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( ・-・)('、`*川マーチのようです

1名無しさん:2020/03/29(日) 15:26:54 ID:Iw/bHN3s0
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過去書いたものたち

( ・∀・)ワンダリング・ジャックに捧ぐようです
元スレ       http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1544363311/
保管庫様   http://coollighter.blog.fc2.com/blog-entry-389.html

ミ,,゚Д゚彡東京者のようです
元スレ       http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1560001539/
保管庫様   https://reiwaboonnovels.fc2.net/blog-entry-1.html



まだ書くかもしれないものたち

( ・∀・)キルルイ参上のようです
元スレ       http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1500141863/

( ・∀・)(゚、゚トソン馬鹿みたいに凝り性のようです
元スレ       https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1546954956/


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120名無しさん:2020/10/18(日) 20:47:40 ID:8SELjMO60
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(,, ゚Д゚)「会社、清算しようと思ってんだよ」

出し抜けに、ギコ先生が呟いた。突然の一言に、僕は狼狽した。

(,, ・-・)「は?」

今日で二回目だ。

(,, ゚Д゚)「清算……分かんねえか、会社、終わらせようと思ってんだよ」

話を持ち出した理由が分からなかった。それを僕が聞いて、どうしろと言うのか。
僕の動揺をよそに、彼は話を続けた。

(,, ゚Д゚)「正直、もう厳しかった。ぶっ潰れる前に、自分らで終わらせるよ。次の春くらいには」

それを、あいつに話したんだ。そしたら、俺が思った以上に激しい反応をされた、驚いた。
声を上げて泣かれたし、随分とあること無いことも言われて
どう反応すれば良いのか分からなかったから、ずっとあいつを黙って眺めるくらいしか、できなかったよ。

(,, ゚Д゚)「なあ、お前さ、あいつのこと、好きか?」

僕はもう一度頷けば良いのだろうか、何を以てすれば、彼の眼鏡に適う答えとなるのだろうか。

(,, ゚Д゚)「おい」

僕は何も応えず、フロントライトの先の宵闇をただただ見つめていた。
両眼にうっすらと涙が溜まり、光の粒がぼやけ
何を僕は悲しんでいるのだろうと思うと少しだけおかしくなり、ギコ先生から顔を背け、僅かに笑った。






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121名無しさん:2020/10/18(日) 20:48:50 ID:8SELjMO60
配信遅くなってすみません、今日のマーチです

122名無しさん:2020/10/18(日) 21:07:46 ID:i00V.iyQ0
おつ
シーンの心情が痛くて読むのがつらいしニュッくんはかわいい

123名無しさん:2020/10/19(月) 00:38:19 ID:tPHP/daY0
投下乙です
やはり見て見ぬふりだったのか

124名無しさん:2020/10/19(月) 03:58:27 ID:fmtAqAxo0
シーン……かわいいししんどい……

125名無しさん:2020/10/19(月) 23:37:24 ID:tIU3hxdE0
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ペニサスさんに渡すプレゼントを考えあぐねて、一週間が過ぎた。

クリスマスパーティーの日まで数える程しか無く、僕は少しばかり焦っていた。
その数日間は通常のカリキュラムが中止され
代わりにパーティー用の飾りの仕込みや歌、踊りの練習に費やされた。

僕達はある程度懸命に向こうの国の讃美歌を覚えたが
それらがどういう意味を持っているかを細かに説明されたところで理解できるわけも無く
僕もニュッも、それらしく聞こえるようなフレーズを
音程に合わせてひたすらになぞるだけだった。


「ほら、めんどいんだよ」


ニュッが吐き捨てるように言ったが
彼にとっては、これも全て御馳走とお菓子の家の為だった。

またある時はパーティーの会場となる一階の託児所に集まり
ツリーを建て、リースを飾り付けた。
脚立に上りリースを壁に取り付けていると、部屋奥にあるキッチンの様子が見えた。

ペニサス先生が、お菓子の家の屋根を作っているようだった。
手を動かしつつ、彼女を見ていた。
オーブンから取り出したクッキーは所々が焦げており、それを見た彼女は頭を掻きむしった。
曲げた肘がオーブンで熱されたプレートに当たり
熱さに跳び跳ね、後頭部を冷蔵庫にしたたかに打ちつけた。
僕は何も見なかったことにし、リースの取り付けに目を戻した。



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126名無しさん:2020/10/19(月) 23:38:27 ID:tIU3hxdE0
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('、`*川「中々うまく出来たよお」


帰り道、ペニサスさんは僕に言ったが
僕は余計なことは言わずに、少しだけ笑って返した。

小川の河川敷、寒風が強く吹く夕べだった。
この数日で気温は瞬く間に下がり、木々は葉を落とし、初霜は降り
町は一気に冬の装いを見せた。

彼女は白い息を手袋越しの掌にあてると
マフラーを風にたなびかせては、寒いねえと一言呟き、僕に笑いかけた。


('、`*川「こうやって、マフラーを下にへたらせないようにたなびかせ続けたら勝ちね」


(,, ・-・)「それ、僕に言ってるんですか」


('、`*川「シーン、やってくれないの」


渋々、彼女のゲームに付き合うことにした。
川沿いの遊歩道、「河口から15km」の立て看板を起点に、ヨーイドン。

これが中々難儀で、無作為に吹き付ける向かい風を目ざとく見つけ
手際良く肩を乗せ続けなければ、マフラーはすぐに垂直に落ちてしまうのだった。
あれこれと苦戦している僕とは対照的に
ペニサスさんは何故だろうか、やたらめったらとそれが巧みだった。


