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ミ,,゚Д゚彡東京者のようです
4
:
名無しさん
:2019/06/08(土) 22:47:04 ID:IrprkArI0
.
彼は、東京の人間は街中を一人で黙々と歩く時に限り、自ずと誰もがあの顔になるのだ、と言った。
それは何故か、とおれが聞くに
( ^ω^)「そりゃ、自分の思うことをそこら辺の知らない奴に晒したくないからだよ」
内藤は言う。
( ^ω^)「ただでさえ人が多いんだから、変な顔したり動きしたりして、浮きたくないでしょ」
ミ,,゚Д゚彡「じゃあ、何でしかめっ面なのよ」
( ^ω^)「だって、そっちのが真面目っぽく見えるし、誰からも突っ込まれないもんな」
この男が言った話を真とするならば、東京の人間は一人で外を出歩く時
個々の思いどころを仏頂面で厚塗りして、なおも平然と澄ましているということになる。
無論外面と内面の区別というものは、文明社会の上で生きる以上
例えどの環境に身を置こうがいずれは必要に迫られるもの、とは分かっていながらも
ここまで徹底した光景を前にして、おれは思わず目がくらんでしまうのだった。
ミ,,゚Д゚彡「いや、おれには無理だ」
( ^ω^)「って、思うでしょ」
.
5
:
名無しさん
:2019/06/08(土) 22:48:08 ID:IrprkArI0
.
東京で過ごし始めれば、ものの数ヶ月と経たぬうちにお前も同じような顔で生きていくことになる
これは、東京を生きる者としての終生の宿命だ
お前もまた、東京の無表情に飲み込まれていくのだ、こればかりはお前も抗えないのだ。
内藤は、首を振りながら目をきりと見開き、低く掠れ声で呟いた。
彼の想定以上にその声は低く出てしまったのか、後半の数フレーズは醜く歪み、うまい具合に聞き取れない。
おれはそのしたり顔に苛立ち、おれはわざとらしい男は嫌いだ、と言って給湯室を出た。
あれが桜が散り散りに散り始める頃の話で、呆けたように口を開けつつ大都会を過ごしていれば
季節は秋口に差し掛かり、徐々に夜風は冷え始めている。
しかし、東京を生きてから半年が過ぎ、おれは確かに、東京者の仏頂面を会得し始めている。
疲れない程度に眉間に皺を寄せ、目はあまり見開かず、口角をぐったりと下げ
たまにポケットをまさぐったり、鼻の先を掻いたりすれば、ほぼ完璧と言っても良い。
これこそが「マイナス十度の仏頂面」そのものである。
この半年、通勤客を注意深く観察した末に得た、おれなりの東京者の擬態術でもあった。
そして、今日もおれは東京を生きる人間として、街行く者の誰からも怪しまれずに一日を終えるだろう。
これは、ある種の誇りでもあった。
途切れることの無い百鬼夜行の中で、おれは誰の和を乱すこともなく、乱されることもなく
誰より秀でることもなく、劣ることもなく、平穏と秩序の中で帰路に就く。
ある種の奇跡だとも思う。奇跡がこの半年、連続して起こっているだけの話だった。
.
6
:
名無しさん
:2019/06/08(土) 22:48:51 ID:IrprkArI0
.
ミ,,゚Д゚彡「東京の人間は、決まってあの顔だ」
街灯が切れかかった狛江の住宅街を黙々と歩きながら、朧に薄く長く引き伸ばされたおれの影を見た。
東京者の顔は、最早おれの顔そのものでもあった。
おれが東京に越すにあたり狛江の街を選んだ理由は幾つかあり
家賃の手頃さはどうだ、会社からの通勤にかかる時間はどうだ、よくある理由はさておくとして
とある誰かのとある曲の、ワンデーケー狛江のアパートには二羽のインコを飼う、というフレーズが
おれの中で東京を生きる人間の象徴として、何と無く引っ掛かっていたからだった。
狛江駅から歩いて十分、このまま歩き続ければ多摩川に突き当たり、県境も近いところを右に曲がり
やや奥まったところに、おれが住むアパートはある。
おれは玄関のドアを開け、狭いワンルームで全てが完結しているおれの居住空間を眺めがら
果たしておれがワンデーケーに越せる日はいつ来るのだろうかと思う。これが常である。
ドアを閉め、おれは呟いた。
ミ,,゚Д゚彡「わんでえけえにすみたいなあ」
無論返事は無い。
もう少し、声の音量を上げてみることにした。
ミ,,゚Д゚彡「わんでえけえにすみたいんだよなあ」
部屋には誰もいない。
.
7
:
名無しさん
:2019/06/08(土) 22:49:25 ID:IrprkArI0
.
ミ,,゚Д゚彡「おれの名前はわんでえけえにすみたいマンなんだよなああああああああああ!!」
おれはわざとらしく大きな音を立てて革靴を脱ぎ散らかし、妙なステップを踏んで狭く短い廊下を走っては
ベッドに真正面から飛び込んだが、縁に額をしたたかにぶつけ、激しく憤った。
ミ,,゚Д゚彡「痛いんだよお!!」
ベッドは応えない。
ミ,,゚Д゚彡「お前、ただのベッドのくせに、痛いんだよお!!」
あまりにも腹を立ててしまったので、ベッドに向かって力の限りクッションを投げ
続け様におれも飛び込んでは、しばらくクッションでひたすらマットレスを叩いていた。
ミ,,゚Д゚彡「痛いだろお!!」
ベッドは応えない。
ミ,,゚Д゚彡「お前、おれの気持ち、分かったなあ!!」
ベッドは応えない。
.
8
:
名無しさん
:2019/06/08(土) 22:49:48 ID:IrprkArI0
.
ミ,,゚Д゚彡「そうか、ベッドは生きてないもんね、これは失敬しまし太郎ですね」
ベッドは応えない。
ミ,,゚Д゚彡「失敬しまし太郎、お許しください次郎、何卒お許しくだ三郎」
何卒お許しくだ三郎。
ミ,,゚Д゚彡「何卒お許しくだ三郎!!」
口にした言葉にしてはあまりにも天才的なフレーズではなかろうか。
おれは思わず自分の才能に驚愕し、荒い息をついた。
ミ,,゚Д゚彡「何卒お許しくだ三郎、何卒お許しくだ三郎、何卒お許しくだ三郎」
おれは俄かにベッドから立ち上がり、腰を振りながら両手を振り回し、
その自然発生的なリズムに身を任せ「何卒お許しくだ三郎のテーマ」を数分間熱唱し続けたが
ある瞬間にふと我に返り、カーペットにへたり込んで、とうとう動けなくなった。
糸が切れるその時は、いつだろうが唐突に訪れる。
続
.
9
:
名無しさん
:2019/06/08(土) 23:15:40 ID:.kLI3X/60
期待
なんか共感できちゃうんだよな
そんでもってブーンが最高にブーンをしてない
10
:
名無しさん
:2019/06/09(日) 00:34:49 ID:fUS7qtRE0
こういうの大好きだわ
11
:
名無しさん
:2019/06/09(日) 06:52:19 ID:oKLjTgxs0
振り切れてる感スゴイ
12
:
名無しさん
:2019/06/09(日) 07:37:18 ID:hh2leCfwO
文学やの
13
:
名無しさん
:2019/06/09(日) 10:56:22 ID:mPzfzWY60
期待
14
:
名無しさん
:2019/06/10(月) 12:36:53 ID:QJErqSSI0
なんだこれ面白いな
15
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:34:50 ID:HUkGJjMM0
おれはそれから数十秒程、カーペットの上を這いずる小さな蜘蛛の動きを眺めていたりしたが
やがて結露にまみれたコーラのボトルを引っ掴み、息もつかずに半分程飲むと
今しがたの支離滅裂な高ぶりが、口の中で弾けていく気泡と共に消え失せていくのが分かった。
ミ,,゚Д゚彡「何卒お許しくだ三郎」
ふいにもう一度呟いてはみたが、何一つとして面白くない。
コーラを冷蔵庫に入れ、扉を閉めると、いよいよ部屋は静かになった。
置き時計の針を見ると、九時丁度を指していた。
この部屋を出たのが七時と三十分で、即ちおれは十三時間と三十分もの長きにわたって
外面にまみれた東京で人に色目を使い、色目を使われながら
愛想笑いと仏頂面を重ねてきたことになる。
おれは確かにそのようにして今日一日を乗り切ったし、むしろ誇りすらも抱いていたが
一方で、衝動にもよく似た何かが少しずつ積み上がっていく感覚も覚えるのだった。
.
16
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:35:26 ID:HUkGJjMM0
.
