したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

Ammo→Re!!のようです

555名無しさん:2023/07/02(日) 20:52:08 ID:EB0RZRkQ0
刹那に感じ取った相手の殺意、そして危険性は、森の中で猛毒を持つ蛇を見つけた時のそれに酷似していた。
放つ雰囲気が、女の積み重ねてきた死体の数の多さを物語っている。
腰だめに構えたライフルをフルオートで放ったのは、彼なりの慈悲でもあった。
痛みを感じる間もなく絶命し得る暴力の驟雨は、だがしかし、女の肉を穿つことはなかった。

背を向け、コンテナで銃弾から身を守りつつ、女は棺桶の起動コードを口にした。

        Victory   loves   preparation.
从'ー'从『勝利の女神は周到な準備にこそ微笑む』

その直後、ネーノの体が文字通り吹き飛んだ。
肉片と化した彼の体が周囲に飛び散り、生命の痕跡の一切を失った。
如何に訓練と実戦を積み重ねた円卓十二騎士であっても、不意打ち的に放たれた数千の対強化外骨格用のベアリング弾を前にしては、成す術はない。
一瞬で挽肉のように引き裂かれたのは、彼の肉体だけではなく、その体に装着していた棺桶も同様だった。

片割れの異変に気付き、弟であるノーネが降りてくる。
散らばった兄の肉片を見ても、彼は円卓十二騎士らしく、冷静に戦闘行動を開始した。

( ノAヽ)「だらぁっ!!」

射撃を得意とする兄とは逆に、弟は近接戦闘を得意とする。
その得物は身の丈ほどの長い高周波刀。
一撃必殺を常とし、一騎打ちであればその戦果は華々しい物である。
彼ら双子が円卓十二騎士として登録されたのも、お互いを補って余りある高い戦闘能力と連携力を買われての事。

だが、その弱点や癖を事前に知る者からすれば、脅威は半減する。
相手からすれば初見だが、ティンバーランド側からすれば何度も研究を重ねてきた対象の答え合わせをする気持ちなのだ。
潔く棺桶を放棄した女は、余裕を持ってそれを迎え撃つ。
その手には小型の棺桶が一つ。

胸の前に抱き、睦言のようにコードを入力する。

从'ー'从『この手では最愛を抱くことさえ叶わない』

両手を覆う、異形の爪。
放つ高周波振動の音を耳にした時には、すでにノーネは攻撃態勢に入っている。
逡巡なく踏み込み、穿つように刃を女の胴体に向けて放つ。
地面に落ちた小型コンテナを蹴り上げ、女はその一撃を防ぐ。

コンテナに弾かれた刃を素早く切り替え、ノーネの二撃目が女の右足を狙う。
生身ならば難なく切断できるその攻撃が形になる前に、ノーネの左肩を強烈な前蹴りが襲い、強制的に距離を取らされた。
着地と同時に次の攻撃に移行する。
この攻防の間、ノーネは呼吸を止めていた。

呼吸をすればその隙を狙われる、そう判断したのだ。
彼の判断は正しかった。
呼吸、瞬き、それらの生理的現象の間を縫うように女は攻撃を行えるだけの技量があり、実際にそれを狙っていた。

从'ー'从「あなたじゃないの、騎士さん。
     私が会いたいのは、あなたじゃないのよ」

556名無しさん:2023/07/02(日) 20:54:11 ID:EB0RZRkQ0
( ノAヽ)「ふっ……!!」

女の言葉を無視し、ノーネは再び深く地面を蹴り飛ばし、低空からの斬撃を敢行する。
そこで再び攻撃を邪魔したのは、小型のコンテナだった。
棺桶を収納するコンテナはその性質上、頑丈に作られている。
しかし高周波振動を用いた攻撃や、強力な銃弾を前にしては流石にその力を発揮することはできない。

先ほどの一撃は角度の関係で攻撃が反らされたが、今度の一撃は蹴り飛ばされたコンテナが刃先に当たり、軌道が狂わされたのだ。
鼻先を掠め飛んで行った一撃を冷たい目で見送り、女の繊手が深々とノーネの心臓を貫いた。

从'ー'从「さようなら」

( ノAヽ)「……ご」

――この間、実に10秒。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                        {:;;;;三圭圭圭圭圭圭i////////\;ミ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;i
                       ノ,,;;圭圭圭圭圭圭圭圭i//////////\ミ;;;;;;/`゙゙_7´
                      j;;圭圭圭圭圭圭圭圭,>\//////////,\ヽ  /´
                     /;;;#圭圭圭圭圭圭圭ノ  ,;: \//////////,i  ̄
                    ノ;,;圭圭圭圭圭圭圭/##;; ;,;;;;  \,////////ヽ
                    );;三圭圭圭圭圭>#### ;#; ;;;;;;   , \,///////i
                    {,;;;;三圭圭圭/ ̄# ;## ;;###    ;;,   )///////;)
                   /;#圭圭圭>/\  ヾ メ#;; ;    > 、//////;;{
                   ヾ圭圭///////\     Y'';  /圭圭i/////#}
                    ~{;;///////////\   ;;; }圭圭圭;;i////i;;;/
                    ///////////////.\   i´圭圭圭;;;,i///,/´
                  ////////>ー////////`i-イ圭圭圭圭;i///i
                ー´/////,>   ////////,/圭圭圭圭圭三;i///i
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 PM03:25

ティンバーランドの部隊がスリーピースの北部検問所を突破したのは、午後3時半頃のことだった。
高周波振動発生装置を備えた破城鎚を用いて最後の隔壁を破壊し、数百の部隊がジュスティアへと侵入した。
その陸上部隊を最初に出迎えたのはジュスティアの街並みではなかった。

〔欒゚[::|::]゚〕『……何だ、こいつら』

百人程度の人間が、まるで待ち構えていたかのようにこちらを見据えている。
装備はバラバラだったが、出迎えた人間の服や装備には一様に同じ文字が書かれている。

POLICE
警  察、と。

文字通り本当に警察なら、よほど頭のおかしい連中の集まりに違いないと、誰もが思った。

(*゚∀゚)「来たな」

557名無しさん:2023/07/02(日) 20:56:30 ID:EB0RZRkQ0
その集団の最前列、そして真ん中で腕を組んでいるのは鋭い眼光の女だった。
歳を感じさせる顔だが、その正体に気づいた誰かがその名を口にする。

〔欒゚[::|::]゚〕『……ツー・カレンスキーだ!!
      “串刺し判事”の!!』

〔欒゚[::|::]゚〕『だぁっはははっ!! ってことはこいつらただの警官の集まりかよ!!
      “お巡りさん”が、俺たちを止める気なのか!!
      逃げておいた方が良かったのにな!!』

背後から嘲笑が起こる。
圧倒的な戦力差がある以上、侵略者の優位性は揺るがない。
棺桶は30機ほどしか生き残っていないが、生身の部隊がまだ生き延びている上に、援軍がもう間もなく到着する予定なのだ。
使用する武装の潤沢さは、間違いなく相手に勝っている。

後は蹂躙するだけであり、今は美食を前に舌なめずりをしているようなものだ。
だが今度は、ツーとその後ろに控える警官隊が嘲笑した。
構えた盾の下部を地面に叩きつけ、拍手の代わりとする。

(*゚∀゚)「はははっ!! 逃げる?
    我々は警官だ。
    軍人と違って我々には撤退などという言葉はない。
    守る街を、人を背にして逃げないからこそ、我々は“お巡りさん”なのだよ。

    犯罪者には分からんだろうなぁ!!
    弱い者いじめが大好きな弱者には、特に!!」

〔欒゚[::|::]゚〕『強がりを言うなよ、ババア。
      お前らは俺たちに命乞いをする立場なんだ。
      今ここで殺さないのは、俺たちが――』

だがその言葉を遮り、ツーが咆哮した。
歓喜と狂気、そして怒気にまみれたその咆哮は獣のそれと聞き違えるほどの迫力だった。

(*゚∀゚)「敵対意思確認!! 逮捕はなしだ!!
    叩き潰してやれ!!」

〔欒゚[::|::]゚〕『っ……ぶっ殺してやれ!!』

その瞬間、空気が震えた。
双方から起きた雄叫びと銃声が鳴り響き、戦闘が始まった。

――その数分後、南部の検問所が突破された。

円卓十二騎士の庇護を失った検問所を最初に突破したのは、装甲車に乗った部隊だった。
ジュスティアに恨みのある人間で構成された部隊は、スリーピース前での戦闘では後方に控え、援護射撃を行っていた。
その部隊が担う役目は、検問所を突破した先で待ち受ける市街戦での道づくりだった。
一般市民が避難しているシェルターへの道のりもそうだが、地図に載っていないような古い地下通路も徹底して確保することが任務だ。

558名無しさん:2023/07/02(日) 20:57:42 ID:Bnrzt0RI0
きたな!

559名無しさん:2023/07/02(日) 20:57:54 ID:EB0RZRkQ0
だがその任務は、すでにその大部分が終わっていた。
街に密かに持ち込ませた薬物により、決して表には出てこない通路や死角の情報が大量に手に入ったのだ。
そうして作られた地図を元に、更に薬をばらまき、その整合性と実用性を確認した。
口伝で手に入れた情報ではなく、実際の情報として得たジュスティアの地図は侵略者にとっては値千金の物である。

〔欒゚[::|::]゚〕『あ?!』

侵入してすぐに、その部隊はその場に止まることになった。
先頭を行く装甲車が急ブレーキを踏み、それに続いて続々と停車する。
行き場を失った車両が検問所の中で渋滞を起こしてしまう。
停車した理由は、警察の格好をした人間の構える数多の銃腔と殺意、そして地面に敷かれた大量のスパイクベルトだった。

出迎えたのは、多めに見積もっても数百人程度の警察官たち。
戦力差は優に十倍はある。
その最前列に、予想外の人間がいた。

爪'ー`)y‐「ようこそ、ジュスティアへ。
      と、言いたいところだが君たちは歓迎していないんだ。
      お帰り頂こうか」

ジュスティア市長、フォックス・ジャラン・スリウァヤが葉巻を口に咥えたまま、不敵な笑みを浮かべて指を鳴らした。
直後、銃声が一斉に彼女たちを迎え入れた。
重装甲の装甲車の表面を銃弾が殴りつけ、強化ガラスにひびが入り、細かな破片が運転手を襲う。
中には貫通した銃弾もあり、棺桶を装着できない運転手がその銃弾によって負傷し、悲鳴を上げる。

(::0::0::)「がやあああ!!」

(●ム●)「目が、目がっ……!!」

〔欒゚[::|::]゚〕『後部席の者が誘導して前進しろ!!』

そう言うよりも早く、装甲車のフロントガラスが黒に染まった。
強盗や誘拐犯が好んで使う速乾性の熱遮断ペイント弾だ。
警察が使うなど、聞いたことがない。
間髪入れずに窓ガラスの隙間から黄色い煙が入り込んでくる。

(●ム●)「げっ……ほああががっ……!!」

〔欒゚[::|::]゚〕『ガスだ!!
       くそっ!! 全員降車しろ!!』

ただの催涙ガスではない。
これもまた、強盗が好んで使う神経毒の類だった。
四肢の自由を奪うことに特化しつつ、意識を混濁させる類の毒だ。
ジュスティア軍でも使用禁止兵器として登録されているが、それを警察が使った例は一度もない。

降車した棺桶を装着した部隊が、煙の中から一斉に飛び出す。

〔欒゚[::|::]゚〕『お前は……!!』

560名無しさん:2023/07/02(日) 20:58:16 ID:EB0RZRkQ0
(=゚д゚)「よぅ、“お巡りさん”は嫌いラギか?」

迎え入れたのは、トラギコ・マウンテンライト率いる武装した警官隊。

〔欒゚[::|::]゚〕『ああっ……!! 糞ッ!!』

盾の壁の隙間から覗き見えた銃腔は、あまりにも大きく、凶悪な殺意を纏っていた。
だが、それよりも強い殺意を纏う人間が、ただ一人だけをめがけて駆け出していたことに、誰も気づいていなかった。
唯一、“虎”と呼ばれる刑事を除いて――

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Ammo for Rebalance!!編
##/ィ|::::〃.:/     /.::/ニニ/.:://'.::::::/// イ::〃/_/_/.://.:::::/. : :}:::/
#.'  |::::::/^ー― --,'∠..___  }:://.:::/ /'/ !::/  ,..ィ,/.://.:;ィチ}: : :,':/∧ ̄ヽ
#   |:::/ft====={'ェェェェミ、ヽ.}〃/  / ,ィェ|/ -t''´’ノ.::〃.;</ /ヽ:/'´.: :∧ : ∧=- .
'/|  {/  ゙ミヽ    廴_i!ノ,ィ ` }::/   ,ハ ^ミtl'    ̄/.::; イ / /ヽ.∧: : : : ∧ : ∧: :
 |  '   ヾtニニ====彡'   ,'/     |::{    `ー=ニ// ,'/ /三ニ}: l : : : : ∧:. :∧: : :
 |                      |::{         ´  ,'´,厶ニニニ}: l: : : : : :|ハ : ∧: : :
 {                           |:ム          /イ三三ニニ}: l: : : : :.:|: :!⌒ }
第十五章 【 Tiger in my love -愛に潜む虎-】
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 PM03:32

彼にとって、敗北と勝利の両方を得るための作戦は初めてだった。
トラギコ・マウンテンライトにとって、この日の作戦は人生で最も忌まわしく、そして、最も警官らしい仕事となるのは間違いない。
そして、煙の間からまるで弾丸のように疾駆してくる影に気づいた時、何もかもが頭から消え去った。

从'ー'从「刑事さん!!」

迫ってくる女の姿が目の前に現れた時、トラギコは傍らに置いていたコンテナを手に取っていた。
否、正確に語るならば、彼女の姿を目にするよりも先に手に取り、構えていたのだ。
それは確信だった。
まるで恋人が近づいていることが分かるような、そんな直感によるものだ。

(=゚д゚)やっぱり来たラギね!!」

振るわれた五指の一線をコンテナでいなし、勢いをそのままに起動コードを口にする。

(=゚д゚)『これが俺の天職だ!!』

コンテナが展開し、トラギコの両腕に籠手を装着させ、大振りの山刀じみた刀を手に取る。
空中で刀を構え、ワタナベ・ビルケンシュトックが振るう二撃目を迎え撃った。

从'ー'从「会いたかったぁ!!」

(=゚д゚)「俺は嫌だったラギ!!」

561名無しさん:2023/07/02(日) 20:58:36 ID:EB0RZRkQ0
押し切られるようにして、トラギコはたたらを踏む。
背後に控えていた警官隊は、すでに盾を構えて別の敵を迎え撃っている。
今は誰もが自分のことを自分でやらなければならない状況だった。
生き残ったジュスティア警察に課せられた使命は、最低でも残った28分を防ぎ切ること。

北部と南部、両方からの侵入を防ぎつつ、避難シェルターに通じる唯一の通路を防いだ状態での防衛戦。
負ける前提での戦い。
つまり時間稼ぎでしかない。
一切の余裕がない中での作戦だが、負けるだけのつもりでいる人間は一人もいなかった。

左右からの連撃を回避し、トラギコはワタナベを引き付けて市街地へと移動することにした。
彼女の戦闘能力の高さは決して油断できるものではない。
ここはトラギコが引き受け、遠ざけるのが正解だ。

(=゚д゚)「内側からやらないってのは、過信ラギか!!」

ワタナベは以前、ジュスティア内部への侵入を成功させていた。
つまりはわざわざ外側から攻め込む必要がないのにも関わらず、こうして大規模な攻撃に参加しているということになる。
その意図が分からないため、どうにか情報を引き出し、敵の次の手を読む必要があった。
単純に力だけでジュスティアを攻め落とすのであれば、話は別なのだが。

万が一、別動隊がシェルターに向かっているとしたら致命的な展開なのだ。

从'ー'从「ううん、そんなことする必要がないからぁ!!」

音からも分かる通り、相手は両手が高周波振動の兵器であり、その一振りが致命傷になり得るのは明確である。
しかし、彼女の両腕の可動域以上の攻撃は不可能であることさえ分かれば、焦る必要はない。
とにかく、ワタナベという存在を警官隊から遠ざけることに意味があった。

从'ー'从「人気のない路地に誘い込んで、何をするつもりかしらぁ!!」

(=゚д゚)「ぶっ殺すためラギ!!」

从'ー'从「やだ怖い!!」

おどけるようにそう言いつつも、ワタナベの攻撃の手が緩まることはない。
全ての攻撃が急所を狙い、確実にトラギコの命を狙っているのが分かる。
殺すつもりで攻撃を仕掛け、殺される覚悟で攻撃を受けている。
トラギコも同様に殺すつもりでワタナベと刃を交えつつ、徐々に誘導していく。

ワタナベはトラギコの意図を知りながら、それに乗って理想的な動きで最前線から離れていく。
まるで、即興の踊りだった。

(;=゚д゚)「……くっそ」

実際問題、トラギコは押されなければならなかった。
ワタナベの攻撃を受けつつ、目的の場所に誘導するにはどうしても受け身にならざるを得なかったのだ。
年齢的、そして体力的な差から、長期戦がトラギコにとっては不利に働く。

从'ー'从「ねぇ、お話ししましょう!!」

562名無しさん:2023/07/02(日) 21:00:36 ID:EB0RZRkQ0
(;=゚д゚)「なら、攻撃してくるな!!」

从'ー'从「やだぁ!!」

以前に会った時よりも確実に自制が効かなくなっているのは、何かに興奮しているからだろう。
興奮の原因は分からないが、刃が触れ合って生まれた火花が照らす笑顔と高揚した頬はまるで恋した乙女のそれ。
殺しを嬉々として行う女の恋心など、不気味としか言いようがない。
だがワタナベという女は、人を殺して性的な快感を得る狂人。

そもそも、何かの尺度で測ろうということ自体が間違いなのだ。

从'ー'从「ねぇねぇ!!」

(;=゚д゚)「このっ!!」

実際問題、一切の余裕のない状況で、ワタナベの攻撃を防ぐだけでそれ以上を得ることは難しかった。
顔が触れるほどの至近距離に近づいたかと思うと、飛び退いて攻撃を回避しなければならなかった。
何かの問答に付き合うのは、極めて神経をすり減らす作業でもあった。

从'ー'从「やっと、他の人を気にしないで一緒になれるねぇ!!」

(;=゚д゚)「あぁっ!? 嬉しくねぇラギ!!」

次第に、トラギコは相手が意図的に攻撃のタイミングをずらし、長引くように仕向けていることに気づいてきた。
受け流した傍から放たれる一撃は、こちらが確実に受けられるように調整されている。

从'ー'从「ずーっと!! ずーっとお話したかったのぉ!!
     今日までずっと我慢してきたけど、もう我慢できない!!
     我慢なんてしなくていい!!
     刑事さん!! お話ししましょう!!」

(;=゚д゚)「これまでの犯罪行為を話したいんなら、留置所で勝手にすればいいラギ!!」

从'ー'从「ううん、違う!!
     もっと楽しいお話をしたいのぉ!!
     ねぇ、好きな食べ物はぁ? 好きな音楽はぁ? 好きなタイプはぁ?
     刑事さんのこと、もっともっと知りたい!!」

(;=゚д゚)「何だぁ、手前……!!
    薬でもやったラギか?!」

テンションが明らかに異常だ。
精神を高揚させる類の薬を摂取しているとしたら、かなり厄介だ。
ただでさえ厄介な性格をしている彼女のネジが外れれば、行動の予想などまるで出来ない。
今のところはこちらの意図した通りに前線から離れているが、いつ正気に戻るか分からない。

最悪なのは、この状態でシェルターに侵入されることだ。
その展開だけは絶対に避けなければならない。
ニクラメンで起きた大量虐殺を思えば、ワタナベを生かして民間人の傍に連れて行くことは終わりを意味する。

563名無しさん:2023/07/02(日) 21:01:49 ID:EB0RZRkQ0
从'ー'从「薬? ううん、そんなものじゃないわぁ!!
     恋よ!!」

(;=゚д゚)「恋?!」

間違いなく、ワタナベは向精神薬を使っている。
興奮し、神経の伝達速度を上げるような薬物を使われているのであれば、勝てる見込みがない。

从'ー'从「好きな人の事を知りたいって思うのは、恋よ!!
     だから、ねぇ教えて!!
     何が好きで、何が嫌いで!!
     どんな人生を歩んできたのか!!」

連撃の勢いは以降に衰えない。
それどころか、勢いが増すばかりだ。
受け流すどころではなく、攻撃を受けるだけで精いっぱい。

(=゚д゚)「うるっせぇ!!
    俺はお前と違って若くねぇんだ、話しながら戦うなんてのは、向いてないラギ!!
    歳を考えろ!! 歳をよぉ!!」

从'ー'从「あっはぁ!! 可愛い!!
     そんなところも、昔から好きぃ!!」

(;=゚д゚)「……昔?」

その言葉に、トラギコの反応が僅かに鈍る。
狂人の言葉など、耳を貸すべきではない。
しかしそれでも、ワタナベの言葉に反応してしまったのは、彼女が時々見せる理性的な一面を知っているからだ。
毛ほどの油断を見逃さず、ワタナベの繊手は防御が困難な刺突を選択する。

防御か、回避か。
コンマ数秒以下の世界で彼が下した判断は、技術によるカウンターだった。
警察学校時代に学んだ護身術の一つを生かし、突き出された左腕の外側に体をねじ込み、足を首の後ろに素早く絡ませ、足の力と勢いを使って引きずり倒す。

(=゚д゚)「おぅらぁ!!」

从'ー'从「!?」

防御困難なカウンターに、ワタナベの顔がコンクリートの地面にほぼ垂直に吸い込まれる。
顔への一撃が見込まれたが、ワタナベは空いた右手を地面に突き立て、トラギコの攻撃を受け止めた。
右腕一本で自重とトラギコの体重を支えたかと思うと、次の瞬間、二人の体が回転した。
見えていた地面が天井になったかと思うと、背中に衝撃が走る。

(;=゚д゚)「ごっ……はっ……!!」

肺の空気が強引に押し出される感覚。
そしてそれまで、腕と足に感じていたはずのワタナベの感触が失われる。
いち早く態勢を整え、倒れた状態のトラギコの傍で屈んで見下ろしていた。
その気になればトラギコの命を奪えるだけの時間的な猶予があったにも関わらず、そうしなかった。

564名無しさん:2023/07/02(日) 21:05:08 ID:EB0RZRkQ0
从'ー'从「二人でピロートークをするのはまた後っ!!
     今は話しながら踊ろうよぉ!!」

手を取られ、強引に引き起こされる。
わざわざ高周波振動を切っての行動に、ますますトラギコの混乱に拍車がかかる。
そして再びの攻撃。
反射的に防ぐほか、トラギコには選択肢はなかった。

(;=゚д゚)「本当に、手前は何なんラギ?!」

从'ー'从「何って、刑事さんの大ファンに決まってるじゃない!!
     初めて会った時からずーっと!!」

(;=゚д゚)「ニクラメンでの出会いで、そこまで好かれる理由は――」

从'ー'从「何、言ってるの?」

突如として、ワタナベの声が冷気を孕む。

从'ー'从「十五年前のCAL21号事件。
     十二月十六日に、法廷で叫んでくれたでしょう?
     どれだけの未来が奪われたと思ってるんだ、って。
     あの場で私達の味方は、刑事さんだけだった」

(;=゚д゚)「私……達……?
    な、何を……」

从'ー'从「お花屋さんのサンディとカレン、二人とも元気だったでしょう?」

(;=゚д゚)「馬鹿な……手前……まさか……?!」

背筋に冷たい物が走る。
ワタナベが口にしたのは、CAL21号事件の被害者だった少女二人の名前だ。
事件後に二人はジュスティアの施設で引き取られ、新たなファミリーネームを得てそれぞれの人生を歩んだ。
ジュスティアで二人が花屋を営んでいることを知るのは、当時の事件関係者だけ。

そして、CAL21号事件で生き延びた子供は3人だけ。
2人はジュスティアの施設に入ったが、もう1人は名も知らぬ誰かに引き取られたはずだ。

从'ー'从「助けた奴の事なんでいちいち覚えていない、ってよく言ってるよねぇ。
     私達はね、イトーイに助けてもらったんだよ。
     あの子、刑事さんに会ってから警察官になりたがってたんだ。
     どう? これでも思い当たることはない?」

CAL21号事件を解決に導いた一人の少年の名前が挙げられた瞬間。
トラギコは、認めざるを得なかった。
あの少年の存在を知っている人間がいたとしても、名前を知る者はほとんどいない。
更に、トラギコと少年との邂逅を知るのは、施設にいた人間でもごく少数。

565名無しさん:2023/07/02(日) 21:05:28 ID:EB0RZRkQ0
殺し合いの最中に、トラギコは動きを止めた。
それがどれほどの愚行か、彼は良く分かっている。
分かっているが、動きを止めざるを得なかった。
彼の中にある、ただ唯一の心の傷が撫でられたのだ。

(;=゚д゚)「あの時にいた……ガキの一人ラギか?」

ワタナベが満面の笑みを浮かべる。
その笑顔が、トラギコの心臓を掴んだ。

从'ー'从「お久しぶり、役立たずの愛しい刑事さん」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   : : : :l : :丨  i    ,     .\      \
   : : : :i : : i  i l   ',     \\    \ \
   : : : :i : : l  i |    .    、\\     \ 丶
   : : : :l : : l  i  ,       、    \\\     \
   : ! : :l : : | ! ',      \    \\、 、  丶
   : !i ; |: : : .   ,  ′   .   \    、\、   \  丶
   _;!i_l_|_i: : : .  ',   、   \        \}     \
   : !「| 「:!: :!: : . ′、 \_j____、_ __     \    \
   : !i:||!: :!: : : .  、丶. !`「 、  ヽ      \丶  丶
   : !|j__!:|: :{ 丶: : .   、 〉い ̄\   \       \\
   : !i气い: :、:、\: .、 \》i≧x,,_\   丶        丶\
   : !{__厶. 、 、: .、 \\'゙{ 乂_,厂}㍉、 \ 丶       \
   : 〈 ̄  \{\\ \ `う二∠ ノ弌 . 丶  丶         丶
   、:、    _〉 \   \      〉.\   \ \ 丶
    ` \   i{               /^A 丶   \ \ \丶
         }            /〉/,ハ   、  \ \ \\
                    /´/  } i   \  \ \ 、丶
     、_ __ _            /イ: : .\jハ ∧、\  \ \\
   .          ̄`¨´    . 〈: : : : : : . .\}/  } 丶 \  \ \\
    i 、              .イ i: : 、: : : : .、  丶.ノ   \ \  ヽ  \ 、
    | 丶             ´ l:|: |: l: :丶 : : : .\   \     \ \   、 \
   _|    \   .  ´    i」_:|:|: : : :, : : : : :  、 丶     \ \  \  丶
   _}     `¨´      |  ∨: : :, : }: : : : : }: :}\   \    ヽ 丶  丶
  、」            丨/ }i: : :i∨ : : : : , : '  \  ヽ.    }  }
    \             /  八 :||: : : : :/ /    `   \ /  ′
     、\    _ __ .  ´  /  }i、l,ノ: : :/}/          /ヘ.
      ‐`=;≦二 ̄       ,リ `'< /         ´    丶
      / ̄i∧          〃      `'‐-、__
     .〈    | ∧        /′      〃´└- 、_
      / 、\ { /∧     / /          {{/       \
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ワタナベ・ビルケンシュトックが救われた日は、人生の中でわずか2日だけだった。
ブルーハーツ児童養護施設を襲った性犯罪者によって心と体を壊されたが、命を奪われる前にイトーイがその寸前で救ってくれた日。
所謂、“CAL21号事件”である。
そしてもう1日も、その事件に関係のある裁判で判決が下された日だった。

566名無しさん:2023/07/02(日) 21:05:50 ID:EB0RZRkQ0
裁判が始まる前に施設の人間が買収され、被告人に対して然るべき罰が下されないことが決定したことは、その日になって知ったことだった。
あれだけの人間を殺し、その人間の尊厳を奪ったにもかかわらず、告げられた判決は懲役3年。
あの時の静寂と形容しがたい苦痛は、今でも鮮明に思い出せる。
だが、味方のいない裁判所でたった一人だけ声を荒げ、彼女たちの味方をしてくれた人間がいた。