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127名無しさん:2020/10/19(月) 23:39:12 ID:tIU3hxdE0
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数分程経ち、どう足掻いても勝てそうにないと思った僕が音を上げた。
乱れたマフラーを巻き直す僕を横目に
彼女は子供のように、無邪気に両手を挙げて喜んでいた。


('、`*川「私の勝ちね! 私は勝ち、シーンは負け、私の勝ち!」


ただ、これを無邪気と形容するには
少しばかり意味を持ち過ぎているような気もした。


(,, ・-・)「そんな何回も言わなくても」


('、`*川「負けたシーンは残念賞です、景品をやろう」


そう言うと、彼女はおもむろに着ていた紺色のダッフルコートを脱いで
僕の両袖にそれを通し、ボタンを留めた。

僕はぎょっとしてそれを見たが、僕の上背にはやや大きく
袖が指の付け根にかかるくらいには余っていた。
まだペニサスさんの体温が仄かに残っており、僕は途端に気恥ずかしくなった。


('、`*川「いいじゃんね、来年にはジャストサイズになるよ」


ペニサスさんが言った。
僕は頬の火照りを彼女に見つけられないよう、顔を俯かせ、言った。


(,, ・-・)「ぬくいです」


('、`*川「私と同じこと言ってるじゃん」



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128名無しさん:2020/10/19(月) 23:39:38 ID:tIU3hxdE0
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メリークリスマス、と彼女は言い、ピースサインを僕によこした。
ペニサスさんが、僕に似合いそうだと衝動的に買ったコートらしかった。
しっとりとしたメルトンの生地で、肌触りが心地良かった。

僕は何故だか逃げ出したい気分になってしまい、蚊の鳴くような声で一言
ありがとうございますとだけ言い、それ以上何も口に出せなくなってしまった。
勝っても負けても渡すつもりだったんですねとか
その手の憎まれ口など、到底叩ける気にもなれなかった。


('、`*川「パーカー貸してくれたからね、随分と上等なお礼でしょ」


俯いたまま、小さく頷くだけで精一杯だった。
そんな僕を、彼女はしばらくの間、黙って見つめているようだった。
その顔は、恐らく微笑んでいたはずだった。微笑んでいたに違いなかった。

('、`*川「気に入ってくれた?」

また、小さく頷いた。とても顔向けできなかった。
恐らく、とんでもなく締まり無くふわふわとした顔をしていたはずだった。
しどろもどろになる僕に追い打ちをかけるように、彼女は僕の右手を取り、歩き始めた。
互いに手袋越しだったが、ある意味で僕にとっては幸いだった。

ここで僕はようやく顔を上げて、ペニサスさんを見た。
少しだけ顔を上げ、河川敷の先を見据えた彼女の表情は、いつか見た
スケッチブックの中の彼女そのものだった。


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129名無しさん:2020/10/19(月) 23:40:24 ID:tIU3hxdE0
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僕は彼女の横顔に見惚れながら、ぼんやりと思い出していた。
あのスケッチブックを初めて眺めた日のこと、パーカーを貸した日のこと
海岸線で初めて手を繋いだ日のこと――
まるで僕達の間にやましいこと、後ろめたいことなど初めから無かったかのように
極端に全てが偶像化され、やたらと輝いて僕を話さなかった。

僕はやはり、この人が好きだったな、唐突に思い出したのだった。
だからこそ彼女には、利己的でも、ましてや自慰的でもない
慈恵に満ちた愛で僕を包んでほしかった。
僕は大層我儘な人間だったし、実際に僕達が辿った場所はそれとは大分ずれてしまったが
それでも、そうした勘違いを平然と繰り返せるくらいの物事を積み重ねてきたのだ。

今日もまた一つ、勘違いが増えて行く。まあ、それも悪くないか。

(,, ・-・)「大好きです」

('、`*川「でしょ? やっぱり私のセンスだからね」

彼女は分かっていながら、平然とそのように返してきた。それで良いと、僕は思った。
僕はそれ以上、後に続く言葉を見つけようとはしなかった。

いつもは十数分で帰路に就く道のりだったが
その日の僕達は手を繋ぎながら、随分と長い間河川敷を歩いたような気がした。
やけに風荒ぶ、冬の宵だった。


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130名無しさん:2020/10/19(月) 23:41:33 ID:tIU3hxdE0
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その日がペニサスさんの最終出勤日だと僕が知ったのは
あろうことかクリスマスパーティーの当日だった。

誰が言い出したか、あるいはペニサスさんの余計なお節介から来るものかは知らないが
周りの人間は、彼女がグロキンを辞めることをある程度は知っており
僕にそれを勘付かれないよう、何かと計らっていたらしい。

