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( ∵)なぜなら鉄面皮だからのようです
1
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:19:44 ID:TPwRPwxI0
彼女の匂いが好きだった。
どこにでも売ってる安物の柔軟剤と、髪の毛から漂うシャンプーの香り。
彼女はこちらを決して見ない。
見られていることに気付いてもいない。
僕は眺める。
空気と同化して、彼女の一部になれればどんなに素敵だっただろうか。
でもきっと、この願いも、この思いも、恋慕も希望も全て、叶わずに終わるのだろう。
決して交わることのない平行線上で、僕は彼女を眺め続ける。
そう、本当にそれだけだと思っていた。
75
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:12:47 ID:TPwRPwxI0
家族間の仲の悪さなど関係無く、僕たちの縁は続いている。
腐れ縁を切ることすら面倒くさいし、窮屈に感じるほど鬱陶しいわけでもない。
それに、彼のことは案外信頼している。
性格の悪い者同士、互いになんとなく通じる部分があるから。
自分の背よりも何倍も高い背丈の広葉樹が、水気の失せた茶色い葉っぱを散らしている。
蟋蟀の物悲しい鳴き声が、秋の澄んだ空気に木霊している。
少し前まで山並みは色鮮やかに染まっていたのに、今はもう見る影もない。
たとえ紅葉が残っていたところで、等間隔で道を照らす街路灯しか明かりがないのだから、確かめる術は無い。
76
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:13:28 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「先輩を眺めることが、今の僕の生きがいなんだよ」
( ^"ν^)「クソ気持ちわりいな虫唾が走る」
( ∵)「気分悪いの? 二日酔い? 吐く?」
( ^ν^)「てめえの顔面に吐いてやろうかクソ野郎」
( ∵)「バイト終わりだからって殺伐としすぎだろ」
( ^ν^)「俺が一生懸命バイトしてる時に彼女でもねぇ女侍らせてヘラヘラしてる奴がいれば、誰だって腹立つだろうが」
( ∵)「なんだよただの八つ当たりかよくっだらねぇ死ね」
( ^ν^)「うるせぇ」
77
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:13:56 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「冗談はさておき、何で俺はお前に歩幅を合わせなくちゃいけないんだよ。
疲れたしさっさと帰って眠りたいんだけど」
( ^ν^)「遊んでるだけの癖に疲れたとか抜かしてんじゃねえよ。
いい加減気になってんだよ、お前らが何でくっつかねえのか」
( ∵)「だーかーらー、今日の焼肉での会話は何回も言っただろ? 脈ないよ、アレは」
( ^ν^)「お前の偏見だらけの意見なんて訊いてねえんだよ。
客観的に見れば十分狙える立場だってことを自覚しろや」
いつもにも増して口調が荒いのは、やっぱり疲労が溜まってイライラしているからだろうか。
他に要因があるとすれば僕の存在なのだと思うが、僕だって好き好んで一緒に帰っているわけではない。
彼が引き止めたからこうして嫌々二人で歩いているのに、なぜ引き止めた本人に延々と嫌味を言われなければならないのか。
78
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:14:54 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「俺が目の前にいるのに、頭から離れない人を『その人』って三人称で呼んでるんだぞ?
僕のことがもし好きなら、直接言えばいい話じゃないか」
( ^ν^)「女は思わせぶりな行動をしたがるもんだが…その先輩とやらは、告白するよりされたい人間なんじゃねえのか?」
( ∵)「どういう意味だ?」
( ^ν^)「自分から言う勇気が無いんじゃなくてよ、他人の口から言わせることで自分の優位性を保ちたいタイプってやつ」
( ^ν^)「人に求められることが当たり前で、自分の価値が高いことを常識のように考えてる輩ってやつ」
( ∵)「あの人は確かに自惚れ屋でナルシストだけども…何なの?
