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Ammo→Re!!のようです
383
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:39:10 ID:.jWT7Gas0
イ从゚ ー゚ノi、「あぁ。 じゃが、こちらの状況を伝えておく程度じゃ、すぐに済む。
一度外に出ないと電波が拾えんが、増幅器の類がないか探してみる。
ダメなら外で通信する」
ハハ ロ -ロ)ハ「分かっタ。 すぐに来イ」
二人はそこで分かれ、それぞれの行動に移った。
ギンが向かったのはエンジニア達が集まる一種の通信室だった。
脚部には常時数人のエンジニアが点検の為に巡回しているが、その部屋を中継地点にしているのはほぼ間違いない。
一網打尽にするのであれば部屋に集まっているところを狙えばいいし、巡回している人間は個別に殺せばいい。
跫音一つさせずに進むギンの姿は、正に暗闇を歩く一匹の黒猫の様に静かで優雅だった。
道中で見つけた部屋の扉を開き、僅かな隙間から中に侵入した。
逆手に構えた大振りのナイフが天井の明かりを反射し、光の尾を残してその場に居合わせた3人のエンジニア達を襲い始める。
ギンの姿を目視した唯一のエンジニアは、耳を境に頭部を上下に両断された。
(::0::0::)「にゃっ……」
そのまま手放されたナイフはギンに背を向けていた男の後頭部に突き刺さり、壁に縫い付ける。
最後の一人は物音に気付いてようやく振り返り、ギンの放った金的を食らい、そのまま天井に頭を打ち付けて即死した。
部屋の中にはDATが2台並び、画面にはハート・ロッカーの全身像が青色の線で表示されている。
そこに細かな数字が表示され、細かな制御が行われていることが分かる。
だが、恐れていた通りの事態が起きた。
目の前のモニターの脚部に赤い文字で警告文が出たのである。
そこには短く、生体情報喪失、とあった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「なるほどな」
侵入されることを想定し、それぞれの作業員に生体情報を発信する装置を付けていたのだ。
つまり、彼女たちがここに来ることを予期していた。
今は術中にあると言っても過言ではない。
DATを使ってハート・ロッカーの制御を狂わせようとしたが、直後にモニターが黒くなり、一切の操作を受け付けなくなった。
端末にナイフを突き立て、二台とも破壊する。
異常事態に対応するための処置としてか、ハート・ロッカーの移動が停止した。
これで僅かでも時間稼ぎが出来ればいいのだが。
イ从゚ ー゚ノi、「通信装置は上か」
死体の耳にはインカムがついている。
大きさから察するに、それは内部での通信用の物だった。
砲撃を担当する人間のいる場所に通信装置があるのは間違いない。
制御装置の類を壊したいところだったが、そのコントロール権は恐らく別の人間に譲渡されたはずだ。
DATを脚部に二台も用意できるだけの資金と備え、そして転用するための技術と知識を持つイーディン・S・ジョーンズがいればそれは自明の理。
味方への連絡手段を手に入れるには、上に行くしかない。
ギンは溜息を吐き、部屋を出た。
その時だった。
384
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:39:31 ID:.jWT7Gas0
鈍い金属音が空間全体に響き渡った。
地響きや無限軌道のそれとは異なる音。
優れた聴力を持つ彼女の耳が聞き取ったそれは、まるで呼吸のように思えた。
更に、その音に紛れて聞こえたのはハローの荒い息遣い。
急いで音の方に向かうと、そこには――
/◎ ) =| )
ハハ ロ -ロ)ハ「ぐっ……ぬ……!!」
――灰色の強化外骨格が、ハローの首を絞めようとしているところだった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「しっ!!」
強化外骨格の膂力と人間の膂力とでは、桁が違う。
ハローの腕がかろうじて相手の攻撃を封じていたのは、決して奇跡の類ではない。
二本の腕を使って首を絞めようとすると、体格差によってその可動域が限定される。
彼女が行ったのは相手の末端を狙うこと。
首を絞めようと伸びてきた両腕の中指を的確にとらえ、それ以上相手との距離が縮まらないようにしているのだ。
時間が経てば破れる状況だが、今は違う。
疾風のように駆けたギンは名も知らない強化外骨格、即ち棺桶の死角となる両者の間からその頭部を強襲したのである。
合金が仕込まれたブーツの踵が杭打機の様に正確に顎を捉え、大きく揺さぶった。
棺桶はカメラの関係で一部の例外を除き、人間の頭部は棺桶の頭部の位置にある。
故に急所として絶対的な位置を確立しており、生身で棺桶を相手にする時には真っ先に狙う場所だった。
そして、顎という末端を的確に狙い打った一撃は、その奥にある生身の脳を揺さぶるのに十分な威力を発揮したはずだ。
/◎ ) =| )『む……う……』
その場からハローが離れたのを確認する間もなく、ギンは不安定な地面を強く蹴り、相手の顎に対して追撃を加える。
脳震盪を誘発すれば時間を稼げる。
ここで無理に戦う必要はない。
/◎ ) =| )『なんてな!!』
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「なっ?!」
伸びてきた腕を辛うじて回避し、ギンは構えを取る。
大きさから分かるのはBクラス。
この狭い空間での戦闘は行えるが、決して利があるとは言えない。
問題となるのは、どうしてその巨体でハローを襲うことが出来たのか、という点だ。
ハハ ロ -ロ)ハ「気をつけロ!! そいつは――」
385
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:42:28 ID:.jWT7Gas0
――ギンはハローの言葉とほぼ同時に、その謎が理解できた。
相手の下半身がなく、まるで魔法の様に壁に張り付いていたのである。
恐らくは磁力を利用して金属に張り付き、移動する構造なのだろう。
それならば、配管の一部として擬態し、ハローを待ち伏せして襲うことが可能だ。
頭部に与えたダメージが効いていないのは、人体の構造を無視したその棺桶に秘密があるのは間違いない。
恐ろしいほど静かに、そして素早く二人から距離を取ったその棺桶は、両肘から蒸気を噴射し、構えを取る。
素人の構えだが、金属の塊が襲ってくると考えれば楽観視はできない。
しかも、壁を移動できるということは、天井も移動できるということ。
ハート・ロッカーの中は全て相手の道であり、そこに上下の制限はないのだ。
狭い空間で正面から襲われでもしたら、無傷では済まない。
ここで殺さなければ、後々の面倒になる。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「こいつの面倒は任せろ。
すぐに追いつく」
ハハ ロ -ロ)ハ「分かっタ」
ハローがその場から駆け出そうとした時、灰色の棺桶が動いた。
まるで蒸気の力を溜めていたかのように、一気に壁を移動してきたのである。
しかしあまりにも直線的な移動。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ワシが面倒を見ると言うたじゃろうに!!」
ギンは笑顔でそれを迎え撃つ。
構えから察していたが、棺桶の性能に頼った素人のそれだ。
恐れる必要があるのは棺桶の性能だけ。
考えなしに突っ込んでくる馬鹿の思考を恐れる必要はない。
武術を身に着けた馬鹿ならまだしも、そうでない馬鹿であれば、殺すのは容易い。
無論、疑念がないわけではない。
脳震盪不可避とも言える一撃を二度受けながらも、その動きにはまるで影響が見受けられない。
その点を踏まえ、ギンは間接的に人間に攻撃を加えるのではなく、直接的な攻撃に転じるしかないと判断していた。
使用できる武器も時間も限りがあるため、より短時間での決着が望まれる。
/◎ ) =| )『ラララアアアイイイ!!』
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ちぇいっ!!」
蒸気を噴出させて加速した巨椀がギンの体を捉え、頭部を水風船のように破裂させて即死させる。
一瞬、その幻像が相手のカメラには映ったことだろう。
ギンの使用する棺桶、“グランドイリュージョン”は先刻よりすでに相手のカメラに干渉し、幻像を見せていた。
真逆の方向に向かって攻撃を加えた相手の背後に飛び乗り、高周波振動ナイフを頚椎に突き立て、一気に首を切り落とした。
386
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:42:50 ID:.jWT7Gas0
だが、ギンは奇妙な手応えに眉を顰めた。
人間の首を切り落としたにしては、あまりにも軽い。
そして実際に、噴出するはずの血がないことがこれまでの疑念に答えを出した。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ちっ……!!」
コンマ数秒の逡巡。
そして、刹那の判断がなければギンは命を落としていたに違いない。
関節の可動域を無視して、背中に向けて伸びてきた二本の腕を避ける。
飛び退き、着地したギンが首の切断面に見たのは人間の両目だった。
(^J^)「ゲームオーバーかぁ……」
まだあどけなさの残る、少年と言っていい年頃の顔立ちをしている。
棺桶を使う時、その規格と体格が見合わないことがある。
体格が最低基準に満たない場合、それを補助するための器具があるが、それが使われることは非常に珍しい。
特に、成人男性よりも頭一つ分大きい程度のBクラスでそれを使うことなどまずない。
着地とほぼ同時に投擲したナイフに額を貫かれ、呆けた顔のまま死んだ少年に近寄る。
下半身が壁に張り付くには、当然、そこに下半身があってはならない。
考えられる可能性は、ただ一つ。
脳の一部が付着したナイフを抜き取り、それを使って魚を解体する様に手早く装甲を切り開く。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……なるほどのぅ」
そこにあったのは、四肢のない少年の体だった。
人体の構造を無視した動きも、その構造も、これで説明がつく。
最初から四肢がなければ、人体の制約に囚われない動きが出来る。
棺桶の復元においても、下半身が失われた物を利用できるという大きなメリットがある。
デメリットは、生身よりも繊細さに欠けた動きになるという点ぐらいな物だろう。
無論、通常以上に使用者の力量に左右されるという点については言うまでもない。
この一機だけがハート・ロッカーに配備されているとは考えにくい。
各要所の防御と整備の補助が目的だろうか。
いずれにしても、狭い空間で動きに制約を受けにくい設計をしている棺桶は厄介だ。
例えその技量が糞の様なものだとしても、逃げ場が制限されてしまう以上は、環境が向こうの味方をしてしまう。
残り何体いるのか、それが気になるところだが、まずは目的の達成が最優先。
こちらに向かっているであろう増援に対して警告をしなければ、余計な犠牲と手間を生み、そして時間を失うことになる。
ハローの後を追い、ギンは外の空間へと急いだ。
道中、不運なことに出会ったエンジニアを撫でるように殺し、ほどなくしてハート・ロッカーの外に通じる扉を開くことが出来た。
目に飛び込んできたのは、荒野。
澄んだ青空、そして純白の入道雲。
387
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:43:24 ID:.jWT7Gas0
押し開いた気密扉の向こうは、信じられないぐらいに澄み切った夏の空気と空が広がり、一瞬の間戦争を忘れさせるほどの物だった。
無限軌道の頂上部、胴体との接合部は平面な空間が広がっている。
胴体の正面を除いてハート・ロッカーを覆うような形の空間の端には、整備中の転落防止のためか柵が設けられていた。
見渡しても、ハローの姿はなかった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「もう行ったのか…… いや、違うか」
それにしては早すぎる。
風の音に混じった彼女の音を探る。
ハハ ロ -ロ)ハ「らあっ!!」
金属が砕ける音とハローの雄叫び。
それは、ギンの頭上から聞こえてきた。
音の方を見ずに、ギンはその場から跳躍して離れた。
目の前に何かを抱いて落下してきたハローは、流れるような受け身をとって落下のダメージを軽減。
高さのダメージを一身に受け、装甲に半ばまで埋まっているのはやはり下半身のない棺桶だった。
より正確に言えば、両腕も失った棺桶だ。
(十)『ぎ……ギ……!!』
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「さっきの奴な、四肢のないガキじゃった」
ハハ ロ -ロ)ハ「こいつは小人症ダ。
胴体に入ろうとしたら襲ってきタ。
やっぱり金属部分に張り付いていやがっタ」
共通点は体の小ささだ。
狭い空間内での戦闘を有利に進めるためには、どうしても体格がネックになることがある。
規格外の体型をしている人間は、そうした場所でも戦うことが出来る。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ということは、各所にこいつらがいるということか。
面倒じゃな、正直」
ハハ ロ -ロ)ハ「今の内に通信をして、作戦を進めロ。
このクソガキは私が処分すル」
(十)『だ……く……キ……だ……!!』
息も絶え絶えに紡がれたその言葉を、ハローは最後まで聞くことは無かった。
元より四肢がなく、その上両腕を切断された強化外骨格など、恐れることは無い。
乱暴に引きずりながら、二人はどこかへと消えた。
尋問と掃除をハローに委ね、ギンは無線機を起動した。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「本部、聞こえるか? こちら火狐0」
388
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:43:49 ID:.jWT7Gas0
『こちら本部。 火狐0どうぞ』
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ハート・ロッカーはニューソクで動いておる。
それを爆破して無効化する故、友軍へは別の指示を」
『本部了解。 すでにそちらに向かっている部隊がいるため、指示を出す』
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ワシの部下にも同様に指示を頼む」
『了解』
これが生涯最後の通信になるとしても、両者ともに感情を出すことは無い。
任務が始まった時から、いつ命が失われても不思議ではないことは覚悟の上だ。
イルトリアの前市長が率いた“ビースト”の一人だとしても、それは例外ではない。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「よし」
ハハ ロ -ロ)ハ「こっちも終わっタ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「早いな。 どうやって捨てた?」
ハハ ロ -ロ)ハ「関節部に頭から詰めておいタ。
ハート・ロッカーが動けば潰れるようにしたから、少しは時間稼ぎが出来ル」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ははっ、流石じゃな。
さぁて、山登りを始めようかの」
ハハ ロ -ロ)ハ「どっちかと言えば、墓穴を掘る作業だがナ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「確かにそうじゃな。 ここがワシらの墓になるんなら、もう少し豪華にしてやろうか。
いや、棺桶といったほうがいいのか」
ハハ ロ -ロ)ハ「お前と一緒に死ぬだけならまだしも、同じ棺桶に入るなんて思ってもみなかっタ。
……だが悪い気はしなイ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「あぁ、悪くないな。 さぁ、ワシらの葬式を始めるかの。
ド派手な奴をな」
二人はかつて意図せずに行った共同作戦の日に一瞬だけ思いを馳せたが、それはコンマ数秒の事。
任務を遂行するため、二人は先を急いだ。
389
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:45:21 ID:.jWT7Gas0
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同日 AM11:45
高高度を飛ぶヘリコプターに通信が入ってきた時、すでにニョルロックが目前に迫っていた。
ミ,,゚Д゚彡『予定変更だ』
それは、イルトリア市長、フサギコ・エクスプローラーの声だった。
背後からは爆発音や発砲音が聞こえており、イルトリアでも戦闘が始まったことを如実に物語っている。
答えたのはトラギコ・マウンテンライトだった。
(=゚д゚)「だろうな。 で、どんな変更ラギ?」
作戦が全て予定通りに進むことは無い。
刑事としての実戦経験が多い彼にとって、予定の変更は逆に予定通りとも言える。
ミ,,゚Д゚彡『ハート・ロッカーは既に起動し、ジュスティアに砲撃をしている。
破壊工作として取れる手段がニューソクの破壊に伴う爆破になった。
トラギコ、お前はジュスティアで支援をしてほしい。
やつらの拠点についてだが、心配ないとのことだ』
トラギコの任務、もとい、役割はハート・ロッカーの無力化だった。
事前に潜入している人間は、イルトリアとジュスティアを代表する工作員。
“茶会事件”の当事者同士ということもあって、その力量は計り知れない。
しかし、ハート・ロッカーの起動と砲撃は彼女たちの任務が予定外の形で動いてしまっていることを物語っている。
そしてイルトリアの市長が当初の予定と違ってジュスティアに戦力を割くことを指示するのは、更に予定外の事が起きていることを意味している。
つまり、ジュスティアに何かが起きたのだ。
彼にとってジュスティアは故郷であり、彼の守るべき場所の一つでもある。
390
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:45:44 ID:.jWT7Gas0
(=゚д゚)「……分かったラギ。
ジュスティアの現状は分かるラギか?」
ミ,,゚Д゚彡『正直に言うと、非常にまずい。
戦艦とハート・ロッカーの砲撃で被害がかなり出て、上陸して攻め込まれるのは時間の問題だ。
ピースメーカーは砲撃を受けて崩落、別の場所では円卓十二騎士が一人死んだ。
第一騎士だと聞いている』
円卓十二騎士の第一騎士、シラネーヨ・ステファノメーベルは紛れもなく実力者であり、歴戦の猛者だ。
最古参でありながらその力量は衰えを知らず、ある種の伝説と言ってもいい次元にいた存在。
その彼が、死んだということはにわかには信じがたいが、受け入れなければならない現実だ。
敵の備えは、こちらが想像している以上の物なのだと再認識しなければならない。
トラギコが最も驚いたのは、ピースメーカーの崩落だった。
スリーピースと同様にジュスティアを象徴する物であり、それが崩落することの街全体への影響は計り知れない。
(;=゚д゚)「市長は?」
市長であるフォックス・ジャラン・スリウァヤは、その執務室をピースメーカーに設けている。
彼が耄碌しない限り、この状況下でも執務室にいたはずだ。
ミ,,゚Д゚彡『ピースメーカーにいたことは確認されているが、その後は分からない。
だがあいつは保険をいくつかかけていた。
その保険の一つが、お前だ。
民間人の避難を完了させる為に、働いてほしいそうだ』
(=゚д゚)「スリーピースがある以上、避難はそう簡単に行かないラギよ。
ありゃあ檻みたいなものでもあるラギ」
外部からの攻撃、侵略に対して有効なスリーピースではあるが、内側から外に出る道は限りがある。
早期段階での市民の避難が行われていれば別だが、ジュスティア地下に存在するシェルターに避難させるのがこうした場合のセオリーだ。
逃げ出した市民を狙われるのを避けるのが目的だが、何より、それによって開いた出口から敵が侵入してこないとも限らない。
避難民に扮した敵の内通者がいれば、その出入り口を開いた状態にされることも考えられる。
ミ,,゚Д゚彡『普通はそうだ。 だが言った通り、保険がある。
一度に避難できる人数には上限があるから、それを何度実行できるかが問題だ』
