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(´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです <解決編>

50名無しさん:2018/11/05(月) 21:29:39 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(メ._⊿,) 「……」
 
(´・ω・`) 「いかがですかな」
 
 もっと手っ取り早い方法があるだろう、という反論は想定済みだ。
 実際、それに対する反証の術はない。
 
 ただ、亡霊よろしく地に足がついていない、不安定な情勢だ。
 証拠が限られ、確定できる情報が少ないなか、
 一番、特定することで恩恵が大きいのは貞子のその後だ。
 
 だったら、一つひとつ潰していくのが効率的だと僕は判断する。
 連続予告殺人事件の指揮官たる僕の判断だ。
 
 
(メ._⊿,) 「……鶴の恩返しと言ってな」
      '_
(´・ω・`) 、
 
 
(メ._⊿,) 「昔……何気なしに助けた鶴が……恩返しにくるわけだ……が」
 
(メ._⊿,) 「当の男は……そもそも他意あって助けたつもりではなかった……」
 
.

51名無しさん:2018/11/05(月) 21:30:13 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(メ._⊿,) 「案外……すぐに見つかるかも知んねえぜ……」
 
イ(゚、ナリ从 「では、時勢を追う班と、病院を追う班で分けましょう」
 
イ(゚、ナリ从 「転落事故があったから、したがって病院に搬送された」
 
イ(゚、ナリ从 「時期を照らし合わせることで、何かしら掴めるかもしれません」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 案外、素直に言うことを聞くんだな、ふたりとも。
 三月殿の言っていることはよくわからないけど。
 
 
(´・ω・`) 「よっしゃ」
 
イ(゚、ナリ从 「アルプスは自慢じゃありませんが、データ処理に関しては優秀です」
 
イ(゚、ナリ从 「少なくとも、ヴィップほど雑な処理はしませんしね」
 
(´・ω・`) 「んむッ」
 
 嫌味を倍返しされたぞ。
 
.

52名無しさん:2018/11/05(月) 21:30:39 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ┏━─
    午前十三時三〇分  捜査本部
                      ─━┛
 
 
 
( <●><●>) 「……!」
 
 方針が決定してからの捜査本部は、電話のコール音に敏感になっていた。
 備え付けの電話は、右手を伸ばせば届く位置に設置している。
 
 十分に一度ほどの間隔で、そいつが鳴る。
 そのたびに、亡霊からのいざないである気がして、心労が溜まる一方だ。
 
 
 しかし今回は、私個人の電話が鳴った。
 コール音からして警部だ。
 
( <●><●>) 「はい」
 
 一瞬でわかった。
 落ち着いてはいるが、熱を押し殺している声だ。
 
.

53名無しさん:2018/11/05(月) 21:31:23 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 事件の真相がわかった時なんかに現れる、警部の癖だ。
 警部は、手放しで喜びたくなる時であればあるほど、
 その欲動をなんとか抑えようとする節がある。
 
 指示されたわけではないが、席を立った。
 東風さんがつられて私の動きを目で追っていたが、
 制止したり、状況を聞いてくる様子はなかった。
 
 
( <●><●>) 「今はどちらで」
 
( <●><●>) 「……わかりました」
 
 掛けてあったコートを羽織った。
 警部とは、気が付けば、短くはない付き合いだ。
 声色だけで、いま自分が必要とされている、
 自分に応援を求めている、ということがわかるようになっている。
 
 察するに、十年前の事故に、決着をつけるのだ。
 自分は、資料に書いてある程度のことしか理解していない。
 しかし、そんな自分を、警部は求めている。
 
 気付けにブラックを呷った。
 電話越しに感じられた、警部の不敵に吊り上がった口角が思い起こされる。
 
 クロを掴んだのか。
 グレーを黒く染めたいのか。
 あるいは透明な亡霊の輪郭を浮き彫りにしたいのか。
 
.

54名無しさん:2018/11/05(月) 21:32:29 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ┏━─
    午前十三時五八分  ヴィップの滝公園  滝口
                               ─━┛
 
 
 
 捜査に駆り出されていた警官も、
 連続予告殺人の延長と知らないマスコミも、
 事件当時と比べて非常に少なくなっていた。
 
 ぬかるみにも近い、湿気を大いに含んだ土を踏みしめていく。
 設備が整っていない、滝口への裏道に手すりはほとんどなかった。
 時折木の腹を頼りに登っていく。
 
 
(´・ω・`) 「遅かったじゃん」
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
 自分に気がつくまで、ふたりは流れ落ちる滝を、ぼんやり眺めていた。
 事件の検討にしては妙な組み合わせ、妙な場面だとは思った。
 
.

55名無しさん:2018/11/05(月) 21:34:17 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 少し前は、ここにミセリが突き落とされ、
 そしてこの滝を登ってきたというのだ。
 
 にも関わらず、滝はいつも通り流れていた。
 まるでミセリの死が、文字通り水に流されたかのようである。
 
( <●><●>) 「いかがでしたか、アルプス山脈は」
 
(´・ω・`) 「寒かったし、電波も悪いし、散々だったね」
 
(´・ω・`) 「しばらく山は登りたくねえや」
 
 吸っていたであろう煙草を携帯灰皿に押し込んでいる。
 至って平生の、それどころか無気力とすら感じられる口ぶりの向こうに、
 八重歯のように尖った言葉の牙がちらりと窺えた。
 
 
 警部はハンチングを右手で整え、兄者のほうを見た。
 兄者は、少し状況を飲みこめていない様子だ。
 
(´・ω・`) 「さて、兄者くん」
 
(´・ω・`) 「どうだい、気分は」
 
.

56名無しさん:2018/11/05(月) 21:34:44 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「え、なんて」
 
(´・ω・`) 「滝の目の前にきて、気分はどうだい」
 
( ´_ゝ`) 「ここで、本当にミセリが死んだッてのなら、すこぶる悪いぜ」
 
 警部の隠し持っている思惑のナイフに、まだ気づいていない様子だった。
 警部を知る者が見れば、これから彼が何をしでかすかは一目でわかる。
 まさか、という気持ちに、思わず全身の筋肉が固まってくる心地がした。
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、聞き方を変えよう」
         、 、 、 、 、、 、
(´・ω・`) 「崖の前に立って……気分はどうだい?」
 
 
( <●><●>) 「…ッ」
 
( ´_ゝ`) 「え?」
 
(´・ω・`) 「………今からする話に、物的証拠は、一切ない」
 
(´・ω・`) 「だから、反論があったら、いくらでもしてくれていいぜ」
 
( ´_ゝ`) 「何の話でござんしょう」
 
.

57名無しさん:2018/11/05(月) 21:35:19 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「あんた、貞子を突き落としたな?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

58名無しさん:2018/11/05(月) 21:35:32 ID:mtW.QSwo0
飄々としてるから、まだ色々隠してそうだな兄者

59名無しさん:2018/11/05(月) 21:35:53 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 
 
                                   |`ヽ       /|
                                   |.  \    /. i
                                   |   ヽ /   ノ
                                  !     `ー‐- '、
                                  |           .、
                                 l            !
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                                l  :::::::::::::::゙ 、     _| n
    イツワリ警部の事件簿   File.4      `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
                              く  l  lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
       第九幕   「 偽りを捕まえろ 」      '  '、-_l  ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
                                ` ..‐,,..、 丶、  冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
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.

60名無しさん:2018/11/05(月) 21:36:28 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`)
 
 自分は、流石兄者という男を詳しくは知らない。
 ただ、口が達者で飄々たる言動が目立つものの、
 その実思慮深く、大層な肝っ玉の持ち主である、という程度だ。
 
 しかしそんな兄者が、露骨に硬直した。
 呼吸が大きくなるでもない、目を見開くでもない。
 ただ、何を言われたかよくわかっていない、といった具合だった。
 
( ´_ゝ`)
 
( ´_ゝ`) 「……刑事さん」
 
 声色こそ変わらないが、言葉の出だしが多少揺れている。
 言われたのが誰であろうとも、
 いきなり告発されてしまえば、誰だってそれ相応の動揺はする。
 
 物的証拠がないと言っておきながら、どうして急に。
 警部なりの探りなのかもしれないが、それにしては劇薬すぎないか。
 
 
( ´_ゝ`) 「え、いま、なんて言いました」
 
(´・ω・`) 「十年前、アルプス山脈で」
 
(´・ω・`) 「貞子を突き落としたのはあんただな、ッて聞いてんだ」
 
.

61名無しさん:2018/11/05(月) 21:37:46 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「どうして急に」
 
( ´_ゝ`) 「なにか、あったんスか」
 
 動揺からなる硬直が一転、言葉にわずかな怒りが汲み取られた。
 図星だからか、的外れだからか、どちらにせよその興奮は正当なものだ。
 
 しかし警部は、一切動じない。
 兄者の反応そのすべてを、初めからわかっているかのようである。
 
(´・ω・`) 「なにも、ない」
 
(´・ω・`) 「これからの話に、証拠ッつー証拠はないんだ」
 
( ´_ゝ`) 「ふざけてんのか」
 
 兄者が眉間に皺を寄せる。
 それまでに何度か見せたおどけた様子が、嘘だったかのように。
 
 
(´・ω・`) 「きみから、当時の話、詳しく聞いたけどね」
 
( ´_ゝ`) 「変なところでもあったのか」
 
(´・ω・`) 「なさすぎたんだ」
 
.

62名無しさん:2018/11/05(月) 21:38:12 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「当たり前だ」
 
( ´_ゝ`) 「多少記憶が怪しい部分があるとは言え」
 
( ´_ゝ`) 「本当のことしか言ってないんだから」
 
 有無山を選んだこと。
 紅葉狩りを提案したこと。
 
 コテージについてから、食事し、カメラを落とし。
 室内で遊び、騒ぎ、寝て、起きて、外に出て、貞子を目撃して。
 そこに問題があれば、既に十年前の警官が炙り出しているはずである。
 
 
(´・ω・`) 「本当のことしか言ってないんだな?」
 
( ´_ゝ`) 「なッ…」
 
 これが、警部の話術だ。
 警部がこれからどんな手筋で兄者を詰めるのかは、予想すらできない。
 
 ただ、これが、警部の話術だった。
 
.

63名無しさん:2018/11/05(月) 21:39:15 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 兄者がほんとうに犯人だったとして。
 だとすると、それまでに彼が証言してきたことには、偽りが混じっている。
                  、 、 、、
 言い換えれば、兄者が用意した話だ。
 そしてそれが十年もの間通用してきた以上、
 確かにその証言に怪しいところはなさすぎるし、それを兄者も理解している。
 
 そんななか、怪しいところがないと言うと、
 容疑がかかっている兄者は、もちろんだと応答するだろう。
 ほんとうのこと、に見せかけた、話をしてきたのだから。
 
 
 警部が欲しかったのは、その言質だ。
 それまでの証言と変わってくるのは、記憶の曖昧性だ。
 この言質を取ることで、これから兄者がする反証に、曖昧性は許されなくなってしまうのだ。
 警部の推理を裏づけする何かが出てくるたびに、兄者の情勢は、不利になってしまう。
 
 
( ´_ゝ`) 「……俺ができる話は、すべて話してきたつもりだ」
 
( ´_ゝ`) 「これ以上、なにが聞きたい」
 
 しかし。
 もし本当に、兄者が犯人だったなら、の話だが。
 
          、
(´・ω・`) 「霧だ」
 
.

64名無しさん:2018/11/05(月) 21:40:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「…!」
 
 霧、の話などあったか。
 おそらくは、有無山でした証言のことだろう。
 
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
 その証拠に、兄者が、言葉を詰まらせる。
 兄者の急所なのか。
 
 
(´・ω・`) 「全てがきれいにまとまりすぎていた、あんたの証言」
 
(´・ω・`) 「たった一つだけ、決定的に食い違っているところがあった」
 
 
  >
  >(´・ω・`) 「十年前って、霧、出てた?」
  >
  >(´・_ゝ・`) 「霧……ですか」
  >
  >(´・_ゝ・`) 「あったような、なかったような」
  >
  >( ´_ゝ`) 「いや、特に」
  >
  >( ´_ゝ`) 「むしろ、あの時はカラッカラに晴れてたぜ」
  >
 
.

65名無しさん:2018/11/05(月) 21:40:51 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
( ´_ゝ`) 「記憶が……曖昧なんだ」
 
 想定されていた、曖昧という反論。
 これはむしろ、警部がとった言質が作用したといっていい。
 
 本当のことしか話していない。
 というところから連想される、曖昧という概念。
 だからこそ、主張の弱い部分を突かれると、つい、そう逃げたくなるのだ。
 
 これが、警部の、話術だった。
 
 
(´・ω・`) 「霧以外の証言に対してなら、わかる」
 
(´・ω・`) 「ただ、霧に関しては、曖昧だからッてのは通らないんだ」
 
( ´_ゝ`) 「どうしてだ。 仕方ないだろう、曖昧なのは」
 
 言い切る前に、警部が返した。
 
 
(´・ω・`) 「そもそも!」
 
( ´_ゝ`) 「…ッ」
 
 兄者が怯む。
 
.

66名無しさん:2018/11/05(月) 21:41:20 ID:h25gk5nA0
 
 
                     、 、 、 、、 、 、 、、、
(´・ω・`) 「霧の問題は、貞子が見えたかどうか、だ!」
 
 
 
  >
  >イ(゚、ナリ从 「今朝、事故当時の気象データを洗いましたが」
  >
  >イ(゚、ナリ从 「実際に、朝方は強い霧が発生していたようですから」
  >
  >( ´_ゝ`) 「なんだって?」
  >
  >( ´_ゝ`) 「俺は確かに見たぜ」
  >
  >( ´_ゝ`) 「………この下に落ちてた貞子を、ハッキリと」
  >
 
 
          、 、 、 、、 、 、 、、
(´・ω・`) 「実際見えたんだろう!?」
                  、 、 、 、 、 、、 、 、 、 、 、 、 、、
(´・ω・`) 「だったら、どうして記憶が曖昧だった可能性を認めるんだ!」
 
 
 →ttps://www.youtube.com/watch?v=Rr9AVYDEeMQ
 
.

67名無しさん:2018/11/05(月) 21:42:04 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;:::_ゝ::) 「  ッ!」
 
 
 崖下。 転落。 貞子。 霧。
 ピースが、揃った。
 
 兄者は第一発見者だ。
 すなわち、崖下に横たわる貞子を目撃した。
 
 しかし、当時霧がかかっていたのだろう。
 それを指摘され、しかし兄者は否定した。
 
 
 この場合、記憶が曖昧だと言って引くのは、あり得ない。
 当時見えた以上、間違いなく、少なくとも現場に霧はなかったのだ。
 
 
(´・ω・`) 「崖下で倒れている人影が、理屈なしに貞子だと感じた」
 
(´・ω・`) 「それは、認められる」
 
 
(´・ω・`) 「偶然崖下に目をやったのも、この際考えられなくはないとして」
 
(´・ω・`) 「第一発見者になるのも、不自然ではない」
 
.

68名無しさん:2018/11/05(月) 21:42:26 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「でもな!」
 
(´・ω・`) 「それら証言の、すべては!」
 
(´・ω・`) 「霧がないのが前提で成り立っている!」
 
 
(´・ω・`) 「あんたは、是が非でも、記憶が曖昧でも、霧だけは認めるわけがないんだ!」
 
 
( ;´_ゝ`) 「あ、曖昧だってのは、前後込みの話だ!」
 
 
 
  >
  >( ´_ゝ`) 「まして霧が濃かった、車を出して遭難なんてしてられんしな」
  >
  >(´・ω・`) 「……ん?」
  >
  > いま、妙なことを言ったな。
  > そう思ったのと同時に、イナリちゃんが既に口を切っていた。
  >
  >イ(゚、ナリ从 「霧は、出ていたのですね?」
  >
  >( ´_ゝ`) 「え?」
  >
 
 
.

69名無しさん:2018/11/05(月) 21:43:34 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「ああ、そうさ、いま断言してやろう」
 
( ´_ゝ`) 「俺が貞子を目撃した瞬間は、確かに霧なんてなかった!」
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
( ´_ゝ`) 「まさか、証拠もなしに、言葉のあやだけをつついて」
 
( ´_ゝ`) 「それで、人を犯人呼ばわりするつもりか?」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 攻防一転。
 兄者が強気に出る。
 警部は、一瞬の勢いを消し、黙って兄者を見つめている。
 
 しかし、伝わる。
 これは決して、警部が負けを認めたわけではない。
 
 伝わってくるのだ。
 警部は、踊りだしたくなるくらい嬉しいことがあっても。
 それが、嬉しければ嬉しいほどに。
 
 
(´・ω・`) 「……捕まえたぜ」
 
 それを表に出そうとはしなくなるのだ。
 
.

70名無しさん:2018/11/05(月) 21:43:56 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;´_ゝ`) 「…!」
 
(´・ω・`) 「もし無実なら」
 
(´・ω・`) 「デミタスだろうがミセリだろうが」
 
(´・ω・`) 「もし本当に、第一発見者にして無実だったら」
 
 
(´・ω・`) 「絶対に、真っ先にする反論が、あるんだ」
 
 
 全身から沸き立ってくる、悪寒。
 警部の追究は、究極的なまでに論理的なのだ。
 そこに、感情論、小手先は存在しない。
 
 犯人を震え上がらせる、決定的で致命的な武器が、感じられる。
 懐に、亡霊がごとき見えないナイフを忍ばせているのが、わかる。
 
 
(´・ω・`) 「これはな、兄者」
 
(´・ω・`) 「目撃証言が作り話だから起こってしまう、矛盾なんだ」
 
( ;´_ゝ`) 「矛盾……だと?」
 
.

71名無しさん:2018/11/05(月) 21:44:38 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「……正直なところ、ホッとしたよ」
 
(´・ω・`) 「もしその、本来ならできる反論をされたら」
 
(´・ω・`) 「僕は、無実の罪を着せちまうところだったんだ」
 
( ;´_ゝ`) 「………もったいぶるもんじゃありませんぜ、旦那」
 
 兄者が、警部の気迫に圧されている。
 彼も、形こそ見えないものの、感じたのだろう。
 一突きで死に至らしめかねない、亡霊のナイフを。
 
 
(´・ω・`) 「振り返ろうや、兄者」
 
(´・ω・`) 「あんたは、崖下の貞子を目撃した……」
 
( ´_ゝ`) 「その時に霧はなかった」
 
( ´_ゝ`) 「気象データがなんだ。 確かに、俺は貞子を見たんだ」
 
 
(´・ω・`) 「もう一人、それを証言できるやつがいるだろう?」
 
( ´_ゝ`) 「なに?」
 
.

72名無しさん:2018/11/05(月) 21:45:30 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「ヒッキー小森だ!」
 
( ´_ゝ`) 「……?」
 
 
 
( ; ゚_ゝ) 「ッッ!」
 
 
 
  >
  >イ(゚、ナリ从 「では、その後の行動は」
  >
  >( ´_ゝ`) 「なんか、こう、なんなんだろうな」
  >
  >( ´_ゝ`) 「とにかく、ヒッキーを呼んだ」
  >
  >イ(゚、ナリ从 「ヒッキー……ヒッキー小森ですね」
  >
  >
  >( ´_ゝ`) 「で、見せた」
  >
  >イ(゚、ナリ从 「見せた」
  >
 
 
(´・ω・`) 「目撃直後に、ヒッキーも崖下を覗いている!」
 
(´・ω・`) 「条件が同じなら、やつにも同じ証言ができたはずだ!!」
 
.

73名無しさん:2018/11/05(月) 21:46:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ; ゚_ゝ`) 「奴は……奴は!」
 
(´・ω・`) 「殺されてしまったからできない……か?」
 
( ;´_ゝ`) 「俺が殺したわけじゃないが……死人に口なしッ!」
 
( ;´_ゝ`) 「できねえんだよ! ヒッキーを頼っての証言は!」
 
 
(´・ω・`) 「バカ言え」
 
(´・ω・`) 「ヒッキーに限らず、六人の人間が既に、十年前に証言をしている」
          、 、
(´・ω・`) 「取調でな!」
 
( ;´_ゝ`) 「!」
 
 
( ;´_ゝ`) 「あったのか? 霧がかかっていなかった証言は!」
             、 、、 、 、
(´・ω・`) 「かかっていなかった……?」
 
( ;:::_ゝ::) 「!」
 
.

74名無しさん:2018/11/05(月) 21:47:23 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 十年前の一件。
 それが当時事故として処理されていようが、
 それを事故と処理するために、警官は関係者を個別に取調している。
 
 まして、目撃者に関しては、その状況を事細かに尋ねられる。
 そこで、被害者が見えたかどうかなんて証言、聞き漏らすわけがない。
 
 
(´・ω・`) 「……あんたが、あの子に霧のことを言われた時点で」
 
(´・ω・`) 「真っ先に言えたはずなんだ!」
 
         、 、 、 、、  、 、、 、 、 、 、、 、、 、 、 、、
(´・ω・`) 「調書を見ろ。 ヒッキーも証言しているはずだ……ッてな!」
 
( ;´_ゝ`) 「………」
 
( ;´_ゝ`) 「それは、あんたが慣れてる刑事だからそう思えんだ」
 
 
 
( ;´_ゝ`) 「俺は、ただでさえ十年前の事件を回想してる身だぞ!」
 
( ;´_ゝ`) 「すぐにそんなこと、思い出せるわけがない!」
 
.

75名無しさん:2018/11/05(月) 21:48:00 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「違うね」
 
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 自分は、警部が兄者からどんな話を聞いたかはわからない。
 本来なら、この場に不釣り合いな人間だ。
 
 しかし。       、 、 、、
 それでも、警部はこのことを見越して、自分を呼び寄せた。
 
 
 裏を返せば。
 部外者の自分でもできる反論を、期待しているのだ。
 
 
 
( <●><●>) 「警部の言い分では、当時崖に、霧は、かかっていた」
 
( <●><●>) 「とすると、明らかにおかしい点があります」
 
(´・ω・`) 「言ってみろ」
 
.

76名無しさん:2018/11/05(月) 21:48:33 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( <●><●>) 「目撃証言に矛盾が存在しない点です」
 
( ;´_ゝ`) 「!」
 
( <●><●>) 「もし、霧で下が見えない状況で、貞子を突き落としたとします」
 
( <●><●>) 「崖の高さは、兄者は身をもって知っている」
 
 
( <●><●>) 「……貞子に大量出血が見られなかったことを、兄者は証言できている」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 
  >
  >( ´_ゝ`) 「こう……理屈じゃなく、貞子が死んでいた、ッて感じたんだ」
  >
  >( ´_ゝ`) 「血だまりとかもなかったし、なおのこと……理屈じゃなかったと思う」
  >
 
 
( <●><●>) 「崖からの転落だ、出血を疑うのは当然です」
 
( <●><●>) 「そして、事件後も霧があったのは、兄者も認めている」
 
( <●><●>) 「他方、のちの取調で、当然貞子の様子についても聞かれる」
 
.

77名無しさん:2018/11/05(月) 21:49:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( <●><●>) 「………血だまりの有無答えられないようでは、当然、怪しまれるのです」
 
( <●><●>) 「しかし、十年前そういった食い違いや猜疑心はなかった」
 
( <●><●>) 「兄者は正確に、崖下の貞子の状況を、証言できたのです」
 
 
(´・ω・`) 「助かったぜ、ワカッテマス」
 
( <●><●>) 「……!」
 
 警部が、鋭い笑みを浮かべた。
 これがもし、警部を不利に追いやる指摘だったら、と思ったのだが。
 
 突き落とした時も、その後も、霧は晴れなかった。
 とすると、どう足掻いても、その後の取調から逃れられないはずなのに。
 
 
(´・ω・`) 「兄者は、こう見えて肝心なことに関しては口数が少ない」
 
(´・ω・`) 「ほんとうは、兄者から、その反論が欲しかったんだがな」
 
( ;´_ゝ`) 「………どういうことだ」
 
.

78名無しさん:2018/11/05(月) 21:49:26 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「おそらくは、な」
 
(´・ω・`) 「霧は、ほんとうに、晴れてたんだよ」
 
( ;´_ゝ`)「なッ!」
 
( <●><●>) 「……どういうことでしょうか?」
 
 
(´・ω・`) 「朝方に、霧はあったのか」
 
(´・ω・`) 「それは、十年の歳月が、炙り出してくれた」
 
(´・ω・`) 「十年前だとわからなかった、真実」
 
 
(´・ω・`) 「……霧は、本当にかかっていたんだ」
 
( <●><●>) 「!」
 
 そういうことか。
 霧がかかっていた現場と、霧がかかっていれば成しえない整合性。
 この矛盾を解決する状況こそが、次の一手。
 
 これには、兄者による巧みな嘘が隠されている。
 それを暴くことで、次の矛盾が顔を出す。
 
 そして最終的に浮かび上がる、矛盾ではあるが偽りでない点。
 それこそが、警部の言う、事件を解く、鍵なのだ。
 
.

79名無しさん:2018/11/05(月) 21:49:56 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「それ以降も晴れていなかった」
 
(´・ω・`) 「となると次の疑問が出てくるよな?」
                、 、
(´・ω・`) 「……兄者は、いつ、崖下の貞子を見たのか」
 
 
(´・ω・`) 「それは、夜だ!」
 
 
  >
  >イ(゚、ナリ从 「今朝、事故当時の気象データを洗いましたが」
  >                、 、
  >イ(゚、ナリ从 「実際に、朝方は強い霧が発生していたようですから」
  >
 
                           、 、
(´・ω・`) 「霧が発生していたのは、朝方なんだからな!」
 
 
.

80名無しさん:2018/11/05(月) 21:50:19 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;:::_ゝ::) 「ッ!!」
 
(´・ω・`) 「次の矛盾は……わかりやすいね」
 
(´・ω・`) 「兄者くん」
 
 
(´・ω・`) 「どうしてあんたは」
 
 
  >
  >イ(゚、ナリ从 「事件発覚は、いつですか?」
  >
  >イ(゚、ナリ从 「また、その、第一発見者」
  >           、 、
  >( ´_ゝ`) 「朝方……としか言えないな」
  >
  >( ´_ゝ`) 「具体的に何時か、はわからないですね」
  >
 
          、 、
(´・ω・`) 「朝方に目撃したッつー嘘をついたんだ?」
 
 
.

81名無しさん:2018/11/05(月) 21:50:41 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;:::_ゝ::) 「…………」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 本来、暗い夜より、明るい朝のほうが、目撃できる可能性が高い。
 しかし、明るい朝に目撃はできず、暗い夜でなければ目撃できなかった。
 
 ただ、チラッと見ただけでは、見落とすであろう。
 理由がなければ、もちろん見つけることは難しい。
 
(´・ω・`) 「たったひとつ」
 
(´・ω・`) 「………簡単なロジックだ」
 
 
(´・ω・`) 「犯人が貞子を突き落としたのが、太陽が昇る前、だからだ」
 
( ;:::_ゝ::) 「……」
 
 
(´・ω・`) 「さあ、次の矛盾」
 
(´・ω・`) 「どうして、夜暗いなか、気まぐれにチラッと崖下を見ただけで、」
 
(´・ω・`) 「貞子の転落を一瞬で見つけることができた?」
 
.

82名無しさん:2018/11/05(月) 21:51:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ;:::_ゝ::) 「……」
 
(´・ω・`) 「………ひとつしか、ない」
 
         、、 、、 、 、 、
(´・ω・`) 「知っていたから、なんだ」
 
 
 兄者が、猫背になっていく。
 両手で全身を覆うように、前で交差させる。
 
 
(´・ω・`) 「では、最後の矛盾」
 
(´・ω・`) 「どうして、夜、予兆もなしに」
 
(´・ω・`) 「貞子が、崖下に転落していたのを、知っていた?」
 
 
 
 
(´・ω・`) 「………自分が、突き落としたからだ」
 
 
.

83名無しさん:2018/11/05(月) 21:51:22 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「    ッ  」
 
 兄者が目を見開く。
 警部の顔は見ていない。
 
 明後日の方角に向いている。
 その眼には、十年前の景色が、フラッシュバックしているように見えた。
 
 
 暗い崖。
 崖側に貞子がいる。
 
 勢い。
 手に感触。
 
 崖下に横たわる人物。
 服装は貞子と同じ。
 
 血だまりはできていない。
 霧は発生していない。
 
 貞子は動かない。
 
 
.

84名無しさん:2018/11/05(月) 21:51:46 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「        あああああああああああああああああッッ!!!」
 
 翌朝。
 第一発見者。
 
 霧が発生している。
 しかし兄者はそれを証言できなかった。
 
 夜の記憶を頼りに目撃証言を紡いだからだ。
 当時、朝方の霧を証言したのは気象データのみだった。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 
 夜に霧はなかった。
 雨も降っていない。
 
 夜の情景をそのまま話せば証言は成立していた。
 本当に見ていなければできない証言だった。
 だから警官は、あの時あの場所にはたまたま霧がなかったものだと判断した。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ああッ!! ああああああああああああああああああッ!!!」
 
 
 兄者は幸か不幸か、カメラを落としていた。
 崖下に落としたそれを前日中に覗き込んでいた。
 崖下を覗く、という行為に疑いは感じられなかった。
 
.

85名無しさん:2018/11/05(月) 21:52:10 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 なにも食い違いの存在しない真実。
 
( <●><●>) 「……」
 
 兄者が貞子を目撃したのは夜のことだった。
 
( <●><●>) 「……」
 
( <●><●>)
 
 
 全身に走る悪寒。
 
 
( <●><●>) 「!」
 
(;<●><●>) 「ちょっと待ってください!」
 
(´・ω・`) 「どうした」
 
 
 警部が自分を呼んだ、本当の理由がわかった。
 情報を知らない第三者に、見つけてもらいたかったのだ。
 
 ほんとうの矛盾を。
 
.

86名無しさん:2018/11/05(月) 21:52:35 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「致命的な矛盾がひとつ、浮き彫りになりました!」
 
(´・ω・`) 「なに……?」
 
 
                           、
(;<●><●>) 「兄者が貞子を目撃したのは夜……」
                            、
(;<●><●>) 「霧のかかっていなかった……夜!」
 
(;<●><●>) 「だとすると、おかしい点が存在する!」
 
(´・ω・`) 「なッ…」
 
 
 警部が少し体勢を崩す。
 
 
 
( <●><●>) 「ヒッキー小森の目撃証言ですよ!」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 
.

87名無しさん:2018/11/05(月) 21:53:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「兄者はヒッキーに、崖下を見せた……」
 
(;<●><●>) 「それが本当だろうが嘘だろうが、矛盾が発生します!」
 
 
                    、 、、 、
(;<●><●>) 「ヒッキーは朝にしか崖下を見ていないんですよ!」
                           、 、、 、
(;<●><●>) 「霧が発生していた、朝にしか!」
 
 
(´・ω・`) 「     ッ」
 
(´・ω・`) 「ま、待て……整理させろ」
 
 兄者は、巧みに、自然に作り話をでっち上げられる。
 そのなかのひとつ。
 警部がロジックの展開にも添えた、要素。
 
 現時点で、ふたつの揺るぎない真実がある。
 兄者は、貞子を目撃して、ヒッキーにも見せた。
 貞子の目撃は、夜にしかできなかった。
 
.

88名無しさん:2018/11/05(月) 21:53:46 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 ポイントは、兄者の作り話こそが真実として処理されている点だ。
 兄者の語った、騙った真実のうち、見るべきはふたつ。
 
 目撃は 「朝」 。
 霧は 「なかった」 。
 
 話をでっち上げた兄者本人はともかく。
 第三者のヒッキーが貞子の目撃を証言するとなると、
 朝だろうが夜だろうが、霧があろうがなかろうが、必ず矛盾が発生する。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
(;´・ω・`) 「     ……ッ  ……!」
 
 警部が、考える。
 果たして、取るに足りない食い違いなのか。
 ロジックを再構築して、エラーがないかを、考え直す。
 
(;´・ω・`) 「………」
 
(;´゚ω゚`) 「……! ッ!」
 
 
.

89名無しさん:2018/11/05(月) 21:54:18 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 どう整理しても説明がつかない。
 警部が、ちいさな声で言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

90名無しさん:2018/11/05(月) 21:54:38 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「      ッ       ……ッ!!」
 
(;´・ω・`) 「兄者!」
 
 兄者は放心状態だった。
 思わず胸ぐらを揺すって問いかける。
 
 
(;´・ω・`) 「どういうことか説明しろ!」
 
(;´・ω・`) 「ヒッキーに、崖下は、見せていたのか!?」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「そッ   そうだよ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が!俺が!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が、貞子を、突き落としちまったんだよ!!」
 
 
(;´・ω・`) 「違う!!落ち着け!!」
 
(;´・ω・`) 「聞きたいのはそのことじゃない!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が突き落とああああああああああああああああああああ!!!」
 
.

91名無しさん:2018/11/05(月) 21:54:59 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 兄者が貞子を突き落としたのは、真実だったようだ。
 この暴れようを見る限り、間違いないだろう。
 
 しかし、それだと。
 どうしても、ヒッキーの存在が噛み合わない。
 
 実際の調書は今、手元にない。
 ないが、イナリちゃんが調書をチェックしながら、兄者の話を聞いていた。
 
 
 ヒッキーの目撃証言は、確かにあったんだ。
 でなければ、兄者がヒッキーの下りを話した時に、突っ込んでいる。
 
(;´・ω・`) 「落ち着け!!」
 
(;´・ω・`) 「聞いてんのか兄者!!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「  ッるせえよ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「そうだよ!!認めるよ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「貞子が蘇って俺らを抹殺してンのは!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「部長たるこの俺を徹底的に殺すためなんだよ!!!」
 
.

92名無しさん:2018/11/05(月) 21:55:19 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「……警部!」
 
 兄者がいよいよ暴力的になった。
 その瞬間ワカッテマスが加勢し、兄者を一緒に止めた。
 
 すぐに暴行に出そうな動きはしなくなったが、
 それでも興奮状態は一切緩和されていない。
 
 
(;´・ω・`) 「兄者!」
 
(;<●><●>) 「鍵が……すぐそこにあるのでは?」
 
(;´・ω・`) 「なに?」
 
 鍵。
 鍵だと。
 なんの話を言っている。
 
 
(;<●><●>) 「矛盾ではあるが……偽りでない点」
 
(;<●><●>) 「それが事件を解く……鍵となる!」
 
.

