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独白のようです

1 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:18:08 ID:p6QegxhM0
ラノブンピック参加作品

2 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:18:39 ID:p6QegxhM0
('、`*川「先生、本日もお疲れ様です」

すれ違う看護婦から労いの言葉を受けて、私は軽く頭を下げた。
前へ向き直り、鈍色の廊下を歩く。

かつん、かつんと革靴が音を立て、それらが静寂へ吸い込まれていく。
音は事象の証明だ。私は今、廊下を歩いていることを耳で確認している。

3 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:19:02 ID:p6QegxhM0
暫く歩き、錆びた鉄扉の前に辿り着く。
お世辞にも綺麗とは言えないが、ここは立派な “病室” なのだ。

鉄扉の閂を力を込めて引き抜き、自由になった扉をゆっくりと押す。
ぎぃ、という錆びついた重い音を立て、左右に開いた。

4 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:19:30 ID:p6QegxhM0
('A`)「先生」

開くと同時に、目の前に張り巡らされた鉄柵の中から声が聞こえた。

“彼” だ。

私の患者にして大切な友人、鬱田ドクオだ。

('A`)「先生おはよう。今日も来てくれてありがとう」

私はドクオに笑顔を向けて柵の中に入る。
そして、ドクオが座っている椅子とは反対側の、
向かい合うように置かれたもう一つの椅子に腰掛けて彼と対峙した。

5 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:19:55 ID:p6QegxhM0
('A`)「先生、今日は調子がいいんだ。繭の住人、コクン=ノイド達もおとなしい。
   地上はどうだい? 俺はコクン=ポリスを管理する任務があるから、ここを離れられないけど
   先生が毎日来て俺の話を聞いてくれるから、俺は助かっている。孤独じゃない。本当にありがとう」

そう早口で捲し立てて、彼は手元の手帳に向かって筆を執り、ひたすらに何かを書き殴る。
筆の頭が乱暴に振り回され、紙の上で踊り狂っている。
何をしているのかは想像もつかないが、どうやら “仕事” をしているようだ。

6 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:20:16 ID:p6QegxhM0
私は精神科医だ。

元々は大きめの病院に勤めていたのだが、そこの杜撰な管理体制に嫌気がさして辞職した。
こんな時代、癲狂院は精神病患者で溢れておりどこも満員だ。
そもそも治療費が高く一部の富裕層しか利用できない。

そういった背景も相まって、今では訪問医として
私宅監置となっている精神病患者の治療を行うことで生計を立てている。

7 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:20:46 ID:p6QegxhM0
('A`)「先生、地上は大変だって聞いたぜ。
   戦争孤児の受け入れが全然追いつかなくて、町中は赤ん坊の死体で溢れているんだろ?
   さながら阿鼻叫喚の地獄だろうな。畜生。
   あんな奴らが突然現れて、俺たちの生活をめちゃくちゃにしやがったからだ」

8 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:21:06 ID:p6QegxhM0
彼の症状は統合失調症だ。

彼の中では、外宇宙から紫色のひょうたんのような見た目をした化け物がこの地球に飛来して、
侵略の限りを尽くした後、地下へと移り住んで都市を築き、独自の文化様式を形成していることになっている。

彼の仕事は、その化け物どもが跋扈する街を観察し、何か不審な動きが確認できれば、
手元にあるボタンを押して、地下都市に仕掛けられた爆弾を作動させる。

そうすれば、悪しき侵略者どもは押し並べて生き埋めだ。
人類は、文字通り化け物の上に立ち、取り戻した地上にて再び支配者となる。

彼は以前、鼻の穴を膨らませてそう語ってくれた。

9 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:21:31 ID:p6QegxhM0
(;A;)「あいつら、本当に許せねえ。俺の大切な妹も、恋人も、みんなあいつらに殺された。
   だから俺は、少しでもあいつらが変なことをしたら、この記録を書く手を止めて、
   このボタンを押して、コクン=ポリスを木端微塵にしてやるんだ。畜生。いつかぶっ殺してやるからな」

そういって彼は、右手を強く握り締めて、私の前に掲げた。
爆弾のボタンとやらがそこに実在しているかのように。

10 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:21:52 ID:p6QegxhM0
実に哀れに思う。

被監置者とは孤独なものだ。
“治療” という体で密室に監禁され、座敷牢宜しく人目につかないところに匿われている。
これもすべて、現代医療の発達が諸外国に比較して遅れていることが諸悪の根源だ。

