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( ^ω^)外道の花道のようです
1
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:20:51 ID:FJOf8d1E0
零
.
2
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:21:36 ID:FJOf8d1E0
( ^ω^)「絶縁、ですかお」
(´-ω-`)「……ああ、そうだ内藤」
春、僕は面会にきた人物にそう告げられた。
途端に力が抜けたような、放心したような気持ちになったが、けれども肩の荷が下りたような安堵感も生まれた。
少しばかり宙に視線を泳がせていた僕だが、件の人物はその様子に心配を寄せたようで、大丈夫か、と問われる。
(´・ω・`)「お前には散々働いてもらったってのに、こんな形になって……済まない」
( ^ω^)「いえ、いいんですお。寧ろ……こうして見逃してもらえるだなんて思ってもいませんでしたから」
手首に巻かれている錠を微かに揺らし、僕は小さく微笑んでみせた。
別に厭味だとか、そういう意味合いはない。では強がりかと問われたら、それもまた否だ。
心境は複雑で、一体どのような表情をすればいいかが分からない。故に、どのような場面でも通じる微笑みを浮かべる。
( ^ω^)「こっちの中でも驚く程穏やかに生活出来ましたし、外に出たら、やっぱり即座に消えた方がいいですおね?」
(´-ω-`)「まぁ……そうなる」
( ^ω^)「所払い、ですかお。これからどうするんですかお?」
(´・ω・`)「俺の心配をしてくれるのか?」
( ^ω^)「そりゃしますお。親ですもの」
3
:
名無しさん
:2020/06/21(日) 19:21:54 ID:doK6JW.Y0
すげー懐かしい酉
4
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:22:45 ID:FJOf8d1E0
僕の言葉に、件の男性の瞳が揺れた気がした。
けれども一度瞬きをすれば、そこに漣のようなものはなく、凛とした眼光が宿った。
(´・ω・`)「親か。そう呼ばれるほどか、俺が? 何度お前に木刀背負わせたやら数え切れないぞ」
( ^ω^)「まぁそれは仕方ないことでしょうお。当時は死ぬほど辛かったですけど、今となっちゃ、ほら、まあ、頑丈になれましたから」
(´・ω・`)「それで今に至ってはお前の追放だ。仁義が通らないだろう」
( ^ω^)「でも筋は通したでしょう。僕もあなたも」
(´-ω-`)「体をかわさなきゃならない状況になって筋も糞もあるかよ……」
いつものように彼は懐を漁り、いつものようにお気に入りの煙草を取り出す。
だがその癖はこの場に限っては許されず、彼の傍にいた男――刑務官に止められると、渋々といった表情で頷いた。
(´・ω・`)「……明日、ここを出たらすぐに空港に向かってくれ。行先は……お前次第だ」
( ^ω^)「おぉ、存外自由意思を許してくれるもんなんですおね」
(´・ω・`)「それがお前の特権って奴だ。逆にこっちが用意した場所で落ち着けるか?」
( ^ω^)「おー……そりゃあ、あなたが用意してくれている場所なら、ですけどお」
(´・ω・`)「もうそうじゃなくなった。結局、俺は、いや……俺達は、時代にゃ勝てなかったんだなぁ」
5
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:23:59 ID:FJOf8d1E0
遠い目をする彼だが、未だその瞳には、静々と揺れる火炎がある気がした。
しかし、かぶりを振るうと彼は立ち上がり、僕へと改めて視線を寄越す。
僕達の間を隔てるものがある。透明な壁の向こうに彼がいる。すぐそこなのに、決して触れられない距離だった。
彼の手足は自由で、服装も、頭髪も、全てが個人の自由意思によって決められるものだった。
(´・ω・`)「お勤め、御苦労だったな、内藤。もう……自由になってくれ」
僕は、自分の刈り込んだ頭髪も、芸術性の欠片もない灰色の上下も、手に巻かれた錠も、特に気にならない。
これまでほんの少しの間、僕は法律によって意思を奪われてきたが、そんな虚しい生活も明日で終わりを告げる。
( ^ω^)「自由ってのは、なんなんですかおね」
(´-ω-`)「……探してみるといい、お前なりの自由を」
( ^ω^)「おっおっ……それはまた、楽しそうですおね」
傍らに立っていた刑務官に肩を叩かれると、静かにパイプ椅子から立ち上がり、透明な壁越しに男性と顔を見合う。
恐らく、これがこの男性との最後の対面になる。それこそ今生、二度と会うことはなくなるのだろう。
6
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:25:14 ID:FJOf8d1E0
( ^ω^)「お元気で……組長」
(´・ω・`)「達者でな……内藤」
背を叩かれ、僕は部屋を後にする。そんな僕の背を彼は見届ける。
その視線は強く、熱く、心に刻まれるほどで、背を向けながらに、僕は小さく頭を下げた。
扉をこえ、それが閉まる寸前。
(´-ω-`)「生きろ。死ぬんじゃないぞ」
寄越された最後の命令に僕は歯噛みをする。
人には生きる権利がある、だからきっと、死ぬ権利だってあるだろう。
例えば自死は忌諱されることだ。首を括ることも、腹を切ることも、飛び降りも、何もかも悪とされる。
老衰のような自然死のみが人の間では正義とされるが、では正道をそれた者に、そういった正義が通じるのだろうか。
( ^ω^)「……見透かされてんだから、訳ないおねぇ」
外道に堕ちた者には、きっと、正しさなんて意味をなさない。
そこにあるのは仁義だとか、筋だとか、凡そ一般的と呼ばれる人種からすれば理解し難いものだけ。
そんな理解し難いものの為に身体を張ったり、命を張ったりする。
それを男気と呼ぶ人もいる。或いは矜持とする人もいるだろう。
7
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:26:18 ID:FJOf8d1E0
春、僕は明日に迫る仮釈放を前に、途方に暮れていた。
( ^ω^)「明日から一般かおー……一般ってどうやって生きりゃいいんだお?」
外道に染まり、歩みを止めず生き続けてきた僕に、普通や正義や正しさというものは、あまりにも現実離れした異常そのものにしか思えない。
そんな世界で生きることを余儀なくされた僕は所持金すらないことを忘れて、天井を見上げ、死に場所が欲しいと呟いた。
.
8
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:26:59 ID:FJOf8d1E0
( ^ω^)外道の花道のようです
.
9
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:27:20 ID:FJOf8d1E0
一
.
10
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:28:59 ID:FJOf8d1E0
春に僕がやってきた土地は暖かな場所で、空気も首都より穏やかな具合だった。
地方都市の賑わいは首都に劣りはするものの、流行り廃りは今時となれば全国に通じるもので、道行く人々はスマートフォンを手に忙しなく目的地へと向かう。
雑踏の中に立ち、僕は飛行機から新幹線と乗り継いできた疲れから伸びをする。
見上げれば午後の陽が眩しくて、久しぶりに浴びる真っ当な陽光に自然と笑みが零れる。
(;^ω^)「ふいー、長旅だったお。羽田からここまでくるのにもう半日以上かお……」
運動を欠かす日はなかったが、こう、人込みというやつは中々に疲れる。
特にそれが久しぶりとなると、なんだか神経が張るというか、妙な緊張があったし、人々の声や視線、表情なんかにも注意が向く。
その様子は宛らに野生の猫が人の住まう家屋に紛れ込んだような姿だったかもしれない。借りてきた猫というやつだ。
とはいえ僕にそんな可愛げはないし、そういったものを求める年頃でもない。求められることなどもっと有り得ないだろう。
( ^ω^)(しっかし、なんだかんだで優しいお人だおね。有難く頂戴しましたお、お菓子)
外に出てきて即座に所持金がないことに気が付き絶望をしていたが、通りがかったセダン車から寄越されたお菓子の詰まった袋を受け取り事なきを得る。
開けてみれば、当面は不便のない生活を送れるだろう“おひねり”が混ざっていた。
僅かな荷物しかなかった僕はお菓子袋を片手に行動を開始する。
なんやかんや、こうして新天地へとやってきたが、しかし生きる術もなければ行く場所も、ましてや住まう場所もない。
( ^ω^)(どっか住み込みで働ける場所を探さないとお……ケータイもないし、取り敢えずコンビニで求人情報誌でも見てみるかお)
11
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:30:26 ID:FJOf8d1E0
生きていくにはどうあったって金が必要だ。食べなければ死ぬし寝床がなければ安らぎの一つもない。
今時、宿なんてなくても然程困ることはない。勿論あるに越したことはないが、ネットカフェ等もあるし、最悪は路上での生活だって可能だ。
時期が春でよかったと胸をなでおろす。少なからず凍死する可能性は下がった。
となれば職を探すのが第一で、欲を言えば住み込みがベストだった。
( ^ω^)(ホテルのキッチン……住み込みかお。他にも存外あるおね)
コンビニに立ち寄り、情報を探ってみれば思った以上に求人広告は打たれている。
いくつかに目星をつけ、連絡先を暗記すると、僕は表に出て視線を彷徨わせた。
( ^ω^)「えーと、電話電話……」
響く雑踏、信号から発せられる歩行者誘導音声、賑やかしいまでの話声やニオイ、空気、温度、エトセトラ。
僕は立ち止まり、その中で、ああ、と声を漏らした。
( ^ω^)「あー……公衆電話って、もうないんだおねぇ」
俺達は時代に勝てなかったんだ――彼の言葉が脳裏に過り、僕は拳を握りしめる。
( ^ω^)「……負けちゃいないでしょう、親分。僕達、生きてるじゃあないですかお」
そして自由を手に入れたじゃないか――そう呟く。
呟くが、自由というのは、存外、不自由なものだなと、連絡手段がないことに項垂れた。
12
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:31:54 ID:FJOf8d1E0
「ご利用ありがとうございました」
( ^ω^)「おっおっ。どうもですお」
適当なプリペイドケータイを契約し、軽く操作をしてみる。
こういう時、身分証等は単純な契約手段の一つでしかないことに有難味を感じる。
( ^ω^)(どれどれ)
軽く操作をしてみると、何だかんだで使い方はすぐに理解出来た。
近頃の携帯機器に触れていなかったから少々の不安はあったが、老若男女問わず操作出来る仕様だから労することなど何もない。
( ^ω^)「あ、そうだおね、そりゃそうだお……」
癖で、僕は電話帳を開いてしまう。だがそこには誰一人の名前も記載されていない。
そりゃそうだ、と呆れたように笑ってしまう。だがじわじわと孤独感が襲ってきて、僕は立ち止まると瞳を伏せる。
( ^ω^)「……とりあえず、適当なネカフェに泊まるお」
深呼吸をし、次第に暗くなり始めた空を見上げてから宿を探し出す。
僕がやってきた土地というのは初めて足を踏み入れた場所だったが、地方都市なだけはあり、大通りに出ると至る所に宿がある。
その中の一つ、見た感じ清潔そうな店を選ぶと、僕は指定された個室へと足を運び、ようやっと腰を下ろすことが出来た。
13
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:33:32 ID:FJOf8d1E0
(;^ω^)(あとでシャワー浴びないとお、疲れたお……)
静けさの中、小さく聞こえる人の声や機械音声、はたまた音響の様々。
薄暗い中、それでも人の息吹きを感じると、僕は今になって自由になったのだと痛感する。
( ^ω^)(そっか、そうだおね。もう僕って外に出てきてんだおね)
服装を見る――“あの日のまま”だった。黒いパーカーに灰色のパンツ、そして不相応にも思える白盤のデ・ヴィル。
フライヤーズのスニーカーの底は擦り切れていて、見たままにチグハグだった。
流行を気にするような歳でもないし、若作りをする気もなく、“あの時”は着のままだった。
少なかれ金銭に余裕も得たことだし、明日にでも着替えを複数買おうと決めた。
( ^ω^)(仕事のアテも、明日電話するかお。なんだか今日は疲れたお……)
体力が落ちた訳じゃない。単純に気疲れだった。
視界に入る情報の山々もそうだが、向けられる視線だとか、他にも遠くに見えた数人の怪しい影。
それらは僕に危害を加えるつもりはないだろう。ただただ心配事として僕に注目しているだけだ。
( ^ω^)「……そうだ、情報……」
思い返す中で、僕はパソコンに向かうと気になるワードを検索する。
溢れかえる情報の海に目を通しつつ、重要だと思われるものを複数ピックアップしていく。
多くはニュース記事だった。他にも掲示板等のサイトを漁ったり、SNS等でキーワードを検索してみる。
14
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:34:46 ID:FJOf8d1E0
( ^ω^)「…………」
それらを見て、理解し、納得するまでに時間は要したが、けれども無理矢理に頷いた。
現実は、きっと、そんな簡単なことじゃ揺るがないし、夢を見てもいつかは覚める時がくるのだろう。
( ^ω^)「時代に勝てなかった、かお」
頭にこびりついて離れない。その言葉をその人物から聞きたくはなかった。
僕は息を大きく吐くと最後に見ていたニュース記事をタブごと消去し、その刹那に捉えたタイトル――
15
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:35:20 ID:FJOf8d1E0
( ^ω^)「勝ったはずでしょう、あの時」
《本部壊滅、死者七十名》という凄惨な言葉に、抗うように言葉を吐いた。
.
