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Ammo→Re!!のようです

684名無しさん:2023/10/30(月) 22:12:07 ID:0mawYBZY0
オツ

685名無しさん:2023/10/30(月) 23:23:46 ID:Fe6nIZt.0
乙でした
ヒート好きだからつらいぜ……

686名無しさん:2023/10/31(火) 20:22:52 ID:PvQPGO5A0
おつ!
ヒートは死ぬと思わなかったからほんとびっくりした
ギコやトラギコも心配になる
でもそれ以上に後2,3話というのにビビる
完結したら間違いなくブーン系史上最長期間最大文章量の作品だな

687名無しさん:2023/10/31(火) 21:38:53 ID:0B5zEoMo0
乙乙
ヒートまじか〜!
これギコどうなっちゃうんだ

688名無しさん:2023/11/01(水) 13:20:51 ID:3Ej2o/pc0
オサムが夢を語りだした辺りであっ死ぬなと思ったけど結構良い終わりだった

689名無しさん:2023/11/02(木) 21:06:39 ID:3sXP/7sY0

オサム……最後までデレシアさんの事を……本当に惚れてたんだなぁ
ヒートは棺桶の起動コードで言ってたのを最後に両方とも手に入れられたんだなって
二人の戦闘中に言えることだけど、相手を言葉で煽りながら戦うのってかっこいいよね! 読んでてニヤニヤしちゃった

例のごとく粗を探すようで申し訳ないんだけど

>>614
街に入ろうとする輩"が"監視できる

これだと輩側が街を監視できるってとれちゃうから輩"を"の方がいいんじゃないかなって思います。

完結まであと少しだなんて寂しいですが、最後まで楽しみにしてます! 頑張ってください!!

690名無しさん:2023/11/03(金) 07:53:45 ID:0XPMuaKw0
>>689
いつもご指摘本当にありがとうございます。
自分が粗ばっかりな文章なので、非常に助かっております!

691名無しさん:2023/11/03(金) 07:55:13 ID:E.a/s0io0
オサムって最初は作中によく出てくる名前付きモブだったのにいつの間にか
くっそおいしいポジションキープしてたな
変態ストーカーから主人公を助ける恩人にまで成り上がった彼の人生に乾杯

692名無しさん:2023/11/03(金) 16:11:35 ID:OUhp2wAA0
おつ!
3人で敵の母艦堕とすとかとんでもない戦果だな
ただヒートの死因がクールの銃撃だとしたら普通に殺しておけば死ななかったのでは…?と思ってしまった

693名無しさん:2023/11/03(金) 16:41:06 ID:0XPMuaKw0
>>692
その通りでございます。

694名無しさん:2023/12/04(月) 15:43:03 ID:H99ipJBI0
そういやヒートの外伝とかはないのかな
ペニサスやトラギコみたいに

695名無しさん:2023/12/04(月) 18:03:19 ID:dQl1OLYE0
>>694
ヒートとギコのスピンオフはそれぞれ本編完結後にひっそりとやる予定でございます。

696名無しさん:2023/12/06(水) 14:59:37 ID:ijcis8eY0
今更更新に気付いた 乙
みんな死んでいってかなしいなあ……

697名無しさん:2023/12/06(水) 19:39:59 ID:rIN9pysc0
スピンオフギコもあるのか!
楽しみだ本編では割と影薄いけど

698名無しさん:2024/04/14(日) 00:47:49 ID:4xxpPj.I0
そろそろ更新来るかな

699名無しさん:2024/04/17(水) 20:25:51 ID:IsuDI9UE0
>>698
まだ50%ぐらいしか書き溜めが出来ていないので、もうしばらくお待ちを……

700名無しさん:2024/04/18(木) 22:10:03 ID:mL1S3LyQ0
リアルが忙しいのかとんでもねぇ物量がくるのかどっちだろうな…

701名無しさん:2024/06/23(日) 21:12:48 ID:Sjfuv4pI0
大変長らくお待たせしております
本文が書き終わり、後は校正とカットインで出来上がりでございます

7月には投下できると思いますので、今しばらくお待ちください

702名無しさん:2024/06/27(木) 07:33:41 ID:oT3X38AI0
とうとうか…!待ってるよ!

703名無しさん:2024/06/30(日) 14:35:36 ID:9BkRH8hM0
8ヶ月ぶりくらい?
楽しみにしてます

704名無しさん:2024/07/05(金) 19:06:29 ID:DQJWPgys0
規制されていなければ来週の日曜日、VIPでお会いしましょう

705名無しさん:2024/07/06(土) 01:07:38 ID:ceuZLXvU0


706名無しさん:2024/07/10(水) 23:18:10 ID:oyEq6gFw0
くるのか!まってるよ!

707名無しさん:2024/07/14(日) 18:28:11 ID:K.ug12hY0
VIPが駄目だったのでこちらに投下します

708名無しさん:2024/07/14(日) 18:28:47 ID:K.ug12hY0
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我が夢は今満開の時を迎え、世界は今、生まれ変わる。
全ては、世界が大樹となる為に。

                                                ――???

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┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

世界2か所で起きたニューソクの爆発により高高度に達した大量の粉塵が、世界の空を覆っていく景色は、絵筆からにじみ出た絵の具が筆洗を汚すようだった。
誰にも止められず、どこまで広がっていく灰色の雲はやがて黒になり、星空のない冷たい冬の夜を生み出していく。
青空に浮かんでいたはずの白い雲は黒い空の下に浮かんでいるが、その輪郭は不気味なまでにはっきりとしている。
夜の世界で輝いていた眩い星空も、巨大な月明かりも、世界中の全てが黒に染め上げられていく。

何が起きたのか、正確に知る人間は極めて少なかった。
だが、取り返しのつかない何かが起きたのだと直感的に理解した人間は非常に多かった。
それは空模様だけでなく、降り始めた雨の色がタールの様に黒い色をしていたことも原因だった。
信心深い人間、あるいは幼い人間はその時の様子を異口同音に“夜が降ってきた”と表現した。

その表現は第三次世界大戦時に起きた“核の冬”の時にも使われたが、中身については大きな違いがあった。
ニューソクと核兵器との間にある大きな差について知る者であれば、その雨が無毒な物であることに大きな安堵を覚えたことだろう。
降り注ぐ雨はただ純粋に粉塵を含んでいるだけで、人々の生活から光を奪うだけのものだった。
ネオンライトや窓ガラスの表面に付着した黒い雨が徐々に街の明かりを薄れさせ、全ての明かりが消えた町さえあった。

世界が二度目の核の冬を迎えた時、イルトリア市街での戦闘は落ち着きを見せ始めていた。
大量の降下兵と航空兵器による強襲は、普通の街であれば即座に陥落していたことだろう。
だが相手はイルトリアだった。
世界最強の街と呼ばれているのは、伊達や誇張ではなかった。

速度と物量に物を言わせた強襲、更には頭上からの攻撃という優位性を有しながらも戦況は襲撃者の思惑通りにはならなかった。
降下した部隊は街中に隠れ潜み、攻め込んだ側なのにもかかわらず追い込まれるという屈辱的な展開となっていた。
だがしかし、“猟犬”の渾名を持つビーグル・ウラヴラスク率いる部隊が生存しているのは決して偶然ではなかった。
イルトリアへの降下作戦を実施するにあたり、3つの部隊と2つの作戦が用意された。

3つの部隊が持つ役割はそれぞれ弾避け、攪乱、そして本隊である。
分かりやすい形で降下し、敵の注意を一気に引き付ける弾避け部隊の合間を抜け、攪乱部隊が地上付近の反応を誘発することで敵の位置と攻撃手段を把握する。
そして、死体や瓦礫に扮してイルトリア内への侵入をするのが選りすぐりの精鋭で構成された本隊だ。
その本隊がイルトリアに降り立ったことは、作戦の半分が成功したと言っても過言ではなかった。

用意した2つの作戦の内、最初の1つは望みが薄いことが示唆されており、実際に早い段階で頓挫した。
プランAは空挺部隊によってイルトリアを火の海とするものだったが、理外の空軍の出現によって破綻した。
その為、プランBが彼らの実行すべき実質的な作戦として最初から考えられていた。
街の破壊工作を生き残った攪乱部隊が行い、その間に本隊が街の要であるイルトリア市長とイルトリア二将軍の殺害を実行するというシンプルなものだ。

街の全てを破壊できないのであれば、街の要人を殺害することで実質的なイルトリアの攻略に繋げることを狙ったのである。
シンプルな作戦ではあるが、その作戦を遂行するために用意したのは全てが最高の物だった。
多数の犠牲の元、ティンバーランドの最高戦力の部隊が静かに本来の勢いを取り戻そうとしていた。

709名無しさん:2024/07/14(日) 18:29:17 ID:K.ug12hY0
▼・ェ・▼「データリンクシステムを使うぞ」

ビーグルの合図により、彼の部隊は一斉に戦術データリンクシステムのスイッチを入れた。
投下されたのは兵器や兵士だけでなく、耐衝撃用のコンテナに入った野戦用小型基地局と戦闘用の棺桶もあった。
膨大な量の投下は攪乱の一環であり、それが今まさに花開くのだ。
芽吹きの時は今。

街中に投下された基地局が時間差で起動して中継点となり、イルトリアのどこにいても独自の通信網を展開すること事が可能になる。
相手にとって有利な戦場をこちらにとっても有利な場に書き変えるため、この短距離の情報共有システムという概念が実戦投入された。
様々な情報を共有するシステムは、イーディン・S・ジョーンズの復元した “ヨーグモス・システム”と呼ばれる過去のシステムが土台になっており、既存の技術の結晶だ。
個々の機器に異なる役割を与え、最終的にそれを統合する“完成化”と呼ばれるプロセスを経て、文字通りシステムが完成となる。

各部隊に渡された機器の負荷を減らすことで長時間の運用を目的としたその特殊な構造故に、全員が揃わなければシステムは完全にはならない。
だが、それ単体でも十分に戦闘支援が行えるため、仮にシステムが一部不足していても問題ではない。
ゲリラ戦でも相手に対して優位性を失わない為に作られたもので、今回の様な作戦でこそ真価を発揮すると言っても過言ではない。
過敏すぎる聴覚を保護するためのイヤーマフの位置を整え、ビーグルは潜んでいるビルの一室から外を見る。

街灯の明かりも、ビルの看板の明かりも、そのほとんどが降り注ぐ黒い雨のせいで明るさが半減している。
物理的な闇を手に入れられるのであれば、こちらにとっては都合がいい。

▼・ェ・▼「クマー、棺桶の位置を」

(・(エ)・)「了解」

クマー・バゴスは巨体を丸めながら、小さなタブレットを操作する。
その端末一つで市民の生涯年収を軽く超えるほどの高級品だが、内藤財団の後ろ盾がある彼らにとって、それは当たり前に手元にある機械となっていた。
そう感じられるように訓練と実戦を積んできた今、この状況は待ち望んだものであると言ってもいい。
画面に表示されているのは、自分を中心として幾重にも重なった緑色の円。

毎秒ごとに自分の位置から円が広がり、特定の位置に緑色の光点が現れる。
その光点の下には高度と距離を示す2種類の数字が表示されていた。
彼らの所有するタブレットは一種のレーダーとしての役割を担っており、その情報が接続された端末に共有されるのである。
保存されているイルトリアの地図情報と重ね合わせ、その正確な位置を確認したクマーが手短に言った。

(・(エ)・)「この向かいのビルの屋上にある。
    後は、3ブロック先に2つまとまって落ちている。
    ……あと1つは8ブロック先だ」

▼・ェ・▼「上出来だ。 2手に分かれるぞ。
      リリはクマーと離れた場所の棺桶を回収しろ。
      マトマトは私と一緒に向かいのビルに来い。
      この暗さと雨だ、敵もそう簡単には攻撃を仕掛けてこないはずだ」

リリ・リリックスとマトマト・マトリョーシカの二人はコルトM4ライフルの遊底を引いて薬室を確認し、頷いた。
本隊に所属する人間に渡されているコルトM4ライフルは、その随所にカスタムが施されており、使う人間にとって最高のパフォーマンスを発揮できるようになっている。
装填されている弾は対強化外骨格用の強装弾。
銃身の長さは使用する人間の好みによって絶妙に調整が施されており、一人として同じ長さの物を持つ人間はいない。

だが弾倉と口径が共通化されていることによって、その互換性の高さが失われることはなかった。
味方が傍にいる限り、彼らは常に助け合える。

710名無しさん:2024/07/14(日) 18:29:43 ID:K.ug12hY0
⌒*リ´・-・リ「市長の位置は分かる?」

今現在の段階で誰かが市長であるフサ・エクスプローラーをマーキングしていれば、それが座標に表示される。
望みは薄いが、確認しなければならない情報だった。
イルトリアにおける最重要人物の3人を殺すためだけに、すでに数千人以上の兵士が犠牲になっているのだ。
その土台を無駄にしないためにも、行動は合理的かつ確実なものでなければならない。

(・(エ)・)「分からない。 だけど、将軍の居場所なら分かる」

⌒*リ´・-・リ「近いの?」

マト#>Д<)メ「近いんなら、そいつを殺っちゃおうよ」

(・(エ)・)「いや、二人とも離れた場所。
    ……今、別の部隊のデータリンクがつながった。
    南に3キロ」

▼・ェ・▼「どこの部隊だ?」

(・(エ)・)「モナコの部隊」

――それはまるで、根を張る様にして繋がっていく。

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                                         The Ammo→Re!!
                                    原作【Ammo→Re!!のようです】

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“剛腕”モナコ・ヴォリンクレックスの指示によって起動したデータリンクシステムは、即座に離れた位置にいる仲間の情報を収集した。
彼女たちの端末が担うのは、全ての端末が集約する音声の統制である。
少なくともイルトリアのどこにいても、彼女たちの言葉は一切の遅れもノイズもなく共有される。
満足そうな笑みを浮かべ、モナコは部下のギココ・ドミナントの肩を叩いた。

リハ´∀`ノゝ「ビーグルの隊も生き延びたみたいだね」

从リ ゚д゚ノリ「うん」

指の一本一本が太く逞しいが、それに似合わない繊細な動きでタブレットの上をギココの指が滑っていく。
丸太の様に太いモナコの腕を鬱陶しそうに払い除け、ギココはタブレットから視線を上げて答えた。

从リ ゚д゚ノリ「だけど、結構な量の棺桶が壊されているよ。
       多分だけど、街の人間が壊しているよ」

単純な推測として、投下した棺桶の数とシステムが表示する棺桶の数に大きな差がある以上、破壊されているのは確実だ。
問題は、破壊している理由だ。
こちらの作戦が見破られたうえで破壊されているのであれば、残されている棺桶はこちらをおびき寄せるための餌。

リハ´∀`ノゝ「ばれてると思う?」

711名無しさん:2024/07/14(日) 18:30:09 ID:K.ug12hY0
彼女の質問に、ギココは遠慮することなく正直に答えた。

从リ ゚д゚ノリ「どうだろうね。
       どっちにしても、やることは変わらないでしょう?」

li イ ゚ -゚ノl|「そうそう、拾って使わないと、この街の人間に殺されるよ」

スノーホワイト・ストロベリーは窓の外に向けたM4をベースにしたMk12狙撃銃の照準器から視線を外さず、そう呟いた。
装着されている照準器は光学式の物で、降り注ぐ黒い雨と闇夜の中で見えるのは拡大された実際の光景だ。
光を増幅させるタイプの暗視装置を持ってきていないのが悔やまれた。
だが狙撃手として血の滲むような訓練を経た彼女にとって、その濃淡の中で何かを見つけ出すのは不可能ではない話だった。

立てこもっているアパートの出入り口の前に座るイスミ・ギコアは同意する様に無言で頷いた。

(ノリ_゚_-゚ノリゝ「……」

彼女の手が握るのは限界まで銃身を切り詰め、近接戦に特化させたM4ライフル。
短機関銃並みの軽い取り回しが可能でありながら、その弾倉に込められているのはBクラスの棺桶を仕留め得る強装弾である。
その銃身下部にあるグリップは通常の半分の太さに削られ、近接戦で使う高周波ナイフが一緒に握られていた。
異様なまでの接近戦へのこだわりは、彼女が世界を呪う理由に起因しているという。

リハ´∀`ノゝ「この部屋の住人に気づかれる前に、さっさと行こうかね。
       最寄りの棺桶は?」

从リ ゚д゚ノリ「2ブロック先の路地。
       後は、どれも5ブロック以上離れている」

リハ´∀`ノゝ「仕方ないか。 力で押し通るよ」

その時、更に新たな隊のデータリンクシステムが起動した。
それは、“石臼”シィシ・ギタクシアスの隊のものだった。

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                脚本・監督・総指揮・原案【ID:KrI9Lnn70】

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“石臼”シィシ・ギタクシアスはデータリンクシステムの起動により、ようやく自分の部隊が置かれている状況を把握することが出来た。
降下してすぐに下水道に逃げ込んでいなければ、他の兵士と同じ運命を辿っていただろう。
頭上から響く銃声が控えめになり、戦闘の勢いが弱まっていることは分かっていたが、こちらが優勢になっているとは思っていなかった。
だが確認をしないことには始まらないため、彼女と2人の部下は息の詰まるような下水道で静かにその時を待っていた。

降下直後にデータリンクシステムを使用しなかったのには、2つの理由があった。
一つはシステムを電波が安定した状況で使用しなければ、端末の電池が恐ろしい勢いで減ること。
そしてもう一つは、敵にこの動きを悟られないため、時間を空ける必要があったためである。
元より、この作戦は闇夜に乗じて行うのが最善とされていたため、世界が夜に変わったこの瞬間はまさに好機。

712名無しさん:2024/07/14(日) 18:30:46 ID:K.ug12hY0
独自の判断とタイミングでシステムを使用したが、その判断が間違いでなかったことは別の部隊がシステムを起動しているのを確認したことによって立証された。
彼女の部隊が持つタブレットは各部隊で交わされた通話を文字情報に変換し、リアルタイムで共有するという役割を担っていた。
どれだけ音声が混線したとしても、誰が何を口にしたのかが分かるため、音声の共有をより強固にする役割があった。
情報共有における確実性の確保という点で、その役割は決して軽視できない。

〈::゚-゚〉「他の部隊は棺桶を回収してから動くようだな」

戦術のリアルタイムの共有は、その恐ろしさを知る人間からすれば脅威だ。
何を目的にしてどこに向かい、誰と戦っているのかを瞬時に共有することで、無駄なく動くことができる。
何より、今の様に静的な状態での情報共有では音声よりも文字情報の方が確実に状況の把握が可能だ。

(;TДT)「我々もそれに倣いますか?」

目の下に涙柄のタトゥーを入れたモカー・クリントンの言葉に、シィシは首を横に振った。
彼の言う通り、全員が一度に同じ目的の為に動くのは良いが、同じ目標に対して動くのは今ではない。

〈::゚-゚〉「出来る限り彼らの援護をする。
    攪乱、陽動、動乱だ。
    街を焼き払って、とにかく混乱を招くぞ」

彼女が“石臼”の名を与えられた背景を考えれば、誰も異論を挟むという野暮なことはしない。
思考と決断を疑い続け、拷問まがいの実験を重ねて人の思考を研究し続けた背景は、ティンバーランドの中でも恐れられている。
疑いの果てに残されるのは死体だけ、という彼女の言葉を知らぬ者はいない。
ガナー・バラハッドは意地の悪い笑みを浮かべて、彼女の提案に同意する。

( ‘∀‘)「少しでもこの街の人間を殺せるんなら、喜んで」

一目で女性とは分かりにくい巨躯と短髪を持つ彼女は、その見た目通りに好戦的な性格をしている。
待ちきれないとばかりに彼女が言葉を紡ぎ終えたその時、最後の部隊のデータリンクシステムが起動した。

〈::゚-゚〉「よし、行くぞ」

そして、最後の部隊がデータリンクシステムを起動したのを契機に、全ての隊が本格的に行動を開始した。
最後の部隊はハインリッヒ・ヒムラー・トリッペン率いる部隊だった。

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     総合プロデューサー・アソシエイトプロデューサー・制作担当【ID:KrI9Lnn70】

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从 ゚∀从「……これで全部隊が揃ったか」

ハインリッヒ率いる部隊はイルトリア港にいた。
“終末”ダディ・クール・シェオルドレッドの機転により、部隊は降下後に沈没しかけた友軍の船の中で息をひそめていた。
世界が突如として夜になったのは全くの偶然だったが、彼女たちにとっては絶好の機会だった。
街中に散らばった部隊と兵器の位置が分かれば、後は作戦を進めるだけである。

713名無しさん:2024/07/14(日) 18:31:16 ID:K.ug12hY0
彼女を始め、最優秀の部隊とそれを率いる人間にはイルトリアへの強い恨みがあった。
恨みだけでなく、より多くの戦いに身を投じ、培ってきた経験と実力も兼ね備えた部隊はこの状況でも怖れを感じていない。
怖いのは死ぬことではなく、引き下がることだと誰もが知っているのだ。

|(●),  、(●)、|「我々はどう動きます?」

彼の持つタブレットは、各部隊の人間の生体情報の共有を目的として設計されている。
心拍数、ストレス値など、細かな情報がそれぞれのタブレットに表示されるため、誰がどのような状況なのかが一目で分かるようになる。

从 ゚∀从「やることは一つ。
     あの糞市長を殺す」

降下した全ての隊員の中で、肉体的に受けた傷が理由で最も恨みを持っているのは間違いなくハインだ。
体を刻まれ、多くの部位を失っていながらも命が残っているのは決して運の良さではない。
不定期にハインの目の前にフサ・エクスプローラーが現れ、彼女から何かを奪っていくのである。
その肉体的精神的略奪行為は、彼女が7年前にミセリ・エクスプローラーを誘拐して奪還された時から始まった。

左目はミセリ救助の際に現れた人間に奪われたが、それ以外の左足中指、右乳房、右耳、肛門、左手薬指そして先日のヴィンスで右足の指の全ては、フサの手で奪われた。
恋人も奪われ、家族も奪われた。
誰かに心を許した瞬間、その人間が殺されることを目の前で嫌というほど見せつけられた。
奪われ続け、誰かに頼ることを許されずに生き続けることの辛さは筆舌に尽くしがたい。

それでも、復讐心だけが彼女の心を最後まで支え続けていたのだ。

('(゚∀゚∩「全部隊システム起動を確認。
     “完成化”、いけます」

傍らでタブレットを持っていたナオルヨ・エリシュ・ノーンが報告をする。
降下した本隊の中で唯一の衛生兵である彼のタブレットには、システムに接続された全員の情報を統一するという極めて重要な役割があった。
いうなれば、複数の書類をまとめるクリップのような存在だ。
個々のタブレットが持つ強みを彼のタブレットが統合して配信することで、他の端末の電力消費量を抑えることができる。

ナオルヨのタブレットが最も電力を消費することになるが、他と比べて3倍の容量を持つバッテリーがそれを補う。
仮にタブレットが鹵獲されたとしても、即座に共有を遮断し、敵に奪われる情報量を減らすことができる。

从 ゚∀从「……叩きのめしてやる」

どれだけ過去を振り返っても、彼女の復讐心が萎えかけたことも、自ら命を断とうと思ったことも一度としてない。
体の一部を奪われるたび、親しい人間が惨たらしく殺されるたび、彼女は復讐心に薪をくべ続けた。
今の彼女は全身が復讐心に包まれ、四肢を動かしていると言ってもいい。
この日の為に全てを捧げてきた彼女の狙いはただ一つ。

市長の命を奪うこと。

从 ゚∀从「全部隊、リンク接続再確認。
      情報同期開始。
      完成化するぞ」

その命令を受け、タブレットを持っていたカーン・ヨコホリが命令内容を復唱する。
体の大部分に爆弾による裂傷と火傷を受けた彼の声は、どこか高揚感の色が垣間見えていた。

714名無しさん:2024/07/14(日) 18:31:56 ID:K.ug12hY0
(//‰゚)「全部隊リンク接続再確認、情報同期確認開始。
    音声通信良好。 アクティブノイズキャンセリング動作確認。
    位置情報良好。 誤差10%以内……3%以内……1%以内に修正完了。
    視覚情報同期待機中。 棺桶の使用後、接続を自動的に開始。

    各位バイタル情報同期確認。 全バイタル異常なし。
    全端末同期完了。 ヨーグモス・システム稼働率90%。
    ……現段階での完成化、完了しました」

ヨーグモス・システムは全ての情報端末が同期することで、初めてその真価を発揮できる。
これによって各部隊の行動も状況も、全てが一目で分かるようになる。
棺桶を使用すれば、その情報がタブレットを中継点として全ての兵士に配信される。
全員の接続が確認された段階で、指揮権はハイン

从 ゚∀从「ビーグルの部隊は陸軍大将を。
      モナコの部隊は海軍大将を。
      シィシの部隊は陽動、攪乱を。
      我々の部隊が市長を殺す」

ハインの指示を受け、ビーグルの部隊から短く返答があった。

▼・ェ・▼『道中で街に火を放つが、問題ないか?』

从 ゚∀从「あぁ、問題ない。 予定通り、基本的な判断は各部隊に委ねる。
      相互の情報共有を怠らないようにだけ気をつけろ。
      ここは奴らの巣。 獣の巣穴での立ち回りは臨機応変が常だ。
      シィシ、お前たちの陽動、期待しているぞ」

〈::゚-゚〉『巻き添えにならないように気を付けて』

从 ゚∀从「マーキングを忘れずに。
     ……状況を開始する。
     各自、復讐の時間だ」

そして、4つの部隊が静かにイルトリアへの侵攻を始めたのであった。

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           編集・録音・テキストエフェクトデザイン【ID:KrI9Lnn70】

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イルトリアを目指して北上していたティンバーランドの陸上部隊は、到着まで残り2キロのところで停止していた。
“ヘッド”、“アイズ”そして“ネック”と名付けられた3つの部隊は想定よりも早い段階で道路に仕掛けられていた地雷によって車両を無力化され、徒歩での進軍を余儀なくされていた。
相手の規模も装備も分からなかったのは、何も急変した天候のせいだけではない。
圧倒的なまでの遠距離狙撃により、まるで対応が出来なかったのだ。

715名無しさん:2024/07/14(日) 18:32:42 ID:K.ug12hY0
熱源感知式のカメラを使おうとした棺桶は、一発でそのカメラごと脳髄を撃ち抜かれ、即死した。
ヘッドの指揮官、アラマキ・スカルチノフの指示によって車両で即席のバリケードを作っていなければ、間違いなく全滅していたことだろう。
遮蔽物と呼べるものが存在しない荒野での籠城。
それが長く持たないことは分かっているが、逆にここまで持ち堪えられていることに、アラマキを始めとした各指揮官は安堵にも似た感情を抱いていた。

後続の部隊と合流が出来れば、必ず突破口は開ける。
更に、イルトリアに直接攻め込んでいる空挺部隊と艦隊の挟撃が実現すれば、狙撃手など恐るるに足らない。
海岸近くで敵の上陸を防ぐために戦うには、どうしても防衛陣地と障害物に頼らざるを得ないという物理的な反応に付け込んだ作戦は、シンプル故に強力だ。
上陸部隊に集中している間に挟撃を成功させることが、今は何よりも重要だった。

空から降り注ぐ黒い雨は双方の視界を遮るカーテンとなり、膠着状態が続いていた。
足場の悪さは刻一刻と深刻になっていく。
まるで出来の悪い悪夢だった。
疑似的に作られた夜の中、悪夢を打ち破るべく打ち合わせが行われていた。