93名無しさん:2018/11/05(月) 21:56:51 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( <●><●>) 「警部の教えですよ!」
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
 
 僕は、偽りを見抜く刑事だ。
 ワカッテマスにも、イナリちゃんにも、ぎょろ目にも、教えている。
 
 偽りを見抜くプロセス。
 見抜く理由、そしてその先に待っているもの。
 
 
( <●><●>) 「兄者の嘘はすべて引っぺがした」
 
( <●><●>) 「残るは、鍵のかかった扉だけです!」
 
 
 矛盾ではあるが偽りでない点、それが事件を解く鍵とある。
 なぜなら、偽りを暴いた結果矛盾がなければ、それがすべて。
 犯人が故意に偽ったものを暴けば、事件は解決する。
 
 しかし。
 それでもなお、矛盾が残る場合。
 真相は、まだ見えないところに眠っていることになるのだ。
 
.

94名無しさん:2018/11/05(月) 21:57:22 ID:h25gk5nA0
 
 
                         、 、
( <●><●>) 「十年前の事故は、事件だった」
           、 、
( <●><●>) 「兄者が、貞子を突き落とした犯人だった」
                              、
( <●><●>) 「兄者が貞子を目撃したのは夜」
                         、 、 、
( <●><●>) 「貞子を突き落としたその時に目撃した」
 
 
( <●><●>) 「新事実のこれらの、どこかに」
 
( <●><●>) 「兄者の知らない、嘘」
 
( <●><●>) 「事件の真相が書き足した、偽りが眠っているんです」
 
(´・ω・`) 「……!」
  
 事件の真相が書き足した、偽りか。
 
 十年前の事件。
 犯人は兄者。
 夜にしか目撃できなかった。
 兄者は突き落とした時に目撃した。
 
 ロジックが導き出した四つの新事実。
 まだ、偽りが残っている。
 
.

95名無しさん:2018/11/05(月) 21:59:52 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「でもなァ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「聞いてくれ   聞いてくれッ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「貞子を殺したかったわけじゃない!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「違うんだッ!!」
 
 犯人は兄者。
 彼の動揺を見るに、疑いようはない。
 果たして、ほんとうにそうだろうか。
 
 兄者は突き落とした時に目撃した。
 その時以外で、貞子を目撃できるタイミングなんてない。
 果たして、ほんとうにそうだろうか。
 
 
( <●><●>) 「殺意がなかったのは認められている!」
 
( <●><●>) 「突発的な事件だったことに疑いはないんだ!」
 
 殺意はなかった。
 突発的な事件だった。
 
 十年前に、一切の殺意はなかった。
 有無山の選択、紅葉狩りの提案、兄者の持込品。
 確かに、虫取り網をジョークで持ってくるような男に、計画性はなかったはずだ。
 
.

96名無しさん:2018/11/05(月) 22:00:12 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は貞子に相談を持ちかけられた!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「それも、あの夜、急に、だ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「だから俺は、夜、崖で二人きりで会ったんだ!」
 
 兄者が貞子を突き落としたのは突発的だった。
 それは疑いようのない事実だろう。
 
 しかし。
 それでも、出てくる要素そのすべてに、猜疑心が芽生える。
 証拠のない今、その一つひとつを検討なんてできない。
 
( <●><●>) 「その結果、あなたに一瞬の衝動が走っただけ」
 
( <●><●>) 「それは、一切疑っていない!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「そもそも!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「突き落とそうと思ったわけですらない!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「貞子は、バランスを崩したんだ!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「落ちそうになったんだ!!」
 
.

97名無しさん:2018/11/05(月) 22:01:55 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 落ちそうになった?
 待て。
 そもそも、突発的な殺意で突き落としたわけでもなかったのか?
 
 
( <●><●>) 「…!」
                   、 、 、、
( <●><●>) 「では、貞子を、助けようと思って……?」
        、 、
( ::;゚_ゝ::) 「俺は落ちそうになって、思わず手を……」
 
(;´・ω・`) 「!?」
 
( <●><●>) 「俺、は?」
 
 
( <●><●>) 「ちょっと待ってください」
          、 、 、、 、、 、、
( <●><●>) 「落ちそうになったのは、あなたなのですか!?」
 
 
.

98名無しさん:2018/11/05(月) 22:03:25 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「気がついたら目の前に崖が……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ん……?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「違う……俺は……俺は?」
 
 見るからに、兄者が混乱している。
 焦点があっていない。
 視線が、妙な方向に向かっている。
 
 夜。
 崖を舞台に選んだのは、単に夜ながらにして景色がよかったからだろう。
 吹き込んでくる風に風情を感じた、程度だろう。
 
 新たな問題は位置関係だ。
 兄者が貞子を突き落としてしまった、十年前の構図。
 
               、 、 、 、 、 、 、、 、 、、
 どうしてそこで、崖側の人間が誰だったかを混乱する?
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「落ち着いて聞いてくれ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺はいま、混乱している」
 
( <●><●>) 「わかっています」
 
( <●><●>) 「……深呼吸して、教えてください」
 
.

99名無しさん:2018/11/05(月) 22:03:50 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「結果として、俺は貞子を崖下に突き落としてしまった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「でも、決して、殺意なんてものは徹頭徹尾、なかった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「だがなァ、そんなもの信じてもらえねえだろう」
 
 兄者が流暢に語る。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「事故には違いなかったんだ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「だから俺は、俺は逃げた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ほんとうのことは証言しないで、」
 
 言葉の節々に、恐怖が感じられる。
 
.

100名無しさん:2018/11/05(月) 22:04:11 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「なるべく、事故、そう、事故だ、」
 
( ::;゚_ゝ::) 「事故として通るような、嘘の証言をした」
 
( ::;゚_ゝ::) 「確かに俺は逃げた!」
 
 兄者もわかっているのだ。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「それは認めるが、聞いてくれ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が貞子を実質的に押しちまったのはほんとうに事故」
 
( ::;゚_ゝ::) 「それで俺の人生が終わっちまうのは嫌だったんだ!」
 
 自分こそが、亡霊の真のターゲットであることに。
 
.

101名無しさん:2018/11/05(月) 22:06:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 言葉の節々に、感じられる。
 ほんとうに、兄者に殺意はなくて。
 貞子を突き落としてしまったのも、ほんとうに偶然。
 
 十年前の事件は、
 しかしほんとうに事故でもあった。
 
(´・ω・`) 「……」
 
 だと言うのに。
 なんだ、この、心臓を逆撫でするような、気持ちの悪い違和感は。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ただ、俺の昔からの癖だが」
 
( ::;゚_ゝ::) 「嘘を話しているうちに、嘘を演じているうちに、」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ほんとうは実際どうだったのかを忘れる節があるんだ」
 
 それは、既に何度か見られている。
 兄者は、自然のうちに嘘をつき、自分でさえそれに騙される傾向があった。
 
 ミセリとクックルの件なんかがそれだ。
 本当はクックルから交際の相談をされていたにも関わらず、
 それを周囲に隠そうとするあまり、自分ですら忘れてしまっていた。
 
.

102名無しさん:2018/11/05(月) 22:06:47 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「……まだ、あるんだ」
 
 冷静に、事実だけを取り出して考えれば、
 本来なら気づけるはずの、食い違い、相違。
 
 兄者は、それを自分で見つめなおすことができない男だ。
 だからこそ、新しい四つの事実に偽りが現れた。
 
 
 十年間閉じられたままだった、開かずの扉。
 そいつを開く鍵は、どこにある。
 
 
( <●><●>) 「それは十分わかりました」
 
( <●><●>) 「……十年前」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ッ!」
 
 露骨に震え上がる。
 十年もの間、自分を包み込んでくれていた偽りが剥がれたのだ。
 
 いま、自分を守ってくれる鎧はない。
 鎧に慣れ、鎧があることすら忘れてしまった兄者は、この上なく弱っていた。
 
.

103名無しさん:2018/11/05(月) 22:07:43 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( <●><●>) 「あなたは、朝に貞子を目撃した、と言った」
 
( <●><●>) 「またそれを、ヒッキー小森にも見せた」
 
( <●><●>) 「……合っていますか?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「そうだ」
 
( <●><●>) 「しかし、本当は違う」
 
( <●><●>) 「あなたは、夜、突き落としたその時に見た」
 
 
( <●><●>) 「……となると」
 
( <●><●>) 「貞子をヒッキーに見せたのも、その直後」
 
( <●><●>) 「そうなるのですか?」
 
 
 ワカッテマスの想像以上の察しのよさは、嬉しい誤算だった。
 僕が語るロジックの脆弱性を突いてもらえればそれでよかったのだが、
 それ以上に、僕と兄者が断片的に出す情報をくみ上げ、
 十年前の幻を、この上ない再現度で理解し、落とし込んでいる。
 
.

104名無しさん:2018/11/05(月) 22:08:17 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ヒッキー?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は朝に突き落として、直後に呼んだだけだが?」
 
( <●><●>) 「……」
 
 僕は、いままで多くの偽りを見抜いてきた。
 しかし。
 自身が放つ偽りに、そのまま飲みこまれる人はそういなかった。
 
 兄者は、ほんとうに、偽りに操られているのだ。
 偽りの鎧を、脱ぎきれてないでいる。
 もう鎧は脱がされているのに、まだ装甲を纏っている心地になっている。
 
 
( <●><●>) 「落ち着いてください!」
 
( <●><●>) 「あなたは、夜に貞子を突き落としたんだ」
 
( <●><●>) 「ヒッキーは、夜、貞子を見たのですか?」
 
.

105名無しさん:2018/11/05(月) 22:10:08 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ん?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「夜? ヒッキー? 呼んだ?」
 
( ::;゚_ゝ::)
 
 偽りは、あくまで人が為すものだ。
 間違えても、偽りに操られてしまっては、いけないのに。
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「どういうことだよ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「わかんねえよおおおおおおおおおお!!」
 
 
 ポケットの電話に手を伸ばす。
 
(´・ω・`) 「僕だ!」
 
( <●><●>) 「!」
 
(´・ω・`) 「至急、十年前の事故のファイルを見てほしい!」
 
 電話はワンコールで繋がった。
 アルプス県警捜査一課警部、
 三月イナリは一切の事情を問うことなく応じてくれた。
 
.

106名無しさん:2018/11/05(月) 22:10:44 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「要点はただひとつ!」
 
(´・ω・`) 「十年前の、ヒッキー小森の目撃証言だ!」
 
 ページの繰る音に続けて、流れるように話される。
 
 時間帯は 「朝」 。
 兄者に 「呼ばれて」 現場を目撃。
 貞子の状況と目撃証言が 「一致」 している。
 
 
(´・ω・`) 「なッ……」
 
 それってつまり。
 兄者が着続けてきた鎧と、まったく同じ。
 ヒッキーもまた、偽りの鎧をまとっていた。
 
 どういうことだ。
 兄者と口裏を合わせたのか。
 しかし、果たしてそんなことが、できるのか。
 
.

107名無しさん:2018/11/05(月) 22:12:56 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「了解、切るぞ!」
 
( <●><●>) 「どうでしたか」
 
 間髪入れずにワカッテマスが聞く。
 
(´・ω・`) 「……偽りだ」
 
( <●><●>) 「…!」
 
 
(´・ω・`) 「十年前の兄者の目撃証言と、一緒」
 
(´・ω・`) 「朝、崖下の貞子の様子を証言できている」
 
(;<●><●>) 「し、しかし!」
 
 わかっている。
 わかっているから、惑っているんだ。
 
 
(´・ω・`) 「兄者!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ンあァ!?」
 
.

108名無しさん:2018/11/05(月) 22:13:23 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「十年前!」
 
 十年前の時点では、兄者と同じ証言をするのは理に適っていた。
 しかし十年経った今、状況はまったく異なる。
 兄者と同じ証言をできてしまっていては、矛盾が生じるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「いつヒッキーを呼びだして、何を言った!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「もうわかんねえよ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「何がほんとうのことか、わかんねえンだ!!」
 
 別にヒッキーを擁護しているわけでもなさそうだ。
 完全に偽りに支配され、自分がわからなくなってしまっている。
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、確実なことだけを、話せ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「確実なのは、ヒッキーはいいやつッてことだけだ!」
 
(´・ω・`) 「……、……」
 
 
(;´・ω・`) 「はあ?」
 
.

109名無しさん:2018/11/05(月) 22:13:34 ID:tpAyMWjY0
支援

110名無しさん:2018/11/05(月) 22:16:26 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 勘弁してくれ。
 これ以上混乱されてしまうと、こっちまで混乱してしまう。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は夜に貞子を見て、コテージに戻った!」
          、、、 、 、 、、 、 、
( ::;゚_ゝ::) 「しょんべん行ってたヒッキーがな、出迎えてくれたんだ!」
 
(;´・ω・`) 「待て……」
 
(;´・ω・`) 「待て、待て」
 
 今まで一切出てこなかった情報が、次々出てくるぞ。
 もう一度、イナリちゃんにコールする。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺の汚れた服! 突き落とした時にできた怪我!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「   その全てを見れば!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「なにかあったのは気づけるはずなのに! 聞かないでくれた!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ただ一言、何かあったか、それだけ! それだけを聞いて!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は全てを話したよ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「あいつは俺をかばってくれた!」
 
.

111名無しさん:2018/11/05(月) 22:16:52 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「かばってくれたんだ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「額の傷だって、奴が、寝相が悪かったッて言ってくれたんだ!」
 
 なんとなく、状況は察しているのだろう。
 イナリちゃんの声が少し、低くなっていた。
 
(;´・ω・`) 「もう一度、調書の確認だ!」
 
(;´・ω・`) 「ヒッキーは、夜、起きていた!」
 
 イナリちゃんが驚いたような声を出す。
 
 
(;´・ω・`) 「   そんな証言、あったか!?」
 
 今度はページを繰る音もしない。
 イナリちゃんが即答した。
 いいえ。 ありません。
 
 
(;´・ω・`) 「    はァ!?」
 
.

112名無しさん:2018/11/05(月) 22:19:41 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 できるはずがない。
 夜に起きていたなら、どんな些細なことでも話すはずなのだ。
 でなければ、事実はどうであれ、疑われてしまうことになるのだから。
 
 事態は、サークル員の転落だぞ。
 取調で、夜の行動を聞かれて、ごまかすはずがない。
 
 
(;´・ω・`) 「………わかった! 切る!」
 
 ヒッキーはヒッキーで、何かしらの偽りをまとっていた。
 それは、何を意図してのことだ。
 
 
( <●><●>) 「それだけではありません!」
 
(´・ω・`) 「!」
 
( <●><●>) 「兄者はたった今、明らかに妙な発言をした」
 
                                、 、 、、、
( <●><●>) 「兄者は貞子を突き落とす時、怪我をした!」
 
( <●><●>) 「   ………これは、今までになかった証言です!」
 
.

113名無しさん:2018/11/05(月) 22:20:03 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
 け。
 怪我。
 
 調書に、イナリちゃんの報告に、兄者の証言に。
 どこに、怪我なんて描写があった。
 
 兄者は、この期に及んでまだなにかを、偽っているというのか。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
(´・ω・`) 「一緒に有無山に来ていないのに」
 
(´・ω・`) 「よくわかったな、ワカッテマス」
           、 、 、、、
( <●><●>) 「犯人としてできた怪我、ということは」
 
( <●><●>) 「十年間、それは怪我たりえなかった、隠された情報にしかなり得ない」
 
 こいつをヴィップに残してきたのは、大正解だった。
 僕自身、アルプスに行ったせいで、偽りを偽りと気づけないよう支配されていた。
 
 信頼できる後ろ盾がある。
 あとは、もう一度、歩き出すだけ。
 
.

114名無しさん:2018/11/05(月) 22:22:33 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「兄者」
 
( ::;゚_ゝ::) 「…ッ」
 
(´・ω・`) 「あんたが貞子を突き落とした時のことを……」
 
(´・ω・`) 「正確に話してくれ」
 
 兄者がよろめく。
 偽りに支配され、混乱しきっている兄者が。
 
( ::;゚_ゝ::)
 
 ふらふらしており、時折頭をさする。
 後頭部、前頭葉、続けて。
 額を、ゆっくり撫でた。
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「………俺は、貞子を突き落とした」
 
.

115名無しさん:2018/11/05(月) 22:23:05 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「その時」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺も転んで、危うく、俺まで落ちかけた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「額を……強く打ったんだ」
 
 兄者も一緒に転んだ。
 危うく落ちかけた。
 額を強く打った。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「誰にも聞かれなかった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「サークルのみんなは誰も気づかなかったし」
 
( ::;゚_ゝ::) 「警官にも聞かれなかった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「   ………ただ、」
 
 
(´・ω・`) 「待て」
 
(´・ω・`) 「誰も気づかなかったことを、どうしてヒッキーが気づいた」
 
.

116名無しさん:2018/11/05(月) 22:25:07 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺が夜中に、外から戻って来るところを見たからだ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「他の連中は、この傷は、寝相が悪かった程度にしか思わん」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ただ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ヒッキーだけは」
 
( ::;゚_ゝ::) 「この傷は夜、外でできたものだ、ッてわかる」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 冷静な思考能力は、戻りつつある。
 しかし、気を付けなければならない。
 どこに、無意識の偽りが眠っているかがわからないのだ。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「とにかく」
 
( ::;゚_ゝ::) 「転んだ拍子で俺は、崖下を見ていた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「見ようと思って見たわけじゃないんだ」
 
.

117名無しさん:2018/11/05(月) 22:26:51 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「…」
 
(´・ω・`)
 
(´・ω・`) 「?」
 
 じわり、と手汗がにじむ。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「転んで、思わず目を瞑った」
 
( ::;゚_ゝ::) 「目を開くと、そこは崖下だった」
 
( ::;゚_ゝ::) 「霧がなく、いやに月明かりがハッキリとしていた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「無防備な俺が見せられたのは、貞子の、転落したあとの姿だった」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「それが」
 
( ::;゚_ゝ::) 「あッ  まりにもトラウマすぎた」
 
( ::;゚_ゝ::) 「い……今でも……夢に見る……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺……は…ッ  崖が……たまらなく苦手なんだ……ッ!!」
 
.

118名無しさん:2018/11/05(月) 22:27:17 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 動悸が、激しくなる。
 
 
(;´・ω・`) 「兄者!」
 
(;´・ω・`) 「今からの僕の質問に、イエスかノーだけで答えろ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「がハ  ……ッ!」
 
 
 
(;´・ω・`) 「あんたは、貞子を突き飛ばした!」
 
 頷く。
 
(;´・ω・`) 「その弾みで、あんたも転んだ!」
 
 頷く。
 
(;´・ω・`) 「その時に、あんたは額を打った!」
 
 頷く。
 
(;´・ω・`) 「目を開くと、自分は崖下を見ていた!」
 
 頷く。
 
.

119名無しさん:2018/11/05(月) 22:28:11 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「ッ!!」
 
(´・ω・`) 「…………捕まえたぞ」
 
(´・ω・`) 「十年前の……事件ッ」
 
(´・ω・`) 「ほんとうの偽りを………!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「信じてくれ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「こればっかりは、本当にすべて、本当だ!!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「トラウマなんだ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「目を開けた瞬間、崖下だぞ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「それだけでも怖かったのに、ましてッ」
 
( ::;゚_ゝ::) 「自分が突き落とした貞子がその下に、横たわってるんだ!!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「何を間違えても、あの光景だけは絶対間違わねえ!!」
 
.

120名無しさん:2018/11/05(月) 22:30:44 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「………」
 
( ::;゚_ゝ::) 「何がおかしいんだよ!!」
 
 ゆっくり、兄者の後ろに立つ。
 硬直した兄者は、目でゆっくり僕を追う。
 
(´・ω・`) 「自分で言ってて、気づけないのか?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「なッ……」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「!」
 
 そして、兄者を背中から押した。
 
 
 
(;<○><○>) 「ッ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「     」
 
 
.

121名無しさん:2018/11/05(月) 22:31:12 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 無防備で、更に硬直した兄者だ。
 背中から強めに押すだけで、兄者はうつ伏せになるように、倒れる。
 
 崖下には落ちない。
 体の前面から倒れ、地面に伏す。
 
 
(;<●><●>) 「     ナニしでかしてんですか!」
 
(;<●><●>) 「警部!」
 
 一瞬固まった兄者が、瞬時に起き上がる。
 鬼の形相で、僕に肉薄してきた。
 
( ::;゚_ゝ::) 「……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「てめえ……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「なんのつもりだ……?」
 
 
 
(´・ω・`) 「転んで、目を開いた時」
               、 、 、、
(´・ω・`) 「あんたは、地面しか、見えなかっただろ?」
 
.

122名無しさん:2018/11/05(月) 22:32:32 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「どういうこ……」
 
( ::;゚_ゝ::) 「…………?」
 
(´・ω・`) 「転んだときに目を閉じるのは、当然だ」
 
(´・ω・`) 「転んで、額を打つのも仕方ないだろう」
 
 
 
(´・ω・`) 「だったら、よく考えてみろ!」
 
(´・ω・`) 「転んだ直後に開いた目で見える光景は、なんなのか!!」
 
 
 
                            、 、
(´・ω・`) 「それは、どう足掻いても、地面だ!!」
                、 、
(´・ω・`) 「間違えても、崖下なんて見れるわけがない!!」
 
(´・ω・`) 「だったら、どこで額を打ったッていうんだ!!」
 
.

123名無しさん:2018/11/05(月) 22:34:41 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「!!!」
 
 立ち上がった兄者が、尻もちをついた。
 眼球がぎょろぎょろ動いている。
 十年前の情景を思い浮かべながら、目を回している。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ッどういうことだ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺は間違いなく、貞子を見たんだぞ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「自分から見たわけでも、ないのに!!」
 
 
(´・ω・`) 「      ッ」
 
(´・ω・`) 「……そういう、ことか……」
 
 脳に電流が走った。
 たった今、十年前の事件の真相が、わかった。
 
 
 兄者は、まだひとつ、大きな誤解をしているんだ。
 
 
.

124名無しさん:2018/11/05(月) 22:35:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「……兄者」
 
(´・ω・`) 「あんたは、多くの真実を偽ってきたがために」
 
(´・ω・`) 「本来の真実を、見失っちまっている」
 
( ::;゚_ゝ::) 「認めるよ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「認める!」
 
 
(´・ω・`) 「だから代わりに、この、僕が」
 
(´・ω・`) 「十年前の真実を、教えてやろう」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「!?」
 
(;<●><●>) 「!?」
 
 
.

125名無しさん:2018/11/05(月) 22:36:48 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(;<●><●>) 「……できるのですか、警部!」
 
(´・ω・`) 「と、言っても、大枠は兄者が話した通りだ」
 
 
(´・ω・`) 「あんたは、夜、崖で貞子と会った」
 
(´・ω・`) 「何かの弾みで、結果的に、貞子を突き飛ばすことになった」
 
(´・ω・`) 「その時、兄者もバランスを崩して転び、額を打った」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「だから、そう言って……」
 
(´・ω・`) 「違う!」
 
(´・ω・`) 「十年前のあの時、ほんとうは!」
 
 
 
(´・ω・`) 「貞子はまだ、崖下に転落してはいなかったんだ!!」
 
 
.

126名無しさん:2018/11/05(月) 22:40:02 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「!?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「どうしてだ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「実際、転落してるんだぞ!!」
 
(´・ω・`) 「……矛盾ではあるが、偽りでない点」
 
( ::;゚_ゝ::) 「…!」
 
 
(´・ω・`) 「あんたが転んだのも」
 
(´・ω・`) 「額を打ったのも」
 
(´・ω・`) 「目を開けると同時に、崖下の貞子を見てしまったのも」
 
 
(´・ω・`) 「すべて、偽りでは、ない」
 
(´・ω・`) 「なのにそれはあり得ない。 物理的に、食い違う」
 
(´・ω・`) 「ここに、事件を解く鍵があったんだ」
 
.

127名無しさん:2018/11/05(月) 22:40:23 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「でも……!」
 
(´・ω・`) 「夜に貞子と兄者」
 
(´・ω・`) 「ふたりとも、ただ転ぶだけで、崖下に落ちまではしなかった」
 
 
(´・ω・`) 「おかしくなるのは、ふたりの位置だ!」
 
(´・ω・`) 「だいたい、危ないッてわかってる崖の、それも、暗い夜」
 
(´・ω・`) 「ちょっと転んだくらいで即転落するような位置で、話なんてするか!?」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「だったら、どうして貞子は崖下に……」
 
(´・ω・`) 「言うまでもないさ!」
 
 
 
(´・ω・`) 「真犯人がいたんだよ!!」
 
(´・ω・`) 「貞子を殺した、真犯人が!!」
 
 
.

128名無しさん:2018/11/05(月) 22:43:15 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「     」
 
( ::;゚_ゝ::) 「  なッ   」
 
 
(´・ω・`) 「一つひとつ、順を追って説明しよう」
 
(´・ω・`) 「まず、どうして位置が変わっていたのか」
 
(´・ω・`) 「そもそも、どうしてそれに兄者が気づけなかったのか」
 
 
 目を閉じると、僕にも浮かんできた。
 有無山の、現場となった、崖。
 かなりの高所で、一般人が見ても恐怖に目が眩む。
 
 
(´・ω・`) 「……舞台は、そこにいるだけで心臓が張り裂けそうな、高所」
 
(´・ω・`) 「崖だ」
 
.

129名無しさん:2018/11/05(月) 22:43:47 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「そこで、互いに悪気がなかったとはいえ、」
 
(´・ω・`) 「転んでもしてみろ」
 
(´・ω・`) 「………人間にとって、想像を絶する恐怖だ」
 
( <●><●>) 「!」
 
                    、 、 、、 、 、 、、 、 、、 、 、、
( <●><●>) 「ふたりとも転落すると勘違いして気絶したのですか!」
 
 
(´・ω・`) 「ただ転んだだけで気絶なんてできない」
 
(´・ω・`) 「まして、冷静に考えれば、相当運が悪くない限り、転落なんてしない」
 
(´・ω・`) 「だが、舞台が舞台だ」
 
(´・ω・`) 「そして何より」
 
 
  >        、 、 、
  >( ::;゚_ゝ::) 「貞子は、バランスを崩したんだ!」
  >
  >( ::;゚_ゝ::) 「落ちそうになったんだ!!」
  >        、 、
  >( ::;゚_ゝ::) 「俺は落ちそうになって、思わず手を……」
  >
 
.

130名無しさん:2018/11/05(月) 22:44:07 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「兄者自身が、口走っている!」
        、 、
(´・ω・`) 「誰が落ちそうになったかなんて、本来錯綜しないのに!」
 
(´・ω・`) 「すなわち、兄者も転落を危惧したッていう証拠なんだ!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「………」
 
( ::;゚_ゝ::) 「気絶……?」
 
 
(´・ω・`) 「額の傷は、その時にできた」
 
(´・ω・`) 「さて、次だ」
 
(´・ω・`) 「兄者は、目を覚ました」
 
 
(´・ω・`) 「気絶という非現実的な現象」
 
(´・ω・`) 「転落という非現実的な状況」
 
(´・ω・`) 「……自分が少しの間眠っていた、なんて、思わなかっただろうさ」
 
(´・ω・`) 「兄者視点で言えば、転んで、目を開けたら……ッてな風に思っちまうんだ」
 
.

131名無しさん:2018/11/05(月) 22:44:27 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「じゃ、」
 
( ::;゚_ゝ::) 「じゃあ……俺は……」
 
(´・ω・`) 「目を覚ますと、そこは崖下だった」
 
(´・ω・`) 「でも、倒れた時は、地面に伏していた」
 
 
(´・ω・`) 「ここまで来たら、ひとつしかあり得ない!」
                            、 、 、、 、
(´・ω・`) 「真犯人が、兄者を崖先まで移動させたんだ!」
 
(´・ω・`) 「顔だけ出して、目を開いた瞬間に………」
 
 
 
(´・ω・`) 「真犯人が突き落とした!」
 
(´・ω・`) 「貞子の無残な姿を、目に焼き付けさせるために!」
 
 
.

132名無しさん:2018/11/05(月) 22:44:49 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「                     」
 
 声にならない絶叫を、あげていた。
 真犯人の思惑通り、目に焼き付けられてしまった、貞子の無残な姿。
 
 兄者のトラウマとなって、この十年間、
 誰にも打ち明けることなく、自分のなかに押し込めてきた、偽りの真実。
 
 それが今、本当の真実を前に、浄化されていく。
 十年間抱え込んできたものが、消えたのだ。
 
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「だッ  誰だ!!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「俺と貞子を貶めた、その  真犯人は!!」
 
 
 
(´・ω・`) 「言うまでもないね!」
 
(´・ω・`) 「その男の名は、ヒッキー小森だッ!!」
 
.

133名無しさん:2018/11/05(月) 22:45:12 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ばッ…馬鹿な!!」
 
(´・ω・`) 「奴にしかできなかったことがふたつある!」
 
 
(´・ω・`) 「ひとつ! 貞子を突き落とし、兄者の場所を移動させた!」
 
(´・ω・`) 「ヒッキーが額の傷をかばったのは、兄者を守るためじゃない!」
 
(´・ω・`) 「移動の真実を、偽りたかったから!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「ッ!!」
 
 
 
(´・ω・`) 「もうひとつ!」
 
(´・ω・`) 「事件後の、目撃証言だ!!」
 
( <●><●>) 「!」
 
 
.

134名無しさん:2018/11/05(月) 22:45:38 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 目撃は 「朝」 。
 霧は 「なかった」 。
 
 犯人の兄者以外が、そんな証言をすることは、できなかった。
 本来ならば、できなかった。
 言い換えれば、こうだ。
 
 犯人だけは、そんな証言が、できる。
 
 
(´・ω・`) 「ヒッキーが、目撃証言をできた理由」
 
(´・ω・`) 「ヒッキーもまた、兄者と同じだ!」
 
(´・ω・`) 「夜!」
 
(´・ω・`) 「霧が無い時に!」
 
(´・ω・`) 「崖下に貞子がいるとわかっているから、目撃ができた!」
 
 
 
(´・ω・`) 「そしてそれは、真犯人にしかできない証言だ!!」
 
 
.

135名無しさん:2018/11/05(月) 22:46:05 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 →BGMここまで
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「ほ」
 
 兄者が、泣きそうな声を絞り出す。
 
( ::;゚_ゝ::) 「本当……なのか?」
 
(´・ω・`) 「……心当たりは、あったんじゃないのか?」
 
( ::;゚_ゝ::) 「!」
 
 
(´・ω・`) 「貞子が相談を持ちかけてきた、とは言うが」
 
(´・ω・`) 「実のところ、それはヒッキーの話だった、んだろう」
 
 
 
  >
  >( ´_ゝ`) 「ヒッキーと、繋がりはあったんじゃないかな、とは」
  >
  >( ´_ゝ`) 「思ってたよ」
  >
  >(´・_ゝ・`) 「え。 まじ?」
  >
  >( ´_ゝ`) 「いやあ……怪しいんだけどさ」
  >
  >( ´_ゝ`) 「ヒッキーと貞子、って見ると、確かにお似合いだな、とは思うんだ」
  >
 
.

136名無しさん:2018/11/05(月) 22:46:27 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「………」
 
(´・ω・`) 「ああ、言わなくていい、心に秘めておけばいい」
 
(´・ω・`) 「無理に、関係まで暴くつもりはないし、確かめる手段もないんだ」
 
 
(´・ω・`) 「貞子が、ヒッキーのことを好きだったのか」
 
(´・ω・`) 「あるいは、ヒッキーこそが貞子に迫っていたのか」
 
(´・ω・`) 「また別の、既に恋仲だったからこその相談かもしれない」
 
 
( <●><●>) 「お言葉、ですが」
 
 ワカッテマスが、切り出す。
 
( <●><●>) 「それは……断定させたほうがいいのでは」
 
( <●><●>) 「動機に、関わってきます」
 
(´・ω・`) 「いや。」
 
(´・ω・`) 「なんとなく、予想はできるんだ」
 
( <●><●>) 「と、言いますと」
 
.

137名無しさん:2018/11/05(月) 22:46:55 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「………」
 
(´・ω・`) 「ああ、言わなくていい、心に秘めておけばいい」
 
(´・ω・`) 「無理に、関係まで暴くつもりはないし、確かめる手段もないんだ」
 
 
(´・ω・`) 「貞子が、ヒッキーのことを好きだったのか」
 
(´・ω・`) 「あるいは、ヒッキーこそが貞子に迫っていたのか」
 
(´・ω・`) 「また別の、既に恋仲だったからこその相談かもしれない」
 
 
( <●><●>) 「お言葉、ですが」
 
 ワカッテマスが、切り出す。
 
( <●><●>) 「それは……断定させたほうがいいのでは」
 
( <●><●>) 「動機に、関わってきます」
 
(´・ω・`) 「いや。」
 
(´・ω・`) 「なんとなく、予想はできるんだ」
 
( <●><●>) 「と、言いますと」
 
.

138>>137ミス:2018/11/05(月) 22:47:28 ID:h25gk5nA0
 
 
 
(´・ω・`) 「その後、どうなったかを考えてみろ」
 
(´・ω・`) 「貞子は、」
 
 
(´・ω・`) 「どうしてか起きていたヒッキーに」
 
(´・ω・`) 「どうしてか殺されかけて」
 
(´・ω・`) 「どうしてか兄者が罪をかぶせられたんだぜ」
 
 
( <●><●>) 「………」
 
(;<●><●>) 「ッ!」
 
 ワカッテマスも、察しがついたようだった。
 夜の、貞子の兄者への相談。
 
 少なくとも、ヒッキーにとっても察しがついていた内容で、
 更にそれは、ヒッキーにとってはこの上なく面白くない話だった。
 
.

139名無しさん:2018/11/05(月) 22:49:21 ID:h25gk5nA0
 
 
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「…………」
 
( ::;゚_ゝ::) 「………………」
 
 
 
 結果として、ヒッキー小森は、亡霊に殺された。
 また、真実がわかった以上、兄者に殺人未遂の容疑がかかることはない。
 十年前の事件、動機を追究したところで、断罪する相手がいないのだ。
 
 亡霊は断罪することができない、か。
 まったくをもって、その通りだ。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「……」
 
( :;::_ゝ::) 「……」
 
 
 兄者は、そっと目を閉じた。
 次にその目を開いた時見えるのは、貞子がいない崖下なのだろうか。
 
 
.

140名無しさん:2018/11/05(月) 22:49:57 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 十年前の開かずの扉は、開かれることになった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

141名無しさん:2018/11/05(月) 22:50:32 ID:h25gk5nA0
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 
 くずおれた兄者を見つめていると、ポケットの電話が鳴った。
 ワンコール、ツーコールと鳴っているそれの、番号を見る。
 
 
(´・ω・`) 「…」
 
(;´・ω・`) 「…ッ!」
 
 
 発信者は、亡霊。
 開かずの扉の向こうに伸びる、十年後の事件。
 
 連続予告殺人事件を解決しなければならない時が、ついに来た。
 
 
 
.

