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ミセ*゚ー゚)リが魔王になるためのステップのようです

1名無しさん:2020/04/25(土) 20:34:43 ID:ExtcA9DM0

1ステップ:魔王になる決意



人間が住む世界でもなく、
天使が住む世界でもない。

悪魔が住まう世界で、一人の少女は生きていた。
薄紫と黄緑をふんだんにあしらったインテリアの部屋の中、
彼女は机の上にノートと教科書を広げ、講義を受けている。

ミセ*゚ー゚)リ「はい」

(´・_ゝ・`)「何ですか?」

少女が高々と手を上げる。
質問か、意見か、中断の願いか。
教師役の男は先を促した。

ミセ*゚ー゚)リ「アタシ、魔王になる」

(´・_ゝ・`)「……は?」

本日は快晴。
窓の外には赤黒い空があり、遠くに見える山は世界中の色を混ぜ込んだかのように黒い。

人間や天使からしてみれば不気味な光景に見えるかもしれないが、
悪魔が住まう魔界では極々一般的でありふれた風景。

頬に花の刺青があるヒト種の少女は、
そんな魔界の地理について学んでいたはずだった。

ミセ*゚ー゚)リ「だから、魔王になります」

582 ◆p9o64.Qouk:2022/12/25(日) 00:14:45 ID:ZBFutDF.0

14ステップ:秘密の部屋






(´<_` )「えっと、ここは物置だな。
     教会前でイベントをする時なんかに使うテーブルや飾りなんかを置いてる」

物置、というに相応しく、その部屋には様々なものが雑多に置かれていた。
食堂よりも遥かに広いスペースではあるけれど、職人が作ったのだろう物や子どもの手作りを思わせる物など、
開放感の欠片もない程に物が押し込まれている。

ただ、他の部屋と同等の埃っぽさしか感じられない辺り、清掃は小まめにされているらしい。
蜘蛛の巣を初めとした、放置されている場所にありがちな汚れは見受けられない。

下手に体を滑り込ませれば積み上げられている物の均衡が崩れ、
あっという間にゴミの山と化してしまいそうなこの場所をどのように掃除するのか気になるところだ。

(´<_` )「ここの物を使うことは滅多にないし、必要な時は町の人も手伝ってくれる。
     意外とあっさり外に運び出せるものだぞ」

本当にここから物を持ち出すことなどできるのか。
疑い深い目でオトジャを見つめているミセリであったが、
二人はそれに気づいているのかいないのか、そのまま会話を続けていく。

(´・_ゝ・`)「あの扉から出すのですね」

デミタスが指差す先には勝手口というには大きな扉があった。
四方の壁際には物がぎっちりと詰まっている中で、その周辺だけがぽっかりと空いておりかなり目立つ。
少々大きな棚やテーブルでもそこを通るのであればどうにか持ち出すことができるだろう。

(´<_` )「ちなみに、内鍵しかないから、鍵穴はないぞ」

頷き、言葉が付け加えられる。
よく見ればオトジャの言った通り、内側から閂をかけるタイプのようで錠はないようだ。

583名無しさん:2022/12/25(日) 00:16:57 ID:ZBFutDF.0
  
(´<_` )「直近で、ここの物を使う予定があるのは年越しのときだな」

(´・_ゝ・`)「皆さん、祈りにいらっしゃるのですね」

(´<_` )「新しい一年の始まりは新しい命の始まりと同意義だ」

信者達にとって、新たな始まりはとてつもなく大切な意味合いがある。
産めよ増やせよと神が言うのだから新しい命の始まりを尊び、
七度の試練を超えて天へ召される幸福を喜び新しい人生を歩む。

毎週のミサですら欠かさぬ敬虔な人々が年の始まりに祈りを捧げぬはずがない。
極寒の冬の最中、大吹雪が吹きすさぼうとも彼ら彼女らは教会へ足を運び、
神を想って一年の終わりと始まりに祈りを捧げる。

(´<_` )「夜は冷えるから、天気が良い日は庭で暖かいスープを振舞うんだ。
     吹雪の日何かの時は温かいお茶を一杯、十字架の前で渡していく」

オトジャの口元に微笑みが浮かぶ。
善良なる彼は例年の光景を思い出し、心を温かくしていた。

気持ちを新たにして教会へとやってくる人々の表情は様々であるが、皆、とても良い顔をしている。

未来に希望を抱く顔。
愛おしそうにい家族を眺める顔。
幸福を胸いっぱいに抱きしめた顔。

どれも、オトジャが大好きな表情だ。

神を恨んでもなお、数多の人のもとへ幸福が訪れることを願える男にとって、
やはりこの仕事は天職といえるものだったのだろう。
彼が悪魔に心をやりさえしなければ、
人間界をより良く、より素晴らしい世界に導くことだってできていたのかもしれない。

584名無しさん:2022/12/25(日) 00:19:35 ID:ZBFutDF.0
  
ミセ*゚ー゚)リ「うわっ、何これ。
      儀式でもするの?」

物と物の隙間からミセリの声が上がる。
どうやら好奇心に押された彼女は、小さな体を生かして中に入り込んでいたらしい。

覗き込むようにしてミセリの方を見る男二人に向かい、見つけた物を頭上に掲げる。
その際、隣の箱が軽く揺れてしまい、彼女は少し冷や汗をかいてしまったが平静を装った。

(´<_` )「それか。
     儀式というか、神の聖誕祭に使う飾りだな」

このような場所にありながらもくすみ一つない銀のチェーンにいくつも連なるのは、
同じく銀に光り輝く十字架達。
神々しいと言うには些か不気味さが強い造形のそれは、
何も知らない者ならば大なり小なりおぞましさを感じてしまうだろう。

人を信じてやまないオトジャですら生まれて初めてそれを目にしたときは、
悪魔召還か何かを町ぐるみでするのか、と穿った程だ。

(´・_ゝ・`)「出生が何時かもわからぬ存在の聖誕祭ですか」

(´<_` )「色々な伝説や文献から計算されているらしいぞ。
     命芽吹く春にお生まれになった、だなんて、いかにもっぽくていいだろ?」

ミセ*゚ー゚)リ「せっかくの季節だし、お祭りをしたい気持ちはわかるかなぁ」

魔界にも四季はある。
代わり映えのしない色味ではあるが、草木が一斉に芽吹く春はやはり楽しい気持ちになるものだ。
そんな季節に皆でワイワイ騒ぐことができたらそれはもう楽しいだろう。

585名無しさん:2022/12/25(日) 00:21:04 ID:ZBFutDF.0
  
春に想いを馳せながら不気味な飾りをきちんとしまい、ミセリは二人のもとへと戻ってくる。

(´<_` )「花屋なんかは聖誕祭のために、色とりどり種類様々な花を育てて用意するんだ。
     うちでも聖誕祭前後に咲く花を結構な数植えてるから中々見ごたえがあるぞ。
     楽しみにしててくれ」

ミセ*^ワ^)リ「悪魔のアタシが神の聖誕祭を楽しみにするってどーなの」

(´<_` )「いいんじゃないか?
     とっても背徳的で」

二人は顔を見合わせてクスクスと小さく笑いあう。
神を想うべき教会の一角でその存在を蔑ろにしてやる。

外で穏やかに過ごしている善良な人々には決して言えやしない悪さが楽しくて仕方がない。

(´・_ゝ・`)「楽しそうなのはいいですが、サボっていてはいけませんよ」

ほんの少し、彼らとは心情的に一歩離れた立場にいるデミタスは優しげに目元を緩めながら二人い告げる。

(´<_` )「あぁ、そうだな。
      時間を無駄にするのは良くないことだ」

ミセ*゚ー゚)リ「そうそう!  神父様! 正しい行いをしなくては」

(´<_` )「誰が軽口を叩き始めたんだっけか」

ミセ*゚ー゚)リ「さあ? アタシはしーらないっ!」

くるり、とスカートをはためかせてミセリはそっぽを向く。
子どもらしいその仕草は、彼女が人間でないことを知っているオトジャであっても微笑ましく映ってしまうものだった。

