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( ^ν^)『グッドラック!』のようです
1
:
名無しさん
:2020/10/26(月) 21:53:02 ID:gZst8NnM0
P.
朝焼けの名残りが、峙つ入道雲越しに霞んで見える。
零れ落ちる光の欠片を落とさぬように、掌をお盆の形に整えた。
実りと収穫のこの季節には似つかわしくない、過ぎた盛夏の置き土産を、遠い眼差しで見つめている。
水田の細流が死水にならないよう、貴方は今朝方水を引いてくれた。
稲刈りなのに、どうして水を流してしまうの?
理由は見当たらないけれど、耳当たりの良い爽やかなせせらぎ。
まだ薄白い芒原へ散歩に出かけて、明日は砂浜にでも行ってみようよ、と言う。
二転三転移り変わる奔放な貴方はまるで子どもみたいで、物憂い作り笑いはぎこちない。
「いい本があるんだ。こんな日にはぴったりの一冊なんだ」
そんなに本を読まない人なのに、心に沁み入る大切なことを分かってる。
気まぐれでなんとなく選んだその詩集は、番えた老夫婦の詩だった。
.
122
:
名無しさん
:2020/10/28(水) 23:55:58 ID:GyVjF5BM0
※※※※※※※※※※※※※※
何と喜ばしいことだろう。何と嬉しいことだろう。
薬が効いたのか、シューの容態が快復しつつある。
昨日なんて米を四合も炊いて平らげた。
会話だって滞りなく、恣意的な思考回路も取り戻していた。
激しく憤る数も減った。舌を垂らし痴愚になることも滅多に無い。
万事順調、順風満帆なあの頃が帰ってきたかのようだ。
共に拖泥帯水へと沈み込み、寄り添い続けた功が実ったんだ。きっとそうだ。そう思いたかったんだ。
盛岡は何年も前から業務成績の一向に上昇しない俺への扱いに四苦八苦していたらしい。
杉浦という第三者を通じての連絡だったのを良い事に、気遣いの形を象った休職の手筈を進めたと聴く。
事態が飲み込めない以上直接本社へ出勤した際休めと言われ、後ほど詳細を杉浦から伝えられた。
.
123
:
名無しさん
:2020/10/28(水) 23:56:58 ID:GyVjF5BM0
頭が硬くなったのでは無く、単に俺が厄介者認定されていただけだった。
休職中は勿論給料など出ない。福利厚生も手当も無い。
霙混じりの雑音も、いつの間にか淅瀝たる牡丹雪へと様変わりしていた。
ヒールが終に自室から出てきてくれた。
烈火の如く真っ赤な髪色に染め上げて、非現実的な服装を肥やしに肥やした肉に乗せ、漸く準備が整ったと豪語している。
何を成すつもりかは皆目見当が付かないけれども、ただ暇を潰して食料を消費するだけの日々から脱却してくれるのなら、それだけでも十分だ。
身体を締め上げている麻縄じみた付属品は単なる服飾の一部のようで、最近の流行を汲んでいるつもりなんだろう。
現状を見据えて今後の経緯を予想出来る様になれたのは、とても喜ばしいことだ。俺はきっと純粋に嬉しかったのだろう。
夜学に通う金を稼ぐ為、派遣会社に登録して、これから紹介先の面接に行くそうだ。
服装の指定無しと記載されていたから、自分らしい格好で訪ねるべきだと考えたんだと。
うんうん、何事も経験だ。一家の代表として是非応援しよう。頑張る娘の背中を押そう。
.
124
:
名無しさん
:2020/10/28(水) 23:57:54 ID:GyVjF5BM0
太陽が空の頂上へと昇りきった時間帯に目覚める毎日。
雨戸の締め切った暗い万年床で、時を告げるのは街並の音。
一週間以上こんな生活が続いたことなど、生まれてこの方あっただろうか。
三日に一回程度の頻度で、杉浦が仕事終わりに様子を見に来てくれた。丁度繁忙期が経過したらしい。
時々やや豪華な惣菜を貰ったりもした。有り難すぎてこいつに足を向けては寝られない。無貸与の借金を日々重複させ続けている気分だ。
そして今日も俺は、何をすれば良いんだ。しかし、迷うが答えは明白だ。家族ともっと話すべきだ。
分かっているのに身体も頭も働かない。あんなにも希っていた機会が齎されたというのに、どうして気力が湧き立たない。
時間が数限りなくあると勘違いしているからか。
いつでも実現可能な状態になったから、面倒事を後回しにしているのか。
.