判決は覆らなかったが、その姿に彼女は僅かだが救いを感じた。
しかしそれでも、彼女の心は極めて脆い状態だった。
一夜にしてあらゆるものを奪われ、信じていた施設の人間にも裏切られたという精神的なショックを克服するにはあまりにも幼すぎたのだ。
抗っていたトラギコの姿は脳裏に焼き付いたが、彼女の心が癒える間もなく、環境は瞬く間に変化していった。

裁判の後、ワタナベはすぐにある男に引き取られたが、その夜に犯された。
それが、彼女の心に致命的な傷を負わせた。
屈辱と苦痛に耐える日々の中で、心はそれに順応するために変化をした。
初めての殺人を経て、トラギコへの感謝の気持ちが黒い感情に染まった瞬間は、決して忘れることはない。

彼がもっと早く、あるいは、もう少しだけ救った人間に興味を持っていれば、ワタナベはこのような苦痛を味わわずに済んだかもしれない。
生き延び、味わった苦痛が彼女の生きる糧となった。
同時に、人を殺すことの才能に開花した彼女はそれから殺しを生き甲斐とすることにした。
いつかどこかで、トラギコに会う日が来たら、彼を殺すために。

殺しを続けていく中で、キュート・ウルヴァリンと出会い、性犯罪者を一人残らずこの世から消すために、ティンバーランドへの参加を決めた。
参加の条件にワタナベが提示したのは、彼女の邪魔をしない、そしてトラギコに関する情報を逐一報告するという2点だった。
組織内で力のあるキュートはその要望を受け入れ、殺しが主となる任務に彼女を派遣することを約束した。
そして事前情報の通り、ニクラメンで彼と再会し、罵倒の言葉を浴びせてから殺し合いを始めた。

本気で殺すために攻撃をしたが、彼はそれを防ぎきった。
途中で邪魔もあったが、標的を殺し損ねたのはそれが初めての事だった。
殺しの大将を前にして彼女の下腹部が熱くなるのを感じたのもまた、初めての事だった。
憎しみに似た何かが恋心であることに気づき、その時からワタナベはその気持ちを今日まで押し隠すことに決めたのだ。

トラギコなら、ワタナベのことを受け入れてくれる。
あの日、彼女に救いを与えてくれた正義の味方であれば、きっと。
きっと、彼女を――

从'ー'从「さぁ、続きをしましょう!!
     刑事さん、お話をしましょうよ!!」

トラギコは苦虫を潰したような表情を浮かべ、手にした武器を構え直す。
高周波振動を発するその武器は、ワタナベのシザーハンズに対抗できる唯一の武器。
定石はそれを奪うことだが、それでは意味がない。
出来る限り会話を重ね、その末に殺そうとすることに意味があるのだ。

彼の事を知り、理解した状態でなければ意味がない。

(=゚д゚)「絶対にお断りラギ。
    ……だけど、少しだけ話をしてやるラギ!!」

567名無しさん:2023/07/02(日) 21:06:11 ID:EB0RZRkQ0
こちらの正体を知ってもなお、トラギコは同情するような表情は浮かべなかった。
嫌悪感に近い何か、もしくは鋼の様な心がその正体だろう。
彼は犯罪者に対して、絶対に同情はしない。
これまでに歩んできた彼の歴史が、これまでに見聞してきた多くの犯罪が、今の彼を作っているのだ。

内藤財団が取集したトラギコに関する情報に全て目を通したワタナベは、彼の心の機微まで分かる程にそれに精通していた。
分からないのは、ただ一つ。
正義の味方として、彼は何を感じ、何を思い、何を考えて今に至るのか。
それだけが知りたいのだ。

腐った世界の中でも正義を信じつつも、ジュスティアの方針とは異なった生き方をしている理由。
ジュスティア警察でただ一人の、本物の正義の味方として生き続ける矜持。
CAL21号事件において、ただ一人、世界を敵に回しても構わないと思って行動した人間。
彼こそが正義の味方なのだと、ワタナベが確信に至る情報が得たいのだ。

(=゚д゚)「手前は、俺が止めてやるラギ」

そう言った瞬間、トラギコが一気に前に向けて駆け出した。
速度ではワタナベに劣るが、振るう一撃の重さは確かなものだ。
受け流しが難しい左下方からの切り上げをバックステップで回避し、反動を利用して即座に一歩前に踏み込む。
距離を取らなければ相手に攻撃を許すことになる。

しかし逆に、距離を詰めれば彼女の両手の武器が真価を発揮する。
互いの吐息が聞こえるほどの近距離へと入り込むことによってトラギコの右腕を使用不可能にし、ワタナベは両手をトラギコの背中に回す。
鉤爪が背中に触れた刹那、ワタナベの腹部に触れるものがあった。
直後に貫くような衝撃。

从;'-'从「けっ……はぁっ……!?」

間に合わなかったが、それでも、ワタナベは上半身を弛緩させて攻撃の威力を軽減させることには成功していた。
人間の膂力の攻撃ではない。
いつの間にか、トラギコの拳がそこに構えられているのを見て、ワタナベは苦しみの中で歓喜した。
彼は切り上げを放つことで、こちらが意図した通りに動くように仕向けたのだ。

ジュスティア警察仕込みの直突き。
距離が稼げなくとも上半身の可動だけで繰り出す一撃は、護身における隠し玉だ。

(=゚д゚)「手前があの時の生き残りだとしても、俺は手前を殺すだけの理由があるラギ。
    これまでに殺してきた人間が、手前を許さねぇラギ!!」

そう。
それでいい。
憎しみや怒りは置き去りにして、ただ互いを求め合う。
心の求めるまま、刃を交えればいい。

ワタナベの放つ攻撃を、トラギコは巧みに刀を使って防いでいく。

568名無しさん:2023/07/02(日) 21:06:39 ID:EB0RZRkQ0
从'ー'从「ふふっ……!! そうでしょうねぇ。
     でも、それが何?
     裁判を待たずに逮捕ではなく殺すと決めたのは刑事さんよぉ?
     それは刑事さんの意思で決めたことでしょう?

     なら、求めているのは、刑事さん自身。
     あははっ!! 私達、両想いだったんだ!!」

互いに互いの命を狙い、こうして刃を交わす。
心臓の鼓動が高鳴り、息が荒くなる。
求めるのがお互いの命であれば、それこそは求愛行動と言っても過言ではない。
双方の武器が触れるたび、火花が散る。

火花が二人の顔を照らし、黄昏時と見紛うばかりの空の下で鮮やかな光景を生み出していた。
まるで、二人の傍で爆ぜる極小の花火のようにワタナベの目には映っていた。
いつまでもこの光景を見続けていたいと思う傍ら、心の中にある殺戮症状が鎌首をもたげる。

(=゚д゚)「あぁそうラギね」

从'ー'从「嬉しいっ!!」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                                                ,. <    ,.  
                                  ,. --====≦ ´    ,.  ´
                                  /{ /::::::::::::::::::::::::::::::::≧=-
                              /:Y:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\ ,.  ´
                            _Y´ ̄ `i:::::::::::::::::::::::::::::::::::r-、:::::::::::::::ヽ、
                      ,. <::-ゞ=、ヽ }::::::::::::::ト ;._:::::::\ ∨:::::::::::トヾ
                   ,  _ {r 斗≦: : : V/::::::\/r<ヽ `ヽ`ヽ_/:::::::::::::::r'⌒
                _r¬{   !ニVム: : r=z: :人:::::::::::::メ_ノ       ',:::.`⌒丶{ヽ
                 __/ ',   ',,..:::VLVz≦二ミ } }`艾} ̄ ̄   ,ィハ  }::',:.  ,. ─┐
              / ',...:ヽ:::::ヽ=┐'´-===ミ \r'   L 、 /_ニノ   ,::,. <: : : : ,: ≧=┐
            <ム::::´:r==≦: ノ{x< ̄`丶ヽ |     ,. ヽ'´    /  __,. ∠: : : __: : `丶
       ,. <:::::::::::::::::ヽ、___,. ィ´∠/: :/: :j: : } } リ   /=ミ:::ム.... イ, '´ ̄_: :`丶: : : : :
.    ,. <:::::::::::::::::::::::> '´ {:ト=== 彳/: :/: :/: :,' /:〃,.∠: :\{:::::::::....../--: _: :`丶ヽ: : : : : :
.<::::::::::::::::::::::::> '´     ト、:::::::::::/: :/: :/: : ' ,::::{<⌒ヽ::ヽ:::::::::√ ̄`丶: : \: : : ヽ: : : :
、::::::::::::::> '´           } }-、::: /: :/: :/: : :i: :i::::ト、.:::::::::::::>'´: `丶: ` 、\ : \: : : ',: :
 ヽ ´               / r==/: :/: :/: :: :.i _{__>ー=≦ト、: : : : : : : \: :\:.\ : \: :i_: :
                  ′x ∨: :/: :/i: : : :〃/: : {:\: : : : :.\: : : : : : : : :.ヽ\: : : : :=个:.、: :
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

距離を開けたトラギコが右肩に担ぐようにして刀を構え、深く息を吐く。
連続した攻撃か、あるいは重みのある一撃に賭けてくるのか。
両肩から力を抜き、ワタナベはそれを迎え撃つ。

(=゚д゚)「仕方ねぇ、俺がお前を止めてやるラギ」

だがトラギコは、そのままじりじりと距離を詰めてくるだけで、攻撃の気配を見せてこない。
ワタナベの戦闘スタイルが、カウンターや相手の隙を狙うものだと分かったのだろう。

569名無しさん:2023/07/02(日) 21:07:07 ID:EB0RZRkQ0
(=゚д゚)「ほら、来いよ!!」

从'ー'从「いいよ!!」

そして、ワタナベが仕掛ける。
左手を鞭のようにしならせ、深く息を吐きだした瞬間に距離を一気に詰めてから攻撃を仕掛ける。
斜め上からの一撃を防ぐためには、構えた刀を使うしかない。
これによってトラギコは防御を余儀なくされ、攻撃の手を捨てることになる。

ワタナベの狙いはトラギコの動きを奪った上で命を奪うことだ。
高周波振動の兵器を奪いさえすれば、後はこちらの自由だ。
一刻も早くトラギコとの逢瀬を楽しみたいワタナベの心とは裏腹に、その頭の中は冷静に状況を分析していた。
放った一撃は必殺とは言わないまでも、トラギコの肉を割き、血液と戦意を奪い取ることだろう。

それだというのに、トラギコはまるで防御するそぶりを見せない。
構えた刀を使わなければこちらの一撃を防ぐ術はない。
相打ちを狙っている可能性を視野に入れつつも、ワタナベは攻撃を敢行した。

(=゚д゚)「だらぁっ!!」

从'ー'从「っ!!」

振り下ろした一撃は、確かにトラギコを捉えた。
だがトラギコは攻撃が形となる前に踏み込み、ワタナベの腕の内側に入り込んだことによって危険な爪先を一時的に体から遠ざけたのである。
刀での攻撃を犠牲にして肘から先を肩で抑えられているため、それ以上曲がらない。
鞭化した攻撃の欠点を的確にとらえていた。

しかしこれで、トラギコはワタナベの用意したもう一つの攻撃を回避できない距離に入った。
予め用意していた右手を一本の槍のようにして繰り出す突きは、重装甲の棺桶でなければ防御は不可能。
わき腹の肉を抉り取れば動きが鈍る。
この状況、トラギコならどう乗り越えるのだろうか。

1秒にも満たない攻防。
トラギコの目は、まっすぐにワタナベの目を見据えていた。
まるで、全てを見抜いているかのように。

(=゚д゚)「あめぇラギっ!!」

从;'-'从「しまっ……!?」

突き出す前に、トラギコの左手がワタナベの肩を掴んだ。
一瞬の激痛。
そしてそれは熱を持ち、まるで突き刺すような痛みを生み出した。
トラギコの棺桶は筋力補助だけしか機能を持たないが、その単純な機能で彼女の肩を折ったのだ。

肩の骨が折られたことにより、ワタナベは用意した一手を失った。
だが攻撃の手段を失ったのはトラギコも同じはず。
後退しようとした時、トラギコの腕がまだ彼女の肩を掴んでいる事実に驚愕した。
完全に出遅れた。

570名無しさん:2023/07/02(日) 21:07:27 ID:EB0RZRkQ0
この状況でトラギコが次に選ぶ攻撃は、ただ一つ。

(=゚д゚)「せー!!」

そして次の瞬間、トラギコは大きく頭を後ろに引いて――

(=゚д゚)「のっ!!」

从;'-'从「あぶっ!?」

――顔面に遠慮のない頭突き。
鼻の骨が折れたのが分かった。
まともに受けたその一撃によって、ワタナベの涙腺から大量の涙が放出される。
視界が奪われ、思考もマヒする。

突き飛ばされ、反射的にたたらを踏む。

(=゚д゚)「俺はな、女でも容赦なく顔を殴るラギ!!」

从;'-'从「ちいっ!!」

その宣言に思わず無事な左腕で顔を防御する。
体に染みついた戦闘の経験がそうさせてしまったのだ。

(=゚д゚)「ほらよっ!!」

だが衝撃を受けたのは腹。
胃液が逆流する程の一撃に耐えたが、最早、決着はついていた。
両手を掴まれ、そのまま足払いを受け、押し倒される。
腹の上に馬乗りになり、両手を抑えられてしまえば、ワタナベが抵抗する術はない。

体重の差、そして筋力の差が二人の間にはある。
彼が手にしていた刀はワタナベの背が地に着くのと同時に、地面に落ちていた。
高周波振動のスイッチは切られており、全てが囮であったことを如実に語っている。

(=゚д゚)「さぁて、これで落ち着いて話が出来るラギね」

从;'-'从「……」

確かに、対話はワタナベの求めていたものだ。
しかしこのような形での対話は求めていなかった。
殺し合いの中で交わされる言葉だけが真実だと疑ってやまない彼女にとって、生殺与奪を握られた状態での会話は意味がないのだ。
知りたいのは彼の本音なのだ。

(=゚д゚)「お前は、俺に殺されたいラギか?」

从'ー'从「……」

571名無しさん:2023/07/02(日) 21:08:00 ID:EB0RZRkQ0
その一言が、ワタナベの脳を甘く痺れさせた。
こちらの本心を、一瞬にして見抜かれた。
股下がうずく中、口を開く。

从'ー'从「うん」

(=゚д゚)「じゃあ俺は殺さねぇラギ。
    死刑執行人にやってもらうラギね」

从;'-'从「何で?! 意地悪しないでよぉ!!」

(=゚д゚)「犯罪者の望みを叶えてやる理由がねぇラギ。
    やっぱ手前は逮捕してムショにぶち込むか、別の奴に殺させるラギ。
    ツーのババアなら喜んで手前を殺してくれるラギ」

从;'-'从「やだやだ!! 私、刑事さんに殺されたいのぉ!!
      ねぇ!! お願い!!」

トラギコは世界最後の正義の味方だ。
彼以外の人間に殺されるなど、決して受け入れられない。
ワタナベの命を求め、奪われるというこの上ない愛情表現の機会を失うことになる。
それはこれまでの彼女の苦労の全てを無に帰すことになる。

彼との対話を重ね、その上でワタナベの命を求めるということによって、彼の正義は本物になる。
正義を。
自分にだけ向けられる一心不乱の正義を、ワタナベは見たいのだ。
それを独占したいのだ。

独占したまま死ぬことが出来るのであれば、死ぬことは何一つ怖くはない。
こちらがトラギコを殺せば、彼の正義を彼女が独占できる。
彼が生涯最後に向けた正義の矛先は、彼女だけの物なのだ。
誰にも譲るつもりはない。

世界の全てを敵に回してでも、トラギコを独り占めしたいのだ。

从;'-'从「殺してよぉ!! 私を!!
     それか、私に刑事さんを殺させてよぉ!!」

(=゚д゚)「だったら最初からそう言わなかったのは何でラギ?」

从;'-'从「だって、絶対に嫌って言うでしょ?」

(=゚д゚)「あぁ。 絶対に嫌ラギ」

从;'-'从「ううっ……!!」

このままでは願いが叶わない。
悲願が成就する寸前で終わろうとしている。
僅かの油断。
僅かの慢心。

572名無しさん:2023/07/02(日) 21:08:22 ID:EB0RZRkQ0
あるいは、トラギコを前にして高鳴った胸のざわめき。
十五年も温めてきた想いがそう簡単に抑えられるはずもなく、彼女の理性と判断力を鈍らせたのだろう。
全ては手遅れ。
取り返しのつかない失態だった。

弱みを引き出され、握られ、後は生きたまま殺されるだけ。

(=゚д゚)「……手前の事は気にかかっていたラギ。
    これは嘘じゃないラギ。
    CAL21号事件以降、手前だけが行方が分からなかったからな。
    こんな形で再会して、本当に残念ラギ」

両腕は動かない。
全身の力を総動員しても、トラギコを動かすことはできない。
腹部に感じる彼の体重が愛おしいと思いつつ、抵抗できないことに記憶の奥にある何かが煽られている気がした。

从;'-'从「この状況で、どうするっていうの?」

そう。
まだ状況は終わりではない。
トラギコが彼女の両腕を抑え、跨っている以上は攻撃の手段はない。
ここからの攻防は僅かの油断が左右する。

(=゚д゚)「俺はどうもしないラギ。
    あいつが、決着をつけてくれるラギ」

从;'-'从「え?!」

それは、彼女の失いたくない物を引き出したからこそ有効な一言だった。
油断した直後に、彼の体重を乗せた一撃が腹部を襲った。
そしてその衝撃に戸惑う間に放たれた頭部への一撃が、ワタナベの脳を左右に揺らして意識を飛ばした。
彼の両手が彼女の頭部を包み、若干の時間差をつけて打撃を放つことによって脳震盪を引き起こしたのである。

――次にワタナベが目を覚ました時、そこにトラギコはいなかった。
寝かされていた場所には見覚えがあり、トラギコが何を思ってそこに彼女を置き去りにしたのか、意図を汲み取るのは簡単だった。
失恋した生娘のようにワタナベは声を殺して涙を流したが、やがて、何かに導かれるようにしてジュスティアの街を歩きだした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
   ': :/: : : : : : :/:/: :.||: : : : :.:|: : :|: ヽ,.ィ_、ヽ: ヽ: : : : : :}
   ,' : |: :l: : |: : :|: |!: : {|: : : : :.:|: : :{: :ハ:: 彡{ム : ∨: : : :.|
   |:|: |:_:l: : |: : :|: |{: {:〈、: : : : :|!: : |{: :.| ::::: |::|: ヽ|: : : :i:.}
   |:|: ト,」: :.|: : :|: |マ:ト,:.\: : : {|: : |マ: | ::::: |::ト、: ,.-、 : |:|
   |:ハ:{: :.|: :|: : :|: |::{:{::マ: |\:.|:|: :.j::|: }::::::: |::|::Ⅵ_、i: :|:|
   i' i:|: :|: :|: : :{:リ::从:::Ⅵ:{: :.|:|: ,':::}/::::::::::j!:|::::' }i ': :|:|
     |:|: :!: :{: : :|:{:::::::::::::::从: :|:|/:::::::::::::::::/:::|::::|'_,./: :.|:|
     |:|!:.|,: :∨:从:::::::::::::::::::∨::::::::::::::::::::/:::::|:::; r': :|: :|:|
     |:|{:.|:\}\_、 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ,':.|: : |: :|:{
     }八{: |: :|: :ム       ,          ム:|: : |: :|ヾ
     /: ,' : |: : :込、        _     イ }:..ヽ: :',|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

573名無しさん:2023/07/02(日) 21:10:02 ID:EB0RZRkQ0
同日 PM03:41

ジュスティアでの市街戦は、どれだけ時間を稼げるかの戦いだった。
戦闘に参加する全ての警官、生き残った軍人がそれを理解していた。
勝ち残ることは無理だろう。
生き残ることも無理だろう。

だからこそ、生きた証として市民の脱出を成功させなければならない。
警官隊による奮闘の甲斐あって、敵を検問所付近で食い止めることに成功はしていたが、徐々にそれも危うくなっている。
特に激戦となっている南部では、円卓十二騎士の中でも実力者に与えられるレジェンドセブンの称号を持つ、イヨウ・ジョセフ・ジャックが最前線で戦っていた。
バリケードを構築しつつ負傷者を後方に運ぶという、一人でも多く生かし、一秒でも長く戦うための戦い。

衛生兵として数多くの戦場で何百人もの命を救ってきた彼は、飛び交う銃弾と砲撃の中でも決して泣き言は言わない。
円卓十二騎士で唯一、武勲ではなく救ってきた人間の数が評価された男である。

(=゚ω゚)ノ「あともう少しだから、目を閉じるじゃないよぅ!!」

最低限の筋力補助を行う棺桶を身にまとい、赤い十字の描かれた盾を構えて負傷者を見つけ出し、危険を顧みずに救助する姿は戦場において極めて異質な姿だった。
殺し合いの中でただ一人、救い続ける人間。
彼は衛生兵としての任務だけでなく、あえて目立つ格好をすることによって敵の注意を引き付けるという役割も担っていた。
これは初めての事ではなかった。

彼がレジェンドセブンとして認められたのは、決してその命がけの行動だけが理由ではない。
円卓十二騎士の中でも極めて優れた防御の才能を持ち、危機回避能力の高さを持つためである。
掲げる盾の頑強さは、棺桶の装甲にも勝る程の分厚い合金で作られており、身を守るためには最適な武器だった。

(-゚ぺ-)「糞ッ……痛てえぇ……」

(=゚ω゚)ノ「後20分耐えるんだよぅ!!
     そうすれば、俺たちの勝ちなんだよぅ!!」

一人、また一人と銃弾に倒れていく中で黙々とイヨウは負傷者を物陰に連れて行く。
物陰に避難させられた負傷者たちは、壁を盾にして拳銃を発砲し、少しでも敵の侵入する勢いを殺そうとしていた。
対強化外骨格用の弾を装填した重機関銃を使い、射撃を続けるフォックス・ジャラン・スリウァヤの顔から余裕が消えていた。

爪#'ー`)y‐「まだだ、まだ耐えろ!!」

検問所から出てすぐの場所で待ち受けていたのは、相手の逃げ場所と勢いを奪うためだった。
狭い場所に閉じ込めれば、大群の利は失われる。
相手が装甲車や戦車を使ってくることを知っていたため、検問所内に高性能爆薬を仕掛け、爆発させて動きを鈍らせた。
これにより、南部での戦闘をこの時間まで長引かせることに成功していた。

戦闘開始早々にトラギコが訳の分からない女に巻き込まれ、市街地に消えて行ったのは計算外だった。
しかしフォックスにとって、この状況はまだいい方だった。
海岸沿いに控えている相手の部隊がいつどうやって市内に入り込んでくるのか、それが分からない。
シェルターから市民を全員逃がすための算段に不安はないが、不確定要素には注意を払わなければならない。

――北部の戦闘は、南部よりも苛烈を極めていた。

574名無しさん:2023/07/02(日) 21:10:22 ID:EB0RZRkQ0
ツー・カレンスキー率いる腕利きの警官隊は、特殊警棒と盾を使って敵対勢力を撲殺していった。
後方に控える狙撃手たちの援護射撃は戦場の濃度を高め、故郷に攻め込まれた怒りが暴力性を強くしていく。
だが攻めてきた敵の部隊もまた、怒りに燃える集団であった。
上陸艇を使って現れた援軍は、そのほぼ全員がジュスティアへの恨みを持つ者達で構成されていた。

(・∀ ・)「うおらぁ!!」

奇声と共に戦うのはサイトウ・マタンキ。
度重なる露出行為により警察に指名手配され、セカンドロック刑務所に送られる際に睾丸を砕かれた。
それによって彼は露出することに対して恐怖を抱くようになり、それが警察全体への恨みに変わった。

(-_-)「……死ねよ!!」

ヒッキー・ブラインドの低く、そして小さな声にはそれを凌駕する殺意が込められている。
幼少期に学校で受けた苛めを理由に、近隣の学校に対する脅迫行為を常習的に行った。
遂にその行為に堪忍袋の緒が切れた警察により彼は実家から引きずり出され、地獄とも言えるセカンドロック刑務所の矯正施設に送り込まれた。
施設の人間から受けた暴力行為と家族に売られたという屈辱が、警察への恨みに繋がった。

/ ゚、。 /「ふぅ……!!ふぅ……!!」

スズキ・デイダラ・ダイオードの眼光は、それそのものが鋭利な刃物のように鋭い。
彼女はセフトート出身の卸売業者で、決して人から物を盗むことはなかった。
ただ、墓の下に眠っている金品を発掘し、それを売っていただけだった。
土に還るならばそれを金にして、生きている人間に還元すべきだと考えたのだ。

その考えが根底から否定され、10年以上もセカンドロック刑務所で過酷な生活を余儀なくされた彼女が最初に考えたのが、ジュスティアへの復讐だった。

 |;;;;| ,'っノVi ,ココつ「ふしゅる……!!」

サカキヴァラ・マリントンはジュスティアで保育士として働き、30年以上のキャリアを積んできた。
そのキャリアが、保護者からの苦情によって一日で終わりを告げた。
聞き分けのない子供の頭を思わず殴りつけてしまったのだ。
彼の言い分は全面的に却下され、そして、職を失った彼に残されたのはセカンドロック刑務所での暗い未来だった。

( ,'3 )「ふしゅ……」

マリントンの同僚であり、彼の擁護をしたナカジマ・バルケンは児童への性的虐待を訴えられ、マリントンと共に職を失った。
児童への性的虐待など身に覚えがなかったが、内部の人間の密告が原因だと分かり、その復讐を果たすことにした。
虚偽の密告をした元同僚の顔面が陥没するまで殴り続け、気が付いた時にはセカンドロック刑務所にいた。
刑務所におけるヒエラルキーで最下層に位置するのが、子供を相手にした性犯罪者だ。

彼は謂れのない罪によって投獄され、そして、刑務所内での壮絶ないじめを経験した。
失ったのは尊厳。
奪われたのは誇り。
彼が取り戻そうとしているのは、人生そのものだった。

( ・3・)「あるぇ〜?」

575名無しさん:2023/07/02(日) 21:10:42 ID:EB0RZRkQ0
ボルジョア・ヴェクターは周囲を見渡し、その壮絶な戦いの様子を堪能していた。
合法的な商売で金を稼いでいた彼は、ある日突然ジュスティア警察によって逮捕された。
彼の部下が非合法に稼いだ金をボルジョアに献上していたというのだ。
部下の行動など知らないボルジョアにとって、それは寝耳に水であり、あまりにも理不尽な仕打ちだった。

数十年かけて蓄えた金を一日で失い、活力を失った彼に差し伸べられた手は、内藤財団副社長のそれ。
商才を買われ、内藤財団の発展に一役買いつつも、その胸中にある復讐心は健在だった。

( ^^)「すぅ――」

得た物を失ったという点では、ワタル・ヤマザキも同じだった。
彼は金を稼ぐためではなく、読者のために多くの作品を世に生み出しただけだった。
その内の一冊がとある街の法律に触れ、逮捕されることとなった。
それによって彼の作品は世に広く周知され、更に悪いことに一部の過激な団体に目を付けられ、これまでの全ての本を失うことになった。

声の大きなマイノリティたちに耳を貸したジュスティア警察のせいで、彼は半身を失ったのだ。

(゜3゜)「んふーっ!!」

ポセイドン・ゲッター・タナカは、かつては有名な学者として知られていたが、6年前にとある研究が原因で“モスカウ”に目を付けられ、秘密裏にセカンドロック刑務所に投獄された。
そこで受けた精神的、肉体的な虐待は筆舌に尽くしがたく、彼から言葉を奪った。
失語症になりながらも彼は復讐の心を忘れず、頭の中で研究を続けてきた。
その研究の成果が、ここで披露されることを彼は誰よりも信じている。

