[
板情報
|
カテゴリランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
| |
('、`*川しがないブーン系作者と<_プー゚)フ読者のようです
1
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 14:14:06 ID:vBPKWjNo0
ラノブンピック参加作品です
40
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:02:34 ID:vBPKWjNo0
構想してた二作品のうち、起承転結が固まってきたほうから着手した。
今のところはそれなりに進捗もいい。今のところは、だけど。
<_プー゚)フ「投下期間まであと一か月だろ。いけそう?」
('、`*川「多分」
<_フ;゚ー゚)フ「多分って……頼りねーなぁ……」
いざとなればスマホでも文字は打てる。
授業中にこっそり内職すれば……いや、無理か。先生にバレたらヤバい。読み上げられでもしたら終わる。
<_プー゚)フ「ま、頑張れよ。ペニサス先生の新作、楽しみにしてんぜ」
('ー`*川「うん」
先生だとか、楽しみにしてるだとか、言うほうはケロッとしたものだけど。
作者ってやつは、そういうので簡単にモチベが上がっちゃう生き物なんだ。
高揚感で胸が満たされていく。頑張ろう、と思った。
41
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:03:01 ID:vBPKWjNo0
だけど、好調なのは最初のほうだけだった。
('、`*;川(……ちょっとまずいよね、これ……)
投下開始まで、あと一週間。
予定ではもう二作品とも書き上げて、推敲に入る段階のはずだった。
('、`*;川(なんか違う気がする……ここ全部消そう……)
一行書いてはやっぱり気に入らなくて五行消すような有様。
推敲どころか、最初に着手した作品すら書きあがってない。
('、`*;川(ああもうダメ、面白くない! やっぱりこのオチじゃダメだ、展開ごと変えないと……!)
<_フ;゚ー゚)フ「ペニサス、ちょっと根詰めすぎじゃね? 大丈夫か?」
<_フ;゚ー゚)フ「俺が寝たあとも書いてんだろ? 寝不足じゃいい作品なんか書けねーって」
42
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:03:55 ID:vBPKWjNo0
夜中のほうが筆が進む気がして、眠気の限界までPCに向かい続けた。
確かに筆は進む。進むけど、せっかく書き溜めた文章も次の日見るとひどいもので、結局消してしまって。
('、`*川「だって進捗悪いんだもん……それにちゃんと寝てるし」
<_プー゚)フ「三時だか四時だかに寝て六時半に起きるのを、ちゃんと寝てるとは言わねーだろ」
('、`#川「は? 何なの? 偉そうに」
エクストのほうが正しいことも、自分がちゃんと寝てないこともわかってる。
なのにこんなにイライラするのは正論を言われたせいなのか、寝不足のせいなのか、筆が進まない焦りなのか。あるいは全部?
<_プー゚)フ「いいから今日はもう寝ろって。疲れてんだよお前」
('、`#川「うるさいなぁ! ほっといてよっ!」
「綾子?」
43
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:04:27 ID:vBPKWjNo0
ドアの向こうから聞こえた思いがけない声に、イライラを一瞬だけ忘れた。
(゚、゚トソン「何大声出してるの?」
('、`*;川「……お母さん……いつ帰ってきたの……?」
(゚、゚トソン「さっきよ。ただいまって言ったけど、聞こえなかった?」
そんなの全然聞こえなかった。きっと集中してたせいだ。
(゚、゚トソン「それより……玄関の鍵開いてたわよ。不用心ね」
('、`*川「あ……ごめん……」
それもきっと集中していたせいだ。
ここ数日頭にあるのは書き溜めのことだけで、登下校中も進捗のことばかり考えていた。
44
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:05:23 ID:vBPKWjNo0
(゚、゚トソン「綾子は留守番が多いんだからしっかりしないと。世の中物騒なのよ」
('、`#川「そんなのわかってる。やることあるから、用ないなら出てって」
(゚、゚トソン「ちょっと、全然わかってないでしょ? ちゃんと話を聞きなさい」
さっきと一緒。自分が悪いなんてことわかってる。それがわからないほど私はバカじゃない。
寝不足なのも、鍵をかけ忘れたのも、進捗が悪いのも、面白い話が書けないのも、エクストに八つ当たりしたのも、全部自分のせい。
わかってる。だけどイライラはどうしようもなく湧き上がってきて、もう止められない。
('、`#川「うるさい!! 元はといえば、お母さんが私のこと一人にするからじゃん!」
(゚、゚;トソン「……っ」
('、`*;川「……あ……」
45
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:07:17 ID:vBPKWjNo0
お母さんが私を一人にするのは、仕事のため。
……私のことを守るため。
(-、-トソン「……そうよね。ごめんなさい」
('、`*;川「お、お母さん……」
お母さんの足跡が遠ざかっていく。鼻を啜る音が聞こえた、気がした。
追いかけなきゃ。追いかけて謝らなきゃ。
(;、;*川「あー……もう……なんで……クソ……」
(;、;*川「八つ当たりしてんじゃねえよ……ガキかよ……」
46
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:08:07 ID:vBPKWjNo0
感想がほしい? 有名になりたい?
