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(,,゚Д゚)クリフォトに微笑むようです
35
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:34:15 ID:dc9ZaPKM0
――否。きっとそれは違う。
確かに不良達は明確な敵意を持っていた。だが本当の意味での殺意を持ち合わせてなどいなかった。
危険度で言えば今の野々の方が遥かに上だ。実際に人を殺しているこの少女の面構えと言えば、そこら辺の不良気取りよりも遥かにおぞましい。
目は見開かれ口元は歪に笑んでいる。迷いを思わせない。
“人を殺すことは大して問題じゃない”――そう思わせるような表情だった。
(゚A * )「……どうしてそう思うん?」
(,,゚Д゚)「確かなものは何もない。だけどよ、今のお前のその感じ……」
静かに、僕は右半身を押し出した。左手は腰に添えるようにし、右手は前方へと備える。
(,,゚Д゚)「初めてじゃないんだろ。人を殺したの」
野々はほんの少しだけ沈黙した。
だがややもすれば彼女は漏らすようにくつくつと声を吐き、それは次第に大きくなり、ついには大きな笑い声となる。
(゚A * )「あーっはっはっはっは!! なんやねんおどれ、ホンマ勘良すぎとちゃうぅ!? せやでぇ、中学の時、しぃちゃんにしつこく付き纏っとった糞虫を殺したのはあたしやでぇ!?」
叫びにも似た声は狂気そのものを思わせる。
唾を撒き散らし、歯牙を覗かせて彼女は笑うのだ。
(゚A * )「なんのこっちゃない、身の程も知らんブサイク野郎が我が君に近づきすぎたんが悪いんや! 普通に考えてみぃや、しょーもない糞野郎に迫られたら迷惑でしかないやろ!? せやからあたしが殺してん!」
(,,゚Д゚)「……よくもまぁバレねーもんだな。日本の警察は世界的にも優秀なんだけどよ」
(゚A * )「正義の行動や、神様があたしを助けてくれたんとちゃう? “素晴らしき善行に尽き咎めはなしとする”ってぇ!?」
_,
(,,゚Д゚)「イかれてやがんなぁ……」
(゚A * )「したらどうや? なんやくっだらないことに樋木が疑惑の対象になっとるやんけ!? そらもう腹が捩れる程笑ったでぇ、あん時は!」
それまで笑い続けていた野々だが、しかし、樋木の名を出すと途端に声のトーンを落とす。
瞳に浮かんでいた狂気の色合いは薄まり、静々と滲むようにして怒りの色が浮かび始めた。
36
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:35:37 ID:dc9ZaPKM0
(゚A゚* )「……けどなぁ。そんな樋木にな、見られてたんや。害虫駆除の現場を」
(,,゚Д゚)「あ……?」
(゚A゚* )「当時、既に樋木は大罪人の扱いで、これ幸いとあたしはしぃちゃんの傍でナイトとしての義務をまっとうしとったんやがな――」
野々は語る。
ある日の夕暮れ時、彼女は樋木に呼び止められたそうだ。
怪訝に思いながらも野々は樋木の言葉を聞くが――
(;-_-)『僕、見てたんだ、あの日。君が人を殺すところを……』
その言葉に野々は生きた心地がしなかったという。
(゚A゚* )『……それで、なんや。あたしを警察に突き出すってか? 別にええで、ただし出来たらやけどな』
既に野々の中に樋木を生かす考えはなくなっていた。
即座に抹殺へと思考がシフトされた彼女だが、しかし、そんな彼女に思いもよらぬ提案が出される。
(;-_-)『い、いいや、しないよ……僕は、ただ、君に……ずっと椎名さんを、護ってほしくて……』
(゚A゚* )『――は?』
信じ難い台詞――樋木は野々を真っ直ぐに見つめて言葉を続けた。
(;-_-)『僕は何も出来ない。思い切った行動力もない。ただ、椎名さんをずっと見続けているくらいしか出来ない……』
(゚A゚* )『……それで?』
(;-_-)『……僕だからこそ、ずっと見続けている僕だからこそ、知っていることもあるんだ、野々さん』
樋木はそう言って自身の携帯端末を野々へと見せる。
そこに表示されていたのは数多の写真。
多くは椎名のもので、それを見て野々は何も思うことはなかった、が――
(゚A゚* )『……へぇ。まだ糞虫が……わんさかおる、と』
(;-_-)『う、ん……』
37
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:37:40 ID:dc9ZaPKM0
大量の紙の束が燃えている写真――全て椎名の下へと届けられたラブレターだった。
廃墟の壁一面に描かれている言葉の羅列の写真――全て椎名の名が刻まれていた。
早朝、とある教室の机に唇を押し付け股間を扱く男性の姿の写真――椎名の教室、椎名の机だった。
数えればきりがない情報の嵐。それを殺意の籠った瞳で眺める野々。
ふと、野々は樋木の顔を見た。
(;-_-)『ねえ、野々さん。僕じゃできないから、椎名さんを、護ってよ』
真っ黒な、深淵を思わせるような瞳――野々は咽喉を鳴らし、額に汗を浮かべ、言葉もなく頷いたという。
(゚A゚* )「――……あれはな、間違いなくあたしよりヤバイ奴やったんよ。実際のところ、あれ自身は殺さん。あたしと言う体の良い駒を使ってたって訳や」
そこまで話して野々は樋木の死体を見やる。
その瞳に感慨のようなものはない。ただただ無感情で、ただただ無関心だった。
(,,゚Д゚)「成程な。つまり、情報提供や作戦の組み立ては樋木で、実行はお前だった訳だ」
(゚A゚* )「頭もよかったで、そいつ。死体の隠し場所も、凶器の後処理も、全部考えてくれたんや。未だ発見されてない死体はぎょーさんあるで」
告げられた真実は多少なりとも衝撃的だった。異常性はないと判断した僕だが、成程、それは大きく……見誤っていたのかもしれない。
間違いなく樋木は人を殺す人種ではない。だが、彼は自らの手を使わずに人を殺す、あくまでも協力者の立ち位置だった訳だ。
表向きには不仲と言うか怨敵の間柄を装い、実態と言えば共謀者であり殺人仲間だった訳だ。
(,,゚Д゚)「そんな共犯者を何で殺しちまったんだよ、野々。有益な奴だったんだろう」
(゚A゚* )「何故? 何故って、そらあんた、分かるやろ」
凛と、確かに空気が変わった。野々の瞳が僕を真っ直ぐに射抜く。
刃の切っ先のブレがなくなった。足の位置も彼女自身が体得したであろう最適の位置へと備えられている。
(゚A゚* )「もう樋木以外の虫はぜぇんぶ殺してもうたから。だからあの一番の害虫を殺せば、それでぜぇんぶ終わりやねん」
ああ、成程、と思う。こいつ等は共謀していたようで、実際は違ったのかもしれない。
樋木は確かに野々を利用していたのだろうが、その実、野々こそが樋木を利用していたんだろう。
自分の知り得る情報だけでは限界などたかが知れている。だが樋木の異常的な情報収集能力があれば椎名のことに関して不足はないだろう、と。
故に従い続け、故に必要性がなくなったからこそ樋木を始末したと言うことだろう。
38
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:40:07 ID:dc9ZaPKM0
(゚A゚* )「そんでな、今夜で何もかもが終わるって思っとったのになぁ……」
肌がひりつく感じがする。項が粟立つような感じがする。
それは今、僕が明確な殺意を向けられているからだ。
凡そ人の放つレベルではないだろう、濃度の高い殺意を。
(゚A * )「まぁた、虫が湧きよったんよ、埴谷ぁ……?」
(,,゚Д゚)「……人を虫呼ばわりするんじゃあねえよ、野々」
空気が張り詰める――間違いなく野々は殺しにかかってくる。
そんな極限状態だというのに、肌がひりついて項が粟立つくらいだと言うのに――
(,,゚Д゚)(――落ち着く)
落ち着く。この状況が。緊張状態が。高濃度の殺意が。逃れられぬであろう状況の全てが。
ここまで落ち着くことは普通なら有り得ない。酷い状況であればあるほど心の中には波がたち、焦燥感に包まれるのが普通だ。
多くの修羅場を越えてきた僕だってそう言った往々のままだ。
だのに、今夜、最低最悪な状況で僕は落ち着き払っている。
その理由は何だ、何故、どうして……そう思う僕だが、その答えは不思議と分かっていた。
(*゚ー゚)
(,,゚Д゚)
彼女が見つめている。僕を。野々の背後、袋小路の壁に背を預けながら、伽藍洞の瞳で僕を見つめる。
状況に介入する気が一切ない癖に、全てに興味がないとでも言いたげなのに、だのに僕を見つめ続けている。
(,,゚Д゚)(お前は何なんだ)
泣きもせず叫びもせず、鮮血の景色も人の死すらもアクションを起こさない絶世の美少女。
そんな彼女はただただずっと僕だけを見続けている。
(゚A * )「なぁ、埴谷。いくらあんたがドのつく不良でもな、あたしは何も怖くないんよ。だってあんた、人を殴ったり蹴ったりしたことがあっても――」
声が聞こえる。野々のものだ。
ああ、距離を詰めてきたのだと察する。空気の動く音が、アスファルトを蹴る音がする。
変動する情報は視覚からも確実に入ってきている。僕と野々の距離は凡そあと五歩程度。既に彼女の射程圏内だ。
まるで猫のように俊敏だ――そんなことを思う。思うが、未だ僕は椎名と見つめ合ったままだった。
39
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:41:16 ID:dc9ZaPKM0
(゚A * )「殺したことは、ないんやろぉ!?」
刃が振るわれる――胴薙ぎの一閃だ。右から迫ってきている。
あと刹那もすればそれは僕に叩き込まれるだろう。
だが――
(,,゚Д゚)(何でそんなに、僕を見るんだ)
――身体の軸がブレている。踏み込みが悪すぎる。腕の振りも悪い。地との接しも悪い。
刃の扱いを理解していない。そんな扱いでは、刃物と言うのは、本当の意味では……斬れない。
(,,゚Д゚)「ふぅっ!」
押し出していた右腕で、振り切る寸前だった野々の右手首を打つ。
(゚A * )「え――」
たったそれだけ。
だが、たったそれだけのことで、野々の手の内から刃が抜け落ちた。
(゚A * )「ちょ、おどれ、どうやって――」
何を不思議に思う必要がある。ただ野々の動きに合わせて攻撃を無力化しただけだ。
難しいことなんて何もない。
踏み込みも、呼吸も、腕の動作も、殺意の程も、刃の状態も、全て把握していれば対処は難しくなんてない。
ただ合わせただけだ。そこにくると分かり切っている攻撃に対して的確に対処しただけだ。
(,,゚Д゚)「どうした、何を驚いてんだ? そんな阿呆みてーな握りじゃ道具なんて簡単に落ちちまうに決まってる。簡単な衝撃で手放しちまうに決まってるだろうが」
焦燥する野々だが、僕は彼女の空になった右腕を掴んだ。
そのまま軽く引いてやると、そんな簡単な動作で彼女の体勢は崩れ、僕の方へとつんのめる。
重心が定まっていない。所詮は刃物を手にしただけの普通の少女でしかない。
40
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:42:30 ID:dc9ZaPKM0
(,,゚Д゚)「今までどうやって殺してきたのかなんて何となく分かる。どうせ背後から刺したくらいだろ、お前」
つんのめり、浮いた顎に向けて左手の掌底を叩きこむ。
大して力任せに打ちはしない。ほんの少し押してやるような、そんな簡単な具合だ。
だが、それだけで十分だ。
(゚A * )「あっ――」
がくり、と野々が膝から崩れた。意識はあるだろうが、しかし身体は糸の切れた人形のように脱力してしまう。
僕は掴んでいた腕を手放すと、俯せに倒れる野々を見下ろした。
(゚A * )「な、んで、なんや、これ、どうし、て」
(,,゚Д゚)「……脳震盪だ。動けねえだろ、不思議なくらい。過信してるからそうなる。道具を持てば優位に立てると勘違いしやがる」
先まで野々が持っていた大振りのナイフを手に取り、それを適当な加減で振るった。
――不自然な程に軽い。物としての質が悪い。
グリップも粗い上に大振り過ぎて使い勝手が最悪に思える。どこでも簡単に手に入れることが可能な安物だとすぐに理解出来る。
一つ息を吐き、回収したナイフを再度野々の手の中へと返してやる。
(゚A * )「あ、あんた、なんなんや、一体、なんやねん、どうしてそうも、平然として、そんな、当たり前みたいに、刃物相手に――」
(,,゚Д゚)「さっき言ったじゃねえか」
僕は野々を通り過ぎ、樋木の死体を通り過ぎ、袋小路へと歩んでいく。
そこには今し方まで状況を黙して見ていた少女が一人。
(,,゚Д゚)「“刃傷沙汰には慣れてる”ってよ」
彼女は変わらない。その瞳の中にはなんの色合いも浮かんでいない。
そんな彼女の前に――椎名しぃの前に立ち、僕は言葉を紡いだ。
41
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:43:09 ID:dc9ZaPKM0
(,,゚Д゚)「……初めまして、だろ、俺達」
口から出たその台詞に自分自身で驚く。何を言っているんだ、と。
だが、そんな僕の言葉に、椎名しぃは笑みを浮かべ、こう返すのだ。
(*゚ー゚)「……うん。初めまして、だよ」
可憐な花のようだった。その優し気な微笑みは昼間のそれと変わらなかった。
_,
(,,゚Д゚)「っとに気色悪いな、あんた」
(*゚ー゚)「ふふ……そうかな?」
_,
(,,゚Д゚)「ああ、おぞましい程に」
写真から切り取られたような笑みを張り付ける椎名しぃ。
彼女は人が死んだ場所で、殺し合いのあった場所で、優し気に微笑んだ。
42
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:43:33 ID:dc9ZaPKM0
一 其の四
43
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:44:57 ID:dc9ZaPKM0
(,,゚Д゚)「ええ、はい、そうです、場所は歓楽街近くの――」
僕は椎名の手を引きながら大通りを歩いていた。
現在先の状況から五分程度。警察に通報を終え、僕は携帯を仕舞い込むと椎名へと振り返った。
(,,゚Д゚)「……それで、どうしてあんなことになったんだ?」
あの後、昏倒した野々や樋木の死体はそのままに状況から逃げ出した。
そもそもが殺人事件だ、一介の学生程度が関わっていい案件じゃない。
当事者なのは間違いないが面倒な事後処理は警察に全て任せるのが一番だ。
説明は適当な具合だったが――偶々現場を通りかかったら制服姿の少年と少女が倒れていた、何か事件性があるかもしれないから急行してくれ――このくらいで十分だろう。
(*゚ー゚)「どうって……?」
平日の二十三時とは言えやはり歓楽街は賑やかしい。制服姿の椎名はどこからどう見ても浮いている。
そんな彼女を連れ立った僕だが、特に計画はない。
彼女は僕が去ろうという時に動こうともしなかった。
やはりどこか妙な少女――普通と言う感性を持たないのだろうかと首を傾げる。
放っておいてもよかったが、それは流石に忍びない。ので、僕は彼女の手を取ると現場を後にするのだ。
そんな彼女だが、去り際、それまでまったく関心を寄せもしなかったのに、樋木の死体を見つめ続けていた。
(,,゚Д゚)「状況だ。お前と野々が一緒にいるのはまだ分かる。だが樋木が居合わせるのは分からねえ」
(*゚ー゚)「ああ、樋木くん……」
自販機を見つけ、僕はコーヒーを二つ買うと、一つを椎名へと手渡した。
彼女は素直に受け取ったが、ややもして僕を見る。
(*゚ー゚)「私、コーヒー飲めないの」
(,,゚Д゚)「……いいから黙って飲め」
(*゚ -゚)「……飲めないって言ってるのに」
そう言って椎名は口を尖らせ、缶コーヒーを傾ける。
(,,゚Д゚)(なんだ……? なんか雰囲気が違う……?)