そして、その八人の犯罪者たちを率いるのが九人目の犯罪者である、シュール・ディンケラッカー。
誘拐と殺人の罪でセカンドロック刑務所に投獄され、こうしてジュスティアに対して復讐するのを夢見てきた。
九人に与えられた棺桶は極めて短い時間でしか稼働ができない代わりに、極めて強力な威力を発揮するものだ。
全ては、円卓十二騎士の一人に対する復讐を果たすため。

lw´‐ _‐ノv「……いたぞ!!
      ショーン・コネリだ!!」

銃弾と悲鳴が飛び交う中、九人はその瞬間を待ち続けていた。

<::[-::::,|,:::]『うおおおお!!』

アーティクト・ナイン。
それを使う人間は、ジュスティアで一人しかいない。
ミニガンと高周波刀を持ち、鬼神の様な戦いぶりを見せている。
増援に次ぐ増援をものともせず、銃弾をまき散らし、警官隊と共に死体の山を作り出していた。

活路が見いだせた瞬間、九人は一斉に走り出していた。

lw´‐ _‐ノv『狙うは一撃、放つは一瞬。
       我らの願いは流れ星!!』

それは、棺桶としての機能としては最低限の物だけを搭載したAクラスの量産機。
名持ちの棺桶でありながら、大量生産され、多くのテロリストやゲリラに供給された使い捨ての棺桶。
“ズヴィオーズ”という名の棺桶の特徴は、ただ一つ。
高威力の対棺桶用誘導式ミサイルを放てることにある。

576名無しさん:2023/07/02(日) 21:11:04 ID:EB0RZRkQ0
生身の人間が使用すれば腕を折るほどの反動があるが、このズヴィオーズはそれを補助するための右腕の強化外骨格と一体化している。
混戦状態の時にはあまり役立たないが、ショーンの姿をはっきりと目視できた今、確実に当てられる。
爆風だけでもBクラスの棺桶を破壊することが出来るミサイルを九方向から同時に受ければ、どれだけ技術が卓越していたとしても、確実に爆発に巻き込まれる。
アーティクト・ナインの装甲が軽量であること、そして相手が戦闘に簿等している今が好機。

照準器を覗き込み、標的をマークする。
そして、各々の想いを乗せて銃爪を引いた。
このミサイルの特徴は、発射した直後に直上に急上昇し、落下速度を上乗せして相手の頭上から襲い掛かることにある。
それぞれが発射のタイミングをずらし、位置を変えたことにより、雨を避けるような不可能な技が要求されたショーンに逃げ場はない。

<::[-::::,|,:::]『……?!』

一瞬、何か声が上がったような気がしたが、すぐに爆炎が全てを消し去った。
頭上から現れた殺意の塊。
ましてやこの混戦の中、暗い空から降り注ぐ何かに対して即応できる人間はいない。
濛々と立ち昇る煙が晴れるにつれ、九人の犯罪者たちは血の気が失せるのをこの上なく感じ取っていた。

<::[-::::,|,:::]『……脱獄囚か!!』

ミニガンをその場に投棄し、アーティクト・ナインは一瞬で移動を開始していた。
筋力補助など期待できない棺桶を身に着ける九人は、ただ、己の命が刈り取られるのを待つしかなかった。
一撃目。
それはこの上なく正確に、そして無駄のない動きでマタンキの胴を上下に両断した。

二撃目。
マタンキの臓物が地面に落ちるより前に、ショーンはヒッキーの体を左右で切り分けた。
そこでようやく、攻撃に失敗した理由を考えるよりも殺戮機械から逃げることを選ぶ人間が出現する。
即座に重荷となる棺桶を破棄し、駆けだしたのはシュールだけ。

三撃目。
タナカの首が宙を舞った。
そして、空中でそれが四分割されたのを目視したヤマザキも袈裟斬りの四撃目によって命を落とした。
瞬く間に殺された四人の内、誰よりも先に遠くへと逃げ出したシュールが振り返っていれば、何故ショーンが生き延びたのか、その理由が分かったはずだ。

瓦礫となったピースメーカーの影に隠れる、複数の狙撃手の視線と銃腔。
その中でも抜きんでた命中精度を誇る一人がいたのだ。
だがそれに気づいたのは、ボルジョアの頭がバラのように開花した瞬間だった。

lw´;‐ _‐ノv「っ……狙撃手がまだいたのか……!!」

彼女を筆頭とした部隊の目的は、兎にも角にも突破口を開くこと。
後ろに控える本隊を安全にジュスティア内部に入れることだ。
キュート・ウルヴァリン率いる部隊が無傷で辿り着けば、制圧は時間の問題だ。
言われずともその為の先兵であり、捨て石である自覚はあった。

全ては世界がより良いものになる為に。
榴弾の流れ弾を受けたマリントン、そしてバルケンの肉体が細切れに爆ぜ、その肉片がシュールの肩に付着する。

/ ゚、。;/「し、死にたk――!!」

577名無しさん:2023/07/02(日) 21:11:24 ID:EB0RZRkQ0
助けを求めるスズキの声が途中で銃声の中に消え、いよいよシュールは自分一人だけとなったことに気づいた。

lw´;‐ _‐ノv「ああっ!!」

<::[-::::,|,:::]『ふんっ……!!』

目に映る世界が斜めにずれた。
そして、そこでシュールの役割は終わりを告げた。
だがしかし。
彼女が稼いだ極めて短い時間は、“サウザンド・マイル”をジュスティア内に突入させるのに役立ったのだ。

シュールを殺すことに執着していたショーンは、一斉に向けられた銃腔を前に短い言葉を吐き捨てた。

<::[-::::,|,:::]『……無念』

――午後3時44分の事だった。

o川*゚ー゚)o「さぁ、ただいまだ!! ジュスティア!!」

キュート・ウルヴァリン率いる部隊の制圧力は凄まじいものがあった。
それまでの拮抗状態を瞬く間に崩し、特殊装備で固めた警官隊が次々と命を落としていく。

(*゚∀゚)「来たか、本隊が」

溢れた川を止められないように、入ってきた部隊の威力を殺しきることはできない。
ツー・カレンスキーとジィ・ベルハウスは検問所を囲むように積み上げたバリケードの裏で腕時計を見て、深く溜息を吐いた。
背後に聳え立つ多くのビル群は砲撃によってその多くが損壊しているが、まだ、ジュスティアの街が終わったわけではない。

爪゚ー゚)「後十五分……!!
    仕方ない、やりましょう」

(*゚∀゚)「各部隊、全ての武器の使用を許可する。
    何としてでも食い止めろ!!
    1分でも多く、1秒でも長く!!」

生き残った警官隊に通信を入れ、彼女自身も戦いに向けて棺桶を手に取る。
警察上層部である、この二人に支給されている棺桶。
コンセプト・シリーズでありながら同時に二機の開発がされ、そのまま採用された警察組織専用の棺桶。

(*゚∀゚)
    『共に生き、共に死ぬ。
    愚行も、蛮行も、あらゆる行いは我らの正義のために。
    我々は一生涯の悪友。
    この絆こそ至宝。 この絆こそ、世界を照らす力』
爪゚ー゚)

“バッド・ボーイズ”。
Aクラスのサイズでありながらも、そのコンセプトは極めて冒険的な物だ。
Cクラスの棺桶を相手にしても長時間の戦闘が可能、もしくは無力化が可能な性能、である。
その為に最も強化しているのが脚力の補助だ。

578名無しさん:2023/07/02(日) 21:12:41 ID:EB0RZRkQ0
攻撃を受けず、尚且つその機動力を最大限生かすために両腕は捕縛用の装備に特化させている。
軽量の装甲は各関節部を守るだけであり、筋力補助の装置も最低限で済ませている。
だからこその高速戦闘が可能となるのだ。
彼女たちが狙うのは雑兵ではなく、この機に乗じて侵入してくる厄介な敵だ。

コンセプト・シリーズを身にまとっているか、もしくは明らかに指揮官、役職を持っている人間を排除する。
多くの勇敢で優秀な警官を失った今、最後の砦は彼女たち二人と円卓十二騎士の二人。
一人でも多く、厄介な敵を排除すれば侵攻速度が落ちるはずだ。

(*゚∀゚)「こんなのを使うのはポリシーに反するが、仕方がないな」

爪゚ー゚)「その割には笑顔ですね、長官」

(*゚∀゚)「悪の道具が悪を滅するなら、それは素敵なことだろう?」

傍らに用意していたドラムマガジンが取り付けられたショットガンを手に取り、初弾を薬室に送り込む。
ツーの持つショットガンに装填されているのは使用が禁止されている劣化ウランを使用したスラッグ弾。
そして、ジィの持つショットガンには粘度の高い燃料を使用した焼夷弾が装填されている。
いずれも世界では禁止兵器に指定されているが、犯罪組織から押収し、警察に保管されていた。

防衛戦が確定する前に、大量の押収品が搬出され、万が一のために街中に隠されていた。
それを今ここで使い切り、ジュスティア市民が脱出するまでの時間を稼ぐ。
銃弾が飛び交う中、二人の警察官がバリケードから素早く身を出した。
左右に同時に姿を現し、目の前に広がる絶望的な光景を前にしながらも二人の歩みはしっかりとしている。

それに続くように、続々と生き残っていた警官たちが物陰から飛び出す。
狙いは時間稼ぎと要人の排除。
雄叫びを上げながら一気に襲い掛かるが、それは特攻に等しい行動だった。
実際に特攻であり、彼らは死ぬことが前提として攻撃を仕掛けていた。

背中に巻き付けた小型のガスボンベ。
それこそが彼らの覚悟の証だった。
押収した数々の武器の中でも極めて毒性の高いD-VXガスが充填されており、その殺傷力は比類のない凶悪さだ。
高度な対毒ガス装備のない棺桶であれば、一度呼吸をしただけで即死するものだ。

だがその目的はあくまでも、ガスボンベを散らして配置すること。
既にバリケードや街角に複数の罠が仕掛けられ、スイッチ一つで連鎖的に爆破することができる。
そうなればジュスティアの街はたちまち毒ガスで満たされ、侵入者にとっては死の街となる。

o川*゚-゚)o「……へぇ、覚悟を決めたか。
       ったく、最後まで正義の味方って奴は」

装甲車の上で足を組み、腕を組み、状況を見ていたキュートの声が聞こえる距離に接近したのは、ツーが最初だった。
言葉もなく構えたショットガンの銃腔は精確にその胴体に狙いがつけられており、銃爪は躊躇いなく引かれた。
だが放たれた凶悪なスラッグ弾は突如として現れた三人の棺桶持ちが一列の盾となり、キュートへの直撃を防いだ。

(*゚∀゚)「ちっ」

o川*゚-゚)o「躊躇いなしか」

579名無しさん:2023/07/02(日) 21:13:04 ID:EB0RZRkQ0
二発目を装填し終えたツーは周りから向けられる銃腔に構わず、キュートへの射撃を敢行する。
四方八方から放たれる銃弾の雨を寸前のところで回避し、片手で発砲。
気だるげに装甲車から飛び降りたキュートは銃弾をやり過ごした。

o川*゚-゚)o「最後のおしゃべりもなしでいいのか?
       死ぬ前に色々と教えてやってもいいんだぞ?」

(*゚∀゚)「死ねっ!!」

怒声に乗せた三発目の発砲音。
否、フルオートで放たれたのは合計で10発のスラッグ弾。
ほぼ一つに重なる程の連写速度で放たれたそれは、全てが凶悪な力を持つ。
生身であれば掠め飛んだだけでもショック死する程の物だ。

o川*゚-゚)o「断る」

〔::‥:‥〕

〔::‥:‥〕

どこからともなくキュートの前に現れたのは、強固な装甲を持つトゥエンティー・フォーが2機。
両腕に取り付けられた追加装甲を盾にし、更には自身の装甲も盾にしてキュートを守る。
全ての銃弾がトゥエンティー・フォーの装甲に穴を開けたが、やはり、キュートには届かない。
まるで自分の手足のように部下の命を使うその戦い方を、ツーは見たことがなかった。

常軌を逸した忠誠心か、それともシステムを使った連携力なのか。
キュートという女の本性に気づくのが遅れた今となっては、あらゆる推測は意味をなさない。

o川*゚ー゚)o「ははっ、やはり“串刺し判事”といえども、寄る年波には勝てないか。
       あの頃、お前に死刑にされた者達が笑っているぞ」

判事として数多くの犯罪者に死刑を言い渡してきたツーに恨みを持つ人間は、枚挙にいとまがない。
挑発の言葉としてそれを送られはしたが、ツーはそれをまるで意に介することはなかった。
歳をとったのは事実。
実戦から遠ざかったことにより、腕が鈍ったのもまた事実。

(*゚∀゚)「なら私がそれを嗤ってやるさ!!」

o川*゚ー゚)o「やれるものならな」

距離は問題ない。
スラッグ弾の初速と人間の運動速度の限界は圧倒的に乖離している。
トゥエンティー・フォーの壁を失った今、ツーの周囲に障害はいない。
しかし――

(*゚∀゚)「罠を仕掛けるなら、もっと上手にするといい!!」

――それが罠であることは、明白だった。
不自然なまでの余裕。
視線が下を向いたその瞬間を、ツーは見逃さなかった。

580名無しさん:2023/07/02(日) 21:13:27 ID:EB0RZRkQ0
o川*゚ー゚)o「ちっ……!!」

その場から跳び退いたツーの足元が、何の前触れもなく爆発した。
笑顔で舌打ちをしたキュートはそのまま両手を広げ、不敵な笑みを浮かべた。

o川*゚ー゚)o「やれ」

指を銃の形にして、キュートが小さく命令を下す。

(*゚∀゚)「しまっ……!!」

直後、ツーの胸部に巨大な風穴が空き、首と両腕が分離した。
当然、心臓は一瞬で消し飛び、意識も命も、その瞬間に奪われていた。
検問所の影から大型の拳銃を構えていたジョルジュ・マグナーニはようやく瞬きをし、かつての上司を射殺した実感をその手に感じ取っていた。
  _
( ゚∀゚)

o川*゚ー゚)o「元上司を殺した感想は?」

無線機を使い、ジョルジュに激励の言葉を送るキュートの声は皮肉がたっぷりと詰まっている。
  _
( ゚∀゚)『何もねぇよ。
    それより、俺たちはさっさと作戦を始めていいんだろうな?』

o川*゚ー゚)o「あぁ、かまわない。
       地下シェルターへの行き方と位置は問題ないな?」
  _
( ゚∀゚)『あぁ、糞みたいなクスリのおかげで、この街の完璧な地図があるんだ。
    迷う要素がない』

キュートの部下を引き連れ、ジョルジュはジュスティアの街へと侵攻を始めた。
その様子を見送りながら、キュートは周囲を見渡した。

o川*゚-゚)o「もう一人は?」

ジィの姿を探すが、どこかで戦っている様子もない。
別の場所で戦っていないのであれば、ツーが死んだ瞬間を見て、作戦を変えたのかもしれない。

〔欒゚[::|::]゚〕『恐らく南側に向かったのかと』

o川*゚-゚)o「なんだ、つまらない」

〔欒゚[::|::]゚〕『追いますか?』

o川*゚-゚)o「いや、どうせ死ぬんだ。
       放っておけ。
       それより私は南側に向かう。
       無事な装甲車を一台寄越せ」

〔欒゚[::|::]゚〕『了解です』

581名無しさん:2023/07/02(日) 21:14:12 ID:EB0RZRkQ0
ジュスティア北部の侵略が開始された時、その進軍を食い止める人間は誰もいなかった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
:;:;:;:::::::;:;::;::;:;:::::::.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:::::::::::.:.:.:.:.:ノ'´   . . : : : . .   . . : :.:.:.:.:.:;'"    . : : : . . .
: : : .:.:.:.:.:.:.:.:.: : : : .    . . : :.:.:.:.:.:ノ´  ..::'"´: . .     . . . : : : : :ノ    ,:.:.: : . . . . :
   . . : : : : : : . .     . : : :.:と⌒  ノ::::: : : . .    . . : :.:.:.:;'"´      ;.:.:..  . : : . 
. . .          . . . : : :,,ノ´   . : : . .     . : . .  . :)      ノ.:.: .: 、,:'´  . :
:;:;::: : : . . . . . .    . . : : ;'´     ,.:.: . .  . . : ; ; ; ; ;.:.:.:.:.:ノ⌒   . . . : : : : : ´'::.,
:;:;:;:::::::: : : : : . . . . .   . :(     ;'´.:.: : . . . : ;'´  . : : .:ノ"__    . . . . : : : : :´"'::.
:::::::.:.:.:.: : : . . .      .:.:)    _)__ _   . .: :)  .. ;'"´ ¦:::::¦   . . : : : : . . . . .: .: .:
: : : . . . .   _ _  . ノ⌒  _ __.:¦:;:;:;:;|: :.:, '"´  . ;'´    ¦:::::¦_ _  ┌┐  . . . :.:.:
..┌┐_"´`_`__`"'ソ    .:¦::::| ¦:;:;:;::| ,:゙   ┌:┐ | ̄::| .i: : ::¦i:::i___ i::::i., , ., .,.,. .:
.:.:|::::::::::::|: ....|::;:;,、ン⌒  . : :;:;:;:;:|.:.:´'∵'"´ . .: :i:;:¦ |:;:;:;::  : : ::::: ::::::::::,..' ´. . : .:;'"´
`"' ' ' '"´  ´"′ . . . : : :;:;:;: : :ニ=‐… ‐ . .:;:;:;i;;、ン'´´´```つ'"´`"' ' ゛. . : : .:.:ノ'´. . .:.:,
¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨゙|.:.: . . '"´    . . . : : , : '"´    ;'"´     |\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄``〜
::::::::::::::::::::::::::::::|::::::::└──┐_ . . : ;'"´´     . : ´      |:::::::::───────
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄´| ̄::/| ```;: .;  . . . :,. '´    ,.. : ' ´|::::::::|:::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::::::::::::::::::::::::::::/: : : : : | ̄|::::::|.:.: : . ..ノ  . :;'´.,..,..,.....:.  _______|::::::::|::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::: : /: : : :/|: : |: : |::::::|      ,...:'"´.:.:.: : , '⌒ |\:::::::::::|::::::::|::::::::::::::::::::::::::::
¨¨¨¨¨¨¨:::| : : : /::::::|: : |: : |::::::|: : .   ' ´´ ´ ´ ´ ´'    |:::::\::::::|::::::::|::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::: | /::::::::/  |: : |::::::|_ . . . : : : : :. :. : : . .'´`|:::::::::::\|::::::::|:::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::::::::::::::: | |:::::://:| |_|/,,/|..,.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:. : : . .   |:::::::::::: : |:l::::::|::::::┌────
──‐┐:::| |//:::::::| |__:: |: :| ´ " ' ' ' ' " ´   ..: |\:::::::::::|:|:|:|:|::::::::|::\:::::::::::::::::
:: : / |:::::| /::::::::/  |:::: /:|:|: :[ ̄ ̄/|   ..., : ' ´.:.:.:.:|:|::|\: : |:|:|:|:|: ┌|::::::::\_
/ /| |:::::| |:::::://:| |//||:|: :| ̄ ̄| |. . . : . ..____,|:|::|::|::\|:|:|:|:|: ::|::\:::::::::|::::::::::::::
/:::::::| |:::::| |//:::::::| | |: /:|:|: :|::::::::: | |: . : . : . :|\:::::|:|::|::|::| |:|:|:|:|:|: ::| |\\: |:::::::::::::
:: : / |:::::| /::::::::/  |: : /||:|: :|::::::::: | |: . : . : . :|:::::\|:|::|::|::| |:|:|:|:|:|: ::|::\|\\ ̄ ̄
/ /| |:::::| |:::::://:| | |: /:|:|: :|::::::::: | |: : :__|:::::: : |:|::|::|::| |:|:|:|:|:|: ::| |\\|\\_
:/::::::| |:::::| |//:::/ |: : /||:|: :|::::::::: | |.:.:.:|\::::\::::: |:|::|::|::| |:|:|:|:|:|: ::|::\|\\|::::|:::
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

582名無しさん:2023/07/02(日) 21:14:32 ID:EB0RZRkQ0
同日 PM02:51

地下シェルターに入る唯一未封鎖の入り口は、呆気なく発見された。
事前の諜報活動によって露呈した街の地図とジュスティアでの勤続経験があれば、封鎖されていない入り口を特定するのは容易だった。
それが正解であることの裏付けとして、入り口の周囲には大勢の警官が待機していた。
警官たちは善戦したが、数分で勝敗は決した。

シェルターに通じる道はやや下り坂になっていて薄暗いが、足元の白いライトが流れるように明滅し、決して迷わないように工夫されている。
その先頭を歩くのはジョルジュ・マグナーニ、かつては街の治安を守る、法律の番人だった男。
顔に刻まれた深い皺は、これまでに経験した苦行とも言える激務によるものだ。
愛用していた強化外骨格はバッテリーと弾が切れたために、後ろをついてくる部下に持たせている。

彼の周囲はキュートの私兵部隊“サウザンド・マイル”が取り囲み、いかなる距離、兵器からも彼を守れるようにしている。
それは、ジュスティアが用意しているシェルターの特殊性に理由があった。
ジュスティアの地下深くに作られたシェルターは、ジュスティア中にある入り口からの利用が可能になっている。
だがそれは複数の入り口があるのではなく、最終的には同じ道に合流してシェルターに入ることになっていた。

これは、シェルターの入り口を守るために人員が確保できない前提で設計されているからだ。
ジョルジュが知っているのはそこまで。
かつて一度も使われることのなかったシェルターがどのような構造をしているのか、避難民の最終的な脱出手段は何なのかは、まるで分からない。
進むにつれて徐々に光が減り、薄暗くなっていく。

棺桶を使用する人間にとってはその暗さは大した問題ではないが、暗視ゴーグルを欺く罠が仕掛けられている可能性があるため、常に警戒しながらの移動となった。

〔欒゚[::|::]゚〕『……なん』

先頭を歩く男が声を上げた瞬間、銃声が前方から鳴り響いた。
即座にサウザンド・マイルの面々が展開し、応戦する。
銃声が反響し、ジョルジュは咄嗟に両耳を塞いだ。
遮蔽物が一切ないこの通路での撃ち合いは単純な物量ではなく、工夫こそが勝利への鍵となる。

訓練された部隊は盾を構え、矢じりの様な隊列を組む。
少しでも被弾する面積を少なくすると隊列のまま、歩みは緩めない。
だが、盾を構えている者達が続々と倒れていく光景は、あまりにも異様だった。
盾によって急所を守っているにも関わらず、まるでそれが意味のない行為であるかのように。

〔欒゚[::|::]゚〕『う、後ろからだ!!』

その答えを誰かが口に出す。
そしてそれが合図となり、周囲が真昼のように明るくなった。
悲鳴のような声が聞こえたと思った時には、すでに敵の術中にあった。
前後からの挟み撃ち。

〔欒゚[::|::]゚〕『挟撃だろうが敵は一人ずつだ!!
      何を手間取っている!!』

その言葉を聞いて、ジョルジュは背筋に冷たい物が走った。
単騎でここまでの戦闘が可能なのは、間違いなく、円卓十二騎士。
狙撃を得意とするのはただ一人。

583名無しさん:2023/07/02(日) 21:14:53 ID:EB0RZRkQ0
  _
(;゚∀゚)「モナーのじじいか!!」

モナー・ドレイク。
レジェンドセブンであり、現在ジュスティアで生き残っている狙撃手の中で最高の腕を持つ存在だ。
カラマロス・ロングディスタンスにその座を奪われていた時期もあったが、モナーこそが最高の狙撃手だという人間はかなりの数がいる。
その理由は、彼がこれまでに“動的な物”に対する狙撃を得意としてきており、長距離よりも中距離の狙撃を得意としている点だ。

つまるところは実戦性の高さこそが、彼の名を円卓十二騎士に連ねさせている要因なのだ。
“ウミネコ”の渾名を持ち、船上からの狙撃を容易に行える化け物じみた動体視力の持ち主。

( ◎|[::])

単独での狙撃任務を支援するBクラスの棺桶、“ヤマネコ”の使用によってその実戦力の高さは伝説的な物になった。
頑強な装甲、そしてそれを展開することで自身を守る盾と狙撃時の台座を作ることができる。
複数の派生機が開発されたコンセプト・シリーズだが、彼が使用するのはその最初期の機体となる。
大口径のボルトアクションライフルは連射性が低いが、彼の持つ技術と腰に下がった四丁のサブマシンガンがそれを補う。

ジュスティア軍と互角に戦えるだけの高い練度を持つはずのサウザンド・マイルだが、正確無比に飛んでくる一発必殺の銃弾からは逃げられない。
意識をモナーに向けると、今度は正面から攻撃をしてくる別の存在が命を狙ってくる。
巨大な扉を背にして立つのは、カウボーイハットの様なヘルメットを被る女が一人。
  __
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「さぁ、どうした!!」

ジュスティア軍の歴史を紐解いても、カウ・ガルバルディ以上に孤軍奮闘に適した人間はいないだろう。
円卓十二騎士、そしてレジェンドセブンに名を連ねるに至った逸話はあまりにも有名だ。
周囲を荒野に囲まれた小さな町で、セフトート出身の1個大隊に匹敵する人数の強盗団を相手に戦い抜いたのだ。
陸軍出身の彼女が休暇で立ち寄っていたその町で起きたその事件は、後に“最悪の奇跡”と呼ばれることになる。

彼女の使用する棺桶は、今も昔も変わらない。
初期の棺桶によく見られる、単身での戦闘行動を補助することに特化した汎用型のコンセプト・シリーズ。
“ミッドナイト・カウボーイ”。
防弾、携行できる弾薬の多さ、そして各身体能力の増強が目的のAクラスの棺桶だ。

つまるところ、彼女が円卓十二騎士に選ばれたのは完全な実力によるもの。
尚且つレジェンドセブンに選出されたのは、彼女の持つ応用力と判断力の高さだ。
自分の周囲に大量の重火器を並べ、そして分厚い透明の特殊防壁の後ろでライフルを撃っている。
その防壁は分厚く、対強化外骨格用の弾丸でも貫通できていない。

ひび割れも見られないことから、硝子ではないことは明らかである。
その素材の特徴に、ジョルジュは聞き覚えがあった。
棺桶のカメラ越しには視認が出来ない特殊素材で作られた不可視の壁。
極めて貴重な素材を使うため、ジュスティア内では量産を見送っていたはずのもの。

射線を確保できる穴は彼女だけが知るため、一見して無防備な姿だが、その実は安全な場所から確実な射撃が可能な状況にあった。
穴の位置を把握するためには棺桶を脱がなければならない。
こちらが指示をして味方が混乱する可能性を考え、ジョルジュは苦渋の決断を下した。

584名無しさん:2023/07/02(日) 21:15:13 ID:EB0RZRkQ0
  _
(;゚∀゚)「あぁ、糞ッ!!
    兎に角攻めろ!!」

ジョルジュの判断は的確だった。
不可視の壁があったとしても、守りに徹すれば負けることになる。
攻め込み、ガルバルディのライフルの射線上にある隙間から入り込むしかない。
相手が悪いとはいえ、近接戦闘に持ち込めれば勝算は十二分にある。
  __
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「どうした、ジョルジュ!!
     隠れているのがお前の正義か!!」

〔欒゚[::|::]゚〕『同志、下がって!!』

コルトM4ライフルから放たれる弾でさえも、ジョルジュを守る勇猛な仲間を容赦なく狙い撃ちにしていく。
絶妙な傾斜が盾では補いきれない隙間を生み出し、そこを集中的に攻撃してきている。

〔欒゚[::|::]゚〕『白兵戦用意!!』

その号令と共に、10機のジョン・ドゥが一斉に加速体勢に入った。
爆発的な加速力を得たジョン・ドゥ達は四方に散り、壁を走り、深く沈むような体勢で駆けた。
高周波ナイフを使えば特殊防壁を切り裂くことができる。
射線の癖からどこに隙間があるのかを察知し、散り散りになったことでガルバルディの攻撃を掻い潜る隙間を作り出したのである。

時間にして実に1秒未満の攻防。
  __
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「三下はすっこんでな!!」

次の瞬間、足元から分厚い何かが一瞬でせり上がり、接近していたジョン・ドゥが見えない壁に激突し、転倒した。
まるで空中で停止したかのようにその壁に突き刺さった高周波ナイフが、極圧の特殊防壁の出現を物語っている。
  __
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「ここから先は行かせないよ、何があってもね!!」

〔欒゚[::|::]゚〕『通るんだよ!! 俺たちの歩みは止まらねぇ!!』

ナイフで切り裂けない厚みの防壁であれば、この先に進むことはできない。
長さが足りないのであれば、後は勢いで通るしかない。
壁に突き刺さったナイフを掴み、体重を乗せて一気に下まで切れ目を入れる。
その切れ目に新たなナイフが突き立てられ、奥まで押し込まれる。

