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箱庭にて獣は髭を揺らすようです。

1名無しさん:2021/02/04(木) 21:14:31 ID:dXvBdm.c0



―――大昔。世界中に突如正体不明の病が繁栄した。

名すら付ける暇もなく広がったそれは、沢山の国を滅ぼし、窮地に押しやった。
かかれば喉がやけるような苦しみを味わい、食事も通らずに死んでゆく。
ああ、このまま滅亡してしまうのか。
誰もが思った時、とある国が発した解決策が注目された。

それは、その身に獣の血を混ぜること。

人にしかかからぬ病ならば、人じゃなくなってしまえば良い。

酷く端的な解決法だったが、生に縋るものは血を混ぜ、病にかからぬものは国により保護され、人の形のままで居ようと足掻いたものは死に至る。
そして国は、これ以上の蔓延を防ぐために他の国との交流を絶った。


その国は、他の世界を知らぬ国。

それが幸せであると信じている国。

―――名を『VIP』。

半球状に展開された壁は、現実を見せないようにする目隠しにも見えた―――

2名無しさん:2021/02/04(木) 21:15:08 ID:dXvBdm.c0
・初投稿です。右も左もわからぬ初心者なので色々とヘマやらかすかと思います。生暖かい目で見てくださると嬉しいです。

・スマホからの投稿です。AAのパーツなどおかしい部分が多分あります。PCから見て、読むにあたり致命的におかしい部分等ありましたらご連絡ください。申し訳ございません。

ゆっくりちまちまと気楽に書いて参ります。お付き合いして頂くと幸いです。
よろしくお願いします。

3名無しさん:2021/02/04(木) 21:16:50 ID:dXvBdm.c0



1.箱庭の国

4名無しさん:2021/02/04(木) 21:17:55 ID:dXvBdm.c0



天を仰げば薄暗い天井ばかりが目に映る。

地を俯けばボロボロに煤けた鉄の地面と人工的な草花が小さく揺れていた。

VIP国。Cエリアの工業地帯。

整備もされぬ煤けた下層には希望も光も見えやしない。

見えるのは頭上に浮かぶ中級階級者―――皇帝の遠い血筋の者が暮らすBエリアの底部と、辛うじてこちらを照らす人工太陽のみ。

息を吸い込めば生産時に不必要になった排ガスや煤が口の中に入ってしまうくらいに息苦しい地域だ。

水槽の中に飼われた魚の方が幸せなのではないかと思うくらいに、とても。

/ 中\
( ハ )

そんなCエリアの一角。パイプだらけの路地裏に、その男の姿があった。

黒い筆文字で中と書かれた笠を被り、腕を組んで壁にもたれ掛かりながら二本だけの太い髭を悠々と揺らしている。
紺色の着物に黒い羽織を着込み、腰に長い一本の刀を携えた男は、知らぬ者が一見すれば寝ているようにも見えるだろう。
その姿は、真っ赤な獣。
全身が赤い被毛で包まれており、下駄を履いている足には黒い爪が生えていた。

「―――ここにいたんですね」

/ 中\
( ハ )「……ん」

不意に聞こえた声に、男は反応して顔を上げる。

/ 中\
( `ハ´)「……アサピー。様子は?」

5名無しさん:2021/02/04(木) 21:20:03 ID:dXvBdm.c0
(;-@∀@)「様子は?じゃないですよ。僕にばかり任せて……」

現れたのは黄色い被毛の、分厚い眼鏡をかけたワイシャツの青年である。
アサピーと呼ばれた彼は眼鏡を直しながら口を開く。

/ 中\
( `ハ´)「……すまん」

はぁ、とため息を着くアサピーに男は目を細め、のろりと壁から離れてから笠を被り直した。

(;-@∀@)「……三丁目から四丁目に向かう途中の路地の奥。ワイン色の『Lounge』と書かれた看板がある、古びたバーにて目撃証言有り。今から向かえば間に合うかと」

/ 中\
( `ハ´)「ん、了解。すぐ向かうアル」

言うが早いか、男は刀を一度確認してからカラコロと下駄を鳴らして大通りに出る。
アサピーは呆れた様子で分厚いレンズの着いた眼鏡をかけ直し、慌てた様子で男を追いかけた。

(;-@∀@)「嗚呼!待ってくださいよ―――シナーさん!」


男の名はシナー。職業は監視官。
この国を監視する『瞳』である。

6名無しさん:2021/02/04(木) 21:21:04 ID:dXvBdm.c0
―――路地裏の奥にある廃れたバー『Lounge』

(; ´Д`)「……これが、あの……?」

((´^ω^))「ええ、そちらがあの『純血』です。疑ってらっしゃるのなら手に取ってご確認を」

(; ´Д`)「………………」

壁奥のテーブル席にて、二人の男性が対面上に座っていた。
片方は白い被毛をした少々焦ったような顔をしている男性。
もう片方は怪しげな笑みを浮かべ、大きな耳を動かしながらアタッシュケースの中身を渡す男性だ。
白い被毛の男性は中身を受け取ると、ライトを当てて確認するように眺める。
真っ赤な液体だろうか、それが瓶の三分の二をしめており、軽く揺らせば水面が揺れに合わせて大きく歪んだ。

