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( ∵)なぜなら鉄面皮だからのようです
24
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:40:03 ID:TPwRPwxI0
彼女のこういう部分。
赤裸々な告白に対しての、冷徹で冷めた対応。
自分は半ば本音で言ってるつもりなのに、それが通じない、生真面目且つ冷ややかな気質。
僅かに感じるすれ違いの感触と、心を揺らす軋轢。
僅かにすれ違う感情と、それを良しと思えない己の心。
この感じが、たまらない。
25
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:40:41 ID:TPwRPwxI0
いや、彼女にこんなことを言わせてしまった僕にも責任があるのだろう。
この話が嘘だと知ってるのは、この場には僕しかいない。
彼女はそれを知らないし、僕の変化の無い表情から真偽を読み取ることは不可能だろう。
僕の歪な感情は、それを無理して読み取れと強要している。
自分勝手な気持ち。
幼くて未熟な精神が起因する、押し付けがましい感情。
成長できない自分に過失がある。
自覚のある罪みたいなものだ。
表情に差分をつけず、他人に無頓着に生きてきた代償だ。
26
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:41:27 ID:TPwRPwxI0
僕は彼女を責めないし、彼女を責める権利なんて無い。
彼女の返答が妥当な当たり前の反応であることくらい理解しているし、責が自らの胡乱な発言にあることくらい分かってる。
分かっているのに心がモヤモヤするのは、自分の望んだ反応が帰ってこない事に対する、身勝手な憤りだろうか。
それとも、自分勝手な本音を押し込めて、当たり障りの無い返事が求められている現状に対しての反発心だろうか。
わからない。
わからないが、僕は純粋に彼女が好きだ。
分かっても分からなくても、どっちでも良い。
27
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:42:06 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「…」
(゚、゚トソン「…」
( ∵)「…いやー、参ったなぁ」
(゚、゚トソン「?」
とにかく今はこの雰囲気をなんとかしよう。
店の落ち着いた空気のせいもあって、重苦しさや気まずさが尋常じゃない。
しらけた空気がこんなに苦しいとは思わなかった。
ネタばらししてしまおう。
流れに身を任せ、軽い話題にシフトしよう。
気張って洒落た話に花を咲かせようとした僕が悪かった。
早く言え、嘘だと告白する時間が長引けば長引くほど、誤魔化し聞こえるぞ。
28
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:42:42 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「これ、実は友達の話なんですよ。」
(゚、゚トソン「はぁ?」
( ∵)「幼なじみのやつが彼女と別れたって言ってたんで、詳しく聞いたときに出てきたやつなんです」
(゚、゚トソン「…お茶を濁そうとしてるの?」
(;∵)「いやいや、マジですって! 同級生のニュッってやつですよ!
本人に訊けば真偽が分かりますから」
(゚、゚トソン「ニュッ君て確か、あのいつも眉間に皺寄せてる、感じ悪そうな人?」
29
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:43:23 ID:TPwRPwxI0
よし、先輩も食いついてきた。
あいつを犠牲にするのは少しだけ、本当に少しだけ心苦しいが、本人にバレなければ大丈夫だろう。
まず自分の口からこの話題が出ることはないし、先輩もあいつとは面識がなかったはず。
少なくとも自分の見ているところで、二人が話している姿は見たことがない。
それに、たとえバレたとしても殺されることはないだろう。
…うん、たぶん実力行使に出ることはないだろう。
大丈夫、大丈夫なはずだ。
このまま注文が届くまでの時間を埋められれば、任務完了、万々歳だ。
30
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:44:05 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「そうです、あのクソ野郎です。
話のオチは、金が無くてカメラ買えなかったから写真部に入れなかったっていう、なっさけねー理由なんですけどねっ」
(゚、゚トソン「…なんというか、意外っていうか、結構純粋な人なのね」
( ∵)「あいつ口も性格も悪いですけど、心根は腐ってないですよ。歪なだけです」
(゚、゚トソン「嘘なら嘘ってさっさと言ってよ。
私はビコーズ君のことを聞きたかったんだから」
( ∵)「ユーモアですよ」
(゚、゚トソン「似合わない」
( ∵)「こいつぁ手厳しい」
31
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:44:44 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「……特に理由なんて、無いんです。
今まで関心無かったジャンルだから、入ってみても良いかなって、思っただけです」
半分は本当の理由。
入部時に言った、そのままの言葉。
もう半分は都村先輩がいたから。
あの日、入学式の日に廊下で偶然見かけた都村先輩に一目惚れして、後をつけたら写真部の部室に入っていったのが見えたから。
先輩の外見に惹かれたから。
自分勝手だと思う。
恋愛感情とは程遠い、一方的な一目惚れ。
ただ近くにいることで、彼女を独り占めしたいという、支配欲ゆえの行動。
32
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:45:25 ID:TPwRPwxI0
性格なんてどうでもよかった。
思い通りにならなければ膂力にものを言わせて屈服させれる自信もある。
それをしない僕は、きっと優しい男なのだ。
自分の性格の悪さは、この上ないほど理解し尽くしている。
言いたいことは冗談に混ぜて茶化し、常におどけてみせる。
口からまろび出る虚言と本音は常に解離していて、いつの間にか僕は本音を話す時の表情を失った。
本当は本当、嘘も冗談も本当として他人に受け取られる人間になった。
33
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:46:20 ID:TPwRPwxI0
自分の本性を理解していながら変える努力ができずにいるのは、心のどこかで今の自分を受け入れているから。
世の中に順応した自分に、ある意味満足しているからだろう。
不満は無い、自分で選んだ道だから。
ただたまに、本当にたまに、少しだけ不自由に感じることがあるだけだ。
(♯^ν^)「お待たせしましたー、ジャンボパフェとパンケーキとホットコーヒーと、レアチーズケーキとアイスカフェオレになりますぅー⤴︎⤴︎」
だから僕が、態度の悪いウェイターの顔を見た時の驚嘆も、目の前の彼女には伝わらなかっただろう。
34
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:47:40 ID:TPwRPwxI0
※※※
( ^"ν^)「てめえどういうつもりだよモツ引きずり出すぞ」
ミートボールに箸を突き立てながらニュッが口を開く。
眉間に深いシワが刻まれていて、見るからに苛立っている。
( ∵)「ごめんよ、恋話したかっただけなんだって」
( ^ν^)「だったら俺の話じゃなく自分の話をしろや」
( ∵)「まともな恋愛なんて、したことないんだよ」
( ^ν^)「だからって、俺の話をてめえのことのように話さなくたって良いだろうが」
( ∵)「写真にまつわる恋愛談、お前のしか思い当たらなかったんだから仕方ないだろ」
35
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:48:34 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「そんなの適当に嘘ついて誤魔化せば済む話じゃねえか俺の恋バナ言う意味あったか? ねえよな?」
( ∵)「…嘘つくのは…先輩に申し訳なかったから……」
( ^ν^)「俺に対しての申し訳なさはないんですかねぇ? ナメてんの? バカにしてんの?