強引に切れ目を拡張させ、砕く算段なのだ。
  __
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「……」

〔欒゚[::|::]゚〕『うるぁああああ!!』

585名無しさん:2023/07/02(日) 21:15:34 ID:EB0RZRkQ0
助走をつけ、ナイフの柄に飛び蹴りを放つジョン・ドゥ。
空中に深い亀裂が走った。
その間にも後方からの狙撃で仲間が減っていくが、まるで意に介さず、彼らは壁の突破を試みる。
だが高周波振動を発する装置の長さが物理的に足りない。

検問所を突破する際に使った破城鎚さえあれば、確実に突破できるのにと歯噛みする。
大音響と共に彼らが現れたのは、正にその時だった。

〔欒゚[::|::]゚〕『待たせたなぁ!!』

〔欒゚[::|::]゚〕『でかした!!』

それは、この上ないタイミングで現れた四人の援軍だった。
高周波振動発生装置を搭載した破城鎚を持ち出し、余計な会話をする間もなく一気に突撃した。
モナーは背後から現れた予想外の攻撃に対応する間もなく、一瞬で粉砕された。
彼の経歴を思えば、あまりにも無残な、そして、無慈悲な一撃だった。

粉々に粉砕されたモナーの死体には目もくれず、味方の一部を巻き込んだその一撃は彼らを隔てる最後の障壁を難なく打ち砕いた。
  __
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「……ふっ!!」

目の前で砕けた2枚の特殊防壁。
それを前にして、ガルバルディは決して後退しようとはしなかった。
腰から大型の回転拳銃を抜き放ち、破城鎚を運搬する人間に対して正確無比な早撃ちを敢行した。
その早撃ちはジョルジュをも上回るほどで、コンマ数秒で放たれた銃声は一つに重なって聞こえるほどだ。

そしてその精確さは、カメラを撃ち抜かれた四つの死体が証明している。
運び手を失った破城鎚が地面に転がり、ガルバルディの目の前で止まった。
拳銃を呆気なく手放したかと思うと、足元に置かれていた重機関銃を蹴り上げ、それを腰だめに構えて掃射。
ジョルジュを守っていた部隊がまるで雑草か何かのように倒れていく。

使われている銃弾が一般にある対強化外骨格用の物でないことは、盾を握った腕が宙を舞うのを見れば明らかだ。
だがそれも長くは続かない。
増援部隊の一斉射撃によってガルバルディは左脚を失い、転倒した。
  __
ヽ|__|ノ
. ||‘‐‘||レ「ぬぐっ……!!」

〔欒゚[::|::]゚〕『殺せ!!』

振るえる腕で構えた拳銃。
その銃腔が誰かを覗く前に、数百発の銃弾が彼女の体を肉塊へと変えた。
  _
(;゚∀゚)「ふぅ……」

円卓十二騎士といえども、物量には勝てない。
守りに徹する任務であればなおさらだ。
破城鎚を持った味方が現れなければ結果は違っていたかもしれない。

586名無しさん:2023/07/02(日) 21:16:54 ID:EB0RZRkQ0
从'-'从「……終わったぁ?」

気だるげに姿を見せたのは、Bクラスのコンテナを背負うワタナベだった。
  _
(;゚∀゚)「あぁ、後はシェルターの扉をこじ開ければ……」

既に最後の扉を前に、味方の士気は最高潮に達そうとしている。
天井まで続く一枚の扉。
その厚みや材質は不明だが、高周波振動の力を使えば突破できないことはない。
地面に落ちた破城鎚を持ち上げ、部下たちが一気に突撃する。

――扉が軋みを上げ始めた時、地上では一つの歴史が終わろうとしていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                       ,'   , ハ刈トヾ  `ヽ
                    |!1 i { | |i !j^ヽ  |!i\
                    |! | | | ,イリ从ふj |!l  ド、
                    |! | | | =ナ′ j ト jリ j  \
                        ト、!ヾL _ ュ ノY / /    \
                          '| i   ̄∨∨/    ⌒ヾ
         __                 | }  ,   〉f'     i /  /│
       // ̄⌒ヽ           j |  /;;; /│ ;;;;;;;;;;,|/  /  !
        //     \            ノ j /;; /  ! ;;;;;;;;; |   /  j
     //   i    \         /   ン;;  i.  j  ;;;;;;;i /   i
      /' ,   / !       \    /  ,ノ   丿  ノ ,,;;;;;;/ / /  /
    / /  / ノ {       \ノ  i r'  /  /,,,,;;;;;;;;/ /  /
.   / /  /  ,ヘヽ       ∨_上'_ /  / ,,,;;;;;;;;//   /
  / /  / /  \       j    厶<、    ;;;;/´    '
  / /  /  rニ三\    ノ  \\  ヽ  //    /
/ /   /     `Tニ 二\ ∠ニ    `ー  ∨/    /
ヽ /  /        _, -‐''´    ̄  ̄  /     /
、 \ /    , -‐ ´            / ̄`ヽ  /
 >'´   /               /⌒ヽ   ∨
´    /                   __ イ rイィィ 〉= ´
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 PM03:57

南側の検問所の守りは突破され、最後まで抵抗を続けていた男は腹部に受けた銃創を庇いながらビルの壁に背を預けていた。
時間が経てば死ぬことは明らかだった。
男の名はフォックス・ジャラン・スリウァヤ。
ジュスティアの市長である。

爪;'ー`)y‐「ふぅ……」

葉巻を咥え、紫煙を吐き出す。
彼の手前には二人のイルトリア人の死体があった。
最後の瞬間までフォックスを守ろうとした二人は、だがしかし、物量を抑えきることができなかった。
そして彼の隣には、最後まで止血を施そうとしたイヨウ・ジョセフ・ジャックの死体が転がっていた。

587名無しさん:2023/07/02(日) 21:17:14 ID:EB0RZRkQ0
拳銃を片手にその様子を見下ろす女がいた。

o川*゚-゚)o「……」

キュート・ウルヴァリンである。

o川*゚-゚)o「無駄なあがきをしてくれたな」

爪;'ー`)y‐「無駄じゃないさ。 少なくとも、お前を不機嫌にできただけ上出来だ」

o川*゚-゚)o「死ぬ前の言葉にしては気が利いているな」

爪;'ー`)y‐「だろう? それで、私に何を訊きたいんだ?
      内容によっては教えてやるよ、出血大サービスだ」

o川*゚-゚)o「……何を狙っている?」

爪;'ー`)y‐「そんなの決まっているだろう?
      正義の味方の登場だよ」

o川*゚-゚)o「この期に及んでまだそんな戯言を」

フォックスはキュートの言葉を無視し、腕時計を見た。
そして、ニヒルな笑顔を浮かべて言った。

爪;'ー`)y‐「……さて、時間だな」

直後、爆発。
街中で一斉に爆発が起き、地面が揺れた。
頭上から聞こえてくる落下音と爆発の仕方から、砲撃と爆破の両方が起きていることが分かった。

o川*゚-゚)o「っ……!! 何を?!」

爪;'ー`)y‐「定刻通り、流石だよ。
      さて、後は幕引きだけだな」

o川*゚-゚)o「こいつ!!」

キュートは怒りに身を任せて発砲した。
だが、胸を撃ち抜かれてもフォックスは最後まで笑みを崩さなかった。
ゆっくりとイヨウの方に倒れながら、中指を立てた。

        Hasta la vista baby
爪;'ー`)凸「地獄で会おうぜ、ベイビー」

その言葉をきっかけに、街中に仕掛けられた大量の爆弾が連鎖爆発した。
ビルが次々と倒壊していく様は、まるで夢が覚めるかのような非現実的な光景だった。
その中に降り注ぐ砲弾。
ティンバーランドの人間ではなく、全く別の勢力が仕掛けてきた砲撃。

588名無しさん:2023/07/02(日) 21:17:34 ID:EB0RZRkQ0
o川*゚-゚)o「糞っ……!!」

それを感知できなかったのは、決して彼女の部下の怠慢や油断ではない。
距離にして60キロ。
荒野に走る秘密線路にその姿はあった。
並ぶ砲身はその全てが規格外の巨大さを誇り、装填される砲弾は人間ほどの大きさだった。

世界最長の都市、エライジャクレイグの列車砲である。
瓦礫と化す正義の都を前に、その列車砲の運転手は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、ポツリと呟いたのであった。

(^ム^)「……定刻通り」

“定刻のジュノ”の渾名を持つジャック・ジュノの指示通り、列車砲は容赦のない砲撃をジュスティアに浴びせかけた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ニL〕ニニニニ=‐γ⌒ヽ ̄ ̄∨ニニニニニ∧ニニニニニニ/ニニニニニニ./‐‐‐<⌒
、ニニニニニ----〈: : : : :〉ニニ∨ニニニニニ∧ニニニニニ./ニニニニニニ./‐‐‐‐‐‐‐‐
⌒≧s。ニニニ‐‐‐‐\,ノニニニ∨ニニニニニ∧ニニニニ/ニニニニニニ./‐‐‐‐‐‐‐‐‐
====⌒≧s。ニ‐‐‐‐‐‐‐‐<ニニ∨ニ◎ニ◎ニ=》──‐‐.:ニニ◎  ◎ニ/‐‐‐‐‐‐‐‐‐
========⌒≧s。‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐∨ニ◎ニ◎ニ/  〉⌒¨《ニ◎  ◎ニ /‐‐‐‐‐‐‐‐‐
============⌒≧s。‐‐‐‐‐‐‐‐‐∨ニニニ= イ\// ̄ \ニニニニ/ \‐‐‐‐‐ _
================⌒≧s。‐‐‐/ \_>'  >''"〉〉     ⌒> ‐く/⌒. \ /‐
、=====================)ixく  /\ rく   ィ(        ̄ ̄     /く‐=ニ
``〜、、============◎===∧\《.   ゝx彡  >──<         《: : ヽ ◎
ニニニ``〜、、====◎  ◎ /::::》─》    、丶`   .|i i|    }h、./〉     ∨: ∧
ニニニニニニ  、‐===◎=./::::/  /   /.、     .|i i|     //      ∨: ∧
ニニニニニニニ=`〜、、= 《__/  /  _ア .\ \    |i i|   //:::::`、    ∨/
ニニニニニニニニニ/ ̄ ⌒\/  _ア  / \ \>xく ⌒> 、/::::::::::::::.      廴
ニニニニニニニニ‐,' /⌒7  ̄   /  ,'    〉.::::::>─ <:::\>''"::::::___
ニニニニニニニニ 〔_/_/  〔ニニニ=‐  _/'::::Y:::::::::::::::::::::::YA‐=≦ニニニ‐
ニニニ=-   -=≦⌒}h、_\   〔_⌒≧s。〉{:::::{::::::::88::::::::::}:::} ̄ ̄  }}
ニ‐ -=≦ ===◎ ◎.マA ̄ ∧  .W     八:∧::::::::::::::::::::::ノ::八    .八
==================.マA _〕 〉  V/  ィ(^ア\}h、 ___ ィ(/  \  / ア
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 PM03:57

苦戦するかと思われた扉の破壊は、想像よりも呆気なく終わった。
破城鎚の一撃が扉を固定する安全装置に干渉したらしく、けたたましいサイレンと共にゆっくりと手前に開き始める。
その先頭にジョルジュが立ち、開き切るのを待つ。
僅かに扉の奥が見えた瞬間。

発砲音が一つ。
そして、途中で止まるのを止めた扉を背に最後のジュスティア人が現れた。
拳銃をジョルジュに向けてはいるが、多勢に無勢。
戦力差は数えるまでもないというのに、その姿には焦りは感じられなかった。

(=゚д゚)「よぅ、待ってたラギ」

トラギコ・マウンテンライトはいつも通りの表情で、ジョルジュらの前に姿を見せた。

589名無しさん:2023/07/02(日) 21:17:54 ID:EB0RZRkQ0
  _
(;゚∀゚)「トラギコ……!!
    お前ら、手を出すな!!」

撃たれた右肩を押さえるジョルジュは、だがしかし、後ろで銃を構えた味方に大声で指示をした。
それは命惜しさ故ではない。
トラギコとは一度ゆっくりと対話をしたいと思っていたからである。

(=゚д゚)「手前なら、絶対に先頭で来ると思ったラギ」
  _
(;゚∀゚)「はっ、そりゃいい勘をしてるな。
     流石だよ、トラギコ」

(=゚д゚)「この先には行かせねぇラギ」

銃腔はジョルジュに。
視線は広く、ジョルジュとその後方に控える部下たちに向けられている。
  _
( ゚∀゚)「話を聞けよ、トラギコ。
    俺もお前も、同じ目的があるはずだ」

(=゚д゚)「あぁん?」
  _
( ゚∀゚)「俺たちはデレシアについて知りたい。
    そうだろう?
    俺と来れば、それが叶う」

彼女が世界の秘密を知る存在であることは間違いない。
それは、これまでにジョルジュが自分の人生をかけて調べ上げてきた事実だ。
ジュスティアの歴史にも、イルトリアの歴史にも名を残す存在。

(=゚д゚)「んなもんどうでもいいラギ。
    俺はな、あいつを捕まえるのが目的ラギ」
  _
( ゚∀゚)「そんな下らないことが狙いなのか?
    あいつを捕まえて何がある?
    そもそもあいつは――」

核心部分を口にしようとした時、トラギコが被せるように言った。

(=゚д゚)「――俺はな、刑事ラギ。
    世界の秘密だとか、誰かの正体だとか、そんなもんは今はどうでもいいラギ。
    事件がありゃ、それを解決するのが仕事ラギ。
    俺の最後の仕事を邪魔するのは許さねぇラギ!!」
  _
( ゚∀゚)「馬鹿がよ……!!」

(=゚д゚)「お前には言われたくねぇラギ!!」
  _
( ゚∀゚)「そうやって死ぬまで意地を張るつもりか!!」

590名無しさん:2023/07/02(日) 21:18:15 ID:EB0RZRkQ0
(=゚д゚)「羨ましいラギか?
    最後までお巡りさんを貫けなかったヘタレにゃ、眩しいだろうな!!」

その言葉を聞いた瞬間。
ジョルジュの中の何かが切れた。
  _
(#゚∀゚)「残念だよ、お前となら分かり合えると思ったんだがな。
    刑事なんて糞みたいな仕事を続けるっていうなら、ここで死ね!!」

傷口を押さえていたジョルジュの左手がゆっくりと拳銃に伸びる。
負傷していたとしても、その早撃ちの技は健在だ。
例え相手が構えている状態にあったとしても、遅れはとらない。
ましてや、彼の背後に控える銃腔は100を超える。

(=゚д゚)「手前にゃ分からねぇだろうがな!!」

こちらの合図一つですぐに肉片になる。
有利なのは言うまでもなく、ジョルジュなのだ。

      This is the only work I can do!!
(=゚д゚)「こ れ が 俺 の 天 職 な ん だ よ!!」

だというのに。
トラギコは、勝ち誇ったような顔を浮かべていた。
更に、銃を降ろし、ジョルジュと同じ条件にまで並べてきたのだ。
  _
(#゚∀゚)「俺に早撃ちで勝とうってか?」

(=゚д゚)「あぁ、勝てるラギ。
    圧勝ラギ」
  _
(#゚∀゚)「……」

先の先。
相手の初動の起こりを察知し、それよりも早く動く。
早撃ちに必要な技量は言うまでもなくその能力だ。
警官として長いキャリアと汚れ仕事による実戦経験から、ジョルジュが身につけた早撃ちの技量は伊達ではない。

刹那。
両者が動いた。
ほぼ同時に動いたかに思われたが、その実、出遅れたのはトラギコだった。
重なるように響いた銃声が一つ。

そして、その陰に隠れて響いたもう一つ銃声が勝敗を決した。

(;=゚д゚)「……」
  _
(;゚∀゚)「……」

591名無しさん:2023/07/02(日) 21:18:36 ID:EB0RZRkQ0
トラギコの放った銃弾はジョルジュの首筋を掠め、薄らと血をにじませる。
そして、ジョルジュの放った銃弾はトラギコの腹に赤黒い染みを作り出した。
  _
(;゚∀゚)「……」

だが、隠れて放たれた銃弾は、ジョルジュの心臓を背後から破裂させていた。
  _
(; ∀ )「は……」

ゆっくりと膝をついて崩折れ、ジョルジュの体が血溜まりの中に倒れた。

(;=゚д゚)「……なん……で」

ジョルジュに引導を渡した人間が、まるで踊る様にトラギコの前に歩み寄る。
両手を背に回し、抱き着いたのはワタナベ・ビルケンシュトック。

从'ー'从「……あったかいなぁ」

トラギコの胸に顔をうずめ、ワタナベはうっとりとした声でそう呟く。

〔欒゚[::|::]゚〕『う、裏切りだ!!』

後ろから響く怒声も。
銃声も。
今の彼女には届いていなかった。
彼女の耳に届くのはトラギコの息遣いと、心臓の音だけ。

背負った棺桶が銃弾を防ぐ中、静かにワタナベは囁く。

从'ー'从「やっぱり、刑事さんは刑事さんなんだねぇ」

(;=゚д゚)「て、手前……何を……?」

从'ー'从「最後まで刑事さんの事が好きで良かったぁ。
     じゃあね、私の愛しい刑事さん」

名残惜しそうにトラギコの胸から顔を離し、ワタナベは深く息を吸う。
やや強めに、トラギコを扉の奥に押し飛ばす。
その光景はまるで、十代の少女が一世一代の告白をしようと覚悟を決めた姿にも見えた。

从'ー'从『さぁ、坊や。さぁ、さぁ、よい子の坊や。さぁ、さぁ、さぁ、眠ろうか』

プレイグロードの起動コードが入力され、黒い布を身にまとった死そのものがジョン・ドゥたちに襲い掛かった。
銃弾の雨が容赦なく装甲を削り、穴を開け、ワタナベの命を脅かす。
しかしそれらを微塵も気にせずに振り下ろすのは、鉄塊かと見紛う毒ガス弾を発射する装置であるファイレクシア。
ジョン・ドゥたちは装甲ごと頭を潰され、叩き潰され、薙ぎ払われていく。

592名無しさん:2023/07/02(日) 21:18:57 ID:EB0RZRkQ0
そして誰もが、その毒ガスに最大級の警戒を向けていた。
呼吸だけでなく、皮膚に触れただけで威力を発揮するその毒ガスは、ジョン・ドゥの装甲の隙間からも入り込むものだ。
猛毒を使われれば、誰もが無事では済まない。
ワタナベの得意とする至近距離に入り込み、同士討ちを嫌う人間の性質を利用して攻撃を続行する。

一撃で殺せなくとも、ワタナベの放つ一撃は戦闘不能に追い込むだけの威力があり、それを巧みに使う技術もあった。
プレイグロードには高周波振動発生装置を伴った武器がなく、単純な膂力の補助と本人の才能だけで大立ち回りをしているのだ。
大量殺戮によって性的な快楽を覚えるワタナベだが、その技量は普段にも増して冴えていた。
冴えた状態の彼女の駆るプレイグロードは、さながら死をまき散らす風のように兵士たちの間を俊敏に動き回った。

だがしかし、兵士の一割を殺した頃には、すでに装甲の大部分が損傷し、彼女自身も負傷していた。
それでも。
それでも、彼女はその足を止めなかった。

/、゚買゚〉『はぁ……!!』

〔欒゚[::|::]゚〕『D-VXガスを使われる前に撃ち殺せ!!』

一斉に放たれる銃弾を、ワタナベは正面に構えたファイレクシアで迎えた。
棺桶が完全に壊れる直前、ワタナベはプレイグロードを脱ぎ捨て、新たなコンテナを胸に抱いていた。
囁くようにコードを入力する刹那、ワタナベは微笑んだ。

从'ー'从『この手では最愛を抱くことさえ叶わない』

両手に装着された鉤爪。
それは近接戦闘だけに特化し、更には少数を相手にすることが前提にされた棺桶だ。
体重差、身長差共に倍以上もあるジョン・ドゥを多数相手にするのは自殺行為だ。
飛び交う銃弾を辛うじて躱し、懐に入り込んで刺殺していくのにも限界がある。

从'ー'从「ははっ!!」

関節の付け根を執拗に狙い、失血死を狙った一撃を次々と放っていく。
まるで虎が遊ぶように。
まるで鳥が舞うように。
ワタナベは心底楽しそうに、愉快そうに、そして気持ちよさそうに殺戮を重ねる。

〔欒゚[::|::]゚〕『対人用の弾か白兵戦に切り替えろ!!』

キュートの私兵だけあり、その判断は早かった。
ジョン・ドゥの体を盾にし、銃弾を回避していくが、彼女を囲む輪が狭まるにつれてそれも困難になる。
やがて、ワタナベが刺突を繰り出したその隙を突き、一人の兵士が彼女の腕を掴んだ。
己の腹で攻撃を受け止めたまま、叫ぶ。

〔欒゚[::|::]゚〕『掴んだ……!!』

そして、四方からナイフが突き立てられ、ライフル弾がワタナベの体を穿った。

从 ー 从

593名無しさん:2023/07/02(日) 21:19:51 ID:EB0RZRkQ0
体の穴という穴から血を流し、ワタナベは満足そうな死に顔を浮かべて絶命した。
彼女が稼いだのは時間にして僅かに3分ほど。

〔欒゚[::|::]゚〕『急げ!! 余計なことをされる前にジュスティア人を全員殺すぞ!!』

生き残った数十機のジョン・ドゥが扉の奥に突入していく。
そこは完全な暗闇だった。
暗視ゴーグルに素早く切り替えたジョン・ドゥたちは、足元にトラギコの血痕を見つけたが、死体はどこにも見つけられなかった。
それどころか、避難してきた人間も、シェルターらしき建造物もない。

あるのは広く、暗い空間。
風が遠くから吹き込み、そのまま抜けていく音だけが不気味に響いている。

〔欒゚[::|::]゚〕『……トンネル?
      いや……これは……』

何かに気づいた一人が、足元を覗き込む。

〔欒゚[::|::]゚〕『線路?!
      やつら、まさか――』

頭上で巨大な地響きが聞こえてきたと思った時、地下シェルターとそこに通じる道をテルミットの炎が一気に焼き払ったのであった。
幸運な者は苦痛を感じる前に灰と化したが、棺桶の頑丈さが仇となり、生きたまま焼かれる苦痛を僅かに味わうことになった。
全てはフォックス・ジャラン・スリウァヤが備えていた、ジュスティア敗北のシナリオ通りの展開だった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                      イ辷=<_´    `ヽ、` ヽ 、
                    ,,,/"     `ヽ 、    ` ,,,,,,>,,_、
                  /,,=-‐‐‐‐ =‐-、     ,,-‐"´     `ヽ
            ,=、 __  イ "           ,,-"   ,-‐‐-、    .ヽ
           ヽソ./ /i ∠============  ,/     .i'    .',     i
            ヾジjイぐミジ   __,,,,,,,,-‐‐イ   ,,--、ヽ、   ノ __   j
        ,,- 、_   j/イ二jjヽ‐'''"      j  ./    ヾ'''-‐'/´. `ヽ  j
       /   7イ゙゙ゝ</ぐ"´         ヽ ',    j   .j    j j
       ` ヽ/ j// / ヽ           \弋_ケ   ヾ、  ,ノ. ノ
         i / /  j イ  \           `''‐---------ニ-‐イ
      イ"゙゙jフ  /__j /    \ 、                   /
      ',__/  / \ソソ       \ヽ、                /
       ./ ,,/ /ゝ"´ヽ      ,,--、  `ヽ、           ,イ、 ,,,,__
   ィチフイ"  /,' .,'   \   /   ヽ    ゙'''''‐---------"´ ヽ",-"`'.,
  ,,イツンソヽ  イ ,'  ,'     \  ヽ  ノ              \  ヽ  ノ
  llj(i(i(i(iゞヾ"  ,'  ,'  ,,ーーーゝ_辷____________ゝ--辷'、
  ヾミッゞ/⌒j. ,'  ,'  イソ ソイ/フ--イフッ‐イ-ッ  ,,-,-、  _   ,,,,イj _イ',ヾヽ、
     `ヾoツ,,,'  ,','フ//イゾイ i/ イ j/ イ i / /i  i .i  ,' i i.ヽ ', i i、 ヽj jヽj jヾイ
       ヾ辷i  i//////イ ソイj ./ イj! / ./j  .j j ,' i j ヽ ',j j ヽヽ.j ヾヽ\\
         ヾ ∨イシ/イ/イ i〈/i i// j  ///  i i__j j  j ヽ i  .i  ヾ__ゝ  \ゝヾゝ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 同時刻

594名無しさん:2023/07/02(日) 21:20:11 ID:EB0RZRkQ0
ジュスティアの地下に作られたシェルターは、二つの役割を持っていた。
一つは避難所。
そしてもう一つは、安全な場所に脱出するための移動手段だ。
地下に用意されたシェルターはその実、線路上を移動できる複数のコンテナがとぐろを巻くように置かれたものだった。

シェルターを区切るという意味もあるのだが、避難を要する人間は心理的に奥へ奥へと進むものだ。
それを利用し、自発的に奥に進む様に仕向けた仕様なのである。
一つのコンテナに乗ることのできる人間は最大で1500人。
大型であると同時に、その一つだけでもある程度の期間を生き延びることのできる設備と装備が用意されている。

そして、ジュスティアの電力を賄っているニューソクがそのコンテナの一つに積まれている。
このコンテナが街を出る時、それはつまり、ジュスティアという街が安全でなくなるということなのだ。
だがこれだけの人数を乗せたコンテナを牽引するとなると、並の列車では動かせない。
並外れた馬力を持ち、尚且つ高速で移動できるという列車が用意できる街は世界でただ一つ。

世界最長の軌道都市、エライジャクレイグだけだ。
ジュスティア市長のかけた保険が、エライジャクレイグからの支援である。
一つは街全体への砲撃による、侵入者の一掃。
もう一つが、地下にあるシェルターの脱出の算段である。

シェルターを牽引する為に用意されたのは“スノー・ピアサー”と同じ技術で作られた、“アンストッパブル”だ。
シェルターの最前、最後尾に連結し、ニューソクから得る爆発的な電力を利用して走ることで速やかにジュスティアからの脱出を成功させたのである。
ジュスティアから離れた荒野に作られた秘密線路から、アンストッパブルの赤い先頭車両が姿を現したのはジュスティアが瓦礫の山と化した時だった。
100両以上のコンテナを引き連れた列車が暗闇の中に姿を現し、その長さは二キロ以上にもなる。

間違いなく、世界最長の列車である。

豸゚ ヮ゚)「定刻通り」

最後尾の車両に乗る車掌のジャック・ジュノはそう言って、深く息を吐いた。
そして、ゆっくりと歩きだしたかと思うと、駆け足で次の車両に移った。
そこでは持ち運び可能な無菌室内で手術が行われていた。
無菌室の外で銃を構えて警備をする男に、ジュノは静かに尋ねた。

豸゚ ヮ゚)「刑事さんの容体は?」

从´_ゝ从「血液のストックが足りるか分からないのもありますが、とにかく危険な状態です。
     弾が抜けているのが幸いですが、大口径の銃で撃たれたので失血が多く、内臓の損傷も著しいです。
     この状態でここまで歩いて来たのが奇跡ですよ」

豸゚ ヮ゚)「私たちに何が出来る?
     輸血であれば、乗客からも募ろう」

後ろで手術をしている医者たちを一瞥し、男は言った。

从´_ゝ从「全ては、本人次第です。
     本格的な病院に移送しなければ危ないと言わざるを得ません。
     内蔵の縫合はもう少しで終わります。
     そのためにもどうか、安全な運行を」

595名無しさん:2023/07/02(日) 21:20:35 ID:EB0RZRkQ0
豸゚ ヮ゚)「分かった。 後は任せる」

今の自分にできることを全力で行う。
それだけが、今の状況を悪化させない唯一の方法であることを彼女は理解していた。
運転席に戻ると、アナウンス用のマイクを手に取り、焦る感情が表に出ないように声を発する。




豸゚ ヮ゚)「次の停車駅は、ラヴニカです」




――この日、一人の快楽殺人鬼が命を落とした。
その事実は大勢の人間に知られることとなった。
だがその日、彼女がこれまでに奪ってきた全ての命よりも多くの人間を救ったことを知るのは、ただ一人だけ。
そして、その女が刑事の懐に白い花びらを忍ばせたことは、誰も知らない。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Ammo for Rebalance!!編

        |: : : : :.:∧        ′      /: : : : :|
        |:!: : : :/: :.ヽ    、 - ‐ ァ     イ: :| : : i:|
.        从{ : /: : : : :へ、    ̄    /: :| : |.:.:.:从
       / リ ∨: :|: : i: : :.:r>   __  イヽ:,ハ{: /!:.:/  ヽ
       /   }:./|: :;ハ:./   \    / ヽj/ 乂{
           j/_,j/: :´{       >、rく     Y、  ヽ
     _,,‐: :´: : : : :.:∧     /  `Yヽ   |: `: :ー. . __
    / -、: : ヽ: : : : :/ : ヽ  /     !  ヽ /: : : : : : : }: :ヽ

第十五章 【 Tiger in my love -愛に潜む虎-】 了
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

596名無しさん:2023/07/02(日) 21:21:02 ID:EB0RZRkQ0
これにて本日の投下は終了です
長らくお待たせいたしました。

何か質問、感想、指摘等あれば幸いです。

597名無しさん:2023/07/02(日) 21:43:57 ID:Bnrzt0RI0
あまりにも死にすぎて声が出ないよ

598名無しさん:2023/07/03(月) 00:18:15 ID:Pf7XAMRg0
AAは戦争まで死ななかった分ここ数話ですげー死んどるな
ティンバーランド側もう殆どいないんじゃないか

599名無しさん:2023/07/03(月) 03:27:00 ID:UWJGp5t20
ぬおおお…すげえ展開…おつ…

600名無しさん:2023/07/03(月) 09:30:12 ID:Wd5onfiI0


601名無しさん:2023/07/03(月) 20:51:11 ID:mAszBqWY0

前話の最後は残りの十二騎士かと思ったらトラギコだったのか
というか残りの騎士がモブすぎる
トラギコの方が強くない?