(,, ^ν^)「だってさ、先生いなくなるって知ったらシーン、絶対必死に止めるだろ」

とは、ニュッの言い分だった。

(,, ^ν^)「だから、俺も皆も協力して、シーンには知らせないようにしようって、あいつの為だって」

(,, ・-・)「『あいつの為』ってのは、誰が?」

ニュッは一瞬だけ僕から目を逸らすと、その目線を崩さず、こう言った。

(,, ^ν^)「ギコ先生が、あいつはペニサス先生と仲が良過ぎるから、しょうがないって」

そうだろうな、と思った。僕は特に驚きもしなかった。

(,, ^ν^)「怒ってない?」

(,, ・-・)「怒ってないよ」

(,, ^ν^)「嘘だ。めっちゃ怒ってんじゃん」

僕は、彼に少しだけ笑ってみせた。
それを受けた彼は、ばつの悪そうな笑顔を僕に向けると、再び目を逸らした。
本当だよ、僕は君を怒りはしない。僕は目で応えたつもりだった。


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131名無しさん:2020/10/19(月) 23:42:13 ID:tIU3hxdE0
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その日、僕は讃美歌を意味も分からず歌い、しっちゃかめっちゃかな踊りを披露し
御馳走に少しだけ手を付け、ケーキの切れ端を食べ
お菓子の家が運ばれてくると、チョコレートとクリームで丁寧にコーティングされた屋根の部分だけを皿によそい
それをフォークで細かく割り、スプーンで長い時間をかけて磨り潰した。
ひたすらに磨り潰した。
チョコレートが溶け、割れたクッキーと合わさって汚らしい泥団子のようになるまで、執拗に磨り潰した。

ニュッがやって来て

(,, ^ν^)「こんなに磨り潰したらおいしく食べられないじゃん」

と笑い飛ばしたが、彼の顔は本心を隠し切れずに引き攣っていたし
僕も、それに応えるつもりは無かった。

いよいよ泥団子も擦り切れ、乾いた土くれへとなり果てると、僕は皿をテーブルに置き
部屋の隅に片されていたボールプールに飛び込み、顔だけ外に出しながら
パーティーの佳境を、呆けた眼で見つめていた。
この期に及んで、僕は一体どのような感情を持てば正しいのだろうか、それすらも分からなくなっていた。

君達には僕を見つけないでもらいたいし、見つけてもらいたかった。
君達には僕を案じないでほしかったし、案じてほしかった。

しばらくして、ギコ先生が僕に気付いたのか、ボールプールに近寄ってきた。
何を口走るかと僕は少しばかり身構えたが
彼はボールプールの中から青いボールを引っ掴むと、僕に目掛けて投げ付けた。

ボールが僕の額に当たると、彼は一回だけ大きく手を叩き
それきり何も言わず、事務所の奥へと消えて行った。






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132名無しさん:2020/10/19(月) 23:42:44 ID:tIU3hxdE0
>>125
ニュッ君の顔文字付け忘れました

133名無しさん:2020/10/20(火) 00:18:07 ID:QvRTLU9A0
投下乙です

見つけてもらいたかった時の君達は
案じてほしかった時の君達は

総評:めんどくせえけどそこが好き

134名無しさん:2020/10/20(火) 01:40:36 ID:BaCHcLEk0
乙です
やり取りの一つ一つに、よくわからないけど捨てがたい感情が湧いてしまって、もう!
そしてペニサス先生にも変化が来たか……

135名無しさん:2020/10/20(火) 05:43:54 ID:4Bkg.A6M0
切ない

136名無しさん:2020/10/20(火) 17:10:59 ID:BhCNykSw0
乙乙乙乙

137名無しさん:2020/10/20(火) 23:35:03 ID:g5TAUrPM0
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下り坂を一気に駆け抜けるといよいよ海が見えるはずだったが
未明の海岸通りに街灯は疎らで、その向こうにはあらゆる某かの最果てのような
ぽっかりと深い闇が天地を埋め尽くしているだけだった。

トラックは右へ曲がり、海岸通りに乗った。
ペニサスさんが何処を目指しているか、僕はようやく分かり始めたような気がした。
彼女が運転席の窓を開け、冷たく湿った潮風が車内に入り込んだ。
窓の外に響くさざ波を聞き、確かに海が近いのだなと思えた。

ペニサスさんが小さなしゃっくりを繰り返し、鼻をすんと鳴らした。
瞳は相変わらず潤み赤ばんでおり
そこに花粉症以外の意味を見出すことは余計なお世話だろうか
僕は何の気無しに考えた。


('、`*川「この前、たまたまニュッ君を見たよ」


ペニサスさんが言った。
たった数ヶ月見ないうちに、随分と凛々しくなったと。


('、`*川「不思議だね。ほんの少し目を離しただけで、すぐに成長しちゃうんだ」


(,, ・-・)「卒業式が近いですからね」


('、`*川「卒業式が近いと、そうなるの?」


上の空で放った言葉を真芯で捉えられ、僕は少しだけ狼狽してしまった。



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138名無しさん:2020/10/20(火) 23:35:47 ID:g5TAUrPM0
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(,, ・-・)「なんかこう、卒業して、今までの場所を離れてまた一歩踏み出すぞって意識が成長させるんじゃないですか」