(´・_ゝ・`)「さぁさぁ、早く行きましょう」

ミセ*゚ー゚)リ「はぁい」

(´<_` )「じゃあ次は調合部屋に行こうか」

586名無しさん:2022/12/25(日) 00:22:20 ID:ZBFutDF.0
  
物置の向かいの扉を開けると、
薬草の青臭い香りとアルコールの透き通るような香りが混ざり合って溢れ出てくる。

日光による劣化を防ぐためか、部屋の中は窓の有無によって二つに区切られており、
ミセリ達から向かって右側は窓のない広めの空間となっていた。
薄暗いその場に設置されているテーブルには秤やすり鉢などといった道具、材料に用いる液体などが並べられている。

対して、光が差し込み明るい雰囲気の左側には天井から様々な種類の薬草が吊るされていた。
薬の材料にするための下準備の一つで、室内に染みついている青臭い匂いの原因でもあるのだろう。

用途ごとに整理されているようだが、どこか乱雑な雰囲気も感じられるこの場所に、
デミタスは、昔に見た魔女の家にそっくりだな、という感想を抱いてしまった。

ミセ*゚ー゚)リ「すっごーい。
      これ、全部オトジャが?」

箱入り娘として綺麗さっぱりな場所で生活し、
職人の仕事場など殆ど見たことのないミセリは目を輝かせる。
歴史を積み重ね、経験値のようなものを得てきた部屋には筆舌し難い圧のようなものがあった。

(´<_` )「大体はな。
     そっちの棚の中に入ってるのは行商人や店から買ったヤツだけど、
     テーブルの上にあるのは自作」

本格的な薬の製作は専門の職人に任せているが、
簡単な傷薬や毒消し、整腸剤等の作成は神父の嗜みだ。

何せ、全ての神父が大きな町に配属されるとは限らない。
小さな農村などであれば神父が医師を兼任し、人々のために奉仕するように教会が定めている。
そのため、神父として一人前とみとめられるには薬学や医学に関する最低限の知識がなければならない。

(´・_ゝ・`)「こちらの薬草は?」

(´<_` )「それは町の薬屋に売る分。
     もうちょい吊るしてから持っていく予定」

587名無しさん:2022/12/25(日) 00:23:09 ID:ZBFutDF.0
   
知識のない者からすればただの草。
わずかに薬学をかじっただけの者ならば薬になる草、と大まかに分類するだろうそれらだが、
専門的な知識を有する者が見れば種類も効能も多岐にわたる宝の山だ。

見た目が似ているものから大きく異なるもの、香りや生育具合まで様々なものが取り揃えられ、
ある程度の病にならば対応できるようになっている。

魔界にも一応は存在する薬草らとは一欠けらの類似点も見つけられぬモノ達に、
ミセリは勿論、自らの手で調合作業をしたことのあるデミタスまで目を輝かせて見つめていた。
本で得た知識を実地で照合していく作業の何と楽しいことか。
無暗に触れることはできなくとも、あらゆる方向から目で確認し、香りを確かめるだけでも十分な経験となる。

(´<_` )「裏の畑へはそこの扉から出入り可能だ。
     世話の仕方は……また明日しよう」

興味深げに薬草を眺めている二人の様子にオトジャは小さく笑みを漏らす。
魔界のモノと余程違うのだろう、とも察し、これは世話の説明も長丁場になるかもしれない、と胸中で気合を入れなおした。

ミセ*;゚д゚)リ「うわ、聖水」

悲鳴じみた声が上がったのはそんな時だった。

大雑把に薬草類を眺め終え、テーブルに並べれらていた瓶詰の液体に興味を移していたらしい彼女は、
薬の材料となるものや、薬そのものに混じるようにして並べられていたモノに気づいてしまったようだ。

淡い光を放つような嫌味な神々しさと清廉さ。
不純物の一切を許さぬ無色透明の聖水。

588名無しさん:2022/12/25(日) 00:23:57 ID:ZBFutDF.0
  
不意に顔を近づけてしまっていたミセリは思わずのけ反り、背後にあった鉢が嫌な音を立てた。

(´<_`;)「っと、気をつけてくれよ。
     攻撃に使えるようなヤツも一緒に置いてるんだ」

幸い、ミセリが壊したのは植え替え用に用意されている空のものだったが、
この部屋にある材料を用いれば爆薬や毒薬なども調合できる。
対悪魔用としては無意味な産物であろうとも、いざという時に自分や周囲の人間を守る力は必要だ。
聖職者の嗜み、というには少々物騒であるが、致し方がない。

(´・_ゝ・`)「せめて治癒に使う薬とは離して置いておくべきなのでは?」

(´<_` )「今まではオレ一人で管理してたから、
     わざわざ分ける必要性がなかったんだ。
     ……でも、そうだな。今度、この部屋も整理した方がいいかもな」

ミセリの後始末をしているデミタスに言われ、オトジャは気まずげに頬を掻く。

危険物があるからこそ、この部屋に他者を立ち入らせることはなかった。
おかげで物の配置は規則性があるようでなく、問題は無いが分けておいた方が良いであろうものは一緒くたにされている。

共同生活を送り、部屋を共有するのであればこれらを改善せねばなるまい。

一人というのは大変であると同時に気楽でもある。
自身がきちんと把握し、管理さえできていればそれで良い。
小言を言われ、呆れた目を向けられることもない。

589名無しさん:2022/12/25(日) 00:24:27 ID:ZBFutDF.0
  
(´<_` )「ってことで、場所はまた考えておくから。それまでは勝手に触んなよ」

ミセ*;゚⊿゚)リ「はーい」

デミタスと一緒に割れた鉢の片づけをしていたミセリは、
オトジャからの注意を聞きつつ先ほどの聖水へ目をやった。

神に愛されている人間が丹精込めて作った聖水だ。並大抵のものであるはずがない。
爵位持ちの悪魔であっても相当なダメージを与えてくるであろう聖力が詰め込まれており、
これ一本を建物の周辺に撒けば悪魔にとってお近づきになりたくない場所ができあがることだろう。

魔界ではまずお目にかかることのない物質だ。
積極的に近づきたい気持ちはわいてこないものの、興味の有る無しで言えば前者に傾く。

(´・_ゝ・`)「あの手袋があれば、聖水を使った実験なんかも出来そうですね」

ミセリと並び、遠巻きに聖水を眺めていたデミタスが言う。
人間では思いつかないような、あるいは実行すらできないような実験ならばいくらでも思いつく。
薬も過ぎれば毒となるように、聖水から天使や神に反抗するナニカを作り出すこともできるかもしれない。

(´<_` )「自己責任で扱うなら文句は言わないぞ。
     消費した分は補充しておきたいから申請はしてもらうが」

(´・_ゝ・`)「ありがとうございます。
     良い成果があればオトジャ様にもご報告いたしますね」

(´<_` )「よろしく頼む」

590名無しさん:2022/12/25(日) 00:25:11 ID:ZBFutDF.0
   
ミセ*゚ー゚)リ「しっかし、凄い種類の薬草だねぇ。
      見た目がそっくりなヤツもあるし、育てたり管理したり大変でしょ」

危険物混じりの液体群から離れ、改めて薬草類に目をやる。
一応は種類ごとに分かれているらしいそれらは、よくよく見れば何とはなしに違いがわかるものの、
色や形が酷似しており、一度混ざってしまえば振り分けに丸一日は要するだろう。

(´<_` )「慣れと学習の賜物だ。
     興味があるなら書斎に薬草の入門書があるぞ。
     内容は叩き込んであるから、持ち出してくれても構わない」

(´・_ゝ・`)「それは助かります。ある程度は知っているつもりでしたが、
      こうして見てみれば自分の未熟さを思い知りますね」

教育者としての立場がそうさせるのか、彼自身の資質か。
デミタスは人間界の知識に対して貪欲な姿勢を見せた。

ミセ*゚ー゚)リ「この教会、書斎なんてものもあるんだ」

一方でミセリはどこかのんきな様子で、紫色の花の香りを楽しんでいる。

(´<_` )「意外と神父も書類仕事をするんでね」

あらぬ方向に視線をやり、遠い目をしたオトジャを見たミセリは魔界にいる父のことを思い出す。
魔王という職務上、書類仕事はつき物なのだが、いつも父は辟易とした表情で紙面と向き合っていた。