そのボーリング玉みてえな顔面引っぺがして目と口の位置逆転させてやろうか?」
( ∵)「止めてくれ、それはオレに効く」
( ^ν^)「……!」
( ∵)「止めてくれ」
36
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:49:21 ID:TPwRPwxI0
本当は、先輩の琴線に触れそうな話がニュッの惚気話と合致していたからだ。
口は悪いが、それなりに充実した人生を送っているこいつの話は面白い。
それは恋愛に限らず、人間関係や過去の経験、心理的な葛藤劇や人生論など様々な側面で、こいつは僕より圧倒的に人間として出来上がっている。
( ^ν^)「どうせお前に何言ったって無駄だからなぁ。
………あれが、言ってた先輩か」
( ∵)「うん?」
( ^ν^)「惚れた女、だろ。
いっこ上の、都村トソン」
( ∵)「美人だろ」
( ^ν^)「違いねぇが…」
( ∵)「?」
37
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:50:08 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「告白しないのか? 好きになって約半年、何回もデート行ってんだろ?」
( ∵)「デートって…一緒にカフェ行ったり飯食ったりしてるだけだろ」
( ^ν^)「それを世間一般的にはデートっていうんだよ童貞が」
( ∵)「お前もだろ」
( ^ν^)「童貞じゃねえよ。
女なんて、作ろうと思えばいつでもできるわ」
こいつは口も性格も悪いが、発言は大体が本当だから余計タチが悪い。
高身長で色白痩身、端正な顔つきで物静かなクセにユーモアのセンスがある色男。
おまけに頭も良ければ上っ面も厚い。
あらゆる意味で"できた"人間だ。
38
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:50:46 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「勝算…あると思うか?」
( ^ν^)「あ?」
( ∵)「告白の成功率だよ。上手くいくと思うか?」
( ^ν^)「普通に考えりゃ何度も二人でデート行ってんだし、いけんだろ」
( ∵)「…」
( ^ν^)「なんだよ、そんなことが気がかりだったのか? ちげえだろ、お前が気にしてんのは」
( ∵)「…なんていうか、会話がたまに噛み合わないんだ。冗談が通じないというか」
( ^ν^)「お前がつまんねぇだけじゃねえのか?」
39
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:51:21 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「それもあるだろうけど…」
( ^ν^)「表情筋鍛えろ。そんで冗談言った後に、豪快に笑えばいいんだよ」
( ∵)「ハッハッハッ」
( ^ν^)「似合わねぇな」
乾いた笑い声だった。
僕はこんな声だっただろうか。
抑揚も無く心の篭っていない、口先から出た空虚な音は、空気に解れて霧散した。
( ∵)「もし付き合えたとしてさ」
( ^ν^)「おう」
( ∵)「今の関係がどう変わるって言うんだ?」
( ^ν^)「ヤるだろ」
( ∵)「いや、そうじゃなくてさ」
40
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:51:54 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「体の相性って、お前が思ってるより重大だからな」
( ∵)「そうだろうけども…なんかそうじゃなくて……」
( ^ν^)「色んな意見があるだろうが…まぁ、恋愛感情が互いにあるかどうかだろ」
( ∵)「相手を思っての行動とか、言葉使いとか?」
( ^ν^)「そういう些細な変化全てな。お前の恋愛観がどんなもんか、俺は知らねぇけど」
( ^ν^)「相思相愛じゃなけりゃ、許されねえことが沢山あるんだよ」
41
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:52:29 ID:TPwRPwxI0
恋愛感情の有無とな。
先輩に寄せている感情は、愛おしさとか可愛らしいと思う気持ちとか、やや外見面に傾いている気がする。
かと言って内面を蔑ろにしているつもりはないし、彼女の人を振り回す性格も、たまに会話で生じる軋轢すら心地良いと感じられる余裕はある。
変な迷いが生じる前の現段階なら、僕は胸を張って彼女が好きだと、愛していると宣言できるだろう。
ならば彼女はどうなのだろうか。
僕の外見を好ましいと感じてくれているのだろうか。
内面のどうしようもなく情けない本性を、受け入れてくれるだろうか。
42
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:53:42 ID:TPwRPwxI0
自惚れだが、身長は平均以上で体型も比較的痩せ形、容姿も特段悪くない。
性格に関しては、ニュッ以上に腐っている自覚はあるが、それを先輩がどう捉えているのかは不明。
僕の本性がどこまでバレてしまっているのかも、表情に乏しい先輩からは読み取りづらい。
最も大きな気掛かりは、たまに生じる軋轢を彼女はどう捉えているか。
自己と明確に異なる側面を、興味を持って良く思ってくれているか。
或いは、改善すべき汚点として嫌厭しているか。
最悪の結果として、腐り切った愚劣で不潔な気質だと思われ蔑まれているのなら、告白の成功率は絶望的だ。
それでも
彼女はそんな残酷な発想を浮かべるはずがないと考えてしまうのは、この半年間で培った彼女の人間性への信頼感ゆえだろうか。
もしくは単純に、僕自身がそう思っていないと、苦しくて押し潰されるような面持ちだからだろうか。
43
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:54:40 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「俺から見た率直な感想だけどよ」
( ∵)「んあ?」
( ^ν^)「お前ら二人は似たもの同士だと思う」
( ∵)「表情のことを言ってんの?」
( ^ν^)「……そうだな。俺は都村先輩と話したことねぇから、どんな人なのかは知らねぇ」
( ^ν^)「けど、昨日見た感じ、あれは表情を"出さない"より"出せない"って感じがした」
( ∵)「俺が感情を表出できない人間だとでも?」
( ^ν^)「出せないだろ、お前」
44
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:55:27 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「…確かに、表情には出せないけども」
( ^ν^)「何年の付き合いだと思ってんだよ。
お前が感情表現苦手なことくらい知ってるわ」
( ∵)「でもあの人、俺といる時は表情豊かに話してるぞ?
