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葬列が続く

1名無しさん:2020/05/06(水) 23:22:26 ID:PoZQVEE.0
川 ゚ 々゚) 「カラーコンタクトって言うの? あれを入れてみようと思って」

どういった会話の流れでこの言葉が出てきたのかは、正直あまり覚えていない。
ただ、僕は小さい頃から彼女の灰色がかった瞳が好きだったので、
それが一時的にでも損なわれることに対して勿体無いとか、惜しいとか、そういう感情を抱いたのは確かだった。

(-_-) 「なにそれ。一年遅れの大学デビュー?」

僕は目の前の彼女から視線を外し、憎まれ口を叩いてみた。
話し込んでいるうちに昼のピークタイムを過ぎていたようで、学食内の人影は疎らだった。

川 ゚ 々゚) 「うーん、まあ、そんな感じ」

川 ゚ 々゚) 「二年の冬からは忙しくなるって聞くし、何か変な事をするなら夏休み前が最後のチャンスでしょ?」

(-_-) 「その変なことがカラコン?」

川 ゚ 々゚) 「サークルの子に勧められて、試しにどうだって1セット貰ったの」

(-_-) 「サークルってあの?」

川 ゚ 々゚) 「うん。アジア文化研究サークル。a.k.a.亜研」

彼女はボケットから平べったい紙箱を取り出して、耳の横で振ってみせた。
絵柄を見るにコンタクトレンズの入れ物だろう。振動に合わせてガサガサと中身の擦れる音がする。

2名無しさん:2020/05/06(水) 23:28:11 ID:PoZQVEE.0
(-_-) 「……まあ、貰っちゃったなら着けてみればいいんじゃない?」

川 ゚ 々゚) 「良いの?」

(-_-) 「良いのって……」

僕と彼女は男女の間柄ではない。
なんとなく似たような性格をしていて、馬が合うから一緒にいるだけだ。

付き合いの長い友人以上の関係を持ったことはないし、互いに別の異性のパートナーが居た時期だってある。
そんな関係の僕が彼女のファッションに対してどうこう言う筋合いは無いはずだ。
今までだって、そうだったじゃないか。

川 ゚ 々゚) 「……わかった。じゃあ着けてみるね」

(-_-) 「ここで?」

川 ゚ 々゚) 「ここで」

今になって思えば、彼女には予感めいたものがあったのだろう。
つまり、このカラーコンタクトは彼女にとって――或いは僕にとって――何か決定的な変化を齎すことになる、と。

川 ゚ 々゚) 「できた。……どう? 感想は?」

(-_-) 「……」

こちらを見つめる赤紫色の瞳。
僕は目の前の人間が全く別の生物に変わってしまったような気分になって、再び彼女から視線を逸らした。

3名無しさん:2020/05/06(水) 23:29:31 ID:PoZQVEE.0
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   葬列が続く

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                                    .

4名無しさん:2020/05/06(水) 23:31:01 ID:PoZQVEE.0
それから暫く時が経って、七月も半ば。
僕と彼女の関係は今まで通り、良き友人というべきものだった。

変わったことといえば二つ。
ひとつは僕が彼女に誘われて「アジア文化研究サークル」という活動実態不明な組織に所属するようになったこと。

そしてもうひとつは、彼女が日常的にカラーコンタクトを使用するようになったことだ。
一過性の物と思っていた容姿の変化は、今や彼女の個性として周囲に受け入れられている。

ξ゚⊿゚)ξ 「きっかけを作った私が言うのもなんだけど意外だわ。ああいうの興味無いと思ってたし」

サンドイッチの包装を剥がしながらツンさんが口を開く。
僕は「そうだね」と相槌を打ちながら、カツカレーのカツが湿りすぎないように皿の縁への避難作業を進めていた。

ξ゚⊿゚)ξ 「でも結構評判良いんだってさ。ほら、よくわからないけど"合う"じゃない?」

(-_-) 「……ツンさんは彼女のあれ、良いと思いますか?」

確かに、赤紫色に輝く瞳は彼女が生来持つ髪色だとか、顔の造形だとか、
そして少し陰のある佇まいだとか、そういった多くの要素と奇妙に調和していた。
ただ、僕はそれを「良い」「似合っている」という言葉で表現する気分にはなれなかった。

ξ゚⊿゚)ξ 「妬いてるの?」

(-_-) 「え?」

ξ゚⊿゚)ξ 「聞いたよ。最近あの子、男子から声かけられるようになったって」

(-_-) 「いや、そういうことじゃなくて……」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうじゃなくて?」

(-_-) 「……いや、いや、そうじゃないんだ」

5名無しさん:2020/05/06(水) 23:32:15 ID:PoZQVEE.0
ξ゚⊿゚)ξ 「……ふーん」

僕の心を表すのに相応しい言葉はいくつか浮かんでくる。
それでも僕が言い淀んだのは、それらの言葉が現在の彼女の否定に繋がるのを恐れたからだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「まあ、そういうことにしておきましょ」

ξ゚⊿゚)ξ 「実は私もあの目はまだ慣れてないし」

(-_-) 「……」

ξ゚⊿゚)ξ 「本人が気に入ってるなら良いと思うんだけど……ほら、くるうって時々相手を黙って見つめてくる時があるじゃない?」

(-_-) 「あるね」

ξ゚⊿゚)ξ 「その時に目を合わせるとさ、なんだか違和感があるというかね。胸が、ざわつく」

ξ゚⊿゚)ξ「多分だけどヒッキー君もそういう所が……」

その言葉を遮るようにして、僕の隣の席にがたりと空のトレイが乗せられた。
態々顔を挙げなくても、対面するツンさんの表情を見るだけでそれが誰の手によるものかは理解できる。

川 ゚ 々゚) 「お待たせ。講義伸びちゃって」

(-_-) 「生物基礎だっけ? 内藤先生の」

川 ゚ 々゚) 「うん。……私もサンドイッチにしよ。買ってくるね」

彼女はそう言い残すと、場所取りのトレイをテーブルに置いたまま人混みの中に消えていった。
昼飯時の見慣れた光景。ぼんやりと眺めていると、卓上に置いていた腕をパタパタと叩かれる感触があった。
ツンさんだ。

