在しますが、元スレ>>1の表現を尊重し、そのままとさせて頂きます
ならびに実在の人物・団体・職種および地方を毀損する意図がないことを記します

元スレ
フリーターになって一年経つが話を聞いてくれないか
tps://jbbs.4taraba.net/bbs/read.cgi/internet/zatudan/37564

ミラーサイト
(準備中)

関連リンク
・ <<<<<</x0o0x_
 tps://youtu.be/afGvb_MZbXM
・ てんしょう しょうてんしょう/きくお
 tps://youtu.be/WhRBeW8IOgs

47デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:44:52 ID:RGmrMqgE0
川 ゚ 々゚)『でもある時、厄介な物の怪がいてね。
     相討ちに近い形で、やっとこさ封印したらしいよ』

困惑を押し留める俺にも気付かず、素直は滔々と続ける。

川 ゚ 々゚)『それっきり、拝み屋は辞めたんだ』

濡れた手で、彼女は目を掻いた。

川 々 )『事を成そうとしても、物の怪が邪魔をする』

それは、涙跡のようにも見えた。

( "ゞ)『あ、あの』

川 々 )『だから、葬式を見張らなきゃいけないんだ』

強迫的な響きだった。

川 々 )『物の怪が、死者を――』

(;"ゞ)『ご、ごめん素直さん!』

大声で遮ると、ハッと彼女の顔が上がる。

(;"ゞ)『ちょっと、お手洗いを借りてもいいかな……?』

おそるおそる切り出すと、素直は軽く頷く。
そして能楽のような動作で、振り向いた。

川 々 )『トイレならこっちが近いですよ』

開けられた襖の先は、外にも劣らない暗さがある。
降雨の音も相まって、滝を備えた洞窟のように思えた。

48デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:45:18 ID:RGmrMqgE0
( "ゞ)『あ、ありがとう――』

川 々 )『まっすぐ行って、突き当たりの角を左に。
     そしたら庭に面したそばに、ありますから』

(;"ゞ)『――ございます』

素直の横を通り過ぎ、襖を超えた時だった。
ふわ、と、煙が顔を掠めた気がした。
まるで右手の廊下から、葬式を行なっているかのように。

( "ゞ)(……やめよう)

連想すれば、自分を恐怖に追い込むような真似になる。
ましてや廊下の先は暗く、どこを向いてもあてがないような状況だ。
スマホの画面を灯明に、俺は廊下へと向かった。
とはいえ、本当に用が足したかったわけではない。
適当なところで立ち止まり、ようやく俺は一息ついた。

( "ゞ)(参観日のあたりから、おかしなことが多すぎる)

当時はその違和を、言語化できなかった。
しかしこれを書いている今ならば、多少言い表すことができる。
どう考えても全てがおかしくなったのは、
素直くるうを家に送り届けた、あの夜からだった。

( "ゞ)(……そろそろ戻るか)

スマホ曰く、離席してから五分が経っていた。
眺めていた辞書機能を閉じ、俺は来た道を戻ろうとした。

( "ゞ)(…………どっちから来たっけ)

もとより暗すぎる廊下だ。
なんとなくで角を曲がってしまったのが災いし、
自分がどこにいるのか、皆目分からなくなってしまった。
おまけに雨の音は信じられないほどうるさく、心細さが増す。

49デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:46:06 ID:RGmrMqgE0
(;"ゞ)(クラピカ理論で行くか)

壁伝いに、右へ右へと進む。
途中で障子を触ってしまい、穴を空けかけたのは内緒だ。
まさか生徒の家を壊したなんて知れたら、教師の名折れである。
だからこそ慎重に、ゆっくりと進んでいた時だった。

( "ゞ)『わっ……!?』

足に引っ掛かりを覚え、つんのめってしまった。
そして倒れた先にも、硬い木製の段が続いていた。
スマホで照らしてみると、跳ね上げ式の梯子だった。

( "ゞ)『二階……?』

したたかに打ったすねを撫でながら、天井を照らす。
その先には、ぽっかりと穴が空いている。
ふと叔母さんの息子――ドクオを、思い出してしまった。

( "ゞ)(やだなぁ……)

叔母さんのマシンガントークや、ドクオの暴力性、
それに対する旦那さんの暴言など、嫌な記憶が渦を巻く。

(  ゝ )(嫌だなぁ、不愉快だなぁ。
    本当は叔母さんたちのこと、そんなに好きじゃないのに、
    いい顔してしょうもない話を聞いて、余計なストレスを溜めて)

恨みつらみが、つむじ風の如く巻き起こる。
そればっかりが叔母さんのすべてではないはずなのに。
堪えていた不満が、足を動かす。
――梯子へ、と。

50デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:46:57 ID:RGmrMqgE0
(;"ゞ)『ヤバい、ヤバい』

うわ言を呟き、うっすらと踏みとどまりたい気持ちが湧く。
けれども胸の内で封じていた不満が、俺を突き動かす。

(;"ゞ)『き、《きつね》が――』

怖い、と言い終わるか否か。
二階に、辿り着いてしまった。

(;"ゞ)(どうしよう、どうしよう)

勝手に二階へ来てしまった。
さすがの素直くるうも、帰りが遅いことに気付くだろう。
迷っただけならまだ救いはあるが、これは立派な不法侵入だ。
しかも最悪なことに、豪雨はピークを迎えているらしい。
屋根一枚を隔てた外で、叩きつけるような音が響いていた。

(;"ゞ)『あぁ、いやだ。いやだ』

口に出しながら、俺は前へと進む。
――信じられないことだが、一階に戻ろうとは考えなかった。
ただ直進することでしか、解決できないと強く思い込んでいた。
頭がおかしいと思うだろ?
今の俺も、そう思ってる。