唇尖らしたり、斜視になってみせたり、目蓋を思いっきり持ち上げてみせたり…」
( ^ν^)「ふーん……」
( ∵)「…おい、なんだよその哀れみの篭った眼差しは。
笑顔で半目開いてこっち見るなよ、気持ち悪い」
( ^ν^)「お前といる時は、あの人もそんなに表情豊かなわけか」
45
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:56:10 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「俺との時に限った話じゃないよきっと。同級生とか友達とかと話す時も、そうだろうし」
( ^ν^)「……お前、本当に鈍いよな。
自分の気持ちどころか、相手の気持ちすら分かんねえのか?」
( ∵)「それ逆じゃない? 自分の気持ちが分からないから、相手のことも分からないんだよ」
( ^ν^)「どっちでもいいわ」
( ∵)「つーか、お前こそどうなんだよ」
いい加減自分のことばかり訊かれるのも飽きてきたので、こいつに話の矛先を向けてみる。
昨日話題に出た元カノとそれからどうなったかとか、今は好きな人がいるのかとか。
46
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:57:31 ID:TPwRPwxI0
こいつ自身のことを、実は僕はあまり詳しく知らない。
人のことは根掘り葉掘り聞きたがるくせに、自分のこととなると途端に無口になる。
しかも彼はほとんどいつも聞き役に徹しているし聞き上手だったから、互いの役割を逆転させて質問する機会が滅多に無かった。
あったとしても、適当にはぐらかされてしまう。
( ^ν^)「…何が」
( ∵)「彼女だよ、もしくは気になる女」
( ^ν^)「いないって言わなかったか? それに今は作る気も無いって」
47
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:58:07 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「いないってことはないだろ。
うちの学校、可愛い子多いじゃん」
( ^ν^)「外見だけが人の価値じゃねえんだよ」
( ∵)「でも好きになる一端ではあるだろ? それともあれか、ブス専か?」
( ^ν^)「うるせえちげえよ死ね」
( ∵)「こわ」
( ^ν^)「…気になる女くらい、いるわ俺でも」
( ∵)「ほう」
( ^ν^)「…訊かねえのかよ」
( ∵)「えっ言いたいの?」
( ^ν^)「うっぜえ」
48
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:58:41 ID:TPwRPwxI0
敢えて訊かずに留めておくとして、こいつの場合はたぶん詰問しても教えてくれないだろう。
どうせ適当にあしらわれて茶化されるのがオチだ、無駄な言葉は出したくない。
それにしても、こいつにも気になる異性がいたと言う事実が驚きだった。
昔からモテるタイプの人間だったが、自分から誰かに興味を抱いたり、好意を持って接したりしない男だったから。
色恋には受動的且つ淡白で、自ら進んで愛さない色男。
一目惚れでもない限り、他人を好きにならないやつ。
幼稚園からの数少ない幼馴染みの一人だったが、彼が他人に興味を示している姿は記憶にほぼ無い。
他人から好意を寄せられる姿は、それこそ嫌と言うほど見てきたわけだが。
49
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 02:59:18 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「俺のことはほっといて、さっさと憧れの先輩とやらに告白しろや」
( ∵)「まーたそれかよ、もう話し切ったって」
( ^ν^)「いいから。
まずな、普通嫌いなやつと一緒に飯食いに行ったりするか?」
( ∵)「俺はよくお前と飯食いに行ってる」
( ^ν^)「どう言う意味だコラ」
( ∵)「そのまんまの意味だけど…まあいいか。本気で嫌いなやつとは、極力関わらないようにしてるよ」
( ^ν^)「そう、好きの反対は無関心だ。だが都村先輩はお前に無関心か? もしくは嫌な顔をされたか?」
( ∵)「いや、ないけども…」
50
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:00:03 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「悪口を言われたか? 無碍に恥ずかしがられたか?
……嫌いだと言われたか?」
( ∵)「……言いたいことは分かるけど、だからといって脈ありだと捉えるのは無理があるだろ」
( ^ν^)「ああ、この時点ではまだ不確定だ。
だが、ほぼ毎日顔合わせてんだろ?
しかも嫌な表情どころか感情豊かに。お前に対しては」
( ∵)「俺に限った話じゃないって、さっき言ったろ…クラスの同級生とか、友達にだって同じような対応してるだろうし」
( ^ν^)「つまりお前は、彼女の中で自分は友達の括りに当て嵌まる対応をされてるって認めるわけだな?」
51
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:00:48 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「…それくらいなら、認めるよ。
けど社交辞令の可能性だってあるだろ、同じ部活なんだし」
( ^ν^)「だがよ、俺は都村先輩がお前以外の男子生徒と話してる姿、見たことないぞ」
( ∵)「…いやいや、さすがにそれは無理があるだろ」
( ^ν^)「なら訂正だ。お前並みに親しく話している男を、見たことがない」
( ∵)「…」
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべてこちらの表情を伺ってくる彼から目を背ける。
こいつはこうやって、相手を追求することをこの上なく好む。
隠された事実を明るみに出す行為を至上の喜びとしている。
つくづく嫌なやつだと思うが、言ってる内容は正統性や説得力があるから困り物だ。
52
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:01:18 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「だからはっきり言ってやる。
告白しろ」
こいつの言葉には力がある。
前後の発言内容を布石にして、根拠付きの論説じみた言葉を吐くからだ。
彼の明晰な頭脳には脱帽だ、素直に憧れる気持ちすらある。
考えなしに会話していたら、たとえどれほど賢い人間であっても論破されてしまいそうな気迫を感じる。
彼の性質は幼い頃から理解している。
だからこの発言が、彼なりの不器用な激励の言葉であることも、頭では分かっているのだ。
ただ、この時の僕はまだ、彼の言葉に負けて自分の行先を他人に委ねたくなかった。
自分のことは自分で決める。
53
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:01:41 ID:TPwRPwxI0
たぶん彼の言う通り、都村先輩は僕を嫌ってはいないだろう。
どちらかといえば好意的な感情を抱いてそうな様子も分かる。
でも、それでも、一抹の不安が頭を掠めているのだ。
些細な会話の縺れ。
どこからが本音でどこからが偽りなのか。
それにどうやって気づけばいいのか。
僕はそればかりに意識を向けていた。
少なくとも自分の中でだけでも、答えを見つけなければいけない気がする。
本音をぶつけるのは、その後だ。
それに…
54
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:02:08 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「…」
( ^ν^)「なーに、フラれた時は笑ってやるよ」
( ∵)「…まだ、そういう気持ちにはなれないんだよ」
( ∵)「もう少しだけ俺は、この関係でいたいんだ」
( ^ν^)「…急かしやしねえが、あんな美人だし、彼氏ができんのも時間の問題だろ。
分かってんのか?」
( ∵)「分かってるとも」
( ^ν^)「本当に、か?」
55
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:02:30 ID:TPwRPwxI0
妙に鬼気迫る様子が普段の彼と異なる雰囲気を醸していて、僕は思わず口を噤む。
何が彼をここまで本気にさせているのか、どうしてわざわざ念を押してまで確認する必要があるのか。
いつも通り茶化して誤魔化してしまえばよかった。
冗談と本音を混ぜ合わせた生返事をして、殺伐とした雰囲気を拭い、あしらってしまえれば良かったのだ。
それが最良の選択だと、僕の心が告げていた。
それなのに。
それなのに僕は。
( ∵)「……」
何も言えず、彼の顔を眺める事しかできなかった。
56
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:03:05 ID:TPwRPwxI0
※※※
(゚、゚*トソン「いやぁ、久々の焼肉ですねぇ」
頬を紅潮させてはしゃぐ先輩の目の前には、網の上で燦々とその身を光らせている数多の肉。