125
:
名無しさん
:2020/10/28(水) 23:58:28 ID:GyVjF5BM0
しんしんと降り積もる雪の気配を感じる。
痛い程の静謐が窓硝子に爪を立てていた。
くるうも近々働き始めるらしい。
指示されたことはしっかりこなすし物分かりの良い子だから、あとは愛想さえ身に付けられれば大丈夫だろう。
近くのコンビニで採用された旨をシューを通じて聴いた、と思う。
人手が足りていなかったから、どんな時間帯でも対応出来る近所の人なら大歓迎だと。
扱き使われるのが目に見えているが、辛くなったらすぐに逃げて相談して欲しい。
今度こそしっかり話を聴いて、なるべく上手く言葉を選ぶよう気をつけるから。
.
126
:
名無しさん
:2020/10/28(水) 23:59:16 ID:GyVjF5BM0
lw´‐ _‐ノv「わたしは、もう、ここにはいられない。あなたの目に入るわたしは、あなたの求めるわたしになりえない」
( ^ν^)「何?」
ヒールもくるうも、ここにいない。
遠い日が寒々しく滑り込むリビングで、寝惚け眼のお前が脈打つ。
築何年だったか忘れてしまったが、たぶんくるうと同い年のこの家も、去年ローンが払い終わった。
度重なる風雨に晒されて、鼠色じみた煤汚れの目立つ外壁は、ふと手を突いて触覚を試すと、ざらざらと歳衰えた趣きを醸してくる。
足取りが重い。俺も随分、歳を重ねてしまった。指先すらも動かし辛い。
今日は雪がだいぶ積もった。世界から音が消えたみたいに、しんと静まり返っている。
lw´‐ _‐ノv「もう、わかったんだ。これが最期な気がするから、今のうちに、今のうちに、しっかり伝えないとって」
( ^ν^)「そうかい」
.
127
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:00:06 ID:gDv24fb.0
俺の言葉は少ない方がいい。
お前が中心になっているからこそ、余計な口出しは不要だ。
何よりも、過日のお前がここにいるように思えるから。
例えそれが最期だとしても。例えこの一瞬が、瞬く間に覚めてしまう夢幻の一刹那だとしても。
何れにせよ、やがて人は居なくなる。だからこの一瞬に、お前は全身全霊をこめているんだろう。
深々と意識を冷やす外気が背中に当たる。この風はお前をさらってゆくのか、それとも発電機関の余熱を安らげてくれているのか。
lw´‐ _‐ノv「なんと、言えばいいんだろうか。どんな言葉を用いれば、しっかり大切なことを、かんちがいなく言えるんだろうか」
( ^ν^)「そのまんまで上等だよ」
真っ白い大地と、真っ白い空だった。
もう何年も、この真っ白い世界で溺れ続けていたような気がする。
白を通り越し青を通り越し、溶け残った断片は淡彩の檸檬色だった。
.
128
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:01:06 ID:gDv24fb.0
きっと今日もどこかで子どもが生まれている。
生命の躍動に感涙して、咽ぶ二人が改めて家族になる。
生物の死に絶えた閑散の中で、果実のお前が繁吹いている。
無常の風か、極楽の余り風か。しかし季節は冬だった。
瞬きをゆっくりと三度、のちに静かな深呼吸。柑橘類の香気。
lw´‐ _‐ノv「あなたは変わらず接してくれる。たった二人のときだけは、わたしもあなたも、あのころにもどれるの」
( ^ν^)「お前に、寄せているだけだよ」
悲願は果たされたか、あるいはもしかして、いや、やっぱり俺はお前が羨ましかった。
思い返せば最近は、お前お前と誰何してばかりで、お前の実体を見ようともしてなかったな。
淡い陽だまりに彩られ、瞑目して想いを巡らすその仕草にも、久しく出会っていなかった。
部屋に明かりが入る程、隅の家族写真は翳りゆく。
若かりし日の四人の姿が影に埋もれる。
.