お前は先輩のことが嫌いなの?」
( ^ν^)「なわけねえだろ」
79
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:15:46 ID:TPwRPwxI0
やけにキッパリと否定するのは何故だろうか。
悪口のつもりで発言したのではなく、僕から聞いた先輩の話や喫茶店での様子などから、正当な批評を下した気でいるからだろうか。
( ∵)「やけにハッキリ否定するな。
お前もしかして、先輩に気があるのか?」
( ^ν^)「美人だとは思うが、話したことない奴に恋愛感情抱くほど、俺は器用じゃねえ」
( ∵)「お前昔っから不器用だもんな。
もしかしてまだ紙ヒコーキ作れなかったりすんの?」
( ^ν^)「…」
( ∵)「いや否定しろよ」
( ^ν^)「…作れなくても、別に困らねえだろうが……」
( ∵)「…」
( ^ν^)「…」
( ∵)「…なんかごめん」
( ^ν^)「惨めな気持ちになるから、謝んじゃねえよ…」
80
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:16:23 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…話は逸れたが、俺が強く否定する理由は、あの人はお前と違って嫌な感じがしない気からだ」
( ∵)「なにそれ。
よくわからないし、少し傷付く」
( ^ν^)「嫌な感じがしないってのはやや語弊があるが……。
そうだな、オレとまるっきり違う空気ってやつ? を感じんだよ」
( ∵)「自分と…違う空気…」
言ってることは、なんとなく分かる、ような気がする。
僕自身、彼女と何度も会話して、僕らは根本的な部分が全く似ていないと感じることがよくある。
表面的には気の合う先輩後輩の関係だが、腹の底では異質な思いを抱えている。
81
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:16:55 ID:TPwRPwxI0
端的に言えば、彼女は自信家だ。
対して僕は、自分に自信が無い。
盲目的に自分を信じているような、不穏な自己肯定感に満ちている人格の持ち主。
心の中で他人を否定して、自己の優位性を確保しているような感じが、会話から見え隠れしている。
それを、嫌な感じがしないと捉えるのは、いささか無理があると思うが。
控えめに見ても、悪意が溢れている人物を擁護する理由は、やはりよく分からない。
自分と違うからといって、なぜ擁護するのか。
82
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:17:24 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「俺は自分の性格の悪さを自覚しているが、あの人はそれを真逆に捉えていそうな節がある……。
平たく言えば、盲信だな」
( ∵)「それ、単純に自惚れ屋で性格が悪いやつってことにならない?」
( ^ν^)「自信があるからこそ自己を保てる余裕があるって人もいるだろ。
まあ、でも……あの人の場合は、ちょっと違う気がすんだよ」
( ^ν^)「なんつーかな……汚れを知らない純粋な感情っていうか」
( ∵)「それが悪だと、微塵も思ってないみたいな?」
( ^ν^)「近い」
83
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:17:57 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「それ、とびきり最悪じゃないか」
( ^ν^)「無垢な心ってイメージなんだよ。
子供が無邪気に駆け回っている姿を見ても、嫌な感じはしないだろ?」
( ∵)「その例えなら、理解できなくないけども…。
無邪気ねぇ……」
僕にとっては、彼女が邪気だろうが無邪気だろうがどちらでも大差ないように感じた。
自分の主観的な感情は他人の目には映らないし、自分が対象を客観視した時に抱く印象が、相手のイメージを作ることになるから。
簡単に言えば千差万別。
全部が全部、嘘八百の演技だとしても、それを徹底して貫き通せば僕の中での彼女は"良い人"になる。
84
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:18:25 ID:TPwRPwxI0
演技を続けてさえいてくれれば、僕は彼女を好きなままでいられる。
……。
演技…なのだろうか。
表出している感情が、彼女の素だと思っていたい。
僕の不安の正体は、彼女の本音が分からないからだろうか。
ニュッが先輩に抱いた印象は、彼女の感情表現は悪意から生じる自信や自惚れではなく、白紙の心がありのまま出ているといったものらしい。
彼はやっぱり、心根は悪いやつじゃない。
85
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:19:02 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「なぁ…彼女いたときとか、相手の気持ちとかって分かるものなの?」
( ^ν^)「なんだよいきなり、んなこと普段考えねえよ。
なんとなく察するくらいなら出来るが……心情を具体的な言葉としては、分からねえな」
( ∵)「やっぱり分からないのか」
( ^ν^)「分かるわけねえだろンなもん」
( ∵)「…」
( ^ν^)「だから声に出してくれた言葉を俺は信じる」
( ∵)「声…」
( ^ν^)「いちいち疑うのが面倒なのもあるが、愛し愛された女の言葉を、信じてやれなきゃ彼氏は務まらねえんだよ」
86
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:19:29 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「男前だなぁ」
( ^ν^)「お前、惚れた女の言葉くらい、信じてやれよな」
( ∵)「僕が先輩の言葉を疑ってると?」
( ^ν^)「言葉というか、それが意図してる意味だ。
てめえはそれを邪なモンだと、思い込んでんだろ」
( ∵)「……」
否定できなかった。
87
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:19:52 ID:TPwRPwxI0
僕は彼女の言葉が意味する真意を、他人を貶め蔑むためのものだと考えていた。
彼女の外見に嵌まり込み、自分の気に食わない性格に蓋をして、僕と先輩の心情の差異に無茶な好意を寄せている。
それは、彼女本来を、好んでいないのと全くの同義で。
僕が必死に抑えていた劣情を、暴かれ否定されているのと同様で。
( ^ν^)「教えろよ、一体あの人のどんな言葉が癪に触るんだ?