(=゚д゚)「保険? 俺以外にも保険があるラギか?」
ミ,,゚Д゚彡『あいつが用意した保険は複数ある。
世界最長の街がその一つだ』
世界最長の街。
それはつまり――
(=゚д゚)「エライジャクレイグ……?!」
鉄道都市であり、世界最長の都市でもあるエライジャクレイグ。
スノー・ピアサーを始め、テ・ジヴェなどの多くの列車を持つ街だ。
確かに内藤財団の介入を受けていない街の一つだが、この状況下で手を貸してくれるというのは驚きだ。
391
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:47:15 ID:.jWT7Gas0
ミ,,゚Д゚彡『地下鉄を使って、可能な限り乗せて移動させるそうだ。
だが奴が危惧しているのは、別件だ。
内部からの突破、それを恐れていた。
だからトラギコ、内外に精通したお前が必要なんだそうだ』
(=゚д゚)「まぁ、俺は大丈夫ラギ。
でも、そうするとデレシアは?」
もう一人の乗客であるデレシアを見て、トラギコは言った。
話を振られた本人はまるで表情も態度も変えず、トラギコの視線に対して笑みと共に答えた。
ζ(゚ー゚*ζ「私はニョルロックで降りるわ。
適当な移動手段を見繕って、それから目的地に向かうだけだから」
恐らく、トラギコが初めて見た時と同じ服装。
カーキ色のローブ――腕を通す穴とフードが付いた特殊な物――と、通気口の付いたデザートブーツ。
豊作を確信する程の黄金色を思わせる金髪の下にある、空色の瞳。
化粧を一切必要とせず、その生のままで圧倒的な美貌を保有している。
しかし、もしも幾度も命のやり取りをしたことのある者であれば、その全身が醸し出す恐るべき気配に気づけるはずだ。
近づけば命がない、という確信。
白熱化した鉄、轟く雷鳴、荒れ狂う嵐の海。
それこそが、トラギコの持つデレシアという女に対する印象だった。
(=゚д゚)「ってことで、こっちは問題ないラギ」
ミ,,゚Д゚彡『負担をかけるがが、よろしく頼む』
直後、ヘリが機首を下に向けて一気に降下を始めた。
(=゚д゚)「そっちは大丈夫ラギ゙か?」
ジュスティアが苦戦している今、イルトリアが無事である保証はない。
世界最強の軍隊を保有していると自負していても、圧倒的な物量を前にしては無傷ではないだろう。
ミ,,゚Д゚彡『あぁ、こっちは気にするな。
だが、砲撃がこっちに向けられると困る。
これ以上奴らを勢い付かせたくない』
フサギコの懸念も現状も、今の一言で十分にトラギコに伝わった。
苦戦をしてはいないが、楽な戦いをしているわけでもないのだろう。
敵にとっての安全圏内から致命的な攻撃を仕掛けてくる相手など、厄介以外の何物でもない。
長引かせればそれだけこちらが不利になる。
(=゚д゚)「まぁ、ジュスティアは俺に任せてくれていいラギ」
ミ,,゚Д゚彡『フォックスの事は気にせず、思い切りやれ。
あいつなら大丈夫だ』
392
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:48:37 ID:.jWT7Gas0
その言葉は慰めの類ではなく、まるで、目の前にある事実を述べているかのように自信と確信に満ちていた。
しかし、例えフォックスが優れた人間だとしても、生身で物理的な打撃による致命傷を克服できることはない。
他にも落下による衝撃など、自然の摂理に反することは誰にでも無理なのだ。
(=゚д゚)「ピースメーカーが崩落したんだったら、流石に楽観視は出来ないラギよ」
ミ,,゚Д゚彡『それでも、だ。
なぁに、俺を信じろよ。
あいつのことはお前よりもよく知ってるんだ。
さて、ここから最短でジュスティアに向かうには、どうしてもクラフト山脈を越える必要がある。
燃料を少しでも節約するために、低空飛行に切り替えることになるが、敵の攻撃が予想される。
どうにかしてくれ』
高高度を飛ぶためには、どうしても推進力である燃料が必要になる。
ローターで飛ぶためには空気が必要であり、高度が上昇するにつれてそれは薄くなってしまう。
その為、ある一定の段階でヘリは上昇することが出来なくなってしまうのだ。
先ほどまで飛行していたのは、積載した燃料を燃やして推進力を得ていたにすぎない。
クラフト山脈を越えるためには燃料が不可欠。
敵が対空部隊を用意していたとしたら、かなり嫌な状況になる。
(=゚д゚)「予想されるっていうか、もう確定しているんじゃないのか?」
ミ,,゚Д゚彡『まぁな。 偵察部隊からの報告で、ニョルロック周辺に攻撃ヘリが複数確認されている。
ライフルは持ってるだろう? それでどうにかしてくれ』
(=゚д゚)「それ以外の選択肢がないんだったら、そうするラギ」
手元にあるライフルならばヘリを落とせるが、そのためにはかなりの技量が必要になる。
果たして揺れるヘリの中から当てられるだろうか。
その問題に目を瞑れば、問題はないと言ってもいい。
ミ,,゚Д゚彡『ははっ、上出来だ』
頼もしく笑ったフサギコの声に、トラギコもつられて薄く笑った。
状況は良くはないが、悪くもない。
戦争は始まったばかりなのだ。
ミ,,゚Д゚彡『……それと、デレシア。
ブーン達は無事に奴らの航空機に乗り込んだ。
そこから先は分からん。
何せ連絡をくれたのは、あー、なんだ』
それまで一度も言い淀むことのないフサギコだったが、僅かに躊躇いの様な間を挟んだ後、続けた。
ミ,,゚Д゚彡『……ディ、からなんだ』
393
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:50:20 ID:.jWT7Gas0
その名前を、トラギコは知っていた。
デレシア達が使用しているバイクの名前だ。
バイクが報告をする、という非常識な話が出れば、誰だって戸惑う。
ζ(゚ー゚*ζ「あら、あの子も粋なことするわね。
ってことは、別行動になったのね」
ミ,,゚Д゚彡『あぁ、ディは今ウチの戦艦に収容されてる。
自分で最寄りの船に連絡して、自分で色々とした。
流石に船長もびっくりしてたよ。
あいつ、相当賢いな』
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、とっても賢いの」
話の次元が違うことは間違いない。
機体内のランプが緑色に点灯し、酸素マスクを外してもいいという合図が出る。
機内の二人はマスクを外し、溜息を吐く。
(=゚д゚)「……そろそろじゃないのか、デレシア?」
体を機体に固定していたベルトを外し、扉を開く。
ζ(゚ー゚*ζ「そうね。 私はこの辺りで降りるわ。
それじゃあね、刑事さん」
そう言って、いつの間にかパラシュートを背負っていたデレシアはヘリコプターから一切躊躇うことなく飛び降りた。
眼下に広がるのはニョルロックの街並み。
背の高いビル群の間から湧き上がる様にして、人々の興奮が伝わってくる。
まるで祝祭。
世界経済の中心とも言えるニョルロックは内藤財団系列の企業がひしめき、その恩恵にあずかっている人間は数知れない。
街全体が今回の戦争を祝福し、肯定しているのは不気味ですらある。
普段は戦いと無縁の人間達が争いを肯定し、そして、支援する。
やがてそれは義憤にも似た感情を生み出し、戦いに身を投じる人間の数を増やすことだろう。
人を動かす最も簡単な方法は、感情を揺さぶることだ。
長い時間をかけて内藤財団の言葉に力を持たせた結果がこれだ。
もしもこれが、新興宗教が突然言い出したのであれば、誰も耳を傾けないだろう。
仮に十字教だとしてもその影響力は気にするほどでは無い。
だが、生活の中に入り込み、多くの慈善事業をしてきた企業の一言がもたらす力は絶大だ。
全てはこの日の為に準備されてきたのだと、ニョルロックの平穏な空気を感じ取って痛感する。
しかし、その祝祭ムードが間もなく終わることになる。
相手はデレシア。
破滅と破壊、絶望と崩壊をもたらすでたらめな存在だ。
すでに彼女の姿は街の中に消え、トラギコを乗せたヘリはジュスティアに向けて転進する。
(::0::0::)『……マジか』
394
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:50:42 ID:.jWT7Gas0
ヘリの操縦士の間の抜けたような声が、トラギコの耳に入ってきた。
しかし、それとほぼ同時にトラギコも同じような気持ちを抱いて視線を別の方に向けていた。
視界の端に映ったその非常識な光景は、ティンカーベルで見たことがある。
天に昇る火柱、地面から生えてきたマグマの血が通う石柱のような姿。
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...ノ'" .,.. -''',゙..r''“゙゙“´ i| i |i `'''ー、、
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 ̄ ゙゙゙゙゙゙゙゙゙̄ '''''゙゙“'' i| |i .、 ヽ \
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同日 AM11:48
それは、ニューソクが爆発した時に見せる恐るべき光景に相違なかった。
その光景に一喜一憂する余裕はなかった。
直後に響いた警告音とヘリの急加速。
(::0::0::)『悪いな、刑事さん。
お客さんを出迎えてくれ』
(=゚д゚)「おっしゃ!!」
395
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:51:10 ID:.jWT7Gas0
ここまで来たら、大企業が相手であろうとも善良な市民であろうとも、戦うしかない。
自身の体とヘリをつなぐワイヤーの接続を今一度確認し、扉から体を半分だけ出す。
眼下のビルから飛び立ったのは、実に20機もの攻撃ヘリ。
飛び立ったのが高層ビルの屋上ということもあり、追いつかれるのはそう遅くない。
こうなることを予期していたのか、それとも保険だったのか。
ハート・ロッカーに向かうこのヘリの存在が報告され、それに備えたと考えるのがいいだろう。
(;=゚д゚)「って、多すぎラギ!!」
(::0::0::)『悪いが、このヘリに武器は積んでない。
持ってきたのでどうにかしてくれ』
(;=゚д゚)「ちいっ、とりあえずジュスティアまで急いでくれラギ!!」
(::0::0::)『あぁ、ジェットを使って急ぐ。
だが、それはクラフト山脈を越えてからだ。
ジェットの付いてないやつらのヘリじゃ、クラフト山脈は越えられないはずだ。
任せた』
マスターキーの付いたH&KG36A2を肩付に構え、トラギコは息を吐いた。
本来は屋内での戦闘を予定していただけに、弾倉の数は十分とは言えない。
だが威力はBクラスの棺桶を想定した弾であるために十分だ。
(=゚д゚)「……へっ、俺の勘は当たってたラギね」
オセアンから始まり、そして気が付けば世界中を巻き込んだ戦争。
事件を一目見た時に感じたその直感は、間違いなく正しかった。
トラギコの刑事人生をこれで終わりにしてもいいと思える、大きな仕事。
彼の持つ夢。
誰にも教えたことのない夢が、叶うかもしれない。
今世界で起きていることを、ビロード・フラナガンが聞いたらどう思うだろうか。
今世界で起きていることを、ドクオ・マーシィが見たらどう思うだろうか。
今世界で起きていることを、ラブラドール・セントジョーンズが知ったらどう思うだろうか。
トラギコは誰にも見せたことのない笑顔で、心の底から楽しそうに叫んだ。
(=゚д゚)「やっぱり、これが俺の天職ラギね!!」
銃爪を引き、トラギコの人生において最初で最後の空中戦が幕を開けたのであった。
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第十一章 【 Ammo for Rebalance part8 -世界を変える銃弾 part8-】 了
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396
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 19:51:45 ID:.jWT7Gas0
これにて今回の投下は終了です
相変わらずVIPでのスレ立てが規制されているので残念です……
質問、指摘、感想等あれば幸いです
397
:
名無しさん
:2022/10/10(月) 20:44:11 ID:HjSrQ6ek0
おつ
398
:
名無しさん
:2022/10/12(水) 20:15:08 ID:TqBDzvQw0
乙
この花屋さんの生け花は遠慮したいですね…
いやーホントにディさん優秀ですね。出来ない事がないんじゃないっかてぐらい
最後のシーンでトラギコが思い返してる人たちは夢鳥花虎の人達だよね。こういう作品間の繋がりがあるってやっぱいいよね!
>>377
戦いが無駄ではなかったことが報われたのだと
ここなんだか言い回しが気になっちゃって、無駄ではなかったと報われたのだと
の方がいいような気がするけど、そのままでよかったのならすみません…
>>378
ヘリカルはその中で頭部を何度も頭を打ち付けて
ここ頭部と頭が意味が被っちゃってるから片方だけでいいんじゃないかな?
399
:
名無しさん
:2022/10/12(水) 21:44:36 ID:t3m.hXxY0
乙
色々ありすぎてこの戦争の結末がどうなるかわかんねえな…
個人的にはデレシアとヒート・ブーンの動向が気になる
400
:
名無しさん
:2022/10/13(木) 19:27:01 ID:X1P2xk/.0
>>398
うはぁ……ご指摘いただいた通りです……!!
毎回本当にありがとうございます!
401
:
名無しさん
:2022/10/16(日) 14:42:16 ID:1aexbhPw0
おつ!
目まぐるしいな
棺桶とかの兵器戦闘が主だったからそれに頼らないニダーの強さがかっこいいわ
そしてアサピー有能すぎる
402
:
名無しさん
:2022/12/02(金) 20:22:32 ID:l1uQgmjk0
長らくお待たせいたしました。
VIPでのスレ立てが引き続き規制されているので、場合によってはこちらで日曜日にお会いしましょう。
403
:
名無しさん
:2022/12/03(土) 09:29:26 ID:RCoxUfBs0
ひゃっほーう
404
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:44:00 ID:/v63KFhk0
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人の中に愛を見つけた者がいると聞いた。
だが私は見つけられなかった。
神の中に愛を見た者がいると聞いた。
だが私は見つけられなかった。
私は、愛を見つけたいだけなのだ。
理解してくれるのは、きっと、神だけなのだろう。
――ある神父の手記より抜粋
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十字教の聖地、セントラス。
静謐かつ荘厳な空気の漂うその街で銃声が響くのは、極めて珍しい事だった。
しかしそれ以上に珍しいのは、セントラス内で戦闘が起きていることだった。
街を守るための“クルセイダー”は遠征しており、外敵との戦闘は銃を手に戦うことを決めた一般市民たちだった。
彼らの信仰する十字教の教えに反する行為だったが、それを破ってでも戦わなければと覚悟を決めたのだ。
だが現実は非情で、奇跡が起こることもなく、一人またひとりと銃弾に倒れていった。
セントラスを攻め落とす為に現れたのは、彼らがこの世界の地図上から消そうとしているストーンウォールの精鋭たち。
戦闘経験も覚悟も段違いだったが、何より、加護と奇跡を信じていないのが大きな差だった。
銃弾の恐ろしさを知るストーンウォールの人間は自らの安全を確保した上で射撃し、英雄的行動などはとらずに淡々と攻撃を加えた。
街の防御はお世辞にも万全とは言えなかった。
特に、外敵からの攻撃に対する防御手段が何もないのは致命的だった。
壁か、あるいは簡易的な地雷原でもあれば展開は違ったことだろう。
多数の車輌を止めるだけの手段がないセントラスは、ストーンウォールの部隊を発見してから僅か3分で侵攻を許してしまった。
街の法律上、路上駐車の存在がなかったことにより、まるで山から流れ込む川の水のように、武装した人間がセントラスの大地を進んで行く。
機動力を生かした電撃戦は、平和に慣れ、自衛手段が手元にないセントラスに対して極めて有効だった。
やがて、川の行き着く先が海であるかのように、ストーンウォールの大部隊はセントラスの中心に集まっていた。
――即ち、大聖堂“ノーザンライツ”。
そこが、セントラスとストーンウォールの戦いの終着点となった。
405
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:44:21 ID:/v63KFhk0
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illllllllllllllllllllllliiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii_:| γ ⌒ヽ
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TIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII了 l⌒ll⌒ll⌒l|
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ラヴニカで起きている戦闘は、依然としてその激しさを増すばかりだった。
初撃の混乱は既に収まりを見せ、ゲリラ戦の有利を失ったラヴニカの人間達は地の利と武器の質を頼りに戦っている。
使用される多くの武器が大量生産されていない物ばかりで、棺桶に至っては初めて起動する類の物も混じっていた。
複雑に入り組み、高低差のある街の構造を知るだけでも彼らにはかなりの利がある。
内藤財団の支援を受けている弱小ギルドも参戦していたが、ラヴニカの意思と反する存在はあらかじめマークされており、早々に殲滅されていた。
彼らの決起は組織立っており、尚且つ計画的だった。
世界規模で起きた同時多発的な内藤財団の戦闘行動の利点は、その突発性だ。
その突発的にも思える攻撃に対し、出鼻を挫くことが出来たのは世界でもイルトリア、ジュスティア、そしてこのラヴニカだけである。
蜂の巣をつついたような反応。
そして祝祭の様な熱狂。
街中に散らばる約8000人の敵勢力に対し、街がほとんど総出で対応すれば、これまでラヴニカで開かれたどんな祭りよりも盛り上がることは必至だった。
素人の8000人ならば即座に降伏する程の抵抗だったが、それぞれが古強者の戦闘員で構成された部隊。
地の利と数の不利を負いながらも、彼らは一歩も引かずに街中で戦闘を繰り広げていた。
極めて小さな探し物。
たったそれだけの為に、ラヴニカは戦場と化していた。
消耗戦が予期されたが、それは長くは続かなかった。
――“灯内戦”の最終局面は、文字通り炎と共に幕を開けた。
拮抗状態が崩れたのは、街に火が放たれてからだった。
406
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:44:44 ID:/v63KFhk0
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____..! l l リ ,ト | l |しイ {
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 ̄i |;;;;;/ ヘ_! ...l .!. +.そ l゙ .l゙ l.l / レi
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;:;:;:;:;ii || ii |;:;:;:;; ̄ .| `.|i.、 ,..|;:;:;:;:;.`Y |..____________ | //// ノ
 ̄`i`i ̄ ̄ ̄i`i ̄ ̄i''/i.,ノ)i| ̄ii ̄i ̄|.| 人 TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT| ̄ii ̄i ̄`i
_二.|..|..二.. ,..|..|二 `Y´( i/ ̄'.  ̄'l.,/ く、  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄.ヽ、 /i_| ) 、.::: / }. ̄ ̄ ̄...丿)  ̄ ̄ ̄ ̄`--i:::::..、..
