したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

('A`)ドブロク!のようです

102名無しさん:2019/06/22(土) 06:12:49 ID:RXnJAsYI0

時間は少し遡る。
ギコさん達と昼食を取っていた俺は、予鈴の音に現実に引き戻された。
ギコさんは吸っていた煙草を缶コーヒーの空き缶の中に押し込んで、立ち上がると大きく伸びをした。

(,,゚Д゚)「んぁー、次の授業なんだっけか」

(*゚ー゚)「すうがくだぞ」

(,,゚Д゚)「じゃ、ひと眠りすっか」

('A`)「いや、ち、ちゃんと受けた方がいいですよ」

(,,゚Д゚)「無茶言うな!!!」

(;'A`)「ひっ、お、怒らないでくださいよ……」

(,,゚Д゚)「なんだあれ!魔術か!訳分からん記号並べやがって!ラリホーか!」

103名無しさん:2019/06/22(土) 06:13:48 ID:RXnJAsYI0

(*゚ー゚)「おばかちゃんだからなーギコは」

(,,゚Д゚)「おう!」

(;'A`)「そんな自信満々に言わなくても……」

(*゚ー゚)「いふどーどー」

(,,゚Д゚)「まぁ、お前もそろそろ降りねぇとまずいぞ」

(;'A`)「あっ!そ、そうだ!失礼します!」

お弁当の包みを急いで巻き直し、鞄に突っ込むと俺は急いで立ち上がった。
二人に一礼し踵を返すと、階段へ向かおうとした。
だが、「おい」と後ろからポケットに手を突っ込んで歩いてくるギコさんに呼び止められる。

(,,゚Д゚)「俺らも下行くんだから一緒に行きゃいいじゃん」

(*゚ー゚)「あわてんぼうさんめー」

104名無しさん:2019/06/22(土) 06:14:19 ID:RXnJAsYI0

(;'A`)「あ、そ、そうですね。ハハ」

どうにも、こういう時にどうしたらいいのか分からない。
慣れない状況で、おどおどとギコさんを待って、階下へと降りていった。

(,,゚Д゚)「んじゃ、またな」

(*゚ー゚)「さらばじゃー」

('A`)「あ、はい。ありがとうございました」

階段を下りていく二人に頭を下げる。
ギコさんは振り返らずに、頭の高さほどに手を上げてひらひらと返した。

(  3 )「ッチ」

どこかから舌打ちが聞こえた気がした。

105名無しさん:2019/06/22(土) 06:14:49 ID:RXnJAsYI0

教室に戻り、次の授業の準備をする。
昨日は、帰ってから自習する気にはどうしてもなれなかった。
教科書を開くと、俺は目を見開いた。
写真や枠外の部分が数か所丸く焼け焦げていた。
昨日、俺がパンを買いに行っている間に田中達が煙草を押し付けていたのに漸く気が付いた。
ふつふつと、怒りが湧いてくる。
かと言って、どうする事もできない自分が腹立たしい。

(,,゚Д゚)「自分に言い訳して、逃げ道探してるうちは、戦ってるって言わねぇよ」

('A`)(ッ!!)

ギコさんの言葉がフラッシュバックする。
握ったシャープペンシルが震えだす。
恐い。と、同時になんとか奮い立とうとする自分が、確かにいた。
弱い自分を握り潰すつもりで、強く、強く握り拳を作った。

106名無しさん:2019/06/22(土) 06:15:21 ID:RXnJAsYI0

田中達に、呼び止められたのは放課後。帰りのホームルーム直後のことだった。
露骨に増井くんが田中達に向かって舌打ちをするのが聞こえたのか、教室では事は起こらない。
君の悪いくらいフレンドリーに、俺に一緒に帰宅するよう持ち掛けてきた。
誘うような体裁を取り繕ってはいるが、これは半ば強制だ。
俺は、この場だったら「嫌だ」と言うこともできただろう。
でも何かが、俺の中で小さな火を燻ぶらせ続けていた。
逃げたくない。
その一心で、俺は田中達に付いていった。
校舎を出て、素直に校門に向かうはずもなく、三人は俺を取り囲みながら、普通科練の校舎裏で足を止めた。
昨日の場所だ。

(・∀ ・)「お前なにちょずいてるわけ?」

斎藤が俺に向き直り、睨みつけてくる。
何が気に入らないのかは分かる。理解はできそうにもないが。

107名無しさん:2019/06/22(土) 06:15:56 ID:RXnJAsYI0

( ^Д^)「暴君味方につけてイイ気になってんじゃねーぞ!」

予想した通りの答えを新指が怒鳴る。
暴君とは、恐らくギコさんのことであろう。
俺はギコさんの権威を振りかざした覚えはないが、一緒にいること自体がこの連中は気に食わないのだ。

(・∀ ・)「どうやって取り入ったか知らねーけどよ!あの人はお前が付いて回っていい相手じゃねぇんだよ!」

( ^Д^)「そこらへん分かってんのか?あ?」

二人が俺を見下ろしながら、威圧してくる。
田中がゆっくりと口を開く。

( ・3・)「あのさぁ、鬱田くん。マジ考えなおした方がいいよ?相手四天王の一人なんだよ?理解してる?」

四天王。また、聞き覚えのない言葉を発する。
文脈から察するにギコさんのことなのは明白だが、やはり有名人のようだ。
小馬鹿にするような、子供に言い聞かせるような口調で、田中は続ける。

108名無しさん:2019/06/22(土) 06:16:29 ID:RXnJAsYI0

( ・3・)「君とは住んでる世界が違う人なわけ。さっさとさ、手ぇ切りなよ?ね?」

忠告を装った命令。
こいつは、いつだってそうだった。
強い言葉を遣うことはない。やんわりと、ただ否定を拒否する言い方。
いつの間にか壁際に追い込まれた俺は、睨みを利かせる三人に取り囲まれ、震えていた。
勇気を出そうと思った。事実、逃げるのを拒否し、ここまで付いてきた。
しかし、恐いものは恐い。
足が自分の意思に反してガクガクと震え始める。腿の筋肉が痙攣し、痺れてくる。