16
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:37:03 ID:FJOf8d1E0
明くる日、僕は早速複数の仕事先の候補へと連絡をする。
そのうちの半数に募集は締め切った、と断られたが、もう半数は近日に面接の予定を組むことが出来た。
( ^ω^)「うんうん、社会復帰ってのはいいことだおね」
ファストフード店に立ち寄り、僕は久しぶりにハンバーガーを頬張る。
が、それも一口、二口の程度で十分で、それというのも油分が凄まじく、即座に胃が悲鳴をあげてしまったからだ。
歳をとり過ぎたのか、あるいはこういう食べ物を受け付けなくなったのか。
どちらにせよ経年の劣化だ。歳は食いたくない――反抗心か、はたまた幼稚な意地か、僕は苦しい顔をしたままにハンバーガーを完食した。
(;^ω^)「ひぎぃ、お腹重いおぉ……」
やはり無理はするべきじゃなかったな、と反省をしつつ、これまた適当な服を見繕う為に百貨店へと足を踏み入れる。
自然と向かう先はトップブランドが居を構える豪勢な一角――ではなく、一般的なインポートブランドがこじんまりとしているフロアだった。
( ^ω^)(お……)
ふと通り過ぎるいい身形をした男性を見やる。
濃い紺色のスーツだった。スラックスはダブルでテーパーになっている。
襟は細身で、全体の生地感からしてゼニアだろう。いい趣味だな、と呟く。
シャツは白でネクタイは赤く、襟に合わせたようにこれまた細い。今時のスタイルだろう、中々にいいじゃないか、と感心する。
17
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:38:57 ID:FJOf8d1E0
( ^ω^)(おー、パリっとしてるおね。スーツかぁ、スーツなんて然程着なかったからおぉ……)
僕がよく着ていたのはパーカーなんかの簡単なファッションばかりだった。
別に無頓着だった訳ではないが、衣服はどうせダメになることが多いから、大事な時くらいしかキめた格好はしなかった。
とは言え拘りもあったにはあった。が、そんな拘りも今となっては無意味だろう。
「あ、ジバンシィのパーカーですか?」
( ^ω^)「え? あ、はい」
「わぁ、お洒落ですね、お客様!」
( ^ω^)「おっお、いえいえ、どうも……」
見繕っていると店員が話しかけてくる。言われてみれば僕が着ているのは確かにその通りで、“あの時のまま”だと言うことを忘れかけていた。
そうなると途端に冷静になり、会話を遮ると無難な衣服を購入し、それにすぐさま着替えた。
( ^ω^)(……トレードマーク、かお)
かぶりを振るい、僕は灰色のパーカーと黒いパンツ姿となる。それから黒いキャップを被ると再び外界へと踏み出した。
春の空気は好きだ。冷たくもなく暑くもなく、居心地が良いと感じる。
少々立ち止まり、雑踏から逸れた位置で行き交う人々を眺めていた。
18
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:41:01 ID:FJOf8d1E0
( ^ω^)(普通、自由……かお)
それを謳歌することに疑いの一つもなく、当然のように受け入れる――どころか、それ以外を知らないような一般的な人々。
平和だ、と思う。それがいい。生きていくうえで苦労は誰だってしたくない。努力はするべきだ。それを苦労と勘違いすることは論外だけれども。
生きるということを、今、僕の視線の先で行き交う人々は全力でしている。仕事に向かう人、ランチに向かう人、学校から帰宅する人、これから仕事へ出向く人。
千差万別――いやさ億差兆別の世においてまったく同じ生活環境なんてありはしない。だから誰彼のこれから向かう場所や働く意義だって分からない。全ては想像の域だ。
( ^ω^)(危険がないって最高だお)
だが見える景色から分かることがある。ここには危険がない。それを孕む意思はあるかもしれない。だがそれは開花せず、表立ちもせず、この平穏の中に埋もれている。
そのままでいて欲しい、と切に思う。今こうして見える景色が、このまま、変哲もないままで、普通のままでいてくれたらと僕は思う。
そしてその中で僕は生きていけたらばいいな、と思う。
( ^ω^)「おっおっ、自分のことなのに、“思う”って……」
ではその普通の中に、自分の居場所を持つ人はどれだけいるのだろう。
僕一人が遠巻きから眺めているだけなのだろうか。
人にはそれぞれの苦しみがある。環境も違えば境遇も違う。だからこの普通や自由と呼ばれる景色の中、危険はなくとも宿す種は無数にあるだろう。
それらも含め、やはり誰しもに苦悩はあり、それを癒す術や、あるいは救いの場というのはどれだけあり、どれだけの人々がそれを持つのだろう。
( ^ω^)(親分。自由ってのは、どういうもんなんですかおね)
“探してみればいい”――そう言われた時、僕は、言いたくなった。
19
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:42:11 ID:FJOf8d1E0
( ^ω^)『あなたも、迷子なんじゃないですか』
.
20
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:43:05 ID:FJOf8d1E0
――。
――――。
……。
…………。
「――皆さん、こんにちはー!」
( ^ω^)「っ……なんだお?」
ふいに響いた大声に我に返る。
マイク越しだろう音量は雑踏の中にいても響き渡る程で、アンプスピーカーからは小さなノイズが走っていた。
僕の意識は完全にその方向へと向いていた。
明るく、高らかな声だった。女性というよりかは少女的で、簡単な挨拶の台詞だったのに、不思議と無垢を思った。
21
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:44:42 ID:FJOf8d1E0
「今日は、こーんなにたくさんのお客さんがいてくれて、とても嬉しいです!」
( ^ω^)「……おっおっ」
なんとも下手な世辞というよりは挨拶というか、不思議と笑いが零れてくる。
もう少し言い方というものがあるし、言葉の選び方だってあるだろうに、まるで頭に浮いた言葉をぽんぽんと口にするだけのように思えた。
だがそれがよかったし、それが面白かったし、不思議なくらいに癒されていた。
先まで胸の中を覆っていた靄は霧散し、僕の足は雑踏を掻き分けて目的の声の主へと向かっていく。
( ^ω^)(若いバンドか、はたまた弾き語りとかかお? 客の数は、あー……)
“こーんなにたくさんのお客さんがいてくれて”――そう言っていた割に、掻き分けた先に見た人の数は疎らだった。
立ち止まる通行人も複数いたが、しかしそれも直ぐに歩みを戻して去っていく。
何せ空気が異質というか、少々近寄りがたい。それと言うのも、人の数は疎らと言えども、歓声を上げているのは、あまり格好のいい人種ではなかったからだ。
「うおー、今日も可愛いよー!」
「はあああガチ勢に抜かりなし! どこまでもついてくよー!」
「おい今日はオタ芸禁止だからな! 一般の人たちに迷惑かけんなよ!」
「キンブレ仕舞え仕舞え! 折角の初野外ステだぞ、変な印象与えんな!」
22
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:46:17 ID:FJOf8d1E0
オタク、と呼ばれる人々だった。よく分からない言葉を口にしているが、規律はあるように見える。
だが悲しいかな、その様子こそが人を遠ざけているのだと気付かないのだろう。
( ^ω^)(あれが客かお。一体どんな女の子が……?)
だが僕は構わずに設置されたステージへと歩みを進めていく。
小さく、低いステージだった。証明の一つもなく、あるのはスピーカーが二台にモニターが一台程度。
音響師の姿はない。どうやら様子から見て分かる通りに、これらは全て個人でやっていることだと察する。
( ^ω^)(……売れてないみたいだおね)
そうとなればアマチュアなのは間違いない。個人で事務所と契約せず音楽活動をしているのだろう。
別に珍しくはない。それだけが答えではないし、正解であるとも呼べない。
何を求め、何を成したいかは全て個人の自由意思だ。だからこの様子にどうのこうのと言う気は微塵もない。
ただ、僕は、どうにも気になっていた。
23
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:47:03 ID:FJOf8d1E0
「それじゃあ、まずはこの曲から!」
( ^ω^)「――……」
.
24
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:48:12 ID:FJOf8d1E0
何せ、スタートをすれば、たちまちに彼女の世界が生まれてしまったからだ。
僕は然程音楽に詳しくはない。ただその業界“にも”ある程度詳しい。
だから分かることがある。
彼女の声は、素直で、真っ直ぐで、どこまでも偽りがなく、純白で、綺麗だと、そう思えた。
小さなステージで、低いステージで、その小さな背丈で全力で踊る姿。
まともな音響機器でもないのに、それでも精一杯の全力で歌う姿。
ステージが始まると、もう、周囲の景色は全てどうでもよくなっていた。
僕は気が付けば最前線にいて、彼女の挙動の全てに目を奪われていた、
それは、きっと、答えだった。
彼女が僕の求めるところの答えを正確に表現した人物だった。
25
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:49:04 ID:FJOf8d1E0
ζ(゚ヮ゚*ζ「――! 〜〜っ!」
( ^ω^)「……自由、だお」
.
26
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:49:28 ID:FJOf8d1E0
道が見えた気がしたんだ。
外道に堕ちた僕にも、しっかりと。
花咲く少女を迎えるように。
絢爛と咲き乱れる花道が、確かに。
27
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:49:51 ID:FJOf8d1E0
一 了
.