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第十二章 【 Ammo for Rebalance part9 -世界を変える銃弾 part9-】
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マドラス・モララーが十字教の信者となったのは、生まれた時からだった。
彼の両親は敬虔な十字教の信者で、息子である彼も入信させたのは自然なことだった。
生まれてから彼の周囲には十字教の人間が多く、学校で作った友人も皆同様だった。
宗教は彼にとって、日常生活の一つであると言っても過言ではない環境だったが、それは世界中にいる信者にも言えることだ。
十字教の教えを教育に生かした学校に入り、彼は多くを学んだ。
教養。
友情。
集団生活。
そして、命の事。
彼が初めて命の終わりを見たのは、6歳の時だった。
クラスで飼育していた金魚が死に、校庭に埋めた。
皆が泣く中、モララーだけがその理由を分からずにいた。
死んだ者は皆神の傍に旅立つと教えられていたからだ。
家庭で、そして学校で。
彼は死を悲しむことが理解できなかったが、他にも涙を流していない人間がいたので、自分がおかしいとは思わなかった。
13歳の時、再び彼は死を知ることになる。
彼の祖母が死に、葬式が開かれた。
彼にとって、初めて身近な人間の死だった。
歌を歌い、色とりどりの花で満たされた棺桶に彼もまた花を添えた。
祖母の死に顔は穏やかな物だった。
407
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:45:16 ID:/v63KFhk0
だが、彼の心は凪いでいた。
祖母にはよくしてもらった思い出しかない。
お小遣いも、おやつも、全てが優しさで溢れていた。
しかし、祖母が急逝したと聞いた時も、こうして死体を見た時も、湧き出る感情は金魚の時と同じく虚無だった。
死は、果たして悲しい物なのだろうか。
神の傍に行くことが悲しい事なのだろうか。
神のいる国は悲しみも苦しみもない楽園だと教えられた。
そう教えた大人たちが、一人の人間の死に対して涙している光景は、彼の目には異常に映った。
モララーが神について学ぶにつれ、疑念が膨らんだ。
神の実在と同様に、聖書に現れる愛という言葉。
その二つはまるで同義の様に語られ、使われている。
つまりは、神と愛は同時に存在し得る存在なのだと結論付けたのは彼が16歳の時。
丁度その時、彼に好意を寄せる異性がいた。
彼と同じ学校、そしてクラスにいる異性だった。
彼の事を好いていると言ってくれた。
年頃の彼にとって、初めての恋愛だった。
彼は恋が分からなかった。
それ故に、この機会を大切にしようと思った。
手を繋ぎ、下腹部に熱い何かを感じた。
口付けを交わし、下腹部に熱いものを感じた。
だが、愛は感じられなかった。
彼の生殖器だけが反応するだけで、心はまるで揺らがなかった。
彼の心を揺るがしたのは、彼女の言葉だった。
「私はあなたを愛しているの、モララー」
愛していると告げられたのは、これが初めてだった。
いや、ひょっとしたら過去に両親が言ったのかもしれない。
しかし彼の記憶にある最初の言葉は、それが初だった。
その時の感情は、彼の記憶に強烈に残されている。
何と。
嗚呼。
何と、陳腐な物なのだろう。
神が皆に与えているという無償の愛。
その正体は、果たして、こんなに安っぽい物なのか。
「あなたは私を愛している、モララー?」
問いかけられ、彼は答えに窮した。
何が正解なのかは分かっている。
だが、ここで答えてしまえばその言葉の陳腐さを肯定することになる。
彼は反射的に答えた。
408
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:45:54 ID:/v63KFhk0
( ・∀・)「うん」
愛している、と口にしなかったのは彼に残されたたった一つの希望からだった。
「嬉しい」
その時。
世界に、一匹の獣が生まれた。
愛を知る為に、愛を貪る獣が。
16歳、それが彼の最初に殺人を犯した年齢だった。
街から離れた森で、恋人だった異性――名前は忘れた――は彼の手によって絞殺された。
つい先ほどまで目を潤ませて愛を口にしていた彼女は、死ぬ寸前の虫の様に四肢をばたつかせて死んだ。
愛は、そこにあったのだろうか。
果たして、その死体のどこに愛があるのだろうか。
その手で命を奪ったという実感はあったが、感慨はなかった。
蚊を潰したような、そんな感覚だった。
手に愛は残されていない。
神は、愛は、果たしてどこにあるのだろうか。
死体と化した恋人を見て、モララーが抱いた感情はただ一つ。
この死体と己の殺人をどのようにして正当化するかという、極めて単純な困惑だった。
床に水をこぼして、それをどうするか悩む程度の感情。
つまり、彼女とモララーとの間には正しい愛はなかったのだと考え、後悔は一切なかったのだ。
結局、死体は野生動物に食わせ、彼自身は獣から逃げるために崖から落ちたという設定にして誤魔化せた。
学校を卒業してから、彼は聖職者としての仕事を得て、世界中に派遣されることになった。
若さとその傾聴力によって、多くの異性が彼に惹かれた。
そして、その多くが彼の手によって殺された。
命をどれだけ冒涜しても、どれだけ分解しても、その中に愛は見つけられなかった。
最後の希望である神は、未だに見つかっていない。
世界を愛で満たせば神が見つかると考え、世界を変える為に戦うことを決めた今となっても、未だに答えは出ていない。
( ・∀・)「うんうん、いい感じですね」
彼はノーザンライツの屋上で、恍惚とした表情を浮かべていた。
足元からは銃声と悲鳴が響き、爆発音も時折聞こえてくる。
命が消え、その魂という概念は神という概念に吸収されていく。
目に見えないその連鎖が、今、足元で起きている。
それらは全て想像に過ぎない。
仮に直視していたとしても、その循環を直視することは出来ない。
見られないからこそ、見ないのだ。
観測しなければ可能性は存在し、彼の中に残された神と愛という存在を否定することは無い。
409
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:46:48 ID:/v63KFhk0
死体の山の中に神を、愛を見出せるかもしれない。
全ては、まだこれからなのだ。
殺し合いの果てに愛はあるのか。
戦いの果てに神は姿を見せるのか。
まだ、何も分からない。
愛と神の観測者になるためには、何もかもが不足している。
ギコタイガー・オニツカ・コブレッティは信奉する正義の為に戦いに赴いているが、モララーはまだ戦う必要性を感じていなかった。
セントラスという街が滅びるのは、正直なところ、計画の一つでもあるからだ。
世界中に影響力を持つ宗教を利用したのは単純に組織の根を張り巡らせるためで在り、その後は切り捨てる予定だった。
無論、モララーは今でも十字教徒だ。
しかしそれとセントラスの存続とは、まるで別問題だった。
聖地が失われることで神の力に影響が出るのであれば、それまでの話であり、信仰心に影響が出るのであればその程度の存在ということだ。
全てはただの名称であり、大した意味を持たない。
( ・∀・)「はぁ…… 悲鳴はいい……」
ノーザンライツにいるのはほとんどが非武装の人間で、戦闘などとは無縁の人間達だ。
自分たちの街を守る為に攻め入ってきた相手に対して出来ることは、神の愛やその類を口にする程度の知識しかない。
そんなもので守れるものは何もないのだと知りながら、今、銃殺されていく人間の悲鳴はどんなワインよりも豊潤で雄弁だった。
女子供も関係なく、ストーンウォールの人間達は殺していくだろう。
彼らの存在を否定する相手に遠慮など無用。
道徳や倫理に反することだと知っていても、生存するためにはやむを得ないと割り切って殺してくれる。
全ては生存のため。
互いに殺し合い、疲弊し、極限まで削り切った後に残るものが愛なのかもしれない。
モララーはその残滓を覗き見たいがために、組織の意とは別の動きをしているのであった。
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( ( ; 人;_| |
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(´:: ) ..:) ; 人;;从;;| .|-l .| .|. l⌒l‐┐
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(´⌒;:⌒`〜;;从;;人;;;⌒`;:(´⌒;:⌒`〜;; .l |:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::|人;;从;;;;:(´⌒;:⌒`〜;;从;;
;`(´⌒;;:⌒∵⌒`);(´∴人;;ノ`;;`(´⌒;;:⌒ l | .|::::::::::::::::::::::::::::::::::: | ,,| ̄ ̄ ̄;`(´⌒;;:⌒∵⌒
F√i-ュ| ̄|明-ュ| ̄L―┐-ュFl-ィニニユ 「 ̄|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ニ´t| /F√i-ュ| ̄|明
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410
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:47:39 ID:/v63KFhk0
ギコタイガー・オニツカ・コブレッティはジュスティア警察の中でも、ある意味で異質な存在として知られていた。
正義の味方に憧れて警官になる人間は大勢いたが、トラギコ・マウンテンライトに憧れて警官になったと公言する人間は一人だけだったからだ。
ジュスティア警察内でトラギコと言えば、はみ出し者の厄介者。
警察の汚点とも言える存在だったが、一部の界隈では彼の暴力的な素行を肯定する者がいるのも事実だった。
“CAL21号事件”は、特にそうした力による正義の執行を是とする人間達にとって、まるで伝説の様に語り継がれる話だ。
ギコタイガーはトラギコの姿に憧れ、彼の様になるべく、型破りな捜査で事件の解決を図った。
だが警察上層部も馬鹿ではない。
ジョルジュ・マグナーニとトラギコの存在だけで頭を痛め続けてきたこともあり、第二、第三の無法者を生み出さないために徹底して規則の順守を言い渡した。
表面上、彼は上層部のいいなりとなり、大人しく模範的な警察官として事件に関わることになった。
実際は違った。
法で裁けない犯罪者を、彼は闇夜に紛れて殺して回ったのだ。
あらゆる犯罪者は、より残酷に、より凄惨に殺された。
殺人を犯した者も、窃盗を働いた者も、ギコタイガーが関わっていない犯罪者も、皆殺された。
ナイフで、銃で、素手で、その辺にあった石で。
警察内部でもその異様さに気づいた者がおり、ギコタイガーを事件担当者から外すなどの措置が取られたが、彼はその手を血で汚すことを止めなかった。
事件が起きたことを聞きつければ、人知れず現場となった街に繰り出し、容疑者を殺した。
一時、ジュスティア警察の未解決事件の数が増えたのはこのためであると言われている。
彼の信条は極めて単純だった。
犯罪者を全て殺せば、犯罪は起きない。
その結果、犯人と確定していない段階で殺された人間が大勢生まれ、その犯行が内部の人間によるものだと確定した。
警察は内部の汚点を世に知らしめることを嫌い、確たる証拠を見つけずに一連の事件を迷宮入りにさせた。
犯人候補であるギコタイガーは現場から遠ざけられ、監視を付けられることになった。
資料整理係という現場から離れた、いわば警察署内でも隠居した老人たち向けの業務へと追いやられたのは自然な流れだった。
しかし、それこそが彼にとって転機となった。
資料整理の中、彼はジュスティアが歴史の闇に葬り去ろうとしたある事件の資料を見つけたのだ。
“CAL21号事件”。
トラギコが関わり、そして、その後の警察全体に影響を与えた大きな事件だ。
警察署内でこの事件について知らない人間はいない。
無論、ギコタイガーはこの事件について誰よりも興味を持ち、調べてきたと自負していたが、彼の知る情報と事実は違った。
“金の羊事件”、“砂金の城事件”、そしてCAL21号事件。
この事件は全て連鎖的に起きており、その起爆剤は言うまでもなくトラギコだった。
そのトラギコが、この事件を機に“モスカウ”へと転属になったのは周知の事実である。
彼が関わったこの3つの事件。
その後、それぞれの街に復興の名目で介入したのはいずれも内藤財団だった。
目が覚めた思いだった。
トラギコの成してきた正義の代償は、街の経済に対する絶望的な打撃だ。
暴力だけでは世界は救えない。
経済力だけでは世界は救えない。
その両方を持った存在が必要なのだ。
ギコタイガーが内藤財団を訪れ、そして、ティンバーランドに参加したのはあまりにも必然だった。
411
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:49:51 ID:/v63KFhk0
彼は今、夢の中にいた。
<゚Д゚=>「はぁ……はぁ……!!」
興奮で息が上がる。
彼の陰茎は勃起し、全身が性感帯になったかのように敏感になっている。
彼にとって暴力は性交のようなものだった。
だがそれを自制できるからこそ、彼は警官としていられた。
今、その暴力性を存分に解き放てる。
弱者を守る為に。
圧倒的な悪者たちに対し、世界の平和を乱す輩に対し、思う存分振るえるのだ。
<゚Д゚=>「いいぞ、もう少しだトラァ!!」
ノーザンライツの正面玄関。
分厚い金属で作られた扉の閂が、外側から火花を散らして切断されている。
避難指示に従わず、遅れて避難してきた人間達は皆扉の前で射殺された。
銃弾が扉に当たる音も、必死の思いで扉に爪を立てて開こうとする音も、神の名を呼ぶ声も。
全て、ギコタイガーは分かっていた。
数多の死が、今後の教訓になるだろう。
避難指示に従わなければどうなるのか。
不当な暴力を前にどうすればいいのか。
宗教で平和ボケした人間達にはちょうどいい薬になったことだろう。
<゚Д゚=>「俺はここだ、ここにいる!!」
ノーザンライツは巨大な施設であると同時に、巨大な避難施設でもある。
天災や人災から聖職者たちが自分を最優先に守りつつ、信者に恩を売ることが出来る重要な施設だ。
その為、地下にはシェルターと脱出路を用意しており、外壁は極めて頑丈な金属の複層構造。
建物はその外壁が突起の少ない滑らかな形状をしているだけでなく、全ての階の壁が反った形をしているために、よじる昇ることも出来ない。
噴き出した噴水、あるいは、芽吹いた花の様にも見える。
宗教的な象徴性を持たせつつ、侵入者を徹底して排除する構造は籠城にうってつけだ。
そしてそれを正面から迎え撃つ準備と覚悟さえあれば、後は、問題なく殺せる。
扉の前から音が聞こえなくなり、頃合いだと判断した。
相手は今、この扉を爆破するために工作している頃。
扉を吹き飛ばすと同時に突入してくるだろうが、その出鼻を挫く。
<゚Д゚=>『お前ら全員病気だ!! 俺が特効薬だ!!』
口にしたのは、彼が与えられたCクラスの強化外骨格の起動コード。
警察組織が軍に開発を依頼し、あまりにも殺傷力が高すぎるために実戦配備を見送られた量産機。
重武装暴徒鎮圧用強化外骨格“コブラ”。
艶のない黒色の装甲に施された黄色の縞模様のマーキングは、遠目に見ても警告色であることを意味している。
412
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:50:12 ID:/v63KFhk0
装甲は衝撃を吸収しやすくするためと、電撃による攻撃を無力化するために表面を特殊樹脂でコーティングしている。
右腕部には空気銃が組み込まれており、棺桶に対しても有効な威力を持った高圧電流弾を撃ち込める。
左腕部には催涙効煙幕弾の射出装置が付いており、その煙が持つ粘性はガスマスクを無力化するだけでなく、生身の人間が吸えば呼吸器官の全てを塞ぐことになる。
高すぎる殺傷力のため、集団での戦闘には不向きだが、単身で多数を相手にする時には非常に優秀な力を持っていた。
そしてこのコブラは、この場所を防衛するために徹底した改造が施されている。
[::-■=■]『来いよ!!』
避難してきた人間達は皆、建物の中心部にある礼拝堂に押し込めてある。
入り口は無数にあり、扉の頑強さは正面扉の数分の一。
爆薬を使わずとも、棺桶の蹴りで簡単に破壊されてしまう。
だからこそ、燃えるのだ。
彼の声に呼応するかのように、目の前で扉が吹き飛んだ。
そして、彼が夢にまで見た防衛戦が始まったのであった。
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(三ゝ.:.ヾ-t.:.:l.:.:.:.',ii、 ',\ ',.:-. ii.:.:.:.:.:.', ..l.:.:.:.:.:ヽ |. | | |. | ./.:.:.:.:..:.| |.:.:~ ii - |.:.:|
.|ツ O.、 |. |.:.:.:.:.:.:.:) ヽ |.:.:`、 ',.:.:.:|.:./.:.:.:.',. |.:.:.:.:..:| |. | | |. | |.:.:.:.:.:.:.| |.:.:.:..:|.:.:.:.:|.:.:|
入.:.:`、.:.:.:\ト.:.:.:.:/iiiiiiiiiiiヽ/`、 .',.://.:.:°:', r.:.:.:..:ノ |,,,|⊥|,,,| ヽ.:.:.:.:.| |.:.:°.:.:。 |.:.:|
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\_ノ .',;;',;;丿γi;;;;レ´|\/)).:.:.:/三三(.:.:.:.:.:.:.\.:',//.:.:.:.:.:.:/三Ξ□T ̄.:.:.:.:.:.:.:',
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ストーンウォールの人間達にとって、十字教徒は常に敵だった。
彼らの在り方を全否定し、居場所を奪い続けてきた。
理解は不可能だと諦め、こちらからの接触は一切してこなかったが、十字教徒は何かにつけて攻撃を仕掛けてきた。
同性愛者や性的少数派が性犯罪を起こした時、それだけでストーンウォールが槍玉に挙げられた。
聖職者が犯罪に手を染めた時、彼らは沈黙した。
しかしそれでも、ストーンウォールは戦争を望まなかった。
自分たちにとっての聖域が守られている限りは、その外で何が起きていようとも気にする必要がないからだ。
だが、今回の戦争は違った。
セントラス内にいる人間が、クルセイダーが攻め入る予定であることを密告してきたのだ。
彼は十字教徒でありながら、同性愛者であることを隠して生き続け、クルセイダーが遠征することを知ってセントラスを裏切ることを決めたのだという。
半ば半信半疑だったが、送られてきた写真や他の詳細な情報から、それを信じることにした。
街が総出で対応することに対して異を唱える者は、一人としていなかった。
413
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:50:33 ID:/v63KFhk0
そして、戦争が始まった。
作戦通り、そして予定通りに人間と兵士が動き、十字教の拠点に足を踏み入れたのだ。
狙いはただ一つ。
セントラスを乗っ取ることだ。
彼らがしようとしていたように、ストーンウォールがセントラスを滅ぼす。
その最初の一歩が、ノーザンライツの破壊だ。
この街にいた協力者は無事に脱出していることが確認されており、後は、この街にいる人間を皆殺しにすれば終わりだ。
争いには争いで対抗するしかなく、人数と武装で劣るストーンウォールの人間達にできるのは電撃戦しかない。
街に攻め入ると同時に、部隊は二つに分かれた。
一つは街の中にいる民間人を殺す部隊。
そしてもう一つが、大聖堂ノーザンライツを攻略する部隊だ。
(゚A゚* )「一人も生かしておいたらあかんで!!」
これは生き残りをかけた殺し合いなのだ。
十字教の考えが残る限り、ストーンウォールを居場所にする人間達にとって安住の地はない。
ノー・ガンズ・ライフが口にしたその言葉は、彼らの覚悟の表れだった。
不毛を極めるその言葉は、非道徳的ではあったが、最も理にかなった言葉だった。
終わらない争いを終わらせる、最短の道。
冥府魔道。
殺される前に殺す。
十字教の教えがストーンウォールの滅亡を望んでいる以上、十字教を根元から滅ぼさなければならない。
どちらかが滅びなければ、この戦いは未来永劫続くことになる。
荒廃した世界になり、兵器が失われても、石と木の枝で殺し合うだろう。
これはそういう戦いなのだ。
一人でも生き残れば遺恨が生まれ、再び争いが始まる。
(゚A゚* )「女子供、老人も関係なしや!!」
避難の遅れた市民たちを、容赦なく撃ち殺していく。
銃弾の節約をしたいと思う者は銃剣や適当な石で殺し、家には火を放った。
ここに正義はない。
あるのは、殺戮だけ。
そして、ノーザンライツに通じる正面扉の前が血で染め上げられた頃、そこにいたセントラスの人間は全員死体となっていた。
子供を庇うようにして死んだ母親。
祈りを捧げる途中で射殺された老人。
正に、地獄絵図だった。
扉は物理的に封鎖されており、それを開けるには爆破する以外の手段がないことは事前に調べて分かっていた。
他にも侵入者を防ぐための幾つもの防衛装置の存在も承知しており、最短で最大の戦果を挙げるルートは決まっていた。
高性能爆薬を要所に設置し、即座に起爆。
内側に向けて吹き飛んだ分厚い扉が、ゆっくりと倒れる。
414
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:52:35 ID:/v63KFhk0
事前の指示通り、牽制射撃と同時に焼夷手榴弾が投げ込まれた。
爆発と発火。
薄暗がりだった屋内に、オレンジ色の光が満ちた。
[::-■=■]
炎の中で仁王立ちになっていたのは、警告色をした棺桶。
大きさはBクラス、いや、Cクラスはある。
少なくとも、こちら側が得ていた情報にはない機体だった。
[::-■=■]『いくぞトルァ!!』
防衛を目的としてそこにいるはずなのに、何一つ躊躇せずに飛び出してきた。
振り上げた右手には、棍棒の様な武器が握られている。
何かしらの防衛手段を講じているとは考えていたが、まさか、頭の悪そうな者が一人だけとは思いもよらなかった。
棺桶には棺桶を。
力には力を。
(゚A゚* )「やっちまいなぁ!!」
後方に控えていた棺桶部隊が、彼女の号令よりも早く飛び出していた。
近接戦を得意とする棺桶は、総じて装甲に自信がある。
並みの銃弾では止められないことを瞬時に理解し、その部隊は援護の為にライフルを構えて散開した。
代わりに、一機の棺桶が迎え撃つべく跳躍していた。
対接近戦に特化した武器を構えているのは、クロマララー・バルトフェルドのジョン・ドゥカスタムだ。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『だりゃあああ!!』
構えていたのは、一振りの巨大な太刀。
ジョン・ドゥの身長と同じだけの長大な太刀は、その刃先が高周波振動によって絶叫の様な音を上げている。
切り上げるようにして、振り下ろされた棍棒を迎え撃つ。
[::-■=■]『ちぇぇい!!』
空中で激突し、同時に着地。
即座に鍔迫り合いが始まった。
互いに響かせる高周波振動の金切り声が、ノーザンライツ内に木霊する。
倒れた扉の上で激突した両者だったが、その巨大さが仇となった。
複数で防ぐならばまだしも、単騎でこの広さは防ぎきれない。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『先に行け!!』
二人の脇を通って、続々とノーザンライツ内部に棺桶で武装した味方たちが進んで行く。
だが。
(゚A゚* )「あかん!! 一旦引かなあかん!!」
415
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:53:05 ID:/v63KFhk0
意外にも、ノーの言葉が味方の前進を止めた。
その言葉が届かなかったのか、あるいは足を止められなかったのか、数人がノーザンライツに入った後だった。
棺桶の身体補助機能が災いし、彼女の声が耳に届いたところで足を止めるには遅すぎたのだ。
内部は煙と炎で満ちていたが、その煙の量が尋常ではないことに、クロマララーもようやく気が付いた。
焼夷手榴弾の高熱でも、流石に無機物を燃やすことはできない。
建物全体が頑丈な素材で作られているノーザンライツを燃やせるのならば、最初からそうしている。
つまり、今発生している煙は敵が意図的に生み出した物で、罠であると考えるのが妥当だ。
彼女の判断と警告は適切だったが、如何せん、遅かった。
『ぶ……はあっ……!!』
聞こえていた声が徐々に小さくなり、そして聞こえなくなった。
ガス攻撃であれば、棺桶に備わっているガスマスクがある程度防ぐはずだ。
だが、そういった類の攻撃ではなさそうだった。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『何をしやがった』
[::-■=■]『さぁな!! 異常性欲者にとっちゃ、この建物は毒みたいだな!!』
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『先にこいつをやるぞ!!』
[::-■=■]『やれるんならなぁ!!』
直後、男の持つ棍棒に青白い電流が走ったのを目視した。
それはクロマララーの持つ大太刀に流れ込み、高周波振動装置を破壊。
呆気なく折れた刃が地面に落ちる前に、その棍棒がクロマララーの頭部目掛けて振り下ろされていた。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『うおおっ!?』
電撃を放つ武器と、高周波振動の武器が両立するのは極めて難しい。
特に、高圧電流によって電気系統を破壊する程の物となると、その装置が破損するだけで自爆行為になりかねない。
危険を承知で設計された武器なのか、それとも、その危険性を克服した武器なのか。
近接用の武器を失った瞬間、彼は半ば反射的にその場から跳び退いていた。
それでも、完全な回避は間に合わず、胸部を棍棒が掠めていった。
装甲が剥がれ落ち、生身の胸部が露わになる。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『こいつ!!』
[::-■=■]『逃げるか、変態!!』
棍棒による刺突が、むき出しの胸部に向けて突き出される。
回避運動をするにも、彼の両脚はまだ空中。
接地する前に棍棒が胸を貫くのは必至。
刹那の猶予の中、彼が選べたのは両腕による防御だけだった。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『があっ!?』
416
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:54:27 ID:/v63KFhk0
高周波振動の打撃は、斬撃と違って芯に響く攻撃だ。
装甲の内側に向けて放たれるその一撃は、防御に使用した両腕の間に巧みにねじ込まれた。
骨に響く攻撃は激痛としか表現しようがなく、まるで直接骨を殴られたような衝撃だった。
踏み込みすらせずに放った一撃だったことが幸いし、棍棒が彼の胸を貫くことは無かった。
〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『これ以上好き勝手は!!』
周囲からの援護射撃がなければ、二度目の刺突でクロマララーの胸はザクロの様に爆ぜていただろう。
対強化外骨格用の銃弾を浴びせかけられながらも、男はまるで怯まなかった。
[::-■=■]『一匹ずつ駆除だ』
〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『弾が……当たらない!?』
誰よりも間近で見ていたクロマララーの次の言葉が、それを正確に説明した。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『曲がってる!!』
銃弾の軌道はある程度までは直進し、途中から減退し、下方に向かう。
しかし、クロマララーが見た銃弾の軌道はそれとは違った。
弾が天井に当たり、更にはクロマララーの耳元を掠め飛んで行ったのだ。
それを曲がったと即断したのは、似た性能を持つ棺桶を知っていた彼の知識と経験だった。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『こいつ相手に銃は使うな!!