( ・3・)「つーかさ、なんで君、した高来たわけ?」

( ^Д^)「たしかにwwwwwwずっと引き籠ってりゃ良かったのにwwwwwww」

(・∀ ・)「マッジ馬鹿wwwwwつーかアレじゃね?親無しなんだから働けよカスwwwww」

109名無しさん:2019/06/22(土) 06:17:05 ID:RXnJAsYI0

親無し。その言葉が俺の肩をビクリ。と震わせた。
恐怖で震えているのとは、別の震え。
俺の中で、何かが"切れた"。

( A )「……カショ」

俺の口は、勝手に動き始めていた。
様々な感情が、俺の奥から湧き上がってくる。

( ^Д^)「あ?ボソボソ喋ってンじゃねぇぞハゲ」

(#'A`)「教科書!煙草、お、押し付けたろ!か、返せ!」

(#・∀ ・)「あぁッ!?」

(#^Д^)「やっぱ舐めてやがんなお前……。マジでシめんぞ」

(#'A`)「お、お前ら!どうせ持ってても開かないだろ!自分がやったんだから!責任とれよ!」

(#・3・)「オラァ!!」

110名無しさん:2019/06/22(土) 06:18:15 ID:RXnJAsYI0

俺が言い終わるか終わらないか。田中の拳が俺の頬を捕えた。
それでも、俺は倒れなかった。何とか足を踏ん張り、耐えた。
田中に向き直り、三人を睨みつける。
じわじわと、思い出したかのように頬が熱を帯び、痛みを脳に伝えてくる。
だけど、痛くなかった。痛いけど、痛くない。
中学のころ何も抵抗せず、無様に殴られ、蹴られ、甚振られていた時感じた、あの心の痛みはない。
俺が睨み返したことに驚き、斎藤が一瞬怯む。

(#・∀ ・)「こいつ……ふざけやがって」

(#・3・)「もしかして、ここでやられても猫村先輩が仇討ってくれるとでも思ってる?」

(#^Д^)「その前にお前病院送りにして二度と学校来られなくしてやるよ!!」

(#)A`)「ぎ、ギコさんは……関係ない!仇討ちも期待してない!お、俺が!俺が決めたんだ!戦うって!」

(#^Д^)「わけ分かんねぇこと言ってンじゃねぇぞコラァ!!!」

111名無しさん:2019/06/22(土) 06:18:47 ID:RXnJAsYI0

新指の蹴りが俺の腹に突き刺さる。
身体が巧く動かせない。それも当然だ。喧嘩なんて、生まれて初めてなのだから。
膝をつく。それでも、倒れ込むことを俺は俺に許さなかった。

(#)A`)「うわぁああああああああッ!!!」

必死の思いで、田中に向かって体当たりで突撃する。

(#・3・)「あぁ!?」

俺の反撃なんて予想していなかったのだろう。田中はたたらを踏む。
が、それも数歩ほど後退させただけで、易々と受け止められてしまった。

(#・3・)「調子乗ってンじゃねぇぞ!!オラァ!!」

112名無しさん:2019/06/22(土) 06:19:29 ID:RXnJAsYI0

胸に膝蹴りを受け、肋骨がミシミシと悲鳴を上げた。
後ろから斎藤や新指が俺を引き離しにかかる。
なんとか離さないように、腕に力を込める。

(#・∀ ・)「このッ!離れろオラ!!」

斎藤は俺の横腹を何度も殴りつける。
寄ってたかって、蹴られ、殴られ続けた。
殴られたところはズキズキと痛み続ける。
蹴られた部分はギシギシと悲鳴を上げ始める。
それでも離さなかった。離すもんか。

113名無しさん:2019/06/22(土) 06:20:07 ID:RXnJAsYI0

(#^Д^)「しっつけぇんだよてめぇ!!!」

(#)A`)「ガッ!?」

新指が俺の顔を横合いに蹴り抜いた。
衝撃に巻きつかせた腕が田中の身体からずれる。

(#・3・)「ウラァ!!!」

そのまま田中は身体を回転させ俺を引き倒した。

(#・∀ ・)「あんま舐めた真似してんじゃねぇぞ!!オラ!死ね!」

(#^Д^)「このキモモヤシが!うぜぇんだよ!くたばれコラ!!」

倒れた俺を斎藤と新指が踏みつける。
何度も、何度も。
俺は頭を両腕で守りながら、必死に耐えた。

114名無しさん:2019/06/22(土) 06:20:31 ID:RXnJAsYI0

(#・∀ ・)「はぁ……はぁ……」

(#^Д^)「いい加減……懲りたろ…」

息を荒げに二人は俺を見下ろす。
俺はもう、ボロボロだった。
身体に痛くない部分はない。
そう、身体だけだ。心は、これっぽっちも痛くない。
俺は知っている。自分から逃げて、負けを認めることがどんなに哀れか。
どんなに情けないか。どんなに悔しいか。
真綿で首を絞めるように、ゆっくりと死んでいく心。
いつの間にか、その感情からも逃げていた。
もう、逃げない。そう決めた。そう約束した。
まだまだ、俺の"意地"は死んじゃいない。

115名無しさん:2019/06/22(土) 06:20:58 ID:RXnJAsYI0

口の中に血の味が広がる。
鉄臭さと塩辛さが否が応にも意識を覚醒させる。
身体中に走る痛みに身悶えて、地べたを這いずる。
それでも、俺は立ち上がろうと、腕を支えに両の足に力を込めた。

(#)A`)「グ……ウウ……」

骨が軋む。腿から何かがプチプチと切れる音が聞こえる。
呼吸は荒く、息を吸う毎に肺は焼けるようだ。
そんなことお構いなしに、踏ん張った。
しっかりと足の裏で地面を感じ、身体を起こす。
視界に写る世界は既に歪みながら回転を始めている。
薄ぼんやりと、昔夏休みに観たウルトラマンのオープニングを思い出した。
場違いな思考に、笑いが込み上げてくる。
なんだ、まだやれそうじゃないか。口の端が自然と持ち上がる。
俺は、意外としぶといようだ。

116名無しさん:2019/06/22(土) 06:21:28 ID:RXnJAsYI0

(;・∀ ・)「こ、こいつ……」

(;^Д^)「マッジ……しつけぇ……」

俺を蹴っていた二人はたじろぐ。
それもそうだ。今まで、数発小付けばペコペコと頭を下げていた奴が、思わぬ執念を見せているのだから。

(  3 )「はぁ……うっざ」

田中は俺に背中を向け、歩き始める。

(#)A`)(や……、やった!あ、諦めた……?)