次期後継者とし期待されているであろう兄に至っては書類に触れている姿を見た記憶がとんとない。
特に表情も変えず黙々とこなしていたのは母だけだったような気さえしてくる。

591名無しさん:2022/12/25(日) 00:25:56 ID:ZBFutDF.0
  
ミセ*゚ー゚)リ「……アタシもいつかは通る道なのかな」

(´・_ゝ・`)「ミセリ様の性には合っていると思いますよ」

不安げな声に応え、軽く肩をすくめる。
書類仕事や内政、といった部分にのみ焦点を当てるのであれば、
魔王の第一子であるジョルジュよりもミセリの方がずっと向いている。
何だかんだ唇を尖らせながらも立派に、計画的にやってのけるだろう。

(´・_ゝ・`)「毎日しっかり座学をしてらした貴女様ならば、何の問題もなくこなせることでしょう」

ロマネスクがしかめっ面をしながら仕事をしているのは膨大な仕事量や同じことの繰り返しによるものではなく、
何事も後回しにし、楽しいことを優先させがちな彼の性格に問題があってことだ。

日々、こつこつと仕事さえしていれば、自身の左右に書類の塔を作り出すこともない。

(´<_` )「なら、いつかミセリにオレの仕事の手伝いをしてもらいたいものだ」

ミセ*゚ー゚)リ「お高くなりますよ、旦那」

(´<_` )「友人割りを頼む」

ミセ*゚ワ゚)リ「仕方ないなぁ」

互いの立場があるからこそ笑えるジョークであり、
実際にそうしても良いと心底思えるが故に零れ出た軽口でもある。

人間界、それも教会関連の書類仕事となれば面白いことが書かれているに違いない。
情報収集としても役立つ上、一風変わった書類に触れることは良い経験になる。
まさしく一石二鳥の良案だ。

592名無しさん:2022/12/25(日) 00:26:42 ID:ZBFutDF.0
  
(´<_` )「さて、次はいよいよ二人の部屋候補でも案内しようか」

誰かと住むことを前提に利用していなかったため、空っぽの部屋は存在していないが、
掃除や整理をこなせば十分に使える場所ならばある。
調合部屋から出たオトジャはそんなことを言いながら来た道をひき返していく。

(´<_` )「何となくわかると思うけど、こちら側は日にもよるが人の出入りがままある。
     オレの部屋含め、私用や教会の維持管理に関わるような部屋はこっちに集めているんだ」

見てきた部屋を通り過ぎ、聖堂部分へ戻る。
左右対称に作られているこの教会。
わざわざ意識をするまでもなく、三人の視線の先には二枚の扉が見えた。

黒を基調とし、重々しい厳つさを感じさせる扉と木製の素朴な扉。

ミセ*゚ー゚)リ「どっち?」

(´<_` )「こっち」

綺麗に並んだ二枚の内、祭壇側に近い素朴な扉へオトジャは手を伸ばす。

(´<_` )「そっちは懺悔室。
     内鍵だから、中に誰もいないなら出入りは自由だけど、二人が入ることはないだろ」

身の内に抱えきれなくなった罪を吐露し、神という最上位の存在から許しを請う。
ミセリ達には縁遠い行いだ。

例え彼女達が悪魔ではなく、たたの人間であったとしても、目にしたことのない上位存在になど縋りはしないだろう。
自らの力をもって己を許せるような、力強い生き方をして見せるに違いない。

593名無しさん:2022/12/25(日) 00:27:12 ID:ZBFutDF.0
  
何百、何千と歩を譲ったとして、罪を聞き届ける側であるならば懺悔室に立ち入ることもあるかもしれないが、
一般論として見習いに任せていいような仕事ではないため向こう数年はあり得ない話だ。

もっとも、ミセリ達が人々の罪に優しく耳を傾け、受け入れ、苦しみに喘ぐ心に安寧を注ぎ込んでやるような性質とも思えない。
背中を蹴り上げ、前を向けと激励している姿の方が余程似合う。

神を嫌えど、無辜の民を守り、愛しているオトジャとしてはあまり歓迎したい光景ではなかった。

ミセ*゚ー゚)リ「へぇ〜」

興味なさげな声に、やはりミセリ達に懺悔室は任せまい、とオトジャは堅く誓う。

今後、長くこの教会で聖職者として演技を続けていくとして、必ず通らなければならない道、というわけでもない。
やらねばならないこと、経験せねばならないことは山のようにあるのだ。
何より、かの場所は秘匿のベールに包まれていなければならず、日常の中で無遠慮に触れられる領域ではない。
中に誰がいて、誰がいないかなど、どうして口にされようか。

(´・_ゝ・`)「こちらは外鍵なんですね」

オトジャが扉を開け、先ほどと変わり映えのしない長い廊下が姿を見せる。
その中で一つ、明らかな違いに目ざとく気づいたデミタスの言葉にミセリも彼の視線の先へ目をやった。

わざとらしい程に大きく、頑丈そうな錠前がついた黒い扉。
位置的にも先ほどの懺悔室と繋がっているのだろうことは想像に容易い。

594名無しさん:2022/12/25(日) 00:27:42 ID:ZBFutDF.0
   
(´<_` )「あぁ。そこに外部の人間を入れるわけにはいかないからな。
     例外的に内にも外にも鍵があるんだ」

気楽な気持ちで懺悔室を訪れる人間はいない。

重い扉を開くのはいつだって終わりの淵に立っている人ばかりで、
抱えたモノに突き飛ばされて堕ちゆく寸前に一筋の光を見つけてようやくたどり着く。
何よりも尊く、偉大な存在に救いを求め、そのために己の罪悪をさらけ出す。

そんな場に何の心得もない人間を入れてはならない。
神と人の橋渡しを行い、神に誓って罪を秘匿できる存在がそこにいるのだ、と、
信じるからこそ懺悔室には意味がある。

(´<_` )「食料や雑貨なんかは盗まれても買いなおせば済む。
     だが、人の信頼を取り戻すのは簡単なことじゃない」

オトジャは懐から鍵束を取り出す。
教会に入る際に使用されたもの、懺悔室のものであろうもの。
あと一つ、やけに簡素な鍵がリングに通されている。

(´<_` )「ただの一度だって間違いがあってはいけない。
     大きな憂いと傷を抱えてここにやって来た人を傷つけてしまっては、
     誰も教会に救いと希望を抱かなくなってしまう」

だからこそ、懺悔室の鍵は複製品を作ることなく、常に身につけているのだ、と彼は言った。

ミセ*゚ー゚)リ「素晴らしく良くできた神父様ね」

595名無しさん:2022/12/25(日) 00:28:15 ID:ZBFutDF.0
  
皮肉でもなんでもなく、ミセリは心底感心してしまった。
きっとオトジャは食料などが盗まれたとしても、それで誰かが救われたなら、と言ってしまえる。

彼が悪魔の敵となっていたならば、どれほどの脅威だっただろうか。

(´<_` )「何も特別なことはしてないぞ。
     大体の教会は同じようにしているはずだ」

そんなことないだろうな、とミセリやデミタスは思ったが、
オトジャは何を当然のことを、と言わんばかりに訝しげな顔をして取り出した鍵束を再びしまい込む。

(´・_ゝ・`)「まあ、その辺りの真偽は置いておいて、
      懺悔室以外の鍵は複製がある、ということでよろしいですか?」

(´<_` )「いや……。複製を作っているのは教会の鍵だけだ。
     帰ってきたときに使ってたやつ、あれがその一つ」

ミセ*゚ー゚)リ「なんで合鍵と本鍵持ち歩いてんのよ」

(´<_` )「たまに貸す時があるんだよ。
     オレが買い物してる間、先に教会行って待っててくれ、とか」

教会の鍵自体は全部で三本あるらしく、残りの一本はオトジャの部屋に保管されているらしい。

(´・_ゝ・`)「教会の鍵、懺悔室の鍵、あと一本は」

(´<_` )「それは後のお楽しみだ」

596名無しさん:2022/12/25(日) 00:28:52 ID:ZBFutDF.0
  
和やかな話をしつつ、オトジャは一つの部屋を開ける。

(´<_` )「ここと、隣の部屋が空き部屋だ。
     少し雑貨やら家具やらを置いてるが、掃除は小まめにしているし、すぐ使えるようになると思う」

その言葉の通り、ミセリ達の目の前に広がっている部屋は長年放置されているような匂いをまったくさせておらず、
中に置かれている物にも蓄積を重ねた多量の埃が積もっているような様子はなかった。

