したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

('A`)俺が俺であるために、のようです

1名無しさん:2018/09/13(木) 17:32:45 ID:ucBiObZk0
俺の人生の中で手に入れた唯一の宝物
それが君だった。

俺が俺であるために、のようです

ある晴れた昼下がり、
気まぐれに表通りの八百屋で果物を購入し、
いつものように俺は路地裏にある薄暗いアパートの一室を訪れた。

('A`)「おい、居るか?」

ろくに施錠されることのない部屋に入り込みながら声をかける。
相変わらず換気のされていない、かび臭い部屋だと思うが仕方ない。
この部屋の主に衛生観念など求めてはいけないのだ。

2名無しさん:2018/09/13(木) 17:34:56 ID:ftA2w4Is0
支援

3名無しさん:2018/09/13(木) 17:36:46 ID:ucBiObZk0
「お、今日は遅かったおね」

ゴミ溜めのような部屋の奥からくぐもった声が返ってくる。
壁にある窓はカーテンが閉め切られ、室内は薄暗い。
こいつが向き合っているパソコンから明かりが漏れ室内をほんのりと照らしている。

('A`)「まぁ、ちょっと野暮用でな
適当に果物を見繕ってきたんだが、食うか?」

「いただくお」

そういって振り向いたこいつの名前は内藤ホライゾン
所謂、情報屋だ。

4名無しさん:2018/09/13(木) 17:38:55 ID:ucBiObZk0
( ^ω^)「それで?本日はどのようなご用件でいらっしゃったんだお?」

たるみきった顎をぷるぷると揺らしながら内藤は問いかけてくる。
常に緩んでいるその顔がチャームポイントだといつか言っていた。

(;'A`)「おいおい、依頼が有るから来てくれって言ったのはお前の方だろ
それともインターネットのし過ぎでリアルの約束事は全部忘れちまったってか?」

( ^ω^)「軽いジョークだお」

そういって内藤は自分のパソコンに向き合うとメールソフトを立ち上げ、
事前に作成していたのだと思われるメールを一つ送信した。
俺の手元でスマートフォンが点滅した。
差出人不明のメールが一通届く。

( ^ω^)「そのメールに添付されたファイルを、
以前僕が入れてあげた解析ソフトに入れて開いてみてくれお」

内藤の言うとおりにスマートフォンを操作し添付ファイルを開くと、一つの地図が開かれた。

( ^ω^)「そこにある荷物を受け取ってきて欲しいんだお」

俺は袋から出した林檎を齧りながら、まじまじとその地図を眺めた。
映し出されている場所は俺たちが活動拠点にしているVIP市の北にある高級住宅街建設予定地だ。

('A`)「こんなところにまでわざわざ出向く必要があるほどの荷物なのか?」

( ^ω^)「だから何でも屋に頼むんだお」

内藤はにこりと笑いながら含むようにそう言った。
この辺りでの俺の通り名、それが何でも屋だ。

以前、俺たち二人は軍に居た。
世界を滅亡させるか?とまで言われた凄惨な大戦は敵国の降伏によってあっさりと終幕を迎え、
俺たちのような問題有りの烙印を押された無能どもの大半は裏稼業に堕ちた。
盗み、密輸、強盗、護衛、強請、殺人、なんでもやった。
そのうちに付いた名前が何でも屋のドクオだ。
金さえ積まれればなんでもやる。帰る場所さえ失った男にはふさわしい末路だと思っていた。

5名無しさん:2018/09/13(木) 17:41:19 ID:ucBiObZk0
('A`)「わざわざこんな回りくどいやり方をするってことは中身は秘密ってことだな」

( ^ω^)「ドクオは物分かりが良くて好きだお」

そう言いながら内藤は肥えすぎた身体を煩わしそうに持ち上げ、
奥の部屋に入っていったかと思うとアタッシュケースを持って戻ってきた。

( ^ω^)「装備はこっちで揃えておいたお」

内藤は俺にケースを渡しながら果物が入った袋を受け取る。

(*^ω^)「お、ドクオにしては良いチョイスだおね」

オレンジを皮も剥かずに齧り付きながら内藤は微笑んだ。

6名無しさん:2018/09/13(木) 17:43:15 ID:ucBiObZk0
俺は内藤から受け取ったアタッシュケースの中身を確かめる。
札束が一つ、SOCOMが一丁、替えのマガジンが二つ、サプレッサーが一つ
おそらく内藤と連絡を取るためだろうインカムが一つ

( ^ω^)「そのお金は前金だお 成功したらその倍額払うお」

('A`)「分かった
今回の依頼内容の確認だが、俺はこの地図に表示された場所に向かい荷物を受け取る
その後、ここに戻り荷物をお前に渡す そして報酬を受け取っておさらば これでいいんだな?」

( ^ω^)「オーケーだお
依頼は今から開始して、明日の今ぐらいの時間には荷物を届けてほしいお」

('A`)「出資者は無理難題を仰る」

軽くおどけて見せた俺に内藤は笑った。
現在時刻は十四時過ぎ。ここから件の受取場に片道二時間ほどだろうか。
ただの荷物運びとしては充分な時間が与えられたと思った。
だとすれば何故こいつは自分で荷物の受け取りをせず、俺に依頼をするのか。
そこまで考えた俺の思考を遮るように内藤が言った。

( ^ω^)「車のキーを渡しておくお
こいつを使ってひとっ走り頼むお」

7名無しさん:2018/09/13(木) 17:44:33 ID:ucBiObZk0
俺は内藤の愛車のキーを受け取り、
アパートの南に五分程歩いたところにある、ガレージに向かった。
錆び付いたドアを開け、シャッターを裏から開ける。
裏口のカギなんて付けていないものだから、浮浪者がここに住み着いていたことがあった。
まぁ、その時は鉄屑一つが宙を舞い、豚の餌が増えただけの話だったが。

取り留めのないことを考えながら、俺は車のドアを開けてキーを鍵穴に差し込み捻った。
年季の入ったエンジンがブルンと震え心地よい振動を俺に与える。
内藤のこだわりの車らしいが俺にはさっぱり興味がない。
それでも内藤からの依頼を受けるたびに乗ることが多いこの車には少しばかりの愛着が湧いていた。

('A`)(さて、今回のお仕事にはどんな面倒事が待ってるんだろうな)

受けてしまった以上、この依頼から降りることは出来ない。
この先にどのような困難が待ち受けているとしても、だ。

8名無しさん:2018/09/13(木) 17:45:17 ID:ucBiObZk0
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------

うだるような夏の暑さはいつの間にか鳴りを潜め、肌寒い日が続いていた。
去年、そこらにある露店から安く買ったコートを深く羽織り、その内ポケットに銃をしまった。
俺たちが生活しているこのVIP国は大戦中に培った機械技術を国外に輸出することによって莫大な富を手に入れていた。
その一方で、金持ち共の足の引っ張り合いは拡大していき、俺たちのような裏稼業の出番も増えることになった。
殺し殺されが日常茶飯事な現代の裏稼業において、今回のような荷物運びは楽な仕事だと思えた。

('A`)「…ここが例の荷物置き場か」

内藤から依頼を受けてから車を走らせること、きっかり二時間。
俺はVIP市北にある高級住宅街建設予定地の一角に車を停めていた。
手元の地図には光点が表れていて、それが目的の物がそこにあるのだと示していた。

9名無しさん:2018/09/13(木) 17:46:19 ID:ucBiObZk0
('A`)(もう随分形は出来てるんだな…)

ドクオがそう感じたようにこの一帯の区画には、大小様々な家が打ち立てられていた。
まだ骨組みだけしかない家も多々あるが、殆どの家は外装が張ってあり、
どこか温かみのある印象を見た人に与えていた。
ドクオが目指している家はそこから少し奥まったところにある、コンクリート打ちっぱなしの家だ。
頑丈そうなドアが付いており、開けるのには一苦労しそうだったが、ノブを引けばすんなりと開いてくれた。

('A`)「お邪魔しますよっと」

ドクオがそう呟きながら家の中に入ると、
突き当りにはリビングになる予定に見える部屋が一つと、
入ってすぐの右手に二階に上がる階段が見えた。

10名無しさん:2018/09/13(木) 17:46:53 ID:ucBiObZk0
('A`)(人の気配がするな)

後ろ手に入ってきたドアをゆっくりと閉め、右手には内ポケットから取り出した銃を握った。
万が一の事を考え、一階から部屋の探索を始めた。

('A`)(荷物に殺されるなんてことはないだろうな)

薄々、荷物の内容に感づいていたドクオはそうならないように祈りつつ、足を部屋の奥へと運んでいく。
特にこれといった物もなく、壁に備え付けられていたクローゼットを慎重に開けてみたが、中にはなにも無かった。

11名無しさん:2018/09/13(木) 17:47:23 ID:ucBiObZk0
('A`)(ってことは二階だな)

そういうことならすぐに襲われる心配は無いとドクオは確信し、
耳に付けたインカムから内藤に話しかけた。

('A`)「おい、内藤 目標地点に着いたがどうにもきな臭い
お前一体俺に何を運ばせようとしてるんだ?」

『おっおっ そんなことは大した問題じゃないお
僕が確認している限り、その場は安全だお 目標は二階に居るから早く迎えに行ってあげて欲しいお』

12名無しさん:2018/09/13(木) 17:47:54 ID:ucBiObZk0
('A`)(二階に居る…ね やっぱり面倒事だったみたいだなぁ…)

内藤の言うことを信用していない訳ではないが、ドクオは警戒態勢を解かずに二階に向かって行く。
階段を上り切った先に有る扉を開け、中を確認する。
そうすると部屋の隅にうずくまる子どもを一人発見した。

('A`)「内藤 子どもを一人見つけたが、目標ってのはこいつで間違いないのか」

『こっちの発信器でも確認したお その子が目標の女の子 デレだお』

女の子?確かに言われてみるとその細長い手足には余分な筋肉は付いておらず、
肩より上のあたりで切り揃えられた髪はさらさらと流れる様だった。

ζ(゚ー゚*ζ「おじさん 誰?」

そう言いながらこちらをじっと眺める少女。
ドクオは答えに窮した。この少女を届けるという事が何を意味するのか、ドクオにも分かっていないからだ。

('∀`)「俺は…タクシーの運転手さ 君を連れて来るように頼まれたんだ。」

作りなれていない笑顔を無理矢理作り、ドクオはそう答えた。

ζ(゚ー゚*ζ「そうなの?その割には危ないものを持ってるのね」

そう言われてドクオははっとした。確かにただのタクシードライバーが持っているべき物では無い。
誤魔化しの効かない子どもだとドクオはこの少女に対する考えを改めさせられた。

この少女との出会いが、ドクオのその後をどう変えていくのか、それすらドクオには分からなかった。

13名無しさん:2018/09/13(木) 18:05:51 ID:PormaD8I0
みんなそーこむ好きだな

14名無しさん:2018/09/14(金) 11:54:58 ID:ILgkVb020
ドクオがしばらく呆然としていると、階下でガチャリとドアの開く音がした。

('A`)(誰か入ってきやがったな)

('A`)「おい、内藤 建物に侵入者だ、どう対処すれば良い?」

( ^ω^)『もう居場所がバレたのかお 思ったよりも早いおね…
そこのベランダの突き当りに梯子が有るはずだから、それを使って逃げてほしいお』

15名無しさん:2018/09/14(金) 11:55:46 ID:ILgkVb020
('A`)「梯子?」

ベランダにまで移動し、左側の突き当りに金属製の梯子が有ることを確認する。
階下では重い足音が響いていて、まだ一階を探索しているのだと安堵した。

16名無しさん:2018/09/14(金) 11:56:47 ID:ILgkVb020
('A`)「お嬢ちゃん、逃げるぞ 付いて来れるな?」

ζ(゚ー゚*ζ「分かったわ」

随分と受け答えがしっかりしている。見た目よりも大人なのかもしれないな。

俺は梯子に掴まり滑るように地面に降りた。
上からデレが手際良く梯子を降りて来るが、地面に降りるにはまだ少し距離が有った。
その時、二階からドアを乱暴に開けるけたたましい音が響いた。

17名無しさん:2018/09/14(金) 11:58:02 ID:ILgkVb020
('A`)「飛べ!」

咄嗟に叫んだ俺の声を聞くより早くデレはその両手を梯子から離し、俺に身を委ねた。
デレを両手に収め、地面に立たせるより早く二階のベランダからは黒い影が姿を見せていた。
その右手に光るものを見つけた俺は反射的に銃を影目掛けて銃弾を撃ち込んでいた。
思うように狙えなかったが牽制には充分だった。

18名無しさん:2018/09/14(金) 11:58:41 ID:ILgkVb020
('A`)「走るぞ!」

デレの手を握り、家の壁伝いに走る。
その後ろからはドスンと何か重いものが落ちるような音が響いていた。

19名無しさん:2018/09/14(金) 11:59:07 ID:ILgkVb020
(;'A`)「なんなんだあいつは!」

家の正面側にまで抜けた俺たちだったが、背後からは凄まじい威圧を感じている。
どう逃げるか思案している時、車が一台タイヤを滑らせながらこちらに向かってきている。

20名無しさん:2018/09/14(金) 11:59:37 ID:ILgkVb020
(;'A`)(万事休すか?)