廃材が溜まった場所まで行き、田中は屈むと、何か物色し始める。

( ・3・)「こんなんでいっか」

手には、角材。

( ・3・)「お前さー、マジうぜぇンだよ。いっぺん死ねや」

117名無しさん:2019/06/22(土) 06:22:15 ID:RXnJAsYI0

田中は二度三度、手に持った角材を振るう。
ヒュンヒュンと風切り音を立てて、俺を威圧する。

(;^Д^)「お、おい。田中。それはやべーんじゃねぇか?」

(;・∀ ・)「ま、マジで死んじまったらよ」

( ・3・)「頭やんなきゃ死にやしねーって。何ビビってんだよ」

(;・∀ ・)「び、ビビってねぇよ!」

( ・3・)「んじゃーお前らもそっから何か取って来いよ。このガキ殺すから」

(;^Д^)「お、おう」

斎藤と新指も廃材の山から鉄パイプや壊れたパイプ椅子を拾い上げる。
そして、俺に向き直った。

( ・3・)「もう今更謝っても遅ぇーから」

(・∀ ・)「へ、へへ……陰キャがちょずくとどうなっか教えてやんよ」

( ^Д^)「骨の二三本は覚悟しろよwwwwww」

118名無しさん:2019/06/22(土) 06:22:39 ID:RXnJAsYI0

(#)A`)(……)

(#)A-)「……スゥ」

(#)A゚)「やれるもんならやってみろやぁあああああああああ!!!!」

叫んだ。
身体を曲げて、腹の底から。
未だに、こいつらが恐いことは変わらない。
でもそれ以上に、俺は気分が良かった。
どんなにボロボロにされようとも、虚勢でも、ハリボテだったとしても。
この一瞬が俺の全てのように感じられた。
何より、この熱を、この思いを、この意地を失うことの方が恐ろしかった。
やっと、自分のことが好きになれたような気がしたのだ。
例え、病院送りにされようが、俺は負けない。負けを認めない。
これが戦うということだと、やっと理解できた。

119名無しさん:2019/06/22(土) 06:23:38 ID:RXnJAsYI0

(,, Д )「いーい啖呵じゃねぇか。ドクオ」

その声に驚いて、顔を上げる。
何か、鈍い音が響いた。
そう思った瞬間、斎藤が宙を舞っていた。

(; ∀ )「あぁぁあああぁぁあッ!!??」

たった数舜の間、それがスローモーションのように見える。
その後ろで、あの人が立っていた。
ずしゃり、と音を立て斎藤が地上に帰ってくる。

(#)A`)「ぎ……」

目頭が熱くなる。
いくら殴られても泣くもんかと思っていた。それが俺の戦いだった。
涙腺が決壊したかのように、目に涙が溜まる。

(#)A;)「ギコさん!!!!!」

(,,゚Д゚)「おう」

俺に戦うということを教えてくれた男が、そこに居た。

120名無しさん:2019/06/22(土) 06:24:26 ID:RXnJAsYI0
前半はここまで。
後半とエピローグは夜に更新します。

121名無しさん:2019/06/22(土) 06:34:48 ID:8.NSSauQ0
乙!

122名無しさん:2019/06/22(土) 07:39:40 ID:cV1pFb7Q0
乙!
ドクオカッコいいじゃないか

123名無しさん:2019/06/22(土) 10:35:28 ID:JX7GPET20

こういう這い上がっていく話好きだわ

124名無しさん:2019/06/22(土) 11:33:23 ID:PO9yGl2s0

男見せるじゃんドクオ

125名無しさん:2019/06/22(土) 11:54:40 ID:E/jT56L20
おつ
すき

126名無しさん:2019/06/22(土) 12:38:31 ID:RL9xez5QO
いいなぁ熱いなぁ

127名無しさん:2019/06/22(土) 13:14:45 ID:1U0jFbJs0


128名無しさん:2019/06/22(土) 13:40:51 ID:oGzastMo0
かっこよす

129名無しさん:2019/06/22(土) 19:28:13 ID:XOCxzIx60
こんなんもうかっこいいわ続き楽しみ

130名無しさん:2019/06/22(土) 20:27:48 ID:RXnJAsYI0

(,,゚Д゚)「意地、見せたな。ドクオ」

(*゚ー゚)「すげー!かおがリアスしきかいがんみたいだ!」

(,;゚Д゚)「え!?どういうこと?いや説明しなくていいや余計な傷増やしそう」

どうやって斎藤を投げ飛ばしたのか、相変わらずギコさんの腕にはしぃさんが抱き着いている。
自由な方の手で拳を握れば、指の間接をパキパキと鳴らした。

(,,゚Д゚)「しっかし、三対一はともかく、さらに道具使うかね?情けねぇな、どうも」

(;・3・)「……」

(;^Д^)「や、やべぇよ。暴君だ」

田中と新指はたじろぐ。
斎藤は、白目を剥いて気絶しているようだった。

131名無しさん:2019/06/22(土) 20:28:16 ID:RXnJAsYI0

(,,゚Д゚)「しぃ、30年前からの今日の日付だ」

そう言うと、ギコさんはしぃさんを腕からそっと離した。

(* ー )「19889ねんの4がつ9かはにちようび……1990ねんの4がつ9かはげつようび……」

ぶつぶつと、しぃ先輩は何事か呟いている。

(,,゚Д゚)「さって、時間もねぇからとっととやるか」

132名無しさん:2019/06/22(土) 20:28:46 ID:RXnJAsYI0

ギコさんは肩を回しながらこちらに向き直る。
振り返った表情は、まるで肉食獣のそれだった。
片眉を吊り上げ、犬歯を剥き出しに獰猛に笑う。
強いのは、知っていた。
三人の媚び諂う態度、男一人を軽々と投げる膂力。『四天王』や『暴君』といった渾名。
きっと強くて有名なのだろうと思っていた。
俺は、まるっきり分かっていなかった。
この猫村ギコという男のことを。
田中達から与えられる恐怖とは別種の恐怖。
生物としての生存本能がアラートを上げる感覚。
それほどまでの別格の"強さ"。それを肌で感じ取った。
感じ取ってしまった。
首輪の外れた虎の檻に、身一つで放り込まれたような気がした。
要するに、俺は心底『ビビった』のだ。