602名無しさん:2023/07/03(月) 21:28:29 ID:Pf7XAMRg0
まぁあんまり言いたくないが…円卓は物凄く在庫処分みを感じたな

603名無しさん:2023/07/03(月) 22:08:58 ID:ahxHY.Sw0
英雄だろうが強敵だろうが関係なく無慈悲に死んでいくな…これが戦争か

604名無しさん:2023/07/04(火) 19:49:01 ID:TXpUwF6Y0
ああお気に入りのキャラクター達が………
ワタナベがトラギコに渡した花びらってってやっぱプリンセチアかな?
夢鳥花虎でのあの二人がトラギコに渡したように
花言葉は思いやりなんだよねぇ

>>550
彼らが最後に見せた"維持"は

意味合い的には間違ってはないだろうけど多分"意地"の方だよね

>>566
殺しの"大将"を前にして

まあワタナベの中じゃあ大物だもんねぇ"対象"ですね

      This is the only work I can do!!
(=゚д゚)「こ れ が 俺 の 天 職 な ん だ よ!!」
ここ最高に好き

>>565のAAのワタナベのなんとも言えない表情も好き

ずっと気になってたんだけどAmmo for Restart!! 序章【anniversary-記念日-】のキュートと最近出てるキュートって何か関係があるのかな?

605名無しさん:2023/07/04(火) 20:15:07 ID:fw7h8azY0
>>601 >>602
今回は主人公補正を解除した戦争を書きたかったので、仰る通り円卓十二騎士があれな感じになってしまいました……
本当はもっとそれぞれの活躍を書きたかったのですが、書くとさらに文量が膨れるので割愛させていただいた次第です。
トラギコの方が、ということについては今後ある方からしれっと語られるのでお待ちくださいませ。

>>604
いつも誤字の指摘、本当にありがとうございます……!!
お察しいただいた通り、スピンオフでのあれと同じ花でございます。
気付いていただいてありがとうございます!

キュートについては

606名無しさん:2023/07/05(水) 04:47:45 ID:h7L84F9M0
申し訳無いんだけど円卓のヤラレシーン飛ばしちゃった

607名無しさん:2023/07/05(水) 19:25:48 ID:5/CmFzhU0
おつ
ワタナべ関連終わったらトラギコ死ぬと思ってたからまだよかった
ジュスティア敗北を前提として動いてたとかまじかよ…
イルトリアはどうなっちまうんだ

608名無しさん:2023/08/16(水) 11:33:10 ID:7wDPJDa60
ジョルジュはデレの秘密知るために全部捨てたのにあっさり裏切られて死ぬって哀れすぎるなぁ…
トラギコはワタナベが裏切らなかったらどうするつもりだったんだろ

609名無しさん:2023/08/27(日) 22:08:53 ID:T9tZbIQ.0
>>608
トラギコは命がけで時間稼ぎをする予定でしたので、ワタナベが裏切らなかったらあの場で死んでいました。
最後まで正義の味方でいてくれたトラギコの姿を見たからこそ、ワタナベが裏切ったわけです。

610名無しさん:2023/09/29(金) 22:59:40 ID:uDeUs3Bg0
クライマックスだからか間隔が空いてきたな、頑張ってくれ紳士

611名無しさん:2023/10/24(火) 19:23:36 ID:AHvMbDPA0
大変長らくお待たせいたしました。
今度の日曜日にVIP(駄目ならこちら)でお会いしましょう。

612名無しさん:2023/10/25(水) 07:54:33 ID:qkxW/XhI0
うお〜〜〜〜〜〜〜〜

613名無しさん:2023/10/25(水) 19:00:54 ID:V60hswNk0
まってるよおおおお

614名無しさん:2023/10/30(月) 19:09:22 ID:tOv5UUqs0
┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳┳
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

復讐の果て。
私が求めた復讐の果て。
復讐が生み出した旅の果て。
全ての果てに私が得たのは――

                                            ――とある復讐者

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻┻

September 25th

世界を変える規模の戦争では、必ず歴史に名を刻むほどの兵器が登場する。
第二次世界大戦で核兵器が登場したのと同じように、第三次世界大戦では軍用第七世代強化外骨格“棺桶”が登場した。
そして時が流れた9月25日。
この日に起きた戦争では、歴史に名を刻むはずだった兵器が時を経て登場した。

人類史を紐解いた上で、人類史上最大の飛行機は間違いなく“スカイフォール”と“ムーンフォール”の二機だ。
世界最大にして最新。
9月25日、史上唯一の原子力空中空母であるその二機が同時に世界の空を支配するはずだった。
それを阻んだのは、世界唯一の空軍を秘密裏に有していたイルトリアである。

一機は既に海の底に沈んだが、スカイフォールは依然としてイルトリアの上空に浮かんでいる。
“月”は堕ちたが、“空”はまだ健在。
世界最強の軍隊を有するイルトリアとの戦闘を経たにしては、これでも十分な戦果と言えた。
実質的に世界を支配していた二つの街の中でも、特に注意しなければならないのはイルトリアだ。

常に争いの事を考え、幼少期より戦いの英才教育を受けている彼らの中には一人で分隊並の力を発揮する者もいる。
それだけの戦闘力を有する軍隊を相手にするには、数と質で攻め込む以外の策はない。
その為、ジュスティアに攻め入った兵力の二倍の数がイルトリアに向けられた。
その甲斐あってか、戦闘は依然として継続していた。

だがそれはあくまでも即死を免れただけであり、猛烈な反撃と多大な犠牲を出さなかったということではない。
その反撃を受けたことにより、戦闘に参加した人間は皆、同じ感想を抱いた。
仮定の話だが、もしもジュスティアとイルトリアが戦争を起こしていたとしたら、勝っていたのは間違いなくイルトリアだ。
攻め込んだ人間がそのように断言する理由は大きく2つあった。

1つ目。
そもそも攻め入る段階での敷居の高さだ。
ジュスティアの様な壁がないが、街を覆う壁がないということは、それだけ視野が開けているということ。
そして、自由に動けるということなのだ。
イルトリアの軍隊は何よりも自由に動けることを好み、臨機応変が強みの彼らにとって、壁は邪魔でしかないのだ。

また、街そのものが基本的に外敵に対して強く作られており、背の高い建物からは街に入ろうとする輩が監視できるようになっている。
街の人間達が戦いやすいよう、家屋には塹壕や即座に展開できる遮蔽物など有事に備えた装備や準備が充実している。
街にいる人間全てが戦闘員であることを考えれば、攻め入るという行為そのものがどれだけ命がけなのか、想像に難くない。

615名無しさん:2023/10/30(月) 19:09:44 ID:tOv5UUqs0
そして2つ目。
最高戦力である、円卓十二騎士とイルトリア二将軍の性質の違いである。
これまで長い間、実戦とは遠い場所でその名を馳せてきた円卓十二騎士と実戦の場で名を馳せてきた2人の将軍であれば、戦闘で活躍するのは後者だ。
そして何より、十二人と二人の力量が比較されているといる事実がその裏付けとなっている。

前者は戦場で名を馳せてきた武勲や、単騎での武勲によって選抜された人間がほとんどであり、長期にわたる戦歴はあまり重視されていない。
それに対して後者は言わずもがなイルトリア軍を率いる存在であり、そのためには圧倒的なまでの武力を有している必要がある。
いわば、ジュスティアが個対個としての力量を見ているのに対して、イルトリアは個対軍としての力量を見ているということ。
そもそもの性質の違いが両者にはあり、その性質は軍隊にも引き継がれている。

陸海空の三方向からイルトリアに攻め入ってからすでに1時間近くが経過しているが、侵入を成功させたのは未だに空からの部隊だけだった。
運よく生きて海からの上陸を試みることができた部隊は、大地を踏んだ瞬間に埋設されていた高性能地雷によって爆散している。
機動性に優れた高速艇は、イルトリア海軍の防衛網を突破出来ていない。
頼みの綱である原子力潜水艦はその防衛網に穴が出来るのを海底で待ち続けているが、一向にその気配は訪れない。

しかし、そうした不利な点を帳消しにし得るのが、スカイフォールとムーンフォールという存在だった。
その2機に搭載したニューソクを使えば、イルトリアを焦土にすることが出来る。
だがそれは最後の手段であり、用意した部隊が全滅する、あるいは敗北が決定的になる前に使うことになっている。
海中に沈みつつあるムーンフォールも、高高度を飛行するスカイフォールも、遠隔操作でニューソクを爆発させることが可能だ。

イルトリアの上空を悠然と飛行するスカイフォールがその気になれば、一瞬でイルトリアを蒸発させることができる。
犠牲にさえ目を瞑れば、絶対に勝つことが約束された戦争なのだ。

川 ゚ -゚)「……」

故に、スカイフォールを指揮するクール・オロラ・レッドウィングは焦る必要がなかった。
そう。
焦る必要など、どこにもない。
そう分かっているはずなのに、彼女の心臓は早鐘を打ち、背筋に嫌な悪寒が走っている。

銃腔を突き付けられている様な、ナイフの切っ先が喉元に押し当てられている様な心地がしているのだ。
その気持ち悪さから逃げるために、クールは短く命令を下した。
それは嫌悪感から目を背ける人間の本能的な動きだったが、本人にその自覚はなかった。
自らの意思で合理的な判断を下したと、そう思い込んでいた。

川 ゚ -゚)「……高度を急上昇させろ。
     狙い撃ちにされるぞ」

難を逃れたとはいえ、まだイルトリアからの攻撃が止んだということではない。
洋上の制圧が済んでいない以上、高度を上げて安全な場所から状況を俯瞰するのが賢明だ。
ただし、格納庫のハッチが閉じない状況にあるため、酸素の事を考慮した高度を飛行しなければならない。
彼女の言葉に従い、機首が上を向く。

エンジンが唸りを上げ、一気に高度を上げていく。

川 ゚ -゚)「……ん? 揺れて――」

――彼女が呟いた瞬間、それを肯定するかのように警報機が機内に大きく鳴り響いた。
複数の警告灯が赤く輝き、ディスプレイに次々と警告のメッセージが流れてくる。

616名無しさん:2023/10/30(月) 19:10:06 ID:tOv5UUqs0
川 ゚ -゚)「報告をしろ」

从;´_ゝ从「か、格納庫から戦車と装甲車が落下しています!!
     固定具が外れています!!」

川 ゚ -゚)「高度8000メートルまで止まるな。
     詳細はその後だ」

彼女の指示に従い、スカイフォールは高度を上げていく。
高度8000メートルに到達すると同時に機体が水平になり、振動が収まる。
計器類の異常を確認する部下たちを一瞥し、クールは静かに、だが明らかな怒りを孕んだ声を発した。

川 ゚ -゚)「……報告をしろ」

从;´_ゝ从「固定具が自然に外れることはあり得ません!!
      それに、先ほど海面から離れる際にはこんなことにはなりませんでした!!
      誰かがタイミングを見て意図的に外したとしか……」

パニックになる操縦士を一瞥し、クールは静かに息を深く吸い込んだ。
考え得る限り最悪の事態が起きただけ。
そうなった場合の備えは用意されている。
焦りは更なる焦りを生む。

不測の事態は、想定の範囲内なのだ。
ため込んだ息と共に、クールは命令を下す。

川 ゚ -゚)「……侵入者がいる。
     総員、戦闘準備。
     侵入者を見つけ次第殺せ」

だが、その命令が下されるよりも早く、彼女の部下たちは動き出していた。
彼女の眼光が、無言の内に全てを物語っていたのである。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

Ammo→Re!!のようです

   |i: : : : : : l: : : : : : : : | : : : :{! : : : : : :l: : : : : : l: : : : : : : : : |: : l : l: : : : : i|
   |i: : : : : : l: : :l: :l: : : :| : : : :{!: : : : : :ハ: : : : : l: : : : : : : : : |: : l : l: : : : : i|
   |i: : : : : : l: : :{i: l: : : :| : : : :{! : : : : :| |: : : : : l: : : : :l: : : : :|: : : : l: : : : : i|
   |i: : : : : : l: : :{i: l: : : :| : : : :{! : : : : l| |: : : : : l:l : : : l: : l : :|: / : ′: : : : :
   |i: : : : : : :', : {i>- : |_: : : :{! : : : : l| l : : : : 从l : :_l斗l七|/: :/: : : : : : i|
   |i: : : : : l : ',: :|从─┴‐─ゝミー‐┘ ゝ‐‐>七'ー┴从//: :/: : : : : : : i|
   |i: : : : : l: : :',: l ャセ=芹圷心ミー       ,ャセチ示7气ミ 7: : : l: : : : : i|
   l: : : : : :l: : : l: l  ` V辷ツ_,         、_ V辷少  '′ /|i : : l: : : : : i|
   : : : : : : : : : :|ヾl                            |i : : l : : : : : :
  . : : : : : : : : : |ヽ’                     /ノ |i : : l : : : : : :

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

617名無しさん:2023/10/30(月) 19:10:27 ID:tOv5UUqs0
同日 AM09:56

スカイフォールの機内はその大部分が格納庫であるため、ほとんどの通路が狭く、入り組んだ形状をしている。
そのため、兵士たちの装備は動きやすく理にかなった軽装備で統一されていた。
用意されている棺桶は大きくてもBクラスの“ジョン・ドゥ”で、基本的にはAクラスの“キーボーイ”が支給されていた。
鳴り響くサイレンの中、Aクラスの棺桶を身に着けた男たちが四人一組で機内を駆けている。

〔欒(0)ш(0)〕『急げ!!』

降下作戦後、機内に残っている人間は操縦士や整備班だけではなく、キュート・ウルヴァリンの私兵部隊である“サウザンドマイル”も40人ほどいた。
彼らは高度な訓練と多くの実戦経験を積み、その力量はジュスティア軍を凌駕する程である。
しかし、構えたM4カービンライフルに装填されているのは対人用の弾だった。
機内で貫通力の高い弾を使えばどうなるのか、彼らは良く分かっているからだ。

彼らが向かう先は格納庫だった。
侵入者によって固定具が解除されたのであれば、その付近にいる可能性が高い。
格納庫に続く道にある扉は全てが厳重に閉ざされており、気圧差による問題は今のところ発生していない。
風が吹き荒れる格納庫に近づいた時、前触れなしに銃声が鳴り響いた。

放たれた銃弾が次々と壁を貫通し、砕けた壁の破片が雪のように降り注ぐ。
しかし、その銃弾で倒れた者は一人としていない。

〔欒(0)ш(0)〕『格納庫で接敵!! 敵は対強化外骨格用の弾を使っているぞ!!
        撃たせるな!!』

グレネードなどの軽量の投擲物は周囲への被害が大きいため、使用が出来ない。
使えるのは銃と刃、そして己の拳足だけだ。
スカイフォールの床には磁石が仕込まれており、金属を含む物は強い衝撃を受けなければ機外に飛ばされる心配はない。
だがそれは敵も同じだ。

〔欒(0)ш(0)〕『俺が行く!! 援護を!!』

姿勢を低くし、近接戦に備えてライフルの銃身に高周波振動のナイフを取り付ける。
銃撃の合間を縫うようにして、マリソン・ディルヘイムが駆け出した。
それを援護するために、複数機のキーボーイが銃だけを壁から覗かせて発砲する。
こちらの弾が対人用だと悟られなければ、十分に牽制射撃としての意味はある。

〔 <::::日::>〕『出てきたな!!』

彼が目にしたのは、両手に機関銃を持つCクラスの棺桶“ユリシーズ”。
空になった格納庫で青空を背に仁王立ちになる姿は、まるで劇画の登場人物の様に芝居がかっている。
マリソンはこちらの装備で抵抗できないことを一瞬で悟りながらも、その後の踏み込みに躊躇はなかった。
武装の有利不利を考えたところで、すでに戦端は開かれている。

〔欒(0)ш(0)〕『敵はユリシーズだ!!』

その情報を口にし、構えたライフルを槍のように刺突させる。
だが、その切っ先が装甲に触れる前に機関銃の弾がマリソンの右手と右足をミンチにした。
その場に転倒したマリソンは見えない手に掴まれたかのように、格納庫から大空の彼方に消えて行った。
彼の残した言葉を聞き、最初に弾倉を対強化外骨格用の弾が装填された物に切り替えたのは、アンカー・スパイマンだった。

618名無しさん:2023/10/30(月) 19:10:47 ID:tOv5UUqs0
〔欒(0)ш(0)〕『一気にやるぞ』

それに続いて弾倉を変えたのは、スペランカ・ツァーリとピエトロ・シングレッド。
増援が近づいてきていることを無線で確認しつつも、この狭い通路で待機することの愚を理解している三人は作戦を立てる間もなく、その場から跳び出した。
機関銃から放たれる曳光弾がほんの数ミリの差で格納庫の壁に着弾し、火花を散らし、穴を開ける。
どれだけ発射速度の速い機関銃であろうとも、構えている銃が二挺である以上、同時に狙えるのは二人が限界だ。

対してこちらは三人であり、二人が囮になっている間にもう一人が攻めれば勝機はある。
三つの銃腔がユリシーズに向けられ、同時に火を噴く。
先ほどの攻撃でこちらの弾が通常弾であると油断していれば、初弾でその命を奪い取れるはず。
しかしスカイフォールに侵入するだけのことはあり、ユリシーズの使用者はその場から真横に飛び、銃弾を回避した。

左腕で顔を胸から顔を防御する姿勢を取ったことで、銃腔が一つに減ったのを、三人は見逃さなかった。

〔欒(0)ш(0)〕『らあああああ!!』

雄叫びを上げ、スペランカが腰の高周波振動ナイフを逆手に構えて疾駆する。

〔 <::::日::>〕『駄目なんだな、それが!!』

だが。
ユリシーズはそれまで掲げていた左手を嘘のように下に降ろし、機関銃の銃床でスペランカの横面を殴った。
まるで野球ボールのように、スペランカの頭部だけが壁に激突した。
一瞬の内にユリシーズが残された体を盾にして、残された二人に接近する。

スペランカの生み出した一瞬の隙を、ここで使わなければならない。
弾倉を交換していたピエトロは潔くライフルを投げ捨て、ナイフを手に近接戦に備える。
巨体が嘘のように跳躍し、ピエトロの頭上に現れた。

〔欒(0)ш(0)〕『うおおああああ!!』

踏み潰される寸前でピエトロは横跳びになって回避し、着地直後の無防備なユリシーズにナイフを突き立てる。
着地と同時に、ユリシーズは逡巡した様子もなく機関銃でそれを受けた。
火花が散り、機関銃が二つに分かれる。
銃身から両断された機関銃はこれで使い物にならなくなった。

〔 <::::日::>〕『いい判断だが、甘い!!』

巨大な足がピエトロの胸部を捉え、思いきり蹴り飛ばされる。
直前に右手で防御をしていなければ、彼の胸は心臓ごと潰されていただろう。
もしもこれが地上であればピエトロはまだ再起を図れたが、気づいた時にはピエトロは格納庫から姿を消していた。
残されたアンカーは弾倉の交換を終え、発砲を開始している。

その射撃により、ユリシーズの持っていた最後の機関銃が手の中で爆散し、その衝撃でたたらを踏む。

〔 <::::日::>〕『ちっ!!』

ユリシーズは背中から弾の入ったバックパックを投棄し、肉弾戦に備えてボクシングの様な構えを取る。
こちらに余裕があればその誘いに乗っていたかもしれないが、今は緊急時だ。

619名無しさん:2023/10/30(月) 19:11:08 ID:tOv5UUqs0
〔欒(0)ш(0)〕『乗るかよ、そんな誘い!!』

〔 <::::日::>〕『そうかい』

つまらなそうにつぶやいた直後。
ユリシーズの榴弾投擲装置が静かに一発の榴弾を放った。
目の前に現れた黒い榴弾に気づいた時にはもう遅く、アンカーの頭部が爆発によって吹き飛んだ。
機関銃を失ったユリシーズは悠々と死体から高周波ナイフを奪い、両手でそれを構える。

〔 <::::日::>〕『まだまだ付き合ってもらわねぇとな』

近づいてくる複数の跫音を耳にした男はそう言って、深く息を吐いたのであった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Ammo→Re!!のようです

: V: : : : : : : :}'/: : ::::/: : ,彡,,: :/: : : : : :―fゞヽ : : : : : :``: : :ヘ-‐-三}: : : : i:::',: : : : : ',:::',ヘ
: : V: : : : : : :i: : :::::/: : 彡'´: :/: : : : : : : : :乂)ノ、: : : :‐:、 : : : : ヘ: :i :ミi: : : : i::::',: : : : : ',::::',ヘ
: : : :ゝ、:: : : :i: :::ノ: : : : : : : :/: : : : : : : : : : : : `:\: : : : :`ヽ、: : :\ミノ: : : : i::::::',: : : : : i:::::',:ヘ
: : : : : : ̄ヽ:|: :{: : : : : : : : ム__>-‐ィtッュ―-t、_:`ヽ、: : : : :`ヽ-‐V: : : : : :i:::::::',: : : : : i::::::',:ヘ
: : : : : : : : :V: : \=――'´: :ヽ、: /⌒i-、: : :/ミヽ、 ̄´: : : : :::::_ノ: : : : : : :{〇:::}: : : : :ヘ0::}: }
: : : : : : : : : V:: : : :\三-―" ̄(: :/::| /ヽ'ヾ、ミヽ\: : : : : : く<: : : : : : : : : 乂ノ: : : : : : :`´: :i
: : : : : : : : : : V: : :r‐、`ヽ、-‐'⌒ヽ<:〈V((三ミヽ、ミヽ\,イ´i: :::ヘ:: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : j
: : : : : : : : : : : V: :\::`ヽ、`ヽ、/ .,`ヽ、ゝヽ三::ヽミヽ}: :::::::i: ::::::}:::: : : : : : : : : : : : : : : : : : : :i
≧x、_____,イ-‐'´\0_): : :`ヽ、: :/: :`ヾ、`ヽ::)≧xj: : ::::i: : ::::i:::: : : : : : : : : : : : : : : : : : :/

                                         Ammo for Rebalance!!編
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 AM10:40

“葬儀屋”オサム・ブッテロがこれまでにこなしてきた殺しの仕事は、100を下ることはない。
荒廃した街に生まれた彼にとって、殺しとは生きるための手段だった。
幼少期、酒癖の悪い父と男癖の悪い母から彼を救ったのは殺しだった。
眠っている両親を三徳包丁一本で殺し、金と自由を得た彼に残されたのは、やはり殺しだけだった。

初めはマフィアの使い捨ての駒として、そしてそこから成り上がり、殺し屋として生きてきた。
殺しは彼にとって、数少ない娯楽でもあった。
一度覚えた興奮は、そう簡単に上書きできるものではない。
極上の娼婦を抱いても、困難な仕事をこなしても、常に乾いた欲求が彼に襲い掛かっていた。

刺激を。
更なる刺激を。
ギャンブルでは味わえない、命のやり取り。
命を奪う瞬間に味わえる、唯一無二の優越感。

だがそれは、デレシアという規格外の人間に出会ったことによってあっさりと打ち砕かれた。
ビルから落とされ、記憶を失い、これまでの自分を失った時。
彼の中に、夢が生まれた。
ピアノを弾き、絵を描き、音楽や絵画を生み出したいという夢。

620名無しさん:2023/10/30(月) 19:11:32 ID:tOv5UUqs0
一笑に付すような夢だが、何故かその気持ちが薄れることはなかった。
そもそも音楽や絵画に対する興味も、人並み以下程度しか持ち合わせていなかった彼にとって、この夢の出現は本人でさえ理解しがたい物だった。
それでも。
それでも、彼は夢を諦めようとは思わなかった。

鍵盤に指を走らせたときに感じた、ある種の高揚感。
筆を持ち、思うままにキャンバスの上を巡らせた気持ち。
自分の指が何かを作り上げ、それが即座に反映される快感。
それを手放すことを何よりも恐れている自分が、一番の驚きだった。

殺し屋が夢を見るなど、あまりにも荒唐無稽で自分勝手な世迷言だ。

〔 <::::日::>〕『……ははっ、良い旋律が浮かんだぞ』

記憶を取り戻してから、彼の日常は音楽に溢れていた。
誰かが怒鳴る声も。
列車の軋む音さえも。
全てが音楽であり、彼の中に創作意欲を生み出していった。

過去を振り返ってから、彼の日常は絵画で溢れていた。
あの瞬間の風景を。
あの時の表情を。
あらゆる瞬間を、刹那を、全てをキャンバス上で表したいと思うようになった。

そして今。
彼の中で新たに浮かんだ旋律は、勢いよく通り抜ける風の音と、近づいて来る多くの跫音から着想を得たもの。
彼の中に生まれた情景は、正に今、自らが置かれた状況に対する心象風景そのものだった。

〔 <::::日::>〕『さぁ、来いよ!!』

この日の様に、圧倒的な戦力差の中で行う仕事は一度もなかった。
だからこそ、なのだろう。
これまでに聞いたことのない旋律が彼の頭の中で生まれ、流れ、それを形にしたいと切望してしまうのは、生物が死の間際に子孫を残そうとする生存本能と同じだ。
思い描いたことのないような色合いが浮かんだのは、心が無駄な情報と断じた色味の全てを拾い上げたからに違いない。

彼は今、消えることのない創作意欲の中で戦っていた。
古より人が決して捨てることのできなかったその意欲こそが、人間に残された最後の雑念で在り、欲望なのだと彼は理解した。
創造力は死の淵にこそ開花し、それらを拒絶した彼方にこそ結実する。
何かを残したいという気持ちは、己の遺伝子ではなく、己の生み出した何かであっても同じなのだと分かったのだ。

最初の四機はこちらの手の内が分かり切る前に殺せたからいいものの、増援はそう簡単にはいかない。
オサムは持ち込んだ武器の優位性を失い、現地調達したものを頼りにするしかない。
手に入れたのはナイフを二振りだけ。
地面に落ちているライフルには手を出すつもりはなかった。

装填されている弾が対人用か、それ以外かを見極めるほどの余裕はない。
特に、今彼が装着しているユリシーズは装甲を優先したために小回りの利かない大型の棺桶だ。
足元に落ちている銃を拾うという動作一つで、簡単に関節部の隙間を露出してしまう。
そのリスクを負うぐらいであれば、高周波ナイフや拳足を使った戦いをしたほうが遥かに利口なのだ。