/ ,' 3「残存部隊の数は?」

重装甲車の中で、アラマキはアイズの指揮官であるプギャー・エムナインにそう尋ねた。
戦場で情報端末の統制を担当する彼の部隊は、イルトリアとの戦闘開始から今に至るまで全ての情報を保存、共有していた。
タブレットに表示されている数字を見て、プギャーは言った。

( ^Д^)「137……いえ、136ですね」

/ ,' 3「重畳だ。 暗視ゴーグルはどれだけ残っている?
   ……いや、むしろ棺桶だ。
   棺桶の残数を報告してくれ。
   暗視ゴーグルは歩兵に持たせる」

( ^Д^)「棺桶の残数52です」

/ ,' 3「後続部隊から連絡は?」

( ^Д^)「……連絡はありません。
     恐らく、もう……
     最後の通信で分かっているのは、トレバー・アヒャ・フィリップス率いるセフトートの敗残兵が襲ってきたことだけです」

/ ,' 3「“狂犬”アヒャか…… 相打ちになっていてくれればいいな」

セフトートのアヒャと言えば、その狂人ぶりで世界の悪党大百科に名を連ねる生粋の屑だ。
戦争開始の際にセフトートを吹き飛ばしたのは、彼のような罪人を一掃するためだったのだが、よりによって彼が生き延びていたというのは予想外だ。

( ^Д^)「その後の追撃がないため、恐らく、大打撃を与えることには成功したのだと思われます。
     データリンクシステムの圏外ですので……」

タブレットを操るプギャーの人差し指は、義指だった。
戦争で町を焼かれ、その時、遊び道具として彼の体は刻まれた。
それ以来彼は戦争を憎み、戦争を商売道具とするイルトリアへの強い憎しみを募らせたのである。

716名無しさん:2024/07/14(日) 18:33:08 ID:K.ug12hY0
/ ,' 3「いずれにしても、我々の進路は前だけだ。
   進路は後ろにないし、退路もない。
   ようやくイルトリアをこの目で拝める距離に来たんだ、何が何でも一矢報いるぞ」

孫娘を含めた娘の家族を戦争で失ったアラマキにとって、この戦いは過去の因縁に決着をつけるためのものだった。
この為に生き続け、この日の為に用意してきた。
全てはイルトリア軍人への復讐をするため。
戦争を生業とする人間がいなくならない限り、この世界から戦争はなくならない。

/ ,' 3「シャーミン、左から回り込んでくれ。
   私の部隊が右から行く。
   プギャー、援護を」

全ての部隊の中で、“ネック”を束ねるシャーミン・パインサイドは最年少で戦争被害にあった人間だった。
目の前で母親を凌辱され、殺された光景が目に焼き付き、それ以来彼は不眠症になってしまった。

,(・)(・),「……うん」

しかし、その不眠症が彼に後天的な能力を与えた。
夜間において、彼の左目は誰よりも世界を明るく見ることができるようになったのである。
それを生かし、彼は狙撃手としての力をつけ、この戦場に挑んでいる。
星明りのない泥の夜だとしても、彼は必ず仕事を果たしてくれる。

/ ,' 3「もう少しで、我々の願いが叶うのだ。
   こんなところで立ち止まっているなど、死んでいった同志たちが許しはせん。
   最初から全力で行くぞ。
   奴らの優位性が失われた今、真っ向勝負で挑んで勝つ。

   これこそが復讐だ。
   正面から、正々堂々とした復讐で奴らを蹴散らすぞ」

,(・)(・),「やろう…… 勝とう……」

ゆっくりと深呼吸をし、アラマキ達は最後の戦いに挑む覚悟を決める。
そして、静かにマイクを通じて全部隊に命令を下した。

/ ,' 3「各位に通達。 “マトリックス”の使用を許可する。
   我々の歩みの果てがここだ!!
   さぁ、真実を掴み取るぞ!!」

“マトリックス”は全部隊で個人に支給されている赤と青のピルの名前である。
マックスペインと異なる目的で開発された、向精神薬兼身体能力向上用の薬物だ。
赤いピルを飲むことで一時的に能力の向上を行い、遅れて青いピルを飲むことでその働きを抑制することができる。
マックスペインは薬品の効果が切れるまで継続するのに対し、マトリックスは自らの意思でそれを止めることができるため、反動を気にせずに戦える。

だが。
ピルを二つ同時に摂取すれば、人体に対する負担はマックスペインの比ではない。
脳と心臓に対して強い作用を及ぼすことで、銃弾の軌道さえ目で追えるほどの感覚を得られる。
そして代償は、脳への深刻な後遺症――廃人になる――である。

717名無しさん:2024/07/14(日) 18:33:29 ID:K.ug12hY0
そのリスクを承知した上で、アラマキの命令を聞いた全ての人間がマトリックスを一度に服用した。
命がけでなければ殺される。
どうせ殺されるのならば、後悔すら出来ない程の全力で挑むしかないのだ。
全ては、そう。

/ 。゚ 3「全ては、世界が大樹となる為に!!」

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      撮影監督・美術監督・美術設定・ビジュアルコーディネート【ID:KrI9Lnn70】

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セフトート最後の生き残りであるトレバー・アヒャ・フィリップスは仰向けに倒れ、浅い呼吸を繰り返していた。
体を覆っていた強化外骨格は余すところなく破損し、電池は底を突き、ヘルメットは戦闘中に吹き飛んでいた。
黒い雨に顔を濡らし、口から赤黒い血を吐き出している姿は、狩猟から辛うじて逃げ延びた動物の最期を思わせる。
命がもう間もなく終わることを、彼はよく分かっていた。

自分がこれまでに奪ってきた命が最後に見せる輝きの様なものが、今の自分の姿なのだと理解していた。
そしてその中で、彼は静かに言葉を発した。

(  ゚∀゚ )「……なぁ、カメラ持ったあんた」

その言葉は、戦場でただ一人、写真を撮影していた眼鏡の男に向けられていた。
苛烈を極めた戦闘の中で、たった一人だけ武器ではなくカメラを持っていた男だ。
彼と同時に現れ、援護をしてくれた男の居場所は分からない。
だが、暗闇の中でも彼の持つカメラが放つフラッシュは何よりも雄弁のその居場所を伝えているため、アヒャは簡単に声をかけることが出来た。

(;-@∀@)「あ、何でしょう?」

(  ゚∀゚ )「俺を撮ってくれよ……」

(;-@∀@)「遺影ですか?」

その返答はジョークにしてはあまりにもブラックであり、あまりにもアヒャを楽しませた。

(  ゚∀゚ )「ははっ…… 面白いジョーク……だ。
      欲しいんだよ……
      俺が……生きた証ってのを……」

(;-@∀@)「あなたの?」

(  ゚∀゚ )「俺ぁよ……ろくでなしって自覚もあるし……恨まれて……当然の人間だって認識も……ある……
      だけどなぁ…… 俺が確かにこの世界にいたって、どうにか残してぇんだよ。
      なぁ……新聞でも……何でもいい……俺が……」

(-@∀@)「分かりました、では一枚……」

(  ゚∀゚ )「……かっこよく……頼むよ、俺の人生で初めて……まともな写真なん……だ……」

718名無しさん:2024/07/14(日) 18:33:51 ID:K.ug12hY0
これまでに撮られた写真は、警察機関に捕まった時のものだけだった。
街中に貼られた手配書の写真もそうした写真が元になっており、後は良くて隠し撮りされた写真ぐらいだ。
そのどれもが、彼の意に反して撮影された物であり、彼の存在を証明するための物ではなく彼の罪を咎めるための物だった。
思い出や、彼を記憶に残したいという気持ちで撮影されたことは一度もなかった。

大きな仕事をした後に写真を撮った者がいたが、結局警察機関が喜ぶ証拠の一つになるだけだったので、アヒャは映ろうとはしなかった。
今際の際に彼が欲したのは、セフトートの仇討ちをしたことに対する称賛ではなく、彼が確かにこの世界に存在していた証だった。
子供もいないし、妻もいない。
つまりここで死ねば、何も残らないのだ。

(-@∀@)「……」

黒い空を背に、男がカメラを構えた。
カメラのレンズがまるで巨大な生物の目玉の様に見える。
意識が遠のき、体に力が入らない。
そして、白い光が視界いっぱいに広がり――

(  ゚∀゚ )「……」

目を開いたまま、アヒャは静かに息を引き取った。
その死に顔は、僅かに笑みを浮かべていた。
間違いなくそれは。
彼の短い人生の中で、最も奇麗な笑顔だった。

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     総作画監督・脳内キャラクターデザイン・グラフィックデザイン【ID:KrI9Lnn70】

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アサピー・ポストマンはカメラを持つ手が震えていることに気づいていなかった。
寒さでも恐怖ではなく、何か、得体の知れない感情が胸から湧き出る何かが体を震わせていたのだ。
当の本人だけが、そのことに気づけていなかった。

<ヽ`∀´>「大丈夫ニダ?」

(;-@∀@)「あ、はい……」

死体から武器を回収していたニダー・スベヌの言葉に、アサピーは辛うじて返事をすることが出来た。
だが実際に何を問われているのかも分からなければ、今の状況で何を求められているのかも分かっていなかった。
戦場に巻き込まれるのは初めてではないが、戦場の中心で全てを見届けたのは初めてだった。
アヒャの援護をしながら大軍を相手に戦い続け、結局は双方が全滅するまで戦いが続いた。

その原因は、相手側の数と戦力、そして途中で使用された薬物の影響だった。
アサピーのカメラが捉えた戦場の光景は、これまでと違って全て彼の肉眼を通じて脳みそに焼き付けるような感覚だった。
これまでに抱いたことのない感覚は、彼に殺し合いの現実をこの上なくストレートに実感させた。
ようやく自分の体の震えに気づき、アサピーは黒い空の向こうに目を向け、次いでカメラを向けてズームした。

719名無しさん:2024/07/14(日) 18:35:13 ID:K.ug12hY0
煌びやかな電飾の明かりに混じり、赤黒く光る街並みが見える。
時折流れ星の様な筋を残した光が街から外に向けて飛んでいく。
それは曳光弾の見せる軌跡だった。
まだ戦闘は続いている。

世界最強の街、イルトリア。
これから二人はイルトリアに向かい、そこで新たな戦闘に参加することになるだろう。
海上から響く砲声と炎が、戦場が地上だけでないことを示している。
流石のイルトリアも、物量に押されれば無傷では済まない。

数枚シャッターを切り、それからニダーに声をかける。

(;-@∀@)「ニダーさん」

<ヽ`∀´>「どうしたニダ?」

(;-@∀@)「この戦争、どうなると思います?」

<ヽ`∀´>「そんなの分からないニダよ。
      ただ、どんな戦争でも言えることがあるニダ。
      最後の一人まで殺し合えば、戦争は終わるニダ。
      ちょうど、ここで起きたみたいに」

四時間近くの戦闘が続き、イルトリアに進軍しようとする部隊の足止めと殲滅戦が行われ、戦場となった荒野で息をしているのは二人だけとなっていた。
奇襲を仕掛けたセフトート残党の優位性が失われる前にニダーが参戦し、戦闘の天秤が何度も揺れ動いた。
ニダーが執拗なまでに優先して攻撃を加えたのは、どうにか進路を確保してイルトリアに向かおうとする部隊だった。
それが結果として、戦闘を一か所に集約することに繋がったのだ。

彼は拾い上げたライフルと瀕死の敵兵を使い、ただ一人で進軍を防ぎきったのである。
その鬼気迫る戦い方は、彼の持つ戦闘能力の高さとジュスティア人らしからぬ非道さだった。
声が足りなければ傷を抉り、言葉が足りなければ体を刻んで味方を呼び寄せさせた。
若く、命に執着のある人間を特に選んで相手への威圧に使い、大量の血が彼の両手と体を汚していった。

そんな中でアサピーにできることはただ一つ。
写真を撮ることだけだった。
戦場から離れた場所ではなく、戦場の中心、死と隣り合わせの中、カメラ一つで戦い抜いた。
ズームは最小限にとどめ、可能な限り近づいて一人一人の死に向き合うようにシャッターを切ったのだ。

不思議な感覚だった。
カメラ越しに見る人間の姿は、そのほぼ全てが棺桶で覆われ、表情を見ることさえ叶わない。
それにもかかわらず、アサピーの目にはマスクの下に全ての表情が見えていた。
誰もが必死で、誰もが取り繕うことのない生のままの表情を浮かべていた。

カメラには残されない、アサピーだけが目撃した戦場。
飛び交う銃弾と倒れた死体だけが真実だった。
自分が一発の銃弾も浴びなかったことに、アサピーはようやく気付いた。
当たらなかったのか、それとも、当てられなかったのかは分からない。

分からないが、無傷という事実は何かしらの意味がある様にしか思えなかった。

720名無しさん:2024/07/14(日) 18:36:50 ID:K.ug12hY0
(;-@∀@)「我々はこの後どうするんですか?」

<ヽ`∀´>「イルトリアに行く以外、道はないニダ。
     あの街を守り切れないと、少なくとも世界の天秤って奴は壊れるニダ」

ジュスティアとイルトリア。
この二つの街によって世界は均衡を保っているが、武力という一点において世界を統べていたのは間違いなくイルトリアである。
そのイルトリアが敗北するということは、世界を抑制するだけの武力が失われるということ。
ジュスティアが完膚なきまでに滅んだとすれば秩序が失われるが、それは一時的なことで済む。

何故ならこの世界のルールは、力なのだ。
武力を振るえば、それだけで秩序を生み出すことができる。
しかし他を圧倒する力が失われれば、誰が自由に力を振ることとなり、秩序が生まれることはない。
それだけは回避しなければならないのは、言を俟たないことだ。

(;-@∀@)「ですが、我々が行ったところで……」

<ヽ`∀´>「……怖いのは分かるニダよ。
      でも、怖がって立ち止まっていても、状況は自分の思った通りにはならないものニダ。
      アサピーはどうしたいニダ?
      ここから先は、強要しないニダよ」

その声はやけに優し気に聞こえた。
そしてその言葉は乾いた砂に水を垂らしたかのように、アサピーの心に染みわたる。
一言、提案を受け入れる言葉を発すればいい。
言葉が出なければ最悪、頷けばいい。

それで、命が助かるのだ。
銃弾が飛び交う場所でもなければ、不気味な黒い雨の降り注ぐ中にいなくていい。
世界が変わってからでも、行動は出来る。
生きてさえいれば、どうとでも出来るのだ。

(;-@∀@)「ははっ、今更引き下がってどうするっていうんですか。
      僕はこの戦争のスクープを、誰にも渡しませんよ」

しかし、ここで引き下がるようではジャーナリストではない。
彼が目指したジャーナリストは、ここで前に進む人間なのだ。
前に。
とにかく、前に。

<ヽ`∀´>「そう来なくっちゃ」

これは病気の類なのだと、アサピーは自覚した。
手にしたカメラが何を映し出したのか、その価値を決めるのは彼ではない。
現像された写真を見た人間が、それを決めるのだ。
その為にはアサピーが出来る限り多くの写真を撮影し、世界に広めなければならない。

721名無しさん:2024/07/14(日) 18:37:13 ID:K.ug12hY0
撮影したデータが失われることなく世界中に発信されるためには、カメラの中身が生き延びなければならない。
今ここでニダーと別れれば、この奇妙な天気の中と世界情勢下で生き延びて写真を広める自信がアサピーにはない。
それ以上に、アヒャの言葉が脳裏に焼き付いていたのである。
自分が生きた証、自分がここにいたのだという、確かな証明。

アサピーにとってのそれは、写真しかない。
戦争に平等はないが、彼のカメラが映したものだけは平等に後世に残される。
確かにここにいたのだと後世に残せる確実な手段が、写真なのだ。

<ヽ`∀´>「だけど、街に着いたらウリはやることがあるニダ」

(;-@∀@)「戦闘ではなく?」

<ヽ`∀´>「……市長から頼まれていたことをやるニダ」
     アサピーを安全な場所に逃がすことニダ。
     戦闘に参加するのはその後ニダ」

(;-@∀@)「いやいや、ここまで来たんですから、自分も一緒に――」

<ヽ`∀´>「――流石に守り切れないニダよ、ウリには。
      弱まっているとは言ってもイルトリアがまだ戦闘を継続しているってことは、連中の戦力はジュスティア以上の可能性が高いニダ。
      質量と物量、この二つを用意してきたってことニダね。
      市街戦の怖い所は、敵味方の判別が難しいことニダ。

      特に、軍隊に所属していないようなウリたちは味方であることを知らせる術があってないような物ニダ。
      カメラを持っていても、さっきみたいに生き延びられる可能性は低いニダ。
      むしろよく生きていられたニダね」

偶然は続かない。
特に命に係わるような事であれば、いつ何が起きても不思議ではないのだ。
この先、アサピーは自分の力だけでイルトリアの戦場を生き延びなければならない。
トラギコ・マウンテンライトやニダーの助けなしで、カメラに多くの生きた証を残すことができるのだろうか。

それがいかに無謀なことか、アサピーは言われるまでもなく分かっている。
それでも、その手が持つカメラが何の為に存在しているのかを、どうしても忘れることができなかった。
自分の事を自分で守るのは、カメラマン、ジャーナリストの基本だが、それ以上に守らなければならないのはカメラだ。

(;-@∀@)「それでもいいです。
      僕は僕の戦場で戦います!!
      ギリギリまで一緒にいてください!!」

<ヽ`∀´>「カメラでどれだけ写真を撮っても、誰にも評価されないかもしれないニダよ?」

アサピーが死を恐れずに戦地に向かえるのは、カメラのデータが世に公表されるということが前提となっていることは否めない。
無論、生きて自らの手で世に発信することが最良であり大前提だが、死後にカメラの中身が公開される保証はどこにもない。
そして、仮に世に出たとしても、それを評価するのは社会だ。
努力が結実しないことなど、いくらでもある。

(;-@∀@)「えぇ、それでも」

722名無しさん:2024/07/14(日) 18:38:27 ID:K.ug12hY0
それでも。
それでも、なのだ。
ジャーナリストを己の天職であると認識した今、恐れることはない。
死ぬときは死ぬ。

しかし、彼の撮影した写真が世界を変える可能性を持っているのだとすれば、可能性の為に死ぬ気で戦う価値がある。
ニダーが武器で戦うのと同じように、アサピーはカメラを使って戦う。
これまで生きてきて、この先もどうにか生きるとして。
何もなさずに生き続けるよりも、何かを成そうとして死んだ方がましだ。

(-@∀@)「僕は、この生き方に嘘を吐きたくない」

<ヽ`∀´>「……成長したニダね。 じゃあ、行くニダよ」

二人は雨の中、遠くに見える光を頼りに荒野を歩き始めた。
そして。
二人が意を決したその時。
ジュスティア上空に、赤い信号弾が打ち上げられたのであった――

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            撮影・演出・音響・衣装・演技指導・編集【ID:KrI9Lnn70】

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数時間前は世界の正義を謳う“正義の都”に相応しい街並みが見られたジュスティアは、今や瓦礫の山と化し、かつての栄華を見出すことは不可能であった。
防衛の要であり、象徴でもあった三重の防壁であるスリーピース。
ジュスティア警察を始め、正義の集う場所だった巨大な建造物であるピースメーカー。
そこにジュスティアが存在したと思い出させるものは、何一つ残されていない。

エライジャクレイグの列車砲が行った砲撃は港にまで及び、上陸を試みていた艦隊にも大打撃を与えた。
壊滅的な打撃を受けたが、ティンバーランドの部隊は全滅を免れていた。
また、オセアンから到着した援軍により、ジュスティアの大地は再び侵略者によって蹂躙されることになる。
文字通りの蹂躙。

ジュスティアという名前を持つ瓦礫を踏みにじる行為は、ジュスティアに恨みを持つ人間にとってこの上ない快感だった。
この時、瓦礫の上を歩く人間の中でジュスティアに恨みを持たない人間はいなかった。

〔欒゚[::|::]゚〕『しかし、街を取られないためにここまでやるかね』

棺桶に身を包み、ライフルを構えたまま生存者を探す男が呟いたその言葉は、例えジュスティアの性質を知らない人間であっても同じ言葉を口にしただろう。
市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤが用意した保険は、列車砲による完膚なきまでの砲撃。
敵も味方も関係なしに、全てを瓦礫の下に沈めるという狂気的な発想による作戦は、敵味方問わずに多くの犠牲を出した。
確かに、ジュスティアが侵略され、民間人が虐殺されるというシナリオは回避された。

自らの手で崩壊したジュスティアに踏み入ったところで、それは心理的には侵入にも征服にすらもならない。
結局はジュスティアという街がなくなった事実は変わりがないはずだが、ジュスティア人の中では違うことなのだろう。
民間人を乗せたとされる列車は北に向かって消え去ったが、どの部隊も気にもしていない。
目的は達成されたのだ。

723名無しさん:2024/07/14(日) 18:38:56 ID:K.ug12hY0
瓦礫にすることは自分たちの狙いの一つでもあり、それを代行してくれたのだ。
味方に出た死者の数は無視できないが、短時間での攻略が出来たのは嬉しい誤算だった。

〔欒゚[::|::]゚〕『これがジュスティアだよ。 こいつらは、正義のためなら犠牲なんて気にしないのさ。
      ジュスティア陸軍がいい例さ』

正義という大義名分があれば、ジュスティアは一切の容赦も躊躇もなく対象に対して暴力を行使する。
味方に犠牲が出ることで敵を倒せるのならば、彼らは迷わず自分たちのいる座標を砲兵に伝えるように訓練を受けている。
現に、ジュスティア陸軍は何度も味方の損害を度外視した砲撃を実行した経験がある。
イルトリア陸軍でさえ、そのような作戦を選ぶことはない。

しかしその狂気こそが、イルトリアとジュスティアの天秤が拮抗していると言われている所以である。

〔欒゚[::|::]゚〕『……なぁ、あの人はどうして平気だったんだろうな』

数千の兵士が周囲を見て回っているが、その誰もが同じことを思っているはずだ。
これだけの砲撃を受けたにもかかわらず、生存者が一人だけいたのだ。
嬉しいことにその一人は彼らの味方なのだが、それを素直に喜べないのは、人間として当然だ。

〔欒゚[::|::]゚〕『俺にも分からねぇよ……
       これだけの砲撃の中で生きるってのは、人間じゃ――』

その時、一発の信号弾がジュスティア上空に打ち上げられた。
赤い光が黒く染まった周囲の影をほんのりと赤に染め上げる様子を、片目の光学レンズを用いたカメラが映し出す。
そしてもう片目の暗視ゴーグルに一人の女性が映っているのに気づいた時には、もう遅かった。
そこに、彼女はいた。

o川*゚ー゚)o「おやおや、誰の噂をしているんだい?」

それは、ジュスティア市内で唯一の生存者であるキュート・ウルヴァリンだった。
上空に撃った信号弾が照らす雨に濡れた彼女の姿は、あまりにも不気味だった。
まるで、血の泉から立ち上がってきた幽鬼のような姿をしている。
黒い世界の中で白く浮き出て見える笑顔が、あまりにも場違いだ。

〔欒゚[::|::]゚〕『ど、同志キュート!!』

o川*゚ー゚)o「何か言うことは?」

〔欒゚[::|::]゚〕『も、申し訳ありません!!』

o川*゚ー゚)o「それは何に対しての謝罪かな?」

彼女の手にあるのは撃ち終わった信号銃だけだ。
その装備で棺桶を身に着けている人間を殺すなど不可能。
なのに、まるで死刑執行のボタンをその手に秘めているかのように見える。
問答に間違いがあれば殺される。

何も言われずとも、それは断言できた。

〔欒゚[::|::]゚〕『そ、それは……』

724名無しさん:2024/07/14(日) 18:40:15 ID:K.ug12hY0
銃を向けられている方がまだ生きた心地がする。
ティンバーランド内での権限的な序列は五指に入るが、戦闘力の高さは恐らくは最高位。
イルトリアの二将軍が棺桶の所有者を素手で殺せるように、彼女も素手で殺せるだけの技量と膂力を持ち合わせている可能性はある。
虎の尾を踏んだかのように怯えているこちらの様子を見て、キュートは暗闇の中でも分かる意地の悪い笑みを浮かべた。

o川*゚ー゚)o「ははっ、冗談だよ。 意地悪をしてみた。
       私が生き延びた理由が気になるんだろう?」

〔欒゚[::|::]゚〕『は、はい。 あれだけの砲撃と爆発の中、どうすれば生き延びられるのですか……』

ジュスティアのシンボルと呼べる何もかもが瓦礫と化した砲撃の中、人間が生き延びるには何かしらの仕掛けがある。
幸運の類で生き延びることは、絶対に不可能だ。

o川*゚ー゚)o「答えは実にシンプルさ。
       運が良かったんだよ」

それが嘘なのは言うまでもなかった。
運が良くて生き残れるのであれば、生存者が一人だけであるはずがない。
何かしらの手段を使い、生き延びたのだ。
だがそれは個人的な興味であり、知らなければならない類のものではない。

今、迂闊に口に出してしまった言葉を拾い上げたキュートに生殺与奪権が握られている。

o川*゚ー゚)o「どうしたんだい? 何か言い足りないのかな?」

その言葉は、それ以上の質問を許さないだけの圧を秘めていたが、そう思わせないほど優しく口から紡がれていた。
まるで食虫植物のように、甘い猛毒を漂わせる植物の類だ。

〔欒゚[::|::]゚〕『い、いえ!!』

信号弾がゆっくりと燃え尽きながら落ちてくる。
その間にキュートの顔も髪も、黒い雨によって変色していった。
赤と黒。
これほどまでに恐怖を掻き立てる配色はないだろう。

黄色と黒が警告色ならば、赤と黒は死と暴力の象徴だ。
沈黙が続くが、まだ質問が終わっていないことは明らかだった。
彼女の瞳が暗闇の中で真っすぐにこちらを見据え、そして、心の奥底を見透かすように微動だにしない。

o川*゚ー゚)o「はははっ、全く。
       ……私の事を化け物だと思っているのだろう?」

〔欒゚[::|::]゚〕『そそ、そんなことはありません!!』

一刻も早くこの空間から逃げたしたいという衝動が、体の内側から湧き上がる。
まだ命の危機から脱したわけではない。
キュートという存在が目の前でこちらに視線を向け、尚且つ興味を向けている以上、いつ何が起きても不思議ではない。

o川*゚ー゚)o「安心しな。 ちゃんと人間だよ」

725名無しさん:2024/07/14(日) 18:42:11 ID:K.ug12hY0
上空から雷の様な唸りが聞こえてきた時、キュートはそう言った。
次第にそれが唸る音がヘリコプターのローター音であると気づく。
黒い影が轟音を伴って近づき、瓦礫のほんのわずか上の位置で停止した。
まるで魔法か手品の様な光景に、息をのむ。

どれだけの練習がこの芸当を可能にするのか、まるで想像がつかない。
瓦礫との間は僅かに30センチほど。
機体と感覚を文字通り共有していなければ、そのようなことは出来ないだろう。
そして、信号弾の発砲から到着までの時間の短さが示すのは、キュートがこのタイミングで死なないということが分かっている前提で作戦が進んでいるということ。

だが、一番の疑問はこの状況でヘリコプターが来たところで何が変わるのか、という点だ。
彼女がどこに行き、何が変わるのか。
作戦の早期終結のためであれば、ジュスティアから離れて向かう先はイルトリアしかない。
これだけの戦闘の後に戻る理由は、果たしてあるのだろうか。