28
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/21(日) 19:50:51 ID:FJOf8d1E0
リハビリがてらちょこちょこ書いていこうと思います
微笑むシリーズはまだオチ見えてこないんでもうしばらくお待ちいただけたらと思います
それではおじゃんでございました、また次回
29
:
名無しさん
:2020/06/21(日) 19:58:27 ID:GcmhT5Z20
斜め上だった
続き楽しみ
30
:
名無しさん
:2020/06/21(日) 19:59:28 ID:FXJiv/oI0
乙
31
:
名無しさん
:2020/06/22(月) 19:55:37 ID:3CYngnz60
本当に嬉しい
32
:
名無しさん
:2020/06/23(火) 14:55:19 ID:6s4vflmo0
乙、マジか何年ぶりだ
33
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:19:24 ID:pRktNJEA0
二
.
34
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:20:41 ID:pRktNJEA0
歳を重ねるにつれて月日の流れは早く感じるものとなった。
新天地での生活も気が付けば一月が過ぎていた。季節はじきに梅雨だろう。流れる風が微かな湿り気を帯びていた。
窓辺から景色を眺めていた僕は暮れる空を飛んでいく鳥を見送る。番だった二羽は、どういった名前の鳥なのか分からないが、白く大きな翼が特徴的だった。
( ^ω^)「おーおー、鳥みたいな羽があったら、さぞ幸せだろうおぉ」
それもまた自由なのだろうな、と思う。
普通と呼ばれる生活は、存外、すぐに慣れることが出来た。
思い返せば僕の生涯において普通と呼べる時期は確かにあったし、幼少期には虫取りだってした。
あの頃の僕は“ケイドロ”なのか“ドロケイ”なのかで散々仲間内で議論を白熱させた記憶がある。
(´・_ゝ・`)「よっ、内藤さん! お疲れ!」
そんな下らないような、しかして微笑ましい思い出を手繰る最中に背後から肩を叩かれて僕は振り向いた。
白い歯を覗かせる程に爽快な笑みを湛えている男性、名前は盛岡さんという。
( ^ω^)「おっ。どうもお疲れさんですお、盛岡さん」
(´・_ゝ・`)「いやー、もう疲れたよおりゃぁ。内藤さんはどうだい、もうここの仕事には慣れた?」
現在、僕がいるのは職場の休憩室だった。
働き始めて既に三週間が経過している。結局、僕は最初に目星をつけていたホテルでの仕事を選んだ。
仕事の内容はキッチンでの調理だった。とはいえ未だ下積みのような立ち位置で、日に云百枚と流れてくる皿を無心で洗い続ける日々だ。
( ^ω^)「ええ、大分慣れてきましたお」
(´^_ゝ^`)「そりゃよかった! チーフもあんたのこと褒めてたぜ、効率よくテキパキと仕事こなしてるし、文句の一つも垂れないってさ!」
( ^ω^)「おっおっおっ……」
褒められるとあれば悪い気はしない。たかが皿洗いと言えど侮るなかれ、というやつだ。
専用の洗浄機にぶちこむだけではない、無論手洗いだってやる。
そもそも、こういう仕事には慣れていた。皿洗いのみというのは初めてだが、しかし格式の高いホテルの調理場ともなれば、昭和さながらの様式美が待ち構えているらしい。
結果的に評価は優良だとして、本音を言えば早く調理に回して欲しい。それが無理ならネタの仕込みくらいは許して欲しいものだ。
35
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:21:52 ID:pRktNJEA0
(´・_ゝ・`)「そろそろ夜の部だなぁ、今夜は予約数も然程って感じだし、気楽にやるかぁ……あ、そういや内藤さんは今夜休みだっけ?」
( ^ω^)「ええ、人手が足りてるだとかで」
(´・_ゝ・`)「そっかー、いいなぁ! どっか遊びにいくの?」
今夜、僕は暇が出来た。職場の勤務はシフト制だが、いい大人であるからして、事前にこの日のいついつはどのような具合なのでしょうかとお伺いを立てる。
そうするとある程度の望みは叶ったりもする。新参者ならば馬車馬になれと思うかもしれないが、言いなりになるだけの人生は塵芥に劣る糞も同義だろう。
兎角、今夜、僕は自由を得た。盛岡さんの羨望に塗れたメンチはさておき、僕はケータイと財布だけを手に取り、彼の背後を通り抜けていく。
( ^ω^)「ええ、まあ、少し。大人の遊びってやつですお」
(´^_ゝ^`)「あ、いいなあそれ! 畜生羨ましい! かわいい子がいたらその店今度教えてね!」
面白い人だ、気持ちのいい人当たりでもある。冗談めかした言い方や仕草、どれをとっても厭味はない。
少々の鬱陶しさはあるが、それでも嫌悪するまではいかない。
盛岡さん以外の人物も、皆、いい人ばかりで、平和で過ごしやすい環境だった。
(´・_ゝ・`)「だから、今度、一緒に飲み行こうぜ、内藤さん」
( ^ω^)「……ええ、そうですおね、また今度」
(´^_ゝ^`)「っしゃー! 楽しみにしとくよ、内藤さんも今夜は楽しんできてね!」
去り際、背にかけられた言葉に反応が遅れてしまった。
声の抑揚やら、表情の変化や、その場の空気やら、様々なものを感じてしまう。
彼は分かっている。僕が誰とも深く関わる気がないことに気付いている。何せ彼も大人だ。故に社交辞令や他人との付き合い方も心得ている。
本心で誘ってきている訳ではない。そして僕の返しも本音ではない。建前と建前が積み重なった会話だった。
環境も、人も、全て無問題だし、とても過ごしやすい職場だ。だけれども、僕は僕の居場所を確立するつもりがなかったし、皆にもそれは静かに伝わっていることだろう。
36
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:23:26 ID:pRktNJEA0
( ^ω^)(手持ちどんだけあったっけかお……お、五百円が二枚あったお。なんかいいことあるかお〜?)
僕はこうして普通だとか自由と呼ばれる一般的な生活を取り戻せた。
それに慣れることは出来た。けど馴染むことは難しい。或いは自身の深い意識の中に、他人と関わりを持ってはならないと自戒的な観念があるのかもしれない。
( ^ω^)(僕の空気を察して適度な距離感を保ってくれるから、楽でいいおね)
恵まれていた、と思う。今の職場に出会えて本当に幸運だった、と。
ホテルでの住み込みは偶然にも個室だったし、門限も特にないし、仕事場の同僚たちは誰しもが“大人”だった。
唯一文句を言うとすれば薄給なことくらいだろうか。一流とまではいかないがそこそこのランクのホテルで、かつ人気店なんだから、もう少しくらい給金を弾んでほしい。
( ^ω^)(お金はあるにこしたことはないおね。いや本当)
よく、お金はあっても困ることはない、というが、困ることは――めっちゃくちゃありまくる。
金を持つというのは、たかだか一千万だの一億程度をいうのではない。二桁億からようやく“お金がある”と声高々に自慢できるものだ。
だから一千万だの一億程度なら“少しくらいのお金がある”といい、そのくらいなら、そりゃ然程死ぬ羽目になったり一族郎党皆殺しの目に遭いはしないから困ることなんてありゃしない。
( ^ω^)(まぁ……その“少しくらい”の為に生き死にするのも少なくないけどお)
とはいえ、そう、とはいえだ。僕には今、特に目標だとかもなく、ただ安穏と生活を送るくらいなので、働くことと貯金くらいしか楽しみがない。
だから愉楽の為にもお金が欲しい。一円を稼ぐ楽しみを噛みしめたい。
( ^ω^)「……昔なら一夜で二十億とか三十億くらい、掻き消えたもんだけどおー」
時が経てば時代は変わり、人も、価値観も変わっていくものだ。
それが良かれ悪しかれ、そういうものだ。諸行無常か、寂静の音を涅槃で聞いたか、やはり歳をとったなと肩を竦めた。
37
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:24:34 ID:pRktNJEA0
『あー、腹減ったな……おい内藤』
『お? なんすかお?』
『お前、調理学校通え』
『はぁ? 何言ってんすかお?』
『お前の飯はな、食えたもんじゃない。ふつーこんだけ部屋住み経験すりゃ少しはマシになるだろうが、お前は絶望的だ』
『ちっ……文句言わんでくださいお』
『んでその太々しさだ。怖い物知らずも大概にしとけよ』
『けどですお、親父。なんだってガッコーなんざいかにゃならんのですかお。ガキ共に混じって……』
『おめーもまだガキだろ』
『いやだからそうじゃなくて!』
『いいから行けってんだこのガキャ! 小僧が囀りやがって、そこに立ておら!』
『ちょあーおいこの糞! また木刀とか勘弁してくださいお!』
『うるせえ親に歯向かいやがって、性根を叩き直してやらぁ!』
『あいだー!! ちょ、加減!! 加減してくださいお!! この糞親父!!』
『まーた嘗めた口ききやがって! おめーも極道をやるってんなら少しは――』
38
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:26:31 ID:pRktNJEA0
( ^ω^)「……お」
ふと、懐かしい夢を見ていた。古い記憶だった。夢の中の人物とは先日、今生の別れを済ませている。
現実に戻れば、僕は電車に揺られていた。大した区間を走行していないのに、仕事の疲れからか眠りの世界へと誘われたようだ。
心に寂寞とした風が通る。ついで聞こえもしないのに件の男性の声が聞こえた気がした。
けれども、それは確かに気のせいでしかなかった。今、この場に彼はいない。両隣には厚化粧をした女性と気難しそうな男性が腰かけている。
( ^ω^)(若い頃は、それでも……毎日楽しかったお)
僕の前に、吊革につかまって、彼が立っていたらなんて言うだろう。
席を譲れと言うだろうか。それとも僕の数年間を労って、座っていろと言うだろうか。
どちらにせよ、もう、声を聞くことも姿を見ることもない。
往時を懐かしむ最中、響いたアナウンスを聞いて席を立ち、人の波に紛れて目的の駅に降り立つ。
( ^ω^)(夜の街はさんざめいてるおね〜。活気があっていい雰囲気だお)
過去を“過ぎ去れば”現代の街並みと対面する。
時刻は十九時だった。地方都市の喧騒は首都に並ぶ程で、人の数もそうだが、ニオイや、溢れる色香や、眩い電光に安堵感を得る。
夜は居心地がいい。ここが居場所に思える程、僕は自然体だった。
( ^ω^)「えーと、もうそろそろ時間かお?」
駅から歩いてすぐに僕の目的はあった。
少しの暗がりを歩いていくと、何やら煙草のニオイやアルコールのニオイが増してくる。それに伴うように饐えたようなニオイもする。
道路には吸い殻や空き缶なんかが複数落ちていて、地方都市と言えども治安の悪い区域というのはあるのだなと妙な感心が生まれた。
39
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:27:51 ID:pRktNJEA0
「あれ、お兄さんいらっしゃい。今日もお一人ですか?」
( ^ω^)「おっおっ。ですお」
それから間もなく、地下に通じる階段に差し掛かり、それを下っていくと強面の男性がカウンター越しに煙草を吸ったままで出迎えてくれる。
彼は僕を見ると冷めた目のままに微笑みかけ、愛想がよさそうに気楽に喋りかけてきた。
「丁度今からあの子の番だよー。すっかりファンだねぇ、お兄さん」
( ^ω^)「おっおっ……これ、ドリチケ代ですお」
「はいどうもー。ドリンクは下のカウンターで受け取ってねー」
手短にやり取りを終え、僕は更に階段を下り、正面に迫った扉を押し開く。
そうすると夜の雷電との対面だった。暗がりの内部には複数の男女が入り乱れ、そこかしこで煙草や酒のニオイが渦巻いている。
カウンターには若い女性が立ち、それを口説こうと一人の男がなんやかんやと大声で話しかけていた。
