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( ∵)なぜなら鉄面皮だからのようです

1名無しさん:2020/06/19(金) 02:19:44 ID:TPwRPwxI0
彼女の匂いが好きだった。
どこにでも売ってる安物の柔軟剤と、髪の毛から漂うシャンプーの香り。

彼女はこちらを決して見ない。
見られていることに気付いてもいない。

僕は眺める。
空気と同化して、彼女の一部になれればどんなに素敵だっただろうか。

でもきっと、この願いも、この思いも、恋慕も希望も全て、叶わずに終わるのだろう。
決して交わることのない平行線上で、僕は彼女を眺め続ける。

そう、本当にそれだけだと思っていた。

95名無しさん:2020/06/19(金) 03:24:03 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「その人ね、私のことチラチラ見てるのよ。
本人は気付かれないようにしてるんでしょうけど、見られてる側からすれば、バレバレなのよね」

( ∵)「へぇ…よく見かける人なんですね」

(゚、゚トソン「ほとんど毎日顔合わせてるわよ。
話したことは、ないけどね」

彼女の顔は相変わらず表情に乏しかった。
それでも、声色が上ずっていて饒舌になっていることは分かる。
楽しそうだった。

96名無しさん:2020/06/19(金) 03:24:26 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「話したことなくても、好きになれるモンなんですか?」

(゚、゚トソン「一目惚れって、いうのかしらね。
顔が好きなの、タイプなのよ」

( ∵)「ほうほう」

(゚、゚トソン「外見から入る恋愛が、好きなのよ。
心とかいう見えないものなんて、信じられないじゃない」

( ∵)「…分からなくも、ないですね」

ああ、そこだったのか。
僕が彼女と話していて楽しかった理由は。
考え方が近かったんだ。

彼女の性格が嫌いな理由もまた、同じだ。
同族嫌悪だったんだ。

97名無しさん:2020/06/19(金) 03:25:06 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「唯物主義ってやつですか? 
目に見えるものしか信用できないとかいう」

(゚、゚トソン「そうね。私にとっては、外見が一番なのよ。
相手がどんなに素敵で純情で、話していて楽しい人だとしても、顔が好みじゃなければ論外なの」

( ∵)「はあ…」

(゚、゚トソン「それが異性の親友であっても、どれだけ私を好いていても、自分の時間を割いてまで話し込んでくれたとしても、その人のことを好きになれないのよ」

( ∵)「……」

98名無しさん:2020/06/19(金) 03:25:38 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「勿論、顔が無理でも話して面白い人はいるわ。
良い人だと思うし、好きになってあげたいとも思う。
けどね、できないの。生理的に受け付けないの、そういう人のこと」

( ∵)「…」

彼女の唐突かつ怜悧な声が、僕を貫く。
内臓を鷲掴みにされて、脳を優しく撫でられているような声色だった。
気持ちが悪いのに、何も言う気が起こらなかった。

不快な響きだった。
僕に向けて釘を刺す言霊を帯びていたから。
僕に直接向けられている言葉に聞こえたから。

99名無しさん:2020/06/19(金) 03:26:08 ID:TPwRPwxI0
いや、僕に向けて言っているのだろう。
その事実を必死に否定しようと精神が総動員しているのだ。

( ∵)「……先輩、怖いですね」

(゚、゚トソン「そうかしら?」

( ∵)「こわいですよ。
だってそれって、付き合ってない仲良い男子全員の存在を、否定して見下してるって言うのと同じじゃないですか」

(゚、゚;トソン「あー……そういう風にも、とれちゃうのね……」

100名無しさん:2020/06/19(金) 03:26:44 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「言葉なんて無意味で、相手の性格なんて自分の頭の中で作り上げてしまえば良いって言ってるのと同じですよ」

(゚、゚;トソン「いや〜、流石にそこまで酷なことは言わないけどねー」

彼女は本当に、本当に純粋な表情で項垂れていた。
そんなこと言うつもりじゃなかったと言わんばかりの様子で、演技だとは思えなかった。
無垢で無邪気な、幼い子供の顔だった。

101名無しさん:2020/06/19(金) 03:27:30 ID:TPwRPwxI0
彼の発言が分かった気がする。
でも僕は、たぶん無邪気な子供が意味を理解せず行動する様を見て、不快感を募らせることができる人間だと感じた。