これをフラストレーションと横文字で表現するのは、あまりにも稚拙かつ直球で面白くない。
文明を生きる人間としての、もう少し高尚かつ普遍的で根源的な、何かだ。
これを的確に言語として明示し得る頭を、おれは一切持ち合わせていなかった。
ミ,,゚Д゚彡「ああ」
おれはこの感覚を、ひとまずこう呼んでいた。
ミ,,゚Д゚彡「キチガイゲージだ、キチガイゲージが今日も溜まってたんだ」
ところで、あの曲のあの歌詞の主人公は、何故狛江のアパートで二羽のインコを飼っていたのだろうか。
ここでおれは、都会を生きる人間は常に乾いていて常に孤独だから話し相手が欲しいのようふふふ、などと
紋切り型の話をするつもりは無い。
これはおれの勝手な目論見だが、主人公も恐らく「キチガイゲージ」を持っていて、
それを個人的な空間で発散する時
おれのように一から十までを全て独りで完結するにはあまりにも侘しく寂しく気恥ずかしいものだから
共有してくれる適当な何物かを欲するあまり、それがたまたまインコだった、という話なのではないか――
要するにこれは女々しき言い訳のようなもので、
終始独りで勝手に狂気にまみれていればいいものを、インコに話しかけている体にして
ほんの僅かばかり恥の感情を紛らわしているそうに違いないのだ。
.
17
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:36:00 ID:HUkGJjMM0
.
だから、なにもインコでなくとも良い。犬だろうが猫だろうがぬいぐるみだろうが何でも良い。
何にせよ、大変いやらしい人間である。
ミ,,゚Д゚彡「おれは強い男だから」
おれは独り言ちる。
部屋には誰もいない。無論インコもいない。
ミ,,゚Д゚彡「おれのキチゲーの責任はおれで責任を取る」
おれは強い男なので、衝動の言い訳にインコを飼う等、しない。
ただ、仮にインコを飼うとして、おれが部屋で口走った支離滅裂な言葉を覚えて
何の脈絡も無い拍子で声に出してくれたら、それはそれで面白いのだろう。
(・Θ・)「クダサブロウ!クダサブロウ!」
おれの愛インコ、マッキンリー(三歳、オス)は夜がな夜がな叫ぶだろう。
ミ,,゚Д゚彡「お前、そこだけ覚えちゃったのか」
おれはそう話しかけては、鳥籠越しに指でマッキンリーのトサカを撫でるだろう。
するとマッキンリー(三歳、オス)は鬱陶しそうに身を屈め
(・Θ・)「イタインダヨオ!」
と、口走る。
.
18
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:36:29 ID:HUkGJjMM0
.
勿論マッキンリー(三歳、オス)は適当にその言葉を選んだのだろうが
今の行動と妙に合致しているようなその口ぶりに、俺は思わず笑ってしまうのだった。
ミ,,゚Д゚彡「お前、ひょっとして意味分かってるのか?」
(・Θ・)「イタインダヨオ!クダサブロウ!」
(・Θ・)「ワンデーケーニスミタイ!クダサブロウ!」
ミ,,゚Д゚彡「住みたいなあ、お前と一緒にワンデーケー」
(・Θ・)「ワンデーケー!」
ミ,,゚Д゚彡「ワンデーケーなあ」
おれはマッキンリー(三歳、オス)の、空豆のように艶がった黄緑色の毛先を眺めながら
明日退勤したらマクドナルドに行ってチーズバーガーでも包んでもらおう、
それを持ち帰って、バンズの端の方をマッキンリー(三歳、オス)に分け与えたりして
心から幸せな気持ちになろう、と思ったのであった。
ここまで考えて、更に十五分が過ぎた。
ハッとして棚の上を目をやったが、あるはずの鳥籠はそこには無く
やはりマッキンリー(三歳、オス)もいなかった。
.
19
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:37:10 ID:HUkGJjMM0
.
おれは、強い男ではないのではないか?
ふと疑念を抱いたが、これ以上は何も考えないことにし、ひとまず何かを腹に入れることにした。
独り身の冷蔵庫には、賞味期限が切れたドレッシングと
いつ炊いたか分からない米をラップでくるんだもの、そして食べかけの板チョコ、
その他、取るに足らない何かが無造作に散らばっていた。
ミ,,゚Д゚彡「空っぽの冷蔵庫開けて……」
冷蔵庫の扉を乱暴に閉めると、貼り付けていた水道屋のマグネットがバラバラと床に落ち
それを拾おうとして屈むと腰が軋む音がして、俄かに気分が悪くなる。
ミ,,゚Д゚彡「色々思い出してると……」
おれは家を出て、チーズバーガーを買いに行くことにした。
エントランスを出るといつの間にか雨が振っており、電灯に照らされた向こうが霞んで見えた。
おれは何もかも嫌な心持ちになり、部屋に戻って何も食わずにそのままくたばってしまおうかと考えたが
チンケなニヒリズムを引きずったまま朝を待つのもまた癪なので、黙って傘を持ち出し、外に出る。
.
20
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:37:59 ID:HUkGJjMM0
.
金沢には肌寒さ残る花曇りが似合う
福岡には湿り気さえも焼け尽くす真夏の陽光が似合う
「この街にはこの天気」という謎のレッテルを、おれはいくつかの街に対して抱えているが
では大東京に最も似合う天気とは一体何だろうか、駅方面への道すがら、漠然と考えた。
例えばおれが新宿のガード下をくぐる時、渋谷のスクランブル交差点で人混みをかき分ける時
大門で東京タワーを見上げ、市ヶ谷で外濠を見下ろし
その時その時に広がっていた空の色は果たして何だったか
思い出せど、別に雲一つ無い快晴だったわけでもなく、靴が水で浸る程の大雨でもなく
そのうちおれは馬鹿馬鹿しくなり、いかにして服を濡らさずにマクドナルドへ向かえるだけに神経を注ぐことにした。
東京という街は、おれにとってはあまりにも強大で複雑でドロドロとした得体の知れない組織であり
イメージがどうのと安直なレッテルを貼るには、どうにも恐れ多いのかもしれなかった。
雨は強まり、やたらめったらに強い街灯の光の奥で
雨粒の足が乳白色に輝いて見えた。
おれはそれを見て、昔の映画で雨を降らす演出をする時には
フィルムに雨粒をしっかり焼き付けるため牛乳を混ぜ込んだ水をホースで放射していた――という
その昔、誰かから聞いたどうでもいい雑学を思い返した。
.
21
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:38:36 ID:HUkGJjMM0
.
ミ,,゚Д゚彡「牛乳の雨に降られちゃ、嫌だよなあ」
おれは雨音に隠れるくらいの音量で独り呟き、水溜りを靴の踵で少しばかり蹴り上げる。
ジーン・ケリー扮するドンは、牛乳混じりの雨の中で歌い踊り、傘を振り上げては水溜りの上を飛び跳ねた。
そして今、おれは彼のようになりたかった。
おれも沿道の鉄格子を傘ではじいたり、ショーウィンドウのマネキンに挨拶をしたり、したかった。
ミ,,゚Д゚彡「でも駄目なんだ、おれは東京を生きてるんだから」
狛江駅南口のロータリーは思いの外閑散としていたが
それでも電車が駅に着く度に、それなりの人混みがコンコースから吐き出された。
おれが今ここで「雨に唄えば」をタガが外れたような大声で歌い
滅茶苦茶に傘を振り回し、水溜りを踏み回し始めたら、彼らはおれをどんな目で見るだろうか。
関わりたくない、と思うだろう。何かの病気か、そうでも無ければヤケだと見るだろう。
だが、おれもこうでありたい、私もああでありたいという思いもまた、一抹に抱くのではないだろうか。
お前ら、今に見てやがれ。おれがお前らの憧れになってやる。
精々、軽蔑したり羨ましがったりするといいさ――
.
22
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:39:02 ID:HUkGJjMM0
.
ミ,,゚Д゚彡「まあ、いつかね、いつかやってやるから……」
おれは下を向き、誰にも聞こえないように口に出すと何故だか急に疲れてしまい
そそくさと高架下に構えているマクドナルドへと向かう。
マクドナルドは「小田急マルシェ」とか言う、気取った横文字が鼻につく商業施設の中にあり
高校生だろうか、小柄な女の店員が、あどけない笑みをたたえてレジに立っていた。
ミ,,゚Д゚彡「あー」
おれはメニューの中からチーズバーガーを探そうとしたが中々見つからず
人差し指がたじろいでいるうちに大恥をかいたような気分になり、自分でも驚くほど無機質な声で
ミ,,゚Д゚彡「チーズバーガー包んでください、あとポテトもMで」
と、言った。
ミセ*゚ー゚)リ「チーズバーガーですね、畏まりました」
彼女は表情を何一つとも変えることなく、繰り返さなくても良い注文をわざわざ繰り返し
ホールを振り返って暗号めいた何かを叫んだ後、しばらくお待ちください、と返した。
.
23
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:39:34 ID:HUkGJjMM0
.