普通の女子高生が普通に言う下らない冗談と、どう違うんだ?」
( ∵)「……」
やめてくれ。
頼むからもうそれ以上、言わないでくれ。
蓋した心理を暴かないでくれ。
88
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:20:18 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「…うるせー……」
( ^ν^)「お前、好きだ好きだといっておきながら、毎日顔合わせて楽しそうに会話しながら、腹の底では見下してんのな」
なんでこんな話になったんだ。
どこから流れが狂ったんだ。
僕はこいつに否定されたかったのか。
自分の心に嘘を付いた自分自身を、否定されたかったのか。
( .)「……」
( ^ν^)「気に入ったのは外見だけで、話して分かった性格は、性悪だと決めつけてんだろ」
( .)「……」
89
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:20:58 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「顔やら体型やら匂いやらに惹かれて一方的に惚れて、話して分かった性格が気に食わねえから、都合の良いとこだけ好きだって言ってんだろ」
彼の顔が、表情が見れなかった。
僕を見透かす彼の言葉だけが、ただ、心に突き刺さってゆく。
彼の正論が、苦しくて、苦しくて。
否定したいのに、それはどこまでも真実で。
( ^ν^)「お前、あの人のこと、嫌いだろ」
その言葉を聞くや否や、僕は駆け出していた。
彼から逃げ出したくて。
自分の気持ちを認めたくなくて。
蟋蟀の鳴き声は、いつの間にか聴こえなくなっていた。
90
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:21:35 ID:TPwRPwxI0
※※※
(゚、゚トソン「ビコーズ君、どうかしたの? 最近ずっと顔色悪いけど」
( ∵)「なんでもないですよ、ちょっと寝不足なだけです」
(゚、゚トソン「……」
( ∵)「…なんですか、じっと見て。僕の顔に何か付いてますか?」
(゚、゚トソン「いや…元気なさそうだなって、思って」
( ∵)「否定は、しませんよ」
(゚、゚;トソン「う〜ん…」
91
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:22:03 ID:TPwRPwxI0
帰路でニュッに詰問されて以降、僕たちの関係は意外と変化していない。
休み時間や昼食時は他愛もない会話を繰り広げ、放課後は毎日彼のバイト先の喫茶店へ通っている。
何も変わらない日常を、続けている。
ただ、あの日以降僕たちの間で、先輩の話題は出なくなった。
僕自身がそれを避けて話していることもあるだろうが、彼の口から彼女が出ることが全く無くなった。
僕があまり元気が無いのは、なんで先輩の性格が好きになれないのか分からなかったから。
外見だけは、本当に誰よりも好きなのに。
それと、彼女が恋をしているだろうということ。
その相手が、おそらく彼だろうと分かったこと。
雑然とした感情が複雑に絡まりあって、僕を蝕んでいた。
92
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:22:29 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「…ニュッ君と、なにかあったの?」
どうしてそう思うのだろうか。
先輩の頭の中が、彼のことでいっぱいだからだろうか。
( ∵)「なんで、そう思うんです?」
(゚、゚トソン「2人とも仲良いじゃない。
だからもしかしたら…って思って」
( ∵)「幼馴染みですけども、別に友達があいつしかいないわけじゃ、ないですよ」
適当に話して楽しい友達は何人もいる。
信頼している昔からの友人が、彼しかいないというだけの話。
93
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:22:56 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「…そういえば、先輩の方こそどうなんですか?」
(゚、゚トソン「どうって…なんのこと?」
( ∵)「恋とやらの、進捗ですよ」
もう、考えることが面倒くさい。
最初から、得るものも失うものも何も無いのだから、彼女にどう思われようがどうでも良くなっていた。
(゚、゚トソン「…それ、覚えていたのね。
なんか意外というか」
( ∵)「先輩から色恋沙汰聞いたの、それが初めてでしたからね」
(゚、゚トソン「ビコーズ君って、そういうの関心無いと思ってた」
( ∵)「………、僕にだって、感情くらいありますよ。顔に出すのが、苦手なだけです」
(゚、゚トソン「…」
94
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:23:22 ID:TPwRPwxI0
嘘だ。
今の僕には具体的な感情はほとんど何も宿っていない。
今に限った話でも、無かったかもしれない。
僕には人の気持ちが分からないから、自分の気持ちも把握できていないのだ。
だから彼女が今何を逡巡しているのか、僕にまるで解らない。
わからない。
(゚、゚トソン「…その人に、告白しようかなとも思ったんだけどね…もう少し待ってみようかなって」