ξ;゚⊿゚)ξ 「ねえ……ねえ……今の聞いてたかな!?」

(-_-) 「大丈夫じゃない? 聞いてたら何か言ってくるタイプじゃん」

ξ;゚⊿゚)ξ 「ならいいけど……」

結局、サンドイッチを買い終えた彼女が戻ってくるまで、それ以上の会話は生まれなかった。

6名無しさん:2020/05/06(水) 23:33:20 ID:PoZQVEE.0
(-_-) 「講義が伸びたって実験でもしてたの?」

川 ゚ 々゚) 「普通の座学。最近なんか雑談が長いんだよね」

(-_-) 「内藤先生の講義って時間前に終わるから人気だって聞いてたけど」

川 ゚ 々゚) 「私もそう聞いてた。実際に去年受講してた先輩は三十分くらい残して終わってたらしいし」

川 ゚ 々゚) 「他の生徒も詐欺だって嘆いてる。ツンから文句行ってやってよ」

ξ;゚⊿゚)ξ 「なんで私が!?」

川 ゚ 々゚) 「だって幼馴染なんでしょ?」

(-_-) 「え、そうなの?」

ξ゚⊿゚)ξ 「年齢が二桁離れてるのに幼馴染も無い気がするけど……」

とはいえ、ツンさんが幼い頃から内藤先生と交流があるというのは事実らしかった。
ツンさんの両親は学習塾を経営していて、そこに講師のアルバイトとして雇われたのが学生時代の内藤先生だ。
苦学生だった内藤先生の懐事情を汲んで、ツンさんの両親は彼を夕飯の席に招いたり、
ツンさんが宿題をするのを見守るだけの「家庭教師」を依頼したり、色々と援助していたらしい。

そんな事があったからか、雇用関係のなくなった現在でも、両者の間には親密な交流があるのだという。

ξ゚⊿゚)ξ 「それでも仕事は仕事。プライベートはプライベート」

ξ゚⊿゚)ξ 「ブーンの仕事に口出しする気は無いわ」

川 ゚ 々゚) 「えー」

7名無しさん:2020/05/06(水) 23:34:09 ID:PoZQVEE.0
不意に、ツンさんの隣席に音を立ててトレイが置かれた。
トレイの上にはカツカレーと味噌ラーメン、それとサンドイッチ。

( ^ω^) 「僕の話かお?」

声の主を見上げると見知った顔。
今まさに話題の主役となっていた内藤先生だ。

( ^ω^) 「この席空いてる?」

(-_-) 「こんにちは。空いてますよ」

ξ゚⊿゚)ξ 「相変わらず馬鹿みたいな食生活してるわね。野菜食べなさい。炭水化物減らしなさい」

( ;^ω^) 「オウフ、まだ勤務時間だし口出しは無しって聞いたお!?」

ξ゚⊿゚)ξ 「休憩中は別よ。それにしても珍しいじゃない。キャンパスの中で話しかけてくるなんて」

( ^ω^) 「ああ、素直さんを見かけたから来ちゃったんだお」

ξ゚⊿゚)ξ 「くるうに用事?」

川 ゚ 々゚) 「私ですか?」

( ^ω^) 「えっと、素直さんっていうか……僕の講義を受講してる人なら誰でも良かったんだけど」

( ^ω^) 「次回の講義の準備で手伝ってほしいことがあったんだお」

( ^ω^) 「少ないけどバイト代も出るし、本当はあんまり良くないんだけど期末の過去問くらいなら提供できるお」

8名無しさん:2020/05/06(水) 23:35:28 ID:PoZQVEE.0
「どうかな?」と、内藤先生は彼女に右手を差し出した。
しかし、その手を取ったのは彼女ではなく、先生の隣にいたツンさんだった。

ξ゚⊿゚)ξ 「あら、それくらいなら私がやるわよ」

( ^ω^) 「え?」

ξ゚⊿゚)ξ 「今月苦しいから小遣い稼ぎしたかったのよね。生物基礎なら私も去年履修してるし丁度いいでしょ」

( ;^ω^) 「ああ、確かに……素直さんはそれでいいかお? なんならお手伝いは二人でも良いんだけど……」

内藤先生の右手を両手で握りしめ、離そうとしないツンさん。
それに苦笑しながら、先生は空いている左手を彼女の方に差し出した。
彼女はその様子を暫し眺めて口を開く。

川 ゚ 々゚) 「いえ、折角ですが用事がありまして」

( ^ω^) 「……うーん、そうかお。残念だけどまた今度お願いするお」

川 ゚ 々゚) 「それに……」

彼女の瞳が、内藤先生の瞳を捉える。

川 ゚ 々゚) 「二人のお邪魔をしちゃうのも悪いですから」

( ^ω^) 「二人の……?」

ξ;゚⊿゚)ξ 「お邪魔って……何言ってるのよ!? そういうのじゃないんだから!」

9名無しさん:2020/05/06(水) 23:36:35 ID:PoZQVEE.0
弾かれたように両手を離して、ツンさんは彼女に反論した。
ついさっきまで嫉妬がどうとか言っていた人間と同一人物とは思えない慌てぶりだ。
内藤先生は「参ったな」と一言。そして差し出していた左手を引き戻し、更に言葉を続ける。

( ^ω^) 「用事があるならしょうがないお。ツン、一人だとちょっと長くなっちゃうかもしれないけど大丈夫かお?」

ξ゚⊿゚)ξ 「大丈夫。門限は有るけどブーンの手伝いって言ったら許してくれるだろうし」

( ^ω^) 「助かるお。僕からも連絡入れておくお」

川 ゚ 々゚) 「誘ってもらったのに申し訳ないです」

( ^ω^) 「いや、こっちこs……」

ξ゚⊿゚)ξ 「いいのよ。予定も聞かずに誘う方が悪いんだから」

( ;^ω^) 「……そういうことだお」

ξ゚⊿゚)ξ 「そうと決まればさっさと始めましょう。ほらブーン、5分で食べ終わって」

( ;^ω^) 「この量を5分はきっちいお!?」

10名無しさん:2020/05/06(水) 23:39:03 ID:PoZQVEE.0
5分後、空になった器をトレイに乗せて、ツンさんと内藤先生は席を立った。
食器返却口に向かって二、三歩ほど進んだところで、
先生は何かを思い出したように立ち止まり、振り返って口を開いた。

( ^ω^) 「そういえば、素直さんと……引田くん、君たち連絡先交換しないかお?」

( ^ω^) 「ツンの友達なら信用できるし、今後もお手伝いをお願いしたいんう゛ぉ゛ぁ゛!!!!!!?」

ツンさんに脇腹を抓られ、内藤先生は苦悶の表情を見せる。
両手がトレイで塞がってしまっている状態では抵抗もできないだろう。突然の激痛に抗議の声を上げるのみだ。

ξ゚⊿゚)ξ 「何言ってるのよ。講師と連絡先交換なんて普通は嫌だからね?」

( ;^ω^) 「いってえお! わかったから放してくれお!」

川 ゚ 々゚) 「……私は大丈夫ですよ」

( ^ω^) 「お!?」

ξ゚⊿゚)ξ 「え、良いの……?」

川 ゚ 々゚) 「このままじゃ抓られ損ですしね。ヒッキーもいけるでしょ?」

(-_-) 「まあ、君が良いなら僕も良いよ」

川 ゚ 々゚) 「あ、でもごめんなさい。私スマホの充電切れちゃったので、後でツンから聞いてください」

( ^ω^) 「ありがとう。恩に着るお!」

ξ゚⊿゚)ξ 「悪いわね二人とも」

( ^ω^) 「じゃあそういうことで。行くかおツン!」

ξ゚⊿゚)ξ 「はいはい。じゃあまた明日ね」

11名無しさん:2020/05/06(水) 23:40:22 ID:PoZQVEE.0
席についたまま、学食から立ち去っていく二人を見送る。
ツンさんの手は内藤先生の脇腹に触れたままだが、
服の端っこをちょこんと引っ張るような、先程と比べると随分優しい抓み方だ。
僕はなんとなく二人の間に、単なる昔馴染みという言葉では良い表せない近しさを感じた。