おれがレジ横で律儀に待っている間、彼女は背筋を直に伸ばし、その顔は清々しき笑みに満ちている。
素晴らしくも、あまりにも安直で見え透いた外面だった。
――この女も、家で独りになった時はどうなるか分かったもんじゃない。
自室の扉を閉めるなり、綺麗にセットされた髪を掻きむしっては
ミセ*゚ー゚)リ「タピオカの渦の中で死にたい! タピオカの渦の中で死にたい!」
と、金切り声で絶叫しているに違いない。
たまに腕をわけもなく上下に曲げ伸ばしたり、枕をタコ殴りにしたり
床に寝そべってクロールの真似事をしたりするに違いないのだ。
インコは飼っているだろうか、犬は飼っているだろうか、猫は飼っているだろうか。
恐らくぬいぐるみくらいは置いてあるのだろう。
ミ,,゚Д゚彡「いや、できれば置いていないでほしいな」
ミ,,゚Д゚彡「君は強い女であってほしい、おれが強い男であるように……」
おれがそう思っていると、彼女は紙袋に包まれたチーズバーガーを持ち
ミセ*゚ー゚)リ「お待たせしました、お気をつけてお帰り下さい」
と、丁寧に差し出した。
おれはそれを受け取り、彼女に言葉をかけてみる。
.
24
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:40:07 ID:HUkGJjMM0
.
ミ,,゚Д゚彡「雨、強いですね」
ミセ*゚ー゚)リ「えっ」
彼女はたじろぎ、ほんの束の間だったが、その顔から笑顔が消えた。
しかし、すぐに体勢を取り直し、ただ一言
ミセ*゚ー゚)リ「そっ、そうですね」
と言った。
おれには、それだけで十分だった。
マクドナルドを出ると、雨粒はいつの間にか小さくなって霧雨へと変わり
駅前のロータリーは靄の中、二子玉川へと向かうバスのテールライトだけが朧に輝いていた。
おれは傘を差さず、紙袋からチーズバーガーを取り出し
ものの数分もしないうちに平らげてしまったのだが
マッキンリー(三歳、オス)に与えるバンズの端の部分を残さなかったことを思い出し
ミ,,゚Д゚彡「しまったなあ」
と、ひとまず声に出してみることにするのだった。
続
.
25
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:47:49 ID:OQEt9lt60
あああ好きだこの感じ
たまらんよマジで乙
26
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 21:51:47 ID:1pBHOj0k0
待ってた!乙
どうにもならない日常を切り取っている感じが好き
キチガイゲージ…
27
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 22:57:48 ID:3Ss2Yxt60
クソッ始終ニヤニヤが止まらん
28
:
名無しさん
:2019/07/07(日) 23:05:11 ID:0abnAn8A0
おつ 地の文のテンポが良くて読んでて面白い
29
:
名無しさん
:2019/07/08(月) 18:19:14 ID:3UCpevr20
キチゲ解放
30
:
名無しさん
:2019/07/09(火) 03:05:42 ID:tBEus7jU0
ミセ*゚ー゚)リ「タピオカの渦の中で死にたい! タピオカの渦の中で死にたい!」
ここが狂おしいほどすき
31
:
名無しさん
:2019/07/14(日) 23:37:41 ID:ArPKF9Rc0
.
朝になり、雨は上がれど雲は去らず、カーテンから差し込む光はどうにも頼りない。
「アラームその5・軽快な小鳥のさえずり」によって起こされたおれは
流しの蛇口をひねって口をゆすいだが、水道水の生温さに寝起き早々嫌気を覚え
わざとらしい舌打ちを五、六回繰り返した後、のろのろとカーテンを開けた。
部屋の窓の向こうには、コンクリート打ちっぱなしの小さな一軒屋が建っており
おれがこうして朝方カーテンを開けると、二階のベランダに突っ立っている男を目にすることがある。
貧相な身体つきをした垂れ目の中年男で、寝間着から覗かせる手足は棒のように細いが
腹だけがしっかりと突き出ており、つまるところ典型的なニッポンのオジサンなのだ。
おれはこの部屋に越してからしばらく、朝毎にその男を観察していたのだが
彼はどうもベランダに出て何かしらをする、ということはなく、十数分間程度、ただただ
呆けているだけのようだった。
それだけならば「朝の日光浴をいびつな形で嗜むおじさん」で終わるのだが
おれが訝しんでいるのは、その十数分間、彼の口元が僅かばかりに絶えず動いていることだった。
( ^ω^)「じゃあ何、ずっとブツブツ何か呟いてるってことか」
おれはあくる日、男の奇行を内藤に話したことがある。
.
32
:
名無しさん
:2019/07/14(日) 23:38:13 ID:ArPKF9Rc0
.
ミ,,゚Д゚彡「そう、ずーっと口が微妙に動いてる」
ミ,,゚Д゚彡「しかも口の動き方が一定なんだよ、ずっと一定の動作を繰り返してる」
( ^ω^)「同じフレーズをずっと繰り返してるってことでしょ、それ」
内藤は、ばかに理解が早かった。
ミ,,゚Д゚彡「そう、だからおれ滅茶苦茶研究した。毎朝毎朝おっさん見て、口の動きから予測して」
( ^ω^)「何て言ってんの」
よくぞ聞いてくれた、と思った。おれには自信があった。
彼の口の動き、およびループのタイミングから、おれが割り出した答えはこれだった。
ミ,,゚Д゚彡「これは間違いないと思うんだけど、多分『ちんこ』って言ってんだよ」
( ^ω^)「ちんこ?」
ミ,,゚Д゚彡「あのおっさん、十何分もずっと『ちんこ』って繰り返してんだよ」
( ^ω^)「なんで?」
.
33
:
名無しさん
:2019/07/14(日) 23:38:34 ID:ArPKF9Rc0
.
内藤の疑問はもっともだったが、それはおれにも分からないことだった。
おれが言えることは、あの男はおれの部屋の向かいの一軒屋の二階のベランダに毎朝突っ立っては
十数分もの間、ひたすら「ちんこ」を繰り返している、ただそれだけのことだった。
ミ,,゚Д゚彡「俺にも分からん」
ミ,,゚Д゚彡「でも、ずっと言ってんだよ。ちんこちんこちんこちんこって、ずっと」
( ^ω^)「って言うか、なんでそんなに自信持ってちんこだって断言できるの?」
おれは、おれの直感だと内藤に言うと
彼は鼻にかかったような乾いた笑いを二、三回繰り返し、それきり何も言わずその場を離れた。
残されたおれは、誰にも聞かれないよう囁くような声で、できるだけ多く「ちんこ」と呟いてみようとしたが
135回口にした段階で急速に熱が冷めてしまい、その日はそれきり仕事が手に着かなかった。
ともかく、おれが今日もカーテンを開け、やはり向かいの家の二階のベランダには
あの男が立っており、そして何かを繰り返し呟いていた。
そして彼が繰り返している「何か」とは即ち「ちんこ」に違いない、とおれは訳も無く確信している。
.
34
:
名無しさん
:2019/07/14(日) 23:38:56 ID:ArPKF9Rc0
.
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ、よし」
男が最後に「よし」と言ったのは勿論おれの妄想なのだが
いや、彼が繰り返している言葉が「ちんこ」であることも、ややもするとおれの妄想かもしれないが
彼は今日のノルマを終え、部屋へと引っ込んだ。
おれはその間に顔を洗い着替え、今日もまた一日、大東京に身を乗り出そうとしていた。
.
35
:
名無しさん
:2019/07/14(日) 23:39:16 ID:ArPKF9Rc0
.
おれは駅への道中、改めてあの男の奇行の大元を深く掘り下げようとしたが
その為には彼のプロファイリングを、入念なプロファイリングを試みる必要があると考えた。
見た目から考えるに、男は40代も後半。
外壁はいくらか煤けてはいるが、それほど古くも見えず、恐らく彼が建てたのだろう。
結婚はしているだろうし、子供もいるに違いない。息子と娘を、それぞれ一人作ったとする。
幸の薄そうな顔つきに茹でもやしのような手足を見るに、それ相応には尻に敷かれているに違いない。
息子からは陰で馬鹿にされ、娘からは最早「いないもの」とされているはずだ。
ミ,,゚Д゚彡「おれがあの男であるとして」
おれは、ふと考えた。
ミ,,゚Д゚彡「何で俺は、毎朝ベランダに突っ立ってはちんこの呪文を唱えるのだろう」
おれはしがない中年男、細君は今やおれの稼ぎを根こそぎ奪い取る化け物と化した。
息子は直接口にはせずとも、態度で分かる、確実におれを蔑んでいる、下に見ている。
娘はここ数年程怪しかったが、とうとう無事におれの姿が見えなくなったらしい。
.
36
:
名無しさん
:2019/07/14(日) 23:39:48 ID:ArPKF9Rc0
.