129
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:02:08 ID:gDv24fb.0
lw´‐ _‐ノv「苦労をかけたね」
( ^ν^)「そんなことない」
お前こそ全てだから。使い古された文句で申し訳ない。
lw´‐ _‐ノv「たくさん迷惑かけたよ」
( ^ν^)「何言ってんだ」
俺には余りにも過ぎた日々だったよ。上手く口が回らなくて、ごめん。
lw´‐ _‐ノv「悪かった、本当に」
( ^ν^)「それは俺の台詞だ」
寧ろ俺が、山程お前に世話になった。幾ら感謝してもし足りない。
lw´‐ _‐ノv「…ごめんね、全部」
( ^ν^)「…」
頼むから、この記憶だけでも残してくれ。なんでもするから、忘れさせないでくれ。
.
130
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:04:13 ID:gDv24fb.0
lw´‐ _‐ノv「でもね、わたしは楽しかったよ」
( ^ν^)
俺も、楽しかったよ。大変だったけれど、最高の人生だ。
lw´‐ _‐ノv「くるうやヒールと出会えて、わたしは本当に、幸せでした」
( ν )
俺だって、そうだ。何十年にも渡る苦痛よりも、お前たちと出会えた一瞬を愛している。
lw´‐ _‐ノv「あなたと過ごせて、わたしは世界で一番幸せだった。あなたが、ニュッさんが、わたしの全てだった」
:( ν ):
それでも、それでもお前は、シューは、行ってしまうのか。
lw´‐ _‐ノv「ありがとう、ありがとう、ニュッさん。…さようなら」
:( ;ν;):「…あ、あ」
それきり、シューの機関は止まってしまった。縄のねじれる音がした。
シューの黄色の残り香が、穏やかな冬の日差しにとどまっている。
そんなありふれた奇跡が起こればよかったのに。
※※※※※※※※※※※※※※
.
131
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:05:39 ID:gDv24fb.0
※※※※※※※※※※※※※※※
清浄に掃き清められた、澄んだ空気の夜だった。
川 ゚ 々゚)「くるうね、最近怖い夢を見るの。お母さんにね、高いところから突き落とされんの」
lw´‐ _‐ノv「え」
光色の一切が失せた黝然の瞳で、くるうは何の気なしに話していた。俺はそれを笑って聴き流している。
しかしシューには、たったそれだけの言からですら、深い楔が刺さっていた。
思い返せばあの数日、たった数日で、それまで綺麗に均されていた家の庭が、底冷えする泥沼と化してしまったのかもしれない。
( ^ν^)「ヒールは学校どうだ?」
川*` ゥ´)「別に」
.
132
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:06:36 ID:GaunGq2Q0
病と言うのは暗々裏に進行する。必ずしもその姿を露わにして、あからさまな狂態を晒すとも限らない。
万事は取り分けて、俺が知ってようと知らずまいと、説得力が有ろうと無かろうと、時間のような不気味さで歩を進める。
病巣の原因が分かれば苦労はしない、か。
だがそう思い込もうとしても、因果が分かったところで、きっともう取り返しが付かない段階に達していたんだ。
( ^ν^)「そういえばお前、先週の日曜日、どこに行ってたんだ? 妙に帰りが遅くて心配してたんだぞ」
lw´‐ _‐ノv「ああ、えっとね、その日は杉浦さんにご馳走になって、それで遅くなったの」
どうにも具合が悪そうに俯く老成途上のお前から、不意に湧き立つ後ろめたさを覚える。
その正体が自身とデレの関係に起因しているのに、甲斐性無しの被害妄想が勢い付いて、暴れ出しつつあった。
雨の細波が清冽に場の空気を濁す、無辺際に桜の咲き染める初春の宵。
.