同士討ちになる!!』
あの棺桶は周囲に強力な磁界を形成し、電流の強弱によって磁力を操作する。
強装弾に使用されている金属は磁力に反応する性質があるが、それは極めて強力なものに限る。
この棺桶は、それは実現させるだけの力を持っており、銃弾は荒れ狂う磁界によってその軌道を捻じ曲げたのだ。
理屈では可能だが、それを実現させるにはかなりの電力が必要になるはずだ。
かつてラヴニカで技術者として働いていた経験のあるクロマララーは、その装置に関するデータを見た記憶があった。
“フォーチュン計画”という名目の兵器設計図で、あまりにも現実離れしたその構想を鼻で笑った。
一瞬起動させるだけでも棺桶のバッテリーを全て消耗する程のもので、実用性が皆無だったのだ。
だが、今目の前にいる棺桶はその装置を使っている。
補助電源ケーブルもなしに、そんな芸当が可能なのだろうか。
[::-■=■]『おうおう、どうしたぁ!!』
〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『調子に乗りやがって……』
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『こいつに構うな、中の信者どもを殺すんだ!!』
[::-■=■]『曰く、神は来る者を拒まないそうだ。
まぁ、ゆっくりしていけトルァ!!』
417
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:54:56 ID:/v63KFhk0
直後。
クロマララーの全身が、ノーザンライツに向けて引っ張られる感覚が襲った。
何かが触れているわけではない。
見えない力が四肢を掴み、引き寄せているのだ。
正体は磁力。
銃弾の軌道を捻じ曲げるだけの、圧倒的な磁力が金属の塊とも言える棺桶を引き寄せている。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『まずい、金属の物を捨てろ!!
引き込まれるぞ!!』
〔Ⅱ゚[::|::]゚〕『願ったり叶ったりだ!!』
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『違う!! 磁力で動けなくなるぞ!!』
的確な言葉が瞬時に出てこない。
辛うじて出てきた単語で、誰かが察してくれることを願うが、通じない。
手にした武器も、棺桶を身に着けた味方も。
あらゆる金属が、一気にノーザンライツに取り込まれる。
クロマララーもその場に踏ん張ることが出来ず、磁力によってノーザンライツに取り込まれた。
陽光で淡い明るさに照らされるノーザンライツ内は、芸術品の様な美しい内装をしていたが、それを堪能する者は一人としていなかった。
地面に縫い付けられるようにして倒れている棺桶が、最初に突入した味方であるのは間違いない。
煙幕の中で何かが起きて、そして、ここで死んだのだ。
[::-■=■]『ゴキブリは、そこで死んでな』
投じられた煙幕弾が、濛々と白煙を噴出させる。
すぐに視界をその煙に奪われたが、ここで何が起きたのか、その身をもって理解することになった。
〔Ⅲ゚[::|::]゚〕『はぁ……はっ……あっ……!?』
ジョン・ドゥのマスクは優秀だ。
粉塵や毒ガスから使用者を守るため、有害な酸素を無害化するためのフィルターを搭載しており、どんな状況下でも戦える。
だが。
酸素の供給が途絶えてしまえば、生身の人間は生きていけない。
粘性の高い煙幕がフィルターを詰まらせ、酸素の供給を停止させたのだ。
それを取り除こうにも、内部に入り込んだ煙を指で掻きだすことは出来ない。
これが生身の人間だったならば、呼吸器官を無力化させられ、窒息死するだろう。
カメラにも煙が張り付き、どのモードに切り替えても何も見えない。
逃げ出そうにも、強力な磁力で足が捉えられているため、その場から動くことが出来ない。
何もできず、ただ酸素だけが奪われていく。
仲間に事態を伝えようとしても、酸素がなければ声が出せない。
この備えがあったからこそ、あの男は一人でここを防衛していたのだと、ぼんやりとした意識の中でクロマララーは納得した。
僅かな酸素を全て失い、クロマララーが窒息死するまでにはそう時間は必要なかった――
418
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:55:32 ID:/v63KFhk0
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――時を同じくして、ラヴニカでの内戦は次の舞台に移っていた。
ラヴニカは黒煙に包まれていた。
それは火事による黒煙でもあり、発煙筒による黒煙でもあった。
スーツ姿のシナー・クラークスの堪忍袋は既に張り裂け、組織から指示された目的は忘却の彼方に置き去っていた。
( `ハ´)「状況は?」
<=ΘwΘ=>『駄目です、足取りさえ』
( `ハ´)「もっと家を燃やせば出てくるアル」
<=ΘwΘ=>『ですが、これ以上燃やせばこの街の復興が……』
( `ハ´)「焼き畑っていうのを、お前は知らないアルか。
燃えた分は、いい肥料になるアル」
<=ΘwΘ=>『……かしこまりました』
目的としていたチップは手に入らない。
ならば、この街を灰の山にしたところで問題はない。
( `ハ´)「……私は一人になりたいアル。
護衛はいらないから、さっさと行けアル」
彼の周囲にいた部下は装甲の下で驚愕の表情を浮かべたが、小さく頷いてその場から走り去った。
炎と煙、そして悲鳴と銃声がその場に残された。
ラヴニカが誇っていた技術の多くが、この戦いで失われることだろう。
保管していた貴重な何かも、例外ではない。
419
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:55:52 ID:/v63KFhk0
( `ハ´)「さっさと出てくるアル。
モーガン・コーラ」
(*‘ω‘ *)「……気づいてました?」
物陰から姿を現したのは、土壇場でシナーを裏切った女だった。
分厚い化粧の下に隠された表情は、決して真実を物語らないことだろう。
彼が初めて見た時と顔はまるで別人だが、放つ不愉快な雰囲気は変わらない。
あえてこちらに気づかせようとしている可能性もあるが、今となってはどうでもいい。
モーガン・コーラという名前も偽名だったのは、言うまでもない。
( `ハ´)「化粧臭いアル」
(*‘ω‘ *)「失礼しちゃう!! けっこういい値段の化粧品なんですけど」
( `ハ´)「チップを手に入れたのに、どうしてここに残ってるアル?」
(*‘ω‘ *)「保険ですよ、保険。
ラヴニカはこの世界に必要な街なのでね、滅茶苦茶にされないようにしないと」
( `ハ´)「だったらもう手遅れアル。
……で、何でここに来たアルか」
(*‘ω‘ *)「いやぁ、礼儀として決着をつけてあげないと」
( `ハ´)「礼儀? 決着?
随分と高貴な考えアルね、反吐が出るアル」
言いぐさがまるで騎士だ。
土壇場でこちらを裏切り、逃げ回っていた人間の言葉とは思えない。
(*‘ω‘ *)「まぁまぁ、死ぬ前にせめて何かしらの武勇伝を持っておきたいじゃないですか。
タルキール出身なら、そういう考えあるんでしょう?」
( `ハ´)「いつタルキール出身なんて言ったアルか?」
(*‘ω‘ *)「アクセントもそうだし、料理の好みで分かりますよ。
さぁ、私が憎いんでしょう?
ラヴニカと同じぐらい憎いなら、今ここで私と戦うのはいい気分になりますよ」
こちらの逆鱗を撫でるように、女は言った。
( `ハ´)「貴様、これ以上私を愚弄するアルか」
(*‘ω‘ *)「あぁ、勿論素手で戦ってあげますよ。
いいハンデでしょう?
負傷を言い訳にしたとしても、十分だと思いますが」
420
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:56:28 ID:/v63KFhk0
(#`ハ´)「挑発しているつもりなら、最高の挑発アルね。
ただの女が、私に素手で勝つ?
面白い、やってみればいいアル!!」
(*‘ω‘ *)「その言葉を待っていました、シナー。
ここから先は、一人の武人としてお相手願いましょう」
(#`ハ´)「武人?! お前が?!
ふざけるな!!」
(*‘ω‘ *)「……少し、愚弄しすぎたみたいですね。
こうでもしないと、あなたは本気で乗ってこないと思いましてね」
左手は後ろ腰の位置に。
右手は甲を下に向け、槍の様に束ねた指先をシナーに向ける。
指をゆっくりと曲げ、勝負に誘われる。
(#`ハ´)「女だからといって、油断も手加減もしないアルよ」
(*‘ω‘ *)「“タルキールの龍”、そう呼ばれていた時もあったそうですね。
街にいる連中は、その時の部下でしょう?」
流通の中継地点。
“竜の口”の名で知られるタルキールは、栄はするものの、決して豊かになることは無かった。
他の街が生み出す流通によって栄えているだけであり、そこに生じる僅かな需要によって生きながらえているだけの街だ。
シナーは街の未来を危惧し、己の未来を憂いた。
安全な道が一つ生まれてしまえば、それだけでタルキールの活気は激減するだろう。
ヨルロッパ地方にある街がいくつも協力し合えば、それが実現してしまう。
生まれた街が衰退するのは見たくない。
幼少期から祖父に武術の英才教育を受けた彼は、仲間を募り、タルキール以外の街で盗賊行為に手を染めた。
狙ったのは金持ち、あるいは権力者。
得た金は貧しい者に分け与え、己の行為を正当化した。
武器は極力使わず、徒手によって相手を無力化した。
部下が増え、思想が生まれた。
思想は広まり、更に部下が増えた。
世界のバランスは極めて危うく、力を持つ誰かのちょっとした匙加減で崩れてしまう。
数千人の部下を各地に持っても、世界を変えることは出来ない。
そんな折、シナーはある組織からの接触を受け、彼らの参加に入ることにしたのだった。
シナーが本当に許せなかったのは。
世界を変えたいと願ったのは――
(;`ハ´)「……情報通らしいが、それだけじゃ勝てないアルよ」
(*‘ω‘ *)「勿論、情報で戦うつもりはありません。
私があなたのことをよく知っている、それを理解した上で戦ってもらいたいのです。
全力で、死力を尽くして、持てる全てを注ぎこんで戦ってほしいのです」
421
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 19:58:33 ID:/v63KFhk0
(#`ハ´)「私じゃない、お前が死力を尽くすアル!!」
(*‘ω‘ *)つ◆「これ、何だと思います?」
小さく、そして金属特有の輝きを放つその人工物。
血眼になって探し、街に火を放ってでも手に入れようとしたチップだ。
(#`ハ´)「……」
(*‘ω‘ *)「私を倒せば、簡単に奪えますよ」
それを胸ポケットに入れ、女は挑発的な笑みを浮かべた。
(#`ハ´)「調子に乗ったアルな、お前」
(*‘ω‘ *)「これでやる気が出たでしょう?
さぁ、いつでも」
強い踏み込みが強い打撃を生むのは事実だが、それが欠けたとしても、それを補うための技術がある。
飄々とした様子だが、醸し出す芯の強さは偽物ではない。
( `ハ´)「……名前を聞いてやるアル」
(*‘ω‘ *)「ティングル・ポーツマス・ポールスミス。
あなたを殺す女の名前です」
( `ハ´)「いいや、墓石に刻む名前アル」
悠然と一歩を踏み出し、シナーは静かに拳を突き出した。
ティングルはその意図を汲み取り、同じようにして拳を突き出した。
磁力に引き寄せられるようにして、両者の拳が触れ合う。
それが、開始の合図。
( `ハ´)「ふんっ!!」
(*‘ω‘ *)「?!」
拳に込めた絶妙な力。
足元から発生させた力を腰、背中を使って加速させ、拳に移動させる。
そして捻転するような力の流れへと変化させ、相手の腕を通じて体全体にその歪みを伝える。
自分の体に流れ込んでくる不愉快な力から逃げようと咄嗟に動いたティングルは、シナーの思惑通りにバランスを崩す。
そのまま倒れるほどの力で放ったのだが、踏み込みの浅さが災いして、片膝を突かせるだけにとどまった。
それで十分。
絶好の位置に頭が落ちてきたことにより、シナーは躊躇わずにローキックを放つ。
連撃は、だがしかし、ティングルの絶妙な防御によって阻まれた。
顔に当たる寸前でシナーの足を受け止め、低い体勢を利用して、彼の股間目掛けてアッパーを繰り出してきた。
( `ハ´)「ちっ!!」
422
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:00:05 ID:/v63KFhk0
(*‘ω‘ *)「ぽっ!!」
体捌きで攻撃を回避した直後、ティングルの裏拳がシナーの鼻先を掠める。
まるでハンマーの様に思い一撃。
鼻孔の奥がジワリと痛み、鉄臭がした。
鼻の奥から血が垂れてくる前に、シナーは親指でそれを拭い取った。
( `ハ´)「ハンデのつもりあるか?」
今の場面なら、足払いが来るはずだった。
そうすれば、シナーを転倒させ、有利な状況を生み出せた。
まるで最初からその選択肢を選ばないようにしているかのような攻撃に、思わず言葉が出ていた。
(*‘ω‘ *)「いいえ、ハンデではありませんよ。
あのタルキールの龍に勝つということは、正面から技で勝負するということですから」
(#`ハ´)「それの驕りがハンデアル!!」
倒れ込むようにしてその場に両手をつき、シナーは四足歩行の形態をとる。
次の瞬間、両腕の力を使って両足を持ち上げ、ティングルの頭上に向けて振り下ろした。
(*‘ω‘ *)「ぽっ!!」
ティングルは両腕を交差させてその一撃を防いだ。
こちらの攻撃を受ける必要などないのに。
まるでプロレスの様な動きに、シナーは苛立ちを抑えきれない。
(#`ハ´)「ぬうあっ!!」
(*‘ω‘ *)「ぼ?!」
防御され、効果がないと分かった瞬間、シナーの次のプランは動いていた。
両足でティングルの足を挟み、強引に引きずり倒したのだ。
(*‘ω‘ *)「ぃんっ!!」
致命的な一撃になり得た攻撃だったが、ティングルは受け身を取って衝撃を緩和。
(#`ハ´)「ちぇぃ!!」
両手が地面についた状態のティングルの上に跨り、シナーは絶対的に優位な位置を手に入れた。
マウントポジション。
体格差のある馬乗りの状態は、決着をつけるにはあまりにも簡単すぎる。
しかし、相手が女子供でも、シナーの拳は容赦なくその命を奪う。
踏ん張れないのであれば、踏ん張る必要性の少ない体勢に持ち込むしかない。
ティングルの腹の上に乗ったシナーは、一瞬の躊躇いもなく拳を彼女の顔に向けて振り下ろした。
(*‘ω‘ *)「流石っ!!」
423
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:02:05 ID:/v63KFhk0
(;`ハ´)「ぐっ!?」
瞬間的に下半身の力でシナーが持ち上げられたことによって、彼の拳は何もない地面に直撃していた。
(*‘ω‘ *)「だけど、優秀だから次の一手が分かりますよ」
( `ハ´)「……なるほど、認識を改めるアル」
再び拳を振り上げ、シナーはティングルの胸骨に向けて左の一本拳を放った。
(*‘ω‘ *)「エッチ!!」
それを難なく横から叩き、軌道を反らせつつ手首を掴まれる。
が、シナーの右拳はティングルの腹に乗せられていた。
(*‘ω‘ *)「しまっ……!!」
無寸勁、あるいはノーインチパンチ。
触れた状態からでも十分に人体にダメージを与えられるその攻撃を受け、ティングルは初めて苦悶の表情を浮かべた。
悲鳴と共に腹の底から空気を吐き出し、悶絶する。
だがシナーの攻撃は止まない。
( `ハ´)「じぇい!!」
解放された左拳で顔を殴りつけ、右拳で眼球を狙う。
女という生き物である以上、顔を徹底的に痛めつけられることに耐性はない。
左右の連打によって徹底的に戦意を奪おうとしたが、目に攻撃を受けないよう、頭部を動かすだけの冷静さはあった。
鼻血を出し、口の中を切り、頬に痣が出来ても――
(* ω *)「……ははっ」
――女は、笑っていた。
(;`ハ´)「こいつっ!!」
直後。
シナーの判断が一瞬だけ遅れた。
それまでほとんど無抵抗だと思っていたティングルが、突如として体を持ち上げ始めたのだ。
腹の上に男を一人乗せたままブリッジを行い、シナーの体制が崩れたところに、体重を乗せた右ストレートを放った。
それはガラ空きの肋骨を捉え、的確にダメージを与えた。
更に、そこに指をねじ込み、骨を圧迫してきた。
筋肉で覆われているはずの肋骨を、指で破壊しに来たのだ。
(;`ハ´)「ぐっ……おおお!!」
痛みから逃げようと、攻撃を加える。
その都度肋骨を刺激され、大した威力を発揮できない。
更に、左手が得物を狙う蛇の様に股間に伸ばされているのを察知したシナーは、流石にその場から跳び退かざるを得なかった。
424
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:03:45 ID:/v63KFhk0
(;`ハ´)「えげつない戦い方するアルね」
(*‘ω‘ *)「ぺっ! あなたも、女の顔を殴るなんてえげつないですね」
地面に吐き出した血の中には、歯の欠片が入り込んでいた。
これだけ打撃を受けていながら、ティングルの目には涙一つ浮かんでいない。
まるでプロボクサーだ。
(;`ハ´)「……どこの組織の人間アルか?」
(*‘ω‘ *)「ふふっ、知りたければ……ね?」
軍人の女でも、ボクサーの女でも、ここまでの豪胆さは手に入らない。
乗り越えてきた修羅場の質と数は、恐らく、こちらが想像している以上。
武術の心得はあるが、技量ではシナーに劣っている。
しかし、それを補うだけの汚れた戦い方をしてくる。
的確に急所を狙い、的確に攻撃を防ぐ。
軍人としての経験は間違いないだろう。
戦場格闘技に通じる動きがある。
ならば、技術で押し通す。
( `ハ´)「……」
シナーは己の右手を前に出した。
先ほどティングルが仕掛けてきたのと同じように、今度はシナーが勝負を仕掛ける番だ。
( `ハ´)「来いアル」
(*‘ω‘ *)「面白そうですね、では遠慮なく」
お互いに手の甲を触れ合わせた瞬間、シナーが動いた。
ほとんど無意識の内に体が動き、ティングルの手首を掴む。
関節と骨を利用し、その場に投げ飛ばそうとした。
だが、途中で攻撃が止まってしまう。
(*‘ω‘ *)「さぁ、どうしました?」
(;`ハ´)「こ……の……馬鹿力がっ……!?」
曰く、理想の筋肉とは緩急の差が著しい物を指す。
この時のティングルの筋肉は、万力を想起させるほどの頑強さで、シナーの技術を受け付けなかった。
冗談の様に硬くなった腕と、服の上からでも分かる隆起した筋肉。
特出しているのは、布地が弾けんばかりに膨張した下半身の筋肉だ。
上半身の筋力不足を補って余りある下半身の筋肉が、こちらの理をねじ伏せているのだ。
どういう生き方をすれば、ここまでの筋肉を手に入れられるのだろうか。
馬乗りの状態から逆転されたのは、この下半身の筋肉が原因だろう。
425
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:05:07 ID:/v63KFhk0
(*‘ω‘ *)「腕力よりも脚力の方が出力は上。
で、あれば踏み込みが万全でない人の技など私の筋力では意味がないんですよ」
(;`ハ´)「膂力なんぞ!!」
(*‘ω‘ *)「打撃戦において膂力は絶対。
さぁ、どうします!!」
まるでこちらを試しているような物言いだが、拮抗状態が出来ている事実は覆せない。
( `ハ´)「ふっ!!」
力むことによって生み出した、筋力の拮抗状態。
それを打破するのは、言うまでもなく技術だ。
生み出された不用意な力を利用し、ティングルの体を宙に浮かせる。
(*‘ω‘ *)「なっ?!」
( `ハ´)「きゃおらっ!!」
狙うはわき腹。
体の中心軸を狙うことにより、姿勢を乱す狙いだ。
抉り込むようにして掌底を放ち、吹き飛ぶことで威力を軽減させようとする目論見も、腕を掴み合っている今は通じない。
掌底がティングルの腹に当たった瞬間、太いタイヤに対して打撃訓練をしていた日々が脳裏をよぎった。
生半可というレベルではない。
筋肉に対する圧倒的なまでの信仰心。
無駄を削ぎ落した体に残された筋肉は、正に結晶体と言ってもいいだろう。
ここまでの次元の筋肉を持つ人間は、これまでに見たことがない。
組織でも1、2を争う筋量を持っているクックル・タンカーブーツも、ここまでの密度には至っていなかった。
(*‘ω‘ *)「女性のお腹を触るなんて!!」
(;`ハ´)「ちっ!!」
着地され、その勢いを利用して押し倒されそうになる。
踏ん張ろうとした時、両足に激痛が走り、抵抗むなしく尻から地面に倒れ込んでしまった。
そのまま馬乗りされ、先ほどまでとは逆の立場となった。
(*‘ω‘ *)「技術も、怪我には勝てませんか」
女には男と違って、一撃で悶絶させ得る器官が露出していない。
だが、共通する弱点はある。
(;`ハ´)「軽いアル!!」
426
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:07:26 ID:/v63KFhk0
今出来る範囲内で脱力し、加速させた右手が放ったのは、顔面への強烈な平手打ち。
顔を正面から打ち付けたその一撃は、打撃に慣れている人間だとしても怯まざるを得ないものだ。
目、鼻を同時に攻撃したことにより、反射的に大量の涙が溢れ出る。
激痛とは違い、まるで電撃を浴びたかのような痛みが瞬間的に思考を支配する。
(*;ω; *)「ぬぁっ?!」
(;`ハ´)「技術は!!」
背中に回した左手で脊椎に直接攻撃を与える。
本人の意思とは無関係に直立してしまったティングルは、何が起きたのか理解できていない様子だった。
(;`ハ´)「膂力に!!」
下半身の筋力に対する自信を、シナーは逆手に取った。
脚の付け根を掴み、骨の内側に対して防御不可能な一撃を放つ。
(*;ω‘ *)「AッChiiッ!?」
その痛みを形容するなら、焼けた針を骨に突き立てられたようなもの。
如何に優れた体感、筋力を持っていても、瞬間的なこの痛みには対抗できない。
(#`ハ´)「勝る!!」
崩れた体勢。
しかしこちらは倒れたまま。
それでも、シナーには勝算があった。
狙いは一つ。
筋肉で補えない、関節。
流れるようにティングルの利き足である右足に絡みつき、足緘――下方から相手の膝を破壊する関節技――を放つ。
これを用いて足を折れば、勝機はこちらにある――
(*‘ω‘ *)「……はぁ、面白くない事しましたね」
(;`ハ´)「んなっ?!」
――シナーが関節技を放ったまま片足で持ち上げられ、地面に叩きつけられるまでは、そう思っていた。
(;`ハ´)「がっ?!」
(*‘ω‘ *)「関節技対策を怠っていると思ったのなら、残念でしたね」
(;`ハ´)「化け物か……!!」
関節部の頑強さは並ではない。
男一人を持ち上げて、叩きつけられるだけの力。
馬鹿力ではなく、技術に対抗するための力を持っている。
427
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:09:09 ID:/v63KFhk0
(*‘ω‘ *)「タルキールの龍ならあるいは、と思いましたが。
残念です、この程度で」
(#`ハ´)「勝手に期待して、勝手に失望してるんじゃないアル!!」
背中を打ち付けられたことによって呼吸が乱れていたが、すでに回復しつつあった。
関節技は既に解かれているが、まだ、奥の手がある。
立ち上がり、ゆっくりと息を吐く。
( `ハ´)「ふぅ……!!」
(*‘ω‘ *)「培った技術、この程度ではないでしょう?