( "ゞ)(でも、一階よりは灯りがあるな……)

まばらではあるが、豆電球がぼんやりとした光を放っている。
しかもかなり先に、一際明るい光があった。
それに安堵し、歩調を速めた時だった。
ざんばらに重ねられた板を、踏んだ。
気のせいではなく、確実に。

( "ゞ)(卒塔婆が捨てられてる)

直感して、次の瞬間うわぁっと声が出た。
どうして、確信めいてしまったのだろうか。

51デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:47:22 ID:RGmrMqgE0
(;"ゞ)(下は見ない。絶対に)

足元を見たら、答え合わせをしてしまう気がした。
だから足の裏から、玉砂利の冷たさだとか、御影石の破片だとか、
泥濘が足底をべったり捕らえ、執着を受けたとか、
腐り果てた柄杓が、めっきりと折れる音がしたとか、
寂れたお寺の墓場を連想しても、気づかないそぶりで歩き続けた。
やみくもに、ただひたすらに歩いて、歩いて、歩いて――。
どれほど経ったのか。
スマホを見る余裕もなく、俺は歩き続けた。
結果、渇望していた強い光の下にいた。
月光色の灯に照らされていたのは、老木のような肌をした人だった。
ともすれば、即身仏のようななりをしていた。

川  ゥ )『くるうかぇ』

一点の闇を見つめるそれは、くるうの名を呼んだ。
ギョッとしながらも、俺はどうにか返答する。

( "ゞ)『す、すみません。違います』

少し考えを巡らせ、老婆は答えた。

川  ゥ )『お客さま、でしたか』

ほう、ほう、と、梟が鳴くように、老婆が頷く。

川  ゥ )『来客だというのに、お構いもできず、申し訳ない。
      もうすっかりと手足がなくなって、久しゅうて。
      起き上がることすら儘ならず、死を待つだけの身で』

思わず俺は、老婆に掛けられている布団を見る。
カビ臭い布団は、不自然に凹んでいた。

( "ゞ)(四肢があれば、あったらば……)

その先の言葉を、言い表すことができなかった。

52デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:48:22 ID:RGmrMqgE0
川  ゥ )『この家に生まれ、覚悟はしていたが辛いもので。
      娘は勿論、孫も、その孫にも、不幸に遭わせる他もなく』

( "ゞ)(まさかこれが、ひい婆さん――ヒールさんなのか?)

伝聞にあったかくしゃくとした雰囲気と、ずいぶんかけ離れている姿だ。

( "ゞ)(でももし、そうだとしたら)

幼児を締め出す、情のない相手なら、わざわざ話をする必要もない。
そっと後ろに足を進め、元来た道を帰ろうとした時だった。

川  ゥ )『階段ならば、その先に』

もったりと動く首が示すは、左。
――俺の来た方角とは、まるっきりの逆。

(  ゝ )(しかも、階段だって……?)

じゃあ、さっきの梯子は、と考え、気付く。
ヒール婆さんが寝たきりなのは、見ての通りだ。
三度食事を運ぶのなら、毎日介助をするのならば。
――梯子なんか、不便で使うはずがない。

53デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:49:15 ID:RGmrMqgE0
ヒュッと喉が鳴った俺に、ヒールさんの首がこちらを向く。

川  ゥ )『外はもう、とっぷりと暮れている頃合いでしょう。
      先だって家中を、《きつね》が走り回っていましたもの。
      ……まぁ、正確には《きつね》でもないのですが。
      我々の先祖がデウブクを試みて、名をつけただけ。
      霊力を備え、あわよくば金銭欲など抱かなければ、
      逆にこちらが縛られることもなかったというのに、ねぇ?』

その、『ねぇ』という響きに、俺は耐えられなかった。
だってその声は、叔母さんがくだらない迷信を口にし、
互いの信頼と自らの地位を確認する時のものと、まったく同一で。
こんな目に遭っても現実を受け入れられず、
なのに起きてることは真実だから、
まぎれもなく受け入れなくてはならないのに、
やっぱり信じられないから、
第三者からの承認に真偽を委ね、
なにもおかしなことは起きてなんかいないと認めてくれた責を、
押し付けるために、『ねぇ』と、言ったのだ。

( "ゞ)(こわい)

ひらがなでくっきり三文字、頭の中にそう浮かんだ。
俺はなにも答えず、老婆のいる布団を横切った。
それを咎める様子もなく、変に安堵しながら俺は歩みを進める。

( "ゞ)(あぁ、)

まもなく見つけた階下からは、灯りが漏れている。
内心、乾いた笑いが出る。

( "ゞ)(人家なのに、外と同じ暗さのわけがないよなぁ)

覗く見る限り、蛍光灯が煌々と廊下を照らしている。
いよいよ俺は、おかしい状況にある。
だが、どうやって抜け出せばいいのだろう。
信用できるものが、なに一つとしてないのだ。

54デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:49:50 ID:RGmrMqgE0
( "ゞ)(出口のように見えても、実は地獄の入り口なのでは?)