趣味ごときで勝手に煮詰まって、イライラして、周りに当たり散らす奴が?
バカか。作者どころか人間としても未熟なくせに。
(;、;*川「うー……うー……」
こんなクソガキに面白い作品なんて書けるわけがない。
むかつく。もう全部むかつく。何がむかつくって、自分が一番むかつく。
(;、;*川(……もう無理)
PCをシャットダウンすることすら面倒で、電源ボタンを押して無理やり終わらせた。
そういえば保存してなかったかもしれない。どうでもいいけど。
<_フ;゚ー゚)フ「あのさ……お前の母ちゃん、お前のこと心配して言ったんだと思うぞ……」
(;、;*川「……」
頭まで布団を被ったら、エクストはもう話しかけてこなかった。
こんな子供じみた態度をとる自分に、また苛立ちが募る。
47
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:08:56 ID:vBPKWjNo0
(;、;*川(本当、最低……)
渡辺さんも、ブーン系も、ラノブンも、もう全部どうでもよかった。
私なんかが渡辺さんと仲良くできるわけない。このまま友達ゼロでいるのがお似合いだ。
私の作品なんか誰も好きになってくれるはずない。乙の一言さえ受け取る価値がない。
ああ、明日の朝起きる前に、死んじゃってたらいいのに――
48
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:10:16 ID:vBPKWjNo0
('、`*川「……ん……」
当然だけど、私は死んでしまうことなく目を覚ました。
睡眠をとったお陰か精神状態はだいぶましになってる。
とはいえ昨日の自分の言動を振り返ると、心臓の辺りが重たい。
<_プー゚)フ「おはよーさん、ペニサス」
('、`*川「あ……おはよ……」
('、`*;川「……え? エクスト……ちょっと、それ……」
<_フ;゚ー゚)フ「……やっぱお前からも、そう見える?」
エクストの体が、半透明になっていた。
49
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:11:27 ID:vBPKWjNo0
エクストの体を触ったら、きっともっちりした感触なんだろうなと思ってた。
だけどそれも昨日までの話になってしまった。
('、`*;川「どういうことなの? なんで急に……」
<_フ;゚ー゚)フ「わかんねーよ。起きたらもうこんな感じで」
エクストの向こう側にある本棚が、曇りガラスでも通したように透けてる。
試しに手をかざしてみたけど、やっぱりぼんやりとした肌色が見えた。
<_プー゚)フ「ま、俺って元から不安定な存在だったしな。仕方ねーよ」
('、`*;川「仕方ないって……どういう……」
<_プー゚)フ「ん? 多分ぼちぼち消えるだろうなってこと」
消えるって、誰が?
……エクストが?