どうします? マックスペインを使いますか?」
こちらが隠し持っている薬物について読まれていたのは予想外だったが、それでもかまわない。
もとより、それに頼るつもりはない。
( `ハ´)「こんなもの、使う必要はないアル」
ジャケットの内ポケットから取り出したアンプルを地面に叩きつけ、踏み砕く。
一時的な身体強化の薬など、感覚を鈍らせるだけだ。
( `ハ´)「かかってこい、筋肉馬鹿」
(*‘ω‘ *)「では、行かせていただきましょう」
そう言って、ティングルが仕掛けてきた。
踏み込みを感じさせない程の短く低い跳躍。
( `ハ´)「破ッ!!」
真っすぐに伸びてきた右ストレート。
それに合わせて、左の手のひらで受け止める。
加速した上に伸びきった状態に合わせたため、その衝撃でティングルがよろめく。
(*‘ω‘ *)「んぬ!!」
( `ハ´)「邪ッ!!」
続けて放つのは崩拳。
縦に構えた拳を踏み込みと同時に放つ。
両足に激痛が走るが、それを意識の外に追いやる。
常軌を逸した集中力こそが、シナーの奥の手だ。
(*‘ω‘ *)「ちいっ!!」
こちらの様子が豹変したことに気づいたのか、ティングルが防御の為に両腕を交差させる。
( `ハ´)「腕もらった!!」
428
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:10:18 ID:/v63KFhk0
触れた瞬間、抉る様にして威力を上げる。
拳の下で、骨に当たる感触。
下半身とは違い、上半身の膂力は一般人よりも優れている程度。
(*‘ω‘ *)「があっ!!」
だが、こちらの威力を殺すためにティングルは僅かに後方に跳躍していた。
そして着地と同時に前蹴りが飛んできた。
( `ハ´)「ふあっ!!」
それを右手で受け止め、ティングルがやったのと同じように跳躍して威力を殺す。
ただし、こちらのそれは確かな技術の産物。
消力。
己の四肢を極限まで弛緩させ、あらゆる攻撃の威力を霧散させる高等技術だ。
( `ハ´)「どうしたアル?」
(*‘ω‘ *)「……これが消力ですか」
( `ハ´)「来ないならこっちから行くアル!!」
大股で接近し、シナーは弛緩させた右腕を思いきり振り抜いた。
狙いは顔。
反射的にティングルはそれを左腕で防いだ。
(*‘ω‘ *)「ぎっ!?」
( `ハ´)「いくら我慢しても無駄アル」
続けて太腿。
服の下にある人体最大の器官、皮膚への攻撃は筋力や年齢の一切を無視する。
両椀を鞭にした一撃は、技術を軽んじた人間にはよく効く。
鞭の様な打撃、これ即ち鞭打。
( `ハ´)「しゃっ!!」
(*‘ω‘ *)「ぬぇい!!」
しかし、すぐに攻撃の隙を見つけてきた。
鞭化するのはあくまでも先端部分。
その軌道は結局のところ根元が事前に示すため、防御するためには攻め込むのが最善の手となる。
台風の中心部に向かうような恐怖の中、ティングルは的確にシナーの関節に打撃を当て、鞭打を無力化する。
膝蹴りがシナーの顔に飛んできた。
( `ハ´)「は……ぬ?!」
429
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:11:00 ID:/v63KFhk0
咄嗟に消力で無力化しようとした瞬間、首の後ろにティングルの両手が回された。
なるほど。
消力最大の弱点は脱力後に攻撃の威力を減退させる距離の有無だ。
壁に追い込まれれば消力が無力になるのと同じように、こうして捉えられてしまえば威力を殺すことなど不可能。
この僅かな攻防で弱点を理解したとは、恐ろしいほどのセンスだ。
両手を顔の前に出し、威力を可能な限り殺す。
自らの手と主に顔に受けた衝撃は殺されることなく、二度、三度と膝蹴りが顔を襲う。
四度目の攻撃が来る前にシナーはティングルを持ち上げ、地面に叩きつけた。
(*‘ω‘ *)「げぁっ!?」
(#`ハ´)「ふーっ!!」
距離を取り、構えをとる。
( `ハ´)「さぁ、まだアルよ!!」
格闘戦でここまで苦戦することは、これまでに一度もなかった。
苦戦することが楽しいと思ったのは、これが初めてだった。
(*‘ω‘ *)「楽しいですね!!」
( `ハ´)「むかつく奴アルね!!」
最初は憎しみ。
今は楽しみ。
思う存分己の技術を出し切れる相手がいるというのは、幸せなことなのだ。
武器や兵器の性能に左右されることなく、鍛え上げた拳足と技術で戦う純粋さ。
(*‘ω‘ *)「あなたの技量、感服しました。
研鑽の日々に敬意を表します。
故に、円卓十二騎士、末席の騎士としてここで引導を渡しましょう」
ジュスティアの最高戦力である十二人の騎士。
その一人というのであれば、この馬鹿げた戦闘能力の高さも頷ける。
よもや、こうして騎士と戦える日が来るとは。
( `ハ´)「……やっぱり、その類だったアルか。
だが、肩書は実力じゃないアル!!」
(*‘ω‘ *)「本当はもっと戦いたかったのですが、ここで幕引きとします。
お詫びに、私が得たものをお見せしましょう。
武人として知りたいでしょう?
一撃必殺を」
( `ハ´)「はっ! 一撃必殺なんていうのは――」
430
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:11:58 ID:/v63KFhk0
(*‘ω‘ *)「そう、武人の夢です。
そして、悪を滅すると誓った人間にとっての理想。
私はこの手に掴んでいるんですよ、その技を」
――その言葉は、シナーの中にある夢の一つだった。
許せなかったのは不平等。
納得できなかったのもまた、不平等だった。
富める人間がいて、飢える人間がいる。
何故助け合えないのか。
同じ人間ならば、助け合えばいい。
隣人や友人同士が助け合えるのなら、隣町が、離れた街が助け合ってもいいはずだ。
力によって何もかもが変わってしまうこの世界のルールがなければ、世界は一つになれるのに。
文句を言う輩を黙らせることが出来ればと、彼は技を身に着けた。
そして戦いの中で気づく、一撃必殺という言葉の遠さを。
急所を的確に狙い打てば殺せるが、確実ではない。
結局のところ武器に頼るしかないのだと、どんな武人でも諦める夢。
( `ハ´)「面白い、やってみるアル!!」
見たかった。
ぜひとも、見たかった。
世界の正義を名乗るジュスティアの騎士が放つ一撃必殺。
常人離れした筋力を獲得し、技を力でねじ伏せるほどの人間が言う一撃必殺を。
任務も、義務も。
シナーの心には、幼少期からの夢が満ち溢れていた。
これまでに多くの武術家が夢見て到達できなかった幻想の一つ。
仮にそれが完成していたとしたら、それを打破したい。
幻想は幻想のままだと。
夢は夢のままだと。
全てを、否定してみせたい。
(*‘ω‘ *)「言い残すことは?」
( `ハ´)「夢見たまま死ねアル」
直後にティングルが見せた構えは、あまりにも無防備だった。
両肩を脱力させ、視線だけはこちらに向けた姿。
まるで幽鬼のようだが、下半身が語るのは圧倒的な加速への用意。
速度、そして脱力。
先ほどシナーが見せた消力の亜種とでも言おうか、緊張と緩和の差による威力の増大を狙った攻撃。
なるほど、とシナーは内心で溜息を吐いた。
結局のところ、打撃の威力を高めるには脱力が欠かせないのだ。
最速で放つ一撃を的確に急所に当てる。
431
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:12:21 ID:/v63KFhk0
それが、ティングルの言う一撃必殺の正体だ。
これは誰もが考え、そして挫折するものだ。
急所に当たりさえしなければ、何も恐れなくていい。
片腕を犠牲にすれば、十分に対応できる。
自分の左肩をティングルに向くように捻り、備える。
刹那。
何かが、シナーの背後から頬を掠めていった。
(;`ハ´)「あ?」
直後に銃声。
目の前では、ティングルが膝を突いていた。
その表情は呆気に取られており、動揺の色が浮かんでいる。
(*゚ω゚ *)
<=ΘwΘ=>『同志!!』
(;`ハ´)「な」
<=ΘwΘ=>『この糞尼!!』
(;`ハ´)「止めろ、撃つな!!」
――警告は、僅かに遅かった。
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432
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:14:15 ID:/v63KFhk0
[::-■=■]『はぁ……はぁ……!!』
ギコタイガーは膝を突き、肩で呼吸をしていた。
武装は全て使い果たし、高周波振動と電撃を同時に放てる警棒は折れ曲がっている。
地下からのワイヤレス式の電力供給がなければ、こうしていることすらできていない。
目の前に転がるのは侵入を試みたストーンウォールの兵士たち。
そして、背後に転がるのもまた、ストーンウォールの兵士たちの死体だ。
[::-■=■]『ったく……てこずらせ……やがって!!』
防御に特化した棺桶でも、ここまで耐えきることは難しかっただろう。
強力な磁力、そして煙幕弾がなければ持ちこたえることは不可能だった。
特別にあつらえた装甲はその防御性能を失い、銃弾を曲げたり防いだりすることはもうできない。
満身創痍。
死に物狂いで襲い掛かってきた人間達は控えめに言っても強敵だった。
科学力の差が勝敗を分けたと言っても過言ではない。
[::-■=■]『う……!! 雄おおおおおお!!』
しかしそれでも、ギコタイガーは咆哮を上げた。
疲弊しきった体でも、その声は上げずにはいられなかった。
勝利を確信し、己の達成した偉業を知らしめる叫び声は、ノーザンライツ内に木霊した――
ノリ, ゚ー゚)li「……何かぶつぶつ言ってるねぇ」
(゚A゚* )「大方、自分が英雄にでもなった夢やろ、しょうもない」
――彼の耳に聞こえるのは、彼の死に際に放った雄叫びの残響。
目に映るのは勝利の名残だけだった。
現実とは違うことに気づけぬまま、彼は幸せな夢を見る。
幸せな夢がいつまでも、そう、いつまでも続くのだ。
433
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:18:05 ID:/v63KFhk0
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\| ̄¨| \ \>=彡 | \/,x=ミ / . -‐========‐- \ x=ミ /
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ノーザンライツ自体に何かしらの細工があることは、調べるまでもなく分かっていることだった。
十字教の要であることに加えて、十字教の重鎮が住まう施設ならば、それは必然。
防御に特化させた仕掛けが複数あることは想定しており、それらを打破するために備えはしていた。
ノー・ガンズ・ライフたちが用意したのは、大量の高性能爆薬だった。
建物の壁を破壊するために用意したものだったが、唯一の入り口を塞ぐ厄介な棺桶を相手に使うことを躊躇いはしなかった。
それだけ相手の用意が厄介であり、一度に多くの犠牲を出してしまったことが決断を速めた。
加えて、磁力を使っていることは明白であり、それを利用しない手はなかった。
自分自身が移動する時にだけは磁力を弱め、防御に徹する時は最大出力で対応する。
実に分かりやすい相手だった。
クロマララー・バルトフェルドが死んでしまったのは非常に手痛い代償だったが、得たものはあった。
相手は、究極的な馬鹿ということが分かったのだ。
(゚A゚* )「残りの爆薬は?」
答えたのは、ジャンヌ・ブルーバードだった。
ノリ, ゚ー゚)li「さっきの扉1枚ぐらいだねぇ。
でも、内側はそこまで手厚くないって情報だよ」
(゚A゚* )「しゃーない、最悪は高周波ナイフで蝶番を切り落とせばえぇ。
残りはこの中にいるのは間違いないはずや!!
ええか、ここで殺さな、ウチらが殺されるんや!!
応酬の連鎖はここで終わりにするんや!!
マイノリティがノーマルになるんなら、ここしかないで!!」
434
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:18:25 ID:/v63KFhk0
控えている仲間たちに声をかけ、世界最後の悪役になる覚悟を決める。
内藤財団がその役を担おうとしていたようだが、実際は違う。
彼らが代弁するのは大多数の意見であり、世界の日陰に生きてきた人間の声ではない。
ここで立ち向かわなければ、マイノリティは駆逐の対象となり、これから先の世代の一部を切除することになる。
性とは人の命そのものだ。
辛みを好む人間がいれば、苦みを好む人間がいる。
それと同じこと。
それを否定する世界は間違っており、それを前面に押し出そうとする世界は決して受け入れてはならない。
これは自分たちの存在を否定させないための戦いであり、そのために悪になると決めた人間達の行動だ。
故に、虐殺と言われる行為に手を染めようとも、一向にかまわなかった。
自分たちと同じマイノリティが虐げられてきたように、彼らもまた、それを実行に移すだけに過ぎない。
不毛な応酬と言えばそれまでだが、それがここで終わるのならば、決して不毛ではない。
中央の礼拝堂に街の生き残りがいるのもそうだが、教皇のクライスト・シードがまだ見つかっていない。
街の外に通じる地下通路が存在している可能性があるため、早めにこの建物を崩落させなければならない。
だが残された爆薬の量では、それは叶わない。
残された手段は、焼き払うことだけだ。
(゚A゚* )「油断せず行くで!!
さっきみたいなけったいな装置がないとも限らん。
クリアリング、報告を徹底するんや!!」
建物内全てを消毒すれば、いずれにしても十字教の権威は失墜する。
十字教という巨大な組織がなくなれば、マイノリティの居場所は確保できる。
宗教とは価値観。
ならば、その価値観が瓦解すれば、差別や偏見が変わるのは間違いない。
6人一組を原則とし、ノーたちは建物中に散り散りになった。
無論、彼女を筆頭とする腕に覚えのある者達は礼拝堂に通じる扉の前に立っていた。
これから行うのは、間違いなく虐殺行為になるものだ。
逃げ場を奪い、最後にすがるものとして神を選んだ哀れな十字教徒を殺す。
各々、ライフルの残弾を確認し、準備が整ったことを確認し合う。
先陣を切ることになったのは、ジャンヌ。
ノリ, ゚ー゚)li『握り拳と握手は出来ない』
両腕に“マハトマ”を装着し、続けて別の棺桶の起動コードを入力する。
ノリ, ゚ー゚)li『忘れないで。私だって男の子に愛してほしいと言っているだけの、ただの女の子よ』
小型ポーチの形をしたコンテナに収められていた布を取り出し、それを眼前に掲げる。
すると、その布が一瞬の内にはためきを止め、一枚の盾の様に固まった。
携帯用護身布を使用する“ノッティング・ヒル”は携帯性に優れ、電流によって硬度を変える繊維によって防御と攻撃の両方を可能とする。
扉に右手をかけ、左手はノッティング・ヒルを盾として構え、上半身を守る。
その背後で、仲間たちが銃を構え、いつでも射撃が可能な状態にあった。
435
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:18:52 ID:/v63KFhk0
ノリ, ^ー^)li「よーし……」
次の瞬間、豪華な装飾を施された重厚な扉が冗談の様に吹き飛んだ。
マハトマの筋力補助だけでなく、ジャンヌ自身の膂力とセンスの成す技だ。
宙を舞った扉が、厳かな空気の礼拝堂に並ぶ椅子をいくつも潰す。
部屋の中央にある巨大な十字架を囲む形で並べられた木製の椅子は、恐らくそれ一つだけでも数百万ドルの値が付くほどのアンティークだ。
高い天井から差し込む日の光が部屋を程よく照らし出し、壁画や天井画の鮮やかな色合いが目に付く。
ノリ, ^ー^)li「ジャジャーン!!
どうもー、神の使いです!!」
十字架の足元には、身を寄せ合って怯えすくむ老若男女がいた。
数にして100人ほどだろうか。
誰も手に武器を持たず、十字架だけを持っている。
女子供は泣きだし、男は十字架を握りしめて祈りを捧げている。
諦めたか現実逃避をしているのか、穏やかな表情を浮かべている者さえいる。
ノリ, ^ー^)li「神様にお祈りは済んだ?
じゃあ、ここまで!!」
背後でライフルが火を噴いた。
容赦なく一斉に放たれた銃弾がジャンヌの視線の先にいた人間を、肉の塊にしていく。
悲鳴も祈りの声も、嘆きの声すらも、銃声が上書きする。
次々と死体が増える中、ジャンヌは疑念を抱いていた。
数が少なすぎる。
ノリ, ゚ー゚)li「地下室でもあるのかな?」
「正解です」
その声は、十字架の裏から聞こえてきた。
出てきたのは、スーツ姿の男だった。
( ・∀・)「この十字架をどかすと、教皇とその愉快なお仲間たちがみんな隠れていますよ」
ノリ, ゚ー゚)li「民間人は?」
( ・∀・)「地下は二重構造になっていて、民間人が手前、その奥に教皇たちです」
ノリ, ゚ー゚)li「情報ありがとう。 で、君は誰?」
( ・∀・)「マドラス・モララーです。
親しい人もそうでない人も、皆モララーと呼びます」
ノリ, ゚ー゚)li「そうか、モララー。
その情報が正しいかどうかは分からないけど、一応感謝しておくよ」
436
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:19:55 ID:/v63KFhk0
( ・∀・)「いえいえ、お気になさらず。
で、行きます? それなら、私が色々と案内しますよ」
ノリ, ゚ー゚)li「遠慮しておくよ。 罠でない保証がない」
( ・∀・)「あらら、残念。
では、私は行かせてもらいますね」
ノリ, ゚ー゚)li「狙いは何?」
( ・∀・)「愛を手に入れるんです」
ノリ, ゚ー゚)li「愛?」
( ・∀・)「えぇ、愛。 私ね、こう見えて前は牧師をやっていたんです。
皆が愛って言葉を使うから、私はそれが欲しくなりましてね。
人だけが持つ愛ってやつが、どうしても手に入れたいんです」
ノリ, ゚ー゚)li「……あっそう。
だけど、モララー、君はここで死んでもらうよ。
狂人のふりをしているセントラスの人間なら、生かす理由はないからね」
( ・∀・)「どうしても駄目ですか?