('、`*川「何それ」


ペニサスさんは息混じりに笑ったが
やがて卒業、卒業ねえと二、三度繰り返すと、囁くように、こう言った。


('、`*川「卒業するの?」


(,, ・-・)「え?」


('、`*川「シーンも、卒業しちゃうの?」


(,, ・-・)「まあ、ニュッと同級生なので」


彼女が求めていた答えは、少なくともこれでは無さそうだった。
不服そうに口を尖らせ、しばらく何も言わずに通りを走り続けていたが
やがて、こう呟いた。


('、`*川「春は好きだけど嫌いだよお、皆置いてっちゃうから。ねえ、ギコさん」


彼女は、ここにいるはずのないギコ先生の名前を口にし、バックミラーに目線を当てた。
思わず、目を閉じた。
荷台、幌の奥、僕達の真後ろ、そこに何が積まれているのか。
まだ分からないままでいることが、いよいよ厳しくなってきたな。僕はそう思った。



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139名無しさん:2020/10/20(火) 23:36:40 ID:g5TAUrPM0
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ペニサスさんへは、革のブレスレットを渡す予定だった。
深く濃いマルーンのブレスレットは、ムラ無く綺麗に染め上げられた彼女の髪色を彷彿させ
僕が彼女に持ち合わせたイメージカラーそのものだったが
今となってはどうだって良いことだった。


ペニサスさんはグロキンを去り
僕にとっては勿論のこと、誰にとってもいよいよ「先生」ではなくなった。
無論、僕と彼女の接点も無くなった。
残された僕がボールプールに埋まりながら漫然と過ごしていれば
順当に年は明けて一月を迎え、それも慌ただしく過ぎようとしていた。


彼女が何故グロキンを去ったか、僕には分からなかったし
それをギコ先生に聞く気にもなれなかった。
恐らく彼はその大部分を知っている
いや、むしろ彼自身が大元なのだろうと僕は当然のように訝しんでいたが
僕はそろそろ疲れていたし、何より彼もいよいよグロキンに顔を見せなくなりつつあった。

会社の清算に追われているのだろうと、僕は思っていた。
それは恐らく当たっており、たまに顔を合わせる日が来れば
彼の眼は去年の比ではない程に血走っていたし、頬もこけていた。
まともに食べていなければ、寝てもいないのだろう
元々の荒い気性は更に激しさを増すかと思いきや、口数は少なくなり、声も細くなって行った。

それでも常日頃から何かしらに腹を立てているような振る舞いは変わらず
僕はともかくとして、ニュッはいよいよ彼を恐れ始めた。



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140名無しさん:2020/10/20(火) 23:37:00 ID:g5TAUrPM0
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(,, ^ν^)「昔のギコ先生に戻ってほしいよな」


ニュッはそう言って、僕にぎこちなく笑いかけた。
クリスマスパーティーの一件もあって、彼はそれ以降
やけに僕に対してよそよそしくなっていた。
時に腹を立てたり、時に救われたりもした彼の軽口は鳴りを潜め
残るは当たり障り無い世間話と相槌だけで、僕はそれが無性に悲しかった。

君の罪悪感はただの思い込みで、ぼくに負い目を感じることなんて何処にも無い――
彼は変なところで真面目な男だから、今さらそう言ったところで
このよそよそしさは消えてくれないだろうな。
僕は、決め付けにも近い諦観を彼に覚えていた。


小学六年生の冬だった。
吹き付ける風の中に幾ばくかの温もりを覚え始める頃には
僕もニュッもめでたく卒業を迎えているだろう、僕はぼんやりと思った。
そしてグロキンには中学生向けのカリキュラムが無い為
僕達は自分の意思に如何無く、ここを去らなければならなかった。

残されたグロキンでの生活を、僕は平々凡々と過ごした。
少なくとも、下を向いていつまでもいじけることは無かった。
まるでペニサスさんなど最初からいなかったかのように、澄ました顔で授業を受け
クラスの同級生とも笑い合い
まるで残された時間を噛み締めているかのように、ここを離れるのも寂しいねと呟いては
彼らから頷かれたりしていた。

僕は大変強がりな少年だったから
少しも堪えていない様子を周りに見せつけることに、とにかく躍起になっていたのだった。


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141名無しさん:2020/10/20(火) 23:37:26 ID:g5TAUrPM0
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それでも小川の沿道を帰る時、傍らに彼女の影を見出せずにはいられなかった。
刺すように冷たい風に晒される時、身をコートに首元をすぼませながら
僕はいつかの、クリスマスも近い宵のペニサスさんを思い出してしまい、舌打ちを繰り返した。

何故いなくなってしまったのだろう、それも、僕を置いて!
それはとてもおこがましい疑問だったが、僕が思えることは、それだけだった。
それでも、風がコートの余った袖を上下に煽る中で、泣くまい、ただ泣くまいと、強く思い続けた。

彼女がグロキンを辞めずとも、三月には僕がいなくなる。
ただ、別れが少し早まっただけだ。これは必然だ。
僕はそう自分に言い聞かせることで、必死の思いで日々の安寧を取り戻そうとしていた。


その日は授業が長引き、帰宅はいつもより随分と遅くなりそうだった。
春の息吹は三寒四温と共にやって来るとは言うが
陽が落ちても気温が落ちず、川岸を吹く風は生温かった。
足早に道を歩いていると、道の向こうに、何者かの影を見た。
それは、僕に繰り返し手を振っていた。見覚えのある輪郭が、こちらに近付いて来た。