何故だろうか、おれが建てた家のはずが
おれが休まる空間、おれだけが存在し得る空間が、いつしか失われていった。
行き場を失くしたおれが最後に辿り着いたのは、寝室の先の小さなベランダ、
おれは毎朝、細君が寝ている隙を見計らい、引き戸を開け陽の光を直に浴び
その瞬間、おれは外の空気に晒されながらも、ついにただ独りになることに成功する。
おれはこの時間だけ、お前達が知らない、ただ独りのおれとして生きられる。
できるだけ、普段呟けない言葉を思い切り呟いてやろう。
しかし、あの化け物が起きぬようにそっと、ひっそりと、静かに呟こう――
('A`)「ちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこちんこ」
全てが分かってしまったおれは、あまりの世知辛さ、それでも些細な抵抗を続ける男の信念に
独りを生きたいと願う人間としての尊厳を覚えてしまい、思わずわっと声を上げたくなってしまったが
寸でのところで抑え、商店街の真ん中で荒い溜息を二、三回ほど繰り返した。
ミ,,゚Д゚彡「おじさん! おれは――」
ミ,,゚Д゚彡「おれは、あんたを、誇りに思う」
ミ,,゚Д゚彡「おれは、あんたのちんこを尊重したい」
おれは急いで駅の改札をくぐり、準急新宿行へと飛び乗った。
一刻も早く、内藤にちんこ男の生き様を知らしめなければ――と、その一心で弾んでいた。
.
37
:
名無しさん
:2019/07/14(日) 23:40:28 ID:ArPKF9Rc0
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( ^ω^)「そうなんだ……」
ところがこの男はあまりにも冷淡で非情だった。
ミ,,゚Д゚彡「お前、お前まさか」
ミ,,゚Д゚彡「お前まさか、そうなんだで全部終わらせようと思ってんのか?」
おれがそう言うと、奴はしばらく黙り込み色々と考える仕草をおれに見せたが
汚い音を立てて鼻を啜ったかと思えば一言
( ^ω^)「そうなんだ……」
と、再び口にした。
彼には、ちんこ男の悲哀とその美しさについての、何一つをも感じ取ることができなかったらしい。
ミ,,゚Д゚彡「ダメだ、お前は分かってない。分かってないお前は、ダメだ」
おれはできるだけシリアスを装おうとなるべく低くドスが効いた声を作ろうと努めたが
それが裏目に出たのか上ずってしまい、最後の「ダメだ」に至っては裏返り、オウムのような
素っ頓狂な声になってしまった。
内藤はおれの上ずりに何ら反応を示すことは無く、頭を二度掻いて明後日の方向に目をやりつつ
ゆっくりと自分のデスクへと戻って行った。
.
38
:
名無しさん
:2019/07/14(日) 23:40:48 ID:ArPKF9Rc0
.
これはダメだな、とおれは思った。
何がどうダメなのかはいまいち分からないが、この「ダメ」は
今日一日、おれが部屋に戻るまでの間はずっと持続するタイプの「ダメ」だろうな、とも思った。
ミ,,゚Д゚彡「分かった分かった」
おれは廊下に出て、自販でコーラを買い
今日中に内藤にもう一度ちんこ男の素晴らしさを説法しよう、そして感服させよう
そう考えながら、ペットボトルを縦に五、六回程、おもむろに振った。
デスクに着き、コーラを置き、キャップを取ると
泡が増殖と四散を繰り返しながら溢れ始め、やがてデスクに茶色の海を作り
昨日作り上げたまま放っておいた、今朝の打ち合わせで使うはずの資料の束がたちまちに浸り
そのうち床に垂れ、おれの革靴を余すことなく濡らしていった。
周りが俄かに騒がしくなったが、あくまでもおれは動じず、どこまでも冷静だった。
使い物にならなくなった資料の、浸っていない部分をうまいこと使って
このままだと砂糖でべとついてしまう革靴を拭けないだろうか、と考えていた。
ミ,,゚Д゚彡「分かった分かった、分かった分かった分かった分かった……」
ここで今日は一日、徹底的にダメな人間であることにしよう、とおれは決意し
ひとますコーラで濡れた床に革靴を擦り付けることで遊ぼう、
なるべく良い音を立てることができたら勝ちの遊びをすることにしよう、と思った。
続
.
39
:
名無しさん
:2019/07/15(月) 00:36:28 ID:g3T5t3Vo0
なんかだんだんヤバくなってきている希ガス…
40
:
名無しさん
:2019/07/15(月) 05:02:58 ID:qjLkGyHs0
地の文が多いと苦手なんだけどこれはスラスラ読めて不思議
フサギコがどんどんおかしくなってきてて怖い
41
:
名無しさん
:2019/07/15(月) 11:06:48 ID:7IVISv4.0
クソワロタ
42
:
名無しさん
:2019/07/15(月) 11:47:10 ID:Koo/mTn.0
お、おう……
43
:
名無しさん
:2019/07/15(月) 11:57:26 ID:6X5KLQbAO
感染しちゃった……
44
:
名無しさん
:2019/07/15(月) 12:15:34 ID:qzL.0xrM0
狂気感染…
45
:
名無しさん
:2019/08/01(木) 01:49:23 ID:pnomH4GM0
早く更新されないかなぁ…
46
:
名無しさん
:2019/08/05(月) 19:38:51 ID:2AqMZrqU0
もう少し待っててください
47
:
名無しさん
:2019/08/17(土) 06:24:52 ID:RqQd/hqA0
ごっつぁんです
48
:
名無しさん
:2019/09/30(月) 18:49:49 ID:HwMNKoTY0
おもろい
49
:
名無しさん
:2019/10/21(月) 23:47:23 ID:jL1ON/6M0
.
( ・∀・)「寝不足か? 房野君」
おれを会議室に呼び出した守屋係長はそう言った。
ミ,,゚Д゚彡「あっ、まあ、すいません」
( ・∀・)「いや、すいませんじゃなくてさ、心配だからさ」
守屋は、先程のおれの一連の行動を仕事のストレスから来る心身症か何かだと思っているようだった。
弁解しても仕方が無く、おれはただ黙って彼の言葉に相槌を打っていた。
ミ,,゚Д゚彡「あっ、すいません、ご心配を」
( ・∀・)「コーラ買ってきたと思ったらいきなりシャカシャカ振り始めて、そのまま開けちゃうわけでしょ?」
( ・∀・)「それにこぼれても全然反応しないし、ポカーンってなっちゃってるし」
( ・∀・)「何かこう……トラブってたりするのか。客先と」
守屋は決しておれを咎めようとはせず、あくまでも親身だった。
だが、おれは言いたかった。
おれがコーラを振ってしまったのは、内藤にちんこ男の哀しみを理解されなかったことへのショックであり
コーラをこぼしてからの反応が遅れたのは、コーラで濡れてしまった革靴を資料でうまいこと拭く方法を模索していたり
コーラで濡れた床に革靴を擦り付けて楽しんでみようと試みようとしていたからだった、と。
恐らく想像を絶するくだらなさに、彼の善意は見るも無残にひしゃげることだろう。
.
50
:
名無しさん
:2019/10/21(月) 23:48:05 ID:jL1ON/6M0
.
ミ,,゚Д゚彡「すいません、寝不足だったんで、すいません」
おれはその思いとは裏腹に至極真っ当な返答をした。
( ・∀・)「本当か?」
ミ,,゚Д゚彡「昨日、ちょっと遅くまで起きてたもんで……」
嘘である。おれはチーズバーガーを無表情で食した後、何もすることが無くなり寝てしまったのだ。
( ・∀・)「なんだ、そんなことか……」
彼は笑った。「部下が僕の管理ミスでメンタルをやられたわけじゃなくて安堵しました」と、顔に書いてあった。
おれは彼を見て、管理職にはなりたくねえなあ、と本心から思ってしまった。
( ・∀・)「入って半年して分かったと思うけどさ、身体は資本だから。今日無茶すれば明日に響くから」
ミ,,゚Д゚彡「肝に命じます」
( ・∀・)「でも、まだ君は若いから多分夜更かししても今はそこまでじゃないんだろうけど、僕はもうさ、ほら……」
守屋の話はそれから何分間か続いたが、おれはそれをただただ聞き流しながら
おれが何の前振りも無く咄嗟にこの男に殴り掛かったら、果たして彼はどんな顔をするのだろうかと漠然と考えていた。
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51
:
名無しさん
:2019/10/21(月) 23:48:48 ID:jL1ON/6M0
.
彼とおれの間には特に深い溝も何かしらの因縁も無く、おれが彼を殴る理由は今のところ何一つ無い。
だからこそ部下を優しく諭しつつニコニコ顔のこの男はよもや、おれに鉄槌を食らわせられるとは夢にも思うまい。
おれだったらどうだろう、殴られたら、殴り返すのか?