142名無しさん:2018/11/05(月) 22:50:52 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 
  『ショボーン警部』
  『ヴィップ大学はご存じですよね』
 
 
  『明日の朝十一時』
  『ヴィップ大学に殺人予告を手配致しました』
 
 
  『ショボーン警部にお願いがございます』
  『盛岡デミタス、流石兄者と会わせていただきたいのです』
 
 
  『応じていただけない場合』
  『一般の方々に犠牲になっていただくつもりです』
 
 
  『もちろん、同伴者は、警部、あなた一人』
 
 
  『あなた以外の警官が、お見えになった場合』
  『如何なる説得、譲歩があろうと、応じるつもりはありません』
 
 
  『詳細は、明日の朝、十時』
  『追って連絡差し上げます』
 
 
 
.

143名無しさん:2018/11/05(月) 22:51:13 ID:h25gk5nA0
 
 
 
 
  『これが、私からの、最後の殺人予告です』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

144名無しさん:2018/11/05(月) 22:52:48 ID:h25gk5nA0
第九幕「偽りを捕まえろ」は以上です
次回第十幕「亡霊を捕まえろ」と終幕「成仏」で完結予定 まだ合計200レス以上あるんだけど、、、

145名無しさん:2018/11/05(月) 22:54:23 ID:mtW.QSwo0

過去の謎がとけてとりあえずスッキリ

146名無しさん:2018/11/05(月) 22:56:12 ID:o922bokA0
乙!
一つ謎が解けたけどまだまだ謎は多いな
本当にドキドキして面白いよ!

147名無しさん:2018/11/05(月) 23:27:59 ID:8obcPTjo0
うおおおおおお面白かったぞ乙!!!
解決編のアツさは尋常じゃない

148名無しさん:2018/11/06(火) 00:09:52 ID:qjzbqNB.0
乙ー!

残りの謎やら展開やら考えたら逆に後2、300レスで足りるのかと思った

149名無しさん:2018/11/06(火) 02:29:43 ID:wu5pSqx60
おつおつ!!
貞子は本当に誰が自分を殺したのかわからなかったんだな……

150名無しさん:2018/11/06(火) 04:09:33 ID:Pr/5L/QI0
つづきまだー!?

151名無しさん:2018/11/06(火) 13:36:45 ID:Bzmnqamg0
乙乙
今までの偽りシリーズの中で一番面白いわ

152名無しさん:2018/11/06(火) 19:36:22 ID:F3EWoKOE0
貞子には、出所後デミと一緒になる感じの余韻があるといいなぁ。

153名無しさん:2018/11/06(火) 21:11:47 ID:wauzFnzs0
デミタスとのフラグ一切ないのにやっつけでくっつけられても冷めるわ

154名無しさん:2018/11/06(火) 23:26:19 ID:Bzmnqamg0
ていうか出所できるわけがなかろう
四人殺してるんだぞ

155名無しさん:2018/11/07(水) 00:14:21 ID:f/NsJGoE0
そもそも塀の中に入るのか?今んところ本人証言しかないぞ

156名無しさん:2018/11/08(木) 12:30:33 ID:dA9M9K7M0
まだ電話切れてないなら
(´・ω・`)「犯人ヒッキーだったよ」
川д川「じゃあもうやめます」ってなりそうw
そうならないってことは一山もふた山もあるわけだし楽しみだ

157名無しさん:2018/11/08(木) 13:20:34 ID:SxnDGvRw0
トソンがまだ出てきてないし電車での事件の鍵を握ってそうだ
楽しみすぎてたまらん

158名無しさん:2018/11/08(木) 20:37:22 ID:XcQGTYOU0
>>156

盛り上がりもなく話が終わっちゃうなw

159名無しさん:2018/11/12(月) 13:03:43 ID:xK6i68yc0
今日か明日に続き投下したい
スレがageられてたら投下と思ってくれ
投下できてなかったら俺を縄で縛って棒で叩け

160名無しさん:2018/11/12(月) 13:04:23 ID:IPR0K2ig0
亀甲縛りはお任せあれ

161名無しさん:2018/11/12(月) 13:08:48 ID:gV/BLBQA0
丸太を用意して待つぜ

162名無しさん:2018/11/12(月) 14:20:42 ID:KPn2RCKk0
某で叩け?
よしまかせろ

163名無しさん:2018/11/12(月) 14:22:29 ID:KPn2RCKk0
ごめん間違えてageた……叩かれてきます……

164名無しさん:2018/11/13(火) 16:48:44 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    五月八日  午前九時三一分  ヴィップ大学
                             ─━┛
 
 
 
 先に触れておくと、私は人付き合いが苦手だ。
 多くの友人を持つ器用さなんて持ち合わせていない。
 
 だから、たとえばあの授業はこうだ、とか。
 試験にはどんな問題が出てくる、とか。
 そんな情報を得る手段に乏しい。
 
 
(゚、゚'トソン
 
 ヴィップ大学、五月八日のカリキュラム、全行程を休講とする。
 先週はおろか、昨日ですら発表されていなかった。
 今朝になって突然の発表だった。
 
 そんなの、わかりっこないだろう。
 よく考えてみると、私は友だちが少ないから、以前の話なのだ。
 
.

165名無しさん:2018/11/13(火) 16:49:25 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 もうひとつ。
 事件は起こっていた。
 
 いや、最初から整理するほうがいい。
 一限目があり、早くから私は学校に来ていた。
 教授も、学生も、平生の半分にすら満たなかったのはすぐに気が付いた。
 
 ただ、その時はまだ、疑っていなかった。
 いま、ヴィップ大学に何が起こっているのか。
 どうして急に全講義が中止となってしまったのか。
 
 なにも疑わずに、いつも通り、教室に向かった。
 すると黒板に、一枚の紙が貼られてあった。
 
 
 本日は全授業が休講です。
 大学の緊急メンテナンスを行うため、速やかに帰宅するように。
 
 これは、なんの冗談だ。
 大学の緊急メンテナンスなんて聞いたことがないぞ。
 
 私はその張り紙を見て、すぐに窓から敷地内を見下ろした。
 人通りが、確かに、少なかった。
 それも、スーツ姿の、他学部の教授だろうか、警備員かもしれないが、
 そんな多くの男性が、忙しなく敷地の上を歩き回っていた。
 
.

166名無しさん:2018/11/13(火) 16:50:01 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 こんな時、友人のネットワークを多く持つ人なら、情報共有からはじまるだろう。
 いったい何があったのかの、確認。
 あるいは、自分からの、緊急メンテナンスという情報の発信。
 
 私には、何もなかった。
 友だちがいないなんて関係ないのだからこの際どうでもいい。
 ただ、それ以上に、何が起こったのかがこの上なく気になった。
 
 
(゚、゚'トソン
 
 最初は、変なこともあるんだな、と思った。
 ある種の諦め、とでも言える。
 
 せっかくの変な日なのだ。
 誰もいない教室内でごろっとして、突然暇になったことを噛みしめていた。
 大学生というのは、多忙なのである。
 
(゚、゚'トソン
 
 ごろごろするのに飽きた頃、私はまた、窓から下を見下ろしていた。
 見たことない男性が多く見受けられるが、
 なかには何かの講義で見かけたことのある初老の教授もいた。
 
 顔色がおかしい。
 やっぱり、何かあった。
 その時になってはじめて、私は重い腰をあげたのだ。
 
.

167名無しさん:2018/11/13(火) 16:51:17 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 情報を知りたいが、緊急メンテナンスなんて言い出しているのはあくまで大学側だ。
 学生部に聞きに行っても、メンテナンスはメンテナンスだよ、などとあしらわれる。
 
 私と同じ境遇の人を見つけて、事情を聞くのがいいだろう。
 私は人付き合いが苦手だが、いざ声をかけてみればなんとかなると信じる。
 
 となると、誰に声をかけようか。
 なるべく気が弱そうで、状況をある程度は飲みこめていなさそうな、女性がいい。
 教室から出て一階に降りながら、ひっそりとターゲットを探した。
 
 
(゚、゚'トソン
 
 ある方角を見て、ぴたりと足が止まった。
 湧き上がってくる懐かしい記憶。
 忘れかけていた戦慄、焦燥、混乱。
 
 どうしてこの人がこの場にいるんだ。
 たった一人を見ただけで、それまでの違和感の全てが、別の意味に変わってしまった。
 
 
 唐突な全行程休講。
 その名目は大学の緊急メンテナンス。
 もちろん前日までにそれらしき兆候なんてものは見られなかった。
 
 また朝も早いというのに敷地内を忙しなく徘徊する男性陣。
 一切の事情が説明されておらず、戸惑っている学生も多い。
 
.

168名無しさん:2018/11/13(火) 16:51:29 ID:M8bbK4W.0
こんな時間だとおぅ

169名無しさん:2018/11/13(火) 16:52:23 ID:0on9OJjc0
 
 
 
( ´・ω・)
 
 絶対に。
 絶対に忘れるはずのない顔。
 
 見た目こそ、スーツの上にトレンチコートを羽織っているだけ。
 知らない人が見れば。
 というか、私以外の誰が見ても、教授かそれに類する人だと思うだろう。
 
 違うぞ。
 この人は、刑事だ。
 
 ヴィップ県警捜査一課に勤める警部。
 誰が呼んだかイツワリ警部。
 昨今お茶の間を騒がせている連続予告殺人事件を担当している人なのだ。
 
 
(゚、゚'トソン
 
(゚、゚'トソン 「………」
 
 すべてに合点がいった。
 警部はいま、連続予告殺人を担当している。
 そんなお方が、いまヴィップ大学を歩いている。
 
 ヴィップ大学は本日五月八日、突然の休講に見舞われている。
 誰もが決して納得しないであろう理由を引っ提げて。
 
.

170名無しさん:2018/11/13(火) 16:53:06 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「…ッ」
 
 経済学部棟のほうに向かっていく。
 見失わないように、それまで小走りだったのが、全力疾走に変わった。
 
 向こうに気づかれてもいい。
 別に後ろから忍び寄って驚かしてやろうなんてサプライズ精神も持ち合わせていない。
 
 いつぞやぶりの再会。
 それに感動したい気持ちもあれば、
 たった今ヴィップ大学を覆っている暗雲、
 それについて聞きたい気持ちもある。
 
 
(゚、゚;トソン 「警部ッ!」
 
       '_
( ´・ω・) 、
 
 自動ドアを抜け、馴染みのないエントランス、
 警部はエスカレーターに乗ろうとしていたところだった。
 
 ぱッと見たところ、エントランスには私と警部以外誰もいない。
 当然だ、多くの男性陣が、学生や職員に帰宅を命じているのだから。
 
.

171名無しさん:2018/11/13(火) 16:53:42 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 私は、わかりましたァ、でも忘れ物だけ、と返してやり過ごしている。
 思えば、このある種の野次馬精神こそが、私を事件体質たらしめているのだと思う。
 
 
 事件体質、というのは。
 私、都村トソンは、いつからだろうか。
 事件、それも殺人や誘拐といった刑事事件に巻き込まれることが多いのだ。
 
 そんな小説みたいな体質、あるわけがなかろう。
 昔からそう一笑に付してきた節こそあるが、
 この歳になってあらためて振り返ってみると、
 藪をつついて蛇を出すことが多い人生だったとも思う。
 
 それと事件体質は、直接的には関係ないのだろうけど。
 どうしても、日頃の行いというオカルトめいた何かを信じたくなる。
 
 
(´・ω・`) 「え、」
 
(゚ー゚;トソン 「やっぱり!!」
 
(゚ー゚;トソン 「久しぶりじゃないですか! 覚えてますか!」
 
(´゚ω゚`) 「んなアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
 
 私と警部しかいないエントランスに、
 もう中年も中年である警部の、情けない絶叫がこだました。
 
.

172名無しさん:2018/11/13(火) 16:54:24 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
 
                                   |`ヽ       /|
                                   |.  \    /. i
                                   |   ヽ /   ノ
                                  !     `ー‐- '、
                                  |           .、
                                 l            !
                               r---ゝ           !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                                l  :::::::::::::::゙ 、     _| n
    イツワリ警部の事件簿   File.4      `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
                              く  l  lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
       第十幕   「 亡霊を捕まえろ 」     '  '、-_l  ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
                                ` ..‐,,..、 丶、  冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
                             ,'  /´      ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                            | l   ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
                            ¦ !   ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
                             Y    ;:::::::::│ /   `――\/::::|
                             l     ,,;:::::::::l /    :::::::::'、:;:;、;;|
                            /  ,,;;::::::::::::::://        l:::::::l
 
.

173名無しさん:2018/11/13(火) 16:55:07 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    午前十時〇四分  ヴィップ大学
                         ─━┛
 
 
 
(;´・ω・`) 「なんでえ!? なんでえ!?」
 
(゚ー゚;トソン 「うっわ懐かしい声……」
 
(゚ー゚;トソン 「警部! どうしてここにいるんですか!」
 
(;´゚ω゚`) 「シャラーーーーーーップ!!」
 
(;´゚ω゚`) 「………大声で、警部、ッて言うんじゃない……!」
 
(゚、゚;トソン ?
 
 
 因縁だ。
 因縁なのだ。
 
 因縁以外の何物でもないのだ。
 
.

174名無しさん:2018/11/13(火) 16:55:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 確かに僕は、長年刑事を勤めている。
 そのなかで、多くの人間を見てきた。
 
 一期一会の人間が多ければ、なにかの縁で再会する人間もいる。
 僕が逮捕した人間に恨まれることもあれば、
 僕が救った被害者家族から感謝される付き合いもある。
 
 ただ。
 そんな刑事人生のなかで、一際異彩を放つ存在がいた。
 
 どうしてか、どおしてか、
 まるで後でもつけているかのような頻度で、
 僕が扱う事件に巻き込まれる、あるいは首を突っ込む女の子だ。
 
 
(゚、゚;トソン 「警部は……警部ですよね」
 
(゚、゚;トソン 「あれ、もしかして……リストラ?」
 
(´゚ω゚`) 「ンなわけあるかい!」
 
(´゚ω゚`) 「バリバリ現役の敏腕刑事じゃい!」
 
(゚、゚トソン 「大声…」
 
(´・ω・`) 「あっ…」
 
.

175名無しさん:2018/11/13(火) 16:56:17 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 都村トソン。
 通称事件体質。
 
 いつ出会ったのかすら覚えていない。
 彼女が高校生だった頃に、特に何度も出会った記憶がある。
 
 いま、何歳なのだろうか。
 少なくとも、大学生と呼べる歳で、実際大学生なのだろう。
 大学生じゃないのにこの場で出会ってしまったとしたら、それは災いだ。
 
 
( ´・ω・) 「……」
 
(´・ω・`) 「ちょっと、ついてきて」
 
(゚、゚トソン 「えっ」
 
 周囲には、誰もいなさそうだ。
 だが、念のため、適当な教室に隠れよう。
 
 トソンちゃんを連れて、ちいさな教室に入った。
 事態を飲みこめていないであろうトソンちゃんは、黙ってきょろきょろしていた。
 
(´・ω・`) 「ちょっと座っとくか」
 
(゚、゚トソン 「…」
 
.

176名無しさん:2018/11/13(火) 16:56:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 トソンちゃんとは、ここ最近、会っていなかった。
 連絡先は知っていたが、そもそもが刑事と女学生。
 よほどのことがない限り、連絡を送り合うようなことはなかった。
 
 連絡をやるまでもなく、この子の場合、
 勝手に僕の行動範囲内に突っ込んでくるのだけど。
 
 
(゚、゚トソン 「えっと」
 
(゚、゚トソン 「なんだろう……」
 
(´・ω・`) 「どしたの?」
 
 大学の机というものはこんなに奥行きが狭いのか。
 トソンちゃんが妙に近くて、目のやり場に困る。
 
 歳を取り、大学生になっていただけあって、さすがに美人にはなっていた。
 一番は、化粧を覚えていたところにあるのだと思うけども。
 
 
(゚、゚トソン 「次、警部に会ったら、どんな話を聞こう」
 
(゚、゚トソン 「とか。 いろいろ考えてたハズなんですけど…」
 
(゚、゚トソン 「いざ会ってみると、話のタネなんて、全然浮かんでこないですね」
 
.

177名無しさん:2018/11/13(火) 16:57:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「なんかね、毎回事件の話聞いてくるけど」
 
(´・ω・`) 「きみと会う時ッて、だいたい余裕がない時なんだよ」
 
 特に今、この瞬間、
 僕は言ってしまえば、今年最大の事件と戦っているのだから。
 
 
(´・ω・`) 「わかるゥ?」
 
(゚、゚トソン 「余裕のない大人にはなりたくないな…」
 
(´゚ω゚`) 「わかれこの野郎!」
 
 親子ほど離れている、と言っていい年齢差だ。
 本来、一般人は、刑事というものにある程度は畏縮するはずなのに。
 
 トソンちゃん本来の性格もあるのだろうけど、
 互いがいじりいじられの微妙な関係が、何年間もかけて築かれていた。
 
 
(゚、゚トソン 「あ、あ。」
 
(゚、゚トソン 「刑事はいないんですか。 刑事」
 
(´・ω・`) 「ワカッテマス?」
 
.

178名無しさん:2018/11/13(火) 16:58:53 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 トソンちゃんは、ショボーン班の古株とは面識がある。
 具体的に言えば、ワカッテマス、ぎょろ目、ペニーだ。
 壁とは面識はなかったとは思うんだがな。
 
(´・ω・`) 「いま、事情があって、僕ひとりだ」
 
(゚、゚トソン 「事情、って」
 
 
(゚、゚トソン 「……例の、連続殺人ですか」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 恐ろしく察しがいいのか、女の勘ッてやつなのか。
 この場での即答は想定していなかったので、思わず答えに詰まった。
 
 
(´・ω・`) 「し、知っているのかい?」
 
(゚、゚トソン 「何かで見ましたよ」
 
(゚、゚トソン 「警部が担当する……って話」
 
.

179名無しさん:2018/11/13(火) 16:59:43 ID:H3jyKtig0
支援
ここで巻き込まれ体質の人キター

180名無しさん:2018/11/13(火) 17:00:06 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「そ、そうか」
 
 一般市民は、誰が担当するかなんて、一切興味がないと思うのに。
 つくづく、異彩を放つ子だ。
 
(゚、゚トソン 「……あの、警部」
 
(´・ω・`) 「ん」
 
(゚、゚トソン 「今日、実は、大学、休みなんですよ」
 
(゚、゚トソン 「いきなり。 それも、緊急メンテナンス」
 
(´・ω・`) 「ふんふん」
 
 
(゚、゚トソン 「……次の予告が、ここにきたのですよね?」
 
(´・ω・`) 「実は、ッて、なんで断定してんのさ!」
 
 きたのですか、だろう、ふつう。
 別にこの子には隠すつもりはないけども。
 僕がこの場にいて、この子が僕の担当を知っている時点で、隠し通せはしない。
 
.

181名無しさん:2018/11/13(火) 17:01:00 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「逆に、どォーして、トソンちゃんはここにいるのよ」
 
(´・ω・`) 「休講の告知はもう出されてるし、職員も避難勧告出してんのに」
 
(゚、゚トソン 「気になったから」
 
(´・ω・`) 「気に……」
 
 理由になってないぞ。
 
 
(´・ω・`) 「まあ、いいよ」
 
(´・ω・`) 「知られちまったのなら、仕方ないさ」
 
 毎度毎度、この子を事件に巻き込ませないために、僕は頑張っているんだ。
 実際どうなってきたかはさて置いて、
 僕は個人的な面識があるからといって、一般市民扱いしないことはない。
 
 亡霊の凶刃に、もちろんトソンちゃんも晒すわけにはいかない。
 いかない、ものの、下手に隠したら余計に厄介なのも経験済みだ。
 
.

182名無しさん:2018/11/13(火) 17:01:44 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「いいか」
 
(´・ω・`) 「あくまでこれは、捜査機密だ」
 
(゚、゚トソン 「もうそんな関係じゃないでしょ」
 
(;´・ω・`) 「あのねえ! こっちは真面目に言ってんの!」
 
 なに事件体質を開き直って良いことであるかのようにしているんだ。
 しかも以前より、いくらか饒舌になっている。
 
 
(´・ω・`) 「げぇほん!」
 
(´・ω・`) 「お察しの通りだよ」
 
(´・ω・`) 「例の事件の犯人が、次はこの大学宛てに予告を出した」
 
(゚、゚トソン 「……」
 
 やっぱり、と言いたげな顔色だ。
 どこまで言うかが悩ましいものの、当たり障りのないことだけ話そう。
 亡霊の話なんかをしたって、トソンちゃんには関係ないのだ。
 
.

183名無しさん:2018/11/13(火) 17:02:20 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「僕は大学に、箝口令を命じた」
 
(´・ω・`) 「また、大学を今日一日、止めるよう指示した」
 
(´・ω・`) 「いま避難勧告を出して回っているのも、事件に巻き込ませないためだ」
 
(゚、゚トソン 「そういうのって、実際効き目あるんですか?」
 
(´・ω・`) 「トソンちゃんみたいな子が多いから効き目薄いんだよ!」
 
 まあまあ、と僕を制してくる。
 いったい誰のつもりなんだ。
 
 
(´・ω・`) 「で、犯人の要求はふたつ」
 
(´・ω・`) 「ターゲットを大学に連れてくること」
 
(´・ω・`) 「僕ひとりだけが来ること」
 
(゚、゚トソン 「…!」
 
(´・ω・`) 「だから、ワカッテマスもペニーも、ここにはいないぜ」
 
.

184名無しさん:2018/11/13(火) 17:02:45 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ここで、単なる野次馬精神で、
 ターゲットはどんな人だ、とか聞かれたら面倒だな。
 なんて構えてはいたが、さすがにトソンちゃんもそこまで無神経ではなかった。
 
(゚、゚トソン 「……」
 
 鼻を鳴らし、何度か頷く。
 
(´・ω・`) 「そんな具合だな」
 
(´・ω・`) 「今はまだ時間があるからこうして構ってあげられるけど」
 
(´・ω・`) 「今回ばかりは、たとえトソンちゃんだろうとだめだ」
 
(´・ω・`) 「無理にでも帰ってもらうよ」
 
 
(゚、゚トソン 「でも、犯人って、関係ない人を殺すつもりはないんでしょ」
 
(´・ω・`) 「いや、その可能性が低くはないから、みんな自宅に帰してるんだ」
 
(゚、゚トソン 「…!」
 
.

185名無しさん:2018/11/13(火) 17:03:46 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 おっ。
 今のは効いたかな。
 
 トソンちゃんは、事件体質でこそあるものの、
 自分にまで被害が及びかねないことをよしとするわけでは決してない。
 
(゚、゚トソン 「……そうですか」
 
(´・ω・`) 「ごめんねえ。 終わったら今度、飲み行こうよ」
 
(´・ω・`) 「もう、お酒飲める歳なんだろう?」
 
(゚、゚トソン 「お酒は、いや……」
 
 
(゚、゚;トソン 「あっ!」
 
(´・ω・`) 「えっ」
 
 急になんだ。
 思わずトソンちゃんの視線の先を追ってしまった。
 誰か、それこそ亡霊が後ろにでもいたんじゃないか、みたいな。
 
 そこには、人も車も少ない、駐車場しか広がっていなかった。
 経済学部棟の裏には、駐車場があるようだ。
 
.

186名無しさん:2018/11/13(火) 17:04:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚;トソン 「警部、警部……」
 
(´・ω・`) 「な、なんだなんだ」
 
 トソンちゃんが急に縮こまり、僕に耳打ちしてきた。
 顔色からして、ふざけるつもりはなさそうだけど。
 
 
(゚、゚トソン 「………地下鉄で殺人って、ありましたよね」
 
(´・ω・`) 「え」
 
(´・ω・`) 「あったけど……何。」
 
(゚、゚トソン 「………その車両に、私、乗ってたんですけど……」
 
(´・ω・`) 「へえ……え?」
 
 
(;´・ω・`) 「えっ?」
 
.

187名無しさん:2018/11/13(火) 17:04:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 前言撤回だ。
 決して、彼女の秘めたる野次馬根性が原因ではない。
 
 得体の知れない力によって備わっているのだ。
 都村トソンという女の子の持つ事件体質というものは。
 一緒に旅行に行きたくない友だちナンバーワンだろう。
 
(;´・ω・`) 「乗ってたッて……」
 
(;´・ω・`) 「その駅にいたとか、じゃなくて?」
 
(゚、゚トソン 「車両です」
 
(゚、゚トソン 「……目の前、とかじゃなかったけど、同じ車両でした」
 
(;´・ω・`) 「………」
 
 きみが殺ったんじゃないだろうな。
 冗談半分で言いかけたそれを、ひっこめる。
 
 
(´・ω・`) 「取調は、受けたのかい?」
 
(゚、゚トソン 「受けましたよ、一応」
 
.

188名無しさん:2018/11/13(火) 17:05:15 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ただ。
 気まずそうな声で、続ける。
 
(゚、゚トソン 「ちょっと、悪酔いしてたのもあって」
 
(゚、゚トソン 「大した証言も、できなかったんですけど……」
 
(´・ω・`) 「ふむ」
 
 さすがに、地下鉄殺人の乗客全員分のデータなんて確認していない。
 スポットが当たっていない以上、価値ある証言は取られなかったんだろう。
 
(´・ω・`) 「一応聞かせてくれるかな」
 
(´・ω・`) 「当時の状況ッていうか、さ」
 
(´・ω・`) 「いま思うと、変だったなァ、ってこと」
 
(゚、゚トソン 「………」
 
 うーん、と唸る。
 これは期待できないか。
 
.

189名無しさん:2018/11/13(火) 17:05:47 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「なんか、こう……」
 
(゚、゚トソン 「何の前触れもなかったんですよ」
 
(゚、゚トソン 「気がついたら、前の方で、人が倒れる音がして」
 
(´・ω・`) 「音、か」
 
(゚、゚トソン 「それで私もチラッと見たんですがね」
 
 前の方、という言い方からするに、
 ある程度以上の距離はあったと見ていい。
 
(゚、゚トソン 「乗客が、円を作るように被害者から離れていきましたね」
 
(´・ω・`) 「その時ッてさ」
 
(´・ω・`) 「なんか、こう……露骨に離れてく人とか、いた?」
 
.

190名無しさん:2018/11/13(火) 17:06:37 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「いましたよ、そりゃあ」
 
(´・ω・`) 「ひとり?」
 
(゚、゚トソン 「いや、何人か」
 
(´・ω・`) 「そう、か」
 
 考えてみれば、当然のことではある。
 目の前で、いきなり人が刺されて、血だまりを作っているのだ。
 無関係だろうが、逃げたくなるのは仕方のない話だ。
 
 
(´・ω・`) 「………」
 
(´・ω・`) 「そっか」
 
 思わぬところで、思わぬ人物と間接的につながる。
 今回の事件で、改めて痛感した世界の狭さ。
 
 オオカミ鉄道、アスキーミュージアム、盛岡デミタス、
 三月ウサギと三月イナリに、都村トソン。
 今後、刑事を辞めても絶対忘れられない事件となるだろう、本件は。
 
.

191名無しさん:2018/11/13(火) 17:08:17 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 連続予告殺人にしてもそうだ。
 いくつかの因縁が、そのまま十年後に反映されている。
 
 流石兄者からはじまった因縁だ。
 アウトドアサークルを結成した。
 そこで集まったうち、芹澤ミセリとクックル三階堂は籍を入れた。
 
 ヒッキー小森と山村貞子は何かしらの関係を持ち、
 十年前、崖の上から貞子を落としたヒッキーは、兄者に罪をかぶせた。
 
 他方、就職したフッサール擬古は
 何かしらの人脈でもって貞子をかぶったと思われる。
 
 盛岡デミタスという、僕個人を知る男の存在が、
 本件の調査をスムーズにした部分もある。
 
 
(゚、゚トソン 「警部は、なにしてるんですか?」
 
(´・ω・`) 「へっ」
 
 そして亡霊から告げられた文言。
 これが、最後の予告。
 
 十年前から複雑に絡み合ったいくつもの因縁は、
 本日をもって終わろうとしている。
 
.

192名無しさん:2018/11/13(火) 17:08:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「犯人……捕まえるんですよね?」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 どこまで言おうか。
 下手なことを言って、よかった試しがない。
 相手が都村トソンなら、なおのこと。
 
 犯人に人質としてとられたことがある。
 犯人の手で記憶を飛ばされかけた過去がある。
 オオカミ鉄道で爆弾騒動に巻き込まれたことがある。
 
 毒物事件では図らずも彼女の祖父と会ったし。
 その祖父のつながりで極寒の地の密室殺人を共にした。
 そこでは、爆発からのホテルの倒壊なんて目にも遭った。
 
 
(´・ω・`) 「いまは、立地の確認だ」
 
(´・ω・`) 「犯人の逃走経路、隠れられる場所、エトセトラ」
 
(´・ω・`) 「いざ犯人を確保する時に必要な情報を、集めてるんだ」
 
.

193名無しさん:2018/11/13(火) 17:09:19 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊だって、事態を知らない学生が間違えて登校しているこのタイミングで、
 大々的な殺人だったり、動きを見せることはないだろう。
 
 しかし、兄者とデミタスを呼ぶ以上、亡霊は間違いなく、来るはずだ。
 遠隔的にふたりを殺すことは、相当難しいはずなのだ。
 
(゚、゚トソン 「そこから、どうやって逮捕するんですか?」
 
(´・ω・`) 「どうしてそれを聞くんだい?」
 
 ちょっと強めに、聞き返した。
 わかっているとは思うけど、これは遊びじゃないんだぞ。
 最悪の場合、またきみに被害が及ぶんだぞ。
 
 そんな気持ちを含ませて言ったが、
 トソンちゃんは一切怯える様子もなく、答えた。
 
 
(゚、゚トソン 「だって、これでもここの学生なんですよ」
 
(゚、゚トソン 「警部がわからないことだって、ある程度ならわかるんです」
 
(゚ー゚トソン 「………。」
 
 可愛らしく首を傾げた。
 なにか、聞きたいことがあったら答えてやるぞ、ッてな雰囲気だ。
 
.

194名無しさん:2018/11/13(火) 17:09:56 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「あんねェ」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 彼女が、ちゃんとした訓練を積んだ捜査官だったら、
 仲間として秘密裏に行動を共にするよう頼むだろう。
 
 まっぴら御免だ。
 一個人としてもそうだが、それは警察が許さない。
 
 
(´・ω・`) 「たとえば、なにさ」
 
(゚、゚トソン 「へ」
 
 許さない、が。
 有益そうな情報があるのなら、それだけは頂戴しておこう。
 
(゚、゚トソン 「たとえばッて……たとえば?」
 
(;´・ω・`) 「聞くなよ!」
 
.

195名無しさん:2018/11/13(火) 17:10:30 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚;トソン 「あれですよ!」
 
(゚、゚トソン 「人目につかない場所といえば、とか」
 
(゚、゚;トソン 「大学内を一望できそうな場所はどこか、とか!」
 
 
(´・ω・`) 「あ、ああ……。」
 
(´・ω・`) 「……そうだねえ」
 
 トソンちゃんにしてはいい着眼点だ。
 と褒めたいが、さすがに成人したら、頭もよくなっているものか。
 トソンちゃんがこの場にいる時点で、僕より学はあるわけだし。
 
 
(´・ω・`) 「今日、一日暇だよね?」
 
(゚、゚トソン 「え。 まあ」
 
(´・ω・`) 「ちょっと、そのうち電話するかもしんないから」
 
(´・ω・`) 「何かあった時に、電話させてもらっていい?」
 
.

196名無しさん:2018/11/13(火) 17:11:10 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「いいですよ」
 
(゚ー゚トソン 「……なんか、懐かしい感じがしますね」
 
(´・ω・`) 「なんで嬉しそうなのさ」
 
 今回ばかりは、軽い気持ちで事件に首を突っ込もうとしたら、怒るつもりだった。
 事の重大さを知っているのだろう、そんな発言は見られなかったが、
 わくわくというか、何かこう、楽しんでいる節は、少しだけ見受けられた。
 
 
(゚、゚トソン 「いまだから言いますけど」
 
(゚、゚トソン 「私、警部のこと、尊敬してますから」
 
(´・ω・`) 「へ」
 
(゚、゚トソン 「そんな人に頼りにされて、嬉しくない人は」
 
(゚、゚トソン 「あんまし、いないと思いますよ」
 
(´・ω・`) 「……」
 
.

197名無しさん:2018/11/13(火) 17:11:56 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ちょっと照れくさくて、つい目を逸らしてしまった。
 まるで、子に今までのお礼を言われた親のような気分だ。
 まさか、この子の口から、そんな言葉が飛んでくるとは。
 
 これは、事件が解決したら、度重なる飲みで財布が軽くなりそうだ。
 
 
(´・ω・`) 「どんだけおだてても、捜査には付きあわせないからね」
 
(゚、゚トソン 「はーい」
 
 やる気のない返事をよそに、もう一度時計を見た。
 確か、亡霊からの予告では、十時には連絡をよこすと言っていた。
 
 十時、二十分ほどだ。
 まだ電話はきていない。
 
 公的な予告でもないのだから、別段おかしいわけではない。
 ただ、それまでのことを考えると、引っかかる部分はあった。
 かといって、トソンちゃんと話している最中にかけられるよかマシだけど。
 
.

198名無しさん:2018/11/13(火) 17:12:27 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「……さっきから」
 
(゚、゚トソン 「ずっと時間気にしてますけど、何か?」
 
(´・ω・`) 「ん。 ああ、まあ」
 
 デート中の彼女みたいなことを言いやがって。
 何か、もなにも、目下事件担当中だ。
 
 
(゚、゚トソン 「……」
 
(゚、゚トソン 「警部」
 
(´・ω・`) 「なにさ」
 
(゚、゚トソン 「ほんとうに、ひとりで相手、するんですか?」
 
(´・ω・`) 「もちろん」
 
 犯人から、ひとりで来い、と言われたり。
 警察は来るな、と言われたりすることは多い。
 
 その時、どう動くかは事件次第だけど、
 今回は、僕の単騎は部下の全員が賛成した。
 
.

199名無しさん:2018/11/13(火) 17:13:01 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 なにも、面倒な上司はいないほうがいい、
 なんてナンセンスな考えではない。
 
 決着をつけるには、僕ひとりがベストだと判断してくれたのだ。
 いつもなら、やれ潜伏、やれ変装、など様々な案が出るのだが。
 ぎょろ目が、静かにみんなの待機の有無を確認してくれたくらいだ。
 
 ぎょろ目たちの応援は、断っておいた。
 ただ、近隣の所轄署に、待機を命じてある。
 有事にはすぐさま対応させるつもりだ。
 裏を返せば、その程度しか備えてはいない。
 
 
(゚、゚トソン 「……勝てるんですか?」
 
 兄者もデミタスも、今はキャリアセンターに預けてある。
 絶対的に安全なわけではないが、複数人が見ているなかでの殺害は不可能だ。
 指示がくるまでは、凶刃に晒すつもりなどさらさらない。
 
(´・ω・`) 「僕を、誰だと思ってるんだい?」
 
(´^ω^`) 「あの、偽りを見抜く敏腕刑事だぜ?」
 
.