最終的に投入することになった戦力の差は、ジュスティアの2倍以上。
今もまだ近隣の街からイルトリアに進軍していることを考えれば、キュートが参戦したところで大した変化は望めない。
勝利は揺るがないのだ。

o川*゚ー゚)o「ただ、ね」

ヘリコプターに乗りかけた彼女が次に放った一言は、二人から呼吸を奪った。
他愛のない、どこかで誰かが口にしたかもしれないような言葉。
それは不気味なほどに可愛らしい声と表情が伴い、世界の暗部も人の汚さも知らない少女が口にするように。
何の疑いもなく、確信に満ちた口調で紡がれたのであった。

o川*゚ー゚)o「私は、誰よりも愛されて生まれただけだよ」

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             制作協力【全てのブーン系読者・作者の皆さん】

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連結車両100両編成という規格外の長さを記録した“アンストッパブル”が、ラヴニカに到着するまで残り1時間となっていた。
車内にはジュスティアからの避難民が大勢乗せられており、誰もが非常に大きなストレスを抱えていた。
だが、彼らはどのような境遇にあってもジュスティア人だということを、アンストッパブルに乗り合わせた人間は誰もが思い知った。
きっかけは、一人の乗客の発言――正しくは、ほぼ同時に全ての車両で全く同じ発言が多数あった――だった。

(●ム●)「なぁ、俺たちを助けてくれた刑事さんはどうなってるんだよ!!
     俺たちにも何か出来ることはないのか?!」

それは、彼らを逃がすために最後まで戦い抜いた一人の刑事を案じる言葉だった。
続々と立ち上がり、詰め寄り、彼が今危険な状況であること、そして輸血を必要としていることがたちまち知れ渡った。
恐らく、ここまで人々が一斉に輸血に協力的になった瞬間はジュスティアの歴史上初めての事だった。
一瞬のうちに彼に必要な血液が用意され、手術中の彼の身を案じる人々は、それぞれ信仰する存在に祈りを捧げた。

726名無しさん:2024/07/14(日) 18:46:16 ID:K.ug12hY0
トラギコ・マウンテンライトは、そんな祈りに一切関係なく、麻酔によって長い夢を見ていた。
それはかつて、デレシアを追うきっかけになった日に見た夢と同じく、かつての相棒を失うに至った事件に関する夢だった。
まるで自分ではない第三者になり、自分の体験を眺めている様な夢だった。
砂金の城事件をきっかけに一緒に仕事をすることになった相棒と解決した、金の羊事件を経て、辿り着いた一つの大きな分岐点。

彼が特に気にしていたのは、相棒を失った“CAL21号事件”だった。
自分自身の中に抱いていた多くのことに対する考え方が根底から崩れた、あの事件。
そして、今もなお刑事を続けるきっかけを得た事件。

(=-д-)

その事件で生き延びた人間の一人が快楽殺戮者であるワタナベ・ビルケンシュトックだったということもあり、きっと夢に見たのだろう。
彼が目を覚ました時、そこに見えたのは見知らぬ天井であり、聞こえているのは線路を踏みしめる車輪の音。
そして、偶然にも車内にアナウンスが入ったのはそんな時だった。

『間もなくラヴニカ、ラヴニカに停車いたします。
ラヴニカに停車後、この列車は車輛編成を変更します。
車両編成後、イルトリアに援護に向かうため、ジュスティアからお越しの皆様に関しては、ラヴニカが終点となります。
現在、ラヴニカでの戦闘は終結しておりますが、消火活動等が行われているため、ご配慮ください。

また、ラヴニカの復興作業に手を貸していただける方は駅出口で――』

(=゚д-)「……ど……ことラギ?」

思わず声を出した時、すぐに白衣を着た男が駆け寄ってきた。

ノ゚レ_゚*州「良かった!! 目を覚ましたんですね!!
      いいですか、落ち着いて聞いてください!!
      あなたは――」

(=゚д゚)「うる……せぇ……」

耳元で大声を出す男にそう言葉を投げかけるが、まるで意に介した様子を見せず、男は続ける。

ノ゚レ_゚*州「あなたのおかげで大勢の市民が救われました、ありがとうございます!!」

(=゚д゚)「あぁ……そうかい……」

まだ麻酔で意識が朦朧としており、はっきりとしたことが口に出せない。
とにかく分かるのは、自分が生き延びたということと、市民の脱出が成功したということだ。
あれだけの出血にも関わらず自分が生き延びたことが不思議で仕方ないが、何が起きたのかを想像するだけの気力はなかった。

(=゚д゚)「……なぁ、ジュスティアはどうなったラギ?」

ノ゚レ_゚*州「……そ、それは」

返答に迷う男に代わって、見知った顔の女が現れた。

豸゚ ヮ゚)「そこから先は私が話そう。
     お久しぶりです、刑事さん」

727名無しさん:2024/07/14(日) 18:46:37 ID:K.ug12hY0
その顔、その声に覚えがあった。
視線を女の目に向け、トラギコは溜息を吐くように言葉を吐いた。
彼女の姿を見た時に、何が起きたのかはすぐに分かった。
正確に言うならば、どの計画が実行されたのかは、言うまでもなかった。

(=゚д゚)「ジャック・ジュノか……」

アンストッパブルを運転するエライジャクレイグきっての運転手、双子のジャック・ジュノ。
“定刻のジュノ”の渾名で知られる彼女は、優れた運転技術と状況判断能力を持つ
その目も声も、非常に落ち着き払ったものだったが、瞳の奥に秘めた覚悟の強さは以前とは比較にならない。
淡々と、そして若干の申し訳なさそうな声色で彼女は言った。

豸゚ ヮ゚)「フォックス・ジャラン・スリウァヤ市長との契約通り、我々はジュスティアを砲撃しました。
     我々エライジャクレイグが所有している列車砲は、ご存知のはずです」

エライジャクレイグが所有する兵器について、その存在はかねてより聞かされていた。
超大口径の列車砲を複数所有しており、世界中のあちらこちらに秘匿しており、契約や状況に応じてそれらを持ち出すことになっている。
そして、ジュスティアとの契約内容は市長から密かに通達されていた。
万が一ジュスティアが他の勢力に制圧されそうになった場合、街の全てを砲撃によって吹き飛ばす、というものだ。

(=゚д゚)「あぁ……知ってるラギ……
    そうか……そうなっちまったラギか……」

豸゚ ヮ゚)「市長は最善を尽くされ、かなりの数の敵を誘い込んだ後に爆破、砲撃したそうです。
     刑事さん、あなたが市民を救ってくれたおかげで……」

(=゚д゚)「慰めはいらねぇラギ……
    ジュスティアを守り切れなかったんだ……」

一人でも多くの市民を脱出させることには成功した。
しかし、街そのものは勿論だが、ジュスティアは防衛に参加した円卓十二騎士と軍隊、そして警察までも失った。
市民を逃がすために、全ての警官はその場で死ぬ覚悟で戦いに赴いた。
死んだ人間達に悔いはないはずだ。

ただ一つ、トラギコが解せなかったことがある。
全ての警官を代表し、トラギコが最後の守りを任されたことだ。
円卓十二騎士と共に、迎えが到着するまでの間地下シェルターを守り抜くという大役。
本来であれば、別の警官や円卓十二騎士が任されて然るべき場所だ。

だがワタナベ・ビルケンシュトックが土壇場で裏切ったのは、トラギコがその場にいたからでもある。
それはトラギコの気まぐれの様な見逃しが発端だった。
もしもワタナベを殺していれば、この結果は得られなかった。
同時に、トラギコが最後の守りを任されていなかったとしても同様である。

今、アンストッパブルに乗車しているジュスティア市民を守り抜く責任を一身に背負っているのは、トラギコただ一人。
彼らの帰るべき場所を守れなかった、無力な刑事。
その背中に感じる重圧は、これまでのどんな事件よりも重く感じられていた。

(=゚д゚)「……なぁ、俺の棺桶はまだあるラギか?」

728名無しさん:2024/07/14(日) 18:49:33 ID:K.ug12hY0
豸゚ ヮ゚)「はい、現在充電中です。
     残念ながらコンテナがないので、汎用コンテナを使用しておりますが問題ありません。
     どうするおつもりなのですか?」

(=゚д゚)「俺もイルトリアに行くラギ。
    悪いが、それまで乗せて行ってもらうラギ」

次第に意識がはっきりとし、思考が動き始めたことを認識する。
多くの人間の命のバトンを強制的に受け取った以上、トラギコがここで悠長に眠っていることを許す人間はいない。
少なくともジュスティアの中心にいた人間達がトラギコに期待することは、ただ一つ。
彼の主義に反しようとも、彼の自認に反しようとも。

ただひたすらに、正義の味方であり続けること。
それだけが、多くの警官と仲間たちによってトラギコが背負わされた役割なのだ。
生き続ける限り、トラギコは彼らの想いを引き継がなければならない。

豸゚ ヮ゚)「断っても、同行するつもりなのでしょう。
     では、イルトリアに到着するまでの間は絶対安静にしてください。
     せっかく縫合した腹の傷も、輸血した多くの血も無駄になりますので」

(=゚д゚)「あぁ、善処するラギ」

誰かに期待を押し付けられることは、初めてではない。
特に、正義の味方であることを強要されるのは彼の記憶の中では数えきれないほどある。
それでも、例え一方的な期待を押し付けられたのだとしても。
そのことを恨んだことは、ただの一度としてない。

(=゚д゚)「ラヴニカか……またすぐに戻ってくるとはな……」

ゆっくりと、トラギコは瞼を降ろす。
興味があるのはラヴニカの現状ではない。
少なくとも停車駅として利用できる以上、ラヴニカでの戦闘は収束を見せ、安全な状態にあるはずだ。
ならば今気にしなければならないのは、間違いなくイルトリアである。

世界最強の街にエライジャクレイグが援護に回らなければならないというのは、つまり、戦闘が長引く可能性が高いということでもある。
ジュスティアでさえ攻め込むことをしなかったイルトリアを相手に、長期戦を仕掛けられるほどの物量と質量を有しているという現実。
それを考えれば、今はジュスティアが失われたことを嘆いている場合ではない。
気持ちを整理しながら、トラギコは再び眠りについた。

(=-д-)

――トラギコが如何に自分を責めようとも、彼がいなければ市民は全員死んでいたこともまた事実なのである。

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               これは、力が世界を動かす時代の物語
      This is the story about the world where the force can change everything...

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729名無しさん:2024/07/14(日) 18:49:59 ID:K.ug12hY0
――時間はジュスティア上空に信号弾が打ち上げられるよりも前、世界が正午になろうかとする時。
世界がまだ核の冬を迎えるよりもほんの少し前、世界に青空があった時に遡る。
それは、世界が一つになるという喜びで賑わうニョルロックで、極めて静かに始まった。

(^J^)「しかし、早い所戦争が終わってくれないもんかね」

街にはラジオから流れる戦況の実況が響き、抵抗を続ける街が一つ減る度、歓声と祝杯が上がった。
この日、ニョルロックで酒を提供するあらゆる店は過去最高の売り上げを記録していた。
一歩ずつ世界が変化していく。
彼らの住むニョルロックを統べる内藤財団がその指揮を執り、世界をより良くするというのは実に爽快かつ誇らしいものだ。

ジュスティアが正義を無理強いし、イルトリアが力で押さえつけるような手段が世界から消えることで、世界は真の平和と平等を手に入れられる。
踏み出した足が何かを踏み潰すのは自然の事であり、それが変化を生み出し、新たな何かを創造することにつながる。
それが分かっている街は早々に内藤財団の提案を受け入れ、同じ“国家”の一員として世界を一つにしようと動き始めている。
戦闘に途中から参加した街も多くあり、その圧倒的な物量はたとえイルトリアとジュスティアであろうとも、耐えきることは不可能だ。

まるで祭りの様に賑わう街の中を、ニョルロックの治安維持組織である“レプス”に所属するニトロ・ブルバーストはゆっくりと周囲を眺めながら歩いている。
彼の隣で同じく街の治安を守るソニック・ル・フォードはニトロの言葉への返答を、溜息と共に吐き出した。

(-゚ぺ-)「どうして世界がより良くなるってのに抵抗するんだろうな」

(^J^)「受け入れられないんだろうよ。 自分たちが椅子から引きずり降ろされるのが」

(-゚ぺ-)「あー、なるほどな」

抵抗すればするだけ、抵抗を試みる他の街に対する牽制になる。
あのイルトリアとジュスティアが苦戦しているのならば、自分たちが反抗したところで勝てるはずがない、と認識を変える街も少なくない。
そしてその姿を見た味方は、より強く自分たちの正しさを認識することになるのだ。
世界の変化はもう誰にも止められない。

これまで抑圧されてきた正常な考えが噴出し、世界はあるべき形に変わろうとしているのだ。

(^J^)「世界を変えるっていうのは、中々大変だな」

昨夜ニョルロックで起きた事件は既に処理がほとんど済み、死んだ一部の人間の関係者だけが悲愴な面持ちでいる。
それ以外の人間は、世界が変わりゆく様をカフェで、あるいはバーで、もしくはオフィスでラジオから流れる放送で堪能し、近づく誕生日に胸を躍らせる子供のような気持ちだった。
時折内藤財団の副社長や社長がコメントを述べ、世界が変わっていくことの喜びを語っている。
多くの英雄の功績が報われる時は、決して遠い未来の話ではない。

(^J^)「まぁ、この街は平和だからいいんだけどさ」

――その遥か頭上を一機のヘリコプターが通過したことに気づいた人間は僅かにいたが、そこから人が一人飛び降りたことに気づいた人間はいなかった。
だが、密集した高層ビルの間を躊躇うことなく突き進み、ギリギリのところでパラシュートを展開し、静かに交差点に降り立った時にはすでに多くの目撃者がいた。
その女性の姿を見た一般市民は、皆一様にその容姿を褒め称えた。
初めは何かのイベントなのかと考え、着地した時に拍手を送った者さえいた。

(`・_ゝ・´)「ははっ、素晴らしいパフォーマンスだったよ!」

(,,'゚ω'゚)「空からこんな美女が振って来るなんて、こりゃあ天使だな」

730名無しさん:2024/07/14(日) 18:50:21 ID:K.ug12hY0
近くのオープンテラスでビールを飲んでいた老紳士二人が、思わず声をかける。

(`・_ゝ・´)「どうせなら白い服を着ていれば良かったのになぁ。
      でも、えらい美人さんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、ありがとう」

カーキ色のローブの下に隠れていたのは、彼らがこれまでに見た中で誰よりも美しい女性だった。
完成された美ではなく、到達した美。
円熟でも熟成でもなく、気の遠くなるほど長い時間をかけて自然が生み出した圧倒的な風景に似たその美は、彼らから正常な判断力を奪っていた。
蒼穹色をしたつぶらな瞳と、一本一本が職人の手作業で生み出された金細工の様に輝く柔らかい色をした金髪。

その美貌に目を奪われた結果、そのローブの下に隠された複数の武器に気づくことができなかった。
騒ぎを聞きつけたルプスの一員がその姿を見た時、彼らは己の思考とは逆に、肩から下げたコルトカービンライフルを構えていた。
血の滲むような訓練通りに。
暗唱できるまでに叩きこまれた教訓通りに。

全てが、この瞬間のためにあったかのように。
あり得ない敵、想像上の敵だと思っていた存在が目の前に現れたのは、夢が実現した瞬間でもあった。
夢は夢でも、悪夢なのだが。

【占|○】『夢が叶うというのは、本当にうれしい事ですね』

――期せずして、ラジオから内藤財団副社長の声が聞こえてきた。

|゚レ_゚*州「動くな!!」

【占|○】『夢は人の原動力です。
     どうか、世界中の人と同じ夢が見られるといいのですが』

ζ(゚ー゚*ζ「いやよ」

向けられた銃腔は2つ。
普通ならば、大人しく言うことをきくだろう。
だが、彼らの目の前に姿を現したのは天使でもなければ、ただの来訪者でもない。
ルプスに所属した時、最優先で覚えさせられる顔と寸分たがわぬ顔を持つ人間。

それが、今、彼らの目の前に現実のものとして存在している。
世界最悪のテロリスト。
世界最恐の破壊者。
世界最凶の殺戮者。

そして、世界の敵。

|゚レ_゚*州「両手を頭の上で組んで跪け!!」

ζ(゚ー゚*ζ「どうしても私に言うことをきかせたいなら、この世界のルールに従ってやってみなさい。
      やれるものならね」

731名無しさん:2024/07/14(日) 18:51:06 ID:K.ug12hY0
仮に、もしもこの世に天使がいるとしたら、きっと、この時のデレシアと同じ表情を浮かべて地上に舞い降りたのだろうと目撃者たちは誰もが思った。
向けられた殺意も銃腔も、その全てを気にしてない姿は神々しくもあった。
その後に起こった全ては刹那の出来事。
笑顔と共に返答した女性の両手に黒塗りのデザートイーグルが構えられているのを目撃した時、彼女を天使だと考える人間はいなかった。

――そして、甘い香りを漂わせる破滅と混沌の化身が優しく殺戮を始めた。

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                     Ammo→Re!!のようです

                     Ammo for Rebalance!!編

                  /  i  : |  |  :/ .:/     / :/ |: ;    |: :  |
              / / |│ :│  | /| ://  /// ─-i     :|八 !
            //∨|八i |  | ヒ|乂 ///イ     |     j: : : . '.
            ///: : i: : : :i i  │∠ : イ//    ミ=彡 ;    /: : :八: :\
            /{:八: : :i/: :八: ∨|八|  |/ :j            /    /: : :/ ハ :  \
.        /   /: :\ \ \ : : \\     〈| .       /   / : :  / } : | 、ヽ
           / : : : : \ \ \: :从⌒            ∠/  //: / ノ.: :リ 〉: 〉
     /   人 : : :  -=ニ二 ̄}川 >、  `''ー 一    ∠斗匕/´ ̄ ̄ ̄`Y: :{/: /
     {   { 厂      . : { /⌒\          .イ///: : : .____   人: :\/
     ':   ∨} _: : : : 二二/ /   | \_   -=≦⌒\く_: : /: : : : : : :_:): :\: :\

                           最終章

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血液を入れた水風船が破裂する様に、デザートイーグルから放たれる対人用の強装弾“INF”は無防備な男の頭を血煙へと変えた。
人体の破壊に特化したその銃弾の威力は、防弾着さえも容易く貫き、肉を抉り取る。
デレシアの容姿と実力を聞いていたとしても、それは彼女の現実を理解するには不十分過ぎた。
もしも本当にデレシアの実力を正確に理解していたのであれば、生身で彼女に銃を向けるはずがない。

一発の銃声に聞こえる2連射は、街に鳴り響くラジオの音と花火の音に紛れて消えた。
だが、一瞬で死体と化した男二人の存在は、周囲の人間の目にしっかりと焼き付いていた。
まるで映画。
まるで冗談。

そして、まるで悪夢そのものに映ったことだろう。

(,,'゚ω'゚)「あ……な……!!」

(`・_ゝ・´)「な……!?」

ζ(゚ー゚*ζ「失礼するわね」

732名無しさん:2024/07/14(日) 18:51:57 ID:K.ug12hY0
民間人に銃口を向けることなく、デレシアは悠然と歩きだし、ルプスが路上に駐車していたSUVに何食わぬ顔で乗り込んだ。
そのまま街中を走り出すと、サイレンを鳴らして接近する車輌が続々と現れて追跡を始める。
スライドドア、あるいは、ルーフから身を乗り出してライフルを構えてデレシアの乗る車に警告なしで銃弾を浴びせかける。
それは、先刻まで祝祭を享受していた市民にとって、あまりにも唐突に発生した恐怖の瞬間だった。

放たれる銃弾を回避する代わりに、デレシアは歩道に向けて車を走らせた。
その効果は言うまでもなく、てき面だった。
可能な限り車道と歩道の中間を走らせることで、危機感を覚えた民間人が蜘蛛の子を散らすように左右に展開する。
それによって、デレシアを追跡する人間達は照準をずらし、ライフルの銃爪から指を離さざるを得ない。

その躊躇いこそが、デレシアにとっては無限にも等しい時間を生み出すことになる。
置かれていたゴミ箱やテーブル、椅子や自転車を弾き飛ばしながらも速度は一切落とさない。
彼女の目的は市民の殺戮でも街の破壊でもなく、ニョルロックからどこかへと逃げた最高幹部の殺害だ。
あれだけの演説をしておきながら、その後姿を現していないことから、すでに街にいない可能性は高かった。

恐らくは演説はデレシアをこの場におびき出すための演出の一環であり、実際にそれはこうして成功している。
そして、デレシアが現れても力を持つ迎撃部隊が出てこないことを見れば、この街に長居する理由はない。
デレシアをここに呼び寄せた割には、あまりにも歯応えがなさすぎる。
肩透かしというレベルではない。

彼らの悲願の一つはデレシアの抹殺だというのに、用意した兵士はただの警察組織だ。
この場所に幹部がいると印象付けるためには、もっと必死に抗わなければ意味がない。
警察の動きは明らかにデレシアだけを追っており、要人の護衛に向かうようなそぶりはまるでない。
つまり、不在なのは間違いないのだ。

この街に幹部たちがいないと分かってしまえば、追跡されることは分かっていたはずだ。
それを誤魔化して時間を稼ぐのならば、警察組織にその事を徹底しておくのは至極当然の話なのだが。
それがまるで感じられない、ということはそれが不要な備えが施されているということだ。
全の備えをした上で件の放送をかけ、作戦を実行に移したのは間違いない。

そう考えると、これまでの行動が不自然に思えて仕方がない。
例え、“声を上げて行動することで国という考えを根付かせる”ことが彼らの目的だとしても、ここまで長い時間をかけた意味がない。
内藤財団の影響力を極限まで高めてから実行する必要もない。
単位の統一を発表したタイミングに合わせても問題はなかったはずだ。

機が熟するのを待っていたのだろうか。
自らの軍隊が必要十分以上の装備と兵器を手に入れ、イルトリアとジュスティアを同時に相手にできるだけの武力を待っていた。
しかし同時である必要はない。
先にジュスティアを滅ぼし、その後でイルトリアを狙えばいいだけの話だ。

あえて同時に相手にするというリスクを冒す理由は、今のところ見えてこない。
もっと別の要因が彼らに計画実行を決断させ、今日を迎えたはずなのだ。
現に内藤財団の本部であるニョルロックが要所ではなく、捨て石同然の場所と化しているのがその証拠。
ここにデレシアが来ることは分かり切っていて、何も対策をしていないということは、この街に守る価値がないということでもある。

長年育ててきた街に興味がない、ということは他に何かがあるのだ。
街を切り捨ててでも追うべき何かが。
つまり、これは時間稼ぎでしかないのだ。
本命にデレシアが目を向けないよう、一瞬だけでもその目をニョルロックに向けさせるためだけに、この街が作られたのだろう。

733名無しさん:2024/07/14(日) 18:53:02 ID:K.ug12hY0
この街に幹部が残っている可能性を彼女の中に生み、追跡の手を止めさせるためだけに。
あるいは、この街を滅ぼすことで時間を稼ぐために。
いずれにしても長い時間をかけて丹念に作られた餌は、こうして見事にデレシアをおびき出し、時間という何にも代えがたい物を生み出すことに成功した。

ζ(゚ー゚*ζ「……さて、どこかしらね」

だが、とデレシアは思う。
ここまでして時間稼ぎをするのは、何もデレシアから逃げてイルトリアとジュスティアを滅ぼすためではないはずだ。
逃げるだけであれば空中なり、海中なりに逃げればいい。
昨日の夜の時点で逃げることが可能だったため、四方を陸地に囲まれたこの場所から海沿いのどこかに行く時間は十分にある。

逃げておきながら、あえて足跡を残し、誘導するかのような行動が気になる。
その真意に、デレシアは一つ思い当たることがあった。
わざわざこの場所にデレシアを呼び出した、たった一つの理由。
それは、妄執、あるいは偏愛、偏執と言われるものが起因していた。

それであれば、彼らの目的がデレシアをこの場所に連れてくる、というだけだとしても理解できる。

ζ(゚、゚*ζ「……!」

不意に、デレシアは背筋に走った冷たい感覚に意識を取られた。
ハンドルとサイドブレーキを使って車体を45度回転させ、とあるビルのロビーに突っ込んだ。
その直後。
嵐の様な爆風と雷の様な爆音が、ニョルロックを襲った。

街中の窓ガラスが振動し、割れて道路に降り注ぐものもあった。
あまりにも唐突なことに、街中を走っていた車が運転を誤り、次々と事故を起こしていく。
周囲から聞こえてくる悲鳴とは裏腹に、ラジオから流れる言葉は内藤財団の掲げた夢に賛同する街が増えて行く様子を嬉々として語っている。
それはつまり、ラジオの放送をしている人間がこの街の周辺にはいないということ。

副社長である西川・ツンディエレ・ホライゾンの何事もない声がラジオから聞こえてきたことを考えれば、爆発を認識できない場所で放送していることになる。
考えられる場所は、東。
クラフト山脈を越えた場所にいる可能性がある。
そしてその可能性が、デレシアの推測を確信に変えた。

爆風が収まったのを確認し、デレシアは車を後退させて道路に戻った。
彼女を追っていた車両は急停車しているか、横転しているかだった。
普通ならばこの状況でもデレシアの乗った車を追うのだが、今は普通ではなかった。
街の混沌を収めなければ、昨夜の騒動の事もあって警察組織のメンツは丸つぶれになる。

遠方から聞こえた爆発音。
そして、バックミラー越しに見える巨大な柱じみた黒雲。
それはこの世の終わりか、あるいは超常現象の類に見えたことだろう。
その正体を、ニョルロックにいた人間の中で唯一デレシアだけが一目で見抜いた。

ζ(゚、゚*ζ「……」

734名無しさん:2024/07/14(日) 18:53:30 ID:K.ug12hY0
ニューソクの爆発である。
以前にデレシアが爆破させたのは海中だったため、そこまで大事にはならなかった。
しかし今回は立ち昇る黒い煙の量と勢いが尋常ではなかった。
恐らく、爆発したのは一基ではなく、二基。

舞い上がる粉塵と土砂の量が異様なことが、それを証明している。
地中で爆破され、何かしらの経路を通った為に勢いが集約されて高高度にまで達しているのだと推測された。
しばらくの間、地球の気温が下がることは避けられないだろう。
デレシアは吹き付けてくるぬるい風に目を細め、誰にも気づかれないような小さい溜息を吐いた。

これで、ようやく彼らの狙いが分かった。

ζ(゚、゚*ζ「……そういうことね」

大陸の真ん中に位置するこの場所を発展させ、大量のニューソクを手に入れていたのも。
オセアンに眠っていたハート・ロッカーを手に入れようとしたのも。
ペニサス・ノースフェイスを殺害したのも。
オアシズに積まれていた“ドリームキャッチャー”を奪取しようとしたのも。

ジュスティアとイルトリアに攻め込んだのも。
海路と空路を最優先で封鎖し、陸路のみをあえて残したのも。
全ては、この瞬間のためだけに用意していたのだ。
本質から目を背けさせつつ、全てはたった一つの目的を果たすための歩み。

ζ(゚ー゚*ζ「頑張ったじゃない」

その言葉は、心からの賛辞だった。
まるで出来の悪い生徒が宿題を完ぺきに仕上げたのを教師が褒めるように、デレシアはその言葉をつぶやいた。
それと同時に、狙いが分かった為に次にすべき行動が決まった。
陸路では間に合わない。