('、`*川「ばあ」

ペニサスさんは言った。何とも彼女らしい第一声だった。
が、僕はあくまでも体裁を整えるつもりでいた。できるだけそっけなく、こう返した。

(,, ・-・)「何ですか、いきなり出てきて」

('、`*川「えっ、酷い。元恩師だよ」


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142名無しさん:2020/10/20(火) 23:37:54 ID:g5TAUrPM0
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彼女が、グロキンを辞める前と同じ調子で僕に接するものだから
それがどうにも、くすぐったくて仕方が無かった。
何とかしてペニサスさんを振り切ろうと足を速めるも、彼女は巧いこと僕に歩調を合わせ
僕の目の前で手を振ったり、頬をつついたり、耳をひねったり、ありとあらゆるちょっかいを繰り返した。
流石に耐えられず、僕は足を止め、彼女に言った。

(,, ・-・)「いきなり辞めて、いきなり目の前に出てきて、笑って話なんてできるわけないでしょ」

('、`*川「いや、まあ、そりゃそうだ」

ペニサスさんが意外にもすんなりとそれを認めるものだから、僕は面食らった。
続けて彼女は何かを言いかけたが、瞬間頭を上げ、小さなくしゃみを繰り返した。

(,, ・-・)「花粉症ですか」

('、`*川「当たり」

彼女は小さく鼻を鳴らし、上ずった唸り声を上げた。
その声があまりにも素っ頓狂なものだから、僕はつい笑ってしまった。慌てて俯いたが、遅かった。

('、`*川「今、笑ったな。笑ったでしょ、私の監視は誤魔化せない」

(,, ・-・)「笑ってないです」

「嘘、絶対笑った。もう、シリアスモードにはなれないね!」

僕は渋々彼女の話を聞くことにしたが、その一方では、満更でも無かった。
形はどうであれ、まさかペニサスさんとまた会話を交わし合える日が来るとは、思わなかったのだ。
お前は何様なのだと言われそうだが、僕はいつもどこかで、終いには彼女に甘かった。


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143名無しさん:2020/10/20(火) 23:38:25 ID:g5TAUrPM0
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彼女は、こう言った。仕事を辞めて暇だから、ドライブに行こうと思い立った。
ただ、真昼のドライブは面白味が無いから、夜通しあても無く運転し続け、気が向いたところに行こう。
車は偶然手に入った。相手は、どうしても僕が良かった。
遊びの誘いにしては、無茶苦茶だった。僕はしばらく考え込むふりをして、こう言った。

(,, ・-・)「僕、これから帰るんですけど」

('、`*川「知ってる」

(,, ・-・)「夜通しいないなんて、皆が許さない」

('、`*川「知ってる」

彼女は、明らかに正気ではなかった。

(,, ・-・)「断ったら?」

('、`*川「シーンを殺して、私も死ぬ」

その言葉は、まるで冗談に聞こえなかった。
何故だろう、僕は静かに膝を震わせていた。何かがおかしい、僕の直感が告げていた。

彼女は、じっと僕を見つめていた。お前を逃がすことは無い、とでも言っているかのようだった。
どうやら、僕は意を決さなければいけないかもしれなかった。


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144名無しさん:2020/10/20(火) 23:39:26 ID:g5TAUrPM0
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(,, ・-・)「車は、どこにあるんですか」

僕が言うと、彼女は下を向いて静かに笑い、左の掌で両の眼を拭った。
川岸を下りた先に有料駐車場があり、そこに停めてあると言った。

('、`*川「まあ、免許持ってないんだけどね」

(,, ・-・)「は?」

思わず、声を上げた。

('、`*川「大丈夫、私ゴーカート得意だったし」

もう、取り返しが付かないかもしれない。僕は唇を噛み締めた。
河川敷の沿道を左に曲がり、僕達は近くの駐車場に向かった。

彼女が「手に入れた」車を見て、僕は目を疑った。
それは、幌付きのトラックだった。いつか、どこかで見た、緑色の幌が付いたトラック。
あの男があの会社で運転していた、あのトラック。何度見直しても、違い無かった。

('、`*川「席が二つしか無いから、シーンしか乗せられないんだな」

トラックのキーを開け、ペニサスさんがあっけらかんとした口調で言った。
この車って、このトラックって、まさか、貴方は――僕はそう言いかけて、やめた。
運転席に座ったペニサスさんが、僕を見ていた。それはピアノ線のように、張り詰めた視線だった。

('、`*川「どうすんの?」

分かった、分かりました、僕は、貴方のトラックに乗ります。それが、貴方の望みであれば。
僕は黙って助手席に乗り込み、シートベルトを締めた。


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145名無しさん:2020/10/20(火) 23:39:58 ID:g5TAUrPM0
続きます
ようやく導入と繋がりました

146名無しさん:2020/10/20(火) 23:54:34 ID:4Bkg.A6M0
シーンの心情に初めて出てきたエクスクラメーションに驚いてしまった
ペニサスはなぜヤケになってるんだろう

夕闇の河原の情景がとても好きでした

https://i.imgur.com/kPAEaK9.jpg

147名無しさん:2020/10/21(水) 09:48:19 ID:1anZouVE0
早く続きが読みたいのと終わって欲しくないのと
早く全てを明かして楽にさせてくれという気持ちが入り混じってる

148名無しさん:2020/10/21(水) 13:40:47 ID:mdsHKkJY0
サスペンスの気配にも始まりもしなかったジュブナイルの終わりの気配にもヒリヒリヒリヒリする