前と後ろ、どちらを突破すべきか考えだしたドクオに車の運転席から声が響いた。

「乗れ!」

懐かしい声がドクオの耳に届いた。

21名無しさん:2018/09/14(金) 17:07:24 ID:2vYiGPQc0
紫煙

22名無しさん:2018/09/16(日) 19:43:55 ID:luGJHa6Y0
支援、コメントありがとうございます
少し書溜めが出来たので今日の夜中に続きをアップします

23名無しさん:2018/09/16(日) 20:50:51 ID:9A6K7fHg0
きたい

24名無しさん:2018/09/16(日) 21:28:26 ID:VEnkHYVk0
支援は任せろ

25名無しさん:2018/09/16(日) 22:20:30 ID:DRxhYNdM0
(;'A`)「クー!?お前生きてたのか!」

素直クール、俺たちがまだくだらない戦争なんかに興じていた頃、同じ部隊に居たやつだ。
あの頃の俺たちは決してクリーンな存在なんかじゃなかった。
敵だとか味方だとかそんな見境が付くような奴らばかりじゃなかったが、こいつは身の守り方を知っていた。
戦争が終わってから俺と内藤はお互いの表社会ので居る場所を教えあっていたから、
合流出来たが殆どの部隊員とは今でも連絡が付いていなかった。
寧ろ、関わり合いになりたくないやつの方が多いくらいだが。

26名無しさん:2018/09/16(日) 22:21:32 ID:DRxhYNdM0
後ろから迫りくる黒い影は速度を速めることもなく、こちらに向かってきているようだ。
クールは運転席の窓から腕を出し、その手に握ったMP5を黒い影目掛けてフルオートでぶっぱなした。
距離があるとはいえ、これをまともに食らった相手は数度身体をよろめかせ、地面に倒れ伏した。

27名無しさん:2018/09/16(日) 22:22:30 ID:DRxhYNdM0
('A`)「助かったぜ それにしてもなんでお前こんなところに…」

倒れた黒い影を見つめて俺は一息つき、クールに問いかけようとするが彼女の表情を見て考えを改めた。

(;'A`)「機械化か…」

28名無しさん:2018/09/16(日) 22:23:16 ID:DRxhYNdM0
この国が大戦後に莫大な富を得たという話には続きがある。そのうちの一つが機械化だ。
戦時中、人口が敵国に対して著しく少ないこの国はその大きな溝を埋めるためにこの技術を作り出した。
大国に対して少数で挑むためには鍛え上げられた優秀な兵隊が多数必要だったと判断した上層部は、
まず死なない兵隊を作り上げることに専念した。生身の人間よりも頑丈で、痛みを感じず、命令に対して忠実で有ること。

29名無しさん:2018/09/16(日) 22:24:07 ID:DRxhYNdM0
希望者を軍内で募り、適合率が高い者から次々と肉体の機械化が行われた。
結果は概ね成功。肉体に対しての機械化は順調だった。
だが、命令に忠実である兵隊を作り上げるための機械化はことごとく失敗したらしい。
やはり脳はデリケートな器官らしく、
命令には従うが肉体の維持に努めようとしない等極端な兵隊が出来上がったそうだ。

30名無しさん:2018/09/16(日) 22:24:54 ID:DRxhYNdM0
うつぶせの状態から、むくりと身体を起こした黒い影の姿は黒い外套に穴が多く空き、その浅黒い身体を露わにしていた。
身長は俺より頭一つ分大きく、がっしりとした男らしく逞しい体格をしている。
その右手にはベランダの時に見えたのと同じ、ギラギラと光る銀色のリボルバーを覗かせていた。
奴はその拳銃に親指を乗せ、ガチリと撃鉄を引いた。

ζ(゚ー゚;ζ「ひっ!!」

31名無しさん:2018/09/16(日) 22:25:51 ID:DRxhYNdM0
川;゚ -゚)「まずいな」

クールがそうつぶやいたかと思うと同時に、車の窓から機械化した男に向かって何か放り投げた。
今、投げられた物の正体を察した俺はデレを自分の腹に抱えるようにしながら両耳を塞ぎ、男に背を向けた。
男は反射的に投擲物に銃口を合わせ、引き金を引いた。瞬間、眩い閃光と爆音が辺りに散った。

32名無しさん:2018/09/16(日) 22:27:05 ID:DRxhYNdM0
その光を視界いっぱいに浴び、爆音を耳にした男は苦悶の声を上げながら両目を押さえつけている。
肉体の機械化に伴い、僅かな光源でも目標を捉えられるように眼球の強化も行っていたのだろう。
常人が見ただけでも視界が白く塗りつぶされるのだから、強化された眼には強烈な刺激を受けているに違いない。
聴覚にも相当のダメージが入っているはずだから、当分まともに歩くことも出来ないだろう。

33名無しさん:2018/09/16(日) 22:28:11 ID:aCEHyO5.0
('A`)「乗ったぞ!出してくれ!」

川 ゚ -゚)「しっかり掴まっていろ」

車の後部座席に乗り込んだ俺とデレはシートベルトを締め、クールに合図を出した。
それと同時に物凄い加速を掛けた車は前輪を若干浮かせながらも勢いよく飛び出した。

34名無しさん:2018/09/16(日) 22:30:14 ID:aCEHyO5.0
(;'A`)(ぜってー普通の車じゃないな、これ…)

隣に座っているデレは舌を噛まないよう必死に口を閉じながら、車の揺れに耐えている。

ふと、先程の男が気にかかり振り返ると、目元を左腕で押さえながらこちらに銃口を合わせている。

(;'A`)「クソッ!狙われてるぞ!右に寄せながら走れ!」

そう俺が叫び、クールがハンドルを切った瞬間、
空間を切り裂くような轟音が響いたかと思うと、数瞬前まで俺たちの車が有った場所に拳大の穴が空いていた。

35名無しさん:2018/09/16(日) 22:31:10 ID:aCEHyO5.0
('A`)「なんつー弾使ってやがるんだ 俺たちは知らないうちにあのクソったれな戦場に逆戻りしてたのか?」
(これだけの大穴を空けるんだ 奴の拳銃の口径は50口径かそれ以上はあるぞ… どういう腕してんだ…)

川;゚ ー゚)「またあの頃みたいに私たちであいつのようなインチキ野郎のケツ穴を増やしたいところだが、今は難しいな」

冷や汗を垂らしながらクールが悪態を付く。こいつがここまで焦っているのも珍しいものだ。
もっともあの頃は戦場に居るどいつもこいつも頭のネジが何十本も外れていやがったから、覚えてないだけなんだが。

36名無しさん:2018/09/16(日) 22:32:36 ID:aCEHyO5.0
('A`)「あいつはまだあの閃光から立ち直っちゃいない!
ふらふらの身体を無理矢理動かして狙っただけだ ここまで引き離せば大丈夫だろう。」

俺は極めて冷静を装って、そういったが不安はぬぐい切れてはいなかった。
いくら機械化されているからといっても、あの行動は尋常じゃない。
機械化されているからこそ行動が遅れて然るべきなのだ。

37名無しさん:2018/09/16(日) 22:33:14 ID:aCEHyO5.0
川 ゚ -゚)「それにしてもよく、あいつが私たちの左側を狙っていると分かったな」

額の汗を拭いながら、クールが俺に問いかける。

('A`)「あぁ、奴が立ち上がってこっちに狙いを付けたとき、まだ完全じゃなかったんだろう
身体を抱えるように立ち上がっておぼつかない動きでこっちに銃口を合わせたんだ
だから、引き金を引くときに腕は内側を向くだろうから左に逸れると思ったんだ。」

この予想が果たして当たっていたのか偶然なのかは分からないが、今はっきり言えることは俺たちは生きてるってことだった。

38名無しさん:2018/09/16(日) 22:35:14 ID:aCEHyO5.0
本日の更新は以上です。
続きが書き上がりましたら、順次上げていきます。
よろしくお願いします。

39名無しさん:2018/09/16(日) 23:11:29 ID:VEnkHYVk0
乙!
続き楽しみに待ってます

40名無しさん:2018/09/17(月) 00:23:31 ID:D3yGZYM20
気になる

41名無しさん:2018/09/17(月) 20:12:48 ID:IK1jIv360
コメントありがとうございます。
少し書溜めが出来たので、日が変わる前には上げていきたいと思います。
よろしくお願いします。

42名無しさん:2018/09/17(月) 21:16:21 ID:ykNnrvkc0
('A`)「今日は厄日だなぁ…」

そう言いながら左手にはめている腕時計に目を向ける。
俺が内藤の部屋を出てから、もう3時間が経とうとしていた。
腕時計から目を離し、何となしに前を見やるとバックミラー越しのクールと目が合った。
そうするとクールは目線を少し下に向け、俺に目配せをした。
しまった。俺はなんてデリカシーのないことを…。

43名無しさん:2018/09/17(月) 21:17:02 ID:ykNnrvkc0
(;'A`)「あ、いや、すまん」

軽率な発言をしたことを後悔しながら、隣に座っているデレに軽く頭を下げる。
いくら彼女を迎えに行った先で起きたことだとはいえ、彼女に対する配慮が足りな過ぎた。
曲がりなりにもこういった荒事を生業にしている人間が、子どもの前で吐いていい台詞ではない。

44名無しさん:2018/09/17(月) 21:17:42 ID:ykNnrvkc0
ζ(゚ー゚*ζ「ううん 私は平気よ おじさんは大丈夫?」

(;'A`)「あ、あぁ 俺は大丈夫さ それより怪我はないか?梯子から降りたときにどこも打たなかったか?」

そう俺が聞くとデレは少し照れくさそうに右の足首を指さすと、

「挫いちゃったみたい」と、笑った。

('A`)「おいおい そいつは大変だ どれ、おじさんに見せてみろ」

45名無しさん:2018/09/17(月) 21:19:30 ID:ykNnrvkc0
字面だけ捉えるとどこぞの変態みたいだが、俺は大真面目だ。
軽いものなら数日も経たないで自然に治るだろうが、現状安静にしていられる保証はない。
腫れや痛みが酷いようなら、治療に数か月かかることもある。状態だけでも把握しておくべきだ。
俺は自分とデレのシートベルトを外すと、彼女の脚を椅子の上に持ち上げ、履いているスラックスの足首部分を捲った。

('A`)「結構腫れてるじゃないか… 痛くないのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「ちょっと痛いの…」

46名無しさん:2018/09/17(月) 21:23:19 ID:ykNnrvkc0
見た限り、彼女の足首は大きく腫れていた。それも通常の腫れ方ではなく赤黒く変色している。
経験上、こんな腫れ方をするときは靭帯が切れている可能性が高い。
どのように痛むのか確認するべく俺は彼女の足首に触れた。

47名無しさん:2018/09/17(月) 21:24:02 ID:ykNnrvkc0
ζ(゚ー゚;ζ「痛いよ、おじさん…」

(;'A`)「わ、悪い 押すと痛むか?」

いつの間にかデレの額には脂汗がじんわりと滲んでいた。
最初は強がっていたのか大した痛みはないと言っていたが、この様子を見る限り痛みは相当な物の筈だ。
どう対処するべきか考えを巡らせようとしたとき、耳に付けたインカムから音声が入った。

48名無しさん:2018/09/17(月) 21:26:43 ID:ykNnrvkc0

『おいすー デレの状態は良くなさそうかお?』

能天気な声が脳内に響き、思わずため息が出る。

('A`)「そうだなぁ このまま放置していても良いことは無さそうだ 出来ることなら何か手当するべきだと思う」

『ドクオがそういうなら仕方ないおね デレ用の鎮痛剤が有るからクーちゃんから貰うといいお』

49名無しさん:2018/09/17(月) 21:28:36 ID:ykNnrvkc0
内藤がそういうと運転席に座っているクールが自分のジャケットから錠剤を取り出し振り向くことも無く差し出してきた。
よく見ると、こいつの耳にも俺と同じデザインのインカムがしてある。こいつらは初めからグルだったって訳だ。
俺は受け取った錠剤をデレに飲ませ、続けて渡されたミネラルウォーターをデレに飲ませる。

50名無しさん:2018/09/17(月) 21:29:46 ID:ykNnrvkc0
ζ(^ー^*ζ「ありがとう、おじさん」

ミネラルウォーターを満足そうに飲み干し、一息ついたデレがにっこりと笑った。
俺にもこんな娘が居たらなぁ、少し考え込んだがすぐに考えを改めた。
こんな仕事を続けている限り、家庭を持つなんて夢もまた夢なのだ。そう自分に言い訳した。

51名無しさん:2018/09/17(月) 21:30:48 ID:ykNnrvkc0
('A`)「それで、どうして俺はこんなことに巻き込まれちまったんだ?」

俺はインカム越しに内藤に問いかける。
昼を大きく過ぎたあの時間にこいつから持ち掛けられたお話は、多少問題有りだが簡単なお仕事、だった筈だ。
それが実際に現場に着いてみると、それはもう大きな荷物と、更に大きな荷物がおまけで付いてきた。
おかげで俺という大きな荷物が路上にぶちまけられるところだったわけだ。
がむしゃらに行動したおかげで、何とか大切な臓器達は体内に収まってるわけだが、
またいつぶちまけられそうになるか分からず、ましてやその理由も知らないままでは化けて出るしかないってものだ。

52名無しさん:2018/09/17(月) 21:31:36 ID:ykNnrvkc0
『おっおっ それについては申し訳ないと思ってるお
あの時にドクオに説明したように、最初は訳有りの荷物を運ぶだけの簡単なお仕事の筈だったんだお だけど…』

そこまで喋って内藤が言い淀んだ。確かにこいつは普段から馬鹿みたいに喋る訳ではないが、
必要なことはきっちり喋る奴だ。そんな奴が命に関わるようなことを隠す理由は小さな理由では無いと思った。

53名無しさん:2018/09/17(月) 21:32:54 ID:ykNnrvkc0
川 ゚ -゚)「そこからは私が話そう」

先程から一言も声を発していなかったクールが唐突に口を挟んだ。
前方に目を向ければ、反対車線にはパトカーが何台も俺たちが走ってきた方向に向かって走っている。
いくら高級住宅建設予定地なんていう人の少ない場所でも銃声がすれば恐怖を覚える人が居て、それが通報したのだろう。
こういった荒れ事が当たり前なこの世界で、決して安くはない給料を得ながら犯罪を根絶できない彼らを、
市民は能無しの木偶人形と呼んでいる。犯罪が起こってからでしか行動出来ず、
また成果を上げれない彼らは正しく木偶人形だった。

54名無しさん:2018/09/17(月) 21:33:36 ID:ykNnrvkc0
そんな俺の思考を他所にクールはそのきっちりと閉じられた唇を開いた。

川 ゚ -゚)「私は先日、内藤からの依頼を受け、そこに座っているデレをある施設から連れ出すことに成功した
彼女はその施設では重要な存在だった為、当然追手がかかった あの男もその一人だ」

55名無しさん:2018/09/17(月) 21:35:00 ID:ykNnrvkc0
まるで意味が分からない 一体いつから俺の周りは一流の裏の世界に様変わりしちまったんだ?
そもそもあいつのような全身機械化している人間が組織の一員だっていうなら、
それは馬鹿みたいに大きな組織か少数精鋭で俺たちよりも大きな仕事を請け負っている奴らに限定されちまう。
機械化するのだってタダじゃない。大戦中は勿論、戦争に勝つことが第一だった訳だから、
適合することさえできれば誰でも軍の費用で機械化してもらうことが出来た。
だが今はもうそんな時代じゃない。あの男のような全身機械化なんて維持するだけでも大金が必要になる筈だ。
そんな費用をどうやって賄っているのか、考えただけでもゾッとする。そして、そんな組織と関わったこいつらにもだ。