口を尖らせる――なんだ、その反応は。
まるで普通の女の子のようで、僕はほんの少し戸惑った。
44
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:45:58 ID:dc9ZaPKM0
(*゚ー゚)「樋木くん……私を護ろうとしてくれてたの」
(,,゚Д゚)「護ろうと?」
(*゚ー゚)「うん」
――遡れば放課後のことだそうだ。
野々と共に下校していた椎名は、久しぶりに親友と学生らしく夜遊びをしようとしていたらしい。
カラオケに行こうか、ゲーセンに行こうか、流行りのスイーツでも食べに行くか、はたまた何をするか――そんな他愛もない会話をしながら繁華街へとやってくる。
しかし、そんな椎名の目の前に樋木が現れた。
(;-_-)『椎名さん……!』
(゚A゚* )『樋木、おどれ……何の用や』
(;-_-)『野々さん……なんで野々さんだけ? 他の人達は一緒じゃないの?』
(゚A゚* )『……ええやろ、別に。親友と二人きりでもええやんか』
(;-_-)『……やっぱりだ。野々さん、君は、これからずっと椎名さんを独り占めしようとしてるんだね』
(゚A゚* )『何のことか分からんなぁ……な、行こう、しぃちゃん?』
(;-_-)『野々さん!』
まるで立ち塞がるように現れた樋木は椎名の手を取る。
(゚A゚# )『おい、何勝手に触れとるんや!?』
(;-_-)『言ったよね、野々さん……もう脅威はなくなったって。これで安心だって。だのに……なんで人を遠ざけるの……!?』
(゚A゚# )『ええから手をはなさんか――』
(;-_-)『いいや、君は危険だ!! きっと、これから君は椎名さんに近づくだけで敵と判断するようになる!! 今がその証拠だ!! ようやく通学するようになった椎名さんから人を遠ざけて、可笑しいじゃないか!?』
叫び散らす野々を背に、樋木は椎名の手を取って駆けだした。
45
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:47:35 ID:dc9ZaPKM0
(;-_-)『椎名さん、野々さんは危険だ……! いつか、もしかしたら椎名さん本人をも傷つけるようになるかもしれない! 僕が愚かだったんだ、全部僕が悪いんだ……!』
樋木のそれは、後悔に違いなかっただろう。
愛に狂い、それ故に椎名を護ろうとした樋木と野々。どちらにも正常と言う言葉は似つかわしくない。
だが、全ての害悪が消え去り、そこで樋木は気付いた。
(;-_-)『終わりなんてないんだ、野々さんには……偶像のように椎名さんを崇め、それに群がる存在を一つとして許すことはないんだ……!』
全てが標的になり得るのだ、と。そしてそこには己も含まれ、更には――理想からそれた時、きっと椎名自身も殺されてしまうだろうと。
果たして本当にそうなるかは分からない。野々の崇める椎名しぃと言う人間がこれからの生涯、どう変化していくかなど誰にも分からない。
或いは、野々はそれを受け入れるかもしれない。今と違う椎名しぃも一つの正解で、彼女の思うことの全てを肯定するかもしれない。
だがそうではない場合は――
(,,゚Д゚)「――……なんともまぁ、樋木も野々も、どこまでも勝手極まる糞だな」
そこまで聞かされて僕が呟いたのは、そんな程度の感想だった。
樋木も野々も、どちらも己の意見を絶対のことのように盲信している。
害悪から護る為、椎名しぃと言う人間を誰の手にも届かない、ある種は神のような存在とする為、二人は少なからずの人を殺してきた。
(,,゚Д゚)「他者の意思を、どころか本人の意思すら無視して、それが正しさだと信じて、害になるかもしれない存在を抹消して……全てはお前の為だと大義名分を振り翳して」
僕は椎名を見つめながら言葉を続ける。
(,,゚Д゚)「ちげーだろ、何もかも。全ては手前等の望みのままに行動してただけだろうに」
どう考えても、どうあっても、二人の行動の全ては――悪だ。
偶像として椎名を奉り、それを絶対的な存在として確立すべく存在しない敵をも創り出し、それを殺して回る。
確かにストーカー行為に椎名は悩まされていたのかもしれない。最悪は命に関わるような事件に発展していたかもしれない。
だが根本として窺える二人の心理と言うのは……椎名しぃと言う個人の独占だ。
46
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:49:08 ID:dc9ZaPKM0
(,,゚Д゚)「事件に発展する前に危機を排除する……聞こえはいいだろうよ。だが手段は多くあった筈だ。警察に頼るなり、自身等で警邏組織をつくるのもいいだろう。
だのに二人は他者の介在を一切許さず、ただ密かに殺し続けてきただけ……お前を孤立させただけ」
それを独占と呼ばず何と呼ぶ。それを悪と呼ばずなんと呼ぶ。
果たして殺された人間達は本当に全てが害となり得る存在だったのか。それを判断したのは誰だ――異常を極めた奴等が本当に正義を定義付けることが出来るのか。
僕は一つ息を吐くと缶コーヒーを飲み干し、再度椎名を見やる。
(,,゚Д゚)「お前はただ、あの二人の狂気に振り回されてたんだ。護られてたんじゃない。お前っつー人間を殺され続けてたようなもんだ」
(*゚ー゚)「…………」
美しく、誰の目をもひく絶世の美女、椎名しぃ。その美貌は他者を狂わせる。
もしかしたら二人は初めから狂っていたのかもしれない。
だが椎名と言う人間に出会い、その麗しき薫香にあてられ、ぎりぎりで保たれていた箍が外れてしまったのかもしれない。
(,,゚Д゚)(……悪を呼び寄せるように、か)
哀れにも思える。彼女と言う人間は、存在そのものが悪を惹きつけているようにも見えた。
美しきは罪――そんな言葉があるが、では椎名しぃと言う人間は、悪に愛でられる可憐なる花だと言うのか。
(,,゚Д゚)「お前は……」
未だ椎名の手の中には缶コーヒーがある。中身は先の一口から減っていない。
僕はそんな彼女の缶コーヒーを掴むと、躊躇いもせず飲み干す。
(,,゚Д゚)「何とも思わないのか?」
(*゚ー゚)「……何を?」
(,,゚Д゚)「お前を慕う連中が少なからず殺されたことも、樋木が殺されたことも」
顛末を語る椎名は何も感慨がないように思えた。ただ淡々と口を動かし事実を伝えるだけだった。
先程一瞬見せた妙な雰囲気も消え去り、いつも通りの――虚無に等しい表情でしかなかった。
それが気に入らない。先の現場でもそうだが、この少女は他者に対して関心を抱かない。
例え血の海が出来上がっても、目の前で級友が殺されても、他人事のように……自身がそこにいないかのように振る舞う。
47
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:49:37 ID:dc9ZaPKM0
(,,゚Д゚)「それがお前の生き方なのか、椎名」
僕は彼女を見つめる。彼女の瞳の中は相変わらず伽藍洞だ。
けれども僕は探そうとする。顔を近づけ、その大きな瞳の中に、何かしらの揺らめきが起こることを信じて。
(*゚ー゚)「……分からないの」
彼女は僕の目を見つめ返す。
(*゚ー゚)「私と言う人間をどうしてそこまで好いてくれるのか、どうして他者を殺めてまで護ろうとするのかが」
(,,゚Д゚)「……自分のことだろう」
(*゚ー゚)「ううん、違う。それは私のことであっても、私のことじゃないもの」
(,,゚Д゚)「あ……?」
何を意味不明なことを――苛立ち、僕が椎名の肩に手をかけようとした時だった。
48
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:50:00 ID:dc9ZaPKM0
「触る、なやぁ……埴谷ぁあ……!!」
49
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:50:55 ID:dc9ZaPKM0
――聞き覚えのある声がした。
途端に焦燥感に包まれ、僕は咄嗟に背後へと振り返る。
(;゚Д゚)(声が近い、糞っ、まったく気づかなかったぞ――)
あの状態からよくも――途方もない執念を感じ背が震えた。
荒い息が聞こえる。走る音が聞こえる。
声からして距離は近い。油断をしていた――
(゚A * )「しぃちゃんにぃ――触るなやぁああああ!!」
(;゚Д゚)「うおっ――」
振り返った先に見たのは肉薄した野々の姿。
彼女は僕に突っ込んできた。捨て身の突進だ。
完全に油断していた僕は、衝撃のあまりに歩道を飛び出し、車の行き交う道路へと身を投げ出す。
(;゚Д゚)(火事場の馬鹿力かよ――)
人間、死に物狂いになるとリミッターが外れると言う。彼我の体格の差はあまりにも大きい。
だがそれすら無視するかのように、野々の突進は僕の身体を吹き飛ばした。
ああ、直ぐ様に体勢を立て直さなきゃいけない。そして野々を再度無力化し、早くこの場から離れなければ――
(;゚Д゚)「あ」
甲高い音と眩いライトが僕の身体を叩く。視線だけを左にやれば、そこには――
(;゚Д゚)「マジか」
大型トラックの姿があった。
ああ、これは……無理だ。あとほんの少しもすれば僕はトラックに吹き飛ばされるだろう。
未だ宙に足が浮いた状態で、体勢なんて整うはずもなく、そもそも突っ込んでくるトラックを相手に勝てる訳なんてない。
これは今際の際か――そんなことを思う。頭の中は妙に冷静だ。それ故か視界に映る景色は全てがスローモーションに見える。
50
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:52:32 ID:dc9ZaPKM0
(゚A * )
野々の表情が見える。笑っている。ざまあみろとでも言いたげだった。
他に行き交う人々の顔も見える。悲鳴が聞こえ、大きな声で叫ぶ誰ぞかもいる。
トラックの運転手――凄まじい形相だった。目を見開き腕を大きく操作している。
絶体絶命のピンチ、後のない土壇場だった。誰がどう考えても僕は助からないと思う――その筈だ。
だのに。
(*゚ー゚)
椎名しぃは笑う。
いつものそれとは違う。
優しく、朗らかに、柔らかく、慈愛に満ちたような顔で僕を見て、笑う。
(*゚ー゚)「大丈夫」
そんな呟きが聞こえた気がしたのと、僕の身体の真横を通り過ぎた質量を感じたのは同時だった。
激しい風のような、途轍もない勢いに煽られて、僕の身体はアスファルトに激突し、クラクションの飛び交う路上で静かに身を起こす。
(;゚Д゚)「なっ……あれ、僕、生きて……?」
手足を動かし、身体の部位を触って確かめる。
指も曲がる、首も上下左右確かに動かせる。右半身を強く打ったが立ち上がることも出来る。
擦り傷によるものか出血をしている。が、これは大した程度ではない。
自身が生きていること、そして軽傷で済んだことを確認すると、一体何が起きたのかと、僕は先まで自分がいた場所へと振り返った。
(;゚Д゚)「――っ……!!」
そこには、歩道に乗り上げ、建物の壁に激突したトラックの姿があった。
次いで自分の立つ位置を見てみる。よく見ると強いブレーキ痕があった。
大きく弧を描いたタイヤの痕は僕の位置から大きく反れている――
(;゚Д゚)(いや、そうだ、僕は確かに見ていた)
全てが研ぎ澄まされた感覚の中、僕は確かにそれを見ていた。
トラックの運転手が大きく操作をしていたのを――ステアリングをめいいっぱいに動かしていたのを。
緊急回避だ。目の前に飛び出してきた僕を避ける為に、運転手は最悪な状況を回避するべく……。
51
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:53:59 ID:dc9ZaPKM0
「ひっ――は、ひっ――」
状況を把握した僕は、微かに聞こえる声に顔を上げる。
その声の出所はトラックが衝突した壁との隙間、ミリ単位しかない空間――
(゚A * )「こん、な――なん――で――」
そこに、野々はいた。左半身をトラックにより押し潰され、臓腑と血潮を地面に垂れ流しながら。
僅かに呼吸を続け、光の消え去った瞳で宙を見つめている。
(;゚Д゚)(回避先に、野々が、いた、のか)
野々の姿を見れば一目瞭然だ。もう、野々は助からない。命が果てるのもすぐだろう。
通りで大きな叫びが再度響く。それは喧騒となり、阿鼻叫喚の騒ぎとなった。
「う、うわあああ!! 女子高生がトラックに押し潰されたぁ!?