彼には妹はおろか恋人なんていない。家族は、痩せ細って疲れ果てた顔をした両親だけだ。
この離々たる密室の中で、頭の中に架空の人間関係を構築し、独りぼっちであることを誤魔化しているのだ。

11 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:22:15 ID:p6QegxhM0
(;A;)「うぅ……先生……。つれえよ。先生……」

彼は涙を流しながら苦しそうに右手で喉を抑え、何かを懇願するような目で私を見る。
その “何か” について、私はおろか彼自身についても分かりはしないだろう。

https://f.easyuploader.app/eu-prd/upload/20200322234325_494255524a3635736c53.png

彼を救う術など、この世界を隅々まで探しても、どこにも見つからないのだから。
遠く及ばない場所に、あるかどうかすらも分からない救いもまた、孤独なのだ。

私にできることは、こうして毎日彼の病室を訪れ、話を聞いてやるくらいだ。
そうすれば彼の孤独は紛れ、束の間の安息が訪れる。

12 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:22:36 ID:p6QegxhM0
(;A;)「うぅ……」

彼は啜り泣き続ける。
もはや私のことなど目に入っていないのか、左手で頭を抱えて項垂れている。
右手は喉を抑えたままだ。

(;A;)「先生……喉が、喉がいてえんだ。
   何かが俺の喉の中に住んでて、内側から俺の喉を掻き毟っているんだ!!!
   先生、助けてくれ!!! このままじゃ喉が破れて死んじまう!!!」

13 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:22:56 ID:p6QegxhM0
始まった。
彼は感極まると、このような幻覚状態に陥る。
先ほどから手で喉を抑えていたので、もしや、とは思っていた。

(;A;)「先生、この痛みは俺の孤独の痛みなんだ!!
   喉奥に引っ込められた、あいつらへの憎しみが外に出ようとしている痛みなんだ!!
   己から真実を遠ざけて、こんなところに自身を閉じ込めている罰に違いないんだ!!
   だから、先生……」

14 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:23:19 ID:p6QegxhM0
もういっそのこと、俺を殺してくれ。
その腕で、一思いに俺を縊り殺してくれ。

彼の痛切なる思いが、吐き出されていく。
言葉は、空間に満たされた粘着質の重苦しい空気によって隅に追いやられ、
行き場を失くしてやがては無へと帰還する。

15 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:23:40 ID:p6QegxhM0
ふと、私は私の行為を、
バケツに入れた水の中へ一握の砂をいれてかき混ぜるようなものだ、と自嘲した。

砂は水と一つになったようで、いずれは分離し底へと沈みゆく。
それをまたかき混ぜて、砂と水が一つになるように願う。
そうして生まれた濁った液体は、刹那的に一つであっても数秒後に離れ離れになる。

私の行為は、全くもって無意味なのかもしれない。
それでもできることはある。こうして話を聞いてやるだけで彼は落ち着くのだ。

16 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:24:03 ID:p6QegxhM0

('A`)「……」

ほら、見ろ。
先ほどまで涙を流していたのが嘘のように、彼はもう元通りだ。
この後はいつも通り彼と世間話をして、やがて時が経ち私はこの病室を後にする。

日常会話に熱心になる彼は、少々夢見がちなだけの至極普通の青年だ。
少し精神がおかしくなってしまっただけの、現代社会の被害者だ。
私が話を聞いてやれば、彼は人としての尊厳が保たれるのだ。

17 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:24:24 ID:p6QegxhM0
('A`)「なぁ、先生」

彼が呼ぶので、私はすぐに話を聞く準備をする。
これから始まるのだ。私と、彼の、世間話が。
今日は一体どんな “普遍的な話” を聞かせてくれるのか。

('A`)「今日は大事な話があるんだ」

18 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:24:45 ID:p6QegxhM0
大事な話。今までになかったパターンだ。
正直、毎日代わり映えのない日々をこの病室で過ごす彼に、
私に改まって話すほどの用事など如何にして出来ようか。
とりあえず黙って耳を傾けた。

19 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:25:13 ID:p6QegxhM0
('A`)「俺、このボタンを押そうと思うんだ。
   そしたら、コクンポリスは木端微塵になるし、あいつらさえいなくなれば
   憎しみという感情は、俺から解放される。そうすれば、きっと喉の痛みも治まる。
   俺はここでの監視の仕事を終えて、晴れて自由になれる。
   孤独じゃなくなるんだ。先生だって、俺に付き合わなくて済む。なぁ、そうだろ?」