133名無しさん:2019/06/22(土) 20:29:16 ID:RXnJAsYI0

(;・3・)「っ!!」

(;^Д^)「やべぇって!!勝てるわけねー!」

俺と同じ感覚を味わったのか、新指は手に持ったパイプ椅子を投げ捨てて、踵を返すと一目散に逃げ出した。

(,,゚Д゚)「いやいや、ダチ置いて逃げちゃあダメでしょ?」

(;^Д^)「ひぃっ!?」

(#)A`)「っ!?」

影が走る。
逃げ出したと思った新指の目の前に、ギコさんが一瞬で回り込んだ。
爆発的なスタートダッシュに、俺の目はほとんど追いついていなかった。

134名無しさん:2019/06/22(土) 20:29:37 ID:RXnJAsYI0

(,#゚Д゚)「ゴラァ!!!」

新指の横っ面にギコさんの拳がめり込んだ。

(#) Д )「ギベッ!!」

(#)A゚)「!!??」

ギコさんが拳を振り抜くと、新指はそのまま錐揉み回転しながら"吹き飛んだ"。
俺は、やっと今まで勘違いしていたことを知った。
この人は"投げ飛ばし"ていたのではない。文字通り、"殴り飛ばし"ていたのだ。
ぶっ飛ばす。と比喩として使うこともあるだろうが、それを実践できる人がいるなんて誰が想像できる?
新指は着地した後も二三回転し、うつ伏せに倒れ沈黙した。

135名無しさん:2019/06/22(土) 20:32:48 ID:RXnJAsYI0

(;・3・)「ば、化け物」

田中の発言に、俺も心の中で同意してしまう。
この人は、化け物だ。
田中はじりじりと後退る。恐らく、どうやってこの場から逃げ遂せるか、許して貰えるかを必死で考えているのだろう。
俺にも、その経験があるので、想像するのは容易だった。

(* ー )「2010ねんの4がつ9かはきんようび……2011ねんの4がつ9かはどようび……」

(;・3・)「!!」

田中の視線がしぃさんに向く。

(,,゚Д゚)「ッ!」

(#)A`)「!!」

136名無しさん:2019/06/22(土) 20:33:29 ID:RXnJAsYI0

あいつのこれからやろうとする事に、俺はすぐに気が付いた。
恐らく、ギコさんもだろう。
ギコさんは急いで走り出した。
だが、新指の前に回り込んだギコさんの距離は、田中としぃさんとの距離に比べ絶望的に遠いように見えた。

(;・3・)「う、動くな!」

田中はしぃさんの首に手を回し、持った角材を振り上げる。
途端、

(* ー )「2013ねんの4がt、あ」

(;・3・)「?」

(* ー )「あああああああああああああああああああああああああ!!」

137名無しさん:2019/06/22(土) 20:33:51 ID:RXnJAsYI0

耳を劈くような悲鳴を、しぃさんが上げた。

(;・3・)「う、うるせぇ!黙れ!殺すぞ!」

(* ー )「ああああああああああああああ!!ギコ!!!ギコおおお!!!!」

(,;゚Д゚)「ッチ」

ギコさんの足が止まる。

(,;゚Д゚)「しぃ!大丈夫だ!俺はここだ!落ち着け!!」

(* ー )「うー!うー!!ギコ!!ギコ!!!やだ!!やだああああああ!!!」

しぃさんは尋常じゃない様子で田中の腕の中で暴れ回る。
田中を恐れているのではない。それはすぐに分かった。田中が恐ろしいのであれば、あんなに藻掻くことはない。
あれは、人質にされたことでも、この状況を恐れているのでもない。
しぃさんはパニックを起こし頭を掻き毟る。