無邪気に虫を潰す子供を睨み付けることが出来る。
壮年のサラリーマンに「ハゲー!」と言う子供の足を躓かせることに躊躇しない。
道路に飛び出してきた言葉に「ぶち殺すぞ」と怒鳴れる。


この瞬間から彼女に向ける感情は、蔑みと哀れみと、稀に苛立つこと以外、持てなくなってしまった。

失恋だった。

102名無しさん:2020/06/19(金) 03:33:28 ID:TPwRPwxI0


※※※


( ^ν^)「……なあ」

( ^ν^)「……」

( ^ν^)「…」

( ^ν^)「……これで、良かったのか……?」

( ^ν^)「…俺の心は、元々無かった良心に苛まれてる」

( ^ν^)「自分がなんでこんなことをしちまったのか……こんなことを選んじまったのか」

103名無しさん:2020/06/19(金) 03:34:05 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「後悔は…無い。
俺が出来る限りの醜悪を詰め込んだんだ…しっかり折った手応えがある」

( ^ν^)「これ以上想えないように、考えられないように…苦しまないように……」

( ^ν^)「…ハッ。全部言い訳さ、気取ってるだけだ」

( ^ν^)「はなっから分かっていたのさ」

104名無しさん:2020/06/19(金) 03:34:33 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「苦慮、鬱屈、哀愁、忘我」

( ^ν^)「お前はきっと、蛇蝎なんだろう」

( ^ν^)「反対だからこそ、磁石は引き寄せ合うんだ」

( ^ν^)「……」

( ^ν^)「…」

( ^ν^)「…呪縛に等しいのさ」

105名無しさん:2020/06/19(金) 03:35:06 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「助かったわ、少なくともわたしは」

(゚、゚トソン「いつもと同じよ」

(゚、゚トソン「太陽が輝いているのと一緒」

(゚、゚トソン「意志とは無関係に、芽は出てしまうものなのよ」

(゚、゚トソン「蛍光灯に群がる小蝿と同じね」

(゚、゚トソン「嘘も本当も、紙一重なのよ」

106名無しさん:2020/06/19(金) 03:35:33 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「思わせぶりな行動と人を揺らす言葉」

(゚、゚トソン「…」

(゚、゚トソン「得意なのよ、慣れね」

(゚、゚トソン「淀みのない正しさが、ふさわしかったの」

(゚、゚トソン「…彼の隣は、私には少し窮屈だった」

(゚、゚トソン「こんなに細い体ですら、入りこめないくらいに、狭かった」

107名無しさん:2020/06/19(金) 03:35:57 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「あなたに頼んで正解だった」

(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン「今回も」

(゚、゚トソン「…」

(゚、゚トソン「彼はなんで、私に魅かれたんでしょうね」

(゚、゚トソン「やっぱり外観…なのかしらね」

(゚、゚トソン「いつの間にか出来上がってた器の形が、良かったからなのかしらね」

(゚、゚トソン「…」

108名無しさん:2020/06/19(金) 03:36:29 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「不毛ね、この思想」

(゚、゚トソン「外見に惹かれた無個性が、煩悶して、絆されて、撓んだだけ」

(゚、゚トソン「でも自己完結で、決着してくれた」

(゚、゚トソン「あなたのおかげで」

(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン「『あとくされなく別れてみせて頂戴』」

(゚、゚トソン「言葉通りで、頼んだ通りで、ありがとう」

109名無しさん:2020/06/19(金) 03:36:57 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「あいつだったから…余計な」

( ^ν^)「なぜならあいつは、疑問だらけな言葉と理由に、それらしい意味を与えられる」

( ^ν^)「実害が無い」

( ^ν^)「顔と同様に、人間性と同様に」

( ^ν^)「むかしっから、知ってるからな」

( ^ν^)「…」

( ^ν^)「『気持ち悪い』」

( ^ν^)「親共が言うのも分かる気がするぜ」

( ^ν^)「得体の知れねえモンと、悪を撒き散らすモン」

( ^ν^)「気持ち悪いだろうな……」

110名無しさん:2020/06/19(金) 03:37:23 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…」