56名無しさん:2018/09/17(月) 21:35:35 ID:ykNnrvkc0
('A`)「参考までに聞いておくが、そのお前らが喧嘩を売った相手ってのは一体どこなんだ?」

『マニー工業だお』

(;'A`)「はぁぁぁ!?あのマニー工業か!?大戦中もっとも機械化に力を入れ、結果的に大企業までに成長した あの!?」

『そうだお』

(;'A`)(お、終わった…)

俺はふいに全身の力が抜けるのを感じ、背もたれに全身をとっぷりと沈み込ませた。

57名無しさん:2018/09/17(月) 21:38:08 ID:ykNnrvkc0
川 ゚ -゚)「こんな形で君を巻き込むつもりはなかった
彼女を施設から助け出した後、敵の追手はしつこく私たちを追ってきた
このまま二人で逃げていては何れ追い詰められて逃げ場が無くなる
そう考えた私は内藤に連絡を取り、デレを一時的にあの家に置いて迎撃に出たんだ」

『だけど、その迎撃が思ったより長引いたんだお
そのうち、奴らの目的がクーを迎撃に出す為に誘き出して、
その間に別動隊にデレを探させてるんじゃないかって考えに至ったんだお』

58名無しさん:2018/09/17(月) 21:38:52 ID:ykNnrvkc0
川 ゚ -゚)「内藤の言う通り、奴らの動きは妙だった
通常ならば、のこのこ出てきた私を痛めつけてデレの居場所を吐かせようとしてくるだろうが、
積極的に攻撃を仕掛けてくるわけでも無く、じっくりと耐えるような動きしかして来なかった
このままでは一人で待たせているデレが危ない 誰か彼女を守れるような人物は…」

('A`)「それで俺にお呼びがかかった訳か」

川 ゚ -゚)「重ねて言うが、君を巻き込むつもりはなかったんだ それもこんな騙すような形で… 
だが、万が一君がデレの引き渡しを問題なく遂行したとして、その後の彼らに干渉して欲しくなかった
もし、私たちが悪い意味で関わっている組織を君が知ってしまったとき、君に大きな危険が降りかかると思ったからだ」

('A`)「なるほどな…」

59名無しさん:2018/09/17(月) 21:39:48 ID:ykNnrvkc0
馬鹿じゃないのか、こいつらは。
率直に言って、頭がおかしいとしか思えない。
マニー工業は大戦中、軍の依頼を受けて機械化技術の発展に大きく貢献した大企業だ。
元々、大きな工業力を持った企業だったが大戦中に培った機械化技術を筆頭に様々な分野に進出。
今ではこの国一番と言っても過言ではないレベルにまで成長した。
そんな企業に喧嘩ふっかけた挙句に、火消しも満足にしてないときた。
そりゃそうだ。なんたって火元がこうして俺の隣で険しい顔を覗かせながら座ってやがるからだ。
なんだってこんな少女一人の為に、こいつらは国一つを相手取るような真似をしたんだ。

60名無しさん:2018/09/17(月) 21:41:09 ID:ykNnrvkc0
そんな俺の思考はいつの間にか声に出ていたらしい。
インカム越しに内藤が静かに答えた。

『彼女は… デレは… ツンの… ツンの子どもなんだお…』

(;'A`)「…なんだって?」

昨日までのほんの少し命を懸けるだけの刺激で満足していた日々が大きな音を立てて崩れ去った瞬間だった。

61名無しさん:2018/09/17(月) 21:41:39 ID:ykNnrvkc0
本日の投下は以上です。
ありがとうございました。

62名無しさん:2018/09/17(月) 23:23:31 ID:SfedzTUc0
おつ

63名無しさん:2018/09/18(火) 13:10:35 ID:c09YOakMO
亡国の人かな?期待おつ

64名無しさん:2018/09/18(火) 20:21:45 ID:JDXWrMWg0
亡国ならギコが出て来るかな?

65名無しさん:2018/09/20(木) 19:10:04 ID:.5RqcCSI0
書溜めが出来たので、
今日の夜中にまた続きを上げていきます
また、作者はこの作品が処女作であるため、
既存のどの作者様とも別人です
最後までこの作品を書き上げたいと思いますので、何卒よろしくお願いします

66名無しさん:2018/09/20(木) 19:42:45 ID:/3BY.Jvw0
待っとるぞ!

67名無しさん:2018/09/20(木) 19:58:13 ID:Uxz3HSTM0
酉つけようぜ酉

68名無しさん:2018/09/20(木) 20:14:09 ID:SaXtOS1IO
おぉ、別人だったかこれは失礼。
続き楽しみにしとるよ

69作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:38:03 ID:H88UGgOg0
お疲れ様です。
コメントありがとうございます。
酉を付けてみましたので、
今日は酉を付けたまま投稿してみます。
よろしくお願いします。

70作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:39:24 ID:H88UGgOg0
(;'A`)「…冗談だろ?」

『ほんとのことだお』

内藤の言葉が脳内でリフレインする。
あのツンに子どもが?
そんな…ありえない…ツンは確かにあの時…

71作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:41:13 ID:H88UGgOg0
辺り一面で、両手の手のひらを強く叩き合わせたかのような乾いた音が連続して響いている。
どうやら俺は気を失っていたらしい。
倒れ伏した状態で、ふと顔を上げると内藤が腹に抱えた通信機に向かってがなり立てている。
身体を起こし外を眺めると、ここはどうやら砂と土で出来た塹壕のようだった。
塹壕の遥か向こうには数か月前には立派な形をしていたであろう建築物がたくさん見えていた。
それが今では屋根は吹き飛び、壁はあなぼこだらけの吹き曝しといった散々な形状をしている。

72作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:41:52 ID:H88UGgOg0
ξ゚⊿゚)ξ「あら、ドクオ 起きたのね それじゃ、ちゃっちゃと身体を動かして頂戴!」

金色の髪を縦に巻き、俺の国ではまず居ないだろうと思える程透き通った白い肌をした女が、
良く通る甲高い音を喉から奏でて俺に吠える。

73作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:42:25 ID:H88UGgOg0
俺は慌てて傍らに転がっていたG3自動小銃を拾い、向かいの建物から飛び出してくる兵士たちを撃ち抜いた。

('A`)「悪い!戦況は!?」

ξ゚⊿゚)ξ「良いとは言えないわね 少し前にクーに指示を出したから、その結果待ちってとこよ」

彼女は端正に整った顔の両脇にぶら下がる髪を銃を撃つ反動で小刻みに揺らしながら答えた。

74作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:43:06 ID:H88UGgOg0
('A`)「俺はどうしたらいい!?」

周りでは鳴り止むことのない銃声が響き続け、お互いの声が良く聞こえない。
それでも俺の目の前でPSG1狙撃銃を構えながら正確な射撃を続けている女はしっかりとうなずく。

75作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:43:42 ID:H88UGgOg0
ξ゚⊿゚)ξ「今、私たちの目の前に見えている大きな建物が有るわね?
あの更に一つ奥にも別の建物が有って、そこから敵の迫撃砲が飛んできてるみたいなの
さっき、アンタが倒れる原因になったのがそれね それをどうにかして止めてきて欲しいの」

76作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:44:29 ID:H88UGgOg0
なるほど、確かに目の前にある建物は背が高く、その奥にある建物の遮蔽物の役割を果たしている。
直線的な射撃しか出来ない俺たちに対して、敵は爆発物を放物線を描くように飛ばして来ているってことだ。
それが運悪く俺の近くに着弾し、爆風と爆音でノックダウンされてしまったって訳か。

77作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:45:34 ID:H88UGgOg0
('A`)「分かった! 俺以外に手の空いてる奴はいるか!?」

ξ;゚⊿゚)ξ「見て分からない!?どうしてもっていうならそこでぶひぶひ鳴いてる子豚ちゃんを連れてくのね!」

忙しなく銃弾を撃ち出しながらツンは俺に怒鳴り散らす。視線を感じ振り向くと、
いつの間にか通信機を放り出していた内藤は今にも泣きだしそうな顔で俺を見つめている。

78作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:46:06 ID:H88UGgOg0
('A`)「よし、内藤 行くぞ!ツーマンセルだ!!」

(;^ω^)「ほ、ほんとに行くのかお!?
そりゃあ最初に比べればいくらか敵は減ったけど、いったいどうやってこの鉄の雨を避けるって言うんだお!」

ξ#゚⊿゚)ξ「ごちゃごちゃ言わないでさっさと行く!さもないとアンタの背中からクソが出るようにするわよ!」

( ;ω;)「おお〜ん」

79作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:46:29 ID:H88UGgOg0
とうとう張り詰めた糸が切れた内藤は声を上げて泣き出した。無理もない。
前を見れば敵、敵、敵だ。味方の部隊も確かに展開しているが、この銃撃では前に出るのは難しい。

80作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:47:30 ID:H88UGgOg0
(;'A`)「内藤の言う通りこのままじゃこの塹壕から出ればハチの巣だ 何か作戦は有るのか!?」

ξ゚∀゚)ξ「あったりまえよ!私を誰だと思ってるの?」

そう言いながらツンは口元を歪め、ニタリと笑う。

ξ゚⊿゚)ξ「私が合図を出したらこのまま真っ直ぐ走り抜けて!大丈夫、アンタたちには一発も当てさせないわ!」

ツンが自分の懐から錠剤を一つ取り出し、それを飲み込むと溌剌とした様子で弾倉を取り替えた。

ξ゚⊿゚)ξ「行くわよ!…3、2、1、ゴー!ゴー!ゴー!」

ツンが叫んだ瞬間、俺と内藤は塹壕から勢い良く飛び出し、
どうか無事に辿り着けますように、と存在するはずもない神に祈った。

81作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:49:20 ID:H88UGgOg0
(;'A`)(はっ、はっ、はっ)

大粒の汗が額から流れる。この戦闘が始まってから何時間経っただろうか。
あの塹壕に滑り込み銃を撃ち続けてからまともな食事も取れていないし水分も取れていない。
額から流れ、眼球に流れ込む水滴を無視しながら、碌に動きやしない両足を前に押し出す。
この戦闘が終わったら、しこたま水を飲んで飯を食い、皆でバカ騒ぎしてやると思ったその時、
視界の右端に映った高い建物の屋上から狙撃手に狙われていることに気づいた。

82作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:49:55 ID:H88UGgOg0
(;'A`)(しまった!)

完全に注意力散漫だった。俺は戦場に居るんだぞ!
そこまで考えて銃を構えるが間に合うはずが無い。
相手は既にスコープを覗いていた。

83作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:50:28 ID:H88UGgOg0
('A`)(最後に分厚いステーキでも食べたかったぜ…)

走馬灯のようなものが脳裏をよぎるが、大した思い出も無く過去の薄っぺらい自分を思い返すだけだった。
そんな風にどこか自分を遠くに追いやり、世界から目線を逸らそうとした瞬間。
後ろからパンパンと小気味の良い音が聞こえ、視界に居た狙撃手が腹を抱えて倒れている。

84作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:53:27 ID:H88UGgOg0
『なにボサッとしてんの! 前をしっかり見なさい!』

耳の中から俺の骨を通してツンの大きな声が響く。
俺たちがこの部隊に配属が決まった時、全員の耳の内側に埋め込まれた通信機だ。
周波数が完全に俺たち専用に固定されていて、ある程度の指向性を持った通信を行うことが出来る。
直線200mは余裕を持って通信することが出来る優れものなため、
塹壕から飛び出した俺の耳にも俺たちのママからありがたい忠告が聞こえるってわけだ。

85作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:54:03 ID:H88UGgOg0
疲れているのか今日の俺は思考がポンポン関係のないところに飛んでしまうようで、
このままだとまたママからお叱りを受けてしまう。
目の前の建物の影から飛び出してきた男たちを正確に撃ち抜き、前に進む。
そうしながらも後ろからはツンの銃声が聞こえ、上からは今撃ち抜かれたのであろう男が落ちてきた。

86作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:55:18 ID:H88UGgOg0
( ^ω^)「流石ツンだお」

俺にだけ聞こえるように内藤の肉声が届く。
こいつとは入隊してからの長い付き合いだが、銃の腕はさして良くない。
代わりと言ってはなんだが、情報処理能力は一流で、この部隊の誰よりも頼りになる。
そんな俺たちの“情報屋“が崇拝している存在がツンだ。

87作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:56:01 ID:H88UGgOg0
ツンは全部隊員20名からなる俺たち機械化混合部隊774小隊の隊長で、
特務曹長なんていう御大層な肩書を軍から頂いている。
あいつの銃の腕前は世界で一番なんじゃないかと思うほど洗練されていて、
その中でも狙撃の腕前はピカイチだった。
接近戦になれば素早い動きで敵をかく乱し、中距離戦になれば自動小銃を二丁構えぶっぱなす。
遠距離戦は通信兵である内藤を傍らに置きながらスポットをやらせたりして狙撃する。
一体、あの小さな身体のどこにそんなタフネスを備えているのか知りたいくらいだ。

88作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:57:37 ID:H88UGgOg0
そんなことを考えながら俺たちは無事に塹壕の向こう側、目標の建物に到着し銃を構える。

('A`)『こちらブラボーリーダーよりアルファリーダーへ!これより目標の建物に侵入する!』

『了―…、頼―…だわ―…』

ノイズ交じりの返答が届く。無我夢中だったが、気づけば随分と離れちまったもんだ。

( ^ω^)「おっおっおっ、僕もいつの間にか名誉あるブラボー分隊の一員になってたのかお」

('∀`)「あぁ、知らなかったのか?
新米の仕事はまず俺のケツを舌で綺麗に拭き取ることだから覚悟しとくんだな」

俺と内藤は互いに軽口を叩き、気持ちを落ち着けた後、作戦に移るべく頭を切り替えた。

89作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:58:15 ID:H88UGgOg0
('A`)「いいか、内藤 この建物のてっぺんでは俺たちを鉄片にしてやろうと
けたたましい音が響いてる それを消し飛ばすのが俺たちの仕事だが
敵ものんきにマスかいてる訳じゃない 罠に気を付けながら進むぞ」