しかし俺は、もう疲れていた。
次から次へと起こる、不合理な光景に。
綿の靴下越しに、踏みしめた墓の幻影に。
《きつね》と呼ばれる、魑魅魍魎のたぐいに。
馬鹿げた迷信だと、一笑に付した事実に。
未だ夢を見ているような、自身の剣呑さに。
ドヤ顔を撒き散らす、叔母の幻視に。
あわれにも巻き込まれた、渡辺夫妻の末路に。
執拗に刺し殺された少女と、臓物を散らしたタビーに。
朗々と名を呼ばわれ、招かれた魂に。
割られたであろう子供茶碗と、切り刻まれた猫の首輪に。
素直くるうに纏わる、悪感情の詳細に。
次に彼女と会った時、よそ行きの顔を作ることに。
けっきょくは他人と変わらず、くるうに恐怖を覚える自分に。
己の直感と、霊感のなさに。

( "ゞ)(だから先のこともわからないんだ)

脳死した俺は、虚無のままに足を進める。
一段、一段、また一段。
階を下るたび、木が軋む。
二階から見れば、沼に呑まれるように俺の頭が消えていることだろう。
それでも一階は、驚くほどに平凡で、拍子抜けさえしてしまう。
ごく普通の廊下だ。
涙がにじむくらい、ホッとする光景だった。

55デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:50:38 ID:RGmrMqgE0
なればこそ、俺は階段を踏み外しそうになった。
――突然に、獣臭がしたからだ。
息を止めてもむせ返るほどに、強烈な生臭さ。
カビ臭さにも似た、ペトリコール混じりの異臭。
タビーの亡骸を連想するが、その比にもならない。
生皮を剥がれた、巨大な生き物の死臭だ。
《それ》は、俺の背後にいる。
不可視の体を伸ばし、二階から逃れる俺に追いすがろうとしている。
えづきあげながら、俺は膝に力を入れる。
震えをどうにか押さえつけ、一気に階下まで降り立った。
その、最後の一段から、足を上げた時。
――老木が軋み裂かれるような悲鳴が、反響した。

(; ゝ )(あ、…………)

あの婆さん、《きつね》に食われてる……。
長生きしても最後には、《きつね》に食われるんだ。
少しずつ、少しずつ。
四肢の先から、砂岩を削る川よりも遅く。
生きた心地が、まるきりしなかった。
床板の木目を見つめることで、なんとか正気を保つ。
とにかく、前を進むことだけを念頭におく。

(  ゝ )(早く終わりますように)

何に対し、懇願したのか。もはやわからない。
灯りが照らす木目が、立ち昇るように光る。
次第にそれが、まばたきのように思えて、いやになる。
ふと、顔を上げた。

( "ゞ)(座敷――)

襖に、血がべったり飛び散っている。
ザクザクと、何かを切る音がする。

56デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:51:21 ID:RGmrMqgE0
もう、そこで帰ってしまえばよかったのに。
俺は、馬鹿だった。

(  ゝ )(《きつね》が……)

何かしていたら、生徒に、そうしたら。
混濁した単語が、危機感を呆けさせる。
――俺は、襖を開けてしまった。

(; ゝ )(どうにもできるわけがないのに)

己が手は、襖から距離を取る。
唖然と手を見つめて、それから現実を受け入れた。

四方の襖は、すべて赤い。
赤黒い血が、価値観の違いすぎる絵を描いている。
ちゃぶ台はひっくり返り、泥ごと饅頭が踏み潰されていた。
コップは粉々に散らばり、その途上で見知った制服が倒れている。
こと切れた素直くるうを、男が刺している。
雨滴と血が滲み合うレインコートが、ふわふわとこちらを向く。

('A`)『――テメェ、どこから来た』

脂ぎった前髪から、ドブに沈んだカミソリのような目が覗く。
答えられない俺に、血濡れの手が近づく。

('A`)『見たよな。殺したのを』

何も言い返すことはできない。
襖を開けた時点で、俺は有罪なのだ。
超常的な現象が、害をなすわけがない。
怖いのは、いつだって人のはずだった。

57デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:51:50 ID:RGmrMqgE0
('A`)『はぁ〜〜あ』

しびれを切らした男が、くるうから離れる。
立ち上がって、こちらにやってくる。
手には包丁を持って。
穴の開いた、切った野菜が張りつかない包丁だ。

('A`)『お前さぁ、デルタだろ。関ヶ原デルタ』

(; ゝ )『なっ、なんっ、なんっで……!!』

('A`)『いつも見てたからな。二階から』

(; ゝ )『ま、さか』

('∀`)『そう。深独の、出来が悪い息子。
   初めましてだなぁ、デルタくぅん』

へららと軽率に笑い、ドクオは距離を詰めてくる。
腰が抜けている俺は、必死になって床を這う。

('∀`)『イイね。ゴキブリみたいで似合ってる』

皮肉を言った後、彼は吹き出した。

('∀`)『俺って冗談が言えたんだなぁ。
   食卓じゃあ、息がつまって何もできなかったのに』

(; ゝ )『ぐぅゔあぁっ……!』

後ろ背に、湿った足跡がつく。
ピンで標本を固定するかのように、ドクオが俺を踏む。

58デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:52:14 ID:RGmrMqgE0
(; ゝ )『離しっ、て、離してくださ、い……!』

('∀`)『冥土の土産に、教えたろうか』

懇願を踏みにじりながら、ドクオは続ける。

('∀`)『ババァから聞いたろ、ガキ二人を殺した事件。
   アレ、俺なんだわ。犯人。俺がやったんよ。
   ずっと人を殺してみたかったんだけど、
   近所の藪に《よばい》のガキが入ったからさ。
   中学の道具箱から彫刻刀握りしめて、
   雨樋から降りて、後を追ってさぁ。
   何回も刺して、刺して、刺しまくって。
   どうせ《よばい》に、人権なんかないんだ。
   クズみたいな田舎にカスの煮こごった人間関係、
   ドブカス親父の説教に、お喋りババァの過干渉。
   こんなクソみてぇ生活なんか、壊れちまえばいいんだ』

その語り口は、どことなく叔母さんに似ていて。

(;"ゞ)(ああ、どうしようもなく親子なんだ)