149名無しさん:2020/10/21(水) 19:09:14 ID:zzd95u2.0
おつです
冒頭のシーンがこんなに不穏なものだったとは……

>>146 氏もおつです。季節感やふたりのやり取りが堪らない

150名無しさん:2020/10/21(水) 20:00:23 ID:EK7F81lg0


151名無しさん:2020/10/24(土) 17:36:22 ID:WrTk35p.0
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果たして、トラックが辿り着くは、かの波止場だった。
公園から海を見下ろした段階で、予測が付いていなかったと言えば、それは嘘になった。
この前の夏と同じように、入り口には侵入防止の細いロープが張られていたが
頼りなく緩んでおり、最早その意味を成していなかった。

('、`*川「まあ、そんじゃ行きますか」

ペニサスさんが言うと、トラックはロープを無視し、波止場へと突っ込み
ある程度進んだその先、先端からほど近いところで停まった。
トラックを降り、ペニサスさんが大きく伸びをした。

('、`*川「いやあ、着いた着いた。ノロノロ運転だったけど」

夜空は次第に薄れ始め、水平線の間際に、橙の光の層を見た。
朝焼けが近い、僕はぼんやりと思った。
僕とペニサスさんの影だけが映るこの海岸にも、直に日が昇り、正しく朝が始まるならば
それまでに、彼女から全てを聞いておかなければなるまい、僕の直感だった。

(,, ・-・)「何で、ここに来たんですか」

ペニサスさんの反応は薄かった。

('、`*川「んー」

ここだったら、周りの浅瀬と比べても結構な深さがあるよね。
彼女はそう言って波止場の先端まで歩き、この前の夏の僕と同じように
うつ伏せになって水の底を見ようとした。

('、`*川「何も見えない」

(,, ・-・)「でしょうね」


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152名無しさん:2020/10/24(土) 17:37:02 ID:WrTk35p.0
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橙の層は次第に厚みを増し、波止場に寄せる波も、淡く光りを纏い始めた。
ペニサスさんはしばらくの間うつ伏せのまま、それを目で追っていたが
やがて立ち上がり、こう呟いた。

('、`*川「ギコさんに別れてくれって、言われたんですけどね」

ペニサスさんの家に、一台のトラックがやって来た。
彼女の部屋に上がったギコ先生はトラックのキーを置き、それを指差すと、駄目だったと言った。
相応の借金を抱えた。これ以上、一緒にいられることは無い。分かるだろう。

('、`*川「『分かるだろう』って、この期に及んでその言葉は無いでしょ、って」

それから、口論が始まった。かつて無い程の強い剣幕で、互いを罵り合った。
堪えかねたギコ先生が、ペニサスさんの頬を叩いた時、いよいよ事の終わりが見えた。
ペニサスさんは、ギコ先生のトラックのキーを引っ掴むと、部屋を飛び出し
家の前に停めてあったトラックのドアを開け、エンジンを掛けた。全ては衝動的なことだった。

('、`*川「死んでやろうって、思ったんですね」

何もかもを無視して、どこまでも行こう。好き勝手に暴走させ、後はもう、どうとでもなれば良い。
横転しようが、爆発炎上しようが、構わない。
金もそう、社会的信用もそう、トラック、私、彼の残された全てを奪うことで、清算しよう。
まるで、拗ねた子供の末路のよう――私の最期にはお似合いだろう。彼女は、そう思った。

ギコ先生は、彼女を追い掛けた。彼もまた、気が動転していた。
ペニサスさんは、彼が迫っていることなど知る由も無かった。
待てって、降りろって、死に物狂いで叫ぶも、その言葉は届かなかった。

アクセルを踏みつけ、エンジンが高速で回転し
トラックは揺り起こされたかのように車体を軋ませ、前方目掛けて急速に発進した。
武骨で血が通わぬ鉄の塊、そこに彼の影が覆い被さった時、もう、遅かった。


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153名無しさん:2020/10/24(土) 17:37:37 ID:WrTk35p.0
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('、`*川「ブレーキをかけて、それを見に行ったんですよ」

彼女の言う「それ」は、一方通行の標識にもたれかかるようにして、倒れていた。
手足は明後日の方向を向き、白いポールに、どす黒い生血。
辛うじて息はあるようだが、その目は虚ろに濁り、いずれにしても時間の問題だった。

この時、彼女はいやに冷静だった。取り返しが付かなくなった、そのような時
人は狂乱を超えて、平静であることに努められるものだった。
彼を肩に担ぎ、トラックへと向かった。四肢を力無くぶら下げたその身体は重く、堪えたが
幌を開け、中に「それ」を押し込むまでに、それほど時間は掛からなかった。
元々人通りが少ない住宅街の裏路地、人目につくことは無かった。

再び運転席に着けば、やんぬるかな、横転する気も、爆発炎上させる気も、失せていたが
人としての道理に基づいた道に戻る気も、さらさら無かった。
いつか隣で見ていたギコ先生の運転を思い出し、その記憶と乏しい知識を頼りに、トラックを動かした。