( ^ω^)「アイアイ、キャプテン」

('A`)「よし、行くぞ」

俺たちは崩れかけたアパートの正面玄関に立ち、ドアを開け慎重に中を盗み見る。

90作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:59:06 ID:H88UGgOg0
('A`)「問題なさそうだ 俺が先に入る 内藤は外を警戒してくれ」

内藤が震える親指を立てて返事をする。
建物の内部構造は、まず目の前に大きな木製の階段があり、
手入れがされていただろう踊り場の上は粉塵やら木片やらで汚れている。

91作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:59:27 ID:H88UGgOg0
そして、右手に見通しの良い大きなキッチンがあり、
その奥にトイレやバスルームがある共同住宅のような構造をしているようだ。
一部屋ごとにそれぞれのスペースが有るのではなく、各階ごとに共有する設計なのだろう。
左手には細長い通路が続いていて、その右手に部屋に通じるドアが三つ見える。
そのどれもがきっちりと施錠されていて、中には既に人は居ないように感じた。

92作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 22:59:49 ID:H88UGgOg0
('A`)『クリア』

念のため、この距離の会話であっても通信機を介して行う。
万が一、各部屋に人がいた場合でも話し声で察知されない為だ。

93作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:00:38 ID:H88UGgOg0
『こっちも特に問題ないお カバーに入るお』

そう内藤が通信を返してくると、上階で激しい爆発音が響いた。

(;'A`)「上だ!味方が攻撃を仕掛けたのか!?」

思わず通信機を介さずに声を上げてしまったが、
上の階で響く激しい銃声によってかき消されてしまっている。

94作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:01:04 ID:H88UGgOg0
( ^ω^)「後ろは任せるお!」

内藤が声を張り上げた瞬間、俺は上階への階段を駆け上がった。
その先に待っているものが地獄だとは知らずに。

95作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:01:39 ID:H88UGgOg0
全三階建てのアパートの階段を出来るだけ迅速に上っていく。
とうとう三階に着いた俺の目に飛び込んできたのは、
爆発によって穴あきチーズのようになった建物の壁と、
それにもたれ掛かって倒れている戦友の姿だった。

96作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:02:15 ID:H88UGgOg0
('A`)「チャールズ…一体どうして…」

呆然とする暇もなく、未だに銃声が響く屋上に向かって俺は駆け出した。
鉄製の扉を開け、銃を構えて飛び出す。
そこには単身、敵と銃撃戦を繰り広げている素直クールの姿があった。

97作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:02:54 ID:H88UGgOg0
川;゚ -゚)「ドクオか!?」

扉が開いた音に反応して一瞬振り向いたクールは
俺の腰ほどの高さが有る花壇に身を隠しながら、俺に声をかける。

98作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:03:24 ID:H88UGgOg0
川;゚ -゚)「すまないが手を貸してくれ! 私一人では対処しきれない!!」

俺は手に持った自動小銃を両手でしっかり構え、
突然飛び出してきた俺に驚いた敵は上手く照準を合わせられないでいる。
短い発砲音の後に敵の死体が二つ出来上がっていた。

99作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:03:57 ID:H88UGgOg0
('A`)「状況は!?」

身体をクールの隣に滑り込ませ、花壇のふちから周囲を確認する。
どうやらここはこのアパートの住民たちが管理していた屋上花壇のようだった。
対して広くもない敷地には様々な花が咲いていたのだろうが、今となってはその面影もない。
あるのは人間の死体と鉄の塊、そして轟音を響かせるだろう迫撃砲の成れの果てだった。

100作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:04:41 ID:H88UGgOg0
川;゚ -゚)「芳しくない チャールズがやられた
私たちチャーリー分隊はツンの支持を受けて敵の部隊長を探していた
お前たちが居たところから大きく左曲がりに移動してこの市街地に入り、敵を一人捕らえることに成功したんだ
奴は手間のかからない良い子ちゃんでな 指を何本か曲げるだけで教えてくれたよ 
だが、ここに侵入し、いざ屋上に入ろうとしたらチャールズが吹き飛んだ クレイモアだ」

101作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:08:31 ID:H88UGgOg0
('A`)「クレイモアだって?ってことはつまり、ここの指揮官は“クレイモア“メイトリスクってことか?」

川 ゚ -゚)「そうだ 現に奴は奥の位置に簡易的な壁を作って出てこない
つまり、奴の獲物は間違いなく“クレイモア“だろう」

102作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:09:38 ID:H88UGgOg0
“クレイモア“メイトリクス
この戦場に居るものなら大抵の人間が奴の名前を知っている筈だ。
“無敗の引きこもり““臆病な筋肉自慢““狡猾なライオン“
こいつに対する肩書は実にバリエーションに富んでいる。
だが、最後には必ず、
奴を追い詰めたのなら気を付けろ。肉片になって奴と対面したくないのなら。
という脅し文句が付くほど有能な指揮官であり、力のある戦士だと言われている。

103作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:10:15 ID:H88UGgOg0
('A`)「そんな大物がなんでこんなところに居るんだ?」

川 ゚ -゚)「呆れたな 気付いていなかったのか? ここはもう奴らの国境線まで手が届くんだぞ?」

104作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:10:43 ID:H88UGgOg0
言われてみればそうだった。

この国801国は1年ほど前に隣国である既女国からの侵略を受け、
それに対し、他国である俺たちの祖国VIP国とその同盟国2ch国は既女国の行いは紛れもない侵略行為であると宣言し、
制裁攻撃に出ると世界に対して表明した。

105作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:11:07 ID:H88UGgOg0
大国である2ch国が世界の警察と裁判官を気取り、侵略国家に対して制裁攻撃に出るのは理解できるが、
何故俺たちの祖国VIP国がこれに参加したのか、それには理由がある。

106作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:12:22 ID:H88UGgOg0
俺たちが参加しているこの戦争より数十年前に、世界中を巻き込んだ大きな戦争があった。
その大きな戦争の際に2ch国に大敗を喫したVIP国は全面降伏。
以前からVIP国の技術力と自己犠牲を厭わない優秀な兵士に目を付けていた2ch国は、VIP国を事実上の傀儡国家にした。
2ch国はVIP国を解体し、自分の国に取り込まない代わりに2つの条件を出してきたのだ。
1つ、VIP国は独自の軍隊を持ち、国内に2ch国の中継基地を置くこと。
1つ、VIP国は2ch国からの要請があった場合、国軍の派遣を必ず行う事。

107作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:13:09 ID:H88UGgOg0
この制約がVIP国内での波乱を大きく呼んだが、そんな中で頭角を現す企業が居た。マニー工業だ。
マニー工業は世界を巻き込んだ大きな戦争が起こる前から様々な軍事用品を作り、
それを国内外問わず販売することで力を強めていた。
これを好機と見たマニー工業は培ってきた技術の新たな結晶として“機械化“を作り出し、国軍に採用された。

108作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:13:50 ID:H88UGgOg0
そして今、その卓越した技術力と国軍兵士たちの活躍もあり、
既女国に占領されていた801国の国土の実に九割を取り戻すことに成功していた。

('A`)(そうか…もう首都リヒテルを出てからそんなに経つのか…)

109作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:14:15 ID:H88UGgOg0
度重なる2ch国とVIP国による連合軍の空爆により、穴だらけになった801国の首都を思い出す。
801国は既女国の電撃的な侵略作戦を事前に察知することが出来ず、
1日も経たないうちに大規模な戦車部隊に取り囲まれ、即座に降伏した。
どうやら801国内の議員たちは既女国と随分前から内通しており、
それを知らないのは首相だけといった、どうしようもない状況だったらしい。

110作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:14:37 ID:H88UGgOg0
彼自身は独自のルートを使い、なんとか国外に脱出したようだが、
彼の実子であるダイモス・リヒテルは護衛に残った数少ない親衛隊と共に最後まで戦い、そして戦死したと聞く。

111作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:15:35 ID:H88UGgOg0
801国内に駐留している既女国の大部隊は歩兵部隊だけでの排除は難しく、
歩兵部隊に大きな被害を出すわけにはいかないという理由で連合軍による801国内への空爆が行われた。
その戦果は凄まじく、殆どの戦車部隊は壊滅。残された歩兵部隊も俺たちが一つ一つ丁寧に潰しているというのが現状だ。

112作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:16:14 ID:H88UGgOg0
('A`)(なんとか一息つけたな…)

花壇を背もたれにしながら、呼吸を整える。
今、俺が入ってきた扉の向こうでは内藤が横の壁を背にして階下を警戒している。

113作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:16:40 ID:H88UGgOg0
('A`)「内藤にも悪いし、早いところ決着をつけてツンと合流するか!」

川 ゚ー゚)「やっとやる気になったのか? 前から言っているがお前には覇気が無いんだ 頼むぞブラボーリーダー」

クールの整った唇がニヒルに吊り上がる。
普段は仏頂面の癖に戦場に出ると表情をころころ変えてみせるのが、こいつの卑怯なところだ。

114作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:18:10 ID:H88UGgOg0
一瞬ドキリとした顔を見せまいと、勢いよく立ち上がり、即席で作ったという敵の壁に向かって走りだす。
コンクリートで出来た屋上の床にはいくつも緑色をした四角い箱があり、
俺が横切った刹那、リモコンのスイッチのような音が響く。
次いで耳をつんざくような音が耳に襲い掛かると、
それを追い越さんばかりの勢いで大量の小さな鉄の塊が迫ってくることを知っていた。

115作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:20:02 ID:H88UGgOg0
俺は走る勢いそのままに、左手で地面に逆さ立ちをして軽く踏ん張ってから思い切り“飛んだ“
俺の身体は空を舞い、眼下にコンクリートを穿つ鉄球を収めながら目標を捉えた。
壁の向こうにあるクレイモアの爆発音に注意を引かれていた“クレイモア“メイトリクスは、
反応が遅れながらも左手に持っていた大剣“クレイモア“を両手に構え、真隣に着地した俺目掛けて体重を乗せた横薙ぎを見舞ってくる。

116作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:22:02 ID:H88UGgOg0
それを身体を深く沈みこませて躱し、充分に膝に蓄えられた反動を利用して機械化された左手のアッパーを喰らわせた。
“クレイモア“メイトリクスの顔は粉々に吹っ飛び、自分自身が“クレイモア“になることで、その名前を体現することになった。

117作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:24:04 ID:H88UGgOg0
('A`)「なるほど、狡猾なライオンね…」

鍛え抜かれたニコールの身体は確かに逞しく、並みの兵士では返り討ちに遭うだろう。
人の背丈の半分ほどはある大剣を振り回し、倒れ伏したその身体の両脇にある壁の出入り口にはクレイモアが外向きに置かれていた。
その両方を裏から解除し、決して表側には立たないよう気を付けながら屋上のふちに片付ける。

118作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:24:49 ID:H88UGgOg0
「これでは確かに追い詰めたと思った時にはぐちゃぐちゃのスクランブルエッグになってるだろうな…」

いつの間にか隣に立っていたクールは顔を僅かに歪ませながら、そう呟いた。

119作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:26:35 ID:H88UGgOg0
「チャールズの事は…その…気にするな… 俺たちは皆、覚悟して戦場に立ってるんだ そうだろ?」

いつになっても慣れない笑顔を無理矢理作り出し、そうクールに微笑んだ。チャールズの死を無駄にしない為にも。
そして、全てを抱え込んで壊れかけてしまっている目の前の女性の為にも。

彼女の頬を伝う涙を拭うことは、今の俺には出来なかった。

120作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/20(木) 23:27:07 ID:H88UGgOg0
本日の投下は以上です。
ありがとうございました。

121名無しさん:2018/09/20(木) 23:40:50 ID:/3BY.Jvw0
乙!
投下中はsageなくてもいいと思います。

122名無しさん:2018/09/21(金) 06:23:54 ID:6YYhzO160
思圓

123名無しさん:2018/09/21(金) 08:04:17 ID:LxjXzODAO
乙ー。
戦争物に詳しくない人の為に、クレイモアが何かの説明を入れても良かったかもね

124作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/21(金) 15:23:36 ID:WzquprP20
>>117 ですが、
('A`)「なるほど、狡猾なライオンね…」

鍛え抜かれたメイトリクスの身体は確かに逞しく、並みの兵士では返り討ちに遭うだろう。
人の背丈ほどはある大剣を振り回し、倒れ伏したその身体の両脇である壁の出入り口にはクレイモアが外向きに置かれていた。
その両方を裏手から解除し、決して表側には立たないよう気を付けながら屋上のふちに片付ける。

上記の誤りです。
訂正し、お詫び申し上げます。

125作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 20:39:42 ID:VD.5v2yo0
お疲れ様です。
書溜めが出来たので、
今日の夜中には続きを上げていこうと思います。
よろしくお願いします。

126作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:36:22 ID:z1t5WKOc0
「そろそろ出てきてもいいかお?」

後方の警戒を終わらせ、こちらに近づいてきた内藤が、
気まずそうな顔をしながら俺たちに話しかける。

(;^ω^)「悪いけど、ここでのんびりしてる時間はないお
早めにツンと連絡を取って、残党の排除をすることが先決だお」

個々人の戦闘力はこちらが上とはいえ、数で押されてはどうしようもない。
ここまで出張ってくる羽目になったのも、元はと言えばそれが原因だった。

127作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:36:57 ID:z1t5WKOc0
('A`)「そうだな でも、どうする?何か使えそうなものはあるか?」

( ^ω^)「おっおっおっ、実はそこでこんなものを見つけたんだお!」

内藤は得意げに笑いながら、両手に抱えた通信機を見せびらかしてくる。

( ^ω^)「そこに倒れてる通信兵から拝借したんだお
きっと、これで味方の部隊と連携しながら迫撃していたんだおね
おかげでツンと連絡が取れるお!」

どこかうきうきしたような様子を見せながら、
内藤は自分の首の後ろにあるソケットに手を伸ばす。

128作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:37:38 ID:z1t5WKOc0
('A`)「ホント、お前は便利なもの持ってるよなぁ」

( ^ω^)「安心と信頼のグローバル設計だお!」

内藤は数少ない電子戦専門の機械化適合者だ。
首の後ろにあるソケットを伸ばし、機械のアダプターに差し込む。
そうすると内藤の意識は機械の中に潜り込み、大抵の物なら制御出来るという寸法だ。

129作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:38:04 ID:z1t5WKOc0
('∀`)「相変わらず意味分からねぇけど、便利だよな」