ひよった脳が、ぼんやりと想起していた。

('A`)「お前があの家に生まれればよかったのになぁ」

ポツと漏らし、ドクオが俺の背を殴る。

('A`)「お前なら、犬猫も殺さないだろうに」

(;"ゞ)「ま、さか」

('A`)「予習復習は基本だからねぇー」

形骸化した学心を振りかざし、ドクオは執拗に俺を殴る。
あの晩に聞いた、鈍い床音のように。

59デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:52:39 ID:RGmrMqgE0
(;"ゞ)『こんな、ことが――』

('A`)『あーわかってるわかってる。
   こんなことが許されていいものか、だろ。
   さすが先生。偉ぶり上手で、キショいんだわ』

ドス、と荷重が増す。
息がつまって、木目の埃を飛ばす勢いで咳きこんだ。
いよいよドクオは、馬乗りになる。

( A )『でもさぁ、不思議なんだよ』

包丁をスーツにあてがい、何度も何度も筋が通る。
弄ばれているだけで、実際に傷はついていない。
余計に、怖かった。

( A )『二人とも殺したはずなんだ。
   なのに《よばい》のガキは、生きてやがるんだ』

脂まみれの包丁が、いよいよ俺の皮膚をなぞる。
雨音が、有り余る雑音が、真っ白な思考を支配する。

('A`)『確実に殺したはずなのに、生きてやがるんだ――』

かすかに震えた声で、ドクオがさらに続けようとした時だった。

60デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:53:15 ID:RGmrMqgE0
『ィ"イ"イ"彳"ィ"彳"ィィイ』

ドクオの背後から、音がする。
同時に、ポタポタという音も混ざる。
高所から、とろみのついた液が滴るような――。

(; A )『ッ!』

ドクオが振り向く拍子に、バランスを崩した。
それを押しのけて、俺はなんとか体を起こす。
だが、しかし。

(  ゝ )『えっ』

素直くるうが、体を起こしている。
下肢は突っ張り、スカートはあられもなくはだけていた。
ひっくり返ったスカートは、腹から胸まで覆い尽くしている。
いわばブリッジのような状態で、素直くるうの死体が固定されていた。
だらんと脱力した両腕は、故障寸前の洗濯機の如く振動し続ける。
そこで、ようやく気付く。
限界を超えて逸らした体を、かろうじてつま先が地を掴み、立っている。

(。タ。川『イィ"イ彳イ"ィイ』

素直くるうに似せた音が、空間をビリビリと震わせる。
時折混ざる雑音は、まるで遠吠えのようだった。

(。タ。川『ィんぉお"ィムンんぅゔ』

人声を真似た、獣の咆哮がとどろく。
腕が、動く。

61デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:53:39 ID:RGmrMqgE0
(。タ。川『ぅぉオ"才"ォ』

幼い拳から、指が伸びる。
ゆっくり、こちらを指して。

(。タ。川『卜"ッドォ"才ク"くくく』

変わっていく。

(。タ。川『し"ンソんド"クククク』

変わっていく。

(。タ。川『卜"く、クオォ』

音声が、明瞭に。

(。タ。川『しんどく、どくお』

糸で吊られたような腕の、焦点が合う。

(。タ。川『しんどくどくお。しんどくどくお』

素直くるうは、《よばう》。

(。タ。川『深独ドクオ』

ドクオを、指し示して。

(。タ。川『深独ドクオ』

(;'A`)『な、なっん、で』

ありえない様に、ドクオが床を探る。
なのに、包丁はない。

62デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:54:02 ID:RGmrMqgE0
(。タ。川『深独ドクオ』

(;'A`)『ごぷっ……?』

ドクオの口から、赤が散る。
胸には、深々と刺さった包丁。

(。タ。川『深独ドクオ』

(; A )『ゃめっ、』

レインコートの内部で、血が爆ぜる。
ドクオが、仰向けに倒れた。

(。タ。川『深独ドクオ』

(; A )『ォガッッ』

その体からは、幾筋も血の道が走っている。
もう絶対に助かりようがないくらい、多かった。

(。タ。川『深独ドクオ』

《よばい》は、続く。
名を呼ばれる度に、崩折れたドクオが跳ねあがる。
それに引きかえ、素直くるうは地に足をつけていく。
死体から獣へ。獣から少女へ。
素直くるうは、回生する。

63デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:54:29 ID:RGmrMqgE0
川 ゚ 々゚)『…………』

( A )『――――』

(  ゝ )『…………』

怯えだけが、ひしひしと相手に伝わるだけの時間だった。
雨の音だけが、変わらず響く。
互いになにも言えず、言う気にもならなかった。

川 ゚ 々゚)『………………あ、』

不意に出た一言に、俺の肩は揺れた。
だが彼女の目的は、俺ではなかった。

川 ゚ 々゚)『うーん……』

ドクオの死体に近付き、何かを物色している。
意図が分からず、俺は固まっていた。
もうどうやったら逃げられるのか、まったくわからなかった。

川 ゚ 々゚)『これでいっか』

取り出したのは、煙草のケースだった。
気がつけば、彼女の手にはハサミが握られている。
シャッ、と勢いよく刃が開く。
同時に、黒褐色の塵が舞う。
乾いた血がこすれ落ちたものだった。
ハサミが、煙草ケースに喰らいつく。

川 ゚ 々゚)『深独ドクオ』

( ;ゝ )『ヒッ…………』

その異様さに、俺は意識を手放した。

64デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:54:58 ID:RGmrMqgE0
――気がつくと、俺はバスの車内にいた。
最低限の私物をまとめた、ボストンバッグを持って。

( "ゞ)(今、何時だ……?)