思い出すは、いつかの教え子のこと。
その歳にして不相応な情念を押し付けてしまった、あの子のこと。
ひとまず、あの河原に向かおう。彼女はそう思った。

('、`*川「このトラックはねえ、ギコ先生の会社のトラックだよ」

彼女はトラックの幌を右手で掴み、力無く笑った。今更、言うまでもない話だった。

(,, ・-・)「じゃあ、この中には」

('、`*川「いるよ。今更開けないけど」


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154名無しさん:2020/10/24(土) 17:38:19 ID:WrTk35p.0
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ここに来て、僕は、両の膝が震えていることに気付いた。
よもやとは思っていたが、信じたくない話だった。考え得る限り最悪の結果が、今こうして、形に表れていた。
ならばペニサスさん、貴方は、それを荷台に積み、僕を深夜のドライブに連れ込み
いつかの波止場に向かい、次に、何をしでかそうと考えているのか。
これ以上、一体何を面白がって、何もかもを壊そうと躍起になっているのか。

(,, ・-・)「怖いです、ペニサスさん」

('、`*川「怖がらなくていいよお」

(,, ・-・)「ギコ先生は、僕だって、ペニサスさんがどうしたいのか」

('、`*川「怖がらなくていいよお」

(,, ・-・)「もうヤケになるのはやめて、帰りま」

('、`*川「怖がらなくていいよお!」

ペニサスさんが叫んだ。彼女の眼から、二、三粒の涙が垂れ落ち、それが止まることは無かった。
僕は彼女を見ながら、これが花粉症ならばどれほど良かっただろう、と思った。

ペニサスさんは言った。今更、私には戻る道が無い。
大人にあるまじき女、無責任な女、思い上がった女、勘違いしたまま終わるが適当だ、と。

('、`*川「だから」

ペニサスさんは僕に歩み寄り、そっと抱き寄せた。
シーンだけは連れて行きたかった。これが、私の最後の勘違いだと。


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155名無しさん:2020/10/24(土) 17:38:59 ID:WrTk35p.0
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(,, ・  ・)「どういうことですか、それは」

彼女の腕の中で、僕は言った。その声は、わなわなと震えていた。
薄々、ペニサスさんの行く末は分かりかけていた。彼女は、そこに僕を連れて行こうとしていた。
でも、ペニサスさん。僕は分かってほしかった。
貴方はそう思っていただろうが、僕は、喜んで貴方の玩具に成り下がった覚えは、一度も無かった。
僕の慕情を勘違いして、貴方は、どこまで子供であろうとするのか。

(,, -  ・)「僕は、子供の僕をからかって遊ぶペニサスさんが好きだったんです」

気付けば僕もまた、溢れる涙を抑えられなくなっていた。
いつも澄ました顔で、僕の稚拙な恋心を手玉に取り、たまに弄んでは笑顔を見せつける
ペニサスさんは、歳の差だけでは片付けられない距離があり、それが悔しくも、大いなる魅力だった。
だからこそ、これ以上僕を、その幼稚さで失望させないでほしかったのだ。

(,, -  -)「だから、コートを貰った日は本当に嬉しかったんです」

僕は彼女から貰ったダッフルコートを脱いで、彼女に突き出した。
これを僕だと思ってください、そうすれば、貴方の我儘も少しは満たせるでしょう、僕は言った。
彼女は何も言わずにコートを受け取ると、おもむろにそれを着て、こう言った。

(' `*川「冷たいね」

(,, -  -)「風に当たってますからね」

そういうことじゃなくてさ、彼女は目元に涙の粒を残しながら、笑った。

(' `*川「そうだよね、そうだよね、そうだよ」

ペニサスさんは、自分に言い聞かせるが如く、何度も同じ言葉を繰り返した。
そして長い溜息を吐くと、運転席によじ登り、何かを持ち出した。それは、件のスケッチブックだった。


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156名無しさん:2020/10/24(土) 17:39:30 ID:WrTk35p.0
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彼女は僕にそれを差し出すと、こう言った。

(' `*川「これは、シーンの好きにしていいや」

持ち帰っても良い、私に突き返しても良い、シーンに任せる、と。
僕はスケッチブックを捲り、あのラフスケッチの頁で止めた。初めて拝んだ、ペニサスさんの顔。
直線的な鼻立ち、そばかすを僅かにまぶした白い肌
僅かに垂れた眼差し、まるで見る者を挑発するかのような、涼しげに澄ました表情。

頁の根元を掴み、それを引き破っては、手を離した。
それは潮風に煽られ、しばらく海面をたゆたった後、白波に揉まれては消えて行った。
次の頁もそう、また次の頁もそう。涙を堪えながら、引き破り続けた。
ギコ先生のスケッチブックは、たちまちに海の藻屑となり
僕がそれを拝むことは、もう、二度と無くなったのだろうと思った。

(,, ・  ・)「こうしてやりました」

こう言って、彼女の方へと振り返った。まったくもって可愛くない答えだった。
あまりにも僕が自信有り気に言うものだから、彼女は横を向き、息を殺して笑った。

(' `*川「いや、これはユニークな使い方だね」

彼女は僕の目の前で屈み、そっと僕の頭を撫でると、上目遣いでこう言った。

(' `*川「ここから二〇分くらい歩くと、私鉄の駅があります」

そろそろ始発も動き始めます、交通費は渡すから、シーンはそれで帰りましょう。
トラックで、家まで送ってあげることはできない。君の言う通り、私は幼稚で駄々っ子なので。