放り込まれている物にしても乱雑に入れられているわけではないので、
部屋の外へ持ち出すも、生活空間の中に置いておくも、模様替えをするも楽そうだ。

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、ここがアタシの部屋ね」

(´・_ゝ・`)「かしこまりました」

(´<_` )「もう一つの方も見なくていいのか?」

あっさりと自室を決めたミセリはとことこと部屋の奥へと歩いて行く。

一応、急な来客に対応するためにこの部屋と隣室にはベッドが置かれており、
特に片付けずとも一晩二晩を過ごすことに不便はなさそうだ。
ミセリが確認したところ、敷かれているシーツも小まめに変えられているらしく、清潔感がある。

ミセ*゚ー゚)リ「いいの、いいの。
      どうせ、間取りも大体同じでしょ?」

(´<_` )「それは、まあ、そうだな」

597名無しさん:2022/12/25(日) 00:29:18 ID:ZBFutDF.0
  
日当たりも広さも殆ど同じだというのならどちらであっても同じこと。
シーツの柔らかな香りを堪能し、ご満悦顔のミセリは次に部屋に置かれている家具を検分し始めた。

空っぽのクローゼット。いくつかの学習机に、それよりも多い椅子。
大きめの籠に、子供の字が書かれた紙。
あと、文房具セットがいくつか。

どうやらこの部屋には教会へ学びを求めてやってくる者達のための道具が揃えられているようだ。

ミセ*゚ー゚)リ「机と椅子は一つずつ。
      クローゼットは置いててもらって、後は――」

必要な物とそうでない物を分けていく。
小さな物ならば先ほど見せてもらった物置へ。
どうしても余ってしまう学習机の置き場には少々悩ましいものがあるけれど、
最悪、調合室に置いても不便はないだろう。

(´<_` )「他に必要な物があれば教えてくれ。
     出来る限り揃えよう」

ミセ*゚ー゚)リ「ありがとう。
      でも、ひとまずは無いかな。
      衣食住は保障されてるわけだし」

598名無しさん:2022/12/25(日) 00:29:42 ID:ZBFutDF.0
  
(´・_ゝ・`)「生活を続けていれば、
     嫌でも荷物は増えるでしょうしね」

ミセ*゚ー゚)リ「そーいうこと。
      あ、模様替えだけ手伝ってね」

大人、それも獣種が二人もいるのだ。
か弱い乙女であるミセリが進んで力仕事を担う必要はなく、デミタスもお嬢様であるミセリにそこまでを求めはしない。

(´<_` )「把握した。
     置いてて欲しい雑貨があればそれだけ分けておいてくれ」

ミセ*゚ー゚)リ「りょーかい」

ぐるり、と周囲を見渡し、ひとまず近場にあった文具セットを一つベッドの上に放り投げる。
勉強をするうえでも、仕事を覚えるうえでも、メモは必須だ。
ノートは少し多めに拝借しておき、他にも使えそうな雑貨をぽんぽんと投げまとめていく。

(´<_`;)「大切に扱ってくれよ?」

ベッドに転がっていく物を目に、オトジャは念を強く強く押すように言う。

ミセ*^ー^)リ「わかってるって」

(´<_`;)「不安だ……」

カラリとした笑みにオトジャは肩を落とし、デミタスは胸中にため息を落とした。

599名無しさん:2022/12/25(日) 00:30:37 ID:ZBFutDF.0
  
続いて確認した隣室もやはりミセリの部屋と大差ない状態だった。

強いてあげるとすれば、こちらの部屋は食器類や消耗品となる調合道具など、
日常で使う物の予備や教会の修繕に使うのであろう工具や部品などが大半を占める。

(´・_ゝ・`)「ベッドとクローゼットはありますが、他は特に必要なさそうですね。
     ひとまず机と椅子だけミセリ様の部屋から運びましょうか」

(´<_` )「そうだな。
     うーん、しかし、こっちの予備は何処に置こうか」

(´・_ゝ・`)「食器類は台所、調合道具は調合部屋に置けば良いだけなのでは」

(´<_` )「やっぱりそれが良いか。
     しかし、余りの机も調合部屋に置く予定だし、スペースあるかな……」

あちらを立てればこちらが立たぬ、とばかりに上手くいかない空間事情を思い浮かべ。
オトジャは乱暴に頭を掻いた。

この教会に住んで幾年月。
模様替えをしようと思ったことは一度たりともなく、スペースの確保に頭を悩ませたことなどなかった。
新たに買ったならば空いた場所に詰め、場所を整えてまた空間を広げていく。
それだけで良かったのだ。

思い返してみれば、教会の手伝いをしてくれた女性陣から、
駄目な子どもを見るような生温かな視線を感じたことがあったが、もしかするとこれが原因なのかもしれない。

オトジャは慣れぬ頭の使い方と、今更ながらに気づいてしまった事実に多少の憂鬱さが足元からじりじりと迫ってくるのを感じていた。

600名無しさん:2022/12/25(日) 00:31:12 ID:ZBFutDF.0
  
(´・_ゝ・`)「これを機会に、不要な物は捨ててしまってはいかがでしょうか」

(´<_` )「捨てるのって苦手なんだよなぁ……」

苦しげに絞り出されたのは、典型的な片付けられない人間の発言だ。

現在の教会が物で溢れ返っていないのは、
教会そのものの広さとオトジャの物欲の少なさの結果に過ぎない。

ただ、物というのは自然と増えてしまうものでもある。
学びや集まりの場になる教会の性質を考えれば余計にその傾向は強く、
遅かれ早かれオトジャは物を収納する場所に悩まされることとなっていただろう。

(´・_ゝ・`)「それでは、ワタクシめが指揮を執らせていただきますね」

(´<_` )「えっ?」

デミタスの有無を言わせぬ語調にオトジャの目が丸くなる。
どこか鬼気迫るような、強い悪魔と対峙した時とはまた違うひりつきが肌を走った。

ミセ*゚ー゚)リ「うわー、ご愁傷様。
      デミは鬼のように捨てていくよー」

(´<_`;)「うえ? ちょ、ちょっと、タイム」

(´・_ゝ・`)「ご安心を無闇矢鱈に捨てるつもりはございません」

とはいうものの、彼の目は捨てるという行為に熱く燃え上がっているようにしか見えず、
近い未来、何となくで購入した物、ストックがあることを忘れて再度購入してしまった物達があっけなく消えてゆく光景が目に浮かんだ。

601名無しさん:2022/12/25(日) 00:32:31 ID:ZBFutDF.0
  
ミセ*゚ー゚)リ「スッキリすることは間違いないから、現実を受け入れた方がいいと思うよ」

(´<_`;)「あ、あぁ……」

戸惑ったような返事をしているが、元はと言えばこれだけのスペースがありながら、
物を貯め込み整理のしようもないようにしてしまったオトジャが悪いのだ。

本来ならば物置一つで事足りるような物まであちらこちらに見受けられ、無駄に場所を取っている。
机とて、必要そうな顔をして置かれていたが、物置で見たテーブルがあればそれほど数が必要とは思えない。

(´・_ゝ・`)「では、取り掛かりましょうか。
      太陽も徐々に落ち始めていることですし」

ミセ*゚ー゚)リ「向かいの部屋は?」

いざ、模様替え、といった気概をデミタスが見せる中、空気をぶち壊すようにしてミセリが尋ねた。
物の量を考えればミセリ達の私室となる部屋だけを片付ければいい、という問題でもない。
場所を有効活用するためにも全てを確認する必要がある。
デミタスもそのことには賛成のようで、一度物騒なやる気をしまいこみ、オトジャへ目を向けた。