服をまさぐり、スマホを見つける。
幸か不幸か、充電はとうに切れている。
万が一にも画面がついたら、学校から着信が残っているかもしれない。
それに応じる気には、とうていなれなかった。
車窓では、昇ったばかりの太陽が輝いている。
どうやら朝一の便で、町外を出ようとしている。

( "ゞ)(よかった……)

しかし現実から目をそらしていることに、変わりはない。
スラックスの裾には、泥はねがこびりついている。
雨上がりの田舎道を、命からがら走った形跡が――。

65デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:56:07 ID:RGmrMqgE0
( "ゞ)「――――っていうことが、あったんだよ」

ようやく語り終えた俺に、読書サークルの面々はしょっぱい顔をする。
その目の前では、グツグツと湯豆腐が踊っていた。

(;・∀ ・)「いや、話が重すぎる」
 _、_
( ,_ノ` )「オメーふざけんなよ。冬場でションベン近いのに」

(-@∀@)「渋沢さんは年のせいでしょ」
 _、_
( ,_ノ` )「なんだと酒カス五留」

(-@∀@)「角瓶で〆るぞヤニカス」

( ゚∋゚)「はいはい喧嘩両成敗ハンムラビ法典。
     それ以上騒いだらオマエら出禁だからな」

シンと場が静まり返ったところで、俺は言う。

( "ゞ)「お前ら、変わらなすぎて安心するわ」

( ゚∋゚)「……しかしまぁ、災難だったな」

(;・∀ ・)「その、ドクオさんって人は……」

( "ゞ)「叔母さんから喪中ハガキが実家に届いてたよ。
    家族葬はとっくにやったから香典も要らないって」

(;・∀ ・)「もみ消されてるじゃん!」

( "ゞ)「うん。だから実家とも自然に縁が切れた感じ」

( ゚∋゚)「言っちゃ悪いが、叔母さんは距離感おかしそうだしな」

( "ゞ)「俺もそう思う」

66デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:56:32 ID:RGmrMqgE0
(;・∀ ・)「ちゃんと勤め先も辞められたんですよね……?」

( "ゞ)「解雇通知書だけ、なぜか今の家に届いたわ」

(-@∀@)「実家じゃないんだ」

頷くと、声にならないざわめきが起こる。
 _、_
( ,_ノ` )「まともじゃないな」

(・∀ ・)「そういうの、洒落怖以外で初めて聞きました」

( ゚∋゚)「しかも首都圏から日帰りで行ける地域」

(-@∀@)「時系列が半年前っていうのも、ポイント高い」

( "ゞ)「何のポイントよ」

(-@∀@)「鮮度の?」

( ゚∋゚)「築地かよ」

(-@∀@)「ブッブー、正解は沼津港でした」

(・∀ ・)「この流れでやるノリじゃないっすね」

軽蔑の眼を向ける後輩に、年上すぎる先輩は満面の笑みを向ける。

(-@∀@)「それはともかく、労働は悪だね」

( "ゞ)「それはマジでそう」
 _、_
( ,_ノ` )「お前も日雇いにならないか、煉獄さん」

(-@∀@)「微妙にセリフ違くてイライラするなそれ」

(・∀ ・)「それめっちゃわかる」

67デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:57:10 ID:RGmrMqgE0
( "ゞ)「日雇いは嫌だな……。安定した雇用につきたいです」

( ゚∋゚)「なら僕は税理士になる!」

(・∀ ・)「じゃあ僕は警察官!」

(-@∀@)「オーハラ!オーハラ!」

( "ゞ)「本気になったらオーハラ!」
 _、_
( ,_ノ` )「なんそれ」

(・∀ ・)「あ、渋沢さんテレビ見ないんでしたっけ」

(-@∀@)「資格と縁遠そうだしなぁ」

( ゚∋゚)「それさすがに言われたくないやろお前には」

( "ゞ)「五留VS無職VSダークライ」

(・∀ ・)「ダークライが可哀想」
 _、_
( ,_ノ` )「つーか、ヒッキー遅くねぇか?」

ヒッキーとは、飲みで早々に潰れた男である。
さっきまで盛大にゲーゲー吐いている音は聞こえていた。
しかし気付けば、それも途絶えて久しい。
そろそろ様子見に行くか、と互いに見合わせていた時だった。
やおらトイレの扉が開いて、奴は戻ってきた。
再び六人揃ったところで、俺らは鍋をつつき始める。

(-@∀@)「そいにしても、やな話だねぇ」

( "ゞ)「お、そこ掘り返すんだ」

やや胸の奥が痛みつつ、酒で押し流す。

68デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:57:37 ID:RGmrMqgE0
(-@∀@)「いやぁ、今だから言うんだけどぉ」

酒を一杯引っ掛け、アサピーは言う。

(-@∀@)「お前が引っ越したAA町。あれ、本当に流刑地だったんだ」

(;"ゞ)「……へ?」

( ゚∋゚)「山なのに島流し……」

(・∀ ・)「先輩、そういう雰囲気じゃないっす」

(-@∀@)「図書館から地図借りて調べたんだぞ。
      したらあの辺、山を拓くのに徒刑囚使ってた」
 _、_
( ,_ノ` )「つーことは、江戸中期以降かな」

( "ゞ)「熊本藩での再導入をきっかけに
    全国的にも見られるようになったんですよね、たしか」
 _、_
( ,_ノ` )「パーフェクトな回答だ」

( ゚∋゚)「もともと曰くつきの土地、か」

(-@∀@)「罪人は穢れ信仰の代名詞だからな」

(・∀ ・)「そういえば、俺もちょっと変だと思ったことがあるんですよ」

律儀に箸を置きながら、後輩の斎藤が口を開く。

(・∀ ・)「デルタ先輩、二階で墓地のスタンド攻撃受けてたじゃないですか」

( "ゞ)「ああうん……。スタンドなのかな、あれ」

(・∀ ・)「墓場にきつねって、変じゃないですか?
     なんか、普通だったら火車とか魍魎じゃないかなって」

69デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:58:08 ID:RGmrMqgE0
(-@∀@)「あぁ、それはたしかに。
      特に火車なら、しっくり来ちゃうね」
 _、_
( ,_ノ` )「火車は、罪深き者の死体を持ち去るという説もある。
     ちなみに茅窓漫録では、魍魎にカシャの読みを振っているぞ」