空間が震えているのは重低音が原因だった。アンプスピーカーからはカオティック・コアが垂れ流れ、しゃがれた男の歌とも呼べない雄叫びが中耳に突っ込んでくる。
( ^ω^)「こんばんは。ウーロン茶くださいお」
「あ、またお兄さんだー! はいはいウーロン茶ね、どうぞ!」
( ^ω^)「どうもですお」
必死に口説いている最中の男を軽く押しのけ、バーテンダーにドリンクチケットを差し出す。
少しの疎通を終えるとウーロン茶を受け取り、軽く啜ると、音の発生源である広大とも呼べない微妙な狭さのフロアへと歩みを進めていく。
40
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:29:27 ID:pRktNJEA0
(;^ω^)(あー、うっせえお)
僕はこの街にきてから楽しみが少ないと言ったが、しかし金を稼ぐことや貯金以外に、もう一つの楽しみを見つけることが出来た。
それはここ、駅の北口付近にあるライブハウスだった。別にここだけが目的の場所ではないが、本日、僕の目的はこのライブハウスに登場する。
いくつかのライブハウスを回ってみて思うが、特にこの北口はコアやパンク文化が根強く、客層や演者もそういったタイプが多い。
が、そんな場所ではあるが、今宵もステージ最前線には複数の異文化集団が押し寄せていた。
「お、暗転したぞ! 皆サイリウム構えろ!」
「ふひっ、今日のセトリはなんであろうか!?」
「しっかし最近は精力的だよな、活動! 俺達にとっちゃ最高だけどさ!」
「あ、SE入った! 出てくるぞ〜!」
異様な盛り上がりを前に、流石のパンクス達も距離を置いている。かくいう僕も最後列、というよりは壁に背を預け静かに様子を眺めていた。
世の中、清濁併せ呑むといえど、こうも多ジャンルが混濁する場もそうはないだろうな、と思う。
兎角、それまで響いていた激しいサウンドがフェードアウトすると、景色が黒一色に満たされていった。
( ^ω^)(おぉ……)
今宵、可憐な花が一輪、荒んだライブハウスに咲いた。
柔らかくポップな入場曲が始まると、スポットライトが一つ落ちて、その中に淡い桃色の衣装に身を包んだ少女が顔を伏せて立っていた。
右手にはマイクを持ち、それを静かに掲げる。それと同時に顔は正面へと向き、その閉じられた瞳が開くと同時――
ζ(゚ヮ゚*ζ「今夜は最初から滾っていくよっ!」
――爆裂するようなバックサウンドが生まれ、カラフルな色彩が舞台に舞い降りた。
41
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:31:06 ID:pRktNJEA0
巨大なスピーカーは左右に一発ずつ、その計二発から重低音と超高音が気持ちのいいドンシャリでぶっ飛んでくる。
曲はポップソングだった。少々ゲインが強い気もするがそれもまたこのライブハウスの特徴だろう。しかし音の質は十分満足感を得られる。
ζ(^ヮ゚*ζ「〜〜! ――!」
「デレちゃーん! か、わ、い、い、よー!」
「一生一緒にエルカザド〜!」
「タイガー、ファイヤー、サイバー、ファイバー!」
「ダイバー、バイバー、ジャージャー!」
「「「「イエッタイガー!!」」」」
曲の合間によく分からない掛け声が客同士で行われる。その様はやはり奇妙だし、他の演者や客も戸惑っていた。
その気持ちも分からなくはない、と僕も思う。寧ろ彼等の方が目立っている。
だがステージの上で可憐な花は笑っている。それを祝福と受け取ったように、彼等もまた声を張り上げサイリウムを振り回していた。
( ^ω^)(まったく理解出来ない世界だけどお……)
彼等は全力で青春を満喫しているようで、少なからずの羨望もあった。
しかしあの輪に己から踏み入る気はない。勇気がないと言ったっていいだろう。
凡そ程遠い位置の人種であり、ある種は他惑星の異星人にも思えるくらいの隔たりを感じた。
ζ(゚ヮ゚*ζ「皆今夜はありがとう! 次はお決まりのあの曲だよ〜!」
色々な感情やら感想を心の中で整理していると、彼女の掛け声に凶徒達は大いに盛り上がる。
その曲をよく知らないが、恐らくはオタク間における名曲らしい。彼女の歌声に合わせるようにオタク達も台詞を挟んでいく。
42
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:31:49 ID:pRktNJEA0
「言いたいことがあるんだよ!」
「なになに!」
「やっぱりデレちゃんかわいいよ!」
「なになに!」
「やっと見つけたお姫様! 俺が生まれてきた理由!」
「なになに!」
「それはデレ氏と出会うため!」
「俺と一緒に人生歩もう! 世界で一番愛してる!」
「「「「ア、イ、シ、テ、ル〜!!」」」」
43
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:33:30 ID:pRktNJEA0
(;^ω^)(ほえー……すっげえお……)
よくもまあ考えたもんだ、と妙な感心をしてしまう。全力にも程があるが、流石に狂気を感じずにはいられない。
とはいえ締めくくりのミックスだかコール、とやらが済むと丁度MCとなり、今だ冷めやらぬまま、可憐な花が言葉を紡ぐ。
ζ(゚ー゚*ζ「ふゎー、みんな今日も凄く元気だね! デレも嬉しいし元気がすっごくでるよ!」
彼女の言葉は、やはり、いつも通りと言うに相応しいくらい、下手な世辞というよりは挨拶だった。
けれど、やっぱりそれがよかった。雑な気取りや気負いもなく、どこまでも自然体で、ありのままに喋る姿勢に笑みが零れてしまう。
( ^ω^)「……ほんと、自由だお」
僕は、初めて彼女を見た日から、欠かすことなくライブに足を運んでいる。
彼女は所謂、地下アイドルとかいうやつで、インディーズとはまた違い、アマチュアながらにファンを獲得し、音楽活動に勤しんでいるようだった。
曲は全て既存の楽曲のコピーで、カラオケと同じ具合だが、それでも愛くるしい見た目や仕草、甘い声などの多くの魅力に人々は堕とされていく。
僕もそのうちの一人だろう。さして歌唱力は高くないしダンスも拙い具合だ。喋りだって天然が極まっている。
けれども、それらがいい。実に心地がいいと感じる。どこまでも純白で、眩しい程ピュアに思えた。
ζ(゚ー゚*ζ「最近ね、ライブ本数増やしてるけど、それでもみんな足を運んでくれて本当にうれしいよ! デレ、もっと頑張るよ!」
「デレちゃんさいこー!」
「世界で一番可愛いよー!」
ζ(^ー^*ζ「ありがと! それじゃ、今夜も全力で滾っていこー!」
44
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:35:11 ID:pRktNJEA0
そうして最後の最後まで、怒涛の三十分が終わると彼女のステージには幕が下りる。
それを見て僕は壁から背を離し、残っているウーロン茶を全て飲み干すと、空いたカップをバーカウンターまで持っていく。
( ^ω^)「どうも、御馳走さんでしたお」
「はいはいー。お兄さん、もう帰っちゃう感じですかー? この次のバンド、バリかっちょいいですよー?」
( ^ω^)「ああ、まあ……また今度、ですお」
「あっはっは。アイドルの追っかけばっかじゃなくて、ロックもいいもんですよー!」
( ^ω^)「おっおっ。機会があれば、見にきますお」
バーカウンターの女性は名残惜しそうにしていたが、そういえば先まで口説いていた男性はどうしたのだろうと端の方を見る。
「テキーラ三発で沈む男って、どう思いますぅ?」
( ^ω^)「あー……まぁ、若そうですから、仕方ないですおね」
カウンターの端では目を虚ろにして沈んでいる男の姿があった。
恐らくこの女性店員に潰されたのだろうと察する。
バーテンダーに勝負を挑むとは愚かな、と内心で思いつつも、少々の心配から彼の肩を担いでやった。
45
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:36:21 ID:pRktNJEA0
「ありゃ、いいのに、ほっとけば」
( ^ω^)「酒ってのは怖いですから。ほら、大丈夫ですかお」
言葉にならない台詞を零す男性は今にも吐きそうで、僕は急ぐ足取りでトイレへと彼を運んでやる。
そうして便器へと持ってきてやると、あとは吐瀉のオーケストラだ。
正しくハードコアだな、なんて下らないことを考えつつも、僕は顔面蒼白な男性の視線に合わせて屈みこんだ。
( ^ω^)「次は下手こちゃいけんですお。僕、もういきますんで、そこの蛇口で頭から水被るといいですお」
「あ、あんがと、おじさ……うぶえっ……」
未だ嘔吐く彼だが、これ以上世話を焼く義理もない。水でもあげたらよかったがそのくらいは手前でどうにかする問題だろう。
立ち上がり、僕は彼に背を向ける。
( ^ω^)(……あぁ)
46
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:36:59 ID:pRktNJEA0
ふと、込み上げる懐かしさがある。
酒にいい思い出はないし、僕は普段から酒を飲まない。
若い頃、何度も失敗を繰り返し、その度に人に迷惑をかけてきた。
そんな過去の僕と彼の姿が重なって見えていたのかもしれない。
僕らしくもない真似だった。
お節介というのは要らぬ世話をいう。
けど、そういう若い頃の面倒っていうものは、誰か一人ぐらい、見てやったっていいんじゃないか。
.
47
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:38:10 ID:pRktNJEA0
『おえーっ、おげぇー!』
『だーからやめとけっつったんだ、このアホ……ドンペリ一気なんてすっからだ。しかもプラチナだ。呆れてものも言えんぞ』
『けど、男気っての、見せないと女の子たちに示しつかんですお……おええっ!』
『その男気で車数台分の金がぶっ飛んだわボケ。それも今となっちゃゲロだ』
『男が金なんざ気にしてんじゃねーっすお! おろろろろ!』
『俺の金だ馬鹿野郎! 手前、たまの自由にいい酒飲みてーだのいい女とイチャこきてーだの!』
『でもあんま可愛くなかったですお、あの子達』
『おーしお前そこ座れ、おうそうだそこに頭据えとけよ』
『お、ちょ、親父なにして……おいちょあんたそれ回し蹴り――』
『ヤキだ内藤くるぁああああ!!』
『あんた有段者がそんな危険なことしちゃほげええええええ!!』
48
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:39:51 ID:pRktNJEA0
トイレの扉に手をかけたまま、僕は一度背後を見やる。
そこには相変わらず項垂れたままの男性の姿がある。
僕は一つ息を吐くと、再度彼へと近寄り、そうして空いたままの手に持ち込んでいたペットボトルを手渡した。
( ^ω^)「もう開いてるし口もつけてるけどお、それ全部飲んで、そんでまた吐き出すといいですお」
「え……」
( ^ω^)「全部出して、少し頭を冷やせば楽になるからお。そしたらタクシーでも呼んで安全に帰りなさいお」
何かを言いかけた彼を無視し、今度こそ僕は扉を押し開く。
彼を無様と呼ぶのは少しばかり違う。まだ自分の得手不得手や許容量を知らないだけの若さが先走った結果でしかない。
( ^ω^)(あの頃の僕は、もしかしたら、自由だったんじゃないかお)
若さ故に過ちや間違いをしてしまうことは誰しもにある。
そんな姿は、実は、本当は、とても自由で、とても日常的で当たり前なのではないかと、僕は思った。
繰り返す経験により答えを誰しもが得る。しかしその過程は苦しいながらも、振り返ってみると、結構、いいもんだったんじゃないか。
( ^ω^)「とはいえ、あの蹴りは死ぬほど痛かったおねー……」
呟きながら僕は境界を越えた。
そのままに僕はこのライブハウスから撤退するつもりだった。
しかし、そんな僕の目の前に新しい情報が飛び込んでくる。
49
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:40:51 ID:pRktNJEA0
ζ(゚ー゚*ζ「あ! 最近きてくれてるお兄さん!」
( ^ω^)「おっ……」
.