138名無しさん:2019/06/22(土) 20:34:18 ID:RXnJAsYI0

(;・3・)「くっそ、なんだってんだ!」

田中も異常を察したのか、強くしぃさんを押さえつけようとする。

(#)A`)「うおおおおおおッ!!」

どうにかしなきゃ。その思いで一杯だった。
身体中の痛みを忘れ、走り出す。田中はしぃさんとギコさんに夢中で気付いていない。
俺は、田中の角材を持つ腕に飛びついた。

(;・3・)「あっ!?て、てめぇ!!」

(#)A`)「しぃさんを離せッ!!この野郎!!」

田中は俺を振り払おうとする。
だが、絶対に離すもんかと、俺は田中の腕にしがみつく。
そして

139名無しさん:2019/06/22(土) 20:34:54 ID:RXnJAsYI0

(#)皿`)「んがぁ!!!」

(;・3・)「いってぇ!?」

思いっきり、手首に噛み付いた。
痛みに驚いて、田中は持っていた角材を地面に落とす。

(;・3・)「てめぇ、ふざけやが……って……」

俺を睨みつけた田中は、ゆっくりと正面に顔を戻す。

(,, Д )「おいコラァ……。よくもやってくれたなオイ」

絶望が、目の前に立っていた。

140名無しさん:2019/06/22(土) 20:35:25 ID:RXnJAsYI0

ギコさんは目にも止まらぬ速度でしぃさんの首に回した腕を掴むと、力尽くで引っぺがした。
田中も抵抗しているようだが、まるで相手になっていない。

(,, Д )「ありがとうよドクオ。しぃのこと頼むわ」

(;・3・)「ああああああ!!痛い!!折れる!!マジ折れるって!!」

ギリギリと、こちらまで聞こえる力で腕を握る。
俺はしぃさんの肩に手を添えて、なるべく触れないようにその場から離れる。
しぃさんはまだ、自分の頭を掻き毟っている。

(,# Д゚)「半殺しで済ませようかと思ってたのによォ……」

(,# Д゚)「てめぇは全殺しだ馬鹿野郎」

(;・3・)「ひっ、ひぃいいいい!?」

(,#゚Д゚)「飛べゴラァ!!!」

141名無しさん:2019/06/22(土) 20:35:49 ID:RXnJAsYI0

田中の腕を打ち払うと、ギコさんは身を屈める。
そこから、田中の顎へ向けて拳を叩き込んだ。

(  3 )「ぶべらっ!!」

田中は、文字通り"飛んだ"。
そのまま空中で縦に半回転すると、顔から地面に叩きつけられた。

(,# Д )「フーッ……フーッ」

ギコさんはそれを見下ろし、怒りを鎮めるように肩で息をする。
数秒の後、こちらに歩いてくると、へたり込むしぃさんの頭を掻き抱いた。

142名無しさん:2019/06/22(土) 20:36:25 ID:RXnJAsYI0

(,,゚Д゚)「……しぃ、大丈夫だ。俺はここだぞ」

(*゚ー゚)「うー……うー……ギコ?ギコ?」

(,,゚Д゚)「おう。ちゃんといるぞ」

(*゚ー゚)「ギコ……ギコ……」

しぃさんはいつものようにギコさんの腕に縋り付く。
だが、それはいつもよりキツく強く抱きしめているようだった。

(,,゚Д゚)「ありがとな。ドクオ。助かった」

(#)A`)「い、いや!助けてもらったのは、俺のほうで……」

(,,^Д^)「じゃあ、貸し借りなしだな?」

143名無しさん:2019/06/22(土) 20:37:00 ID:RXnJAsYI0

ギコさんは笑った。
先ほどの獰猛な笑みではない。屈託のない優しい笑み。
まるで別人だ。

(#)A`)「は、はい!いや、でも、昨日から何度も助けて貰ってるし、やっぱ俺の方が」

(,,゚Д゚)「グダグダ細けぇ奴だなぁ。じゃあ、アレだ。今度飯奢れ飯。お前ん家で」

(#)A`)「はい!え?俺の家?」

(,,゚Д゚)「お前の世話になってるおばさん料理人なんだろ?その飯食わせろ」

(#)A`)「そ、それはいいですけど、そんなことで」

(,,゚Д゚)「いーんだよ。ほれ、病院行くぞ。ひでぇ面してんぞお前」

144名無しさん:2019/06/22(土) 20:37:30 ID:RXnJAsYI0

ギコさんはしぃさんを支えながら立ち上がる。

(,,゚Д゚)「っと、その前に……」

ギコさんは倒れている田中達に向かい、近くまでくると屈んで何かしようとしている。
財布でも、抜くのだろうか。

(,,゚Д゚)「オラ、ドクオ!お前も手伝え!」

(#)A`)「え、で、でも流石に泥棒は……」

(,,゚Д゚)「あ?ちげーよ。こいつらケツ丸出しで校舎に吊るすぞ。二度と舐めた真似させねぇ」

(#)A`)「えっ」

(*゚ー゚)「こうかいしょけいだー」

しぃさんはいつのまにか復活していた。
それどころか嬉々として片手で田中のベルトを外そうとしている。

145名無しさん:2019/06/22(土) 20:37:58 ID:RXnJAsYI0

(#)A゚)「ええええええええええ!?」

とんでもない高校に来てしまった。
それでも、俺はここで生きていくと決めた。
意地を通せば、生きていける。
身体中ボロボロで、歩く度に間接が悲鳴を上げる。
だけど、俺は今までに感じたこともないほど、晴れやかな気分だった。
いじめていた奴らが報いを受けたから?違う。いや、それも無いと言えば嘘になるが。
それ以上に、俺は初めて意地を通し切った。それが誇らしかった。
俺の高校生活は、今日、今から始まる。

146名無しさん:2019/06/22(土) 20:38:46 ID:RXnJAsYI0



死ぬときがこの毎日ときっとおさらばって言うことなんだから、
それまで出来うる限り、そう出来うる限り己自身の道を歩むべく、
反抗を続けてみようじゃないか、出来うる限り...。胸を張ってさ そう

                        エレファントカシマシ『ガストロンジャー』
.

147名無しさん:2019/06/22(土) 20:40:08 ID:RXnJAsYI0

Epilogue

工業科練の教室の一室。
大柄の男の周りに、数人の生徒が集まっている。
大柄な男、いや巨漢と呼んだ方がしっくりくるような立派な体躯の男には、両目に派手な傷痕があった。

( ФωФ)「そもさん」

( ´ー`)「せっぱ」

巨漢、杉浦ロマネスクが口を開くと、対面の男、志良ネーヨがそれに答える。

( ФωФ)「今年の1年の塩梅は?」

( ´ー`)「まだ頭決めの段階みたいだな。あと数週間もすりゃ決まるだろうよ」

148名無しさん:2019/06/22(土) 20:40:43 ID:RXnJAsYI0

( ФωФ)「そうか。他の四天王の様子は?」

( ´ー`)「弟の話じゃ、白狐と女瞳鎖に新しくメンバーが入ったらしい。
      『暴君』は、相変わらずの風来坊振りだってよ」

( ФωФ)「ふむ。まぁ、概ね予想通りか」

( ´ー`)「1年がどれだけウチに付くかだな」

( +ω+)「なるようになるであろうよ」

(;´ー`)「あのなぁ、頭のお前がもう少し緊張感持ってくれねぇとよ」

( ФωФ)「どうした?ビコーズ」

( ∵)「……」

149名無しさん:2019/06/22(土) 20:41:18 ID:RXnJAsYI0

ロマネスクがネーヨの後ろを見据える。
気が付けば、細見の男がネーヨの後ろに立っていた。
ネーヨは振り返ればビクリと肩を震わせる。

(;´ー`)「うわびっくりしたぁ!お前気配殺して後ろに立つのやめろよ!!」

その横を細見の男、灰野ビコーズは通り過ぎ、何やらロマネスクに耳打ちする。

( ´ー`)「いや普通に話せ普通に。三年間クラス一緒でほとんどお前の声聞いたことねーよ?」

( ФωФ)「……そうか」

( ´ー`)「どうした?」

150名無しさん:2019/06/22(土) 20:41:45 ID:RXnJAsYI0

( ФωФ)「ギコ……『暴君』が1年を一人拾ったらしい」

(;´ー`)「はぁ!?あいつも派閥作る気かよ!?どうすんだ!ウチと構えるつもりじゃねぇだろうな!?」

( ФωФ)「いや、それはなかろーよ。あの男は基本的には一匹狼だ。
     それに、構えるつもりならまず俺の首を取りにくるだろう」

(;´ー`)「それもそれでおっそろしい話だけどな」

( ФωФ)「しかし、まさかあいつがな。拾った1年。どんな男か些か興味が湧いた」

『魔王』は、低く、くつくつと笑い出した。

151名無しさん:2019/06/22(土) 20:42:42 ID:RXnJAsYI0

次回予告!!

こうして始まった土地の権利書を掛けた俺と代打ちロマネスクとの麻雀サシ勝負!
この勝負に勝たないと、『伊藤食堂』の未来はない!
しかし、開始早々に奴は仕掛けてきやがった!

( ФωФ)「ロン、親ッパネ。6000オールである」

(;'A`)(俺のツモ切りで、しかも地獄単騎!?)

間違いない。こいつ、イカサマしてやがる!

(;'A`)(ガン牌……ッ!)