200名無しさん:2018/11/13(火) 17:13:22 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「……」
 
 トソンちゃんは、笑わない。
 別に、僕のことを疑っているわけでないのはわかっている。
 
 ただただ、不安なのだ。
 トソンちゃんは、多くの事件を経験して、
 如何に事が深刻なのかは、容易に察しがつくのだ。
 
 
(゚、゚トソン 「あ、あの」
 
(´・ω・`) 「だめだぜ」
 
(゚、゚トソン 「怪しい人がいるかどうかを、教室から見下ろすくらい……」
 
(´・ω・`) 「僕と亡霊の、一騎打ちなんだ」
 
(゚、゚トソン 「亡霊…?」
 
(´・ω・`) 「おっと」
 
 思わず口が滑ってしまった。
 が、まあいいだろう。
 
.

201名無しさん:2018/11/13(火) 17:14:01 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「言葉のあや、さ」
 
(´・ω・`) 「犯人は、一度も姿を見せていない」
 
(´・ω・`) 「亡霊みてーだな、ッて、うちで話題になってたんだ」
 
(゚、゚トソン 「す」
 
 兄者と話してきたせいか、咄嗟の作り話がうまくなっていた。
 いま、兄者は、デミタスとどんな話をしているのだろうか。
 
 十年前の真実を、打ち明けているのだろうか。
 
 
(゚、゚トソン 「姿がわからないのに」
 
(゚、゚トソン 「どうやって、捕まえるつもりなんですか」
 
(´・ω・`) 「ある程度の情報は、入ってる」
 
(´・ω・`) 「そうだ。 怪しい女性、見なかった?」
 
(゚、゚トソン 「女性?」
 
.

202名無しさん:2018/11/13(火) 17:14:27 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 僕の暫定的なプランは、
 犯人の指示を受けたうえで、犯人がどこから何を企んでいるのかを、見抜く。
 
 亡霊のことだ、無理心中すら厭わない可能性も捨てきれない。
 指示された場所に、ふたりを連れていく最中に、
 後ろから特攻されるわけにはいかない。
 
 となると、猶予は、数分。
 もっと言うと、電話を切るまでの間。
 
 特定しようとしているのを察知されないよう、自然に。
 足音を殺して、数分で即座に、答えを出すのだ。
 今まで扱ってきた事件のなかでも、難度の高い条件だが。
 やるしかない。
 
(´・ω・`) 「見た目は、詳しくはわからない」
 
(´・ω・`) 「ただ、細い、不健康そうな女性ッてイメージだ」
 
(゚、゚トソン 「細い……もなにも」
 
(゚、゚トソン 「……おばちゃん、ではないんですよね?」
 
(´・ω・`) 「歳は、三十ほど」
 
(´・ω・`) 「老け顔、かはさて置いて、見るからに三十代でなかったら除外だ」
 
.

203名無しさん:2018/11/13(火) 17:15:05 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 十年ぶりの起床を遂げた亡霊が、
 現在どんな容姿になっているかは想像すらできない。
 
 事が事だ、異常に老けているかもしれない。
 ただ、痩せていることには違いないだろう。
 筋肉は衰弱しているはずなのだ。
 
 
(゚、゚トソン 「それは……見てないですね」
 
(゚、゚トソン 「スーツ着た、五十代くらいの恰幅のいい女性はひとり、見ましたが」
 
(゚、゚トソン 「見たことがあります、たぶん人事の人です」
 
(´・ω・`) 「その人は違うね」
 
 実際誰かはわからないけど、あらゆる条件が噛み合っていない。
 なるほど、しれっと騒動に紛れている線は薄いか。
 
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 ついに来た。
 050電話。 亡霊からのいざない。
 思わず僕は音を立てて立ち上がった。
 
.

204名無しさん:2018/11/13(火) 17:15:25 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「…!」
 
 声のトーンを落とし、ゆっくり扉のほうへ向かう。
 時刻は十時二八分。
 結構な遅刻だ、事情があったのだろうか。
 
 
(´・ω・`) 「……僕だ」
 
  『おはようござます。 ショボーン警部』
 
(´・ω・`) 「生憎だけど、犯罪者に朝の挨拶はしないことにしてるんだ」
 
  『犯罪者?』
 
 亡霊がクスクス笑う。
 機械を通したかのような声だ。
 
 しかし今思えば、転落の兼ね合いで、声帯を潰した可能性もあるのか。
 それとも、当人的には、亡霊たる演出に過ぎないのか。
 
 
  『言ったでしょう?』
  『亡霊は、罪を犯すことはできても、犯罪者にはなれません』
 
.

205名無しさん:2018/11/13(火) 17:15:56 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ゆっくり、廊下へと出る。
 そのまま、ゆっくり、建物の、外へ。
 
 
(´・ω・`) 「違うね」
 
(´・ω・`) 「犯罪は、足がある人間にしかできないんだ」
 
(´・ω・`) 「足のない亡霊は、そもそも犯罪なんてしようがない」
 
  『あら』
  『かばってくださるのかしら』
 
 
(´・ω・`) 「まったくの逆さ」
 
(´・ω・`) 「きみは、しっかり足の生えた、生身の人間だッて言ってるんだ」
 
  『足なんてとっくに燃やされたわ』
  『墓場を漁ったら、もしかしたらその時の骨が残っているかもね』
 
 まったくをもってくだらない。
 荼毘に付されたなら、その電話はどう握っているのだ。
 ほんとうに亡霊なら、テレパシーで予告してくるがいい。
 
.

206名無しさん:2018/11/13(火) 17:16:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「もういいだろう」
 
(´・ω・`) 「くだらない雑談で貰う給料なんて、ないんだ」
 
 周囲を見渡す。
 人気は、ほとんどない。
 初老の教授や、働き盛りのスーツ姿が見える。
 
 亡霊はどこだ。
 いま、僕を見張っているのか。
 
 
(´・ω・`) 「いま、兄者とデミタスは、安全な位置で保護している」
 
(´・ω・`) 「話がないなら、一生、逆恨みのチャンスはないぜ」
 
  『逆恨みですって』
  『この国では、逆恨みじゃなくて、復讐と言うのですよ』
 
 
(´・ω・`) 「復讐だと?」
 
(´・ω・`) 「復讐なら、とっくに済んでいるのだぞ?」
 
.

207名無しさん:2018/11/13(火) 17:16:55 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『と、言いますと』
 
 そうか。
 僕の推理が正しければ、
 貞子は、十年前、兄者に殺されたつもりでいるのだ。
 
 これは、いい武器だ。
 うまく使えば、あわよくば事件を未然に防げるかもしれない。
 
 十中八九叶わないと知っていても、
 亡霊を揺さぶるにはこの上ない武器に違いない。
 
 
(´・ω・`) 「大袈裟な復讐劇、ごくろうさん」
 
(´・ω・`) 「きみの狙いは、流石兄者。 違うか?」
 
  『も、ですね』
  『盛岡デミタスも、狙いです』
 
(´・ω・`) 「と見せかけて、だ」
 
(´・ω・`) 「きみは、サークルのみんなを抹殺することで、」
 
(´・ω・`) 「創設者であり、中心人物であり、」
 
(´・ω・`) 「自分を殺した男を、劇的に殺害する」
 
(´・ω・`) 「違うか?」
 
.

208名無しさん:2018/11/13(火) 17:17:15 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『……』
 
 亡霊が黙る。
 そこまで調べているのか、という意味で、いいのか。
 
  『半分、当たりです』
 
 
(´・ω・`) 「半分だけかい?」
 
  『確かに、兄者を殺すのが、第一目標でした』
  『ただ、やっぱり、サークルそのものを、ぶっ潰したかった』
  『私がいた痕跡を、消したいのです』
 
(´・ω・`) 「痕跡なんて、残ってないぜ」
 
(´・ω・`) 「十年前の一件は、事故として、処理されていた」
 
(´・ω・`) 「それ以降、警察は誰も、貞子という亡霊を、疑ってこなかった」
 
  『……』
  『事故、ですか』
 
 そうか。
 事故として処理されていることすら、ふつうはわからないのか。
 
.

209名無しさん:2018/11/13(火) 17:17:41 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「知らなかった、かな」
 
  『……』
 
 肝心なところで、沈黙が多い。
 ここらは、兄者と似通っている。
 やりづらい相手でこそあるが、こちらには、武器があるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「ならもう一個、教えてやろう」
 
(´・ω・`) 「これはおそらく、きみも知らないことだ」
 
  『なんでしょう』
 
 こちらのペースに、持っていけている。
 亡霊は、指示をそっちのけで、僕の話に集中しているのがわかる。
 
 
(´・ω・`) 「十年前にきみを殺したのは兄者」
 
(´・ω・`) 「……実は、昨日付で、その真実は更新された」
 
.

210名無しさん:2018/11/13(火) 17:18:10 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「きみを殺したのは、ヒッキー小森」
 
(´・ω・`) 「既にきみが殺した、あの男だったんだ」
 
  『!』
 
 亡霊が、露骨に反応した。
 息を詰まらせたかのような音だ。
 
 さて、どう、出る。
 もう 「復讐」 は済んでしまっていたのだぞ。
 
 
  『………』
  『なにを、根拠に』
 
(´・ω・`) 「兄者が自供したさ」
 
  『それはあり得ない』
 
(´・ω・`) 「…!」
 
.

211名無しさん:2018/11/13(火) 17:18:36 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 いま、僕は、かまをかけた。
 兄者は、確かに自供はしたが、
 始終、それも十年以上もの間、自分が犯人だと信じていた。
 
 ロジックの積み重ねが、それを否定したのだ。
 犯人はヒッキー小森だ、と示すことで。
 
 
  『犯人は、兄者なのです』
 
(´・ω・`) 「疑いたい気持ちは、わかる」
 
(´・ω・`) 「だが、真実は、違った」
 
 
(´・ω・`) 「兄者は、きみを突き飛ばした」
 
(´・ω・`) 「その弾みで、きみも兄者も、気絶した」
 
(´・ω・`) 「そこに現れたのが、ヒッキーだ」
 
(´・ω・`) 「気絶したきみを、崖の向こうに………落としたんだ」
 
.

212名無しさん:2018/11/13(火) 17:19:12 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『違う』
  『絶対にあり得ない』
 
(´・ω・`) 「どうして、そう言い切れる?」
 
  『それは』
  『…………』
 
 亡霊が押し黙る。
 亡霊本人にも、否定のしようがないのだ。
 なぜなら、本人視点で言えば、兄者に突き飛ばされて、記憶を失ったのだから。
 
 そこで転落したのか。
 第三者が割って入ったのか。
 亡霊には、証明のしようがない。
 
 
  『……』
  『なんでもいいです』
 
(´・ω・`) 「!」
 
.

213名無しさん:2018/11/13(火) 17:19:48 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『ここまできたら、後には引けません』
  『では約束通り、兄者とデミタスを渡していただきます』
 
(´・ω・`) 「どうしてだ」
 
(´・ω・`) 「きみの目的は、復讐じゃなかったのか」
 
(´・ω・`) 「もう、復讐は、終わったんだぞ」
 
  『理屈ではありません』
  『後には引けないのです』
 
(´・ω・`) 「いいのか?」
 
(´・ω・`) 「今までは出し抜かれてきたが、」
 
(´・ω・`) 「逆に言えば、いまここで逃げれば、きみは僕に勝てるんだぞ」
 
 亡霊は笑わなかった。
 真犯人の件で、頭がいっぱいなのだろうか。
 
 
  『なんですか、それ』
  『まるで、今日、私が捕まるかのような』
 
.

214名無しさん:2018/11/13(火) 17:20:20 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「捕まえてみせるさ」
 
(´・ω・`) 「亡霊を捕まえる………今日、この、僕が」
 
  『ッ』
 
 
 大見得でも、リップサービスでもない。
 もっと言うと、もしここで手を引こうが、逃すつもりはない。
 ただ、兄者とデミタスの安全が確定するなら、それに越した話はなかっただけだ。
 
 
  『……笑わせないでください』
  『何度も言ったでしょう?』
 
  『私は、亡霊』
  『どんな刑事でも、捕まえられない罪人』
 
 
(´・ω・`) 「……あと、数時間、すれば」
 
  『なんでしょう』
 
.

215名無しさん:2018/11/13(火) 17:20:41 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「きみの正体を、特定できる」
 
  『!』
 
(´・ω・`) 「約束通り、僕は、今日、ひとりで来た」
 
(´・ω・`) 「だがね」
 
(´・ω・`) 「裏では、何百人もの人間が、きみの正体を特定しにかかっている」
 
 
(´・ω・`) 「ヴィップだけではない。 アルプス県警も動いている」
 
  『なッ!!』
 
 亡霊が今までの非にならない声をあげた。
 それまでのか細い声が一転、太く、腹の黒さが窺える低い声だった。
 
 
  『いますぐ、やめさせなさい』
  『でなければ、』
 
(´・ω・`) 「ほんとうに、きみが亡霊なら、その必要もないだろう?」
 
  『ッ!』
 
.

216名無しさん:2018/11/13(火) 17:21:02 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「どんな刑事でも、捕まえられない罪人」
 
(´・ω・`) 「自分で言った言葉だぜ?」
 
  『関係ありません』
 
(´・ω・`) 「あるんだ、これが」
 
  『いますぐやめさせないと、一般人も、』
 
(´・ω・`) 「できるのか?」
 
  『なに?』
 
(´・ω・`) 「兄者とデミタスを殺して、お縄に掛かるならわかる」
 
(´・ω・`) 「長年の恨みを晴らせたんだ、きみ的には上々だろう」
 
 
(´・ω・`) 「でもなァ」
 
(´・ω・`) 「残りふたりは殺せないわ、それで足がつくわッてなったら」
 
 
(´・ω・`) 「十年の歳月は、すべてパァ」
 
(´・ω・`) 「なんともみっともない復讐劇の幕引きなんだぜ」
 
.

217名無しさん:2018/11/13(火) 17:21:31 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『……ッ』
 
(´・ω・`) 「加え、僕は」
 
(´・ω・`) 「事件が終わった暁には、すべてのストーリーを公表するつもりだ」
 
  『!』
 
(´・ω・`) 「どうして、きみが亡霊になったのか」
 
(´・ω・`) 「  ッてより、亡霊に、成り切っていたのか」
 
(´・ω・`) 「そんなとこから、ケツの、亡霊を逮捕するまで……すべて」
 
  『なッ…』
 
 
(´・ω・`) 「見せしめさ」
 
(´・ω・`) 「最近、呪いとか祟りを持ち出して人を殺すバカが、多いんだ」
 
 
(´・ω・`) 「実際は、こうも情けないんだぜッていう前例に、するんだ」
 
(´・ω・`) 「きっと、悪徳商法なんかも、少しは減るだろうね」
 
.

218名無しさん:2018/11/13(火) 17:22:03 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 電話越しに、亡霊の息遣いが荒くなってきているのが伝わる。
 気づかなかったか。
 きみは、自ら窮地に足を突っ込みつつあるのだぞ。
 
 亡霊のくせにある足を、だ。
 
(´・ω・`) 「さて、それでもきみは、兄者とデミタスを殺すんだろう?」
 
(´・ω・`) 「僕が、責任をもって連れていこう」
 
 
(´・ω・`) 「なに、ふたりを殺して、僕に捕まる前に成仏すりゃあいいだけだ」
 
(´・ω・`) 「違うかい?」
 
 とことん、亡霊を煽る。
 おそらく頭の切れる女なのだろうが、
 思っていた通り、プライドが高く、ペースを崩されることを嫌う人間だ。
 
 
 無論。
 兄者も、デミタスも、殺させるつもりはない。
 
.

219名無しさん:2018/11/13(火) 17:22:50 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『……まあ、いい』
  『最初の指示です』
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 最初の、だと。
 ふざけるな。
 この上なく、嫌な予感がしやがる。
 
 
  『流石兄者を、文学部学生課へ』
  『盛岡デミタスを、法学部学生課へ』
 
  『それぞれ、連れていくこと』
 
 
(´・ω・`) 「……なんだって?」
 
(´・ω・`) 「それでいいのか?」
 
 学生課、というと、要は職員室だ。
 かえって不利にならないのか。
 
.

220名無しさん:2018/11/13(火) 17:23:13 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『軽く見回ってみましたが』
  『結構、職員は多くいらっしゃる』
  『人が多いほうが殺しやすい。 当然の判断です』
 
  『先に言っておきますが』
  『これはあくまで、第一の指示です』
  『第二の指示があるまで、職員にも、ふたりにも、迂闊な行動はさせないように』
 
  『あなたもですよ、ショボーン警部』
 
(´・ω・`) 「………」
 
 
 まず真っ先に考えたのは、
 亡霊は当初、どうやってふたりを殺すつもりだったのか。
 
 予告は確かに受けたし、大学もそれに合わせて動いたが、
 僕が大学にどう指示を出すのか、それで大学がどう対応するのか。
 予告を出した時点での亡霊には、読みづらいはずだ。
 
 もし、僕ら以外が完全に無人だったら、どうだったか。
 確実に殺す方法を考え、トリックを用意しておかなければ、逃げようがない。
 どこで何が起ころうが、すべて亡霊の仕業になるのだから。
 
.

221名無しさん:2018/11/13(火) 17:23:37 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 というより、本来ならば、まずそちらを考えるはずなのだ。
 もし仮にある程度人がいたとして、したがって職員室を選ぶのは不自然だ。
 
 亡霊は奇妙なことを言った。
 第一の指示である、と。
 
 職員室を選んで、そこからターゲット以外を無人にするのだろうか。
 確かに、ふたりを分けるのは、理解ができる指示である。
 ふたりを固めるよか、よっぽど殺しやすい。
 
 そして、口走っていた、人が多いほうが殺しやすい。
 これはどういうことだ。
 地下鉄殺人よろしく、人混みに紛れて殺すつもりなのか。
 
 職員室である必然性。
 第二の指示の不透明感。
 人が多いことの優位。
 
 どう、捉えるべきか。
 
 
(´・ω・`) 「……わかった」
 
(´・ω・`) 「十分もあれば対応できる。 十分後に、もう一度電話をよこせ」
 
.

222名無しさん:2018/11/13(火) 17:24:00 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊は言った。
 
  『その時がくれば』
 
 そして、電話は切れた。
 不吉な予感こそ抱きつつも、ひとまず指示に従うしかない。
 
 歩いて、ふたりを預けてあるキャリアセンターに向かう。
 できれば何人か職員を同行させたいが、無駄なひんしゅくは買いたくない。
 あくまで指示は、迂闊な行動はさせるな、だ。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
 キャリアセンターには、学長をはじめ初老の男性が多く詰めていた。
 兄者とデミタスは、無言のまま、椅子に座っていた。
 
 
(´・_ゝ・`) 「……どうでしたか」
 
(´・ω・`) 「奴からの指示だ」
 
(´・ω・`) 「あんたは、法学部。 兄者は、文学部」
 
(´・ω・`) 「それぞれの学生課に、ひとまず向かってもらう」
 
.

223名無しさん:2018/11/13(火) 17:24:30 ID:awrZmDFg0
支援

224名無しさん:2018/11/13(火) 17:24:33 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「学生課……?」
 
(´・ω・`) 「意図は、正直言ってわからん」
 
(´・ω・`) 「ただ、察するに、一旦ふたりを分けようとしてるんだ」
 
(´・_ゝ・`) 「………」
 
(´^_ゝ^`) 「いっぺんに殺せば楽なのにね、あの子も」
 
(´・ω・`) 「言ってる場合か」
 
 デミタスなりのブラックジョークなのだろう。
 小心者のデミタスが落ち着いているのが、不幸中の幸いだった。
 
 いつ、自分が殺されるかわからない。
 そんな状況下で笑えるのは、大した肝っ玉と言わざるを得ない。
 先に、落ち着いているデミタスから連れていくことにした。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
( :::´_ゝ) 「……」
 
.

225名無しさん:2018/11/13(火) 17:25:30 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 寝れなかったのだろうか。
 トラウマに触れるだけでなく、偽ってきた過去を暴かれ、
 挙句己の親友が真犯人だったこと、自分がハメられたこと、
 その全てを知ってしまったがゆえに、兄者はやつれているようだった。
 
(´‐ω‐`)
 
(´・ω・`) 「これが終わったら、墓参りに行こう」
 
(´・ω・`) 「墓の前で、とことん怒鳴ってやれ」
 
( :::´_ゝ) 「……。」
 
( :::´_ゝ) 「………そうだな」
 
 
 学長に目礼を交わしつつ、デミタスを連れてその場を後にした。
 デミタスは、おじける様子を見せず、足取りも平常通りだった。
 
 その後ろ姿を見て、複雑な気持ちになる。
 昔も、自分はこの男の姿を間近で見た。
 
 忘れるに忘れられない、密室鉄道。
 この男と僕をつなぐ、一本の因縁の線路。
 一歩間違えてしまえば、数分後には、もう二度と見れなくなるかもしれない姿。
 
 是が非でも、亡霊を、捕まえなければならない。
 
.

226名無しさん:2018/11/13(火) 17:27:06 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    午前十時三九分  ヴィップ大学
                         ─━┛
 
 
 
 先日の、アルプス山脈の寒さが一切感じられない天気だ。
 デミタスは無事、法学部の学生課まで連れていけた。
 キャリアセンターほどの人数はいなかったが、相互監視はまあ機能するだろう。
 
 油断などではない。
 ただ、当然と言えば当然だが、あまりにも僕側に課せられるハンデが大きい。
 せめて、ふたりを一緒の位置に固められていたならば、と思う。
 
 
(´・ω・`) 「…あ」
 
 そういえば、トソンちゃんを放置してしまった。
 また人質なんかに取られるようなことがなければ、いいけど。
 
 強く釘は刺してある、あまり懸念しないでおこう。
 もとより、最悪の事態に備えて、少なくはない職員、教授が協力してくれている。
 いざとなれば、近くの署や交番に片っ端から応援を要請してやる。
 
.

227名無しさん:2018/11/13(火) 17:27:44 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    午前十時三九分  ヴィップ大学
                         ─━┛
 
 
 
 先日の、アルプス山脈の寒さが一切感じられない天気だ。
 デミタスは無事、法学部の学生課まで連れていけた。
 キャリアセンターほどの人数はいなかったが、相互監視はまあ機能するだろう。
 
 油断などではない。
 ただ、当然と言えば当然だが、あまりにも僕側に課せられるハンデが大きい。
 せめて、ふたりを一緒の位置に固められていたならば、と思う。
 
 
(´・ω・`) 「…あ」
 
 そういえば、トソンちゃんを放置してしまった。
 また人質なんかに取られるようなことがなければ、いいけど。
 
 強く釘は刺してある、あまり懸念しないでおこう。
 もとより、最悪の事態に備えて、少なくはない職員、教授が協力してくれている。
 いざとなれば、近くの署や交番に片っ端から応援を要請してやる。
 
.

228>>227ミス:2018/11/13(火) 17:28:30 ID:0on9OJjc0
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
(´・ω・`) 「……なんだなんだ」
 
 見覚えのない電話番号から着信が鳴った。
 思わず、どきりとした。
 
 亡霊からの電話に備えて、ワンコール以内に出られるようにはしてあった。
 亡霊でなくとも、ヴィップ県警やアルプス県警からの情報は、死活問題だ。
 ただ、手に取った電話のディスプレイには、見慣れない番号が映っていた。
 
 
(´・ω・`) 「もしもし、ショボーンです」
 
 電話を取って、息遣いというか、第一声を聞いて相手がわかった。
 学長だ。
 今朝、緊急事態に備えて、電話番号を教えておいたのだ。
 
 兄者の具合が悪くなっただろうか。
 程度の軽い気持ちでいたのが、仇になった。
 
.

229名無しさん:2018/11/13(火) 17:29:53 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  『至急戻ってきてください!』
  『流石さんの様子が、急におかしくなりました!』
 
(´・ω・`) 「なッ……」
 
 
 具合どころではなかった。
 様子がおかしくなっただと。
 何があったんだ。
 
(´・ω・`) 「わかりました、すぐに向かいます」
 
(´・ω・`) 「とにかく、彼を落ち着かせてあげてください」
 
 ひとりになった緊張感で、いよいよ自我が保てなくなったのだろうか。
 兄者視点で言えば、亡霊の標的は、兄者自身だ。
 そして兄者は、十年以上自分を守ってきた偽りを、失っている。
 
 コートを翻して、駆け足で戻る。
 敷地内に人影はほとんど見られない。
 
.

230名無しさん:2018/11/13(火) 17:30:15 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 キャリアセンターは、中央棟の一階、建物内の中央ほどにある。
 広々とした空間で、日頃は就職活動に勤しむ学生たちであふれていると聞く。
 
 自動ドアを抜けた辺りで、もう一度電話が鳴った。
 学長からだ。
 
 電話に出るより、落ち合うほうが早い。
 コールを切って、全速力でキャリアセンターにたどり着いた。
 
 
 そこには、人だかりができていた。
 あからさまに、空気がおかしい。
 
 
学長 「刑事さんッ!」
 
(´・ω・`) 「いったい、何が…ッ」
 
 
.

231名無しさん:2018/11/13(火) 17:30:45 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 真っ先にしたのは、血の臭いだ。
 
 
 
( ::;゚_ゝ::)
 
 
 
(´・ω・`) 「     」
 
 兄者が、腹から大量の血を流している。
 学長は、先ほどまで着ていたジャケットを、兄者の腹部に押し当てていた。
 そのジャケットも、真っ赤に染まっている。
 
 
(;´゚ω゚`) 「   なああああああああああああッ!!?」
 
学長 「まだ意識はありますッ!」
 
(;´・ω・`) 「病院だ!!」
 
(;´・ω・`) 「今すぐ病院を呼べ!!」
 
 
.

232名無しさん:2018/11/13(火) 17:32:01 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 キャリアセンターは騒然としていた。
 想像以上に早く、亡霊は動き出した。
 
 第一の指示、ではなかったのか。
 そもそも、その指示すらまだこなしていないのだぞ。
 
 
(;´・ω・`) 「何人かで、とにかく名前を呼び続けてください!」
 
(;´・ω・`) 「残りは、法学部棟、学生課に向かって!」
 
 
 混乱する職員たちに、すぐさま指示を出す。
 指示を出しながら、僕は署や交番に応援を要請した。
 暇なやつ全員、ヴィップ大学に連れてこい、と。
 
 
( ::;゚_ゝ::)
 
学長 「流石さん!」
 
職員 「しっかりしろ! おい!」
 
 
(;´・ω・`)
 
.

233名無しさん:2018/11/13(火) 17:33:13 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊はひとまず後、だ。
 とにかく兄者の意識を長らえさせて、命を取り留めなければならない。
 
 
(;´・ω・`) 「兄者!! 起きろ!!」
 
(;´・ω・`) 「学長、なにがあったんです!」
 
 兄者を揺らしながら、隣のベスト姿の学長に聞く。
 周囲の職員はパニック状態だったが、学長はまだ、冷静を保っていた。
 
 
学長 「急に、様子がおかしくなったんです!」
 
学長 「刑事さんが出て少ししたら、彼に電話がきて!」
 
(;´・ω・`) 「電話……?」
 
 はッとして周囲を見渡す。
 スマホの類は、ざっと見たところでは見当たらなかった。
 
.

234名無しさん:2018/11/13(火) 17:33:47 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「    それで!?」
 
学長 「顔を真っ青にして立ち上がるもんで、そのまま出ていこうとしたんです!」
 
(;´・ω・`) 「出て  ッて、ここを?」
 
学長 「はい、電話に出ながら!」
 
 それが、先ほど言っていた、様子の急変か。
 亡霊から電話が来たというのか。
 
 
学長 「制止しようにも、一切聞く耳を持たなかったので、拘束しました!」
 
(;´・ω・`) 「拘束?」
 
学長 「私含む五人ほどで、とにかく彼を止めたのです!」
 
学長 「そうしたら、………ッ!!」
 
( ;´・ω・) 「!」
 
 
 そこで、腹を刺したのだ。
 どさくさに紛れて、刃物を握った、亡霊が。
 
.

235名無しさん:2018/11/13(火) 17:34:26 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「女性がいましたか!?」
 
学長 「いえ、いません!」
 
 
学長 「全員男ですッ!」
 
(;´゚ω゚`) 「  なッ   なにィ!!?」
 
 
 どういうことだ。
 おかしいぞ。
 たとえ人混みに紛れようと、この人数、この広さだ。
 亡霊がひっそり現れようものなら、すぐさま見つかるはずだ。
 
( ::;゚_ゝ::)
 
( ::;゚_ゝ::) 「………………」
 
 
(;´・ω・`) 「!」
 
.

236名無しさん:2018/11/13(火) 17:35:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 兄者の息遣いが変わった。
 急に激しくなり、若干の喘ぎ声を伴っている。
 
(;´・ω・`) 「兄者!! 僕だ!!」
 
(;´・ω・`) 「兄者!! 起きろ!!」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「   ………」
 
(;´・ω・`) 「おいッ! 兄者ッ!」
 
( ::;゚_ゝ::) 「     お   ………。」
 
(;´・ω・`) 「? なんだ!?」
 
 
 兄者は、意識を若干ではあるが取り戻した。
 震える唇をゆっくり開閉して、なにかを言おうとしている。
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「……  う ……」
 
(;´・ω・`) 「ゆっくりでいい! なんだ!?」
 
.

237名無しさん:2018/11/13(火) 17:35:55 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「       」
 
 
( ::;゚_ゝ::) 「    ………。」
 
 
( :::;::_ゝ) 「      」
 
 
 
(;´゚ω゚`) 「……ッ!!」
 
 
 
 
 
 
.

238名無しさん:2018/11/13(火) 17:36:42 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
  、 、
 亡霊。
 
 兄者は、そうちいさく言って、目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

239名無しさん:2018/11/13(火) 17:37:31 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「彼の電話はッ」
 
学長 「ッ」
 
学長 「誰か、彼の電話を見てないか!」
 
 大声で、残った全員に問う。
 しかし、皆周囲を見渡すばかりであった。
 
 
(;´・ω・`) 「確かに、彼自身の電話だったんですね!?」
 
学長 「間違いない!」
 
(;´・ω・`) 「詳しく聞かせてください!」
 
 
学長 「ええ、」
 
学長 「申しました通り、彼は何者かから電話を受け、即座に、立ち上がりました」
 
 呼吸を整えながら、学長が言葉を紡ぐ。
 今は、学長の証言が、頼りだ。
 
.

240名無しさん:2018/11/13(火) 17:38:34 ID:0on9OJjc0
 
 
 
学長 「露骨に顔を歪めて、真っ青に、しておりまして」
 
学長 「そのままゆっくり、電話に、出ました」
 
学長 「どこかに行こうとしたので、近くにいた者が制止を」
 
(;´・ω・`) 「しかし、止まらなかった」
 
学長 「無理やり走り出そうとしたので、無理やり止めました」
 
学長 「しかし暴れるので、私や近くの者たちで、こう……」
 
 
 学長が、両手でぎゅうッと丸めるような仕草をした。
 まずは止めて、落ち着かせてから話を聞こうと思ったのだろう。
 
 
学長 「それでも、彼は、ずっと暴れておりました」
 
学長 「……刑事さんが来るまで押さえていようと思うと」
 
学長 「急に、腿あたりが濡れたのを感じました」
 
.

241名無しさん:2018/11/13(火) 17:39:30 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 といって、学長はスラックスを見せた。
 赤黒く染まっている。
 疑いようなく、兄者の血だろう。
 
 
(;´・ω・`) 「………」
 
学長 「騒ぎに乗じて、犯人が、腹を刺したのでしょう」
 
学長 「ぱッと振り返っても、犯人らしき人はいませんでした」
 
 これも、亡霊の仕業、とでも言うのか。
 
 
(;´・ω・`) 「その時の、対応は」
 
学長 「まず真っ先に、ジャケットで、出来る限りの止血を」
 
 といって、兄者の上にかぶせられているジャケットを見る。
 ほぼ血の色で染まっている。
 真っ先に止血が浮かぶあたり、冷静な人物であると言える。
 
 
学長 「私は、そのまま刑事さんに電話しました」
 
.

242名無しさん:2018/11/13(火) 17:40:34 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 それが、先ほどの、二度目のコールだ。
 学長は、兄者をずっと介抱していたと見ていい。
 
学長 「そこからですが、」
 
学長 「ひっそり抜け出した者がいるかは、はっきり言って、わかりません」
 
(;´・ω・`) 「……無理も、ありません」
 
(;´・ω・`) 「わかっている、範囲では?」
 
 
学長 「まず、一緒に彼を押さえていた一人が、行ってきます、と言って」
 
学長 「追いかけて、いったようです」
 
(;´・ω・`) 「追いかける………犯人を、ですね?」
 
学長 「犯人はおそらくですが、刃物を刺して、すぐさま逃げ出しました」
 
(;´・ω・`) 「その後ろ姿なんかは?」
 
学長 「見た方角が悪かったのか、隠れられたのか、遅かったのか……」
 
 学長が、申し訳ありません、と何度も言う。
 その瞬間に居合わせなかったため、
 どれが正解なのかがわからないのが、歯痒かった。
 
.

243名無しさん:2018/11/13(火) 17:41:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「ただ、追いかけた人物がいた」
 
学長 「あれは……誰だった?」
 
職員 「斉藤さん……じゃない?」
 
職員 「僕は知らない、ですね。 先生なんじゃ?」
 
職員 「いや、斉藤さんは、いまもう一人のほうに行ってる」
 
 
(;´・ω・`) 「………」
 
 もしかすると。
 その人自身が、犯人なのか。
 
 しかし、だとすると、内部に犯人がいたということか。
 いや、はっきり言って、スーツ姿、ベスト姿なら、
 身分は一時的にではあるが眩ませられる。
 ただ、だったら学長に直接、行ってくるなんて言うだろうか。
 
 考え出すと、きりがない。
 そもそも、女性ではないのだろう。
 どういうことだ。
 
.