(; ´Д`)「……これで、俺にも天国が……?」

((´^ω^))「まあまあそう焦らないでくださいな。先に代金を……」

(; ´Д`)「あ、ああ……これだ。受け取れ」

念願のものだったのだろう、思わず震えた手で黒い鞄を取り出し、テーブルの上に置く。
怪しげな笑みの男性がそれの中身を確認すると、いそいそと自身の傍らに置き直した。

((´^ω^))「ありがとうございます。これでそちらは貴方のもの……試しに打っていかれますか?」

(; ´Д`)「!!い、いいのか……?」

((´^ω^))「ええ勿論。こちらに注射器が……」

7名無しさん:2021/02/04(木) 21:23:27 ID:dXvBdm.c0
その時、入口の扉が開いてカランカランとベルを鳴らす。

(; ´Д`)「!?」

((;´^ω^))「っ……すみませんまだ開店時間ではなくて……」

驚く二人だが、いち早く怪しげな笑みの男性が牽制するように言葉を並べ、素早く椅子から立ち上がり息を飲んだ。

/ 中\
( `ハ´)「………………」

((;´^ω^))「……あんた」

/ 中\
( `ハ´)「命により、お主らの確保。及び『純血』の回収に来た。逃げても無駄アル……大人しくするヨロシ」

(; ´Д`)「ひぃっ…………」

ガタガタと震えながら手を上げる白い被毛の男に対し、もう片方の男性は舌打ちを鳴らしてアタッシュケースと黒い鞄を手に持ち、逃げようと少し足を後ろに動かす。
シナーははぁ、と息をついた後、後ろにいたアサピーに目配せした後、腰に帯刀していた刀を抜いた。

8名無しさん:2021/02/04(木) 21:23:59 ID:dXvBdm.c0
所謂逆刃刀と呼ばれる非殺傷の刀。それを構えながら、足先を男性に向ける。
暫く辺りを観察するように相手と目を合わせていたが、何も進展がないのを察すると、大きく息を吐いた。

/ 中\
(ㅤㅤハㅤ)「……刀を見ても大人しくする気はなし、か……」

瞬間、パンッという乾いた音が響き渡る。
シナーは体制を立て直すと、腰の鞘に刀を収めた。

((;´ㅤωㅤ))「ガッ……!?」

するとまるで時代劇のように、男がバーの床にゆっくりと伏せていく。
外傷はないようにも見えるが、腹を抱えるように蹲ったきり、抗うような素振りは見せなくなった。

/ 中\
(ㅤㅤハㅤ)

/ 中\
( `ハ´)=з

/ 中\
( `ハ´)「……連絡入れたアルカ?」

(-@∀@)「はい、少し前に。もう数分で到着するでしょう」

/ 中\
( `ハ´)「……そうか」

ガクガク((((; ´Д`))))ブルブル

/ 中\
( `ハ´)「……お主は逃げるなよ?」

(; ´Д`)「は、はいぃ……」

9名無しさん:2021/02/04(木) 21:25:01 ID:dXvBdm.c0



ミ ゚Д゚彡「―――お疲れ様です。監視官殿」

アサピーやシナーよりも一層毛深い、茶色の被毛を持った男がシナーに向かい敬礼をする。
そんな彼にシナーは軽く頭を下げ、アタッシュケースを手に持つと、何度か迷ったように目を泳がせてから、茶色の被毛の男に目を向け直した。

/ 中\
( `ハ´)「……本当に我が持っていかぬといけないアルカ?持っていくだけならフサやタカラも……」

ミ; ゚Д゚彡「我々は売人を連れていきますので……」

(;,^Д^)「申し訳ございません…」

/ 中\
( ´ハ`)

(;-@∀@)「面倒臭がらないでください!大体人任せにし過ぎなんですよ!」

/ 中\
( ´ハ`)「早く家に帰りたいアル……」

(;-@∀@)「それなら早く行きましょうよ!ほら!」


((((;-@∀@)つ”( ´ハ`)アイヤー


ミ ゚Д゚彡

(,,^Д^)

ミ; ゚Д゚彡「……あの人、剣術以外はポンコツだよな……」

(;,^Д^)「料理もお子さんが作っているらしいですよ……」

ミ; ゚Д゚彡「マジか……聞きたくなかったな……」

呆れたように笑う二人を差し置き、シナーはだらしなくアサピーに連れていかれる。
その姿はやはり滑稽であった。

10名無しさん:2021/02/04(木) 21:26:04 ID:dXvBdm.c0
〈::゚-゚〉「いらっしゃいませ。シナー=ハンカニム様ですね。皇帝様に御用でしょうか?」

( `ハ´)「ああ、仕事の報告をしにきたアル」

(;-@∀@)(こうして仕事している時はシャキッとしてるんだけどなぁ……)

VIP国。中央エレベーターホールの受付前。
閑散としており、ゴミ一つない真っ白な壁と床にも傷や汚れは無い。
いくつかのソファーが置かれ、新人だろうアナウンサーが原稿を読むニュースを映した壁掛けテレビが壁にかかっている。
そんな中、頭に乗っていた笠を外して受付にいた灰色の被毛をした女性に話しかけるシナーからは、先程のようなグダグダした印象は見受けられなくなっていた。

(;-@∀@)(仕事が終わる本当に際でグダるんだから……)

〈::゚-゚〉「かしこまりました。許可証が出るまで少々お待ちください」

( `ハ´)「了解したアル」

話を終え、外した笠を持ち直して小さく伸びをするシナーの顔はどことなく面倒くさそうにも見える。

11名無しさん:2021/02/04(木) 21:26:40 ID:dXvBdm.c0
(;-@∀@)「シナーさん、シャキッと」

( ´ハ`)「早く帰って息子と遊びたいアル……」

(;-@∀@)「シナーさん!!」

( ´ハ`)「せめて……行く前にせめて一目だけでも……」

(;-@∀@)「分かりましたから!一度帰ってもいいですから!仕事はちゃんとしましょ!」

( ´ハ`)アイヤー…

〈::゚-゚〉「シナー=ハンカニム様。許可証が発行されました」

( `ハ´)シャキッ

( `ハ´)「すまない。感謝するアル」

(;-@∀@)-3ホッ

12名無しさん:2021/02/04(木) 21:28:00 ID:dXvBdm.c0
受付の女性から許可証という筆で書かれたような文字やいくつかの注意文が書かれている紙を受け取り懐にしまうと、二人は一番奥にある円柱状のエレベーターに乗り込み『B』と書かれたボタンを押す。