50
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:42:12 ID:pRktNJEA0
件の姫君が僕の前に現れた。或いはトイレが空くのを待っていたのかもしれない。
生憎このライブハウスにトイレは一つしかないし男女共用だ。演者も客も関係なく一つのトイレしか使用できない。
ζ(゚ー゚*ζ「いつもライブ見にきてくれてありがとうございます! この間の野外にいましたよね?」
( ^ω^)、「ああ、ええ、そうですおね、あの時から見ていますお」
大きな瞳、小さな唇、長い睫毛、磁器のように白く滑らかな肌。
皺の一つもなく、毛穴すら見当たらない。ニキビやシミなんぞ確実に存在しないだろう。
( ^ω^)(若いおねぇ……)
どう見たって少女だ。それも幼気なティーンエイジャーだ。
声の抑揚からして無邪気な性分だろう。他人で、その上初めてであるにしても距離感すら気にせず、そして何一つ臆することなく言葉を交わす。
豪胆と呼ぶべきか、それとも怖いもの知らずと言おうか。どちらであっても、僕は先から言葉を上手く探し出せないでいる。
ζ(゚ー゚*ζ「ここ最近のライブ、全部見てくれてるんですよね? ステージからいつもお兄さんを探してますよー、ふふ!」
( ^ω^)「おっおっ。なんだか恥ずかしいですおね……でも覚えていてくれてありがとうございますお」
ああ、この少女、天然のタラシだな、と完全に理解した。
打算の一つもなく何の裏もなく、自然と人を口説いてしまうタイプの人間だろう。時々いるが、これが結構恥ずかしいものだ。
しかし彼女の朗らかな笑顔といえば、それこそ天使のようで、僕は恥ずかしさのあまりかぶりを振るうと、彼女の前を通り過ぎようとする。
51
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:42:45 ID:pRktNJEA0
ζ(゚ー゚*ζ「あれ? もう帰っちゃうんですか?」
( ^ω^)「ええ、見たいものは見ましたからお」
ζ(゚ヮ゚*ζ「それってデレのことですか!? うわー嬉しい! ありがとうございます!」
( ^ω^)「おっお……」
無垢で、純白で、きっと世の暗がりや惨憺な世界とは無縁に思える少女。
アイドルとして活動している彼女は、何を目的としているのだろう。
僕はそれを知らない。けれど、彼女の姿はいつだって真実で、嘘の一つもなく、限りなく自由だった。
それでいいと思えた。だから会話なんて望んでいなかったし、こうして目の前にして分かることがある。
52
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:43:12 ID:pRktNJEA0
( ^ω^)(明るい)
.
53
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:43:41 ID:pRktNJEA0
太陽に焼き尽くされそうな気分だった。
嫌悪や憎悪はまったくない。
シンプルな気持ちだった。
僕はこの子と正面から言葉を交わしていい人種ではないと即座に判断できた。
だって僕は、外道に堕ちた身だから。
咲き乱れる花道を往く彼女の前に立ってはならない。
.
54
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:44:53 ID:pRktNJEA0
( ^ω^)「それじゃあ、用があるので、失礼しますお」
ζ(゚ー゚*ζ「え? あ、そうだったんですね! ごめんなさい引き留めちゃって!」
逃げるように背を向けた。拒絶と取られても可笑しくはない。
なのに、彼女はどこまでも純真で、疑うこともなく、僕の言葉を受け入れて心配まで寄越してくる。
階段を少し上って僕は足を止める。そうして背を向けたまま、僕は言葉を紡いだ。
( ^ω^)「……応援、してますお。次のライブも見にいきます。頑張ってくださいお」
言い残して僕は逃げようと思った。上る速度を早めて。
だのに、そんな僕の背に言葉が届けられる。
ζ(゚ヮ゚*ζ「嬉しい、凄く嬉しい! ねえ、また絶対にきてくださいね! そうしたら、今度は、名前教えてくださいね!」
今、僕は赤面しているだろう。
それは淡く、切なく、情熱的な恋心からくるようなものではない。僕にそういった気持ちは微塵もない。
恥ずかしかった。真正面からだったら、きっと、僕は誤魔化したように頭をかいて、勘弁してくれと漏れるような声で呟いただろう。
背を向けていてよかった。こんな顔を見られなくてよかった。
まるで人らしく、人のような顔をした僕は、僕らしくない、歪な姿に見えただろうから。
だから、見られなくてよかった。
55
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:46:09 ID:pRktNJEA0
湿り気を帯びる風を浴び、僕はライブハウスから逃げるように出ると熱を冷ます為に暗がりを歩き続けていく。
予想だにしない遭遇を邂逅と呼ぶが、今の経験は正しくそれだった。
では得られるものがあったか、といえば答えは難しい。少なからず理解したのは、やはり僕は彼女に近寄るべきではないということくらいだった。
( ^ω^)(遠くから見てるだけでいいんだお。自由のままに咲くあの子を、ただ、見ていたいんだお)
彼女がどこまで突き進むのかは分からない。目標だって知り得ない。
しかし彼女の歩む花道を僕は見続けていたい。
それが僕の心底からの気持ちだった。
( ^ω^)(はぁ、次は終わった瞬間に出るお……他人の面倒もこれっきりにするお……)
要らぬ時間を過ごしたせい、ともいえるが、ほらみろ、お節介なんてものは碌な結果を寄越さない。
僕は自分を戒めるように強く言い聞かせ、熱が冷めた頃合いに、社宅へと戻ることに決めた。
外食でもしていこうかと思ったが、今はそんな気分ではなくなった。さっさと一人になりたい。
56
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:46:36 ID:pRktNJEA0
「お盛んですな、ここのところ」
( ^ω^)「…………」
.
57
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:47:57 ID:pRktNJEA0
暗がりに、背後から生まれた声はよく響いた。
僕は歩みを止めると一度天を見上げ、特に星の見えない空に落胆する。
厄日だろうかと散々な気持ちだった。けれども声の主は僕の気持ちなどお構いなしに迫ってくると、その手で僕の肩を掴む。
(,,゚Д゚)「飯、どうです。奢りますよ、内藤さん」
( ^ω^)「……デカに奢られても後が怖いだけですお、埴谷さん」
恰幅のいい男性だった。筋骨隆々としていて魁偉だなんて言葉が似合う。
そんな僕と彼は知ったる仲だった。馴れ馴れしく僕の名前を呼ぶ彼だが目は笑っていない。
そんな彼に厭味を言うが、彼も慣れたようにこう返す。
(,,゚Д゚)「ヤクザに奢られた方がこええってもんですよ」
( ^ω^)「……元ですお、元」
ああ、しんどい――肩を竦め、僕は溜息を盛大に吐き出す。
その様に今度こそ笑った彼、埴谷刑事は静かに頷き、トドメの一言を紡いだ。
(,,゚Д゚)「極道は死んでも極道、ってね」
( ^ω^)「あー……マジでしんどい。んじゃ奢って下さいお。天ぷらで」
(;゚Д゚)「寿司よりたけえもん乞食すんじゃあねえよ、みっともないなぁ」
( ^ω^)「じゃあ焼肉」
(;゚Д゚)「……経費、落ちねえのに……しゃあねえ、じゃあそれで手を打ちますか」
58
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:48:55 ID:pRktNJEA0
死んでも極道――いい言葉だ。
僕はやはりそういう人間でしかない。
僕の名前は内藤平治、歳は四十一になる。
少し前まで刑務所で過ごしていた。
今となっては時代の遺物と呼べるかもしれない、そんな唾棄すべき外道の人間であり。
栄枯盛衰の果てに組を失い絶縁を喰らった、元極道……元ヤクザだった。
.
59
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:49:33 ID:pRktNJEA0
二 了
60
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/27(土) 02:50:21 ID:pRktNJEA0
わしは断然“ケイドロ”派でした
それではまた次回、おじゃんでございます
61
:
名無しさん
:2020/06/27(土) 02:52:44 ID:U8i7WaHA0
otsu
62
:
名無しさん
:2020/06/28(日) 07:19:14 ID:szIAY9QI0
乙
63
:
名無しさん
:2020/06/28(日) 17:04:30 ID:N5fVvkJE0
乙乙
ドロケイなんだよなぁ
64
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:36:24 ID:JTlofkTM0
三
.