621名無しさん:2023/10/30(月) 19:12:07 ID:tOv5UUqs0
それに、接近戦は彼の得意とする分野でもあった。
恐らくは最高速度で侵入してきたキーボーイが壁を走りながら現れ、そして、オサムに飛び掛かってきた。

〔欒(0)ш(0)〕『しゃっ!!』

短く、そして濃厚な殺意の籠った一声。

〔 <::::日::>〕『っせいい!!』

相手の練度の高さは素直に感嘆するものがあった。
並の相手であれば二振りで殺せるのだが、何度も鍔迫り合いをした上で、棺桶の膂力によって強引に命を奪わなければならない。
その間にも援護射撃がユリシーズの装甲を容赦なく削るため、戦いに集中することが出来ない。
機内の張り巡らされた通路を通るには、ユリシーズはあまりにも大きすぎた。

その為、オサムは格納庫に居座るしか道がなく、そこから先に進むことができていない。
最も、ここに敵を集中させることによって他の二人が最深部に容易に進めるというメリットがあるので問題はない。
この作戦にオサムが抜擢され、更にはヒート・オロラ・レッドウィングと耳付きの少年がチームに入っている理由は説明されずとも理解していた。
彼の役割は陽動であり、この狭い戦場内の注目を集めることにある。

〔 <::::日::>〕『ほら、どうした!!』

既に大量の銃弾で航空機の内側に穴を開けたため、吹き込んでくる風の強さが尋常でないものになっている。
そこに加え、ユリシーズに内蔵されているグレネードランチャーでの爆撃が彼を無視できない存在にしていた。
異常事態を知らせるサイレンが鳴り響き、銃声と悲鳴と怒号が事態をより一層悪化させている。
オサムという存在に対する憎しみは一秒ごとに増加し、他の侵入者への意識を軽薄なものにする。

増援で現れたキーボーイを屠り、装備を奪い、死体を盾として使うたびに敵からの攻撃が過激になってくる。
ナイフで突き刺し、切り裂き、そして撃たれる。
一歩間違えれば死と隣り合わせの中、オサムは被弾をゼロにするのではなく、致命傷を受けないことに集中した。
Cクラスの棺桶の装甲は厚みも強みだが、肉体との距離が離れていることも強みの一つだ。

そこに加えて、装甲の厚みが強みであるユリシーズを使用しているオサムにとって、長期戦は最初から織り込み済みの展開だった。
つまるところ、対強化外骨格用の銃弾に体に当たりさえしなければ問題はないのである。

〔 <::::日::>〕『はぁ……はぁ……!!』

戦闘開始から30分が経過し、10人以上の死体を作る頃には流石のオサムも息が上がり始めていた。
過剰なストレスにさらされただけでなく、手強い人間を相手に殺しを続けることのプレッシャーが重圧となっている。
既に高周波ナイフは三度目の交換を終え、いよいよ装甲の被弾による損傷も洒落にならなくなっていた。
何かを待っているのか、それともオサムが機内に入っていかないことに気づいたのか、増援が止んだ。

息を整え、機内に繋がる道に目を向ける。
格納庫から機内に入る道は増援のおかげで確認が出来たが、その狭さはユリシーズにとっては致命的だ。
オサムにできることは二つ。
一つは、この場に留まること。

そしてもう一つは、ここで棺桶を脱ぎ捨て、生身で戦いを挑むということだ。
彼が決断に要した時間は僅かに数秒だった。
視線で棺桶を操作し、その場にユリシーズを脱ぎ捨てる。

622名無しさん:2023/10/30(月) 19:12:32 ID:tOv5UUqs0
( ゙゚_ゞ゚)「さぁて、仕事だ仕事!!」

これで敵の使っていた銃を気兼ねなく使える。
死体からM4カービンライフルと弾倉、そして高周波ナイフを奪い取る。
キーボーイであれば、ライフルとナイフでも十分に殺せる。
機内に踏み入ろうと一歩を踏み出した、その瞬間だった。

全ての出入り口にシャッターが降り、オサムは一瞬で格納庫に閉じ込められた。

( ゙゚_ゞ゚)「……へぇ、賢いやり方だな」

退路のないオサムをこの場にとどめておけば、高山病に似た症状で苦しめることができる。
棺桶を使っていたとしても、バッテリーが切れればそれまでだ。
潔い判断の裏にあるのは、これ以上の戦闘続行が彼らにとって望ましくない状況にあることを意味している。
閉じられたシャッターがどれほどの堅牢さなのか、それによってオサムのこの後の動きが決まってくる。

シャッターに近づくと、低く唸るような音が鳴っていることに気づいた。
高圧電流に違いなかった。
もしも高周波ナイフを突き立てれば、柄の部分に入っているバッテリーが爆発することだろう。
貫通力のない銃弾ではとても貫通できそうにない。

( ゙゚_ゞ゚)「やるじゃん」

だが、彼にとってこれは焦る事態ではなかった。
高圧電流による妨害は、棺桶を使う人間であれば必ずぶつかる壁だ。
オサムは脱ぎ捨てたユリシーズの元に戻り、それを装着してから保険の作業をした後、シャッターの前に戻る。

〔 <::::日::>〕『おい、カメラで見てるんだろ?
       この格納庫にデカイ穴開けられたくなかったら、さっさとこのシャッターを上げろ』

当然、返答はない。
返答があったところでやることに変わりはない。
遅いか早いか、それだけなのだ。

〔 <::::日::>〕『さぁて、それじゃあ!!』

両手をシャッターにかざす。
両手の裾に隠された榴弾が炸裂すれば、最低でもシャッターを閉じる電気系統にダメージを与えられ、開く可能性を産む。
その時、オサムは背中に視線を感じ取り、そこで動きを止めた。

〔 <::::日::>〕『……驚いた、一人か』

ゆっくりと振り返る。
攻撃してこなかったのはこちらの装甲を破るだけの火力がないからだ。
それが分かれば、余裕を持って対応できる。

〔 <::::日::>〕『なんだぁ、手前?』

623名無しさん:2023/10/30(月) 19:12:53 ID:tOv5UUqs0
そこにいたのは、今にも風で飛ばされそうな線の細い男だった。
顔には精悍さはなく、気だるげな、自信のなさそうな顔つきをしている。
若干の猫背。
銃を構えるその姿は、素人そのものだ。

人を殺した数よりも自慰をした数が勝る男の顔だった。

('A`)「お前を止める男だよ」

〔 <::::日::>〕『……あー、時々いるんだよな、こういう馬鹿が。
       自分がヒーローになった気になる奴が。
       弾が当たらないとか、自分の攻撃が一撃必殺になったと勘違いしている奴』

('A`)「ん? 鏡でも見ているのか?」

〔 <::::日::>〕『お前、素人だろ。
       銃の構え方で分かる。
       ……いや、薬をキメた素人か』

瞳孔が開いていることに気づき、息遣いの乱れを察する。
向精神薬か、別の何かを使っているはずだ。
“マックスペイン”の可能性もあるが、それ以外の薬であればオサムには関係のない話だ。
素人がどれだけ薬で気分を盛り上げようとも、戦闘能力に変化はない。

薬がもたらす大きな影響は、言わずもがな精神面に対するものだ。
そして戦闘力は現在本人が有している筋量を越えることはない。
傷つくこと、そして死を恐れないための薬でしかない。
脳のリミッターを外し、身体能力を劇的に向上させるマックスペインでなければ、臆病な素人が馬鹿な素人になるだけである。

('A`)「すげぇな、分かるのか」

〔 <::::日::>〕『分かるさ。 お前みたいな臆病者が俺の前に立つってことは、薬を使うしかないからな』

('A`)「……俺は臆病者じゃない」

〔 <::::日::>〕『じゃなきゃ、ヘタレだな。
       よう! ヘタレ! 久しぶりだな!!
       この前の同窓会ぶりだな!!
       確かトイレでずっと泣いていただろ?!』

おどけた様に言葉を投げかけるが、男は激怒した様子を見せない。

('A`)「そうやって俺を挑発するってことは、俺が怖いんだな。
   そりゃそうだ。
   棺桶を使って俺に負けたら大事だからな」

〔 <::::日::>〕『安い挑発だな。 廃棄処分寸前の鶏の言葉だ』

624名無しさん:2023/10/30(月) 19:13:24 ID:tOv5UUqs0
('A`)「いや、いいんだ、誤魔化さなくて。
   なんせ俺とお前の間の技量には圧倒的な差がある。
   負ける方が難しいぐらいだ。
   だから、そう。

   俺に負けたとあっちゃ、死んでも死にきれないよなぁ」

〔 <::::日::>〕『ははっ、声が振るえてるぞ。
       だが、その勇気に免じて相手してやろう。
       喜べよ。
       お前は今、“葬儀屋”の前にいる。

       葬儀がタダで出来るぞ』

('A`)「だったら、棺桶なんて捨ててかかって来いよ」

〔 <::::日::>〕『なら、殴り合いでもするか?
       よしてくれ。
       弱い者いじめはしない主義なんだ、こう見えても』

('A`)「来ないんなら、こっちから行くぞ?」

男はそう言って、拳銃を腰のホルスターにしまった。

〔 <::::日::>〕『四の五の言わず、最初からそうしておけ……よっ!!』

仕掛けたのは、オサムからだった。
航空機全体を震わせるほど強く踏み込み、その勢いを乗せた拳を真っすぐに突き出した。

('A`)「せいっ!!」

その拳を、男が正面から受け止めた。
あり得ない光景だった。
男は拳の形を作っているが、オサムの拳とは直接ぶつかっていない。
間に分厚い壁があるかのように、空中で静止している。

〔 <::::日::>〕『……変わった棺桶だな』

('∀`)「……ばれちまったか」

不可視の形状、そしてその特性。
紛れもなくコンセプト・シリーズのそれだ。
問題は、果たしてその棺桶が何なのか、という点である。
オサムの知る棺桶であれば対処も出来るが、恐らく、これは彼の知らない棺桶だ。

('A`)「さぁ、勝負だ!!」

〔 <::::日::>〕『間合いなんてな、一度殴り合えば分かるんだよ!!』

625名無しさん:2023/10/30(月) 19:13:56 ID:tOv5UUqs0
不可視の棺桶との戦闘はこれまでにも経験があった。
しかしそのいずれも、所有者ごと隠すことを目的に設計されていた。
生身の人間が見えている状態の棺桶というのは、あまりにも不可思議な設計だった。
だからこそ、見えてきた形状がある。

文字通り体を覆う形の外骨格、もしくは独立して動く副腕だ。
そうでなければ男が拳銃を持っていられるはずがなかった。
拳と見えない拳がぶつかり合ったことを考えると、拳を覆う形でまとう棺桶である可能性が高い。
ならば、単純な棺桶のクラス差を考えれば負ける道理がない。

大型と小型。
単純な質量のぶつかり合いならば、Cクラスに分がある。

〔 <::::日::>〕『だらぁ!!』

左拳で振り下ろす一撃。
受け止めるか、それとも避けるか。
相手の持つ近接戦闘の経験値と、棺桶の補助能力を試すための一撃だ。

('A`)「雄オ!!」

それを左手一本で受け止め、男が右拳を握り固める。
だがそれが突き出されるよりもずっと先に衝撃がオサムの胸部を襲った。

〔 <::::日::>〕『ぬぐがあ!?』

想像以上の衝撃だが、耐えられない程ではない。
しかし。
この環境で受けたその衝撃はユリシーズの巨体を宙に浮かべ、格納庫の端から壁にまで叩きつけただけでなく、そのまま数メートルも機体後方に流された。
オサムは相手の狙いをここで理解した。

どうして近接戦を仕掛けてきたのか。
その意図を。
淵まで残り1メートルの地点で踏みとどまり、オサムは息を吐いた。

〔 <::::日::>〕『殴り殺せないなら空から落とすってか』

('A`)「あぁ、この高さから落ちれば絶対に助からない。
   お前は今、俺の装備が分からないだろう?
   臆さずにかかって来れるか?」

先ほどの一撃で、副腕が独立して動いていることが分かった。
男の動きと連動していると思わせ、タイミングを狂わせた一撃を放つ。
近接戦でこれほど嫌われる行動もないだろう。
不可視でありつつ余計な動きで惑わすなど、発想が――

〔 <::::日::>〕『――お前、ひょっとしてバンズ家の人間か?』

思い当たったのは、同業者であるバンズ家の戦い方だった。

626名無しさん:2023/10/30(月) 19:16:04 ID:tOv5UUqs0
('A`)「え?」

〔 <::::日::>〕『やっぱりそうか、思い出した。
       お前、バリーの息子か。
       確かに顔が似てるな』

その名を出した瞬間の男の顔は、まるで一瞬で凪ぎ、凍り付いた海の様だった。
押してはいけないスイッチを押した瞬間の心地がした。

('A`)「な、何で親父の名前を……」

〔 <::::日::>〕『そりゃあ、俺が殺した人間の名前だからな。
       お前の誕生日パーティーの日に、母親も死んだだろ?
       俺が頭を斧で叩き割って殺したはずだ』

バリー・バンズ。
それは、オサムがとある組織の依頼で殺した殺し屋の名前である。
組織に対する深刻な裏切り行為が発覚したことにより、オサムによって殺された男だ。
極めて優れた技量を持つ男だったが、オサムには勝てなかった。

家族という弱みを持った殺し屋など、彼の敵ではない。
殺し屋が殺し屋として生きるためには、弱みを見せることは禁忌だ。
家族を脅しの材料に使えばいくらでも弱体化できる。
家族を得たことによって命を失ったバリーの戦い方は、今目の前にいる男のそれに酷似していた。

(#'A`)「お、お前……お前が!!」

〔 <::::日::>〕『最後に家ごとガスで爆破させたからてっきり殺したと思ってたんだが、生きていたか。
       そうか、母親の死体を被ったのか。
       いや、しっかしすげぇな。
       世間の狭さに笑っちまうな。

       よし、お前は絶対に殺してやる。
       本気で相手してやるよ』

(#'A`)「殺してやる、絶対に!!
    お前だけは!!」

627名無しさん:2023/10/30(月) 19:16:47 ID:tOv5UUqs0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
         ,.イ .::,'     ..:/ .::::i!.::{::.       | :::..   }.      | .i! ヘ.、ヾ
 ____     / | .:/:  .:  .:ヾ、.::::/{ .:i!:::.       } | マ::::.  i!::.     i! i!.   マ`ヽ、
    "''<,イ::::::::i!.:,:::  .:  .::::_i!.:::\.|::::|::::::.       |: :} マ:::::. .|::::.    | ハ:::::.. マ::... `ヽ
          ヾ::::|.,:{::i! :: .::::::ス"`r 、\|::ヤ:::.    .:|!::i!  ヤ ,r=''"::    , i! ヘ ::::::...ヾ、:::::::
         `!:::|::i :::..:::::/ }r{、弋シヾヽ::::::..   .:|i!:}_,r≦___,,,,:::::: ::  ,: リ::::.. ヽ、 ::::::::\:
..        ::::::|`i!:::', :::::::::ハ .i|! ri ̄ ̄ マヘ::::::.. r='∠弋ジ::マノ|::::::: .:: .,': .i!r 、::::.... `=> '"
:::.        :::::::ヤ::マ::::::,'::i!  |!    マヘ:::::::...::i!  r ̄ .}:リハ:::::..:: /:: i! r 、二>イ
::::::.        ==、ヤ:ハ:::::{:::ハ  !     } マ::::::リ   |!  .|! }::|:::::::/::: .ハ:::}::::::, イ
..、:::::::::::::::::......    マリ ヾ:|:::|::',  i!     {  マ::/   .リ   /:::|::::/:::: .i!::::マ!:イ::::::::::::
::::::`ヾ、::::::::::, r=    i! .::::` .i!::} 、    , 、___´__ '    /  /'::::::|:イ/:: i!::::::}!::::::___,,, イ
::::...  `''''"     / }::::: リ:::リニヘ   fラ=-- =ヘ    /ニ,'::::::::':/::: ,'::::::::|!イ
::::、:::::::::       ,'  }:::/,':::∧二 ヘ、 {|::::::::::::::::,リ , イ二ニ{i::::::::/.::  ,:::::::ノ   ..:::::::::::::::::
::::::マ:::::::      .,'  ノイ.:}:::/ニマニr=マ、ヾ、,,___シ,rイ二ニ, イ!i:::::/ /  ,'::,イ   ..:::,, r===--
::::::::}       /  /' /リ/ヘ二マ',  } `=- =イr=、二/ニ{'::::/ /  ,'   ...::::::::::::::::::::::::::::::
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ドクオ・バンズは、己の心に立てた一つの誓いを胸に、目の前にいる男を空から叩き落すために飛び出した。
学校で孤立していたドクオの唯一の味方だった優しい両親を殺し、彼を孤児にした一人の殺し屋。
その正体を掴む為に、彼は出来るだけの事をしたが、微塵もつながりを見つけることはできなかった。
復讐に生きることの虚しさに気づき、彼は社会的弱者のための支援施設で働くことにした。

そこで過ごした日々は今でも輝かしい思い出だが、偏見を持った人間達に施設が襲撃され、死体に出迎えられた時の瞬間は悪夢でしかない。
だが彼は復讐ではなく、そうした偏見や差別をこの世界からなくすことが彼らへの手向けになると考えた。
そして一つの誓いを立てた。
不要不殺の誓いである。

相手を殺害することによる解決など、何の意味もない。
むしろ、殺害するに至った背景を考え、それが再び起きないようにすることこそが最大の復讐なのだと考えたのだ。
そんな彼の命を助けてくれたクール・オロラ・レッドウィングと、内藤財団の存在が彼の人生を変えた。
彼女と共に世界を変える。

そう思い始めてから過ごした日々は、何よりも彼の人生で輝いていた。
そして今。
彼の人生の中で最大の悪夢が、目の前にいる。
そして彼の夢を邪魔している。

(#'A`)「死ねぇええええ!!」

相手を殺すことに感じるはずの躊躇いは、事前に摂取した薬物によって脳の中から完全に消え去っていた。
彼の五感は研ぎ澄まされ、頭はかつてないほどに洗練されていた。
怒りに身を委ねているように見せかけ、その実、頭の奥では男が次にとる行動を冷静に分析し、予想してている。
ドクオが使用する棺桶“ウォンテッド”ならば、彼の力を何倍にも増幅させ、復讐の果てをここに結実させることだろう。

ウォンテッドは単なる不可視の鎧ではない。
不可視の副腕であり、その大きさはAクラスでしかない。
肉体の補助は一切なく、あるのは戦闘の補助だけ。
しかしその不可視という特性が、何よりも相手に脅威を与えることになる。

628名無しさん:2023/10/30(月) 19:17:09 ID:tOv5UUqs0
更に、不可視の副腕には関節が複数存在するため、相手の予想をはるかに裏切る軌道が可能なのだ。
副腕は全部で四本。
その全てが拳の形を作ることも、抜き手の形を作ることも出来る。
即ち、男にとっては理外の攻撃が2つ存在することになる。

無論、相手はプロだ。
こちらの攻撃から、腕の存在が明らかになるのは時間の問題。
更にそれが多関節であることが見破られれば、戦いにおける優位性は減少する。
それを回避するため、ドクオにできるのは短期決戦という選択だけだった。

今ならば棺桶の大きさを気にせず、勢いで相手を殺せる位置関係にある。
この機を逃す手はない。

〔 <::::日::>〕『はははっ!! 来いよ、死にぞこない!!』

相手は慢心している。
今なら。
今しか。
今だけが、ドクオが仇敵を殺す最高の機会。

(#'A`)「お前は!! 生きていたらいけない人間なんだよ!!」

脚代わりにしている二本の腕により、ドクオは人間の身体能力以上の加速で男に迫る。
空中に飛び出したことにより、空気が彼の背中を押す。
一層の加速を得たドクオの手中には高周波ナイフが握られている。

〔 <::::日::>〕『生きていなきゃいけない人間なんていないんだよ!!』

ユリシーズの装甲に突き立てれば致命傷にはならずとも、駆動部に損傷を与えることができる。
飛び掛かるドクオを一睨し、男は左手を目の前に掲げた。
腕一本を犠牲にすればドクオを止められるという算段なのだろう。
それが過信だと気づいていない今は、正に絶好の機会と言えた。

(#'A`)「らぁっ!!」

ナイフを中空で手放し、背中から伸びる副腕に握らせる。
重みを持った一撃を振り下ろすのと同時に、残った三本の腕が男の両足と右手を狙う。

〔 <::::日::>〕『見えてんだよ、殺る気がさぁ!!』

男はそれを待ち構えていたかのように左手を素早く横薙ぎに振り、ドクオの一撃に合わせてきた。
ナイフを握る副腕を正確に捉えたその一撃は、だがしかし、その軌道全てを書き変えることはできなかった。
切っ先が深々と男の肩に突き刺さり、火花が散る。
代わりに副腕が一本破損し、その姿が露わになる――

〔 <::::日::>〕『何?』

629名無しさん:2023/10/30(月) 19:17:31 ID:tOv5UUqs0
――そう、男は思っていたに違いない。
だが現実は、副腕は破損せず、姿も露呈していない。
多関節故に横からの衝撃に対して強く、折れずに済んだのだ。
薙ぎ払いという選択が、この棺桶には通用しない。

(#'A`)「もらった!!」

両足、そして右手を副腕が掴む。
長時間は持たない。
手に入れられるのは一瞬の油断。
その油断こそが、ドクオの目的だった。

(#'A`)「これで終わりだ!!」

本命は腰のホルスターに収められた拳銃。
空いた手でドクオはそれを抜き放ち、ユリシーズの首の受け根に銃口を差し込んだ。
銃爪を引くのは一瞬だった。
フルオートで放たれた対強化外骨格用の弾は、容赦なくユリシーズの首を貫く。

一瞬の内に30発全てが放たれ、ユリシーズはそのまま動かなくなった。

(#'A`)「はぁ……はぁ……!!」

奇妙な静寂が流れた。
聞こえるのは風の音と、自分の荒い息遣い。
長い復讐の旅の果て、ドクオは遂に仇を取ったのだ。

( ゙゚_ゞ゚)「素人にしちゃ、頑張った方だな」

その声は、足元から聞こえてきた。
男はいつの間にか棺桶から抜け出し、余裕そうな表情でドクオを見上げている。

(;'A`)「な?!」

( ゙゚_ゞ゚)「だがここまでだ」

打ち上げるような後ろ回し蹴りがドクオの腹を穿った。
最悪なことに、ドクオの体は自らその場に固定していたため、衝撃の全てを受けることになった。
内蔵を損傷した経験は一度ともなかったが、その一撃が彼の臓器の一部を損傷させたことだけは自覚できた。
その証拠に、どこからか出てきた大量の血液が喉からせり上がり、一瞬の鉄臭の後、彼の鼻と口から噴き出たのだから。

(;'A`)。゚ ・ ゚「げはぁっ!!」

張り付けにされたかのように、ドクオは中空でもがき苦しむ。
握っていた拳銃をその場に落とし、腹を押さえてパニックにならないように思考を巡らせる。
薬物で得た興奮は彼の痛みを紛らわせるには至らない。

630名無しさん:2023/10/30(月) 19:18:05 ID:tOv5UUqs0
( ゙゚_ゞ゚)「発想は良いが、意図がバレバレだ。
     戦い方は父親そっくりだが、技量は段違いだな。
     話にならない。
     まぁ、最初の一発目はよかったがな」

男の肩に薄らと滲む血が、ドクオの放った一撃が確かに到達したことを証明している。
だが深手ではない。
当然だ。
刃の長さと装甲の厚みを考えれば、よく刺さったと言ってもいいぐらいだ。

( ゙゚_ゞ゚)「冥途の土産に俺の名前を教えてやる。
    オサム・ブッテロ。
    じゃあな、バンズの息子」

ドクオの思考は加速し、次に自分がすべきことを考えていた。

(;'A`)「お……れ……」

オサムと名乗った男の抜き手が、ドクオの鳩尾を狙って放たれる。
殺し屋の抜き手は槍の一撃。
防弾着の上からでも十分な攻撃になるだろう。
内蔵に負ったダメージがドクオに命の危機を強く物語る。

(;'A`)「俺はぁぁ!!」

意識をどうにかつなぎ止め、ドクオは副腕を使ってその場から跳び退いた。
オサムの手刀が寸前までドクオの腹があった場所を貫く。

( ゙゚_ゞ゚)「それで次はどうする?!」

距離を取っても、ドクオの体力が回復するわけではない。
だが数秒だけでも時間を稼いだことにより、思考するだけの時間を得られる。
棺桶はダメージを受けていない。
ならば、優位性はこちらにこそある。

(;'A`)「すぅっ……!!」

薄い酸素を吸い込み、脳を活性化させる。
薬によって強化された感覚が四肢に力を与える。

( ゙゚_ゞ゚)「馬鹿がよぉ!!」

右手を腰に伸ばしたかと思うと、オサムは一瞬で拳銃を抜いていた。

( ゙゚_ゞ゚)「殴り合いしたいんなら、素手でこい!!」

そして発砲。
副腕を使い、ドクオは自分の身を護る体勢に入る。
結果としてドクオは思考する時間を得たが、こちらの手の内はほとんど相手に見破られた可能性が生まれた。

631名無しさん:2023/10/30(月) 19:18:27 ID:tOv5UUqs0
( ゙゚_ゞ゚)「ほらほらほら!! 討つんだろう? 仇をさぁ!!」

(;'A`)「ぐっ……」

腰の後ろに手を伸ばし、ドクオはそこから拳銃を抜く。

( ゙゚_ゞ゚)「ちっ!!」

オサムは舌打ちをし、先ほど自ら脱ぎ捨てた棺桶の背後に隠れる。
決して貫通しないことを知りつつ、ドクオは銃腔を向けて銃爪を引く。
ユリシーズの装甲の上で火花が散り、それを見てオサムが笑い声をあげた。

( ゙゚_ゞ゚)「何だよ、通常弾かよ」

(;'A`)「手前を殺すには十分さ」

( ゙゚_ゞ゚)「その下手糞な銃撃で?
    おいおい、鶏だって殺せないぞ」

(;'A`)「殺してやるさ!!」

再び発砲するが、やはり、ユリシーズの装甲に阻まれる。

( ゙゚_ゞ゚)「奇跡でも起こさなきゃ無理だな」

('A`)「起こしてみせるさ」

そして、三発目。
それがドクオにとって最後のチャンスだった。
油断し切った今ならば、オサムの言う奇跡が起こせる。
ウォンテッドの多関節副腕は、“特化した目的”の副産物でしかない。

副腕はすでにドクオの狙い通りに急カーブを描き、狙いを定めていた。
放たれた銃弾は副腕に沿って軌道を変え、遮蔽物を越えた位置からオサムを狙い撃ちにする。

(;゙゚_ゞ゚)「んぐあっ?!」

小さな呻き声と共に、オサムが倒れる。
その腹に赤黒い染みが出来ていた。
運よく防弾着の間に命中したのだ。

(;'A`)「起きただろ? 奇跡は」

ウォンテッドの設計目的は銃撃の支援。
湾曲した軌道を描く銃撃に特化した棺桶。
遮蔽物を飛び越えた銃撃を実現することが、そもそもの目的なのだ。
故にこその多関節。

相手の位置が分かってさえいれば、銃弾は任意の軌道を描いて着弾させることができる。

632名無しさん:2023/10/30(月) 19:18:48 ID:tOv5UUqs0
(;゙゚_ゞ゚)「あー、くっそ!!」

腹を押さえながら、オサムが銃を構える。
だがそれよりも先に、ドクオは銃爪を引いて次々と銃弾を放っていた。
遮蔽物がなくなった以上、ウォンテッドを使う必要はない。
それが焦りだと気づいたのは、10発放ったにも関わらず、オサムの胸部に1発だけしか着弾しなかった事実を理解してからだ。

(;゙゚_ゞ゚)「ぐっ……!!」

(;'A`)「はぁっ……はあっ!!」

弾倉を交換し、再び銃を構える。
恐らく強風の影響で銃弾が狙った通りに飛ばなかったのだろう。

(;゙゚_ゞ゚)「よーく狙えよ、へたっぴ。
    でないと、次は俺が当てるぞ」

両手で構え、照準をオサムの胴体に向ける。
銃爪を引く。
だが、オサムの体よりも奥の床に弾が着弾した。

(;'A`)「わざと外してるんだよ」

(;゙゚_ゞ゚)「いいや、違うね。
    お前は殺しの美酒ってやつに酔っちまったんだよ。
    生殺与奪を握った優越感が薬のせいで倍増して、お前は自分の体がまともに動かせないんだ。
    ははっ、みっともねぇなぁ!!