244名無しさん:2018/11/13(火) 17:42:29 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「……その人が戻ってきたら、すぐさま私に連絡を」
 
学長 「お約束します」
 
(;´・ω・`) 「ここに、凶器の刃物や、彼の電話は……」
 
 兄者は、年かさの増した男性が様子を見ている。
 揺らしながら、声をかけてはいるが、反応がいっさいない。
 
 事尽きたわけではないことを、祈るしかないのだ。
 幸い、意識は、残っていた。
 刺されたことによるショック死でないのは、確かなのだ。
 
 
 それ以外の職員は、僕と学長が話している間、
 周囲を見渡して、探してくれていた。
 
 凶器に使われた、おそらくはかつてミセリが持っていた、包丁だ。
 傷口の荒さや広さ、出血の度合いからして、
 包丁を思い切り突き刺して、乱暴に抉って、すぐ抜いたのだろう。
 
 電話は、その時に落としたと見られる。
 近くに落ちてなければ、誰かが回収しているはずなのだが、
 誰も声をあげないとすると、亡霊が持ち去ったと見るべきなのか。
 
.

245名無しさん:2018/11/13(火) 17:43:00 ID:0on9OJjc0
 
 
 
学長 「……どちらも、ないようです」
 
学長 「ちゃんと、机の下の隙間も見たのか!?」
 
職員 「少なくとも、この近くには!」
 
 騒ぎの弾みで、誰かが蹴飛ばしただけかもしれない。
 包丁がないことによる不安はただひとつ、
 亡霊が離さなかったということは、その包丁で最後に、デミタスを殺すつもりなのだ。
 
 そうだ、デミタス。
 
 
(´・ω・`) 「誰か、至急法学部学生課に電話を!」
 
(´・ω・`) 「盛岡デミタスの安否を、至急確認してください!」
 
 室内全域に通るような声で、言う。
 近くに電話のあった職員が、すぐさま対応してくれた。
 
 電話自体はワンコールでつながったようだ。
 駆け寄って、受話器を借りる。
 
.

246名無しさん:2018/11/13(火) 17:43:49 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「私です、警察のショボーンです」
 
(´・ω・`) 「いま、そちらに異変はありますかッ」
 
 受話器が汗で濡れる。
 いま、自分は焦っているのだ、と、その時にわかった。
 
 
  『人が、いっぱい来たくらいで……』
 
(´・ω・`) 「人……」
 
 僕が送った、キャリアセンターにいた人らだろう。
 と言ったところで、脳に電流が走った。
 
 
 
(;´゚ω゚`) 「    ッ!!!」
 
(;´゚ω゚`) 「誰一人彼に近寄らせるなッ!!」
 
 
 そう言って受話器を叩きつけ、駆け出した。
 亡霊はこれが狙いだったのか!
 
.

247名無しさん:2018/11/13(火) 17:44:23 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 転びそうになりながらも、次は法学部棟へと舞い戻った。
 全速力で向かったが、息が急き切れることはなかった。
 扉を蹴破ってなかに入ると、椅子に座るデミタスの周囲数メートルは空間があった。
 
 離れた位置で、少なくない数の職員が、緊張した面持ちをしていた。
 扉の大きな音と僕の姿に、皆一様に驚いていた。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「………なッ……」
 
(´・ω・`) 「……だ、大丈夫だったか……」
 
(;´・ω・`) 「よかった……」
 
 安否を確認できて、思わず前かがみになった。
 忘れかけていた疲労が、どッと押し寄せてくる。
 
 落ち着け、と自分に言い聞かせて、深呼吸を繰り返した。
 見かねた一人の職員、おそらくは電話に対応した人だろう、その人がやってきた。
 
 
職員 「だ……大丈夫ですか?」
 
.

248名無しさん:2018/11/13(火) 17:44:48 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「な…なんとか」
 
職員 「言われた通り、誰一人近づけてはいません」
 
(´・ω・`) 「ありがとう……ございます……」
 
 電話が切れたと同時に、大声のひとつ発してくれたのだろう。
 責任感の強そうな声だった。
 
(;´・_ゝ・`) 「なにが……あったんですか?」
 
(;´・_ゝ・`) 「…………まさか」
 
(´・ω・`) 「話は、あとだ」
 
 なるべく隠しておきたかったが、
 ここまで来てしまった以上、言うしかない。
 
 
(´・ω・`) 「いいか、あと少しで警察が押し寄せる」
 
(´・ω・`) 「それまで、誰一人、デミタスに近寄るな」
 
.

249名無しさん:2018/11/13(火) 17:45:32 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「ッ!!」
 
(;´・_ゝ・`) 「え、つまりッ!!」
 
 
 ないとは思うが、拳銃を警戒して、一応デミタスの前に立つ。
 デミタスに、壁を背負えるように移動してもらった。
 
 職員たちが呆然としている隙に、電話を取り出す。
 亡霊にかける。
 
 
(´・ω・`) 「僕だ、さっさと出やがれ」
 
  『…』
 
 亡霊は、黙っている。
 
(´・ω・`) 「……やりやがったな」
 
(´・ω・`) 「約束違反だ」
 
(´・ω・`) 「こっちも、百人以上の応援を呼んでいる」
 
(´・ω・`) 「職員たちにも、怪しい人物を見かけたら片っ端から捕まえろと言ってある」
 
.

250名無しさん:2018/11/13(火) 17:46:18 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 第一の指示、という話も。
 兄者を文学部学生課に移す話も。
 すべてが、出し抜くための、騙り。
 
 僕一人というハンデも、あくまで約束あってのものだ。
 穏便に済むなら、それが何よりもベストだったが、
 亡霊が手段を択ばないというのであれば、僕も手段を択ばない。
 
 百人も、捕まえる指示もハッタリだ。
 ただ、亡霊には、効いたようだった。
 
 
  『………よろしいので?』
  『ここまで来たからには、私も、後先考えずに動くだけですよ?』
 
(´・ω・`) 「いい加減、目を覚ませ」
 
(´・ω・`) 「あんたは、亡霊なんかじゃ、ない」
 
(´・ω・`) 「生身の人間が、警察の包囲網を抜けられると思うな」
 
  『既に何度も私を逃しているくせに、何を言うかと思えば』
 
(´・ω・`) 「……まだ、気づかないのか?」
 
  『なにを』
 
.

251名無しさん:2018/11/13(火) 17:47:05 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「さっきの、一件で」
 
(´・ω・`) 「あんたは、致命的なミスを、いくつも犯してんだぜ」
 
  『…』
  『一応、聞きましょうか』
 
 かかったな。
 
(´・ω・`) 「その必要はない」
 
(´・ω・`) 「警察が到着次第、そいつを調べ上げる」
 
(´・ω・`) 「もう、あんたに逃げ場は、ないのさ」
 
 これも、ハッタリだ。
 しかし、これが、よく効くのだ。
 
 兄者を刺したのは、コンマ一秒が問われる、非常に猶予の短い犯行だった。
 当然、犯人としても、入念に計画を練って、賢く立ち回れたものではない。
 
 実際、ミスは、犯している。
 やつは今、おそらくだが、兄者のスマホを持っているのだ。
 
.

252名無しさん:2018/11/13(火) 17:47:47 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「ポイントは、包丁だ」
 
  『ッ!』
 
 真のポイントは、スマホにある。
 しかし、あえて論点をずらす。
 これもハッタリだ。
 
 亡霊がまだこちらにいないことを察し、周囲の職員に目配せした。
 誰も、デミタスに近づくな。
 そんな、相互監視体制を、敷いた。
 
 
 ゆっくり、表へと出る。
 その間も、とにかく時間を稼ぎ、動揺を誘い、居場所を突き止める。
 十分、五分と猶予があるか怪しい、最後の詰めだ。
 
 
(´・ω・`) 「第一の失態は、あんたは、兄者を殺せていない」
 
(´・ω・`) 「まだ、意識が、あった」
 
.

253名無しさん:2018/11/13(火) 17:48:33 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ハッタリをかますにも、コツがいる。
 今回の場合、亡霊に、ナイフや凶器ではなく、包丁、と言い当てる点にある。
 
 僕視点で言えば、ミセリが包丁を持ち出したことを知っていて、
 更に亡霊がそれを持ち去った線が濃厚であることを知っている。
 そこから考えれば、亡霊が、足の残らない凶器としてそいつを使うことも推測できる。
 
(´・ω・`) 「傷口をなるたけ開いて、出血死を狙ったんだろうがな」
 
(´・ω・`) 「すぐさま止血が施されて、意識を取り戻したよ」
 
  『なッ!!』
 
 亡霊視点で言えば、僕がどうして包丁を推理できているか、考えるのは難しいだろう。
 そもそも、ミセリがどこからどうやって包丁を持ち出したのか、
 判断に難しいはずなのだ。
 
 
(´・ω・`) 「次の失態」
 
(´・ω・`) 「あんたはうまいこと逃げたつもりだったろうがな、」
 
(´・ω・`) 「残念、追いかけられてんだぜ、更にな」
 
.

254名無しさん:2018/11/13(火) 17:49:33 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 これも、ハッタリだ。
 これは、例の犯人を追いかけた職員がどっちであろうと通用する言い方だ。
 
 もし、例の職員が職員に扮した亡霊だった場合。
  「うまく逃げた」 「更に追いかけられた」 の口ぶりがクリーンヒットする。
 
 もし、例の職員に追いかけられた場合。
 それにしたって 「うまく逃げた」 は矛盾せず、
  「更に追いかけられた」 が、追跡した職員が複数人いたことを示す。
 実際は一人しか追いかけていないのだから、亡霊視点で言えば、得体の知れない脅威となる。
 
 
  『…ッ  ……ッ!』
 
(´・ω・`) 「まだあるんだが……」
 
(´・ω・`) 「続きは、直接会って、」
 
(´・ω・`) 「するかッ!」
 
  『!』
 
 大きな声で言いきって、電話を切った。
 最後の、ハッタリ。
 こう言って電話を切れば、亡霊は、ふたつの誤解をする。
 
 いま、自分の場所が、ばれている。
 そして、すぐ近くに、僕がいる。
 そんなふたつの、幻影。
 
.

255名無しさん:2018/11/13(火) 17:50:38 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「……こっからが、勝負だ」
 
 ハッタリが続くのは、せいぜい数分、長くて五分だ。
 その間に、次の一手を、打たなければ。
 
 ポイントはみっつ。
 ひとつ、キャリアセンターから逃走している。
 ふたつ、亡霊は血まみれの包丁を握っている。
 みっつ、亡霊はいま、姿を隠している。
 
 すべての条件を満たす場所を、当たるしかない。
 しかし、どうやって。
 当てずっぽうで総当たりしていると、先にハッタリの魔法が解けてしまうのに。
 
 
(´・ω・`) 「……亡霊を」
 
(´・ω・`) 「捕まえるしか、ないんだな」
 
 どんな刑事でも、捕まえられない罪人。
 もし、捕まえられた刑事が過去にひとりもいないというのなら。
 
 僕が、その先駆者になればいいんだ。
 僕なら、それができるはずだ。
 
 亡霊なんて、所詮、偽り。
 偽りの亡霊を捕まえる。
 僕になら、それができるはずなんだ。
 
.

256名無しさん:2018/11/13(火) 17:51:20 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊にはあえて言わなかった、本当の失態。
 兄者のスマホを、持っているということ。
 この僕を前に、亡霊はスマホを持ち去った、という謎を与えてしまったということ。
 
 流れるように起こった一連の事件において、
 一番大きな謎は、ずばり兄者のスマホにある。
 
 学長の話では、こうだ。
 兄者は何者かから電話を受けた。
 その瞬間顔色を変えて、制止を振り切ろうとすらした。
 
 いま、自分がどんな立場にいるかも考えず。
 あるいは、それ以上に重要な相手からかかってきたのだ。
 
 
 この状況下において。
 自らの安否、また僕の指示や周囲の制止を投げ捨ててまで、
 兄者を突き動かし得る電話の相手。
 
 そこをまずは考える必要がある。
 なぜなら、犯人はそれを利用して殺したのだから。
 
.

257名無しさん:2018/11/13(火) 17:52:04 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊の 「第一の指示」 を受けた時、僕は亡霊の意図がわからなかった。
 まずふたりを分けたいのはいいが、
 多くの監視の目が光る学生課にどうして移すのか。
 
 答えは、結果を見れば明らかだった。
 とあるギミックを用いて、兄者を羽交い絞めする状況に持ち込む。
 その騒ぎに乗じて、無理やり、包丁で出血死を狙う、といった具合だ。
 
 羽交い絞め、という状況を狙ったのはしてやられたと思った。
 確かに、さりげなく殺害するにおいて好都合だし、
 包丁を刺すために、無理やり腕を押し付けても、羽交い絞めでカモフラージュできるのだから。
 
 
 そうしてはじめて、ふたつのロジックが線になる。
 亡霊は、兄者を羽交い絞めにさせるギミックを持っていた。
 兄者は、羽交い絞めにされてでも優先すべき相手から電話を受けた。
 
 つなげれば、こうだ。
 亡霊のギミックと兄者の異変は共通している。
 つまり、兄者は亡霊から電話を受けたことになる。
 
 
(´・ω・`) 「……?」
 
.

258名無しさん:2018/11/13(火) 17:53:09 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊から?
 そういえば、どうして、亡霊はギミックに用いたスマホを持ち出した?
 
 状況を鑑みるに、指紋は必ず残ってしまう。
 指紋というものは、すべてを完全に拭い去るのは非常に難しい。
 
 また、持っているところを見られるだけで命運は尽き、
 どこかで処分したとしても、それがまた足跡となる。
 だからこそ、亡霊にとっての失態になりうるのだが、どこか、香ばしい。
 
 そんなリスクなど、承知に違いない。
 とすると、どうして亡霊はスマホを持ち出した。
 
 
 動機は、十中八九、
 兄者のスマホが亡霊にとって致命的な弱点だからだろう。
 しかし、亡霊の050番号から電話をかけたとなれば、それはさしたる弱点にはならない。
 どうやって兄者の電話番号を得たのか、という疑問こそ残るが、持ち出すほどではなかろう。
 
 亡霊にとっての致命的な弱点。
 持ち出した、というのが失態にはなりそうであるが、
 それと兄者の異変が、リンクしない。
 
 兄者は、亡霊以外の何者かから、電話を受けた。
 それも、何事にも優先されるほどの、重要な相手から。
 
.

259名無しさん:2018/11/13(火) 17:54:02 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    午前十一時〇〇分  ヴィップ県警  捜査本部
                               ─━┛
 
 
 
( ゚д゚) 「なにッ!?」
 
 東風さんの怒号で捜査一課に緊張が走った。
 ペニーから流される、擬古と貞子をつなぐ第三者の可能性。
 人手を総動員させたなかでの作業に、進捗が見られた。
 
( ゚д゚) 「わかった!」
 
 内線を、受話器を叩きつけて切った。
 何事だ、と思った自分と鈴木は、手を止めて東風さんの後ろに集まった。
 
 
.

260名無しさん:2018/11/13(火) 17:55:03 ID:0on9OJjc0
 
 
 
/ ゚、。 / 「どうしましたか!」
 
( ゚д゚) 「……やりやがった……」
 
 東風さんが、拳を握りしめる。
 しかし、それは怒りで震えていない。
 噛みしめるように、手を、固く握っていた。
 
 
( ゚д゚) 「ビンゴだ、大当たりだ」
 
( ゚д゚) 「フッサール擬古が便宜を図った第三者を、特定した!」
 
( <●><●>) 「…!」
 
 可能性の濃かった話とはいえ、
 いざ本当にそれを聞くと、かえって疑いたくなった。
 
 ほんとうに、そんなことがあり得たのか。
 今までの捜査がことごとく空回りだったこともあり、言葉にできない達成感が込み上げてきた。
 
.

261名無しさん:2018/11/13(火) 17:56:04 ID:0on9OJjc0
 
 
 
( ゚д゚) 「子に恵まれなかった老夫婦、名前は鷺宮」
 
( ゚д゚) 「七年前、擬古を仲介して貞子が引き取られている!」
 
 鷺宮、老夫婦。
 名前からして、裕福な家庭なのだろう。
 
 
( <●><●>) 「対応は」
 
( ゚д゚) 「いま下から引き継いだところだ」
 
 息遣いが荒い。
 警部とは対照的に、東風さんは喜びを一切隠そうとしない人なのだ。
 捜査も佳境に入ったことを、改めて肌で感じた。
 
 
( ゚д゚) 「姪っ子さんが電話に対応していたらしい」
 
( ゚д゚) 「肝心の老夫婦は寝ているようでな、いま起こしてもらってるんだ」
 
/ ゚、。 / 「じゃあ……!」
 
( ゚д゚) 「はじめるぞ、亡霊の墓荒らし!」
 
.

262名無しさん:2018/11/13(火) 17:56:43 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ┏━─
    午前十一時〇八分  ヴィップ大学
                           ─━┛
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 電話がかかってきた。
 間髪入れず手に取った。
 
(´・ω・`) 「…ッ」
 
 どくん、と心臓が鳴った。
 亡霊からだ。
 
 
(´・ω・`) 「今度はなんだ」
 
  『第二の指示』
 
(´・ω・`) 「なに?」
 
.

263名無しさん:2018/11/13(火) 17:57:16 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 この期に及んで、第二の指示だと。
 逃げるつもりは、さらさらないというのか。
 それとも、そう見せかけて、逃げるつもりなのか。
 
(´・ω・`) 「よく呑気なことを言ってられるな」
 
(´・ω・`) 「なんだ、逃亡用の車でも欲しいのか」
 
  『盛岡デミタスを、経済学部学生課まで連れていきなさい』
  『それも、なるべく多くの職員と一緒に』
 
(´・ω・`) 「……なんだと?」
 
 法学部の次は経済学部か。
 結構な距離がある、十分ほどかかるだろうか。
 しかし、多くの職員と一緒に、とは。
 
 
  『約束破り、だなんて言われたくないから、先に予告します』
  『道中、隙あらばデミタスを、殺します』
  『むろん、殺さない可能性もありますがね』
 
(´・ω・`) 「…? いったい…」
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
.

264名無しさん:2018/11/13(火) 17:57:37 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 そうか。
 そういうことか。
 亡霊は、逃げるつもりだ。
 
 人が多いことの優位、それはわかった。
 まわりにいる人間の全員が、容疑者に見えてしまうのだ。
 
 亡霊は女だと思っている。
 三十代で、痩身で、筋肉が衰えていそうな、女性。
 
 しかし、そんな人間、未だに見つけられていない。
 文字通り、亡霊のように姿をうまく消して立ち回られている。
 
 
 僕としては、もうそんな虚像を頼りにはしていられなくなる。
 男だろうが女だろうが、職員だろうが教授だろうが一般人だろうが、
 あらゆる人物が亡霊に見えて仕方なくなっているのだ。
 
(´・ω・`) 「………そういうことか」
 
  『お気づきいただけましたか』
  『なら、わかるでしょう』
 
  『時間的猶予は与えません』
  『応援が到着するまでに、デミタスたちを連れていきなさい』
 
.

265名無しさん:2018/11/13(火) 17:58:06 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 そうなってしまうと、僕は、デミタス含む大勢を連れていく過程で、
 常に神経を研ぎ澄まさなければならなくなる。
 むろん、この場に人手は僕一人しかいない。
 
 一人で、大勢を相手に、隙を見せてはならなくなる。
 それも、遠い距離を、だ。
 
 亡霊が、そのなかに潜むなり、騒ぎを起こさせるなりで、殺してくるのか。
 あるいは、時間がかかって僕の目から逃れられるのをいいことに、逃げるのか。
 
 どちらも、十二分にあり得る。
 そしてその場合、僕は、より最悪な事態を防ごうと動かなければならない。
 亡霊を捕まえるよりも、デミタスを殺させないよう立ち回らざるを得なくなる。
 
 
 亡霊は、逃げるつもりだ。
 
 
(´・ω・`) 「………」
 
  『あなたは、優秀な刑事です』
  『ただ……だからこそ、肝に銘じるべきなのです』
 
 
  『亡霊は、どんな刑事でも、決して捕まえられない』
 
.

266名無しさん:2018/11/13(火) 17:58:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 僕は怒りのあまり、無言で電話を切った。
 こんなに怒りがこみ上がってくるのは、久しぶりだ。
 電話を、握りしめて壊したくなるのを押さえて、ポケットに戻す。
 
  _,
( ・ω・`) 「…!」
 
 戻した、瞬間。
 再びコール音が鳴った。
 
 
(´・ω・`) 「なんなんだッ!」
 
(´・ω・`) 「ちゃんと、指示には従う!」
 
(´・ω・`) 「てめえの時間稼ぎには、乗らん!」
 
 
  『警部ッ!!』
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 
.

267名無しさん:2018/11/13(火) 18:01:15 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ワカッテマスの声が、どこかからした。
 どこだ、と思ったが、いま握っている電話からだった。
 
(´・ω・`) 「ワカッテマスか!」
 
(´・ω・`) 「いま時間はない、手短に言え!」
 
 どんな希少な情報だとしても、とにかく今は、時間がない。
 走りながら、走って法学部のほうに戻りながら、声に集中する。
 
 
  『亡霊の正体ですッ!』
 
(´・ω・`) 「なに?」
 
 
 正体だと?
 山村貞子の正体か?
 
 
 
  『亡霊はッ!』
  『山村貞子ではあり得ませんッ!』
 
 
 →ttps://www.youtube.com/watch?v=cW0vEuaetjY
 
 
.

268名無しさん:2018/11/13(火) 18:01:39 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「なッ……」
 
 思わず、速度が落ちた。
 
 
(;´゚ω゚`) 「     どういうことだッ!!」
 
(;´゚ω゚`) 「貞子は、貞子が、亡霊じゃないのか!?」
 
 
 
  『貞子を引き取った第三者を、特定しましたが……ッ』
 
  『確認したところ、今もそこで、静かに眠っています!』
 
 
 
  『亡霊は、山村貞子では、なかったんですッ!!』
 
  『奴には完全なアリバイがあった!!』
 
 
 
.

269名無しさん:2018/11/13(火) 18:02:28 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「じゃあ、誰なんだ!!」
 
(;´・ω・`) 「いま、僕と話していた、亡霊は!!」
 
 
  『目下再検討しております!』
  『山村貞子以外に……亡霊になれた人物を!』
 
 
(;´・ω・`) 「いるかよ、そんな奴ッ!!」
 
(;´・ω・`) 「十年前の面々は全員死んで、残るは兄者と、デミタスッ!!」
 
(;´・ω・`) 「    貞子こそが、亡霊のはずなんだッ!!」
 
 
   、 、 、 、 、 、 、、 、 、
  『実は死んでいない人物がいた可能性ッ!』
 
 
 
 
.

270名無しさん:2018/11/13(火) 18:03:34 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「はァ!?」
 
(;´・ω・`) 「すべての事件を、警察が担当して、死亡を確認してンだ!!」
 
(;´・ω・`) 「あるワケねえだろ、そんな可能性が!!」
 
 
  『もはやそれしかないんですよ!』
  『本部でも至急ッ!』
  『すべての事件の再検討にまいります!』
 
  『以上です!』
  『切りますよ!』
 
 
 
(;´・ω・`) 「………」
 
 電話の切れる音がした。
 
(;´・ω・`) 「………」
 
 
(;´・ω・`) 「ど……どういうことだ……?」
 
 
.

271名無しさん:2018/11/13(火) 18:03:56 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ワカッテマスの焦燥。
 これは、勘違いでも、ミスでもない。
 ほんとうに、山村貞子の存在が、特定されたのだ。
 
 いまも、まだ、眠っている。
 完全なアリバイがあった。
 
 
(;´・ω・`) 「……クソッ!!」
 
 再検討するには、時間が足りなさすぎる。
 こうしている間も、亡霊は逃げ出そうとしている。
 僕は、法学部棟、学生課の扉を再び蹴破った。
 
 
(´・_ゝ・`) 「…!」
 
(´・_ゝ・`) 「刑事さんッ!」
 
(;´・ω・`) 「話は後だッ!!」
 
(;´・ω・`) 「おい、ここにいる全員で、経済学部棟まで走れ!!」
 
 周囲にいる職員全員に、大声でアナウンスした。
 突然の指示に皆一様に動揺したが、
 僕がデミタスの手を引っ張って走り出すと、皆、ついてきてくれた。
 
.

272名無しさん:2018/11/13(火) 18:04:47 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「何があったんですか!」
 
(;´・ω・`) 「話はあと   ……ッ」
 
 
 いた。
 いま、このタイミングで、唯一、亡霊の正体を暴き得る男が。
 
 
(´・ω・`) 「デミタスッ!」
 
(;´・_ゝ・`) 「なんですか!?」
 
 
(´・ω・`) 「あんたの力を貸してほしい!」
 
(´・ω・`) 「たった今、亡霊に関する新事実が入った!」
 
(;´・_ゝ・`) 「!」
 
 
 
(´・ω・`) 「亡霊は、山村貞子では、あり得ない!」
 
(´・ω・`) 「別の誰かが、貞子の名を騙り、亡霊になっているんだ!!」
 
.

273名無しさん:2018/11/13(火) 18:05:29 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´゚_ゝ゚`) 「   ンなァ!?」
 
(´・ω・`) 「貞子以外で、亡霊になれそうなやつを……教えてくれ!」
 
(´・ω・`) 「八人目のメンバーとかだ!」
 
 
(;´・_ゝ・`) 「いませんよ、そんなの!」
 
(;´・_ゝ・`) 「マジな話だ! サークルは、マジで七人しかいなかった!」
 
 ここまで来て八人目を隠す道理はない。
 七人しか、いないんだ。
 
 
(;´・ω・`) 「だったら、その七人から、貞子を除いた六人ッ」
            、 、 、 、、 、 、 、 、 、
(;´・ω・`) 「    亡霊になれるのは誰だ!?」
 
 
.

274名無しさん:2018/11/13(火) 18:05:53 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 今までの事件すべてが、蘇ってくる。
 
 フッサール擬古。
 ヒッキー小森。
 クックル三階堂。
 芹澤ミセリ。
 盛岡デミタス。
 流石兄者。
 
 全員の完全なアリバイは、警察が立証している。
 しかし。
 この六人のうち、誰か、ひとりだけ。
 アリバイが成立していない人物が、いる。
 
 多くは死亡が認められ、
 兄者とデミタスは僕自身がアリバイを立証している。
 
 つまり。
 
 
(;´・ω・`) 「擬古ッ! ヒッキーッ! クックルッ! ミセリッ!」
 
(;´・ω・`) 「誰かは、まだ生きてるんだ!!」
 
.

275名無しさん:2018/11/13(火) 18:06:23 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 死んだはずなのに、なお生きている存在。
 山村貞子は、偽りの亡霊だった。
 
 殺された四人のなかに、真の亡霊が、隠れている。
 亡霊とは、そういうことだったんだ。
 
 
 
(;´゚_ゝ゚`) 「はあ!?」
 
(;´・_ゝ・`) 「え、だって、え、みんな殺されたんでしょ!?」
 
(;´・ω・`) 「誰か一人だけは、事件を、偽ったんだ!!」
 
 
(;´・_ゝ・`) 「だいたい、僕、全然事件のこと知らないんだから!」
 
(;´・_ゝ・`) 「考えようがないッ!」
 
(;´・ω・`) 「くッ………!」
 
.

276名無しさん:2018/11/13(火) 18:06:44 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 事件を徹底的に捜査した僕たち警察が、わからないんだ。
 途中から事件に参加したデミタスに、わかりようは、ないのか。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「名前をごまかしていた可能性は!?」
 
(;´・ω・`) 「名前ッて……被害者のか!?」
 
(;´・ω・`) 「できない、害者の特定は間違えようがない!」
 
 
 殺された連中の名前に、偽りはない。
 
 フッサール擬古。
 ヒッキー小森。
 クックル三階堂。
 芹澤ミセリ。
 
 この四つの名前は、国にも認められている、ほんとうの名前だ。
 
 
.

277名無しさん:2018/11/13(火) 18:07:05 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 事件を徹底的に捜査した僕たち警察が、わからないんだ。
 途中から事件に参加したデミタスに、わかりようは、ないのか。
 
 
(;´・_ゝ・`) 「名前をごまかしていた可能性は!?」
 
(;´・ω・`) 「名前ッて……被害者のか!?」
 
(;´・ω・`) 「できない、害者の特定は間違えようがない!」
 
 
 殺された連中の名前に、偽りはない。
 
 フッサール擬古。
 ヒッキー小森。
 クックル三階堂。
 芹澤ミセリ。
 
 この四つの名前は、国にも認められている、ほんとうの名前だ。
 
 
.

278>>277ミス:2018/11/13(火) 18:07:53 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「死んでなかったわけでも、他人のふりをしたわけでもないんじゃあ」
 
(;´・_ゝ・`) 「わかるわけがない!」
 
 
 思い出せ。
 この、長かった、連続予告殺人事件。
 
 地下鉄殺人事件。
 ビジネスホテル殺人事件。
 ライブ殺人事件。
 ヴィップの滝公園殺人事件。
 
 四つの事件のすべてに、謎が残っている。
 そのうちどこかに、今回の事件の、すべてのトリックが隠されていたんだ。
 
 
 そして思い出せ。
 ミセリ、兄者、デミタスが話してくれた、サークルに関する情報をすべて。
 
 サークル結成。
 少しずつ集まるメンバー。
 バカバカしくも憎めなかった活動内容。
 すべての発端となった、十年前の紅葉狩り。
 
.

279名無しさん:2018/11/13(火) 18:08:30 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 まずは事件だ。
 事件のどこかに、偽りがあった。
 
 亡霊は、貞子じゃなかった。
 だからこの際、犯人像に関する謎は、すべて無視だ。
 
 
 現場で、捜査本部で。
 幾度となく、四つの事件の謎について、話されてきた。
 
 
.

280名無しさん:2018/11/13(火) 18:08:54 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 地下鉄殺人。
 殺されたのはフッサール擬古。
 
 監視カメラや調書から亡霊が炙り出せなかったのは、もはや謎じゃない。
 となると、他の謎には、なにがあったか。
 
 
 
 ビジネスホテル殺人事件。
 殺されたのはヒッキー小森。
 
 亡霊がどうやって害者の常備薬に干渉したかは、もはや謎じゃない。
 となると、他の謎には、なにがあったか。
 
 
.

281名無しさん:2018/11/13(火) 18:09:17 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 ライブ殺人事件。
 殺されたのはクックル三階堂。
 
 どこでクックルと連絡を取ったかは、もはや謎じゃない。
 となると、他の謎には、なにがあったか。
 
 
 
 ヴィップの滝殺人事件。
 殺されたのは芹澤ミセリ。
 
 害者のなかで唯一僕が話をした相手だ。
 まして事件そのものには謎という謎はなかった。
 
 芹澤ミセリは、亡霊ではない。
 
 
.

282名無しさん:2018/11/13(火) 18:09:40 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「わかった、こうしよう!」
 
(;´・ω・`) 「ミセリは、亡霊じゃない!」
 
 
(;´・ω・`) 「ギコ、ヒッキー、クックル」
 
(;´・ω・`) 「真の亡霊は、この三人のうち、誰かだッ!」
 
 
(;´・_ゝ・`) 「で、でも、だからといって……」
 
(;´・ω・`) 「クソッ!!」
 
 
 一瞬で時間が経っているのだろう、
 遠いと思われていた経済学部棟は、すぐ目の前まできていた。
 
 後ろも、職員たちがついてきてくれている。
 亡霊の第二の指示は間もなく完遂だ。
 
 いまが、反撃の時だ。
 
.

283名無しさん:2018/11/13(火) 18:10:00 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・ω・`) 「!」
 
 そもそも。
 どうして、殺された人物が、亡霊になれるんだ。
 
 何度も、何度も言ってきた。
 死んだ人間に、犯行はできない。
 
 
 つまり、生きている。
 残された三人のうち、誰かは、生きている。
 
 しかし、死んでいる。
 重体、重傷、そんな曖昧な結果は出ていない。
 全員、国が認めた、死亡しているんだ。
 
 
 矛盾している。
 あり得ないんだ。
 でも、どこかに偽りが、潜んでいる。
 
 
.

284名無しさん:2018/11/13(火) 18:10:43 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
(´・ω・`) 「      ッ 」
 
 ばちばちッと。
 脳を、皮膚を、骨を、全身を。
 凄まじい電流が走る。
 
 
.

285名無しさん:2018/11/13(火) 18:12:48 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  >
  >(´・ω・`) 「亡霊は、山村貞子では、あり得ない!」
  >
  >(´・ω・`) 「別の誰かが、貞子の名を騙り、亡霊になっているんだ!!」
  >
 
 
 誰かが山村貞子の名を騙っている。
 手口から、語り口から、部外者の線は完全にない。
 
 亡霊は、名を騙っていた。    、 、 、 、 、 、 、 、、
 奴が騙ったのは、ほんとうに、山村貞子の名前だけだったのか?
 
 
.

286名無しさん:2018/11/13(火) 18:13:26 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  >
  >(;´・_ゝ・`) 「名前をごまかしていた可能性は!?」
  >
  >(;´・ω・`) 「名前ッて……被害者のか!?」
  >
  >(;´・ω・`) 「できない、害者の特定は間違えようがない!」
  >
 
 
 名前をごまかしていた可能性。
 殺された人物の名は、すべて、偽りようのない、真実。
 しかし。
  、 、 、 、、 、 、 、 、 、
 我々が知っている名前は、ほんとうに偽りようのない、真実だったのか?
 
 
.

287名無しさん:2018/11/13(火) 18:14:25 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 亡霊は、たった今、何かを偽っているわけではない。
 十年前から、亡霊は、サークル内で、何かを偽ってきた。
 
 十年前から、常人では考えもつかない方法で、
 亡霊は、それを、偽ってきた。
 
 
 だったら、十年前と、たった今。
 そのふたつの視点を持つことで浮かび上がる、矛盾。
 
 それも。
 現状、デミタスにしか見抜くことができない、偽り。
 
 
(;´・ω・`) 「    デミタスッ!!」
 
.

288名無しさん:2018/11/13(火) 18:15:19 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「!」
 
(;´・ω・`) 「一度あんたは、捜査本部に来たよな?」
 
        、 、 、  、 、 、 、 、 、 、 、 、  、、 、 、、 、 、
(;´・ω・`) 「その時、害者一覧の顔写真は、貼ってあったか?」
 
 
 
  >
  >(´・ω・`) 「となると、だ」
  >
  > びっしり書き込まれたホワイトボードを、目で辿る。 、 、、 、 、、
  > 貼ってあった写真の類は、スペースを広げるためにひっぺがした。
  > そんななか、一番情報が少ないのは、右端、流石兄者の項目。
  >
  >(´・ω・`) 「流石兄者、サークル部長」
  >
  >(´・ω・`) 「奴こそが、事件の鍵となる」
  >
  >( <●><●>) 「そして、現状容疑者筆頭、と」
  >
  >(;´・_ゝ・`) 「…」
  >
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「?」
 
(;´・_ゝ・`) 「写真なんてあったら、見てるけど……」
 
.