私がこれからすることは、決して皆さんの損にはなりませんよ」
ノリ, ゚ー゚)li「それは言葉だけだからね。
じゃあね」
手を上げ、発砲を促す。
無慈悲に放たれる無数の銃弾。
しかし、モララーはその場から動くことも、目を閉じることもしなかった。
( ・∀・)「……私はね。 神とやらに愛されているみたいなんですよ」
だが、銃弾は一発も彼の服に穴を開けなかった。
両手を広げ、不敵な笑みを浮かべる。
( ・∀・)「だけど、愛が分からない。
己の愛の為に他者の愛を踏みにじる君達なら――」
ノリ,;゚ー゚)li「ちっ!!」
銃弾が当たらない芸当なら、先ほど見たばかりだ。
ジャンヌは迷わずに接近戦を選び、疾駆した。
ノッティング・ヒルを細長くし、槍の様に突き出す。
金属以外の物も曲げられるのならば話は別だが、そうでなければこれでトリックが暴ける。
( ・∀・)「――私に、愛を与えてくれるかもしれませんね」
437
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:20:50 ID:/v63KFhk0
膂力を強化した一投は、だがしかし、当たるかと思われたその直前に眼前に掲げられた小型のコンテナに阻まれた。
人間の腕力ではない。
ドーピングをしているか、棺桶を使っているに違いない。
だが、攻撃を防いだということは、こちらの攻撃を危険視したということ。
攻撃は通じる。
銃弾は駄目だが、近接戦闘ならば問題はない。
( ・∀・)『食えるときは無礼な奴を食うんだ。 野放しの無礼な奴を』
コンテナを眼前に掲げたまま、モララーがそう告げた。
中身が空になったコンテナが地面に落ちると、そこには口元を覆い隠す異形の仮面があった。
( ・曲・)『さぁ、愛の対話をしましょう!!』
ノリ, ゚ー゚)li「ペトロヴィッチ、タルコフ!! こいつの相手を!!」
ソルダットに身を包んだペトロヴィッチ・グラスゴーとタルコフ・ホップスターが前に出る。
([∴-〓-]『任せろ』
([∴-〓-]『神父を殺すのが夢だったんだ』
ノリ, ゚ー゚)li「拳で殺せ。 油断するなよ、さっきのあいつと似たような装置を使っているぞ」
( ・曲・)『では、どこまでの覚悟があるのか見せてもらいましょう。
……ねぇ?』
地響き。
そして、巨大な振動が一同の足元から生まれた。
ノリ,;゚ー゚)li「なんっ?!」
ラース・オブ・ゴッド
( ・曲・)『神 の 怒 り。 教皇たちは“ラスゴ”と呼んでいましたね』
次の瞬間、モララーと十字架の周囲を残して全ての地面が消失した。
438
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:21:54 ID:/v63KFhk0
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第十二章 【 Ammo for Rebalance part9 -世界を変える銃弾 part9-】 了
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439
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 20:22:18 ID:/v63KFhk0
これにて本日の投下は終了となります
質問、指摘、感想等あれば幸いです
440
:
名無しさん
:2022/12/05(月) 21:08:23 ID:1mqPoQOc0
乙
441
:
名無しさん
:2022/12/07(水) 20:45:11 ID:vP1mjYos0
乙乙
ティングルさん普段でも戦闘中でもぽっぽ言ってるくせに一回ぼって言ってるwwwとか笑ってたらまさかの……
モブ兵士くんさぁ……
仕方ないとはいえ敵も味方もネームドの人達が結構やられてくねぇ
今回別にいいと思うんだけど、あえて口うるさく言わせてもらうなら
>>404
一人またひとりと銃弾に倒れていった。
ここの一人は平仮名か漢字かどっちかに合わせた方がいいかもって思うんだよね。
442
:
名無しさん
:2022/12/07(水) 22:54:43 ID:4jbZNraE0
おつ!
ちんぽっぽさん流石に戦争のど真ん中で横槍想定してないとかないよね…?
それにしてもシナーがかっこいい
443
:
名無しさん
:2022/12/08(木) 19:09:11 ID:SDhe36uk0
>>441
いつもありがとうございます!
確かに、合わせた方がいいですね
あともうちょっとだったか……
444
:
名無しさん
:2022/12/25(日) 21:01:43 ID:/AJ47ZnE0
乙
ティンカーベル編の時からモララーの得体の知れなさ好きだなあ
445
:
名無しさん
:2023/01/23(月) 20:38:41 ID:shnMO2vc0
来週の日曜日、VIPでお会いしましょう
446
:
名無しさん
:2023/01/23(月) 21:58:00 ID:44PD4wHo0
ッシェイ
447
:
名無しさん
:2023/01/25(水) 22:29:19 ID:i0tzziqA0
きたな!!あけおめ!!
448
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:40:29 ID:cQao1NtM0
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日が傾き、夏の空に朱が滲む頃。
戦火は世界中に飛び火し、燃え広がっていた。
その中で最も激しい戦闘を繰り広げていたのは、間違いなくイルトリアだ。
だが。
周辺への圧倒的な破壊を見せた戦いであれば、それは別だ。
地形が変わり、生態環境が変わったのは別の戦場だった。
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深海を航行していたレッド・オクトーバーがストラットバームに通じる海底トンネルに到着した時、すでに予定の時間は過ぎていた。
そこから更に、ドックへと通じる扉が停電の影響で開かず、潜水作業用の棺桶を使って開くしかなかった。
艦に搭乗していた全員がこうした状況への訓練を積んでおり、尚且つマニュアルがあったことが唯一の救いだった。
だが、到着してから追加で2時間も費やしたのは完全な誤算であり、致命的失敗だった。
頭上で分厚い扉が開き、明かり一つないドックへと浮上していく。
棺桶で武装した兵士たちが続々と降り立ち、施設を復旧させる為に奔走した。
無線で施設内の仲間に呼びかけるも、酷いノイズだけが返ってくる。
一体どれだけの大部隊がこの施設に攻め込んできたのか、想像するだけで寒気がした。
ティンバーランドの要石とも言えるこの施設は、難攻不落であると誰もが信じていたのだ。
〔欒゚[::|::]゚〕『くそっ、通信は相変わらずか……!!』
〔欒゚[::|::]゚〕『……酸素濃度が低い、換気システムもダウンしているらしい。
生存者がいるかどうか、怪しいな』
地下に深くに作られたこの施設の泣き所は、空気だった。
酸素濃度を保つための換気システムには予備電源があてがわれているが、現在全ての電源が失われている。
脱出しようにも各所に設置された侵入者対策の扉が冷たくそれを拒む。
天蓋と呼ばれる垂直方向の隔壁は、停電したとしてもそれが閉鎖するよう設計されていた。
侵入者対策のための装置が転じて、中にいる者達を閉じ込める蓋となったのである。
地上に近い所にいた人間は助かるが、そうではない非戦闘員たちに待っているのは酸欠による死。
〔欒゚[::|::]゚〕『酷いマネしやがる……』
暗視ゴーグルが映す世界の片隅に、作業着に身を包んだ死体が転がっていた。
ハート・ロッカーの整備を担当していたのか、それとも、この施設の電源を復旧させようとしていたのか。
中には、抱き合ったまま息絶えている同志たちがいた。
もっと早く到着していれば、この中の誰か一人でも救えたのではないかと思うと、誰もが胸を痛めた。
だがとにかく、ストラットバームはティンバーランドにとって重要な拠点であるため、一刻も早く電源を復旧させ、使用できるようにしなければならない。
作戦はまだ続く。
世界を変えるための戦いがすぐに終わらないことは、誰もが理解している。
世界の正義を名乗る街と、世界最強の街を地図から消すには時間がかかる。
449
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:40:54 ID:cQao1NtM0
逆を言えば、その二か所を落としてしまえば、抵抗する街はなくなるだろう。
〔欒゚[::|::]゚〕『こちらゴードン、レッド・オクトーバーと発電機をケーブルでつなぐ!!
一気に活を入れてやれば復旧できるぞ!!』
レッド・オクトーバーもストラットバームも、その主たる電力はニューソクによってもたらされるものだ。
停止したニューソクを再稼働させる手段の中で、最も簡単なのが膨大な電力を流し込むことによって再稼働を促す方法だ。
通信を聞いた人間達によって、すぐさまケーブルが発電室まで運ばれてくる。
作業は慎重に行われ、すぐにレッド・オクトーバーから電力が流し込まれた。
〔欒゚[::|::]゚〕『よしっ、でんげ――』
――そして、ストラットバームは地図上から跡形もなく蒸発した。
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第十三章 【 Ammo for Rebalance part10 -世界を変える銃弾 part10-】
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AM11:48
ストラットバームで発生したニューソク2基の爆発の衝撃は、たちまち周囲に大きな影響を与えた。
地下深くで発生した爆発はまず大地を揺るがし、観測史上最大の地震を引き起こした。
クラフト山脈では大規模な雪崩が発生し、ストラットバームに面していた一部は一瞬で蒸発、残りは麓の町や森を襲った。
天蓋は溶けてなくなり、ハート・ロッカーを地上に押し上げるリフトを通じ、炎と衝撃波が直上に吹き上がった。
450
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:41:15 ID:cQao1NtM0
それが、世界中ほぼ全域で観測されるほどの中間圏を越える程のキノコ雲を作り出した。
さながら銃腔、あるいは砲口の様な形となって放たれたそれらのエネルギーは、余力だけで半径10キロの全てを焼き尽くした。
湖を一瞬で蒸発させる熱を帯びた風が森を訪れ、燃え上がり、舞い上がった砂埃が新たな丘を作り、それまであった丘が埋もれ、削れて消えた。
音の振動が空にいた鳥を叩き落し、風がそれを離れた場所に押し飛ばす。
生まれた風と振動は、離れた位置で砲撃の準備をしていたハート・ロッカーの背中を容赦なく襲った。
如何に安定性のある三角形のフォルムをしていても、ニューソクが生み出す暴風には耐えられなかった。
前のめりに転倒し、更に悪いことに、砲身が地面にぶつかった衝撃で横転してしまったのだ。
前後への転倒対策は出来ているが、横倒れになるのはほとんど考慮に入れていない。
無限軌道を展開し、足のように使うハート・ロッカーの形態が仇となっていた。
起き上がれないことは無い。
だが、あまりにも時間と労力がかかるため、それはまだ一度もテストしてなかった。
全体が安定性に優れる三角形の姿をしているのに加えて、規格外の重量を持つハート・ロッカーが転倒するなど有り得ないと考えたからだ。
(;’e’)「があっ?!」
転倒した瞬間、操縦室にいた全員が、例外なくパニックに陥った。
地震が起きたかと思えば、次の瞬間にはハート・ロッカーが倒れていたのだから無理もない。
イーディン・S・ジョーンズを始めとした全員が、シートベルトを着用していたことに心から感謝した。
もしも体が固定されていなければ今頃は頭が爆ぜたザクロの様になっていたに違いない。
(;’e’)「何が起きた?!」
(::0::0::)「不明です!! 後部カメラに切り替えます!!」
そして映し出されたのは、真っすぐに立ち上る炎の柱と巨大なキノコ雲。
その光景を見た瞬間、ジョーンズは射精していた。
(;’e’)「お……おぉ……!!
奇麗だ……!! ティンカーベルで見た物とは比べ物にならんな……!!
そうか、ストラットバームとレッド・オクトーバーの2基の光か!!
はははっ、ストラットバームが吹き飛んだだけはあるな!!
その価値があるぞ、これは」
(::0::0::)「ストラットバームが?!」
(;’e’)「あれはニューソクの光だ、間違いない。
今の内によく見ておきたまえ。
生きている間にあれを二度も見られるとは、いや、生きてみるものだ」
ジョーンズは興奮のあまり、落ちそうになりながらも身を乗り出して画面を食い入るように見つめていた。
パネルを操作し、ズームし、血の様に赤い炎を凝視する。
圧倒的な破壊力。
その付近にいた者は最後に光を見て、白い世界に消え去ったことだろう。
451
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:41:51 ID:cQao1NtM0
資料で知る限り、その光が生み出す熱は太陽に匹敵するほどだという。
有害な物質は生み出されないが、その破壊力は街一つを余裕で消し去る。
人は、本能的に強い物に惹かれる性質がある。
動物でも、道具でも。
強い物は美しい。
そして、その美しさを手中に収めたいと思うのは人間であるが故の本能だ。
(;’e’)「私はしばらく映像を見ているから、復帰作業は君たちでやりなさい。
ギルターボに協力させるといい」
投げやりにそう言って、ジョーンズは画面を見つめ続ける。
(::0::0::)「で、ですが横転時のマニュアルはまだ不完全で……
それに、侵入者もまだ……」
(#’e’)「マニュアルや他人に頼らないと何もできないのか君たちは!!
頭を使ってくれよ、頭を!!
何のための“保険機能”があると思っているんだ!!
侵入者がまだ生きているっていうなら、さっさと殺してくればいいだろう!!」
激昂した口調でジョーンズがそう告げると、誰もが口を紡いだ。
彼のこのような姿を、これまでに見たことがない。
どんな状況下でも余裕を持った横柄な態度を崩すことなく、的確に対処をしてきた知的な姿の欠片もない。
プレゼントをもらった子供の様に、今はニューソクの爆発に目も心も奪われている。
(’e’)「はぁ……!! いい……!!」
故に、自分たちに迫っている危機に対する警戒心があまりにも疎かになっていた。
ハート・ロッカーに用意していた警備では圧倒的に力が不足していることは、誰も考えていなかった。
452
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:42:14 ID:cQao1NtM0
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ストラットバームまだ地図上にあった時、ハート・ロッカーには二人の招かれざる客がいた。
二人の目的はハート・ロッカーの無力化。
そしてそのために下した決断は、心臓部であるニューソクを破壊することだった。
ニューソクの破壊が大規模な爆発に直結することは承知しており、文字通り命がけで止めることを決めていた。
ニューソクがあると思わしき胴体に入る前に、二人は可能であれば砲塔の無力化を先に行うことにした。
多少の危険が伴ったとしても、ニューソクの停止までに時間がかかるようであれば、その間に砲撃によってどこかの街が吹き飛ぶ可能性が生まれてしまう。
巨大な移動基地としての機能も有するハート・ロッカーには必然、乗り込んでくる侵入者に対する迎撃要員がいる。
通常の基地と違って機体の中を移動することが前提となっていない作りであるため、その中での作業に特化した装備が必要だった。
その為に選ばれたのが、先天的あるいは後天的に身長や四肢が通常の人間よりも小さな人間だ。
彼らは専用の棺桶を身に着け――上半身部分はコンセプト・シリーズのそれ――、まるでコバンザメの様にハート・ロッカーの表面を滑るように移動する。
電磁石を利用したその移動速度と軌道は常人にとっては異次元のものだ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「しっ!!」
だが、ギン・シェットランドフォックスにとっては問題なかった。
/▽▽『ラララララ!!』
高機動であっても、移動できる個所が装甲表面に限定されている以上、攻撃の予期は容易い。
/▽▽『痺れろ!!』
453
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:42:53 ID:cQao1NtM0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「断る」
振り下ろされたのは異形の腕。
関節が三つあり、それを振るえば意思のある三節混が出来上がる。
回避行動を始める前に彼女の耳が、その腕に通る高圧電流の音を聞き取っていた。
高機動に加え、ほぼ全ての関節が通常の人体よりも一つ多くあり、さながら昆虫の様な構造をしていることを一瞥しただけで把握する。
しかしどれだけ棺桶の関節の数を増やしたところで、人間の関節はそれに対応しきれない。
使用者が自分の四肢以外を使うことに長けていなければ、それを使いこなすことなど決してできない。
ギンに襲い掛かってきている襲撃者は、間違いなく四肢を欠損し、義手の扱いに長らく長けている人間だった。
/▽▽『力こそが!!』
戦い方にも切れがあり、素人とは思えない。
元軍人か、その類だろう。
ハハ ロ -ロ)ハ「うるさいバカ」
それまで砲塔に対する工作を行っていたハロー・コールハーンが、横合いから男に襲い掛かった。
手に持っているのは巨大なパイプレンチだ。
振り下ろされたそれを、男は反射的に腕で防御する。
だがすでにハローはパイプレンチを手放しており、ギンに投げて寄越された高周波振動のナイフを深々と男の胸部に突き立てていた。
使用者の体の大きさに関わらず、その中心部を狙えば何かしらのダメージは期待できるためだ。
小型で高機動となれば、装甲の厚みはあってもBクラス程度。
その読みは的中し、男は一撃で息の根を止められていた。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「どうじゃ、砲塔部の破壊はできそうじゃったか?」
ハハ ロ -ロ)ハ「いいや、やっぱり駄目ダ。
高周波ナイフでもダメだろうな、単純に装甲が厚すぎル。
砲弾に細工をして爆発させて、ニューソクの誘爆を狙うカ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ニューソク周辺の装甲は一番堅牢じゃろうな。
誘爆に備えていないとは思えん」
ハハ ロ -ロ)ハ「やっぱりそう思うカ。
……よし、機関部に行くゾ」
ハローは死体からナイフを回収し、逆手に構える。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「そっちには爆薬が通用するといいんじゃがな」
ハハ ロ -ロ)ハ「強度が気になるのは同意ダ。
だが、万が一に備えてのメンテナンスを考えると、入り方があるはズ。
状況によっては、ニューソクの停止よりも、操縦室に行って皆殺しにするしかなイ」
454
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:43:15 ID:cQao1NtM0
それが出来れば苦労はしないが、選べる手段はその全てが例外なく玉砕覚悟の力技しかない。
これまでに経験してきたほとんどの作戦は、緻密に計算し、準備した上で答え合わせをするようにして遂行されてきた。
イルトリアとジュスティアの諜報員たる者、賭けに出るような真似は最終手段でなければならない。
有益な情報がないまま、時間が差し迫っている今は、下調べなどする時間がない。
とうに覚悟を決めている二人だったが、まだ、完全に諦めているわけではなかった。
自爆は確かに有効かもしれない。
だが仮にそれが有効でなかった場合、このハート・ロッカーを止める人間がいなくなる。
既に部下は退避させているため、ここで戦えるのは二人だけ。
他に何か手がないか、それを考えるのが賢明だ。
ハハ ロ -ロ)ハ「こういう場合、機関部はどこにあると思ウ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「定石で考えれば、一番装甲の厚い部分じゃな。
じゃが、こいつの一番装甲の分厚い脚部は左右に展開できる上に、さっき見てきたからの。
と、なると胸部か腰の部分じゃな。
……胸部じゃ」
ハハ ロ -ロ)ハ「理由ハ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ジョーンズは変態じゃが優秀じゃ。
やつなら、すぐ傍にニューソクがあった方が都合がいいじゃろう。
すぐにメンテナンスが出来るとなると、奴がいる操縦室の近く。
外見的に、このハート・ロッカーで脚部に次いで堅牢なのは胸部じゃ。
そして、胸部には――」
ハハ ロ -ロ)ハ「あぁ、そうカ。
あの死体があったナ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「死体に起動コードを入力させていた。
奴らの要石が壊れれば、ハート・ロッカーは動かなくなる。
こいつは巨大な棺桶じゃ、ならば使用者が死ねば機能が停止するのは道理。
となれば、ますます壊したくないじゃろう」
ニューソクを破壊せずとも、起動コードを入力する際に使った物を破壊すれば、ハート・ロッカーを無力化できる。
手段はまだ残されていた。
ハハ ロ -ロ)ハ「操縦室を襲えば、一石三鳥ぐらい狙えそうダ。
幸先がいいナ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「まぁ、爆薬の一つでも投げ込んでやれば景気づけになるじゃろ」
ハハ ロ -ロ)ハ「で、爆薬はどこにあるんダ?」
455
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:43:35 ID:cQao1NtM0
肝心な部分について、ハローから質問があった。
それを聞いた途端、ギンは目を丸くして驚きを露わにする。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「は? お主持っとらんのか」
ハハ ロ -ロ)ハ「そんな危ないもの、持っているわけないだロ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……はぁ、自力で殺して回るしかないかの」
正直なところ、現地である程度の物を手に入れられると思っていたが、これまで殺してきた兵士が持っていたのは精々手榴弾。
とてもではないが、装甲を破壊したり一度に大勢を殺せるような高性能爆薬ではなかった。
持ってきていた爆薬は基地のニューソクに仕掛けてしまい、当然、予備はない。
ハローならあるいは持っているのではないかと思ったのだが、彼女もどこかに仕掛けてきたようだ。
ハハ ロ -ロ)ハ「先頭は私が行こウ。
どうせほとんどが生身の人間なら、私の棺桶を使った方が合理的ダ」
爆薬で解決できないならば、手間暇をかけて殺し尽くし、破壊する。
ニューソクを破壊しなくて済むのであれば、彼女たちが生還する道が開ける。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「なら、せめて先に何があるかぐらいは教えてやろうかの。
……入り口は、どうやらあそこのようじゃの」
ギンが指さしたのは砲塔の横、背中に位置する場所にある小さな扉だった。
よく見れば凹凸がそこに向かって続いており、一種の梯子の役割を果たしているのだと分かる。
把手に相当する物が見当たらないため、どこかに開錠するための仕掛けがあるのだろう。
ハハ ロ -ロ)ハ「まぁ、あれしかないナ。
急ぐゾ」
その時、ハローが仕掛けた罠の一つが作動し、ハート・ロッカーの動きが止まった。
まるで歯車に挟まった砂粒。
押し潰そうとする力に対し、小さいながらも懸命な抵抗を見せる。
棺桶の装甲の堅牢さが幸いし、無限軌道を動かす装置に負荷をかけているのだ。
その隙に二人は足の力だけで凹凸を駆け上がり、引手のない扉に手をかける。
すると、手をかけたところ場所の内側から、青白いテンキーが魔法の様に浮かび上がった。
触った個所にパスワードを入力させるということは分かったが、その仕組みはこれまでに見たことがない技術が使われていた。
ハハ ロ -ロ)ハ「……分かるカ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「分からん。 じゃが、力技でいけるかもしれんぞ」
ハハ ロ -ロ)ハ「指をかける場所がないゾ。
隙間にナイフを刺して折れても困るナ。
それ一本しかないんダ」
456
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:44:06 ID:cQao1NtM0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「まぁまぁ、ちとやらせてみろ」
一見して滑らかな表面だが、塗装や製造工程の中で生まれた微細な傷やサビは隠せない。
指を這わせ、具合のいい場所を探る。
二人が立つには狭く、不安定な場所であるために踏み込みも満足には出来ない。
ハハ ロ -ロ)ハ「ははは、それで開いたらビールを奢ってやるヨ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「抜かしたな。
なら、ジュスティアの酒場で店が潰れるまで飲んでやる」
ゆっくりと。
だが、確実に扉が開いてゆく。
彼女の膂力、握力、そして下半身を総動員してやれば出来ないものではなかった。
如何に自動扉とは言っても、安全装置が必ず存在する。
ハハ ロ -ロ)ハ「……馬鹿力ダ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ちょっとした工夫じゃよ。
ほれ、手伝え」
指が十分入るだけの隙間が生まれ、ハローがすぐに加勢する。
すると、急激な負荷に対する防御策としてか、扉が自動で開き切った。
閉まる前に二人は中に入り、すぐに周囲を警戒する。
扉が背後で閉じ、重厚な駆動音が反響する空間が目の前に広がる中、ギンの聴力は必要な音を聞き漏らさなかった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……ニューソクの駆動音じゃ。
それに、人間も大勢おる。
当たりじゃ」
ハハ ロ -ロ)ハ「手ごろな武器でも欲しい所だナ」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「贅沢は言えんさ。
ん――」
ギンの背筋が一瞬で凍り付き、次の瞬間には声が出ていた。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「――何かに掴まれ!!」
直後、世界の全てが反転した。
457
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:44:27 ID:cQao1NtM0
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二基のニューソクが爆発した頃、セントラスにある大聖堂、ノーザンライツの地下は恐怖で満ち溢れていた。
地下に作られたシェルターは、長い年月をかけて建造された最後の砦だ。
そして、有事の際に侵入者を一掃するための装置として用意されたのが、“神の怒り”と名付けられた物だった。
シェルター周囲のみならず、ノーザンライツ内にある全ての床を同時に一瞬で崩落させ、最後には十字架とその周囲にいる信心深い人間だけが生き残る装置。
それが起動したことは振動と轟音が如実に物語るが、その装置の存在を知るのは高位の聖職者のみ。
避難に成功した一般人にとっては、何が起きたのかは全て想像するしかない。
もっとも、一般人と聖職者達ではシェルターの階層と構造が異なり、最下層にいる者達の盾として切り捨てられる存在なのだが。
全部で二層あるシェルターの内、一層目にいるミッシェル・エルレガーデンは娘と夫の三人で抱き合いながら、全てが終わるのを待っていた。
彼女たちのいるシェルターは空間の隅に非常食と水が積み上げられ、天井に等間隔で吊るされた電灯以外何もない広い空間だった。
「神よ……」
首から提げた十字架を握りしめて口から出るその名は、先ほどから何度も呟かれていた。
しかし一向に外からの知らせが入って来ないため、不安だけが募ってしまう。
夫のジェリコも、娘のソガンも、そしてミッシェルも一度は口にしたが、今は無言で待つだけだった。
長期休暇を利用してセントラスに来たために、このようなことに巻き込まれるなど、思いもしなかった。
ジェリコは素潜り漁をし、ミッシェルはそれを市場で売るというだけの、平凡な家庭。
これまで争いや暴力行為とは無縁の暮らしをしてきた一家にとって、これは間違いなく人生で最大の困難と言えるだろう。
頭上で重々しい音が響き、階段を下ってくる音が聞こえてきた。
一人分の優し気な跫音。
少なくとも、侵入者ではないだろう。
( ・曲・)『どうも、皆さん』
奇妙な仮面をつけた男が、爽やかな挨拶と共に現れた。
( ・曲・)『侵入者は全員撃退しました。
ご安心ください』
458
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:44:57 ID:cQao1NtM0
「おおっ、神よ感謝します……!!」
先ほど神の名を口にした男が十字を切り、両手を組んで膝を突く。
神への祈り。
誰ともなく、その動きに入ろうとした時、男が手で制して言った。
( ・曲・)『あぁ、いや、違いますよ?