133
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:07:40 ID:gDv24fb.0
それから雨が嫌いになった。
いじらしい嫉妬を隠すように、杉浦が本来持つ平素の気立てを好印象で束ねていった。例えあいつの本心が、真実優しさで出来ていようと。
あれきり全部変わってしまった。
死に絶えた四季が腐敗臭を彷徨かせている。
冷めた視座で自分を笑うように、夜の底へと沈み込む。
人の衝動性に説得力が見出せないのと同様、尽く世の無状はじっとりと人を掴んで離さない。
瑞々しい香りが漂う。糞便の幻臭が漂う。廉価な香料でさえ、値千万の価値を持っていた。その筈だった。
自己の回天が済んだ今、残り香は所詮、憧憬の虚しさ。喉が乾く。肉を焼き焦がすほどの熱を持った、喉が渇く。
腹が減った。酷く腹が減っていた。
中身が空っぽになったみたいに身体が軽く、しかも吐くほど腹が減っていた。
.
134
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:09:03 ID:gDv24fb.0
柔らかい水に包み込まれている。
怒鳴り声に乗る赤児じみた叫喚は、自分のどうしようもなく頭の悪い所を誤魔化すように、ただ只管荒れていた。
その出所からは、馥郁とした香辛料のスパイシーな香りが漂う。
陶酔境の鴇色が、濡れそぼって近づいて来る。
えらく危なっかしい酔歩の持ち主は頬を染めつつ、それが偽らぬ素性と告げていた。
あの日の唐草模様は何を盗んだ。
混じり気の無かった純白が、平和の象徴を象っている。
どうしても、お前は遠くに行ってしまう。
こちらで借りた附属品の一切を失せているのに、何故そんなにも綺麗なんだろうか。
言葉を解する花が立つ。
一際輝く瞳の奥は果てし無く、人跡未踏のそれは無量に広がる清かの極地。
お前はそこから何を見る?
なのに、どうして、ここはこんなにも真黒い。
どうしてこんなにも、暗く、鬱悒く、寒いんだ。
.
135
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:10:24 ID:gDv24fb.0
折角だから最期くらい、飛び切り素晴らしい夢現を見せたかったのに。
明るくて、晴れ渡るような、さめざめと涙を流して、優しくて、喜ばしくて、素敵で。
例えそれが、いつか必ず覚める妄語に過ぎないにせよ。
例えそれが、無い心を全力で働かせた、幼稚な戯言に過ぎなくとも。
別離が無性に恐ろしい。乖離がただただ悍しい。
俺に見せるな、俺に聞かせるな。
今ですら慌てふためくほどの圧倒的な人の悪意で、底知れない怨嗟で、俺を怯えさせる全ての声を、耐えられないほどの絶望の病を、
頼むからあいつに、あの子たちに、与えてやらないでくれ。
心を蝕む呪詛に中てられた末路を俺は体験した。
淵源の見当たらない、只管理不尽な、唐突で曖昧模糊とした今日までの日々を。
明日も明後日も、寝ても覚めても終わらない無限の輪廻の連鎖を。
だからお前たちは、それを掻い摘んで気付いてくれ。
いつになっても構わないが、早いに越した事はない。
.
136
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:11:43 ID:gDv24fb.0
自我の悩みは何れにせよ消える。
それまで耐えるにしても、自分の限界は知っておくべきだ。
暗晦の夜長が明けたとしても、帳の隙間から覗く星宿に感動しても、循環する四季の天然に身を焦がしても、夕去に延びる冥々の陰影を書き殴っても、
少なくとも、今はまだまだ続く。
壊れた物は治らない。欠落品は直らない。人は快復しない。
お前たちの悩みが何処に在るのか、俺は分からなかった。
もっと話しておけば良かった。
これだけ無為自然と、もしも無意味で在るにせよ、抒情出来ているのだから。
意味の無いことが好きだよ。だから会話が大好きだ。
心が通じ合うことも、共通する理解が繋がることも、決して無いから。
好きな行為には、相反する嫌いな感情が同量付加される。
好きで在れば好きで在るほど嫌いで、嫌いで在れば嫌いで在るほど好き。
感情が雑多に混ざり合ってこそ、人間らしい。
一つの対象に一つの意識しか向けられないなんて、そもそも大前提として有り得ない。
お前たちが大好きだよ。
世界で一番、この命を擲ってでも守りたい、大切な大切な家族だ。
.