川 ゚ 々゚) 「成人したら告白するんだってさ」

(-_-) 「どっちがどっちに?」

川 ゚ 々゚) 「ツンが。十年程度の差なら問題ないだろうって両親公認らしい」

(-_-) 「へえ、お似合いだね」

川 ゚ 々゚) 「うまく行けばね」

(-_-) 「行くんじゃない? 内藤先生も満更じゃなさそうだし」

川 ゚ 々゚) 「……本当にそう思う? あの人、私に惚れてるかも」

(-_-) 「え?」

「何を言っているんだ」という言葉が出るより早く、
彼女はボケットからスマートフォンを取り出して画面を僕に向けた。
画面上ではメモ帳アプリが起動中で、日付はまちまちだが日記のようなものが書き留められている。

12名無しさん:2020/05/06(水) 23:42:57 ID:PoZQVEE.0
川 ゚ 々゚) 「生物基礎の講義で雑談が多くなってるって言ったじゃん?」

(-_-) 「言ったね」

川 ゚ 々゚) 「これ、雑談の内容とか、他に気になったこととか纏めてるの」

差し出されたスマホを受け取って日記に目を通す。
どうやら日記を残し始めたのは二ヶ月ほど前で、以降全ての講義において何かしらの「気になったこと」が記録されているらしい。

川 ゚ 々゚) 「例えば五月二十日の雑談は瞳の色について」

川 ゚ 々゚) 「原理とか、遺伝とか、地域性とか、そういう話をした後に私を教壇の前に呼び出して……」

川 ゚ 々゚) 「"綺麗な瞳ですね"って、今度はファッションとか文化的な側面の話を始めた。席に戻るタイミングが分からなくて気分が悪かった」

(;-_-) 「それは偶然じゃない? 偶々瞳の話をしてる時にカラコンの生徒が目に入ったっていう」

川 ゚ 々゚) 「六月十日は性淘汰について」

川 ゚ 々゚) 「鹿の角とか、孔雀の羽とか、子孫を残すために色々発達していくやつね」

川 ゚ 々゚) 「で、そういう話をした後に私が指名されて、"あなたは異性のどういう所に魅力を感じますか?"って」

川 ゚ 々゚) 「適当に"健康的な人"って答えたら大食い自慢が長々続いて、そういうことじゃないって思った」

(;-_-) 「それも偶々、瞳の件で呼び出したから名前覚えてたとか……」

川 ゚ 々゚) 「実験後の片付けの手伝いに毎回指名されるとか、二人での片付け中だけ"くるうさん"って呼んでくるのとか」

川 ゚ 々゚) 「そもそも直近二ヶ月の講義の大半で雑談タイムに私の名前が呼ばれてるのとか」

川 ゚ 々゚) 「偶然?」

(;-_-) 「……」

13名無しさん:2020/05/06(水) 23:45:38 ID:PoZQVEE.0
川 ゚ 々゚) 「あとさ、うちの大学って院生とかを講義の助手として雇うシステムになってるじゃん」

(;-_-) 「……そうだね」

川 ゚ 々゚) 「じゃあさっきの、態々私に次回講義の準備させるために声かけてきたのって何?」

川 ゚ 々゚) 「誰でも良いって言ってたけど、ちょっと見渡せば生物基礎を受けてる人なんて沢山いるんだよね」

川 ゚ 々゚) 「当たり前じゃん。みんな講義終わって真っ直ぐ学食に来てるんだから」

川 ゚ 々゚) 「ツンが私の代わりに手伝いを申し出たのも、その辺が引っかかったからじゃないかな?」

彼女の論拠の一つ一つは全く脆弱なもので、仮に其々の行動が内藤教授の意図的なものであったとしても、
その動機を恋愛感情であると断ずるのは流石に早計だろう。
僕はただ、気のせいだよと笑い飛ばしてしまえば良いのかもしれない。

けれど――僕の心に微かな疑念が生まれたのは事実だった。
彼女はそれを見透かしたように頬を歪めた。

川 ゚ 々゚) 「まあ、ただの妄想だけどさ」

(-_-) 「本当にそう思ってる?」

川 ゚ 々゚) 「さあ?」

(-_-) 「……楽しんでる?」

川 ゚ 々゚) 「……」

川 ゚ 々゚) 「トンカツ、湿気っちゃったね」

手元に視線を落とすと、そこには冷めて固まったカツカレーの残骸。
それっきり、彼女が口を開くことはなかった。

14名無しさん:2020/05/07(木) 00:11:28 ID:t9m7LhHQ0
参加登録のため最初の部分だけ投下
続きは8日予定です

15 ◆S/V.fhvKrE:2020/05/07(木) 00:26:47 ID:pp3nwXjw0
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16名無しさん:2020/05/08(金) 21:59:40 ID:oQEnZpwU0
「何かをするなら夏休み前」
彼女の言葉を思い出す。

瞳の色を変える冒険がそれかと質問した僕に、彼女は何と答えただろう。
僕はもしかすると酷い思い違いをしていて、
今目の前で起こっている出来事には、僕の想像を超える恐ろしく破滅的な未来が用意されているのではないか。

漠然とした不安が輪郭を得たのは、その三日後のことだった。

( ^ω^) 「教材庫の整理をしたかったんだけど、講義助手の子が熱を出しちゃったんだお」

( ^ω^) 「男手が欲しくて……休日に悪いんだけど手伝ってくれないかお?」

内藤先生からの突然の電話。僕は二つ返事で了承した。

理由はいくつかある。
ちょうど暇だったし、バイト代が欲しかったし、「友人の昔馴染み」からの頼み事を無下にするのも気が引けた。
そして何より、僕の心に生まれた疑念を否定する材料が得られるのではという期待があった。