一瞬、思考が止まっていた。彼は何を言っているんだろうか。ボタンなんてある筈がない。

20 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:25:35 ID:p6QegxhM0
('A`)「先生は今までよく頑張った。
   俺みたいなやつの荒唐無稽な話に、口一つ挟まず耳を傾けてくれた。
   誰もが俺を狂人扱いして嘲笑したのに、先生だけは俺のいうことを信じてくれた。
   先生は救いだった。だから俺は、これ以上先生をここに縛り付けておくことが耐えられないんだ。
   俺がこのボタンを押せば、俺と先生をここに拘束する呪縛から逃れられる」

ある筈がないのに、彼の手にはしっかりとそれが握られて、親指がボタンに掛けられていた。

見えていた。私にも。ボタンが。

21 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:25:58 ID:p6QegxhM0
('A`)「先生、今までありがとう。本当にありがとう」

脳内に警報が鳴り響く。確信めいた直感が全身を駆け巡る。
そのボタンを押してはいけない。

ボタンの正体が何なのかは皆目見当も付かないが、
それを押すということは即ち、彼の心中に描かれた誇大妄想の終焉を意味する。

そうなっては、私と彼の時間は終わってしまう。
私は、私が存在する意味を失ってしまう。
私と彼は離れ離れになってしまう。

22 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:26:19 ID:p6QegxhM0
('A`)「心配すんなよ。俺と先生は最初から一つなんだ。前に話してくれたよな。
   俺たちは、バケツに入れられた水と砂なんかじゃない。水そのものだ」

その話を何故彼が知っているのか。話した覚えなどない。
もしかして、彼は私の心を読んでいるのか?
私の心を読んだ上で、私に話を聞かせていたのか?
私は彼に愚弄されていたのか? 私は、私は、私は、私は、

23 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:26:48 ID:p6QegxhM0
('A`)「ぐえ」

居ても立っても居られず、彼のか細い首筋を両手で挟み込んだ。
そして、少しずつ力を込めて締め上げていく。
彼が私にそうすることを望んだのだ。

24 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:27:11 ID:p6QegxhM0
('A`)「ははは、先生、滑稽なもんだな。
   そんなことしなくても、結果は同じだっていうのに」

彼が何か言っているのが聞こえるが、激昂に阻まれて頭に入ってこない。

('A`)「さようなら、だ。先生」

彼が手元で、ボタンを押した。

25 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:27:33 ID:p6QegxhM0
その瞬間、私の視界は褪せた灰色で埋め尽くされ、両腕に強い衝撃が走った。
痛みに戸惑いながらその灰色を確認すると、見慣れたこの病室の固い床なのだということに気づく。
そこまで認識して、支えを失った自分の身体が前のめりに転倒したのだと分かった。

身を起こし辺りを確認すると、そこには向き合うように並べられた椅子と、小さな机。
そして、この空間と鉄扉を仕切る鉄柵があるのみだ。

26 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:27:57 ID:p6QegxhM0
彼の姿は、どこにもない。
ただ、静寂だけがそこにあった。

一体、どこへ行ってしまったのだろうか。

27 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:28:23 ID:p6QegxhM0
まさか、あのボタンを押したから。
彼の妄想こそが彼の支えであったから、
それを自身で木端微塵にしてしまったから、跡形もなく消えてしまったというのか。

所詮は妄想の産物に過ぎないあんなボタン一つに、彼の存在は保たれていたのだろうか。
若しくは、彼の存在そのものが彼の妄想によって形作られていた紛い物だったのか。

28 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:29:03 ID:p6QegxhM0
私は、ふと机に目をやった。
そこには、よく見知った手帳がぽつん、と置かれていた。
彼がコクンポリスとやらを観察し、その様子を書き記していた記録だ。

なんだ。
彼が病室にいた証明は、ちゃんと残されているじゃないか。
いわばこれは、彼の彼自身によるカルテとも呼べる。

29 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:29:27 ID:p6QegxhM0
私は少し安心した。
一体、彼はどのようなことをそこに綴っていたのか。
それを読めば、彼をより理解し、忘れないでいられるかもしれない。