場所の問題で海路は使えない。
恐らく使用された隠し通路はすでに寸断されているか、複数の分岐を用意してデレシアが追い付けないようにしているはずだ。
残された手段は、空路のみ。
だが相手がここまで用意周到に準備をしているのであれば、空路を断っている可能性は高い。

対空装備がこの街にないとは限らない。
ここに降り立った時点で、デレシアが自分たちを追えないようにと準備をしていたのだろう。
デレシアを殺すことが無理ならば、せめて釘付けにするという割り切り。
最短距離を進んでも、相手の目論見を阻止することはできない。

実によく考えられた作戦だ。
全ての部隊を囮にたった一人を釘づけにして、“自分の本当の目的”を達成するのが、この大騒動の全貌。
流石にここまでの規模の馬鹿げた作戦を実行するなど、考えられなかった。
だからこそ、彼らはデレシアの想定の上を行くことが出来た。

それは素直に認めるしかない。
デレシアに対する正しい評価であり、判断だ。
ティンバーランドは“彼”の本当の目的を隠すための隠れ蓑。
きっと、今も世界中で戦っているティンバーランドの人間のほとんどがその真意を知らないだろう。

735名無しさん:2024/07/14(日) 18:54:22 ID:K.ug12hY0
実際、ティンバーランドの理念は第三次世界大戦の時から変わっておらず、ブレがなかった。
つまり、今の内藤財団には2つの夢があったのだ。
どちらかを防ごうとすれば、必ずどちらかの夢が叶う。
大きく提示された世界統一国家の構想の影に隠れた、もう一つの夢。

たった一つの、小さな、矮小なまでの執着心が生み出した夢だ。

ζ(゚ー゚*ζ「……」

だが、デレシアはそれを見逃すことはできない。
それだけは、決して許せない。
その夢は、叶えさせるわけにはいかない。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ」

綿密な計画。
用意周到な準備。
徹底的な情報統制。
そして、予想外の介入。

いつの時代も、完璧なものは存在しない。
完璧を打破するのは、いつだって理外の存在なのだ。
ドアを開いて姿を晒し、内藤財団本社ビルに顔を向け、デレシアは口を開いた。

ζ(゚ー゚*ζ「協力してもらえるわよね?」

遥か遠方から向けられていた視線の主に、デレシアは人差し指をさしてそう語りかけた。
正体は分かっている。
そして、その返答は聞くまでもない。
デレシアを見つめ続けるその人物は、必ず乗ってくるという確信があった。

その人物は必ず、相手を追うための手段を確保した状態でいることも分かっている。
この街で争いを起こし、この街を去らなかったのは、何かが起きることを予期していたからなのだろう。
ニョルロックは内藤財団そのものと言ってもいいぐらいの力を持っている。
最数的に作戦が全て成功すれば街を放棄するということは、まずありえない。

長期的な目で見れば、ここで待ち受けていれば自ずと敵の首魁が帰ってくるため、そこを狙えば、警戒心が薄れた中での暗殺が行える。
しかし、それはあくまでも長期的な目で見た場合の話である。
今の状況は長期的な目で見るだけの余裕はない。
彼の協力がなければこの状況を打破できないし、彼は目的を達成できなくなる。

ζ(゚、゚*ζ「っ……!!」

再びの悪寒。
急いで車内に戻ると、先ほどとは若干違う方角で巨大な爆発が起きているのが見えた。
今度は先ほどの倍以上の太さのある黒い煙が上空に伸び、空を黒く染めて行く。
そして、先ほどニョルロックを襲った倍以上の強さの衝撃波が再び街を襲う。

紛れもなく、地上で起きたニューソクの爆発だった。

736名無しさん:2024/07/14(日) 18:54:46 ID:K.ug12hY0
ζ(゚、゚*ζ「……」

――核の冬が再び始まる。
それは、決して避けられない事象だ。
ニューソクが連続して爆発すれば、核の冬は間違いなく起こる。
幸いなことは一つだけ。

第三次世界大戦で起きた核の冬は、大量の放射性物質を含んだ灰と雨が降り注いだことにより、地球上の何もかもが汚染された。
だが、それは兵器として敵国を汚染することを目的に使用した国があったことが原因だった。
正しい手順を踏まなければ、ニューソクは放射性物質を拡散することはない。
誘爆、あるいは暴走に起因する爆発であれば壊滅的な爆発を引き起こすだけで済む。

ティンバーランドがニューソクの奪取を行っていたのは、何も、自分たちの兵器への転用だけが目的ではない。
ニューソクがただの発電装置ではないと知り、その研究をすることで“歴史を越える”ことを狙ったのだ。
未だに人類が越えられていない、ニューソクが引き起こした人類史上最悪の状況を突破するために。

ζ(゚ー゚*ζ「何年ぶりかしらね、あの場所に行くのは」

――そして、その先にある物を手に入れるために。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

えぇ、あの時は街全体が酷い混乱に陥りました。
私はカフェでコーヒーを飲んでいたのですが、衝撃でカップを落としてしまいましたよ。
そうですね…… 爆風もそうですが、街に残されていたルプスが翻弄されていたのが印象深いですね。
街を守る彼らが、たった一人を相手に、ですからね。

                               ――ニョルロックの生き残り、A氏の証言

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ギコ・カスケードレンジは光学照準器越しに指をさされた時、驚きの感情を確かに感じながらも、銃を動かすことはしなかった。
卓越した集中力は、彼の心と体とのつながりを遮断しており、どんな精神状態にあっても狙撃に必要な静止力を失うことはない。
強烈な爆風が二度、街を襲っても彼の構えたライフルはビルの振動以外で揺れることはなかった。
再び街で戦いを始めたデレシアの周囲を観察するが、特に大きな動きは見られない。

やはり、敵の総大将はこの街に戻ってはいない。
戻るまで待つつもりではあったが、デレシアと共に行動すればその手間と時間を省けるのは間違いない。
師匠であり恩師であるペニサス・ノースフェイスの友人である彼女ならば、必ずギコの復讐に手を貸してくれるだろう。
逡巡の後、ギコはようやく溜息を吐いて自分に言い聞かせるように言葉を発した。

(,,゚Д゚)「……乗ってやる」

改造の施されたチェイタックM200に装填されている弾は、例え2キロ離れている棺桶を相手にしても一発で命を奪えるほどの威力を有している。
照準器の倍率を変更し、より広い視野を確保する。
徐々に暗くなり始めた街の様子が良く分かる。
人々の動き、息遣いまで見える。

737名無しさん:2024/07/14(日) 18:55:23 ID:K.ug12hY0
そして、ビルの屋上に潜んでいる人間の姿も。
彼のいる場所はニョルロックで最も高いビルの一室。
殺した内藤財団役員から奪ったカードキーで入り込んだ、内藤財団本社ビルの最上階。
即ち、社長室である。

前日に内藤財団の社長が街から逃げたことを知っていたため、この部屋が無人になることが分かっていた。
部屋の入り口には対人地雷を設置してあるため、万が一誰かが入ってきても問題はない。
待ち伏せして殺すために陣取った部屋だが、周囲を360度見渡せるだけでなく防音も対策済みであるという部屋は狙撃手にとってはこの上なく理想的な場所だった。
夜明け前から観察している中で、何故屋上に複数の人間がいるのか、そして、何故ロケットランチャーの類を装備しているのかが分からなかった。

ギコを探している風ではなかったし、何より装備が大げさすぎた。
彼らの視線は街の入り口などに向けられており、まるで外から来る何かに備えている様だった。
その理由は、デレシアの登場で明らかになった。
彼等はデレシアを待っていたのだ。

だが、デレシアが街で暴れている間も、彼らは攻撃を仕掛けるそぶりを見せていない。
そこで合点がいったのは、デレシアの動きだった。
標的がこの街にいないということが分かれば、移動手段を確保して追跡をするのが自然な流れだ。
陸路では速度が落ちるため、選ぶのは空路一択。

ニョルロックには民間機も含めて複数のヘリコプターが存在している。
それを奪取し、移動に使おうと考えるのもまた、自然の流れである。
ヘリコプターは機動力があるが、速度はない。
そこを狙い撃ちにすれば、例え爆殺できなくても落下死を招くことはできるだろう。

つまるところ彼らはこの街全体を犠牲に、デレシアの殺害を考えているのだ。
彼女がヘリコプターに乗るまでは街を好き放題にさせ、その時が来たら逃げ場のない空中で殺すことを狙っているのだ。
場合によっては、爆薬が仕掛けられている可能性も高い。
ギコが街に残っているかどうかを考えることもせず、ただデレシアの来訪と出発を待っていることがその証明でもある。

デレシアにのみ集中しているせいで周囲への警戒が疎かになっていることが、彼らの最大の失敗だと言えた。
実際、十分な充電と整備が施されたヘリコプター――元は幹部の脱出用に地下に隠されていた物――を一機、関係者を装って屋上に用意したことにすら気づかれていない。
いざという時のギコの脱出手段にと思っていたのだが、デレシアは上空からその存在を確認していたに違いない。
その上でデレシアは彼に協力を要請したということは、こちらの意図を汲み取って手を貸してくれるのだろう。

むしろ、ギコにとってはありがたい提案でもあった。
狙いを定めるべき複数の標的を確認し、ギコは息を深く吐く。
最大で1キロ、最短で400メートルの位置にいる。
数は7か所に合計で14人。

装弾数は薬室を含めて11。
用意している弾倉は10。
普通の狙撃手であれば14発で決着をつけるだろう。
だがギコとしては弾の節約を望んでいた。

何より、短期決戦が望ましい。
この街を安全に脱出するまでの時間を稼げればそれでいい。

  One shot, two kills.
(,,゚Д゚)「……1撃2殺」

738名無しさん:2024/07/14(日) 18:56:05 ID:K.ug12hY0
まずは最短地点からの狙撃だった。
光学照準器の調節を素早く行い、狙いを定める。
だが人間ではなく、標的が背負っているロケットランチャーの弾薬を狙い撃った。
全ては流れるように滑らかな狙撃だった。

一発目の着弾とその結果を見るまでもなく、照準器の十字は二か所目に向けられる。
半自動で排莢された薬莢が地面に落ちる時には二発目が放たれた。
榴弾が爆発し、誘爆した音はまるで花火の様に聞こえてきた。
三か所目の人間達は爆発音の方を見ようともしていなかった。

既に街中でデレシアが銃を発砲し、車が爆発していること、そしてどこからか街全体を襲った爆風によって何に注意すればいいのかが分かっていないのだ。
周囲の状況に気を配るのではなく、デレシアの動向にだけ注意を向けるというのはある意味で正解だ。
四か所目では流石に何かを察したのか、首を周囲に向ける人間がいたが、すでに銃弾は放たれた後。
発砲から少しの間を開けて爆発が起きた。

予備の弾薬が多めにあったのか、比較的大きな爆発が起きる。
それを目撃した五か所目の人間がデレシアの襲撃だと勘違いを起こし、ロケットランチャーを構えた。
だがギコの位置と存在には気づいていない。
距離は約1キロ。

着弾までの間に相手がどう動くのかを予想し、銃爪を引く。
1秒近くの間を開け、銃弾は精確に予備弾薬を貫き、爆発を引き起こした。
六か所目に照準器を向けた時、僅かな光の反射を確認した。
何者かがこちらの存在を認識した可能性があった。

冷静に次弾を装填させ、相手の位置と向きを探る。
見つけた相手は体が擬古のいる方角を向き、背負っているはずの弾薬は背後に置かれていた。
誘爆をこちらが誘っていることが分かったのだろう。
しかし遅かった。

放った銃弾が男の体を貫き、そして背後の弾薬に着弾。
爆発の反動か、それとも着弾の反動かは分からなかったが、男の構えていたロケットランチャーから放たれた榴弾が近くのビルに命中した。
最後の一か所はギコに気づいておらず、双眼鏡でデレシアの姿を探している。
その姿が数秒後に爆散し、ギコはようやく息を吸い込んだ。

この間、実に15秒。

(,,゚Д゚)「……ふぅ」

改めて周囲の屋上に目を向け、脅威がいないことを確認する。
後はデレシアがここに来れば済む話だ。
こちらから迎えに行くなど、ビルの密集するニョルロックでは自殺行為に等しい。
地上から撃たれて墜落するなど、あまりにもつまらない話だ。

(,,゚Д゚)「心配はいらなそうだな」

銃声と悲鳴。
そして、圧倒的なプレッシャーがビルに向かってきているのを確認してから、ギコは屋上へと向かったのであった。

739名無しさん:2024/07/14(日) 18:56:25 ID:K.ug12hY0
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時間こそが、人類最古の約束だ。

                                           ――ジャック・ジュノ

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アンストッパブルがラヴニカに停車し、続々とコンテナが切り離されてジュスティアからの避難民たちが街に降り立った。
激しい戦闘の後に漂う硝煙と煙の臭いは、この世界が取り返しのつかない大きな変化を迎えたことを、嫌でも思い知らせた。
それと同時に、内藤財団の掲げた理想に必ずしも世界中が賛同しているわけではないことを教えるものでもあった。
避難が半分完了した頃に、ジュスティアへの砲撃を完了させた列車砲がラヴニカに到着した。

2人のジュノが合流し、すぐにアンストッパブルと列車砲の連結が開始される。
事前にラヴニカへの連絡があったものの、激しい戦闘の影響で、補給物資の積み込みに遅れが生じていた。
だがそれも、ジュノたちにとっては織り込み済みの状況だった。
砲弾を含んだ弾薬を補給しつつ車両の確認を行い、イルトリアでの戦闘に備える。

光が遮られた空の下、その作業は黙々と行われた。
作業員たちは無駄口一つなく弾薬を積み込み、整備員が車両の細かな調節を行っていく。
ジュスティアへの絶え間ない砲撃の影響で、砲身や車両に大量の煤の付着や歪みが生じてしまっているのだ。
煤を払い落とし、歪みが確認された部品は即座に交換の対象となる。

連結作業は整備と同時並行で行われ、作業の流れはグリスを塗った歯車が回る様にスムーズだった。
時間厳守を旨とするジュノ兄妹と、技術による完璧さを追求するラヴニカの技師たちの動きはこれが初めてとは思えない程の連携を見せていた。
互いにプロとしてやるべきことをやる。
それが、彼らの間の摩擦を全て無くしていた。

(ΞιΞ)「棺桶も何機か持っていくか?」

積み込み作業を行う男の言葉に、ジュノは首を縦に振った。

豸゚ ヮ゚)「是非頼みます!!」

(^ム^)「後、戦える人がいればぜひ搭乗を」

イルトリアでの戦闘が長引けば、それだけイルトリア軍にとって不利になる。
世界中の反イルトリアの勢力はもとより、内藤財団に唆された人間達が向かっているはずだ。
事実上、内藤財団はジュスティアを攻め落とした。
その力を考えれば、イルトリアへの攻撃は時間をかけて長期的に行うことだろう。

一人でも多くの戦闘員がいれば、イルトリアが負けることはない。
とにかく、今は援軍が必要になる。
エライジャクレイグは戦闘に特化した人間が少ないため、今向かっても出来るのは砲撃支援ぐらいだ。
実際の戦闘は街中で行われているだろうから、砲撃は極力避けるべきなのは言うまでもない。

市街戦を得意とする人間が参戦すれば、少しは手助けになるかもしれない。

(ΞιΞ)「それについては今、有志を募っているところだ。
       それよりも、厄介なことが一つある」

740名無しさん:2024/07/14(日) 18:58:37 ID:K.ug12hY0
豸゚ ヮ゚)「何ですか?」

(ΞιΞ)「ラヴニカを襲った連中が、イルトリア方面に向かって侵攻している。
      まだ合流はしないだろうが…… 気になることがあった。
      連中を束ねていた男のアクセントが、タルキールのものだった。
      あいつら、行く先々で味方を増やしていく算段なんだろうよ」

豸゚ ヮ゚)「移動手段は車、ですか?」

(ΞιΞ)「あぁ、連中は車だけだ。 列車は使わせなかったよ、意地でもな。
      時間と距離を考えると、あんたらは恐らくはヴィンスで追いつくことになるだろうな……」

(^ム^)「ヴィンスは連中の傘下だ。
    戦闘は避けられないだろうな……」

観光資源で食いつないでいる街にも、限界がある。
ヴィンスは内藤財団の補助があるからこそ、街が成り立っているようなものだ。
かつてヴィンスを牛耳っていたマフィアたちがとある事件で一掃され、それによって生じた多くの経済的損失を補填するために内藤財団の助力があった。
こうしてヴィンスは昔から変わらずに観光業を前面に出すことができ、今日も観光の街として有名を馳せているが内藤財団の力がなければ一瞬で干上がる。

ここから敗走した部隊と合流すれば、素人集団であろうともより大きな勢力となってイルトリアを目指すだろう。
特に、タルキールでの合流を止められないのが厄介だ。
あの土地にはイルトリアに恨みを持つ人間が大勢いる。
内藤財団が密かに根を張っていたとしたら、非常に厄介だ。

流通の中間点を抑えられているということは、流通の首根っこを押さえたのと同義。
当然、内藤財団にとって不利益を被るような流通は即座に止められることだろう。
戦争状態にあろうとも、流通も経済も止まることはない。
この状況下で内藤財団が協力を要請すれば、どんな企業も首を縦に振ることになる。

内藤財団の為にという大義名分は、言い換えれば、無尽蔵の経済力と物資が後ろ盾になることと同義だ。
つまり、彼らは道中でいくらでも物資と人員の補給が可能になるのだ。
連続して増えてくる援軍も厄介だが、それ以上に素人が集団となり、半ば暴徒の津波じみた勢いのまま攻撃されることの方が脅威だ。
戦闘中のイルトリアがこの状況を察したとしても、派兵するだけの余裕はないだろう。

止めるのならば、今しかない。

(^ム^)「となると、ヴィンスで叩き潰すしかないか」

エライジャクレイグが用いる列車砲は旧来のそれとは異なり、走行中に砲撃することが可能である。
しかしながらその列車砲の特性上、近距離の相手や移動しながらの砲撃は精度が極端に落ちることになる。
更に、相手よりも後方で戦えばレールを破壊されて走行不能になる危険性もあるため、追い越した状態で攻撃を仕掛けなければならない。
決して楽な戦いではない。

相手がこちらに気づき、先にレールを破壊すればそこで大きな足止めを食らうことになる。
必要なのは精度を落とすことなく、相手の常識を超えた速度と精度での猛烈な攻撃。
そして、高い破壊力を秘めた一撃だ。
相手がヴィンスに入った段階で攻撃を仕掛ければ、少なくとも先手を取られることは考えにくい。

741名無しさん:2024/07/14(日) 18:58:58 ID:K.ug12hY0
そうなると、必然、ヴィンスそのものを攻撃することになる。
若干の躊躇いはあるが、この際仕方がない。
ヴィンスに到着するまでの間、相手の正確な位置さえ分かれば追いながら砲撃を行うことができる。
移動の速度を殺さず、かつ遠距離からの攻撃は相手にとって相当に嫌なものになるだろう。

豸゚ ヮ゚)「最悪、ヴィンスを、になるけどね」

(^ム^)「それならそれで仕方ない。
    作業終了時間は?」

(ΞιΞ)「そりゃ勿論、定刻通りだよ。
      後10分以内で完了する」

連結を終え、各システムのチェックが進行していく間、ジュノ達はラジオから流れてくる放送に、一時耳を傾けることにした。

【占|○】『現在、世界中を襲っている異常気象についてですが、南方で発生した二度の大爆発が原因であることが専門家から報告されています。
     ニューソクが爆発したとみられており、相互の関係は不明なままです。
     この気象がいつまで続くかは分かりませんが、予測によれば、数年単位で続くのではないかと言われています。
     太陽光発電に頼っている街は、内藤財団系列の工務店に依頼いただければ、別種の発電装置をすぐに供給いたします。

     在庫数は十分にあるため、焦らず、冷静に行動をして下さい。
     なお、供給の対象となるのは“国”に属することに同意した街のみとなります』

その放送につられて、二人のジュノが同時に空を見上げた。
黒と言ってもいい灰色の空がそこにはあった。
青空は失われ、夏の暑さがぬるく感じる。
吹き付けてくる風は、仄かな火薬の匂いを孕んでいる気がした。

【占|○】『続けて、世界で起きている抵抗運動の近況を報告します。
     ジュスティアでの戦闘は終結し、現在は民間人の救助活動が行われています。
     また、現在、イルトリアで大規模な戦闘が発生しております。
     一部情報では、イルトリア海軍の防衛網を突破し、市街戦に発展した地点もあるとのことで――』

その言葉がどこまで正確なのかは分からない。
こうして平等に放送をしていると思わせ、その実、情報操作をしている可能性は大いにある。
今や、世界の中で少数派なのはジュノ達であり、世界が望んでいる放送はより彼らにとって都合のいい内容でなければならない。
ジュスティアに関する放送が良い証拠だ。

民間人も全員殺そうとした人間が、今更救助活動をするはずがない。
目撃者を一人残らず始末するという行動を言い換えているだけだろう。

(^ム^)「……焦るなよ、ジュノ」

豸゚ ヮ゚)「分かってるよ、ジュノ」

二人が考えていることは、他の誰よりも分かりあえている。
彼らの中にある絆は、他の誰かに真似できるものでもなければ、システムで代用できるものでもない。
あるいは、その絆は別の言葉に置き換えることも出来る。
即ち――

742名無しさん:2024/07/14(日) 18:59:25 ID:K.ug12hY0
(^ム^)「世界はまだ、終わらないさ。
    俺達がそうさせない」

そう言って、2人のジュノは深い溜息を吐いたのであった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

正義なんてものの為に仕事をしたことは、一度もねぇラギ。
俺はただ、真面目に生きている奴らが馬鹿を見るのが気に入らねぇだけラギ。

                                  ――“虎”トラギコ・マウンテンライト

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

トラギコ・マウンテンライトの意識は戻っていたが、四肢の末端にまで力が入らないことに苛立ちを覚えるだけの余裕はあった。
これまでに何度も病院で医師の世話になってきた彼が学んだのは、医者の言うことには従い、無理はしないということだった。
それが傷の治りを早め、最も合理的かつ万全の状態で職場に復帰する最短の方法だったのだ。
だがそれは平時の話だ。

(=-д-)「……」

ラヴニカからイルトリアに列車が向かうのであれば、それまでの間は眠って休むしかない。
それだけが唯一、トラギコの傷を癒し、1秒でも長く行動できるようにする方法なのだ。
意識にかかっていた靄は薄れ、今は自分の中で自分と対話することも出来る。
しかし、靄が完全に晴れたわけではなかった。

『トラギコさんは、この先どうしたいんですか?』

それは、かつての相棒の声を借りた自分自身への問いだった。
その答えを導き出さなければ、この先、必ず迷いが生じる。
それは自分が最も分かっていることだった。
天秤の秤に乗せる物が何か。

世界を考えるか、それとも、自分の人生を全うするために必要なことをするか。
その迷いは、ずっと前から持っていたような気もする。
デレシアという存在が彼にとって人生最後の難事件に値する物ならば、その途中経過に現れる事件は全て無視しても構わない。
そう、思っていた。

彼が刑事を続けているのは、決して、己の中にある正義感からではない。
多くの人間の期待によって作り上げられ、いつの間にか背負わされた“正義の味方”としてのレッテルが、彼に安易な引退の道を歩ませないのだ。

『刑事さんは、どうしたいの?』

それは、かつて自分が救えなかった少年の声だった。
孤児院で警官に憧れ、最期の瞬間まで正義であろうとした少年。
たった一人で犯人に立ち向かい、抵抗し、そしてそれが逮捕につながるきっかけを産んだ少年。
彼が正義に憧れたのは、その前日に出会った警官が原因だった。

743名無しさん:2024/07/14(日) 19:00:39 ID:K.ug12hY0
彼の存在が、トラギコの背中を押し続けた。
彼が憧れた夢の存在は不退転でなければならないと、命がけで戦った少年の為に自ら課した呪い。
逃げることだけは許されない。
倒れる時は前向きに。

一歩でも前に進むために。

『刑事さんはぁ、どうするのぉ?』

それは、自分が救い、そして救えなかった女性の声だった。
ある意味でそれは呪いに近いものだった。
自分があの日、法廷で叫んだことによって救われ、そして救われなかった女性の言葉。
トラギコはこれまでに犯罪者を見逃すことはしなかった。

例えそれが身内だとしても、手錠をかけ、然るべき判決を受けさせた。
これまでの人生の中で、ワタナベを生かして花屋に置き去りにした理由は、今ならば良く分かる。
それは贖罪のような感情だったのだ。
せめて、奪われた人生をもう少しの間だけでも生きてくれれば、と。

それが、万を越える民間人を救った。
万に近い人間の命を奪ってきた人間の手によって。

『君なら、どうする?』

それは、ジュスティア市長の声だった。
世界の正義を名乗るという、あまりにも荒唐無稽な責務を引き受けた男。
世界中の“悪”から恨まれ、狙われ、それでも立ち向かうことを決めた男。

『あなたなら、どうする?』

それは、ある旅人の声だった。
事件の概要だけで己の人生をかけてでも解きたいと思う謎を残し、その正体に誰もが惑わされた。
彼の先輩もその正体に人生を狂わせ、警官を辞めた。
同じ道を歩むのだけは、断じて御免だった。

『俺は、どうする?』

それは自分自身の声だった。
先ほどから幾度となく繰り返される問い。
迷いを抱えたまま、戦争には行けない。
天秤の傾きに結論を出さなければならない。

ジョルジュ・マグナーニがジュスティアを離反してでも知りたがった、デレシアの秘密。
恐らくは、その秘密に迫る内に徐々に汚染され、秘密を暴くこと、知ることに執着するようになってしまったのだろう。
長く見続けることで発症する病の類だ。
その正体も背景も、何一つ分からないままで彼女を追い続け、逮捕することが目的であるトラギコとは相容れない考えだ。

744名無しさん:2024/07/14(日) 19:01:00 ID:K.ug12hY0
世界の真実を見たところで、トラギコにとって何のメリットもない。
だが気になることも事実だ。
果たして彼女は何者で、これまでに何をしてきたのか。
トラギコの場合はその犯罪歴で、ジョルジュの場合は彼女の人生そのものに興味があったのだろう。

(=-д-)「……っ」

だからこそ、トラギコの天秤は揺らいでしまう。
根底にあるのはデレシアへの興味。
自分が結果としてその興味の矛先を狂わせてしまうかどうか、その保証はどこにもない。
ジョルジュほどの男が狂ったのであれば、自分も例外ではないはずだ。

では、デレシアを追わないと決めた場合はどうなるのか。
トラギコがするべき行動は、内藤財団がこれ以上世界の勢力図を書き変えるのを止めることだ。
ジュスティアが失われた今、イルトリアだけが唯一内藤財団に対抗できる勢力になる。
イルトリアでの攻防戦はジュスティア以上に激しいものが予想される。

負傷し、傷だらけの自分が役に立てるのかは分からない。
それでも、行動を起こさなければならないということだけは分かる。
真面目に生きてきた人間が馬鹿を見る世の中が許せず、それを変えたいからこそ、彼は警官になった。
あらゆる理不尽も、不条理も、彼にとっては打破すべき存在。

例えそれが世界のため、という大義名分を掲げた物であっても、トラギコには関係のないものだ。
世界を統一するために多数を潰すのであれば、それはただの偽善だ。
トラギコの最も嫌悪する、独善的な偽善。
そう思った時、トラギコは自分の中の天秤がすでに答えを出していることを認めた。