特上カルビから滴る肉汁が炭火に吸い込まれ、油が弾ける瑞々しい音とともに食指を誘う香りを漂わせる。
食べ放題のシステムに則り、自分達で好きな物を好きなように食べ始め既に40分は経過している。
僕自身はもう腹八分目に達しつつあるのだが、先輩の消費速度は現在進行形で加速している。
際限なく肉を頬張り続ける姿を見ているだけで、こちらとしてはお腹いっぱいだった。
57
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:03:32 ID:TPwRPwxI0
喫茶店でニュッのやつとばったり会ってから、約一週間ほど経過している。
今日は今週に入って三度目の、放課後はしご焼肉だった。
先輩はニュッがバイトしている喫茶店が大層気に入ったらしく、あの日以降、毎日足繁く通い続けている。
僕としても幼馴染みがバイト先で散々働かせられている様を見るのが楽しかったし、あいつを顎で使う快楽にも浸っていた。
それに、腐れ縁とは言え親友に、自分の伴侶となりうる人物と仲良くしている様子を見せつけ自慢するのも、低俗ではあるが心地良かったのだ。
58
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:04:16 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「何回みても、ありえないような食べ方をしますよね、先輩は」
(゚、゚トソン「ありえないとは失礼な。
美味しいお肉が食べ放題なのよ! たくさん食べたもん勝ちよ」
( ∵)「もう腹一杯ですし…僕の分も先輩が食ってるし、元取れてるじゃないですか。
もう十分ですよ」
(゚、゚トソン「食べ放題は己との戦いなの。
胃を圧迫する感触を克服した先に、真実が待ってるのよ」
( ∵)「何意味わからない事言ってるんですか…。
さっき喫茶店で、ホールケーキを平らげたばっかですよね?」
(゚、゚トソン「デザート類は別腹なのよ」
59
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:04:39 ID:TPwRPwxI0
本当に、どこにそんなに詰め込む余裕があるというのだろうか。
先輩は今週に入ってから、今までにも増して食欲が増進している。
普段なら、水曜日の時点で焼肉が三度目になることなんて無かったのに。
しかも今はテスト期間中。
先輩がいくら優秀だとしても、勉強時間を削ってまで運動する時間を確保するとは思えなかった。
短絡的に考えれば、運動だけでこんな痩せるとは思わない。
摂取量が圧倒的に消費カロリーを上回っているからだ。
胃下垂のように、食べても太らない体質なのだろうか。
60
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:05:01 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「先輩って食べても太らないんですか?」
(゚、゚トソン「太ってるから困ってるんじゃない。
いきなり何? 嫌味?」
( ∵)「いやもうそのネタはいいんで」
(゚、゚トソン「…まだ目標体重を達成してないだけよ」
(;∵)「はぁ? そんなにガッリガリだってのに、一体何キロまで痩せるつもりなんですか」
(゚、゚トソン「まずは25kgね」
(;∵)「……」
(゚、゚トソン「あとちょっと」
( ∵)「…………」
(゚、゚トソン「…茶化しなさいよ、冗談なんだから」
61
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:05:26 ID:TPwRPwxI0
荒唐無稽な発言なのに、先輩が言うと冗談に聞こえなかった。
話の流れ的に考えれば、ふざけているのは分かりきったことではあったのだが、ずっと前から感じている不安感が如実に現れたのだ。
痩せすぎていること。
世間一端的に言う"痩せてる"の標準から一回りくらい逸脱した体型。
肉が削げ落ちて、骨の形に皮が張り付いている二の腕。
つぶらな瞳と言えば聞こえ良いが、金壺眼で落ち窪んだ眼窩。
極めて病的な痩せ方なのだ。
こういう話題はなるべく避けるべきなのかもしれないが、敢えて地雷を踏んでみるのも一興。
爆弾かと思っていたらただの勘違いだったなんて、よくある話だ。
一抹の不安なんてさっさと拭い去るに限る。
変に気を使いたく無いし、不必要な地雷を設定したくない。
62
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:06:02 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「…あれですか、胃下垂とかって言われてるやつ」
(゚、゚トソン「病院に行ったこと無いからよく分かんないんだけどね、なーんか太りにくい体質みたい。
家族みんなそうなのよ」
( ∵)「なんだ、てっきり拒食症にでも罹ってるのかと思いましたよ」
(゚、゚トソン「ネタだからこそ、笑って話せるのよ」
( ∵)「その顔、笑ってるつもりなんですか?」
(゚、゚トソン「もっちろん」
( ∵)「…」
(^、^トソン「ニコニコ」
(;∵)「!」ゴエッ
63
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:06:25 ID:TPwRPwxI0
少なくとも嘘をついているようには見えないが、基本的に表情豊かな人ではないので真意は測りづらい。
それでも本人が冗談だと言っているのだから、たとえそれが真だろうと偽だろうと、下手に詮索する利点は少ない。
( ∵)「ってか、なんか今週は焼肉サイクル早くないですか?」
(゚、゚トソン「あら、そうかしら?」
( ∵)「いつもは月・水・金みたいな感じじゃないですか。
なのに今週は月・火・水って3日連続で食ってますよ。本当に痩せる気あるんですか?」
(゚、゚トソン「うーん…痩せたいんだけどぉ……最近食欲が止まらないのよねぇ…」
64
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:06:46 ID:TPwRPwxI0
普段から常人の数倍もの食欲を有しているとは思うが、わざわざ口には出さない。
寧ろ彼女が食欲を無くしている姿は見たことが無いし、思い浮かばなかった。
どんな時でも料理の話題は異常なまでに食いつきが良いし、そういう時の表情は明るく楽しげだ。
今更、自身の常軌を逸した食欲に疑問を感じるほうが不自然だ。
( ∵)「いつものことじゃないですか」
(゚、゚トソン「いつも以上に、なのよ」
( ∵)「なんか、あったとか」
(゚、゚トソン「…よくわからないんだけど、体の内側を何かで埋めたい欲求というか」
( ∵)「?」
65
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:07:09 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「喪失感?
失った覚えなんてないのに、虚しい気持ちになるのよね、最近」
( ∵)「季節の変わり目は、精神的に不安定になりやすいっていいますね」
(゚、゚トソン「不安定にはなってないのよ。むしろなんだか浮かれた気持ちなの」
(゚、゚*トソン「これから何か良いことが起きそうな予感がして、それが待ち遠しい気持ちなのよね」
( ∵)「喪失感とは…」
(゚、゚トソン「これから手に入るべきものが、まだ手に入ってないからよ」
( ∵)「皮算用じゃないですか」
66
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:07:30 ID:TPwRPwxI0
捉え所が無いのは以前からの彼女本来の気質だったが、今回ばかりはまるっきり意図が掴めない。
理解しようと必死に手を伸ばしているのに、掴もうとすると掌からスルリと逃げてしまう。
雲のような会話。
実態が掴めない。
よく分からない気質こそが彼女の本性なのだと結論を下したい。
未知というものは、それはそれで面白いのだ。
一方、掴めないところにある彼女の本質を把握したい気持ちもある。
もっと、もっと、彼女の感情を見てみたい。
まだ僕にひけらかしていない、彼女の秘密の花園を覗き見たい。
今の僕は、その欲望の方が強かった。
67
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:07:56 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「好きな人でもできたんですか?」
なるべく気怠く素っ気なく、あっけらかんと質問する。
返答次第で吉とも凶ともなる、ある種核心に迫った言葉。
たぶん僕は真面目な返事なんて期待してなかったのだろう。
戯けて嘲笑する先輩の顔を頭に浮かべながら話しかけていたのだ。
また新しい表情を垣間見れるかもしれないという淡い希望と、自分から彼女に向けた愛着心の確認作業。
いや、でも本当は。
僕の本当の気持ちは。
68
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:08:42 ID:TPwRPwxI0
この質問で僕が最も求めていた解答は、僕自身の登場だった。
彼女の好きな人として、自分が選ばれることを期待して尋ねていた。
好きだから。
懇ろになりたいから。
(゚、゚*トソン「……もしかしたら、これが恋ってやつなのかもね」
(;∵)「……はい?」
彼女は今、恋と言ったか?