(´<_` )「あそこは書斎。
     ミセリの部屋の向かいはオレの部屋。
     最後にそっちで見せたいものがあるから、先に書斎に行こうか」

机の一つは書斎に置くのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら向かいにある書斎へと向かう。

602名無しさん:2022/12/25(日) 00:33:30 ID:ZBFutDF.0
  
書斎はこじんまりとした部屋で、向かいにあるデミタスやミセリの部屋の半分程度の広さだ。
壁沿いには本棚が敷き詰められており、それ以外の場所にも小さな本棚が幾つか置かれている。
そのどれもに本がみっしりと詰まっており、新しい本を入れる隙間は見当たらない。

薬草や医療に関するもの。神話や神学に関するものが特に多く、
その他にも農業や酪農、裁縫など、人々の生活の糧になるであろう本が取り揃えられている。

また、扉を開けてすぐに目に入る机には羊皮紙と万年筆が置かれており、
普段、オトジャがここで書類仕事をしている光景がありありと想像できた。

ミセ*゚ー゚)リ「これが薬草の本ね。
      オトジャが写本したの?」

ミセリが一冊手に取り開いてみると、本文と同じ筆跡でメモや注意事項などが散乱している。
最初に書かれたものとは全く別物と化しているであろうそれは、全世界を見渡しても唯一の一点ものだろう。

(´<_` )「ここにある本の半分くらいはオレが写本したヤツだな。
     読みにくいか?」

ミセ*゚ー゚)リ「全然。ただ、ちょーっと、イラストがわかりにくいかな」

(´<_` )「絵心がなくてな。すまん」

ミセ*^ー^)リ「いいよ、いいよ。
      メモとかで充分補えるから」

603名無しさん:2022/12/25(日) 00:34:04 ID:ugydIfi.0
やった―投下だ! 支援!

604名無しさん:2022/12/25(日) 00:34:05 ID:ZBFutDF.0
  
元の本にどのようなイラストが描かれていたのかはわからないが、
オトジャの描いたそれが決して上手くないことだけは確かだった。

本人としては見たままを描いているのだろうけれど、
メモに書かれている葉の特徴とイラストが一致していない、というのはいかがなものか。

(´<_` )「その辺りに買ってきた本もあるはずだから参考にしてくれ」

ミセ*゚ー゚)リ「どれどれ……。
      あー、これね」

オトジャが指さした方に並べられている本は確かに先ほどとは雰囲気が違う。
プロの手によって製本されたのであろうそれらは見るからに頑丈で、長い年月を耐えうる作りをしている。
中には既に相当年季の入った物もあったが、中身は綺麗なものでこれからも多くの写本を生んでくれるだろう。

(´・_ゝ・`)「神学関係の本は殆どがオトジャ様の手書きですね」

ミセリとは別の棚を眺めていたデミタスの手には神にまつわる本があった。

(´<_` )「下積み時代に書かされるからな」

こちらの原典は教皇が所持しており、各町にある教会には写本、あるいは写本の写本、といったものが置かれている。
文字を覚える際に活用されることも多く、使用頻度が高いためオトジャも同じ写本をいくつも持っていた。

神に関することなど、率先して学びたいと思うほど好きなわけではない。
大よその知識は神父になる過程で嫌でも身につく知識であり、一つ知るたびに憎悪が胸に宿る。

605名無しさん:2022/12/25(日) 00:34:36 ID:ZBFutDF.0
  
(´<_` )「読みたいならお好きに」

子ども達に神に関する写本を写させるのはそうせよ、とお達しがあるから。
そして、文字を覚えること自体は非常に素晴らしいことであり、子ども達の将来に関わるからだ。

(´・_ゝ・`)「はは、ご冗談を。
      必要に迫られたのであるならともかく、自ら進んで読みたいなどとは言えません」

神学、と銘打たれてはいるが、中身は人間達にとって都合の良いように考えられた神像の塊だ。
悪魔からすれば、後味の悪い寝物語のようなもの。

教会に留まるための演技に必要な分はともかく、それ以上に知りたいとはどうしたって思えない。
デミタスは手にしていた本を静かに閉じ、本棚へと戻す。

(´・_ゝ・`)「どちらかといえば、
      こちらの方に興味がありますね」

入れ替えるようにして手に取ったらしい分厚い本の表紙には、オトジャの字で『悪魔学』と書かれている。

(´<_` )「同感だ。
     そちらの方が余程、実用的だろう」

ミセ*゚ー゚)リ「何々?」

薬草に関する本を流し読みしていたミセリが二人の声に反応して近づいてくる。

606名無しさん:2022/12/25(日) 00:35:11 ID:ZBFutDF.0
  
(´・_ゝ・`)「我々の本です」

ミセ*゚ー゚)リ「え? あ、あぁ、なるほどね」

神に関する文章は妄想と願望で構築されていたが、
宿敵とも言える悪魔について述べるとなればそうもいかなかったらしい。

爵位の話から、悪魔の種族。
得意とする魔法、属性、癖、主要な武器から外見的特徴まで。
ミセリ達からして見ても、よく調べられている、と納得の出来だ。

ミセ*゚ー゚)リ「デミ、デミ。
      ジャック・オウ・ランタンのページ開いて」

(´・_ゝ・`)「はいはい」

目次を確認し、パラパラとページを送る。

ワクワクとした瞳を隠そうとしないミセリに、
オトジャは町の女の子が星の見え方や花の咲き方で一喜一憂していた光景を思い出す。

どの時代、如何なる場所であったとしても、女の子というのは占いやまじないが好きだと決まっているらしい。
自身の種族がどう書かれているのかを楽しむミセリも心中は似たようなものなのだろう。

(´・_ゝ・`)「ありました」

607名無しさん:2022/12/25(日) 00:35:37 ID:ZBFutDF.0
 
【ジャック・オウ・ランタン】

属性:炎
武器:固体による。

人間界に現れることは殆どなく、数十年に一度程度の割合とされている。
しかし、後述の通り、人を騙すことを得意としているため、
潜在的にはさらに多くの個体が人間界に出現している可能性も論じられている。

姿形は人間とよく似ている。

幼体である間は、判別が難しい。
成体となっているジャック・オウ・ランタンはそれぞれ個別のランタンを持ち、そこに魔力を溜める性質を持つ。
輝きは固体ごとに異なっており、保有する魔力が多ければ多い程、その輝きは透明度を増す。

他者を騙す、誤った方向へ導くことを得意としており、
自身の手によって不幸に堕ちたモノの嘆きを魔力に変換する。

基本魔力量は少なく、非常に弱い悪魔だが、
永く生きたモノであれば絶大的な魔力を有する可能性があるため注意が必要。
発見した場合、力をつけるより先に殺すことが推奨される。

好戦的な性格はしておらず、直接危害を加えることを不得意としているため、複数人で対処することが有効。
相手の心理を見抜くこと、引き出すことに長けているため、奇襲、陽動といった小手先の作戦は不適切である。

608名無しさん:2022/12/25(日) 00:36:11 ID:ZBFutDF.0
  
つらつらと一ページを使って書かれたジャック・オウ・ランタンの解説は種族してみれば大よそ正しい。
間違いである、と断言できるような部分はなく、人間がここまで調べ上げる苦労を思えば労わりの言葉さえ出てくるほどだ。
 _,
( ・_ゝ・`)「……これは」

高い完成度をみせているにも拘わらず、
思わず唸ってしまうのは記憶に在る二人のジャック・オウ・ランタンの影が振り払えないからだ。
   _,
ミセ*゚д゚)リ「何とも……」

(´<_` )「どうした?
     何か変なところがあったか?」

少なくとも、オトジャはそうである、と認識できるジャック・オウ・ランタンを人間界で見かけたことがない。
本に書かれていることが本当であるならば、他の聖職者達も同様であり、
確認した個体が少なければ少ないほど内容に誤りが生まれてしまうのは致し方のないことだ。

悪魔である二人が気難しげに眉をひそめ、唸り声をあげてしまうほどおかしな部分があったのか、と
オトジャが考え、疑問を呈したのは当然の流れであった。
 _,
( ・_ゝ・`)「いえ、間違ってはいないのですが」
   _,
ミセ*゚д゚)リ「個人差、って怖いなぁと」