後は、自らの中にあった意地を捨てるだけだ。

(=-д-)「……やるしかねぇラギね」

傾いた世界の天秤を、今一度元に戻す。
ジュスティアを守り切れなかった男にできるのは、世界を守り切ることだ。
イルトリアの防衛こそが世界の天秤を正しい形に保つのだ。

(=゚д゚)「……」

目をゆっくりと開き、トラギコはゆっくりと上体を起こした。
麻酔が効いているおかげで、唸り声を上げる程度の感覚だけがある。
彼の動きに反応したのか、ベッドのそばにある何かの装置から警告音が鳴り響いた。
それに合わせて、白衣の男が飛び込む様にして扉を開いて現れる。

(●ム●)「な、何を?!」

まるで世界一馬鹿な患者を見るような目で、男はトラギコを見る。
半臥の状態のまま、トラギコは静かに答える。

(=゚д゚)「……寝るのはやっぱやめたラギ。
    まだラヴニカだろ?」

745名無しさん:2024/07/14(日) 19:01:34 ID:K.ug12hY0
先ほどからまだ車両が動いた気配がないことから、現在地がラヴニカだと推測した。
トラギコの推測に対し、男は渋々といった様子で首を縦に振り、間を置かずに言った。

(●ム●)「まぁそうですけど、馬鹿を言わないでくださいよ!!
      イルトリアに連れて行くってだけでも馬鹿げているのに、寝ないって……!!
      死ぬつもりですか?!」

輸血が必要な程の失血をし、それだけの傷を負ったのは間違いない。
本来であれば医者の言うことをきいて大人しくしているべきなのだ。
それは自分でも理解している。
それでも、寝ている場合ではないのだ。

もしも寝ていれば、大切な場面で何もできないことが考えられる。

(=゚д゚)「俺はこの上なく真剣ラギ。 とりあえず4つ、すぐに用意してほしいラギ」

トラギコの剣幕に気圧されたのか、男は大人しく話を聞く姿勢を見せた。
もう、これ以上トラギコに言葉が通じないのだと理解した顔をしていた。

(●ム●)「……とりあえず、聞くだけですよ」

(=゚д゚)「1つは、BクラスかCクラスの棺桶ラギ。
    とりあえず、装甲の厚くて高火力なやつを用意してもらうラギ。
    試作品でも何でもいい、とにかく俺の体でも動かせるような奴ラギ。
    後は片手で動かせるバイクラギ」

(●ム●)「バイクは偵察用のが一台あるので大丈夫です。
     棺桶の積み込みは既に済んでいるので、その中からしか選べませんよ」

一度積み込み作業が完了してしまえば、追加の荷を乗せるのは難しい。
綿密な計算に基づいて積み上げられたパズルに手を伸ばすような行為。
既に積まれているのであれば、そこから選べばいい。
つまり、棺桶を装着しての戦闘が予定されているということだ。

(=゚д゚)「ラヴニカからもらったんなら、ノーマルじゃなくてカスタム機だろ?
    それでいいラギ。
    さて、後2つだ」

ラヴニカでカスタムされた棺桶であれば、例えそれが量産型のジョン・ドゥであっても、場合によってはコンセプト・シリーズに匹敵する。
今は、負傷した体でも戦うために必要な武器として全身を覆う強化外骨格が必要だった。
この際、贅沢は言っていられない。
“ブリッツ”だけでは、とてもではないが乱戦で生き残ることは不可能だ。

装甲は言うまでもないが、僅かな動きで四肢を動かすことのできる棺桶は必須だ。
トラギコが放った言葉に対して、男はやや警戒した様子で口を開いた。

(●ム●)「な、何ですか」

(=゚д゚)「血の滴るような肉料理と、赤ワインを頼むラギ」

746名無しさん:2024/07/14(日) 19:02:05 ID:K.ug12hY0
――棺桶と違って、それはすぐにトラギコの元に届けられたのであった。

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                     /三三三三三三=ト、<三三三三 /-、ヽ三 ト、 `ヽ
                        〈三三三三三三三ト、 \>:,.へ三三ミヽ }三ニ\\
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                      八三ト、三ト、 {ハ \ 乂  ̄  ミ    「 Vニハ乂
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イルトリア沖での戦闘を表現するとしたら、質と量の激突だった。
古来より、質と量のどちらが優位かを証明するための論争と戦いが多くあった。
ほとんどの結論は、質の勝利だった。
だが果たして、それは十分な検証だったのだろうか。

圧倒するほどの量を投じたのだろうか。
質を上回るだけの量とは、どれほどの物なのか。
一万匹の蟻では意味がなくとも、毒を持った60億、もしくは一兆匹の蟻ならばどうだろうか。
世界最高・最強の軍隊を相手に、世界最大の企業がどこまで戦えるのかという、ある意味では貴重な資料となる実験的戦争でもあった。

イルトリア海軍の戦力は質と量の両方を兼ね備えていたが、相手の用いる量はその5倍を優に超えていた。
時間と共にその数が増すにつれ、次第に、それまで難攻不落と思われた鉄壁の防御に亀裂が入り始めた。
しかし、世界に核の冬が訪れ、空から2人の旅人が海軍大将の乗る船に降り立った時までは、その防御は守られたままだった。
数百を越える軍艦の群れがまるで壁の様に並び、隙間を埋めるようにして海戦に特化した棺桶が水上と水中を哨戒している。

静かな水面に揺れるのは、数千を越える死体と億を超える肉片と化した人間だった物と瓦礫の混合物。
水中にはそれを遥かに越える数の藻屑が揺蕩っている。
海面には油が浮かび、ぎらつき、そして炎が沈没しつつある軍艦がまるで氷山の様に漂っている様子が対岸からは影絵じみて見えた。
それは間違いなく、第三次世界大戦が終わって以来最大の海戦だった。

軍艦同士の撃ち合いによる被害は、双方ともに時間差はあるが刻一刻と深刻化するばかりだ。
時間ごとの損耗の割合は大きく違うが、両者は着実に消耗していた。
機械の塊である軍艦は一度被弾すれば、その個所から更に悪化しないようにダメージコントロールをする必要がある。
その作業に限られた人員が割かれ、その結果どこかの個所が手薄になってしまう。

こればかりは質で対処できないことであり、今回の海戦においてティンバーランドが狙った遅効性の毒だった。
海上という戦場で物量に物を言わせて押し続ければ、質を圧倒できる瞬間が必ず訪れる。
時間をかければ、必ず突破できるという確信があった。
そう言われて攻撃を続けてきた結果が、遂に報われる瞬間が訪れた。

喫水線に集中して攻撃を受け続けたイルトリア軍の軍艦が轟沈したとき、戦場のあちこちで歓声が上がった。
世界最強の海軍の軍艦を一隻撃沈するために払った犠牲は計り知れないが、それでも、彼らは確かにイルトリアの質を数で打ち破ったのだ。
数が質を圧倒した光景は、多くのティンバーランド兵に勇気を与えた。
同時に、イルトリア軍全体にこれまでにないほどの怒りを覚えさせた。

747名無しさん:2024/07/14(日) 19:03:20 ID:K.ug12hY0
そしてついに、イルトリア海軍の一部が突破され、鎮静化していたかに思われた地上での戦闘が激化したのである。
上陸した部隊が最初に狙ったのは、イルトリア軍の基地だった。

〔欒゚[::|::]゚〕『これが偉大な一歩だ!!』

イルトリア軍基地の土地を最初に踏みしめた男の言葉は、後の世にも残されるほどに有名なものとなった。
それは世界最大の、そして最も苛烈な地上戦の幕開けの言葉となった。
そして同時に。
一人の例外もなくイルトリア軍人を本気で怒らせた言葉として、刻まれることになった。

――例えそれが、数秒後に死ぬ男の言葉だとしても、それは確かに歴史に残されたのだ。

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我等の歩いた後が道になる。
若人よ、後は君たちの時代だ。
老兵よ、先に逝くのは我々だ。

                                ――アラマキ・スカルチノフ、某所にて

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/ 。゚ 3「行くぞ」

薬物投与によって全身の筋肉と感覚が研ぎ澄まされたアラマキは、部下を先導するためにライフルを手に車の外に飛び出した。
周囲に向けてライフルを乱射し、敵の攻撃を誘発する。
どれだけ高性能な銃を使っていても、発砲炎を隠すことは不可能だ。
特に、遠距離となれば火力がなければ銃弾が届くことはないため、高火力を維持するための火薬の燃焼は避けられない。

アラマキは自らを囮にすることで、後続の部隊にその発砲炎を元に敵の位置を知らせることにしたのだ。
友軍は136人。
棺桶は残り52機。
つまり、棺桶を使うことが出来ないのは84人。

真っ先に撃ち殺される可能性の高い人間がそれだけいるのだ。
相手は狙撃手。
どれだけの数がどこにいるのかを判断するためには、犠牲が必要だった。
アラマキ率いる部隊が雨の中イルトリアを目指して走り、発砲を誘う。

/ 。゚ 3「走れ走れ走れぇぇぇ!!」

黒い雨粒が目に入るのも構わず、走る。
部隊が全滅する前にイルトリアに到達できれば、海と空からの部隊と合わせて挟撃が実現する。
地上戦において挟撃は非常に有効な戦術だ。

/ 。゚ 3「狂った犬の様に、イルトリアに向かって走れぇぇぇぇ!!」

748名無しさん:2024/07/14(日) 19:03:46 ID:K.ug12hY0
雨音で上塗りされない湿った銃声が耳に届いた時には、彼の背後にいた部下が4人倒れていた。
イルトリアの光は見えているのだ。
街の光に手が届くのだ。
大きく見開いた目に映る街の輝き。

その輝きを潰すために、一つでも多く消すために、彼らは走った。
銃弾が街のどこからか放たれているのだと察し、アラマキは叫んだ。

/ 。゚ 3「狙撃……手は――」

頬の骨を含んだ顔の一部が吹き飛んだ。
普通ならば、その衝撃と激痛で失神した状態で倒れ、ショック死していたことだろう。
だが今は違う。

/ 。゚ 3「――ビルの上だぁぁぁぁ!!」

二発目が飛来する瞬間、アラマキは狙撃手の動揺を感じ取ったような気がした。
脳髄を撃ち砕かれ、頭部の一部だけを残してアラマキの死体はしばらくの間走り続け、石に躓いて倒れた。
その死体を越えて、雄叫びを上げる部下たちが続く。
2キロの距離であれば、全力で走れば追いつける。

正確無比な銃弾が、アラマキの部下たちの命を容赦なく削り取る。
だが、彼の残した言葉は、プギャー率いる部隊にしっかりと届いていた。

( ^Д^)「どうだ?!」

プギャーの部隊が要求した棺桶は4機だけ。
その内2機が狙撃を目的として配備され、残った2機はその観測手兼護衛を務める。
車両から装甲版を剥がし、それを二重にした即席の盾を構えて狙撃手を守ることで、精神的にも安定した状態で狙撃が出来るようにすることが任務だ。
命を賭してでも狙撃を成功させるという任務は、言い換えれば生贄である。

しかし、観測手を志願した2人は後悔していなかった。
これで道が開けるのならば意味がある。
味方の一歩の為にこそ価値があると信じているからだ。

〔欒゚[::|::]゚〕『……見つけたぞ』

それは、遥か遠方に見えた熱源だった。
狙撃を担当するニコラス・デッカードは、その熱源の動きとシルエットを見て、激情にかられそうになった。
棺桶を装着した人間だと思っていたが、その姿は、生身の人間のそれだった。
そして、狙撃手はたった一人。

対赤外線用の布を被って姿をくらませているが、完全ではなかった。
まるで誘い出すかのように、不自然なまでに姿が見えている。
それでも。
それでも、だ。

〔欒゚[::|::]゚〕『ふぅーっ!!』

749名無しさん:2024/07/14(日) 19:05:12 ID:K.ug12hY0
深く息を吐きだす。
肺の中身を全て出し切り、呼吸の一切を止める。
普通であれば心臓の鼓動で照準がぶれるが、そのブレは棺桶の補助装置が抑制する。
バレットM82の安全装置を解除し、熱感知式暗視装置の照準器の十字に熱源を合わせる。

罠であったとしても、撃たない手はない。
観測手が耐えられるのは精々2回。
最低でも1発は銃弾を防いでくれることを考えれば、こちらが発砲する機会は2度ある。
1発目で当てられなければ、次の射撃で全てが決まってしまう。

〔欒゚[::|::]゚〕『……狙い撃つ!!』

銃爪に指をかけ、そして、白い光を見た。
それがニコラスの最後に見た光景だった。
盾の間をすり抜け、小さな点程にも見えないはずの光学照準器を貫通し、そして銃弾はニコラスの眼球を穿ったのである。
距離にして約2キロの長距離狙撃。

しかしそれは、イルトリア陸軍の人間にとっては長距離狙撃の範疇には収まらなかった。
イルトリア陸軍、海軍、そして海兵隊に所属する狙撃手はほとんど例外なくペニサス・ノースフェイスの教育を受けている。
世界最高峰、あるいは世界最高と言われる狙撃手の指導は“全ての狙撃手を育てた”と言わしめるほどのもので、彼女の教えを受けた狙撃手は例外なく大成している。
彼女に追いつくことのできた人間は一人だけだったが、イルトリア軍出身者における狙撃の精度の向上は目を見張るものがあった。

〔欒゚[::|::]゚〕『糞ッ!! ニコラスがやられた!!』

〔欒゚[::|::]゚〕『まだだ、まだシャーミンがいる!!』

盾役の二人は、背後に控える最後の狙撃手を守る為に体を密に寄せる。
例え自分たちが撃たれても、シャーミンならばカウンタースナイプを決めてくれる。
こちら側に敵の注意が向くだけでも意味がある。
棺桶を装着したシャーミンの部隊がイルトリアに進軍できれば、それだけで作戦は成功だ。

〔欒゚[::|::]゚〕『……っ』

暗視装置なしでも多くを目撃できる彼の目であれば、すでに狙撃手の位置を特定することには成功しているはずだ。
後は、狙撃を成功させるだけ。
強い衝撃が盾役の頭部を襲い、僅かに体が揺れる。
顔の半分が吹き飛び、ヘルメットの破片がシャーミンの上に落ちる。

それでも、盾役は倒れることなくシャーミンを守り続けている。
死体と化しても、彼の体は最期までその任務を果たす。
盾役は命を賭して一秒でも長く注意を引き付け、一秒でも早く狙撃手を撃ち殺すための手助けをする。
その覚悟が、シャーミンの集中力を揺るぎのない物にしていた。

〔欒゚[::|::]゚〕『……この一撃は、奪われた者達の嘆きだ!!
       この一発は、壊された者達の咆哮だ!!』

銃爪を引き、放たれた大口径の銃弾。
生身の人間であれば掠めただけでその部位を破壊され、ショック死するだろう。
一秒ほどの時間が、まるで永遠の様にも思えた。
そして、空中で火花が散った瞬間は、何も考えることができなかった。

750名無しさん:2024/07/14(日) 19:05:40 ID:K.ug12hY0
何が起きたのかを理解するよりも早く飛来した銃弾がシャーミンの頭蓋を撃ち抜き、全ての苦痛から解放した。

m9 ^Д^)「全員、突撃ィぃぃ!!」

作戦が破綻したことを瞬時に判断したプギャーの号令で、部隊の全てが武器を手に死に物狂いの雄叫びを上げて一斉に攻撃を開始した。
最早、戦術も戦略もなかった。
物量で強引に押し通す。
狙撃の腕が優れていても、同時に撃てるのは一人だけだ。

全員で一斉に走り出せば、何人かは生きてイルトリアの大地を踏める可能性が生まれる。

( ^Д^)「うおおあぁぁぁ!!」

プギャー自身もライフルを手に走り出し、2分で心臓を失って地面に倒れ込んだ。
だが、彼らの突撃は無意味ではなかった。
一斉に攻撃を仕掛けたことで時間が稼げたのだ。
彼等が稼いだ貴重な時間は、彼の部下5名にイルトリアの大地を踏ませることに貢献した。

しかし、5名を待ち受けていたのは、より過酷な現実だった。

〔欒゚[::|::]゚〕『……何だ』

イルトリアの街から聞こえてくる銃声。
イルトリアの街を照らす炎。
そのいずれも、彼らを驚かせはしなかった。

 ∧∧
(:::::::::::)

影が、燃える街を背に立っていた。
影が、闇から生まれるようにして増えていった。
43機の棺桶と50人以上を殺し尽くした影が、音もなく目の前に立ちはだかる。
その影の数、実に20。

駆け抜ける間に味方を静かに殺し尽くした影に、だがしかし、薬物による肉体的精神的強化を経た男たちは怯まなかった。

〔欒゚[::|::]゚〕『こr――』

人影を確認し、ライフルを構えてから発砲するまでに要したのは3秒程度だった。
だがその間に、新たな影が自分たちの背後や隣に生まれていることに気づけた者はいなかった。
高周波振動のナイフのスイッチが入った瞬間に、彼らの頚椎は解剖学的な正確さで切断されていた。
銃爪にかけられた指に力が込められる間もなく、立ったまま死体と化した。

 ∧∧
(:::::::::::)「……」

〔欒゚[::|::]゚〕『ど、し……』

751名無しさん:2024/07/14(日) 19:06:04 ID:K.ug12hY0
地上からイルトリアに攻め入ろうとした“ヘッド”は、ついに最後の一人が頭を撃ち抜かれたことによって全滅した。
彼等は覚悟を決め、決して後戻りが出来ない劇薬を使ってまでも戦おうとした。
だが、彼らは自分たちが本当に戦うべき相手の位置を把握することができていなかった。
狙撃手に注目している間に、自分たちの周囲に展開していたイルトリア陸軍所属の“ビースト”によって背後に回り込まれ、少しずつ殺されていたことに。

そして、ただ殺すのではなく、練度という貴重な情報を収集することが目的だった。
彼等、あるいは彼女等はあくまでも威力偵察を主とする部隊。

 ∧∧
(:::::::::::)「報告。 敵増援排除。
     街への新規侵攻はない。
     ……客人だ」

カメラを首から下げた男と共に、イルトリアの重要な客人であることを表す特殊な通行証を掲げる男が現れたのは、そんな時だった。
攻め込みに来た真打にしてはあまりにも間抜けな男と、濃い死臭を漂わせる男の組み合わせは異様だった。
二人は死体の山を意に介することなく進み、そして、部隊の存在に気づいていないかの様に会話を始めた。

(;-@∀@)「し、死ぬかと思った……!!」

<ヽ`∀´>「だけど生きているなら、大丈夫だったってことニダ。
      その頑張りの対価に、“ビースト”がお出迎えしてくれるニダよ」

――細い目をした男だけは、その存在に気づいていた。

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対話のコツは、相手が何を望んでいるのかを知ること。
それが分かれば、心臓を掴んだのと同じことだ。
実際に心臓を掴む方が効果はあるが、すぐに死ぬのが問題だ。
相手の望みを握れば、何度でも殺せる。

                                        ――“花屋”と呼ばれた男

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前イルトリア市長が耳付きと呼ばれる人種の高い身体能力に注目し、イルトリア軍でも類を見ない“ビースト”と呼ばれる部隊を作り出したことはあまりにも有名な話である。
全ての軍にビーストは配属され、他の兵士と共に作戦を遂行することもあるが、基本的には少数のビーストが特殊な作戦を遂行する。
例えば、拮抗状態を打破するために敵の指揮官を暗殺したり、奇襲の準備をしている敵部隊を逆に奇襲したりすることがあった。
不可能とも呼べる作戦を可能にしてきたその部隊は規模などが一切不明であり、実際にどれだけのビーストがいるのかを正確に把握しているのは軍内部でも一握りと言われている。

今回の様に街が四方から襲撃を受けている時だからこそ、彼らは敵の用意した複数の作戦を察知し、その脅威度を減らすことに割かれていた。
20人近いビーストが闇に紛れて襲撃をしたのは、恐らくは敵の戦闘能力と武装の確認を目的としていたのだろう。
その証拠に、まるで潮が引くように人の気配がその場から消えて行く。
気配は辛うじて感じ取れているが、その数が徐々に減っていることをニダーは感覚で認識していた。

 ∧∧
(:::::::::::)「客人、今は知っての通りでロクなもてなしが出来ない」

752名無しさん:2024/07/14(日) 19:06:24 ID:K.ug12hY0
影から聞こえてくる声に、ニダー・スベヌは笑顔で対応した。
友好的でも敵対的でもないのは、ニダーが市長から預かった通行証を所有しているからだ。
特殊なレンズ通して見るか、人間以上の嗅覚を持つ人間にはそれが本物であることが分かる。
彼等ビーストならば、この酷い雨の中でも通行証がジュスティア市長だけが持つ極めて特別な物であることを判別できたはずだ。

そうでなければ、ニダー達はここまでの接近を許されなかった。

<ヽ`∀´>「大丈夫ニダ。 ウリたちは、手伝いに来ただけニダ。
      邪魔はしないニダ。
      手を貸させてもらうニダ」

その言葉に、影から若干の困惑を孕んだ声が返ってきた。

 ∧∧
(:::::::::::)「こちらの邪魔にならなければ構わないと言われているが、自分の身は自分でどうにかしてもらうぞ」

<ヽ`∀´>「大丈夫ニダ。 あと、こっちの男はただのジャーナリストニダ。
      邪魔はしないし、放っておいていいニダ。
      でも一つだけお願いがあるニダ」

 ∧∧
(:::::::::::)「一応聞いておく」

20以上あった気配は、今は目の前の一人しかない。
こちらからの提案や依頼をするなら、今しかなかった。

<ヽ`∀´>「もしこいつが死んだら、せめてカメラと中身のデータだけは回収してほしいニダ」

ニダーが求めたのは、命の保障や保護ではなく、生きた証の保存だった。
合理的な判断ではないことは承知しているが、アサピーと共に過ごした時間が、彼の中の何かを変えていた。
彼の撮った写真が、後に世界の歴史を変える可能性を持っているのだと信じられた。

 ∧∧
(:::::::::::)「……善処しよう。
     お前は何が出来る?」

<ヽ`∀´>「あぁいや、連中の情報を引き出すお手伝いをするニダよ」

 ∧∧
(:::::::::::)「お前がか?」

<ヽ`∀´>「そう、ウリがやるニダ。 そっちの上司に、ジュスティアの“花屋”が来たと言ってくれれば通じるニダ」

ニダーの渾名を聞いた瞬間、ビーストの反応が変わった。

 ∧∧
(:::::::::::)「花屋…… お前が、あの円卓十二騎士の?
     あの、花屋か?」

<ヽ`∀´>「そうニダ。 誰か偉そうなやつ一人生け捕りにしてくれれば、必要な情報を必ず引き出すニダよ」

753名無しさん:2024/07/14(日) 19:06:52 ID:K.ug12hY0
 ∧∧
(:::::::::::)「……分かった。 では、イルトリア陸軍と合流するといい。
     私からも連絡はしておくが、その通行証を持っていれば悪いようにはされない」

そのやり取りを聞いていたアサピーは頷き、そして口を挟んだ。

(-@∀@)「では、私は撮影に行ってきます」

カメラを手に、アサピーは銃声と爆音の響き渡る街に足を進める。
振り返らずに進み、いつしか、その歩みは駆け足へと変わっていた。
その姿が闇の中に完全に消える頃には、ニダーの前にいたビーストは姿を消していた。
彼らがどこに消えたのか、それとも、どこかに潜んだのかは定かではない。

しかし言えることは一つだけある。
ニダーとアサピーはイルトリアへと無事に到着し、拒絶されなかったということだ。

<ヽ`∀´>「……さぁって」

黒い雨と銃弾と砲弾が降る中、ニダーはイルトリア市街へと改めて足を踏み入れた。
響き渡る銃声の中に、悲鳴は聞こえなかった。
銃声のほかに聞こえるのは爆発音、雨音、そして瓦礫が崩れる音。
民間人の避難が完了しているのか、それとも、全員が戦闘態勢に入っているのだろうか。

建物への被害は少ないが、それでも、オレンジ色に染まる光景は無事ではないことをこの上なく物語っている。
背の高いビルが立ち並ぶ街並みに付き物である眩いライトの輝きは、降り注ぐ雨の影響で半減している。
それはまるで、荒廃した街の様にイルトリアの魅力を半減させ、そしてニダーの中に形容しがたい憤りを覚えさせた。

<ヽ`∀´>「流石はイルトリアニダね」

ジュスティアとは違い、街全体が武装集団のようなものであるため、例え四方から攻め入れられたとしても避難する人間の為に街の機能がマヒすることはない。
逆に、街中が外敵を排除するために対応しているせいで建物から一般人の気配が微塵も感じられない。
ここが世界の天秤を守る最後の防波堤であり、世界の在り方を変える最前線にして最終防衛線。
圧倒的不利な状況でありながらも、決して諦めもしない姿勢は、流石の一言に尽きる。

肩から下げたM4カービンを構え、指示のあった通りイルトリア陸軍との合流を目指すことにした。
民間人にとってみれば、ニダーは完全な部外者であるため、撃たれる危険性は十分にある。
特に、敵と同じ武器を持っている人間であれば、そう疑われても不思議ではない。
自分が敵ではないことを知らしめるためには、実際に行動で示すほかなかった。

銃声のする方に向かって小走りで進みつつも、周囲への警戒をおろそかにしない。
特に気を付けなければならないのが狙撃手だ。
近距離であれば会話が成立するが、遠距離であれば会話は成立しない。
見た目だけで撃ち殺される可能性もあるため、背の高い建物は特に気を付けなければならない。

極力建物を背にしながらニダーは進んだ。
やがて、銃声と銃火が同時に確認できる場所に到着した時、戦場にいるというプレッシャーがいきなり彼の背中を襲った。
円卓十二騎士として祀り上げられている身ではあるが、現役の警官であるため、戦場で過ごした時間はほとんどない。
それ故に、戦場での立ち振る舞いは極めて慎重にならなければならないことだけは分かっていた。

(:::::::::::)『アッパーム!! 弾をくれ!!』

754名無しさん:2024/07/14(日) 19:07:21 ID:K.ug12hY0
車を遮蔽物にして銃撃戦をする集団を見つけ、ニダーは相手の姿と装備、そして会話に注意を向けた。

〔欒゚[::|::]゚〕『民間人がよぉ!!』

機関銃を乱射するジョン・ドゥの色、そして金色のロゴがその所属を如実に物語っていた。
鹵獲した銃に装填されている弾がジョン・ドゥのカスタム機の装甲を撃ち抜くことのできるかは、実際に撃ってみなければ分からない。
生身の状態で棺桶を相手にすることの部の悪さは分かる。
しかし、それを補う術をニダーは知っていた。

敵の数が3人であることを把握してから、すぐに行動に移す。
壁に体を押し付け、肩を使ってしっかりとライフルを固定し、光学照準器を覗き込み、静かに銃爪を引いた。
銃弾は狙い違わずジョン・ドゥの背にあるバッテリーを撃ち抜き、即座に動きを止めた。

〔欒゚[::|::]゚〕『敵sy――』

こちらに気づき銃を構えようとしたジョン・ドゥの頭部には、既に放たれた2発目の銃弾が着弾していた。
ヘルメットに被弾したことで首が大きく傾げさせ、攻撃の手を一瞬だけ止めさせる。
そして続く5発の銃弾が正確に頭部を直撃し、首の骨を折った。
残された最後の一人は不幸にも、機関銃の弾帯を交換しているところだった。