下から『C』『B』『A』『S』と書かれたボタンは彼らには当たり前のようで、ゆっくりと伸びをしながら到着するのを眺めた。

( ´ハ`)

(-@∀@)「ほら、もう少しでBエリアですよ……ってこら、またその顔する」

( ´ハ`)「何故我はこんな頑張って仕事するネ……?隠居したいアル……」

(;-@∀@)「三十二歳の働き盛りが何弱音吐いてるんですか!というか隠居にはまだ早いでしょうが!」

( ´ハ`)「早めの隠居も良いものだと思わないアルカ……?」

(;-@∀@)「思いません!ほら!着いたから!約束通り会っていきましょう!ね!」

( ´ハ`)

( `ハ´)シャキッ

( `ハ´)「さ、行くアルヨアサピー 」

(-@∀@)「切り替えよすぎて僕は貴方を殴りたくなりましたよ」

(ㅤ`ハ´)「それはそれ」
ㅤㅤつ”ㅤつ”

ㅤㅤ(`ハ´ㅤ)「これはこれ」
”⊂ㅤ ”⊂

(#-@∀@)

( `ハ´)「正直すまないとは思ってるアル」

(#-@∀@)「シナーさん!」

( ´ハ`)

13名無しさん:2021/02/04(木) 21:29:26 ID:dXvBdm.c0
ガミガミとアサピーが説教をしつつ、二人はエレベーターから出て外を仰ぐ。
相変わらず無機質な壁が見える仄暗い空間だが、地面は白いレンガで構成されていて、本物だろう草木や花がチラチラと生えていた。
パイプなどもなく、どんな人でもCエリアよりも整備された印象を受けるだろう。

その空間を楽しそうに歩くシナーと、疲れた様子で後ろを歩くアサピー。
やがて住宅街であろう場所に近寄ると、子供の泣き声が大きく辺りに響いた。

(。ノAヽ)「うわあああああん!!ネーノがノーネを虐めるノーネぇぇええ!!」

(; `ー´)「違うって!ノーネが勝手に転んだだけなんだよモカー先生!」

(;TДT)「ノーネくん落ち着いて!転んだのはネーノくんのせいじゃないよ!」

(。ノAヽ)「うわあああああああああん!!」

( `ハ´)「おー、相変わらず騒がしいアルなあ……」

向かってみると、小さな公園にて緑色のエプロンをつけた濃い灰色の被毛の男性がバタバタと子供の世話をしている様子が見える。
今は足元で泣いている小さな男の子を泣き止ましているようだが、こちらに気がつくと、男の子を立たせ軽く汚れを払ってから駆け寄ってきた。

14名無しさん:2021/02/04(木) 21:30:15 ID:dXvBdm.c0
(;TДT)「あ、シナーさん……すみませんドタバタしていて……やっぱり僕にこの仕事は合わなかったんでしょうか……」

(;`ハ´)「会って数秒で人生相談されても我は困るアル……」

(;TДT)「すみません……」

べそ、と泣きかけているモカーを慰めるようにシナーは軽く肩を叩く。
が、後ろからアサピーの急かすような咳が聞こえると、小さく振り向いてからモカーに目を戻し、本題に入ろうと口を開いた。

(;`ハ´)「と、ところで先生、彼奴は―――」


「あ、父ちゃん!」


(*`ハ´)!!

(;-@∀@)=з

15名無しさん:2021/02/04(木) 21:31:13 ID:dXvBdm.c0
飛んできた声にシナーは喜んで声のした方向に顔を向ける。

<ヽ*`∀´>「おかえりなさい!お仕事早く終わったニダ?」

そちらに居たのは橙色の被毛をした男の子であった。
ニコニコと嬉しそうに笑いながら尻尾を揺らすその瞳はとてもキラキラとしており、ふにゃり、とシナーの顔がほどける。
男の子はそんなシナーに抱きつくと疑問を投げかけ首を傾げた。
が、シナーは緩んでいた顔を一瞬にして戻してから、少し遠くを見、すっかり黙り込んでしまい、
アサピーは呆れながら、シナーの代わりというように男の子に目を向けた。

(;-@∀@)「あー……あと報告だけでね。休憩がてら寄ったんだよ」

<ヽ`∀´>「きゅーけー?」

(;-@∀@)「そ、だからもうちょっとしたらまた行くけど……すぐ戻ってくるから、ね?」

16名無しさん:2021/02/04(木) 21:32:52 ID:dXvBdm.c0
<ヽ`∀´>
ㅤㅤ_,
<ヽ`Д´>「父ちゃん仕事抜け出しちゃ駄目ニダよ……」

( ハ (←ㅤㅤグサッ

(-@∀@)・∵.ブッ
ㅤㅤ_,
<ヽ`Д´>「人にむよーな迷惑をかけちゃいけませんってウリたちモカー先生から習ったニダよ?」

(;`ハ´(←「それは……ぐぬ……」

(-@∀@)「いいぞニダーくんもっと言ってやれ」(まあお父さんも頑張ってるし……ね?)
ㅤ _,
(;`ハ´(← 「本音と建前が逆アルヨ」

17名無しさん:2021/02/04(木) 21:33:42 ID:dXvBdm.c0
(;`ハ´∩「まあニダーが元気ならそれで何よりアルヨ……どうだったアルカ、学校は」

<ヽ`∀´>「まだ休み時間ニダけど……」

<ヽ*`∀´>「あ、でもウリ九九言えるようになったニダ!」

(*`ハ´)「おーそうか!聞かせて欲しいアルネ!」

<ヽ*`∀´>「いーニダよー!えっとー……」

(-@∀@)つ「はいそこまでー。シナーさん九九は仕事終わってから聞きましょうねー」

何とも微笑ましい親子の戯れを一刀両断し、アサピーは無情にもシナーを掴み声をかける。
優しくも聞こえるその言葉は、シナーにはとても重たいものだった。

(;`ハ´)「アイヤッ、ちょっと待つヨロシ!せめて三の段!三の段までは!」

(-@∀@)つ「どうせその後伸ばして結局九の段まで聞くのを待つ羽目になりそうなので駄目でーす。ほら行きますよ」

(@∀@-)つ<;`ハ´)ノシ)))アイヤー!!