「おえぇっ、ひでえっ、なんだありゃっ……!!」
「わ、わたし、見てたの!! あの女の子が、男の子を突き飛ばしたの!!」
「こんなことってあるのかよ!! おい、誰か早く警察と救急車を――」
騒ぎの中、僕は段々と痛みを帯びる右半身を庇いつつ、押し潰された野々へと近寄っていく。
既に息はない。垂れ流れる血潮と臓腑の異臭が現場を満たしている。
(;゚Д゚)(有り得るのか、こんなこと)
奇跡だ――そう呼ばずしてなんと呼ぶ。
確実に僕は殺される筈だった。あの状況で自身の生存を確信出来る訳がない。
だのに、状況は覆るどころか、まるで因果応報と言うように、野々へとトラックが突っ込んだ。
(;゚Д゚)「お前は、分かってたのか――椎名」
「大丈夫」――何故そう言った。何故それを確信していた。
お前は、お前と言う人間は、何故僕の生存を信じて疑わなかった。
(;゚Д゚)「お前はなんなんだ、椎名しぃ……!!」
僕は叫ぶ。
彼女は野々のすぐ傍にいた。トラックが衝突する目と鼻の先、どころか掠る程の位置。
だのに彼女は何ともないように、どころか……何事もなかったかのように、平然としていた。
52
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:55:00 ID:dc9ZaPKM0
(*゚ー゚)「……私は私だよ、埴谷くん」
ふと、彼女は自身の鞄を漁り始める。
そうして小さな入れ物――ポーチを取り出すと、中から道具を複数取り出した。
(*゚ー゚)「……樋木くんも、こうしてあげたかったのに」
それ等は化粧道具。男の僕にはそれ等がどう言ったものかは分からない。
椎名はそれ等を手に持つと、命が尽きた野々だったモノへと近寄る。
(*゚ー゚)「ねえ、野々ちゃん。私、今、初めてあなたの名前を呼んだよ」
血に塗れた野々の顔にファンデーションが塗り込まれていく。
椎名はまるで当然のように、野々の顔に化粧を施していく。
(;゚Д゚)(ああ……そうか、そうなのか)
死化粧――僕にはその光景がそう見える。死者を葬る際に施される伝統の一つ。
美しく整え、あの世へと送り出してあげようと言う美しく、慈しみに溢れた優しい伝統の一つ。
(;゚Д゚)「お前が、悪そのものなのか」
椎名は笑う。
優しく、朗らかに、慈しみに満ちたように柔らかく。
死した野々に死化粧を施すと、ただ一言――
(*^ー^)「うん……綺麗になったね」
そう、呟いて。
53
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:55:24 ID:dc9ZaPKM0
一 了
54
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:55:49 ID:dc9ZaPKM0
幕間 其の一
55
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:56:52 ID:dc9ZaPKM0
_
( ゚∀゚)「あー、銀が帰ったらマジで暇だなぁ……」
_
( ゚∀゚)「しっかしこうもやることねーとなぁ、平日の休み増やそうかなぁ」
_
( ゚∀゚)「……なんか飲むかなぁ」
カランカラン
_
( ゚∀゚)「おや? あぁ、いらっしゃいませ、お客様」
_
( ゚∀゚)「当店は初めて、ですよね……?」
「ええ……この街も初めてですね」
_
( ゚∀゚)「お〜そうなんですか! いやはや、仕事か何かですかね?」
「そうですね。まあそんなところですよ」
_
( ゚∀゚)「成程ぉ、するとまだこの街には来たばかりで?」
「はい。取り敢えず、どこか雰囲気のよさそうなお店がないかなとブラブラしてたら……このお店を見つけて」
_
(*゚∀゚)「ははは、嬉しいこと言ってくれますねぇ! お通し大量に盛ってあげますよぉ!」
「ふふ……気前がいいんですね」
_
( ゚∀゚)「そりゃ勿論、初見さんには優しく、それでいて情熱的に接するのがこの長岡と言う人間ですから!」
「あはは、それは素晴らしい」
_
( ゚∀゚)「さてさて、それでぇ……何を飲みますか?」
「うーん、そうですね……ブランデーは何がありますか?」
_
( ゚∀゚)「ブランデーですかぁ、オタールかカミュがよく出ますけど」
「ああ、ならオタールをシングルロックで」
_
( ゚∀゚)「畏まりました!」
56
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:57:25 ID:dc9ZaPKM0
_
( ゚∀゚)(は〜、こんな時間に珍しいと思えば……)
_
( ゚∀゚)(しかしまぁ、うーん……)
_
( ゚∀゚)「ところでお客さん」
「ん? なんですか?」
_
( ゚∀゚)「その手に持ってるのって……」
「ああ……まぁ、楽器ですよ、楽器」
_
( ゚∀゚)「あ、ああ〜そうなんですねぇ! いやぁ、自分、楽器には疎くて、そう言う細長いのもあるんですねぇ!」
「ええ、まぁ……色々ありますから、楽器も」
_
( ゚∀゚)「なぁるほど〜」
_
( ゚∀゚)「…………」
_
( ゚∀゚)(いやぁ、どう見ても……楽器の形状してねーっつーか、その見た目からして……)
_
( ゚∀゚)(白地の布に包んでるのも、なんつーか……)
_
( ゚∀゚)(まぁ、突っ込まんどこ……)
57
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:58:10 ID:dc9ZaPKM0
「ふふ……」
_
( ゚∀゚)「え? どうしました?」
「いや、そこは気になるのに、ボクのことは訊かないんだなって思って」
_
( ゚∀゚)「……あぁ。まぁ、そうですね、見た目の話なら、そりゃ初っ端気になりましたよ?」
「素直ですね」
_
( ゚∀゚)「嘘ついても仕方ないですしねぇ。けどまぁ、そう言うところに簡単に触れちゃぁよくないでしょう?」
「紳士ですねぇ」
_
( ゚∀゚)「そりゃ当然! 特に女性に対して自分はとてもジェントルですよぉ!」
「あはは……これは何とも、面白い店を見つけちゃったなぁ」
_
( ゚∀゚)「今後とも御贔屓に!」
「営業もかかさないときた……ふふ、これはあいつも喜ぶかもなぁ」
_
( ゚∀゚)「え? 今なんて?」
「いや、ただの独り言です」
_
( ゚∀゚)「なるほどぉ、まぁ今日はゆっくりしていってくださいよ、お客さん! どうぞ、オタールのロックです!」
「ああ、ありがとうございます」
_
( ゚∀゚)「こちらはチェイサーに――」
「いえ、チェイサーは必要ないですよ」
_
( ゚∀゚)「ありゃ、これはまた豪気なお方だ」
58
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:59:12 ID:dc9ZaPKM0
「っと、少し失礼、着信が……」
_
( ゚∀゚)「どうぞどうぞ、お気になさらず」
「どうも……もしもし。うん、ボクだよ。今は、えーと……」
_
( ゚∀゚)「『セント・ジョルジュ』」
「ああ、えーとね、『セント・ジョルジュ』って言うバーにいるんだけど」
「……え? 別にサボってる訳じゃないよ。ただ落ち着きたかっただけだから」
「……そっちだって何か喧騒が聞こえるけど。どこにいるんだい?」
「歓楽街? すごい事故があった?」
「へぇ、死者も……お前はなんともなかったのかい?」
「いや、別に心配はしてな……なんだ五月蠅いな、分かった分かった心配したした」
「うん……ああ、うん、これから駅の付近で、はぁ、弾き語り……うん……」
「よっぽどお前の方が自由にしてる気がするけど……いや、まあいいや」
「うん、分かった、じゃあ後で……」
_
( ゚∀゚)「……お友達ですか?」
「え? ああいや、そんなんじゃないですよ」
_
( ゚∀゚)「それにしては随分勝手知ったる仲のようでしたけどぉ……」
「まあ、腐れ縁と言うか、そうだなぁ……相棒、のようなものですから」
59
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 16:59:46 ID:dc9ZaPKM0
_
( ゚∀゚)「お〜いいですね、相棒って!」
「ふふっ……どうでしょうね。けどまぁ、今日はこの一杯だけにしときますよ」
_
( ゚∀゚)「おや、相棒に怒られる?」
「ですね。本人も自由気ままな癖して、まったく……」
_
( ゚∀゚)「あはは! いいじゃないですか、元気そうな相棒で!」
「その元気も過ぎれば鬱陶しいだけですよ……それじゃあ、チェックで」
_
( ゚∀゚)「はいはい! 暫くこの街にいるんですか?」
「んー、どうだろう。状況次第……ですかね」
_
( ゚∀゚)「なるほどぉ……もしまたお時間にゆとりがあった時は、是非飲みにいらしてくださいね!」
「ええ、そうさせてもらいます」
「それじゃあ――」
60
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 17:00:12 ID:dc9ZaPKM0
(#゚;;-゚)「また、きます」
61
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 17:00:37 ID:dc9ZaPKM0
続
62
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/25(日) 17:08:20 ID:dc9ZaPKM0
お久しぶりです、「ξ゚⊿゚)ξ殺人鬼は微笑むようです」を書いていた者です。
今年で初投下から十年だったので、何か記念に書いてみようと思い久しぶりにブーン系に触れてみました。
今のブーン系界隈がさっぱり分からず、こうして新しい板が出来ている事実にも少々驚いています。
かつ、スレタイのバグ、のようなものも予想外で初っ端から既にやらかしている気がしますがご容赦ください。
本作品は既に書き終えてあります。
が、自身の生活等もあるので、投下は週一、曜日は土日のどちらかになると思われます。
内容は中編、文庫本小説一冊程度となっています。
長らく離れていた身ではありますが、今一度微笑むシリーズにお付き合い頂けたら幸いです。
63
:
名無しさん
:2019/08/25(日) 17:28:34 ID:hZzRKWeo0
おつおつ
微笑むはシリーズだったのか…
64
:
名無しさん
:2019/08/25(日) 19:15:10 ID:uRBftQLI0
投下乙です
何度も読み返した殺人鬼は微笑むようですの作者の作品、しかもシリーズが読めるとは…土日の楽しみが増えました
65
:
名無しさん
:2019/08/25(日) 21:54:50 ID:EuMux3HI0
乙です!
66
:
名無しさん
:2019/08/26(月) 17:23:12 ID:jPSCj6Lc0
続きを期待
67
:
名無しさん
:2019/08/26(月) 21:50:02 ID:DNnMEvpE0
マジかよおかえりなさい!!
68
:
名無しさん
:2019/08/28(水) 18:08:33 ID:RNeN25Zk0
今気づいた、シリーズとな!?!?
wktk
69
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:30:56 ID:eFX00bhU0
今週の土日と予定が立て込み投下が出来なくなりそうなので、本日、急ですが一つを投下します
70
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:31:20 ID:eFX00bhU0
二 其の一
71
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:32:49 ID:eFX00bhU0
樋木と野々の死はマスコミが大々的に取り上げた。
内容は現代社会の闇――そう冠され、樋木を殺した野々の事故死もまた、話題性に拍車をかける。
(; Д )「ふっ……はぁっ……」
昨夜の騒動の後、僕は救急車により病院へと搬送された。
特に目立つ外傷はない。全身打撲と言ったぐらいで即座に帰宅を許された。
朝になってみれば、てっきり休校にでもなるかと思っていたが特にそう言った措置はなく、門前に溢れる記者達を押しのけ、通常のように教室へと向かう。
(; Д )「っっっ〜〜〜はぁっ……!」
生徒達は誰もが昨夜のことを――樋木の死と野々の死を口にする。
樋木から椎名を護った野々が死んでしまった――大体はそう勘違いしたままだ。マスコミも同じくだ。
真実を知る者はいない。僕はただ現場に偶然鉢合わせただけ――警察にもそう説明してある。
元より樋木や野々、そして椎名との関わりなど皆無だった僕だから、それ以上の詮索はなかった。
生徒達もいつもより僕へと注目を向けるが、ある種は災難だったと言うか、僕もまた被害者の一人のような扱いだった。
(; 皿 )「ぎっ、んぎぎっ……!」
結局、その日の授業は丸々潰れ、全校生徒は告別式へと向かい、それにて本日は了となる。
野々と親しかった生徒達は相変わらずに泣いていたり悲しみを口にしたが、樋木に対する怨嗟の程と言えば……語るに及ばず。
(;゚Д゚)「――ふうぅ……」
真実を語る必要――あるのか、と思う。
単純に言えば、これ以上の面倒事は御免だった。今も尚発見されていない複数の遺体の在処にも興味がない。
正義感――皆無だ。元より関係性なんて一切ない人達とのイザコザで、それに巻き込まれ――自身から踏み入ったことだが――ケツまで拭ってやる必要はない。
(;゚Д゚)「全身痛いっちゃ痛いけど……まぁ、動かせるっちゃ動かせるくらいか」
――全身汗だくのまま僕は地べたに座り込む。
現在、場所は僕の住まうアパートの前。吹き出る汗もそのままに、夕暮れの風に吹かれていた。
(,,゚Д゚)「さて、そろそろバイトに行かねえと……店長、遅くなるっつってたし」
未だ痛む身体を労わりもせず、部屋へと戻り、シャワーを浴び、着替えを済ませる。
本日はオープンから僕一人だから、早いうちにバーへと向かい開店準備を済ませたいところだ。
72
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:34:22 ID:eFX00bhU0
(,,゚Д゚)「さぁて、今日も元気に暇を謳歌するか――」
そんな皮肉を口にしつつ、支度を終えた僕は扉を押し開けるのだが――
(*゚ー゚)「あ」
(,,゚Д゚)「え」
扉を開け放った先に見知った奴がいた。
別に仲がいいとかそういう訳ではない。関わりと言えば昨夜からのものだ。
が、そんな赤の他人にも等しい奴が、どういう訳か……僕の家の前で佇んでいた。
(,,゚Д゚)「……は?」
口からそんな言葉が出る。何せ予想だにしないことだったし、そもそも……何故僕の家の前にいるのか。
第一、教えた覚えはないし、家に招くような関係でもない。断じて違う。
だのに、そいつは――椎名しぃは、今正にインターホンを鳴らそうとしていたようで、タイミングよく出てきた僕と鉢合わせるのだ。
(*゚ー゚)「あ、丁度出てきちゃった……こんにちは、埴谷くん」
(,,゚Д゚)「ああ、こんにちは……」
――脳が警笛を鳴らす。間違いなくこれをまともに相手してはいけないと。
僕は返事をしつつ後ろ手に扉を閉め、軽く椎名を見やると背を向け、素知らぬ顔で歩き出す。
(*゚ー゚)「どこに行くの?」
(,,゚Д゚)「…………」
(*゚ー゚)「それにしても、結構学校から近い場所に住んでるんだね、埴谷くん」
(,,゚Д゚)「…………」
(*゚ー゚)「でも意外だね、私服姿、結構格好いいね。シンプルだけど似合ってるよ、グレーのワイシャツに黒のパンツ」
(,,゚Д゚)「…………」
……先から会話をしている風だが、僕は返事もせず、椎名を視界に入れもせず、黙々と前を見て歩いている。
そんな僕の隣に当然のように立ち言葉を連ねる椎名しぃ。
こういう手合いはどうするべきか――不良共と同じだ。相手にしないのが一番だ。何せ反応を待ち侘びているからだ。
どれだけ言葉を寄越されても無視だ。如何に絶世の美女と言えど、僕はもう、この少女と関わり合いになるつもりはない。
73
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:35:20 ID:eFX00bhU0
(*゚ー゚)「鍛えてるんだね」
だのに、その言葉に僕の足が止まる。
(*゚ー゚)「見てたの、ずっと。埴谷くんが走り込んでいるところも、自重トレーニングしているところも」