( ^ω^) 「いやー本当に助かるお。消毒用のアルコールとか、足りなくなってた物品を纏めて仕入れたら予想以上の量になっちゃって……」

( ^ω^) 「研究室の子たちも都合がつかなくて、こりゃあもう詰んだかなと思ってた所だお」

(;-_-) 「確かに凄い量ですね……大型の段ボール箱が一つ、二つ……」

(;-_-) 「それで、僕はどこから手をつければ良いんでしょうか?」

( ^ω^) 「何をどこに置くかは決めてあるから、指示通りに動かしてほしいお」

( ^ω^) 「劇物とか、取り扱い注意な物は先に片付けてあるから安心してくれお。勿論雑に扱うのはNGだけど」

17名無しさん:2020/05/08(金) 22:00:35 ID:oQEnZpwU0
( ^ω^) 「えっと、じゃあまず消毒用アルコールを……」

指示を出す先生の声とダンボールの開封音。
誰も居ない研究棟を二つの音が支配する。

( ^ω^) 「キムワイプは無限に使うから手前の方に」

(-_-) 「はい」

( ^ω^) 「流動パラフィンとグリセリンのケースも入口側が良いお」

(-_-) 「この棚ですかね?」

( ^ω^) 「お、そこでオッケーだお!」

( ^ω^) 「いやーほんと、僕は片付けが苦手だから助かるお」

( ^ω^) 「研究室の机とか、ゴミの山みたいになっちゃってよく助手の子に叱られるし……」

(-_-) 「そうなんですか? もっとキッチリしてる人だと思ってました」

内藤先生はうちの大学の講師陣の中でも「洒落ている」タイプの人間だ。
皺のない白衣、きれいに整えられた髪型、僕にはよくわからないけれど、高そうな香水の匂いもする。
最年少の講師という点を差し引いても学内での人気は高いし、
やや肥満気味であることに目を瞑れば、彼の容姿や身なりを悪し様に語る者は居ないだろう。

( ^ω^) 「ああ、これはツンに仕込まれたんだお。人前に出る職業を目指すなら相応の格好をしろってね」

(-_-) 「へえ、ツンさんが?」

( ^ω^) 「そうだお。小学生にファッションチェックを受ける大学生って、当時は友達からイジられたお」

(-_-) 「小学生の頃からそんな感じだったんですね」

かつての二人の様子が余りにも容易にイメージできて、僕はついつい笑ってしまった。
ツンさんと内藤先生の在り方は十年以上前からずっと変わらないままで、
これから先どれだけ歳を重ねても、この微笑ましい関係が崩れることは無いのではないかと思えてしまう。

18名無しさん:2020/05/08(金) 22:01:25 ID:oQEnZpwU0
( ^ω^) 「おっおっwww同世代から見てもそんな印象かお?」

( ^ω^) 「今でも白衣がほつれてたり、靴が汚れてたりなんてのはツンが真っ先に気付いて直してくれるんだお」

(-_-) 「なんかあれですね。奥さんみたいですね」

( ^ω^) 「ん……はは……」

内藤先生の表情からすうっと笑顔が引いていく。
失礼なことを言ってしまったのかとも思ったが、見る限り怒っている様子ではない。

(-_-) 「……どうしました?」

( ^ω^) 「あ、いや、最近ちょっと色々考えてね」

(-_-) 「色々……」

( ^ω^) 「ねえ引田君、教師と生徒の恋愛ってどう思う?」

唐突に、心臓を握られたような気分になった。
もし僕が彼女の話を聞いていなかったら、この質問は単に、
昔馴染み同士の微笑ましい恋愛の話だと受け取っていただろう。

今は違う。僕の心の中の疑念が、先生の言葉を歪めて脳に伝えてくる。

( ^ω^) 「……はは、困らせちゃったかお?」

( ^ω^) 「正直、ツンが僕のことを慕ってくれてるのは知ってるお」

( ^ω^) 「でも僕はもう三十路を過ぎて結婚考える時期だし、まだ未成年のツンとは立場が違うんだお」

(-_-) 「……」

19名無しさん:2020/05/08(金) 22:01:57 ID:oQEnZpwU0
( ^ω^) 「ツンの友達の引田君や素直さんから見て、僕達の年齢差での恋愛ってどうなんだろうね?」


――――やめてくれ。


(-_-) 「僕は気にならないですね。二人の関係を知ってれば文句なんて出てこないと思いますよ」

( ^ω^) 「うーん、でも、それは"関係を知っていれば"の話だよね?」


――――やめてくれ。


( ^ω^) 「世間の大半の人は僕とツンの関係を知らないんだ。だから、例えば……」

( ^ω^) 「そうだ、例えば僕と素直さんが」


彼女の名前を、出さないでくれ。

20名無しさん:2020/05/08(金) 22:02:42 ID:oQEnZpwU0
(-_-) 「それだと、気になるかもしれませんね」

先生の言葉を遮って反対の声を上げる。
これ以上、「例えば」の話を聞きたくなかった。
先生は表情もそのままに硬直していたが、数秒後、思い出したように活動を再開した。

( ^ω^) 「失礼。ナイーブな質問で盛り上がり過ぎたお」

(-_-) 「いえ……気にしないでください」

( ^ω^) 「いやいや、年甲斐もなく申し訳ない」

( ^ω^) 「さ、休憩終了ということでもうひと頑張りするかお!」

( ^ω^) 「引田君のおかげで暗くなる前に終わりそうだお」

( ^ω^) 「……ところで、引田君と素直さんって付き合ってるのかお? よく一緒にいるって聞いたけど」

(-_-) 「……いえ、馬が合うから一緒にいるだけです」

(-_-) 「お互いに彼女とか彼氏が居た時も、会う頻度は変わりませんでしたね」

( ^ω^) 「へえ、そうかお」

( ^ω^) 「……」

( ^ω^) 「でもまあ、大学生になってもそんな感じだと浮気とか疑われちゃうし、今度からは気を付けた方がいいかもね」

21名無しさん:2020/05/08(金) 22:03:39 ID:oQEnZpwU0
僕は吐き気を堪えながら作業を進めて、逃げるように帰路についた。

(ill-_-) 「はあ……はっ……」

不快感。いや、嫌悪感だ。
目眩のするような嫌悪感が胸の奥で、頭蓋骨の内側で、のたうち回っている。

(ill _ ) 「気持ち悪い……」

僕はとうとう歩く気力も失って、その場にしゃがみ込んでしまった。
いっそ横になってしまおうか。
通行人が僕のことをどういう目で見ていようが、どうでもいい気分だ。

小さく屈んだ僕の影が一秒ごとに伸びていく。
影の行く先に視線をやると、女の足。まっすぐ僕の方を向いている。

川 ゚ 々゚) 「無理してるね」

今、最も会いたかった人間。
そして、最も会うのが怖かった人間が、僕を見下ろしていた。

22名無しさん:2020/05/08(金) 22:04:21 ID:oQEnZpwU0
( ∵) 「ご注文は?」

川 ゚ 々゚) 「ドリンクバーを二人分で」

あの後、僕は彼女に支えられながら、なんとか近くにあったファミレスまで辿り着いた。
彼女に入れてもらったカルピスウォーターを飲み干して、そこでようやく幾分かの平静を取り戻した。

川 ゚ 々゚) 「内藤先生に会ったの?」

(-_-) 「うん」

川 ゚ 々゚) 「似合わないことしちゃって。私の言ったこと信じてくれた?」

(-_-) 「……うん」

川 ゚ 々゚) 「それで、どう思った?」

(-_-) 「……気持ち悪かった」

川 ゚ 々゚) 「そうね。未成年の乙女に恋する三十路はちょっと」

(-_-) 「そうじゃないよ。わかってるでしょ」

(-_-) 「うまく言葉に出来ないけど……気持ち悪くて、怖かったんだ」

川 ゚ 々゚) 「わかるよ。変わって、驚いたんでしょ?」

23名無しさん:2020/05/08(金) 22:05:24 ID:oQEnZpwU0
そうだ。僕はそれが嫌でたまらなかったんだ。
僕だって内藤先生の人となりは以前からよく聞いていた。
若くて、誠実で、優しくて、優秀な准教授。