18名無しさん:2021/02/04(木) 21:34:17 ID:dXvBdm.c0
<ヽ`∀´>

(;TДT)

<ヽ´Д`>

<ヽ´Д`>「……モカー先生、父ちゃんがごめんなさいニダ……」

(;TДT)「いやっ、大丈夫だよ?心配しないで……こっちこそ、その、フォロー出来なくてごめんね……?」

ズリズリと引きずられていく父親の姿に少しの羞恥心を感じたのか、ニダーが場を濁したことをモカーに謝ると、モカーも小さく謝り返す。

(;TДT)「ほ、ほら、授業しようか。最後は音楽だよ」

<ヽ´Д`>アイゴー……

結局、何とも言えない気まずさを残したまま、モカーとニダーはその場を後にする。
引きずられていたシナーは、会話こそ聞こえてはいなかったがその様子を眺めることしか出来なかった。

19名無しさん:2021/02/04(木) 21:34:58 ID:dXvBdm.c0
(@∀@-)つ「……まだ青空教室なんですね。学校」

< `ハ´)「……ああ」

小さく答えながらシナーは髭を揺らして二人の様子を見る。
奥にあるホワイトボードの前に、集まる子供たち。
先生が戻ってきて、楽しそうに笑う彼らの姿は辺りに丸見えだ。

(@∀@-)つ「完全な学習できる環境はSエリアに住む皇帝一族のみ……Bエリアに住む親戚である我々も、彼らの目には同等に見えない、という意味でしょうか」

< `ハ´)「彼奴らの考えておることは分からん。出生は変えられぬというのになぁ」

(@∀@-)つ「少々俗っぽくなりますが、身内以外の血筋は要らないとでも言うんでしょうかね」

< `ハ´)「ん……ところでアサピー」

(@∀@-)つ「はい」

< `ハ´)「いつまで我は引きずらねばならぬアルカ?」

(@∀@-)つ「エレベーターに着くまでです」

< ´ハ`)

(@∀@-#)つ「当たり前でしょう。日頃の行いを振り返ってください」

< ´ハ`)「……ほっぺが伸びるアル……」

20名無しさん:2021/02/04(木) 21:36:19 ID:dXvBdm.c0
Bエリア。エレベーター前。
いつも通りのアサピーと違和感でもあるのか頬を摩るシナーは、もう一度エレベーターに乗り、次は『S』と書かれたボタンを押す。
途端に天井に取り付けられているスピーカーから単調な機械音声が響き、続いて不快な機械音を鳴らして壁に穴が空いた。

《許可証の提出をお願いします》

( `ハ´)つ□「ん」

シナーがその穴の中に懐から取り出した許可証を入れると、スピーカーから少しのノイズが暫く流れ、その後にまた機械音声が発された。

《シナー=ハンカニム様。アサピー=スクァロー様。許可証が認証されました。Sエリアへまいります》

直後、ガタンとエレベーターが揺れ、上昇し始める。
アサピーはスピーカーの方を見てから、もう一度シナーの方に目を向けた。

(-@∀@)「相変わらずのセキュリティですね」

( `ハ´)「一応偽造された許可証や登録された名前と顔が一致しない場合などは警報が鳴りだす故、ガバガバという訳ではないがな」

(;-@∀@)「それでも心配になりますよ。今にもハッキングされて反乱されたら……というかそれ以前にBエリアとCエリアは行き来自由。もし何かあったら……」

21名無しさん:2021/02/04(木) 21:36:44 ID:dXvBdm.c0
( `ハ´)「そうなったら我はニダーを連れて逃げるアルから後始末は頼んだネ」

(;-@∀@)「市民を守ってくださいよ!監視官でしょ貴方!」

( `ハ´)「監視官の前に一父親ネ。家族を守りたいと思うのは当たり前アルしそこまで人間出来てないアル」

(;-@∀@)「別にニダーくんを見捨てろだなんて言ってませんよ……ただニダーくんと一緒に、出来る限りでもいいので市民の皆様も守ってください……」

( `ハ´)「……出来る限り、な。髭で感じ取れる範囲は仕事するアル。まあ、皇帝様の息がかかった者以外の武器の持ち込みは禁止されておるし、その辺りのセキュリティもきちんとしておるだろう」

(;-@∀@)「……違反者を見た事がないので何とも言えませんけどね」

( `ハ´)「見た事がないのなら良いでは無いか」

(;-@∀@)「皇帝様が元気な時は、ですよ。今は殆どモララー様とギコ様が統治しているでしょう?あの二人は、昔からずっと国民から色々と言われていたじゃないですか……」

( `ハ´)「……ふむ」

22名無しさん:2021/02/04(木) 21:37:43 ID:dXvBdm.c0
アサピーの意見も最もアルカ。とシナーは髭を触る。

この国は四つのエリアで分けられている。

一番上が国を収める皇帝と、その家族や兄弟、それらに気に入られたものが暮らす『Sエリア』。
と言っても皇帝であるモナーは病に倒れ、現在は三人の息子娘に国の殆どのことを任せている状態だ。