少しおどけたような態度でクールに話しかけると、
彼女は微笑みを返してくれたが、そう簡単には吹っ切れないらしい。

('A`)(これ以上、何も起きずに終わってくれると嬉しいんだがね)

如何にも一波乱有るぞ、といった空気を感じていた俺だが、
ツンたちの活躍は凄まじく、あっさりとこの戦闘は終わった。

130作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:40:17 ID:z1t5WKOc0
ξ゚⊿゚)ξ「それじゃあ!我らがブラボー分隊と、チャーリー分隊の活躍を称えて!」

「「「乾杯!」」」

数日掛かりで行われた、最後の801国解放作戦は無事に終了し、俺たちは束の間の休息を取っていた。
つい先程まで戦場だったこの市街地は、山のように重なる死体を一か所にかき集めて処分し、
出来た空き地に各々の部隊がキャンプを張ったり、空いた建物に陣取ったりして好きなように騒ぎ立てている。

131作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:41:28 ID:z1t5WKOc0
  _
( ゚∀゚)「いやぁ、やってくれたな おい!」

( ФωФ)「全く、これでは我輩たちのメンツが立たないなぁ分隊長殿?」
  _
( ゚∀゚)「うるっせぇな!分かってるからこうやって絡みに来てんだろうがよ!」

(#゚;;-゚)「それくらいにしときなよ 飲み過ぎは身体に良くないよ」
  _
( ゚∀゚)「おっと、我らがエースパイロットのお出ましだ 良いからお前も飲めよ!
それとも俺様がベッドの上で直々に酒の良さを教えてやろうか?」

(#゚;;-゚)「最っ低」
  _
(;゚∀゚)「いってぇ!何も殴るこたぁねぇだろぉ!」

( ФωФ)「今のはお主が悪い」

132作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:42:14 ID:z1t5WKOc0
774小隊の隊員である、ジョルジュ・サントス、ロマネスク・アッヘンバッハ、レオナルド・ヴィンチの三人が、
敵の部隊長だったメイトリクスを仕留めた俺たちをからかいに近寄ってきた。
ジョルジュに関しては既に相当な量の酒を飲んでいるのか、顔を赤くしている。
俺の隣に座っているクールは酒には手を付けているが、どうにも気分が晴れないようだった。
そんなクールに対して、ジョルジュが神妙な顔つきをして話しかける。

133作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:42:44 ID:z1t5WKOc0
( ゚∀゚)「まぁ……、チャールズの件は残念だったな」

川 - )「私が、私がもっと上手く動けたならチャールズは死なずに済んだかもしれないんだ」
  _
( ゚∀゚)「おいおい、誰もお前を責めに来たわけじゃねーんだ
ただ、戦場じゃどーしてもどうにもならない時が有る それが今日だったってだけさ 違うか?」

( ФωФ)「その通り ジョルジュにしては良いことを言ったな」
  _
(;゚∀゚)「してはとはなんだ!してはとは!俺様はいつも最高な言葉を吐いて最高な姉ちゃんを捕まえるのさ!」

(#゚;;-゚)「そんなことばっか言ってるからモテないんだよ」
  _
( ゚∀゚)「うるっせぇぞ、レオナルド!だったらお前の初めてはパパにでもあげるしかないんじゃねぇか!?」

(# ;;- )「ぶっころす」

134作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:43:06 ID:z1t5WKOc0
レオナルドは自分の本名を嫌っていて、4人兄弟の末っ子だからアルファベット順にでぃと呼ばれることを好む。
それが琴線に触れたのか、それともジョルジュの軽口に腹を立てたのか定かではないが随分とお怒りのようだ。

135作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:43:35 ID:z1t5WKOc0
彼女は両手の指を幼いころに無くしており、義指で長いこと過ごしていたようだが、
両親が随分な大金を用意してマニー工業の機械化を受けさせたらしい。
それによって彼女の両手の指は実際の指と比べて遜色無く動くようになり、
日常生活を不自由無く送れるのがとても嬉かったのを覚えてると言っていた。
これで父と母の生活を助け、自分の人生を自信をもって生きれると思った、と。

136作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:44:12 ID:z1t5WKOc0
そんな彼女が何故この部隊に居るのか。
それを説明するには、この部隊の成り立ちから説明しなければならない。
俺たちが所属している機械化混合部隊774小隊は、厳密にはVIP軍の部隊ではない。
VIP国に対して大きな利益をその卓越した技術力でもたらしているマニー工業の私兵部隊だ。
マニー工業はその技術力を活かして、驚くような製品を大量に作り出した。
そのうちの一つが機械化な訳だが、その機械化にも種類がある。

137作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:44:43 ID:z1t5WKOc0
第一に、全身の骨格や筋線維、そして脳に直接改良を加える機械化。
これは元々、生身の人間よりも頑丈で、痛みを感じず、命令に対して忠実で有ることをスローガンに生み出された技術だ。
条件としては、肉体的に丈夫であり、機械化適合率の高い男性が好まれていたが初期の段階では失敗が相次いでしまった。
その理由としてはごく単純で、人間は自分以外の何者かに全てを委ねることは出来ないという事だ。
どんなに軍隊という組織に染まり切り、自分自身を尊重する心を失ったとしても、その命の全てを差し出すことは出来ない。
マニー工業はその最後の難関を突破するために、VIP国軍人という類い稀なる忠誠心を持った人材を実験台にしたのではないかという噂もある。
それでも、脳内に手を付けなければ期待以上の身体能力を持つ兵士を作ることにも成功したと聞く。
これ以上の成果を求めるのは難しいと判断したマニー工業は命令に対して忠実である兵士を生み出すことは断念した。

138作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:45:44 ID:z1t5WKOc0
第二に、VIP国軍内で一番普及しているであろう、体内に金属部品や代替部品を埋め込むことで身体能力の向上を目指した機械化。
前述した機械化のマイナーチェンジとでも言うべき機械化だ。
脳内を含む全身の機械化を断念したマニー工業であったが、そもそも身体全体の機械化自体に高い適合率が求められるものだった為、
適合者を上手く集めることが出来ないでいた。そんな中でも軍からは成果を求められるので、作り出したのが第二の機械化だ。
骨格の一部や全身の一部分だけ機械化することによって、特別高いわけではない適合率でも機械化することに成功した。
これにより機械化した兵士たちは初めて部隊としての体を成し、軍隊の一部として機能することが出来た。
そうしてようやく、VIP国は大国に比べ著しく少ない人口でありながら、それに引けを取らない歩兵部隊を手にしたと言える。

139作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:46:42 ID:z1t5WKOc0
第三に、特殊な機構を身体の一部分に組み込んだ機械化だ。俺たち機械化混合部隊774小隊がこれにあたる。
これは目下、開発中の技術でその存在はマニー工業内でも一握りの者にしか知らされていない。
この部隊に配属されることは、俺たちにとって大きなメリットがあった。機械化に対する費用の無償化だ。
そもそも、VIP人は軍隊に所属することで機械化を施して貰えるが、軍人として能力の低い者はその限りではない。
VIPという国が求めている人材は頑丈であること、即ち、問題無しで有能な人材なのだ。
だが、マニー工業は違った。使えるものは使う。必要なものには必要なものを提供しようという理念を持っていた。
高い機械化適合率があり、軍属ではあるものの、機械化することが出来なかった俺と内藤はマニー工業からの甘い誘いに乗った。
そうして俺は機械化された丈夫で特殊な左腕を、内藤は適性が有るとのことで脳と機械を繋げることが出来る機械化を賜った。
兵士としての生き方しか知らない俺たちにとって、これは神からの贈り物であったし、祝福でもあったと思う。

140作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:47:22 ID:z1t5WKOc0
だが、ツンを中心にした他の部隊員たちは事情が違う。
ツンは数年前に起きた航空機墜落事故の現場に居て、その際に四肢を失ったらしい。
そこからは大量に降りた保険金を使い、四肢の機械化を受けたことで日常生活に戻れたと言っていた。
そんなある時、かかりつけの医師から再度マニー工業に連絡を取ることを勧められたそうだ。
どうやらマニー工業は全国或いは全世界にまで広めた情報網を使い、機械化適合率の高い人間を集めようとしていたようだ。
その一環として、既に身体の一部が機械化している機械化適合率の高い者たちに片っ端から声を掛け、
以前に受けた機械化費用の払い戻し、今までより高度な機械化の提供、家族の身の安全や生活の保障。
これらを交渉材料に私兵部隊に入隊しないか、と持ち掛けたのだ。
この私兵部隊は実験部隊であり、新しい技術が軍事利用された際にどのような働きをもたらすのか試したいのだと。

141作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:47:48 ID:z1t5WKOc0
高い機械化費用に負い目を感じていた女性は家族の為にこれに応じ、
自身の身体が好奇な眼差しに晒されることに疲れた女性もまた、これに応じたのだった。

142作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:48:33 ID:z1t5WKOc0
川 ゚ -゚)「なんだか、疲れたな」

そういってクールが頭を俺の方に預けてくる。
少しは酔いが回ってきたのだろうか。その眼は遥か遠くを見つめていて、真意は分からなかった。

('A`)「まぁ、俺たちは頑張ってる方だと思うぜ?」

川 ゚ -゚)「そうかな…… そうかもしれないな」

心底疲れているのだろうと思える程、その声には力が無かった。

143作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:49:05 ID:z1t5WKOc0
(#゚;;-゚)「クー、大丈夫そう?」

川 ゚ -゚)「ん、まぁな」

(#゚;;-゚)「あっちの方にね まだ綺麗なアパートがあって、そこの個室を開放してるんだって
どうしても辛いようなら、私から小隊長に言っておくからクーは休んだら?」

川 ゚ -゚)「そうだな なら、お言葉に甘えようか」

('A`)「じゃあ、報告は俺がするから、でぃがクーを……」

(#゚;ー゚)「なにいってんのよ こういうのはナイトの役目でしょ?」

でぃが意地の悪そうな笑みを浮かべている。

144作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:49:41 ID:z1t5WKOc0
('A`)「そういうもんかね」

多少バツの悪そうな表情を作るが、悪い気はしなかった。
そうと決まれば重い身体を起こそうか、と思ったその時、
「今、銃声がしなかったか?」というロマネスクの声が耳に入る。

145作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:50:13 ID:z1t5WKOc0
  _
( ゚∀゚)「あぁ?いや、別に俺には聞こえなかったが……」

なぁ?という風にジョルジュが俺たちにも同意を求める。
俺たちは、ゆっくりと首を縦に振るがロマネスクは納得しないようだった。

( ФωФ)「内藤、内藤は居るか?」

(;^ω^)「おっ!?なんだお!敵襲かお!?」

近くにある、建物の柱の陰でうとうととしていた内藤は突然の呼びかけに飛び起きた。

146作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:51:03 ID:z1t5WKOc0
( ФωФ)「内藤、頼みがある 通信機の音波を最大周波数で広域に飛ばしてはくれないか なにか気になる」

( ^ω^)「おっおっおっ、なんだそんなことかお お安い御用だお」

飛び起きた際にぶつけた後頭部をさすりながら、内藤は腹に抱えた通信機を操作する。
そうすると、俺たちの耳には聞こえない音が辺りを飛び交い、その反射音を捉えたロマネスクが表情を硬くする。

147作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:51:32 ID:z1t5WKOc0
( ФωФ)「この市街地の外れの建物に、人が二人……いや、三人いるな」

そう呟いたロマネスクは、内藤と話す際に地面に着いていた膝を立てると小走りになりながらどこかに向かいだした。
  _
( ゚∀゚)「あっ、おい 待てよ!」

ジョルジュが慌てて追いかけようとするが、手に抱えた二人分の酒瓶の置き場に困っている。
それをでぃが受け取ったかと思うと、ジョルジュはロマネスクの後を追いかけて行った。

148作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:52:15 ID:z1t5WKOc0
(#゚;;-゚)「どうする?私たちも行く?」

川 ゚ -゚)「敵襲ならば既に警報が鳴っているだろうし、特に問題は無いと思うが……」

( ^ω^)「それでも、ロマのあの様子は普通じゃないお 僕は追いかけた方が良いと思うお」

('A`)「そうだな もし、俺たちが気を抜いた瞬間を狙った特殊部隊の類だったら大変だ」

それぞれが手に持っていた飲み物を内藤が居た場所に集め、携行している武器を確かめる。

('A`)「よし、追うぞ!」

戦場では気を休める瞬間は来ない。そうだとしても束の間の休息は必要だと強く思いながら走った。

149作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:53:25 ID:z1t5WKOc0
「ロマネスク?あぁ、あいつなら血相変えて向こうの方に走ってたぜ 何かあったのか?」

近くにいた小隊の連中にロマネスクたちが向かった方向を聞き、
「なんでもないんだ」と、宥めながら道を急ぐ。

確かにここまでの大人数で行動していたら、目立つのも仕方がないと思えた。
そう思いながら入り組んだ道を歩いていくと、かがんだジョルジュの姿が見えた。

150作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:54:22 ID:z1t5WKOc0
('A`)「おい、ジョルジュ大丈夫か? やっぱり飲み過ぎてたんじゃ……」

ジョルジュの足元には吐瀉物が溜まり、黄色い水たまりを作っていた。
俺が声を掛けると、ジョルジュは満身創痍といった顔をこちらに向け、左にある建物の入り口を指さす。
  _
(  ∀ )「参ったぜ、ド畜生 クーとでぃは残った方が良い ドクオ、内藤、後は頼んだ」

そういうと、ジョルジュは肩で息をするようにしながら俯いてしまった。

151作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:54:54 ID:z1t5WKOc0
('A`)「分かった 内藤、行くぞ」

( ^ω^)「お、おうだお」

既に開け放たれている扉を通り、中に入る。建物は下町のバーのような作りをしていた。
夜の帳もたっぷりと閉じた今の時間は店内は真っ暗で、中の様子がいまいち分からない。
中で放置された食料が腐りだしているのか、生臭い香りが漂ってくる。鼻が曲がりそうなくらいだ。
そう思いながら、装備していた小ぶりのライトで店内を照らす。
そうすると目の前のバーカウンターに一組の男女が座っているのが見えた。
ロマネスクとツンだ。よく見るとツンは頭を抱えて何か考え込んでいる。

152作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:55:51 ID:z1t5WKOc0
('A`)「ロマネスク、一体何があったんだ?」