ツンさんに脇腹を抓られて悶える姿。
大量の食べ物を掻き込んで、ツンさんの無茶振りに応えようとする姿。
学生食堂で目の当たりにしたあれが先生の本来の姿だったはずだ。

でも、変わってしまった。
きっと先生は赤紫色の瞳に魅入られたのだ。

変わってしまった先生が嫌で、人を変えてしまう彼女の瞳が怖くて、
それでも僕は、彼女が目の前にいる状況に安心感を覚えている。
僕は一体どうなってしまうのだろう。いや、どうなってしまったのだろう。

川 ゚ 々゚) 「それでさ、なんで私があそこに居たと思う?」

(-_-) 「え?」

川 ゚ 々゚) 「偶然じゃないよ」

そう言うと彼女はスマートフォンをテーブルの上に置いた。
画面にはメモ帳アプリ……ではなく、右向きの矢印と「再生」の文字が表示されていた。

(-_-) 「なにこれ」

川 ゚ 々゚) 「なんか最近色んな人から電話かかってくるようになって、録音アプリ入れたの」

川 ゚ 々゚) 「連絡先なんてそんなに何人にも教えてないのに……どこから漏れてるんだろうね?」

川 ゚ 々゚) 「まあいいや。聞いてよ」

矢印が正方形に変わって、スピーカーから聞こえてきたのは内藤先生の声だった。

24名無しさん:2020/05/08(金) 22:05:56 ID:oQEnZpwU0
「もしもし、くるうさん?」

「ええ。内藤先生ですか?」

「……!! そうだお! 一発で当てるなんて凄いお!?」

「わかりますよ。毎週声を聞いてるんですから」

「それで、何かありましたか?」

「お……? ああ、そうだお。ちょっと大事な話があって」

「大事な話ですか?」

「うん。電話だとちょっと喋りにくい内容だから会って話さないかお?」

「会って……うーん……」

「駄目かお? いや、都合が悪いならまた今度でも……」

「いえ、わかりました。今からで大丈夫ですよ」

「本当に!? じゃあ研究室で待ってるから来てほしいお!」

25名無しさん:2020/05/08(金) 22:06:42 ID:oQEnZpwU0
川 ゚ 々゚) 「録音終わり。受講してる科目の講師に呼び出し食らったら断れないよね」

川 ゚ 々゚) 「ヒッキー、何か先生を焚き付けるようなことしたんでしょ?」

(-_-) 「……」

川 ゚ 々゚) 「したんだね。それで手痛い反撃を食らって道端でへたり込んでたと」

(-_-) 「ごめん。我慢できなくて」

川 ゚ 々゚) 「別に怒ってないよ。そもそも悪いのはヒッキーじゃないんだし」

川 ゚ 々゚) 「でもまあ、悪いと思ってるなら付いてきてよ」

川 ゚ 々゚) 「流石に一対一はちょっと、襲われちゃうかもしれないし」

(;-_-) 「襲うって……いくらなんでもそこまでは……」

川 ゚ 々゚) 「しないって言い切れる? 先生多分、結構狂ってるよ」

(;-_-) 「……わかった。行くよ」

正直、再びあの研究棟に戻るのは気が重いどころの話ではなかった。
それでも彼女の頼みを引き受けたのは、彼女に対する申し訳無さと、
もしも「万一の事態」が起こった場合、彼女だけではなくツンさんにまで大きな傷を作ることになるという危機感からだった。

26名無しさん:2020/05/08(金) 22:07:43 ID:oQEnZpwU0
既に日はすっかり落ちて、LEDの灯が敷地内を照らしている。
研究棟は変わらずの静かさで、二人分の足音が内藤先生に届かないよう、
僕は靴を手に持って通路を渡った。

研究室のドアの隙間から光が漏れている。

川 ゚ 々゚) 「中には私一人で入るから、ヒッキーは声が聞こえる所に居てね」

耳元で彼女が囁く。
「じゃ、行ってきます」という言葉の後に、ノックの音が二つ響いた。
研究室内からの死角にしゃがみ込んで返事を待つ。

「どうぞ」

内藤先生の声。

川 ゚ 々゚) 「失礼します」

彼女はこちらを一瞥して、ゆっくりとドアを開けた。

( ^ω^) 「ドアのノック回数は三回か四回。似非マナーの類だけど覚えておいたほうが良いお」

川 ゚ 々゚) 「そうなんですか。勉強になります」

( ^ω^) 「ああいや、折角来てくれたのに説教してしまったお。申し訳ない」

川 ゚ 々゚) 「いえいえ」

27名無しさん:2020/05/08(金) 22:08:20 ID:oQEnZpwU0
( ^ω^) 「外は暑かったかお? うちの研究室は冷房完備だから麻痺しちゃって困るんだお」