65
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:37:53 ID:JTlofkTM0
(,,゚Д゚)「どうです、四年ぶりの娑婆は」
真面目な顔で肉を網にのせるのは埴谷刑事だった。
招かれた店は中々にお高いところで、通された個室の中で僕は彼と正面から向き合っていた。
炭火に滴る脂が芳しい香りを歌い、弾ける音色に自然と胃袋が唸りを上げる。
( ^ω^)「どうもこうも、平和だなぁとしか」
久しぶりの焼肉に内心では心が踊っているが、けれども熱を孕む牛タンから正面に視線を切り替えれば強面の野郎が僕を見つめている。
途端に晴れやかだった気分も暗くなるが、頃合いだった肉を摘み、それをレモン汁につけて頬張ってみる。
(*^ω^)「うっっっっっっんめええええええ!!」
久しきかなこの食感、確かな弾力に鼻腔に隙間なく広がっていく肉の芳醇な香り、炭火ならではのアクセントは言わずもがな食欲を掻き立てる。
レモンの酸味に薬味のネギ、そして濃過ぎない塩の加減も最高だった。
息を漏らす程に贅沢な味わいに思えた。たまらずに白米をかっこむ。口内で催される肉と米の乱舞と言えば筆舌にし難く、咽喉へと流し込めば余韻が尾を引いた。
脂もまたいい。しつこい具合でもないし、舌に留まるそれが尚のこと肉を寄越せと催促するようだった。
66
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:38:52 ID:JTlofkTM0
(,,^Д^)「ぎこははは、美味そうに食いますなぁ」
(*^ω^)「いや堪らんですお! うめえうめえ!」
歳を喰いはしたが、それでも肉はやっぱり好きだ。特に牛は最高に好みだ。
僕の反応に埴谷刑事は自然な笑みを浮かべ、労うように次々と網に肉を乗せていく。
先までの暗い気分は吹き飛び、久方ぶりの、それこそ四年ぶりに味わうまともな肉に舌鼓を打った。
(,,゚Д゚)「金はあったでしょうに、この一カ月まったく贅沢をせんでしたね、内藤さん」
( ^ω^)「……ある訳ないでしょう。こちとらパクられた時から無一文ですお」
(,,゚Д゚)「小遣い、足りんかったんですか?」
( ^ω^)「……はぐはぐ」
心底面倒だ――折角心行くまで焼肉を楽しみたいのにわざわざ分かり切ってることを訊いてくる。
言葉を無視しつつ、僕はウーロン茶を啜るとメニューを開く。
67
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:40:22 ID:JTlofkTM0
( ^ω^)「ここのお肉凄くいいですおね。びっくりしましたお」
(,,゚Д゚)「でしょう? 舌の肥えた内藤さんも気に入るかと思ってたんですよ。牛モツいいですよ、モツ。あと牛ハツも」
( ^ω^)「ほえー。んじゃそこらも頼みますお。それと壺カルビ」
(;゚Д゚)「……値段、見てるかい、内藤さん? 別に食事がメインって訳じゃ……」
( ^ω^)「あ、このフトン美味しそうですおね、これも食べますお」
(;-Д-)「あー……ったく、本当にあんたって人は昔っからこうだ……」
遠慮してくれとでも言いたいんだろうが、こちとらは奢ってもらえる上に久方ぶりの贅沢だ。ここは無礼講でいかせていただく。
そも、奢ると言ったならば金にとやかく言うのは男らしくもない。僕は最後の牛タンを頬張ると口内をリセットする為にウーロン茶を飲む。
(,,゚Д゚)「……あんたが気に入ったんならこの店は本当に間違いないでしょうな」
( ^ω^)「お?」
(,,゚Д゚)「いや、ほら。古い人間……昭和の時代のヤクザってのぁ、週に五回は焼肉に行くでしょう。ヤクザが足繁く通う店の味は確かですから」
そう言われて、僕は再度口を閉じる。
68
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:41:52 ID:JTlofkTM0
(,,゚Д゚)「……肉を味わうのも、もういいでしょうよ、内藤さん。話しませんか、少しだけでいいですから」
( ^ω^)「……話すも何も、僕はもうカタギですお。組は消えて絶縁喰らって、更に所払いですお」
出所の前日に僕はそれを言い渡された。あの時の胸中は複雑が極まったが、一月が経った今になると現実を受け入れる他ない。
極道は死んでも極道――そう言われた時、そりゃそうかもしれないと思った。
だが僕にはもう、帰る場所も、シノギも、そして親もいないし舎弟すらいない。
( ^ω^)「一般ですお、どうあっても。それが僕の望む、望まないにせよ」
(,,゚Д゚)「……栄華を極めたとも言えるあんたらが消えた事実。世間は平和だ何だと安心してますよ」
( ^ω^)「でしょうお。それでいいじゃないですかお。僕らみたいな極道者は結局日陰にいるしかないんですお。そんで日陰すらもなくなったなら、自然と日向で生き方を変えますお」
普通、そして自由。そこに待ち受けていた現実の数々。
四年と言う歳月はさして長いとは言えなかったが、しかし四十一年の生涯において、一般社会とは長らく無縁にあった。
(,,゚Д゚)「けど平和なんかじゃあないんですよ、内藤さん」
( ^ω^)「…………」
カルビを焼き始めた埴谷刑事は真剣な声色でそう言った。
個室の内部には僕と彼のみ。他の誰もいない。だが緊張感が増していく気がした。
69
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:43:40 ID:JTlofkTM0
(,,゚Д゚)「世には均衡ってもんがある。理解出来ますよね」
( ^ω^)「それはどこの誰が定める均衡ですかお」
(,,゚Д゚)「我々警察ですよ。治安を維持する組織ですな」
( ^ω^)「おっおっ……」
その台詞に思うことはない。世の多くの一般人もそう思っているだろうし、その能力を疑うことだってないだろう。
実際、僕達のような家業の人間から見てもそうだった。
世に溢れる癒着問題なんてものはほんのごく一部でしかない。正義と悪は持ちつ持たれつ、だなんてのは深読みする阿呆や勘違いした馬鹿の妄想でしかない。
ゆるやかに、そして静かにではあるが、彼ら警察の掲げる正義こそは悪の根絶を絶対のこととしている。それは変わらないし揺るがない。
(,,゚Д゚)「今から八年前にことは起きて、そして四年前に変革があって、つい先月、全てに終止符が打たれた。結果は首都を中心に幅を利かせる暴力団の壊滅。組織は闇に消えた訳ですな」
( ^ω^)「…………」
(,,゚Д゚)「懐かしいでしょう。八年前、あの時にあなた方は敗北なんて考えもしなかったはずだ。一本独鈷で古く、昔ながらのヤクザを営んでたあんたらは、それでもその矜持を持つに相応しい力もあった」
( ^ω^)「弱小でしたお」
(,,゚Д゚)「組織図を見たらそう勘違いしますな。構成員は組長含め僅か百五十名。枝もなく、親のみを立て若頭等のポストも設けず、幹部は全て横並びでその下に三下が続く……今時じゃ有り得ない」
( ^ω^)「競争する必要なんてありませんからお。平々凡々と、つつがなく生活出来りゃよかっただけですから」
(,,゚Д゚)「そうでしょうな。多くの悪だくみはつつがなくといった具合でしたから」
( ^ω^)「……はぁ」
70
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:45:01 ID:JTlofkTM0
溜息を吐き、僕はカルビを頬張る。
やはり美味い。美味いが、先よりも感動が少ない。何せ口喧しい人物が会話ばかりを優先するものだから舌も狂うというものだ。
( ^ω^)「天ぷら食ってんのかお、埴谷さん」
(,,゚Д゚)「舌の回りは昔からですよ内藤さん。何度も喧嘩したでしょう」
( ^ω^)「おーおー、嫌になる程お。見飽きてんだお、あんたの顔は。それもこーんなところまで追いかけてきて……」
(,,^Д^)「ぎこははは。そりゃ追いかけますよ、内藤さん」
だって、と彼は言葉を切ると僕を睨むように見つめる。
71
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:45:33 ID:JTlofkTM0
(,,゚Д゚)「あんたは危険すぎる」
( ^ω^)「…………」
.
72
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:47:07 ID:JTlofkTM0
(,,゚Д゚)「……語るに及ばず、あんたの立ち位置は極めて異常だ。その注目度も含め、全国で名は通ってる。いっそ“あんたこそが最大の問題”と言ってもいい」
( ^ω^)「大袈裟ですお」
(,,゚Д゚)「ははは、大袈裟……言いますね。やはり格が違う人物ってのぁ、謙遜するもんですな、己を」
( ^ω^)「……肉、食ったらどうですかお、冷めますお」
(,,゚Д゚)「結構。俺の分は端から頼んじゃいない」
( ^ω^)「あー……然様で」
しんどい、しんどい――先から胃が重く感じる。肉の所為じゃない。単純なストレスだった。
( ^ω^)「でも全て過去の話ですお。ムショで綺麗な身になって、娑婆に出て、誰にも行き先を告げずこうして一人で生きてますお」
(,,゚Д゚)「それは心底有難いことでしたよ。あんたのことだから今一度大暴れでもするかとこちとら心底焦ってましたからね。けど出でくりゃあ、静かに羽田に向かって、ここ……南の土地だ」
( ^ω^)「別にどこでもよかったんですけどお。北はよく犯罪者が向かうって言うでしょう。それが嫌だったんですお」
(,,-Д-)「中々に面白い理由ですな、あんたらしい」
彼の感想と同時、個室に新しい肉を届けに若い女性がやってきた。
盆に溢れる程の肉の山と言えば金銀財宝に負けず劣らず、といった感じで、全てを受け取った埴谷刑事はハツを焼き始める。
73
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:49:08 ID:JTlofkTM0
(;^ω^)「あ、壺カルビがよかったのに……」
(,,゚Д゚)「まーまー、このハツ本当うまいですから。絶品ですよ、半生くらいがいい」
(;^ω^)「えー……まぁ、いいですけどお……」
食べてみれば、これは確かに最高な味わいだった。
牛の心臓は確かに好きだが、この店のハツは、まずニオイが気にならない。歯ごたえもブリッブリで野性味を感じる程のテクスチャだ。
そしてその味わいと言えば、淡泊のようで、しかして血の味わいが奥から顔を覗かせる。
美味い、美味すぎる――気付けば米をかっくらう程で、しきりに一人で頷いていた。
(*^ω^)「はあああああ……幸せ……」
(;゚Д゚)「っとに美味そうに食うなあ、あんた……」
成程、彼がすすめたのも十二分に理解出来る。これはまたこの店に顔を覗かせねばならないだろう。
不思議と極道者は焼肉が好きだ。いや、誰だって大好きだろうが、我々のような古い人種はそれこそ毎日のように焼肉やら、他にも美味い店に外食をしに行く。
理由は多々あるが、単純に美味い物を毎日食べたいという気持ちが強い。今時の極道はそういった真似をしない――これも理由は多々ある――が、僕は次の休みに再度くることに決めた。
(,,゚Д゚)「女はいいんですか」
その言葉に僕の箸が止まる。
僕の様子に彼は軽く息を呑んだ。
74
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:51:29 ID:JTlofkTM0
(;-Д-)「いや……失言でしたな、すみません……」
( ^ω^)「……本題をどうぞ」
僕の思考が切り替わる。箸をおき、食事の意欲が掻き消えたことを言外に伝える。
それに彼はバツの悪そうな顔をしたが、かぶりを振るい、改めて僕と向き直った。
(,,゚Д゚)「……組が解散して安寧が戻った、と世間は安心しきっている。それは先の通り。ですが我々の思うことはそれの逆です」
( ^ω^)「…………」
(,,゚Д゚)「予想だにしない、いや……計画が狂った結果、あんたらの組は壊滅してしまった。一つの安全策が消し飛んでしまった」
計画、安全策と口にされて僕は眉根を寄せる。
( ^ω^)「全てをコントロール出来ると思ってんですかお、あんたら警察は。そんなんだから裏をかかれる。そんなんだから我々の協力を必要とする」
(;゚Д゚)「返す言葉もない……」
( ^ω^)「どんな画を描いてたのか僕は知らないですけどお、少なかれ今の結果がうちの組だけの失態なんかじゃなかったってのは分かってんですお」
(;゚Д゚)「…………」
( ^ω^)「今も未だムショに居残る兄弟達……幹部の複数名。“あの日”を皮切りに我が組の弱体化が意図的にはかられてたお」
(;゚Д゚)「鋭いですなぁ……」
( ^ω^)「だってのに僕だけ出てこれた。たったの四年ですお。本来は五年だったのに一年も早まってる」
(;゚Д゚)「初犯でしたし、中では真面目だったでしょう」
( ^ω^)「おっおっ……面白いことを言いますおね。別にどんな内容でも僕を引っ張れたでしょうに」
僕は彼の目を真っ直ぐに見る。
75
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:52:50 ID:JTlofkTM0
( ^ω^)「なんで障害で引っ張んたんですかお。別に何でも引っ張れたでしょう」
(,,゚Д゚)「…………」
.