彼との会話の節々に飛び交った、
今となっては忘却の彼方へと追いやってしまった細かな言葉すらも、
なぞるようにして思い出せるかもしれない。

荒い呼吸を落ち着け、震える手でその手帳を持ち上げた。
表紙には “経過観察記録” と書かれている。

よく見慣れた文字だ。私は頁を捲った。

30 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:30:31 ID:p6QegxhM0
『経過観察記録
 患者名:鬱田ドクオ
 症状:統合失調症

 4/1
 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。

 4/2
 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。

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 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。

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 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。

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 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。

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 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。

 4/7
 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。

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 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。

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 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。

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 カウンセリング中に錯乱、自殺衝動を発症。会話による精神分析を試みたところ、落ち着きを取り戻した。
 どうやら、酷い妄執に囚われているようだ。暫くの会話(内容は世間話)の後、その日の治療を終了。』

31 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:30:52 ID:p6QegxhM0
そこに書かれていたのはよく見慣れた字だった。
よく見慣れた字だった。よく見慣れた字だった。

他の誰でもない、私自身の字だった。
これは、私が彼の経過観察を記したものだ。

最後まで目を通せば、彼の治療を開始した日から今日まで、
同じ内容で埋め尽くされていた。
彼と私の、文字通り変わらぬ日々だ。

32 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:31:24 ID:p6QegxhM0
何故だ。
何故、私の書いたものを、彼が持っている。
そもそも何故私は忘れていた。何故気付かなかった。
ここに私の記録があることを。

あらゆる疑問が浮かび上がるが、
それらを掴み取ることは叶わず、闇の中へと沈んでいく。
どれほど虚空に藻掻いても何にも引っかかるものはない。

33 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:31:46 ID:p6QegxhM0
突如、喉に違和感を覚えた。
反射的に手で抑えてみても、その違和感は払拭できない。

それはやがて、鋭い何かに引っかかれるような痛みに変わる。
ざりざりと、ざりざりと、内側から何かが喉を掻き毟っているかのようだ。
このままでは喉が破れて死んでしまう。

34 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:32:19 ID:p6QegxhM0
私は苦しみにのたうち回る。
この孤独な空間の中を、じたばたと。
どん、どん、と身体が部屋のそこら中にぶつかる音が聞こえる。
音は事象の証明だ。私がここにいることの何よりの証明だ。

痛みで塗り替えられてゆく意識を精一杯に保ち、
病室を出ようと鉄柵の方へ這いずった。
鉄扉を開けて廊下へ出れば、看護婦がいる筈だ。
助けを呼べば、何とかなるかもしれない。

35 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:32:41 ID:p6QegxhM0
しかし、押しても引いても鉄柵はびくともしない。
この牢獄は、私を孤独の中に完璧なまでに密閉していた。

私は、私はこんな薄汚いところで生涯を終えるというのか。
息が詰まるほどの静寂で埋め尽くされた、この鉄柵の中で。

36 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:33:07 ID:p6QegxhM0
この鉄柵の中で……?
そもそも、私はどうやってこの中に入って

37 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:33:33 ID:p6QegxhM0
('、`*川「先生、本日もお疲れ様です」

すれ違う看護婦から労いの言葉を受けて、私は軽く頭を下げた。
前へ向き直り、鈍色の廊下を歩く。

かつん、かつんと革靴が音を立て、それらが静寂へ吸い込まれていく。
音は事象の証明だ。私は今、廊下を歩いていることを耳で確認している。

38 ◆NqJ/Phe1aU:2020/04/26(日) 18:34:04 ID:p6QegxhM0
暫く歩き、錆びた鉄扉の前に辿り着く。
お世辞にも綺麗とは言えないが、ここは立派な “病室” なのだ。

鉄扉の閂を力を込めて引き抜き、自由になった扉をゆっくりと押す。
ぎぃ、という錆びついた重い音を立て、左右に開いた。




39名無しさん:2020/04/26(日) 18:38:12 ID:Dxs7l5120
otsu

40名無しさん:2020/04/26(日) 19:53:11 ID:V2hrOd4.0
文体が好き


41名無しさん:2020/04/26(日) 22:44:02 ID:aYHph2ag0
こっちまで息苦しくなる話だった


42 ◆S/V.fhvKrE:2020/05/07(木) 00:07:08 ID:kSfv50tw0
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43名無しさん:2020/05/11(月) 12:43:35 ID:MA6JLevM0
乙。タイトルを見返してハッとする。面白かった


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