撃退したのは私であって、神ではないです』
「えっ、あぁ、はぁ……」
( ・曲・)『でね、私は皆さんに質問をしに来たんです』
「質問?」
( ・曲・)『ここにいる皆さんは、きっと自分も含めてご家族を愛されていると思うのです。
その愛が持つ強さ、それはどれほどのものでしょうか?』
「は?」
( ・曲・)『愛は勝つ。
愛は強い。
愛があれば他には何もいらない。
ほら、世の中には愛について語る言葉がごまんとある。
ですが私はそれがイマイチ理解できないんですよ。
愛と金を天秤にかける言葉があるなら、金に実体があるように愛にも実像があるはずだ。
だけど、愛には実像がない。
愛していると口にしても不貞を働く者。
愛の尊さを口にしながらも我が子を傷つけ、殺める親。
愛と好意の違いは?
恋と愛の違いは?
愛が究極の感情なのであれば、何故破局するのか?
ここにいる皆さんは、少なくとも自分自身の命を守る為にここにいる。
ならば、自己愛がある。
その自己愛がどの程度の物なのか、ここで実験させてもらいます』
「な、何を言って――」
男は懐から円筒状の物を取り出し、そのピンを引き抜いた。
459
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:45:19 ID:cQao1NtM0
( ・曲・)『これはちょっと変わったガスでしてね。
濃度は薄めてありますが、その場の酸素をすぐに失わせる性質があります。
扉の開閉と換気システムはダウンさせてあるので、そうですね、この広さなら……
10分もあれば、酸素濃度は6%以下になるでしょうね。
そうすれば、一度呼吸しただけで意識を失い、絶命します。
ですが、私の手元に酸素マスクが3つだけあります。
この場にいる皆さんの中で、3人だけ助けてあげます。
どうか皆さんの持つ愛という感情で、答えを出してください』
そう言って、男は筒を投げ捨てた。
すぐに不可視の何かが噴出したのが、音で分かった。
即座にシェルター内は阿鼻叫喚の渦と化した。
「そんなこと、させない!!」
声を上げたのは、ミルスペック・オスビエだ。
建設業を営む彼の体は良質な筋肉で覆われており、ひとたび暴力を行使すればただでは済まない。
「そんな悪魔の契約、受け入れられるわけがない!!」
( ・曲・)『ならばどうします? 神に祈ります?』
「お前を倒して、ここを出ていく!!」
( ・曲・)『あぁ、それは白けるので止めてください。
知っていますか? 酸素が足りなければ、人は――』
「みんな、やるぞ!!」
その言葉に賛同するように、男たちを中心として皆が一斉に立ち上がった。
脅しに屈するのではなく、脅しに立ち向かう。
ジェリコも拳を握って立ち上がり、今まさに駆けだそうとしていた。
理不尽な困難に立ち向かうその姿は、この絶望的な状況下で輝いて見えた。
( ・曲・)『……無駄だって言えばいいですかね?』
その声を聞いた瞬間、ジェリコは立ち止まり、ゆっくりと腰を下ろした。
瞬時に何かを察したのだろうが、それが何なのかは、ミッシェルには分からなかった。
「うおおおおお!!」
雄たけびとともに走り出し、一気に襲い掛かる。
四方八方から攻められれば、武装していようとも生身の人間である以上は勝てるはずがない。
次の瞬間には男が倒され、皆でここから逃げ出す未来を誰もが想像した。
だが。
素手の拳が人間の胸に深々と埋まったり、蹴られた人間が宙を舞い、壁に叩きつけられたりする姿は現実の光景として受け入れられなかった。
460
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:45:57 ID:cQao1NtM0
( ・曲・)『そうやって暴れると、酸素が余計に薄くなりますよ?
ほら、今ならまだ助かる命がありますよ』
男の拳足によって倒された者達が痙攣し、口から白い泡を吹いているのを見ても戦意を保てる者はいなかった。
分厚い胸筋さえ冗談の様に陥没させられたミルスペックは、一目で絶命しているのが分かった。
「ひいっ!!」
( ・曲・)『選べないんなら、私が選んでもいいですか?
では、まずは子供から助けましょう。
この中で一番愛されている子供は?』
怯えながらも、子供たちが皆手を挙げた。
男は溜息を吐いた。
( ・曲・)『一番愛されていると思う子は、私のところに来てください』
最初は自制が効いていたのかもしれないが、親に背を押され、一人が走り出すと全員が一斉に走り出した。
我先にと走り、先を走る子供の服を掴んで引き倒し、男の傍に群がって行く。
あまりにも醜く、あまりにも凄惨な光景だった。
助け合い、慈しみの心の欠片も見られない。
男が殺すのは人の命だけではなく、これまでに築き上げてきた尊厳や信念といったものなのだと、ミッシェルは気づいた。
恐らく最もおぞましい殺人。
悪魔的発想を実行に移す精神性は、最早、男自身が悪魔であると言っても過言ではない。
ソガンを抱きしめたまま、成り行きを見守る。
( ・曲・)『一人だけです。
それ以外はいりません。
話し合うでもいいし、殺し合うでもいいので決めてください。
さて、後二人分ですが……』
子供たちは躊躇ったが、すぐに話し合いを始めた。
だがそれは長く続かなかった。
一人が誰かの肩を押し、それがきっかけとなって殴り合いが始まったのだ。
普段は仲の良かった者同士が、生き残りをかけて暴力に手を染める。
地獄の様な光景だった。
それを満足そうに眺めていた男は、芝居がかった口調で優雅に言った。
( ・曲・)『一つは自分の最愛の人を殺した人に渡しましょう。
ちなみに、残った時間は5分程度ですのであしからず。
あぁ、その間に私は楽しんでいますので』
男は子供たちのところに向かい、地面に倒れて泣いていた少女の傍に屈みこんだ。
歳はまだ一桁ほどだろう、非常に幼い顔立ちをしている。
( ・曲・)『君の名前は?』
「ひっ……!!」
461
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:46:23 ID:cQao1NtM0
( ・曲・)『大丈夫、悪いようにはしないよ。
君の名前を教えてほしいんだ』
「し、シンディ……」
( ・曲・)『そうか、シンディだね。
君は親に愛されていると思ってここに来たんだろう?
こうして君が倒れていても君の親はここに来ない。
それでも愛されていると思うかい?』
「ふぇ……」
( ・曲・)『君の親の愛を、試してみたいんだ。
協力してくれるよね』
答えが出る前に、男は行動していた。
無理矢理シンディの衣服を全て剥ぎ取り、髪を掴んで持ち上げたのだ。
( ・曲・)『私は今からこの娘を犯します。
だがもし、シンディの親がそれを見逃すというのなら、私はこのシンディにマスクを渡しましょう。
しかし他の皆さんにもチャンスを上げます。
我が子を私に差し出すのなら、マスクをその子に譲りましょう。
最後に犯された子だけがマスクを得られる、思いやりのリレーです。
さぁ、急がないと皆死にますよ』
シンディをその場に叩きつけるようにして降ろし、男はチャックを降ろして股間から陰茎を解放した。
その大きさは、子供の腕ぐらいの太さと長さがあった。
常人離れした膂力もさることながら、その陰茎の醜悪さはこれが悪夢であることを心から願う要因の一つとなった。
再びシンディを持ち上げ、小さな秘所にあてがう。
どう見てもそれを受け入れる状態にまで体が成熟していない。
それどころか、規格があまりにもかけ離れすぎており、そのまま殺してしまうのではないかと思うほどだ。
一方、シンディの両親は一向に動く気配を見せない。
我が子が今まさに犯されようとしているのに、確実に生殖機能に後遺症を与えかねない状況なのに。
なのに、動かないのだ。
否、動けないのだ。
動けば助からないことが確定するが、動かなければ確率が生まれる。
( ・曲・)『そー……れっ!!』
肉が避ける音と、少女の悲鳴。
未熟な体に突き刺さった陰茎には大量の血が付着し、さながら経血のようだ。
悲惨の一言に尽きるその光景に、流石に母親が絶叫した。
「止めてええぇぇ!!」
( ・曲・)『あ、分かりました』
462
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:47:01 ID:cQao1NtM0
驚くほどあっさりと男はシンディを開放した。
股関節が外れたからなのか、それとも避けた個所の問題なのかは不明だが、シンディはその場から動かなかった。
まるで壊れた人形の様に小刻みに痙攣し、鼻をすする声がしている。
( ・曲・)『残念、無駄に苦痛を受けただけですね』
直後、男がシンディの腹を蹴った。
衝撃で彼女の体が宙を舞い、母親にぶつかる。
それでも勢いは殺しきれず、母親ともども壁に叩きつけられた。
二人とも、微動だにしなくなっていた。
( ・曲・)『チャンスは今、潰えました。
さぁ、他には?』
我が子を思う気持ちを利用し、究極の天秤にかける。
名乗りを上げてこないのを、男は黙って見ていた。
周りではまだ子供たちが殴り合い、髪を掴み合い、首を絞めている。
大人たちは隅の方で別れの言葉を告げ、どちらが殺されるべきなのかを話し合っている。
( ・曲・)『残り1分。
どっちもダメですね、これじゃあ皆仲良く死ぬしかないじゃないですか。
結局――』
「この子を、助けてっ……!!」
最後までその腕に抱いたままにしようとしていた我が子を、母親の一人が差し出す。
( ・曲・)『じゃあ、股を開かせてください』
「それは嫌っ……!!
でも、お願い……助けて!!」
( ・曲・)『じゃあ、神に祈ってみてください。
今なら世界で最初に願い事を聞き届けてくれるはずですよ。
……あぁ、ですが、時間切れですね』
ふと。
まるで、猛烈な眠気が襲ってきたような感覚があり、そこでミッシェルの意識は途絶えた。
光も音も匂いも、そして温もりさえも。
もう、何も――
463
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:47:24 ID:cQao1NtM0
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マドラス・モララーは死体の山を見渡して、溜息を吐いた。
結局、この中にも愛は見いだせなかった。
我が子を守る為に自ら命を差し出す者もいなければ、全てを賭してモララーを止めようとする者もいなかった。
ましてや、神の奇跡も起きなかった。
結局、愛は言葉でしかないのだ。
宗教は愛ではなく、ただの心の安寧に過ぎない。
神の愛という一切合切存在しない物の呆気なさは、今、こうして証明された。
神の足元と称されるこの場所でさえ、神は現れなかった。
宗教家として人々に神の愛を布教してきた過去は、まるで意味がなかったのだ。
愛を信じれば真実の愛を手に入れることができる。
愛を獲得すると同時に宗教間の戦争を無くす最善の方法としてモララーが考えたのが、ティンバーランドへの参加だった。
十字教の掲げる愛をテストするというその考えは、同じ組織内の誰にも口外していないことだった。
結局のところモララーは自分の欲を満たすことだけが目的であり、世界平和などの高貴な目的は興味がない。
率先して十字教関係の根回しに手を貸し、そして最終局面でこの土地の防衛を任された時から、彼はこの為に動いていた。
長い時間を我慢し続け、そして、得た答えがこれだ。
( ・曲・)『……神はいない、か』
万が一の可能性に賭けてみたが、神は姿を見せることは無く、奇跡は起きなかった。
極限の状況下で互いに見せた思いやりや愛情も、意味はなかった。
( ・曲・)『はぁ……』
満たされない。
ここまでしても、モララーの心は微塵も満たされなかった。
彼が昔に抱いた疑問は、今、核心へと変わった。
神は存在しないのだ。
464
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:47:57 ID:cQao1NtM0
そして、宗教は人を救わない。
十字教を信仰し、その為に他の宗教の人間を殺していた歴史が帰着するのがこの惨憺たる光景である。
この結末は想定していたが、いざこうして目の当たりにすると強い虚無感が襲ってくる。
下の階にいる聖職者は単純にガスで殺し、この世界から十字教が姿を消せばモララーの目的の一部が達成される。
宗教がなくなれば、人々は自らに救いを求めることになるだろう。
そうすれば、きっと、いつか。
モララーの求めている愛が結実するはずなのだ。
( ・曲・)『さて、と――』
――首筋に衝撃があった。
最初は針が刺さったのかと思ったが、どうやらそれは熱を持っている様だった。
否、熱などない。
痛みが熱さに感じ取れただけ。
(;・曲・)『いっ?!』
振り返ると、そこには知らない男がいた。
誰だかは分からない。
「……ふっ」
大きく息を吸った男は、一瞬でその場に崩れ落ちた。
(;・曲・)『こ、い……つ!!』
息を止めて、こちらが油断するのを待っていたのだ。
日常的に呼吸を止めることに長けている人間でなければ、この状況下でその判断を下せるはずがない。
万が一、素人がその手段に出たとしても、パニックになって1分程度延命するだけだ。
呼吸を止め、極限状態に慣れている人間など、軍人でもいない。
ましてやここはセントラス。
戦闘に長けた人間が避難しているなど、あり得ない。
あり得ないと判断したから、モララーはここまで余裕をもって行動していたのだ。
“マックスペイン”を服用していても、筋肉を貫いた刃の痛みとその傷は防げない。
首に刺さった異物を抜くと、信じられない勢いで血が流れ始めた。
それは、十字教徒が首から提げている十字架だった。
先端部が歪に変形し、鋭利さを獲得している。
モララーが余裕を見せている間に影で十字架を加工し、武器にしたのだ。
信仰の対象である十字架に手を加える決断力。
信仰を捨てるのに等しい愚考。
その愚考を、土壇場で実行する人間がこの場にいたのだ。
神を捨てられる人間が。
(;・曲・)『あが……!! くっ……おおお!!』
465
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:48:25 ID:cQao1NtM0
引き抜いたせいで傷口が広がったため、止血が出来ない。
激痛が思考を乱す。
最後の場面でこのような失態を晒すことになろうとは、考えもしていなかった。
(;・曲・)『まだ……愛を……愛が……!!』
体温が失われ、四肢の先端から感覚が消失していく。
力が抜け、地面に膝を突く。
まるで自分の影を染め上げるように、赤黒い血が広がっていた。
(;・曲・)『どうして……こんな』
無意識の内に両手を合わせる。
指と指を絡め、正に祈りのための形となる。
とうの昔に捨てたはずの信仰。
いるはずのない神への懇願。
ここでは終われない。
ここで終わっては、これまで自分が為してきた全てが無意味になる。
その瞬間、彼の中で何かが噛み合わさる感覚があった。
これまで無関係と思われた全てが合わさり、動き、答えとなって導き出される。
( ・曲・)『……そうか』
苦痛が消えた。
寒気もなくなった。
あるのは、穏やかな感情。
( ・曲・)『これが……神の……!!』
白い光に抱かれるような感覚を最後に、モララーは息絶えた。
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シナー・クラークスは、複数の銃弾を浴びた女の前で膝を突いていた。
ティングル・ポーツマス・ポールスミスという名の女は浅い呼吸を続け、何事かを口にしたかと思えば、そのまま動かなくなった。
首筋に指を添えて確認すると、脈は止まっていた。
466
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:48:46 ID:cQao1NtM0
(;`ハ´)「……」
<=ΘwΘ=>『同志シナー、お怪我は?』
直前まで心から楽しい戦いをしていたシナーにとって、部下の介入は決して望んでいたものではなかった。
ましてや、このような結末など、あってはならないものだ。
だがそれを一度でも口にしてしまえば、部下たちに示しがつかない。
ゆっくりと立ち上がり、シナーは答えた。
(;`ハ´)「……問題ないアル」
<=ΘwΘ=>『チップは?』
倒れたままのティングルを一瞥し、シナーは首を振る。
せめてもの手向けとして、一つの嘘を吐くことにした。
( `ハ´)「……もう壊されていたアル。
撤退するアル。
ラヴニカは後でハート・ロッカーに砲撃してもらえばいいアル」
<=ΘwΘ=>『は、はぁ……』
( `ハ´)「それよりも、次の戦場に行くアルよ」
ラヴニカ攻略が終了した場合、次に行く場所が決まっていた。
( `ハ´)「イルトリアはここなんか比べ物にならないアル。
武器と弾薬を温存して、さっさと行かないと明日到着することになるアル」
部下を急かし、シナーはその場を立ち去る。
後は街の中で戦い合い、疲弊すればいい。
こちらの撤退を知って喜び、勝鬨を上げればいい。
その頭上から襲ってくる砲弾が祝砲代わりとなるだけだ。
そうなれば、ティングルの死体も炎が焼き尽くしてくれるだろう――
467
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:49:13 ID:cQao1NtM0
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F√i-ュ| ̄|明-ュ| ̄L―┐-ュFl-ィニニユ 「 ̄|::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ニ´t| /F√i-ュ| ̄|
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――武術において、一撃必殺とは夢の話だ。
一撃で相手を屠り、一撃で勝敗を決める技。
何度も議論が繰り返され、終わることのない探究が続く夢。
当てる箇所、当てる速度、当てる相手など、条件によってその探究結果は悉く否定され続けてきた。
だが例外的に、一つだけその夢を実現させる手段が存在する。
たった一撃で勝敗を決するという点において、これ以上の技は存在しない。
幾度も潜入任務をこなし、死地を越える為に服用した仮死薬によって獲得した特異体質。
(*‘ω‘ *)「……っぷはー!!