もしも彼が経験豊富な人間であれば、躊躇わずに銃を捨ててニダーに向かって接近戦を挑んでいたことだろう。
奇襲によって正しい判断が即座に下せなかったのは、人としてある意味では正しい反応と言えた。
問題は戦場でその反応を見せた上に、機関銃に弾を装填するという愚を選択してしまったことである。
狙いすました一撃は望めないため、ニダーは弾倉の残りを全て撃ち込むことで対処した。

素早く弾倉を交換し、コッキングレバーを引いて初弾を装填する。
壁から体を離し、姿勢を低くしたまま前進する。
周囲に銃を向けつつ、背中は常に壁に向けることで不意打ちに警戒する。
倒したばかりの三人の傍に屈みこみながらも、ライフルを片手で構えて周囲への警戒は怠らない。

死体からライフルの弾を回収し終えると、バッテリーを破壊して身動きが取れなくなった男の首の関節部に銃口を突っ込み、銃爪を引いた。
たった三人を撃ち殺しただけでも、ニダーが感じるプレッシャーは相当なものだった。
街中が戦場になっている状態で、いつ自分が誤射されるかも分からない。
そんな中にアサピーはカメラ一つで乗り込んでいることを考えると、狂気と勇気の違いが分からなくなってくる。

<ヽ`∀´>「……定石で言えば、別動隊がいるニダね」

イルトリア陸軍との合流を果たす前に、手土産があった方がいい。
イルトリアの攻略について、ニダーはジュスティア軍の高官から話を聞いたことがあった。
正面からの突破はまず不可能であり、内部との連携した攻撃が不可欠。
その為に長期的に内部に工作員を送り込み続け、来るべき時に攻撃を仕掛けるのが現実的という話だった。

実際に試みたこともあったが、イルトリア内部に潜入して生還したのは非公式な人間を含めても五指に収まる。
それでもこうして侵入を許してしまっているということは、恐らくだが、大量の犠牲を無視しての侵攻を試みてその混乱に乗じて街中に潜ませていたのだろう。
そして、海軍の防衛網が突破されたことをきっかけにして内外からの挟撃を実行したと考えられる。
無論、全ては推測でしかない。

755名無しさん:2024/07/14(日) 19:07:41 ID:K.ug12hY0
だからこそ、ニダーは己の推測と直感を信じることにした。
戦場の状況が完璧に把握できていない以上は、五感で把握した戦場の空気から敵の意図と味方の状態を把握しなければならない。
深く、深く息を吐く。
そして、静かに吸う。

瞬きを最小限に。
視線の移動は素早く。
足運びは慎重に。
戦場を歩くということは、死地を歩くということ。

イルトリアの地を進むということは、地獄を進むということだ。
周囲を背の高いビルに囲まれ、ネオンと街灯の輝きが仄かに視界を明るく染めている。
黒い雨の中で明滅する銃火。
濁って聞こえる銃声。

まるで悪夢の中にいるようだった。
犯罪人を相手取っているのであれば注意を向けるべき相手は限られているが、戦場になっただけでこうも勝手が違う。
ジュスティアの防衛を任された警官たちは、これ以上に全身に重圧を感じていたはずだ。
守るべき対象がいる中で、侵略者を相手に戦うなど、訓練項目にはなかった。

現場で戦うことの少なかったニダーが円卓十二騎士にいるのは、その卓越した尋問技術によるものだ。
人の苦しみを利用し、相手の弱みを見つけ、それを責める。
およそ警官には似つかわしくない特技だが、それでも彼にはそれが正義の為に生かせるのであればと日々その手を血に染めた。
全身が血に塗れるような仕事を続けるためには、どうしても自分の中にある良心を殺さなければならなかった。

殺して。
殺して。
殺し続けて、そしてようやく、人を傷つけても何かを感じることはなくなった。
魚を捌く方がまだ感情の起伏がある程にまで、ニダーは心を殺し続けた。

そうして、笑顔に似た表情を常に顔に浮かべることで心の葛藤は完全に誰かに悟られることはなかった。
いつの間にか、自分が担当した事件の功績が認められ円卓十二騎士の椅子に坐することになった。
常に戦場の後方、戦いの裏に隠れ潜む様にして生きていた彼にとって、戦場に対して感じる感覚は常人のそれとは少し違った。
どう捉え、どう質問し、どう動くか。

心の中にある暴力的な衝動をどのように正当化し、どのように実行に移すのかを考え続けている。
ライフルの銃把を握り直し、全方位に注意を向けながらも、接敵した際にどう倒すかという暴力的な考えが心を支配している。
ビルから見下ろされているかもしれないという考えもあれば、路地裏に潜んでいるかもしれないという考えもある。
思考のほとんどが自分に対して敵対的な意思を持つ人間への警戒心だが、その手段が姑息であればある程、彼の中にある嗜虐心がくすぐられる。

大きな通りに繋がる路地を進み、慎重にイルトリア軍の基地に向かう。
目の前に広がる大通りが、不規則な照らされ方をしていた。
明らかに電灯の類ではなく、炎の類によるものだった。
ゆっくりと顔を出すと、その炎が通りの向かい側にある背の高いビルから出火した物であることが分かった。

高さは恐らく10階以上。
火元は最上階付近の一室だ。
ビルの足元には砕けたビルの壁などが散乱しており、砲撃によるものだと一目で分かった。
数メートル離れた場所にはサイレンを鳴らす消防車が停車し、放水作業を行っている。

756名無しさん:2024/07/14(日) 19:08:05 ID:K.ug12hY0
通常と違うのは、消防車の近くにイルトリア陸軍所属のエンブレムが書かれたソルダットを装着した人間が複数立っていることだ。
きっと、彼らも同じ心境なのだろう。
自分たちの故郷を滅茶苦茶にされ、憤りを感じているのだろう。
ようやくイルトリア陸軍を見つけることのできたニダーは、周囲を警戒しながら道路を横断する。

ニダーの姿をカメラに捉えたソルダットが一瞬だけ身構えるが、すぐに銃腔を彼とは別の方向に向けた。

([∴-〓-]『……客人か』

機械の目ならば、ニダーが持つ通行証によって彼が敵でないことを一目で判断できる。
誤射されなかったのは幸いだった。
これが仮に同じ条件下にあるジュスティアの新兵なら、銃爪を引いていたことだろう。

<ヽ`∀´>「ビーストから聞いているか分からないけど、ウリはジュスティアから手伝いに来たニダ。
      敵の捕虜はいるニダ?」

([∴-〓-]『さぁな、全体で捕虜を捕えているかどうかは正直分からない。
      連中はまるでネズミだ。
      少し齧って逃げ出して、って感じでな。
      特に放火が多くてそれどころじゃない。

      見つけ次第殺している』

イルトリア軍にとって、敵兵の捕虜はそこまで価値があるものではない。
街に火を放っている類であれば、生かしておく必要はないのだろう。

<ヽ`∀´>「なるほど。 もしも偉そうなやつを生け捕りにしたら教えてほしいニダ。
      必ず情報を引き出すニダよ」

([∴-〓-]『……善処する。
      とりあえず、その格好で街中をうろつくのは勧められないな。
      ほら、これを使え。
      無いよりはましだ』

そう言って、消防車から防弾ベストをニダーに投げて寄越した。
それはイルトリア陸軍で使われているもので、特殊合金のプレートが仕込まれたものだ。
通常の弾であれば貫通を防げるが、強化外骨格用の強装弾であれば防ぐことは敵わない。
受け取ってすぐに袖を通し、ジッパーを閉じて回収してあった弾倉をしまい込む。

胸元にある鞘には、大振りのナイフが収められていた。
握るまでもなく、その太い柄から高周波振動ナイフであることは間違いなかった。

<ヽ`∀´>「助かるニダ」

([∴-〓-]『そのベストを着ていれば誤射されることはないだろう。
      この後はどこに行くつもりだ?』

<ヽ`∀´>「連中の偉そうなやつを捕まえるから、どこ、ってことは決めてないニダね」

757名無しさん:2024/07/14(日) 19:08:25 ID:K.ug12hY0
([∴-〓-]『そうか。 それなら、この通りを真っすぐに進め。
      基地の近くなら、連中がいるかもしれない。
      その辺りに停められている車やバイクは、動くようであれば好きに使って構わない』

<ヽ`∀´>「感謝するニダ。 それじゃあ、またどこかで会えるといいニダね」

([∴-〓-]『あぁ、じゃあな、ジュスティアの客人』

火災現場から離れ、ニダーは言われた通りに大通りを北上することにした。
イルトリアの機能を奪うのであれば、基地を攻め落とすのは基本だ。
だがしかし、とニダーは考えた。
これだけの攻撃を仕掛けておいて、街中での戦闘がそれに見合った激しさを見せていない。

派手に見えるように放火し、銃撃戦を展開しているのであれば、その本質は陽動だ。
陽動する目的は一つ。
本当の目的から目を背けさせ、時間を稼ぐこと。
つまり、その目的を聞き出すことが出来れば、相手の動きを先んじて防ぐことができる。

遭遇した相手から情報を引き出すため、ニダーは改めて弾倉の中身を確認し、次に相手がどこで騒ぎを起こすのかを予想するためにビルの屋上に向かうことにした。
ひと際高いビルを見つけ、静かにその非常階段を使って上を目指す。
ライフルという長物を構えたままではとても戦闘にならないため、ニダーはライフルを肩にかけ、受け取った防弾ベストに収められていたナイフを抜いた。
街で起きている事態を考えれば、街の人間は積極的に建物の外で戦闘をしようとは考えていないはずだ。

こうしてビルを上る途中で襲われないとも限らない。
民間人であれば殺傷は厳禁だ。
呼吸を浅く、そして遅くして階段を一段飛ばしに駆け上っていく。
踊り場付近は特に気を付けていたが、結局屋上に到着するまでは問題らしいことはなかった。

屋上に続く扉を静かに開き、その理由が分かった。
風に乗って漂う血の匂い。
ライフルを持った複数の死体が並び、その傍で3人の人影が屈んでいるのが見えた。
敵か、それとも味方かは確認する必要はなかった。

死体の服装は軽装で、軍人のそれではない。
そのような服装の人間がイルトリアに攻め入ることは不可能だ。
その死体を作り出した人間の装備は逆光ではっきりとは見えなかったが、彼らの放つ雰囲気だけはニダーの経験によってその正体を看破されていた。
犯罪者、それも、とびきりの悪意と殺意を抱いた人間。

(;TДT)「生き残りが――」

動きは緩慢。
反応は愚鈍。
武器を構えるのは、圧倒的不利な状況にもかかわらずニダーの方が先だった。
手にしていたナイフを投擲し、一人目の喉に突き刺さる。

(;TДT)「いぴゅ――」

758名無しさん:2024/07/14(日) 19:08:46 ID:K.ug12hY0
棺桶持ちであれば、先に潰すべきは喉である。
起動コードの使用を禁じれば、結局は生身の人間だ。
警官としての経験が一目で悪人を見抜き、一撃で殺すだけの反応を可能にした。
犯罪者の潜む建物に生身で突入する時は、常にその感覚が研ぎ澄まされていた。

そして一人目を殺したニダーは、決して肩のライフルを構えようとはしなかった。
その代わりに走り出し、喉に突き刺さったナイフを抜こうともがく男の手からそれを奪い取る――

<ヽ`∀´>「ちっ!!」

――が、その一歩手前で踏みとどまり、口から血を吐く男の体を掴んで突き飛ばした。
もしもそうしていなければ、その後ろでコンテナを背負った男に起動コードを口走らせていたからだ。

〈::゚-゚〉「くっ!!」

ビルの屋上で棺桶を装着する理由は、二つ考えられる。
一つは安全な場所で装着をするため。
そしてもう一つは、何かしらの手段でここにコンテナを用意したからである。
恐らくは後者。

( ‘∀‘)「っだらぁ!!」

ならば、死体の正体はそのコンテナに気づいた民間人というわけだ。

<ヽ`∀´>「うおっ!?」

地面を這うように低く接近してきた巨漢――否、女だ――が、ニダーの足を太い両腕で掴もうと飛び掛かってきた。
レスリング経験者特有の動きは、だがしかし、悪手としか言いようがなかった。
特に、ニダーに対しては最悪だった。

<ヽ`∀´>「せっ!!」

水中を泳ぐ魚の様に滑らかな足さばきで繰り出したのは、実に単純な足技だ。
右の踵で人中を踏み砕き、そこを踏み台に左脚で女の顎を蹴り砕く。
極めて短い距離で放たれた左の蹴りだったが、女の人中を深々と抑え込んだ右足と挟む形で放ったことにより、下顎を完全に破壊しただけでなくその骨片が女の口腔をズタズタにした。
鼻と目から血を流し、女はその場に倒れる。

頭頂部を砕くほどの踏み込みで女を殺し、棺桶を身に纏おうとしている女に飛び掛かる。
不安定な足場が災いし、飛距離が思うよりも伸びない。

〈::゚-゚〉『――大樹となる為に!!』

その間に女は最後の一言を入力し終え、コンテナの中に避難することに成功していた。
コンテナの目の前に着地し、すぐに距離を置く。
恐らくは白いジョン・ドゥカスタムが出てくるはずだ。
じりじりと後退しながら、死体から銃を漁る。

情報通りであれば、通常のそれと同じくジョン・ドゥを装着するには最大で10秒の猶予がある。
その間に奪ったカービンライフルの弾倉を交換し、死体の一つを盾にしつつ、すぐに発砲できるように肩付けに構える。

759名無しさん:2024/07/14(日) 19:09:10 ID:K.ug12hY0
<ヽ`∀´>「……」

そして、コンテナが開いてジョン・ドゥが飛び出してきた。
予想通り、白い装甲に金色の木が描かれている。
戦場において、雪原以外でそのカラーリングは最低と言ってもいいほどの色合いである。

〔欒゚[::|::]゚〕『完成化したこちらに勝てるなど――』

耳慣れない言葉を口にした瞬間、ニダーが盾にしている死体を見て僅かに動きが止まる。
素人だ。
そして、仲間想いの良い人間だった。
だからニダーは十分な余裕を持って敵の足を撃ち抜き、倒れたところに死体を投げつけ、更には背中のバッテリーを撃ち抜くことが出来た。

<ヽ`∀´>「――じゃあ、お話をしようニダ」

思ったよりも早い段階でニダーは仕事を始めることが出来そうだった。
バッテリーを破壊された棺桶は、ほとんど例外なくただの鎧か、文字通りの“棺桶”に成り果てる。

〔欒゚[::|::]゚〕『話すことなど……ない!!』

<ヽ`∀´>「いやいや、まだ諦めるのは早いニダよ」

そう言いつつ、ニダーはナイフを手に近寄っていく。
ナイフが一本あれば、会話は十分に成立する。
問題は時間だ。
時間をかければかけるだけ情報が手に入るが、敵に見つかるリスクがある。

戦場での尋問は初めてだが、やってみなければ分からないこともある。

<ヽ`∀´>「まずはフェイス・トゥ・フェイスが基本ニダ」

棺桶を装着状態から引きはがすのは困難を極める。
だが、その作業を練習するための素体として選ばれるのはジョン・ドゥである。
その為、他の棺桶では時間がかかることも、ジョン・ドゥ相手であればさほどの時間を要せずに解体できるようにニダーは訓練と経験を積んできている。
高周波振動で震える刃を首の付け根に差し込み、接合部を丁寧に切断する。

〔欒゚[::|::]゚〕『うわあああっ!?』

<ヽ`∀´>「あー、そうそう、うるさいニダよね。
      でも残念、これはノイズキャンセリング出来ないニダ」

金属同士がぶつかる音、と言えば聞こえはいいが、高純度の合金を切り裂くナイフの高周波振動の音は並の人間であれば数秒も耐えられない程の騒音になる。
甲高い悲鳴に似たその音を聞き届ける耳を塞ごうにも、女の両手は棺桶によって完全に固定されており、人間の筋力では動かすことはできない。
何もできないままで騒音を浴びせかけられる行為は、それだけで十分な拷問の一種になる。

<ヽ`∀´>「時間がないからさっさとお話するニダ」

ニダーの得意とするコミュニケーションは、暴力を介して行われるものだ。
相手の心理状態や、肉体的な弱点などを瞬時に見抜き、そこを狙って会話を進める。
切断し終えたヘルメットを放り捨てると、そこにいたのはニキビ面の女だった。

760名無しさん:2024/07/14(日) 19:09:41 ID:K.ug12hY0
〈::゚-゚〉「くっ……殺せ!!」

<ヽ`∀´>「うーわ、久しぶりに聞いたニダ、そのセリフ。
      それは長持ちしないニダよ」

〈::゚-゚〉「糞ッ…… イルトリアの人間に屈するぐらいなら、私は死をえら――」

その頬を、ニダーの持っていたナイフが無慈悲に切り裂いた。
深々と切れた頬の向こうに、女の口腔が見える。
白かったであろう歯は血で染まり、顔に浮かんでいた余裕や誇りのある表情は恐怖に染まった。
このような人間の扱い方は心得ていた。

<ヽ`∀´>「選べる立場にあると思うなよ。
      選ぶのはこちらだ。
      お前が使えるか、それとも使えないか。
      必要なのはその判断を下す材料をお前が見せるかどうか、それだけだ」

感情の全てを殺した声で淡々とそう告げ、ニダーはナイフを女の頭皮に押し当て、これからそこを攻撃すると暗に伝える。
いくら短く刈り揃えているとはいえ、これからの一撃は精神的に大きな一撃になる。
ナイフではなく素手で髪の毛を掴み、力任せに引きちぎる。
頭皮の一部がついたままの毛髪を、ニダーは女の顔に投げつけた。

〈::゚-゚〉「いぎっ!?」

<ヽ`∀´>「やっぱり素手で散髪するのは難しいニダね。
      まずは質問の1つ目。
      完成化って何ニダ?」

〈::゚-゚〉「お前のおふくろの名前だ!!」

<ヽ`∀´>「ウリのおふくろの名前はもうちょっと上品ニダ」

手慣れた狩人のような素早さで女の頭皮にナイフで切れ込みを入れ、頭皮を力任せに剥ぎ取り始める。
刈り取った獲物の痛覚など気にする猟師がいないように、ニダーはその悲鳴をまるで欠伸か何かの様に聞き流す。
鮮やかな手つきで剥いだ頭皮は、あえて女に見せるようにして捨てていく。

〈::゚-゚〉「ぎゃあああああああ!!」

<ヽ`∀´>「この雨、すっごい染みるニダね。
      っと、ちょと待つニダよ!!」

近くに倒れていた死体からの手首から先を切り落とし、それを女の口に突っ込んだ。

〈::゚-゚〉「も……が……!!」

<ヽ`∀´>「仲間が近くに感じられていいニダね。
      喋りたくなったら教えてほしいニダ。
      その間にお前らの装備を調べるだけニダ」

〈::゚-゚〉「……っ!!」

761名無しさん:2024/07/14(日) 19:10:06 ID:K.ug12hY0
口が閉ざされても、目は口以上に物をいう時がある。
今がその時だった。
女の視線、体の緊張感が、この場にニダーを釘づけにしてどこかに行かせまいとしていることを示している。

<ヽ`∀´>「あー、何かあるニダね」

そう言って、ニダーはコンテナの傍に近寄り、残された相手の装備を調べ始めた。
仄かな光を放つ板状のそれを見つけるのに、そう時間は必要なかった。
戦術用タブレット。
DATの技術を応用して生み出された戦場用のタブレットは、近年その活用が実験的検討されている段階だったはずだ。

内藤財団は秘密裏に研究を進め、実用化にまでこぎつけていたのだろう。
様々な情報を耳にする機会のあるニダーでなければ、これをただのDATと誤解していたことだろう。

<ヽ`∀´>「……これか」

それは、一目で戦況を大きく塗り替えるような代物だと分かった。
広大なイルトリアのほぼ全域の地図が表示され、その随所に動く色の異なる光点――間違いなく友軍の位置を示すそれ――がある。
それだけでなく、光点にはそれぞれの状況が表示され、音声の共有もされているようだった。
正に戦場で必要な情報が集約された代物だ。

最も数の多い緑色の光点を指で触ると、そこに文字が表示された。
電波の強弱、バッテリー残量、距離を示すものだった。

<ヽ`∀´>「ははぁ、これで戦場を――」

動く光点を触ると、タブレットから声が聞こえてきた。

『まだ生きてる、シィシだ!!』

『シィシ、援軍を向かわせる。
後3分で到着するから、それまで踏ん張れ!!』

<ヽ`∀´>「シィシ、って言うニダね。
      お友達が来るみたいだから、少し挨拶しておくニダ」

タブレットを持って近寄り、シィシの顔の傍にそれを置く。
口に詰めていた手を取り除き、ニダーは優しい声をかけた。

<ヽ`∀´>「ほら、喋るニダ」

〈::゚-゚〉「わ……私にか……!!」

<ヽ`∀´>「そうじゃないニダ、挨拶が最初ニダ。
      お前の親は、挨拶を教えなかったニダか?」

むき出しの頭皮に、高周波振動し続けるナイフの切っ先を当てる。
神経が掻き毟られるような激痛が、シィシを襲う。

〈::゚-゚〉「ひっ……!!」

762名無しさん:2024/07/14(日) 19:10:30 ID:K.ug12hY0
<ヽ`∀´>「助けてって、ちゃんと言うニダ」

〈::゚-゚〉「糞くらえ、糞野郎!!」

<ヽ`∀´>「素敵な言葉ニダね。 ご褒美ニダ」

脳天にナイフを突き刺し、彼女の人生を手短に終わらせた。
これで、敵はニダーを追ってこのビルに来るはずだ。
このタブレットがそれだけ敵にとって重要なことが分かった以上、これを返すことはできない。
むしろ、イルトリア軍に渡すのが最良だろう。

尋問は半分成功したと言える。
敵は、イルトリアに正面から立ち向かえるだけの力を有していない。
天秤を動かしているのは、このタブレットだ。
タブレットに向かって、ニダーは出来る限り残虐そうな声で言った。

<ヽ`∀´>「シィシは死ぬほど疲れたから、ちょっと寝かせてやったニダ。
      間に合わなかったニダね、残念」

そして、ニダーはタブレットを防弾ベストの内側に入れてから、死体漁りを始めた。
死体から弾倉と拳銃――コルト・ガバメント――を手に入れ、胸についている汎用ホルスターに収める。
これから増援が来ることが分かっていれば、命中率よりも相手に与える致命打の方が重要だった。
弾幕を一人で展開するには限界がある。

最悪の場合両手で構えていれば、単純な弾幕は二倍になる。
命中率は著しく落ちるが、それに目を瞑れば問題はない。

<ヽ`∀´>「さぁ、鬼ごっこをしようニダ!!」

そう呟いて、ニダーは全速力で助走し、隣のビルへと飛び移った。
距離は優に3メートルはあったが、ニダーの体は吸い込まれるようにして窓ガラスを突き破って隣のビルへと侵入を成功させた。
建物全体に警報機のベルが鳴り響く中、ニダーはすぐに立ち上がって走り出す。
どんな場所であれ、階段を使うのはデメリットが多い。

装備が整っていて、相手を待ち伏せられるだけの状況にあれば問題はないが、そうでないのであれば好んで進むべき場所ではない。
ニダーが走り出すのと同時に、彼が直前までいた場所に銃弾の雨が降り注ぐ。
このビルに飛び移る瞬間を目撃されていないにもかかわらず、まるで迷いのない銃撃だったが、疑問はなかった。
その理由は明らかだった。

『ひでぇ、頭を削がれてる……!! 人間のやることじゃねぇ……』

タブレットから入ってくる声は、間違いなく直前までニダーがいた場所から聞こえている声だ。
位置情報、音声情報の共有が彼らに戦術的な優位性を与えているのと同様に、このタブレットがある限りニダーもまたその恩恵にあずかることが出来る。
当然、ニダーの位置も声も、ひょっとしたらそれ以上の情報が共有されている可能性はある。

『声が筒抜けだぞ!!』

『問題ない、こいつを殺すぞ。
楽に死にたかったら抵抗するなよ、糞野郎!!』

763名無しさん:2024/07/14(日) 19:10:58 ID:K.ug12hY0
会話がこちらにも聞こえていることを気にしないということは、彼らはこちらの位置情報が正確に分かるということなのだろう。
そうであれば、会話の必要はない。
あったとしても最小限に抑えられる自信があるのだろう。
奪い取ったタブレットの重要性が良く分かる。

棺桶には備わっていない機能をつけ足すために再開発され、外部補助装置としての再定義したのだろう。
つまり、このタブレットを破壊すれば彼らが今持っている優位性の一つを瓦解させることができるのだ。
そして、彼らはこのタブレットを何が何でも手に入れたいと考えている。
これを使って街の中で陽動を行っている人間をおびき出せれば、イルトリア軍が上手い事料理してくれるだろう。

『向かいのビルだ、急げ!!』

ゴールはイルトリア軍。
敗北条件は殺されるか、タブレットを奪われること。
実にシンプルなゲームだ。
棺桶を使う相手の方が遥かに有利という点に目を瞑れば、問題はない。

それに、戦場の注目をニダーが引き受ければ、その分だけアサピーに向けられる敵意や脅威が減る。
それは副産物でしかないが、意味のあることだ。
侵入したビルの内装が非常出口の案内板で薄暗い緑色に照らされ、百貨店の類であることが分かった。

<ヽ`∀´>「怖くないんなら、このビルで勝負するニダ」

長期戦はニダーにとってもイルトリアにとっても不利になる。
このビルで出来る限りの敵を引き寄せ、排除し、情報を手に入れたいところだった。
ニダーを追ってくるということは、少なくともこちらの所有するタブレットと同じような物を持っているはずだ。
原理を聞き出し、少しでも相手の優位性を削りたい。

百貨店は遮蔽物や隠れる場所に富んでいるが、一人で大人数を迎え撃つのには適していない。
けたたましい音が鳴り響く薄暗い建物の中を、ニダーは確信を持って走り出した。
棺桶の優位性を奪うための戦い方は、何度も警官時代に経験している。
実戦よりも訓練の方が多かったのは事実だが、それでも何もしないよりはマシだ。

懐から素早くタブレットを取り出し、光点の動きと距離を見る。
緑色と青色の光点が真っすぐにこちらに向かっているのを確認し、即座にライフルを構えた。
ニダーが飛び込んできたのと同じ窓から、一体のジョン・ドゥが現れた。
その瞬間、ニダーのライフルが吠えた。

弾倉の中身を全てフルオートで放ち、ジョン・ドゥに大量の風穴を開ける。
地面に足をつけたのは、死体となったのと同じだったことだろう。
そしてそれは、敵にとっては想定済みのことだったようだ。
間を開けて更に二体のジョン・ドゥが発砲しながら現れ、ニダーは迷うことなくその場から逃げ出した。

<ヽ`∀´>「まずは一匹駆除したニダよ!!」

弾倉を交換しながらニダーは挑発の声を上げる。
建物の柱や商品棚を遮蔽物にしながら走るニダーのすぐ後ろを、風切り音を立てて銃弾が通り過ぎて行く。
まるで蜂が通り過ぎるような不気味な音に、思わず立ち止まったり叫び声を上げそうになる。
しかし、代わりに出てくるのは笑みだ。