ミ,,゚Д゚彡「いや、無理だな、人なんて殴ったこと無いし」
恐らくだが、殴られた頬を抑えながら、しばらく身動きが取れなくなるだろう。
そうやって固まること十秒足らず、そこで漸くおれは目の前の人間にワケも無く殴られたのだと認識する。
さあ、おれは何と言おうか。
ミ,,゚Д゚彡「『……なんで?』」
素直に聞くだろう。殴られる理由が見当たらなければ、素直に聞くしかない。
おれに限った話ではない、恐らくこの男もそうやって尋ねるだろう。
( ・∀・)「……どうして?」
どうしてなのだろう、おれにもよく分からなかった。
ミ,,゚Д゚彡「いや、まあ、あの……ほら」
ミ,,゚Д゚彡「こうやっていち個人といち個人が、他愛も無く倫理的に会話をね、してるわけじゃないですか」
ミ,,゚Д゚彡「それは本当にいいことだし、僕も守屋さんとそうやって倫理的な空間を生きていて満足はしてるんですけど」
ミ,,゚Д゚彡「でも、僕がたった一発守屋さんをぶん殴っただけで、あっと言う間にそれが崩れるんですよ?」
ミ,,゚Д゚彡「それって、凄くないですか?」
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52
:
名無しさん
:2019/10/21(月) 23:49:26 ID:jL1ON/6M0
.
( ・∀・)「何が凄いんだよ」
ミ,,゚Д゚彡「はい」
( ・∀・)「何が凄いんだよ」
ミ,,゚Д゚彡「すみません、大丈夫ですか」
( ・∀・)「君、流石にちょっとこれは僕も厳しくせざるを得ないよ」
ミ,,゚Д゚彡「すみません」
( ・∀・)「あのねえ、もうすみませんって話じゃないでしょ?」
ミ,,゚Д゚彡「すみません」
守屋はおもむろに立ち上がり、背広を手ではたいて、おれに背を向けながらこう言った。
( ・∀・)「とりあえず処分はちょっと待ってもらうから、また後で話し合おう、時間空けといて」
ミ,,゚Д゚彡「すみません」
ミ,,゚Д゚彡「すみません本当に、殴ったら何か広がりそうだなと」
ミ,,゚Д゚彡「殴ったらこう、無限に世界が広がりそうだったんで……」
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53
:
名無しさん
:2019/10/21(月) 23:50:09 ID:jL1ON/6M0
.
ここまで容易に想像ができたし、想像ができるからこそおれは守屋に手を出さず
最近の彼の眠りがどれだけ浅いかを熱弁する彼のこめかみの辺りを、ただ黙って見つめていた。
( ・∀・)「まあだからしっかりと寝てくれよ、またポカするぞ」
ミ,,゚Д゚彡「すいません、気にかけていただいて……」
おれが会議室を出ると、廊下を歩く内藤と目が合った。
内藤は眼を右に左に意味も無く動かした後再び俺に焦点を合わせ、こう言った。
( ^ω^)「絞られたか」
ミ,,゚Д゚彡「お前、おれにぶん殴られるぞ」
( ^ω^)「なんで?」
ミ,,゚Д゚彡「なんでって言われたら、理由なんて無いんだけど……」
( ^ω^)「通り魔みたいだ」
ミ,,゚Д゚彡「そうそうそう……通り魔なんだよ、通り魔、いいこと言ったなお前」
要するにおれのこの心持ちはこう、閉塞感と形容するにはどうにも紋切り型ではあるが
文明人として日々を営む為の正しさを以て互いが互いを監視するこの在り方を、ただ興味本位でぶち壊してみたいだけで
それはつまるところ通り魔のロジックなのだ。
.
54
:
名無しさん
:2019/10/21(月) 23:50:41 ID:jL1ON/6M0
.
ミ,,゚Д゚彡「おれの理屈が確かであれば」
ミ,,゚Д゚彡「おれやベランダちんこちんこおじさんのキチガイゲージを極限まで濃縮還元して」
ミ,,゚Д゚彡「負の方向にねじり切った人間達が通り魔になる」
( ^ω^)「さっきから何言ってんだ、お前」
ミ,,゚Д゚彡「黙れお前は、お前は黙れ、ちんこおじさんの苦悩も知らずに」
おれは内藤を引きずって喫煙室に移り、再びちんこおじさんの精神性とその苦悩と尊さについて熱く語った。
彼は終始憮然とした顔をしていたが、漸く少しずつおれの感覚を掴み始めたようだった。
( ^ω^)「要はアレか」
( ^ω^)「その朝の儀式だけが、おじさんにとっての唯一の我の解放なのか」
ミ,,゚Д゚彡「そうだよ、いじらしいだろ」
ミ,,゚Д゚彡「でも、自分の中のワケ分からない何かを無限に発散し続けたいって欲は、多分誰にでもあるんだよ」
ミ,,゚Д゚彡「特に生まれてからずっと東京で生活してるような……お前みたいな奴」
おれは次第に語意を荒げながら、何故だろうか昨日小田急線で見た、仏頂面の女の顔を思い出した。
.
55
:
名無しさん
:2019/10/21(月) 23:51:58 ID:jL1ON/6M0
.
( ^ω^)「おれにも?」
ミ,,゚Д゚彡「お前にもあるし守屋さんにもある」
ミ,,゚Д゚彡「マックの女子高生の店員にもあるしマッキンリー(三歳、オス)にもある、みんなみんなある!」
おれの気迫に内藤はたじろいだのか、二、三歩後退りした。
おれはそれを見て少し得意気になり、ハイライトの煙を天井に向かって勢い良く吹き出せば、
汚い靄がかりが内藤のむくれた身体を包むように降り注いだ。
ミ,,゚Д゚彡「お前もやれば分かるよ」
( ^ω^)「やれば分かる」
ミ,,゚Д゚彡「東京者の仏頂面を一瞬だけ外して、シラフとは別の次元で倫理を乱していけ」
ミ,,゚Д゚彡「……丁度いい範囲内で」
おれは咄嗟にフォローを入れたつもりだったが、内藤にはそれすらもどうも届いていないようだった。
( ^ω^)「誰も見てないところでちんこって言えばいいのか、それとも職場でコーラをブチこぼせばいいのか」
これはまずいな、と思った。
それはお前のさじ加減に任せるよ、とおれは一言言って喫煙室を離れた。
あの男が何をやらかそうとおれの責任にはしないでほしい、とだけ思った。自分のキチガイは自分で始末すべきなのだ。
続
.
56
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 00:10:22 ID:b0/XxbR20
房野君、脳内会話が口に出ちゃってるぞ!!
57
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 00:34:32 ID:cTsmhTGk0
ちょっと分かる気もするしマジで何なんだ房野という気もする
58
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 00:36:04 ID:DiYYE6sA0
これ分かるけど分かりたくないすごく身近な狂気だな
好きです 続き楽しみ
59
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 01:53:11 ID:8n7.ftTg0
ふとした時の意味のない衝動に意味を持たせるとこうなるのか
60
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 03:02:07 ID:LKKrrj.Q0
良いねえ…
61
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 13:48:05 ID:cCS9wM.w0
.
コーラにまみれた書類をもう一度出力するなどしていたらいつの間にか二〇時を回っていた。
内藤はとうに帰っており、おれは独り狛江への帰路に就いた。
小田急線の準急は相もわらずマイナス十度の仏頂面で埋め尽くされているわけだが
おれから見て向かい側のドアにいる男の周りにだけ、何故か不自然な空間が形成されていることに気付いた。
その男の周囲、丁度五〇センチ程がぽっかりと空いていたのだ。
( ´曲`)「あああああ」
( ´曲`)「今にも、今にも強力な電磁波が新宿を襲ってくるというのに小池は何も対策を打たず!」
( ´曲`)「これはヒロシマ以来の未曽有の危機、一体識者は何を考えておられるのか――」
ああ、そういう人か、おれは理解した。
しかし東京の人間は慣れたもので、この男の言動に眉一つすら動かす気配が無い。
おれの田舎であれば――
例えば、このような男が電車の中で、駅の改札で、商店街の中央で、同じようなことを叫んでいれば
たちまちどこかしらから怒号が飛んでくることだろう。
駅の助役の長岡さんや、魚屋の椎名さん辺りが
_
( ゚∀゚)「こらこらこらどうしたのどうしたの、ダメだよそんな大声で、皆もいるからほらほらほら」
(*゚ー゚)「あんたもう、さっきからうちの前で変なことばっかり言って! どっか行った行った!」
とでも言って、男をどこか自分とは関係の無いところへ飛ばそうとするだろう。
しかし東京は違う、この男はここにいながらにして、初めからいないものとして見なされているのだから。
.
62
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 13:48:26 ID:cCS9wM.w0
.