だが、こいつは、この男は。

(;'A`)(盲目で……どうやって!?)

次回!('A`)雀鬼闘牌伝説ドクオ
第二話『盲目の死神』

ご期待ください!

152名無しさん:2019/06/22(土) 20:43:02 ID:RXnJAsYI0
.
     *      *
  *     +  うそです
     n ∧_∧ n
 + (ヨ(* ´∀`)E)
      Y     Y    *
.

153名無しさん:2019/06/22(土) 20:43:33 ID:RXnJAsYI0





次回「CHANGE!!」




.

154名無しさん:2019/06/22(土) 20:44:26 ID:RXnJAsYI0
やっとこさ1話終了です。遅筆でごめんね。

155名無しさん:2019/06/22(土) 20:59:04 ID:08IedWJM0

普通に麻雀バトルするのかと思ってワロタ

156名無しさん:2019/06/22(土) 21:08:35 ID:RXnJAsYI0
>>151

( ФωФ)「ロン、親ッパネ。6000オールである」

( ФωФ)「ロン、親ッパネ。18000である」

なんでロンしてんのにオールなの?バカなの?
いや、与太話だからいいんだけどさ

157名無しさん:2019/06/22(土) 22:28:38 ID:tjCvzq5I0
乙!!
公開処刑が容赦なくて笑う

158名無しさん:2019/06/22(土) 23:24:36 ID:dYYcJVW.0
乙、ビコーズは何なんだよホント

159名無しさん:2019/06/23(日) 05:54:46 ID:I13RUTj.0
おつです

160名無しさん:2019/06/23(日) 14:27:20 ID:0aCLUy3E0
ズボン下ろすのにケツの方見せて吊るの優しさ滲み出ててすき
面白くなってきたやん続き楽しみにしてる

161名無しさん:2019/06/24(月) 04:46:00 ID:Yl4o0bsQ0
>>131
しいは未来人か

162名無しさん:2019/06/24(月) 07:20:21 ID:CW7slkE60
いよいよ他四天王の登場か
しぃ過去に何があったんだろうな…

163名無しさん:2019/06/24(月) 21:42:04 ID:sdI1I.BI0
好き!!!!!!!

164名無しさん:2019/07/31(水) 17:51:02 ID:5S/YMXpM0
いいねなりそうです今読んだけど古き良きヤンキー漫画みたいで面白い
続き期待して待ってます

165名無しさん:2019/08/03(土) 02:26:23 ID:fLXKwjhg0
こんばんは。
作者様、お元気ですか?
無理はなさらないで下さいね。

166名無しさん:2019/12/31(火) 00:15:08 ID:qpzaD/Nw0

俺がしたらば総合高等学校に入学し、三週間の月日が流れた。
ギコさんとしぃさんと出会ってから、俺の高校生活は一変した。

あの日、病院から顔を腫らし返って来た俺をペニサスさんは酷く驚いていた。
『誰にやられた』とか、『後輩に連絡する』やら喚き散らしていたが、なんとか落ち着かせ経緯を説明した。

慌てふためくペニサスさんを見て、心配を掛けたことに心苦しくなったが、自分のしたことについて、後悔はなかった。
それでころか、今までに感じたこともない程、晴れやかな気分だった。

俺の目をまじまじと見つめていたペニサスさんは、優しく一言だけ「そっか」と言った。

167名無しさん:2019/12/31(火) 00:15:54 ID:qpzaD/Nw0

次の日、俺は高熱を出した。
人は殴られ過ぎると熱が出るらしい。

病院では、骨への異常は見当たらなかった。
帰り際、ギコさんに聞いた話では、俺を診察してくれたしたらば病院は、した高の校長と懇意らしく、
喧嘩して怪我をした生徒を何も言わず診察してくれるらしい。

打ち身や腫れ用に貰った湿布を張り付け、俺は早くも4日目にして学校を休むこととなった。
口の中は切り傷だらけで、ペニサスさんが作ってくれた卵とじのおかゆが酷く染みたが、
いつもよりも口に運ぶご飯が美味しく感じられた。

168名無しさん:2019/12/31(火) 00:16:29 ID:qpzaD/Nw0

熱の引いた翌日、いつもより軽い足取りで学校に向かった俺は、クラスメート達に取り囲まれた。
何が何だかわからず、しどろもどろになる俺に、初日に俺の事を助けてくれた増井くんが話しかけて来た。

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「お前、意外と根性あンのな」

(;'A`)「えっ」

ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以「この前、悪かったな」

それだけ言うと、増井くんは自分の席に帰って行った。
他のクラスメートは口々に、『暴君』がどうだとか言っていたが、未体験の連続に俺の脳はパニックに陥っていたので記憶は定かではない。

169名無しさん:2019/12/31(火) 00:17:10 ID:qpzaD/Nw0

それ以降、何かと俺に話しかけてくれるクラスメートは多くなった。
そこで俺は初めて、このした高には『四天王』と呼ばれる人達がいることを知った。
『魔王』、『女帝』、『総統』、そして『暴君』。
この四派閥が、絶妙なバランスでした高のトップに君臨しているらしい。
まるで、漫画の世界だ。非日常に足を踏み入れたような感覚に、俺は興奮を隠せなかった。

その『四天王』の一角である『暴君』は今、

(,,-Д-)「うーーーーーーーん」

俺の目の前で唸っていた。

170名無しさん:2019/12/31(火) 00:17:36 ID:qpzaD/Nw0





Ep.2「CHANGE!!」




.

171名無しさん:2019/12/31(火) 00:18:15 ID:qpzaD/Nw0

1.