50
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:12:49 ID:vBPKWjNo0
何それ。
何なの、それ。
( 、 *川「なんでそんな、あっさり……」
<_プー゚)フ「だから仕方ないだろ。ある日突然いなくなるってパターンでも、全然不思議じゃねーし」
<_プー゚)フ「自分でもよくわかんねー感覚だけどさ、なんとなくわかるんだ。あとちょっとだろうなって」
( 、 *川「それって……あと、どのくらい?」
<_プー゚)フ「そうだなぁ。一週間ってとこかな」
一週間後。
ちょうどラノブンが始まる日。
51
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:14:00 ID:vBPKWjNo0
<_プー゚)フ「できれば結果発表まで見たかったんだけどな。しょうがねえか」
( 、 *;川「だからっ!!」
( 、 *;川「バカじゃないの!? なんでそんな冷静なの!?」
エクストとの付き合いはそこまで長いわけじゃない。
せいぜい一か月。たったそれだけの付き合い。
だけど、だけどさ。
( 、 *川「あんまりでしょ……」
( 、 *川「……こんな、いきなりって……ないよ……」
52
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:15:31 ID:vBPKWjNo0
<_プー゚)フ「ペニサス」
( 、 *川「……」
<_プー゚)フ「ありがとな」
( 、 *川「……」
<_プー゚)フ「でもどうしようもなさそうなんだ。ごめん」
( 、 *川「……」
<_プー゚)フ「ほら、遅刻すんぞ。さっさと着替えろ」
53
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:16:45 ID:vBPKWjNo0
それからはずっと上の空で過ごした。
授業はまったく理解できなかったし、ご飯の味もよくわからなかった。
どうすればエクストを助けられるのか、そればかり考えていた。
('、`*川(神社とかお寺に行けば、なんとかしてくれるかな……)
いわゆる霊能者とか呼ばれる人達に頼ることは、一番最初に思いついた。
でもお祓いならまだしも、この世に留めておく方法なんて。
('、`*;川(……諦めちゃダメ……考えるんだ、絶対何か方法があるはず)
活路はきっとどこかに残されているって、昔何かで読んだ。
あれも確かブーン系だったはず。なんの作品だっけ。
いや、今そんなことはどうでもいい。
54
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:19:13 ID:vBPKWjNo0
('、`*川(……ブーン系、か……)
考えてみれば、今の私の状況だって、随分と創作っぽい。
そうだ。もしもこれがブーン系小説だとしたら?
私がこれを書く作者なら、この物語をどう終わらせる?
どうやってエクストを救い出す?
('、`*;川(エクストと私の繋がり……AA……ブーン系……)
('、`*川(……ラノブンピック……?)
一週間後から始まる、ファ板を挙げての祭り。
たとえばそこで、私が作品賞を獲ったら?
そのご褒美のように、エクストがこの世にいられるようになる、そんな大団円なら?
それはきっとものすごく綺麗なエンディングじゃないだろうか?
55
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:20:19 ID:vBPKWjNo0
これが物語だとしたら、そんな筋書きになるだろうと思っただけ。
なんの根拠もないただのこじつけ。蜘蛛の糸より細い希望。
だけど。
('、`*川(これしか思いつかない)
('、`*川(……これに縋るしかない)
あと一週間。
最高の作品を書き上げて、票を集めて、ラノブンで優勝する。
それが私にできる唯一の方法。
56
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:21:17 ID:vBPKWjNo0
思いついてしまえば後は早かった。
授業が終わった瞬間、誰よりも早く教室を飛び出た。
小説を書くのには時間がかかる。一分一秒でも惜しい。
<_フ;゚ー゚)フ「おいコラ! 帰ったらまず手洗いうがいだろうが!」
('、`*川「後で!」
<_フ;゚ー゚)フ「後でじゃダメなんだっつーの!」
57