しかし、おれはこの男がどこかで羨ましかった。
精神の病とは言え、男は無意識のうちに、いや、無意識だからこそ東京者としての秩序をいとも簡単に
そう、いとも簡単におれの前で破ってみせたのである。
ミ,,゚Д゚彡「気持ちいいか、おじさん」
( ´曲`)「ああ、我々ヒノモトの民は過去遥かなる長きにわたる苦痛と」
ミ,,゚Д゚彡「気持ちがいいのか、おじさん」
( ´曲`)「日ごと夜ごとこのようにして思考停止を続け、エコノミックアニマルとしてのお」
ただ、男は言わずもがな正気では無いので、この男が「ぶち壊す」ことで「世界を広げた」とて
そのカタルシスを存分に味わえたかと考えると、それは無いだろうな、となった。
おれの至上命題は、「いかにして正気を保ちながら東京者としての物語を破りつつ
最大級のカタルシスを得るか」なのだなと、ここに来て漸く分かりつつあった。
ただ、おれはその構図に挑むにしてはどうにも臆病でもあった。
おれは狛江で降り、男を乗せた準急は夜の帳へと吸い込まれる。
夕飯を作るにはどうにも遅く、昨日と同様、高架下のマクドナルドへと向かうことにした。
果たして店頭のレジで客を構えていたのは、件の女子高生だった。
.
63
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 13:48:46 ID:cCS9wM.w0
.
ミ,,゚Д゚彡「うわっ」
おれは思わず足を止めてしまったが、彼女はおれの存在に気付いてしまったらしく
うらうやしくお辞儀をし、確かに「いらっしゃいませ」と口を動かしていた。
おれはどうも引き返せなくなったようで、じりじりとレジの方向に足を動かすより仕方が無かった。
ミセ*゚ー゚)リ「お決まりですか?」
レジに着くなり、彼女はメニューを選ぶ時間を与えてはくれなかった。
おれはたじろぎ、仕方無くテーブルの上に置かれているメニュー表を適当に指差し
そこにあったものを頼むことにしよう、と考えた。
ミ,,゚Д゚彡「えー」
おれの指先はソフトツイストに止まったので、自動的にそれが俺の晩飯となった。
一度決めたことは覆すまい。
ミ,,゚Д゚彡「ソフトツイストください」
ミセ*゚ー゚)リ「はい、お持ち帰りでよろしいですか?」
ミ,,゚Д゚彡「はい、はい……」
しばらくしておれの右手にソフトツイストが渡され、彼女は正しい笑みをおれにこぼし
お気を付けてお持ち帰りくださいと言った後、こう続けた。
ミセ*゚ー゚)リ「今日は雨も降ってないですよ!」
.
64
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 13:49:13 ID:cCS9wM.w0
.
ミ,,゚Д゚彡「はっ?」
たじろいでしまった。してやられた、と思った。
しかしおれがお前に求めていたのは、そういう「サービス」ではないのだ。
ミ,,゚Д゚彡「あっ、そうですね、気を付けます、あっ、ははは」
完全に、彼女とおれとで昨日とは立場が逆転してしまった。
「こんな夜遅くにソフトツイストだけを持ち帰りで注文するコミュニケーションが苦手なスーツ姿の男」と化したおれは
逃げるようにして狛江マルシェを離れ、できるだけ人通りが少ない裏路地へと急いだ。
秋の夜長は、いよいよ「刺し込むような」という表現が似合うような冷気をたたえ始めていた。
おれはなるべく街灯を避けながら、すれ違う人間にできるだけ気付かれぬようソフトツイストを舐めては身を震わせ
恐らくは世界で最もくだらない晩餐を謳歌していた。
ミ,,゚Д゚彡「誰もおれを見るなよ……」
おれはすれ違う人間達に聞こえぬようにして呟いていた。
ミ,,゚Д゚彡「誰もソフトツイストを舐めるおれを見るなよ……」
おれはソフトツイストを舐めながら、これもまた小規模ではあるものの
東京を静かに混乱無く秩序立てて生きる上でのプロセスを乱しているかもしれない、と考えたが
堂々とそれをやってのけることができずにコソコソと物陰に隠れてしまう以上、たかが知れてもいた。
.
65
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 13:49:46 ID:cCS9wM.w0
.
部屋に着き、ベッドへと横になりつつ
おれがシャワーを浴び歯を磨く、その気分になる頃合いをひたすら待っていたが
何十分待てどその気にならないので、おれはついに諦め、もう今日はそういう日なのだ、と思うことにした。
日々の生活、日々の営み、日々の動作は気の持ちよう次第であり、その気にならなければそれはもう、無理なのだ。
ミ,,゚Д゚彡「今日は寝るのが一番良かった」
おれは消え入るような声で独り言ちた。
ミ,,゚Д゚彡「納得している」
その時、ベッドの端に乱雑に放り投げたスマホが、点滅しながら揺れているのを視界の隅で捉えた。
おれは手を伸ばし、画面を見ると、内藤からの着信だった。
ミ,,゚Д゚彡「はい」
電話の向こうで、内藤がやたらと籠った声でこう言った。
( ^ω^)「あのさあ」
ミ,,゚Д゚彡「うん」
( ^ω^)「おれさあ、お前の言う通りに、やってみたんだよ」
ミ,,゚Д゚彡「何を?」
( ^ω^)「楽しかったんだよ……背徳感みたいなやつが凄いんだけど、それが良かったし」
.
66
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 13:50:46 ID:cCS9wM.w0
.
ミ,,゚Д゚彡「いや、だから何を?」
内藤はしばし間を置いて応えた。
( ^ω^)「おれ、昔サバゲーにちょっと凝ってたって言ったじゃない」
ミ,,゚Д゚彡「はあ」
( ^ω^)「その時のモデルガン引っ張り出してさ、金切り声で『死ね死ね団のテーマ』歌って」
( ^ω^)「妹とか親父とかに『うちゅぞ! うちゅぞ!』って言ったら、メチャメチャ楽しいんだ……」
ミ,,゚Д゚彡「はあ」
電話の向こうで、内藤が何を話しているかがいまいち分からず
おれはひとまず、部屋の壁をよじ登る小さな蜘蛛の動きを目で追うことにした。
( ^ω^)「そしたら、本気で心配された……」
ミ,,゚Д゚彡「はあ」
( ^ω^)「おれが仕事でとんでもなく何かを抱えてるんじゃないかって、『爆発する前にどうして相談しなかったんだ』って」
( ^ω^)「『どうしようもなくなったら、まだ父さんや母さんに頼っていいから』って……」
小さな蜘蛛は壁に貼り付く力が弱いのか、何度も落ちては上がりを繰り返しており
いつまでも前進しないそのもどかしさに、おれは苛立ち始めていた。
.
67
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 13:51:09 ID:cCS9wM.w0
.
( ^ω^)「おれはただ、倫理を乱したかっただけなのに……」
ミ,,゚Д゚彡「お前、もう寝ろよ」
おれは内藤の電話を切り、いつまでも天井によじ登れない小さな蜘蛛をティッシュで包み
くしゃくしゃに丸めた後、近くのゴミ袋の中に放り投げた。
そのままベランダに出てハイライトに火を点け、夜風に身体を冷やされつつ、おれは改めて
先程聞いた内藤の話を整理することにした。
よもやおれは、内藤に先を越されたのではなかろうか?
ミ,,゚Д゚彡「やりやがったな、やりやがったな内藤」
おれはその時、確かにじわりじわりと何かに急かされるような気分を覚えた。
ハイライトの煙はおれの心持ちをよそに、のろのろと暗がりの中を上っては溶けていく。
ミ,,゚Д゚彡「ふざけやがって、ふざけやがって……」
続
.
68
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 17:28:06 ID:cCS9wM.w0
.
おれは再びベッドに倒れ込み、このまま眠ることなく、まんじりともせずに朝を待ってやろうと思っていたが
おれの意志とは関係無く身体は眠る時には眠るものであり、白々しくも朝がやって来た。
昨日のマクドナルドの店員が発した「そうじゃない」答えと、内藤が電話で話していた一連の顛末が
おれの頭の底流の方をずるずると這いずり回り、どうにも気分が優れないまま小田急線に飛び乗り、職場へと向かった。
朝の小田急に乗り込んではすし詰めに成り行く乗客は今日もマイナス十度の仏頂面で綺麗に統一されており
おれもまたその一員になることで、恐らく今日も何事も無く職場に着く予定だった。
仮におれがこの環境の中で、大声で
「サブプライムローン長谷川」
と叫ぼうものなら、おれの周囲の人間は一斉に「ぎょっ」とした顔でおれを見るだろうが
すぐに瞬時に元の顔に戻り、おれを「無かったこと」にするだろう。
だが、おれもまた、隣に立っている男が急に
「おれのパイナップルが戻ってこない」
と絶叫したらば、多分同じ行動を取るだろうし、それを分かっている以上、おれは誰をも責めることはできなかった。
しかし、この車内の何百人が、この電車の何千人が、小田急でそれぞれの居場所へ向かう何十万人が
どれほど東京者としての安寧の名のもとに、互いを縛り合ってきたことだろうか!