好きな人がいると、赤裸々に告白したのか?
この状況、僕と彼女しかここにいない現状で、『私は恋をしている』とおっしゃられた…のか?
いかん、頭が混乱して思考が支離滅裂に錯綜している。
69
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:09:07 ID:TPwRPwxI0
待て待て落ち着け、誰も『お前のことが好きだ』とは言ってない。
二人きりの状況なんだから、愛の告白だとしたらストレートに言ってくる方が自然な流れではないだろうか。
…そうか、だとしたら、そういうことか。
つまり、彼女が恋い慕っている人物は、僕ではないと遠巻きに告げている、ということか。
…………。
(゚、゚トソン「最近、その人の顔とか表情とかが、頭から離れないのよねぇ」
( ∵)「それマジで恋じゃないですか。
先輩にも、そんな感情あったんですねー」
70
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:09:50 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「失礼な、私にも甘酸っぱい記憶の一つや二つや、三つや四つや……ちゃんとあるのよ。
ビコーズ君、本当に何も知らないのね」
( ∵)「先輩が言ってないことを僕が知ってたら、それはそれで気持ち悪くないですか?」
(゚、゚トソン「そうね。君、感情無さそうだし」
( ∵)「表情に乏しいだけですから」
( ∵)「ていうか恋って、誰ですか? 相手」
(゚、゚*トソン「ん〜??」
( ∵)「ニヤニヤしてないで、なんとか言ってくださいよ」
71
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:10:22 ID:TPwRPwxI0
僕はさっきから何を話しているんだ?
会話の流れを汲んだ勢いに任せた発言内容は、脊髄反射的に繰り出された空虚な羅列に過ぎない。
自分が何を喋っているのか、何を訊こうとしているのか。
会話を止めると変に誤解されかねない危険性から、保身のために反射で出る言葉が、まるで僕の口から出たとは思えないほどに虚ろだった。
こちらを茫然と眺める落ち窪んだ先輩の相貌。
さっきまで、喋りながらも怒涛の勢いで肉を頬張っていた箸を彼女は止めていた。
僕は焦って食べた生焼けの玉葱が思った以上に辛くて、涙を滲ませる。
72
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:10:42 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚*トソン「…知りたいー?」
扇状的な眼差しだった。
顔の全対比的に大きすぎる瞳は、人によっては不気味に見えるだろうけども、僕にとっては蠱惑的で唆る眼だった。
ふつふつと湧き上がる期待と、そそり立つ絶望の壁。
真実はどっちだ。
気になる。
とても気になる。
気になるが、しかしここは。
( ∵)「どーでもいいです」
本音とは相反する不本意な言葉の方が、彼女に対して作ってきた僕のイメージに相応しいだろう。
73
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:11:13 ID:TPwRPwxI0
基本的に冷めた態度と軽いフットワークで、中身の無さそうな人間性を示せば良い。
楽観的で下らない冗談ばかり嘯くやつだと、刷り込んできたイメージ通りの会話を続けることが正解だ。
本音に嘘をついたところで、僕の心は動かない。
良心なんて欠片も無い。
あるのは彷徨く外套と、他人の中で生きる自己の生存本能だけ。
(゚、゚トソン「えー? この流れなのに、訊かないの?」
( ∵)「焦らしてるんですよ、実が熟すのを」
(゚、゚トソン「うわ、気持ち悪っ。
JKの前でそんな言葉使うと普通に引かれるから、辞めときなよ? 痛い目見るよ」
( ∵)「……」
もう十分見てますよ、先輩……。
74
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:12:24 ID:TPwRPwxI0
※※※
( ^ν^)「…お前、ほんっっとうに暇人だよな。
毎日放課後デートするしか能がねえのか? もっと生産性のあることしろよ低脳」
嫌なやつと出会ってしまった。
都村先輩と焼肉に行った帰り、帰路の駅で偶然バイト終わりのこいつと遭遇した。
僕の顔色が普段以上に青白いことを面白がり、茶化しに来たこいつと仕方なく一緒に歩いている。
田舎の同じ地区に住んでいるので家は近所だ。
僕の両親は彼の家族が嫌いだし、彼の両親は僕の家族が嫌いだ。
親に理由を聞いて見ても、"なんとなく気味が悪いから"としか言わない。
彼にそれとなく、彼の両親がどうしてうちの家族を嫌っているのか訊いてみたら、向こうも同じく"気持ち悪いから"と言っていたらしい。
75
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:12:47 ID:TPwRPwxI0
家族間の仲の悪さなど関係無く、僕たちの縁は続いている。
腐れ縁を切ることすら面倒くさいし、窮屈に感じるほど鬱陶しいわけでもない。
それに、彼のことは案外信頼している。
性格の悪い者同士、互いになんとなく通じる部分があるから。
自分の背よりも何倍も高い背丈の広葉樹が、水気の失せた茶色い葉っぱを散らしている。
蟋蟀の物悲しい鳴き声が、秋の澄んだ空気に木霊している。
少し前まで山並みは色鮮やかに染まっていたのに、今はもう見る影もない。
たとえ紅葉が残っていたところで、等間隔で道を照らす街路灯しか明かりがないのだから、確かめる術は無い。
76
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:13:28 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「先輩を眺めることが、今の僕の生きがいなんだよ」
( ^"ν^)「クソ気持ちわりいな虫唾が走る」
( ∵)「気分悪いの? 二日酔い? 吐く?」
( ^ν^)「てめえの顔面に吐いてやろうかクソ野郎」
( ∵)「バイト終わりだからって殺伐としすぎだろ」
( ^ν^)「俺が一生懸命バイトしてる時に彼女でもねぇ女侍らせてヘラヘラしてる奴がいれば、誰だって腹立つだろうが」
( ∵)「なんだよただの八つ当たりかよくっだらねぇ死ね」
( ^ν^)「うるせぇ」
77
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:13:56 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「冗談はさておき、何で俺はお前に歩幅を合わせなくちゃいけないんだよ。
疲れたしさっさと帰って眠りたいんだけど」
( ^ν^)「遊んでるだけの癖に疲れたとか抜かしてんじゃねえよ。
いい加減気になってんだよ、お前らが何でくっつかねえのか」
( ∵)「だーかーらー、今日の焼肉での会話は何回も言っただろ? 脈ないよ、アレは」
( ^ν^)「お前の偏見だらけの意見なんて訊いてねえんだよ。
客観的に見れば十分狙える立場だってことを自覚しろや」
いつもにも増して口調が荒いのは、やっぱり疲労が溜まってイライラしているからだろうか。
他に要因があるとすれば僕の存在なのだと思うが、僕だって好き好んで一緒に帰っているわけではない。
彼が引き止めたからこうして嫌々二人で歩いているのに、なぜ引き止めた本人に延々と嫌味を言われなければならないのか。
78
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:14:54 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「俺が目の前にいるのに、頭から離れない人を『その人』って三人称で呼んでるんだぞ?