( ФωФ)「おぉ、ドクオか わざわざ来てくれたのか いやなに、大したことはなかったようだ」

ロマネスクが振り向き、こちらに目線を寄越す。その眼はどこか動揺しているようにも見えた。

('A`)「大したことないことは無いだろう これだけ振り回したんだ 何があったかくらいは聞かせろよ」

( ФωФ)「うむ、まぁしかし……」

ロマネスクが隣に座っているツンに目配せをする。どうにも言いにくい内容のようだ。

153作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:56:14 ID:z1t5WKOc0
ξ゚⊿゚)ξ「そうね、私から説明するわ まずはあれを見てちょうだい」

そういってツンが背中を向けたまま、顎でバーの右奥にあるボックス席を指す。
どうにも店内が暗い為、近寄って確認しようと俺はそのボックス席に歩み寄った。

('A`)「おいおい これは一体、どういうジョークなんだ?」

それはライトの光を赤黒いものにして反射し、てらてらと光っている。

154作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:57:09 ID:z1t5WKOc0
( ^ω^)「何があるんだお?」

俺の背中が邪魔しているのか、内藤には良く見えていないらしい。
振り向き、内藤の肩を両手で押しながら首を横に振る。
それがどういう意味なのか、内藤はなんとなく察してくれたようだった。

(;^ω^)「つまり、この臭いってそういうことなのかお」

('A`)「そうみたいだな クソったれ どこのどいつがこんなことしやがった」

ボックス席にあった死体は元が男なのか女なのか分からない程、滅茶苦茶だった。
顔は潰れ、胸は首下あたりから裂かれているように見えるし、腰の辺りから引っぺがしたようにも見える。
それでも俺は冷静だった。誰がこういうことをするか予想が出来ていたからだ。

155作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:57:44 ID:z1t5WKOc0
ξ゚⊿゚)ξ「ジョナサンよ」

('A`)「殺したのか」

ξ゚⊿゚)ξ「そこに転がってるわ」

ツンがカウンターの向こうを指さす。そこには先程の死体とは対照的に、額に綺麗な穴が空いた死体があった。

156作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:58:40 ID:z1t5WKOc0
('A`)「また、やったのか」

ξ゚⊿゚)ξ「また、やったのよ」

ジョナサン・バロン。分隊規模で言えば、ジョルジュ、ロマネスクとよく組んでいた隊員だ。
幼少期に両親が離婚。そこからは女手一つで育てられたようだが、ある時母親が自動車事故に合い、死亡。
前から突っ込んできた酔っ払い運転のトラックに運転席ごと潰されたらしい。
ジョナサン自身も同じ自動車に乗っていたが、後部座席に座っていた為、ガラス片で喉を傷つけただけで済んだようだ。
その後、喉の機械化手術を受け、マニー工業からの勧誘を受けて774小隊に配属された。

157作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:59:05 ID:z1t5WKOc0
('A`)「また、やったのか」

ξ゚⊿゚)ξ「また、やったのよ」

ジョナサン・バロン。分隊規模で言えば、ジョルジュ、ロマネスクとよく組んでいた隊員だ。
幼少期に両親が離婚。そこからは女手一つで育てられたようだが、ある時母親が自動車事故に合い、死亡。
前から突っ込んできた酔っ払い運転のトラックに運転席ごと潰されたらしい。
ジョナサン自身も同じ自動車に乗っていたが、後部座席に座っていた為、ガラス片で喉を傷つけただけで済んだようだ。
その後、喉の機械化手術を受け、マニー工業からの勧誘を受けて774小隊に配属された。

158作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/25(火) 23:59:51 ID:z1t5WKOc0
こいつの問題行動が部隊内で取り沙汰される様になったのは記憶に新しくない。
最初は、たまたま捕らえた敵の女性兵士に対して暴力を過剰に振るうといったくらいだった。
そのうち、その女性兵に対して従順であるよう脅し付けたり、刃物を取り出して怯えさせるような行動が出てきた。
流石に見かねたツンがその行動を咎めようとした時、とうとうジョナサンはその女性兵士を殺してしまった。
腹にナイフを深々と刺し、それを上方向に向かって切り裂いたのだ。

159作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:00:41 ID:Fyed35gA0
手に負えないと判断したツンは、マニー工業の指示を仰ぎ一度VIP国に送り返した。
一ヶ月程経つと、教育を受けたジョナサンは部隊に戻り、正常に部隊員として機能していた。
マニー工業からの部隊長宛の診断書には、戦場という極限状態を経験した際に、
母親を挽肉のようにして亡くした記憶がフラッシュバックしたのだろうと書いてあった、とツンが言っていた。
そして、その光景を再現することで、また母親に会えると信じているのだろう、とも。

160作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:01:06 ID:Fyed35gA0
ξ゚⊿゚)ξ「流石に二回目だからね 向こうも次に何かあったらこうして良いって言ってたし大丈夫よ」

そういうツンの声は心なしか震えていた。無理もない。
この部隊の殆どが元々はどこにでもいる民間人で、機械化の適合率が高く、それを扱えるからといった理由だけでここにいるのだ。
本来ならばこういった役割は、元軍人の俺や内藤がやることだ。

161作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:01:44 ID:Fyed35gA0
だが、マニー工業の連中は部隊にはフラッグシップが必要だという、くだらない理由でツンを部隊長にした。
確かにツンは機械化の適合率が、この部隊の誰よりも高く、また判断力などにも優れている。
それでも、まだ若い一人の女性だった。人の生き死に、ましてや仲間を自分の手で殺すことを容易く受け入れられる筈もない。
俺は、そういった苦しみを彼女たちに背負わせてしまっている自分に苛立ちを覚えて仕方無かった。

162作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:02:24 ID:Fyed35gA0
ξ゚⊿゚)ξ「ジョナサンね、泣いてたわ ママはどこ?ママはいつ帰って来るの?って
可哀想だった だから、言ってあげたの ママはきっと天国でジョナサンを待ってるわ だから、安心しなさいって
そしたらね ママに会えるの?早く会いたいなぁって言うから、そうしてあげたわ」

('A`)「ツン……」

ξ ⊿ )ξ「わ、私は…… どうしてあげれば良かったのかしら……
彼の苦しみを知っていながらどうにもしてあげられなかった……」

('A`)「それは……」

( ^ω^)「ツンは部隊長としての責任を果たしたお」

ξ ⊿ )ξ「ブーン……」

内藤がツンの隣に座りながら、彼女の肩を抱いた。
ツンは内藤が入隊したときに見せた航空機の物まねから、彼をブーンと呼んでいる。
それは二人の間にある、見えない親愛のようなものだと俺は感じていた。

163作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:03:21 ID:Fyed35gA0
( ^ω^)「ツンは立派だお ジョナサンの事は残念だったけど、彼はしてはいけないことをしていたお
そして、それを止められるのはツンしか居なかったお その誰にも相談出来ない状況で部隊長として決断したツンを、僕は尊敬するお」

ξ ⊿ )ξ「それでも私はジョナサンを殺したわ 彼は私の事を慕ってくれてた まるで年下の姉さんが出来たみたいだって」

( ^ω^)「そうだおね その事実は一生消えないお でも、僕はそれを決して罪だとは思わないお
捕虜に不当な暴力行為を行い、あまつさえ殺してしまうなんて国際法違反も甚だしいお
確かに、僕たちは正規の軍隊ではないし、前回のこともマニー工業が揉み消してくれたお でも、問題はそこじゃないお」

内藤は一息吐くと、少し肩を落とした。

164作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:04:03 ID:Fyed35gA0
( ^ω^)「ツンは優しいお 誰よりも部隊の仲間の事を思って、その時に必要なことをしてくれてるお
ジョナサンには安定剤を少し多く渡してたおね?ジョナサンはそれに感謝してたお
これで戦闘中に母親の幻影を見なくて済むって これで味方を撃ってしまうかもしれない恐怖を断ち切れるって」

正直、俺はジョナサンがそこまで苦しみを抱いていることを知らなかった。
この部隊に居る奴は多かれ少なかれ過去に様々な苦難を経験しているし、それを表に出そうとはしていなかった。
ツンは部隊長として部下たちの状態を適切に判断していて、内藤はそれの手助けをしようと補助に回っていたのかもしれない。

165作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:04:39 ID:Fyed35gA0
ξ ⊿ )ξ「ジョナサンが、そんなことを?」

( ^ω^)「嘘じゃないお ほんとのことだお」

「ブーン……」

とうとうツンが泣き出してしまった。
戦場には常に、暗闇が付き纏う。それは戦場が作り出した魔物でもあり、自身の過去が作り出す魔物でもあるのかもしれない。
それでも俺たちは全てを投げ捨てて、ここから逃げ出すわけにはいかなかった。

166作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:05:26 ID:Fyed35gA0
( ФωФ)「今はそっとしておくべきだ」

ツンの肩を支えながら事の顛末をクールとでぃに話し、市街地の中心に戻った。
他の部隊員たちも一箇所に集まっていて、なにやら話し合っていたようだ。
その話題の中心はもっぱらジョナサンが姿を消したことだった。
俺と内藤が隊員たちに事情を説明し、ツンは部隊長用にあてがわれた個室に姿を消した。
それぞれが薄々感付いていたようで、大きな騒ぎにはならなかったが動揺は広がった。
たった一日で、数少ない仲間が二人も減ったのだ。ツンの心労もそうだが、部隊員全員がそのことに不安を覚えた。

167作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:06:21 ID:Fyed35gA0
  _
( ゚∀゚)「まぁまぁ!こうなっちまったもんは仕方ないさ!いつまでもくよくよしてたら、あいつらに申し訳が立たねぇだろ!
気持ちをサッと切り替えて、残った酒を楽しもうぜ!」

(#゚;;-゚)「呆れた もう、お酒なんて残っちゃいないよ」
  _
(;゚∀゚)「嘘だろ!?おいおい、誰か俺様の為に酒瓶の一つや二つ残しといてくれた奴はいないのか!?」

全員が首を横に振ったかと思うと、まだ手元に酒瓶を持っていた奴が勢い良くその残りを呷り、飲み干した。

168作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:06:56 ID:Fyed35gA0

  _
( ;∀;)「嘘だと言ってよ……」

ジョルジュが盛大に声を上げながら泣き出したかと思うと、周りからは笑い声が漏れていた。
かくいう俺も、口元がにやけてしまう。こういう時、ジョルジュは明るく振る舞い、暗い空気を吹き飛ばしてくれる。
ツンや内藤とはまた違った頼りになり方を見せてくれる、ムードメーカーだった。

169作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:07:25 ID:Fyed35gA0
('A`)「それにしても、よくあの場所が分かったな」

俺は隣にいるロマネスクに話しかける。
クールは結局アパートの個室を借り受け寝込んでしまい、内藤はどこかに消えてしまった。
ジョルジュとでぃは皆の前で漫才のようなことを続けている。

170作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:07:55 ID:Fyed35gA0
( ФωФ)「運が良かったな あそこの扉が開きっぱなしだったから聞こえたんだろう」

ロマネスクは様々な国を旅するのが好きで、随分前に立ち寄った海岸で不発弾を見つけてしまったらしい。
それに気付いたロマネスクは慌ててそこから逃げ出したが、運悪く爆発してしまった爆音を耳に受けて聴力が劇的に落ちたそうだ。
そういった経緯で受けた機械化とマニー工業の新しい機械化によって、様々な音波を聞き分け、小さな物音も拾う耳を持っている。

171作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:08:36 ID:Fyed35gA0
('A`)「あの死体はどうしてあんなところに居たんだろうなぁ」

( ФωФ)「さぁな 今日、女性兵士の捕虜が捕まったなんて話は我輩は聞いていない
大方、戦闘が終わるまであそこに隠れ潜んでいたのをジョナサンが見つけたか、或いはどこかで見つけた獲物を持ち込んだのか……」

('A`)「着ていた服、暗くて良く見えなかったけど 民間人だったなんてこと、ないよな?」

( ФωФ)「分からぬよ よしんばそうだったとしても、もう片付けられているだろう」

きっとツンはあてがわれた部屋に入り、マニー工業に報告をしているだろう。
それはつまり、俺たちの後始末を顔も知らない誰かさんたちがしてくれているってことだ。

172作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 00:10:12 ID:Fyed35gA0
本日の投下は以上です。
途中でエラーが入った為、同じ内容を連投してしまい、申し訳有りませんでした。

173名無しさん:2018/09/26(水) 00:48:27 ID:1Eo9OUb20
乙!
設定凝ってていいね!