    興奮して暴発させるって、まるで童貞の初夜だな!!」

(;'A`)「う、うるさい!!」

(;゙゚_ゞ゚)「命乞いでも期待していたか?
    まさか。
    それこそ、死んでもごめんだね」

優位なのはこちらだ。
相手に会話の主導権を握られてはならない。
撃ち殺さなければ、ドクオの精神が侵される。

(;'A`)「……何で、親父とお袋を殺したんだ」

(;゙゚_ゞ゚)「あ? ようやくそれを訊くのかよ。
    仕事だよ、仕事。
    依頼があれば誰だって殺す。
    それが殺し屋だ。

    お前の親父が殺し屋だったのと同じだよ」

(;'A`)「でも、親父は……」

633名無しさん:2023/10/30(月) 19:19:18 ID:tOv5UUqs0
(;゙゚_ゞ゚)「分かってねぇな。 殺し屋に、良い殺し屋も悪い殺し屋もねぇんだよ。
    あるとしたら信念のある殺し屋か、そうでないかだけだ。
    あぁ、安心しろ。
    バリーは俺と同じで、信念のある殺し屋だった。

    ほら、これでいいか?」

(;'A`)「親父はお前とは違う!!」

(;゙゚_ゞ゚)「いいや、同じだね。
     殺し屋にとって、過程はどうでもいいんだよ。
     結果が全てだ」

オサムが銃腔をドクオに向ける。

(;゙゚_ゞ゚)「ほら、お前が撃たないなら俺が撃つぞ。
    サービスタイムは終わりだ」

その宣言通り、オサムの手の中にある銃が火を噴く。
副腕が防御に入る。

(;゙゚_ゞ゚)「三、いや四本か。
    ならよ!!」

それまでの苦しみの表情がまるで演技だったかのように、オサムが地面を蹴ってドクオに接近する。
銃弾を浴びせながら接近してくるオサムに対し、ドクオは無意識の内に防御行動に出る。
副腕はドクオを銃弾から守る為に体の正面に展開するが、そのせいで彼は銃を構えられない。

(;゙゚_ゞ゚)「殴り合おうぜ!!」

弾を全て撃ち切ったのか、オサムは手にしていた拳銃を投げ捨てる。
それがドクオ目掛けて投げつけられたため、副腕が自動的に迎撃する。
その隙を突き、オサムがドクオの懐に入り込んだ。

(;'A`)「うおっ!?」

(;゙゚_ゞ゚)「そんなもん捨てちまいな!!」

手刀がドクオの手首を襲う。
握っていた拳銃をその場に落とし、攻撃の手段を失う。

(;゙゚_ゞ゚)「タマがあるんだろうよ!!
    男の子だろ!!」

その言葉の真意を確認するまでもなく、ドクオの股間に激痛が走る。

(;'A`)「きっ!!」

(;゙゚_ゞ゚)「棺桶を解除しな。
    でねぇと、お前のタマと竿が引きちぎられることになるぞ」

634名無しさん:2023/10/30(月) 19:19:50 ID:tOv5UUqs0
(;'A`)「て、め……」

(;゙゚_ゞ゚)「急所からの失血死、こんなに格好悪い死に方するぐらいなら俺は自殺するね。
    それに、あんまり怖い言葉を使うなよ?
    緊張して潰しちまうだろ」

睾丸を握るオサムの手に力が込められる。
睾丸とは体外に出ている人間の臓器。
臓器を握られれば、どんな薬物を使っていてもその恐怖が薄れることはない。

(;'A`)「あひっ!!」

(;゙゚_ゞ゚)「ほら、そろそろタマが一つ潰れるぞ」

自らの体の一部が爆ぜようとしている感覚が、ドクオに強い恐怖心を植え付ける。
風船が破裂する寸前の感覚。
男であれば例外なく感じる恐怖心が強くなっていく。
ウォンテッドを動かすために割ける精神的余裕は、どこにもなかった。

(;'A`)「やめっ!!」

(;゙゚_ゞ゚)「安心しろ、もう一つタマがあるだろ?」

(;'A`)「くっ!! そっ!!
   解除する、するから!!」

(;゙゚_ゞ゚)「くしゃみが出そうだ。
    そのはずみで潰しちまうかもな」

(;'A`)『人が疎かにされるような社会は長続きしない!!』

遂にドクオはオサムの脅迫に屈し、棺桶を解除することにした。
その言葉に呼応するように、ウォンテッドの不可視化が解除され、背中から外れて落ちた。

(;゙゚_ゞ゚)「ようし、それでいい」

(;'A`)「早く放せ!!」

だがオサムの手は依然としてドクオの睾丸を握ったままだ。

(;゙゚_ゞ゚)「待った」

(;'A`)「あ?」

(;゙゚_ゞ゚)「くしゃみが出る!!」

(;'A`)「止めろ!! その前に放せ!!」

(;゙゚_ゞ゚)「へ……」

635名無しさん:2023/10/30(月) 19:20:19 ID:tOv5UUqs0
(;゚A゚)「やめろおおおおおおおおおおお!!」

心からの叫び。
それを聞いて、オサムが意地の悪い笑顔を浮かべた。

(;゙゚_ゞ゚)「……引っ込んじまったよ」

(#'A`)「て、手前!!」

からかわれたのだと分かると、ドクオの中に生まれたのは殺意。
しかし。
睾丸が握られている今、ドクオにできることはない。

(;゙゚_ゞ゚)「オーケー、それじゃあ殴り合おう。
    よし、今から3つ数えたら手を離す。
    そうしたら殴り合いだ」

(#'A`)「……上等だ」

(;゙゚_ゞ゚)「イチ、ニィ……サン!!」

(#'A`)「だあああ!!」

予想と違い、オサムは本当に睾丸から手を離した。
大きく距離を取ったドクオに聞こえたのは、オサムの呆れたような声だった。

(;゙゚_ゞ゚)「ったく、喧嘩の基本ぐらいきちんと勉強しとけ」

(#'A`)「うおおおお!!」

怒りに身を任せ、ドクオは拳を握りしめて飛び掛かる。

(;゙゚_ゞ゚)「おらよ!!」

腹部に強烈な衝撃を受けたが、ドクオはそのままオサムの顔に殴りかかった。
横面を殴られたオサムは、だがしかし、その鋭い視線をドクオに向けたまま。

(;゙゚_ゞ゚)「世界を変えるんだろ!!
     だったらもっと気合入れろ!!」

(#'A`)「馬鹿にしやがって!!」

左右両方からオサムの顔を殴る。
それに対し、オサムは再び腹部に向けて鋭い一撃を放つ。

(#'A`)「ぐっ……」

(;゙゚_ゞ゚)「ちっ、少しは楽しめるかと思ったけど結局この程度か。
    手前の手を汚さないで世界を変えようとする奴なんてそんなもんか。
    もう飽きた」

636名無しさん:2023/10/30(月) 19:20:39 ID:tOv5UUqs0
ドクオの後頭部を掴み、強烈な膝蹴りがドクオの腹を襲う。
血反吐を吐き散らし、ドクオは四肢から力が抜けるのを感じた。
抱え上げられ、格納庫の後部に連れて行かれる。

(;'A`)「は……せ……」

ハッチの淵。
足場のない、即死へと通じる一方通行の道のりが足元に広がっている。

(;゙゚_ゞ゚)「付き合ってられねぇよ、お前には」

風が吹き荒れる中、ドクオは次に自分の身に何が起きるのかを分かっていた。
眼下に広がる白い雲と、その下で煌めく青黒い海。
この高度から落ちれば即死は免れられない。

(;゙゚_ゞ゚)「じゃあな」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
同日 AM11:49
                              )     (
                                 /⌒    ヽ
                       _-‐ニ二二二二二二ニ‐-_
                           {       (
                  _  -‐…・・・¬冖冖冖¬・・・…‐-  _
               _ ‐ _  -‐…・・・¬冖冖冖冖冖冖¬・・・…‐-  _- _
                ¨ ‐-=ニニニニニ/⌒゛         )ニニニニニニニ=-‐ ¨
                      /⌒            乂_
                        {                 }
                      _,ノ       l | l         ノ
                     (      l l | | | | l l l    〈
                     \  l l | | l     l | | l l  }
                          r'  l l           l l  `⌒ヽ
                  _ -‐-'         i|i          )
                 /                        `)
                   {         l l | | | l l           }
                    乂           | l             ヽ
                 ,r'     |                       ノ
              r‐ ''゛     |l                     r‐'゙
             「           |                  乂__
             {                             ヽ__
             (        | l l             l l              )
             乂          | | l l                    )
              ⌒ヽ            |                   /
                   乂         |   ll l| | | l:i         |   ノ
               /⌒`      :l|:l l|:i:i| |:i:i:l:i:       l:i:|l   ⌒ヽ
            /⌒⌒`       |i:i|:i:i:i:|:i:i| |:i:i:|:i:i:i|:il    :i| |:i:i:i|     i
          r‐'      l|:|   i:l|i:i|   |:i:i| |:i:i:|:i:i:i|:i|    | |:i:i:i|:i|    乂
            _ノ      l|:i:i:i| l|:i:i:i||i:i|     | |:i:i:|:i  |l l  l| |:i:i:i|:i|l     ⌒ 、
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

637名無しさん:2023/10/30(月) 19:21:01 ID:tOv5UUqs0
(;゙゚_ゞ゚)「……は?」

それは一瞬の事だった。
世界が白く光ったかと思うと、遠くから凄まじい爆発音が聞こえてきた。
オサムの視線はドクオではなく、開かれたハッチの向こう側に釘付けになっていた。
つられてドクオもその視線の先を見る。

そこには黒い大樹かと見紛う黒煙が立ち上り、空をその色で染め上げているところだった。
その光景がどのように彼の目に映ったのかは分からない。
だがこれが千載一遇のチャンスであることは間違いなかった。
素早くオサムの顔を平手で叩くことで、視界を一瞬だけ奪う。

(;゙゚_ゞ゚)「ぐっ」

ドクオはオサムの腕を掴んで体を捻り、どうにか床に着地してからそのまま壁沿いに駆け出した。

(;゙゚_ゞ゚)「逃げるんなら方向が違うぞ!!」

(;'A`)「逃げる? まさか!!」

そして、壁際に取り付けられている装置のスイッチを思いきり殴りつけた。
誤作動を防ぐために薄いガラスで保護されていたスイッチが深々と押されると、けたたましい警報音と赤いランプが点滅する。

(;゙゚_ゞ゚)「……何しやがった、手前!!」

(;'A`)「こっから先は一人で楽しんでくれ!!」

それは、格納庫の床で発生している強力な磁場を遮断するためのスイッチだった。
彼らが先ほどまで戦えていたのはその恩恵であり、それが遮断されれば、自重以外で彼らを床に縛り付けるものはない。
気にもしていなかった風の影響が、容赦なく二人を襲う。
それに備えていたドクオは近くの手すりに摑まるが、ドクオを放り捨てようとしていたオサムは――

(;゙゚_ゞ゚)「くそっ!!」

――足に力を入れ、風で飛ばされないように姿勢を低くして耐えていた。
だが腹に受けた銃弾が彼の体から力を奪い、流れ出る血が命を奪う。
持久戦に持ち込めばドクオの勝ちだ。

(;'A`)「これで終わりとは、残念だったな!!」

(;゙゚_ゞ゚)「終わるかってんだよ!!」

(;'A`)「もう手足に力が入らないだろうに!!」

(;゙゚_ゞ゚)「……くそっ」

(;'A`)「後は勝手に死んでるんだな!!」

ゆっくりと手すりを伝って安全な場所にまで戻っていく。
その姿を見ながら、オサムが絞り出すような声で言った。

638名無しさん:2023/10/30(月) 19:22:00 ID:tOv5UUqs0
(;゙゚_ゞ゚)「こんな終わり方でいいのかよ」

(;'A`)「いいさ、お前が死ぬんなら」

(;゙゚_ゞ゚)「ふん……つまらねぇ奴だ。
    復讐するってのに、そんなぬるい方法でいいのかよ」

(;'A`)「何?」

(;゙゚_ゞ゚)「復讐する時ってのはな、遠慮したら駄目なんだよ。
     お前は俺が憎いんだろう?
     だったら、これまでの恨みを込めて俺を殺せよ」

(;'A`)「俺は、お前とは違う。
   殺しを楽しむなんて嫌だね」

(;゙゚_ゞ゚)「おいおい、お前の夢でどれだけの人間が死んだと思っているんだ?
    今更善人面するなよ」

(;'A`)「……」

ティンバーランドが実行した数多くの作戦で民間人の間にも死者が出たのは事実だ。
無論、ドクオはそれに対して疑問を抱かなかったわけではない。
直視しないよう、意識しないように過ごしていた、いわば傷口だ。
夢に向かって進むいくつもの歩みは、血に汚れている。

だがそれらの犠牲を無駄にしないためにも、歩みを止めるわけにはいかないのだ。

(;゙゚_ゞ゚)「お前は俺よりもタチが悪い。
    俺は仕事で人を殺すが、関係ない奴を殺すことはほとんどない。
    仮に殺すことになったとしても、殺したことは認知するし、自覚もするさ。
    だがお前はどうだ?

    お前は、自分の手が汚れていることにすら気づかないようにしているだけだ。
    自分は奇麗な人間だと思い込んで、おまけに声高に主張して他者を批難していやがる。
    正義のために大勢を殺したくせに、殺したとは思っちゃいない。
    父親から人殺しの道理を教わらなかったのか?

    どんな理由があろうと、殺しは殺しだ。
    間接的だろうが直接だろうが、本質は同じなんだよ!!」

(;'A`)「黙れよ!!」

まるでこちらの気持ちを見透かしたかのように、オサムは淡々と告げる。

639名無しさん:2023/10/30(月) 19:22:22 ID:tOv5UUqs0
(;゙゚_ゞ゚)「いいや、俺はどうせ死ぬんだ。
    だったら、俺がお前に真実って奴を教えてやる。
    俺がこの手でぶっ殺したお前の父親の代わりに、道理と一緒に教えてやるさ!!
    いいか、お前の手足は血で汚れているんだ!!

    お前らの夢も!!
    お前の理想も!!」

(;'A`)「黙れぇぇぇぇ!!」

(;゙゚_ゞ゚)「お前は結局――」

一発の銃声が響き、オサムがドクオの目の前から一瞬で消えた。

(;'A`)「え」

それは、封鎖されていた扉の向こうから放たれた銃弾だった。
監視カメラでドクオの窮地を知ったのか、それとも事態が悪化したことを察したのかは分からない。
確実に言えるのは、ドクオの仇敵は全くの第三者によってその命を奪われたということ。
恐らくはオサムの死体は風にさらわれ、空に吸い込まれるようにして格納庫から消えたのだろう。

〔欒(0)ш(0)〕『同志ドクオ!! 無事ですか!!
        装置を起動しなおしますので、もう少しだけ耐えてください!!』

(;'A`)「あ、あぁ……」

あまりにも呆気のない幕引き。
望んでいた物とはまるで違う復讐の終わり。
両親を殺され、復讐を誓っていた男の夢の果て。
燃え尽きることさえも許されない、そして、満たされることのない終わりだった。

――緊急通信が入ったのは、そんな時だった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

Ammo for Rebalance!!編

: : : : : : : ; : : : : : /彡三ミx、`ヽ       __. `≧/Ⅵ: i : : : : : i: : : /
: : : : : : ::; : : : : :.; .{::::::::::::心.  ヽ    ,ィ ´_ニ 三 \.i: i : : : : : i彡´
: : : : :彡;: : : : : :;.込::_:_::歹        彡:::::心 ヽ .i: i : : : : : iミ、
>: ´: : ;: : : : : :;    ̄       ,    {:::::::::ゞ } i  i: i: : : : i: i: : : ミ: :三: 彡′
:彡´ノ: : : : : : : i           {   `ヾ:::歹 ノ  i: i : : : :i :i: : : : : : : /
  ./: : :i: : i : : i          /      `   ./j: i: : : : i j_: : : 彡´
./: : : :i : : : : ハ         _            ./ ; : i : : : :i; - ´
: : : : : : i: : i : :i.ム.       ' ´   `          /´}; : i: : : : :i 、
: : : : : : i: : :i : i: : \     :::::::          ./ /;: : : : : : :;: :三彡′
ー―彡.i: : :i : i: : :|. \             . :イ/ : ;: : : : : : /彡´

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

640名無しさん:2023/10/30(月) 19:23:33 ID:tOv5UUqs0
同日

“レオン”こと、ヒート・オロラ・レッドウィングにとって、巨大な建造物の中に潜入し、対象を抹殺するという行為は初めてではない。
むしろ、彼女が仕事として人を殺していた頃はそうした仕事がほとんどだった。
ホテルで殺すこともあれば自宅で殺すこともあったし、基地に逃げ込んだ男を追って殺したこともあった。
しかし大抵はヒートに狙われていると知ると、地下に作られたシェルターや警備員で固めた建物に立てこもった。

正面から行けば返り討ちに会うのは目に見えているため、ヒートは静かに侵入し、殺害していった。
復讐を果たすために身に着けた技能は今日まで彼女を生かし、そして、再び復讐を遂げるために役立っていた。
だがこの日は、これまでとは全ての事情が違う。

ノパ⊿゚)「どうだ?」

(∪´ω`)「誰もいないですお」

復讐の対象を殺すという目的は同じだが、子供を相棒にして行うのは初めてだった。
耳付きと呼ばれる、獣の身体能力と特徴を持つブーンの能力を使えば、確かに潜入は楽になる。
扉の向こう、曲がり角の先、あるいは背後や頭上に隠れていたり接近する人間の匂いや息遣いを正確に把握することができる。
五感の内棺桶が補助できるのは聴覚と視力だけであり、聴覚の強化は戦闘中の妨げとなるため、基本的には推奨されていない。

しかしながら、床が金属でできていれば跫音は必ず生まれるため、屋内戦において位置を知るためには重要な要素となる。
徹底的に改造を施したベレッタM93Rの銃腔には、銃声を抑えるためのサプレッサーが装着されていた。
同時にこの巨大航空機に乗り込んだオサムが後ろの方ですでに大騒ぎを始めているため、ヒートが己の存在を悟られないようにするのは自然な流れだった。
事前の打ち合わせがあったわけではないが、彼が陽動を引き受けたのは、ひょっとしたらブーンが彼女と一緒にいたからなのかもしれない。

デレシアに対して並々ならぬ感情を抱いているのは分かったが、ブーンに対して気遣えるだけの道徳心を持ち合わせていることが驚きだった。

ノパ⊿゚)「……」

だが確かに、殺し屋には妙な拘りを持つ人種が多いことも事実だった。
ヒートも多分に漏れず、その類だった。
彼女の場合、その拘りは殺し屋になった理由故のもの。
根底的な部分で言えばオサムとは違う人間だが、本質は同じだ。

人を殺し、その報酬を受け取ることに対して躊躇しないという部分。
例えそれが、殺しの対象に制約があるとしても、オサムとヒートは同じ穴の狢なのである。
彼女が握る拳銃から放たれた数多の銃弾は、あまりにも多くの命を奪ってきた。
男女の違いも、年齢の違いもなく、子供も老人も殺した。

その両手は血に染まり、頭まで血に浸かっている意識もある。
だが、彼女もオサムと同じく、これまでの行為に対して一切の後悔の念を抱いてはいない。
生まれる前の赤子を殺したことに対しても、ヒートは後悔していない。
本来持つべき道徳心は彼女の父と弟と共に、ヴィンスで粉々になっていた。

だからこそ、ブーンが警告を発するよりも先に出合い頭に遭遇した整備員の格好をした男を見ても、顔色一つ変えなかった。
機内の酸素が急激に低下しているため、各要所で防壁が展開しており、それを開く時の音はヒートの耳でも聞き取ることはできる。
銃身下部に取り付けられた鋭利な刃が男の喉を切り裂き、喉から噴き出した鮮血が男の服を赤黒く染め上げる。
群青色だったはずの作業服は瞬く間に濃い色に変わり、それとは対照的に男の顔から血の気が失せていく。

( 0"ゞ0)「こ……ひゅ……」

641名無しさん:2023/10/30(月) 19:23:54 ID:tOv5UUqs0
死にゆく男の口を押え、声を出せないようにして静かに殺しつつ周囲を睨めつけるその視線には、一切の余裕がない。
彼女が果たしてきた復讐の最後の標的が、今、同じ空間にいるのだ。
それは情報によるものではなく、直感によるものだった。
同じ血を持つ者同士だからこそ分かる、非科学的な確信。

間違いなく、彼女の母親であるクール・オロラ・レッドウィングがこの航空機の中にいる。
興奮を自覚しつつ、傍らにいるブーンを守らなければならないという使命感も抱いていた。
相反する二つの感情に挟まれながらも、ヒートは決して焦らなかった。

(∪´ω`)「ヒートさん、2人、来ますお……」

ノパ⊿゚)「分かった」

殺人を前にしても、ブーンは一切動じなかった。
彼が歩んできた人生を考えれば、この程度は動じる必要のない事だ。
だが、とヒートは思う。
これだけ小さな少年が人の死を前にして何も思わないというのは、あまりにも残酷なことだ。

時代が違えば。
或いは、生まれが違えば、ブーンはもっと別の人生を歩めたはずだ。
獣の体を持つが故に迫害され、差別されるような時代でなければ。
彼は――

ノパ⊿゚)「ちっ……!!」

( 0"ゞ0)「なっ……」

(::0::0::)「ぎっ……」

サンドバッグを思いきり殴ったような二発の銃声は男二人の命を奪い取り、その場に倒れ込ませた。
直後に警報装置が鳴り響いていなければ、その銃声は確実に別の誰かの耳に届いていただろう。
オサムの陽動と相まって、どうにかヒートたちの存在は機内で知れ渡らずに済んでいる。
仮にこの航空機にクールがいないとしても、これを墜落させるだけでも十分だ。

イルトリアへの侵攻がどのような動きになるのか、ヒートにはまるで予想がつかない。
断言できることの一つに、この航空機の存在の厄介さがある。
これだけ巨大な航空機を飛ばすとなると、必要になるエネルギーはただの発電機では賄えるはずがない。
間違いなくニューソクが使用されており、それがある以上、これは空飛ぶ爆弾でもある。

安全な場所で爆発させなければ、イルトリアは地図上から姿を消すことになる。
それを回避するには、この航空機の操縦室に乗り込み、安全な洋上へと誘導する必要がある。

ノパ⊿゚)「流石にそろそろばれるかな」

(∪´ω`)「……お」

オサムが陽動をしていても、その内ヒートたちが目撃され、報告されるだろう。
更には、この航空機内に隠しカメラがないとも限らない。
既に気づいていながら放置されている可能性もある。

642名無しさん:2023/10/30(月) 19:24:16 ID:tOv5UUqs0
(∪´ω`)「……」

通路を直進すれば最短で到着できるのだろうが、それはこちらにとって必ずしも利益を生むとは限らない。
二人は跫音を頼りに道を変え、決して焦ることなく着実に操縦室へと向かっていた。
時には手近な部屋に身を隠し、オサムを目指して進んで行く増援をやり過ごす。
もしもヒートが身軽な恰好をしていれば、もっと別の進み方があった。

しかし、彼女が背負う棺桶は棺桶との戦闘になった際、必ず必要になる。
あらゆる棺桶を敵視し、対抗するために設計された“レオン”は旅の途中で立ち寄ったラヴニカでその修復を終え、完全な状態にある。
この航空機に積まれている棺桶の種類を考えれば、レオン一機で十分に対抗は可能だ。
恐らくは自分一人であれば、そのまま標的を殺すために突き進んでいたことだろう。

だが今はブーンがいる。
ブーンの存在はヒートにとっての枷であり、安全装置であり、そして燃料でもあった。
自制するために必要不可欠であるのと同時に、彼の存在がヒートに復讐の炎を思い出させてくれるのだ。
彼によく似た、自分の弟。

母親に蔑まれ、女子の名を与えられた弟。
自分が愛した、マチルダという弟の事を――

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 AM11:49

   /,イ l   |/ |  /l /‐/ |   / /´| /‐-! l  l  ',  |、ヽ
  ノ' / |   !  ! / レニミ |   // ニニミ ∨|  |  |  | \!
   /  ィ l |  | lイ´んハ | //   んハ ヽ |  !  |  !
   / / | /! A !V! らし!i レ /'    トしj ! リ! l  ト、 ',
  ノ '   |ハ| |ハ ヘ ヽゞzツ       弋z少 //ハ  !| \
       N ヘヽ\::::::::    ,    :::::::: /イ / ハ ∧!
         \l ! ゝ            / /_イ リ
         ヽ|ヽ 、     r 、     /!//|/
            |ハヽ    `´   , ィ ル

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

異変を感じ取ったのは、ブーンが最初だった。
何かに気づいたかのように周囲を見渡し、すぐにヒートの足にしがみついた。
それは怯えの感情だった。
あまりにも唐突な変化に戸惑ったヒートだったが、その理由を、突如として光った空に見出した。

ノハ;゚⊿゚)「なん……」

思い当たったのは、ニューソクの爆発だった。

:;(∪;´ω`);:「お……」

ノパ⊿゚)「……大丈夫、大丈夫だよ」

643名無しさん:2023/10/30(月) 19:24:36 ID:tOv5UUqs0
怯えた表情のブーンを片手で抱き寄せ、その背中を優しく叩く。
数多くの死地を乗り越え、荒れ狂う海に放り投げられてもなお、デレシア達と旅を続けてきたブーンを怯えさせたのは果たして爆発だけが原因だったのだろうか。
人間よりも鋭いその感覚が、別の何かを捉えたのかもしれない。

(∪´ω`)「お……」

ノパー゚)「あたしが一緒なんだ、大丈夫だよ」

(∪*´ω`)「お」

彼の正確な年齢は、デレシアも知らないという。
ブーンはまだ誰かに頼り、依存したい年頃なのは十二分に分かる。
だが彼は、依存を良しとせず、自分の足で歩いていこうと生きている。
時には年相応に甘えてくることもあるが、一人の男として立ち上がろうとする姿は、見ていて気持ちのいい物だ。

この戦争がどう決着するのかはまるで予想がつかない。
言えるのは、ここでイルトリアが敗北すれば、ティンバーランドを止められる存在はこの世界から消えてなくなる。
世界を一つにするという夢は、言葉尻だけを捉えれば実に理想的な物だといえる。
しかしそれは、あまりにも多くの物を切り捨て、失う理想だ。

“耳付き”が生きることのできない世界など必要ない。
必要なのは、誰もが生きることのできる世界なのだ。

ノパ⊿゚)「よし、行こう」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:;;:;:;;:;:;:;;:;:;;:;::;::::;:;::;::;::;:;:;::::::::::::::::::::::::::::::::::.::.:.::......:..  .....:.:.
;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;:;:;;:;:;;:;;:;:;:;:;;:;::;:::;::;:;:;::;:;::;:::::::::::::::::::.::.::.:.:.::.:.:.:.....  .. ...:.:......::.:.:.:.:.:
                  第十六章
..:..:.:..:...:.:.:..:..:.:.:..:.:..:.:.:.:..:..:.::..:.:..:.:.:.:.:..:.:..:..:.:.:..:..:..:.:.:..:.:.:..:.:.:.:..:.:.:..:.:.:.:.:.:.:..:
  ..:.:.. .. . ...:.:.:..:... ..:.:.:... . .  ..  .:.:.:.:....   ....:.:.:.. ..:.::..:...  ....:..
...  ...     ...:.:.             .    ...   ....:.:.:.:.::..