ミ,,゚Д゚彡「たった数秒の『ぎょっ』こそが、解放していかんとする者に多大なるダメージを与えるのだ」
ミ,,゚Д゚彡「それさえ乗り越えられる強靭な精神を付けることができれば、おれは更なる高みを目指せるだろう」
おれは静かに、しかしながら力強くそう確信した。
電車は祖師ヶ谷大蔵をノロノロと弱々しく通過していた。
.
69
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 17:28:34 ID:cCS9wM.w0
.
職場に着くと、内藤がおれを待ち構えていた。
( ^ω^)「まだ分からなかった」
ミ,,゚Д゚彡「え?」
( ^ω^)「おれには、まだ分からなかった」
知ったことではない。
おれは内藤を押しのけ、デスクに鞄を置いた。
ミ,,゚Д゚彡「お前なあ、我の解放って言ったって、所詮お父さんお母さん妹の前での話だろ」
ミ,,゚Д゚彡「親兄弟にじゃれるくらい珍しくないんだよ、当たり前のことなのよ」
おれは何故だか分からないが、急速に苛立っていた。
ミ,,゚Д゚彡「それともなんだ、東京の人間は親兄弟の前ですら仏頂面で過ごすのが当たり前なのか?」
内藤の垂れ下がった頬が徐々に丸く膨らみ始め、眉のあたりが微細動を起こしているのが見えた。
オーブントースターの中で膨れ上がる餅を見ているようだな、とおれは思った。
( ^ω^)「お前、そろそろ無いぞ本当に」
.
70
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 17:29:00 ID:cCS9wM.w0
.
ミ,,゚Д゚彡「そんなんじゃ分かんないよ、分かんない分かんない」
おれはそう捲し立てながらも、気ばかり焦っていた。
家族間であれ、確かにこの男は「ぎょっ」を乗り越え、おれとはまた違う景色を見ている。
そう思えば思うほど、おれは闇雲に分かんない分かんないと言い続けるほかは無かったのである。
( ^ω^)「分かったよ、やってやるよ」
ミ,,゚Д゚彡「え?」
( ^ω^)「お前、見てろよ、ほら、やってやるからよ」
内藤はそう言うと、おれの目の前でシャツのボタンに手をかけ、おもむろに服を脱ぎ出した。
やがて下着一枚の格好になった彼は、醜く弛んだ裸体を震わせてはオフィス内を練り歩き、高良部長のデスクによじ登る。
( ^ω^)「刮目しなさい!」
内藤が言わずとも、既に彼の奇行にオフィスの人間の視線は集まっていた。
そして、彼が穿いている大きなトランクスは不自然にめくれ上がっており
彼の膨れた身体に不相応な、頼りない「ナニ」がそこから露出し、所在無げに左右に揺れていた。
( ^ω^)「刮目しろ!」
彼は自分の胸板を両方で強く叩き、やがて低く構え、その体勢を整えた。
何かが始まるのだな、とおれは思った。
.
71
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 17:29:21 ID:cCS9wM.w0
.
( ^ω^)「あああああ」
内藤が低く唸る。
( ^ω^)「ひとつとせえ」
( ^ω^)「ひとりでみても、よかちんちん」
すると、後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。
( ・∀・)「はあーよかちん、よかちん!」
おれはぎょっとしてしまった。
あの日おれが興味本位で殴りつけた、あの守屋係長の合いの手だった。
( ^ω^)「ふたつとせえ」
( ^ω^)「ふたりでみても、よかちんちん」
(,,^Д^)「はあーよかちん、よかちん!」
高良部長だ。
ヒラ社員にデスクによじ登られた挙句自慢するほどでもない陰茎を見せつけられ
本来なら怒りのあまり内藤の首を絞めたとしても不思議では無い立場にいるあの高良部長が
守屋に続いて合いの手を入れている。
.
72
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 17:29:51 ID:cCS9wM.w0
.
( ^ω^)「みっつとせえ!」
( ^ω^)「みんなでみても、よかちんちん!」
オフィスは歓喜の声に包まれ、はあーよかちんよかちんと、誰もが合いの手に加わり
とうとうおれだけが独り、取り残された。
ミ,,゚Д゚彡「よかちん音頭というのは、空のビール瓶をナニに見立てていかに面白く踊るかがポイントであって」
ミ,,゚Д゚彡「おまえはただその粗末なナニを露出して仁王立ちになっているだけで、根本的に間違っているじゃないか」
おれの懸念はよそに、内藤に煽られた彼等は彼等で、とうとう我を忘れ始めた。
高良が言う。
(,,^Д^)「素晴らしい! 彼は例え職場の中だろうが、自分の存在感を自分なりに創造し、発信している、素晴らしい!」
(,,^Д^)「皆も、これに続くのが望ましいですね! こうやってこう、壁の向こう側に行きましょうね!」
高良はそう言って、突然両手を頭に当て、腰を左右にぎこちなく振り始めた。
(,,^Д^)「おれは、セックスマシーンだ」
彼は腰を左右に振りながら、じりじりとおれに近付き、こう言った。
(,,^Д^)「おれはセックスマシーンだ、房野君はどう?」
ミ,,゚Д゚彡「いや、ぼくはセックスマシーンじゃないので」
.
73
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 17:30:12 ID:cCS9wM.w0
.
その時、足元に何か硬いものが当たり、ふと下を見ると、守屋が前転の練習に勤しんでいた。
彼はどうも運動神経が悪いらしく、何度試しても前へと進めず、横脇に崩れ落ちてばかりいた。
( ・∀・)「だるまさんだよ、だるまさんだよ」
ミ,,゚Д゚彡「だるまさんですか?」
( ・∀・)「ぼく、だるまさんになる。だるまさんになって、お婆ちゃんを安心させるから」
ミ,,゚Д゚彡「ああ……頑張ってください」
おれは顔を上げ、改めて周囲を見渡した。
内藤はとうに全裸になっていたが、彼の頼りない「ナニ」は相変わらず萎えた果実のように弱々しくその股間にぶら下がっていた。
天真爛漫でお調子者の斉藤は自分のデスクに繰り返し繰り返し頭を打ち付け、既に額から血が溢れている。
澁澤は愛飲している「わかば」を一箱丸ごと開けては丸ごと口に咥え、それでも足りないのか両鼻の穴両と耳の穴に各三本ずつ突っ込んでは
その全てに火を点けて至上の喫煙を嗜んでいるし
この部屋で紅一点の渡辺は、両手足を規則正しく曲げたり伸ばしたりしては
从'ー'从「お嫁に行けなくなっちゃう! お嫁に行けなくなっちゃうの!」
と、執拗に連呼していた。
果たして、この事象は何なのであろうか。おれが蒔いた種なのだろうか。
しかし、おれが求めていた風景は、これではなかった気がした。
ミ,,゚Д゚彡「帰ります、具合が悪いんで」
おれは下手な前転を繰り返している守屋に別れを告げ、職場を出た。
続
.
74
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 17:48:54 ID:eQ32X/8k0
>>71
あれ、結局殴りつけてなかったんじゃ
75
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 18:13:36 ID:3Ldi43Vw0
どうしちゃったんだよ
76
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 18:39:05 ID:scP7yPe.0
狂気も感じるけどクソワロタ
77
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 18:48:49 ID:b0/XxbR20
マジキチすぎりゅ……
78
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 21:01:19 ID:2hp8AJVo0
おつ
話すときの「」が変わらないからほんとに言ったかどうかわからないんだよな
79
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 21:29:36 ID:O2ayWzN20
これ、このままだと次の100選にマジキチで選出されるぞ
80
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 21:30:53 ID:fhW2rCdY0
静かじゃない狂気
81
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 22:18:14 ID:S8K.584w0
みんな発狂した…
82
:
名無しさん
:2019/10/22(火) 23:45:14 ID:DiYYE6sA0
これは夢かうつつか……
83
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 00:10:35 ID:VlWjcFcc0
.
昼前、陽は南へと高度を上げ、湿気こそ無いが日差しはじりじりと暑く
職場の最寄りに着く頃には既に汗が滲んでいた。
おれは鞄の奥底から職場のスマホが振動しているのを感じ、誰かも確認せずに、その電話に出ることにした。
ミ,,゚Д゚彡「はい」
( ・∀・)「あっ、房野君か、良かった繋がって」
ミ,,゚Д゚彡「お疲れ様です、すいません昨日は」
( ・∀・)「昨日?」
ミ,,゚Д゚彡「いや……不意に殴ってしまいまして」
( ・∀・)「殴ったって?」
電話の向こうの守屋の声は訝し気だった。
そうだ、そう言えば、おれはこの男を殴るところまでは行かなかったのだ。
ミ,,゚Д゚彡「あっ、すいません、やっぱり殴ってないです、殴ってないです」
( ・∀・)「いや、まあいいよそれは、良くないけど」
( ・∀・)「それより、なんでさっき無断で帰っちゃったの?」
.