僕のことがもし好きなら、直接言えばいい話じゃないか」
( ^ν^)「女は思わせぶりな行動をしたがるもんだが…その先輩とやらは、告白するよりされたい人間なんじゃねえのか?」
( ∵)「どういう意味だ?」
( ^ν^)「自分から言う勇気が無いんじゃなくてよ、他人の口から言わせることで自分の優位性を保ちたいタイプってやつ」
( ^ν^)「人に求められることが当たり前で、自分の価値が高いことを常識のように考えてる輩ってやつ」
( ∵)「あの人は確かに自惚れ屋でナルシストだけども…何なの?
お前は先輩のことが嫌いなの?」
( ^ν^)「なわけねえだろ」
79
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:15:46 ID:TPwRPwxI0
やけにキッパリと否定するのは何故だろうか。
悪口のつもりで発言したのではなく、僕から聞いた先輩の話や喫茶店での様子などから、正当な批評を下した気でいるからだろうか。
( ∵)「やけにハッキリ否定するな。
お前もしかして、先輩に気があるのか?」
( ^ν^)「美人だとは思うが、話したことない奴に恋愛感情抱くほど、俺は器用じゃねえ」
( ∵)「お前昔っから不器用だもんな。
もしかしてまだ紙ヒコーキ作れなかったりすんの?」
( ^ν^)「…」
( ∵)「いや否定しろよ」
( ^ν^)「…作れなくても、別に困らねえだろうが……」
( ∵)「…」
( ^ν^)「…」
( ∵)「…なんかごめん」
( ^ν^)「惨めな気持ちになるから、謝んじゃねえよ…」
80
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:16:23 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…話は逸れたが、俺が強く否定する理由は、あの人はお前と違って嫌な感じがしない気からだ」
( ∵)「なにそれ。
よくわからないし、少し傷付く」
( ^ν^)「嫌な感じがしないってのはやや語弊があるが……。
そうだな、オレとまるっきり違う空気ってやつ? を感じんだよ」
( ∵)「自分と…違う空気…」
言ってることは、なんとなく分かる、ような気がする。
僕自身、彼女と何度も会話して、僕らは根本的な部分が全く似ていないと感じることがよくある。
表面的には気の合う先輩後輩の関係だが、腹の底では異質な思いを抱えている。
81
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:16:55 ID:TPwRPwxI0
端的に言えば、彼女は自信家だ。
対して僕は、自分に自信が無い。
盲目的に自分を信じているような、不穏な自己肯定感に満ちている人格の持ち主。
心の中で他人を否定して、自己の優位性を確保しているような感じが、会話から見え隠れしている。
それを、嫌な感じがしないと捉えるのは、いささか無理があると思うが。
控えめに見ても、悪意が溢れている人物を擁護する理由は、やはりよく分からない。
自分と違うからといって、なぜ擁護するのか。
82
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:17:24 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「俺は自分の性格の悪さを自覚しているが、あの人はそれを真逆に捉えていそうな節がある……。
平たく言えば、盲信だな」
( ∵)「それ、単純に自惚れ屋で性格が悪いやつってことにならない?」
( ^ν^)「自信があるからこそ自己を保てる余裕があるって人もいるだろ。
まあ、でも……あの人の場合は、ちょっと違う気がすんだよ」
( ^ν^)「なんつーかな……汚れを知らない純粋な感情っていうか」
( ∵)「それが悪だと、微塵も思ってないみたいな?」
( ^ν^)「近い」
83
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:17:57 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「それ、とびきり最悪じゃないか」
( ^ν^)「無垢な心ってイメージなんだよ。
子供が無邪気に駆け回っている姿を見ても、嫌な感じはしないだろ?」
( ∵)「その例えなら、理解できなくないけども…。
無邪気ねぇ……」
僕にとっては、彼女が邪気だろうが無邪気だろうがどちらでも大差ないように感じた。
自分の主観的な感情は他人の目には映らないし、自分が対象を客観視した時に抱く印象が、相手のイメージを作ることになるから。
簡単に言えば千差万別。
全部が全部、嘘八百の演技だとしても、それを徹底して貫き通せば僕の中での彼女は"良い人"になる。
84
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:18:25 ID:TPwRPwxI0
演技を続けてさえいてくれれば、僕は彼女を好きなままでいられる。
……。
演技…なのだろうか。
表出している感情が、彼女の素だと思っていたい。
僕の不安の正体は、彼女の本音が分からないからだろうか。
ニュッが先輩に抱いた印象は、彼女の感情表現は悪意から生じる自信や自惚れではなく、白紙の心がありのまま出ているといったものらしい。
彼はやっぱり、心根は悪いやつじゃない。
85
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:19:02 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「なぁ…彼女いたときとか、相手の気持ちとかって分かるものなの?」
( ^ν^)「なんだよいきなり、んなこと普段考えねえよ。
なんとなく察するくらいなら出来るが……心情を具体的な言葉としては、分からねえな」
( ∵)「やっぱり分からないのか」
( ^ν^)「分かるわけねえだろンなもん」
( ∵)「…」
( ^ν^)「だから声に出してくれた言葉を俺は信じる」
( ∵)「声…」
( ^ν^)「いちいち疑うのが面倒なのもあるが、愛し愛された女の言葉を、信じてやれなきゃ彼氏は務まらねえんだよ」
86
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:19:29 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「男前だなぁ」
( ^ν^)「お前、惚れた女の言葉くらい、信じてやれよな」
( ∵)「僕が先輩の言葉を疑ってると?」
( ^ν^)「言葉というか、それが意図してる意味だ。
てめえはそれを邪なモンだと、思い込んでんだろ」
( ∵)「……」
否定できなかった。
87
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:19:52 ID:TPwRPwxI0
僕は彼女の言葉が意味する真意を、他人を貶め蔑むためのものだと考えていた。
彼女の外見に嵌まり込み、自分の気に食わない性格に蓋をして、僕と先輩の心情の差異に無茶な好意を寄せている。
それは、彼女本来を、好んでいないのと全くの同義で。
僕が必死に抑えていた劣情を、暴かれ否定されているのと同様で。
( ^ν^)「教えろよ、一体あの人のどんな言葉が癪に触るんだ?