764名無しさん:2024/07/14(日) 19:11:52 ID:K.ug12hY0
<ヽ`∀´>「怒りすぎニダ!!」

ライフルではなくガバメントに構え直し、接近を防ぐために乱雑に撃ち返す。
双方の銃弾は当たらないが、追い詰められているのはニダーだ。
誘導されるようにして発砲された結果、ニダーは遮蔽物の少ないフードコートに辿り着く。
テーブルや椅子では、とてもではないが銃弾を防ぐことや姿を隠すことも出来ない。

相手はこちらの姿を暗視装置で確認しながら撃つことができるのだ。
物理的に姿を隠せなければ、銃弾から逃げることは不可能。
片手でタブレットを見ながら、慎重かつ素早く決断して逃げ場所を定めて行く。

<ヽ`∀´>「……みっけ!!」

とある飲食店のキッチンへと逃げ込み、そこでようやく腰を落ち着けた。
だが光点が迷いなく近づいてくるのを見て、すぐに立ち上がる。
銃床で調理台に繋がるガスの元栓を次々と叩き壊し、静かにガスをキッチンに充満させていく。
巨大な業務用冷蔵庫の電源を引き抜き、中身を取り出してそこに逃げ込む。

拳銃の弾倉を交換し、後は敵が罠にかかるのを待つ。

『馬鹿が!! そんなところに隠れてるのは分かってるんだよ!!』

銃声、そしてその銃声をかき消すほどの大爆発が起きた。
衝撃と熱が冷蔵庫の扉越しにニダーにも伝わる。
タブレットの光点がものすごい速度で遠ざかり、動かなくなったのを確認してから扉を開いた。
消火剤を含んだスプリンクラーが作動し、炎は既に消え、ガスは安全装置の作動によって流出が終わっている。

焦げた匂いの充満するキッチンから外に出て、そして、新たな光点が接近していることをタブレットで確認する前にニダーは即応していた。
巨大な腕がニダーの顔のすぐそばを通り過ぎ、流れるようにコンビネーションブローへとつなげてくる。
爆発に巻き込まれていないということは、遅れてこのビルに到着した増援に違いない。

(・(エ)・)「お前、殺す!!」

<ヽ`∀´>「どっかで会ったことあるニダね、お前」

重機の一撃かと見紛う危険な連撃を、ニダーは慣れた手つきで捌いていく。
顔ではなく、その動きでニダーはこれが初見の相手ではないことに気づいていた。

<ヽ`∀´>「あぁ、思い出したニダ。
      どっかの強姦魔!!」

(・(エ)・)「ぶっ殺す!!」

<ヽ`∀´>「武道家に同じ手を二度も見せるのは馬鹿ニダよ」

後ろ回し蹴りをいなし、その致命的な隙を逃さずガバメントの銃弾を男の胴体に撃ち込む。
対強化外骨格用の弾丸は貫通力が高く、興奮している人間の動きを止めるのには不向きだ。
しかし、繰り出される連撃の合間にニダーは確実に関節、そして急所に向けて銃弾を撃ち込み、精神力では到底補えない程の傷を与える。
決め手となったのは、大振りの拳を回避したのと同時に眉間に放った一発だった。

765名無しさん:2024/07/14(日) 19:12:32 ID:K.ug12hY0
決着がつくまでに交わした攻撃の数は20を越えたが、放った銃弾は4発、そして要した時間は僅かに3秒だった。
まるで糸の切れたい人形の様にその場に倒れた男を踏みつけ、念のためにもう一発心臓に撃ち込んで死亡を確認した。

<ヽ`∀´>「よかった、死んではいないニダね」

ジョン・ドゥの装甲は非常に頑丈で、ただのガス爆発程度では中の人間を殺傷することはできない。
しかし、その威力で脳震盪を起こすことはできる。
タブレットに表示されている生体情報を見て、ニダーはこの情報網の真の目的と強みを理解した。
これは、戦場を変えるほどの代物だった。

<ヽ`∀´>「……情報の時代、か」

リアルタイムで音声、位置、生体を含めた様々な情報が共有されるというのは、戦場を変えるほどの発明だ。
現代ではなく、太古の概念を発掘、復元して転用したのだろう。
それが量産化されて普及されれば、戦場の在り方は変わる。
むしろ、今がその途中と言ってもいい。

イルトリア相手にここまで戦えているのがその証拠だ。
情報の時代は遅かれ早かれやってくるが、彼らが持ち込んだ技術は従来の基盤をひっくり返す物と言っていい。
意識を失っている二人の内、どちらがこの装置の詳細を知っているのか。
ニダーは少し考え、まずは彼らのバッテリーを破壊することに決めた。

慣れた手つきでバッテリーを撃ち抜こうとした、その時だった。

〔欒゚[::|::]゚〕『……そう何度も!!』

唸るような声と共に一人が急に立ち上がり、ニダーの手からガバメントを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばした、というよりも蹴り壊した、が正しい表現だった。
これが腕に当たっていれば、壊れていたのはニダーの方だ。
聞こえてきた声は男のそれ。

破片が宙に舞う間に、ニダーは決断を下していた。

<ヽ`∀´>「っ……!!」

急いでナイフを手にし、近接戦に備える。
距離を開けても一瞬で詰められるのならば、最初からこうするしかない。

<ヽ`∀´>「おっと、こいつが壊れてもいいニダか?」

タブレットを盾のように眼前に掲げ、全てを知っている風な笑みを浮かべる。

〔欒゚[::|::]゚〕『無駄だ!!』

返答と同時に、ニダーはナイフを投擲する。
それは容易く弾かれたが、大きく3歩後退するだけの余裕を得た。

<ヽ`∀´>「反応ありがとうニダ!!」

766名無しさん:2024/07/14(日) 19:16:55 ID:K.ug12hY0
彼らがタブレットを取り返そうとするのは、その破壊を回避することが狙いだと分かった。
これは敵にとって破壊されては困る代物と分かれば、それを利用しない手はない。
ニダーの特技は、相手の感情の揺らぎを表情や仕草だけでなく、その場に流れる空気から察することができるというものだ。
背中に回していたライフルを手元に手繰り寄せ、腰だめに撃つ。

それを予期していたのか、あるいは咄嗟に反応できたのか。
両腕を胸の前で交差させ、致命傷を回避した。
代わりに両腕を失ったが、男は必殺の気持ちを込めた蹴りを繰り出す。
床が抉れるほどの踏み込みで放たれた飛び蹴りは、わき腹を掠めただけでニダーの体を容易く両断するだけの威力があるはずだ。

双方の距離を縮めるには一歩で十分だった。
瞬きは厳禁。
仮にニダーが瞬きをしていたら、間違いなく次の瞬間には絶命していたはずだ。
飛び蹴りという選択をした男は、胸中で己の選択が絶対的に正しいと信じていたことだろう。

事実、これが素人相手であればこれで勝負は決していた。
しかし、腐ってもニダーは円卓十二騎士だ。
円卓十二騎士の中で最弱の戦闘力を自負している彼であっても、素人相手に負けるほど軟ではない。
膝を折る様にして仰け反り、ニダーの胴体を狙った飛び蹴りを回避する。

弾倉の中を確認するまでもなく、ニダーは仰け反った姿勢から背後に銃口を向けて銃爪を引いた。
たった2発。
しかし、その2発が決着をつけた。
股関節に撃ち込まれた銃弾は装甲内部で跳弾し、男の体に穴を開ける。

〔欒゚[::|::]゚〕『うぐぅっ!!』

着地もできず、男は顔から倒れ込む。
空になった弾倉を素早く交換し、ニダーは倒れているもう一体のジョン・ドゥの後頭部に向けて撃ち込んだ。
銃弾がヘルメットを貫通し、赤黒い液体が流れ出てくる。
動き出すことはなさそうだった。

<ヽ`∀´>「お前ら何ニダ?」

〔欒゚[::|::]゚〕『っ……そくらえ!!』

<ヽ`∀´>「このタブレット、情報共有するための物ニダね?
      で、どうすればこれをぶっ壊せるニダ?
      もちろん、これを叩き壊すのとは違うニダよ」

〔欒゚[::|::]゚〕『尻でも舐めろ!!』

<ヽ`∀´>「オッケー」

言われた通り、ニダーは男の臀部を撃った。

〔欒゚[::|::]゚〕『あがああああ!?』

767名無しさん:2024/07/14(日) 19:17:17 ID:K.ug12hY0
<ヽ`∀´>「おっ、情報がすぐに更新されるニダね。
      生体情報まで分かるって便利ニダ。
      おいおい、視覚情報まで!!
      声も文字になるし、こりゃあ便利ニダね」

男が何かを言う前に、ニダーは更に銃弾を尻に撃つ。

〔欒゚[::|::]゚〕『んぎぃいい!?』

<ヽ`∀´>「お前の死因は、尻からの失血死ニダ。
      嫌なら話すニダ」

〔欒゚[::|::]゚〕『ふ、ふ、ふざけろ……!!』

情報を引き出すための手段は、何も口頭だけとは限らない。
タブレットを見て、もう一台のタブレットが近くにあることを確信する。
ニダーの手にタブレットがあることを知りながらも、彼らはこのシステムを止めようとはしない。
つまり、止めることが出来ないのだ。

タブレットは一台で完結しているのではなく、恐らくは複数台で完結する類の物だ。
その証拠に、ニダーがこのタブレットを盾にした時に彼らは僅かだが躊躇いを見せた。
この戦争における、彼らの強み。
情報共有における戦場の支配を失えば、イルトリアに勝てる可能性は限りなく低くなる。

強姦魔の死体のそばに落ちていたタブレットを拾い上げ、二台を見比べる。
表示は同じだが、先に拾ったとタブレットの形状が僅かに異なることに気づく。
同一の端末ではない。
そして、タブレット上に映っている青い光点が同一の端末が発する反応であることは間違いない。

これで追える。

<ヽ`∀´>「あー、役割分担しているのを統一してるのか。
      ってことは、絶対に中継点があるってことだから……」

ここでこの二台を壊すことも出来るが、それはニダーにとってデメリットでもある。
タブレットを通じてニダーが得られる情報は複数あるが、どの端末が果たしてどの情報を共有する脳になっているのかが分からない。
それに加えて、相手の動きを知ることのできる手段を失うのはあまりにも手痛い。
街中に散っている光点の数は多くないが、その光点がイルトリアという巨獣に群がる蚊のように見える。

イルトリア全体の地図を覆う光点の数は数百を超えている。
その大半が海岸の近くだが、街の中心部近くで動きを見せている光点も複数ある。
それらが市街戦を展開し、イルトリアに混乱を招いているのは間違いない。
海岸から市街地に向かい、光点が徐々に動いているのを見るに、上陸作戦には成功したのだろう。

しかしながら、狙うべきは青い光点とその周辺にいる緑色の光点だ。
タブレットを全て奪い取り、イルトリアへと渡すことで形成は完全に逆転する。
他にある青い光点は全部で三つ。
その内二つは海岸近くで止まっており、そしてもう一つは街の中を動き回っている。

768名無しさん:2024/07/14(日) 19:18:08 ID:K.ug12hY0
黄色い光点だけは、先ほどから全く動きがなかった。
何かしらの定点観測装置、あるいは中継点の類だろうか。

<ヽ`∀´>「今からお前らに“花”を配達してやるニダ」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

軍艦の墓場? あぁ、イルトリア沖のあの場所の事か。
不発弾の漁場? それも同じ場所だな。
そこに船を出せって?
おいおい、あんた馬鹿言ってんじゃ――

                                            ――名もなき漁師

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

巨大な軍艦が何隻も燃え上がり、沈没し、爆発する姿はあまりにも現実離れしたものだった。
イルトリア海軍の築いた防衛戦が突破され、すでに双方ともに多くの船が沈められている。
陸上と違い、海での戦闘では数の有利はかなりのものだ。
常に三次元的な感覚で敵を把握し、攻撃しなければならない。

船という巨大な構造物に乗っている以上、足元への攻撃は絶大な威力を持つ。
結果、被弾して沈没することが決まった海軍の軍艦は敵の進路を防ぐように舵を切り、搭乗員は戦場をイルトリア軍の基地へと移している。
死者の数は少なくて済んでいるが、失った船の数は史上最悪だ。
最も集中して攻撃を受けていながらも、唯一沈没していない軍艦が一隻だけあった。

イルトリア海軍最後の一隻。
それは、イルトリア海軍大将の乗る旗艦“ガルガンチュア”だった。
その戦闘指揮所では、ヘッドセットを被った男たちが淡々と情報の整理と対処を行う。

(,,゚,_ア゚)「甲板に被弾、主砲2門沈黙。
     区画FからGで浸水を確認、区画Qで出火を確認。
     ダメコン急げ」

(::0::0::)「砲弾への誘爆は絶対にさせるな。
     消火作業が無理なら区画を封鎖し、海水を注水する。
     現場判断で実行し、その後報告を」

从´_ゝ从「右舷弾幕薄いよ、何やってんの」

放たれる弾幕は飛翔する棺桶、あるいは取り付こうとする小型艇に対しての射撃だ。
それらは全て人間による射撃で、重機関銃による驟雨である。
曳光弾が四方八方に放たれる光景は花火かと見紛う物だが、暗闇の中でも正確にばら撒かれる銃弾の精度はかなり高い。
一定間隔で打ち上げられる照明弾だけが、唯一頭上からの光として周囲を照らし出している。

それでも光が照らすのは限られた場所だけだ。
照明弾によって濃い影を生み出すために、目視での射撃では限界がある。
暗視装置を通して見ても水面に浮かぶのが人影の類なのか、それとも船の残骸なのかを気にして射撃をするだけの余裕はない。
これが、イルトリア海軍が劣勢になっていると言わざるを得ない状況を生み出していた。

769名無しさん:2024/07/14(日) 19:18:35 ID:K.ug12hY0
飛行する棺桶は榴弾を撃ってくるため、それを優先して撃ち落とすようにしている。
だがそれを撃ち落とせば仕込まれた高性能爆薬によって、機雷と化すのが最も厄介な点だった。
殺せば殺すだけ船にとって不利益を生み出すことになるが、撃ち落とさないわけにはいかなかったのだ。
地上であれば死体は動かないが、海上であれば死体は流されてやがては喫水線に触れて爆発する。

その結果が、この戦果だ。
大量に敵が上陸するのを防ぐ最後の一隻の指揮官は、それでも冷静に指揮を執っていた。
イルトリア二将軍“右の大斧”と呼ばれるイルトリア海軍大将シャキン・ラルフローレンは、皺だらけの顔に僅かに笑みを浮かべる。

(`・ω・´)「……使えない砲弾を全て海に投棄しろ。
      敵艦の数を観測、報告しろ」

その命令から返答までに要したのは、僅かに十数秒。
艦橋で索敵用に作られた棺桶を装着した部下から、手短に返答がくる。

『敵艦、残り72隻。
小型艇はカウントしていません』

残された敵艦の数が多く聞こえるが、実際に彼らが海に沈めた船の数はその倍はある。
それらが大型船の進行を阻害しているのと同時に、小型艇の動きを複雑化させていることは否めない。

(`・ω・´)「かまわん。 部隊の損失は?」

『死傷者45名、他の船は全てプランBに従って動いています。
湾内に入るルートは作戦通りに封鎖し、残存部隊は全て地上での防衛、迎撃戦に移行しています。
海上で戦っているのは我々だけです』

(`・ω・´)「重畳だ。 陸軍の具合は?」

『最新の情報によれば、被害は軽微。
ですが、街での破壊活動がかなり厄介だそうです。
一撃離脱がかなり徹底されているだけでなく、面倒な相手、とのことです』

(`・ω・´)「面倒?」

『情報伝達速度による連携能力が異常である、と。
詳細は不明ですが……』

(`・ω・´)「市長が言っていた通り、やはり情報を武器にしてきたか。
      ジュスティアを潰しただけはある。
      ……10分後に、全員船を捨てて街の防衛に向かえ。
      私はブーンと少し話をした後に、連中を叩き潰してくる。

      各位、彼を最優先で基地に運んでくれ。
      護衛は4人出し、他の者は誘導しろ。
      対象は……3名、絶対に傷つけさせるな」

770名無しさん:2024/07/14(日) 19:19:00 ID:K.ug12hY0
イルトリア海軍に所属し、尚且つシャキンの命令を受けてこの戦闘中にそれを確実に遂行できる人間は限りがある。
それはつまり、彼が信頼を置く重鎮に対する命令でもあった。
金属製の階段を降り、船の中にある医務室に向かう。
揺れる船内でも、大股で歩き続ける彼の歩みが乱れることはなかった。

戦況で言えば押されている状況だったが、彼の心は穏やかな物だった。
もしも、彼の目の前にブーンが現れていなければこうはならなかった。
医務室の扉を開き、ヒート・オロラ・レッドウィングの死体が横たわるベッドの隣で泣きはらした目をした少年の前に膝を突いて言った。

(`・ω・´)「お前は生きて、ヒートをちゃんと埋葬してやれ」

(∪´ω`)「お……!」

見た目通りの年齢であれば、とてもではないが数日は引きずるような別れをした直後だというのに、ブーンの目は決して悲観の色に染まっていなかった。
垂れ目の奥に見えている色を、シャキンはかつて見たことがある。
どうやら、バトンは受け継がれたらしい。

(`・ω・´)「お前はディに乗ってヒートと一緒にイルトリア軍の基地に向かえ。
      ヘルメットはないが、インカムだけなら用意が出来た。
      基地には遺体安置所があるから、ヒートをそこに連れて行け。
      この戦争がいつ終わるか分からないが、少なくとも、ちゃんと埋葬はできる」

(∪´ω`)「……」

(`・ω・´)「埋葬は、生きている人間のためにもするものだ。
      ヒートは間違いなく、お前の手で埋葬されたいと思っている。
      最期まで一緒にいたんだ、分かるだろ?」

(∪´ω`)゛

無言でブーンは頷く。
それは少年特有の無鉄砲な返答にも思えたが、それでも、彼が心で決めたことに対する答えだった。
ヒートと過ごした時間の濃さが、その目に現れている。
こうして少年はいつしか男になり、背中にこれまでの過去を背負って進んで行くのだ。

(`・ω・´)「お前の道は、この俺が作ってやる」

そう言って、ブーンの頭を撫でた。
頷いた時に見せた彼の目は、一人の男のそれだ。
これまでに積み重ねてきた日々。
そして、ヒートに対して抱いていた想いの強さがうかがい知れる。

この少年は、未来に生きるに相応しい存在だ。
壁に取り付けられた無線機を使い、シャキンは部下に指示を出す。

(`・ω・´)「これより本艦はブーンを基地に送るため、この場にて壁を作る。
      錨を降ろせ。
      連中の相手は私がする」

シャキンはもう一度ブーンを見て、彼の前に膝を突いた。

771名無しさん:2024/07/14(日) 19:19:39 ID:K.ug12hY0
(`・ω・´)「私はシャキン・ラルフローレン。
      ブーン、君に会えてよかった」

静かに抱擁し、そしてその場を足早に立ち去る。
シャキンの目の前に現れたのは、彼が気まぐれに手を貸した女から多くを学び、ペニサス・ノースフェイス最後の教え子として、今を生きる存在だ。
何たる偶然か。
何たる幸運か。

狭い通路を歩くシャキンの後ろに、静かに一人、また一人と部下が続く。
彼が戦うと決めた時、常に死地を共にした部下だ。

(`・ω・´)「ホッパー、ナガタ。
      弾薬は満タンだ。
      沈められるだけ沈めるぞ」

(-゚ぺ-)「無論です」

ホッパーの返答に被せるように、ナガタが続ける。

( 0"ゞ0)「もとより、そのつもりです」

その声は、いつもよりも心なしか楽しそうに聞こえた。
対戦艦用の戦闘では、常に人間の常識を遥かに越える巨大な船を相手にすることになる。
例えるならば、鯨を相手にする小魚のそれだ。
しかし自然界においてもそうだが、大きさは勝敗を決する要因足り得ない。

小さな毒虫が人間を一撃で殺せるように。
毒を持った小魚が数百倍以上の大きさを誇る魚から警戒されるように、彼らは戦艦を沈めるための力を持っている。
それこそがイルトリア海軍の強みだ。
出してしまった犠牲は決して少なくないが、それでも、殺した敵の数の多さはイルトリア軍の方が多い。

つまり、個の強さで負けることはない。

(`・ω・´)「では、蹂躙するぞ」

ガルガンチュアの船尾にあるウェルドックに向かう。
兵たちは退艦の為に小型艇や棺桶の準備を始めており、そこにシャキンが現れた瞬間、音が止まった。
聞こえるのは波の音と唸るようなエンジンの音。
誰かが合図を出したわけでもなく、一斉に敬礼が彼に向けて送られた。

(`・ω・´)ゞ

シャキンもまた、敬礼でそれに応じる。
決して死地に赴く人間に対して送られるそれではなく、互いの健闘を祈るための敬礼。
あるいは、男同士にしか分からない感情を乗せた無言の言葉。
それは2秒ほどの出来事だったが、数時間にも感じられる重厚な時間だった。

敬礼を終え、すぐに自分たちがやるべきことに着手する。
シャキンと二名の部下は棺桶を背負い、それぞれ起動コードを口にする。

772名無しさん:2024/07/14(日) 19:20:04 ID:K.ug12hY0
( 0"ゞ0)
      『海こそが我らの世界。 理想郷は、我らの目の前にある』
(-゚ぺ-)

二人が同時に口にしたのは、Aクラスの名持ちの棺桶、“マリナー”である。
イルトリア海軍で広く運用され、ある意味では代名詞的な棺桶だった。
ダイビングスーツの様な薄い装甲は海上と海中での機動力に特化させたものであって、極めて高い対水圧設計以外にはほとんど用を成さない物だ。
正直なところ、世界中でも復元されている棺桶であって、決して珍しいものではない。

水辺で発見される棺桶の数ならば、このマリナーが筆頭に挙げられるぐらいにメジャーな存在だ。
では、何がその棺桶をイルトリア海軍で確固たる地位を確立させているのかと言えば、復元された武器の存在である。
“ドライランド”と呼ばれるそれは、二つの役割を持つ銛の形をした武器だ。
高周波振動による高い切断能力を有する刃は、あらゆる船の装甲を切り裂けるだけの長さがあり、水圧によって射出することも可能である。

ワイヤー誘導によって縦横無尽に振り回せるだけでなく、それを利用して船のスクリューを破壊することにも特化している。
そして、先端部からは音速の五倍以上の速度で海水を射出することが可能であり、それによって飛来する銃弾に対しても高い防壁を展開することができる。
海水の高圧縮による攻撃、そして、移動時に使用することで高い起動性能を発揮するそれはイルトリア海軍の力を確固たるものにした。
武器の復元に成功した街は多くあったが、機体制御の難しさと相まってその扱いは非常に難しい。

しかし、それを体得した人間が配属されるイルトリア海軍の人間にとって、これほどまでに融通の利く棺桶はそうない。

(`・ω・´)『人は皆死ぬ。私も、お前も死ぬ。だが、それは今日ではない』

そしてシャキンが口にしたのは、コンセプト・シリーズの起動コードだった。
対艦用接近戦特化の棺桶、“バトルシップ”。
それが、イルトリア海軍大将に歴代受け継がれる棺桶である。
大型のCクラスらしい巨体はもとより、背中から生えた羽が頭から胸元までの急所を覆うような異質な装甲は貝殻の様。

洋上迷彩を施されたその姿は、海底から這い出てきた貝の化け物を想起させた。
そして、嫌でも目に付く両腕の錨型の装備は、2メートルはあるバトルシップの等身とほとんど変わりがない。
高周波振動による高い破壊力だけでなく、水圧による射出が可能であり、その破壊力は一撃で船の喫水線に大穴を開けることができるほどだ。
対艦戦闘に特化しているため、その高周波振動の出力は一般的なそれの数十倍を容易に発揮できる。

つまり、どれだけ堅牢な装甲を持つ戦艦であっても、熱したナイフでバターを削る様にして攻撃を加えることができるのである。

〔 ÷|÷〕『行くぞ』

ドックの扉が開き、黒い海が目の前に広がる。
三機の棺桶はそれぞれ圧縮された海水によって爆発的な推進力を得て、一気に水上を駆け始めた。
迷うことなく、三機はイルトリア沖で動きあぐねている敵艦へと向かう。
72隻を相手にするのであれば、一人24隻を沈めれば全滅させられるということである。

海面を進んでいる彼らは、正確に言えば滑っている様に見えて、実際には僅かだが浮いている状態にある。
海中に垂らされたホースから給水し、足の裏から高圧で発射。
それによって海面よりも浮いた状態にあるため、多少の障害物であれば何の問題もなく進むことができる。
沈めた敵の棺桶や船の残骸を乗り越え、敵艦との戦闘を開始したのは出撃から僅かに2分後の事だった。

接敵の瞬間は、即ち戦闘開始を意味する。

〔 ÷|÷〕『粉ッ!!』

773名無しさん:2024/07/14(日) 19:20:35 ID:K.ug12hY0
仮にシャキンの接近に気づいていたとしても、巨大な船では回避行動など間に合うものではない。
二隻の船の間を進みながら、シャキンは一気に左右に向けて錨を射出した。
一撃で喫水線の下に突き刺さった錨は、高速で進むシャキンに合わせて火花を散らしながら船の装甲を切り裂いていく。
まるで巨獣の上げる絶叫の様な音が響き渡り、各種警報音を流しながら徐々に沈んでいった。

これが棺桶の性能に頼った物であると判断するのであれば、その人間は三流もいい所である。
彼が使用する棺桶を動かすうえで欠かせないのが、卓越したバランス能力である。
例えるならば、丸い球の上に立ったまま綱引きをするような、人間離れした力だ。
両腕の錨の重量を少しでも考えれば、その器用さが分かるだろう。

これを当たり前だと思えるようでなければ、バトルシップを操ることはできない。

〔 ÷|÷〕『砕ッ!!』

瞬く間に二隻の船を沈めたシャキンは、空中から飛んでくる銃弾に気づき、行動を起こしていた。
最大出力で一気に放水することで、まるで飛ぶように一気に上空に飛ぶことができる。
隙が大きいため、積極的に使うことはないが敵船に乗り込んだりするためには必要な力だ。
ラスト・エアベンダーの飛ぶ高度にまで達したシャキンは素早く身を翻し、目の前の棺桶の頭上に錨を振り下ろした。

シャキンの存在がまるで悪夢か、それとも幻の様に思っていたのであろう敵は何か抵抗することもなく、慌てた様子もなく静かに頭を潰されて死んだ。
頭上で飛ぶうるさい蚊を潰したかのような気軽さで再び海上に戻ったシャキンは、新たな船を沈めるべく高速で黒い海の上を進む。
シャキンが15隻目の敵艦を沈没させたとき、ブーンがイルトリアの港に無事に到着との知らせが入ったのであった。

『大将、上陸しました!!
これより基地へと向かいます!!
糞どもの背中が良く見えますよ!!』

ノイズの混じった報告に、シャキンは淡々と答える。

〔 ÷|÷〕『よくやった。 その少年は、我々の未来そのものだ。
      絶対に傷つけさせるなよ』

『勿論です。 退艦した全員で、愉快なピクニックを始めています』

思わず微笑む。
果たして、少年は再びイルトリアの基地へと舞い戻った。
後は生き延びてくれれば、それでいい。

〔 ÷|÷〕『後は任せた』

『了解』

そして、シャキンの背後で巨大な爆発が起きた。
イルトリア海軍創立以来、決して轟沈することのなかった旗艦ガルガンチュアが遂に砲弾の雨を受けて大爆発を起こす。
それは最後にイルトリア軍港への大型艦の侵入を防ぐと同時に、敵の標的を一点に絞るという重大な目的を持っていた。
投棄されていた弾薬が暴発し、近くにあった全ての船舶に対して致命傷を与える。