( "ゞ)「でも火車は、年増の猫又が成るものでしょう?」

(・∀ ・)「そう、墓場といえば猫。死体といえば猫なんですよ」

( ゚∋゚)「なのに、《きつね》ねぇ」

(・∀ ・)「死体が生き返る描写とか、猫又の真骨頂って感じもするし」

そう言われると、たしかにおかしな気もする。
しかし知恵を出し合ったところで、後味の悪さは今さら拭えない。
晴れぬ顔色に、クックルが言いそえる。

( ゚∋゚)「狐は化かして人をからかうものだからなぁ。
     素直邸で起きたことは、全部夢だったのかもしれんぞ」

そうかも、と返しかけた時だった。
 _、_
( ,_ノ` )y「それだよ」

渋沢さんが、十五本目の煙草に火をつけた。
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「俺ぁ、魂呼ばいの儀に引っかかってたんだ」

数珠じみたブレスレットをいじりつつ、彼は続ける。
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「AA町の儀式は、死者との別れを告げるもの。
       ――理屈はわかる。だが、強いてやることか?
       茶碗割りの儀式自体は、そうそう珍しいもんじゃあない」

(-@∀@)「つまり、理由付けが弱いと言いたいんですね」
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「まぁ、邪智に過ぎないんだがね。
       実のところ、魂呼ばいの対象は遺族かもしれん」

怪訝そうな顔をする面々に、渋沢さんはぐるりと見回した。

70デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 00:58:34 ID:RGmrMqgE0
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「AA町の《きつね》とやらは、
        死者に化けていたのではないか、と」

( "ゞ)「それは――」

とっさに言葉が突き出て、閉口する。
俺の脳裏には、パッと浮かんでしまった。
昨日おとといに亡くなった者が、トントンと戸板を叩く。
何度か家人の名を呼び、どうか開けてくれないかと懇願する様が。
根負けして開けたが最後、その時は。

( "ゞ)(その時は)

ふと、素直くるうと深独ドクオが浮かぶ。
相手を愚弄しただけで、あの《きつね》は満足するだろうか?
早鐘を打つ心臓に、喉の奥が強く締め付けられる。

( ゚∋゚)「それ聞いて思ったんだけど」

サークル長こと、クックルが控えめに挙手する。

( ゚∋゚)「地名がなぁ、変だと思ったんだよ」

(・∀ ・)「そーっすか?」

能天気な斎藤の口調に、いささか俺は救われる。

71デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:06:47 ID:RGmrMqgE0
だがそれも、一瞬の安寧だった。

( ゚∋゚)「茂々田にしろ、千々観にしろ。
     わざわざ同じ字を繰り返す傾向があるんすよね」

(-@∀@)「言われてみれば、ほかの地名もそうだったな」

地図を当たったアサピーなら、ピンと来るものがあったのだろう。
その隣では、さっそく斎藤がマップアプリで検索していた。

(・∀ ・)「木々越(こごえ)、素々原(そそのはら)、山笹々(やまさざ)……」

( ゚∋゚)「ほら、やっぱり」

各々は納得する。
しかし俺は、干潮のごとく血の気が失せた。

(; ゝ )(全然、気付かなかった)

こんなにも単純な法則性を、見落とすことがあるだろうか?
仮にも国語教師を名乗っていた身だ。
特徴的な名付けに、ひとつくらいは印象を抱いてもおかしくないはずなのに。

(; ゝ )(きもちわるい)

だが、連想は止まらない。

(-@∀@)「一声呼び、だな」

(・∀ ・)「なんすか、それ」

(-@∀@)「山中の妖怪は、同じ言葉を繰り返すことができない。
      山に入る者はそれを警戒し、二度呼ばれるまで応じないんだ」

( ゚∋゚)「そういやツイッターでも話題になったな。
    子熊の咆哮が、なぜかおっさんの声に似てんだわ」

(・∀ ・)「つまり、応じたらヤバイってことですよね」
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「少なくとも、例の《きつね》はタチが悪かろうな」

(; ゝ )「もし応じたら、どうなるんでしょうか……?」

(-@∀@)「さぁ、皆目わからないね」

追い酒し、ぐるぐると回った目でアサピーは言う。

72デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:08:07 ID:RGmrMqgE0

(-@∀@)「でも《きつね》は、何度もドクオの名前呼んでるわけで。
      もはや護身術として、機能してないようにも思えるんだよね」

(・∀ ・)「意味がなくてもやめられないくらい怖かった、のかなぁ」

( ゚∋゚)「だからこそ素直家が流浪の拝み屋だった証左になるのでは?
    当時のAA町では、解決できなかったから依頼したのかもしれん」

(; ゝ )「それは、人死にとか……」
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「もちろんあるだろうな」

渋沢さんの一言に、誰ともなく唾を飲み込んだ。

(-@∀@)「そんなヤバい奴をデウブク――つまりは、調伏を試みたわけで」

( ゚∋゚)「まあ、たしかに金の入りは良さそうだよな。
     聞いてる分には、葬儀屋にお金を包む風習も残ってそうだし」
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「あるあるだなぁ。
    俺の実家も、婆さん死んだ時にやってたわ」