(´<_` )「ん?」

不可思議そうに首を傾げるのも無理はない。
彼はジョルジュのことも、ロマネスクのことも知らないのだから。

609名無しさん:2022/12/25(日) 00:36:42 ID:ZBFutDF.0
   
好戦的で、奇襲も陽動も全て吹き飛ばすような力を持った彼らは、
やはりジャック・オウ・ランタンとして規格外であり、
魔王になるべくしてなっているのだ、と納得せざるを得ない存在なのだ。

ミセ*;-д-)リ「アタシもこのページから脱出できるようにならないと」

(´<_`;)「何があったかは知らんが、思いつめる必要はないと思うぞ?
     そりゃ、弱点は克服しておいたほうがいいだろうけど」

ミセ*;゚ー゚)リ「いやー、人間に研究されているままのアタシじゃ、魔王は厳しそうだなぁ、と」

(´;-_ゝ-`)「上に立つには一歩踏み越えるだけのモノが必要でしょうね」

意外性があれば良いというものではないだろうけど、
こじんまりと納まってしまう程度の器では広大で屈強な魔界を統べることはできまい。

(´<_` )「……よくはわからんが、オレに協力を要請するくらいだ。
     ミセリも充分、ここに載ってる悪魔から外れていると思うが」

聖職者と手を組む悪魔なんぞ、聞いたことがない。

相互の利益が一致しているとはいえ、二つは相容れぬものであり、
普通ならばこうして彼らが教会にいること自体がおかしなことなのだ。

(´<_` )「これからも変わっていくんだろ?」

610名無しさん:2022/12/25(日) 00:37:29 ID:ZBFutDF.0
   
オトジャに問われ、ミセリはまじまじと彼を見た。
驚愕、というよりは、呆気、という表情だろうか。

(´・_ゝ・`)「……そうですね」

規格の外に出ることが魔王への第一歩となるのであれば、ミセリは既にソレを成し遂げている。
流石、あの好戦的で規格外な魔王の娘であり、次期魔王候補の妹だ。

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか。
      うん。アタシ、もう進んでるもんね」

何度も頷き、ミセリは徐々に笑みを浮かべていく。

想像の中の兄と父に圧倒されてしまったが、
既にミセリもジャック・オウ・ランタンとして普通ではない覇道に足を踏み入れているのだ。

臆することも、恐れることもない。
必要なモノは揃いつつある。

前進こそが今、まさに必要なもの。

ミセ*゚ワ゚)リ「ありがとうね、オトジャ」

(´<_` )「どういたしまして」

611名無しさん:2022/12/25(日) 00:38:07 ID:ZBFutDF.0
  
改めて、書斎にある本は自由に読み、持ち出してくれて構わない、とオトジャは言った。
本はそれだけで価値のある物だが、金で解決できぬほどの希少本は置かれていない。

オトジャ自身は時折、復習がてら眺める程度で、中身は殆ど頭の中に知識として根付いている。
しばしの間、本棚になかったからといって困ることはないのだそうだ。

(´<_` )「で、ここがオレの部屋」

若干の名残惜しさを残しつつ、続いて案内されたのはオトジャの部屋。
小さくまとまった書斎の分だけ彼の部屋に割かれるスペースは大きく、個室としてはこの教会でもっとも広い。

ミセ*゚ー゚)リ「思っていたより、物が多いね」

ミセリがぐるりと部屋を見渡す。

ベッドに机、椅子。チェストにクローゼットといった、誰もが部屋に置いてあるであろう家具の他、
十字架や聖水、愛用している武器とその弾丸、その他数種類の武器。
書斎に並べられていたものと同一であろう聖書、スケジュール表、旅に使う鞄が数種類。

様々な物が置かれ、貼られているが、整理整頓がされており散らかった印象は受けない。

ミセ*゚ー゚)リ「仕事部屋って感じ〜」

(´<_` )「似たようなもんだ」

私室というにはオトジャ個人の色が見えてこない。
趣味も欲もなさそうな彼に似合いではあるが、面白みもない部屋だ。

612名無しさん:2022/12/25(日) 00:39:03 ID:ZBFutDF.0
  
(´・_ゝ・`)「あちらの武器は聖別された物ですか?」

(´<_` )「そうだ。手袋が出来たら自由に使ってもらって構わない」

部屋の片隅、オトジャが使用する銃以外の武器が立てかけられている。

大振りのアックスから、弓矢、ナックルまで幅広い種類が取り揃えられている上、遠目から見ても質の良さがわかる物ばかりだ。
そこいらの武器屋では太刀打ちできない品揃えと品質には舌を巻かざるを得ない。

ミセ*゚ー゚)リ「オトジャもアレを使って訓練したりするの?」

(´<_` )「いや、オレはもう何年も銃以外を使ってないな」

ミセ*゚ー゚)リ「なら何で、剣やら弓やらがあるの?」

実践に使わずとも、コレクションとして武器を収集する者は存在しているが、
オトジャがその類の人間であるはずがない。

どう足掻いても執着が一点突破している男だ。
武器に対して収集欲を持つ隙など微塵もないという確信がある。

ならば何故、そこに使いもしない武器があるのか。

(´<_` )「送られてくるんだ」

返答は簡潔であり、それを口にするオトジャは実に面倒くさげであった。

613名無しさん:2022/12/25(日) 00:39:48 ID:ZBFutDF.0
  
(´<_` )「ソーサクで聖職者用の武器を作っている組合があってな、
     そこが定期的に新作を送ってきてくれるんだ」

聖職者への支援は神への奉仕だ。

使ってもらえればもらえる程、武器職人達は神に愛される。
そう信じている。

(´<_` )「毎月、決められた数の武器をソーサクに謙譲し、
     ほんの少し、多めに作ったものを得意先か何かに送っているらしい」

新たな聖職者を迎えるため、有事のため、ソーサクでは常に新しい武器を所蔵している。
取り決められた予算を毎月、武器職人達に手渡し、そこから彼らは給金と材料費を得ているのだ。

勿論、個人の聖職者が仕事を依頼することもあり、個別に料金が発生することもある。
大量生産される物より唯一無二の方がお高くなるのは必然であり、
聖職者御用達の武器屋で繁盛している店はソーサクから降りてくる仕事より聖職者個人から受ける依頼が多い店だ。

(´・_ゝ・`)「贔屓にしている武器屋があるのですね」

(´<_` )「いや、オレはこの銃の整備と弾を買いに行くくらいで、
     とてもじゃないが、売り上げには貢献できていないだろうよ」

ミセ*゚ー゚)リ「え、じゃあ、これは」

614名無しさん:2022/12/25(日) 00:40:40 ID:ZBFutDF.0
  
(´<_` )「宣伝」

一言だけの返答に、ミセリは首を傾げる。
銃を扱うオトジャへいくら他の武器を宣伝しても意味がないではないか。
数を打てば、いつかは手にとってもらえるかもしれないが、何とも気の長い話だ。

(´・_ゝ・`)「あぁ、なるほど」

疑問符を浮かべているミセリに反し、デミタスは合点がいった、という風に頷く。

まるで、のけ者にされているようだ。ミセリはそう感じた。
男二人だけで分かり合っているような雰囲気は、全くもって面白くない。

ミセ*゚ー゚)リ「デミ」

(´・_ゝ・`)「つまりですね、ミセリ様」

名を呼ぶだけで、優秀な従者である彼は答えを提示してくれる。
それだけで満足してしまいそうになった己の心をミセリは諌め、デミタスの声に意識を向けた。

(´・_ゝ・`)「神に愛された御仁であらせられるオトジャ様が、どこぞの武器屋が鍛えた武器を手にしていたならば、
     その腕前と性能は認められたも同然。
     ――そう考える者が少なくない数いる、ということです。