289名無しさん:2018/11/13(火) 18:16:10 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´゚ω゚`) 「………ッ!!!」
 
 
 見つけた。
 デミタスという銃口を向けるべき場所が。
 
 
 
(´・ω・`) 「だったら、見せてやる!」
 
 僕の携帯電話を、デミタスに押し付けた。
 有無山を登っている時に、ワカッテマスが送ってくれた、資料だ。
 
 そこには、各事件の被害者の情報や、
 プロフィール、顔写真が、参考資料として添付されている。
 
 
.

290名無しさん:2018/11/13(火) 18:16:40 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「……?」
 
(;´・_ゝ・`) 「いったい、何を見れば……」
 
 
 
 
 
 
(´・_ゝ・`) 「え?」
 
 
(;´・ω・`) 「ッ!!」
 
 
 
 
.

291名無しさん:2018/11/13(火) 18:18:06 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「けッ ……刑事さん!!」
 
 
 →BGMここまで
 
 
 
           、、 、 、、 、 、
(;´・_ゝ・`) 「こいつ誰ですか!?」
 
(;´゚ω゚`) 「!!!」
 
 
 
 起こり得て、しまうのか。
 そんな、人間として、常人として、考えられない、
 大胆で、規格外な、事件の根底の根底に眠る、トリックが。
 
  「人物」 にまつわる謎をすべて線でつなげば、浮かび上がってくる虚像。
 その輪郭に実体を与える、デミタスの、急所を貫く一撃。
 
.

292名無しさん:2018/11/13(火) 18:19:16 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  >
  >( <●><●>) 「じゃあ、小森の」
  >
  >( <●><●>) 「ギター趣味というのも、そこから?」
  >
  >ミセ*゚-゚)リ 「ギター?」
  >
  >( <●><●>) 「どうやらギター趣味があったようですが
  >               、 、、、 、、 、
  >ミセ*゚-゚)リ 「ふうん……そうだったんだ」
  >
 
 
.

293名無しさん:2018/11/13(火) 18:20:17 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  >                                    、 、、 、、 、
  >(´・ω・`) 「あんたらは、ヒッキーのアレルギーについては知らなかった、と」
  >
  >( ´_ゝ`) 「ピーナッツ……ピーナッツ、か……」
  >
  >( ´_ゝ`) 「食ってた、と言われたらそんな気もするし……」
  >
 
 
.

294名無しさん:2018/11/13(火) 18:21:03 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  >
  >( ´_ゝ`) 「中学の頃、いじめが原因で不登校になったそうで」
  >
  >( ´_ゝ`) 「その頃にネット始めて、いろいろ変わったみたいだ」
  >
  >(´・ω・`) 「ん?」
  >
  > ちょっと引っかかるな。
  >
  >(´・ω・`) 「確か、おたくとヒッキーって、昔からの仲だよね」
  >                        、 、、
  >(´・ω・`) 「不登校になった……そうで、ッてのは?」
  >
 
 
.

295名無しさん:2018/11/13(火) 18:21:41 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  >                  、、 、
  >( ´_ゝ`) 「俺とやつは、ネットで知り合ったんだ」
  >
  >(´・_ゝ・`) 「え、そうなの!」
  >
  >( ´_ゝ`) 「あれ? もしや誰も知らんかった?」
  >
  >(´・_ゝ・`) 「てっきり、腐れ縁とかそんなもんかと」
  >
 
 
.

296名無しさん:2018/11/13(火) 18:22:49 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  >
  >( ´_ゝ`) 「ネットで知り合って、意気投合してな」
  >
  >( ´_ゝ`) 「ちょいちょい実際に会ったりもしたぜ」
  >                          、 、
  >(´・_ゝ・`) 「って、じゃあヒッキーって半値だったの?」
  >
 
 
.

297名無しさん:2018/11/13(火) 18:24:11 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
  「 ( ゚"_ゞ゚) 」
  「ヒッキー小森 (34)」
 
 デミタスは、そこを指さして、叫んだ。
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「こいつ、誰なんだよ!!」
 
(;´・_ゝ・`) 「こいつはヒッキーじゃないッ!!」
 
 
 
 →ttps://www.youtube.com/watch?v=Rr9AVYDEeMQ
 
 
.

298名無しさん:2018/11/13(火) 18:26:07 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´゚ω゚`)
 
            、 、、
 ヒッキー小森だけが、ヴィップ大学ではない理由。
            、 、、
 ヒッキー小森だけが、完全たる名指しで殺害予告された理由。
 
 
(;´・ω・`)
 
                       、 、、 、 、、
 誰も、ヒッキーのアレルギーは知らなかった。
                     、 、、 、 、、
 誰も、ヒッキーの音楽趣味は知らなかった。
 
 
(;´‐ω‐`)
 
                              、 、
 ヒッキーのアレルギーを知り得たのは、家族くらいなものだった。
                                          、 、
 ヒッキーの通話履歴に残っていたのは、九割の職場と、一割の家族だった。
 
.

299名無しさん:2018/11/13(火) 18:26:37 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「捕まえたぞ!!!」
 
 すぐさま電話を取り返す。
 発信する先は、履歴の一番上にあった、ワカッテマスだ。
 
 
(´・ω・`) 「僕だ!」
 
(´・ω・`) 「いますぐ、事件にかかわる全員にまわせッ!」
 
 
(´・ω・`) 「連続予告殺人ッ!!」
 
(´・ω・`) 「その真の犯人は、ヒッキー小森!!」
 
(´・ω・`) 「もっと言うと……」
 
 
  >                      、
  >/ ゚、。 / 「ヒッキー小森は、両親と弟の四人家族」
  >
  >/ ゚、。 / 「住まいは当時も今もアルプス」
  >
 
 
.

300名無しさん:2018/11/13(火) 18:26:42 ID:Si/MFqts0
佳境支援

301名無しさん:2018/11/13(火) 18:26:57 ID:0on9OJjc0
 
 
 
       、、 、 、 、 、 、 、
(´・ω・`) 「ヒッキー小森の弟ッ!!」
 
  『!!』
 
                     、 、 、 、 、、 、
(´・ω・`) 「奴は十年以上前から、兄の名を騙って生きてきたんだ!」
 
(´・ω・`) 「至急、正体を特定してこっちにまわせ!!」
 
 
 ワカッテマスが、即座に応答した。
 電話が切れる直前に、大声を出すのが聞き取れた。
 
 十年以上前から、ずっと隠されてきた、偽り。
 もう、すべて、ひっぺがしてやった。
 残るは、偽りの亡霊を、捕まえるだけだ。
 
 
.

302名無しさん:2018/11/13(火) 18:27:21 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「弟ォ!?」
 
(;´・_ゝ・`) 「そんな話、聞いたことないぞ!」
 
(´・ω・`) 「そりゃあそうだ!」
 
 
(´・ω・`) 「奴は、十年前、」
 
(´・ω・`) 「何も事件すらなかった頃から、あんたらを、」
 
(´・ω・`) 「友だちを、自分すらをも、偽ってきたんだ!」
 
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
 すぐに電話が震えた。
 鈴木ダイオード。
 壁から、添付ファイル付きのメールが送られてきた。
 
.

303名無しさん:2018/11/13(火) 18:27:50 ID:0on9OJjc0
 
 
 
  「 (-_-) 」
  「 小森マサオ (32) 」
 
 顔写真と名前しか載っていない。
 そいつをすぐに、デミタスに見せた。
 
 
(´・ω・`) 「こいつに、見覚えは!」
 
(´・_ゝ・`) 「ッ!!」
 
(´・_ゝ・`) 「間違いない!」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 
 
(;´・_ゝ・`) 「こいつです!」
 
(;´・_ゝ・`) 「十年前……僕らと一緒にいた……」
 
(;´・_ゝ・`) 「ずっと……一緒に遊んできた……ヒッキー小森は!」
 
 
.

304名無しさん:2018/11/13(火) 18:28:15 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 デミタスの背中を、ばんばんと叩いた。
 よくやった。
 亡霊の正体を、ついに、暴いた。
 
 
(´・ω・`) 「あんたも一緒に探せ!!」
 
(´・ω・`) 「見つけたら、大声で叫べ!」
 
(´・ω・`) 「殺されそうになったら、全力で、ぶん殴れ!」
 
(;´・_ゝ・`) 「もちろんッ!」
 
 
(´・ω・`) 「相手は、あんたがよく知る男だ、できるだろ!」
 
(;´・_ゝ・`) 「当たり前だッ!!」
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 
 タイムリミット。
 要請しておいた、所轄署や交番の警官たちが、サイレンを鳴らして集まってきた。
 
 本来なら、すべての、終わり。
 しかし、亡霊を暴いた今となっては、すべての、はじまりだ。
 
.

305名無しさん:2018/11/13(火) 18:28:37 ID:0on9OJjc0
 
 
 
刑事 「イツワリさん!」
 
(´・ω・`) 「話は後だ!」
 
 所轄署の刑事が、パトカーから降りて、走ってきた。
 添付された顔写真を見せる。
 
 
(´・ω・`) 「この男を見つけ次第、全力で捕まえろ!!」
 
刑事 「わかりました!」
 
 
 刑事は、携帯電話に表示された画像の、写真を撮った。
 到着した全員に、まわしてくれるだろう。
 
 
 警察のネットワークを、舐めるな。
 警察の組織力を、舐めるな。
 
 今まで、何度も、その網をくぐり抜けてきた?
 どんな刑事でも、亡霊は捕まえられない?
 
.

306名無しさん:2018/11/13(火) 18:29:02 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 相手を間違えたな。
 この僕に勝てると思うな。
 相手は、この、ショボーンだ。
 
 
(´・ω・`) 「もしもしッ!」
 
 まわりは固めた。
 もう、逃げられる心配もない。
 今日逃げられたとしても、全国に指名手配として流す。
 
 追い打ちだ。
 デミタスが一の矢、応援が二の矢なら、トドメの三の矢だ。
 
 
  『え、あ、はい! トソンです!』
 
(´・ω・`) 「今から犯人の顔写真を送る!」
 
(´・ω・`) 「その男について、」
 
 
 
  『いま経済学部棟ですよね!?』
  『二階にいるんでそっち行きます!』
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
.

307名無しさん:2018/11/13(火) 18:29:33 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 トソンちゃんは、まだ帰ってなかったのか。
 というよりも。  、 、 、 、 、
 そうか、僕は、経済学部棟に彼女を残してきたのか。
 
 
(゚、゚;トソン 「警部ッ!」
 
(´・ω・`) 「ッ! どうして!」
 
(゚、゚;トソン 「お説教はあとでいいですよ!」
 
 
(゚、゚;トソン 「犯人の、顔が、わかったんですよね!?」
 
(´・ω・`) 「あとで覚えてろ……いや、いい!」
 
 
(´・ω・`) 「こいつだ!」
 
 ヒッキー小森、ではない。
 ただしくは、亡霊。
 小森マサオの、顔写真を見せた。
 
.

308名無しさん:2018/11/13(火) 18:29:57 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「……」
 
(゚、゚;トソン 「あっ!」
 
(´・ω・`) 「見たか!?」
 
 
 言うと、トソンちゃんは僕の手を引っ張った。
 全力で、走り出している。
 
        、 、 、
(゚、゚;トソン 「駐車場ですッ!」
 
(゚、゚;トソン 「学部棟の裏の駐車場を、ついさっき、走ってッてました!」
 
(´・ω・`) 「ッ!」
 
 
  >
  >(゚、゚;トソン 「あっ!」
  >
  >(´・ω・`) 「えっ」
  >
  > 急になんだ。
  > 思わずトソンちゃんの視線の先を追ってしまった。
  > 誰か、それこそ亡霊が後ろにでもいたんじゃないか、みたいな。
  >                     、 、 、
  > そこには、人も車も少ない、駐車場しか広がっていなかった。
  > 経済学部棟の裏には、駐車場があるようだ。
  >
 
.

309名無しさん:2018/11/13(火) 18:30:19 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(゚、゚トソン 「間違いないです!」
 
(゚、゚トソン 「変な人だなッて思って、凝視しましたもん!」
 
(´・ω・`) 「上出来ッ!」
 
 すぐさま情報をまわす。
 亡霊は、成仏を嫌い、駐車場方面から逃げ出した。
 
 
 
(´・ω・`) 「犯人は経済学部棟裏手の駐車場より逃亡ッ!」
 
(´・ω・`) 「全員をそっちにまわせ! 検問も怠るな!」
 
 
.

310名無しさん:2018/11/13(火) 18:30:49 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 そのままデミタスにも電話する。
 
(´・ω・`) 「デミタス、駐車場に行け!」
 
  『!』
 
 
(´・ω・`) 「ずっと会いたかった、亡霊が……」
 
(´・ω・`) 「あんたらの友だちだった!」
 
 
       、、 、 、、 、
(´・ω・`) 「ヒッキー小森が!!」
 
(´・ω・`) 「いるはずだッ!!」
 
 
 駐車場に出て、周囲を見やりながら、奥へ、奥へと走る。
 車も人も少ない。
 
 この開けた場所に、ぞくぞくと、警官が集まってきた。
 近くにいたのだろう、デミタスも、駆け寄ってきた。
 
 
.

311名無しさん:2018/11/13(火) 18:31:19 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 さあ、どうする、亡霊。
 
 お望みの盛岡デミタスも、丸腰だぞ。
 
 お望みの警官も、刑事も、僕も、集まっているぞ。
 
 
 
 サークルを抹殺するとか言ったな。
 
 亡霊は捕まらないとか言ったな。
 
 
 
 
(ill゚_゚) 「ッ!!!」
 
 
 すべて、お望み通り。
 
 願いを、叶えてやったぞ。
 
 さあ、どうする、亡霊。
 
 
(´・ω・`) 「………捕まえたぜ。」
 
 
.

312名無しさん:2018/11/13(火) 18:31:42 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(ill゚_゚) 「あああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
 
 
(´・ω・`) 「ッ!!」
 
 即座に拳銃を抜き出した。
 職員に扮したそいつの、腰から下、太ももの辺りを狙う。
 
 
(ill゚_゚) 「!!!」
 
(´・ω・`) 「あるじゃねえかよ!!」
 
 駆け出そうとした亡霊は、
 足から血を流して、大袈裟に倒れ込んだ。
 
 
                       、
(´・ω・`) 「あんたにも、立派な足がなァ!!」
 
(ill゚_゚) 「     ァァァああああああああああああああああ!!!!」
 
 
.

313名無しさん:2018/11/13(火) 18:32:05 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「取り押さえろッ!!」
 
 
 一人、二人、三人。
 また一人、二人、三人。
 
 次々と、獲物に食らいつくピラニアのように、警官が飛びかかる。
 先ほど兄者がされたように、亡霊が、羽交い絞めにされていく。
 
 
 
(ill-_-) 「離せッ!!」
 
(ill-_-) 「全員ぶっ殺すぞ!!」
 
(ill゚_゚) 「  聞いてんのか!? おい!! おいッ!!!」
 
 
 
.

314名無しさん:2018/11/13(火) 18:32:27 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 十一時二一分。
 容疑者、確保。
 
 羽交い絞めの中心から、場を貫く大声が放たれた。
 続けて確保、確保、と、野郎どもが叫ぶ。
 
 
(ill゚_゚) 「俺は無実だ!!」
 
(ill゚_゚) 「確保!? なんの話だ!!」
 
 
(´・ω・`) 「どけッ!」
 
 警官を数人押しやり、後ろ手錠のかかった亡霊と対面する。
 それでもなお、暴れている。
 
(ill゚_゚) 「ッ!」
 
 服を漁る。
 今更ロジックを展開させるつもりはない。
 
 この事件で、はじめて。
 犯人を特定する物的証拠を、突き付けてやるのだ。
 
.

315名無しさん:2018/11/13(火) 18:32:50 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「……持ってるねえ」
 
(´・ω・`) 「持ってるじゃねえか、亡霊。」
 
(ill゚_゚) 「違うッ!! これは          ッ!!」
 
 
 血を吸ったハンカチで覆われた、包丁。
 スマートフォンが、三台。
 ボイスチェンジャーと呼ばれる、声を機械的に変える装置。
 
 まだ出てくるぞ。
 財布のなかには、ご丁寧に身分を証明する普通免許。
 そして、こいつもあった。
 
 
(´・ω・`) 「持っててくれたんだねェ!」
 
(´・ω・`) 「僕の名刺を、後生大事になあ!!」
 
 
.

316名無しさん:2018/11/13(火) 18:33:13 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 包丁を隣の警官に押し付け、僕はスマホを開く。
 ひとつは、亡霊自身のスマホと思しきものだ。
 
 続けて、格安スマホ。
 型番などわからないが、通話アプリがトップ画面にあった。
 
 そして。
 通話履歴が表示されたままの、スマホ。
 持ち去られた、兄者のスマホだ。
 
 通話履歴には、ヒッキー、の文字があった。
 
 
(´・ω・`) 「………そうか」
 
(´・ω・`) 「兄者は、これを見て……」
 
 
 ヒッキーからの、着信。
 当時の兄者視点で言えば、
 他の何者を差し置いてでも優先すべき、電話の相手だ。
 
 十年以上前からの、兄者の、親友。
 にして、自分を貶めた、十年前の事件の、真犯人。
 なにより、死んだ男からの、文字通り亡霊からの、着信。
 
.

317名無しさん:2018/11/13(火) 18:33:35 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(ill゚_゚) 「違うんだ!!」
 
(ill゚_゚) 「これには深いワケがある!!」
 
 
(ill゚_゚) 「第一……ヒッキー小森は殺されたんだろ!?」
 
(ill゚_゚) 「俺は犯人じゃない!」
 
(ill゚_゚) 「犯人じゃない!」
 
 
(´・ω・`) 「ああ、犯人じゃないさ」
 
(ill゚_゚) 「ッ!」
 
(´・ω・`) 「あんたは、犯人なんてもんじゃない」
 
.

318名無しさん:2018/11/13(火) 18:33:56 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「友だちから呼ばれる名前も」
 
(´・ω・`) 「十年前の真実も」
 
(´・ω・`) 「山村貞子の名前も」
 
 
(´‐ω‐`) 「その全てを偽ってきた……亡霊。」
 
 
 
(´・ω・`) 「偽りの、亡霊だッ!!」
 
(´・ω・`) 「話はすべて、署でッ!!」
 
(´・ω・`) 「この僕が、じきじきにすべて、聞いてやる!!」
 
 
.

319名無しさん:2018/11/13(火) 18:34:42 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(´・ω・`) 「亡霊ッ!!」
 
(´・ω・`) 「成仏の時間だッ!!」
 
 
(ill゚_゚) 「!」
 
(ill゚_゚)
 
(ill-_-)
 
 
 
( -_-)
 
(;゚'_゚)
 
 
 
.

320名無しさん:2018/11/13(火) 18:35:02 ID:0on9OJjc0
 
 
 
(ill゚'_゚) 「ああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
 
(ill゚'_゚) 「ああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 
 
(ill゚'_゚) 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
 
 
 
 
 
 
 
 亡霊は、力尽きるその時まで、ずっと、叫び続けた。
 
 力尽きたその時に、口をパクパクさせたかと思うと、
 
 そのまま白目を剥いて、抵抗していた力と一緒に、
 
 魂が抜け落ちたように、倒れこんだ。
 
 
 
.

321名無しさん:2018/11/13(火) 18:35:45 ID:0on9OJjc0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

322名無しさん:2018/11/13(火) 18:37:33 ID:0on9OJjc0
第九幕  >>9-143
第十幕  >>164-321

次回最終回です
トリック解説とか後日談とかエンドロールとか全部まとめて次で片付けます

323名無しさん:2018/11/13(火) 18:38:48 ID:M8bbK4W.0
おつおつ
ネットで知り合いってのは違和感あった

324名無しさん:2018/11/13(火) 18:43:33 ID:H3jyKtig0
おつ
予想してなかった展開だわ

325名無しさん:2018/11/13(火) 18:43:39 ID:Si/MFqts0
やったぜ

326名無しさん:2018/11/13(火) 18:47:33 ID:E4ccVPbI0
おつ!
とうとう次回で最終回か、動機とか気になりすぎるな!

327名無しさん:2018/11/13(火) 18:52:45 ID:fr.Q/pnI0
おつ!こりゃ最後楽しみだ

328名無しさん:2018/11/13(火) 18:53:49 ID:DwbvsOT60
おつ

329名無しさん:2018/11/13(火) 19:45:33 ID:J9U2QHiU0
おーまいが…

330名無しさん:2018/11/13(火) 19:45:43 ID:39p7MKCE0
おつ!!

うおおおお……
今回はトソンなんともなくてよかった……

331名無しさん:2018/11/13(火) 19:56:18 ID:7y5HnOeI0
乙!

332名無しさん:2018/11/13(火) 20:29:10 ID:TOMCJIr60
やべぇ・・・文章にメタクソ引き込まれた

小学生や中学生の頃に推理小説にはまってた以来だ

最終回も期待乙

333名無しさん:2018/11/13(火) 21:20:34 ID:PJR9FjrY0
やっぱりトソンちゃん有能!

334名無しさん:2018/11/13(火) 21:33:22 ID:/nJ7FpcA0
クッソ面白かった!乙!!!!
そういやAA出してなかったもんな
勝手に脳内で想像してたからすっかり考えの外だったわ

335名無しさん:2018/11/13(火) 21:46:44 ID:PJR9FjrY0
叙述トリックって言うの?

336名無しさん:2018/11/14(水) 10:15:25 ID:TElHsDMQ0
前スレ>>713とかも伏線というかヒントかな、面白かった。
動機は気になるわ〜

337名無しさん:2018/11/16(金) 07:22:51 ID:UFa7aw6k0
やっぱり読みごたえあるなぁ。しかし次で最終回か、また1つ更新を楽しみにしていた現行が終わってしまうのか…

338名無しさん:2018/11/16(金) 11:04:55 ID:TJYIIfy20
ブーン系だからこそのネタだから面白い

339名無しさん:2018/11/16(金) 14:22:55 ID:eistRLR.0
復活してたの今更気付いて一気読みしたわ

340名無しさん:2018/11/16(金) 19:21:26 ID:JZCM/o2U0
電話での反応的にヒッキーが貞子殺そうとしたっていうの違うっぽいしまだなんかありそうだな

341名無しさん:2018/11/18(日) 23:31:05 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 ┏━─
    五月八日  午前十一時四八分  国道二十七号線
                                      ─━┛
 
 
 
 続々やってきた、更なる応援や救急車、野次馬の数々。
 ヴィップ大学は本日、あくまで緊急メンテナンスという名目で休講させていた。
 
 噂を聞きつけた野次馬の大多数は、学生だ。
 何があったのか、噂は本当なのか、といったそれぞれの思惑で、
 帰宅させたはずの彼らが、絶えず大学に集まってきた。
 
 
(´・ω・`) 「……」
 
(lli _ )
 
 
 僕は一通りの指示を出して、そそくさとパトカーに乗り込んだ。
 ひとまずは、小森マサオの取調を進めるべきなのだ。
 一刻も早く、世間に、公表しなければならないのだから。
 
 連続予告殺人事件が終わったことを。
 
.

342名無しさん:2018/11/18(日) 23:31:43 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 救急車の到着と同時に、流石兄者を搬送させた。
 死亡は、していない。
 しかし一刻を争う事態であることは間違いなかった。
 
 兄者は学長が責任をもって介抱してくれていた。
 おかげで、あの数十分の間に、事尽きることはなかった。
 今頃は、輸血パックが大量に使われていることだろう。
 
 
 流石兄者以外の犠牲を出すことは、なかった。
 それは、小森マサオが 「亡霊」 に縛られていたからであった。
 
 彼は、意識を取り戻し、いま自分がパトカーのなかにいて、
 隣に自分を捕まえた男がいる状況を察し、
 とうとう、亡霊としての成仏を迎える時がきたことを知った。
 
 揺れるパトカーの車内で、ゆっくり、重い口を開いた。
 
 
(lli _ ) 「……」
 
(lli _ ) 「どうして……わかったんだ……」
 
.

343名無しさん:2018/11/18(日) 23:32:33 ID:mzQyUXV60
 
 
      '_
(´・ω・`) 、
 
 僕と話をする体力が、残っていたか。
 あるいは、成仏する前の、最後の余力なのか。
 
 煙草に火をつけ、少し開けた窓に向けて紫煙を吹き散らした。
 
 
(´・ω・`) 「亡霊の、正体を、か?」
 
(lli _ ) 「すべて……」
 
(lli _ ) 「そう……すべてだ」
 
 
(lli _ ) 「十年前の事件もそう……」
 
(lli _ ) 「亡霊が俺であること……」
       、 、、 、
(lli _ ) 「ヒッキーという名前のことも……すべて。」
 
 
.

344名無しさん:2018/11/18(日) 23:32:55 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´‐ω‐`)
 
 二口目、一気に煙草の燃焼が進んだ。
 思えば、長いロジックの道のりだった。
 
(´‐ω‐`)
 
 
(´・ω・`) 「すべての発端は、あんたの自供だ」
 
(lli _ ) 「自供…?」
 
 
(´・ω・`) 「亡霊を、山村貞子を名乗るあんたからの、電話」
 
(´・ω・`) 「あの一本の電話で、今回の事件は、姿を変えたんだ」
 
(´・ω・`) 「今回の事件は、十年前のあの日が、すべての発端だったんだぞ、と」
 
 
(´・ω・`) 「あんたが、そいつを、教えてくれた」
 
(´・ω・`) 「兄者も、デミタスも、ミセリも、みんな、隠してたんだぜ」
 
(lli _ ) 「…!」
 
.

345名無しさん:2018/11/18(日) 23:34:44 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「なぜなら、ほんとうに」
 
(´・ω・`) 「誰一人として、十年前の事故を疑う人は、いなかったから」
 
 
(´・ω・`) 「疑っていたのは、たった一人」
 
(´・ω・`) 「貞子を突き落とした真犯人たる、小森マサオ」
 
(´・ω・`) 「あんただけだ」
 
 小森マサオは、下唇を強く噛んだ。
 少し血が滲んできていた。
 
 
(lli _ ) 「でも……それもだ」
 
(lli _ ) 「当時の警察ですら、俺が犯人だったこと……」
 
(lli _ ) 「わからなかったんだぞ?」
 
(lli _ ) 「兄者も……わかるはずが、なかったんだ」
 
.

346名無しさん:2018/11/18(日) 23:35:06 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「当然だ」
 
(´・ω・`) 「誰も、墓荒らしに挑もうと思わなかったからな」
 
(lli _ ) 「あんたが……その墓荒らし、ッてわけか…」
 
 犯人が特定できない事件だった。
 
 犯人、と思い込んでいた兄者は、事件から目を背ける。
 サークルメンバーは、事件と思わないため、隠そうとする。
 警察は、証拠がなさすぎた本件を、事件と処理できなかった。
 
 巧妙に偽られた事件だった。
 全員が、隠し通そうとしてきた事件なのだ。
 墓荒らしに成功したのが、ひとつの大きな機転だった。
 
 
(lli _ ) 「嘘……なんだろ?」
 
(lli _ ) 「兄者が、自供した、ッて話……」
 
 
.

347名無しさん:2018/11/18(日) 23:36:27 ID:mzQyUXV60
 
 
 
  >
  >(´・ω・`) 「兄者が自供したさ」
  >
  >  『それはあり得ない』
  >
  >(´・ω・`) 「…!」
  >
 
 
 思えば。
 さっきは、亡霊が山村貞子だと思って話をしていたが。
 本当は、僕は、小森マサオ相手に、あの話をしていたことになるのか。
 
 奴視点だと、果たしてどんな話に聞こえたのだろうか。
 もう、あの時、なにをどう話したのかすら、おぼろげになっている。
 
 
(´・ω・`) 「ああ。 嘘だな」
 
(lli _ ) 「!」
 
(´・ω・`) 「奴がした正確な自供は、たったひとつ」
 
.

348名無しさん:2018/11/18(日) 23:37:07 ID:mzQyUXV60
 
 
 
  >
  >(´・ω・`) 「じゃあ、確実なことだけを、話せ!」
  >
  >( ::;゚_ゝ::) 「確実なのは、ヒッキーはいいやつッてことだけだ!」
  >
 
       、 、 、 、 、、 、
(´・ω・`) 「いいやつだった」
 
 
(lli _ ) 「…?」
 
 兄者は、偽りの濁流に飲み込まれていた。
 右を見ても左を見ても、なにが現実でなにが本当かわからない。
 
 窒息しかけ、溺れかけたなか、
 兄者がたったひとつだけできた、本当の証言がそれだった。
 
 
(´・ω・`) 「たったそれだけの証言があれば、十分だった」
 
(´・ω・`) 「流れるように、十年前の真実に、気が付けたよ」
 
.

349名無しさん:2018/11/18(日) 23:37:43 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「………もう、許してくれ」
 
(lli _ ) 「たちの悪い冗談だ」
 
(´・ω・`) 「いや、本当だぞ?」
 
 兄者との対決を、思い出す。
 なにかを、真実を、自分でさえも偽るのが、巧妙な男だった。
 
 
(´・ω・`) 「兄者は、あんたに完全に、騙されていた」
 
(´・ω・`) 「ずっと、自分が犯人だと思い込んでいたし」
 
(´・ω・`) 「事件を、犯人たる自分を偽ろうと、兄者自身を、偽りで支配していた」
 
(lli _ ) 「……ッ」
 
 僕自身が、衝撃だった。
 数多もの偽りを見抜いてきた僕にとっても。
 十年以上、さまざまなことを偽ってきた小森マサオにとっても。
 
 流石兄者という存在は、衝撃的な人物だった。
 おそらく、今後、僕は奴を忘れることはないだろう。
 
.

350名無しさん:2018/11/18(日) 23:38:47 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「さて」
 
(´・ω・`) 「それでも僕は、今回の真犯人が、誰なのか」
 
(´・ω・`) 「最後の最後まで、山村貞子なんだと、信じていたよ」
 
(lli _ ) 「……ほんとうか?」
 
(lli _ ) 「すべてが、嘘、偽りなんじゃないのか?」
 
 
 小森マサオも、疑心暗鬼になっている。
 猜疑心を持つことができない流石兄者と、
 疑心暗鬼になってしまった小森マサオ。
 
 本件のキーパーソンにして、対照的なふたりだ。
 
 
(´・ω・`) 「それだけ、あんたが自然に偽りを纏っていたのさ」
                、、 、 、
(´・ω・`) 「……どうして、ヒッキーの名を、あんたが使っていたんだ?」
 
.

351名無しさん:2018/11/18(日) 23:39:21 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「………」
 
(´・ω・`) 「どうせ、署につけば、何時間とかけてする質問のひとつなんだ」
 
(´・ω・`) 「先に言っといたほうが、後が楽だぜ」
 
 
(lli _ ) 「……隠すつもりは、ねえよ」
 
(lli _ ) 「大した理由でもないんだ」
 
(´・ω・`) 「ん?」
 
 大層な理由があって、名前を偽ってきたのかと思った。
 しかし、実際は、なんてことのない話だった。
 
 
(lli _ ) 「知ってるだろ?」
 
(lli _ ) 「俺は、兄者とは、ネットで知り合った」
 
(lli _ ) 「いじめられて、不登校になっててな、人間が信じられなかった」
 
.

352名無しさん:2018/11/18(日) 23:39:43 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「兄者と仲良くなって、本名を知りあう仲にまでなったのは、嬉しかったさ」
 
(lli _ ) 「兄者自身が、すげえいい奴だったし」
 
(lli _ ) 「こんな俺が、ネット上とはいえ友だちを作れたのが、嬉しかった」
 
 
(lli _ ) 「でも、それでも」
 
(lli _ ) 「当時俺は、兄者を信じることが、できなかった」
 
(´・ω・`) 「それは、いじめられたことで、か」
 
 それもある。
 小森マサオが、ちいさく言った。
 
(lli _ ) 「親も、アニキもそうだ」
 
(lli _ ) 「親は、俺が人間不信になったのを、受け入れなかった」
 
(lli _ ) 「甘ったれている、逃げるな、の一点張りよ」
 
.

353名無しさん:2018/11/18(日) 23:40:18 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「ひどい親だったのか?」
 
 聞くと、小森マサオは首を傾げた。
 そうだ、と即答しかけて、しかしその口を閉じた。
 
(lli _ ) 「アニキが、出来る男だった」
 
(lli _ ) 「運動もできる、頭もいい、ギターも弾ける」
 
(lli _ ) 「二年遅れて俺が生まれる時、おふくろの腹ンなかには、何もなかったんだよ」
 
(lli _ ) 「才能とか、恵まれたものとか、すべてな」
 
 捜査中に、わずかに引っかかっていた点。
 僕が写真で見た 「ヒッキー小森」 と、サークルメンバーが語る 「ヒッキー小森」 の差異。
 当時、まさか別人である、だなんて疑いもしなかった。
 
 
(lli _ ) 「アニキと比較される人生で」
 
(lli _ ) 「だんだん俺がインドアに、卑屈に、根暗になった」
 
(lli _ ) 「デキが悪いんだ、そりゃあいじめの標的にもなるさ」
 
 
 人は、十年もあれば変われるものだと思っていた。
 しかし、もっとそこを、疑うべきだった。
 
 確かに多くのものが変わるが、
 それ以上にもっと多くのものは、変わらないのだ。
 
.

354名無しさん:2018/11/18(日) 23:41:07 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「だから、アニキにも復讐を?」
 
(lli _ ) 「殺したのは復讐だがな」
 
(lli _ ) 「名前は、違う」
 
(lli _ ) 「あれは、本当にただの、偶然だ」
 
 小森マサオは、十何年も昔から、ヒッキー小森の名を騙った。
 それも、アウトドアサークルが創設されるよりも、ずっと昔から。
 
 
(lli _ ) 「本名の話になって、俺は」
 
(lli _ ) 「兄者に対して心を許しつつあった俺だがな」
 
(lli _ ) 「それでも、やっぱり、性分の人間不信が再発した」
 
(´・ω・`) 「…?」
 
.

355名無しさん:2018/11/18(日) 23:41:48 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「あんたにはわからんだろうがな」
 
(lli _ ) 「ネットの相手に本名を知られることほど」
 
(lli _ ) 「ネット依存の引きこもりにとって、怖ろしいことはない」
 
 ネット依存。
 はじめて出るワードだな。
 
(´・ω・`) 「でも、兄者は隠そうとしていなかったんだろう」
 
(lli _ ) 「兄者は、俺のことを信じていたからな」
 
(lli _ ) 「でも、俺は。」
 
(lli _ ) 「本名を晒す、有り体の自分を晒すことが、怖かった」
 
 
 ピンときた。
 ネット依存、とは言うが。
 要は、インターネットの世界に生きる人間だ。
 
 インターネットの世界では、現実の自分を偽ることができる。
 それこそ、ナントカネームというものが当てはまる。
 親から与えられた名前とは別の、自分の名前を、自分で名乗ることができる。
 
.