額に汗が浮かぶ。だがそれを拭うでもなく、僕は一度空を仰いだ。
次いで眉間に寄る皺を指でほぐし、諦めたように溜息を吐く。
_,
(,,-Д-)「……一時間くらい、見てたってことか」
(*゚ー゚)「ううん。言ったでしょ、ずっとって」
_,
(,,゚Д゚)「……尾けてたのか」
鋭く彼女を睨むが、やはり彼女は能面のような笑顔を浮かべるのみ。
(*゚ー゚)「だって、まったくお話してくれなかったから」
(,,゚Д゚)「学校でか……当たり前の話だろ。昨日の今日だぞ、事件があったのは。そんなだってのに話題の渦中に飛び込む程愚かじゃねえよ、俺は」
幾度となく視線を寄越され、それを悉く回避していたのが今日の僕だ。
これ以上面倒なことは御免――平和と普通といったものをこよなく愛する僕だ、如何に椎名が佳人然としていようが関係はない。
それに、僕はこの少女が……気に入らない。
(,,゚Д゚)「ストーカーされてたお前がストーカーをするだなんてな」
(*゚ー゚)「……じゃないとお話もしてくれないでしょう?」
(,,゚Д゚)「する気がねーんだ。分かれよ」
(*゚ー゚)「……なんでそうも邪険にするの?」
_,
(,,゚Д゚)「何でだぁ……?」
74
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:36:38 ID:eFX00bhU0
昨夜のことを思い出す。
何もかも他人事のように状況を眺めていただけの椎名、意思の一つも示さなかった椎名。
それらだけで僕はこの少女に対して嫌悪感を抱く。
だがそれらよりも更に僕の中で引っかかるのは――
(,,゚Д゚)(あの笑みだ)
野々の死体に死化粧を施していた時の椎名。
その笑みはあまりにも優しく、儚く、美しく、慈愛に満ち溢れていた。
いつもの笑みとは違う。生物的で、とても温かみがある。
だがそれは……死んだ者へと向けられたものだ。
(,,゚Д゚)「……人間性があわねえのさ、俺とお前は」
(*゚ー゚)「そうかな?」
(,,-Д-)「ああ、そうだよ……」
理解が出来なかった。死んだ野々に対しての行動もそうだが……何故そうも優しく微笑むことができるのかが分からなかった。
通常、人は死にまつわるものを嫌悪し忌諱する。死体は正しくその代表格だ。
何せ単純に恐ろしいし、野々にいたっては臓腑を撒き散らし鮮血に塗れていた。
通行人の多くも吐瀉を撒き散らしていたし、泣いたり叫んだりする人たちも少なくなかった。
だのに、椎名はそんな野々に微笑んだ。いつも浮かべている仮面のような笑みとは違うものだった。
(,,゚Д゚)「お前は普通じゃあねえよ、椎名」
椎名を見下ろす。小さな女の子だ。背は百五十センチ程度だろうか。僕は百八十五センチくらいだから、その差はあまりにも大きい。
華奢で、軽く小突いただけで大怪我でもしそうなくらい、儚い印象を受ける椎名しぃ。
その本質を知る者はいるのだろうか。彼女の内にある歪さを知る者は、僕以外に、果たして――
(*゚ー゚)「ならなんで埴谷くんも平静だったの?」
その伽藍洞の瞳が僕を射抜く。
数瞬、言葉が出なかった。その質問は先の野々にもされたが、しかし、こうして正面を切って問われると、これが中々容赦がない。
75
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:37:42 ID:eFX00bhU0
(*゚ー゚)「怯える様子も、嫌悪する様子もなかった。樋木くんが目の前で殺されても逃げ出さなかった。どころか……野々ちゃんと対峙した」
(,,゚Д゚)「…………」
(*゚ー゚)「“刃傷沙汰になれてる”……それだけの理由で刃物を持った相手と闘うなんて可笑しいよ」
(,,゚Д゚)「……そうでもねえよ」
(*゚ー゚)「そう? なら――」
ああ、次に椎名が紡ぐであろう言葉が予想できる。
(*゚ー゚)「人が死ぬのもなれてるの?」
椎名の瞳の奥に感情の揺らぎがある。いつだって虚無を思わせる瞳に静々と揺れる波がある。
僕はまたも言葉が出てこなくなる。口を開こうとするがそれも躊躇う程に、思考が白く染まっていた。
(,,゚Д゚)「……んな訳あるかよ。あの時は必死で、状況を碌に受け止められなかっただけだ」
やっと出てきたのは誤魔化すような言葉だった。
椎名は少しばかり納得がいかないような顔をするが、僕が無視して歩き始めると急いでまたも隣に並ぶ。
(*゚ー゚)「……埴谷くんって身体が大きいよね」
(,,゚Д゚)「あ?」
(*゚ー゚)「ただ背が大きいって訳じゃなくて。醸す威圧感からずっと違和感があったけど、今日の姿を見てよく分かったんだ」
先までの話題を打ち切り、椎名が僕の身体を舐めるように見つめながら言葉を続ける。
(*゚ー゚)「凄い鍛えてるんだね。長袖着てるから分からなかった。着やせするんだね」
(,,゚Д゚)「別に……鍛えてる訳じゃねーよ。健康志向なだけで……」
76
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:38:51 ID:eFX00bhU0
(*゚ー゚)「その割にランニングは三十分間全力疾走だし、バーベルまで持ち出したり、意識が途切れそうになる寸前まで鍛えこむんだね」
(;-Д゚)「……お前、マジでずっと見てたのか。一体どこから……」
(*゚ー゚)「物陰から」
(;-Д-)「……敵意も殺意もなけりゃ、スニーキングってのはそうも上手くいくのか」
僕には日課がある。毎日、学校を終えると一時間から二時間程の筋力トレーニングを組んでいる。
ランニングから始まり、自重トレーニングも含め、貧乏学生なりに可能な範囲で自己を鍛え上げている。
(,,゚Д゚)「単なる趣味だ。それ以上も以下もない」
(*゚ー゚)「そう? 私には……凄く必死に見えたけど」
言いつつ、椎名は言葉を続ける。
(*゚ー゚)「いつ何が起きても大丈夫なように。自分自身が武器であることを忘れないように」
(,,゚Д゚)「――……」
再度足が止まる。僕の前を軽く歩いた椎名は、僕へと振り返り、何故かあの優しい笑みを浮かべた。
(*^ー^)「凄いね。まるで埴谷くんは、研ぎ澄まされた白刃のよう」
白刃――その言葉に後頭部を殴られたような衝撃を得た。
表情には出さない。だがそれは、椎名の言葉は……僕の本質を捉えたかのような、そのくらい確信に迫るようなものだった。
(,,゚Д゚)「……厨二病みてーな表現は大概にしとけ、アホくせぇ」
(*゚ -゚)「ええ? 褒めたつもりなんだけど……」
(,,-Д-)「どこがだ……」
いつの間にか場所は歓楽街。僕は見慣れた風景に移ったことに今更気付き、暮れた空を見上げると椎名へと視線をやる。
77
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:39:32 ID:eFX00bhU0
(,,゚Д゚)「で、どこまでついてくるんだ。もういい時間だぞ」
(*゚ー゚)「……なんかね、ここら辺に隠れ家的なバーがあるって聞いて」
おいおい、嘘だろ――僕はげんなりとした顔をする。
(;゚Д゚)「それが……?」
(*゚ー゚)「そこにね、格好いいバーテンダーさんがいるらしいの。まだ学生らしいんだけど」
(;゚Д゚)「はぁ」
(*゚ー゚)「でもね、皆はその人のこと、ドのつく不良って呼んでるらしくて」
余計なお世話だ糞が――言いかけて言葉を飲み込む。
(*゚ー゚)「けどね、私は、その人が不良とは思えないんだよね」
(;゚Д゚)「……?」
(*゚ー゚)「だってね、その人はね……」
ちょいちょい、と椎名が手招く。ああ、背を屈めろと言うことだろう。
何を耳打ちすることがあるんだろうか、と思う僕だったが――
78
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:40:15 ID:eFX00bhU0
(*゚ー゚)「いつもは一人称が俺なのに、切羽詰まると僕って言うんだもん」
(;゚Д゚)「――!?」
いつ口にしたんだ――トラックに吹き飛ばされそうになった時、確かに口にした。間違いなく。
こいつはそれを聞くだけの余裕があったという訳だ。
そりゃそうだ。さもなきゃ野々の死体相手にあんなイかれた真似なんて出来る訳がない。
(*゚ー゚)「私、そのお店に行ってみたいんだけど……案内してくれるかな、バーテンダーさん?」
(;-Д-)「……糞ったれ」
何故そうも僕に興味を持つ――ずっと纏わりついている疑問だった。
何もかも他人事のように、いつだって何にも無関心な奴なのに、何故。
そして何故、椎名は僕に対して、こうも……人間的な接し方をするんだ。
(;゚Д゚)(何にせよ、これはマジで面倒な奴に絡まれたぞ)
不良共を相手取るのと何も変わらない。どころかより性質の悪い……ストーカーと一緒だ。
僕は肩を竦め、諦めたように息を大袈裟に吐くと、未だオープンしていないバー《セント・ジョルジュ》へと椎名を招き入れるのだ。
79
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:40:39 ID:eFX00bhU0
二 其の二
80
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:41:41 ID:eFX00bhU0
_
( ゚∀゚)「ふい〜、いやぁ悪いな銀! 予定より遅くなっちまったわ! それがよ、駅前にイかした弾き語りの姉ちゃんがよぉ――」
チャームを鳴らして忙しく入店したのは店長だった。
少し荒い息からして小走りしてきたのだと思われる。謝罪を口にしつつ店内を見渡した彼は、バーカウンターに座る少女を見つけると目を見開く。
_
(;゚∀゚)「……え、お客さん?」
(*゚ー゚)「はい、そうです」
ミスマッチにも程がある――店長の顔にはそんな言葉が浮かんでいた。
何せだ、夜の店に制服姿で、しかもノンアルコールのミルクカクテルを傾け行儀よく座っているものだから、迷い込んできた子猫のようにも見えただろう。
しかして実態は否も否。僕から言わせれば子猫ではなくチーター、或いはピューマ……。
(,,゚Д゚)「ほら、店長もびっくりしてっからとっとと帰れ、椎名」
(*゚ー゚)「お客さんに帰れだなんて酷いと思うよ?」
(,,゚Д゚)「飲めてノンアルコールだろうが……夜の店にくる格好でもねえ。せめて着替えてこいよ……」
(*゚ー゚)「私服姿ならもっといていいってこと?」
(;-Д-)「ちっげーよスカポンタン」
先から店長は驚きの表情だ。そんなままで、僕の顔を見て、次いで椎名の顔を見て、またも僕の顔を見て――と、何度も往復している。
ややもして彼はカウンター内に飛び込んでくると、僕へと詰め寄るのだ。
_
(;゚∀゚)「ななな、なになに、どういこと!? もしかして銀の彼女!?」
(,,゚Д゚)「違います」
_
(;゚∀゚)「すげえ刹那で否定しやがった! いやでも、えぇ、なにこの美少女!? 知り合い!?」
(,,゚Д゚)「ただのクラスメートです」
_
(;゚∀゚)「マ!?」
(,,゚Д゚)「マ」
えええ、と納得がいなかい様子の店長。
81
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:42:19 ID:eFX00bhU0
_
(;゚∀゚)「あれほど友達がいないだとか知り合いすらもいないだとかと言ってた銀に、よもやこんな美少女の友達がいただなんて……」
(,,゚Д゚)「友達じゃあない」
_
(;゚∀゚)「呼び方はこの際どうでもいいんだよ! このスケコマシ! 強面の癖にやりおるわお主、えぇ!?」
(,,゚Д゚)(面倒くせえ……)
_
(;゚∀゚)「いやでも待ってくれ、そうか、これは記念すべき日……言ってしまえば記念日……銀、お赤飯いる……?」
(;゚Д゚)「いらないですから、つーかこいつ追い出すの手伝ってくださいよ」
_
(;゚∀゚)「あ゙に言ってんだボケ! 仮にもお客様だろうが!」
(;゚Д゚)「いやいや制服姿ですし、どうすんです私服警官がきたら、面倒っすよ」
_
(#゚∀゚)「そんなもん関係ねぇ! 俺がハスハス出来るなら全てオールウェイズエブリバディカモンベイベー!」
(;゚Д゚)「シャブでも喰ってんの?」
_
(#゚∀゚)「喰ってない!」
先から阿呆みたいなやり取りだが、そんな光景を椎名はミルクカクテルを舐めるように飲みつつ見つめている。
(*゚ー゚)「……そう言う風に笑うんだね、埴谷くんって」
(;゚Д゚)「あ?」
グラスを置き、椎名は少しばかり驚いた表情をして言葉を続ける。
82
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:43:49 ID:eFX00bhU0
(*゚ー゚)「私と喋ってる時はいつも不機嫌そうなのに。学校でも仏頂面で」
_
( ゚∀゚)「ああ、どうせ照れてるだけだよお嬢さん。こいつってばお喋り大好きだし」
(,,゚Д゚)「いや違うよ?」
_
( ゚∀゚)「こいつ顔はいいのにねぇ。人見知りだし引っ込み思案だしでねぇ、意思疎通とるの大変でしょぉ?」
(*゚ー゚)「そうですね……でも、何だかんだで喋ってくれますから、優しい人だと思います」
(,,゚Д゚)「だから違うよ?」
……参った。よもやこうも店長が舞い上がるだなんて。
椎名も椎名だ、一々いらない反応をするものだから店長が調子に乗ってしまう。
実に煩わしいやり取りに空気だ。正直相手にするのも面倒だし、なんだったらこのまま帰ってしまいたいくらいだ。
だが……店長の笑顔はとても柔らかで、僕の肩をばんばんと叩くけれども、それも不思議と許せてしまえる。
いつもよりも喧しく、お調子者のままにハイテンションな様子。
(,,゚Д゚)(……心配、させてたのか、僕は)
他人なのに。単なるアルバイトでしかないのに。暇な時間を共有し、下らない話に花を咲かせる間柄でしかないのに。
少しばかり申し訳なくなる。店長は口だけじゃなくて、本当に僕を気に入ってくれているんだと気が付く。
あれやこれやと椎名に話題を振り、返事を聞くと内容がなんであれ大騒ぎをする。
大袈裟な人だ。正直僕としては苦手な人種だ。
だが……嫌いになれない人だ。
_
( ゚∀゚)「けどま、お嬢さん……確かに銀の言うことも一理あるんだぜ」
(*゚ー゚)「……?」
それまでお道化ていた店長だが、少しばかり真面目な顔つきになった。
83
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:45:43 ID:eFX00bhU0
_
( ゚∀゚)「近頃の歓楽街は物騒なんだ。そういうことは疎いだろう?」
(*゚ー゚)「……そうですね。確かに詳しくは……」
_
( ゚∀゚)「ここんところ、何やら若い衆が抗争だなんだで荒れ狂ってるんだ。いくつものチームが血で血を洗うレベルで戦争してんのよ」
(,,゚Д゚)「…………」
そう言った店長だが、それは事実だった。
先日、僕は茂良の奴にチームに入るように誘われたが、僕は他にもいくつかのチームから同じような勧誘を受けている。
曰く、頂上決戦がどうたらこうたら、と。何をガキ共がしゃしゃってんだ、と呆れもするが――
(,,゚Д゚)(ヤクザがガキ共を使って何かしてるみたいだな)
抗争に発展する理由は多々あるが、まるで群雄割拠よろしく挙って戦争に参加するなど普通なら有り得ない。
僕は不良ではないが、そういう奴等のことは少なかれ知っている。
所詮、ガキの喧嘩と言うのはプライドのぶつかり合いだ。どっちのチームが強いか、魅力的か、権力を持つか、等々……実に下らない。
そんな下らない大喧嘩だが、これを操作している連中がいるような気がする。
(,,゚Д゚)(確か……白根(しらね)組っつったか、ここら辺で一番名が通ってるのは)
聞けば武闘派で知られる組織だそうで、僕の住まう地域はこの組織により暗部が管理されていると言う。
白根組の全てを知る訳ではない。だが他の組織と盃を交わさず、今時珍しく一代でやり遂げようと言う気概は見上げたものだとも思う。
しかし――
(,,゚Д゚)(白根組が管理する土地でガキ共の抗争が見過ごされている現状……きな臭え)
それを鎮めるのがヤクザであり、それ等を受け入れる受け皿の役割を持つのもヤクザだ。
小僧共の好き勝手を許す理由などない。普通に考えれば各チームの親を呼び出して説教の一つでもかまし、静かにしやがれと怒鳴って終わるだろう。
が、それがない。今や無法地帯に等しい歓楽街周辺。誰も何も文句を言わないとなると、やはり見えてくるのはヤクザ共の存在だ。
(,,゚Д゚)(何をさせようとしてやがんだ……?)