川 ゚ 々゚) 「今の時期にしては涼しい感じですね。屋内に入ると冷房効いてますし、半袖だと寒いくらい」

( ^ω^) 「おっと、寒いのは良くないお。この部屋も冷房切っちゃうお」

川 ゚ 々゚) 「お気遣いありがとうございます」

川 ゚ 々゚) 「……それで、話というのは?」

( ^ω^) 「まあまあそう焦らず。コーヒーでも淹れるお」

川 ゚ 々゚) 「あ、だったらコーラ飲みたいです。ツンから聞いてますよ。研究室の冷蔵庫に常備してるって」

( ;^ω^) 「そんなことまで聞いてるのかお!? ……まあ、そういうことならコーラにするお」

冷蔵庫が開き、中で瓶が擦れる音がする。
ぷしゅりと二回鳴って、内藤先生が再び口を開いた。

( ^ω^) 「かんぱーい。だお」

川 ゚ 々゚) 「ありがとうございます。いただきます」

28名無しさん:2020/05/08(金) 22:09:06 ID:oQEnZpwU0
( ^ω^) 「いきなりだけど、六月十日の授業内容覚えてるかお?」

川 ゚ 々゚) 「えっと、六月十日は確か……遺伝の話と性淘汰の話ですね?」

( *^ω^) 「流石だお、くるうさん!」

( *^ω^) 「いつも熱心にメモ取ってるからもしかしてって思ったけど、本当に正解してくれるとは感激だお!」

川 ゚ 々゚) 「熱心にメモ?」

( ^ω^) 「スマホだお、スマホ。僕が喋るとスマホ出して文字打ってるでしょ?」

( ^ω^) 「最近の子はスマホを上手く学習に取り入れてるなあって感心してたんだお」

川 ゚ 々゚) 「ああ、それなら確かにメモ取ってます。私、癖字だから」

( ^ω^) 「そうなのかお? でも世間じゃまだまだ手書き必須の文書ってのも有るから、頼りすぎるのも不安だお」

( ^ω^) 「僕も中々の悪筆だから……っと、脱線しちゃったお」

( ^ω^) 「でまあ、性淘汰の話なんだけど、あの講義が結構学生の皆から好評だったみたいで」

( ^ω^) 「もうちょっと掘り下げて説明する時間を取ろうかなって考えてるんだけど、どう思うお?」

川 ゚ 々゚) 「良いと思いますよ。私もあのお話は面白かったです」

( *^ω^) 「そうかお! いやあ、このテーマの奥深さがわかるのは嬉しいお!」

( *^ω^) 「僕は性淘汰のことを生き物に刻まれた愛の歴史だと考えているお」

川 ゚ 々゚) 「愛ですか?」

( ^ω^) 「……そう、愛だお」

内藤先生の声色が変わって、僕は静かに唾を飲み込んだ。
二人がどういう表情をしているのか、確認できないのがもどかしい。

29名無しさん:2020/05/08(金) 22:10:06 ID:oQEnZpwU0
( ^ω^) 「くるうさんは愛って何だと思う?」

川 ゚ 々゚) 「難しい質問ですね」

( ^ω^) 「正答誤答なんて無いお。くるうさんなりの答えが聞きたいんだお」

川 ゚ 々゚) 「そうですね……性淘汰の話ですし、子孫を残そうという欲求ですかね?」

( *^ω^) 「おっ、中々刺激的な回答だお! 生物の至上命題は種の繁栄。確かにそれも一つの答えだと思うお」

( ^ω^) 「ああ、ちなみに僕の答えは、相手を手に入れたいと思う心だお」

川 ゚ 々゚) 「手に入れたい……」

( ^ω^) 「何をもって"手に入れる"とするのかは人によって意見が分かれるんだろうけどね」

( ^ω^) 「雌を得るために雄同士が闘う様子は非常に多くの生物種で観察できるし」

( ^ω^) 「雌の気を引くために立派な巣穴を作る。多くの食料を集める。そういう部分の能力が発達している種もある」

( ^ω^) 「そして、これらの行為は全て雌を求める心、つまり愛によるものなんだお」

川 ゚ 々゚) 「なるほど。そういう見方もできるんですね」

( ^ω^) 「……それで、くるうさん」

川 ゚ 々゚) 「はい」

( ^ω^) 「君の瞳を手に入れるために、僕は何をすれば良いんだろうね?」

30名無しさん:2020/05/08(金) 22:10:52 ID:oQEnZpwU0
(;-_-) 「……!!」

信じたくなかった。だけど、やっぱりそうだった。
立ち上がり、研究室に飛び込もうとする僕を彼女の声が諌めた。

川 ゚ 々゚) 「ちょっと待ってください」

( ^ω^) 「……」

川 ゚ 々゚) 「それはどういう意味ですか?」

( ^ω^) 「猟奇的な意味ではないお」

川 ゚ 々゚) 「告白ですか?」

( ^ω^) 「忘れもしない。四月十五日。第二回講義だお」

( ^ω^) 「君は初めてその瞳を見せてくれた。魂まで吸い込まれる気分だった」

川 ゚ 々゚) 「聞いてますか?」

( ^ω^) 「君の瞳は夜闇の篝火で、僕は炎に身を焼かれる無数の羽虫の一匹なのかもしれない。それでも良いと思った」

( ^ω^) 「会ったのは二回目だけど、一目惚れだったお」

( ^ω^) 「ねえ、くるうさん。僕は全てを捧げる覚悟が有るんだ」

束の間の無音。
呼吸や衣擦れの音でさえ騒音になりかねない静寂が周囲を満たす。
僕はその中で、彼女の次の言葉を待ちわびた。

川 ゚ 々゚) 「お話が終わったなら帰っても良いでしょうか?」

31名無しさん:2020/05/08(金) 22:11:50 ID:oQEnZpwU0
( ^ω^) 「……理由を聞いても良いかな?」

川 ゚ 々゚) 「私があなたに惹かれていない。それだけです」

( ^ω^) 「もしかして僕の言葉を疑ってる?」

川 ゚ 々゚) 「いえ、ですから」

( ^ω^) 「ああ、ツンとの関係を気にしてるお? ツンには僕からちゃんと説明しておくから大丈夫だお」

川 ゚ 々゚) 「……」

( ^ω^) 「講師と学生だと世間体が悪いとか? 大丈夫。僕は講師を辞めても別の働き口がある」

( ^ω^) 「逆に君が大学を辞めても援助できるだけの収入は有るお」

内藤先生の声色に、少しずつ怒りの感情が混じってくる。
望みの物が手に入らない状況に苛立ちを感じているのだろう。

当然だ。こんな愛の告白が成立する筈ないじゃないか。
それすら判断できないほどに先生は変わってしまったのかもしれない。

( ^ω^) 「君はただ僕から全部を受け取って、僕の所に居てくれれば良いんだお」

川 ゚ 々゚) 「……今日のことは聞かなかったことにしておきます」

川 ゚ 々゚) 「コーラごちそうさまでした。では、失礼します」

( #^ω^) 「……っ! 僕は君を!」

川 ゚ 々゚) 「ヒッキー! 帰るよ!」

32名無しさん:2020/05/08(金) 22:12:47 ID:oQEnZpwU0
僕がドアを開くと同時に、彼女が研究室から飛び出してきた。

内藤先生は呆然と立ち尽くして動こうとしない。
ただ、その表情が驚きから失望に、失望から怒りに、そして能面のような無表情に、瞬く間に変わっていくのがわかった。

( ^ω^) 「僕は諦めないからね」

囁くように発せられた言葉に背中を撃たれ、
僕は彼女の手を握ったまま、何度も転びそうになりながら研究棟から逃げ出した。
彼女の手は死人のように冷たかった。

33名無しさん:2020/05/08(金) 22:13:12 ID:oQEnZpwU0
.






.

34名無しさん:2020/05/08(金) 22:14:02 ID:oQEnZpwU0
研究室での一件以降、僕と彼女は嘘のように平和な日々を過ごしていた。
内藤先生はあの翌日から「健康面の問題」で休職したらしく、
生物基礎の講義には代理の講師が立てられた。

そうだ。考えてみればあの日の出来事は、大学講師が学生に恋心を抱いて玉砕しただけ。
どこにでも有る、とは言わないけれど、どこかには有る話なのかもしれない。
長い長い夏季休暇が明けた頃にはお互いに気持ちの整理もついて、
今まで通りの良好な関係に戻れるのではないか。