昼休み、いつものように屋上で昼食を取っていた。
あの事件以来、田中たちを学校で見ることはない。

それも、当然だろう。
寄りにも寄って、校門からすぐ見上げれる普通科練と工業科練の間に罹る二階の渡り廊下から、下半身を丸出しにして吊るされたのだから。
最後の情けか、トドメか、股間に『お粗末』の張り紙(ギコさんはお粗末の漢字が分からないらしく俺が書かされた)をされて、だ。

吊るされた紐で首を括り直すような仕打ちだ。およそ、学校に来る気にはならないだろう。
それに、田中に至っては、怪我も酷いようだった。聞いた噂では、顎が砕けていたらしい。

梅干し入りのおにぎりを食べて顔を渋くするしぃさんを横目に、先程からギコさんは俺の顔を見ては、唸っている。

172名無しさん:2019/12/31(火) 00:18:45 ID:qpzaD/Nw0

(*>ー<)「うー!ギコーおちゃー!」

(,,゚Д゚)「うーーーーーーん」

(*>ー<)「おちゃをよこせー!」

('A`)「しぃさん、はい」

(*>ー<)「でかしたぞ、モヤシー!」

お茶の入った魔法瓶の蓋を俺から受け取り一口飲むと、しぃさんは人心地が付いたようだった。

173名無しさん:2019/12/31(火) 00:19:05 ID:qpzaD/Nw0

(;'A`)「で、何ですか、さっきから。うんうん唸って」

(,,゚Д゚)「髪」

(;'A`)「え?」

(,,゚Д゚)「お前、髪うっとーしくねぇのか?」

そう言われて、俺は前髪を摘まんだ。
確かに、散髪なんて久しくしていない。
と、言うのも、理髪店で髪型をどうするか聞かれた時、俺は毎回どう答えていいのか分からないのだ。
美容院なんて以ての外で、お洒落な美容師さんに話し掛けられるのを想像するだけで、変な汗が出てくる程だ。

174名無しさん:2019/12/31(火) 00:19:31 ID:qpzaD/Nw0

その様な苦手意識の所為で、ついだらだらと髪も散髪の機会も伸びて行った結果、今では殆ど前髪が顔を覆っている。
癖がある為、そのままにしていれば鼻先程度だが、摘まんで引っ張ってみれば、顎先まで達する長さにまでいつの間にか成長していた。

(,,゚Д゚)「伸ばしてんの?」

(*゚ー゚)「あれか!ベンジーみたいにするのか!」

('A`)「いえ、別に伸ばしてる訳じゃ……ベンジー?」

(,,゚Д゚)「確かにこいつ細いけど、ベンジーみたいにするとなんか腹立つな」

(*゚ー゚)「わかる」

(;'A`)「いや誰ですかベンジーって。ただ単純に床屋さんって苦手なんですよ。なんて言っていいのか分からなくて……」

(*゚ー゚)「っぽいわー」

(,,゚Д゚)「あーわかる」

('A`)「ほっといてください」

175名無しさん:2019/12/31(火) 00:19:55 ID:qpzaD/Nw0

もそもそとペニサスさんが拵えてくれたお弁当を口に運びながら答える。
どうせ俺は有名人と知り合いになったところで陰キャなのだ。

(,,゚Д゚)「んじゃ、ウチ来るか」

('A`)「はい?」

何故、俺の髪の毛の話からギコさんの家へ行くという結果になるのだろうか。
そもそも、俺が誰かの家に呼ばれる状況自体が理解出来ない。
もしやギコさんは将来美容師になりたくて俺の髪で練習するつもりなのか。
数週間ギコさんと付き合ってきたが、凡そその手の細かい作業が得意だとは思わない。
凄惨な結果になる事は自明の理だ。

しかし、入学したばかりの右も左もわからない俺を救ってくれ、こうして面倒も見てくれている。
髪はまたすぐに伸びる。ギコさんの夢の為になるのだったら、一時の恥など無いにも等しいだろう。
意を決して、俺は口を開いた。

176名無しさん:2019/12/31(火) 00:20:32 ID:qpzaD/Nw0

('A`)「わ、わかりました。ギコさんのお役に立てるなら……俺の髪くらい……」

(,,゚Д゚)「なんか良くわかんねぇけど、お前今すっげぇ失礼な事考えてるだろ」

('A`)「え、ギコさんが俺の髪で散髪の練習するんじゃ……」

ギコさんは呆れたのか解せないのか、眉間に皺を寄せ眉尻を下げ溜息を吐くと、煙草を取り出し火を点けた。

(,,゚Д゚)「なぁんで俺がお前の髪切らなきゃいけねぇんだよ」

(*゚ー゚)「ギコにそういうセンスをもとめてはいけない」

('A`)「それは、あの、なんとなく分かりますけど」

(,,゚Д゚)「お前ら、俺もいい加減傷つくからな?」

177名無しさん:2019/12/31(火) 00:20:57 ID:qpzaD/Nw0

ギコさんは上向きに煙草の煙を吐き出すと、うんざりした様な口調で一言、

(,,゚Д゚)「ウチ、床屋」

と言った。

178名無しさん:2019/12/31(火) 01:11:36 ID:vLFmwguY0
まさか続きが来るとは嬉しい支援

179名無しさん:2019/12/31(火) 02:54:49 ID:JJrHfAyg0
待ってました!支援!

180名無しさん:2019/12/31(火) 03:10:44 ID:0mjiG5j.0
まーじか復活めちゃ嬉しいぞ

181名無しさん:2019/12/31(火) 07:19:42 ID:bonSMz32O
うぉー待ってた!
ドクオイケメン化するのかwktk

182名無しさん:2019/12/31(火) 11:48:17 ID:LTON6qnY0
お??!!!

183名無しさん:2019/12/31(火) 12:26:00 ID:FrpHTQUY0
待ってた
支援!

184名無しさん:2020/01/07(火) 22:51:19 ID:xVm1Lfcs0
ベンジーというチョイス
中の人いくつなんだ……

185名無しさん:2020/01/20(月) 01:14:50 ID:R1Q5PFUU0
これバチボコに面白い

186名無しさん:2020/03/31(火) 07:58:34 ID:TtPu12z.0
まだー?(ㄘんㄘん

187名無しさん:2020/06/11(木) 03:16:48 ID:5PQlzoPs0
アゲアゲ

188名無しさん:2020/08/18(火) 22:13:55 ID:naEoxmOM0
わたしまーつーわ

189名無しさん:2022/05/22(日) 23:56:50 ID:jYDtUhTQ0
2.