76
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:54:17 ID:JTlofkTM0
僕は、傷害罪で五年の実刑を喰らい刑務所に服役していた。
その内容も、結果も、何もかもが意味不明で、そこに誰かや何かしらの意図があったのは明白だった。
だが、僕にはそれが見えてこなかったし、当時は組長の意思の通り、大人しくそれに従うしか出来なかった。
(,,゚Д゚)「……内藤平治、現在四十一歳。過去の経歴は省くとして、関わりのある犯罪行為は枚挙に暇はないでしょうよ」
( ^ω^)「あんたらが僕達の壊滅を願ってた訳じゃないのは理解できたお。僕を危険人物の筆頭として扱ってるなら他の罪状で引っ張るか、最悪は殺すでしょう」
(,,゚Д゚)「言わずもがな、何でも引っ張ろうと思えば引っ張れましたよ。特にあんたが得意だった……殺しだとか」
何ともないように言うその態度。悪を目の前にして野放しにしているという事実。
だから僕はこいつらが嫌いだ。分かっていても己等の理想や成すべき何かがある。それを達成するために、こうして……犯罪者をコントロールし、絶好の機会を窺っている。
嘗め腐っていると言える。癒着とはまた違うが、その正義面した態度が鼻持ちならない。
(,,゚Д゚)「バランスが必要なんですよ。物事には、一貫して」
( ^ω^)「…………」
(,,゚Д゚)「あんたらの組は組織図で見れば確かに弱小だ。だがその実体は全国でも類をみない程に凶悪で強力だった」
77
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:56:17 ID:JTlofkTM0
埴谷刑事は飲み物を啜り、煙草に火を灯した。
(,,゚Д゚)-~「ましてや武力で言えば軍隊よろしく……戦闘時なんぞは“隊”と呼ばれる単位での行動だ。組長は実質、指揮官であり総大将……恐ろしいでしょう。その中身は戦闘集団ですよ」
( ^ω^)「そうさせたのは政府でしょう。戦後の糞下らない情勢がそうさせただけですお」
(,,゚Д゚)-~「だがそれが現代で罷り通っていいわけがない」
その言葉に、そりゃそうだ、と僕は頷く。
頷くが、それが我々の生き方だったのだから仕方がない。
(,,゚Д゚)-~「難しかったんですよ……あんたらの戦力を削ぎ、指揮系統を粉砕し、いい具合に弱体化をはかり、敵対組織との泥沼からの最終的な講和を我々は目論んでいた」
( ^ω^)「だからってうちの幹部の八割を無理くり捕またのは愚策極まるでしょう。軍隊は指揮者なしに機能しない」
(,,゚Д゚)-~「……だからあんたの逮捕ですよ」
( ^ω^)「……弄ったんですかお」
(,,゚Д゚)-~「お判りでしょう、そんなこと。あんたを傷害程度で引っ張る理由なんて単純だ。“一時の調整”であり即座の復帰を我々は熱望していましたから」
だが、と彼は言葉を続ける。
(,,゚Д゚)-~「その復帰はもう、望みようがない」
( ^ω^)「……下らんですお」
78
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 20:58:25 ID:JTlofkTM0
僕は立ち上がり、最早言葉を重ねる気もなくなると彼を無視して個室から出ようとする。
そんな折、背に言葉を投げかけられた。
(,,゚Д゚)-~「気をつけた方がいい。先にも言った通り、あんたの注目度は並じゃない。或いはあんたが何かを企んでると勘ぐる連中もいる」
( ^ω^)「おっおっ……復讐の為に、ですかお」
僕は親分から下された最後の命令を思い出す。
“生きろ。死ぬんじゃないぞ”――それが全てだ。もう、実質的に親とは呼べないし、それに従う道理もない。
だが僕にとってそれは絶対の命令だ。それこそが僕達を結ぶ絆であり、凡そ一般と呼ばれる人々からは理解され難いものだ。
( ^ω^)「外道を突き進む人間は……これ以上道をそれる訳にゃいかんのですお」
(,,-Д-)-~「……やっぱりあんたは侠客ですよ、内藤さん。この時代にいるべき人じゃない」
( ^ω^)「……ご飯、御馳走様でしたお」
侠客――もうそう呼ばれることなどないと思っていた。それもこの時代になって。
時代に勝てなかったと組長は言った。世の趨勢とは川の流れのようで、一見して一つの流れがあるように見えて、実は行き先は違っていたり、石を投じれば必ず変化が起きる。
その時代に適した者こそが勝利を掴むことが出来るのだろう。それは商売であれ勝負ごとであれ、違いは大差ないと思える。
79
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:00:40 ID:JTlofkTM0
( ^ω^)(美味かったお、焼肉)
衣服に染み込んだ芳しいニオイを嗅ぐ。
時代は変わる。だが変わらないものだってある。
焼肉はいつの時代も美味い。そして衣服に染み込むニオイだって変わらない。
( ^ω^)「ねえ、親分……変わらないものだって、あるんですお」
僕は夜の街を一人で歩く。傍に見知った人も親しい人もいない。
それが時の流れだと言えるのかもしれない。嘗ては複数の人物達と外食をし、その足で夜の街へと繰り出し、夜の全てを満喫した。
僕の前を組長が歩き、小遣いは欲しいかと訊いてくる。それに僕は頭を下げて有難く頂戴する。
僕の舎弟が勝手に喜んで、そんな小僧の頭に拳骨を落とす。兄弟分が大笑いをして、複数の三下達が僕達の周囲に気を配り神経を張り巡らせる。
( ^ω^)「……外道にとっちゃ、それが夜の華だったんだお」
世間様にとってはいい迷惑だし怖い思いをさせてきた。
実際、問題は数多くあったし、世論調査でもすれば満場一致で極道なんぞ消えてなくなれと票が集まるだろう。
分かり切っていることだ。こうして一般の世界で生きる身になれば、尚のこと普通の人々の生活とは無縁だったと痛感する。
80
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:01:51 ID:JTlofkTM0
『内藤、今日はどこ行くんだ?』
『あそこの店ですお。話もしにいくつもりだったんで、ついでにって感じですお』
『そうか、俺はもう帰るよ、眠いし』
『親分、最近体力なくなりましたおね』
『お前こそ、なんだぁ親分って。畏まりやがって』
『そこはほら、筋通さないと、下の小僧共に示しがつかんでしょうお』
『俺ぁ寂しいけどな、親父ー、親父ーって生意気言ってた小僧が、今じゃ大人ぶってんだから』
『おっお、こちとら蹴りも木刀も飛んでこなくて安心安全ってなもんですお』
『生意気なのは変わらねえなぁ、ったく、ははは……』
『兄貴! 俺、組長送ってきますよ!』
『お、分かったお。んじゃいつもの店にいるからお、後できたらいいお』
『承知です! んじゃ組長、お家までお送りします!』
『ん、頼むよ。そんじゃな、内藤』
『ええ、組長――』
81
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:02:36 ID:JTlofkTM0
( ^ω^)「お気をつけて……」
景色に溢れる雑踏。その中に僕の知る人物は誰もいない。
途端に全身を孤独感が駆け抜け、僕は拳を握り、パーカーのフードを被ると俯いて歩き出す。
( ^ω^)(……僕は、何故こんなところにいるんだろう)
衝動に任せたままに、行動したってよかったんじゃないか。
親分の命令を無視して、“あの頃”のように、“昔”のように、武装して、憎き奴等を片っ端から殺して回ればよかったんじゃないか。
居場所なんてこの平和な世界にありはしないんじゃないか。
暴れることしか能がない、僕のような外道に、普通や自由なんてものは――
82
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:03:04 ID:JTlofkTM0
( ^ω^)「枷でしかないんだお……」
.
83
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:04:01 ID:JTlofkTM0
自由という見えない鎖でつながれたまま、僕は現実という檻の中にいる気がした。
普通や正しさを理解出来ない訳じゃない。
ただ、そこに己が立つ意義も理由も分からない。
だって、どうあったって僕は犯罪者であり、外道の身だ。
そんな人間に、今更どうやってこの生活に馴染めというのか。
慣れることは出来ても適応することは難しい。
意義があれば、理由があれば、僕は、適応することが出来るのか。
この平和で普通で自由によって満たされた社会で、己の生存を、己自身で許せるのか。
.
84
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:04:59 ID:JTlofkTM0
( ^ω^)「お……」
気付けば駅の北口に差し掛かり、僕は社宅へと戻る為電車に乗ろうと考えていた。
駆け巡る様々な言葉をどうにかして整理しようと必死で、ここまでの道のりは曖昧だった。
そんな僕は、フードの隙間から視線を路地裏へと向ける。
( ^ω^)「お……?」
それはもしかしたら、長年の経験により培われてきた勘によるものだったのかもしれない。
或いは麗しの花弁の落ちる音を耳にしたからかもしれない。
僕の目は確かに捉えていた。暗がりの路地に、確かに似つかわしくない可憐な花が咲いていたのを。
そしてその花が――
85
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:05:26 ID:JTlofkTM0
ζ(゚ー゚;ζ「ひっ、いっ……!」
(・∀ ・)「デ、デレちゃぁん……! いひ、ひひっ……!」
――今まさに窮地に陥っているのを。
.
86
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:06:24 ID:JTlofkTM0
ボヤけていた脳内が即座にクリアになる。
思考が闘争へと切り替わったのを確かに感じ、身体も自然とそれに適したように各筋肉が躍動するのを感じる。
( ^ω^)「――殺さないように、しなきゃお」
ただ一つ、僕は己に言葉を言い聞かせた。
それは絶対のルールだ。この平和な一般的社会で、それだけは超えてはならない。
例えそれが刃物を持つ人物が相手であっても。
例えそれが女性を今まさに傷つけようとする輩であっても。
( ^ω^)(難しいなぁ……普通だの自由ってのはお……)
暗がりへと踏み出し、僕は迫っていく。
絢爛と咲き乱れる花道を阻害する害悪を粉砕する為に。
実に四年ぶりに、僕は暴力を己の意思で肯定した。
87
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:06:52 ID:JTlofkTM0
三 了
.
88
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/06/28(日) 21:08:27 ID:JTlofkTM0
今日はここまで、おじゃんでございました
「( ・∀・)供花が見る夢のようです」ってのも今書いてますので、よかったらそっちもみていただけたら嬉しいです
>>63
戦争
89
:
名無しさん
:2020/06/28(日) 23:43:43 ID:93q136HI0
乙
そんなにやべーやつだったか内藤
90
:
名無しさん
:2020/06/29(月) 03:32:27 ID:mpNVuVts0
乙
91
:
名無しさん
:2020/06/29(月) 15:26:11 ID:HDN0dGSI0
乙!