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 同時刻

クール・オロラ・レッドウィングは腕を組み、画面に映し出される二人の姿を睨みつけていた。
既に監視カメラが捉えたその侵入者は、彼女の直感が告げていた通りだった。

川 ゚ -゚)「……」

忌々しい話だった。
自らの血を分けた子供が、親の夢を潰しに来る。
まるで自分が裏切るかのような感覚だ。
育て方をどこで間違えたのか。

間違えたのは産み落としたことなのは間違いないが、それに気づくまでの間の教育にミスはなかったはずだ。

从´_ゝ从「本当にあの二人を止めなくていいのですか?」

644名無しさん:2023/10/30(月) 19:26:31 ID:tOv5UUqs0
傍らでカメラを操作する部下が、心配そうに尋ねる。
クールは画面から目をそらさず、即答した。

川 ゚ -゚)「不要だ。 私が産んだ私の罪だ。
     私がこの手で処理する」

夫と人間の出来損ないは無事に処分したが、自ら手を下さなかったのが失敗だった。
本当であればヒートもその日に死ぬはずだったが、何かの手違いで生き延び、こうして牙をむいてきた。
外見は人間のそれだが、本質は獣だったということだ。
つまるところ、クールが産んでしまった子供というのは、どちらも人間ではなく獣だったのである。

どちらの血が獣の遺伝子を持っていたのかは分からないが、その遺伝子はここで絶たねばならない。
人間が獣を産むなど、あってはならないのだ。

川 ゚ -゚)「先ほどの閃光は?」

从´_ゝ从「不明です。 ですがストラットバームの方角です。
     恐らくはニューソクの爆発かと……」

川 ゚ -゚)「ハート・ロッカーか、あるいはストラットバームのニューソクが爆発したか。
     忌々しい話だな」

事実を淡々と受け入れつつ、クールは思考を巡らせた。
作戦開始から時間が経過しているとはいえ、この展開は早すぎる。
内通者の存在を疑うが、そうだとしたら逆に遅すぎる。
つまり、この事態を予想して備えていた集団がいるということだ。

川 ゚ -゚)「だが我々の歩みは止まらない。
     前に進むだけだ。
     世界を変える歩みは誰にも止められない」

ストラットバームを失ったとしても問題はないが、ハート・ロッカーが失われたとしたら作戦に支障が出る。
超長距離の砲撃を可能とするハート・ロッカーが破壊されれば、ジュスティアやイルトリアに対する優位性が若干だが損なわれてしまう。
だがしかし。
ハート・ロッカーの性能を世界に向けて知らしめた時点で、その脅威を排除しようとする存在の発生は予想されていた。

むしろ、そうした存在がハート・ロッカーに向かうように仕向け、敵戦力の分散が一つの目的でもあった。
最優先事項はイルトリアとジュスティアの陥落。
それが実現できれば、この世界を一つにすることは容易だ。
無傷で世界が変わるとは誰も思っていない。

多少の痛みと犠牲を覚悟しなければ、何かを得ることなど不可能なのだ。

从´_ゝ从「……同志クール、格納庫にいた侵入者を排除したとの報告です」

川 ゚ -゚)「時間がかかったな。
     だがまぁいい。
     後は2匹だけだ。
     情報の収集を忘れるな」

645名無しさん:2023/10/30(月) 19:26:52 ID:tOv5UUqs0
从´_ゝ从「了解です」

川 ゚ -゚)「……そろそろ出迎えてやるかな。
     発電室に誘導しておけ」

从´_ゝ从「進路はいかがしますか?」

川 ゚ -゚)「イルトリア上空を旋回していろ」

ゆっくりと立ち上がり、クールは己の罪を清算すべく歩き出そうとした、正にその時。
二度目の閃光が世界を灰色に塗り潰し始めた。
彼女にはそれが己を祝福する花火の様に見えたが、世界にとっては歓迎しがたい冬の到来を告げるものだった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
............... ..ヽ . ;: . / .⌒ _,,..__ ヽ  ) ;. :ノ......... .........
:::::::::::::::::::::::::::ゞ (.   (::.! l,;::) .ノ ノ ./::::::::::::::.......:::::
        ._ゝ,,. .-ー;''""~ ';;; - .._´,
       ._-" ,.-:''ー''l"~:|'''ーヾ  ヾ
      ::( ( .     |:  !     )  )
        ヾ、 ⌒〜'"|   |'⌒〜'"´ ノ
          ""'''ー-┤. :|--〜''""
              :|   |
              j   i
            ノ ,. , 、:, i,-、 ,..、
      _,,  ,. -/:ヽ::::::::ノ::::Λ::::ヽ::::-- 、ト、
,,/^ヽ,-''"::::\::::::/:::::|i/;;;;;;/::::;;;;ノ⌒ヽノ:::::::::ヽ,_Λ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

同日 PM00:05

二度目の閃光が視界の端に映った時、ブーンは怯えることはなかった。
徐々に世界が灰色に染まる中、思っていたのはこの先に待ち受ける者だった。
全身で感じる嫌な予感は、まだその正体が分からずにいる。
確実に言えるのは、あまりにも巨大な悪意を持った人間がいるということだ。

まるでその悪意に誘われるように、二人は入り組んだ通路を進む。
やがて、発電室と書かれた開けた部屋に入ったところで、ヒートが足を止めた。
部屋の中央にある、天井と床を貫くように設置された太い円柱状の物が淡い青白い光を放ち、いくつもの太いパイプがまるで血管のようにそこから床や天井に伸びている。
周囲に響くのは低く唸るような音。

漂うのは熱風。
長時間ここにいるのは健全ではないと、すぐに分かる空間だった。

ノパ⊿゚)「……ブーン、先に行ってろ」

ヒートの言葉はこれまでにないほど強い物だった。
そしてその言葉の意味を、ブーンは彼女よりも少し早い段階で理解していた。
機械音に混じって聞こえた、僅かな駆動音。
人の跫音、あるいは関節が軋むような音。

646名無しさん:2023/10/30(月) 19:27:12 ID:tOv5UUqs0
川[、:::|::,]『……気づいたか。
      流石は獣だ』

円柱の影から姿を現したのは、青黒い装甲の棺桶だった。
女性的な曲線を描くその棺桶は人間じみた姿をしている割には、生気を感じさせていなかった。
まるで空洞だ。
息遣いもない。

しかし、殺気だけは確実に感じ取ることが出来た。

ノパ⊿゚)「遠隔操作か。
    相変わらずの臆病者だな」

川[、:::|::,]『お前を殺すのに、私自ら姿をさらすまでもない。
     耳付きと同じ空間にいること自体、私には我慢ならない。
     いや、同じ空気を吸っていることもおぞましい』

ノパ⊿゚)「どこにいても、手前は絶対にぶっ殺す」

川[、:::|::,]『出来るものならやってみるがいいさ』

一瞬の事だった。
それまでいた場所から棺桶が姿を消したかと思うと、ヒートの前に現れていた。
ブーンの動体視力をもってしても追いつけない程の加速力。
しかし、ヒートの反応速度はそれを凌駕していた。

ノパ⊿゚)『あたしが欲しいのは愛か死か、それだけだ!!』

足は、自然と動いていた。
今は前に進む時。
その手が握る拳銃が何のためにあるのか、ブーンはよく理解していた。
姿勢を低くし、極限状態の前傾姿勢で一歩を踏み出す。

言葉を交わさずとも、両者の気持ちは寸分の違いなく通じ合っていた。

647名無しさん:2023/10/30(月) 19:27:32 ID:tOv5UUqs0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

第十六章 【 Love for Vendetta -復讐に捧げる愛-】

:: l   ∧     '.      /                ヾヘ         /     /
:: |     ヘ    '.    /}__               /::ト、         /     /
:: '.     ヘ    \,/ く:::::ヘ                  l:::::::/\     /     /
:: ::'.    ヘ    /   l::::::::|                 |::::::l  丶__/       /
:: :: l      ヘ    }     l::::::::|                 |::::::|     7         /
:: :: |    _,∧   !    l::::::::|l        i         |::::::l    /      ∨
:: :: |   __,\`  <ヘ    ∨:::|l        |        ノ::::::|  /≧x,. -─ァ/
:: :イ´ ̄::::::::::::7 、   ヘ   '、::{' 、      |      /:::::::/  /´ _ ィ´ ̄ f ー-- 、
/「:::::::::::::::::::::/  `丶 ヘ ___L '、\     |       ´7:/ ィ´ ,ィ ´  l     1::::::::::::::       
 }:::::::::::::::::::/   / ` r 、`ー \  \   !   / / 「_,. <::/    |     |:::::::::::::::
  、 ::::::::::::/    l    l::::::>   \  \,| / /   \::::::/   |     |:::::::::::::::
  }──1    |  _,}/ ____ 7 、    /`  ,  _`丶、    }     !::::::::::::::
  /::::::::::::|      } -‐ ヤ:::::\   ∨}、\/ ィf´  /:l:::7 ̄   /     |──-
 , ::::::::::::::!     l   」::::/::::::\__L、  ↓ ´ / _/::::::::V     ,′    l:::::::::::::::
 !:::::::::::::::|     }} / ∨:::::::::::::∧ \_| _/ /_}:::::::::::/  \ |       l:::::::::::::::
 l:::::::::::::/     ヘ     \:::::::/::::' .      /::::ヘ:::::::/       1     {:::::::::::::::
,_」::::::::::/         \    丶/:::::::::: 、 |  7::::::::::}/     _}      '、::::::::::::
 |:::::::::`丶、        \    ' 、:::::::::::} '丶/::::::::/     /        l::::::::::::
 l::::::::::::::::::::: 丶、    ∨     ∨:::::::::`T´::::/     /             |:::::::::::
 ':::::, -- 、::::::::::::\    ∨    ∨::::::::::|::/      /         ,.   ´:::::::::::
/::/   \::::::::::::∧   /丶、   ' .::::::/     /、      ,.  ´:::::::::::::::,. -‐

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

棺桶を収納するコンテナの頑強さは、収納される棺桶以上であることがほとんどだ。
使う人間を一度コンテナ内に取り込み、使用者の体に合わせて最適なフィッティングを行う以上、その間は完全に無防備になる。
量産機ほどそのフィッティングに時間を要するのは常識だが、使用者の登録数に制限のあるコンセプト・シリーズの場合は極めて短い時間で行えることがほとんどだ。
無論、その大きさや特徴によって装着時間は変動するが、ヒートの使用するレオンは3秒ほどで装着を完了させることができる。

起動コード入力直前に背を向けるのは棺桶持ちとしては無防備な姿を晒す時間を短縮するためであり、常識でもある。
正面切っての戦闘経験が乏しいであろうクールがそのことを知ってから知らずか攻撃を仕掛けてきたのは、あまりにも迂闊としか言えない。
コンテナで攻撃を受け止め、装着を終えたヒートが即座に距離を取って左手を地面について低い姿勢を取り、応戦体勢に入る。

ノハ<、:::|::,》『行くぞ、糞ババア!!』

脚部のローラーが低い唸りを上げ、内蔵されたモーターによって予備動作なしでの加速を実現させる。
加速に要する時間は、コンマ一秒にも満たないものだった。

川[、:::|::,]『やれるものならな』

一方、クールは中身が人間ではないことを逆手に取り、身体構造と本人の能力に頼らない動きでその場を離れる。
大きく地面を蹴り飛ばし、空中へと避難。
次いで、壁面に蜘蛛のように張り付いた。
恐らくその手足に強力な磁石が内蔵されており、それによって張り付くことが可能になっているのだろう。

648名無しさん:2023/10/30(月) 19:27:53 ID:tOv5UUqs0
だがヒートは一切速度を緩めず、壁に逃げたクールを追う。
狭い室内だとしても、レオンは近接戦を得意とする棺桶だ。
ましてや、その三次元的な戦い方を相手にするのは初めてではない。
あらゆる素材に張り付き、翻弄して戦うことに特化したコンセプト・シリーズの棺桶が世の中には存在する。

“ヴィンスの厄災”で相手をした“親愛なる隣人”の名を持つ用心棒の方が、遥かに厄介だった。

ノハ<、:::|::,》『逃がすかよ!!』

加速の勢いを利用してそのまま壁を登り、クールへと迫る。
ローラーが生み出す加速力があって初めて実現できる芸当は、幾度も実戦で使ったことのある技術だ。
戦闘における経験値の差が両者の間にあった。
この状況に追い込まれた生物は皆同じ行動を取ることを、ヒートは知っていた。

川[、:::|::,]『ちっ』

飛び降り、距離を取る。
安全圏だと思っていた場所への侵入は、即座に避難行動へとつながる。
予めそれが分かっていれば、次に取る行動に躊躇などない。

ノハ<、:::|::,》『知ってんだよ、そう来ることは!!』

壁を蹴り飛ばし、直線の軌道を描いてクールに向かって飛び掛かる。
中空での攻撃。
回避行動は不可能。
既に右腕の杭打機は起動が済み、視線の先にその狙いを定めていた。

川[、:::|::,]『……』

死を危惧せずに済む遠隔操作の棺桶。
それが生み出す精神的な隙は、戦いの中においては全てが致命的となる。
問題は、相手が本当にこの場に一人だけでいるかどうかだ。
ヒートの知る限り、目の前にいる女は狡猾かつ、臆病だ。

この空間にヒートたちをおびき寄せ、わざわざ声をかけてから襲撃を仕掛けたのは勝つ算段があるからだ。
つまり、これは罠。
考え得るのは増援。
そしてこの場所を選んだのは、お互いに飛び道具を封じるという目的。

遠隔操作の棺桶を使う上で危惧しているのがアンテナの破損だろう。
飛び道具が互いに使えなければ、そのアンテナを破壊される心配が減る。
ニューソクの威力をヒートが知っており、子供連れであることを考えれば、この場所で迂闊な戦いが出来ないという制約があるのは事実だ。
それを期待しているのであれば、なるほど、確かに理にかなった行動ではある。

〔欒(0)ш(0)〕『しっ……!!』

直下から静かに襲い掛かってきたキーボーイの殴打をヒートは難なく躱したが、そのせいでクールを狙った一撃を放ち損ねた。
着地し、即座にその場を離れる。

ノハ<、:::|::,》『だろうよ、お前は!!』

649名無しさん:2023/10/30(月) 19:28:20 ID:tOv5UUqs0
正々堂々とはかけ離れた性格の人間であれば、次に狙ってくる行動と罠が予期できる。
続々と現れたのは、5機のキーボーイ。
ヒートを取り囲むようにして位置取りながらも、手を出してこない。
警戒ではなく、別の意図があるのは明らかだ。

ノハ<、:::|::,》『……』

全員が手練。
それは、放つ雰囲気と佇まいが雄弁に物語っていた。
一人を殺したとしても、残った四人がヒートを殺すというだけの覚悟もある。
それぞれの得物を抜き、静かに眼前に構える姿に隙は伺えない。

目に見えているだけでこの数であれば、まだ他の伏兵を用意している可能性は十分にあった。

〔欒(0)ш(0)〕『同志、お待たせいたしました』

川[、:::|::,]『こいつはここで確実に殺す。
     害虫駆除に手を貸してくれ』

〔欒(0)ш(0)〕『承知』

ノハ<、:::|::,》『やれるもんならやってみな!!』

地面を蹴り飛ばし、かつローラーによる加速を得たヒートが最初に狙ったのはクールだった。
周囲を取り囲むキーボーイは驚異だが、断言できることが一つだけあった。
クールは、この空間にいる中で最弱であるということ。
複数を相手取る時、最も強い相手を最初に潰すというのが定石の一つにある。

しかしその定石には前提が一つある。
その強者に周囲が僅かでも依存しているということだ。
指揮官を失った弱者は慌てふためき、大きな隙を産む。
だがしかし、この場ではその定石は当てはまらない。

クールは弱く、そして庇護下にある存在だ。
いてもいなくても彼らの作戦に影響は出ない。
だからこそ、頭数を減らせるのならばそれが最善だ。
ヒートにとっての怨敵だが、所詮は遠隔操作の棺桶。

ここでそれを破壊しても、何一つ気持ちが救われることはないのである。
左手の鉤爪を大きく開き、一呼吸の間に一撃で掴む。
否、掴むはずだった。

〔欒(0)ш(0)〕『そいつは通さねぇ』

トンファーでヒートの一撃を防いだ男は、驕りを感じさせない静かな声でそう言った。

ノハ<、:::|::,》『いいや、押し通る!!』

ここで時間を割くわけにはいかない。
右手の杭打機を構える。

650名無しさん:2023/10/30(月) 19:28:41 ID:tOv5UUqs0
ノハ<、:::|::,》『っ……!! せぁあああああああああ!!』

だが杭打機は使わず、ヒートは左手だけで男を持ち上げ、ニューソクへと投げつけた。
咄嗟の事にトンファーを離し損ねた男は背中からそこに激突するかに思われたが、他の仲間に寸前のところで受け止められていた。
すかさずその場を後退すると、大振りのナイフと斧が数瞬前までヒートの首があった位置を通り過ぎる。
踵のローラーが予備動作なしでの加速、そして前後左右への自在な動きを補助するため、そう簡単にヒートを捉えることはできない。

近接戦に持ち込んだことが、期せずしてレオンの強みをより際立たせる事態へと発展していた。

ノハ<、:::|::,》『ふっ!』

スケートで氷上を滑るかのように素早く後退しつつ、短く息を吐き、再びクールを狙って直進する。
ここまで狙い続ければ、流石に相手もヒートの心境を理解して対応せざるを得ない。
先端が赤く塗装された手斧を振りかぶり、両者の間に一人が割り込む。

〔欒(0)ш(0)〕『させるか!!』

横薙ぎの一撃はヒートの進路を強制的に変更させるか、速度を低下させるための一撃だ。

ノハ<、:::|::,》『どけよ!!』

だがヒートは速度を落とさず、そのまま進む。
切っ先が触れる直前、ヒートは空中に避難し、速度を生かした強烈な飛び蹴りを相手の喉元に叩きこんだ。
軽量の棺桶ではあるが、加速を加えた飛び蹴りは砲弾のごとき威力を発揮する。
首の付け根に入ったつま先はそのまま男の首を乱暴に千切り、頭だけが飛んで行った。

それをクールが垂直に伸ばした足で地面に叩きつけ、踏み潰した。
そして肉片と金属片の混合物となったそれをヒート目掛けて蹴り飛ばす。
グロテスクなサッカーを思わせる光景だった。

ノハ<、:::|::,》『らぉい!!』

左手で弾き飛ばす。
その隙にクールは大きく後退し、二人の男が行く手を遮った。

〔欒(0)ш(0)〕『流石は殺し屋レオン……!!』

〔欒(0)ш(0)〕『だが!!』

二機のキーボーイがヒートの注意を引き付け、ヒートの背後から残った二機が迫っているのを、彼女は感覚で理解していた。
連撃に躊躇いも、ましてや時間差もない。
彼らは常に最善の道を選び、それを最短で行動する様に訓練を受けていることは明らかだ。
これまでに相手にしてきた兵士たちとは違う。

左手を地面に突き立てて軸にし、進路を直角に変更する。
高速で後退したまま、敵の動きを見極める。

ノハ<、:::|::,》『ちっ……!!』

651名無しさん:2023/10/30(月) 19:29:02 ID:tOv5UUqs0
そしてヒートが回避行動に移行したと同時に、彼らもほぼ同時に追撃してきていた。
防御と攻撃の切り替えが早い。
そこに好機を見出し、ヒートは進路を真逆に、即ち後退から前進に切り替えた。

〔欒(0)ш(0)〕『しまっ……』

ノハ<、:::|::,》『らぁっ!!』

杭打機が、短い咆哮を上げた。
心臓部を撃ち抜いた太い杭が男の悲鳴を奪い、命を一撃で奪い取った。
一瞬で死体と化した男の体を盾に、ヒートは反撃を開始する。

〔欒(0)ш(0)〕『そんなことをしても!!』

味方の死体に動揺するのは素人。
だがヒートの狙いはそんな些事ではない。
一瞬でも自分の姿を相手から隠せればそれでよかった。
杭打機がバッテリーを排莢し、二発目の攻撃に備える。

ノハ<、:::|::,》『どうかな!!』

死体を投げ飛ばし、その下を滑るように加速。
死角となる直下から、体全体を打ち上げるような一撃が男を襲った。
反応する間もなく放たれた杭打機の攻撃は下腹部から喉にかけて直線に突き進み、内臓器官を一気に損傷させて絶命へと導いた。

〔欒(0)ш(0)〕『そのまま潰れろ!!』

ヒートの背後から特殊警棒による大振りの一撃。
それは床に突き刺さる程の力で振り下ろされたが、ヒートの姿は既にそこにはいない。

ノハ<、:::|::,》『遠慮しとく!!』

左手が男の顔を掴み、大出力の高電圧が叩きこまれる。
それは機械だけでなく、人間の脳を焼き切り、沸騰させた。
軽量のキーボーイでなくとも、その一撃は死に至る威力を持っていた。
皮膚が露出している棺桶であれば、その一撃を防ぎきることは不可能だ。

残りは一人、否、クールを含めれば二人。
クールは依然として空間の隅に立ち、戦闘の経過を眺めている。
あまりにもそれが奇妙であり、ヒートは己の直感に従い、距離を取ることにした。

川[、:::|::,]『頃合いだな』

〔欒(0)ш(0)〕『えぇ、これで十分かと』

二人もまた、ヒートから距離を取る。

ノハ<、:::|::,》『……』

652名無しさん:2023/10/30(月) 19:29:23 ID:tOv5UUqs0
その理由は、すぐに理解できた。
この部屋にヒートを一定時間閉じ込めることこそが、彼らの狙いだったのだ。
だがそれは、彼女にとってどこまで影響のある罠なのかは、これから分かる。

ノハ<、:::|::,》『結局、手前はいつもそうなんだな』

川[、:::|::,]『……』

ノハ<、:::|::,》『殺すだ、駆除だと言っておきながら、手前は直接手を下さない。
      やることなすこと、全部卑怯なんだよ』

川[、:::|::,]『害虫を素手で殺す必要があるか?』

ノハ<、:::|::,》『そうだと分かるまで、素手で接していたくせに良く言うな』

川[、:::|::,]『私の人生の汚点だ。
      だが最大の汚点は、貴様らを産んでしまったことだ』

ノハ<、:::|::,》『そうかい』

川[、:::|::,]『しかしな、私は人間だ。
     ここでお前が餓死しようとも構わないが、この空間が汚されるのは我慢ならない。
     本来は手を出すまでもないが、害虫がいつまでも生きていると分かっているのは精神衛生上よくない。
     だから、今、引導を渡してやる』

それも恐らくは罠。
ヒートをこの場に釘付けにすることで、何かの作業が裏で進行しているはずだ。
時間が勝負の要となることを察したヒートは問答を止め、攻め込むことにした。

〔欒(0)ш(0)〕『ちっ!!』

クールを守ろうと前に出てきた最後の一人。
この場でクールの遠隔操作機を守る理由が基本的にない中で、男は咄嗟に反応した。
それが全てを物語っていた。
何か事を成そうとしているのはクールの棺桶だ。

そしてそれは時間を要するのと同時に、何かしらのリスクを負っている物だと推測できる。

ノハ<、:::|::,》『どきな!!』

両手を広げ、どちらの側から攻撃が来るのか予想をさせない。

〔欒(0)ш(0)〕『?!』

だがそんな構えは、あまりにも子供じみた構えであり、高い実力を持った者同士での殺し合いでは見ることはない。
いきなりそんな姿を見せられた男は僅かに呆気にとられ、そして、次に命を取られた。
左手の鋭い爪が深々と喉に突き刺さり、血液が噴水の様に噴き出す。

〔欒(0)ш(0)〕。゚ ・ ゚『げっ……はぁ……』

653名無しさん:2023/10/30(月) 19:29:44 ID:tOv5UUqs0
そしてその死体を越え、ヒートはクールの前に再び現れ、右腕の杭打機を構えた。

ノハ<、:::|::,》『次は逃がさねぇ!!』

川[、:::|::,]『……来い!!』

刹那の交差。
クールが選んだ退路は上空。
ヒートが狙った位置は上空。
空中という逃げ場のない空間に跳躍したクールの胸部を、杭打機が容赦なく撃ち抜く。

川[、:::|::,]『……はっ、馬鹿が』

黒い棺桶の装甲の隙間から、白いガスが噴出する。
反射的に杭打機から棺桶を投げ捨て、ヒートは溜息を吐いた。

ノハ<、:::|::,》『毒ガスか』

川[、:::|::,]『お前の棺桶に毒ガスが効かないことぐらい、知っている。
     獣を殺す時に使うものを知っているか?』

その言葉を後押しするかのように、レオンのバイザーに警告が表示される。

ノハ<、:::|::,》『二酸化炭素……!!』

排気システムが静かに稼働し、部屋の中の酸素が外部に向けて排出されていた。
部屋の酸素濃度は極めて低くなっていたが、顔を覆う形の棺桶を使用するヒートがその事態に気づくことは難しい。
そしてダメ押しにクールの棺桶から排出された大量の二酸化炭素が、部屋の酸素濃度を更に低下させ、遂にはレオンのセンサーがそれを感知するに至ったのだ。

川[、:::|::,]『我々と同じ空気を吸うことなく死ね』

ノハ<、:::|::,》『押し破れないとでも思ったのか?』

川[、:::|::,]『ニューソクを置く部屋の硬度は他のそれとは比べ物にならない。
     強化外骨格相手には比類なき強さだろうが、これは航空母艦だ。
     それにお前は、ニューソクを暴走させられないはずだ。
     あの糞忌々しい犬畜生がこの船に乗っていれば、お前は絶対に手出しできない。

     私がこういえば、お前は喜んで死ぬだろうさ。
     お前が抵抗しなければ、あの犬畜生は殺さないでやってもいい』

ノハ<、:::|::,》『……それは、本当なのか』

確かに、この航空機の装甲は棺桶のそれとは比較にならない。
厚みがあるだけでも杭打機は意味をなさない。
そして、ブーンがいる以上、自爆覚悟でニューソクに手を出すことは出来ない。
こちらの弱点を分かった上で罠を仕掛け、時間を稼いでいた理由の全てに納得がいった。

川[、:::|::,]『さぁな。 だがその可能性が生まれるには、お前が無抵抗で死ぬしかない』

654名無しさん:2023/10/30(月) 19:30:06 ID:tOv5UUqs0
ノハ<、:::|::,》『そうか』

ゆっくりと扉に向かって近づき、ヒートは右手の杭打機を振りかぶった。
そして、強烈な一撃を放つ。

川[、:::|::,]『……気が狂ったか』

ノハ<、:::|::,》『正気だよ、この上なくな』

クールの言葉で信じられることは、あまりにも限られていた。
耳付きを憎み、嫌悪し、この世界から存在を消したがっているという点は、疑いようもなく真実だ。
だが、だからこそその言動があまりにもちぐはぐで穴だらけなことが気にかかった。
ブーンとヒートが分かれて行動することを許したのは、ブーンを人質として確保しやすいからだろう。

互いの姿が見えない状態であれば、ブーンを捉えたという嘘も、彼を殺したという嘘も吐くことが出来る。
そしてヒートの実力を知るならば、この程度の棺桶持ちでは対処できないことも分かっているはずだ。
もしも本当に酸欠でヒートを殺すことができるのなら、黙って戦い続けるか、その目的を伝える必要はない。
何故なら彼女は耳付きを世界で誰よりも殺したがっており、ヒートもその対象になっているからだ。

無駄な慈悲などかける必要がない。
クールが饒舌だったのは時間稼ぎもあったが、ヒートが抵抗を諦めるようにすることが目的である可能性が高かった。
それはつまり、この空間から脱出することが可能だということ。
あたかも不可能であるかのように思わせ、労力を割くことなく安全に殺すことが目的だったのだ。

ノハ<、:::|::,》『この扉の向こうにいるんだよ、ブーンが。
      追いかけねぇとな』

川[、:::|::,]『無駄なことを。
     その扉を壊すことは――』

二度目の杭打機による攻撃は、扉を陥没させるだけの威力を見せたがそれ以上には至らない。
厚みと硬度が並外れている。
ニューソクへの被弾などを想定しての設計なのだろう。
砲弾以上の威力を持つ武器でなければ、十分な打撃を与えられないはずだ。

ノハ<、:::|::,》『そうみたいだな』

だが酸素が輩出できるということは、その先がある。
ヒートは十分に後退し、一気に加速した状態で壁を駆け上った。
天井に達し、重力に引かれて落下する直前、天井にある換気システムの網に左手の指をねじ込む。

ノハ<、:::|::,》『今から手前を殺しに行く』

ヒートはそう言い残し、換気用のダクトから内部へ侵攻を始めた。
六年前に始めた復讐の終わりを求めて、ただ、前を目指す。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板