174作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 01:16:55 ID:Fyed35gA0
コメントありがとうございます。
大変励みになります。
地の文が多く、また説明する場面も多いので読みにくい部分も有るかと思いますが、今後もお付き合い頂けますと幸いです。

175名無しさん:2018/09/26(水) 02:33:12 ID:hViPvn2o0
おつ おもしろい

176作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/26(水) 12:52:04 ID:V.UQBX1c0
感想ありがとうございます。
そういって頂けると嬉しいです。
頑張ります。

177作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 20:45:47 ID:7EKYRQL20
少し書溜めが出来たので、
今日の夜中に続きを上げていきます
よろしくお願いします

178作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:52:33 ID:3XpuvskY0
投下していきます

179作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:53:39 ID:3XpuvskY0
あれから数日経ち、このキャンプ地での生活にも大分慣れてきた。
2ch国軍とVIP国軍の連合軍、そして俺たちの活躍もあり解放された801国は、国外に逃げ出した元首相が国に戻る形で一先ず平穏を取り戻した。
ここからどうするかはお偉方の双肩に関わっている。801国を開放したことで制裁は済んだのか、それとも既女国を徹底的に叩き潰すのか。

180作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:54:02 ID:3XpuvskY0
('A`)「これから俺たちはどうなるのかねぇ」

簡単なパトロールや見張り、装備の点検などを終わらせた俺たち、機械化混合部隊774小隊の面々は遅めの昼食を取っていた。
今では、この辺りにある建物の殆どの安全確認が終わったので、連合軍や俺たちにも解放されている。
その一画にある食堂であったであろう建物を使い、補給されてきた食事を俺たちは腹に収めていた。

181作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:54:33 ID:3XpuvskY0
川 ゚ -゚)「正直、どう転んでもおかしくはないな 既女国がこのまま大人しくしているとは思えない」

長方形のテーブルで向かいに座っているクールが、俺のぼんやりした問いに言葉を返してくる。
  _
( ゚,∀゚)「それもそうだけど、あいつらにはもうまともな戦力は残って無いんじゃねぇかな」

「空爆で殆ど焼けちまったんだし」と、ジョルジュが口に食べ物を詰め込みながら意見してくる。
その両手はせかせかと忙しなく動き、大量に盛られたパスタを平らげようとしている。

182作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:54:54 ID:3XpuvskY0
(#゚;;-゚)「そんなに急いで食べなくても良いんじゃない? お水、置いとくね」
  _
( ゚,∀゚)「おう、さんきゅー」

(#゚;;-゚)「口元、汚れてるよ」
  _
( ゚∀゚)「ん、悪いな」

相変わらずこいつらは仲が良い。まるで姉弟のようだ。随分前にでぃに聞いたことがある。お前たちは付き合ってるのかと。
その時は、「私が?ジョルジュと? うーん、付き合ってはいないけど…… まぁ、嫌いじゃないかな」などと、はぐらかされてしまった。
「ドクオはクーと仲が良いみたいだけど、そっちはどうなの?」なんて、あの意地の悪い笑みでやり返される始末だ。

183作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:55:16 ID:3XpuvskY0
向かいに座っているクールは真剣な顔をして、この戦争の行く末を案じている。スッと鼻筋の通った綺麗な顔立ちをしていた。

( ^ω^)「ドクオは、この戦争が終わったらやりたいこととかあるのかお?」

うっかりクールの顔に見惚れていると、横に座った内藤が飲み物を口にしながら問いかけてくる。
どうやら、俺の視線の先はバレてはいなさそうだった。

184作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:55:43 ID:3XpuvskY0
('A`)「やりたいことか、特にないな むしろ、これ以外の生き方なんて考えたこともなかった 内藤もそうじゃなかったのか?」

( ^ω^)「前までの僕はそうだったお でも、今の僕は違うお!」

内藤が大きな音を立てて、椅子から立ち上がる。

( ^ω^)「僕はこの戦争が終わったらツンをお嫁さんにするお!」

突然の宣言だった。驚愕で声も出ない。ジョルジュに至っては口からパスタが溢れている。

185作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:56:40 ID:3XpuvskY0
( ФωФ)「ほう、それは良いことだな 我輩は応援するぞ」

落ち着いた表情でコーヒーを飲んでいたロマネスクが、そういった。
少し遅れて俺の口からも応援するような内容の言葉が出たと思う。
だが、それ以上にこの場にツンが居ないことに安堵するのだった。

186作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:57:24 ID:3XpuvskY0
川 ゚ -゚)「唐突で驚いたな」

食事を終えた俺とクールは食後の腹ごなしに外をぶらつくことにした。
次の哨戒任務まで、まだ時間は残っている。

('A`)「本当にな まさかあいつらがそこまで進んでるとは驚天動地だ」

川 ゚ -゚)「そうか? 私はなんとなくそんな気がしていたぞ」

('A`)「へぇ、そりゃまたなんで」

川 ゚ー゚)「女の感、かな」

いたっずらっぽくクールが微笑む。
結婚か。内藤らしいといえば、内藤らしいと言えた。
あいつの家庭はそれほど裕福では無かったが、愛情をもって育ててくれたのだろうと、あいつを見ていれば思える。
軍に入隊したのはそんな親元から離れるためでもあったし、愛する家族を守る為でもあるとは本人から聞いていた。

187作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:58:12 ID:3XpuvskY0
('A`)「やっぱ、あいつはすげぇなぁ」

川 ゚ -゚)「ドクオもそんな風に思うんだな」

('A`)「俺はいつだって尊敬してるよ」

川 ゚ -゚)「そういう態度を、もっと表に出せばいいのさ」

('A`)「そんな気恥ずかしいこと、簡単に出来るかよ」

少し、ふてくされた態度を取ってみる。クールはそんな俺の顔を見て笑っていた。

川 ゚ー゚)「ドクオは面白いな」

(;'A`)「馬鹿にしてるのか」

川 ゚ -゚)「馬鹿になどしていないさ ただ、さっきの言葉を聞けば内藤は喜ぶぞ」

('A`)「そうかな」

川 ゚ -゚)「そうさ」

いつの間にか随分歩いてしまった。
誰かの出店だったのだろうか。そこに備え付けられているベンチに二人で腰かける。

188作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:58:42 ID:3XpuvskY0
('A`)「クーはこの戦争が終わったらどうするんだ?」

川 ゚ -゚)「私も考えていなかったよ 故郷にはあまり良い思い出もないしな」

('A`)「そうなのか」

川 ゚ -゚)「なんだ、自分から聞いてきた割には、随分興味がないんだな」

クールの表情は大きく変わらないが、整ったその唇を少し尖らせていた。
あどけなさの抜けた大人びた横顔の向こうには、長い黒髪がサラサラと流れている。

189作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:59:07 ID:3XpuvskY0
('A`)「あ、いや そんなつもりは…… ただ、聞いて良いものか迷っただけで……」

川 ゚ー゚)「ふっ、冗談だよ」

(;'A`)「あのなぁ、あまりからかうなよ」

川 ゚ -゚)「悪かった まぁ、私が生まれた所は戦争で急速に発展した都市でな
あまり治安がよろしく無かったんだ 嫌な思い出も少なくない だから、戻りたくないのさ」

('A`)「あぁ、なるほど」

クールが話すその都市には心当たりがあったが、敢えて口には出さなかった。
彼女にとっては、そこで過ごした日々より、今の生活の方が心地良いのだろう。
例え、大切な仲間を失って、そのか細い心の糸がはちきれそうになるような生活だとしても。

190作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:59:32 ID:3XpuvskY0
川 ゚ -゚)「ドクオは国に帰ろうと思ってるのか」

('A`)「正直、俺もあまり考えて無かったよ 帰るところも無いし、家族も居ないしな」

これは半分嘘だった。故郷にはたった一人残った母親が居る。
だが、彼女は母親とは言えず、俺自身は施設で育った。今ではどこで何をしているのかも分からない。
興味が無い訳では無いが、率先して行方を探そうとも思えなかった。

191作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 22:59:54 ID:3XpuvskY0
川 ゚ -゚)「家族か…… ドクオは家族を作ろうという気持ちは無いのか?」

('A`)「……は?」

川 ゚ -゚)「だから、誰かと一緒になる予定はないのかと聞いてるんだ」

('A`)「俺が家族を作るってことか?」

川 ゚ -゚)「そう聞いてるだろう」

隣に座ったクールが深い溜め息を吐く。
家族、これもまた俺が考えたことの無いことの一つだ。
家族の温かみを知らないで育ち、その必要性も感じていなかった。
しかし、普通に生きるというのは男女の営みがあり、その先があるべきだった。
それを作る気が有るのかと、他でもない素直クールに聞かれると、俺は答えを出せなくなる。

192作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 23:00:26 ID:3XpuvskY0
('A`)「分からない 俺に家族が作れるのかも、家族を作る資格があるのかも」

川 ゚ -゚)「資格、資格ときたか ……なるほどな」

咄嗟に出た言葉だったが、その気持ちは嘘では無かった。
俺のような人殺しが、その血に濡れた手で子どもを抱き、それを育てる。
果たして、そんな資格があるのだろうか。俺には分からない。

川 ゚ -゚)「言いたいことは分かるよ そうなると、私にも家族を作る資格が無いってことになるな」

('A`)「それは、違うだろう」

川 ゚ー゚)「違わないさ 確かにその考えはもっともだ そろそろ戻ろう 喉が渇いてしまった」

('A`)「……そうだな」

それから俺たちは席を立ち、一言も話さないままキャンプに戻り、別れた。
かなり長い間話し込んだようにも感じたが、哨戒任務の集合時間には余裕で間に合った。
今日のメンバーは俺と内藤、それにでぃのスリーマンセルだった。

193作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 23:00:54 ID:3XpuvskY0
('A`)「三人でパトロールなんて珍しいな」

(#゚;;-゚)「なんかね、ここ数日国境線沿いに既女国の兵士が居ることがあるんだって」

( ^ω^)「おっ、そうなのかお 知らんかったお ロマ情報かお?」

(#゚;;-゚)「むっ 私が仕入れた情報じゃ信用ならないってわけ?」

(;^ω^)「そ、そういう訳じゃないお!ただ、純粋に気になっただけで」

内藤がオタオタと慌てている隙に、でぃが横腹を指先でつついている。
なんだって女っていうのは、こう柔らかくぷにぷにしたものが好きなんだろうか。

194作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 23:01:21 ID:3XpuvskY0
('A`)「その腹で、ツンを射止めたのか?」

なんとなく心にしまっていた思いが、口から出る。
一瞬、内藤が気を悪くするんじゃないかと、身構えた。

( ^ω^)「おっおっおっ 分かるかお?このキュートなマシュマロボディにツンはもうメロメロなんだお!」

(;'A`)「お、おう」

('A`)「お前らは、その、いつ頃そういう仲になったんだ なにかきっかけがあったのか」

( ^ω^)「結構、最近のことだお
この部隊に配属された当初から僕たちは一緒に居ることが多かったし、きっかけらしいきっかけはないお 
いつものようにツンの話を聞いて、いつものように一緒に居たら、ツンの事が好きだって気付いたんだお」

('A`)「そういうもんか」

( ^ω^)「ドクオの方はどうなんだお?」

(#゚;;-゚)「私も知りたーい」

しまった。昼飯の後にクールとあんな話をしたからだろうか。
柄にもなく恋愛沙汰に首を突っ込み、墓穴を掘ってしまった。

195作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 23:02:03 ID:3XpuvskY0
('A`)「俺には、特になんにもないよ」

( ^ω^)「流石にそれはクーちゃんが可哀想だお てっきり僕は二人は隠れて付き合ってるんだと思ってたお」

(#゚;;-゚)「ドクオって本当に甲斐性がないんだね!」

(;'A`)「う、うるせぇな しょうがないだろ 恋愛なんて今までしたことないんだから」

( ^ω^)「おっおっ、ドクオは冗談が得意だおね」

('A`)「これが冗談に聞こえるのか」

(#゚;;-゚)「一回もないの? キスしたことも?」

('A`)「ない」

( ^ω^)「ドクオも若いとは言えなくなってきたおね」

('A`)「そうだな」

( ^ω^)「ま、まぁ大丈夫だお!ドクオは良い奴だし、彼女くらいすぐに出来るお!」

(#゚;;-゚)「そうね!クーが不憫で仕方ないわ!」

勝手に盛り上がって、勝手に打ち切りやがった。
元々、俺が切り出した話題とは言え、なんてやつらだ。

196作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 23:02:34 ID:3XpuvskY0
('A`)「内藤は戦争が終わった後、どうするのか決めてるのか 例えば、結婚したツンとどこに住むとか」

( ^ω^)「うーん 実を言うとそこまで深くは考えてないんだお
まずは、この戦争を終わらせるのが先決だし、なによりツンの気持ちをまだはっきり聞いてないんだお」

('A`)「はっきりした気持ちねぇ」

(#゚;;-゚)「何か思うところがあるって顔ね」

('A`)「まぁな」

( ^ω^)「でも、住む場所は決めてるんだお 僕たちの故郷であるVIP国のVIP市に住もうと思うお
あそこなら大抵の物は揃うし、僕が生まれ育った場所をツンにも知ってもらいたいんだお」

('A`)「ご家族は今は海外だったか」

( ^ω^)「残念ながらそうだおね でも、いつか僕の家族にも紹介したいと思ってるお」

(#゚;;-゚)「内藤は優しいね それに比べて誰かさんときたらさ」

(;'A`)「もう、その話は勘弁してくれよ」

哨戒任務中だというのに、緊張感のないやり取りが続く。
辺りはすっかり暗くなり、建物に飾り付けたライトや篝火のようなもので明かりを灯している。
このまま戦争が終わってくれたら。今の俺は、すっかりそんな気持ちになっていた。

197作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 23:06:02 ID:3XpuvskY0
今日の投下は以上です。
ありがとうございました。

198名無しさん:2018/09/27(木) 23:42:53 ID:YI4NovqA0
乙!
更新早くて嬉しいね。
しかしこれは油断フラグ?

199作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/09/27(木) 23:54:40 ID:3XpuvskY0
コメントありがとうございます
期間を空けてしまうと書けなくなってしまう気がするので、空き時間を見つけて出来るだけ早く書くようにしています

ここから、ツンは確かにあの時…に繋がるように組み立てますので更新をお待ち頂ければと思います
次回もよろしくお願いします

200名無しさん:2018/09/28(金) 00:35:36 ID:bUdiyBlA0
支援

201作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/10/08(月) 02:30:28 ID:c/wW0K0I0
お疲れ様です
ここ数日忙しく、あまり時間が取れていない為、続きを上げるのは少し先になると思います
現状、話の区切りが分かりづらいかと思いまして、空き時間に今までの話の区切りをまとめ、各話という形にし各話ごとのタイトルも付けたのですが、需要はありますでしょうか
不要でしたらこのまま継続して行きたいと思います
ご意見、ご助言頂けましたら幸いです
恐れ入りますが、よろしくお願い致します

202名無しさん:2018/10/08(月) 07:44:56 ID:F4mGJtEA0
>>201
ありまくるぜ
それと、執筆期間は延びても構わないから、こうやって定期的に報告してくれると嬉しい

203作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/10/08(月) 10:36:29 ID:c/wW0K0I0
ご意見ありがとうございます
この場合、区切りを想定しているレス番号に指定を付けてタイトルを付けるか、このスレ内で再投下するか悩んでるのですが、どちらの方が読みやすいでしょうか

204名無しさん:2018/10/08(月) 12:24:28 ID:0ToTrni.0
レス番指定でいいと思うわ
そっちの方が負担も少ないだろ

205作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/10/12(金) 15:45:07 ID:GuLCDpoQ0
>>1
俺の人生の中で手に入れた唯一の宝物
それが君だった。

俺が俺であるために、のようです

第一話【出会い】

>>12
第二話【邂逅】

>>42
第三話【事実】

>>70
第四話【過去】

>>90
第五話【状況】

>>126
第六話【774小隊】

>>142
第七話【衝動】

>>166
第八話【支え】

206名無しさん:2018/10/12(金) 20:29:37 ID:o8SSo2ZY0
>>205
激しく乙
のんびりでいいからクオリティの高い作品を期待してるぜ

207作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/10/12(金) 21:00:20 ID:rzSfZr7c0
温かいお言葉ありがとうございます
ご期待に添えますよう、頑張りますので、
今後ともよろしくお願い致します