615名無しさん:2022/12/25(日) 00:41:38 ID:ZBFutDF.0
  
いくら愛を貰えたところで、神への奉仕だけでは生きていけない。
武器屋達はこぞって、自身の顧客を増やすために動く。
自身の武器の宣伝も行動の一つだ。

(´<_` )「何かの気まぐれで使ってくれれば。
     そう思った店が複数あるとこういった事態にもなる、ってことだ」

どこぞの店一軒が考えたに過ぎないのであれば、これだけの武器が集まることはなかっただろう。

金属を必要とする武器は安くない。
無料でそうほいほいと提供できるものではなく、儲けが少ない店であれば年に一度の捻出も苦しいはずだ。

しかしながら、多くの店が、数年に一度でも。
やらぬよりは万が一の可能性にかけてみよう、と思ってしまえば。

(´<_` )「おかげで殆ど毎年、違った店名を見ることになってるよ」

今のところ、同じ店の名前を二度見たことはないらしい。
言われて見れば、ダガーとロングソードでデザインがずいぶんと違っている。

違う武器職人が考え、作ったからこそ、
多種多様の武器がオトジャのもとに揃うという、一種の珍事に発展してしまったのだろう。。

(´・_ゝ・`)「しかし、そのおかげでワタクシどもは好きに武器を選ぶことができます」

616名無しさん:2022/12/25(日) 00:42:48 ID:ZBFutDF.0
  
ミセ*゚ワ゚)リ「確かに!
      オトジャ様様だね」

キャッ、とミセリが楽しげに跳ねる。

(´<_` )「面倒なだけだったが、こうして役に立つ日がきたのなら武器達も喜んでくれるだろう」

苦く笑いつつ、オトジャも満更でない様子だ。

いくら性能の良い武器を送られたところで、彼は愛銃以外を使う気などない。
ここで埃をかぶり、錆びていくくらいならば、悪魔の手に渡るのだとしても武器の本分を全うする方が幸せだろう。

ミセ*゚ー゚)リ「わー、どれにしようかな」

(´<_` )「ミセリ」

今はまだ、触れることすら出来ない武器を眺めていた彼女にオトジャが低く声をかける。

ミセ*゚ー゚)リ「ん?」

(´<_` )「見せたいものがある、って言っただろ?」

口角を上げる。
それは、悪戯の種明かしをする子供のような表情だった。

617名無しさん:2022/12/25(日) 00:44:17 ID:ZBFutDF.0
  
オトジャに招かれ、ミセリは壁際にある机の前に立つ。
赤いカーペットが敷かれているそこに、別段変わったものは見受けられない。

ミセ*゚ー゚)リ「ここ?」

(´<_` )「正確には下」

応えたオトジャはその場に屈みこみ、
机の下に敷かれているカーペットに手を伸ばした。

文具や本。その他諸々が乗せられている机の下敷きになっているカーペットが簡単にめくりあげられるはずがない。
そう思った直後だ。

(´<_` )「ここ」

ミセリは驚き、目を丸くした。
その後ろでデミタスも軽く目を見開き、驚きを示している。

一枚に見えたカーペットだが、その実、机の下部分だけが切り離されていた。
職人技のような切り口によって、オトジャがそこを摘まみ上げるまでミセリ達はそのことに気づくことができなかったのだ。

ミセ*゚⊿゚)リ「……地下?」

(´<_` )「あぁ」

カーペットの下に在るべき床はそこになく、あるのはさらなる深みへ至るための小さな扉。

618名無しさん:2022/12/25(日) 00:44:58 ID:ZBFutDF.0
  
鍵束の中から最も質素なものを取り出し、オトジャは扉を開く。

(´<_` )「さ、行こう」

下に続く真っ暗な空間。
どうやら梯子があるらしく、オトジャは闇に足を入れる。

ミセ*゚ー゚)リ「これは」

下っていく彼に続くより前に、ミセリは床に膝をついて穴を覗き込む。
かなり深いらしく、底は見えない。そう時間を置かずしてオトジャの頭も見えなくなってしまうだろう。

だが、そんなことよりもミセリが気になるのは、下から漏れ出てくる慣れ親しんだモノだ。

(´・_ゝ・`)「教会には相応しくナイモノがありますね」

(´<_` )「オレの秘密。
     二人には教えておかないとな」

二人の声が聞こえたのだろう。
暗闇の中からオトジャの声がした。

(´<_` )「念のため扉は締めてきてくれ」

梯子を降りる途中、壁に蝋燭が設置されていたらしい。
オトジャがそこに火をつけるが、それでもまだ底は見えない。

619名無しさん:2022/12/25(日) 00:45:33 ID:ZBFutDF.0
   
顔を見合わせ、ミセリとデミタスは無言で頷きあう。
先にミセリが梯子に足をかけ、その後にデミタスが続く。
静かに閉められた地下への扉は、地下と地上と明確にわけてくれる。

今から二人が向かう先には、それが必要不可欠なのだ。

沈黙の中で響く梯子の金属音は、不思議なくらいミセリの心をはやらせる。
自身の足元に何があるのか、確信めいた予感があるものの確かめずにはいられない。

デミタスの方は至って落ち着いていたが、胸の中には好奇心が生まれていた。
一歩下がるごとに濃くなっていくモノに仄かな笑みさえ浮かんでくる。

三人はしばしの間、梯子を降り続けた。
頭上の光が心もとなくなってきた頃、下方に明かりが灯る。

(´<_` )「ここがゴールだ」

どうやら先に下りたオトジャが蝋燭に火をつけてくれたようだ。
もう少しで地下の底にたどり着く。

ミセリは降りるスピードを速めた。

ミセ*゚ー゚)リ「これはこれは」

地下に降り立ったミセリは口を緩ませ、胸いっぱいに息を吸い込む。
一ヶ月も経っていないというのに、いやに懐かしさを感じてしまう。

620名無しさん:2022/12/25(日) 00:46:37 ID:ZBFutDF.0
   
(´<_` )「お気に召していただけたかな?」

笑うオトジャが纏うのは聖力。
しかしながら、この空間に満ちているモノは違っている。

魔力。
それがこの空間には色濃く存在していた。

ミセ*゚ー゚)リ「いやぁ、よく集めたよね。
      後ろの、ソレ」

(´・_ゝ・`)「教会の地下にこのようなモノがあるとは。
      冒涜的と言いますか、背徳的と言いますか」

オトジャの背後。
広いとはいえないが、狭いともいえない広さの地下室には、多種多様、一貫性のない家具や道具が置かれていた。
それこそ、ゴミのようなずた袋から目を奪われる宝石まで。

唯一つ、それらにある共通点。
常人であれば気づくことのできないモノ。

(´<_` )「いやいや、むしろ、教会にこそ相応しいだろ?
     人々はこれをどうにかしてくれ、と持ち込んでくるのだから」

(´・_ゝ・`)「それを上手く利用している、というわけですか」

(´<_` )「こんな時くらい、立場を有効的に使わないとな」

621名無しさん:2022/12/25(日) 00:47:17 ID:ZBFutDF.0
   
地下にあるそれらは所謂、曰くつき、というモノ達だ。

暴虐の限りを尽くした王が持っていた宝石。
殺人鬼が被害者を詰めていた袋。
数多くの人々を殺してきた処刑具。

嘆き、悼み、慟哭、憎悪、憤怒。
様々な負の感情に晒され、それらを染み込ませてきたモノ達は魔力を帯びるようになり、力なき悪魔を誘う。
何の因果か、そんなモノの傍にたどりついてしまった人間達は悪魔から逃れるため、聖職者にこれらの品を引き取ってくれ、と願う。

(´<_` )「毎日聖水でもかけて、
     日の光に晒してやれば一年もしないうちに浄化されるのが殆どだ」

ミセ*゚ー゚)リ「でも、そうはしてあげないんだ?
      これなんて、ずいぶん年季が入ってるよね」

家督争いの中心となったと言われている短剣の鞘には、薄っすらと血の跡が残っている。
聖水どころか水で清めた形跡もなく、日の光に当てられた様子もない。
心なしかカビ臭いような気もしたが、それは魔力と一切関係なく、この場所の問題だ。

(´<_` )「魔力は多いほうがいいからな。
     それに、オレがここに来る度、少しずつとはいえ浄化されてしまう。
     遅いか早いかの違いだけで、最終的な結果は同じだ」

纏う聖力による浄化を少しでも遅らせるため、今もオトジャは物に触れぬように気を使っていた。
向こうから持ち込まれてくるとはいえ、強い魔力を宿した曰くつきは決して多くない。