放課後、俺はギコさんとしぃさんに連れられ、慣れない道を歩いていた。
考えてみれば、引っ越してきてからというもの、近所を散策したことなどない。
殆ど下宿先の『伊藤食堂』からした高までの道のり程度しか、俺はこの近辺を把握していない。
帰る方向は似ているが、いつもの帰り道から少し外れただけで、見慣れない景色が広がっていた。

新しい情報に俺の交感神経が戸惑っているのか、軽い眩暈を起こす。
何を作っているのかは分からない町工場が数件続いて建ち並ぶ。
半分閉まったシャッターからはスプレーでペイントされた文字が見え隠れしている。
しぃさんを腕にしがみ付かせたまま、ギコさんは慣れた足取りでどんどんと進んでいく。
細い道を抜ければ、寂れた商店街に抜けた。

商店街の中程、ギコさんは足を止めた。
そこは、如何にも町の床屋然とした店構えだった。
赤、青、白の縞模様が回転するサインポールと観葉植物が店先で漫然と佇んでいる。
くすんだガラス製の扉には白字で『ネコムラ理容室』と描かれていた。

190名無しさん:2022/05/22(日) 23:58:10 ID:jYDtUhTQ0

(,,゚Д゚)「ただいま」

(*゚ー゚)「ただまー!」

扉を開くとドアベルが渇いた音を上げる。

ミ,,゚Д゚彡「あ!おかえりなんだから!」

待合用のソファーに腰を下ろし、新聞に目を落としていた体躯の良い男性が顔を上げた。
ギコさんが年を取ったらこの人のようになるのではないのか。と思うほど良く似ている。
輪郭をなぞる髭と髪の毛が一体化したような風貌は、熊かライオンを連想させる。
この人が、ギコさんのお父さんなのだろう。
ギコさんのお父さんはソファーから立ち上がると新聞をラックに戻し歩み寄って来た。

191名無しさん:2022/05/22(日) 23:58:34 ID:jYDtUhTQ0

ミ,,゚Д゚彡「お、そっちの子は友達?」

俺に気が付くと、男性はギコさんに紹介を求めた。

('A`)「あ、鬱田ドクオと言います。ギコさ…猫村先輩にお世話になってます」

ギコさんが口を開く前に、頭を下げて挨拶する。

ミ,,゚Д゚彡「後輩くんかー。何、一丁前に先輩風吹かせてるの?こんなのに先輩なんて大層な言い方勿体ないんだから」

(,,゚Д゚)「うるせぇな。別にそういうんじゃねぇよ」

('A`)「あ……いえ、本当に猫村先輩には良くして貰っていて……」

192名無しさん:2022/05/22(日) 23:58:56 ID:jYDtUhTQ0

親子同士の軽口の間に入るというのは、どうにも気が引ける気分になり、少し戸惑いながらも答える。
ギコさんはバツが悪そうに頭を掻きながら俺を横目で見やった。

(,,゚Д゚)「これ、俺の親父」

ぶっきらぼうにギコさんが紹介する。
俺はもう一度ペコリと頭を下げた。

ミ,,゚Д゚彡「フサだから。ギコとしぃちゃんがお世話になってるね」

(;'A`)「い、いえ、お世話になってるのは俺の方で……」

ミ,,^Д^彡「そんなに畏まらなくていいんだから」

(;'A`)「あ、はい……ハハ」

193名無しさん:2022/05/22(日) 23:59:20 ID:jYDtUhTQ0

こんな時にどのような事を話せばいいものか。頭を何度も下げながら逡巡する。
生憎と俺の話題の引き出しの中にはそれは見当たらないらしく、乾いた笑いしか出てこなかった。
そんな俺を見ながら、フサさんはニコニコと人の好さそうな笑みを崩さなかった。

(,,゚Д゚)「なぁに親父にそんな緊張してんだよ」

('A`)「ア……す、すみません」

(*゚ー゚)「むすめをよめにもらいにきたかれしか?」

(;'A`)「えぇ……」

ミ,,゚Д゚彡「あ、いいよ。持ってちゃって持ってちゃって」

(;'A`)「えぇー……」

194名無しさん:2022/05/23(月) 00:00:05 ID:PTdamma60

(,,゚Д゚)「気持ち悪いこと言うな」

ミ,,゚Д゚彡「しぃちゃんはあげないから」

(,,゚Д゚)「気持ち悪いこと言うな」

(*゚ー゚)「きもちわるいこというな」

ミ,,TДT彡「酷いんだからー……」

(;'A`)「……ハ、ハハ」

195名無しさん:2022/05/23(月) 00:00:30 ID:PTdamma60

ミ,,゚Д゚彡「それで、何、これからどっか行くの?晩御飯は?」

(,,゚Д゚)「いや、こいつの髪切って欲しくてよ」

ミ,,゚Д゚彡「あ、そうなの?」

ギコさんは二、三度俺の肩を叩くと、そのままフサさんの前まで俺を押し出した。

(;'A`)ゝ「ア……よ、宜しくお願いします」

俺はまた、おずおずと会釈を繰り返した。
フサさんは俺を見ながらバーバー椅子へと促す。
腰かけると、俺の髪を摘まんで伸ばしながら、「それじゃ、今日はどうする?」と鏡越しに俺に問いかけた。

196名無しさん:2022/05/23(月) 00:01:04 ID:PTdamma60

ミ,,゚Д゚彡「結構伸びてるねー。伸ばしてるの?毛先だけ行く感じ?」

(;'A`)「え、あ、いや、その、伸ばしてる訳じゃ……えっと」

やはり、理髪店というのは苦手だ。
特に髪型に拘りもないので「て、適当に」と蚊の鳴くような声で呟こうとした時、

(,,゚Д゚)「ああ、折角こんだけ伸びてんだからよ……」

後ろからギコさんがフサさんの横に立ち、何かしら呟き始めた。

197名無しさん:2022/05/23(月) 00:01:25 ID:PTdamma60

ミ,,゚Д゚彡「あーいいねー。だったら軽くパーマもかけちゃうか」

(,,゚Д゚)「いいんじゃねぇ?根本から後ろに流す感じで」

ミ,,゚Д゚彡「うんうん。ドクオくん細いしシャープな感じが似合うと思うんだから」

(;'A`)「エッ…アノ…チョット」

俺の後ろでは俺の髪型についての議論が俺抜きで行われている。
後ろを振り返り何事かと問いかけようとすると、にっこりとフサさんは笑いながら、

ミ,,^Д^彡「おじさん腕はいいから、安心するから」

とバリカンを持ちながら言った。

198名無しさん:2022/05/23(月) 00:02:49 ID:PTdamma60
お久しぶりです。
未だに投下行数ってどのくらいがいいのかわかりません。

199名無しさん:2022/05/23(月) 02:02:48 ID:N0oUZ8yA0
今初めて読んだけどめっちゃ面白い
投下再開ありがと

200名無しさん:2022/05/23(月) 07:02:12 ID:qGDm7spY0
待ってました!

201名無しさん:2022/05/23(月) 08:12:42 ID:n/QY/wrs0
!!!!!!!


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板