( ∵)「ほうほう…それはまた何故ですか?」
彼女は告白するより、されたい女だから。
自尊心を保つために、他人からの羨望や愛情が必要だから。
95
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:24:03 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「その人ね、私のことチラチラ見てるのよ。
本人は気付かれないようにしてるんでしょうけど、見られてる側からすれば、バレバレなのよね」
( ∵)「へぇ…よく見かける人なんですね」
(゚、゚トソン「ほとんど毎日顔合わせてるわよ。
話したことは、ないけどね」
彼女の顔は相変わらず表情に乏しかった。
それでも、声色が上ずっていて饒舌になっていることは分かる。
楽しそうだった。
96
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:24:26 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「話したことなくても、好きになれるモンなんですか?」
(゚、゚トソン「一目惚れって、いうのかしらね。
顔が好きなの、タイプなのよ」
( ∵)「ほうほう」
(゚、゚トソン「外見から入る恋愛が、好きなのよ。
心とかいう見えないものなんて、信じられないじゃない」
( ∵)「…分からなくも、ないですね」
ああ、そこだったのか。
僕が彼女と話していて楽しかった理由は。
考え方が近かったんだ。
彼女の性格が嫌いな理由もまた、同じだ。
同族嫌悪だったんだ。
97
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:25:06 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「唯物主義ってやつですか?
目に見えるものしか信用できないとかいう」
(゚、゚トソン「そうね。私にとっては、外見が一番なのよ。
相手がどんなに素敵で純情で、話していて楽しい人だとしても、顔が好みじゃなければ論外なの」
( ∵)「はあ…」
(゚、゚トソン「それが異性の親友であっても、どれだけ私を好いていても、自分の時間を割いてまで話し込んでくれたとしても、その人のことを好きになれないのよ」
( ∵)「……」
98
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:25:38 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「勿論、顔が無理でも話して面白い人はいるわ。
良い人だと思うし、好きになってあげたいとも思う。
けどね、できないの。生理的に受け付けないの、そういう人のこと」
( ∵)「…」
彼女の唐突かつ怜悧な声が、僕を貫く。
内臓を鷲掴みにされて、脳を優しく撫でられているような声色だった。
気持ちが悪いのに、何も言う気が起こらなかった。
不快な響きだった。
僕に向けて釘を刺す言霊を帯びていたから。
僕に直接向けられている言葉に聞こえたから。
99
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:26:08 ID:TPwRPwxI0
いや、僕に向けて言っているのだろう。
その事実を必死に否定しようと精神が総動員しているのだ。
( ∵)「……先輩、怖いですね」
(゚、゚トソン「そうかしら?」
( ∵)「こわいですよ。
だってそれって、付き合ってない仲良い男子全員の存在を、否定して見下してるって言うのと同じじゃないですか」
(゚、゚;トソン「あー……そういう風にも、とれちゃうのね……」
100
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:26:44 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「言葉なんて無意味で、相手の性格なんて自分の頭の中で作り上げてしまえば良いって言ってるのと同じですよ」
(゚、゚;トソン「いや〜、流石にそこまで酷なことは言わないけどねー」
彼女は本当に、本当に純粋な表情で項垂れていた。
そんなこと言うつもりじゃなかったと言わんばかりの様子で、演技だとは思えなかった。
無垢で無邪気な、幼い子供の顔だった。
101
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:27:30 ID:TPwRPwxI0
彼の発言が分かった気がする。
でも僕は、たぶん無邪気な子供が意味を理解せず行動する様を見て、不快感を募らせることができる人間だと感じた。
無邪気に虫を潰す子供を睨み付けることが出来る。
壮年のサラリーマンに「ハゲー!」と言う子供の足を躓かせることに躊躇しない。
道路に飛び出してきた言葉に「ぶち殺すぞ」と怒鳴れる。
この瞬間から彼女に向ける感情は、蔑みと哀れみと、稀に苛立つこと以外、持てなくなってしまった。
失恋だった。
102
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:33:28 ID:TPwRPwxI0
※※※
( ^ν^)「……なあ」
( ^ν^)「……」
( ^ν^)「…」
( ^ν^)「……これで、良かったのか……?」
( ^ν^)「…俺の心は、元々無かった良心に苛まれてる」