そんな甘えた考えが粉々に砕かれたのは、
心を癒やす期間であったはずの夏季休暇中のことだった。

35名無しさん:2020/05/08(金) 22:14:40 ID:oQEnZpwU0
一本の電話が来た。
聞き慣れた声の、聞き慣れない声色だった。

(-_-) 「もしもし?」

川 ゚ 々゚) 「私だけど、いま暇?」

(-_-) 「どうしたの?」

川 ゚ 々゚) 「私の家、来れる? 凄いもの貰っちゃった」

(-_-) 「凄いもの? 何言ってるか分からないんだけど」

川 ゚ 々゚) 「いいから。」

(-_-) 「ちょっと……うん、わかった。行くよ」

川 ゚ 々゚) 「あ、もう昼ご飯食べた?」

(-_-) 「いいや。どこかに食べに行く?」

川 ゚ 々゚) 「ううん。食べない方が良いかも」

掴みどころが無い会話。
ただ、落ち着いた口調ではあるけれど、彼女がひどく興奮しているのはわかった。

36名無しさん:2020/05/08(金) 22:15:24 ID:oQEnZpwU0
小さい頃から同じ学校に通っているだけあって、僕達の家はそれなりに近い場所に建っている。
それこそ、女子の家に遊びに行くのが恥ずかしくなる年齢までは、毎日のように彼女の家に通っていた程だ。

五分ほどかけて家に着くと、インターホンを押すより早く玄関の扉が開いた。

(-_-) 「急に家に来いだなんてどうしたのさ?」

川 ゚ 々゚) 「いいから入って」

(-_-) 「え? あ、うん」

玄関を開けて真正面の階段を上り、彼女の部屋に通される。
ファンシーな柄のクッションを床に置き、「どうぞ」と一言。
家族は留守にしているらしい。

川 ゚ 々゚) 「ここに来る途中で何か見た?」

(-_-) 「何かって?」

川 ゚ 々゚) 「その反応は見てないね。……あのさ、今朝うちに来たんだよ」

(-_-) 「何が?」

川 ゚ 々゚) 「……内藤先生が」

「内藤先生」
その一言で、全身に鳥肌が立つのを感じた。
僕はついさっきまで「それ」がいるかも知れない場所を歩いていたのか。

(;-_-) 「無警戒で来ちゃったじゃん! なんで先に言ってくれないの!?」

川 ゚ 々゚) 「先に言ったら来てくれてた?」

(;-_-) 「うっ……」

川 ゚ 々゚) 「うち、共働きだから昼間は私しか居ないしさ、窓割って入ってこられると多分抵抗できないんだよね」

37名無しさん:2020/05/08(金) 22:16:21 ID:oQEnZpwU0
(;-_-) 「わかったよ。僕は用心棒として呼ばれたってことね」

川 ゚ 々゚) 「それも有るけど、電話で言ったでしょ? 凄いもの貰ったって」

川 ゚ 々゚) 「今朝対応したのはお父さんなんだけど、"くるうさんの忘れ物です"って鞄を置いていったらしいの」

川 ゚ 々゚) 「で、その鞄がこれなんだけどさ」

彼女はベッドに放り投げられていた小さな鞄を持ち上げた。
鞄の中には荷物がぎゅうぎゅうに詰まっているようで、揺すってみても金具の擦れる音しか聞こえてこない。

(-_-) 「何が入ってるの?」

第六感じみた何かが警鐘を鳴らしている。
いや、そんな物が無くたって、話の流れで十分理解できる。
鞄の中には間違いなく悍ましい何かが詰め込まれている。

僕はこの質問をするべきではなかったし、
きっと次の瞬間には今まで経験したことのないような後悔が僕を襲うのだ。

38名無しさん:2020/05/08(金) 22:17:58 ID:oQEnZpwU0
鞄の口が開かれると、中にはきれいに畳まれた一枚の紙と、ガラスの瓶のようなものが入っていた。
瓶の中身は鞄の影になっていて、大まかな輪郭しか判らない。

川 ゚ 々゚) 「まずは紙からいこうか。これは私宛の手紙。直筆だね」

川 ゚ 々゚) 「"親愛なる素直くるう様"」

躁鬱のミミズがのたうち回ったような奇形の文字で書かれた手紙を、彼女はすらすらと読み上げていく。
僕が来るまでの時間に何度も何度も読み返したのだろう。

手紙は突然の訪問を詫びるところから始まり、
諸事情により入院していたことや、生物基礎の講義を途中で離脱してしまったことへの謝罪等が綴られていた。
しかし、単なる謝罪文かと思いかけた所で、その様子は一変する。

川 ゚ 々゚) 「"さて、先日の貴女への宣誓についても、お詫びしなければならないことがあります。"」

(-_-) 「……ん?」

川 ゚ 々゚) 「"私は貴女に全てを捧げると言いながら、あの日貴女に与えることができたのは一本のコーラだけでした。"」

川 ゚ 々゚) 「"与えたものは陳腐で、失ったものは小さい。私の言葉を信じていただけないのも無理はありません。"」

川 ゚ 々゚) 「"ですから、私は貴女に、私の人生を擲った奉仕を証明します。"」

川 ゚ 々゚) 「"私は全てを捧げます。だから、私には貴女の瞳を手にする権利がある"」

川 ゚ 々゚) 「……以上。おてがみ」

39名無しさん:2020/05/08(金) 22:19:12 ID:oQEnZpwU0
川 ゚ 々゚) 「終盤の話はガラス瓶の中身見ればわかるよ」

(-_-) 「……見なきゃ駄目?言葉で教えてよ」

川 ゚ 々゚) 「……」

彼女は少し考えた後、たった一言「カンガン」と呟いた。
意味がわからなかった僕は追加でいくつか質問してみたが、彼女からの回答はない。

(-_-) 「カンガン、カンガン……」

繰り返し呟いているうちに、視界の端に映っている瓶の内容物の輪郭と、この数ヶ月で得た知識が結びついていく。
そうだ、あれは亜研の部室で読んだ古代中国の歴史書――――

(-_-) 「…………」

(-_-) 「…………宦官」

(ill゚_゚) 「えっ……」

次の瞬間、彼女の両手が僕の口を塞ぐ。
込み上げる胃液は行く先を失って口内を満たした。
鼻の奥が強烈に痛み、一瞬意識が遠のく。

川 ゚ 々゚) 「部屋汚れちゃうし、このままトイレ行こっか」

40名無しさん:2020/05/08(金) 22:20:13 ID:oQEnZpwU0
便座を抱えるようにして口内の吐瀉物をすべて吐き出す。
嘔吐いても、嘔吐いても、胃を締め上げる不快感が消えることはない。
仮にも友人の女性の家で、余りにも情けない姿ではないか。

川 ゚ 々゚) 「ほら、お水もってきたから口ゆすいで」

(;-_-) 「ありがと。それで、警察はいつ来るの?」

川 ゚ 々゚) 「通報してないから来ないんじゃない?」

(;-_-) 「なんで!? こんな事になってるのに……!?」

川 ゚ 々゚) 「あのさ、これって何罪なの? 仮に逮捕されたとして、何年で戻ってくるの?」

(;-_-) 「え?」

川 ゚ 々゚) 「去勢して、瓶詰めして、送りつけて、懲役何年?」

川 ゚ 々゚) 「ストーカーだって初犯じゃ厳重注意で終わりだし、犯行重ねて逮捕されても二年で戻ってくるんだってさ」

川 ゚ 々゚) 「二年後って、私達まだ大学卒業してないじゃん」

川 ゚ 々゚) 「だからさ……」

川 ゚ 々゚) 「通報の前に、試してみるべきことがあるんじゃない?」

赤紫色の視線が再び僕を貫こうとしている。
僕にはもう、彼女が何を言っているのか理解できなかった。
スマートフォンの画面に映る見慣れた番号を、僕は霞がかった意識の中で眺めていた。

41名無しさん:2020/05/08(金) 22:20:37 ID:oQEnZpwU0
.