直接に関係がないとは言え、僕はそういう連中によく絡まれる。
願わくばさっさとこの面倒くさい状況を終わらせてほしいのが本心だが、一体全体どうなっているのか――
84
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:46:51 ID:eFX00bhU0
_
( ゚∀゚)「だからお前も気を付けろよ、銀」
(;゚Д゚)「んうぇ?」
思考の海に浸かっていると店長が僕の名を呼んだ。
_
( ゚∀゚)「お前、ただでさえ面倒な奴等に絡まれるんだからよ、行きも帰りも気を付けろって話だよ」
(,,゚Д゚)「ああ、それならまぁ……最近、人通りの少ない道を帰り道にしてるんで大丈夫ですよ」
その所為で昨夜の事件に出くわしたのだが――心の中で呟く。
_
( ゚∀゚)「そうかぁ? ならいいけど……んじゃお前、ついでに今日は椎名ちゃんを送ってあげろよ」
(;゚Д゚)「は?」
_
( ゚∀゚)「は、じゃなくて……こんな幼気な美少女を夜の歓楽街に放りだそうってのかぁ? そいつはお前外道極まるだろって」
確かに椎名の見てくれからして、夜の歓楽街を一人で歩かせるのはとても危険だ。
が、僕にそこまでする義理と言うのはない。そもそも僕はもう椎名と関わり合いになりたくない。
_
( ゚∀゚)「そんな訳だけど……椎名ちゃん、まだ時間大丈夫? もしよかったら二十二時までいてくれるかな? 帰りに銀が送ってくからさ」
(*゚ー゚)「ええ、大丈夫ですよ」
_
( ゚∀゚)「ならよし! この柿の種は俺からのおまけだ、たんと食べなぃ!」
(*゚ー゚)「わぁ、ありがとうございます」
(;゚Д゚)「待て待て待て待て当人を置いてけぼりにして話を進めるんじゃあない」
_
(#゚∀゚)「お前なぁ銀、女の子に対してそんな態度じゃダメだぜ!? こういう時は黙って送ってあげるのが男ってやつなの!」
(;゚Д゚)「いやいや親に迎えにきてもらえばいいでしょう!?」
_
(#゚∀゚)「はあああお前糞、まったくもって糞、浪漫も何も感じない! 零点!」
85
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:48:08 ID:eFX00bhU0
(;゚Д゚)「ええぇ……」
_
(#゚∀゚)「こういうところでポイントを稼がなくていつ稼ぐの! ただでさえお前は陰険なジミメンなのに!」
(;゚Д゚)「すっげー余計なお世話」
_
(#゚∀゚)「いいから送り狼してこいってんだよ! 不良に絡まれたらそいつぶっ飛ばして更にポイント稼げよ!」
(;゚Д゚)「そこまで下心しかないと逆に清々しいっすわ」
そんなやり取りをしている僕と店長だったが――
(*゚ー゚)「親は……多分迎えにきてくれないから」
(,,゚Д゚)「あ……?」
そう言えば……椎名の両親の話と言うのは聞いたことがなかった。
当人は学校ではマドンナだとかヒロインの扱いを受けているが、その割に彼女に関する周囲の情報と言うのは皆無だったように思う。
長らく通院生活をしていたぐらいだ。そこそこお金には余裕のある家だろうな、というのは察する。
しかし、例えば昨夜がそうだが、意外と椎名の親と言うのは過保護ではないようで、身体の弱い娘が遅い時間まで遊ぶのを咎めもしないらしい。
証拠に、今現在の時刻は二十一時だが、彼女は携帯端末を操作する仕草もないし、着信等もない。
(,,゚Д゚)(……謎が多いな、こいつも)
迎えにはこない――大事な娘だろうに、心配にならないのだろうか。
それとも放任主義なのか、はたまた仕事で両親共に忙しい立場なのか。
何にせよ、椎名しぃと言う人間は、結構、自由気ままな生活を許されているらしい。
(,,゚Д゚)(ったく、面倒なことばかりだ……)
定時まで残り一時間弱。しかも仕事の終わりには椎名を送っていかなきゃならない。
何だってこんな羽目に――どうにも、僕の運命は昨夜から大きく狂ってしまったように思えた。
86
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:51:09 ID:eFX00bhU0
◇
二十二時を過ぎても歓楽街は賑やかだ。寧ろここからが本番とでも言おうか。
曜日を気にもしない老若男女は通りで笑いを響かせたり、吐瀉を撒き散らしたり、或いは路上で横たわっていたりもする。
(*゚ー゚)「凄い喧騒……もう遅い時間なのに」
(,,゚Д゚)「ネオン街にとっちゃまだ宵の口みたいなもんだ」
物珍しそうに周囲を見渡す椎名。やはり夜の盛り場に制服姿の少女は場違いに思える。
例えば椎名が一般的にヤンキーだとかギャルと呼べるような部類なら、成程これから稼ぎ時な訳だ、と納得できるだろう。
しかし椎名は美少女ではあるがジャンルを分けるとしたら白い百合の花のような楚々な乙女だ。通常のスカート丈のままに綺麗な背筋で通りを歩けば誰もが首を傾げる。
(,,゚Д゚)「それよりさっさと帰るぞ。家はどこなんだ」
(*゚ー゚)「……何で急いでる風なの?」
(,,゚Д゚)「さっき店長も言ってたろ……どうにも俺は面倒な奴等に絡まれやすいんだ」
お前も含めて――そう言いかけて言葉を飲む。
(*゚ー゚)「ああ……流石はドのつく不良?」
_,
(,,゚Д゚)「……怒るぞ」
(*゚ー゚)「そうやって眉間に皺を寄せるから怖い顔がもっと怖くなるんだと思うよ?」
(;-Д-)「チッ……うるせぇな。もういいから、ほら、行くぞ」
87
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:52:35 ID:eFX00bhU0
眉根を伸ばしつつ僕は椎名を急かす。彼女は僕の隣にくると一度だけ僕の顔を見て、やっぱり怖い顔、と呟いた。
彼女の呟きを無視しつつ、僕は道を歩き出すが……。
(;゚Д゚)(なぁんで僕がこんな面倒な真似を……)
そもそも不服だが、やはり面倒が極まる状況だ。
そりゃ、椎名のような少女を夜の歓楽街に放りだすのは不安そのものだろうが、彼女を護る義理などない。
やはり今からでも両親に連絡を取らせ、せめて迎えがくる時まで傍にいてやるくらいでいいんじゃないだろうか。
家まで送る――僕の時間やプライベートを無視しないでほしいものだ。一応は労働の後なのだから、さっさと帰宅して憩いの時間と洒落込みたい。
何せ昨日から僕はまともに休息だとか癒しを堪能できていない。どころか死にまつわることも含め、不幸の連続だった。
(;-Д-)(やっぱり関わるんじゃなかった……)
もしもあの暗がりの路地に踏み入っていなかったら僕はこの状況を回避できたのだろうか。
傍から見れば羨望のそれかもしれない。美少女を侍らせ夜の街を歩くというのは一種の勝者に見えるかもしれない。
けれどもやっぱり、僕にとって椎名しぃと言う人物は、歪で気味の悪い存在でしかない――
( ・∀・)「おいおい……なんの冗談だ、こりゃ?」
――ああ、と思う。
僕はあからさまに肩を落とし、次いで盛大な溜息を吐いた。
背後から聞き覚えのある声がした。その声は懐疑的と言うか、訝しんだようなトーンだった。
予定調和な状況にすら思えて先よりも深く眉間に皺が寄る。
( ・∀・)「なぁんか見知った不良が急く足取りだと思えば、そいつぁ……何事だよ、埴谷よぉ?」
_,
(,,゚Д゚)「……何がだよ、茂良」
88
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:53:54 ID:eFX00bhU0
振り返り、僕はそいつを見る。
オーバーサイズの服を着て全身を真っ黒に塗りつぶしている。まるで夜そのものを体現するような風体だった。
茂良――僕と同じ高校の生徒で名の知れる不良。
毎度僕に突っかかってきては返り討ちにあっている糞間抜け野郎だった。
( ・∀・)「一匹オオカミを気取って、誰にも媚びずによぉ……」
彼の背後にはまったく同じ格好をした不良共がわんさかといた。
どいつもこいつも見たままの不良だ。染髪、ピアスは当たり前、墨をいれいてる奴もチラホラ見える。
そんな奴等を引き連れ、茂良はゆったりとした足取りで僕へと迫ってくる。
( ・∀・)「一人を貫いて、向かいくるカス共を蹴散らして……俺ぁよ、埴谷。実を言うとお前のそういう生き方ってのが、結構嫌いじゃなかったんだぜ?」
茂良の瞳の中には様々な色合いが浮かんでいる。驚愕も勿論あるし、疑惑の色合いもある。拒絶のような意思も見えた。
が、それらをも差し置いてより色濃く描かれるのは……憤怒の津波だ。
(#・∀・)「だのに手前……スケなんざ連れてこの街を歩こうってのか? あぁ!?」
胸倉を掴まれそうになったところでその腕を握りしめる。
既に互いの距離は拳一つ分程度だった。鼻息荒く捲し立てる茂良は怒りを隠そうともせずに怒鳴る。
(,,゚Д゚)「なんか問題があるってのかよ、茂良」
(#・∀・)「あ〜あ大ありだね、それも大問題だ糞ボケ! 俺達不良の界隈じゃ名の通ったオオカミ野郎が腑抜けちまったんだからよぉ!?」
(,,゚Д゚)「……お前等だって女ぁ連れてるじゃねーか」
(#・∀・)「俺達はそもそもこうなんだよ!」
89
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:55:27 ID:eFX00bhU0
茂良の背後で黒い格好をした少女達が物珍しそうに様子を見ている。
同色のテーマだけは崩さないが、超ミニのスカートやパンツが艶めかしい脚を際立させ、大きく開かれた胸元はなんとも扇情的だ。
(#・∀・)「なぁ、埴谷。別によ、どんなスケをハメようがそりゃお前の勝手だぜ。だがこの街で、俺の前で、そんな姿を見せるんじゃねえ」
(,,゚Д゚)「……ひでぇ勘違いもあったもんじゃないぞ、茂良。俺は別に椎名とそう言う関係じゃない」
(#・∀・)「抜かせタコ! どうであれなんであれ、テメェのそんな様ぁ見たくなかったんだ、俺は!」
(,,-Д゚)「知ったことかよ、手前の感想なんて……」
辺りが先よりも騒がしくなる。それは色めきだった、と言うよりは殺気立った空気だった。
見やれば茂良と似たような恰好をした奴等がそこかしこに立っている。それ等は皆して僕へと視線を向けていた。
(,,゚Д゚)「……デカくなったんだな、お前のチーム」
(#・∀・)「はっ……お陰様でな」
(,,゚Д゚)「お陰様……? あぁ、俺の代わりか、こいつら」
空気が張り詰めた。複数人の不良共が青筋を浮かべて迫ってくる。
が、それを制したのは茂良だった。
(#・∀・)「……ほぉん。お前も何か腹が立ってるってか。珍しいじゃねえか、そんな上等文句を吐くだなんてよ」
(,,゚Д゚)「そりゃな。こちとらはさっさと用事を済ませて帰りてえのに。だのに……手前が邪魔立てをしやがる」
周囲の連中なんぞ知ったことではない。中にはガタイのいい奴等もいるが、所詮そいつらは茂良にすら敵わなかった連中だ。
粋がろうと、風体で誤魔化そうと、見せかけだけで夜の歓楽街を練り歩こうと言うのなら尚のこと笑いものだ。
僕は未だ茂良の腕を握ったままに彼を睨み付ける。
90
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:56:56 ID:eFX00bhU0
(#゚Д゚)「なぁ、茂良。俺のことをお前がどう見てるかなんて知ったこっちゃねぇんだ。お前のチームがどれだけ規模を増そうが興味もねえ」
(#・∀・)「…………」
(#゚Д゚)「俺が女を連れて歩いちゃ悪いってんなら直ぐ様この場から去る。喧嘩したい訳じゃない。いつも通りだ。放っておいてほしいんだ、俺は」
謝る必要なんてないのは分かり切っている。だが場をおさめるには茂良の糞みたいな感情にケリをつけなきゃならない。
無理矢理にぶっ飛ばす――その後にどうなるかなんて一目瞭然だ。僕はこの場にいる茂良の子分全員を相手にしなきゃならない。
ならば遜るべき、と思うかもしれないが……それこそ茂良の逆鱗に触れる行為だ。
(#・∀・)「……なんだって我が校のヒロインなんだ?」
(#゚Д゚)「知らねえ。偶々だ。本当に偶々でしかない状況だ」
(*゚ー゚)「…………」
僕の袖を掴むのは椎名だ。先から黙して状況を見つめている。
青褪めたような表情をしていたらどれだけ可愛らしいだろう。だが相変わらずこの少女は無関心のような、他人事のような表情だった。
そんな椎名を背に隠すようにしながら僕は言葉を続ける。
(#゚Д゚)「それとも惚れてたのかよ、茂良。こいつに」
(#・∀・)「阿呆抜かせ。俺はヤリマンが好きなんだ。ガキ孕んでも即座に堕ろすような阿婆擦れが」
(#゚Д゚)「なら尚のことどうでもいいだろ。お前の俺に対する理想像だって糞喰ら――」
(#・∀・)「似合わねえっつってんだ、埴谷……!」
茂良の声が鋭くなる。
91
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:58:12 ID:eFX00bhU0
(#・∀・)「らしくねぇぜ、まったく……! どうした、いつもみたいな、不機嫌で鋭利で何もかもにうんざりしたような顔はどこにやりやがった……!」
(#゚Д゚)「……してるだろ」
(#・∀・)「いいや違うね、殺気がまったくない。いつもの張り詰めた空気が今のお前にはねぇ……!」
何とも好き放題言いやがる――が、果たして僕はそうも変わったのか、と思う。
そもそも、普段の僕はそれほどに不穏な空気を醸していたのだろうか。自覚なんてものはないが、そりゃ、度々不良共に絡まれていればうんざりした顔にだってなる。
だが、鋭さがない、牙が抜けている、錆ついている――言外にそう言われると、僕は少々戸惑う。
(#-∀-)「……ガッカリだ、埴谷」
(#゚Д゚)「……知るかよ糞野郎」
茂良はほんの少しだけ目を伏せ、何かを堪えるような顔をすると、そうとだけ呟いて僕の手を振り払った。
勝手に落胆されたってどうでもいい。所詮僕からして茂良と言う人間は嫌悪の対象でしかない。
寧ろこれで彼が僕に対して興味を失うと言うのなら願ったり叶ったりだ。
(#・∀・)「よう、あんた……椎名しぃだろう。昨日から復学したんだってな」
(*゚ー゚)「……はい」
(#・∀・)「別に敬語なんていい。同級生だろ。何もひでーことはしねーからビビんなよ」
僕の背に隠れたままの椎名。その様子を茂良は怯えと受け取ったようだが真実は否。
彼女の意識は茂良に向いてなどいない。返事をしているだけで、彼女の意識はただ一つ、僕にだけ向いている。
それがまるで突き刺さるような感じで、僕は視線だけで彼女へと振り向く。
92
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:59:10 ID:eFX00bhU0
(*゚ー゚)
彼女は何も言わない。けれどもその目が僕にこう問う。
何もしないの――そう訊ねてくる。
(,,-Д-)(……悪そのもの、か)
何かを期待するとかそういうものではない。
例えば僕が茂良やその取り巻き共を散々なまでに痛めつけたところで彼女は興味を持たないだろう。
彼女が言いたいことはただ一つ。
93