( ^ν^)「自分がなんでこんなことをしちまったのか……こんなことを選んじまったのか」
103
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:34:05 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「後悔は…無い。
俺が出来る限りの醜悪を詰め込んだんだ…しっかり折った手応えがある」
( ^ν^)「これ以上想えないように、考えられないように…苦しまないように……」
( ^ν^)「…ハッ。全部言い訳さ、気取ってるだけだ」
( ^ν^)「はなっから分かっていたのさ」
104
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:34:33 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「苦慮、鬱屈、哀愁、忘我」
( ^ν^)「お前はきっと、蛇蝎なんだろう」
( ^ν^)「反対だからこそ、磁石は引き寄せ合うんだ」
( ^ν^)「……」
( ^ν^)「…」
( ^ν^)「…呪縛に等しいのさ」
105
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:35:06 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「助かったわ、少なくともわたしは」
(゚、゚トソン「いつもと同じよ」
(゚、゚トソン「太陽が輝いているのと一緒」
(゚、゚トソン「意志とは無関係に、芽は出てしまうものなのよ」
(゚、゚トソン「蛍光灯に群がる小蝿と同じね」
(゚、゚トソン「嘘も本当も、紙一重なのよ」
106
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:35:33 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「思わせぶりな行動と人を揺らす言葉」
(゚、゚トソン「…」
(゚、゚トソン「得意なのよ、慣れね」
(゚、゚トソン「淀みのない正しさが、ふさわしかったの」
(゚、゚トソン「…彼の隣は、私には少し窮屈だった」
(゚、゚トソン「こんなに細い体ですら、入りこめないくらいに、狭かった」
107
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:35:57 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「あなたに頼んで正解だった」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「今回も」
(゚、゚トソン「…」
(゚、゚トソン「彼はなんで、私に魅かれたんでしょうね」
(゚、゚トソン「やっぱり外観…なのかしらね」
(゚、゚トソン「いつの間にか出来上がってた器の形が、良かったからなのかしらね」
(゚、゚トソン「…」
108
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:36:29 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「不毛ね、この思想」
(゚、゚トソン「外見に惹かれた無個性が、煩悶して、絆されて、撓んだだけ」
(゚、゚トソン「でも自己完結で、決着してくれた」
(゚、゚トソン「あなたのおかげで」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「『あとくされなく別れてみせて頂戴』」
(゚、゚トソン「言葉通りで、頼んだ通りで、ありがとう」
109
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:36:57 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「あいつだったから…余計な」
( ^ν^)「なぜならあいつは、疑問だらけな言葉と理由に、それらしい意味を与えられる」
( ^ν^)「実害が無い」
( ^ν^)「顔と同様に、人間性と同様に」
( ^ν^)「むかしっから、知ってるからな」
( ^ν^)「…」
( ^ν^)「『気持ち悪い』」
( ^ν^)「親共が言うのも分かる気がするぜ」
( ^ν^)「得体の知れねえモンと、悪を撒き散らすモン」
( ^ν^)「気持ち悪いだろうな……」
110
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:37:23 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…」
( ^ν^)「……疲れた」
( ^ν^)「疲れたな…」
( ^ν^)「……なあ」
( ^ν^)「おしえてくれよ、俺に」
( ^ν^)「最愛の相手である、俺に」
( ^ν^)「お前は、あいつのことをどう思ってたんだ?」
111
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:37:45 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…あいつは、悪くない外見だった」
( ^ν^)「ユーモアのセンスもあった」
( ^ν^)「性格は…まあ悪かったが、嫌悪するほどじゃ無かった」