普通の女子高生が普通に言う下らない冗談と、どう違うんだ?」
( ∵)「……」
やめてくれ。
頼むからもうそれ以上、言わないでくれ。
蓋した心理を暴かないでくれ。
88
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:20:18 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「…うるせー……」
( ^ν^)「お前、好きだ好きだといっておきながら、毎日顔合わせて楽しそうに会話しながら、腹の底では見下してんのな」
なんでこんな話になったんだ。
どこから流れが狂ったんだ。
僕はこいつに否定されたかったのか。
自分の心に嘘を付いた自分自身を、否定されたかったのか。
( .)「……」
( ^ν^)「気に入ったのは外見だけで、話して分かった性格は、性悪だと決めつけてんだろ」
( .)「……」
89
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:20:58 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「顔やら体型やら匂いやらに惹かれて一方的に惚れて、話して分かった性格が気に食わねえから、都合の良いとこだけ好きだって言ってんだろ」
彼の顔が、表情が見れなかった。
僕を見透かす彼の言葉だけが、ただ、心に突き刺さってゆく。
彼の正論が、苦しくて、苦しくて。
否定したいのに、それはどこまでも真実で。
( ^ν^)「お前、あの人のこと、嫌いだろ」
その言葉を聞くや否や、僕は駆け出していた。
彼から逃げ出したくて。
自分の気持ちを認めたくなくて。
蟋蟀の鳴き声は、いつの間にか聴こえなくなっていた。
90
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:21:35 ID:TPwRPwxI0
※※※
(゚、゚トソン「ビコーズ君、どうかしたの? 最近ずっと顔色悪いけど」
( ∵)「なんでもないですよ、ちょっと寝不足なだけです」
(゚、゚トソン「……」
( ∵)「…なんですか、じっと見て。僕の顔に何か付いてますか?」
(゚、゚トソン「いや…元気なさそうだなって、思って」
( ∵)「否定は、しませんよ」
(゚、゚;トソン「う〜ん…」
91
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:22:03 ID:TPwRPwxI0
帰路でニュッに詰問されて以降、僕たちの関係は意外と変化していない。
休み時間や昼食時は他愛もない会話を繰り広げ、放課後は毎日彼のバイト先の喫茶店へ通っている。
何も変わらない日常を、続けている。
ただ、あの日以降僕たちの間で、先輩の話題は出なくなった。
僕自身がそれを避けて話していることもあるだろうが、彼の口から彼女が出ることが全く無くなった。
僕があまり元気が無いのは、なんで先輩の性格が好きになれないのか分からなかったから。
外見だけは、本当に誰よりも好きなのに。
それと、彼女が恋をしているだろうということ。
その相手が、おそらく彼だろうと分かったこと。
雑然とした感情が複雑に絡まりあって、僕を蝕んでいた。
92
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:22:29 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「…ニュッ君と、なにかあったの?」
どうしてそう思うのだろうか。
先輩の頭の中が、彼のことでいっぱいだからだろうか。
( ∵)「なんで、そう思うんです?」
(゚、゚トソン「2人とも仲良いじゃない。
だからもしかしたら…って思って」
( ∵)「幼馴染みですけども、別に友達があいつしかいないわけじゃ、ないですよ」
適当に話して楽しい友達は何人もいる。
信頼している昔からの友人が、彼しかいないというだけの話。
93
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:22:56 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「…そういえば、先輩の方こそどうなんですか?」
(゚、゚トソン「どうって…なんのこと?」
( ∵)「恋とやらの、進捗ですよ」
もう、考えることが面倒くさい。
最初から、得るものも失うものも何も無いのだから、彼女にどう思われようがどうでも良くなっていた。
(゚、゚トソン「…それ、覚えていたのね。
なんか意外というか」
( ∵)「先輩から色恋沙汰聞いたの、それが初めてでしたからね」
(゚、゚トソン「ビコーズ君って、そういうの関心無いと思ってた」
( ∵)「………、僕にだって、感情くらいありますよ。顔に出すのが、苦手なだけです」
(゚、゚トソン「…」
94
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:23:22 ID:TPwRPwxI0
嘘だ。
今の僕には具体的な感情はほとんど何も宿っていない。
今に限った話でも、無かったかもしれない。
僕には人の気持ちが分からないから、自分の気持ちも把握できていないのだ。
だから彼女が今何を逡巡しているのか、僕にまるで解らない。
わからない。
(゚、゚トソン「…その人に、告白しようかなとも思ったんだけどね…もう少し待ってみようかなって」
( ∵)「ほうほう…それはまた何故ですか?」
彼女は告白するより、されたい女だから。
自尊心を保つために、他人からの羨望や愛情が必要だから。
95
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:24:03 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「その人ね、私のことチラチラ見てるのよ。
本人は気付かれないようにしてるんでしょうけど、見られてる側からすれば、バレバレなのよね」
( ∵)「へぇ…よく見かける人なんですね」
(゚、゚トソン「ほとんど毎日顔合わせてるわよ。
話したことは、ないけどね」
彼女の顔は相変わらず表情に乏しかった。
それでも、声色が上ずっていて饒舌になっていることは分かる。
楽しそうだった。
96
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:24:26 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「話したことなくても、好きになれるモンなんですか?」
(゚、゚トソン「一目惚れって、いうのかしらね。
顔が好きなの、タイプなのよ」
( ∵)「ほうほう」
(゚、゚トソン「外見から入る恋愛が、好きなのよ。
心とかいう見えないものなんて、信じられないじゃない」
( ∵)「…分からなくも、ないですね」
ああ、そこだったのか。
僕が彼女と話していて楽しかった理由は。
考え方が近かったんだ。
彼女の性格が嫌いな理由もまた、同じだ。
同族嫌悪だったんだ。
97
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:25:06 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「唯物主義ってやつですか?
目に見えるものしか信用できないとかいう」
(゚、゚トソン「そうね。私にとっては、外見が一番なのよ。
相手がどんなに素敵で純情で、話していて楽しい人だとしても、顔が好みじゃなければ論外なの」
( ∵)「はあ…」
(゚、゚トソン「それが異性の親友であっても、どれだけ私を好いていても、自分の時間を割いてまで話し込んでくれたとしても、その人のことを好きになれないのよ」
( ∵)「……」
98
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:25:38 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「勿論、顔が無理でも話して面白い人はいるわ。
良い人だと思うし、好きになってあげたいとも思う。
けどね、できないの。生理的に受け付けないの、そういう人のこと」
( ∵)「…」
彼女の唐突かつ怜悧な声が、僕を貫く。
内臓を鷲掴みにされて、脳を優しく撫でられているような声色だった。
気持ちが悪いのに、何も言う気が起こらなかった。
不快な響きだった。
僕に向けて釘を刺す言霊を帯びていたから。
僕に直接向けられている言葉に聞こえたから。
99
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:26:08 ID:TPwRPwxI0
いや、僕に向けて言っているのだろう。
その事実を必死に否定しようと精神が総動員しているのだ。
( ∵)「……先輩、怖いですね」
(゚、゚トソン「そうかしら?」
( ∵)「こわいですよ。
だってそれって、付き合ってない仲良い男子全員の存在を、否定して見下してるって言うのと同じじゃないですか」
(゚、゚;トソン「あー……そういう風にも、とれちゃうのね……」
100
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:26:44 ID:TPwRPwxI0
( ∵)「言葉なんて無意味で、相手の性格なんて自分の頭の中で作り上げてしまえば良いって言ってるのと同じですよ」
(゚、゚;トソン「いや〜、流石にそこまで酷なことは言わないけどねー」
彼女は本当に、本当に純粋な表情で項垂れていた。
そんなこと言うつもりじゃなかったと言わんばかりの様子で、演技だとは思えなかった。
無垢で無邪気な、幼い子供の顔だった。
101
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:27:30 ID:TPwRPwxI0
彼の発言が分かった気がする。
でも僕は、たぶん無邪気な子供が意味を理解せず行動する様を見て、不快感を募らせることができる人間だと感じた。
無邪気に虫を潰す子供を睨み付けることが出来る。
壮年のサラリーマンに「ハゲー!」と言う子供の足を躓かせることに躊躇しない。
道路に飛び出してきた言葉に「ぶち殺すぞ」と怒鳴れる。
この瞬間から彼女に向ける感情は、蔑みと哀れみと、稀に苛立つこと以外、持てなくなってしまった。
失恋だった。
102
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:33:28 ID:TPwRPwxI0
※※※
( ^ν^)「……なあ」
( ^ν^)「……」