208作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:09:19 ID:/IJpy7420
第九話【変化】

今回の哨戒任務も無事に終わり、俺たちはキャンプに戻った。
それから数日経っても戦争は膠着状態。大きな変化も起こらず、ただローテーションされた任務に明け暮れていた。
新しい一日が始まり、昨日と同じことをして終わる。それでもいつ散発的な戦闘が始まるか分からないという緊張感は漂っていた。
今日も、遅めの昼食にツンを除いた小隊全員で入る。どこか気の抜けた雰囲気が漂っていた。

209作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:09:47 ID:/IJpy7420
  _
( ゚∀゚)「退屈で死にそうだぜ」

( ФωФ)「何を言うか 安穏とした日々の幸せを忘れた訳じゃなかろう」
  _
( ゚∀゚)「そりゃそうなんだけどよぉ なんつうか、刺激が足りないんだよな」

(#゚;;-゚)「足りないのは、頭の中身でしょ」
  _
(#゚∀゚)「なんだとぉ!?」

最近は話題が尽きると大抵この流れになる。いつもの面子のいつものやり取りだ。

210作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:10:18 ID:/IJpy7420
('A`)「まぁ、毎日同じことの繰り返しで辟易する気持ちは分かるよ」
  _
( ゚∀゚)「だよなぁ どっか綺麗なビーチにでも行ってよ 綺麗な姉ちゃんとランデブーしたいぜ」

(#゚;;-゚)「ジョルジュはそればっかだね」
  _
( ゚∀゚)「生き甲斐だからな! 楽しみがなければ人間、生きていけねぇよ なぁ、内藤」

( ^ω^)「おっ、僕かお」
  _
( ゚∀゚)「お前以外に誰がいんだよ いいよな、お前は 毎日、隊長様とお楽しみか?」

( ^ω^)「僕はツンと一緒に居れればそれだけいいんだお あんまり求めすぎても、お互いに疲れるお」

( ФωФ)「良い心がけであるな ジョルジュも見習うべきだぞ」
  _
(;゚∀゚)「うっ、痛いところ突いてきやがる」

(#゚;;-゚)「内藤って、大人なんだねぇ」

(*^ω^)「おっおっおっ 照れるお」

('A`)「そういうの、なんて言うんだったか プラトニックラブだっけ」

川 ゚ -゚)「ドクオからそんな言葉が出るのは意外だな」
  _
( ゚∀゚)「確かに珍しいな お前からこういう話に入って来るなんて なんかあったのか?」

この数日間、同じように恋愛の話だとか、今までの経験人数がどうだとかの話には何度かなったが、
俺はその類の話題には乗らないようにしていた。自分自身の経験が乏しく、良く分からないからだ。
だが、全員の話がある程度出尽くしたので、暇潰しには必要だろうと話に乗ることにした。それだけだった。

211作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:10:48 ID:/IJpy7420
('A`)「いや、昔読んだ本に書いてあっただけさ それを思い出したんだよ」
  _
( ゚∀゚)「なんだよ つまんねぇ奴だな」

ジョルジュも敢えて深くは追及してこない。
話を広げるだけなら、俺の恋愛遍歴や今の状況をからかえば良いだけだが、その辺りは配慮してくれていた。

(#゚;;-゚)「ねぇ、プラトニックラブってどういう意味なの?」

( ФωФ)「肉体的では無く、精神的な恋愛ということだな 成人するまでは純潔であるべき、とかいう話もあるようだが」
  _
( ゚∀゚)「……それの何が楽しいのかねぇ」

( ^ω^)「でも、僕は幸せだお」
  _
( ゚∀゚)「あぁ、そういう意味じゃねぇんだ ただ、俺には分かんねぇ世界だな、と思ってさ わりぃな」

少しの沈黙が流れる。
ジョルジュは女好きだが、部隊員の誰かに手を出すわけでもなく、いつもからかい半分の軽口で済ませていた。
そんなジョルジュの悲しげな横顔に誰も声を掛けられずにいる。
飄々とした態度を崩さない、この男の過去に一体何があったのか。それは、ベッドの上でしか語られないのかもしれない。

212作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:11:21 ID:/IJpy7420
ξ゚⊿゚)ξ「良かった、皆まだここに居てくれたのね 新しい仕事が入ったわ 食器を片付けたら、作戦室に来て頂戴」

部隊長用の自室で食事を取っていただろうツンが、こちらに向かって歩いてくる。
そんな彼女から発せられた内容は、俺たちの退屈で淀み切った心を洗い流すには充分な内容だった。

ξ゚⊿゚)ξ「これからの流れを説明するわ」

部隊員全員が食堂と同じ建物内にある作戦室に入り、備え付けられた椅子に座ると、目の前の大きなスクリーンに画像が映し出された。

ξ゚⊿゚)ξ「最近、この801国と既女国の国境線沿いに、既女国の兵士が出没していることは知っているわね」

聴いている全員が頷く。

ξ゚⊿゚)ξ「それは私たちの目を国境線沿いに向ける為の作戦だと判断されたわ これを見て頂戴」

スクリーンには既女国とその周辺国が描かれた地図が映し出されている。
そしてツンが手元に置いたノートパソコンのキーボードを数回叩くと、既女国の地図が大きく表示された。

213作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:12:23 ID:/IJpy7420
ξ゚⊿゚)ξ「基本的なことだけど、既女国を中心にすると、南に今私たちが居る801国、西に育児国、北に既男国が有るわ
その中でも、この既男国寄りにある既女山に、ある施設が存在することが連合軍偵察部隊の活躍で判明したの」

('A`)(ある施設……?)

作戦室にざわつきが生まれる。そこに何があるのか。予想するのは難しいことじゃなかった。

ξ゚⊿゚)ξ「核の発射施設よ」
  _
(;゚∀゚)「おいおい、マジかよ」

( ^ω^)「ふざけてるお……」

( ФωФ)「まぁ、当然だな」

ξ゚⊿゚)ξ「連合軍は既女国に対して、降伏勧告を出しているわ また、それに合わせた話し合いの場を設けるという話にもなっているの
それを既女国側は、自国の損害状況確認や軍の再編成、自国内の反発を抑えるので時間が無いなど、色々な理由を付けて先延ばしにしているわ
タチが悪いことに、既女国は話し合う姿勢を見せているということなの でも、これは明らかな時間稼ぎだわ」

214作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:12:47 ID:/IJpy7420
川 ゚ -゚)「つまり、まだ既女国側は核の発射体制に入れていないということだな」

ξ゚⊿゚)ξ「その通りよ 撃ち出すことが出来る核弾頭が有るかは現在調査中だけど、肝心の発射施設には無いらしいわ
そこで、連合軍の秘密部隊が核の製造施設、或いは輸送部隊を強襲
私たちは、万が一施設に核が運び込まれていた場合を想定して、核の発射施設を制圧するわ」

(#゚;;-゚)「連合軍の部隊が動くなら、私たちが出る必要は無いんじゃない?」

215作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:13:13 ID:/IJpy7420
ξ゚⊿゚)ξ「この任務は極秘任務よ 現状、既女国側が話し合いの姿勢を見せている以上、表立って攻撃を仕掛ければ他国からの非難を受けるわ
そうなると、既女国は事実を隠蔽し、世界に対して悲劇の被害者を気取るでしょう
そうならないように連合軍の秘密部隊と私たちの二面攻撃を仕掛けて一気に制圧することにしたのよ それだけ私たちが評価されてるってことね」

('A`)「その発射施設を制圧するのは分かったが、俺たちだけでやるのか?敵の数と施設の構造は分かってるのか?」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよ 核の発射施設の人員は殆ど非戦闘員だと目算は立っているわ 戦闘部隊員は施設防衛用に居ても百名ちょっとってところね
ただでさえ、軍に壊滅的な打撃を受けている現状、国境防衛以外に人員を多くは割けないわ
それに、施設の設計図を手に入れたと報告が来てるから、潜入の目途は立つ予定よ」

( ФωФ)「……」

視界の隅でロマネスクが反応したのを感じたが、彼は何も言わなかった。

216作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:13:39 ID:/IJpy7420
ξ゚⊿゚)ξ「他に質問は無いわね 育児国、既男国とは交渉して、既男国からの潜入許可を得ているわ
私たちは、これから輸送ヘリとトラックを併用して既男国に入国 その後、既女国の核発射施設へ潜入するわ
表にマニー工業の医療トラックが来ているので、検診を受けた者から準備を始めること 以上、解散」

ツンがノートパソコンからケーブルを外し、スクリーンの表示が消える。それを合図に、部隊員たちが席を立ち、移動を始めた。

ツンを先頭に、それぞれが廊下を出て外への移動を始めている。隣には、いつの間にかロマネスクが立っていた。

217作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:14:04 ID:/IJpy7420
( ФωФ)「どうにもおかしいと思わんか」

('A`)「何がだ?」

( ФωФ)「この任務自体はまだ分かる 事は一刻を争うからな だが、核の発射施設の設計図 これは明らかにおかしい」

('A`)「内通者でも居るんだろう」

( ФωФ)「そこなのだ 何故、このタイミングなのか 我輩はどうにも腑に落ちない」

( ^ω^)「単に、自国が存続の危機にまで追い詰められてるからじゃないかお」

川 ゚ -゚)「亡命や身柄の安全と引き換えに情報を売ったと考えるのが自然じゃないか」

後ろから歩いてきた内藤とクールが、会話に加わる。

( ФωФ)「それならそれで良いのだが……」

ロマネスクが考えていることも分かるが、作戦の裏取りや情報の裏取りをするのは俺たちの役目ではない。
元はと言えば、この戦争の成り立ちからしておかしいのだ。

218作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:14:26 ID:/IJpy7420
既女国は国土こそ広いとは言えないものの、石油が多く取れることから石油大国とまで言われ、経済基盤は安定している国だった。
しかし、隣国である801国の一部の人間はそれを妬み、既女国内に密入国などを繰り返しては石油を盗む始末。

それを国家会談などで咎められはするものの、具体的に罰せられることの無い801国に腹を立てた既女国が暴走した形の戦争だ。
いつの間に、整えたのか強力な戦車部隊に装備の整った歩兵部隊、練度こそ高くないが統率の取れた人員。
如何にメイトリクスのような戦場慣れのした部隊長が教育や指揮を執ったとしても異常だと言わざるを得ない。

219作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:14:50 ID:/IJpy7420
ましてや、核兵器だ。一から開発しようと思えば、製造施設、実験施設、発射施設、これら全てを揃えなくてはならない。
たかだか、隣国を支配下に置くだけなら必要のない施設だし、かかるコストも馬鹿にならないだろう。
つまり、奴らは最初から全世界を相手取った侵略戦争を企てていたことになるし、抑止力を持つことで国家としての力も誇示しようというのだ。

そんな国からの情報提供者。施設が施設なだけに、どこかの国から拉致されて核製造を手伝わされていたのだろう。
核製造のノウハウをどこかで得ていたのなら、世界各国が気付かないスピードで実用段階にまで製造出来たのも頷ける。

そして、既女国の主力部隊が壊滅し施設の人員が手薄になったところで、こちらに接触してきた。

220作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:15:13 ID:/IJpy7420
こういうことなら筋は通る。仮に、これが連合軍に攻撃を仕掛けさせる口実だったとしても、俺たちなら存在自体を無くせる。
どこにも属していない部隊のテロ活動。核施設について嗅ぎ付けたハイエナ共の、馬鹿げた行動で国家としては済むのだ。

これ以上、俺たちが考えることでは無かった。

221作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:15:35 ID:/IJpy7420
建物から外に出ると、マニー工業の医療トラックが二台止まっていて、部隊員たちが列を作っていた。
一人当たりの検査時間はそれほど長くなく、すぐに自分の番が来る。

「鬱田ドクオさん お入りください」

('A`)「失礼します」

「では、そこに横になってください」

医療トラックの中には大きな寝台が一つと、それを囲むように様々な機材が置かれていた。
電子音を定期的に鳴らしている、それらの機材は医者のような風貌をした男の手元にあるパソコンに接続されている。

222作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:16:07 ID:/IJpy7420
「それでは、左手を含む全身の検診を始めます 最近の調子は如何ですか」

('A`)「まぁ、特には問題無いです」

いつものお決まりの文句から始まり、こちらもそのように返す。
実際、左手の調子は悪くないし、使えば使うほど全身に馴染むような気がしていた。
それからも問答は続き、傍らに立っている助手らしき男が身体にシールのようなものを貼っていく。
その中には複雑な回路をした電子部品が埋め込まれており、これで全身の不具合と左手との適合率を確認するのだ。

223作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:16:31 ID:/IJpy7420

「以前と比べて適合率が上がっていますね 良い傾向です」

左手を使い空を跳んだ、前回の戦闘を思い出す。
この左手は出力が高く、爆発的な力を発揮することが可能だが、その分出力調整が大味で力の調整が難しい。
それを理想通りに行ったことで、適合率が上がったのだろうと予想出来た。

「それでは、今回のデータは全て取れましたので お疲れ様でした」

('A`)「ありがとうございます」

俺は寝台から身を起こし、医療トラックから出ると、移動に備え自室に戻った。

燻ぶった火種が、消えてしまわないように心がけながら。

224作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/06(火) 17:16:54 ID:/IJpy7420
今回の投下は以上です
ありがとうございました

225名無しさん:2018/11/06(火) 18:32:25 ID:DhVxS7xg0
おつ!

226名無しさん:2018/11/07(水) 07:16:22 ID:MzEFZakY0
一月近く投下が空いてたから逃亡したのかと思ってたw
投下が空いてた期間に他の現行読んでたから、各キャラの性格がごっちゃになってしまった…

227作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/08(木) 14:05:09 ID:UP1EdnWo0
仕事忙しいのと書きたいもの書いてたら長くなって、
筆が進みにくくなってしまった
読んでくれてありがとう
あんまり待たせないよう気をつけます

228名無しさん:2018/11/08(木) 17:17:10 ID:isqALFNE0
デレってツンの子供だけどブーンの子供じゃないんだよな

229作者 ◆ZSs5PfPP4E:2018/11/08(木) 20:53:18 ID:W0vfvOFs0
内容に触れられると読まれてるって感じして嬉しいです

その辺りも早く触れたいんですけど、過去編書くの楽しくて…

もう暫くお待ちくださいorz


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板