( ^ν^)「会話も…聴いてる限りじゃ、楽しそうだった」
( ^ν^)「俺から離れる理由は、十分にあったはずだ」
112
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:38:17 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「……なんで、なんだ…?」
( ^ν^)「俺は、俺自信同様に、てめえが分からねえ」
( ^ν^)「なんでお前は、あいつを振った」
( ^ν^)「なんでお前は、俺を振らなかった」
( ^ν^)「なあ……教えてくれよ」
113
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:38:44 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「そんなの分かりきってることじゃない」
( ^ν^)「…」
(゚、゚トソン「ちゃんと全部、彼の態度が示してくれてたわ」
( ^ν^)「態度…だと?
あの仮面顔から、何が読み取れたって言うんだ?」
(゚、゚トソン「あなた、むかしっから彼のこと知ってるんでしょ?
なら答えは、自明の理じゃない」
114
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:39:33 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「どういうことだ?」
(゚、゚トソン「表情に変化はなかった。
常に変わらない顔だった」
(゚、゚トソン「中性的で個性が無くて何考えているのか分からなくて、謎で異質な、人間とは異なる生物だと思えば納得しそうになる顔」
( ^ν^)「…確かに、違いねえが…」
(゚、゚トソン「だから、態度よ」
( ^ν^)「態度」
(゚、゚トソン「心情がまろび出てたのよ」
( ^ν^)「…?」
115
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:40:20 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「近づいてくる鼻が匂いを嗅ぐみたいにヒクついていた。
目線は身体中を舐めて品定めするみたいに不自然だった。
息使いは荒々しく、いつも興奮していた。
常に私の目をじーっと見ていた。
料理を頬張る私の唇と舌を凝視していた」
.
116
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:40:44 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…」
(゚、゚トソン「見られてることくらい、分かるに決まってるじゃない」
( ^ν^)「…そうか」
(゚、゚トソン「楽しかったわ、とても、とても」
( ^ν^)「…」
(゚、゚トソン「楽しいわ、今も、これからも」
117
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:41:08 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「こんなこと、言うのは変かも知れねえが…」
(゚、゚トソン「?」
( ^ν^)「あいつに、何か言ってやれるような言葉は……無いか?」
(゚、゚トソン「…」
( ^ν^)「救われねえあいつに、救いようのないあいつに…掛けてやれる言葉は……無いか?」
118
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:41:40 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「……」
( ^ν^)「……」
(゚、゚トソン「…」
( ^ν^)「…」
.
119
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:42:30 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「別に」
120
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:44:59 ID:TPwRPwxI0
《Easy Love, Easy No》
( ∵)なぜなら鉄面皮だからのようです 終
.
121
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:46:50 ID:TPwRPwxI0
以上になります。
好きな言葉を使いたくて書きました。
見苦しい点多々ございますが、ありがとうございました。
122
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 15:37:01 ID:QSD4FXDc0
オツ
123
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 23:56:44 ID:2cNkKua.0
キショい行動のわりに言動キョドらんの凄い
124
:
名無しさん
:2020/06/23(火) 14:53:55 ID:fpFkJ9o60
いいなあ、青春だわ
乙
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