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 19:59:30 ID:eFX00bhU0
(*゚ー゚)『誰も死なないの?』
94
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:00:20 ID:eFX00bhU0
――狂気を感じる。不良共が霞む程、超濃度の歪な空気を背後から感じる。
その狂気の主は病弱で、華奢で、まるで深窓の令嬢だ。
だがしかし、昨夜から今に至るまでに僕は椎名しぃと言う人間の本質を理解している。
本人から聞いた訳じゃない。ただ僕が感じるがままにそう捉えただけだ。
(,,゚Д゚)(こいつは……悪徳の全てを愛している)
故にそうしないのかと僕に問う。殺さないのかと。
昨夜のように死を招く状況を描かないのかと。
(#・∀・)「あんた、何で埴谷と一緒に?」
(*゚ー゚)「……偶々近くで会って。時間も遅いから送っていくって言ってくれたんです」
(#・∀・)「へぇ、あの埴谷が……?」
(*゚ー゚)「はい」
(#・∀・)「……尚のことらしくねえなぁ、おい」
(#゚Д゚)「知らねえよ……」
茂良が懐から煙草、のようなものを取り出す。
それに火を灯そうとするが――
(#゚Д゚)「おい……こんな往来でガンジャ燻らせようってのか。マジで頭イかれてんのか手前」
それを無理矢理に奪い、地面に捨てると踏み潰す。
いよいよ取り巻き共が大声を上げ襲い掛かろうとしてきたが、やはり茂良はそれを制し、懐を漁ると、今度は普通の紙巻煙草を取り出した。
ライターで火を灯し、深く煙を喫むとゆっくり吐き出す。
95
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:01:58 ID:eFX00bhU0
(#・∀・)-~「勘弁してくれよ、植物の中でも高価な部類なんだからよ」
(#゚Д゚)「……お前、この歓楽街で怖いもんがなくなったって感じだな」
いくら何でもありの歓楽街とは言え、そこまで堂々と大麻を衆目に晒せない。理由は多々あるが、唯一挙げるならば“皆”に対する迷惑となる。
それすらも気にしないということだ。現状、これだけの注目を集める騒ぎの中心にいて尚その余裕とは――
(#・∀・)-~「……白根組の世話になることになった」
(#゚Д゚)「……虎の威を借りるってか、糞下らねえ」
成程、これはまた体の良い駒になり下がったという訳だ。だがその笠があれば何も恐れるものはないと、そう言うことか。
(#・∀・)-~「別に半グレのままでもよかったけどよ、俺だって男として生まれたからには野心ってもんがある」
(#゚Д゚)「裏の世界でのし上がりたいってか……?」
(#・∀・)-~「おうよ、正しくだ。暴れるしか能のねえ俺でも、それでも天辺ってのに憧れるのさ」
一度唇から煙草を離し大袈裟に紫煙を吐き出す茂良。
(#・∀・)-~「だがそう簡単にいきゃしねえ。何事にも順序ってのがある。それをコツコツ続けた先に待ち望む景色がある」
(#゚Д゚)「はっ……下らねえ。人様に迷惑をかける生き方が“道”になるってのかよ」
(#・∀・)-~「だから極道っつーんだろ?」
(#゚Д゚)「暴力団だ。単なるお騒がせ集団だ。お前もその一員になった訳だ。どっちが情けねえやら」
(#-∀-)-~「言ってろよ……」
火がフィルターにまで迫ると、そこで茂良は煙草を吐き捨てる。
適当に靴底で踏み付け、その屈んだままの姿勢で僕の背後を見やった。
96
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:03:28 ID:eFX00bhU0
( ・∀・)「へぇ……やっぱ美人ちゃんだな、あんた」
(*゚ー゚)「……どうも」
( ・∀・)「偶然……偶然ねぇ。この時間帯、そしてこの歓楽街……あんた程の人が一体何の用があるんだか……」
疑うような視線で僕を見る茂良。それを睨み返すと茂良は小さく鼻で笑い、僕から距離をとった。
( ・∀・)「《ν》を知ってるか、埴谷」
(,,゚Д゚)「……クラブだろ。名前だけは聞いたことがある」
( ・∀・)「そこをこれから俺が仕切ることになった」
《ν》――歓楽街にあるクラブハウスだ。複数点在するクラブハウスの中でも極めて治安が悪いと言う噂だった。
聞けば薬物も性的なものも何でも揃うと言う。まるで映画に出てきそうなアングラそのものだが、そこをこれから茂良が取り仕切ると言う。
(,,゚Д゚)「そうかよ。安心しろ、近づくことなんてない」
( ・∀・)「偶には遊びにきたっていいんだぜ。最も……ナマクラになっちまったお前なんざ魅力半減だけどよ」
行くぞ、と茂良が声をかける。その一言で彼の取り巻き共は包囲を解き、茂良の行く先へと向かうのだ。
茂良の一団を人々が避ける。まるでこの街の支配者――夜を制した王者のようだった。
まだ歳にして十六の小僧。だのに、そんな程度の小僧を誰もが恐れている。
( ・∀)「ところで」
ふと、歩き出した茂良は立ち止まると僕へと――否、僕の背後にいる椎名へと言葉を紡いだ。
( ・∀)「《セント・ジョルジュ》はどうだった、美少女ちゃん」
(*゚ー゚)「…………」
( -∀)「はは……無言かよ。埴谷のつくる酒、美味かったろう? 俺も一度だけ飲んだことがある。一度だけな」
全てお見通しだ、と言いたげな茂良だが、椎名は返事をしない。
どころか完全に興味を失い、僕の袖を引くばかりだった。
97
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:04:41 ID:eFX00bhU0
( ・∀)「……埴谷」
(Д゚ )「……なんだ、茂良」
椎名の手に引かれて僕は歩き出す。茂良に背を向け。
そんな僕に、まるで最後の別れのように茂良は言葉を寄越した。
( ・∀)「いーぃ女、捕まえたな。いや……捕まったのはお前かもな。それがお前の鞘かよ?」
(Д- )「……知るかよ、糞垂れ」
僕は歩き出す。椎名の手を振りほどき、振り返りもせず。
椎名が小走りで追いかけてくるが彼女を無視した速度で歩き続ける。
(,,゚Д゚)(下らねえ。何もかも)
夜のネオン街は通常の喧騒へと戻っていく。張り詰めた空気が解かれ、毎夜御馴染みの浮足立った景色に様変わりをする。
(*゚ー゚)「埴谷くん」
未だ追いつかない彼女に声をかけられ振り返ると、彼女はタクシーに乗り込む寸前だった。
送っていく手筈じゃなかったか、と思うが、端から帰る手段があったのなら引き留める必要も理由もない。
(*゚ー゚)「今日はありがとう。また行くね」
(,,-Д-)「いい。迷惑だから二度とくんな」
(*゚ー゚)「ふふ……それじゃあ、また」
拒絶の意思を示されても彼女は笑うだけ。そんなままで彼女はタクシーに乗り込み、緩い速度で走り出したそれを僕は見送る。
(,,゚Д゚)「どいつもこいつも……放っといてくれよ」
僕はビルの群れによって狭まった空を見上げ、散々だ、と零した。
98
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:05:08 ID:eFX00bhU0
二 其の三
99
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:06:28 ID:eFX00bhU0
あの夜から少しもせず茂良は学校から姿を消した。
自主退学だそうだ。遅かれ早かれ退学にはなっていただろうが、晴れて我が校には平和が訪れた、と言おうか。
少なかれ他にも不良は存在するが茂良ほど際立った奴はいない。精々が煙草を吸うだとか無免許で単車を乗り回す程度だ。
そんな伝説の不良が学校を去ると同時、巷を騒がすギャングの抗争は茂良の勝利で幕を下ろしたという。
これからヤクザの世界で生きる彼にとっては申し分のない結果だろう。組織としても箔が付いたと言える。
_
( ゚∀゚)「しっかしよぉ、銀」
(,,゚Д゚)「なんすか」
僕は今宵も変わらずにバー《セント・ジョルジュ》で暇を弄んでいた。
まるで外界から途絶され独自の時間軸にあるのかと思う程、この店の中は時の流れがゆっくりだ。
店長は客がいないからとカウンター席に腰かけている。おまけにグラスに酒まで注ぎすっかり客の気分だ。
_
( ゚∀゚)「ここんとこ、毎日あの子きてるよな。しぃちゃん」
(,,゚Д゚)「……っすね」
_
( ゚∀゚)「同伴は初日だけかぁ〜? 別にいいんだぜ俺は、好きなだけイチャラブしてくれてよぉ!」
(;-Д゚)「何を下らんこと言ってんですか……」
からり、と店長のグラスが乾いた音を響かせる。空になったそれを僕へと差し出し、無言で次の酒を、と催促するのだ。
呆れつつも僕は新たな酒をつくり彼の前へと差し出す。
_
( ゚∀゚)「うんめ……才能あんなぁ銀は……」
(,,゚Д゚)「店長……あんま勘違いされるのも癪なんでハッキリ言いますけど、俺、あいつのこと苦手なんですよ」
_
( ゚∀゚)「はぁ? 何を小学生みたいなことを言って……」
(,,゚Д゚)「照れ隠しとかじゃなくて、マジですよ、本心です」
100
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:08:03 ID:eFX00bhU0
言葉もなく、ほんの少しだけ僕と店長は見つめ合う。
彼の瞳には特に感情の色は浮いていない。それを見て僕は少々の安堵を得た。
_
( -∀゚)「……つったってよぉ、銀。あの子はお前を好いてるみたいだぜ?」
(,,゚Д゚)「そう言うんじゃないと思いますよ、あいつは」
_
( ゚∀゚)「ならなんだってんだ? 足繁くこんな夜の店に通う程だぜ、あの子は。凡そ夜に似つかわしくない人種だろうに」
いや、と更に言葉を続ける。
_
( ゚∀゚)「そもそもが対極の人種か。お前が抜き身の刃物ならあの子は貝の中の真珠だな」
(,,゚Д゚)「なんちゅー喩え……」
_
( ゚∀゚)「そりゃお前は不良じゃあねえさ。そんなの俺が一番よく分かってる。自分から好んで暴力を振るうでもないし、面倒事は極力避けて通るし」
(,,゚Д゚)「なら人のこと強面とか言うのやめましょう?」
_
( ゚∀゚)「それは見たままの事実だ。兎角、それでもな、銀よ。お前さんは名が通っているのも事実だろ。お前の望む望まないに関わらずによ」
事実――事実か、と項垂れる。もしかしたら自業自得と言われることなのかもしれない。
だが逃げ場もないくらいに追い込まれたり複数人に取り囲まれたら、それはもう自衛の問題じゃないのか。
危機を打破する為に敵意を持つ連中を打ちのめすことの何を悪とするのか。
_
( ゚∀゚)「だがそうして名が知れ渡っちまったんだ、そればっかはどうにもできねえ。襲ってくる馬鹿共に問題があるのは勿論だけどよ。それでもやっぱりお前は多くの人に野蛮な奴と思われてんのよ」
自身が招いた結果と言っていいのか――そう言われても仕方がないで済ますしかないんだろう。
或いは泣き寝入りをすれば、暴力に屈してしまえばよかったのかもしれないが……それが本当の解決になるとは思えない。
101
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:09:32 ID:eFX00bhU0
_
( ゚∀゚)「そんなお前によ、何度も何度も会いにくるだなんて……愛と呼ばずに何と呼ぶんだ?」
(;゚Д゚)「いやいや、愛って、大袈裟な……」
_
( ゚∀゚)「学校っていう環境で同じ時間を共有できるのに、だ」
(;゚Д゚)「それは、まぁ、俺、学校じゃ誰とも口ききませんから……」
_
( ゚∀゚)「それにしたって慣れない場所にくるのは普通じゃねえよ」
普通じゃない、と言う言葉に強く頷きそうになる。
が、それを何とか堪えた。
(,,゚Д゚)「……恋とか愛とか、俺、よく分かんないっすけど」
そうも甘く切なく感動的なものだろうか、と疑問を抱く。それに対して即座に否と答えが浮かぶ。
椎名しぃと言う人間は、きっと……いや、間違いなく僕に対して恋愛感情なんて抱いていない。
(,,゚Д゚)「あいつは、椎名は……俺にそんなものを期待しちゃいないし、自身も求めていないと思いますよ」
_
( ゚∀゚)「……ガキらしからぬ、アダルトなことを言いやがる。そうも複雑なのかよ、お前等は?」
(,,゚Д゚)「いや……案外、単純なのかもしれません」
_
( ゚∀゚)「あぁ……?」
椎名が何故僕をつけ回すのか、と言うのは簡単な理由だと思う。
僕の周囲には悪に関係するものが溢れているからだ。
果たして先の事件の際、僕は意図せずして樋木と野々の修羅場に鉢合わせた訳だが、それが彼女にとって大きな切っ掛けになったんだろうと思う。
(,,゚Д゚)(きっと、僕がいなくても樋木は殺されていた。野々だって死なずとも警察に捕まっていた筈だ)
それでもあの夜に二人が同時に亡くなることはなかっただろう。もしかしたら樋木が死ぬこともなかったかもしれない。
結果が全てなのは当然だ。いくら“もしかしたら”を並べたところで現実は変わらない。
二人は死んだ。壮絶な死に様だった。それを運命と呼ぶも因果と呼ぶも、何だっていいだろう。
102
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:10:06 ID:eFX00bhU0
重要なのは、そこに僕がいたことだ。
103
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:10:28 ID:eFX00bhU0
(,, Д )(やっぱり……壊れちまうんだなぁ)
僕と言う存在が死を招いたと椎名は思っているんだろう。
あの暗がりの路地に足を踏み入れたが故に二人の死は確定したのだと。
それを全力で否定してもいい。いいが――
(,, Д )(じいちゃん……)
104
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:10:51 ID:eFX00bhU0
――脳裏に過る幼い頃の記憶。
金色に揺れる景色の中、亡き祖父が優しい笑みを浮かべ僕の頭を撫でていたのを思い出す。
僕は自身の両手を見つめ、拳を握りしめる。
105
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:11:44 ID:eFX00bhU0
_
( ゚∀゚)「銀……?」
(,,゚Д゚)「――……いや、なんでもないっすよ」
店長に声をかけられ僕は俯けていた顔を上げる。
心配した表情だ。僕は慌てて取り繕う。それに対して店長は何も言わず、グラスを静かに傾けた。
_
( ゚∀゚)「にしても、今日は……こねえなぁ、噂の佳人」
(,,゚Д゚)「あ……そうっすね」
気が付けば時刻は二十一時。いつもの椎名ならとっくにカウンター席に座ってミルクカクテルをちびちび飲んでいる筈だった。
ところが今日は姿を見せない。ああ、ついに飽きてくれたか、なんて思いもするが――
(,,゚Д゚)(……本当に、そうなのか?)