.

42名無しさん:2020/05/08(金) 22:21:42 ID:oQEnZpwU0
( ∵) 「ご注文は?」

川 ゚ 々゚) 「ドリンクバーを三人分」

一週間後、僕達はファミレスの一角で顔を突き合わせていた。
四人がけのテーブル席。僕の隣には彼女。
そして正面には、無表情に卓上の一点を見つめ続ける友人の姿があった。

川 ゚ 々゚) 「ツンはオレンジジュースだったよね。はいどうぞ」

川 ゚ 々゚) 「……大丈夫? 喋れる?」

ξ゚⊿゚)ξ 「……うん、ありがと」

ξ゚⊿゚)ξ 「……」

ξ゚⊿゚)ξ 「……くるうの言ってたこと、全部本当だった」

ツンさんは俯いたまま、絞り出すように言葉を発した。
店内BGMとして流れているラジオ番組では、行方不明となった大学講師に関するローカルニュースが報道されている。

ξ゚⊿゚)ξ 「全部、私が終わらせたから」

ξ゚⊿゚)ξ 「あなた達はストーカー被害を私に相談しただけ。それで良いんでしょ?」

川 ゚ 々゚) 「……そう。嫌な役目を押し付けちゃったね」

ξ゚⊿゚)ξ 「本当にそう思ってる?」

川 ゚ 々゚) 「……当たり前でしょ」

最悪の贈り物が届いたあの日、彼女は只々単純に、彼女が体験した全ての出来事をツンさんに伝えた。
十年越しの恋心を最悪の形で裏切られたツンさんがどういった行動に出るのか?
そんなのは、僕にでも容易に想像できることだった。

ξ゚⊿゚)ξ 「……ごめん、やっぱり心の整理ができてないみたい」

ξ゚⊿゚)ξ 「報告は終わったし帰っていいでしょ? ヒッキー、送ってって」

川 ゚ 々゚) 「そうだね。もう暗いし送ってあげたら?」

(-_-) 「え? ……ああ、わかった」

43名無しさん:2020/05/08(金) 22:22:36 ID:oQEnZpwU0
「駅まで送ったら戻ってくる」彼女にそう告げて、僕とツンさんはファミレスを後にした。
足取りは限りなく重い。殺人者と、犯行を唆した者。
僕達もまた、赤紫の瞳に魅入られたのだろうか。

(-_-) 「あのさ」

ξ゚⊿゚)ξ 「うん?」

(-_-) 「この後どうするつもり?」

ξ゚⊿゚)ξ 「警察に行くわよ勿論。やったことの責任は取らなきゃね」

(-_-) 「後悔してる?」

ξ゚⊿゚)ξ 「全然……っていうのは嘘。でも、ちょっと安心してる」

(-_-) 「安心?」

ξ゚⊿゚)ξ 「私ね、ブーンを殺した時より、くるうの話が全部本当だってわかった時の方が苦しかった」

ξ゚⊿゚)ξ 「上手く言えないんだけど、私の好きだったブーンはずっと前に死んでて……」

ξ゚⊿゚)ξ 「今目の前にいるのは、その皮を被った別の何かだって……そんな気持ちになったの」

ξ゚⊿゚)ξ 「だけど、ブーンが死んだ今、これ以上あいつが損なわれることはないって」

ξ゚⊿゚)ξ 「そう思うと、ちょっと安心する」

(-_-) 「……」

ξ゚⊿゚)ξ 「ねえ、ヒッキーも今、くるうに対して同じようなことを考えてるんじゃない?」

44名無しさん:2020/05/08(金) 22:24:07 ID:oQEnZpwU0
ツンさんの言葉を、僕は完全には否定することができなかった。

素直くるうという人間はこの数ヶ月で決定的に変質してしまっていて、
それはある意味で「素直くるうの死」に違いなかった。
だけど――――

(-_-) 「だけどそれは多分、誰にでも言えることなんだよ」

(-_-) 「くるうが変わって、内藤先生が変わって」

(-_-) 「その変化を悲しむ僕やツンさんだって、この何日かで随分変わっちゃったんじゃないかな?」

ξ゚⊿゚)ξ 「……」

(-_-) 「古い僕が死んで、新しい僕が生まれて、誰かが悲しんで、誰かが喜ぶ」

(-_-) 「きっと世界はそれの繰り返しで回ってて……」

(-_-) 「だから僕はもう暫く、くるうと一緒に生きようと思うよ。悲しみながらね」

ξ゚⊿゚)ξ 「……あ、そ。じゃあ、せいぜい私は祈っておくことにするわ」

ξ゚⊿゚)ξ 「あなた達が私とブーンみたいにならないことをね」

「私はもう良いから戻りなさい」
そう言ってツンさんは僕の背中を叩いた。
僕は思わずつんのめって、二、三歩。足取りの重さは嘘みたいに無くなっていた。

45名無しさん:2020/05/08(金) 22:27:53 ID:oQEnZpwU0
素直くるうはこれからも、変わりながら進んでいく。

いつか誰かが彼女の死を悼み、その誰かの死をまた別の誰かが悼む。
「誰か」は僕かもしれないし、僕以外の何者かになるかもしれない。
或いは彼女自身が彼女の死を悼む側に立つのかもしれない。

そうしてきっと僕達の後ろには、どこまでもどこまでも、
僕達の死を悼む葬列が続くのだろう。

ただし、それは決して悲劇のみで彩られた営みではなく――――

46名無しさん:2020/05/08(金) 22:31:36 ID:oQEnZpwU0
完結です。挿絵ではなく全体のイメージとして以下お借りしました。

https://res.cloudinary.com/boonnovel2020/image/upload/v1588208781/22_jpvbtc.png
https://res.cloudinary.com/boonnovel2020/image/upload/v1588208779/54_nx6u9a.jpg
https://res.cloudinary.com/boonnovel2020/image/upload/v1588208813/137_tie3a8.png

ありがとうございます。

47名無しさん:2020/05/08(金) 22:33:15 ID:jTpT/2UU0
おつ

48名無しさん:2020/05/09(土) 00:57:30 ID:BU7Y.Xhg0
ビターな感じだった、乙

49名無しさん:2020/05/09(土) 07:52:00 ID:8kPGCl8Y0
乙乙

50名無しさん:2020/05/12(火) 14:21:09 ID:Zi8L7xZY0

きれいな文章なのに内容が気持ち悪くて良い

51名無しさん:2021/01/19(火) 00:20:40 ID:M6p1QeOw0
今更ながら乙
好きな文章だった


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