まるで真昼の太陽を思わせる白い輝きがイルトリア沖を照らし出す。
天まで届くほどの高い水しぶきが上がり、ガルガンチュアが真っ二つに折れて沈んでいく。
爆風を背に、シャキンは更に速度を上げて敵艦の駆逐に奔走する。

774名無しさん:2024/07/14(日) 19:21:31 ID:K.ug12hY0
〔 ÷|÷〕『こいつらを沈めて、さっさと街に行くぞ』

旗色が悪くなることは、決して初めてではない。
ほぼ単騎で敵の船団を相手にすることもまた、初めてではない。
軍艦が距離を取り、味方の船を爆発させてでもシャキンたちを仕留めようと砲撃してくる。
それに当たれば流石に棺桶を身に着けていても、死からは逃げられない。

運良く直撃を避けられたとしても、その威力は戦闘続行を不可能にするほどのものだ。
だが、対艦用の棺桶を使う人間が砲撃を恐れているようでは話にならない。
飛来する砲弾を一瞥し、安全圏内に移動する。
避けた砲弾が敵艦に着弾し、爆発を起こす。

既に沈没しかけていた為に、そこまでの被害は出ないだろう。
乗員たちの悲鳴が上がるが、それを上書きする様にして金属同士の摩擦によって生まれる咆哮の様な音が響き渡る。
そして巨大な波しぶきが生まれ、黒い海が静かに荒れる。
波を乗り越え、新たな獲物に向かって直進する。

艦内にいる味方を一人でも逃がそうとする船の喫水線を切り裂きつつ、水圧で跳躍。
艦首甲板に着地し、ウォーターカッターで艦橋を切り裂く。
根元から両断された艦橋がバランスを崩し、海に落ちる。
高い水柱が上がった時には、シャキンは既に別の船に向けて飛び乗った後だった。

喫水線への攻撃だけでなく、艦橋を潰すことで船としての力を奪うことができるのは自明だが、それが合わされば助かる道は万に一つもない。
艦橋目掛けて錨を投擲し、大規模な混乱を生み出す。
その直後に海に飛び込み、すぐさま喫水線へ致命的な一撃を与える。
先ほどの一撃で失われた海水が再び機体内部にあるタンクへと補給される。

<0[(:::)|(:::)]>『見つけたぞ、海軍大将だ!!』

<0[(:::)|(:::)]>『信号弾発射!!
       マーキングをしくじるなよ!!』

<0[(:::)|(:::)]>『やっと出てきた!!
       これで殺せる!!
       伝説は今日、ここで終わりだ!!』

背後から銃弾が飛んでくるのと同時に、そんな声が聞こえた。
備わった背面カメラでその姿を目視する。
それは敵艦にケーブルで接続された、5機のラスト・エアベンダーだった。
確実にシャキンを仕留めるためか、ケーブルを分離させて高度を一気に下げる。

両側を敵艦に挟まれた状況のシャキンの進路は前か、後ろかの二択。

〔 ÷|÷〕『……勢いはいいがな』

シャキンは両手の錨を海面に触れさせ、水しぶきを上げさせる。
そして、注水した海水を最高出力で海面に向けて放つ。
海水が巨大な柱となってシャキンを追う部隊を真下から殴りつけ、頭上から大量の海水が降り注ぐ。
バランスを崩したところに、シャキンはウォーターカッターを振るう。

775名無しさん:2024/07/14(日) 19:21:56 ID:K.ug12hY0
超高圧縮されて放たれるウォーターカッターは、それだけで鋭利な刃物と同義になる。
ラスト・エアベンダーが飛翔可能なのは、その軽量な装甲にこそ秘密がある。
生け捕りにして拷問した敵兵と鹵獲した棺桶の情報を聞いていたシャキンは、その脆弱性を見抜いていた。
薄い装甲は僅かな被弾で使用者から命と戦意を奪い、墜落を招く。

振り向くようにして横薙ぎに振るったウォーターカッターは、果たして、一撃で4機の棺桶を屠った。
さほどの抵抗感もなく切り裂かれ、殺虫剤をかけられた虫の様に落下する様は痛快そのものだ。
オレンジ色に染まる夜空を見上げながら、シャキンは残った1機を投擲した錨で文字通り叩き潰した。
やはり、敵の練度は最低限の物。

実戦経験はほとんどなく、個人での戦いに持ち込めば負けることはない。
イルトリア海軍の船が多く沈んだ最大の理由は、対空戦闘への準備が不足していたことだ。
弾幕を展開できる船には限りがあり、敵は空から海中まで、幅広い領域での攻撃を仕掛けてきた。
物量に物を言わせて攻め込んでくる相手にしては、考えられた構成だ。

海底から攻め込んで来ようとしている相手に対して、イルトリア軍は大量の機雷を設置している。
イルトリア軍の潜水艦部隊からの報告で、相手の潜水艦が沖合で身動きが取れなくなっていることが分かっている。
報告の中で気になったのは、最後尾にいる潜水艦の大きさだ。
こちらの使用している潜水艦の3倍ほどの大きさ。

ただの潜水艦ではなく、敵にとっては旗艦にも等しい存在なのだろう。

〔 ÷|÷〕『ホッパー、ナガタ。
      沖合にいる敵潜水艦の様子を見てこい。
      必要なら、少し遊んでやってもいい』

( L[::::])『了解』

そして、シャキンは指示を出した後に単騎で敵艦を屠る為に突き進む。
軍の優秀性とは即ち、練度の高さと連携の強さに依存する。
イルトリア二将軍がそれぞれ抜きんでた力を持っているとしても、それは軍の強さと直結はしない。
だが。

イルトリア軍が世界最強と言われる所以は、並外れた練度と連携力、そしてそれを指揮する各士官の持つ個人の戦闘力の高さにある。
単純な戦闘力だけであれば、イルトリアが負ける道理はない。
それはジュスティアも認めている事実であり、彼らの最高戦力である円卓十二騎士は人数差があるにも関わらずイルトリア二将軍と同程度の力とされている。

〔 ÷|÷〕『老体を少しは労われよ』

残された敵艦が一斉に砲撃と射撃を行う。
飛来するのはほぼ全てが必殺の砲火だが、あまりにも弾幕が薄く、砲弾はシャキンの残像を捉えるだけにとどまっている。
こちら側が対空戦闘への備えが不十分だったことと同じように、相手は海上にいる小さな敵を相手に攻撃を仕掛けることに準備が不足していた。
元々駆逐艦だろうが何であろうが、軍艦の戦う相手はいつだって対艦だ。

棺桶が戦場を一新したことの一つに、その的の小ささがあるのは言うまでもない。
陸上での戦闘と違い、海上での戦闘はすべからく一撃の威力が物を言う。
潜水艦相手でも、戦艦相手でも、それは変わらない。
弾幕はあくまでも近距離相手のものであって、中遠距離の相手に使うものではない。

776名無しさん:2024/07/14(日) 19:22:21 ID:K.ug12hY0
連射性が乏しい銃火器では、棺桶を仕留めるにはあまりにも心もとない。
実際、戦場で確実に棺桶を仕留めるには近距離戦が最適解だ。
その為、多くのコンセプト・シリーズが近距離戦に特化した設計のものであり、遠距離での攻撃に特化したものは圧倒的な破壊力ないし制圧力を持ったものである。
着弾した砲弾は高い水しぶきを上げ、海上に漂う敵の棺桶が誘爆する。

それでも、シャキンには影響がない。
彼が敵兵の死体を踏み越えても、誘爆はしない。
海上に漂う機雷と化した死体は、バトルシップの移動方法では誘爆し得ないのだ。
船に接触して爆発したことを考えると、極めて目的を限定した起爆条件が与えられていることは分かっている。

そうでなければ自分たちの死体同士で爆発しあい、こちらの艦隊にあれだけの被害をもたらすことはなかったはずだ。
とはいえ、降り注ぐ砲弾の雨は確実にシャキンを捕捉して放たれた物であり、油断できるものではない。
ゆっくりと溜息を吐き、シャキンは両腕の錨を背後に向けて構える。
そして、海水を噴射して更なる加速を得る。

こちらの速度に敵の照準が追い付かなければ、どうということはない。

〔 ÷|÷〕『……分からんな』

攻め込む以上、相手の事は入念に調べておくのが常識だ。
シャキンがこのような戦い方をするというのを知っていれば、必ず対策を用意しているはずだ。
陸と海との挟撃が失敗しかけている今、いつまでも悪戯にシャキンを相手にしている場合ではないはずだ。
優先順位で言えば砲撃、次に味方の上陸を成功させることだろう。

なのに、砲撃はシャキンにのみ向けられている。
恨みがあるのならば分かる。
だが作戦を破綻させてまでも追う意味が分からない。
一切の合理性を欠いたその行動に、シャキンは一つだけ思い当たることがあった。

時間稼ぎだ。
シャキンが陸上に応援に行くのを足止めし、その間に何かを成そうとしている。
それが何か知りたいという好奇心が、シャキンの中で沸々と湧き上がる。
こうして正面から殴り込んでくる輩だ、無策ということはないだろう。

軍人としての直感が、シャキンの体を動かした。
罠が仕掛けられているのであれば、その発動タイミングを狂わせるに限る。
白い水しぶきを上げ、シャキンは恐れを上回る興奮を胸中に抱いたまま、敵艦の群れに突入した。
原則として、軍艦同士は誘爆や避難経路の確保が難しいという点で、決して密にはならない。

だが。
相手が持ち出してきた軍艦は大きく3種類あった。
一つは巨砲を備え、イルトリアへの砲撃を主とした戦艦。
一つは戦艦の援護を行うための巡洋艦。

そしてもう一つが、ケーブルで接続された航空用棺桶を有する船である。
他の船と比べて数倍の積載能力があり、電力の供給能力がある。
防衛能力はなく、全て接続された棺桶に頼っていたのがある種の目的に特化設計の証明でもあった。
その船は戦闘開始の速い段階でイルトリアへの接岸を試み、戦艦の援護と巡洋艦の護衛によってイルトリアへの上陸を成功させた。

777名無しさん:2024/07/14(日) 19:22:55 ID:K.ug12hY0
故に、今生き残っている船は戦艦と巡洋艦の二種類だけであり、ラスト・エアベンダーの残数は数えるほどだ。
だのに、だ。
それだというのに、彼らはシャキンを討ち取ろうと懸命に攻撃を仕掛けてくる。
いっそ、憐みすら覚えるほど懸命で無意味な砲撃に拍手を送りたい気分だった。

巡洋艦の横っ腹に錨で一撃を加え、減速ではなくその制動力を回転力へと転じさせ、より遠くの巡洋艦にもう一本の錨を投擲した。
ワイヤー誘導ではなく手放すことによって、その射程は一時的に飛躍する。
こちらの戦闘を見て距離を取り、作戦を練っていた船員は焦ったことだろう。
砲弾並みの速度で突き刺さった錨によって浸水し、傾き始める。

残った錨を持ち換え、シャキンはその船に接近。
まるで介錯をするようにして船体を切り裂き、自重によって沈没させた。
手際よく巡洋艦を沈めつつも、シャキンの狙いは沖合にいる軍艦だ。
味方の二人が潜水艦を撃沈するまでの間に、果たしてどれだけ沈められるか。

飛来する砲弾をウォーターカッターで迎撃しつつ、距離を詰めて次々と撃沈させていく。
そこでふと、シャキンは相手の狙いが分かってきた。
恐らく、巡洋艦は餌で、本命はこうして戦艦の近くにおびき寄せることだ。
こちらが敵艦を沈めるためにはどうしてもバッテリーを使用する。

である以上、バッテリーがなくなればシャキンは老体の生身で戦わざるを得なくなる。
瓦礫だらけの夜の海で、シャキンが生きてイルトリアに帰還することは不可能と言っていい。
それが狙いだとしたら、シャキン一人を殺すために極めて大掛かりな作戦を用意したことになる。
そして、実に賢い作戦でもあった。

狙いは二つあったのだ。
上陸と、シャキンの抹殺。
そして少数でも上陸はもう済ませた以上、後はシャキンを抹殺することが彼らの目的となる。
イルトリア二将軍を各個撃破するためには、周囲の援護を確実に絶たねばならない。

そうすれば、後は質量と物量、そして最悪の場合は自爆による一撃で屠ればいい。
囲み、やがて狙うのは自爆だろう。
戦艦が搭載している弾薬の数で言えば、例えシャキンの棺桶がトゥエンティー・フォーであったとしても、確実に屠ることのできる量だ。
事実、シャキンに悟られないようにだろうか、戦艦が大きく円を描いてシャキンの進路を誘導している。

自らを餌にしておびき寄せ、攻撃させ、沈めさせ、そして味方が必殺の位置につくまでの時間を稼ぐ。
圧倒的な物量を持つからこそできる作戦であり、船長たちに相応の覚悟があるからこそ成立する作戦だ。

〔 ÷|÷〕『はははっ、派手な葬式を出してくれるのか』

既に船と船の密度が極限まで高まり、目的を隠そうともせずに互いに船体をぶつけてでもシャキンの動きを制限する。
砲撃、そしてケーブルを切断してでもシャキンを追いかけるラスト・エアベンダー。
残された船の数は分からないが、沈めた船は優に30隻を越えているはずだ。

〔 ÷|÷〕『来い、私はここにいるぞ』

四方を完全に包囲されたシャキンは、それでも焦りはしなかった。
一斉に砲撃が始まる。
狙いの外れた砲弾で互いを撃ってでも。
流れ弾で味方のラスト・エアベンダーが木っ端みじんになっても、彼らは攻撃を止めなかった。

778名無しさん:2024/07/14(日) 19:23:37 ID:K.ug12hY0
攻撃を継続しつつ、艦体を徐々にシャキンへと肉薄させる。
まるで建物が四方から迫るような圧迫感。
静かに息を吐き、シャキンは吠えた。

〔 ÷|÷〕『今はまだ死ねないな!!』

そして、イルトリア沖で巨大な爆発が起きた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

深海と闇夜は似ているが、決定的な違いがある。
闇夜はいつか明け、朝日が全てを祝福してくれる。
深海は、そこに近づく者を容赦なく噛み潰す。
祝福などないが、抱擁だけはある。

                          ――イルトリア海軍潜水艦乗りの手帳より抜粋

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イルトリア沖が赤く燃え上がった時、海底近くで動きあぐねている原子力潜水艦“オクトパシー”内部は、全裸の美女を前にした童貞の様な雰囲気が漂っていた。
だが所詮は童貞。
最後の一線を越えることが出来ず、出来もしない欲求を胸に抱いて悶えるだけ。
それが更なる欲望を産み、悶え、循環する。

水深500メートル。
闇と無音の世界が揺れたのと、艦長であるアリエル・ブルックリンが紅茶の入ったマグカップに手を伸ばしたのは同時だった。

( 0"ゞ0)「……でかいな」

巨大な爆発。
海上にいる友軍が沈む断末魔じみた音にはもう慣れたが、これまでで最大の振動がただ事ではないと物語っている。

(-゚ぺ-)「電信です。 ……友軍が、シャキン・ラルフローレンを包囲し、自爆するとのことでした。
     恐らくは、それによるものと」

( 0"ゞ0)「本当に果たすとは、大した連中だ。
      それで、マッピングはどの程度進んだ?」

(-゚ぺ-)「友軍のおかげで、あらかたできています」

海上にいた船は、決してただ闇雲に走っていたわけではない。
海中に設置されている機雷の位置をソナーで調べ、沈没した敵味方の船の位置を随時こちらに送ってきていたのだ。
イルトリア海軍の潜水艦が安全に出航できる以上は、必ず安全な道が存在する。
戦闘開始直後から今まで耐えてきていたのは、このためだ。

オクトパシーに収納されている虎の子の部隊が上陸に成功すれば、市街戦に更なる燃料を投下することができる。

( 0"ゞ0)「では行こう。 センサー感度最大にしつつ無音潜航、目標イルトリア軍港」

(-゚ぺ-)「センサー感度最大、無音潜航了解」

779名無しさん:2024/07/14(日) 19:26:37 ID:K.ug12hY0
全ての電子機器が無音モードへと移行し、静寂が周囲を支配する。
スクリューは極力音を発さない状態で回転し、鋼鉄の塊を静かに進めて行く。
仲間から送られてきた機雷の位置を座標で確認しながら進む様子は、目隠しをした状態で迷路を進むようなもの。
少しでも間違えれば沈没し、圧壊する。

その為、操舵手ホーミー・ウェストはこの日の為に数十年も潜水艦操舵の訓練を積み重ねており、己の腕に絶対の自信を持っていた。
間違うはずがない。
間違えるはずがないのだ。
その腕をティンバーランドにいる誰もが信じ、尊敬しているからこそ“アンコウ”の渾名を送られているのだ。

ホーミーの母親は、故郷では珍しく女の潜水艦乗りとして名を馳せ、街の守りを担う軍人だった。
イルトリア海軍との戦闘で死ななければ、故郷はまだ存続していたはずだ。
家族と故郷を奪ったイルトリア海軍は、だがしかし、その練度は決して他の追随を許さないほどのもので、復讐には時間も道具も必要だった。
そんな折にティンバーランドに加入され、時間と道具と機会を得たのである。

全てはこの日の為に。
積載されている部隊は、この瞬間の為に復元された自爆特化型の棺桶を運用する。
イルトリアの要所、そして市長と陸軍大将を殺すことが出来ればそれが決定打になり得る。
遠方から来ている陸の増援と合わされば、イルトリアの防衛機能を完全に封じることができる。

この戦いは、間もなく終わる。
手に入れた海図にある深度を参考に海底ギリギリを進み、徐々に浮上していく。
深度300メートルを越え、沈没した味方戦艦の残骸を目前にしたところで静かに停止させる。
ここから先は潜水艦で進むことが出来ない。

ホーミーはアリエルに目配せし、ここがゴールであると伝える。

( 0"ゞ0)「無音潜航解除。
      部隊の発進準備。
      デコイ全方位に発射、魚雷装填次第発射」

艦内に光と音が戻る。
それと同時に、部下たちが命令に従って行動を開始する。

(::0::0::)「デコイ全方位発射了解。
     魚雷装填後速発射了解」

(-゚ぺ-)「トランプル隊、発進許可。
     装着次第、即時――」

その時だった。
艦全体に響き渡る、金属質の悲鳴。
高周波振動の刃が金属を切り裂く時に発する音だ。
この水深でそんな攻撃を仕掛けられるのは、棺桶だけだ。

( 0"ゞ0)「くそっ、取りつかれた!!
      発進を最優先で行え!!」

赤いランプが明滅し、サイレンが鳴り響く。

780名無しさん:2024/07/14(日) 19:26:59 ID:K.ug12hY0
( 0"ゞ0)「どこに取りついている!?」

(::0::0::)「恐らく、ハッチ直上に!!」

(-゚ぺ-)「野郎!!」

普段から混乱や焦りに対応するための訓練を積んでいる彼らでさえも、この奇襲に対しては完全な状態で反応できなかった。
つまるところ、彼らの訓練は所詮は訓練であり、実戦とは違って命がかかっているわけでもなければ、シナリオから逸脱することはない。
深海と言える深度で敵に攻撃を受けるという訓練は、マニュアルの世界にしかない。

(::0::0::)「浸水確認!!
     ブロック閉鎖システム起動!!」

そして、容赦のない攻撃は冷静さを容赦なく削り取る。
深海での深刻な被弾は、ほぼ例外なく死へと直結する。
ただの死ではなく、何も成すことのない死。
それは何よりも避けなければならない、恥ずべき展開なのである。

(-゚ぺ-)「まずい、ハッチのある区画だ!!
     脱出口を塞がれた!!」

( 0"ゞ0)「トランプル隊の準備報告!!」

(-゚ぺ-)「ハッチが剥がされました!!
     区画浸水甚大!!」

管制室は混沌を極めていた。
まさか、この状況でこちらの動きに合わせて取り付いてくる存在がいるとは思わなかった。
そもそもの前提として、場所が相手に露呈しているということとそれが即時攻撃につながることは考えの中になかった。
無音潜航の為にソナーを使うわけにもいかなかったため、完全に虚を突かれた形となったのが、彼らの混乱を揺るがぬものとした。

(-゚ぺ-)「トランプル隊、船首にて準備中!!
     デコイ、魚雷と一緒に出撃します!!」

( 0"ゞ0)「出し惜しみはなしだ、一気にやれ!!」

(-゚ぺ-)「発進準備完了!!
     各位、デコイと魚雷をありったけ撃て!!」

艦首にある魚雷発射管から一斉に魚雷が放たれ、前後にあるデコイ発射管から囮が放出。
それに紛れ、魚雷と共に5機の棺桶が出撃する。
その、はずだった。
更なる衝撃と音がオクトパシーの船首と船尾を襲う。

魚雷発射管が開いた瞬間に何かしらの攻撃を受け、発射に失敗した魚雷が誤爆。
まるで厚紙が潰れて行くように、船首が軋みながら潰れて行く。
その勢いで積載されていた魚雷も潰れ、爆発が連鎖的に起きる。

( 0"ゞ0)「糞がああああああ!!」

781名無しさん:2024/07/14(日) 19:27:31 ID:K.ug12hY0
そんな絶叫は、ほんの数秒で圧壊して鉄の塊と化したオクトパシーに飲まれて消える。
彼等にとって不運なことは、動力であるニューソクは安全装置が働き、爆発を起こすことはなかった点だ。
もしも安全措置を解除していれば、その爆発でイルトリアの軍港に壊滅的な被害を与えられたことだろう。
焦るあまり、その安全装置を解除するという最終手段を取ることを忘れたのは、文字通りに致命的だった。

深海に向けて沈降していく鉄塊となった潜水艦を見送り、三機の棺桶が海面に浮上する。

〔 ÷|÷〕『少し時間がかかったな』

( L[::::])『これだけの量ですから、仕方のない事です』

恐らくは1時間近くかかったことだろう。
音を聞く限り、まだ市街戦は続いている。
陥落していないのならば、やることは一つ。

〔 ÷|÷〕『陸軍の援護に向かうぞ』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

お腹を痛めることは誰にでもできますお。
僕も、何度も蹴られたことがありますお。
だけど、あの人たちは心を痛めながら僕と旅をしてくれましたお。
僕にとっての家族は、あの人たち以外にいませんお。

                                                ――ブーン

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

はたから見れば、それは短い時間の付き合いではあっただろう。
1年にも満たない時間しか一緒にいなかった二人の関係は、だがしかし、生まれてからずっと一緒に過ごしている姉弟のような物だった。
ブーンにとってデレシアと出会ってから、多くの人間に助けられてきた。
その中でも、ヒート・オロラ・レッドウィングは特別な人間だった。

そして自分に対して並々ならぬ優しさで接し、温もりを与えてくれた。
自分にとって、デレシアとヒートがいれば世界はそれで十分だとさえ思えた。
しかし、それは叶わぬ夢となった。
ブーンを抱いたまま息絶えたヒートの亡骸を本物の棺桶に収め、蓋を閉じてからようやく、ブーンは袖で目元の涙を拭った。

(,,'゚ω'゚)「……この棺桶に入れておけば、3日は大丈夫だ。
     葬儀を済ませるなら、それ以内にするといい」

(∪´ω`)゛「はいですお」

ブーンをイルトリア軍基地にある地下遺体安置所に連れてきた男は、少しだけ申し訳なさそうにそう言った。
名前は知らないが、ブーンに対して嫌悪の感情は抱いていない。
むしろ、同情するような“匂い”がした。

(,,'゚ω'゚)「俺たちは街に出るが、ここならひとまず安全だ。
     少し休んでいると――」

782名無しさん:2024/07/14(日) 19:27:55 ID:K.ug12hY0
踵を返そうとした男の袖を、ブーンは握っていた。

(,,'゚ω'゚)「――どうした」

(∪´ω`)「僕も、何かしたいです」

(,,'゚ω'゚)「その気持ちはわかる。
     大切な人を目の前で失えば、誰だってそうなる。
     だが、生きることも戦いだ。
     いいか、ブーン。

     お前たち若者が生き残れば、俺たちは負けない。
     お前が死ねば、お前に想いを託した人たちが浮かばれない。
     だからお前は生きることを最優先にしろ。
     命を懸けて戦うのは、大人の役目だ。

     お前は十分に戦った」

男は膝を突き、ブーンの頭に手を乗せた。

(,,'゚ω'゚)「……それでも、戦いたいというのなら。
     お前は、何の為に戦いたい?」

(∪´ω`)「……まだ、知らないことがあるんですお」

(,,'゚ω'゚)「知らないこと?」

(∪´ω`)゛「僕はまだ、愛について知らないですお」

その言葉を聞いた時、男は僅かに面食らった様子だった。
子供の言うことと一笑に付すことも出来ただろうが、男は、真っすぐにブーンの目を見る。

(∪´ω`)「あと少しで分かるような気がするんですお」

(,,'゚ω'゚)「……戦いの中で分かるのか?」

(∪´ω`)「分からないですお。
      でも、ここで座って待っていても、分からないことだけは分かりますお」

逡巡。
男は、僅かに思いを巡らせ、そして立ち上がる。

(,,'゚ω'゚)「……なら、探してみるといい。
     だがそれは、自分の力で探すんだ」

(∪´ω`)「分かりましたお」

783名無しさん:2024/07/14(日) 19:28:24 ID:K.ug12hY0
(,,'゚ω'゚)「俺には、丁度お前ぐらいの息子がいてな。
     できれば、死んでほしくない。
     厳しい事を言うようだが、ここはイルトリアで、力だけがルールを変え、力が全てを変える時代だ。
     一度吠えたなら、最後までやって見せろよ、ブーン」

(∪´ω`)゛

頷くと、男は不器用な笑顔を浮かべた。

(,,'゚ω'゚)「……俺の、おじさんがな、お前に礼を言っていたよ」

(∪´ω`)「おじさん?」

(,,'゚ω'゚)「ディートリッヒ・カルマっておじさんさ。
     あんなに笑う人だって、初めて知ったよ」

(∪´ω`)「お! ディートリッヒさん!」

(,,'゚ω'゚)「また会って、美味いステーキを焼いて食わせたいって言ってたよ。
     さぁ、ブーン。
     俺はここの鍵をかけたりするから、お前は街に行って、自分にできることを探すといい。
     怖かったり、危なかったらこの基地に戻って来ればいいさ。

     この基地にいた連中はほとんど排除したから、街よりは安全だ」

(∪´ω`)゛「分かりましたお」

ブーンは来た道を戻り、入り口の前に停めていたディ――タイヤは地上用のそれに交換済み――のエンジンを始動させる。
骨伝導式のインカムを通じてディに語りかけた。

(∪´ω`)「ディ、一緒に来てほしいお」

(#゚;;-゚)『……よく考えましたか?』

少しためらいがちに、ディが答える。

(∪´ω`)「うん。 僕はまだ知らないことが多いお」

(#゚;;-゚)『戦場で学べることもありますが、生きて戦場の外でしか学べないこともあります。
    無理に戦場を駆ける必要はありませんよ』

(∪´ω`)「分かってるお。
      でも、今しか分からないことも、今しかできないこともあるお」

(#゚;;-゚)『……非合理的な判断ですね。
    ですが、友人として、手を貸しましょう。
    危険だと判断した場合、即座にここに帰ってきます。
    それが条件です』

(∪´ω`)「ありがとう、ディ」


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