あー、死ぬかと思ったっぽ」
ティングルは意図的に心臓の動きを止め、仮死状態を作り出すことが出来る技を身に着けていた。
この技は“相手のあらゆる攻撃を一撃必殺”にする。
その為、相手がこちらの死を疑わないような状況下であれば比類なき効力を発揮するのだ。
シナーは根っからの武人だった。
それ故に、血糊の入った防弾ベストに着弾したことでティングルが部下に射殺されたと思い込んでくれた。
相手が彼でなければ、念のためにとティングルの頭に銃弾を撃ち込んでいたことだろう。
仰向けになり、笑顔で独り言ちる。
(*‘ω‘ *)「はい、武の勝利ってね」
シナーという男は敵にするには惜しい男だ。
彼の中には組織の願いとは違う考えがある。
ラヴニカを火の海にしてでも手に入れようとしたチップを、こうもあっさりと諦めたのがその証拠だ。
無論、ティングルが見せたチップは偽物だ。
しかし、それを見抜く時間はなかったし、その手段もない。
つまり、彼が独断でこの場から撤退したのは紛れもない事実なのだ。
その自我が組織の強みを瓦解させるのは言うまでもない。
468
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:49:36 ID:cQao1NtM0
(*‘ω‘ *)「しかし……」
ラヴニカの上空に立ち上る黒煙。
どうにか任務の一つは達成できたが、無傷とはいかなかった事実がそこにあった。
だがまだ、任務が残されている。
与えられたのは3つ。
一つ目は敵組織に潜入し、妨害工作を行う。
これは潜水艦に積まれていたいくつかの備品に細工を施したことにより、後に効果を発揮することになるだろう。
ニューソクに繋ぐ事で他の施設に電力を供給するケーブルには特に陰湿な細工をしてあり、その役割を果たす時が来た場合、ケーブルをつないだ両者は蒸発することになる。
給電が必要になるということは、相手にとって都合の悪い展開になっているということであり、そこを狙った工作だった。
二つは組織の狙いをギリギリまで見極め、直前で破綻させること。
世界中に宣戦布告するという目的が分かり、ラヴニカの鎮圧と誘導チップの奪取を任された時、妙案が浮かんだ。
以前、ラヴニカに潜入したワカッテマス・ロンウルフが用意していたレジスタンスだ。
殺したと思わせ、地下深くに潜伏させていたギルドマスター達に情報を流し、ラヴニカを奪われることを防がせた。
そして三つ目。
敵組織の弱体化である。
強大な組織であればあるほど、要所にひずみが生じる。
それを狙い、組織に穴を開ける。
迷いのあるシナーを離反させれば、必ず他の作戦に打撃を与えることになる。
彼が目指す先にあるイルトリア。
皮肉なことに、この世界の天秤を保つためには彼らの存在が必要になる。
必要であれば敵対していた街を守る為に命を賭さなければならない。
(*‘ω‘ *)「またあそこに行くことになるとは、不思議なものっぽね」
かつてイルトリアに潜入して唯一生還した人間として、再びあの街に足を踏み入れることになろうとは思ってもみなかった。
しかもそれが、イルトリアを助けるためというのだから、皮肉にもほどがある。
ゆっくりと立ち上がり、服についた汚れを払い落とす。
(*‘ω‘ *)「もう一仕事、頑張るっぽ!!」
街から撤退していくシナーの部下と共に、彼女はラヴニカを後にしたのであった。
469
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:50:01 ID:cQao1NtM0
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物理的に周囲の世界が反転したハート・ロッカー内で唯一、二人の女だけが即応出来ていた。
味わった衝撃、ハート・ロッカーの巨体を転がす出鱈目な力の原因について思い当たる節があったからである。
ハローとギンは、双方ともに基地の無力化に一手を打っていた。
ストラットバームに潜入した際にハローはニューソクに、ギンはドックにあった電力関係の設備に高性能爆薬を仕掛けていた。
万が一、電力を復旧しようとした場合にそこが爆発するようにというささやかな細工だ。
それが効果を発揮すれば、ニューソクを原動力として動いているあの基地は吹き飛ぶ。
それが今なのだと分かれば、対応に迷う必要はなかった。
受け身が間に合い、二人は転倒と横転の衝撃を最小限に抑え込むことに成功していた。
横転したことにより、二人はパイプひしめく壁を地面として利用し、駆けることが出来た。
目指すのは、多くの声が聞こえてきた操縦室。
今が千載一遇のチャンスであることは言うまでもなく、二人がそのチャンスを逃すことは有り得なかった。
機体がゆっくりと起き上がり、姿勢が変わって行く。
床だったものが壁に。
進行方向だったものが床に。
横転した状態から、うつぶせの状態に切り替わっていく。
その中でも、二人は止まらなかった。
ハート・ロッカーが倒れたままでいれば、破壊せずに無力化できる。
砲撃に必要なのは角度だ。
その角度を確保できない姿勢であれば、驚異足り得ない。
|::━◎┥『何ダ、オ前?!』
反転していく機体内で天井に張り付いていた何かが、驚愕の声を上げる。
ハハ ロ -ロ)ハ「ッ……!!」
|::━◎┥『ダ……?!』
470
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:50:26 ID:cQao1NtM0
ギンの背中に隠れていたハローがナイフで首筋を一撫で。
装甲の継ぎ目に正確に入り込んだ刃が首と胴体を何の抵抗もなく分断し、一瞬で屠る。
死を運ぶ颶風と化した二人は重力を利用し、操縦室と思わしき部屋に直上から侵入した。
一撃で扉を蹴破ると、広い空間が足元に広がっていた。
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¨¨¨¨¨¨¨ 丁|ーー─‐|───| |\_____,| :| _|ニ|_| ̄| |__ |¨ 小| |: : :.| |
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機体がうつぶせになったことにより、席に着いている人間達は皆、シートベルトによって辛うじて落下を免れている状態だ。
逃げだそうとすれば顔から落下し、負傷は免れられない。
最前列に座る人間だけは自由が効くが、いつ背後から人が降ってくるか分からない。
重力を強く意識すればするほど、人は抗えない力を前に憶病になってしまう。
ここから先、二人が言葉を交わす必要はなかった。
必要なのはこの状態のままで敵を殲滅すること。
一人残らず殺し、ハート・ロッカーが操縦されることのないようにするだけ。
全てはコンマ数秒で決断し、行動しなければならない刹那の世界だ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……っ!!」
ハローと違い、ギンは獣由来のバランス感覚と身体能力を有している。
故に、例え足場になる物が遥か下に見えていたとしても、その動きに怯えの色が滲み出ることは無い。
下から迫ってくる世界の中、ギンの視線は瞬時に標的を捕捉していた。
イーディン・S・ジョーンズ。
彼を殺せば、間違いなくティンバーランドに大打撃を与えられる。
その為には、他の邪魔になる存在を無力化する。
彼女の四肢は生来の身体能力と鍛錬によって凶器へと錬磨され、生身の人間であれば難なく殺すことが出来る。
人間の上に着地し、後頭部を踏み潰す。
471
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:50:49 ID:cQao1NtM0
衝撃を利用し、高々と跳躍。
突起物に富んだ操縦室を縦横無尽に飛び回るのは、そう難しくない。
掴み、蹴り、そうして上を目指す。
(,,゚,_ア゚)「侵入者だ!!」
ようやく声が出たのか、周囲に絶望的な緊張感が走る。
しかし当然、逃げようとすれば落下死が待っている。
恐怖に室内の空気が染まる中、意外なことにジョーンズが最も冷静に動いていた。
(;’e’)「ギルターボ!!」
[ Д`]『分かったよ、ファーザー!!』
天井を高速で伝って迫るのは、これまでに見てきた異形の棺桶と同型機。
この場所を守る護衛であることは間違いない。
[ Д`]『オオ!!』
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……」
故に、ギンは焦らなかった。
既にグランドイリュージョンはその能力を発動し、彼女の姿は機械の目には映っていない。
見当違いな場所に向かって突進し、そこにいた仲間を殴殺し始めた。
[ Д`]『死ね!!』
(;’e’)「ギルターボ、何をやっているんだ!!
私だ!! 私を!! 私を守れ!!」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「さよならだ、博士」
槍の刺突を彷彿とさせる抜き手が、ジョーンズの喉に突き刺さる。
鍛えていない人間の喉など、彼女の指にとってはパンの様に柔らかく脆い。
深々と突き刺さった指は反射的に喉笛を掴み、引きちぎっていた。
(;’e’)「げぁ……!!」
[ Д`]『ファーザー!! 分かったよ、こいつ!!』
分かったところでもう遅い。
既に最重要人物の殺害は今成った。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「殺れ!!」
ハハ ロ -ロ)ハ「死ネ!!」
472
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:51:27 ID:cQao1NtM0
[ Д`]『おぽっ!!』
ギンの幻影と戦っていた棺桶の首を一撃で切り落とし、ハローは逃げ出せずにいる人間の背中に着地した。
魚を捌くかの様に、自然な手つきで足元の人間の首をナイフで切り、大量に出血させる。
抵抗力を失ったその空間は、瞬く間に死人で溢れ返った。
从´_ゝ从「た、助けて!!」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「駄目じゃ、皆殺しじゃ」
素手で殺される者。
(,,゚,_ア゚)「む、息子がいるんだ!!」
ハハ ロ -ロ)ハ「そうカ」
ナイフで殺される者。
命乞いは意味をなさず、助けを求める悲痛な叫びは聞き届けられることは無い。
ハート・ロッカーが振り撒いた死の数に比べれば少ないが、この先の被害を考えれば実に道徳的な殺戮だった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……おい」
ハハ ロ -ロ)ハ「何ダ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「まだ動いているぞ、こいつ!!」
ゆっくりと。
だが、確かに空間が動いている。
ハハ ロ -ロ)ハ「操作する人間はいないはズ。
何故ダ……!!」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「とにかく、強制的に止めるぞ!!」
二人は死体をどかし、血に濡れた操作盤を見て回る。
何がどうなっているのか、流石に見ただけでは分からない。
その間にもハート・ロッカーは両腕を使い、体を持ち上げ始めている。
転倒から復帰までの時間が予想以上に速いこともそうだが、操縦者が不在となってもなお動き続けるこの棺桶が不気味で仕方がない。
自立行動できる兵器など――
ハハ ロ -ロ)ハ「……そうか、こいつは棺桶ダ。
棺桶持ちをどうにかしないと止まらなイ」
473
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:51:49 ID:cQao1NtM0
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「あの死体がか?
死体が動かすなど……」
二人が施設に潜入した際、死体に手を加えた物をハート・ロッカーに挿入していた。
起動コードの入力のためだけに必要な存在だと思っていたが、改めて考えると、それだけではない。
有事の際の保険。
万が一操縦室が制圧されたり、操縦が出来なくなった場合に備え、操縦系統をもう一つ用意しておいたのだろう。
入力された指令を実行するという、極めて単純なものだとしても、今は十分に危険だ。
砲撃が再開されようものなら、ジュスティアの壊滅は必至。
そして次はイルトリアになるだろう。
ここで完全に沈黙させなければ、後顧の憂いとなる。
少なくとも、自動操縦の類がどこまで及ぶのかが分からない以上、砲塔だけでも破壊しなければならない。
ハローは逡巡し、答えを出した。
ハハ ロ -ロ)ハ「分かりやすい場所にあるとよかったが、この状況で探すのは無理ダ。
それより今は、どうにか電源を遮断するゾ。
お前の予想通り、ほラ」
視線の先にはジョーンズの死体。
そしてその後ろには厳重に封鎖された扉がある。
扉に描かれているのは黄色と黒の花の様なマークで、間違いなくそこにニューソクがあることを表しているものだ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「……本当に自分の傍にあったのか」
ハハ ロ -ロ)ハ「姿勢が戻らないと作業も探索も出来ないのが問題ダ」
今の状態では扉に向かって登り、重力に逆らった状態での作業になる。
常人には装備がない限り不可能だ。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「それならワシがやる。
その間、一つ頼んでもいいか?」
ハローからナイフを受け取り、ギンは言った。
ハハ ロ -ロ)ハ「何ダ?」
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「ジュスティアとイルトリア、両方に現状の報告をしておくのと、向こうの様子を聞いてくれ。
これが終わったら、ワシらがどっちに行くべきなのかを考えなければならんじゃろ」
少なくとも、ジュスティアが窮地に立たされているという可能性は高いだろう。
連続した砲撃によって街が受けた打撃もそうだが、陸と海の両方から攻め込まれるとあの街は弱い。
スリーピースの守りがあったとしても、内部に裏切り者が一人でもいれば、それが突破される可能性もある。
安全の保障するのと同時に、街から逃げ出すための機能をマヒさせてしまう壁が問題だ。
474
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:52:09 ID:cQao1NtM0
ハハ ロ -ロ)ハ「分かっタ」
援軍に行くとしたら、距離と状況の関係でジュスティアが優先される。
まだジュスティアがあれば、の話だが。
ふいに、ギンの耳に聞いたことのない音が聞こえた。
それは徐々に増幅し、まるでグラスから水が溢れ出る寸前の様な緊張感を覚えさせた。
音の正体に思い至った時、口から出たのは謝罪の言葉だった。
ノト∧ハ∧,
イ从゚ ー゚ノi、「すまん、やられた……」
ハローはそれだけで察し、これまでに聞いたことのないような穏やかな声と表情で言った。
ハハ ロ -ロ)ハ「まぁ、いいサ。
一緒にやれてよかっ――」
――次の瞬間、二人の世界から色と音が消えた。
その日、三基目のニューソクが爆発した。
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て / ,,-",-''i|  ̄|i''-、 ヾ {
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,, ( l, `'-i| |i;;-' ,,-'" _,,-"
"'-,, `-,,,,-'--''::: ̄:::::::''ニ;;-==,_____ '" _,,--''"
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475
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:52:40 ID:cQao1NtM0
イーディン・S・ジョーンズが死ぬ寸前、激痛と苦しみの中でさえ、その瞬間を見られないことを悔やんでいた。
世界が変わることよりも。
自分が死ぬことよりも。
何よりも、ニューソクの炎に抱かれる瞬間を感じることも見ることも出来ないのは、あまりにも無念でならなかった。
ハート・ロッカーには大した思い入れはないが、そこに使用することになったニューソクには思い入れがあった。
彼が復元を手掛け、彼が改造を施し、彼が愛情を注いで生み出した物だ。
恐らく、現代でニューソクを正確に復元できるのは彼だけだろう。
無論、その自負が彼にはあった。
その為、自分が手掛けたニューソクが奪われたり、失われたりすることだけは絶対に避けたかった。
棺桶以外に心惹かれたのはニューソクが唯一だった。
自らの手から離れるのならば、その時はニューソクが奪われるということ。
その時は、ニューソク諸共棺桶を破棄するよう密かに設計していた。
起爆の鍵は二つ。
一つは言わずもがな、ジョーンズの生体情報が失われること。
二つ目は、彼が用意した五人の警備兵の内、ギルターボを含めた半数が失われることだ。
この二つの条件が満たされた時、ニューソクは爆発する。
侵入者が何者であるかは分からないが、ハート・ロッカーの無力化を目論むのであればニューソクの無力化か、内部の完全制圧しかない。
果たして侵入者は、彼が用意した二つの鍵の条件を満たした。
(’e’)「……おや」
故に、今目の前に広がっている白い世界は、間違いなく彼の脳が生み出した幻影に違いないのだ。
音はない。
静かな、本当に静かな空間。
冷たさも暖かさもないその空間が、ジョーンズにとっては心地が良かった。
(’e’)「久しぶりだね」
「……」
目の前には、無言のまま微笑む一人の女性がいた。
(’e’)「今、思い出したよ。
君だったんだよ、私の人生を変えてくれたのは」
「……」
女性は何も答えない。
ただ、微笑みを向けているだけ。
(’e’)「ははっ、なぁに、ここには私しかいない」
「……」
476
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:53:03 ID:cQao1NtM0
ジョーンズの皮肉にも、女性は無反応だった。
それでも構わない。
彼にとって、この時間は人生の清算のようなものなのだ。
聞いてもらえるだけでいい。
いや、口にするだけでいいのだ。
(’e’)「……初めて君を知った時、正直、意味が分からなかったよ。
だからもっと知りたいと思って、大学に飛び級で入ったんだ。
資料の山を見て、ますます訳が分からなくなってね。
で、棺桶に触れるきっかけがあって、君の事を忘れて、今があるんだ。
君には感謝しているよ。
今の今まで忘れていたが、そう、君がきっかけだったんだ」
「……」
(’e’)「組織の中には君に執着する人たちがいたが、だからこそ思い出せなかったんだろうね。
私が諦めたパズルを、彼らは諦めずにずっと解こうとしているんだ。
私らしくもないが、羨ましかったんだろうな。
夢を追い続ける人間というのは、時には眩すぎて人の目を眩ませてしまうものなんだ。
そうやって、見ないようにしていたからこの瞬間まで思い出せなかった。
お恥ずかしい限りだ」
溜息を一つ吐く。
(’e’)「私達のボスは、果たしてどれだけ君の事を追い続けていたんだろうねぇ。
なぁ、これは私の推測なんだが――」
次第に、声が遠くなっていく。
自分の声も、認識も。
周りの白に取り込まれるように、遠ざかっていく。
楽しい時間がすぐに過ぎるように、心が淡い物で満たされていく。
胸の中にあった疑問を口にし続ける。
彼が抱く、世界の疑問。
それを、女性は無言で受け止めている。
最後に、ジョーンズは心の底から残念そうに言った。
(’e’)「――私も見たかったよ、最果てを。
ノ・ドゥノを」
ζ(゚ー゚*ζ
最後の瞬間まで、彼の目の前にいたデレシアは何も言わなかった。
だがそれでも、彼の心は満たされていた。
ジョーンズの独白が終わった時には、彼の世界も穏やかな終わりを迎えていた。
477
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:53:23 ID:cQao1NtM0
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/
/
/ ,ィィィィrr-、、
′////////沁、
′゙''"~´ ̄ `゙''芍h、
′ : : : :. `ヾ::.、
l : : : : : :. `'' ..
j : : : 从从
/ : : : :ミミ沁从
/ . : : : : :ノ_`寸圦
/ .: : : :/イ)} `寸V
イ . ..: : : : : : : :∥iiリ マヘ
_ -ニ .. : : : : : : : : : : _从!イ Ⅵ
_ -ニ : : : : : : : :彡i㍉ー-、、、,,,__ 刈
_ -ニ : : : : : : : ,i "⌒ ̄``''冖゙ミ
_ -ニ : : : ...:: _,,,、、 -‐''
第十三章 【 Ammo for Rebalance part10 -世界を変える銃弾 part10-】 了
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478
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 19:54:11 ID:cQao1NtM0
これで今回の投下は終了です。
ギリギリ1月に投下出来て安心しました。
感想、指摘、質問等あればお気軽に。
479
:
名無しさん
:2023/01/30(月) 20:36:17 ID:qyDlQpw20
おつ
大物がどんどんあっけなく死んでいくなぁ
480
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 07:43:15 ID:cgh8SMTI0
乙
481
:
名無しさん
:2023/01/31(火) 21:52:28 ID:w3cXrIx60
おつおつ
モララーとジョーンズがこんなにあっさり死ぬとは思わなかったなぁ
諜報組の功績は計り知れないな
482
:
名無しさん
:2023/02/01(水) 21:07:53 ID:QqOflteQ0
乙乙
両陣営とも退場者が増えてきたなぁ……仕方ないとは言え寂しいものだね
モララーを倒した人は何者だったんだろうか
後ティングルさん本当にすごいですね
デレシアさんもまた謎が増えたみたいだし、正体は一体……?
今回気になったのは
>>461
動けば助からないことが確定するが、動かなければ確率が生まれる
言い回しがくどくなるから削ったんだろうなって思ったんだけど、一応動かなければ助かる可能性って意味だよね
>>465
最後の場面で
ここはどっちなのかが分からなかったんだけど、実験の最後って意味なのか、それともモララーの最期なのかがちょっとよくわからなかったって感じですね
後者なら最期の方がいいかなって思います
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