622名無しさん:2022/12/25(日) 00:47:57 ID:ZBFutDF.0
  
彼は慎重に足を進め、変色している机へと手を伸ばす。
否、正確には、その上に置かれている一枚の牛皮へ。

(´<_` )「オレとしては良い頃合だが、
     ミセリやデミタスさんの分となると、少し染み込みすぎたかな」

この地下室は、皮に魔力を染み込ませるための部屋だ。

ミサの度に発せられる微弱な聖力の影響を受けぬよう、物理的な距離と地面と言う名の分厚い壁を持った地下室。
オトジャの纏う聖力の残り香でしか浄化されない曰くつき達はここでゆっくりと魔力を放ち続け、
部屋を満たしては未だ魔力に侵されていない物を侵していく。

(´・_ゝ・`)「どうやって皮に魔力を込めていたのか、と思っていましたが、まさかこのような方法とは」

(´<_` )「オレが魔力を得る方法なんて、これしかなかったんだよ」

悪魔の協力でも得られるのならば、それが一番手っ取り早い。
だが、ミセリ達以外でオトジャの話を聞いてくれるような悪魔はいなかった。

となれば、聖職者であるオトジャが魔力を皮に込める方法は一つしかない。
魔力を持ったモノを収集し、一つの空間を魔力で満たし、侵食させる。
時間も手間もかかるが、残された方法がこれである以上、オトジャは躊躇うことなくそれを実行した。

曰くつきを集める他、悪魔から羽やら四肢やらを奪う方法もあったが、
そちらはオトジャの心情的に却下されたらしい。

623名無しさん:2022/12/25(日) 00:48:49 ID:ZBFutDF.0
  
ミセ*゚ー゚)リ「アタシがお友達になってよかったね」

(´<_` )「まったくだ。
     今まで、一つの手袋を作るのにどれだけの時間がかかっていたことか」

使用頻度は決して高いものではなかったが、いつ何時使いどころが来るかわからない物だ。
肌身離さず持っていなければならず、そうすればオトジャの聖力によって徐々に魔力が浄化されてしまう。
何とも不便であり、時には必要な時に限って浄化されきってしまう、という、アクシデントにも見舞われた。

数を用意したいところではあるが、
浄化の速さと魔力の侵食スピードが噛み合わない時などいくらでもある。

(´・_ゝ・`)「となると、今後はワタクシ達がいるのですから、ここはお役御免になりますね」

(´<_` )「ずっと二人がいてくれるならそうだけど、ミセリにはやるべきことがあるんだろ?
     何時かのために残しておくさ」

その日を思えば幾ばくかの寂しさがせり上がってくるようだったが、オトジャは笑みを崩すことなく言った。
何時来るのかもわからぬ未来よりも、確かな今と、楽しいだろう明日を思う方がずっと有意義なことなのだから。

(´<_` )「魔力に満たされている方が心地良いなら、
     ここで寝起きしてもらっても構わないが」

良いことを思いついた、とばかりにオトジャが提案する。
微量ではあるが、聖力のある教会よりも、
魔力で満たされた地下の方が過ごしやすかろう、という純然たる思いやりからのものだ。

624名無しさん:2022/12/25(日) 00:49:48 ID:ZBFutDF.0
  
ミセ*゚д゚)リ「……オトジャさぁ」

(´<_` )「ん?」

ミセ*゚д゚)リ「デリカシーがないっていうか、
      ちょっとズレてるっていうか」

げんなりとしな表情をしたミセリだが、オトジャはその理由がわからないらしい。
困ったように眉を寄せ、小首を傾げている。

善意からの提案がズレていた場合、いかに面倒な事態に陥るか、という見本のような図だ。

(´<_` )「ベッドなら解体して持ってくることができるし、
     地下とはいえ、空気口もあるから、窒息の心配もないぞ?」

ミセ*#゚д゚)リ「そこじゃないんだなぁ!
       別に、寝る場所とか空気の心配とかしてないの!」

怒気を滲ませた叫びと共に、ミセリの平手打ちがオトジャ腕を襲う。
それも一度ではない。バシバシ、と何度も何度も音がなる。

何かしら、決定的に間違えたらしい、ということはわかったが、
それがどの部分だったのか、彼には全く検討がつかない。

無意味な謝罪を繰り返しながら、
幼くともそれなりに力のある攻撃から逃げ回るばかりだ。

625名無しさん:2022/12/25(日) 00:50:50 ID:ZBFutDF.0
  
ミセ*#゚д゚)リ「魔力云々より、
      こんな若干鉄臭い、かび臭い、所々に染みがあるようなモノと一緒に、
      寝起きしたい女の子なんていません!」

(´・_ゝ・`)「男であっても辞退させていただきたいですね。流石に」

壁に追い詰められ、さらに平手打ちを何度か受けところで、オトジャはようやっと二人から答えを得ることができた。

(´<_`メ)「あ、なるほど……」

考えてみれば当然のことで、血が染み込んでいるような物達は不衛生極まりなく、落としきれない臭いもある。
場所が地下であるが故に、大胆な空気の入れ替えもできないし、日の光がないためカビも元気に活動していること間違いなし。

蝋燭の明かりが唯一という状況も相まって、
長時間篭っていれば悪魔であっても気の一つや二つ狂っても不思議ではない。

いくら魔力に満ちているとはいえ、そのような場所を自室とするのは遠慮したいことだろう。

(´<_`メ)「うっかりしてた。すまん」

ミセ*#゚д゚)リ「どんなうっかりよ!」

(´<_` )「ほら、何を置いても魔力を優先すべきかな、と」

ミセ*#゚д゚)リ「そんな弱小悪魔なんだったら、
       教会に着いてこようとすら思わないわよ!」

626名無しさん:2022/12/25(日) 00:51:28 ID:ZBFutDF.0

最後に強い一発をくらい、オトジャの罪は清算された。

ミセリは満足げに鼻を鳴らし、さっさと地上への梯子を上っていく。

(´<_`;メ)「いてて……」

(´・_ゝ・`)「自業自得の一種かと」

(´<_`メ)「聖職者なんてもんは女性と縁がないもんでね」

(´・_ゝ・`)「それ以前の問題でしたでしょう」

第一、オトジャが女性と縁がない、というのは笑わせる。
町に住まう人間の半数が女性である以上、彼はどうしたって多くの女達と接してきたはず。
色恋に発展しないからといって、女心を介さぬ理由にはならない。

デミタスは最後に頬を叩かれたオトジャを放って、主の後に続く。

(´<_`メ)「ここで過ごすのはないにしてもさ」

数歩遅れてオトジャも地上へ戻るべく梯子に手をかけた。

(´<_`メ)「いつでも着てくれていいからな。
      オレの部屋に鍵はついてないし」

627名無しさん:2022/12/25(日) 00:52:20 ID:ZBFutDF.0
  
ミセ*゚ー゚)リ「それってどーなの」

昇りきったところで少し重量を感じさせる扉を押し開け、地上に顔を出す。

ミセ*゚ー゚)リ「悪魔相手じゃなくてもさ、無用心過ぎじゃない?」

(´<_`メ)「今更だろ」

オトジャの部屋には手ごろな武器が複数転がっている。
今すぐにとはいかずとも、件の手袋を得た後、彼の睡眠時に侵入したミセリやデミタスが命を刈り取らないとも限らない。

(´<_`メ)「オレを殺したところで、二人にメリットはないわけだし」

ミセ*゚ー゚)リ「他人を信用し過ぎるのも良くないよ、って話」

(´<_`メ)「……ま、死なないさ」

苦虫を噛み潰したように笑う。

その表情を見て、ミセリの胸がわずかに締め付けられる。
言うべきではなかったのかもしれない、と針の穴ほどの後悔が浮かんだ。

(´<_`メ)「オレは神に愛されているからな」

628名無しさん:2022/12/25(日) 00:52:56 ID:ZBFutDF.0


14ステップ:秘密の部屋 おわり

何とか一年に一回くらいは投下出来ました。
来年はもっとがんばりたいとおもいます。

みなさんよいおとしを。

629名無しさん:2022/12/25(日) 01:05:21 ID:ugydIfi.0
おつ! よいおとしを!

630名無しさん:2022/12/25(日) 11:04:15 ID:jb45SHMo0
乙乙乙

631名無しさん:2022/12/25(日) 14:55:05 ID:wHe6j1Ws0
乙!


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