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:22:21 ID:vBPKWjNo0
('、`*;川(うわ……やっぱり上書きできてなかった……)
('、`*川(まあいっか、どうせ全部書き直すつもりだったし)
('、`*川(焦っちゃダメ。まずは起承転結から練り直さないと)
最初の構想のままだと、とても面白くはなりそうになかった。
書きかけを消してまっさらにしたあと、思いつく限りのネタを書き込む。私のいつものやりかただ。
<_プー゚)フ「いいネタでも浮かんだのか?」
('、`*川「浮かびそう……な気がする」
<_プー゚)フ「へー。今から書けばギリギリ間に合いそうじゃね?」
そう、時間は本当にギリギリ。
投下開始は土曜日で、学生の私に平日執筆できる時間は少ない。
しかも懸念はそれだけじゃない。
58
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:22:46 ID:vBPKWjNo0
('、`*川(……いつもの私の作風じゃ、票が取れない)
私の作品は、とにかく暗い。
誰かが泣いたり、殺したり、殺されたり、不幸になったり。
今回考えていたものだって、エクストに言われたように重いストーリーだった。
('、`*川(なるべく万人受けするようなものを書かなきゃ)
万人受けする作品なら優勝できるとは限らない。
だけど邪道を突き進んで勝ち取れるほど、私に技量はない。
今までの自分がそれを証明してる。
('、`*川(ほのぼのとか、ギャグとか、誰にでも読まれるようなジャンルがいいよね)
('、`*川(AAも人気のあるやつを使って、定番のカップリングにしよう。ニュッデレとかデミペニとか、固定ファンがいるやつ)
59
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:23:36 ID:vBPKWjNo0
作風を変えるということはものすごく勇気が要ったし、できるのか不安だった。
だけどいざ指を動かしてみたら、意外にも筆はスイスイ進んだ。
('、`*;川(よかった、なんとか書けそう)
私はわりと長くブーン系という世界にいるから、名作と呼ばれる作品もたくさん読んできた
そこから読者受けしそうな要素を少しずつ拝借して、継ぎ接ぎするように文章を作った。
('、`*;川(大丈夫、面白いはず……これだけ考えたんだもん、面白いものが書けるはず……)
この調子なら一週間後には書き上げられる。
きっと読者受けのいい作品ができる。たくさん投票してもらえる。作品賞も獲れる。
だから、書いてて全然楽しくないことには、気付かないふりをした。
60
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:24:49 ID:vBPKWjNo0
<_プー゚)フ「……」
('、`*川「ど、どうかな」
四日後、作品は完成した。
エクストに読んでほしいとお願いしたのは、意見をもらって作品の完成度をより高めるため。
少し緊張するけど、受賞のためならできることは全部やっておかなくちゃならない。
('、`*川「お世辞抜きにして、率直な感想を聞きたいんだけど……」
<_プー゚)フ「……じゃあ、正直に言うけど」
<_プー゚)フ「これ、めちゃくちゃつまんねえ」
('、`*川「…………え?」
61
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:26:53 ID:vBPKWjNo0
<_プー゚)フ「読んだあとの余韻なんかも全然ねえし、心にも残らねえ。読み返したくもならねえ」
('、`*;川「そんな……あ、そ、それほのぼのだからじゃない? ああいうのって一回読んだら満足するんじゃ……」
<_プー゚)フ「僕モナも厄姫様もいまだに読み返してる奴いるだろ。お前、ほのぼのなら簡単に書けるとか思ってんの?」
('、`*;川「……」
そんなつもりはなかった。
ただみんな優しい話が好きだと思ったから。優しくてハッピーエンドな話が好きだと思ったから。
<_プー゚)フ「お前さ……これ書いてるとき、楽しかった?」
('、`*;川「……っ」
<_プー゚)フ「やっぱりな。おおかた読者受け狙って書いたんだろ。全然魂こもってねーもん」
( 、 *;川「魂って……」
<_プー゚)フ「パッションだよ、パッション。書きたいテーマ。読者にぶつけたいもの。そういうの考えてたか?」
62