( ^ν^)「…」
( ^ν^)「……これで、良かったのか……?」
( ^ν^)「…俺の心は、元々無かった良心に苛まれてる」
( ^ν^)「自分がなんでこんなことをしちまったのか……こんなことを選んじまったのか」
103
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:34:05 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「後悔は…無い。
俺が出来る限りの醜悪を詰め込んだんだ…しっかり折った手応えがある」
( ^ν^)「これ以上想えないように、考えられないように…苦しまないように……」
( ^ν^)「…ハッ。全部言い訳さ、気取ってるだけだ」
( ^ν^)「はなっから分かっていたのさ」
104
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:34:33 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「苦慮、鬱屈、哀愁、忘我」
( ^ν^)「お前はきっと、蛇蝎なんだろう」
( ^ν^)「反対だからこそ、磁石は引き寄せ合うんだ」
( ^ν^)「……」
( ^ν^)「…」
( ^ν^)「…呪縛に等しいのさ」
105
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:35:06 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「助かったわ、少なくともわたしは」
(゚、゚トソン「いつもと同じよ」
(゚、゚トソン「太陽が輝いているのと一緒」
(゚、゚トソン「意志とは無関係に、芽は出てしまうものなのよ」
(゚、゚トソン「蛍光灯に群がる小蝿と同じね」
(゚、゚トソン「嘘も本当も、紙一重なのよ」
106
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:35:33 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「思わせぶりな行動と人を揺らす言葉」
(゚、゚トソン「…」
(゚、゚トソン「得意なのよ、慣れね」
(゚、゚トソン「淀みのない正しさが、ふさわしかったの」
(゚、゚トソン「…彼の隣は、私には少し窮屈だった」
(゚、゚トソン「こんなに細い体ですら、入りこめないくらいに、狭かった」
107
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:35:57 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「あなたに頼んで正解だった」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「今回も」
(゚、゚トソン「…」
(゚、゚トソン「彼はなんで、私に魅かれたんでしょうね」
(゚、゚トソン「やっぱり外観…なのかしらね」
(゚、゚トソン「いつの間にか出来上がってた器の形が、良かったからなのかしらね」
(゚、゚トソン「…」
108
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:36:29 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「不毛ね、この思想」
(゚、゚トソン「外見に惹かれた無個性が、煩悶して、絆されて、撓んだだけ」
(゚、゚トソン「でも自己完結で、決着してくれた」
(゚、゚トソン「あなたのおかげで」
(゚、゚トソン「……」
(゚、゚トソン「『あとくされなく別れてみせて頂戴』」
(゚、゚トソン「言葉通りで、頼んだ通りで、ありがとう」
109
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:36:57 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「あいつだったから…余計な」
( ^ν^)「なぜならあいつは、疑問だらけな言葉と理由に、それらしい意味を与えられる」
( ^ν^)「実害が無い」
( ^ν^)「顔と同様に、人間性と同様に」
( ^ν^)「むかしっから、知ってるからな」
( ^ν^)「…」
( ^ν^)「『気持ち悪い』」
( ^ν^)「親共が言うのも分かる気がするぜ」
( ^ν^)「得体の知れねえモンと、悪を撒き散らすモン」
( ^ν^)「気持ち悪いだろうな……」
110
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:37:23 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…」
( ^ν^)「……疲れた」
( ^ν^)「疲れたな…」
( ^ν^)「……なあ」
( ^ν^)「おしえてくれよ、俺に」
( ^ν^)「最愛の相手である、俺に」
( ^ν^)「お前は、あいつのことをどう思ってたんだ?」
111
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:37:45 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…あいつは、悪くない外見だった」
( ^ν^)「ユーモアのセンスもあった」
( ^ν^)「性格は…まあ悪かったが、嫌悪するほどじゃ無かった」
( ^ν^)「会話も…聴いてる限りじゃ、楽しそうだった」
( ^ν^)「俺から離れる理由は、十分にあったはずだ」
112
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:38:17 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「……なんで、なんだ…?」
( ^ν^)「俺は、俺自信同様に、てめえが分からねえ」
( ^ν^)「なんでお前は、あいつを振った」
( ^ν^)「なんでお前は、俺を振らなかった」
( ^ν^)「なあ……教えてくれよ」
113
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:38:44 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「そんなの分かりきってることじゃない」
( ^ν^)「…」
(゚、゚トソン「ちゃんと全部、彼の態度が示してくれてたわ」
( ^ν^)「態度…だと?
あの仮面顔から、何が読み取れたって言うんだ?」
(゚、゚トソン「あなた、むかしっから彼のこと知ってるんでしょ?
なら答えは、自明の理じゃない」
114
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:39:33 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「どういうことだ?」
(゚、゚トソン「表情に変化はなかった。
常に変わらない顔だった」
(゚、゚トソン「中性的で個性が無くて何考えているのか分からなくて、謎で異質な、人間とは異なる生物だと思えば納得しそうになる顔」
( ^ν^)「…確かに、違いねえが…」
(゚、゚トソン「だから、態度よ」
( ^ν^)「態度」
(゚、゚トソン「心情がまろび出てたのよ」
( ^ν^)「…?」
115
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:40:20 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「近づいてくる鼻が匂いを嗅ぐみたいにヒクついていた。
目線は身体中を舐めて品定めするみたいに不自然だった。
息使いは荒々しく、いつも興奮していた。
常に私の目をじーっと見ていた。
料理を頬張る私の唇と舌を凝視していた」
.
116
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:40:44 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「…」
(゚、゚トソン「見られてることくらい、分かるに決まってるじゃない」
( ^ν^)「…そうか」
(゚、゚トソン「楽しかったわ、とても、とても」
( ^ν^)「…」
(゚、゚トソン「楽しいわ、今も、これからも」
117
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:41:08 ID:TPwRPwxI0
( ^ν^)「こんなこと、言うのは変かも知れねえが…」
(゚、゚トソン「?」
( ^ν^)「あいつに、何か言ってやれるような言葉は……無いか?」
(゚、゚トソン「…」
( ^ν^)「救われねえあいつに、救いようのないあいつに…掛けてやれる言葉は……無いか?」
118
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:41:40 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「……」
( ^ν^)「……」
(゚、゚トソン「…」
( ^ν^)「…」
.
119
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:42:30 ID:TPwRPwxI0
(゚、゚トソン「別に」
120
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:44:59 ID:TPwRPwxI0
《Easy Love, Easy No》
( ∵)なぜなら鉄面皮だからのようです 終
.
121
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 03:46:50 ID:TPwRPwxI0
以上になります。
好きな言葉を使いたくて書きました。
見苦しい点多々ございますが、ありがとうございました。
122
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 15:37:01 ID:QSD4FXDc0
オツ
123
:
名無しさん
:2020/06/19(金) 23:56:44 ID:2cNkKua.0
キショい行動のわりに言動キョドらんの凄い
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