二番目は昔にあった疫病を逃れ、血を混ぜ合わすことのなかった人間―――『純血種』が暮らす『Aエリア』。
完全隔離されており、アサピーはおろかシナーでさえ入ったことがない。完全機密となっている。

三番目は皇帝の親戚や血筋が暮らす『Bエリア』。
従兄弟から名もつけられぬほど遠い血筋まで様々いる。
Sエリアほど優遇はされてはいないが、それでもこれから紹介するCエリアよりはマシだと誰しもが口を揃えて言うだろう。

その、『Cエリア』。皇帝の血を一滴も持たぬ他人が暮らす場所。
国の底部に属し、整備などされず、BエリアやSエリアの電力の供給のみを主としている。
同じ国民であるにもかかわらず、このようなカーストがあるのは昔からのこと。
今では半分慣れ親しんでしまったが、もう半分、このカースト制度に異議を唱える者もいるのは間違いない。

23名無しさん:2021/02/04(木) 21:39:24 ID:dXvBdm.c0
( `ハ´)「……信じるしかあるまい。彼奴らではなく、皇帝様が作り上げた技術を。それに我々は事がなければ動くことは出来んし、二人では守れるものも限度がある……割り切らねばこの仕事はキツいアルヨ」

(;-@∀@)「……ならまずはその平和ボケから治しませんか?シナーさん」

( `ハ´)

(`ハ´三`ハ´)

(#-@∀@)「無言で首を横に振らないでください!というか自覚あるなら治す意志くらい見せろ!」

( `ハ´)「どうどう」
ㅤㅤつ”ㅤつ”

(#-@∀@)(ムカつく)

(`ハ´  )

アサピーの視線が届いたのか、シナーは思い切り目をそらすが、それでも怒りは収まらないアサピーは軽くシナーを小突き、そっぽを向く。
彼らにはいつも通りである光景。エレベーターはそのままSエリアに着いた合図を鳴らした。

24名無しさん:2021/02/04(木) 21:40:04 ID:dXvBdm.c0
扉が開き、一歩踏み入れた所で空気が変わったのを二人の髭は感じ取る。
CエリアやBエリアよりも澄んだ空気と、絢爛豪華な装飾品の数々。
何より他のエリアとは違い、そこは完全なる室内になっていた。

(-@∀@)”ピスピス「何か薔薇のいい香りがしますね」

( `ハ´)「大方シィ辺りが匂い消し代わりに撒いたのだろう。彼奴はそういったことは気にするアルからな」

(-@∀@)「流石唯一の女性……」

(*゚ー゚)「そうね、うちの男共はそういうの気にしないから」

( `ハ´)

(-@∀@)

(*゚ー゚)

( `ハ´)「おおシィ。おったアルカ」

(-@∀@)「シィ様、おはようございます」

(*゚ー゚)「ねぇ今時間止まらなかったかしら?失礼じゃない?」

( `ハ´)「いやあまさかそんな、なぁ?」

(-@∀@)「そんなことしてませんよねシナーさん。あ、早く報告しましょうはっはっは心臓がまろびでるかと思った」

(*゚ー゚)「語尾のように本音漏らさないでくれる?」

25名無しさん:2021/02/04(木) 21:40:52 ID:dXvBdm.c0
(*゚ー゚)「全く失礼しちゃうわ。私は優しいから許してあげるけど次はこうは行かないわよ」

( `ハ´)「はは、冗談の割には拳銃ホルダーに手を伸ばしてるような気がするのは気の所為アルカ?」

(*゚ー゚)「気の所為よ。多分」

クスクスと笑いながら腰に着いている拳銃ホルダーを、手持ち無沙汰のようにクルクル指でなぞるピンク色の被毛の混血種―――シィは目をシナーに向ける。
シナーは何も動じていないような態度を取りつつも、武器をいつでも手に取れるような体制のシィを宥めるような声で会話を続けた。

( `ハ´)「しかし、お主からこうして顔を見せるのは珍しいアルな」

(*゚ー゚)「タイミングがよかっただけよ。丁度あの子たちにお菓子を持ってこようかと思って」

(-@∀@)「お嬢様たち……ですか?」

(*゚ー゚)「ええ、それと教育係のギャシャにもね」

( `ハ´)「ふむ、それならこうして会話しておるのも申し訳ないネ」

26名無しさん:2021/02/04(木) 21:41:21 ID:dXvBdm.c0
(*゚ー゚)「あら?優しいのね」

( `ハ´)「子を思う気持ちだけは共感できるからな」

(*゚ー゚)「ふふ、相変わらず手厳しい。仕事終わりはあんなにふにゃふにゃなのに」

( ´ハ`)「……はよう帰りたくてな……」

(;-@∀@)「あーもーシィ様!」

(*゚ー゚)「あらごめんなさい。スイッチ踏んじゃった。怒られる前に逃げちゃおうかしら」

パタパタと可愛らしい尻尾を揺らし、悪戯に成功した子供のように飛び跳ねながら去っていくシィ。
アサピーはその様子を見送り、今日何度目かわからぬため息をついてからシナーの背を軽く叩いた。

( ´ハ`)

(;-@∀@)「……ほら、早く報告して帰りますよ!」

( ´ハ`)「はいアル……」

27名無しさん:2021/02/04(木) 21:42:37 ID:dXvBdm.c0
カランコロンというシナーの下駄の音と、カツカツというアサピーの革靴の音だけが廊下のような場所に響いていく。
静かなのは人が少ないからなのか、それともこの空気感からか。
やがて両開きの重厚な造りをした鉄製である大きな扉にたどり着くと、何度か深呼吸を繰り返してから、一度アタッシュケースと笠を下に置き、シナーはその扉を両手で押し開いた。