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:27:48 ID:vBPKWjNo0
書きたいテーマ。ぶつけたいもの。
そんなものあるはずない。
だって、私が欲しかったのは――
<_プー゚)フ「これが受賞狙いっつーなら、まぁ無理だと思うぜ」
( 、 *;川「…………」
そんなこと。
そんなこと、言われたって。
63
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:28:40 ID:vBPKWjNo0
( 、 *川(どうしたらいいんだろう)
エクストに酷評されたあの話は、結局消してしまった。
推敲どころか読み返したくもなかった。
( 、 *川(あと二日)
絶望的だ。
たった二日ぽっちで完成させられるわけがない。
何よりこんな精神状態で、小説なんて書けるわけが――
<_フ;゚ー゚)フ「ペニサス! 前ッ!!」
('、`*川「えっ?」
顔を上げた瞬間、自分に迫っている車が見えた。
64
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:29:26 ID:vBPKWjNo0
<_プー゚)フ「ったく、腕かすっただけでよかったぜ」
<_プー゚)フ「しばらくは不便かもしれねーけど、不幸中の幸いってやつだな」
<_プー゚)フ「ま、それもこれも俺が咄嗟に叫んだおかげだけど。やだ、俺ってば命の恩人?」
( 、 *川「……もうダメだ」
<_プー゚)フ「んぁ?」
( 、 *川「……ラノブン、間に合わない……」
<_プー゚)フ「そりゃ仕方ねーだろ。同じチームの奴らも鬼じゃねーんだし、わかってくれるって」
( 、 *川「違うっ!」
65
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:30:17 ID:vBPKWjNo0
<_フ;゚ー゚)フ「いやいや……悔しいのはわかるけどよ、そんなムキにならなくても……」
( 、 *川「違う……違うの……そうじゃなくて……」
(;、;*川「このままじゃ、エクストがぁ……」
全治二週間と診断された。
大袈裟なギプスまで嵌められた。
こんなんじゃタイピングなんてできない。あと二日だなんて、到底間に合わない。
66
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:31:15 ID:vBPKWjNo0
<_フ;゚ー゚)フ「俺? 俺がなんだって?」
(;、;*川「わ、私が賞獲らないと……エクストが、消えちゃう……」
<_フ;゚ー゚)フ「は? なんの話?」
賞を獲ればエクストがずっとそばにいてくれるなんて、私が勝手に思い込んだだけ。
なんの根拠もなかった。もっと言えば、受賞できる勝算もなかった。
<_プー゚)フ「バカだなぁ、ペニサスは」
(;、;*川「だって、だってぇ……っ」
<_プー゚)フ「俺のために慣れない作品書いて、怪我までして」
<_フ ー )フ「……バカだよ、本当に……俺はもう、諦めてたのに……」
67
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:32:10 ID:vBPKWjNo0
(;、;*川「ねえ、どうやったら、ここにいてくれるの?」
<_フ ー )フ「……」
(;、;*川「私、エクストがいなくなるの、いやだよ」
(;、;*川「……いやだよぉ……」
初めてブーン系のことを語り合えた。
初めて目の前で感想を言ってもらえた。
初めて誰かに八つ当たりもした。
初めて、友達ができた。
68
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:33:15 ID:vBPKWjNo0
<_プー゚)フ「……こればっかりは仕方ねーんだ。それは本当、悪いと思ってるけど」
<_プー゚)フ「お前も作家なら、これをネタに一本書け」
<_プー゚)フ「小説好きの幽霊と小説家のハートフルストーリーなんて面白そうじゃん」
(;、;*川「ハ、ハートフルなんて、無理だよ……私、暗い話しか書けないもん……」
<_プー゚)フ「バカ。そんなの思い込みだ」
<_プー゚)フ「お前の作風がそうだっていうならそれでいいよ。でも色々書いてみたいっつーなら、もっとアンテナ張れ」
<_プー゚)フ「殻に閉じこもるのはやめて、色んなもんを見て、体験して、自分の血肉にしていけ」
<_プー゚)フ「大丈夫、お前なら書けるよ。俺のために頑張れるくらい優しい奴だから」