356名無しさん:2018/11/18(日) 23:42:38 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「かといって、兄者がさらけ出してくれているのに」
 
(lli _ ) 「自分だけ頑なに隠そうとするのも、奴を、拒むことになると思った」
 
(lli _ ) 「俺は、咄嗟に、アニキの名前を言ったよ」
 
(´・ω・`) 「それが、ヒッキーだった」
 
 
(lli _ ) 「まさか、あの時の、あの些細な一言が、」
 
(lli _ ) 「こうも、自分の人生を、狂わせることになるなんてな」
 
(´・ω・`) 「今回の連続殺人の、トリックのことを、言ってるのか?」
 
 連続殺人が、ここまで難航したのは、
 ひとえに、真犯人が既に殺されていたと思われたところにあった。
 
 警察が調べて、答えを出していたのだ。
  「ヒッキー小森」 は、殺されている、と。
 
.

357名無しさん:2018/11/18(日) 23:43:04 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「違う」
 
(lli _ ) 「……考えても見ろ」
 
(lli _ ) 「サークルで、いろんな人と仲良くなれたッてのに」
 
 
(lli _ ) 「誰一人として、俺の」
 
(lli _ ) 「小森マサオという本名を、誰一人、呼んでくれなかったんだ」
 
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 孤独な人生を送ってきた、境遇。
 大学の年頃になって、ようやく掴めた、友人達との楽しい日々。
 
 しかし、その日々を過ごしたのは、ほんとうの自分ではない。
 偽りを纏った、ヒッキー小森という男だったのだ。
 
 
(lli _ ) 「俺は毎日、毎日、ずっと、後悔してたよ」
 
(lli _ ) 「まさか、今更になって、ヒッキーってのは偽名だ、なんて言えない」
 
(lli _ ) 「………どうして、こうもいい奴らばっかなのに、俺は、警戒したんだ」
 
(lli _ ) 「……毎日、後悔し続けていたさ」
 
.

358名無しさん:2018/11/18(日) 23:43:24 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「でも、どこかでバレても、おかしくはなかったろ」
 
(lli _ ) 「俺も、思っていた」
 
(lli _ ) 「バレそうになったら、いっそ開き直って」
 
(lli _ ) 「多少変な奴と思われてでも、ほんとうの自分を、知ってもらおうッてな」
 
 
(lli _ ) 「たぶん、同じ大学だったら、自然に明かせただろう」
 
(lli _ ) 「でも、俺は、俺だけは、仲間外れだったんだ」
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 事件の捜査をはじめたあの日から、ずっと浮いていた、謎。
 ヒッキー小森だけ、アルプスの、人間である。
 
 ここにきて、内臓に重く圧し掛かってきた。
 あの時点で既に、ある種の疑念を、持つべきだったというのか。
 
.

359名無しさん:2018/11/18(日) 23:44:01 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「アルプス学院大学、だったかな」
 
(lli _ ) 「それは、アニキだ」
 
(lli _ ) 「俺は……大学どころか、高校すら、出てねえよ」
 
(´・ω・`) 「…!」
 
 言われてみれば。
 ヒッキー小森という男の略歴はとにかく洗ったものの。
 小森マサオという、弟については、ほとんど調べられていなかった。
 
 
(lli _ ) 「当時は、免許もなかった」
 
(lli _ ) 「自分を、自分だと証明するものなんて、保険証くらいだ」
 
(lli _ ) 「……ヒッキーっつー偽名が、バレることなんてなかったんだ」
 
(´・ω・`) 「………そういうことだったんだな」
 
.

360名無しさん:2018/11/18(日) 23:44:29 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 名前を偽り続けるのは、到底無理な話だろう。
 しかし、小森マサオについては、例外と言えた。
 
 もとが、ただ遊ぶだけの集まり。
 誰も小森マサオの名前を疑うことはないし、
 学生証すらなかったのだから、メンバーは彼をヒッキー小森と信じるしかなかった。
 
(lli _ ) 「……刑事サンも、聞いたろ」
 
(lli _ ) 「俺がパトカーに乗る時の、デミやんの……」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 デミタスが、連行される小森マサオを見送る時。
 別れの言葉なんてなかったが、一言だけ、奴は言葉を発した。
 
  「ヒッキー」 と。
 切なげに、複雑そうに、言ったのだ。
 
 
(lli _ ) 「………俺の失態は、ひとつだけだ」
 
(lli _ ) 「亡霊を名乗ったことでも、貞子の名前を使ったことでも」
 
(lli _ ) 「殺人犯になっちまったことでも、あんたに喧嘩を売ったことでもない」
 
.

361名無しさん:2018/11/18(日) 23:44:56 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「名前を、隠してきたこと」
 
(lli _ ) 「刑事サンの言葉を借りて言うなら……」
 
(lli _ ) 「気の置けない相手にすら、偽りの自分を演じてきたこと」
 
 
(lli _ ) 「その、ひとつだけ、だ」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 今回の事件で、ふたり。
 僕は、自身で作り上げた偽りに支配されてしまった人間を、知った。
 
 世を生きる大多数の人間は、
 自身の人生を大きく狂わせる偽りとは無縁の生活を送っているというのに。
 
 
(´・ω・`) 「……懺悔は、牢獄のなかだ」
 
(´・ω・`) 「もっとも、四人も殺して、どうなるかはわからないけどな」
 
(lli _ ) 「…………。」
 
.

362名無しさん:2018/11/18(日) 23:46:13 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「そんなことはいいんだ」
 
 二本目に火をつけた。
 無性に喉が渇いた。
 
 署についたら、まずはとびっきり苦い、ブラックを飲もう。
 ミルクの入ってない、喉に絡みついてこない、澄んだブラックを。
 
 
(´・ω・`) 「疲れたろ」
 
(´・ω・`) 「僕も疲れたんだ、少しでも取調の時間、減らそうぜ」
 
(lli _ ) 「………」
 
 単なる誘導だ。
 事件の骨格が語られないことには、事件は完全には終わらない。
 半ば同情を挟むように、真相を語らせるように仕向ける。
 
 しかし。
 小森マサオは、もう抵抗しようとはしていなかった。
 偽りが剥がれた人間は、それまでとは一転、脆くなるものなのだ。
 
.

363名無しさん:2018/11/18(日) 23:46:59 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「そもそも」
 
(´・ω・`) 「どうして……連続殺人をしようだなんて思ったんだ」
 
(lli _ ) 「……」
 
 解決したように見えて、根本的に謎のままだったポイント。
 亡霊が山村貞子だったなら、それは 「目覚めたからこその復讐」 と捉えられた。
 
 しかし、亡霊が小森マサオだった場合。
 謎は、再び謎に帰してしまうことになる。
 
 
(lli _ ) 「……」
 
(lli _ ) 「貞子が」
 
(´・ω・`) 「?」
 
 
 
(lli _ ) 「貞子が、目覚める、ッて話を聞いたんだ」
 
 
.

364名無しさん:2018/11/18(日) 23:47:26 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 どういうことだ。
 小森マサオは、貞子の 「その後」 を、知り得たのか。
 
 
(lli _ ) 「ほんとうに、きっかけは偶然だった」
 
(lli _ ) 「そもそも、貞子のことは、十年前以降」
 
(lli _ ) 「一切、知ろうとすら、しなかった」
 
 
(lli _ ) 「ギコ、いたろ」
 
(lli _ ) 「びっぷ整骨院」
 
(lli _ ) 「あそこで再会してさ」
 
.

365名無しさん:2018/11/18(日) 23:48:09 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「それは、いつのことだい?」
 
(´・ω・`) 「そもそも……あんたは、アルプスの人間じゃないのか?」
 
(lli _ ) 「俺は、ヴィップ大学で、働いてたんだ」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 初耳だな。
 そういえば、そうか。
 亡霊は、どうして最後に、ヴィップ大学を舞台にしたのか。
 
 疑うまでもなく、その殺人に、ドラマを。
 十年間の清算を、という意味が込められていたのだと思った。
 
 しかし、それを聞けば、見方はたちまち変わる。
 いつぞやに僕が担当した事件と、一緒だ。
  、 、
 根城だったんだ。
 
 
(lli _ ) 「ほんとうに、たまたまだった」
 
(lli _ ) 「ギコは、俺を見て、一瞬、固まった」
 
(lli _ ) 「で、すげえ笑顔になって……」
 
.

366名無しさん:2018/11/18(日) 23:48:31 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「そもそも、整体に行こうと思わなかったら、事件すらなかったわけだ」
 
(lli _ ) 「……思えば」
 
(lli _ ) 「これも、兄者の影響だよ」
 
(´・ω・`) 「兄者?」
 
 
(lli _ ) 「兄者は、俺に、いろんなことを教えてくれた」
 
(lli _ ) 「鑑賞の楽しさ、とか」
 
(lli _ ) 「そんな、今までの俺が決して味わうことのなかった、楽しさ」
 
(lli _ ) 「自分の知らない楽しさを見つける趣味を、やつは、教えてくれた」
 
 十年前、小森マサオは、紅葉狩りを 「見るだけ」 と一笑に付していた。
 しかし、兄者の思いが、十年の歳月を経て、彼に届いたのだ。
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、整体も、単に」
 
(lli _ ) 「疲れたし、そういや、整体とかあるんだな、ッて」
 
(lli _ ) 「掛かったことないし、せっかくだから、受けてみようかな、てさ」
 
(lli _ ) 「………兄者の影響が、見えないところで、ほんとうに地味に、あった」
 
.

367名無しさん:2018/11/18(日) 23:49:00 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「そしたら、ギコがいて……驚いたよ」
 
(lli _ ) 「そりゃあ、昔話に花が咲くさ」
 
(lli _ ) 「で、飲もう、飲もう、ッてな」
 
(´・ω・`) 「でも、あんたらの間に、連絡手段はほぼなかったんじゃ?」
 
 事件に眠る、大きな謎。
 すなわち、サークルメンバー間における、連絡手段のなさ。
 
 
(lli _ ) 「なんでもな」
 
(lli _ ) 「クックルもちょっと前に、ギコの店に来たらしくて」
 
(lli _ ) 「飲みの約束をしてたらしいんだ」
 
(´・ω・`) 「連絡手段を交換していなかったのに?」
 
(lli _ ) 「それは知らんよ」
 
(lli _ ) 「単純に、日付と待ち合わせだけ決めといて、忘れてたんだろうよ」
 
.

368名無しさん:2018/11/18(日) 23:49:44 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「なるほど」
 
(´・ω・`) 「で、それに誘われたわけなんだな」
 
(lli _ ) 「悪い気分ではなかった」
 
(lli _ ) 「人生で、友だちと過ごした、一番濃い日々だったからな」
 
 整体師になったフッサール擬古。
 警備員になったクックル三階堂。
 大学スタッフになった小森マサオ。
 
 十年間という、昔話に満開の花を咲かせられるだけの時間はあった。
 小森マサオにとっても、嬉しい誘いだったと言えるだろう。
 
 
(lli _ ) 「明日の七時に駅前な、ッてよ」
 
(lli _ ) 「俺もうっかり、連絡先なんて交換し忘れたよ」
 
(lli _ ) 「ああ、忘れるもんなんだなッて」
 
.

369名無しさん:2018/11/18(日) 23:50:26 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「で、飲みは、あったんだ」
 
(lli _ ) 「昔話で、むっちゃくちゃ、盛り上がった」
 
(lli _ ) 「……ここ最近で、一番、楽しかった瞬間だ」
 
 昔の知り合いと酌み交わす酒は、この上なく美味い。
 僕も、後始末がひと段落したら、酒を飲みたい相手が何人もいるのだ。
 
 
(lli _ ) 「………その時に、貞子の話を聞いたんだ」
 
(´・ω・`) 「…ッ」
 
 
 山村貞子は、鷺宮とかいう老夫婦に引き取られたらしい。
 その仲介人となったのが、フッサール擬古だった。
 
.

370名無しさん:2018/11/18(日) 23:51:13 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「大切な話を忘れてた、と」
 
(lli _ ) 「聞いて驚け、貞子が、目を覚ますかもしれねえぞ、と」
 
 これは、あくまでクックルのような、
 後ろ暗いことを抱えていないメンバーなら、喜ばしいニュースだ。
 その話だけで日本酒を一合、飲めることだろう。
 
 しかし。
 視点を変えて、小森マサオに移してみると、どうだろう。
 山村貞子は、自分が殺そうとした相手なのだ。
 
 そして、貞子が眠り続けていたから、十年前の事故が、再浮上することはなかった。
 小森マサオにとっては、貞子の目覚めは、
 十年前の清算を突き付けられることに同義だった。
 
 
(lli _ ) 「俺は、一気に酔いが覚めたよ」
 
(lli _ ) 「崖下に落とした時の景色が、フラッシュバックした」
 
(lli _ ) 「そんなこと知らないふたりは、一瞬で盛り上がってな」
 
.

371名無しさん:2018/11/18(日) 23:52:04 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「目を覚ます、ッてのは」
 
(lli _ ) 「よくわかんねえけど、前兆が見られたんだと」
 
(lli _ ) 「で、俺は……」
 
(´・ω・`) 「貞子に目覚められるわけには、いかなかった」
 
(´・ω・`) 「貞子が目覚める前に、サークルを抹殺しよう、と思った」
 
(lli _ ) 「……」
 
 だとすると、妙なのが、貞子は落とされる時、気絶していた点だ。
 本来ならば、兄者に突き落とされた、と錯覚するのではないのか。
 
 
(´・ω・`) 「でも」
 
(´・ω・`) 「僕の推理が正しければ、貞子は、気絶していたはずだ」
 
(lli _ ) 「………」
 
.

372名無しさん:2018/11/18(日) 23:52:31 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「貞子は……」
 
(lli _ ) 「………」
 
 
(lli _ ) 「俺が突き落とした、瞬間」
 
(lli _ ) 「目を、覚ましたんだ」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 
 
(lli _ ) 「何があったのか、わからないという顔」
 
(lli _ ) 「とにかく、怯えきった、目」
 
(lli _ ) 「………その時には、もう、遅かった」
 
 
(lli _ ) 「貞子は、だんだんと、落ちていったんだ」
 
.

373名無しさん:2018/11/18(日) 23:53:03 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「頭から、離れないんだ」
 
(lli _ ) 「あの時の、貞子の、目が」
 
(lli _ ) 「俺を、俺の人生を、縛りつけている」
 
 
(lli _ ) 「今でも……今でもッ!」
 
(lli _ ) 「飲みで、貞子のことを聞かされた時も、金縛りにあったさ!」
 
(lli _ ) 「貞子は、貞子だけは、俺のことを知っていたんだ!」
 
 
 連続予告殺人の、本当の動機。
 唯一、己の偽りを見抜く存在の、目覚め。
 
 それは、小森マサオにとっては、
 それだけはあってはならないことだった。
 
.

374名無しさん:2018/11/18(日) 23:53:55 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、兄者やデミタスを差し置いて」
 
(´・ω・`) 「ギコやクックルから、殺したのは」
 
(lli _ ) 「先に、事実を知る連中を殺す必要が、あったんだ」
 
 合点がいった。
 特に、最初にフッサール擬古が殺されたのは、もはや必然だったのだ。
 
 十年前と現在をつなぐ、唯一の存在。
 そして、それを十年前の真犯人の前で、話してしまった。
 
 
(´・ω・`) 「………」
 
(´・ω・`) 「ギコを、どうやって殺したんだ?」
 
(lli _ ) 「……」
 
.

375名無しさん:2018/11/18(日) 23:54:33 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 地下鉄殺人の、謎。
 犯人が乗っていなかったという、大きな一点。
 
 捜査当時、小森マサオという人物の顔、名前は、一切なかった。
 また、亡霊の登場で、犯人は山村貞子、
 すなわち女性だ、と錯覚させられていた。
 
 そのため、現場には犯人がいなかった、という謎が残されていた。
 小森マサオが犯人とわかった今、
 その情報をもとに監視カメラを洗えば、
 存外容易く、奴を炙り出すことができるだろう。
 
 
(lli _ ) 「………最初は」
 
(lli _ ) 「行き当たりばったり、だった」
 
(lli _ ) 「ただ、飲みの時に、ギコの予定は聞いていたからな」
 
(´・ω・`) 「……ふむ」
 
.

376名無しさん:2018/11/18(日) 23:55:19 ID:mzQyUXV60
 
 
 
 ギコ、もっというとクックルもだ。
 この二人と、どう連絡をとっていたか、は解決した。
 
 ただひとつ問題があるのは、
 地下鉄殺人は、予告のもと行われたところにある。
 
(´・ω・`) 「それで、予定に合わせて、予告を?」
 
(lli _ ) 「………」
 
(´・ω・`) 「どうして、予告ッつー手段を取ったんだ」
 
(lli _ ) 「………」
 
 
 
 
(lli _ ) 「あれは」
 
(lli _ ) 「ほんとうは、貞子を殺すつもりだったんだ」
 
 
.

377名無しさん:2018/11/18(日) 23:56:01 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「!」
 
 まったく、予想していなかった。
 といったところで、ひとつ思い出した。
 
 ヒッキー小森以外全員、名指しの予告は、なかったのだ。
 
(lli _ ) 「ギコの予定ッて聞いてさ」
 
(lli _ ) 「そんで、貞子が目覚めるかも……」
 
(lli _ ) 「ッて話まで、聞いてたんだ」
 
 
(lli _ ) 「………貞子の迎えだと思ったんだよ」
 
 連続予告殺人は、小森マサオの想定の範疇においては、
 あくまで一件目、地下鉄殺人で終わっていたのだ。
 
 
(lli _ ) 「ただ、貞子は、いなかった」
 
(´・ω・`) 「……ああ」
 
 納得した。
 ヒッキー小森が名指しで殺害された理由。
 そもそも、ヒッキー小森、すなわち兄が殺害された理由。
 
 予告殺人を、続行する必要が生まれたからだ。
 
.

378名無しさん:2018/11/18(日) 23:56:22 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「ギコを、殺した」
 
(lli _ ) 「しかも、うまく逃げ出せた」
 
(lli _ ) 「ただ……それだけだったら、一瞬で俺が、捕まる気がした」
 
 
(lli _ ) 「予告状も……肉筆だったからな」
 
(´・ω・`) 「……筆跡か」
 
 
  >
  >(;´・ω・`) 「なら……筆跡だ!」
  >
  >(;´・ω・`) 「事件は、はがきで予告が出されていた」
  >
  >(;´・ω・`) 「それも、肉筆で……」
  >
  > 言いかけたところで、亡霊が笑った。
  >
  >  『無駄ですよ』
  >
  >(;´・ω・`) 「なんだと!?」
  >
 
 
.

379名無しさん:2018/11/18(日) 23:56:42 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「結果論で言えば、確かに」
 
(´・ω・`) 「小森マサオという人物は、完全に、ノーマークだった」
 
 そこが、急所だった。
 当時の集合写真なんかがあれば、話は別だっただろう。
 しかし、当事者たる小森マサオは、そんなものがなかったのを知っていた。
 
 そのため、こちらから顔写真を見せる以外で、
 ヒッキー小森と小森マサオのつながりを炙り出すことができなかった。
 
 そうなれば、どこを洗っても、殺人予告の筆跡は追えなくなるのだ。
 
 
(´・ω・`) 「だから、かえって肉筆のほうが都合がよかったとは思う」
 
(´・ω・`) 「ただ……」
 
 しかし、一件目の時点では、そもそも連続殺人は予定されていなかった。
 大層なトリックをも持って臨んだ犯行ではなかったのだ、
 となると当時小森マサオは、どうして肉筆だったのだろうか。
 
.

380名無しさん:2018/11/18(日) 23:57:25 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(´・ω・`) 「どうしてあんたは、」
 
(´・ω・`) 「予告状を……肉筆で送ったんだ?」
 
(lli _ ) 「………ああ」
 
         、 、、、
(lli _ ) 「イタズラと思われたかったんだよ」
 
(´・ω・`) 「なに?」
 
 
(lli _ ) 「もっというと、だ」
 
(lli _ ) 「貞子を足止めして……」
 
(lli _ ) 「かつ、それが公表されないように、したかった」
 
.

381名無しさん:2018/11/18(日) 23:57:51 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「このご時世に、ご丁寧に肉筆で予告出すバカはいねぜ」
 
(lli _ ) 「ただ、それでも内密に、警戒してくれるとは思った」
 
(´・ω・`) 「………ふむ」
 
 貞子を確実に殺すために、電車の機能を一時止めたかった。
 一方で、出来すぎた予告状だと、完全に警戒されてしまう。
 
 その手段が、肉筆だった、というのか。
 
(lli _ ) 「爆弾、とか言ったら、調べられてしまい、だからな」
 
(lli _ ) 「ほら……昔、あったろ。 オオカミ鉄道の」
 
(´・ω・`) 「シベリアの橋に、爆弾が仕掛けられたやつか」
 
 
 何年前だったか。
 シベリアの某所、とある大橋に、爆弾が仕掛けられる事件があった。
 管轄こそシベリア県警であるものの、マスメディアの目は我々、ヴィップ県警に向いていた。
 
 僕が担当していた事件だったのだ。
 
.

382名無しさん:2018/11/18(日) 23:58:26 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「あれで……爆弾に対する、警戒が、強まった」
 
(lli _ ) 「イタズラと思われたかったが、本当に狂言だとバレちゃあだめだったんだ」
 
(´・ω・`) 「………なるほどなァ」
 
 あの一件は、さまざまなメディアに、広く取り上げられた。
 ヴィップ、シベリアを超え、それこそアルプスにも広まっている。
 
 オオカミ鉄道はもちろん、国内最大手の鉄道会社からはじまり、
 各地方の市営地下鉄も、爆弾をより、警戒するようになったものだ。
 
 
(lli _ ) 「だから、一番ストレートな、殺人予告にしたんだ」
 
(lli _ ) 「実際に殺すまで、イタズラかどうかわかんねえからな」
 
(´・ω・`) 「そしてそれが、成功しちまった」
 
.

383名無しさん:2018/11/18(日) 23:59:13 ID:mzQyUXV60
 
 
 
(lli _ ) 「筆跡鑑定……だっけ?」
 
(lli _ ) 「それをされる時点で、疑われてる、ッてことだ」
 
(lli _ ) 「俺ンとこまで警察が来る時点で、もう、終わりだからな」
 
 
(lli _ ) 「だから正直なところ、筆跡に関して不安はなかった」
 
(lli _ ) 「結果として、どさぐさに紛れて逃げられたんだから、なおさらな」
 
 となると、いよいよ問題は、警察の動きだ。
 一件目、二件目において、警察は大々的な動きを見せなかった。
 
 さっさと上まで、回すべきだったんだ。
 事件をすべて公表した時、僕はしばらく、マスメディアの飯の種にされるだろう。
 
 だが、甘んじて受け入れるしかなさそうだ。
 シベリア爆弾騒動がきっかけで、昨今鉄道会社の爆弾対策は強化されたのだ。
 きっと、殺人予告に対する警戒も、いっそう強まることだろう。
 そう信じて。
 
.

384名無しさん:2018/11/19(月) 00:00:11 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「練り込まなかった一件目が、成功した」
 
(´・ω・`) 「そして、サークル抹殺の連続殺人を閃いた」
 
(´・ω・`) 「だから、次にヒッキー小森を……」
 
          、 、
(´・ω・`) 「自分を、殺したんだ」
 
(´・ω・`) 「完全なアリバイを、つくるために」
 
 
 小森マサオは、ちいさく、自嘲するように笑った。
 
(lli _ ) 「皮肉な話だ」
 
(lli _ ) 「自分を苦しめてきた、偽名を使ってきたことが、まさか」
 
(lli _ ) 「アリバイに使える、なんて、さ」
 
(lli _ ) 「閃いたんだよ。 アニキを殺せばいい、ッて」
 
.

385名無しさん:2018/11/19(月) 00:01:03 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「もとより、アニキとは、仲が悪かった」
 
(lli _ ) 「もっと言うと、恨みが、多かった」
 
 確かに、弟たる、小森マサオなら。
 ビジネスホテル殺人事件のあらゆる謎を、解決できる。
 
 アレルギーは、家族なら、知っていて当然。
 仕事のことも知っているし、出張を知るのも難しくない。
 
 連絡先もむろん知っているだろうし、
 なんならヒッキー小森の通話履歴から、家族の線は省かれていた。
 
 
(´・ω・`) 「閃いたんだな」
 
(´・ω・`) 「亡霊を騙った、連続殺人を」
 
(lli _ ) 「………」
 
.

386名無しさん:2018/11/19(月) 00:01:49 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「ただ、そうなった場合」
 
(lli _ ) 「どうやって、亡霊……が」
 
(lli _ ) 「ヒッキー小森を殺すか、が難しくなってな」
 
 
(lli _ ) 「もともと、俺を特定されないように用意してたんだ」
 
(lli _ ) 「IP電話をかけるための、予備の、格安スマホをな」
 
 050番号は、たびたび話題になった。
 ギコ、クックルに050番号がなかったのは、彼らの会合が事の発端だったから。
 そしてそのIP電話は、想像以上に使えることがわかったのだろう。
 
 身分を特定されない、というのは、この上ない武器なのだ。
 それは、名前すら特定されてこなかった小森マサオだからこそ、よりわかる話だ。
 
 
(lli _ ) 「あくまで、俺は弟だ」
 
(lli _ ) 「アニキが薬を飲んでることも、ピーナッツのことも知ってるし」
 
(lli _ ) 「当日にちゃっかり会って、しれっとそいつを盛るのも、簡単だったんだ」
 
.

387名無しさん:2018/11/19(月) 00:02:39 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「アニキを殺すことで、」
 
(lli _ ) 「サークルを抹殺する、ということ」
 
(lli _ ) 「自分を容疑者から外すこと」
 
(lli _ ) 「そして……知名度を上げることが、できた」
 
(´・ω・`) 「!」
 
 
(lli _ ) 「知名度があったから、サークルメンバーは、抹殺に気づくことができる」
 
(lli _ ) 「だからこそ、クックルも、楽だったよ」
 
 
(lli _ ) 「クックルは、飲みの時、言ってたんだ」
 
(lli _ ) 「渋沢栄吉のライブも、警備に行くぜ、ッてことをな」
 
(´・ω・`) 「……そうか」
 
.

388名無しさん:2018/11/19(月) 00:03:36 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 さまざまな謎が、一貫してくる。
 答えがわかりさえすれば簡単だった話なのだ。
 
 フッサール擬古が渋沢栄吉のサイトに残したIPアドレスにも、説明がつく。
 もっというと、亡霊がクックル三階堂を殺害できたのも、合理的となる。
 
(lli _ ) 「それで、いざ予告をして、さ」
 
(lli _ ) 「現地に行ったら、クックルはすぐに、見つかった」
 
 
(lli _ ) 「そもそも」
 
(lli _ ) 「俺は、殺されたはずなんだ」
 
(lli _ ) 「だというのに、目の前に、俺がいる」
 
 
(lli _ ) 「……クックルは自分から、こっちに来てくれたぜ」
 
 兄者は、ヒッキー小森からの電話に、仰天した。
 そして、警察を振り切ってでも、
 自分が殺されるかもしれないというのに、ヒッキー小森を、優先した。
 
 まったく同じ作用が、クックルにも、働いたのだ。
 
.

389名無しさん:2018/11/19(月) 00:04:15 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「……じゃあ」
 
(´・ω・`) 「もとから、クックルの警戒は、薄かったわけだ」
 
(lli _ ) 「そうだ」
 
 となると気になってくるのは、例の予告の、違和感。
 あれは、小森マサオの作戦では、なかったのか?
 
 
(´・ω・`) 「じゃあ、あれはなんだったんだ」
 
(´・ω・`) 「……観客を、殺す。 ッてやつ」
 
(lli _ ) 「………」
 
(´・ω・`) 「あれは、クックルに、自分が標的じゃない」
 
(´・ω・`) 「そう思わせるため、じゃなかったのか?」
 
 
(lli _ ) 「……」
 
(lli _ ) 「あれも……保険だよ」
 
.

390名無しさん:2018/11/19(月) 00:04:36 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「保険?」
 
(lli _ ) 「言ったろ」
 
(lli _ ) 「奴は、飲みで、警備の、ライブのことを言ってたんだ」
 
 
(lli _ ) 「ひょっとすると、俺とギコ以外にも、言ってるかもしれない」
 
(lli _ ) 「そう思って、観客、ッて書いたんだ」
 
 一件目のフッサール擬古の時と、似たような話だったのか。
 僕たちはずっと、ミスディレクションだと踏んでいた。
 
 だが、それすら、事件に自らかけてしまった霧だった、というのだ。
 
 
(´・ω・`) 「実際のところ、どうだったんだ」
 
(lli _ ) 「奴が言ってたぜ」
 
(lli _ ) 「俺とギコしか知らなかった、ッてな」
 
(lli _ ) 「だから……結果、殺されたのはクックルだけだった」
 
(lli _ ) 「それだけの話よ」
 
(´・ω・`) 「………。」
 
.

391名無しさん:2018/11/19(月) 00:05:23 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「抵抗は、なかったのか」
 
(lli _ ) 「あったさ。 あったよ!」
 
(´・ω・`) 「なら!」
 
(lli _ ) 「でも……どうしようもなかった!」
 
 それまで穏やかだった車内に、
 一瞬の感情の荒波が一斉に押し寄せてきた。
 
 
(lli _ ) 「後には、引けなかった!」
 
(lli _ ) 「殺しても、殺さなくても、だめだった!」
 
(lli _ ) 「どのみち、俺は十年前に、貞子を突き落としたんだから!」
 
(´・ω・`) 「ッ…」
 
 
(lli _ ) 「………」
 
(lli _ ) 「言い訳は……しないさ」
 
(lli _ ) 「…………。」
 
.

392名無しさん:2018/11/19(月) 00:06:25 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「クックルを殺したら、次だ」
 
(lli _ ) 「ミセリと結婚してることがわかってたからな」
 
(lli _ ) 「連絡先も、クックルのスマホを調べりゃ、一発だった」
 
 
(lli _ ) 「そこで、例の格安スマホが役立った」
 
(´・ω・`) 「だろうな」
 
(lli _ ) 「でも、まさか、あんなすぐに警察に嗅ぎつかれるなんて……」
 
(lli _ ) 「通報されるわけがない、ッて踏んでたのに」
 
 そうか。
 小森マサオは、知らないのか。
 
 そこに重なった、偶然というか、必然というか。
 ある種、亡霊にとっての、弱点。
 
 
(´・ω・`) 「そりゃあそうさ」
 
(´・ω・`) 「彼女は、一切、警察に通報なんて、しなかった」
 
.

393名無しさん:2018/11/19(月) 00:06:45 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「……?」
 
(´・ω・`) 「その時はな」
 
(´・ω・`) 「僕が、隣に、いたんだ」
 
(lli _ ) 「………?」
 
 
(lli _ ) 「なんだって……?」
 
(´・ω・`) 「だから、すぐに対応できたんだ」
 
 芋づる式に、さまざまな情報が、噛み合っていく。
 そもそも、どうして、亡霊はボイスチェンジャーを使ったのか。
 
 最初の見解は、声から特定されないため。
 続けて、サークル抹殺という説が出てからは、外部犯の可能性の示唆。
 兄者、デミタスしか残ってないのに、という意味もこめて。
 
 亡霊、という存在が浮上してからは、ふたつの説が浮かんだ。
 ひとつは、先ほどの 「外部犯」 の範疇に、収まるため。
 もうひとつは、転落で喉に支障をきたしたという、亡霊の演出。
 
 
 最終的には、すべてが違った。
 偽りの亡霊を、演じるためだったから。
 
.

394名無しさん:2018/11/19(月) 00:07:14 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「でも、出し抜かれた」
 
(lli _ ) 「嫌な予感がしたんだ」
 
(lli _ ) 「あくまで保険として打った策だったけどな……」
 
 
(lli _ ) 「嫌な予感は、的中した」
 
(lli _ ) 「逃げ出すのすら、苦労したよ」
 
 現場には、ぎょろ目が早くからついていた。
 ぎょろ目に現場を捜査されることほど、犯人にとって厳しいことはないだろう。
 小森マサオにとっての幸運は、ぎょろ目に勘付かれる前に犯行を終えたことだった。
 
 
(lli _ ) 「ここまで四人殺して、問題があった」
 
(lli _ ) 「デミやんの行方が、追えなかった」
 
.

395名無しさん:2018/11/19(月) 00:09:04 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「兄者の連絡先は知っていたが……」
 
(lli _ ) 「兄者は、最後に殺さないといけなかった」
 
 
(lli _ ) 「だから、あんたを利用したんだ」
 
(´・ω・`) 「僕の名刺がなかったら、どうするつもりだったんだ」
        、 、
(lli _ ) 「予告を利用したさ」
 
(lli _ ) 「方法は……考えてなかったけどな」
 
 
 小森マサオは、僕がミセリに渡した名刺を見て、次なる殺人を思いついた。
 まず、亡霊を名乗り、十年前の事故を示唆する。
 
 そうすることで、ヒッキー小森が殺されたことと、
 山村貞子が十年前に眠ったこと、
 ふたつの事実が、小森マサオという人物に完全たるアリバイを与える。
 
 
(lli _ ) 「……まさか」
 
(lli _ ) 「それが原因で、捕まる……なんて……」
 
.

396名無しさん:2018/11/19(月) 00:09:25 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
( ´・ω・)y-
 
 小森マサオは、当時の虚勢はいずこへ。
 僕を前に、完全敗北を喫していた。
 
 事件の解決、という点ではいいが。
 ほんとうにこれで、全ての謎は、解決したのだろうか。
 
 
( ´・ω・)y-
 
( ´・ω・) 「そういえば」
 
(lli _ ) 「…なんだよ」
 
 
(´・ω・`) 「十年前」
 
(lli _ ) 「!」
 
.

397名無しさん:2018/11/19(月) 00:10:23 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「貞子は突き落とされ、兄者が犯人に仕立て上げられたわけだが」
 
(´・ω・`) 「どうして、あんたは、そんなことをしたんだ」
 
(lli _ ) 「……」
 
(´・ω・`) 「……」
 
 
(´・ω・`) 「これは」
 
(´・ω・`) 「僕の、完全な推測なんだけど、聞いてくれるか?」
 
(lli _ )
 
(lli _ ) 「聞くだけなら、な」
 
 
 そうか。
 一言ちいさく呟いて、煙草の火を消した。
 
.