(・∀ ・)「へぇー。残ってるもんですね」

(-@∀@)「憑き物筋としては、成立してるんだよなぁ」

( ゚∋゚)「だが全く羨ましくない」
 _、_
( ,_ノ` )y━・~「金だけがすべてじゃないから」

(-@∀@)「だが財力こそ至高」

ひとしきり茶番を演じたところで、クックルが意味深に頷く。

( ゚∋゚)「でも、あながち間違いでもないかもなぁ。
     金さえあれば、結婚相手もどうにかできるし」

(・∀ ・)「まさか、素直家の旦那って……」
 _、_
( ,_ノ` )「まぁ、そういうことだろうな」

73デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:09:32 ID:RGmrMqgE0
(;・∀ ・)「――てか、デルタ先輩、顔色ヤバくないですか?」

斎藤の一言に、皆が俺を見る。
一種、白けたような空気が走った。

( ゚∋゚)「よし、やめよう」

お茶割りの缶を開けながら、クックルはそう言った。

(-@∀@)「悪かったわ。遠縁とはいえ、親戚亡くなってるしな」
 _、_
( ,_ノ` )「怪談好きが昂じるのも、考えもんだったわ」

煙草をもみ消しながら、渋沢さんは深く目を閉じる。
なんだか申し訳ない気持ちになって、俺は首を振った。

(;"ゞ)「大丈夫ですよ。話したら、少し楽になりましたし」

その時、カセットコンロの火が消えた。
グツグツに煮えた湯豆腐も、今や心もとない水量だった。

74デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:09:56 ID:RGmrMqgE0
( ゚∋゚)「空焚き防止の装置だなぁ」

(・∀ ・)「無理ですね、シメのうどん」
 _、_
( ,_ノ` )「俺、もうお腹いっぱい」

(-@∀@)「中年に差しかかった人は、やぁね」
 _、_
( ,_ノ` )「三年後のオマエだぞ」

(-@∀@)「もう一人のボク……!?」

( "ゞ)「水、足せばよくないです?」

(-@∀@)「…………」

(・∀ ・)「欲しがってる」

( "ゞ)「遊戯王デュエルマスターズとは言いませんよ」

( ゚∋゚)「つーか火つかねぇわ」
 _、_
( ,_ノ` )「昭和式メンテナンス!」

(-@∀@)「わぁ、蛮族」

( ゚∋゚)「新品なんでやめてください」

喧騒が戻り、俺はホッとする。
怪談に一生を捧げるような人間は、ここにいない。
所詮それらも、花見の団子に過ぎないのだ。

( "ゞ)(忘れよう)

シメのうどん作りに、加わろうとした時だった。

75デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:10:36 ID:RGmrMqgE0
爪'ー`)y‐「《よばい》のひい婆さんは、調伏に失敗したと言いましたね」

やおら、そんな一言が聞こえた。
彼の手には、渋沢さんの煙草が握られている。
 _、_
( ,_ノ` )「おい、その話は――」

爪'ー`)y‐「調伏は失敗したのに、《よばい》の家は存続している」

(;"ゞ)(それは、たしかに)

特に管狐信仰では、その傾向がある。
憑き物を制御できなくなった家は、滅んでしまうのだ。

( ゚∋゚)「おまえ――」

言いかけるクックルに、彼は目をそばめた。

爪'ー`)y‐「多分、憎悪なんですよ」

それは、明日の天気について教えるような口調だった。

(;-@∀@)「……家系を助けてるのに?」

爪'ー`)y‐「渋柿の長持ち、呪うに死なずという言葉を知らないのかい?」

嘲りを含んだ言葉に、一同は言葉を失う。
ただ一人、俺だけが。

(;"ゞ)「憎まれっ子、世にはばかる……」

言葉の意味を解き明かしてしまった。
ギョッとして、斎藤たち四人がこちらを見る。
まるで、《よばい》の家を見る目付きで。

76デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:11:02 ID:RGmrMqgE0
(  ゝ )(なぜ、国語教師なんかになってしまったのだろう)

分からなければ、皆と同じ立場でいられたはずなのに。
俺は、分かってしまった。
AA町の畏怖を通じ、《きつね》は素直家を呪っている。
人の道を外れた者は、いずれ物の怪へ転ずる。

(  ゝ )(その時を迎えるまで、壊して、治して、壊して――)

爪'ー`)y‐「そして君も、《よばい》の娘を恐れている」

破顔を見せる彼に、俺は射抜かれる。

爪'ー`)y‐「さぁ、抄し給えよ。《よばい》の物語を」

途端、ガチャリと音が響いた。
彼の後方、誰もいるはずのないトイレの扉が開く。

(;-_-)「ごめん、服貸してくんない?  汚しちゃったんだよね」

(; ∀  )「えっ」

俺と斎藤、クックル。
渋沢さんとアサピー、そしてヒッキー。
席は六つ、ふさがっている。
ふさがっている、はずだった。
なんで気づかなかったんだろうか。

爪'ー`)y‐

(  ゝ )(こいつ誰だ)

渋沢さんとアサピーに挟まれ、くつろいでいる彼は何なのか。
疑問符が伝播し、俺たちは部屋を飛び出した。
靴を履いている暇はない。
外は真冬で、霧のような雨が降っている。
アパートから少し離れた自販機まで、夢中で走った。
人工的な灯りを目にし、俺たちは蛾のように集った。

77デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:12:03 ID:RGmrMqgE0
(;-@∀@)「ヤバい、ヒッキー置いてきた」

見回すと、たしかに影が一人少ない。
 _、_
(;,_ノ` )「いや、実害あるのはちょっと……」

渋沢さんの言うことも、もっともだった。

( ゚∋゚)「…………俺、行くわ」

毅然と振る舞うが、クックルの顔はかなり青い。
けっきょくクックルは、斎藤とともにアパートへ戻っていった。

(;"ゞ)「何だったんでしょうね……」

言いたくもないが、これ以上黙って正気を保つのも難しかった。

(;-@∀@)y━・~「…………まぁ、順当にいけば《きつね》だろうね」

珍しく煙草を吸いながら、アサピーが答える。

(-@∀@)y━・~「伝承上の狐ってさぁ、いい加減な姿が多いんだよね。
         野干は犬の姿で描かれてるのに、日本だと狐の異名だし。
         管狐やオサキは、イタチやネズミに似てるって言うしさ……」