面白くなってきたな あっちも楽しみにしてる
92
:
名無しさん
:2020/06/30(火) 10:58:36 ID:3g3xpvRo0
>88
通りで内容全然違うのに取り違えるわけだわ
どっちもすき
93
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/07/05(日) 11:24:35 ID:b.2ksXzk0
『兄貴ってなんでそんなに強いんすか?』
『お? 別に大した程度じゃないお、親分の方が何億倍も強いお』
『まあ、組長の強さはヤバイなんてもんじゃ足りないすけど……それでも兄貴も可笑しくないすか?』
『なぁんで“俺”が可笑しいんだお。お前も子供の時分は喧嘩三昧だったって言ってたじゃないかお』
『この道を選んだ人間なんて若い頃は往々がそんなもんでしょうよ。族だ愚連隊だって』
『グレ共はまた違うけどお』
『とにかくですよ、なんだって兄貴は、その……刃物相手でも銃器相手でも真正面から突っ込めるんすか。しかも素手で』
『ん〜……慣れだおねぇ』
『いや絶対それだけじゃないでしょう。組長といい兄貴といい、可笑しいっすよ、うちの“隊”の出の人達……』
『それが本来の仕事だからお。お前もそろそろ……時期かおねぇ』
『時期、って……まさか本当にあるんですか、あの伝統……』
『おー、まぁ約半年から一年程度の期間だからお。気合い入れてこいお』
『まだ部屋住みでヤキいれられてる方がいいっすよ……言語からして違う国っすよ……』
『まぁそう言うなお。折角懇意にしてくれてる組織だし、そういったところで“しっかりとした”喧嘩の仕方を教われば……』
『教われば……?』
94
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/07/05(日) 11:24:58 ID:b.2ksXzk0
『得物がなくても普通の人間相手なら素手で殺せるようになるお』
『は〜……っとに恐ろしい人ですよね兄貴……おーい、お前等こっち手伝ってくれ。兄貴が三人ぶち殺したから片付けを――』
.
95
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/07/05(日) 11:25:31 ID:b.2ksXzk0
四
.
96
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/07/05(日) 11:27:43 ID:b.2ksXzk0
闇夜に浮かぶ銀の軌道は刃物特有の輝きだった。
暗がりの路地で描かれる筋は怯える少女へと向かい、刃物を揺らす男の瞳に正気の色合いはなかった。
少女は全身で震えている。恐怖によるものか声すら出ないようで、彼女はにじり寄る男から逃れようと細い脚で後退るばかりだった。
(・∀ ・)「ねえ、なんで? なんでオレのこと無視するの? いつもいつもライブやイベに顔出して名前呼んでるじゃん?」
血走った眼に何が映るのかは分からない。或いは少女を天使と捉えるか、はたまた悪魔のように捉えるか、その判断は他人からでは難しいだろう。
人は多面性を持つのが前提だが、他人が抱く印象というのもまた千差万別だろう。
己に対して悪辣な態度をとる人物は誰しもにとって嫌いな人物にカテゴライズされる。対して好意的に接してくる人物は無害であり好印象のままに受け止めるだろう。
ただ、人と人のやり取りには、どうしても齟齬が生じたりするし、それがたたって不和になることも少なくはない。
ではこの光景はどうだろう。狂気に支配された男は刃を向けるに足る程の苦痛を味わったのだろうか。少女を散々な目に遭わせるだけの顛末はあるのだろうか。
ζ(゚- ゚;ζ「やめっ、て……くださっ……」
闇に沈むような声量だった。いつも僕が見る彼女は、元気が溢れる程に大声で、ステージが低かろうが照明の数が少なかろうが、それらを意に介さず満面の笑みを湛えていた。
だが今の彼女は別人のように蒼白い表情で、目元に涙を溜め、どうかその刃をおろしてくれと必死に頭を下げ続けている。
弱者のそのものだった。何度も目にしたことがあった。
( ^ω^)(何も出来ない、無力な人の……死を前にした時の絶望の顔だお)
助けを必死で乞い、涙やら唾液やらでとんでもない顔になって、額突いて、大小便を漏らして、全てをかなぐり捨てて、それでも死にたくないと叫ぶ。
それが人間だと僕は知っている。どんな強者や覇者や、含めるならば絶対者だろうとも、死の淵に立てば生を懇願する。
そこに至れば弱者も強者も変わりはない。同じ意味合いの生き物になる。
隔たりも糞もなく、差異やら身分やら信仰の差だとか、人種の壁だの、全ての意味が消えて“これから死ぬ人という生き物”になる。
97
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/07/05(日) 11:29:34 ID:b.2ksXzk0
( ^ω^)(老いも若きもないお。様々な経緯があって多くの背景があって、土壇場なんてのは人それぞれだお)
自業自得の人物だっている。世に善悪とあるように、瀬戸際で跪く羽目になるような悪人だっている。
だがその逆だってある。不運な人々は数知れない程で、それが巻き添えであったり、そもそもが理不尽でしかない状況があったり、やはり挙げればキリなんてない。
結局、僕は多くの死を見てきた立場だった。それを齎し、見届け、指示し、突き付けられ、跳ね除けてきた人生だった。
つまり、僕は死に近しく、誰よりもそれをよく知っている。
だからこそ、僕はこの状況を見逃すわけにはいかなかった。死を誰よりも知るからこそ、これから起こるだろう絶対の死を許すつもりはなかった。
( ^ω^)「こんばんは、何してるんですかお?」
僕は足音を響かせて、のったりゆったりと路地裏の状況に介入した。
男の背に声をかける。僕の声に気付いた少女は、男の向こう側から視線だけを僕に寄越し、それから驚愕の顔つきになった。
頭上には明滅を繰り返す電光がある。煩わしいホワイトとブラックの繰り返しに少々苛つくが、僕は振り返った男の面を無表情で見つめていた。
(・∀ ・)「は? おっさん誰?」
( ^ω^)「ただの通りすがりですお」
(・∀ ・)「いや通りすぎてねーし。ほら失せろよ。それとも殺されてーの?」
男は右手にナイフを握り、僕へと一歩を踏み出してきた。
視線はどこに向いてるのか、そもそも本当に僕をちゃんと認識出来ているのか分からない。特徴的な斜視もそうだが、どうにも意識があやふやに見えた。
( ^ω^)(あー、シャブ喰ってる面じゃないし、臭くないし……こりゃ怒りで頭プッツンしてるっぽいおね)
激昂の果てに錯乱状態に陥っていると思われる。下手するとトランスする勢いだろうかと冷静に分析する。
別にそういった状態で特に困るということはない。何を仕出かすのか“分からない”のは端から“分かり切っている”からだ。刃物を持ち出す時点で正気など問う気もしない。
98
:
名無しさん
:2020/07/05(日) 11:31:54 ID:b.2ksXzk0
( ^ω^)「そのナイフ、危ないですお。怪我しちゃいますから、おろしてくださいお」
距離を目測ではかる。凡そ五メートル程だった。遠間と言えば遠間だし、レンジ的に言えば相手の方が刃物を持つが故に有利と言える、のかもしれない。
そもそもこの距離だとして、相手が発狂して突進でもされたら普通の人間なら成す術はないだろうし、倒れ込んだところを馬乗りにされて滅多刺しで了となるだろう。
( ^ω^)(まあ……どう動かれても、何だっていいんだけどお)
けれども、僕はどうだってよかった。
仮に相手が突っ込んでこようが、刃物を振りかぶろうが、逆刃に構えて刺してこようが、いっそ投げつけてこようが、どれでもよかった。
そのどれにも危機感を覚えないし、それらのどれらにも対処出来るからだ。
( ^ω^)(この様子なら人質にしようっていう考えもないみたいだおね)
切羽詰まっている人間というのは、当然というか分かり切っていることではあるが、冷静な判断が出来ない。
通常ならば意識を僕に向けつつも彼女を人質にとり現場から彼女を連れ去るか、目撃者である僕を、彼女を盾にしたまま殺そうとするのだろう。
ところが男の意識は僕に釘づけだった。胸中では彼女が抵抗の一つもしないからと油断をしているのだろう。
拘束すらもせず標的を自由にさせたままとは、中々恐ろしい状況だな、と僕は思う。
(・∀ ・)「あ……? いやちげえわ、あんたなんか最近よく見るぞ……?」
( ^ω^)「……そうですかお?」
男は頭皮を掻きむしる。深く爪をたて加減の一つもしない所為で指先には血と抜け落ちた頭髪がこびりついていた。
それを見た少女は小さく悲鳴をあげ、いよいよしゃがみこむと涙を流し始めた。
狂気を目の当たりにすることなんて普通ならば滅多にありはしない。だから彼女の反応は当然といえる。
( ^ω^)(精神的によろしくないおね。さっさと片付けたいけど、しかし困ったおねぇ……正当防衛ってこっちが手を出した時点で成立しないんだっけかお)
法的なことは重要だし、それはこの状況が特殊であることも起因する。
含めるならば、最大の不安は、やはり僕自身に加減が出来ないということだ。
99
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/07/05(日) 11:33:28 ID:b.2ksXzk0
(;^ω^)(手を出さず、正当防衛の範囲内で、この男を殺さないようにしつつ、あの子を助けるのかお)
どう考えたってぶち殺した方が手っ取り早いだろうに、けれどもそんなことがこの平和な一般的社会で罷り通るわけがない。
郷に入っては郷に従えというように、社会には当然ルールがあり、社会に生きる人々にはそれを護る義務がある。
つまり道理であり、我々でいうところの筋を通すというやつだ。
で、あるならば、如何に外道の身である僕だろうとて、それに従わないというのは、それこそ筋が通らない。
(・∀ ・)「あんた、あれだろぉ? 最近デレちゃんのライブに顔出してるおっさんじゃん?」
( ^ω^)「はぁ、まあ、そうですけどお」
再度、男が一歩を踏み出した。右足からの踏み込みだった。刃も右手に握っている。
簡単な観察の具合で、この男の利きは右であると判断出来る。する必要もない程の素人だが、情報を整理しつつ僕は視線を男に固定した。
(・∀ ・)「いい歳したおっさんがさぁ、なに若い女の子に熱中してるわけ? 恥ずかしくない?」
( ^ω^)「……応援したくなる程魅力的ですからお。そこはまぁ、お互い様じゃないですかお」
(・∀ ・)「は? お互い様だぁ!?」
100
:
◆hrDcI3XtP.
:2020/07/05(日) 11:34:56 ID:b.2ksXzk0
語気が荒れる。刃を握る腕に力が入ったのを僕は見逃さなかった。
逆鱗に触れた――使い方は“正しくない“が敢えて逆鱗とする――ようで、殺意の濃度も跳ね上がった。
不思議な話、人は殺意を含め、負の感情を身体から解き放つことが出来る。不穏な空気というやつだ。
久しく触れる空気。切った張ったは日常の一つだったが、それでも生ぬるい現状に不思議な安心感がある。
何せ会話をしてくれる。問答無用で斬りかかってきたり銃弾をぶっ放さない。なんて平和なんだ、素晴らしきかな一般的社会、と僕は胸中でしきりに頷いた。
(・∀ ・)「一緒にすんじゃねえぞジジイ!! こちとらはなぁ、デレちゃんの為に日夜欠かさず監視してんだよ!!
遠征にも全部付き合うわ!! グッズだって買い占めるわ!! 情熱のレベルがちげえんだよ!!」
興奮によるものか唾を垂らして叫び散らす男。
刃の切っ先がわなわなと震えている。
(;^ω^)(そんなんで殺す気かお……)
呆れる僕だが、男の叫びは止まらない。
(・∀ ・)「それをぽっと出のアホ面したジジイが分かった風な口利きやがって!! どうせデレちゃんを性的な目で見るだけのパンピーが!! 小汚ぇ一物勃起させて――」
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