胸騒ぎがした。あの時と同じだった。
頭上で明滅を繰り返す電光を受けながら、先の見えない暗がりの路地に踏み出した時と。
106
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:12:08 ID:eFX00bhU0
二 其の四
107
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:13:39 ID:eFX00bhU0
定時を過ぎ、僕は私服に着替えると夜の歓楽街へと一歩を踏み出す。
本日も変わらずに――否、華の金曜日の街は平日よりも更に色めきだっている。
耳が痛くなる程の雑踏や人々の声。様々な情報が宙を飛び交い、淀んだ空気にそれらは溶けていく。
(,,゚Д゚)(マジでこなかったな)
椎名は姿をみせなかった。もしかしたら本当に興味が失せたのかもしれない。
それは僕にとって最高なことだが、しかし……妙に納得がいかない。
他者に対して何の興味も抱かず、常に張り付けたような笑みを浮かべる椎名しぃ。そんな彼女はここのところ、僕にばかり突っかかってきた。
彼女にとって僕と言う存在は興味を惹くに足る人物なのだろう。その理由がなんであれ、自身の中の何かを満たす為にストーカー行為までする。
そんな彼女は、果たして僕に対して満足を得たのだろうか。欲する何かは満たされたのだろうか。
(,,゚Д゚)(いや、それはない)
彼女の腹の内など分からない。憶測しか思い浮かばない。
だが妙な確信もある。
(,,゚Д゚)(あいつの目は、あの夜からずっと濁ったままだ)
花咲くような、色とりどりの感情が芽吹いた瞳――野々に死化粧を施していた際に見せた彼女の本当の笑顔。
それはまるで、幼い子供が待ち望んだ玩具を得た時のような、或いは愛しい我が子をあやす母親のような、そんな笑顔だった。
(,,゚Д゚)(あいつはまた、それを求めるはずだ)
あいつは求めている筈だ。
悪徳を、禍悪のそのものを。
死が起こり得る、最悪な状況を。
108
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:15:05 ID:eFX00bhU0
(,,゚Д゚)「それで、手前等は何か知ってんのか」
僕は立ち尽くしたまま周囲から迫ってくる黒い服装をした不良共へと声をかける。
茂良のチームの小僧共だろう。何名か見た顔もある。
不良共はバットや角材や、凶器になるだろう得物を手にし、僕の問いに対して何を言うでもなく鋭く眼光を飛ばしてくる。
(,,゚Д゚)「……こういう手法は、茂良の嫌うところだと思うんだけどな」
少しばかり意外だった。確かにヤクザの下についた茂良だが、あれはあれで正々堂々としたツッパリだ。
無法者の集いなのは間違いない。それを束ねる茂良も喧嘩狂いの迷惑野郎でしかない。
だが、あれにはあれの通すべき筋があった。僕はそれを知っている。
(,,゚Д゚)「抗争の勝利に舞い上がってんのか、ヤクザに飼い馴らされて性根まで腐ったか……それとも、他の誰かの意思があるのか知らねえけどよ」
今になって思う。僕と言う人間は夜の街ではよく知られる存在で、そんな僕とここのところつるんでいた椎名は、やはり夜の似合わない絶世の美女だ。
見る人から見れば最高の人質にもなりえる。或いは隙さえ突けば極上の肉便器が手に入ると……そんなゲスなことを思いもするだろう。
「っせぇんだよ糞があああ!!」
右から迫ってくる馬鹿がいる。大上段に構えた木刀で僕を滅多打ちにしたいんだろう。
(,,゚Д゚)「ああ、丁度いい」
振り切られる寸前にそいつの両手首へと右腕を打ちつける。
透かされた事実に驚きの表情をするが、僕は構わずにそいつの首根っこを引っ掴んだ。
「おえぇっ!?」
片腕でそいつを持ち上げる――可能か否かと問われたら可能だ。単純な理由だ。
人を持ち上げられるくらいに筋力を鍛えればいいだけの話だから、現実的に可能だ。
細い奴だ。持ち上げた感じ、ウェイトは六十キロもないように思える。
少々そいつを宙に浮かせたままにしていると、先まで意気込んでいたはずの不良共は慄いている様子だった。
109
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:16:09 ID:eFX00bhU0
――情けがなさすぎる、と呆れてしまう。
単純な腕力だけで怖気るだなんて、こんなのはこけおどしでしかない。茂良だったらこんな程度、鼻で笑いながら突っ込んでくるだろう。
(,,゚Д゚)(そりゃつかいっパシリで終わるわな、こんな奴等)
ならばもっと分かりやすくしてやる。彼我の戦力差を明らかにしたら、もっと間抜けな面をしてくれるんだろう。
僕は宙に浮かせたままにしていた奴を、ただ単純に地面に向けて撃ち落とした。
鈍い音が辺りに響く。それに軽快な音も含まれている。背中からアスファルトに衝突した結果、そいつは起き上がることもできず、どころか泡(あぶく)を吐いた。
呼吸器へのショック、に足すことの、先の音からして肋骨のいずれかが折れた衝撃に対する動揺、心理的な負荷によるものだろうと察する。
(,,゚Д゚)「……何ビビってんだよ、手前等。棒立ちじゃねえか」
失神した小僧をそのままに、僕は先程地に落ちた木刀を手に取った。
白樫の、どこにでもある木刀だ。それを軽く振るうのだが――
(,,゚Д゚)(やっぱ……馴染むなぁ)
馴染む。凄く。だが重量が明らかに足りていないし緊張感もまるで足りていない。
これは凶器ではあるが本物にはなり得ない。
これでは、こんなものでは――
110
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:16:31 ID:eFX00bhU0
(,,゚Д゚)(――斬れない)
111
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:19:41 ID:eFX00bhU0
周囲を睨む。僕が木刀を手に持つといよいよ連中は後退った。
数にして七人はいる。それだけの数がいるのに何を恐れる必要があるのか、と僕は疑問を抱く。
が、同時に理解もする。今になってこの阿呆共は力量の差を察したんだろう、と。
それに対して軽い哀れみを抱く。憐憫と呼んでもいいかもしれない。
(,,゚Д゚)「……椎名はどこだ」
目についた適当な奴に問う。そうするとそいつは震えるが、強く睨むと絞り出すように声を紡いだ。
「あっ、にっ、《ν》にっ」
(,,゚Д゚)「そうか……」
それだけで疎通は終わりだった。僕は木刀を握りしめたままに目的の方向へと足を向ける。
誰も僕に追い打ちをかけようとはしなかった。背後から襲い掛かればもしかしたら勝機はあるかもしれないのに、だのに突っ立ってるだけだった。
(,,゚Д゚)(情けねえ)
僕としては好都合。
しかし、そんな度量じゃ、不良だの半グレだのを名乗っても……無様が加速するだけだ。
(,,゚Д゚)(にしても……やっぱり茂良らしくねえやり方だ)
最早想像は容易い。椎名は間違いなく茂良のところに、奴の管轄である《ν》にいる。
浚われたと見るのが妥当だろう。何故にあんな少女を浚うのか、と疑問も浮かんでくる。
茂良の性格からして人質のようなものは好まない。用意周到な真似も好まない。そもそも画策を練るだけの頭なんてない。
正面から正々堂々と、小細工の一つもなく、単純な力のみで対峙する筈だ。
そもそも――
(,,゚Д゚)(僕に対してなんでそんな真似を……)
112
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:21:43 ID:eFX00bhU0
憎しみはあるだろう。恨みだって当然だろう。何度あいつを打ちのめしたか数え切れない。
だが、それでもこんな真似をするようには思えなかった。悔恨の情を晴らさんとすべく自棄になるような、そんな畜生なんかじゃない。
つまり、他者の意思が働いている。
しかしそこまでの察しはつけども……理由が不明だった。
(,,゚Д゚)(僕を恨むロクデナシは少なくないだろうけど、一体どこの誰だ……?)
そして人浚いをするほどまでに情熱的な糞間抜けがいただろうか。
記憶を漁ってみても思い当たる人物はいない。そういう奴等が少なかれいたとしても茂良に制裁を喰らって黙るだろう。
(,,゚Д゚)「ここだな、《ν》」
予想はつかないが、それでも僕は目的地へと辿り着く。
クラブハウス《ν》は歓楽街の北に位置する。この近辺の治安は語るに及ばず、過ぎ去る人々はどいつもこいつもチンピラのようだった。
そして《ν》の客層もそれに違わず、今し方出てきた男女は完全にラリっているようで、男は吐瀉を撒き散らしながら昏倒し、女は自身の濡れそぼった下着を振り回しながら笑い転げている。
「ちょっ、あれ、埴谷じゃ……」
「うわマジだ……もしかして茂良さんに……?」
そんな光景を呆れた目で見ていると、僕の存在に気付いた奴等が注目を寄越してくる。
何を考えているのかは察しがつく。大方僕が茂良を殴り飛ばしにきただとか、もっと大袈裟なものとしては、今宵、僕が《ν》そのものに殴り込みをかけにきたと思っているのだろう。
それらに間違いはない。だがしかし、第一の目的は違う。
(,,゚Д゚)(どう考えたってお前には不釣り合いな場所だろ……椎名)
椎名しぃ。彼女を見つけ出すことだ。
113
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:22:53 ID:eFX00bhU0
「げっ、埴谷さん……! なんでここに……?」
「あ、あれれぇ、今日はハードコアイベですけど、埴谷くんってニカ好きだったっけぇ? あ、あはは……」
僕は……椎名しぃが苦手だ。いっそ嫌いだ。しつこいし、ストーカーだし、あの糞みたいな笑顔も、他人事のような態度も、何もかも気に入らない。
そりゃ美少女だ。そればかりは認めざるを得ない。病弱で華奢で、軽く小突いただけで死にそうなくらい儚い空気感を纏う、佳人そのものだ。
だがそれだけだ。生憎僕は美女に弱い人間じゃない。そんなのは世界中探せばどこにでもいる――そんな程度の情報でしかない。
だから僕にとって椎名しぃは特別にはなり得ない。
だのに――
(,,゚Д゚)「わりぃ、チケ代とドリンク代、置いてくぜ」
「あっ、え、ちょっと埴谷さん!? それ木刀じゃあ!?」
「ドリチケここにある……っていらないんですかぁ!?」
放っておけない。
大嫌いで、関わり合いになりたくないのに、彼女を一人にしてはいけない気がした。
僕は受付のスタッフ――ガキだ。多分茂良のチームの小僧共だ――を適当に無視し、木刀を担いだままに店内へと押し入る。
店内は大音響の嵐だった。見やればステージではサングラスをした兄ちゃんが踊り狂いながら卓を回している。
客の数も多い。どうやら本日は大きなイベントのようで、フロアは入り乱れる男女の洪水だった。
「いえーい、お兄さんブリブリっすかー!?」
「きゃはは! パキってきたぁー!」
(,,゚Д゚)「うっせぇな……どけよ」
群がるのは葉っぱをぶちかましてる阿婆擦れや、スニりまくって顔の崩れた糞アマだ。
まともに立てちゃいない。それらを適当にいなし、背後で倒れた音を聞きながらも僕は上階を――VIP席を目指す。
114
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:24:56 ID:eFX00bhU0
「うおっ!? は、埴谷!?」
「きゃー、この人があの超ワルとかっていう埴谷さんー!?」
VIP席の様子は語るに及ばず。複数の男女が全裸になって踊り狂ったり、ハメ狂ったり、酒にドラッグに好き放題の状態だった。
正しく何でもござれ――呆れつつ、驚愕する馬鹿野郎だとか股間から精子を垂れ流す間抜け女を避けつつ、更に奥へと――
(,,゚Д゚)「どけよ、邪魔だ」
管理室と思わしき場所へと通じる扉の前に立つ。
しかしそうは問屋が卸さんと立ちはだかるのは恰幅のいい黒服二名だ。
見たところ不良程度で済まされる風貌ではない。
「お引き取り願えるかなぁ坊主?」
「手前の噂はかねがね――」
ならばヤクザか、或いはプロの格闘家か――なんてことは知ったことではない。
僕は右足を一歩と踏み込む。それだけで二人は察したように僕へと拳を振り上げた。
(,,゚Д゚)(ああ、いい動きだ――)
完全に素人とは一線を画する。身体の動きもそうだが、衣服越しでも分かるのは肉体の出来上がり具合だ。
太く、厚く、よく鍛えこまれている。人を攻撃すること自体に躊躇いがないのも素晴らしい。精神的なものも強いのだろう。
(,,゚Д゚)「――ぉおっ!!」
だが……それだけだ。それだけでしかない。
殺気も濃厚で、敵意も濃厚で、躊躇いもせず攻撃を繰り出す――それだけ。
(,,゚Д゚)(殺しを前提におかない――“格闘家”でしかない)
右からくるストレートを木刀の柄尻で撃つ。拍子そのものを合わせられた事実、更には初見で見切られた事実に一人の男は驚愕を浮かべる。
その隙を逃さない。刹那の時をも惜しむように首――ではなく鎖骨へと突きを見舞った。
115
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:26:12 ID:eFX00bhU0
「ごえっ――」
手に伝わるのは骨の砕ける感触。鎖骨骨折は痛いだろう、治りだって遅い。だが容赦はしない。
続けざまに、今度は左からくる拳に対してほんの二寸程身を引く。
(,,゚Д゚)「ふぅっ――!!」
伸びきる寸前の相手方の腕に対し、僕は木刀の刀身を――“架ける”。
「!?」
そのままに柄の握りを深くし、腕の下から刀身を“巻いて”やると、木刀の刃は男の眼前に迫る形となる。
「け、剣道――」
その言葉が呟かれるのと、木刀が顔面に減り込むのは同時だった。
芯で捉えた衝撃により男は簡単に意識を手放す。先の男と仲良く揃って地に伏せると、背後で状況を見ていた男女共は大きな叫びをあげて階下へと逃げていった。
(,,゚Д゚)「……剣道じゃあねえよ」
先よりも静かになったVIPルーム。漂う色香やマリファナ特有のニオイに顔を顰めつつ、僕はようやっと管理室の扉へと手をかけた。
惜しむでもなく、緊張の一つもなくそれを押し開く。存外軽い扉は壁に激突すると鈍い音をあげるが、しかして先の騒動やらがあったにも関わらず誰も飛び掛かってこない。
本丸が攻め入られている状況だというのに、一体どういうことか――
116
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:28:00 ID:eFX00bhU0
「ぺっ……はーあぁ……なぁんか派手な音がしやがると思えばよぉ……」
室内は思った以上に狭かった。八畳程度の空間で、あるのは黒いテーブルにソファ。そして金庫やロッカーくらいだった。
そんな部屋の隅に、ズタボロの姿の奴がいる。後ろ手に拘束されているそいつは口や鼻から血を垂れ流し、大きく腫れた右目は閉じられている。
だが、そいつは残った左目で僕を見ると、面白い物でも見たように小さく笑った。
(;メ∀・)「ドのつく不良のご登場かよ、埴谷ちゃんよぉ……? げほっ……」
(,,゚Д゚)「茂良……!」
悲惨な姿をしたそいつは茂良だった。僕は茂良へと近寄ると拘束具――結束バンドだ。十字に巻いてある――を取り外しにかかる。
(;メ∀・)「おいおい、お優しいじゃねえかよ、埴谷……何してんだ手前」
(,,゚Д゚)「うるせえな、いいから口閉じて黙ってろよ……」
茂良は、信じられない、といった顔をしている。
別に放っておいたっていい。いいが、放っておく理由だってないだろう。