 _、_
( ,_ノ` )「狐という用語自体が正体不明の意を含む……」

(  ゝ )「あぁ……」

酔い覚めた脳が、ひとつ場面を思い出す。
その正体を、ヒール婆さんは言っていたではないか。

川  ゥ )『……まぁ、正確には《きつね》でもないのですが。
      我々の先祖がデウブクを試みて、名をつけただけ。』

( "ゞ)(そうか)

諦念にも似た理解を帯びて、俺はうなだれるしかなかった。

78デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:15:22 ID:RGmrMqgE0
――補足すると、ヒッキーは無事だった。
《きつね》も部屋におらず、ゲロまみれの彼が困っているだけだった。
ヒッキーには、《きつね》が見えていなかった。
だから汚れた自分を見て、おののいて逃げたと思っていたらしい。
しかしいざ部屋に戻ったら、吸いさしの煙草が残ってたんだ。
集団ヒステリーで片付けられない、物的証拠だった。

(;・∀ ・)「ガチでお祓い行きましょうよ」

斎藤の提案に乗っかって、三日後にはそろって神社と寺でお祓いを受けた。
しかし神主にしろ、住職にしろ、こう言うのだ。

「特別、そういう気配はしませんけどね」、と。

けっきょく、《きつね》を祓えたのかどうかはわからないままだ。
サークルの連中とはそれっきり、縁が切れてしまった。
あんなことになった以上、話した側としては気まずいものがある。
たまに連絡をもらっても、返信をする気力も湧かなくなった。

79デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:17:21 ID:RGmrMqgE0
――俺の現状だが、以降は変わりなく過ごしている。
拍子抜けしてしまうほどに、普通の生活だ。
とはいえ、相変わらず実家とも距離は置いてる。
友人を作ることもなくなった。
深く関わりを持ったら、またなにか巻き込んでしまうような気がして。
現代じゃなければ、抱え落ちしてとっくに死んでたんじゃないかとも思う。
掲示板にしろ、医者にしろ、文明さまさまだ。

――そう、心療内科に通ってるんだ。
やっぱり怖くて、町の詳細については相談してないけど。
たまたま合う薬も見つかって、不安感や罪悪感も多少和らいできてる。
保険制度で薬が安くなったのも、だいぶ助かってる。
今はコンビニの深夜バイトで働いて、なんとか糊口をしのいでいる。
夜中に一人でいるのも、怖いけどな。
でも深夜に見回る警備会社よりは、まだ少しだけマシだ。
とりあえず俺の話は、これでおしまい。
レスしてくれたおまえら、ありがとうな。
やっぱり一人で抱えるには、重すぎる話だから。

80 ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:17:40 ID:l/darrtE0
>>79
本当におしまい?

81デルタ ◆hZ0OGaGcZ2:2021/10/16(土) 01:18:26 ID:RGmrMqgE0
えっっ?

82 ◆tC5OCB/ucI:2021/10/16(土) 01:20:23 ID:RGmrMqgE0
投下は以上となります

83名無しさん:2021/10/16(土) 01:36:38 ID:jtFgYKx.0
正統派ジャパニーズホラーいいよいいよー

84名無しさん:2021/10/16(土) 05:36:23 ID:VVwGs43E0
めっちゃよかったわ
読まされる文だった

85名無しさん:2021/10/16(土) 10:02:50 ID:YFKmlsKA0
乙乙

86名無しさん:2021/10/16(土) 13:46:17 ID:2hv8MoIg0
おつおつ
すごく読みやすかった
このタイプの話大好き

87名無しさん:2021/10/19(火) 02:22:12 ID:e3Vq8ZTE0

怖い話のまとめを布団の中でコソコソ読んでた思い出が蘇ったわ

88名無しさん:2021/10/19(火) 23:17:40 ID:aGUiUsm.0
めっちゃ面白かった
じわじわ謎に迫ってく感じいいね、乙

89名無しさん:2021/10/22(金) 17:50:50 ID:4SZmKe3Y0

ミラーサイトを早く見てみたい(+・∀・)ワクテカ

90作者からのおしらせ ◆tC5OCB/ucI:2021/10/23(土) 19:03:19 ID:5MsUrAJw0
本作のミラーサイトをBBH様に作成いただきました
ありがとうございます
よろしくお願いします

ミラーサイト(まとめ)リンク
tps://reiwaboonnovels.fc2.net/blog-entry-446.html

また多くの方に読んでいただきたいへん嬉しく思います
ありがとうございます
ぜひお友達やご家族にも勧めてみてください
なにとぞよろしくお願いします











だからもう許してください

91名無しさん:2021/10/23(土) 19:38:58 ID:yV7SkAAU0
ヒッ……

92名無しさん:2021/10/26(火) 14:12:41 ID:/PxeX5mM0
心理描写がすごくてとても恐怖を感じた。面白かった

93名無しさん:2021/10/27(水) 12:26:02 ID:3C61zyVo0
猫の名前「タビー」ってマタタビから取ったって言ってるけどタヒーって結構不吉だよね…

94名無しさん:2021/10/27(水) 18:08:44 ID:OrabqDu20
おつ
80.81の流れ大大大好き

95名無しさん:2021/10/27(水) 23:39:36 ID:4NEkDJk60
>>93 ヒエッ……

96名無しさん:2021/11/06(土) 12:38:10 ID:c7MNJtkk0
リアルタイムでスレを追っているようなワクワク・ゾクゾク感がたまらん


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