69
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:34:21 ID:vBPKWjNo0
エクストの声は優しくて、胸に染み込んでいく。
それが嬉しくて悲しかった。
だってこんなの、物語の終わりみたいじゃないか。
<_プー゚)フ「まずは母ちゃんに謝れ。あれからずっと落ち込んでるみたいだぞ」
(;、;*川「……うん」
<_プー゚)フ「あと、俺とブーン系の話するときの笑顔、学校でもあの顔でいっとけ。いい感じだから」
<_プー゚)フ「渡辺さんだっけ? あの子にも話しかけてみろよ。確か席も近かっただろ」
(;、;*川「うん」
70
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:35:01 ID:vBPKWjNo0
<_プー゚)フ「ほら、母ちゃん来たぞ」
(;、;*川「へ……?」
かつかつこつこつ、慌ただしくヒールが床を叩く音。
驚く暇もなく、血相を変えたお母さんが部屋に入ってきた。
(゚、゚;トソン「綾子!!」
(;、;*川「おか、お母さん……」
(;、;トソン「病院から電話がきて……よかった、よかったぁ……!」
71
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:35:52 ID:vBPKWjNo0
(;、;*川「お母さん、仕事は……?」
(;、;トソン「何言ってるの! 仕事なんてどうでもいいわよ!」
(;、;トソン「綾子のほうが大事に決まってるでしょ!!」
お母さんはいつも夜遅くまで働いていて、私は物心つく頃から一人ぼっちだった。
一人暮らしみたいで気楽だなんて強がっても、やっぱり寂しくて。
それを恨まなかったと言えば嘘になってしまうけど。
(;、;*川「お母さん、ごめん……ひどいこと言って……ごめんなさい……」
(;、;トソン「お母さんも……いつも一人ぼっちにして、ごめんね……」
お母さんと抱き合ってわんわん泣いた。
誰かの前でこんなに泣いたのなんて、初めてだった。
72
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:36:25 ID:vBPKWjNo0
そして、次の日。
('、`*川「んー……」
('、`*川「……朝かぁ」
('、`*;川「あてっ、いてて……腕いってぇ……」
('、`*川「エクスト、おはよう」
('、`*川「……エクスト……?」
別れの挨拶もできないまま、エクストは消えてしまった。
73
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:37:44 ID:vBPKWjNo0
家中どこを探しても、エクストはいなかった。
トイレの蓋を開けてみても「何やってんだよ」と笑う声は聞こえなかった。
('、`*川「……なによ」
('、`*川「消えるの、ラノブンが始まる日だったはずじゃん」
(;、;*川「……バカ……」
74
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:38:48 ID:vBPKWjNo0
その後、ラノブンピックは無事に幕を下ろした。
投下できなかったことに作者として悔しさはあったけど、
大して名も知られてない私が欠場したところで、気に留める人は少なかった。
ただ、所属チームのスレで謝罪も兼ねてハイ俺をしたとき。
一人だけ私にレスをくれた人がいた。
「読めなくて残念だ。次の機会を楽しみにしてる」
社交辞令かもしれない。
だけど私は単純だから、画面の前でニヤニヤしてしまった。
「手が治ったらすぐに新作書こう」なんて思えるくらいには、嬉しかった。
75
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:40:03 ID:vBPKWjNo0
そして、それから数年後の今。
('、`*川「もしもーし、ナベ? どうしたの急に」
('、`*;川「え、街コン? いやー、私そういうのよくわかんないし……」
('、`*川「あー……でも新作のネタになるかも……」
('、`*川「あ、ごめんなんでもない。うん、行く行く」
('、`*川「うん、詳しいことは今度教えて。うん、じゃあねー」
('、`*川(……ジーンズで行ってもいいのかな……)
('、`*;川(って、うわー! あぶな! 誤爆するところだった!!)