84
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 00:10:57 ID:VlWjcFcc0
.
ミ,,゚Д゚彡「えっ?」
予想外の質問に動揺した。
おれが帰った理由なんて、火を見るより明らかではないか。
( ・∀・)「内藤君に聞いたけどさ」
( ・∀・)「さっき軽く挨拶したらそのまま何分も突っ立って、やっと動いたと思ったらそのまま帰ったって……」
ミ,,゚Д゚彡「ええっ?」
おれはそれ以上守屋の言葉を聞かないことにし、電話を切り、スマホの電源も落とした。
おれがさっき見たものが一体何だったのかは、考えないことにしようと思った。
平日、午前、下り、各駅停車の小田急線に乗客はまばらだった。
とは言え東京を生きる人間達の表情には一片の抜かりも無く、おれもまたその通りであった。
おれは東京を生きていて、お前達も東京を生きている。
おれには東京を生きるお前達の感情が分からない。
おれには東京を生きるお前達の心の内は、とうとう最後まで分からないだろう。
ミ,,゚Д゚彡「だから、お前達はおれがこれから何をするかも分からないはずなんだ」
おれもお前も互いの心の内が分からないから、関わらずに生きていける。
だからこそ東京一億人の赤の他人同士は、日々安泰の中で営みを繰り返すことができたのだ。
おれは人々の、涙ぐましい日々の努めを否定したくはなかった。
ただ、そんなおれも、向い側に座っているお前も、時として、どこかで……。
.
85
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 00:11:17 ID:VlWjcFcc0
.
昼の狛江駅は、昼食を求めて手頃な店を探し回るサラリーマンと
中間テストが終わり帰路に就く学生とで適度に賑わいを見せており、南口もまた例外ではなかった。
さて、房野俊彦は極めてニュートラルな……いや、形容するならばニュートラルからほんの十度ほど感情を
「負」に傾けたような表情をして、改札を降り立った。
華奢な体系に似合わず大柄な肩幅のスーツを着ており、ややもすると貧層にすら思えるような見てくれだった。
狛江の街は陽光の中に和らぎ、安寧のまどろみの中での昼下がりといった趣であった。
彼はロータリーの中央部に移り、かんかんの日照りにも関わらず雨用のビニール傘を取り出すと
流れ行く人混みの中で何を決意したのだろうか、息を飲んでは、途端に大声でこう叫び始めた。
ミ,,゚Д゚彡「あいむ!」
ミ,,゚Д゚彡「あいむ! しいいいいいいいいいいんぎにんざれいん!」
その時、確かに人の群れは面白いようにぴたりと制止し、皆の目線は一様に彼の顔へ向いた。
そして彼はほんの一瞬だけ口の端でニヤリと笑った、間違いなく笑ったのである。
ミ,,゚Д゚彡「じゃすっしいいいいいいいいいいんぎにんざれいん!」
ミ,,゚Д゚彡「わなぐろおおおおお……歌詞忘れた」
.
86
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 00:11:40 ID:VlWjcFcc0
.
彼は傘を大げさに振り回し、細い手足をぴょこぴょことぎこちなく捻じ曲げては
奇妙なタップダンスを始めた。
人の群れが止まったのはほんの僅かな時間であり、やがて再びこれまでの規則通り
極めて順序良く流れ始め、最早誰も彼を気にかける者はいなくなった。
彼は確かにそこにはいるのだが、最早そこにはいないのである。
ミ,,゚Д゚彡「だあんすいんざれいん……」
ミ,,゚Д゚彡「たあらりあああああららりらあああああ……」
次第に房野の挙動は弱々しくなり、その声にも息が目立つようになったが
彼はこの不可解なリサイタルを決して止めようとはしなかった。
何の使命か、それとも彼が自発的に行っているのか定かではないが
まるで負け戦だと分かっていながらも尚も抗っているような、安い悲壮感さえ漂わせているようだった。
房野の不審な挙動が既に目新しいものでなくなってから数分経ったが
その中でただ独り、ふと足を止めた女性がいた。
彼女こそ、駅に併設された商業施設「狛江マルシェ」のマクドナルドで働くアルバイター、浪瀬凛だった。
彼女はバネ人形のような怪しいタップダンスを踊っては傘を振り回す房野の姿に
昨日、ソフトツイストを一つだけ買って帰って行ったおかしな男の面影を見たのだった。
ミセ*゚ー゚)リ「……あの」
声をかけてみたはいいが、男の心ここにあらずといった雰囲気で
彼女のことは気にも留めていないようだった。
.
87
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 00:12:21 ID:VlWjcFcc0
.
ミ,,゚Д゚彡「てーってれってれ……てーってれってれ……」
ミセ*゚ー゚)リ「……すみません、何でもないです」
そして彼女は踵を返し、足早に狛江駅へのコンコースへと去って行くが
この男には最早、何もかも関係が無いのであった。
ああ、これが、もしこれが彼の思っている高みだとしたら
東京者の仮面を脱いだ者だけが得られる境地だとするならば、得られるはずのカタルシスは、どこにある?
ミ,,゚Д゚彡「いや、もう小難しいことは抜きにしようや」
ミ,,゚Д゚彡「おれを見ろ、おれを刮目しろ、このおれもまた、東京が抱える倫理の一つなのだから……」
房野は長いこと踊り続けた。その棒切れのような身体で、何十分も踊り続けた。
歌うだけ歌い、叫ぶだけ叫んだ、そしてこの時、既に彼は独りだった。彼は無事、東京の安寧と秩序から脱したのである。
おめでとう房野俊彦、心から祝福しよう。おめでとう房野俊彦……。
やがて彼はロータリーの真ん中で仰向けに倒れ、呟くように言うのだった。
ミ,,゚Д゚彡「ダメだ、もう無理だ」
ミ,,゚Д゚彡「……おれ、やっぱりインコ飼うんだ、インコ飼うんだよ、インコ……。」
終
.
88
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 00:15:18 ID:VlWjcFcc0
おしまいです
いずれもうちょいまともに加筆修正したやつをどこかに載せるので
その際にはまたアナウンスします、お粗末様でした
89
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 00:39:22 ID:4I9IhNZU0
どこからが房野の幻覚だったのか 面白かった乙
90
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 00:56:15 ID:yXl7blKw0
振り切っていて素晴らしかった
乙
91
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 01:17:24 ID:KbsWbufE0
房野が振り切れたとしても、この後もどうせ人生続いていくんだろうなと考えると遣る瀬無いな そこが好き
乙でした!
92
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 01:44:37 ID:F2MhzVYA0
これが東京か
東京怖い
93
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 04:53:17 ID:lFxTtA9Y0
作者氏と房野君に盛大なる乙を
白昼夢的作品とても素晴らしかったです
94
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 05:01:40 ID:/CzxKAYY0
おつ
悲しくて涙が出てきた
95
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 06:51:10 ID:Ka6/T8b60
小さな狂気が徐々に積み重なってついに弾けるカタルシス……と呼ぶには余りに虚しい…
独特の酩酊感。無二のセンス。面白かった!
96
:
名無しさん
:2019/10/23(水) 16:29:40 ID:96rp8tdE0
おつ
フサが徐々に崩れるのが見たかったぜ
97
:
名無しさん
:2019/10/26(土) 21:42:06 ID:3FT1WL8gO
なんか上手く言えないけどすげぇもんを見ちまった気分だよ
98
:
名無しさん
:2019/12/18(水) 14:07:13 ID:Uro65GKw0
どうしようもない話を文学的なエモさで包み隠さずぶちまける感じ好き
乙
99
:
名無しさん
:2020/05/08(金) 18:52:33 ID:Qbnzet5c0
ナイス
100
:
名無しさん
:2021/01/16(土) 21:39:17 ID:xMGGrV0E0
>>88
>いずれもうちょいまともに加筆修正したやつをどこかに載せるので
>その際にはまたアナウンスします
待ってるけどまだか?
101
:
名無しさん
:2021/01/20(水) 20:56:18 ID:rrpvwxRM0
まだです!!!!
まっててね!!!!!!!!!!!!!!!!
102
:
名無しさん
:2021/01/21(木) 00:36:35 ID:cisvVrE60
いつまでもまってるからすぐお願いします
103
:
◆.LuQ4TdvBw
:2021/01/25(月) 11:10:11 ID:7QALSi960
こんな話かけるの裏山!くやしいから絵投下してやる。
あえて画質落としたバージョンが上で、ちょっと画質マシなのが下なんだからね。
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2642.jpg
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_2643.jpg
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