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157名無しさん:2020/10/24(土) 17:40:01 ID:WrTk35p.0
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(,, ・  ・)「ペニサスさんは、どうするんですか」

僕はそう聞いておきながら、返事を聞きたくなかった。

(' `*川「私はねえ、戻らないよ」

だから、シーンともここでまたね、ってことですね。
ペニサスさんはそう言いながら、両腕で僕に、きつく抱き着いた。今までに無く、強い力だった。
為すがまま抱き着かれると、ああ、これが全てか、と思わずにいられなかった。

朝焼けは一層のきらめきを増した。カモメが群れを作っては鳴き、月は白んで隅に追いやられた。
日の昇りが早くなったな、これは喜ぶべきことでもあるのだろう、と思った。
彼女は再び波止場の先端から海を覗き込み、深いね、と言った。

(' `*川「多分ね、これくらいの深さなら大丈夫だと思うんだよ」

僕は、何も応えなかった。
ペニサスさんが、腕時計を覗き込み、そろそろ始発が出るかもよ、と言った。

(' `*川「だから、もう行きな」

(,, ・  ・)「ペニサスさんは、どうするんですか」

分かり切っていることをもう一回尋ねると
ペニサスさんは呆れたように眉を曲げ、笑った。

(' `*川「分かってるんでしょ」


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158名無しさん:2020/10/24(土) 17:40:55 ID:WrTk35p.0
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その言葉で、もう、その時だと悟った。
僕はペニサス先生に背を向け、何も言わずに、波止場の出口へと歩き始めた。
さようならも、ありがとうも無かった。言ってしまえば、それで本当にお終いだろうと思っていた。
僕はこの期に及んでも、蜘蛛の糸が僕達の下に垂れ下がるその時を
待っていたのかもしれなかった。

(' `*川「振り返るなよお!」

後方でペニサスさんの声が聞こえた。僕は、決して振り返ろうとはしなかった。
そして、彼女がトラックのドアを閉める音、トラックのエンジンがかかる音が聞こえ
僕は何も見ないで済むように下を向き、駅へ向かって走り始めた。

もう、泣くまい。僕はもう今月で小学校を卒業する。来月からは、中学生になる。
電車には大人料金で乗る。制服を着るし、ネクタイだって締める。
身長も伸びる、身体つきも変わってくるだろうし、声も低くなるだろう、僕はそうして、大人になる。
だから、泣くまい。そう言い聞かせた。

大きな埃風が舞い、口に砂混じりの空気が入っては、むせた。
遠くで白波が岸辺を強く打ったような音が聞こえたが、それが今の強風によるものか
もしくは、ペニサスさんのトラックが波止場の先端を越えた音だったのか――
それでも僕は、決して振り返らなかった。

日は当然のように昇り続け、息せき切って走る僕の影が、次第に色濃くなって行った。
埃風に煽られ、枝から引き離された桜の花びらを一つ、また一つと踏み潰した。
三月、春は着実に迫り寄っては、僕をまた一段と急かした。昨日よりも着実に。多分、明日はもっと。

またしても埃風が舞った。
今までの僕とペニサスさんの全てを嘲笑うような、振り払うような、根元から掬われるような風。
僕は砂埃を背中に受けながら、走った。決して振り返らなかったし、走ったし、決して振り返らなかった。
走ったし、決して振り返らなかった。






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159名無しさん:2020/10/24(土) 17:43:04 ID:WrTk35p.0
以上で完結です、お付き合い頂き有難うございました

>>146
支援絵有難うございます!なんと綺麗な夕焼けか
丁度河原から見る夕日が綺麗な季節になってきましたね

160名無しさん:2020/10/24(土) 18:10:41 ID:i5.Ehdc20

たいへん面白かったです 今年読んだブーン系の中で一番面白かった
かなしいとも辛いとも違うこの諦めのような気持ちがシーンと同一になれたみたいで少しうれしい
最後まで書いてくれてありがとうございました

161名無しさん:2020/10/24(土) 18:26:51 ID:EjVlbFkc0

すごく好き
こんな結末で悲しいけど、読めてよかった

162名無しさん:2020/10/24(土) 18:41:45 ID:.TlRWxmM0
乙乙乙
凄く心にくる物語だった
読めて本当に良かったです

163名無しさん:2020/10/24(土) 20:28:19 ID:TjZ5ptiQ0


164名無しさん:2020/10/24(土) 20:32:09 ID:3b9nPjXc0


165名無しさん:2020/10/25(日) 01:31:25 ID:FiKrEneQ0
完結乙です
しばらく呆けてしまったわ……
他者が本人に立ち入れる、限界みたいなものを凄く感じる
ペニサスさんに帰れるところは無かったのかな

166名無しさん:2020/10/27(火) 01:11:45 ID:tTFCjjHY0


167名無しさん:2020/10/27(火) 18:10:42 ID:5/6V9ho60
いいね

168名無しさん:2020/11/11(水) 03:07:40 ID:qC.LINcM0
オネショタのムフフな展開を期待してたのに…

169名無しさん:2020/12/05(土) 12:37:02 ID:89yDGces0
綺麗に纏まってた、面白かったです
ニュっくんの子供らしさがまた2人のどうしようも無い情動が引き立ってましたね……辛いなあ


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