137
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:12:40 ID:gDv24fb.0
そんなことをわざわざ口に出してまで、まるで確認するみたいに話す必要、無いだろ。
態度からでも心情は伝わるものだ。家族だからな。
水沢腹堅晩冬の時期。
随分と身体が重たく感じる。芯の芯から冷え切ってゆくみたいに。
唐突だが、あれは偽薬に過ぎないことくらい、分かっていた。
毒味がてら舐めてみると、ただの氷砂糖の結晶だった。
甘かった。どうしようもなく、甘ったるかった。
もうだいぶ、本当に途方も無く長く感じる時間が経っていた。
この薄茶い装丁も、きっと不本意な用途を押し付けられた、と思っていた事だろう。
無能の集積なんて不名誉の烙印を押されてしまうんだから。
何番線か不明の、家族の居ないホームに、独りで立つ。
半身が上手く動かせない。寒波に手が悴んで、指先が全く微動だにしない。
しかし不随意に、寒さを紛らすように、或いは固まる自分を震えで鼓舞するように、足先だけが振戦している。
.
138
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:14:07 ID:gDv24fb.0
どうして今更なんて、そんな野暮なことを疑問視しないでくれ。
変わらない日々に順応する為の仮面を付けていた、なんて格好つけるつもりはない。
お父さんはさ、疲れているんだ。
なるべくそれを表に出さないようにしているけれど、もう駄目なんだ。
彼方を見据えると、朝焼けに青褪めた対岸線が透けている。
眩い許りの太陽が視界をぼやかして、そこにいつかのトパーズが見える。
黄玉色は、確かにそこで飛沫を上げた。
硬くて脆い、檸檬のような儚さに、俺はいつかの微睡を思い返す。
あの廉価な香気。限りなく愛おしい、もうここにはいないお前のもの。
お前達に会えて良かった。本当に良かった。
しかし、何が良いんだろうか。いや、きっと何でも良いんだろう。
運命も因果も、夢も憧れも、きっと全部叶わない。叶わないのなら、せめて不在の明日に希望を託そう。
踵に軽く体重を乗せる。丸く擦り減った靴底のコインローファー。
皺が幾星霜にも寄る甲の切れ込み、そこへなけなしの硬貨を嵌めた。
それでは、幸運を。
グッドバイ。
.
139
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:14:49 ID:gDv24fb.0
( ^ν^)『グッドラック!』のようです
【終】
.
140
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:15:21 ID:gDv24fb.0
E.
( 十ω十)「『これを読んでいると言うことは、恐らくもう俺はこの世にはいないだろう』」
( ФωФ)「…莫迦」
あいつは首を括っていた。
度重なる負担に耐えかねて、耐えかねて、誰に相談するでも無く、全てをこの虚しい手帳に記していた。
ほんの数ヶ月、又はあいつにとっては、たった二、三日でのこと。
盛岡さんはこいつの訃報を聴いて、心底後悔していた。
本意が休養のつもりだったのか、除け者にする為だったのか、その実態は分からない。
あいつは、それでも確かに生きていた。
脊椎に傷を負って、不随の身体を引き摺りながら、それでも確かに生きていた。
老々介護のように互いで互いを支え合っていたように見えたが、奥さんの一時寛解は、やはり幻であったようだ。
.
141
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:16:06 ID:gDv24fb.0
あの日、唐突に休まされるようになってから、私はほぼ毎日こいつの家を訪ねた。
奥さん…シューさんとは産後、夫とどうすれば共に子育て出来るのかについてのアドバイスを訊かれた時以来だったが、
件の人物も、悲しいまでに変わってしまっていた。
薄情ですまない。
しかし私とシューさんとの間に、お前が危惧していたような関係は全く持って無かったよ。
lw´‐ _‐ノv「あ〜…」
(;十ω十)「…」
もはや意思の疎通は不可能。
内藤医師も、命に別状は無いと仰られていたが、緩和ケアを考えるべきとも話していたか。
.