危うく別のスレに誤爆するところだった。
やっぱり気が散った状態での投下はよくない。
未来の街コンよりも目先の作品。集中集中。
76
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:40:53 ID:vBPKWjNo0
大学生になった私は、今もまだブーン系を書いている。
相変わらず気が滅入るような話しか書けないし、投下の頻度もひどいもんだけど。
乙をくれる人も増えたし、「●●の人」って作品名で呼んでくれる人も増えた。
有名作者にはなれそうもないけど、筆を折ろうと思わないくらいには楽しくやってる。
('ヮ`*川「よし! おーわりっ!」
今日、数か月ぶりに短編を投下した。
ウーンと伸びをして、今しがた投下を終えたばかりのスレを読み返す。
……うん、大丈夫。レスも飛ばしてないし、誤字もない。オッケー。
77
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:41:42 ID:vBPKWjNo0
('、`*川(うおっ、レスきてる)
ほんの十数分目を離していただけなのに、もうレスがついていた。
やっぱり土日は反応が良い。
('ー`*川(嬉しいなぁ)
胸がじんわり暖かい。ニヤけながらスレを開いた。
「乙。面白かった」
「エクストが主役って新鮮だな」
('ー`*川「……ふふ」
78
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:42:48 ID:vBPKWjNo0
あれから私は、エクストのAAをよく使うようになった。
正直、エクストというキャラクターは使いづらい。
ブーンやドクオみたいに口調や性格のテンプレがないから。
自分でキャラ付けしないといけないし、主役にしてもなんだかパッとしない。
「あんたの書くエクスト好きだわ。乙」
でもまあ、こんな風に言ってくれる人もいることだし。
私が有名AAにしてやるくらいの意気込みでやっていくのも悪くない。
79
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:43:26 ID:vBPKWjNo0
なにより、こうして書いていればまたあいつに会えそうな気がするから。
あいつは私の作品を見たらなんて言うだろう?
「もっとかっこいいキャラにしろ」なんて文句をつけてくるかな。
それとも、柄にもなく照れたりするんだろうか。
('ー`*川(相変わらずブーン系は面白いよ、エクスト)
やれ過疎だのやれ終わっただの言われようが、祭りがあると人が集まるし。
数が減ったとはいえ、なんだかんだで投下はされるし。
私はなんだかんだ、この場所が大好きだ。
80
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:45:39 ID:vBPKWjNo0
支援や乙がつかなくても、有名作者になれなくても。
自分の思うがままに、書きたいがままに、作品を創っていくしかない。
それが誰かの目に留まれば儲けものだ。
('ー`*川(私はこれからも、ぼちぼち書いていくからさ)
実は今、細々と書き溜めているものがある。
人気に伸び悩む作家と、その前に唐突に現れた幽霊の話。
ほのぼのでハートフルな作品は苦手だ。筆の進みは遅いけど、書いている時間はすごく楽しい。
へたくそでも、誰に受けなくても、私は書き続けよう。
いつかどこかで、あいつが読んでくれることを祈りながら。
81
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:48:15 ID:vBPKWjNo0
('、`*川しがないブーン系作者と<_プー゚)フ読者のようです
終
.
82
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/29(水) 15:48:55 ID:vBPKWjNo0
投下終了です。ありがとうございました。
画像のURLがバグって見えませんが、登録ナンバー
>>45
のイラストを使用しました。
83
:
名無しさん
:2020/04/29(水) 16:06:56 ID:FzpaWo0s0
乙!!
84
:
名無しさん
:2020/04/30(木) 10:29:59 ID:58kfNXNY0
おつんつん
85
:
◆/cEv93/Jd.
:2020/04/30(木) 21:55:25 ID:Yk9dEuHQ0
画像が表示されない場合の安価の付け方を間違えていました。
念のためもう一度記載します。
>>5
に№45のイラストを使用しました。よろしくお願いします。
86
:
名無しさん
:2020/05/03(日) 13:59:03 ID:aNtI7k6I0
VIPの時代を知ってる女子高校生、希少種だ
87
:
名無しさん
:2020/05/06(水) 17:56:59 ID:GOt04uEY0
乙。めちゃくちゃすき。
88
:
◆S/V.fhvKrE
:2020/05/07(木) 00:08:27 ID:0TU9Mp9k0
【投下期間終了のお知らせ】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)
となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)
89
:
名無しさん
:2020/05/16(土) 10:09:05 ID:YjOnp3R20
乙
よかった
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板