そもそもこいつに僕は用があってきたんだ。茂良とて地に横たわったままでは話しにくいだろう。
無理矢理にバンドを引きちぎった僕は茂良を起こしてやる。
(;メ∀・)「何しにここに……って、分かり切ってることだわな、はは……」
未だ痛む両腕を茂良は摩ろうとするが、両腕が上手く動かない様子だ。
(,,゚Д゚)(……折られてるな。両腕とも)
赤く、大きく腫れた両腕。恐らくは激しく殴打されたと思われる。
よくぞまあ意識を手放さないものだ、と感心しつつも僕は茂良の視線に合わせる為に屈む。
117
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:29:53 ID:eFX00bhU0
(,,゚Д゚)「何が起きてやがんだ、茂良。椎名はどこなんだ」
ここに来るまでに目的の人物を見つけることが出来なかった。最終地点であるはずのこの事務所にすらいないとなると、一体椎名はどこにいるというのか。
端から関わっていない――訳がない。だったら初っ端、僕に対する襲撃が意味をなさない。
(,,゚Д゚)「お前の仕業って訳じゃねーんだろ、椎名を浚ったのは」
茂良の姿からして彼が仕組んだことではないのは明らかだ。むしろ反発をした為に教育を施されたのだろうと察する。
まったくもって間抜けな奴――もっとずる賢く、厭らしく、徹底的に悪になり切ればいいものを、不器用な馬鹿野郎だ、と思う。
それは彼を見下している訳じゃない。不良ながらに筋を通す彼の人間性は、どれだけ嫌おうとも……立派に筋者だ、と思うのだ。
(;メ∀・)「ったくよぉ、上の連中ったら必死過ぎだぜ。どーしてそこまでガキを相手に躍起になるかね、まったく……埴谷、煙草と火くれよ」
(,,゚Д゚)「……ほれ」
彼の胸ポケットに入っていた煙草を取り出す。ぐしゃぐしゃだったが、それでもいいからと茂良は煙草を銜えると、ゆっくりと煙を喫みこむ。
(;メ∀・)-~「……大体予想は出来てるって面だな、埴谷」
(,,゚Д゚)「なんとなくだけどな。だが理解が及ばねえ。なんだって椎名を浚う。そこまでする程俺ぁ注目を集めてるってのか」
(;メ∀・)-~「……? はー、無自覚ってのは罪だねぇ。あのなぁ、お前って言うドのつく不良はな、そりゃ有名人よ。どこもかしこも有望な人材がいりゃ引き込みたいって思うに決まってんだろ?」
お前、何人ヤクザをぶっ飛ばしてきた、と問われるが……そんなものは分からない。
(,,゚Д゚)「だからっつったってこんな手段に打って出るのか? よっぽど必死だぜ、それってのはよ」
(;メ∀・)-~「……あのよ、さっきから何言ってんだ、手前は……?」
何故だか茂良は不思議そうな顔をした。
118
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:31:30 ID:eFX00bhU0
(,,゚Д゚)「いや、だからよ、俺を恨んでる人間がどれだけいるかは知らねえし、或いは従わせたいと思ってる奴等がどんだけいるかなんて――」
(;メ∀・)-~「待て待て、埴谷。ひょっとしてお前……自分が狙われてるって勘違いしてやがんのか?」
(;゚Д゚)「あ? いや、だってその為に椎名を浚ったんじゃ……人質みてーなもんじゃねえのか?」
ああ、呆れた――なんて言葉を呟き茂良は俯く。
(;メ∀-)-~「んな訳あるかアホ垂れ……確かに手前は魅力的な野郎だが、だからっつったって人質なんて真似するかよ。たかだか小僧相手によ」
(;゚Д゚)「あぁ? んじゃなんだ、もしかして今回の騒動は……」
言いかけ、僕は思い出す。
椎名しぃと言う人間は謎が多い。彼女の普段の生活環境は噂の一つもあがらないし、家族の構成すら不明だった。
長く病院の世話になっていた彼女だが、そう言えば彼女の見舞いに行った生徒はいただろうか。
それも聞いたことがない。仮にあったなら当人は有頂天になって自慢話を撒き散らすだろう。
(;メ∀・)-~「そうだよ。椎名しぃ……あの子が目的そのものだ」
何故に彼女の真相を知る者がいないのか。中学時代、ストーカー被害に遭い、多くの注目を集めたであろう彼女。
元より人気者だ、少なかれ彼女自身の情報を知る者はいて当然だろうに。
だのに――何の情報もない。
(;゚Д゚)「なんだってあいつが……」
(;メ∀・)-~「……やっぱな。お前、何も知らないのか」
(;゚Д゚)「あ……?」
(;メ∀・)-~「何せだぜ、お前と言えば面倒を嫌う性格だろう。悪に関連する数多をも嫌う。そうなりゃよ、絶対につるむ訳がねーんだ、あの子とは」
そう言えばあの夜……茂良と遭遇した時、茂良は椎名に対してこんなことを言っていた。
119
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:32:02 ID:eFX00bhU0
――( ・∀・)「偶然……偶然ねぇ。この時間帯、そしてこの歓楽街……あんた程の人が一体何の用があるんだか……」――
120
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:33:11 ID:eFX00bhU0
“あんた程の”……どうにも引っかかる言い方だった。
まるでこの場にそぐわない、どころか――いていい存在ではないような、そんな言い方だった。
(;゚Д゚)「……何者なんだ、椎名しぃは」
僕は茂良へと問う。
茂良は煙草を銜えたまま、紫煙を燻らせながら答える。
(;メ∀・)-~「白根組若頭……白根組直系宝木組組長、宝木琴尾(たからぎことお)の愛娘……養女だ」
ああ、と思う。それに酷く納得してしまえる。
浮いて沸いた彼女に対する疑問の嵐が、全て掻き消えたように思える。
ああなってしまっても可笑しくない――狂気を宿したって仕方がない、と。
だがしかし、そんな狂気の乙女は――
(;メ∀・)-~「埴谷、急いだ方がいい」
(;゚Д゚)「あ?」
(;メ∀・)-~「あの子、殺されちまうぞ、白根組に」
(;゚Д゚)「……はぁ?」
今正に、死の淵に立っているという。
121
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:33:46 ID:eFX00bhU0
二 了
122
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:34:18 ID:eFX00bhU0
幕間 其の二
123
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:35:07 ID:eFX00bhU0
_
(;゚∀゚)「おー、いっけねぇいっけねぇ、すっかり遅刻だぜこいつは」
_
(;゚∀゚)「銀のやつ、一人でオープン回せるかな〜」
_
( ゚∀゚)「……まあお客さんなんて滅多にこねーんだけどさ」
_
( ゚∀゚)「ふいー、ようやっと駅前か。あ、そう言えば銀に連絡入れるの忘れて……」
「金曜日の夜はー! クラブで踊るのさー!」
_
( ゚∀゚)「……お? なんだぁ、銀杏?」
「ラリってゲロはいてー! 朝まで踊るのさー!」
_
( ゚∀゚)「おいしょ、おいしょ……ありゃ、まったく人いねーじゃん」
_
( ゚∀゚)(って……凄いな、両腕……ガッツリ墨入ってんじゃねえの)
_
( ゚∀゚)(トライバル、サクヤン……ルーンもか。なんでもござれだな〜)
「ハウスのDJに捕まって! 便所でセェクス最高さー!」
_
( ゚∀゚)(しっかし、歌も墨もゴリゴリな割に……)
_
( ゚∀゚)(綺麗な顔してんなぁ、この女の人。銀杏はシブ過ぎるけど)
124
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:36:14 ID:eFX00bhU0
_
( ゚∀゚)「いやぁ、かっこよかったっす!」
「ふぃー……お? あぁ、ありがとうお兄さん!」
_
( ゚∀゚)「お姉さん、かなり気合入ってるっすねー、墨も曲もガッツリ系じゃないっすか!」
「そう見えるかなぁ? うーん、別に銀杏が好きって訳じゃないんだけどね」
_
( ゚∀゚)「あれ、そうなんですか?」
「なんか叫びたくなる時って、ああ、銀杏が丁度良いなっていうか、コードの進行も簡単だしで」
「内容はあれだけどもね」
_
( ゚∀゚)「けどよかったっすよ! 最高っした!」
「いっひひ、ありがとうねぇ」
_
( ゚∀゚)「しかしまぁ、ここら辺じゃ初めて見ますよ、お姉さん」
「んー? そうね、昨日この街にきたばかりだしね」
_
( ゚∀゚)「およ、もしかして流しのギター弾き!?」
「ふふん、その通り! この私こそは全国津々浦々を闊歩し行く先々でロックを奏でるスーパーハイパーウルトラエキセントリックビューティフルオーガ……」
「……ツッコミ不在だと寂しいわね」
_
( ゚∀゚)「およ? スーパー……なんすか?」
「いやいや何でもない! 気にしないで!」
125
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:37:24 ID:eFX00bhU0
_
( ゚∀゚)「けどまぁ、ロックを今時叫ぶ女性も珍しいっすねぇ」
「そう? 本当はアコよりかはエレキが大好きなんだけどねぇ。まあ路上だし、アンプ担いで一人で鳴らすってのも違うでしょ?」
_
( ゚∀゚)「いやぁそれもまたいいと思うっすけど……ああ、だから――」
_
( ゚∀゚)「ハードケースがもう一個、後ろに置いてあるんすか?」
「ん? ああ、そうそう。その通り! うん!」
_
( ゚∀゚)「にしちゃあ大きいっすねー……エレキなんすよね?」
「あーまぁね、ほら、ギターも色々あるから! ね!」
_
( ゚∀゚)「そうなんすねー……」
「そうそう、大事な大事な商売道具ってやつよ。姿形は何であれ……ね?」
_
( ゚∀゚)「なぁるほどぉ」
_
( ゚∀゚)(……にしちゃあ)
_
( ゚∀゚)(なぁんかあのハードケース……妙な空気醸してるよなぁ)
_
( ゚∀゚)(本当に楽器が入ってんのかって思うくらい、中身が違う気がするけども……)
126
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:38:20 ID:eFX00bhU0
「さぁて、次は何を弾こうかな……あ、お兄さん、リクエストとかあったりする?」
_
( ゚∀゚)「え、いいんすか!?」
「これもまた巡り合わせってやつよ! そういう一期一会を私は大事にしたいのよ!」
_
( ゚∀゚)「えー、だったら……ああ、俺洋楽が好きなんすけど」
_
( ゚∀゚)「エリック・クラプトンはどうすか?」
「……愛しのレイラ?」
_
( ゚∀゚)「いや、クロス・ロード!」
「あ、ああ〜そっちか、そっちね! うんうん! いや〜そっちはねぇ、弾けないんだ! ごめんね!」
_
( ゚∀゚)「ありゃ、そうなんすかぁ、残念……」
_
( ゚∀゚)(……一瞬、笑顔が消えたな)
「しっかし、クラプトンかぁ……シブいのが好きなのね、お兄さん?」
_
( ゚∀゚)「いや〜そんなに詳しくはないっすけどね!」
_
(;゚∀゚)「って、あぁ!? すっかり話し込んじまってた!」
「ありゃ? もしかして急ぎの途中だった?」
_
(;゚∀゚)「そうだったそうだった忘れてたぁ! いやすんませんお姉さん、今日はこんくらいで!」
127
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:39:25 ID:eFX00bhU0
「いいっていいって、どうせ明日もここで歌ってると思うからさ! よかったらまた聴きにきてよ!」
_
( ゚∀゚)「ええ、勿論!」
「んじゃ、握手!」
_
( ゚∀゚)「お〜ファンサービスが凄い! いいんすかぁ?」
「いいのいいの、一期一会、これ大事!」
_
( ゚∀゚)「あはは、面白い、イかした姉ちゃんだな〜」
_
( ゚∀゚)(……ん?)
_
( ゚∀゚)(あれ、この両腕……墨で塗り潰してて分かり難いけど)
_
( ゚∀゚)(古傷まみれ……?)
_
( ゚∀゚)(つーか、髪で隠れててよく見えなかったけど……)
_
( ゚∀゚)「お姉さん、その頬……」
「ん? ああこれ? 昔巨大なクマとタイマンはったときにね、ぶん殴られてさ!」
_
(;゚∀゚)「ええ〜マジっすか〜? そりゃすげえ」
_
( ゚∀゚)(……うーん、やっぱ訊かねえ方がよかったかなぁ)
128
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:40:12 ID:eFX00bhU0
_
( ゚∀゚)「そいじゃあ、俺いくっすね! 頑張ってください〜!」
「おうよ頑張ってねお兄さん、何するかは知らんけども!」
_
( ゚∀゚)「ふっつーに仕事っすよ、仕事!」
「はぁー、夜のお仕事ね、大変そうだなぁ……んじゃエールをこめて一曲! その背に送るわよー!」
_
( ゚∀゚)「えええ何それ素敵!」
「ほれ走れ走れ、お兄さん!」
「時は待っちゃくれないんだから――」
129
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:40:33 ID:eFX00bhU0
ξメ゚ー゚)ξ「だから――走り続けなきゃね!」
130
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:41:01 ID:eFX00bhU0
続
131
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/08/28(水) 20:43:27 ID:eFX00bhU0
次の投下ですが、時間があった場合、今週の土日のどちらかに投下しようと思います。
なかった場合は、また急にはなりますが適当な暇を探してその時に投下させていただきます。
おじゃんでございました。
132
:
名無しさん
:2019/08/28(水) 22:27:41 ID:p8uZovOQ0
おつおつ
前作と世界観共有してるのか
133
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 01:50:09 ID:zxPp5njw0
三 其の一
134
:
◆hrDcI3XtP.
:2019/09/01(日) 01:50:29 ID:zxPp5njw0
真夜中の幹線道路に豪快なエキゾーストノートを響かせて僕は駆け抜けていた。
跨るのは漆黒のGSX1100S。ハス切りにされたヨシムラサイクロンは乗り手をその気にさせる。
セパレートハンドルを握りしめ、前傾姿勢のままに先の景色を睨み付けるのだ。
(;゚Д゚)「っとと、カタナって思った以上にはえぇんだな……」
木刀を背負ったまま、めもすまに景色を突き進んでいく。
不慣れなバイクを必死で操作しつつ、僕はとある場所を目指していた。
このバイクは僕の所有物ではない。茂良のものだ。
先程彼に貸していただいたもので、思った以上に硬派なセンスに内心驚いている。
(;゚Д゚)「……遠いな、倉庫」
目指すべき場所があった。位置は海沿いにある沿岸倉庫だ。
先までいた歓楽街――中央から通常の速度で三十分はかかる。
しかしそれは通常での話だ。ことは急を要する。
(;゚Д゚)(椎名……生きてんのか、お前は……)
アクセルを開き、法定速度を無視した超高速を弾き出す。
流れ消えていく景色の中、僕は先までの会話を思い返していた。
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