398名無しさん:2018/11/19(月) 00:12:32 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「三角関係だ」
 
(´・ω・`) 「あんたは、山村貞子に、恋心か、それに近しい感情を持っていた」
 
(´・ω・`) 「そしてそれは、貞子も気づいていた可能性がある」
 
 
(´・ω・`) 「しかし、貞子からのそんな感情は、兄者に向けられていた」
 
(´・ω・`) 「貞子とあんたは、コテージで、二人きりだった時間があったろ」
 
(´・ω・`) 「その時に、なにか決定打となる会話か何かが、あったと思う」
 
 
(´・ω・`) 「それを彼女は、兄者に、相談した」
 
(´・ω・`) 「そして、自分の気持ちを、兄者に言おうとしたんじゃないのか?」
 
(´・ω・`) 「不運にも、体勢を崩して、ふたりは転落を危惧したわけだ」
 
.

399名無しさん:2018/11/19(月) 00:12:52 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(lli _ ) 「………。」
 
 小森マサオは、黙って耳を傾けている。
 連続予告殺人に関しては、完結しているのだ。
 動機から、手口に、至るまで。
 
 だから、特定する必要はない。
 ただ、個人的に、気になる部分ではあった。
 
 
(´・ω・`) 「でなければ」
 
(´・ω・`) 「あんたが、兄者を犯人に仕立てる必要がない」
 
(´・ω・`) 「大切な友だちだった兄者を、だ」
 
 
(lli _ ) 「……。」
 
 
.

400名無しさん:2018/11/19(月) 00:14:01 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
( ´‐ω‐) 「なんでもいいけど、さ」
  っ ’・
 
( ´・ω・) 「兄者は、生きている」
 
( ´・ω・) 「兄者からも、あんたに言いたいことが、たくさんあるはずなんだ」
 
 
( ´・ω・)y- 「成仏する前に、ありったけの昔話、しろよな」
 
(lli _ ) 「………。」
 
(lli _ )
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

401名無しさん:2018/11/19(月) 00:15:11 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

402名無しさん:2018/11/19(月) 00:15:42 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 ┏━─
    某日  午前七時五〇分  ヴィップ霊園
                               ─━┛
 
 
 
 雨上がりのコンクリートの臭いが、鼻腔を突く朝だった。
 あれは葉桜が拝めた季節だったか。
 いま空を見上げると、すっかり梅雨を感じさせる薄暗い雲が流れている。
 
 ヴィップのなかでも一際大きい、由緒ある大きな霊園。
 だいたい、といっても五割も満たないが、没したヴィップの人間はここに眠る。
 
 この梅雨の雲に似た色の紫煙を、上を向いて吹き散らす。
 石畳にまだ残っている水たまりに、時折足を踏み込むと、ちいさな飛沫が散った。
 ちゃんと前を見て歩かないとだめなようだ。
 
 
( ´_ゝ`) 「…!」
 
(´・ω・`) 「本当に来ていたんだな」
 
( ´_ゝ`) 「……まあな」
 
.

403名無しさん:2018/11/19(月) 00:16:56 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「どれ」
 
 兄者は、ミセリの墓の前にしゃがみ込んでいた。
 傍らに手桶と柄杓が置かれている。
 僕も、その隣にしゃがみ込んだ。
 
 花束や供え物はもちろん、浄水も既に張られてある。
 僕は供え物の隣に、ちいさな包みをふたつ、置いた。
 アネモネの花飴だ。
 
( ´_ゝ`) 「……なんだい、そいつァ」
 
( ´・ω・) 「ちょっとね」
 
( ´‐ω‐) 「……さて。」
 
 昔から使っている、大きな数珠を挟んで、手を合わせた。
 目を閉じて深呼吸していると、兄者の呼吸も聞こえてきた。
 
( ´‐ω‐)
 
( ´・ω・) 「……」
 
( ´_ゝ`) 「ありがとうな」
 
.

404名無しさん:2018/11/19(月) 00:17:37 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 兄者は、灯燭を撫でるように拭きながら、俯いている。
 僕はくわえたままだった煙草の、灰を落とした。
 
 マナー的にどうかとは思うが、ミセリなら許してくれるだろう。
 彼女も吸ったことがある煙草なのだ。
 
( ´・ω・)y-~~
 
( ´・ω・) 「どうだい、最近」
 
( ´_ゝ`) 「なんてことないさ」
 
( ´_ゝ`) 「ただ……心にポッカリと、穴が開いたなァ、とは思う」
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
 兄者は、念入りに灯燭を磨いている。
 持込品を見る限り、墓参りには慣れているのだろう。
 この調子だと、フッサール擬古の墓参りも済ませていそうだ。
 
 
( ´_ゝ`) 「よかったら、一本、いただけやしませんかい」
 
( ´・ω・) 「ん。 十二ミリでもいいなら」
 
( ´_ゝ`) 「全然」
 
.

405名無しさん:2018/11/19(月) 00:18:47 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 線香を付ける用だろう、持っていたライターで先端を炙った。
 墓石にかからないように、煙を吹きかけた。
 
( ´_ゝ`) 「………。」
 
( ´_ゝ`) 「実はな」
 
(´・ω・`) ?
 
 
( ´_ゝ`) 「俺は、むちゃくちゃ、後悔してるんだ」
 
(´・ω・`) 「なんの、さ」
 
( ´_ゝ`) 「貞子のことを、ごまかそうとしたこと」
 
( ´_ゝ`) 「………正直に話していれば、俺は、無実がわかったはずなんだ」
 
(´・ω・`) 「無理もない」
 
 十年前の有無山転落事件も、よく報道されることになった。
 それに伴って、登山、というものの危険性も共に報じられた。
 まったく、とばっちりも甚だしいとは思う。
 
.

406名無しさん:2018/11/19(月) 00:19:08 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「当時自白したところで、証明のしようがない」
 
(´・ω・`) 「まして、もう終わっちまったことなんだ」
 
( ´_ゝ`) 「でも、そのせいでよ」
 
( ´_ゝ`) 「自粛……みてえなムードが、蔓延した」
 
 
( ´_ゝ`) 「………連絡先、とか」
 
( ´_ゝ`) 「ちゃんと残して、定期的に会って」
 
( ´_ゝ`) 「同窓会みたいなこと、しときたかったなッて」
 
 兄者が深く紫煙を吸い込む。
 どこに吹きかけるでもなく、口から垂れ流す。
 
( ´_ゝ`) 「最近……ずっと、心残りなんだ」
 
( ´・ω・) 「……」
 
.

407名無しさん:2018/11/19(月) 00:20:14 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「ヒッキーは、コロシまでは、しなかった」
 
( ´_ゝ`) 「それでも数年で出られはしなかったにせよ、」
 
( ´_ゝ`) 「十年もありゃ、釈放されてもいいもんだろ?」
 
( ´‐ω‐) 「………」
 
 言いたいことが、わかった、が。
 先を急く必要はない。
 僕も、ゆっくり紫煙を吸い込んだ。
 
 
( ´_ゝ`) 「もし……あの時」
 
( ´_ゝ`) 「俺が、自分から、逃げなかったら」
 
( ´_ゝ`) 「今頃……また、全員で、バカ騒ぎ、できてたんだ」
 
( ´_ゝ`) 「十年なんて、大した年月じゃないッて……今なら、わかるからな」
 
 十年ぶりに再会した兄者とデミタスも、
 当時の関係を彷彿とさせる会話をしていた。
 
 変わらないんだ、人は、十年ぽっちじゃ。
 
.

408名無しさん:2018/11/19(月) 00:21:10 ID:Izrhd0d60
兄者……

409名無しさん:2018/11/19(月) 00:21:22 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
( ´_ゝ`) 「現に、貞子も、治る見込みがあるんだろ?」
 
( ´_ゝ`) 「じゃあ……結果論で言えば、だ」
 
( ´_ゝ`) 「………」
 
( :::_ゝ::) 「………」
 
 兄者が、黙った。
 が、みなまで言う必要はない。
 
 十年前の、兄者の行動ひとつで。
 フッサール擬古、クックル三階堂、芹澤ミセリは死ぬことなく。
 山村貞子は目を覚まして。
 ヒッキー小森、あらため小森マサオは出所して。
 
 現実とは真逆の未来が訪れていて、
 また楽しかったあの頃のように、酒を酌み交わすことができていたのに。
 そんな、後悔だ。
 
 
( ´・ω・)y-~~
 
( ´・ω・) 「小森は来週、最終判決が下される」
 
( ´_ゝ`) 「…!」
 
.

410名無しさん:2018/11/19(月) 00:22:54 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 想像以上に長引いた裁判だった。
 世間からの注目もたいへんなもので、
 非常にデリケートな案件だった、と言える。
 
 被告人、小森マサオは、何一つ抵抗していなかった。
 検察が語る内容を受け止め、罪を認めていた。
 しかし、安易に判決を下させない、世間の目が邪魔だったわけだ。
 
( ´・ω・) 「面会……するチャンスは、あと僅かだろうな」
 
( ´_ゝ`) 「……」
 
 僕は、証言台には、立たなかった。
 というより、アルプス県警の上層部が、拒んできた。
 
 小森マサオについて証言するということは、
 十年前の、有無山転落事件にも言及する、ということだ。
 言ってしまえば、先方にも負い目がある事件である。
 三月イナリ警部が、出廷する運びとなったらしい。
 
 
( ´_ゝ`) 「……そうか」
 
( ´‐ω‐)y-~~
 
.

411名無しさん:2018/11/19(月) 00:23:25 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 煙草を吸いきって、携帯灰皿にねじ込んだ。
 兄者が見てきたので、黙って灰皿を貸した。
 
(´・ω・`) 「さて」
 
(´・ω・`) 「行くぞ」
 
( ´_ゝ`) 「ん」
 
 示し合わせて、重い腰を上げ、立ち上がる。
 ウン、と伸びをすると、腰がめりめりと音を立てた。
 
 
(´・ω・`) 「貞子は、鷺宮という老夫婦が引き取っている」
 
(´・ω・`) 「今朝も確認を取ったが、様態はすこぶる良好らしい」
 
(´・ω・`) 「可愛い寝息を立てているッてよ」
 
.

412名無しさん:2018/11/19(月) 00:23:49 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 今日、僕は。
 兄者に、小森マサオの裁判の日程を伝えるために来た。
 
 そのことを電話口で伝えると、兄者の提案で、
 ミセリの墓参りに同行させてもらうことになった。
 
 そしてこれから、山村貞子の見舞いに行く。
 鷺宮家は、もとは医療に携わっていた老夫婦で、
 その分野は、脳神経外科だったと聞く。
 
 腕は優秀で、知識も堪能だった。
 人柄もよく、病院はもちろん、近所からの評判もよかったのだが、
 如何せん子宝に恵まれないことが日々の重い悩みだったらしい。
 
 
( ´_ゝ`) 「可愛い寝息、ねえ」
 
 フッサール擬古と出会い、彼の人を気に入った。
 そこで、貞子の話を聞いて、うちが看ようか、と提案してもらえたそうだ。
 
.

413名無しさん:2018/11/19(月) 00:24:09 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 先方からは、電話でも軽く話を伺った。
 声色や言動から、なるほど確かに、人柄のいい、信頼できる人物だと思った。
 
 貞子がいつか目覚めた時、この上ない絶望に襲われるだろう。
 何年も眠り続けていた事実。
 たった一人の親が、その間に旅立っていた事実。
 決して、受け止められるものではないはずだ。
 
 鷺宮夫婦は、そんな彼女をこの上なく不憫に思ったらしい。
 また、歳も、当時は五十ほどか。
 貞子の年齢を聞いて、娘のように感じられたわけだ。
 
 
(´・ω・`) 「まだ、約束の時間には早いな」
 
(´・ω・`) 「どうだい。 朝飯、食うか?」
 
( ´_ゝ`) 「………そうだな」
 
( ´_ゝ`) 「そういや、昨日の昼から、なんも食ってねえや」
 
 鷺宮夫婦は、貞子を看続けたこの七年間で、
 彼女に対し、娘に近しい愛情を持っている。
 
 いつか目覚めた時、貞子の身に起こったことを話し、
 そのうえで、親心をもって彼女に接したい、と思っているそうだ。
 
.

414名無しさん:2018/11/19(月) 00:25:07 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「これで、先方から食事を出されたら、気まずいな」
 
( ´_ゝ`) 「いや、図々しいな」
 
 軽く笑う。
 僕が歩くと、兄者もついてきた。
 
 雨上がりの朝だ。
 蒸し暑さも感じない。
 トレンチコートの裾をなびかせ、石畳を踏みしめていく。
 
 
( ´_ゝ`) 「おっと。 いけねえ」
 
 兄者は、踵を返して、供えていた食べ物を手に取った。
 包みを見るに、どれも生ものだろう。
 合掌して、一言なにかを言っていたが、声はこちらまでは届かなかった。
 
( ´_ゝ`) 「あの飴はどうすんだい」
 
(´・ω・`) 「ああ。 置いてくよ」
 
( ´_ゝ`) 「大丈夫かなあ」
 
.

415名無しさん:2018/11/19(月) 00:25:40 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 飴の入ったちいさな包みなんて、カラスでも食わないだろう。
 ミセリの墓参りにきた次の誰かが、食っちまえばいい。
 
 あなたを信じて待つ。
 そんなメッセージを、ふたつ、残して行こう。
 
 
(´・ω・`) 「はてさて」
 
(´・ω・`) 「どうなることかなァ」
 
( ´_ゝ`) 「飴が、かい?」
 
(´・ω・`) 「貞子ちゃんだよ」
 
 
( ´・ω・) 「………近いうちに、目覚めるかなァ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

416名無しさん:2018/11/19(月) 00:26:06 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

417名無しさん:2018/11/19(月) 00:27:01 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 
 
                                   |`ヽ       /|
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    イツワリ警部の事件簿   File.4      `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
                              く  l  lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
       終幕   「 成仏 」                 '  '、-_l  ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
                                ` ..‐,,..、 丶、  冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
                             ,'  /´      ::ヽ.:.:.:::::::::::::::丶_;;::;;::|
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                            | l   ..,,_ .::::::::ノ;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:::::::::::::::l ヽ」
                            ¦ !   ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
                             Y    ;:::::::::│ /   `――\/::::|
                             l     ,,;:::::::::l /    :::::::::'、:;:;、;;|
                            /  ,,;;::::::::::::::://        l:::::::l
 
                   →ttps://www.youtube.com/watch?v=nz6TD2i-9ko
 
.

418名無しさん:2018/11/19(月) 00:28:53 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 ┏━─
    盛岡デミタス  フリーター
                    ─━┛
 
 
 
(´^_ゝ^`) 「うわあ……懐かしいな」
 
(´^_ゝ^`) 「何年振りなんだろう……」
 
 
(´・_ゝ・`) 「相変わらず、ユメもキボーもありゃしない日々ですよ」
 
(´・_ゝ・`) 「ただ……」
 
(´・_ゝ・`) 「生きてたら、出会うことッてあるんだなァ、って」
 
(´・_ゝ・`) 「因縁ッてやつに」
 
 
(´・_ゝ・`) 「サークルもそうですし、あの刑事さんもですし」
 
(´・_ゝ・`) 「あなたとも、これで二回目じゃないですか」
 
(´・_ゝ・`) 「これって、リッパな因縁ですよ、因縁。」
 
 
(´^_ゝ^`) 「………頑張って、面白い小説、書いてくださいね。」
 
.

419名無しさん:2018/11/19(月) 00:32:08 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 ┏━─
    鈴木ダイオード  ヴィップ県警捜査一課刑事
                              ─━┛
 
 
 
/ ゚、。 / 「あ……どうも。」
 
/ ゚、。 / 「えっと……ああ、何年前でしたっけ」
 
/ ゚、。 / 「連続誘拐殺人事件……でしたっけ。 前に会ったの」
 
 
/ ゚、。 / 「今回も、連続予告殺人事件ですよね」
 
/ ゚、。 / 「縁があるんですかねーー。 連続ナンタラ殺人事件に」
 
 
/ ゚、。 / 「あの人、ことごとく厄介な事件を担当してる、ッて思うじゃないですか」
 
/ ゚、。 / 「実際は、上から、面倒事をことごとく回されてるだけなんですよ」
 
/ ゚、。 / 「知ってました?」
 
 
/ ゚、。 / 「警部に対するささやかな嫌がらせなのか」
 
/ ゚、。 / 「それとも、あれですかね」
 
/ `、、 / 「あの警部にしか、解決できなさそうだから……なのか」
 
.

420名無しさん:2018/11/19(月) 00:32:41 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 ┏━─
    東風ミルナ  ヴィップ県警捜査一課警部補
                             ─━┛
 
 
 
( ;>д゚) 「ぶえっくし!」
 
( ゚д゚) 「!」
 
 
( ゚д゚) 「来てたんですね」
 
( ゚д゚) 「………そうです、風邪です」
 
( ゚д゚) 「情けないことに、川を泳いだだけでこの有様です」
 
 
( ゚д゚) 「あの人は、普段はあんなンですが、能力は、ご存じの通りですから」
 
( ゚д゚) 「自分にできるのは、あの人が安心して博打を打てるような……」
 
( ゚д゚) 「そんな後ろ盾として、現場を走りまわるくらいです」
 
 
( ゚д゚) 「……博打を打たせた時のあの人は、強いですよ」
 
( ゚д゚) 「あの人が名を馳せた、あの事件でもそうなんですが、」
 
( ;>д゚) 「………べぇっくし!!」
 
.

421名無しさん:2018/11/19(月) 00:34:38 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 ┏━─
    大神フォックス  オオカミ鉄道総裁
                             ─━┛
 
 
 
爪;'ー`) 「お待たせしました! ええ、失礼…」
 
爪;'ー`) 「……」
 
 
爪'ー`) 「え?」
 
爪'ー`) 「え、ああ……お久しぶりですね………ッて」
 
 
爪'ー`) 「え、どうしておたくが?」
 
爪'ー`) 「これってアレでしょ、事件のインタビュー的な……」
 
爪;'ー`) 「いやいやいやいや!」
 
爪;'ー`) 「今回ばかりはさすがに無関係だからね!?」
 
 
爪'ー`) 「え。 なに。 ついで?」
       、 、 、
爪;'ー`) 「ついでで来ないでいただきたい!」
 
爪;'ー`) 「あなたと会うだけで胃薬がいるんですよ! わかりますか!?」
 
.

422名無しさん:2018/11/19(月) 00:35:08 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 ┏━─
    ペニサス伊藤  ヴィップ県警捜査一課刑事
                                 ─━┛
 
 
 
('、`*川 「最近ねーースマホ新しくしたんだーー」
 
('、`*川 「捜査してる時、だいぶ地図アプリ使うんだけどさ」
 
('、`*川 「やっぱ、新しくていいスマホだったら、より正確でね」
 
 
('、`*川 「スマホ新調したついでに、整理したんだ」
 
('、`*川 「電話帳」
 
('、`*川 「昔から、いろんな事件で、いろんな人の連絡先聞いてるんだけどさ」
 
('、`*川 「ほんと、いろんな人がいて、優しい人が多いんだ」
 
 
('、`*川 「それで、ムカシ捜査で行った喫茶店にさ、オフで行ったんだ」
 
('ワ`*川 「そしたら、そのおばちゃん、私のこと覚えてて!」
 
 
('、`*川 「何年経っても、案外色褪せないもんなんだね、人のつながりッて」
 
('、`*川 「あんたもだよ。 またそのうち、会おうね」
 
.

423名無しさん:2018/11/19(月) 00:35:52 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 ┏━─
    三月ウサギ  アルプス県警捜査一課警部
                                  ─━┛
 
 
 
(メ._⊿,) 「如何にも……我の名は三月ウサギ……」
 
(メ._⊿,) 「……真実の求道者」
 
 
(メ._⊿,) 「……イナリが警部になった頃から……」
 
(メ._⊿,) 「この口上は……禁止された……」
 
(メ._⊿,) 「イナリが警部になってから……向かい風が多い……」
 
 
(メ._⊿,) 「俺は……引退した身よ……」
 
(メ._⊿,) 「捜査一課の権限は……イナリが握っている……課長以上にな……」
 
(メ._⊿,) 「だが……今の警察機関を変えるには……」
 
(メ._⊿,) 「イナリの力が必要だ……三人いても足りないほどによ……」
 
 
(メ._⊿,) 「俺としては……」
 
(メ._⊿,) 「……はやく身を固めて……孫を見せてもらいたいものだがな……」
 
(メ._⊿,) 「こう見えて……子供をあやすのは得意だぞ……」
 
.

424名無しさん:2018/11/19(月) 00:36:47 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 ┏━─
    流石兄者  ウェブライター
                    ─━┛
 
 
 
( ´_ゝ`) 「ん……ああ、あんたか」
 
( ´_ゝ`) 「見ての通り、留置所での面会さ」
 
( ´_ゝ`) 「刑事さんに言われてな。 やっと、ついたんだ」
 
( ´_ゝ`) 「奴に会う、決心………ッてやつ」
 
 
( ´_ゝ`) 「ここに来るまで、ずっと」
 
( ´_ゝ`) 「どんな話をしようか、ずっと考えてたんだが……」
 
( ´_ゝ`) 「………会ったら、今年のアニメの話で、盛り上がっちまった」
 
( ´_ゝ`) 「ああ、面会時間いっぱいに、な」
 
 
( ´_ゝ`) 「いろいろあったとは言え、やっぱり俺は」
 
( ´_ゝ`) 「奴のことは、嫌いになれそうにねえわ」
 
( ´_ゝ`) 「亡霊にでもなって、俺の枕元に出てきてくれねえかな」
 
( ´_ゝ`) 「そうすりゃ、毎日が楽しいのに」
 
.

425名無しさん:2018/11/19(月) 00:37:37 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 ┏━─
    若手ワカッテマス  ヴィップ県警捜査一課刑事
                                   ─━┛
 
 
 
( <●><●>) 「お待たせしました」
 
( <●><●>) 「来ると思って、先にコーヒー、淹れておきましたよ」
 
( <●><●>) 「もう四度目ですからね、これでも」
 
 
( <●><●>) 「あんな上司に引っ張りまわされる日々ですが」
 
( <●><●>) 「なんだかんだ、うまくやっていけているとは思いますね」
 
 
( <●><●>) 「ヴィップの滝公園での、兄者との対決ですよ」
 
( <●><●>) 「あそこで、あの人が私を呼んだ、ということ」
 
( <●><●>) 「……私とあの人で、呼吸が合っていなければ、成し得なかったことです」
 
( <●><●>) 「証拠が何一つ残ってなかった、事件だったのですから」
 
 
( <●><●>) 「次会う時は、どんな事件なんでしょうかね」
 
( <●><●>) 「私としては、もう二度と会いたくないですが」
 
( <●><●>) 「冗談ですよ」
 
.

426名無しさん:2018/11/19(月) 00:38:57 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

427名無しさん:2018/11/19(月) 00:39:21 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 

 
 
 かつての喧騒はどこへやら、
 全国を震撼させた連続予告殺人事件は、七十五日を待たずに過去となった。
 
 この国では、毎日新しい事件が舞い込んでくる。
 アイドルの結婚や政治家のスキャンダルと、話題には事欠かない日々である。
 
 
.

428名無しさん:2018/11/19(月) 00:40:48 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「お見合いィ!?」
   ,_
イ(‐、ナリ从 「……」
 
(´・ω・`) 「あの? イナリちゃんが? お見合い?」
 
(´;ω;`) 「事件だwww大事件だwww捜査一課出陣だァwww」
   ,_
イ(゚、ナリ从 「言うんじゃなかった!」
 
(´;ω;`) 「ぶッひゃwwwひゃひゃひゃwww」
 
 イナリちゃんは、飲み干したジョッキを叩きつけた。
 ちょっと気遣ってバーに誘ったわけだが、
 意外にも、彼女はビールが大好きだったようだ。
 
   ,_
イ(゚、ナリ从 「警部だって、独身あんでしょ!」
 
(´;ω;`) 「ちょっとwww酔いすぎじゃないんですかwwイナリさァんww」
 
(´;ω;`) 「舌がまわってないですよwww」
 
.

429名無しさん:2018/11/19(月) 00:41:22 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 頼んだ生ハムとオリーブは、すぐになくなった。
 イナリちゃんがビールを呷るごとに食べ尽くすのだ。
 
(´・ω・`) 「あ、このチーズの盛り合わせで」
   ,_
イ(゚、ナリ从 「警部こそ独身でしょ!」
 
(´・ω・`) 「一応一度は結婚したもんねー」
 
 
イ(゚、ナリ从 「バツついてんじゃないですか!」
 
イ(゚、ナリ从 「上層部でも話題になってますよ!」
 
(´・ω・`) 「え、なんの話題?」
 
 さすがに、イナリちゃんに空けたジョッキの数で負けたくはない。
 遅ればせながらも、四杯目を続けて頼んだ。
 
 
イ(゚、ナリ从 「あの男には、しっかりと生活を支えてくれる妻が必要だって!」
 
(´;ω;`) 「独身でもやってけてますゥwww」
 
.

430名無しさん:2018/11/19(月) 00:42:44 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「最近、酒浸りだそうじゃないですか」
 
イ(゚、ナリ从 「知りませんよ。 痛風とか、そんなのになっても」
 
イ(゚、ナリ从 「父も、去年、痛風だったんですから」
 
(´;ω;`) 「三月殿wwwwまじでwww」
 
(´;ω;`) 「あいてッ!あいててててwwww」
 
 
 あの、亡霊に支配されていた事件が終わって、
 念願だった、懐かしい顔ぶれとの飲みを楽しむ日々を送っている。
 
 まず、事件解決を祝っての、ショボーン班での乾杯。
 続けて、オオカミ鉄道の総裁や、アスキーミュージアムの館長など。
 久しぶりに、酒のうまさに触れられて、心の底から楽しいと思える日々だ。
 
 
(´・ω・`) 「ちゃんと、独身のうちに、親孝行しとかなくちゃ!」
 
(´・ω・`) 「結婚するんでしょ!」
   ,_
イ(゚、ナリ从 「するのはお見合い!」
 
.

431名無しさん:2018/11/19(月) 00:43:43 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 イナリちゃんがヴィップ県警にいた頃、一度だけ、誘ったことがあった。
 周囲から孤立することで、彼女から士気が感じられなかったのだ。
 
 その時の、彼女は、無口だった。
 飲むのも、ウーロン茶くらいなものだったが。
 
   ,_
イ(゚、ナリ从 「結婚なんて……私には……」
 
(´・ω・`) 「こォーーんなに可愛いのにィ!?」
   ,_
イ(゚、ナリ从 「人付き合いが苦手なの、知ってるくせに……」
 
 今となっては、口を開けば、言葉のすべてに感情の色が塗られている。
 どんな人間でも、心が開きさえすれば、個性的な彩りが感じられるものなのだ。
 
 
イ(゚、ナリ从 「……若手さん、いるじゃないですか」
 
イ(゚、ナリ从 「昔、一度、飲んだことがあるんですけど」
 
(´・ω・`) 「!!!」
 
.

432名無しさん:2018/11/19(月) 00:44:22 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 服装も、当時は仕事中となんら変わらないスーツ姿だったのが、
 今日は、イナリちゃんが好きな淡い青色を基調にした、私服だ。
 化粧やコーディネートからして、なんだかんだ気合を入れてくれたのがわかる。
 
イ(゚、ナリ从 「あんな風な、静かな人だったら、落ち着きはするんですよね」
 
(´・ω・`) 「奴はだめだ!!!」
 
(´・ω・`) 「おとーさん許さないからね!!!」
   ,_
イ(゚、ナリ从 「顔が近い…!」
 
 
 流石兄者のような、社交的に見えて、自らの偽りに支配された男。
 小森マサオのような、内向的ながらにして、自らの偽りに支配された男。
 ふたりを筆頭に、ほとんどの人間は、
 事の大小こそさて置くものの、なにかを偽って、偽りに支配されて、生きている。
 
 しかし、というよりは、だからこそ。
 人は、酒を好む。
 
 なかなかどうして、人は酒を飲むことで、図らずも本性を現すので。
 疲れた時には、人と酒、ふたつの温もりに触れるのが一番なのだ。
 
.

433名無しさん:2018/11/19(月) 00:45:15 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
イ(゚、ナリ从 「……とにかく」
 
イ(゚、ナリ从 「お見合いは、断るつもりだから」
 
(´・ω・`) 「なあんで!?」
 
 人は生きていくうえで、必ずその身に、偽りを纏う。
 だからこそ、イツワリという言葉は、人が為すと書いて表されるのだ。
 
 
イ(゚、ナリ从 「私はいいんです!」
 
イ(゚、ナリ从 「なんだったら、いい人、紹介しますよ」
 
イ(゚、ナリ从 「アルプス県警の事務の人なんですが、三十二の、美人です」
 
 
イ(゚、ナリ从 「もちろん、警部のこともご存じですよ」
 
(´・ω・`) 「はん!」
 
 ただ、僕は。
 人が為すから偽り、だとは、思わない。
 
.

434名無しさん:2018/11/19(月) 00:46:03 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
(´・ω・`) 「僕はもう、ケッコンなんてうんざりだ!」
 
(´・ω・`) 「どーせ次結婚しても、一年で別れるんだよ!」
 
イ(゚、ナリ从 「最初の人は、何年で別れたんですか?」
 
(´・ω・`) 「覚えてないけど……三年もなかったと思うよ?」
 
 
イ(゚、ナリ从 「どうして、別れたんですか?」
 
(´・ω・`) 「愛想尽かされただけだい」
 
イ(゚、ナリ从 「やっぱり!」
 
(;´・ω・`) 「やっぱり!?」
 
 
.

435名無しさん:2018/11/19(月) 00:46:26 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 人の為に、だから偽り。
 僕は、そうであったほうがいいな、と思うのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

436名無しさん:2018/11/19(月) 00:46:59 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

437名無しさん:2018/11/19(月) 00:47:37 ID:/HjgK2Zs0
 
 
 
 
 
                                   |`ヽ       /|
                                   |.  \    /. i
                                   |   ヽ /   ノ
                                  !     `ー‐- '、
                                  |           .、
                                 l            !
                               r---ゝ           !
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
                                l  :::::::::::::::゙ 、     _| n
    イツワリ警部の事件簿   File.4      `,_::::::::::::::::::::`ヽ, ノ,´αm
                              く  l  lへ、:::::::::::::::`'ー、r ||\
    (´・ω・`)は偽りの亡霊を捕まえるようです  '  '、-_l  ヽ、::::::::::::::::::`>;;::;;:|
                                ` ..‐,,..、 丶、  冫:::::::::::/>;;;;;;;;\
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                            ¦ !   ,;:::: ̄'' 7ー-、_....;.;.;.;、:::://::|
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                            /  ,,;;::::::::::::::://        l:::::::l
 
.

438名無しさん:2018/11/19(月) 00:50:58 ID:/HjgK2Zs0
第九幕  >>9-143
第十幕  >>164-321
終幕    >>340-437

番外編書くかは未定 >>1のことだからどうせ書かない
五年ぶりのおつきあいありがとうござました
さすがに五年前と比べて読みやすくなったりはしてんじゃないかな、、、とは思ったり、、、

続編の構想とかもさっぱりだけど、ファイル5を書く時がきたらまたぜひおつきあいください
ありがとうございました!

439名無しさん:2018/11/19(月) 00:51:10 ID:Tz.09YKc0
面白かった


440名無しさん:2018/11/19(月) 00:56:01 ID:nHW259Tk0
乙!

441名無しさん:2018/11/19(月) 00:57:53 ID:mG5YH9K60
乙!
続編あったら、嬉しいな

442名無しさん:2018/11/19(月) 01:11:11 ID:.W6MvIbo0
本当に乙!
すっげえ楽しかった!
やっぱりあなたの作るミステリーは最高だな!

443名無しさん:2018/11/19(月) 01:13:18 ID:H/IU059.0
ずっと待ってた
二転三転する展開で、毎話終わる毎に犯人推理させられた(全然当たらん)
最後まで楽しかった、本当に乙

偽りシリーズ全体の伏線の回収が終わるまで待ち続けるぞ

444名無しさん:2018/11/19(月) 02:00:14 ID:K6NAAqUI0
乙!偽りさん、またやってくれよぉ

445名無しさん:2018/11/19(月) 03:23:35 ID:O563Y5bw0
イツワリ!おつかれ!ありがとう!!

446名無しさん:2018/11/19(月) 07:53:34 ID:3jMphh.Q0
最大級の乙をあなたに
素晴らしい作品をありがとうございました

447名無しさん:2018/11/19(月) 08:11:30 ID:/XpW4XQg0
素晴らしい作品をありがとう!
こうして、変わらずブーン系を読み続けることが出来るのも作者が頑張ってくれるお陰だ!

448名無しさん:2018/11/19(月) 15:36:12 ID:mjMsiQ/s0
乙!!!!
めちゃめちゃ面白かった
あんたはほんとにいいミステリーを書くなあ! 推理が楽しいよ
また騙してくれな!

449名無しさん:2018/11/19(月) 16:13:51 ID:hPAWSTFI0
乙!!!!
もう5年か。。。

450名無しさん:2018/11/19(月) 18:12:32 ID:vA5qN1eE0
乙!

451名無しさん:2018/11/19(月) 20:50:15 ID:mZNoHblw0

最後の最後で警部自身が偽るかね…

452名無しさん:2018/11/20(火) 12:32:45 ID:uQ1ixSvw0
乙!
久々のシリーズだったけど今回も楽しかった!
次回作に超期待して今から全裸待機しています!!

453名無しさん:2018/11/20(火) 19:10:55 ID:6edCrgDQ0
懐かしいシリーズ読めて本当によかった
今回もめちゃくちゃ面白かったよ、乙

454名無しさん:2018/11/25(日) 02:49:58 ID:ErIu/Vg.0
くっそ面白かった!!
さすがすぎるわ!!!
仕事でもプロの書き手さんなんかね…
とにかく乙、また次回あるなら楽しみにしてるぜ!!

455名無しさん:2018/11/25(日) 23:49:06 ID:PZf9Xqsw0

警部のタバコの銘柄が気になる
12ミリつーとラークかな?

456 ◆wPvTfIHSQ6:2018/11/26(月) 21:15:42 ID:bWJdiRS20
>>455
ご名答 >>1も吸ってる安い煙草だよ

457名無しさん:2018/11/26(月) 21:33:32 ID:4MPHWfEw0
乙!!!!!!!
あんたの創作物は軒並み好きだが、中でもやっぱこのシリーズは格別だわ
また次回も楽しみにしてるからな!!!!!!!絶対書いてくれよな!!!!!!
改めて乙!!!!!!!!!!

458名無しさん:2018/12/04(火) 13:06:14 ID:SIyk3e3I0
乙!!

やっぱ最高だよいっち!

いっちが書くしょぼんがいちばんしょぼんらしいと思う!
また作品待ってます��


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