( ^ν^)「……疲れた」

( ^ν^)「疲れたな…」

( ^ν^)「……なあ」

( ^ν^)「おしえてくれよ、俺に」

( ^ν^)「最愛の相手である、俺に」

( ^ν^)「お前は、あいつのことをどう思ってたんだ?」

111名無しさん:2020/06/19(金) 03:37:45 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…あいつは、悪くない外見だった」

( ^ν^)「ユーモアのセンスもあった」

( ^ν^)「性格は…まあ悪かったが、嫌悪するほどじゃ無かった」

( ^ν^)「会話も…聴いてる限りじゃ、楽しそうだった」

( ^ν^)「俺から離れる理由は、十分にあったはずだ」

112名無しさん:2020/06/19(金) 03:38:17 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「……なんで、なんだ…?」

( ^ν^)「俺は、俺自信同様に、てめえが分からねえ」

( ^ν^)「なんでお前は、あいつを振った」

( ^ν^)「なんでお前は、俺を振らなかった」

( ^ν^)「なあ……教えてくれよ」

113名無しさん:2020/06/19(金) 03:38:44 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「そんなの分かりきってることじゃない」

( ^ν^)「…」

(゚、゚トソン「ちゃんと全部、彼の態度が示してくれてたわ」

( ^ν^)「態度…だと?
あの仮面顔から、何が読み取れたって言うんだ?」

(゚、゚トソン「あなた、むかしっから彼のこと知ってるんでしょ?
なら答えは、自明の理じゃない」

114名無しさん:2020/06/19(金) 03:39:33 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「どういうことだ?」

(゚、゚トソン「表情に変化はなかった。
常に変わらない顔だった」

(゚、゚トソン「中性的で個性が無くて何考えているのか分からなくて、謎で異質な、人間とは異なる生物だと思えば納得しそうになる顔」

( ^ν^)「…確かに、違いねえが…」

(゚、゚トソン「だから、態度よ」

( ^ν^)「態度」

(゚、゚トソン「心情がまろび出てたのよ」

( ^ν^)「…?」

115名無しさん:2020/06/19(金) 03:40:20 ID:TPwRPwxI0




(゚、゚トソン「近づいてくる鼻が匂いを嗅ぐみたいにヒクついていた。
目線は身体中を舐めて品定めするみたいに不自然だった。
息使いは荒々しく、いつも興奮していた。
常に私の目をじーっと見ていた。
料理を頬張る私の唇と舌を凝視していた」




.

116名無しさん:2020/06/19(金) 03:40:44 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…」

(゚、゚トソン「見られてることくらい、分かるに決まってるじゃない」

( ^ν^)「…そうか」

(゚、゚トソン「楽しかったわ、とても、とても」

( ^ν^)「…」

(゚、゚トソン「楽しいわ、今も、これからも」

117名無しさん:2020/06/19(金) 03:41:08 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「こんなこと、言うのは変かも知れねえが…」

(゚、゚トソン「?」

( ^ν^)「あいつに、何か言ってやれるような言葉は……無いか?」

(゚、゚トソン「…」

( ^ν^)「救われねえあいつに、救いようのないあいつに…掛けてやれる言葉は……無いか?」

118名無しさん:2020/06/19(金) 03:41:40 ID:TPwRPwxI0


(゚、゚トソン「……」

( ^ν^)「……」

(゚、゚トソン「…」

( ^ν^)「…」



.

119名無しさん:2020/06/19(金) 03:42:30 ID:TPwRPwxI0









(゚、゚トソン「別に」

120名無しさん:2020/06/19(金) 03:44:59 ID:TPwRPwxI0

《Easy Love, Easy No》


( ∵)なぜなら鉄面皮だからのようです 終



.

121名無しさん:2020/06/19(金) 03:46:50 ID:TPwRPwxI0
以上になります。
好きな言葉を使いたくて書きました。
見苦しい点多々ございますが、ありがとうございました。

122名無しさん:2020/06/19(金) 15:37:01 ID:QSD4FXDc0
オツ

123名無しさん:2020/06/19(金) 23:56:44 ID:2cNkKua.0
キショい行動のわりに言動キョドらんの凄い

124名無しさん:2020/06/23(火) 14:53:55 ID:fpFkJ9o60
いいなあ、青春だわ



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