扉の先に広がるのは、橙と紫が混ざったような黄昏時の光。
それは半球状に部屋全体を包み込んでいる大きなガラス窓から差し込んでおり、見渡すと今にも沈んでしまいそうな―――『太陽』が見えた。
部屋の中央の奥には大きなキングサイズのベッドが置かれており、傍らには金色の髪を長く伸ばした少し年のとった女性が座っていた。
女性は扉の開閉音によりこちらに気づいたのか、椅子から立ち上がると早々と駆け寄ってくる。
その姿は、どこか疲れているようだ。

28名無しさん:2021/02/04(木) 21:43:30 ID:dXvBdm.c0
|゚ノ ^∀^)「ごめんなさい。モナーくんついさっき寝ちゃったみたいで……」

( `ハ´)「謝ることはありませんよレモナ様。療養するには当たり前のことですから……モララー様とギコ様は?」

|゚ノ ^∀^)「二人は今部屋にいて……多分もう少ししたら来ると思いますわ」

レモナと呼ばれた女性が少し俯きがちに答えると、その直後に背後の扉が開いた。

(ㅤ・∀・)「――ああ、仕事の報告ですね。御苦労様ですシナー監視官殿」

(,,゚Д゚)「兄貴、お疲れ様、な」

一つは凛とした声。
一つは酷く冷静な声。

声の主だろう二人は、片方が金色の被毛をした、兄貴と呼ばれた青年の姿。
もう片方は青色の被毛をした頬に傷のある青年の姿をしていた。

( `ハ´)「……モララー様。押収した品でございます」

(ㅤ・∀・)「はは、貴方は相変わらずせっかちですねぇ。世間話とかをしても僕は許すというのに」

( `ハ´)「いえ、お二人の時間を長々と頂戴する訳にはいきませんので」

( ・∀・)「貴方が私と話したくないだけなのではないです?それとも話すことは無いとでも?」

( `ハ´)「……そのようなことは」

(;,゚Д゚)「兄貴」

( ・∀・)「おっと失敬。とんだご無礼を」

29名無しさん:2021/02/04(木) 21:44:23 ID:dXvBdm.c0
モララー様と呼ばれた金色の被毛の青年はクスクスと笑うが、二人からすれば馬鹿にされたようにしか感じられない。
そんな空気の変化を感じとってか青色の被毛をした青年が間に割り込むと、シナーが手にしていたアタッシュケースを受け取り、中を確認した。

(,,゚Д゚)「確かに受け取りました。御協力感謝致します」

( `ハ´)「いやいや、これが我の仕事ですから。それよりも出処は……」

(;,゚Д゚)「それがどの売人も知らない男に手渡された、としか証言しておらず……」

( `ハ´)「ふむ……自白剤は?」

(;,゚Д゚)「投与しましたが変わらずでした」

( `ハ´)「以前情報は掴めず……か。男の情報は?」

(,,゚Д゚)「混血種らしいのですが薄暗い路地裏等で話しかけられた者が多く、わかっているのは手袋に包まれた手と男性のような体格のシルエット。それと少々若い声のみです」

30名無しさん:2021/02/04(木) 21:44:49 ID:dXvBdm.c0
(;`ハ´)「……毛色も分からぬと?確かにCエリアは薄暗いですが……」

(;,゚Д゚)「正直、毛色のみ売人によってまちまちで……もしかしたら依頼する度に色を染め直してる可能性があるか、複数人の犯行か……」

(;`ハ´)「後者が一番有り得そうではあるか……?とりあえずパトロールの回数を少し増やして見ますアル」

(;,゚Д゚)「はい……お願いします」

( ・∀・)「そんなまどろっこしいことしないでCエリアの住民全員尋問して回ればいいのに」

(;,゚Д゚)「兄貴!」

31名無しさん:2021/02/04(木) 21:45:20 ID:dXvBdm.c0
( ・∀・)「だってそうだろ?『純血』は国にとって負の遺産。それがばらまかれているんなら、それ相応のことはしないと」

そう言いながらモララーはアタッシュケースを覗き込み、中身のものを一つ取り出した。
真っ赤な液体が入ったビン。それを軽く振りながら、ねぇ?とギコとシナーに目を向ける。

(;,゚Д゚)「でも……」

( ・∀・)「でも?でも何だい?このままこれの正体が広まれば僕らが責任を取らなければいけないんだよ。だって―――」

( ・∀ )「『純血』は、その名の通り純血種の血液なんだから」

ギコの喉から詰まったような声が漏れる。
『純血』。一ヶ月程前に突如この国に現れた薬の呼称。
血液のように赤く、体に入れれば何もわからぬ生娘のように目の前が明るくなるとされている、所謂麻薬である。
その正体は、国がAエリアに保護しているはずの純血種の血液だと二週間前に明らかになっていた。
もしこれが国民にバレればどのようなパニックが起こるか分からない。
想定の出来ぬ未来になること程、国にとって怖いことは無いだろう。

32名無しさん:2021/02/04(木) 21:45:51 ID:dXvBdm.c0
( ・∀・)「もしかしたら僕らの中にスパイがいるかもしれない。疑うのは大いに結構。だけれどまずCエリアの住民を疑うのも筋ってものだろう?……でしょう?シナーさん」

( `ハ´)「……御心は分かります。ですが他の者には罪はございません。罪なき人間を裁くほどこの世界は落ちぶれちゃあいないでしょう?」

( ・∀・)「……口が上手ですね。確かに罪なき人間を裁くことなんかできません。それはこの国、いや、世界の決まり……何とも歯痒いものですねぇ」

( `ハ´)(……決まりがなければ、やるとでもいうアルカ……)