142
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:16:54 ID:gDv24fb.0
彼らとも一度見えたが、一家揃って身勝手な方々だった。
葬式でほくそ笑む輩など初めて見たものだから、私はついその胸倉を掴み上げて、路傍に摘み出してしまったが、
その程度だが、お前は少しでも満足してくれたか。
川* ゚ 々゚)「あ〜…」
川*` ゥ´)「……」
( 十ω十)「…」
余白で偽ったとしても、何の実りもないだろうに。
酒乱の長女は日々酩酊していて、既に言葉も通じなくなっている。
自堕落な次女は日がな一日中、食料と惰眠と暇を貪っている。
お前の意思は掻い摘んで伝えたが、何の変化も起こらなかった。
お前が言わないで欲しいと記載していた出来事は省いて、その意図をお前の経験と同時に伝えたが、三人に変化は無かった。
.
143
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:18:52 ID:gDv24fb.0
( 十ω十)「……」
私はお前が作り上げた家の庭を土足で踏み荒らしたくなどない。
お前が今まで全力で生きてきたその結晶を、私の突発的な怒りで亡き者になどしたくない。
だから私は何も言わない。
義務でも責でも何でもない一人の友人として、お前の大切な物を、極力干渉することなく、出来るだけ守って行く心づもりだ。
lw´゚ _゚ノv「米ぇ!!」
川# ゚ 々゚)「うるさい!!」
川*#` ゥ´)「…ッチ」
( 十ω十)「……」
お前はこれを耐えてきたのか。それとも受け入れてきたのか。
この、何処までも淡々と続く、何処にでもありふれた人の営みを。
生と言う名の不治の病を患い、その自我を全面的に肯定している人々を。
.
144
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:19:45 ID:gDv24fb.0
愛おしい面影の残る血を分けた家族を見て、日々変化する異常を鉄扉の心で受容し、それらを盲に認めてきたのか。
lw´゚ _゚ノv「米ぇ!! 米ぇ!! 米持ってこい!!」
川# ゚ 々゚)「さっき食べたでしょっ!! 何回も言わせないで!! うるさいの!!」
川*#` ゥ´)「…ウッッザ」
( ФωФ)「……」
ここは墓場だ。
魂の抜けた空虚な人形が、土に埋れず死体を遊ばせている、暗晦のモルグだ。
お前が見ようとしていた清涼の海は、天然の自然は、一度でも見失ったらそこで終わりなんだ。
私はここに来て、やっとその木片を垣間見えた。
.
145
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:21:07 ID:gDv24fb.0
お前の部屋は、お前の家族が捨てるのを面倒臭がったゴミ袋が所狭しと敷き詰められていた。
お前が作り置きしていた料理の一切も、お前が大事にしていた小説の一切も、全てが分別無く綯交ぜに腐敗臭を漂わせていた。
しかしあの夥しい量は…お前は生きていた時から、そこに押し込められていたのか。
( ФωФ)「…なあ、ニュッさん」
あの、二月の良く晴れた日。
異常の始めと終わりにだけしか拝めなかった、朝焼けの燻る日。
貧困に喘ぎ売り払ってしまった車の代わりに、これから用いたであろう電車のホーム。
あの日見た唐草模様の弁当箱は、そこにそのまま放置されていた。
踵の擦り減った靴を滑らせ、そのまま転がり落ちたお前を思う。
無数に鏤められたお前の一端であるローファー。そのサドル。
冥銭が五円玉というのは、あまりにも悲しすぎるだろう。
( ФωФ)「なあ、ニュッ…」
返事は無かった。無常の風が、桜の花弁を吹かせている。
春が来た。
【了】
.
146
:
◆MSKEobRqzo
:2020/10/29(木) 00:23:20 ID:gDv24fb.0
以上です
読み辛い文章で大変申し訳ございませんでした
147
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:26:32 ID:3TPMEVsQ0
otsu
148
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 00:26:57 ID:3TPMEVsQ0
otsu
149
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 04:48:12 ID:DM4tVtQY0
おつでした!
150
:
名無しさん
:2020/10/29(木) 21:20:39 ID:F650Wdb.0
おつ
なんかもう絶望しかなんだかもう
どうしようもないなぁ
151
:
名無しさん
:2020/12/04(金) 01:40:03 ID:HxgeoMtM0
今更ながらおつ!
こっちまですり減ってしまいそうだ、苦しいなあ
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