やはり、この男は苦手だ。
そう思うのを堪えつつ、シナーは軽く頭を下げる。

( `ハ´)「……その話はノーコメントとするにして、今日の所はここで失礼致します。何か情報等ありましたらご連絡を」

( ・∀・)「了解です。貴方がSエリアに住んでくださるのが一番楽なんですがね。意外と私貴方のこと気に入ってるんですよ?」

( `ハ´)「はは、Bエリアには様々な友人がいましてね。そう簡単には離れられませんよ。それでは、皇帝様もお元気で」

ケラケラと笑みをみせ、簡単な挨拶をしてからシナーたちは鉄扉の向こうに消える。
閉じた先でモララーの笑い声が聞こえたような気がし、シナーは笑みを引っ込ませた。

33名無しさん:2021/02/04(木) 21:46:50 ID:dXvBdm.c0
(-@∀@)「嘘、ですよね。離れられないというか離れない理由」

( `ハ´)「当たり前だろう。こんな所におったら
息が詰まって死んでしまうアル」

(ㅤ-ハ-)「それに、確かに友人たちもおるし、ニダーを友と離したくないというのもあるが……あのような奴が、我の知らぬ間にニダーと同じ空間におって、ニダーに手を出さないとは限らぬであろう」

(;-@∀@)「一番警戒してる相手が国のトップ候補とは、こちらとしては笑えませんけどね」

苦笑いを浮かべるアサピーにつられ、シナーもゆっくり笑みを作る。
それでも、従わねばいけない。
反乱すれば国家反逆罪となり、追われる身になることは目に見えていた。
そこに家族を巻き込む訳にも行かないため、どうすることもできない。
だから、嫌でも疑わしくても、膝をつかねばならぬのだ。
家族のためにも守れるもののためにも、ずっと。

34名無しさん:2021/02/04(木) 21:47:41 ID:dXvBdm.c0
(-@∀@)「でもSエリアに住み込んだら報告後直ぐに帰れそうな気が……」

( `ハ´)

( `ハ´)
ㅤ _,
( `ハ´)

( `ハ´)「いや、それでも我はBエリアでいいヨロシ」

(-@∀@)「今ちょっと考えましたよね?貴方の意志ペラッペラじゃないですか」

( `ハ´)「飛ばされなかっただけマシヨ。ほらほら早く帰るアル迅速にすぐ」
ㅤ_,
(-@∀@)=з「そういう問題じゃないですよ……」

パタパタとエレベーターに向かって早歩きになるシナーに、アサピーは呆れた顔をうかべてついて行く。
そして意気揚々とエレベーターのボタンを押したシナーは、ふと髭を揺らすと振り返って腕を広げた。

(-@∀@)「…?シナーさん何をして―――」

「わぶっ!?」

35名無しさん:2021/02/04(木) 21:48:34 ID:dXvBdm.c0
(;-@∀@)「!?」

アサピーが疑問を投げかけるよりも先に聞こえた声。
わたわたとアサピーが困惑する中、冷静沈着を保つシナーは腕の中に飛び込んだ『その人』をゆっくりと離した。

( `ハ´)「これ、廊下で走ると危ないであろう?」

(;*゚∀゚)「ご、ごめんなさぁい……」

赤紫色の被毛をした、小さな女の子。
あうあうと申し訳なさそうにしているその子の後ろから、軽い足音と共にもう一つ、大人の足音が聞こえてきた。

(゚A゚* )「お姉ちゃん大丈b(;,゚-゚)「ツー様!!!!大丈夫ですか!!!!お怪我は!!!!」」

(゚A゚* )
 _,
(゚A゚* )「……全部遮られてしもた……」

36名無しさん:2021/02/04(木) 21:49:27 ID:dXvBdm.c0
不屈そうに眉間に皺を寄せるのは、紫色の被毛の女の子。
彼女は慌ててやってきた桜色の被毛をした女性の一歩後ろから見守っていた。

(;*゚∀゚)「大丈夫……この人が受け止めてくれて……」

(;,゚-゚)「本当ですか!?嘘などはついておりませんね!?」

(;*゚∀゚)「つ、ついてねーよ!大丈夫だってば!」

キャンキャンと騒ぐツーと呼ばれた子供は、もう一度シナーに向き直ると深く頭を下げる。

(;*゚∀゚)「もー走りません……ごめんなさい……」

( `ハ´)「なに、謝ってくれるなら構わぬ。怪我のないようにな」

(*゚∀゚)「……ところでおじさん。何で俺がぶつかるって分かったんだ?腕広げてたってことは知ってたんだろ?」

こて、と首を傾げるツーにシナーは目を何度か瞬きさせ、小さく笑う。
どこか楽しんでいるような顔にアサピーは、やはりこの人は子煩悩なのだな、と安心すら覚えてしてしまった。

37名無しさん:2021/02/04(木) 21:50:24 ID:dXvBdm.c0
( `ハ´)「む……頭が良いアルなお嬢さん。」

(*゚∀゚)「だろ!タカラ兄とかフサ兄にも褒められんだ俺!」

(,,゚-゚)「ツー様。タカラ様とフサ様、でしょう?」
_,
(*゚∀゚)

( `ハ´)「……我ら混血種には、細かな髭が沢山生えておる。本物の獣たちのようにな」

そう言いながら自身の長い髭を触り目を細めるシナーに、ツーは小さく首を傾げ大きく頷く。
確かに彼らの口の周りには短く薄いながらも髭が細かく生えている。
本来の人間のように濃かったり薄かったりと差はあるが、それらは周りの環境を感じ取るのにとても役に立っていた。
だがシナーの口元には長く目立つ二本の髭以外、他の髭が全く見受けられない。

38名無しさん:2021/02/04(木) 21:51:01 ID:dXvBdm.c0
( `ハ´)「我の髭はこの二本以外生えることは無くてな。大分苦労はしたが……代わりに、他の髭以上に周りの空気に敏感になったアル。数メートル先で何が動いたか、何が起きたか、どのような人物がどのような行動を取ろうとしているのか……はっきりと分かるようになったネ」

ピン、と軽く指で弾けばゆっくりと元の位置に戻る髭を指差して解説をするシナーに、ツーはキラキラとした笑みを向けている。
そのまま、自分の髭に手を伸ばそうとしたのが分かったのか、シナーは軽くしゃがんでツーと同じ視線になった。
ツーは少し驚くが、恐る恐る手を伸ばし、シナーの髭を握る。

(*゚∀゚)「硬ぇ!」

( `ハ´)「ふふ、くすぐったいネ」

39名無しさん:2021/02/04(木) 21:51:23 ID:dXvBdm.c0
(*゚∀゚)「……おじさんすげー人なんだな!」

( `ハ´)「お主らの母親程ではないがな……シナー=ハンカニム、というアル。好きに呼ぶといいヨロシ」

(*゚∀゚)「ん!俺ツー=キャトワル!で、こっちがギャシャで、俺の妹のノー!」

(,,゚-゚)「ご紹介にあずかりました、ギャシャと申します。ツー様とノー様の教育係をしております」

(゚A゚* )「……ん」

大きく頭を下げるギャシャとは対象的に、人見知りなのかノーは軽く頭を動かすだけ。
それでも気にする素振りなく、シナーは立ち上がりツーの頭を撫でると、ギャシャに目を向けた。

40名無しさん:2021/02/04(木) 21:51:56 ID:dXvBdm.c0
( `ハ´)「すまない、勉強の時間だったというのに」

(,,゚-゚)「いえ。ご休憩時間でしたので大丈夫です」

(;,゚-゚)「それよりもツー様を救っていただきありがとうございます……!」

(;`ハ´)「お、おう……どういたしまして……」

(;-@∀@)(救う……?)

酷く心配性なのか、汗で濡れているにもかかわらずギャシャはシナーの手を握り礼を述べ、再び頭を下げる。
多少困惑していた二人だが、このままにしておく訳にも行かず――というかシナーはただ帰りたいだけなのだが――とりあえずと言うように定型文を返し、ゆっくりと腕を引っ込めた。

(;-@∀@)(というか子煩悩とか親バカな人この世界に多すぎない……?早くもキャラ被りが……)

(;`ハ´)(アサピー。メタいことは言うでない。出番減らされるぞ。ただでさえ今現在ほぼツッコミしかしていないというのに)

(;-@∀@)(それが一番メタくありません??)

(,,゚-゚)「どうかしましたか?」

(;`ハ´)「アイヤッ、な、何でもないアル。気にしないヨロシ」

(,,゚-゚)?

(;-@∀@)「そっ、そろそろお暇しましょーか!お忙しいようですし!」

(;`ハ´)「そうアルネ。長々と居すぎたアル。ギャシャ殿、またお会いできるといいアルネ」

(,,゚-゚)「ああ……はい……それでは私たちも失礼致しますね……?」

(,,゚-゚)???

41名無しさん:2021/02/04(木) 21:52:51 ID:dXvBdm.c0
エレベーターはもうとっくのとうに到着しており、乗り込みながら、シナーは手に持っていた完全に存在が忘れ去られていたであろう笠を持ち直し、去りゆく三人に軽く手を振る。
アサピーはボタンを押しながら微笑ましそうに見守っていたが、不意に何かを思い出しシナーに顔を向けた。

(-@∀@)「そういえば、報告書書くの忘れないでくださいねシナーさん。貴方いつも忘れて……というか面倒くさがって結局ギリギリになるんですから」

( `ハ´)+「やれたらやるアル」

(#-@∀@)「それやらないやつじゃないですか!やってくださいね!?また溜まった報告書書くために泊まり込みは嫌ですよ!」

( ´ハ`)

閉まり際にも聞こえる騒ぎ声はエレベーターが下がるにつれ聞こえなくなっていく。
いつの間にかBエリアを照らす明かりもゆっくりと明度を下げていた。

42名無しさん:2021/02/04(木) 21:54:10 ID:dXvBdm.c0



これがこの国の当たり前の日常。
どれだけ上が酷かろうが、どれだけ治安が悪かろうが、何も変わらずに終わっていく。
歯車はそう簡単にかけ違えないなんて、ここに住む者は良くも悪くも分かっていた。


……けれど、歯車に石が詰まれば動かなくなるのと同じで、日常もほんの少しの変化で大きく変わっていく。


それは、些細な事件から始まった。


(,,゚-゚)「ほら、ツー様、ノー様。お部屋に戻りますよ」

(*゚∀゚)「…………はぁい」

(゚A゚* )「…………」


ゆっくりと、ゆっくりと。
何かが変わっていく。

その変化に気づくのは、始まってから暫く経った時だった。




―――1.箱庭の国《終》

43名無しさん:2021/02/04(木) 21:55:24 ID:dXvBdm.c0
第一章は以上です。
途中で空白を入れるのを忘れておりだいぶワタワタしていました。二章以降ではきちんと確認致します……
お付き合い頂き、ありがとうございました。
以降もよろしくお願いします。

44名無しさん:2021/02/04(木) 22:00:30 ID:CXWzZdAE0

応援するで

45名無しさん:2021/02/04(木) 22:05:05 ID:l6.vxPyk0
乙です

46名無しさん:2021/02/05(金) 01:29:19 ID:v.2xphI.0
雰囲気いいねぇ
期待!

47名無しさん:2021/02/20(土) 16:57:30 ID:.dQ5PmbA0
しょんぼりしてるシナーみて、シナーが初めて可愛く思えた……続きも楽しみ

48名無しさん:2021/03/11(木) 17:23:18 ID:9p0ZqN.k0
面白そうなの来てた
投下楽しみにしてます


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